特許第6034241号(P6034241)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6034241
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】蒸発缶
(51)【国際特許分類】
   B01D 1/00 20060101AFI20161121BHJP
   B01D 1/14 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   B01D1/00 Z
   B01D1/14 Z
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-106808(P2013-106808)
(22)【出願日】2013年5月21日
(65)【公開番号】特開2014-226587(P2014-226587A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2015年12月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】細井 秀章
(72)【発明者】
【氏名】石田 直行
【審査官】 神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭50−067777(JP,A)
【文献】 特開昭51−023419(JP,A)
【文献】 特開昭58−034001(JP,A)
【文献】 特公平06−085841(JP,B2)
【文献】 米国特許第1646454(US,A)
【文献】 米国特許第4427053(US,A)
【文献】 米国特許第5123997(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 1/00−1/30
B01D 9/00−9/04
B01J 19/00
C02F 1/02−1/18
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部または内外部に備えた加熱機構により内部の溶液を加熱し、前記溶液を蒸発させて濃縮するとともに、濃縮により析出した固相を回収可能な蒸発缶であって、
蒸発缶内を上部領域と下部領域に仕切る仕切り板、該仕切り板を貫通し蒸発缶外部から前記下部領域に前記溶液を供給する溶液供給管、前記仕切り板の外縁近傍に設けられ仕切り板を貫通する溶液誘導管、一端が前記上部領域内の前記仕切り板の上部に位置づけられ、他端が蒸発缶外部に位置する移送用配管を備え、
濃縮により析出した固相を含む溶液を、移送用配管を介して蒸発缶外部に回収することを特徴とする蒸発缶。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸発缶において、
前記溶液誘導管は、前記仕切り板の外縁近傍に複数個所設けられ、前記溶液供給管は蒸発缶中央部に鉛直方向に設けられていることを特徴とする蒸発缶。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の蒸発缶において、
前記仕切り板を貫通し蒸発缶外部から前記下部領域に撹拌用流体を供給する撹拌用流体供給管を備え、
前記下部領域内の撹拌により、前記下部領域内に存在する前記固相を、前記溶液誘導管を介して前記上部領域に移すことを特徴とする蒸発缶。
【請求項4】
請求項3に記載の蒸発缶において、
撹拌用流体供給管は、その先端に噴射口を備える撹拌ノズルを構成し、前記蒸発缶底部に堆積した固相を撹拌することを特徴とする蒸発缶。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の蒸発缶において、
前記溶液誘導管内に前記上部領域から前記下部領域に向かう溶液の流れを阻止する逆流防止機構を備えることを特徴とする蒸発缶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液を加熱し蒸発させることで溶液の濃縮又は減容を行うための蒸発缶に関する。
【背景技術】
【0002】
化学プラントなどでは、溶液の濃縮又は減容を目的として蒸発缶を用いる。例えば食品関係設備では食品溶液を濃縮し、あるいは化学プラントからの廃液の減量(体積の低減)を行う場面で蒸発缶(evaporator)を使用する。ここでは、濃縮又は減容のために、蒸発缶の外部にヒータ等を設置して、これにより内部の溶液を加熱する。
【0003】
蒸発缶における外部加熱により、内部の溶液は密度が小さくなり蒸発缶の側面を上昇する。一方、溶液の液面近傍では、溶液の蒸発により液面近傍の熱が奪われて密度が大きくなり、蒸発缶中央部を下降する。これにより蒸発缶内では、溶液が上昇し下降する自然対流を発生させつつ溶液を蒸発させ、濃縮又は減容する。
【0004】
溶液の種類にもよるが、溶液中に固相として析出する成分(以下単に固相という)を含む場合がある。溶液に固相として析出する成分が溶解していると、蒸発過程において不特定位置に固相が析出する可能性がある。析出した固相のうち、溶液よりも密度の大きな固相は蒸発缶底部に沈殿し堆積することになる。沈殿し堆積した固相は、蒸発缶底部の溶液流動を阻害するので、蒸発缶底面からの加熱がある場合、固相と接触する蒸発缶底部の伝熱面の除熱量が低下し、蒸発缶底部の伝熱面温度が上昇する可能性がある。
【0005】
温度が上昇すると伝熱面構造材の腐食ポテンシャルが大きくなる。このため、固相を含む溶液を使用する蒸発缶では、その設計段階において伝熱面構造材の腐食ポテンシャルの観点から、蒸発缶底部の肉厚を厚くする等の対策が必要となる。
【0006】
蒸発缶における上記の問題点に対する対応として、従来から幾つかの手法が知られている。特許文献1では、被処理液がスラリーの場合に、固体粒子の沈殿がない低沸点成分を連続的に蒸発させる自然循環式蒸発缶を提案している。
【0007】
特許文献2は、液体中の固体を分離する技術として、多孔質の濾過媒体を用いる。
【0008】
特許文献3は、キャッチャータンク内の粒子混合廃液流の粒子を回収する方法として、移送用エジェクターと沈殿タンクを用いた沈降分離装置を提案している。また、キャッチャータンク内で粒子混合廃液中の粒子の沈降を防ぐ方法として、エジェクターによる廃液ジェットにより撹拌することが知られている。
【0009】
特許文献4は、レーザー光で溶液を加熱する蒸発缶に対し、缶壁内側に沿って仕切り板を設け、仕切り板と缶壁内側との間に濃縮前の溶液を流入させ、仕切り板中央部に設けた開口部より缶内に溶液を流入する蒸発缶を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−333201公報
【特許文献2】特公平3−49607号公報
【特許文献3】特開2001−260030号公報
【特許文献4】特公平6−85841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の蒸発缶では、蒸発缶内が加熱され、固相の析出が生じることを前提とする。また本発明の蒸発缶では、析出した固相を回収し、かつこのときに蒸発缶内部の自然対流を阻害せず、高効率、高稼働率を達成するものとしたい。
【0012】
これらの仕様に対し、特許文献1の場合には、低沸点成分のみが蒸発対象となり、任意の沸点の成分を蒸発できない可能性がある。
【0013】
本発明が前提とする固相の析出がある蒸発缶においては、付随的に以下の課題が生じることを考慮する必要がある。まず蒸発缶底部に堆積した固相が蒸発缶底部の流動を阻害し、蒸発缶底部に到達する溶液量を低減させる。蒸発缶外部からの加熱がある場合、これが蒸発缶底部の温度上昇を引き起こし、腐食ポテンシャルを増大させる可能性があるため、予め腐食代を大きくしておく等の対策を行っておく必要がある。
【0014】
また、蒸発缶底部の固相の堆積量を抑制するため、蒸発缶内に構造物等を挿入する場合、自然対流を阻害しないような構造にする必要がある。自然対流を阻害すると、蒸発缶底部の固相堆積層に流入する溶液量が低減し、蒸発缶底部の温度を上昇させ、腐食ポテンシャルを増加させる可能性がある。
【0015】
さらに固相捕集のために従来の捕集部材(例えば、特許文献2)を蒸発缶内で使用する場合には、目詰まりを防止するためにフィルターの交換または洗浄を行う必要があり、蒸発缶稼動率を低下させる可能性がある。
【0016】
さらに外部への回収手段も考慮する必要がある。粒子回収装置(例えば、特許文献3)を外部に備えた蒸発缶では、移送設備及び回収容器の追設が必要となり、設備の大型化及び設備コストが増大する可能性がある。
【0017】
特許文献3では、撹拌機構を備え、撹拌により蒸発缶底部に堆積した固相を拡散させ、蒸発缶底部の除熱を促進する。しかし、撹拌された固相は再度蒸発缶底部に堆積するため、常に撹拌する必要がある。また、常時撹拌することにより、蒸発缶内部の溶液の自然対流を阻害する可能性がある。
【0018】
特許文献4では、レーザー光で缶内部の溶液を加熱しているため、仕切り板を缶壁に沿って設けることができる。しかし、外部からの加熱がある蒸発缶では、缶壁に沿った仕切り板により、内部の溶液を加熱できない可能性がある。また、缶中央で下降流となる自然対流により、濃縮前の溶液の缶内への流入を妨げる可能性がある。さらに、仕切り板中央部の開口部から固相が沈降し、缶底部に堆積して腐食ポテンシャルを増大させる可能性がある。
【0019】
以上のことから本発明の目的は、外部から加熱のある蒸発缶の稼働率を低下させることなく、長期間、蒸発缶底部の温度上昇を抑制し、蒸発缶腐食ポテンシャルを低減することにより、ライフサイクルコスト低減を達成することが可能な蒸発缶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
以上のことから本発明は、外部または内外部に備えた加熱機構により内部の溶液を加熱し、溶液を蒸発させて濃縮するとともに、濃縮により析出した固相を回収可能な蒸発缶であって、蒸発缶内を上部領域と下部領域に仕切る仕切り板、仕切り板を貫通し蒸発缶外部から下部領域に溶液を供給する溶液供給管、仕切り板の外縁近傍に設けられ仕切り板を貫通する溶液誘導管、一端が上部領域内の仕切り板の上部に位置づけられ、他端が蒸発缶外部に位置する移送用配管を備え、濃縮により析出した固相を含む溶液を、移送用配管を介して蒸発缶外部に回収することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の上記構成により、蒸発缶底部の加熱面に堆積する固相量を低減し、蒸発缶稼働率を低下させることなく、長期間、蒸発缶底部の温度上昇を抑制し、蒸発缶腐食ポテンシャルを低減することにより、ライフサイクルコスト低減を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施例1に係る蒸発缶内機器の基本的な全体構成を示す図。
図2】蒸発缶内で生じる現象を説明するための図。
図3】蒸発缶内の機器配置および溶液の移動方向を説明するための図。
図4】蒸発缶内の配管構成を立体的に示した図。
図5】撹拌機構を備えた蒸発缶内の機器は位置及び溶液の移動方向を説明するための図。
図6】撹拌機構を備えた蒸発缶内の配管構成を立体的に示した図。
図7】本発明の実施例3に係る溶液誘導管の模式図。
図8】本発明の実施例4に係る溶液誘導管の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態に係る蒸発缶について適宜実施例と図面を参照しながら詳細に説明する。ここでは、蒸発濃縮に伴い発生し、蒸発缶底部に堆積する固相を撹拌・捕集する機構を例に説明するが、捕集する対象は固相に限定されず、溶液中に存在する不純物でもよく、その大きさも限定されない。また、蒸発缶の加熱は蒸発缶全体を加熱する外部ヒータを例に説明するが、ヒータの配置、形状はこれに限定されない。また、外部からの加熱に加え、内部にヒータを設けてもよい。蒸発缶は作図の便宜上、軸方向断面で記載し、配管等の細部の記載を省略している。
【実施例1】
【0024】
図2を用いて蒸発缶内で生じる現象を説明する。まず蒸発缶101は、円形、方形その他如何なる形状のものであってもよいが、溶液を収納するタンクとしての機能を有している。そのため、蒸発缶101は鉛直軸方向に設置されている。蒸発缶101外部には、外部ヒータ102が設けられ、これにより蒸発缶101内部の溶液103を加熱する。
【0025】
蒸発缶101内の溶液103は、蒸発缶101外からの壁面加熱により溶液の密度が小さくなることで浮力が発生し上昇流が生じる。また液面106では溶液が蒸発し、蒸発により溶液から熱が奪われ、液面近傍の溶液の密度が大きくなることにより下降流が発生する。図2では、加熱面である蒸発缶101の内壁近傍で上昇流となり、蒸発缶101の中心部で下降流となる、安定的な自然対流104が生じる。自然対流104が蒸発缶101中心部の下降流から壁面の上昇流へ反転移行するところに溶液が蒸発缶101底面に沿って流動することにより、蒸発缶101底部を除熱する。また壁面近傍の上昇流により蒸発缶101の側面の壁を除熱する。
【0026】
蒸発工程は自然対流104を保持しながら進行するが、溶液が飽和濃度を超えると固相105が溶液内の不特定位置に析出する。固相105の密度が溶液よりも大きい場合には沈降し、最終的に蒸発缶101の底部に堆積する。堆積した固相105は自然対流104の流動の抵抗となる。これにより下降流による溶液が蒸発缶101底部まで到達せず、自然対流による除熱が阻害される可能性がある。
【0027】
この時、蒸発缶101の下部から加熱されているため、蒸発缶101底部の温度が上昇する。一般に、腐食ポテンシャルは温度上昇とともに増加する傾向があるため、蒸発缶101底部の温度が上昇すると、蒸発缶101の腐食ポテンシャルが増加し、予め腐食代を大きくする等の対策が必要となる。
【0028】
なお、蒸発缶101温度上昇を防止するため、撹拌機構を設ける事もできる。しかし蒸発缶101内を撹拌することにより、蒸発缶101底部に堆積した固相105が拡散するが、拡散した固相105は時間経過とともに再度蒸発缶101底部に堆積するため、常時撹拌する必要があり、コストがかかる。
【0029】
このように蒸発缶101内では、外部ヒータ102による加熱と、これによる自然対流104と、固相105の析出、沈殿が図2に示したように同時進行している。このことから本発明では、自然対流104を妨げず、固相105の加熱面への堆積量を低減する図3の機器配置および溶液の移動方向を提案している。図3を用いて、蒸発缶101内の機器配置および溶液の移動方向を説明する。
【0030】
図3図2と同じ蒸発缶101断面で示しているが、ここでは第1点として蒸発缶101下部に仕切り板201を水平方向に設置する。この仕切り板201により蒸発缶101内は上部領域Aと下部領域Bに分けられる。自然対流104は主に上部領域Aで生じる。理論上自然対流は下部領域でも生じるが、仕切り板201が蒸発缶101下部に設けられていること、溶液が常時供給されており比較的に低温であることなどの理由により、本発明の動作を考える上では無視することができる。
【0031】
第2点として仕切り板201の外縁近傍に溶液誘導管202を設置する。缶内の溶液は、この溶液誘導管202を通してのみ上部領域Aと下部領域Bを移動する。なお上部領域Aに突出している溶液誘導管202の長さは、仕切り板201上に堆積する固相105の量により決定する。
【0032】
第3点として濃縮前の溶液207を下部領域Bに供給する。溶液の供給は蒸発缶101の上部から溶液供給管203を通して行い、供給流F1を与える。下部領域Bに供給された溶液は溶液誘導管202を通り、移送流F2として上部領域Aへ移送される。205は溶液供給管203に設けられ、供給流F1の流量を定め、あるいは流通を阻止する弁である。
【0033】
第4点として仕切り板201上に堆積した固相105を移送し、次の工程設備206に回収するために、移送用配管204を上部領域Aと蒸発缶101の上部の間に設置する。F3は回収ルートである。
【0034】
以下、図3の機器配置および溶液の移動方向を具体的に得るための機器構成について説明する。図1は機器の基本的な全体構成を示している。なお、図1に示した機器の具体構成あるいは変形構成は逐次図示を持って説明する。
【0035】
図1において、第1点の仕切り板201は蒸発缶101底部近傍に水平方向に配置され、図4に示すような円盤状に形成されている。図4は蒸発缶101内の配管構成を立体的に示した図である。
【0036】
図1において、第2点として述べた溶液誘導管202は仕切り板201を貫通し、仕切り板の外縁近傍に少なくとも1つ設置している。図4には、仕切り板201と溶液誘導管202と溶液供給管203とが記述されている。
【0037】
図1において、第3点として述べた蒸発缶101底部に廃液を供給するための構成は以下のようである。蒸発缶101中心部近傍の鉛直軸方向に溶液供給管203を備える。溶液供給管203は蒸発缶101外部から導入され、仕切り板201を貫通し、下端は下部領域Bまで通じている。蒸発缶101外部の溶液供給管203の途中には弁205を備え、この弁の開閉により蒸発缶101内への溶液の供給流F1を与える。
【0038】
図1において、第4点として述べた仕切り板上に堆積した固相の移送・回収のための構成は以下のようである。蒸発缶101内の鉛直軸方向に移送用配管204を備える。移送用配管204の下端は上部領域Aに存在し、この下端と仕切り板201との距離は、仕切り板上に堆積する最大固相量に応じて決定する。また、移送用配管204は蒸発缶101外部の次の処理工程設備へ連結される。
【0039】
以下、この構成による溶液の処理・移送について説明する。蒸発缶101外部からの加熱と第1点で述べた仕切り板201により、上部領域A内では自然対流104(図2)を生じながら溶液が濃縮される。濃縮時に発生する固相105は上部領域Aで多く生じ、仕切り板201上に堆積する。固相105は下部領域Bでも生じる可能性があるが、上部領域Aでの発生に比べると少量である。このため、蒸発缶101底部の加熱面に接触する固相105の量を大幅に低減でき、蒸発缶101底部の腐食ポテンシャルの増加を抑制することができる。
【0040】
蒸発缶101における溶液の濃縮進行中には、常時濃縮前の溶液207が下部領域に供給されている。この溶液207は、弁205を開き、溶液供給管203を通して仕切り板201下部の下部領域Bに供給する供給流F1を与える。下部領域Bに供給された溶液は溶液誘導管202を通過し、移送流F4として上部領域Aに移送される。
【0041】
ここで、下部領域Bに濃縮前の濃度の低い溶液を供給することで、蒸発缶101下部からの加熱があっても下部領域Bにおける固相105の析出量を低減できる。さらに、溶液誘導管202を仕切り板の外縁近傍に配置することで、移送流F2を図2の自然対流104の上昇流に合流させることができ、自然対流104を阻害することなく溶液を供給できる。自然対流104の阻害防止の観点から、溶液誘導管202を複数配置する場合には、図4のように点対象に配置することが好ましい。
【0042】
以上のように、本発明の蒸発缶101では、溶液誘導管202を外縁近傍に備えた仕切り板201と溶液供給管203により、固相105が蒸発缶101底部に堆積する量を削減できる。これにより蒸発缶101の稼働率を低下させることなく、長期間、蒸発缶101底部の温度上昇を抑制し、蒸発缶腐食ポテンシャルを低減することにより、ライフサイクルコスト低減を達成できる。また、移送用配管204により、仕切り板上に堆積した固相105を移送することができ、メンテナンスコストを低減することができる。
【0043】
なお、図2は一例として、蒸発缶101の外部からの加熱がある場合について記載している。また、図1図3図4は一例を示しており、仕切り板201、溶液誘導管202、溶液供給管203、移送用配管204、弁205の形状、位置及び数量はこれに限定されない。
【実施例2】
【0044】
実施例2では、図5に示すように、蒸発缶101底部に堆積した固相の撹拌のために、攪拌用流体供給管501および攪拌ノズル502を設置する。
【0045】
図5において、蒸発缶101底部に堆積した固相の攪拌のための構成は以下のようである。蒸発缶101中心部近傍の鉛直軸方向に攪拌用流体供給管501及び撹拌ノズル502を備える。撹拌用ノズル502は攪拌用流体供給管501の先端に形成され下部領域B内に位置づけられる。攪拌用流体供給管502は蒸発缶101外部から導入され、仕切り板201を貫通し、下端は下部領域Bまで通じている。蒸発缶101外部の攪拌用流体供給管501の途中には弁503を備え、攪拌時にはこの弁の開閉により蒸発缶101の上方から下流に向かう攪拌流F4を与える。
【0046】
図6は蒸発缶101内の配管構成を立体的に示した図である。下部領域B内に堆積した固相に撹拌流F4を噴射するための噴射口601が撹拌用ノズル502の先端に形成されている。攪拌流F4は、図6に示す噴射口601から噴出し、下部領域B内の蒸発缶101底部に到達する。
【0047】
以下、この構成による固相の処理・移送について図5を参照して説明する。まず以下の説明の前提として、溶液供給管203から濃縮前の溶液207が適宜供給されており、蒸発缶101内には溶液が満たされ、蒸発缶101は外部から加熱されている。係る運転状態において、上部領域Aの濃縮溶液と下部領域Bの溶液の密度差が大きいとき、溶液誘導管202を通して、上部領域Aから下部領域Bに濃縮溶液が移動し、下部領域Bで固相105が析出する、または濃縮溶液と共に上部領域Aで析出した固相105が下部領域Bに移動することで、蒸発缶101底部に固相105が堆積する可能性がある。
【0048】
このような場合、固相105を再度上部領域Aに移送する必要がある。この移送のために弁503を開き、攪拌用流体供給管501及び攪拌ノズル502から攪拌流F2として攪拌用流体504を流入させる。攪拌流F2により蒸発缶101底部に堆積した固相105を拡散させる。
【0049】
またこのときには、溶液供給管203から供給する濃縮前の溶液207の供給量を弁205により調整し、拡散した固相105が下部領域B内に供給された溶液と共に溶液誘導管202を通して移送流F2として上部領域Aに移送する。撹拌用流体504は、溶液と化学反応しないガスが望ましい。溶液の希釈効果が無視可能な場合は蒸気でもよい。
【0050】
上部領域Aで濃縮途中に析出した固相105は、仕切り板201上に堆積する。濃縮処理後に、溶液供給管203上の弁205が閉じた状態で、移送用配管204から堆積した固相105と濃縮した溶液103を吸入して、次の処理工程設備206に移送する。なお移送手法としては、蒸発缶101内を加圧し、溶液103を移送用配管204から押し出し、次の処理工程設備206に移送することでもよい。
【0051】
以上のように、仕切り板201と仕切り板下部からの溶液の供給により蒸発缶101底部の固相の堆積量を低減することができ、蒸発缶101の稼働率を低下させることなく、長期間、蒸発缶101底部の温度上昇を抑制し、蒸発缶101腐食ポテンシャルを低減することにより、ライフサイクルコスト低減を達成できる。
【0052】
なお、図5及び図6は一例を示しており、仕切り板201、溶液誘導管202、溶液供給管203、移送用配管204、弁205、撹拌用流体供給管501、撹拌ノズル502、弁503、噴射口601の形状、位置及び数量はこれに限定されない。
【実施例3】
【0053】
実施例3は、図7に示すように、溶液誘導管202の上部先端を細くした形状を有している。
【0054】
溶液誘導管202の上部先端を細くすることで、溶液誘導管出口の移送流F4の流速が増加し、上部領域Aの濃縮溶液と下部領域Bの溶液の密度差が大きい場合でも、濃縮溶液の水頭圧よりも高い圧力で溶液を上部領域Aに移送できる。このため、溶液誘導管202を通して上部領域Aから下部領域Bに濃縮溶液が移動する量を低減し、下部領域Bで固相105が析出する、または濃縮溶液と共に上部領域Aで析出した固相105が下部領域Bに移動する量を低減することができる。
【0055】
なお、溶液誘導管202の下端の直径din及び上端の直径dの比(絞り直径比:
/din)は、濃縮前後の溶液の密度及び供給流F1の条件に応じて決定する。
【0056】
なお、図7は一例を示しており、溶液誘導管202の形状、大きさ、位置及び数量はこれに限定されない。
【実施例4】
【0057】
実施例4は、図8に示すように、溶液誘導管202の内部に逆流防止機構801を有する。逆流防止機構801を設置することにより、上部領域Aから下部領域Bへの濃縮溶液の流入を防ぐことができ、蒸発缶101底部に堆積する固相105の量を低減することができる。なお、図8は一例として、逆止弁を示しているが、本機構はこれに限定されず、形状、位置についてもこれに限定されない。
【符号の説明】
【0058】
101:蒸発缶
102:外部ヒータ
103:溶液
104:自然対流
105:固相
201:仕切り板
202:溶液誘導管
203:溶液供給管
204:移送用配管
205:弁
206:次の工程設備
207:濃縮前の溶液
501:撹拌用流体供給管
502:撹拌用ノズル
503:弁
504:撹拌用流体
601:噴射口
801:逆流防止機構
F1:供給流
F2:移送流
F3:回収ルート
F4:撹拌流
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8