【実施例1】
【0024】
図2を用いて蒸発缶内で生じる現象を説明する。まず蒸発缶101は、円形、方形その他如何なる形状のものであってもよいが、溶液を収納するタンクとしての機能を有している。そのため、蒸発缶101は鉛直軸方向に設置されている。蒸発缶101外部には、外部ヒータ102が設けられ、これにより蒸発缶101内部の溶液103を加熱する。
【0025】
蒸発缶101内の溶液103は、蒸発缶101外からの壁面加熱により溶液の密度が小さくなることで浮力が発生し上昇流が生じる。また液面106では溶液が蒸発し、蒸発により溶液から熱が奪われ、液面近傍の溶液の密度が大きくなることにより下降流が発生する。
図2では、加熱面である蒸発缶101の内壁近傍で上昇流となり、蒸発缶101の中心部で下降流となる、安定的な自然対流104が生じる。自然対流104が蒸発缶101中心部の下降流から壁面の上昇流へ反転移行するところに溶液が蒸発缶101底面に沿って流動することにより、蒸発缶101底部を除熱する。また壁面近傍の上昇流により蒸発缶101の側面の壁を除熱する。
【0026】
蒸発工程は自然対流104を保持しながら進行するが、溶液が飽和濃度を超えると固相105が溶液内の不特定位置に析出する。固相105の密度が溶液よりも大きい場合には沈降し、最終的に蒸発缶101の底部に堆積する。堆積した固相105は自然対流104の流動の抵抗となる。これにより下降流による溶液が蒸発缶101底部まで到達せず、自然対流による除熱が阻害される可能性がある。
【0027】
この時、蒸発缶101の下部から加熱されているため、蒸発缶101底部の温度が上昇する。一般に、腐食ポテンシャルは温度上昇とともに増加する傾向があるため、蒸発缶101底部の温度が上昇すると、蒸発缶101の腐食ポテンシャルが増加し、予め腐食代を大きくする等の対策が必要となる。
【0028】
なお、蒸発缶101温度上昇を防止するため、撹拌機構を設ける事もできる。しかし蒸発缶101内を撹拌することにより、蒸発缶101底部に堆積した固相105が拡散するが、拡散した固相105は時間経過とともに再度蒸発缶101底部に堆積するため、常時撹拌する必要があり、コストがかかる。
【0029】
このように蒸発缶101内では、外部ヒータ102による加熱と、これによる自然対流104と、固相105の析出、沈殿が
図2に示したように同時進行している。このことから本発明では、自然対流104を妨げず、固相105の加熱面への堆積量を低減する
図3の機器配置および溶液の移動方向を提案している。
図3を用いて、蒸発缶101内の機器配置および溶液の移動方向を説明する。
【0030】
図3は
図2と同じ蒸発缶101断面で示しているが、ここでは第1点として蒸発缶101下部に仕切り板201を水平方向に設置する。この仕切り板201により蒸発缶101内は上部領域Aと下部領域Bに分けられる。自然対流104は主に上部領域Aで生じる。理論上自然対流は下部領域でも生じるが、仕切り板201が蒸発缶101下部に設けられていること、溶液が常時供給されており比較的に低温であることなどの理由により、本発明の動作を考える上では無視することができる。
【0031】
第2点として仕切り板201の外縁近傍に溶液誘導管202を設置する。缶内の溶液は、この溶液誘導管202を通してのみ上部領域Aと下部領域Bを移動する。なお上部領域Aに突出している溶液誘導管202の長さは、仕切り板201上に堆積する固相105の量により決定する。
【0032】
第3点として濃縮前の溶液207を下部領域Bに供給する。溶液の供給は蒸発缶101の上部から溶液供給管203を通して行い、供給流F1を与える。下部領域Bに供給された溶液は溶液誘導管202を通り、移送流F2として上部領域Aへ移送される。205は溶液供給管203に設けられ、供給流F1の流量を定め、あるいは流通を阻止する弁である。
【0033】
第4点として仕切り板201上に堆積した固相105を移送し、次の工程設備206に回収するために、移送用配管204を上部領域Aと蒸発缶101の上部の間に設置する。F3は回収ルートである。
【0034】
以下、
図3の機器配置および溶液の移動方向を具体的に得るための機器構成について説明する。
図1は機器の基本的な全体構成を示している。なお、
図1に示した機器の具体構成あるいは変形構成は逐次図示を持って説明する。
【0035】
図1において、第1点の仕切り板201は蒸発缶101底部近傍に水平方向に配置され、
図4に示すような円盤状に形成されている。
図4は蒸発缶101内の配管構成を立体的に示した図である。
【0036】
図1において、第2点として述べた溶液誘導管202は仕切り板201を貫通し、仕切り板の外縁近傍に少なくとも1つ設置している。
図4には、仕切り板201と溶液誘導管202と溶液供給管203とが記述されている。
【0037】
図1において、第3点として述べた蒸発缶101底部に廃液を供給するための構成は以下のようである。蒸発缶101中心部近傍の鉛直軸方向に溶液供給管203を備える。溶液供給管203は蒸発缶101外部から導入され、仕切り板201を貫通し、下端は下部領域Bまで通じている。蒸発缶101外部の溶液供給管203の途中には弁205を備え、この弁の開閉により蒸発缶101内への溶液の供給流F1を与える。
【0038】
図1において、第4点として述べた仕切り板上に堆積した固相の移送・回収のための構成は以下のようである。蒸発缶101内の鉛直軸方向に移送用配管204を備える。移送用配管204の下端は上部領域Aに存在し、この下端と仕切り板201との距離は、仕切り板上に堆積する最大固相量に応じて決定する。また、移送用配管204は蒸発缶101外部の次の処理工程設備へ連結される。
【0039】
以下、この構成による溶液の処理・移送について説明する。蒸発缶101外部からの加熱と第1点で述べた仕切り板201により、上部領域A内では自然対流104(
図2)を生じながら溶液が濃縮される。濃縮時に発生する固相105は上部領域Aで多く生じ、仕切り板201上に堆積する。固相105は下部領域Bでも生じる可能性があるが、上部領域Aでの発生に比べると少量である。このため、蒸発缶101底部の加熱面に接触する固相105の量を大幅に低減でき、蒸発缶101底部の腐食ポテンシャルの増加を抑制することができる。
【0040】
蒸発缶101における溶液の濃縮進行中には、常時濃縮前の溶液207が下部領域に供給されている。この溶液207は、弁205を開き、溶液供給管203を通して仕切り板201下部の下部領域Bに供給する供給流F1を与える。下部領域Bに供給された溶液は溶液誘導管202を通過し、移送流F4として上部領域Aに移送される。
【0041】
ここで、下部領域Bに濃縮前の濃度の低い溶液を供給することで、蒸発缶101下部からの加熱があっても下部領域Bにおける固相105の析出量を低減できる。さらに、溶液誘導管202を仕切り板の外縁近傍に配置することで、移送流F2を
図2の自然対流104の上昇流に合流させることができ、自然対流104を阻害することなく溶液を供給できる。自然対流104の阻害防止の観点から、溶液誘導管202を複数配置する場合には、
図4のように点対象に配置することが好ましい。
【0042】
以上のように、本発明の蒸発缶101では、溶液誘導管202を外縁近傍に備えた仕切り板201と溶液供給管203により、固相105が蒸発缶101底部に堆積する量を削減できる。これにより蒸発缶101の稼働率を低下させることなく、長期間、蒸発缶101底部の温度上昇を抑制し、蒸発缶腐食ポテンシャルを低減することにより、ライフサイクルコスト低減を達成できる。また、移送用配管204により、仕切り板上に堆積した固相105を移送することができ、メンテナンスコストを低減することができる。
【0043】
なお、
図2は一例として、蒸発缶101の外部からの加熱がある場合について記載している。また、
図1、
図3、
図4は一例を示しており、仕切り板201、溶液誘導管202、溶液供給管203、移送用配管204、弁205の形状、位置及び数量はこれに限定されない。
【実施例2】
【0044】
実施例2では、
図5に示すように、蒸発缶101底部に堆積した固相の撹拌のために、攪拌用流体供給管501および攪拌ノズル502を設置する。
【0045】
図5において、蒸発缶101底部に堆積した固相の攪拌のための構成は以下のようである。蒸発缶101中心部近傍の鉛直軸方向に攪拌用流体供給管501及び撹拌ノズル502を備える。撹拌用ノズル502は攪拌用流体供給管501の先端に形成され下部領域B内に位置づけられる。攪拌用流体供給管502は蒸発缶101外部から導入され、仕切り板201を貫通し、下端は下部領域Bまで通じている。蒸発缶101外部の攪拌用流体供給管501の途中には弁503を備え、攪拌時にはこの弁の開閉により蒸発缶101の上方から下流に向かう攪拌流F4を与える。
【0046】
図6は蒸発缶101内の配管構成を立体的に示した図である。下部領域B内に堆積した固相に撹拌流F4を噴射するための噴射口601が撹拌用ノズル502の先端に形成されている。攪拌流F4は、
図6に示す噴射口601から噴出し、下部領域B内の蒸発缶101底部に到達する。
【0047】
以下、この構成による固相の処理・移送について
図5を参照して説明する。まず以下の説明の前提として、溶液供給管203から濃縮前の溶液207が適宜供給されており、蒸発缶101内には溶液が満たされ、蒸発缶101は外部から加熱されている。係る運転状態において、上部領域Aの濃縮溶液と下部領域Bの溶液の密度差が大きいとき、溶液誘導管202を通して、上部領域Aから下部領域Bに濃縮溶液が移動し、下部領域Bで固相105が析出する、または濃縮溶液と共に上部領域Aで析出した固相105が下部領域Bに移動することで、蒸発缶101底部に固相105が堆積する可能性がある。
【0048】
このような場合、固相105を再度上部領域Aに移送する必要がある。この移送のために弁503を開き、攪拌用流体供給管501及び攪拌ノズル502から攪拌流F2として攪拌用流体504を流入させる。攪拌流F2により蒸発缶101底部に堆積した固相105を拡散させる。
【0049】
またこのときには、溶液供給管203から供給する濃縮前の溶液207の供給量を弁205により調整し、拡散した固相105が下部領域B内に供給された溶液と共に溶液誘導管202を通して移送流F2として上部領域Aに移送する。撹拌用流体504は、溶液と化学反応しないガスが望ましい。溶液の希釈効果が無視可能な場合は蒸気でもよい。
【0050】
上部領域Aで濃縮途中に析出した固相105は、仕切り板201上に堆積する。濃縮処理後に、溶液供給管203上の弁205が閉じた状態で、移送用配管204から堆積した固相105と濃縮した溶液103を吸入して、次の処理工程設備206に移送する。なお移送手法としては、蒸発缶101内を加圧し、溶液103を移送用配管204から押し出し、次の処理工程設備206に移送することでもよい。
【0051】
以上のように、仕切り板201と仕切り板下部からの溶液の供給により蒸発缶101底部の固相の堆積量を低減することができ、蒸発缶101の稼働率を低下させることなく、長期間、蒸発缶101底部の温度上昇を抑制し、蒸発缶101腐食ポテンシャルを低減することにより、ライフサイクルコスト低減を達成できる。
【0052】
なお、
図5及び
図6は一例を示しており、仕切り板201、溶液誘導管202、溶液供給管203、移送用配管204、弁205、撹拌用流体供給管501、撹拌ノズル502、弁503、噴射口601の形状、位置及び数量はこれに限定されない。