(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
平面視したときに、各々の前記共通表面電極は、前記一対の辺に略平行な辺を有する矩形状の形状を有していることを特徴とする請求項1に記載の圧電アクチュエータ基板。
前記圧電アクチュエータ基板が、長辺、短辺、および2つの斜辺を有する台形から、前記長辺と前記2つ斜辺との間の2つの角をそれぞれ切り欠いた部分に、前記一対の辺を設けた形状であることを特徴とする請求項1または2に記載の圧電アクチュエータ基板。
前記圧電アクチュエータ基板が、2つの鋭角および2つの鈍角を有する平行四辺形から、前記2つの鋭角をそれぞれ切り欠いた部分に、前記一対の辺を設けた形状であることを特徴とする請求項1または2に記載の圧電アクチュエータ基板。
前記共通表面電極は、前記一対の辺のそれぞれ辺において、当該辺に沿って配置されているすべての前記貫通孔に重なって配置されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の圧電アクチュエータ基板。
前記加圧室は、平面視して長さ方向の寸法が幅方向の寸法よりも大きい形状を有しており、前記加圧室列は、前記加圧室が前記幅方向に列を成すように配置されて構成されていることを特徴とする請求項7に記載の液体吐出ヘッド。
請求項6〜8のいずれかに記載の液体吐出ヘッドと、記録媒体を前記液体吐出ヘッドに対して搬送する搬送部と、前記搬送部を制御する制御部と、を備えていることを特徴とする記録装置。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットプリンタやインクジェットプロッタなどの、インクジェット記録方式を利用した印刷装置が、一般消費者向けのプリンタだけでなく、例えば電子回路の形成や液晶ディスプレイ用のカラーフィルタの製造、有機ELディスプレイの製造といった工業用途にも広く利用されている。
【0003】
このようなインクジェット方式の印刷装置には、液体を吐出させるための液体吐出ヘッドが印刷ヘッドとして搭載されている。この種の印刷ヘッドには、インクが充填されたインク流路内に加圧手段としてのヒータを備え、ヒータによりインクを加熱、沸騰させ、インク流路内に発生する気泡によってインクを加圧し、インク吐出孔より、液滴として吐出させるサーマルヘッド方式と、インクが充填されるインク流路の一部の壁を変位素子によって屈曲変位させ、機械的にインク流路内のインクを加圧し、インク吐出孔より液滴として吐出させる圧電方式が一般的に知られている。
【0004】
また、このような液体吐出ヘッドには、記録媒体の搬送方向(副走査方向)と直交する方向(主走査方向)に液体吐出ヘッドを移動させつつ記録を行なうシリアル式、および記録媒体より主走査方向に長い液体吐出ヘッドを固定した状態で、副走査方向に搬送されてくる記録媒体に記録を行なうライン式がある。ライン式は、シリアル式のように液体吐出ヘッドを移動させる必要がないので、高速記録が可能であるという利点を有する。
【0005】
シリアル式、ライン式のいずれの方式の液体吐出ヘッドであっても、液滴を高い密度で印刷するには、液体吐出ヘッドに形成されている、液滴を吐出する液体吐出孔の密度を高くする必要がある。
【0006】
そこで液体吐出ヘッドを、マニホールドおよびマニホールドから複数の液体加圧室をそれぞれ介して繋がる液体吐出孔を有した流路部材と、前記液体加圧室をそれぞれ覆うように設けられた複数の変位素子を有する圧電アクチュエータ基板とを積層して構成したものが知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0007】
液体吐出ヘッドは、変位素子が、圧電アクチュエータ基板の略全面に設けられた共通電極と、共通電極と対向している個別電極と、それらに挟まれた圧電セラミック層と、共通電極の、圧電セラミック層と反対側の面に設けられている振動板とにより構成されている。共通電極と外部との接続は、圧電アクチュエータの周縁部の圧電セラミック層に設けられた貫通導体、および圧電アクチュエータ基板の周縁部に形成された表面電極を介して行われている。また、液体吐出ヘッドは、複数の吐出孔にそれぞれ繋がった加圧室がマトリックス状に配置され、それを覆うように設けられた圧電アクチュエータの変位素子を変位させることで、各吐出孔からインクを吐出させ、主走査方向に、例えば600dpiの解像度で印刷が可能とされている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の一実施形態による液体吐出ヘッドを含む記録装置であるカラーインクジェットプリンタの概略構成図である。このカラーインクジェットプリンタ1(以下、プリンタ1とする)は、4つの液体吐出ヘッド2を有している。これらの液体吐出ヘッド2は、印刷用紙Pの搬送方向に沿って並べられ、プリンタ1に固定されている。液体吐出ヘッド2は、
図1の手前から奥へ向かう方向に細長い形状を有している。この長い方向を長手方向と呼ぶことがある。
【0018】
プリンタ1には、印刷用紙Pの搬送経路に沿って、給紙ユニット114、搬送ユニット120および紙受け部116が順に設けられている。また、プリンタ1には、液体吐出ヘッド2や給紙ユニット114などのプリンタ1の各部における動作を制御するための制御部100が設けられている。
【0019】
給紙ユニット114は、複数枚の印刷用紙Pを収容することができる用紙収容ケース115と、給紙ローラ145とを有している。給紙ローラ145は、用紙収容ケース115に積層して収容された印刷用紙Pのうち、最も上にある印刷用紙Pを1枚ずつ送り出すことができる。
【0020】
給紙ユニット114と搬送ユニット120との間には、印刷用紙Pの搬送経路に沿って、二対の送りローラ118aおよび118b、ならびに、119aおよび119bが配置されている。給紙ユニット114から送り出された印刷用紙Pは、これらの送りローラによってガイドされて、さらに搬送ユニット120へと送り出される。
【0021】
搬送ユニット120は、エンドレスの搬送ベルト111と2つのベルトローラ106および107を有している。搬送ベルト111は、ベルトローラ106および107に巻き掛けられている。搬送ベルト111は、2つのベルトローラに巻き掛けられたとき所定の張力で張られるような長さに調整されている。これによって、搬送ベルト111は、2つのベルトローラの共通接線をそれぞれ含む互いに平行な2つの平面に沿って、弛むことなく張られている。これら2つの平面のうち、液体吐出ヘッド2に近い方の平面が、印刷用紙Pを搬送する搬送面127である。
【0022】
ベルトローラ106には、
図1に示されるように、搬送モータ174が接続されている。搬送モータ174は、ベルトローラ106を矢印Aの方向に回転させることができる。また、ベルトローラ107は、搬送ベルト111に連動して回転することができる。したがって、搬送モータ174を駆動してベルトローラ106を回転させることにより、搬送ベルト111は、矢印Aの方向に沿って移動する。
【0023】
ベルトローラ107の近傍には、ニップローラ138とニップ受けローラ139とが、搬送ベルト111を挟むように配置されている。ニップローラ138は、図示しないバネによって下方に付勢されている。ニップローラ138の下方のニップ受けローラ139は、下方に付勢されたニップローラ138を、搬送ベルト111を介して受け止めている。2つのニップローラは回転可能に設置されており、搬送ベルト111に連動して回転する。
【0024】
給紙ユニット114から搬送ユニット120へと送り出された印刷用紙Pは、ニップローラ138と搬送ベルト111との間に挟み込まれる。これによって、印刷用紙Pは、搬送ベルト111の搬送面127に押し付けられ、搬送面127上に固着する。そして、印刷用紙Pは、搬送ベルト111の回転に従って、液体吐出ヘッド2が設置されている方向へと搬送される。なお、搬送ベルト111の外周面113に粘着性のシリコンゴムによる処理を施してもよい。これにより、印刷用紙Pを搬送面127に確実に固着させることができる。
【0025】
4つの液体吐出ヘッド2は、搬送ベルト111による搬送方向に沿って互いに近接して配置されている。各液体吐出ヘッド2は、下端にヘッド本体13を有している。ヘッド本体13の下面には、液体を吐出する多数の液体吐出孔8が設けられている。
【0026】
1つの液体吐出ヘッド2に設けられた液体吐出孔8からは、同じ色の液滴(インク)が吐出されるようになっている。各液体吐出ヘッド2には図示しない外部液体タンクから液体が供給される。各液体吐出ヘッド2の液体吐出孔8は、一方方向(印刷用紙Pと平行で印刷用紙P搬送方向に直交する方向であり、液体吐出ヘッド2の長手方向)に等間隔で配置されているため、一方方向に隙間なく印刷することができる。各液体吐出ヘッド2から吐出される液体の色は、それぞれ、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)およびブラック(K)である。各液体吐出ヘッド2は、ヘッド本体13の下面と搬送ベルト111の搬送面127との間にわずかな隙間をおいて配置されている。
【0027】
搬送ベルト111によって搬送された印刷用紙Pは、液体吐出ヘッド2と搬送ベルト111との間の隙間を通過する。その際に、液体吐出ヘッド2を構成するヘッド本体13から印刷用紙Pの上面に向けて液滴が吐出される。これによって、印刷用紙Pの上面には、制御部100によって記憶された画像データに基づくカラー画像が形成される。
【0028】
搬送ユニット120と紙受け部116との間には、剥離プレート140と二対の送りローラ121aおよび121bならびに122aおよび122bとが配置されている。カラー画像が印刷された印刷用紙Pは、搬送ベルト111によって剥離プレート140へと搬送される。このとき、印刷用紙Pは、剥離プレート140の右端によって、搬送面127から剥離される。そして、印刷用紙Pは、送りローラ121a〜122bによって、紙受け部116に送り出される。このように、印刷済みの印刷用紙Pが順次紙受け部116に送られ、紙受け部116に重ねられる。
【0029】
なお、印刷用紙Pの搬送方向について最も上流側にある液体吐出ヘッド2とニップローラ138との間には、紙面センサ133が設置されている。紙面センサ133は、発光素子および受光素子によって構成され、搬送経路上の印刷用紙Pの先端位置を検出することができる。紙面センサ133による検出結果は制御部100に送られる。制御部100は、紙面センサ133から送られた検出結果により、印刷用紙Pの搬送と画像の印刷とが同期するように、液体吐出ヘッド2や搬送モータ174等を制御することができる。
【0030】
次に本発明の液体吐出ヘッドを構成するヘッド本体13について説明する。
図2は、
図1に示されたヘッド本体13を示す上面図である。
図3は、
図2の一点鎖線で囲まれた領域の拡大上面図であり、ヘッド本体13の一部である。
図4は、
図3と同じ位置の拡大透視図で、液体吐出孔8の位置が分かりやすいように、一部の流路を省略して描いている。なお、
図3および
図4において、図面を分かり易くするために、圧電アクチュエータ基板21の下方にあって破線で描くべき液体加圧室10(液体加圧室群9)、しぼり12および液体吐出孔8を実線で描いている。
図5(a)は、圧電アクチュエータ基板21の部分平面図であり、
図5(a)でも同様に、貫通孔39を実線で描いている。
図5(b)は、
圧電アクチュエータ基板21全体の平面図であり、要部以外は省略してある。
図6(a)は、
図3のV−V線に沿った縦断面図であり、(b)は、
図5(a)のX−X線に沿った縦断面図である。
【0031】
ヘッド本体13は、平板状の流路部材4と、流路部材4上に、圧電アクチュエータ基板21とを有している。圧電アクチュエータ基板21は台形形状を有しており、その台形の1対の平行対向辺が流路部材4の長手方向に平行になるように流路部材4の上面に配置されている。また、流路部材4の長手方向に平行な2本の仮想直線のそれぞれに沿って2つずつ、つまり合計4つの圧電アクチュエータ基板21が、全体として千鳥状に流路部材4上に配列されている。流路部材4上で隣接し合う圧電アクチュエータ基板21の斜辺同士は、流路部材4の短手方向について部分的にオーバーラップしている。このオーバーラップしている部分の圧電アクチュエータ基板21を駆動することにより印刷される領域では、2つの圧電アクチュエータ基板21により吐出された液滴が混在して着弾することになる。
【0032】
流路部材4の内部には液体流路の一部であるマニホールド5が形成されている。マニホールド5は流路部材4の長手方向に沿って延び細長い形状を有しており、流路部材4の上面にはマニホールド5の開口5bが形成されている。開口5bは、流路部材4の長手方向に平行な2本の直線(仮想線)のそれぞれに沿って5個ずつ、合計10個形成されている。開口5bは、4つの圧電アクチュエータ基板21が配置された領域を避ける位置に形成されている。マニホールド5には開口5bを通じて図示されていない液体タンクから液体が供給されるようになっている。
【0033】
流路部材4内に形成されたマニホールド5は、複数本に分岐している(分岐した部分のマニホールド5を副マニホールド5aということがある)。開口5bに繋がるマニホールド5は、圧電アクチュエータ基板21の斜辺に沿うように延在しており、流路部材4の長手方向と交差して配置されている。2つの圧電アクチュエータ基板21に挟まれた領域では、1つのマニホールド5が、隣接する圧電アクチュエータ基板21に共有されており、副マニホールド5aがマニホールド5の両側から分岐している。これらの副マニホールド5aは、流路部材4の内部の各圧電アクチュエータ基板21に対向する領域に互いに隣接してヘッド本体13の長手方向に延在している。
【0034】
流路部材4は、複数の液体加圧室10がマトリクス状(すなわち、2次元的かつ規則的)に形成されている4つの液体加圧室群9を有している。液体加圧室10は、角部にアールが施されたほぼ菱形の平面形状を有する中空の領域である。液体加圧室10は流路部材4の上面に開口するように形成されている。これらの液体加圧室10は、流路部材4の上面における圧電アクチュエータ基板21に対向する領域のほぼ全面にわたって配列されている。したがって、これらの液体加圧室10によって形成された各液体加圧室群9は圧電アクチュエータ基板21とほぼ同一の形状の領域を占有している。また、各液体加圧室10の開口は、流路部材4の上面に圧電アクチュエータ基板21が接着されることで閉塞されている。
【0035】
本実施形態では、
図3に示されているように、マニホールド5は、流路部材4の短手方向に互いに平行に並んだ4列のE1〜E4の副マニホールド5aに分岐し、各副マニホールド5aに繋がった液体加圧室10は、等間隔に流路部材4の長手方向に並ぶ液体加圧室10の列を構成し、その列は、短手方向に互いに平行に4列配列されている。副マニホールド5aに繋がった液体加圧室10の並ぶ列は副マニホールド5aの両側に2列ずつ配列されている。
【0036】
全体では、マニホールド5から繋がる液体加圧室10は、等間隔に流路部材4の長手方
向に並ぶ液体加圧室10の列を構成し、その列は、短手方向に互いに平行に16列配列されている。各液体加圧室列に含まれる液体加圧室10の数は、アクチュエータである変位素子50の外形形状に対応して、その長辺側から短辺側に向かって次第に少なくなるように配置されている。液体吐出孔8もこれと同様に配置されている。これによって、全体として長手方向に600dpiの解像度で画像形成が可能となっている。
【0037】
つまり、流路部材4の長手方向に平行な仮想直線に対して直交するように液体吐出孔8を投影すると、
図3に示した仮想直線のRの範囲に、各副マニホールド5aに繋がっている4つの液体吐出孔8、つまり全部で16個の液体吐出孔8が600dpiの等間隔になっている。また、各副マニホールド5aには平均すれば150dpiに相当する間隔で個別流路32が接続されている。これは、600dpi分の液体吐出孔8を4列の副マニホールド5aに分けて繋ぐ設計をする際に、各副マニホールド5aに繋がる個別流路32が等しい間隔で繋がるとは限らないため、マニホールド5aの延在方向、すなわち主走査方向に平均170μm(150dpiならば25.4mm/150=169μm間隔である)以下の間隔で個別流路32が形成されているということである。
【0038】
圧電アクチュエータ基板21の上面における各液体加圧室10および後述のダミー液体加圧室に対向する位置には後述する個別電極35、ダミー個別電極65がそれぞれ形成されている。すなわち、個別電極35は、圧電アクチュエータ基板21の上面に、第1の方向および第1の方向とは異なる方向に渡って形成されている。個別電極35は液体加圧室10より一回り小さく、液体加圧室10とほぼ相似な形状を有しており、圧電アクチュエータ基板21の上面における液体加圧室10と対向する領域内に収まるように配置されている。
【0039】
流路部材4の下面の液体吐出面には多数の液体吐出孔8が形成されている。これらの液体吐出孔8は、流路部材4の下面側に配置された副マニホールド5aと対向する領域を避けた位置に配置されている。また、これらの液体吐出孔8は、流路部材4の下面側における圧電アクチュエータ基板21と対向する領域内に配置されている。これらの液体吐出孔群7は圧電アクチュエータ基板21とほぼ同一の形状の領域を占有しており、対応する圧電アクチュエータ基板21の変位素子50を変位させることにより液体吐出孔8から液滴が吐出できる。液体吐出孔8の配置については後で詳述する。そして、それぞれの領域内の液体吐出孔8は、流路部材4の長手方向に平行な複数の直線に沿って等間隔に配列されている。
【0040】
以上の流路は、液滴の吐出に直接関係する流路であるが、流路部材4には、図では省略してあるダミー液体加圧室が設けられている。ダミー液体加圧室は、液体加圧室10が設けられている台形状の領域の周囲に一列形成されている。ダミー液体加圧室により、液体加圧室10のうちの最も外側にある液体加圧室10の周囲の流路部材4の剛性などが、他の液体加圧室10の状態と近くなるので、液体吐出特性のばらつきを少なくできる。ダミー液体加圧室の形状は液体加圧室と同じであるが、他の流路に繋がってはいない。ダミー液体加圧室の配置は、液体加圧室10のマトリクス状の配置を延長するように配置される。
【0041】
ヘッド本体13に含まれる流路部材4は、複数のプレートが積層された積層構造を有している。これらのプレートは、流路部材4の上面から順に、キャビティプレート22、ベースプレート23、アパーチャ(しぼり)プレート24、サプライプレート25、26、マニホールドプレート27、28、29、カバープレート30およびノズルプレート31である。これらのプレートには多数の孔が形成されている。各プレートは、これらの孔が互いに連通して個別流路32および副マニホールド5aを構成するように、位置合わせして積層されている。ヘッド本体13は、
図6に示されているように、液体加圧室10は流
路部材4の上面に、副マニホールド5aは内部の下面側に、液体吐出孔8は下面にと、個別流路32を構成する各部分が異なる位置に互いに近接して配設され、液体加圧室10を介して副マニホールド5aと液体吐出孔8とが繋がる構成を有している。
【0042】
各プレートに形成された孔について説明する。これらの孔には、次のようなものがある。第1に、キャビティプレート22に形成された液体加圧室10である。第2に、液体加圧室10の一端から副マニホールド5aへと繋がる流路を構成する連通孔である。この連通孔は、ベースプレート23(詳細には液体加圧室10の入り口)からサプライプレート25(詳細には副マニホールド5aの出口)までの各プレートに形成されている。なお、この連通孔には、アパーチャプレート24に形成されたしぼり12と、サプライプレート25、26に形成された個別供給流路6とが含まれている。
【0043】
第3に、液体加圧室10の他端から液体吐出孔8へと連通する流路を構成する連通孔であり、この連通孔は、以下の記載においてディセンダ(部分流路)と呼称される。ディセンダは、ベースプレート23(詳細には液体加圧室10の出口)からノズルプレート31(詳細には液体吐出孔8)までの各プレートに形成されている。第4に、副マニホールド5aを構成する連通孔である。この連通孔は、マニホールドプレート27〜29に形成されている。
【0044】
このような連通孔が相互に繋がり、副マニホールド5aからの液体の流入口(副マニホールド5aの出口)から液体吐出孔8に至る個別流路32を構成している。副マニホールド5aに供給された液体は、以下の経路で液体吐出孔8から吐出される。まず、副マニホールド5aから上方向に向かって、個別供給流路6を通り、しぼり12の一端部に至る。次に、しぼり12の延在方向に沿って水平に進み、しぼり12の他端部に至る。そこから上方に向かって、液体加圧室10の一端部に至る。さらに、液体加圧室10の延在方向に沿って水平に進み、液体加圧室10の他端部に至る。そこから少しずつ水平方向に移動しながら、主に下方に向かい、下面に開口した液体吐出孔8へと進む。
【0045】
圧電アクチュエータ基板21は、
図6に示されるように、2枚の圧電セラミック層21a、21bからなる積層構造を有している。これらの圧電セラミック層21a、21bはそれぞれ20μm程度の厚さを有している。圧電アクチュエータ基板21の圧電セラミック層21a、21bの積層体の厚さは40μm程度である。圧電アクチュエータ基板21は、流路部材4の液体加圧室10の開口している平面状の面に積層されており、圧電セラミック層21a、21bのいずれの層も複数の液体加圧室10を跨ぐように延在している(
図3参照)。これらの圧電セラミック層21a、21bは、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系のセラミックス材料などからなる。
【0046】
圧電アクチュエータ基板21は、Ag−Pd系などの金属材料からなる共通電極34、Au系などの金属材料からなる個別電極35、個別電極35の上に形成されているAg系などの金属材料からなる接続ランド36を有している。個別電極35は上述のように圧電アクチュエータ基板21の上面における液体加圧室10およびダミー液体加圧室と対向する位置に配置されている個別電極本体35aと、個別電極本体35aから液体加圧室10のない位置まで引き出されている接続電極35bとを含んでいる。個別電極35の厚さは、0.3〜1μmである。接続電極35b上には接続ランド36が形成されている。接続ランド36は例えばガラスフリットを含む銀からなり、厚さが5〜15μm程度で凸状に形成されている。また、接続ランド36には、必要に応じてさらに接続バンプを形成した上、図示されていないFPC(Flexible Printed Circuit)に設けられた電極と電気的に接合されている。詳細は後述するが、個別電極35には、制御部100からFPCを通じて駆動信号(駆動電圧)が供給される。駆動信号は、印刷媒体Pの搬送速度と同期して一定の周期で供給される。
【0047】
なお、以上は、圧電アクチュエータ基板21が2層の圧電セラミック層の場合の構造であるが、3相層以上の圧電セラミック層を積層して、個別電極35と共通電極34が交互になるように配置してもよい。
【0048】
個別電極35は、圧電アクチュエータ基板21の一方の主面の略全面に渡ってマトリクス状に形成されている。すなわち、第1の方向および第1の方向とは異なる方向に渡って形成されている。
【0049】
共通電極34は、圧電セラミック層21aと圧電セラミック層21bとの間の領域に面方向のほぼ全面にわたって形成されている。すなわち、共通電極34は、圧電アクチュエータ基板21に対向する領域内の全ての液体加圧室10を覆うように延在している。共通電極34の厚さは2μm程度である。共通電極34は複数の貫通孔39中の導体で共通表面電極72に繋がっている。貫通孔の直径は50〜200μm程度である。貫通孔39中の導体は、あらかじめビア導体を充填したものでよいし、共通表面電極72が貫通孔39中に入り込んだものでもよい。
【0050】
このような圧電アクチュエータ基板21を作製するには、例えば、貫通孔39を形成した圧電セラミック層21bとなるグリーンシートと、圧電セラミック層21aとなるグリーンシートとの間に、共通電極34となる導体ペーストを挟んだ状態で焼成して、セラミック基板を作製し、セラミック基板に、個別電極35および共通表面電極72を形成するのが好ましい。個別電極35と加圧室10との位置がずれると、変位素子50の変位量がかわるため、設計値に近い変位量としたり、各変位素子50の変量の差を少なくするためには、個別電極50の形成精度に、セラミック基板焼成時の焼成収縮の影響が出ないようにするのが好ましいからである。
【0051】
また、上述のような台形状や平行四辺形状など、長方形状でない形状のセラミック基板は、焼成収縮時に収縮が均等にならず、焼成後の形状が歪むことがある。また、焼成前の生の柔らかい状態で、長方形状と異なる形状に切断加工する際に精度が悪くなることもある。そのため、セラミック基板は、圧電アクチュエータ基板21よりも大きい形状のものを作製し、焼成後に切断するのが好ましい。焼成するセラミック基板は、加工がし易く、焼成などで歪が生じ難い長方形状にするのが好ましい。
【0052】
そのようなセラミック基板を作製する上で、異物付着などの不良が発生した場合、不良が局所的であっても、圧電アクチュエータ基板21として切り出される領域にあれば、そのセラミック基板からは、圧電アクチュエータ基板21を作製できなくなってしまう。
【0053】
そこで、圧電アクチュエータ基板21において、貫通孔39を形成する位置を、一方方向に長い圧電アクチュエータ基板21の、その一方方向と交差する方向に伸びている略平行な一対の辺21−1の近傍のみにし、一対の辺21−1それぞれの辺に沿って設けるようにする。すなわち、貫通孔39は、一対の辺21−1に近傍以外には設けないようにする。ここで一対の辺21−1の近傍とは、例えば、一対の辺のそれぞれから、一対の辺のそれぞれに最も近い個別電極35までの範囲のことである。また、一対の辺21−1の近傍とは、例えば。一対の辺21−1から、圧電アクチュエータ基板21の長手方向の長さの1/10までの範囲のことである。ここで略平行とは、大きくとも±30度程度の範囲内のことを指し、また、一対の辺21−1の一方の端同士の距離と、他方の端同士の距離の差が、貫通孔39の直径の10倍程度以内であることを指す。
【0054】
上述のようにすることで、貫通孔39と共通表面電極72とが重なる範囲内で、セラミック基板の中で圧電アクチュエータ基板21を切り出す位置を、一対の辺21−1と平行
にずらすことができる。圧電アクチュエータ基板21に対する貫通孔39の位置がずれても、貫通孔39を通じて共通表面電極72と共通電極34とが導通すればよく、圧電アクチュエータ基板21の中央など一対の辺21−1の近傍以外にには、貫通孔39が配置さていないため、貫通孔39に阻害されて、個別電極35が形成できなくなったり、貫通孔39を通じて個別電極35と共通電極34とが導通することもない。
【0055】
さらに、貫通孔39以外に、一対の辺21−1と平行に貫通孔39−1を設けておけば、セラミック基板に発生した局所的な不良などで貫通孔39を含むように圧電アクチュエータ基板21が切り出せない場合、貫通孔39−1を含むように圧電アクチュエータ基板21を切り出すことで、圧電アクチュエータ基板21を作製することができる。
【0056】
圧電アクチュエータ基板21は、製造設備の制約などにより正方形に近い形状となることが多い。圧電アクチュエータ基板21の長手方向に伸びる方向に平行な辺を、略平行な一対の辺として使用すると、セラミック基板から圧電アクチュエータ基板21を切り出すことが可能な範囲に限られるが、長手方向と交差する方向に伸びる略平行な辺を一対の辺21−1として使用すれば、セラミック基板から圧電アクチュエータ基板21を切り出すことが可能な範囲を大きくすることができる。
【0057】
共通表面電極72が大きくなると、共通表面電極72を焼成する際の焼成収縮で圧電アクチュエータ基板21が歪むおそれがある。また、共通表面電極72の一対の辺21−1と直交する方向の長さが長くなると変位素子50を形成できる領域が狭くなる。そのため、共通表面電極72は、一対の辺21−1に沿って長く配置するとともに、その長さも短い方がよい。また、共通表面電極72が入りこんでいない貫通孔39があると、他の部位と異なる構造になるため、不良の原因となるおそれがあるので、全ての貫通孔39が共通表面電極72に重なっているようにするのが好ましい。
【0058】
以上のような点を考慮すると、一対の辺21−1の長さを短くするとともに、一対の辺21−1の長さ方向に渡って共通表面電極72を配置するのが好ましい。また、セラミック基板から圧電アクチュエータ基板21を切り出す位置をずらす際に、その位置が圧電アクチュエータ基板21の長手方向にずれるようになると、セラミック基板から外れるような位置になる可能性があるため、一対の辺21−1は、圧電アクチュエータ基板21の長手方向に直交する方向に伸びているのが好ましい。
【0059】
具体的な圧電アクチュエータ基板21の形状としては、
図5(b)に示すような、長辺、短辺、および2つの斜辺を有する台形から、長辺と2つ斜辺との間の2つの角をそれぞれ切り欠いた部分に、一対の辺21−1を設けた形状が好ましい。また、
図5(c)に示すように、圧電アクチュエータ基板221の形状は、2つの鋭角および2つの鈍角を有する平行四辺形から、2つの鋭角をそれぞれ切り欠いた部分に、一対の辺221−1を設けた形状としてもよい。
【0060】
なお、
図5(a)において、表面共通電極72が、台形状の圧電アクチュエータ基板21の長辺に沿って短く伸びている部分は、接続バンプが形成されFPCと接続される部分である。
【0061】
図6(a)に示されるように、共通電極34と個別電極35とは、最上層の圧電セラミック層21bのみを挟むように配置されている。圧電セラミック層21bにおける個別電極35と共通電極34とに挟まれた領域は活性部と呼称され、その部分の圧電セラミックスには厚み方向に分極が施されている。本実施形態の圧電アクチュエータ基板21においては、最上層の圧電セラミック層21bのみが活性部を含んでおり、圧電セラミック21aは活性部を含んでおらず、振動板として働く。この圧電アクチュエータ基板21はいわ
ゆるユニモルフタイプの構成を有している。
【0062】
なお、後述のように、個別電極35に選択的に所定の駆動信号が供給されることにより、この個別電極35に対応する液体加圧室10内の液体に圧力が加えられる。これによって、個別流路32を通じて、対応する液体吐出口8から液滴が吐出される。すなわち、圧電アクチュエータ基板21における各液体加圧室10に対向する部分は、各液体加圧室10および液体吐出口8に対応する個別の変位素子50(アクチュエータ)に相当する。つまり、2枚の圧電セラミック層からなる積層体中には、
図6に示されているような構造を単位構造とする変位素子50が液体加圧室10毎に、液体加圧室10の直上に位置する振動板21a、共通電極34、圧電セラミック層21b、個別電極35により作り込まれており、圧電アクチュエータ基板21には変位素子50が複数含まれている。なお、本実施形態において1回の吐出動作によって液体吐出口8から吐出される液体の量は5〜7pL(ピコリットル)程度である。
【0063】
多数の個別電極35は、個別に電位を制御することができるように、それぞれがFPC上のコンタクトおよび配線を介して、個別にアクチュエータ制御手段に電気的に接続されている。
【0064】
本実施形態における圧電アクチュエータ基板21の液体吐出時の駆動方法の一例を、個別電極35に供給される駆動電圧(駆動信号)に関して説明する。個別電極35を共通電極34と異なる電位にして圧電セラミック層21bに対してその分極方向に電界を印加したとき、この電界が印加された部分が、圧電効果により歪む活性部として働く。この時圧電セラミック層21bは、その厚み方向すなわち積層方向に伸長または収縮し、圧電横効果により積層方向と垂直な方向すなわち面方向には収縮または伸長しようとする。一方、残りの圧電セラミック層21aは、個別電極35と共通電極34とに挟まれた領域を持たない非活性層であるので、自発的に変形しない。つまり、圧電アクチュエータ基板21は、上側(つまり、液体加圧室10とは離れた側)の圧電セラミック層21bを、活性部を含む層とし、かつ下側(つまり、液体加圧室10に近い側)の圧電セラミック層21aを非活性層とした、いわゆるユニモルフタイプの構成となっている。
【0065】
この構成において、電界と分極とが同方向となるように、アクチュエータ制御部により個別電極35を共通電極34に対して正または負の所定電位とすると、圧電セラミック層21bの電極に挟まれた部分(活性部)が、面方向に収縮する。一方、非活性層の圧電セラミック層21aは電界の影響を受けないため、自発的には縮むことがなく活性部の変形を規制しようとする。この結果、圧電セラミック層21bと圧電セラミック層21aとの間で分極方向への歪みに差が生じて、圧電セラミック層21bは液体加圧室10側へ凸となるように変形(ユニモルフ変形)する。
【0066】
本実施の形態における実際の駆動手順は、あらかじめ個別電極35を共通電極34より高い電位(以下高電位と称す)にしておき、吐出要求がある毎に個別電極35を共通電極34と一旦同じ電位(以下低電位と称す)とし、その後所定のタイミングで再び高電位とする。これにより、個別電極35が低電位になるタイミングで、圧電セラミック層21a、bが元の形状に戻り、液体加圧室10の容積が初期状態(両電極の電位が異なる状態)と比較して増加する。このとき、液体加圧室10内に負圧が与えられ、液体がマニホールド5側から液体加圧室10内に吸い込まれる。その後再び個別電極35を高電位にしたタイミングで、圧電セラミック層21a、bが液体加圧室10側へ凸となるように変形し、液体加圧室10の容積減少により液体加圧室10内の圧力が正圧となり液体への圧力が上昇し、液滴が吐出される。つまり、液滴を吐出させるため、高電位を基準とするパルスを含む駆動信号を個別電極35に供給することになる。このパルス幅は、液体加圧室10内において圧力波がマニホールド5から液体吐出孔8まで伝播する時間長さであるAL(Ac
oustic Length)が理想的である。これによると、液体加圧室10内部が負圧状態から正
圧状態に反転するときに両者の圧力が合わさり、より強い圧力で液滴を吐出させることができる。
【0067】
以上のような液体吐出ヘッド2は、例えば、以下のようにして作製する。ロールコータ法、スリットコーター法などの一般的なテープ成形法により、圧電性セラミック粉末と有機組成物からなるテープの成形を行ない、焼成後に圧電セラミック層21a、21bとなる複数のグリーンシートを作製する。グリーンシートの一部には、その表面に共通電極34となる電極ペーストを印刷法等により形成する。また、グリーンシートには貫通孔39を開ける。必要に応じて、標準的な切り出し位置以外で圧電アクチュエータ基板21を切り出す際に使用する貫通孔39−1を開ける。共通電極34は、貫通孔39−1の下にも存在するように、全面に形成される。さらに、必要に応じて、貫通孔39、貫通孔39−1にビア導体を充填する。
【0068】
ついで、各グリーンシートを積層して積層体を作製し、加圧密着を行なう。加圧密着後の積層体を長方形状に切断して高濃度酸素雰囲気下で焼成し、セラミック基板を作製した。セラミック基板は、外観検査等をして、標準の切り出す位置内に不良がなければ、ダイシング等で圧電アクチュエータ基板21を切り出す。標準の切り出し位置内に不良があり、切り出し位置をずらすことで、良品の圧電アクチュエータ基板21を作製できるようであれば、その後形成する共通表面電極34と貫通孔39あるいは貫通孔39−1の位置が合うように(少なくとも一つが重なるように)、圧電アクチュエータ基板21を切り出す。その後、Auペーストで個別電極35および共通表面電極72を印刷、焼成すれば、圧電アクチュエータ基板を作製することができる。