【実施例】
【0055】
実施例1:イカリソウの全多糖の調製
イカリソウの葉1kgを石油エーテルに添加し、室温にて24時間にわたって浸漬し、濾過した。減圧下で30〜35℃にて濾液から抽出物を回収した。石油エーテルで抽出したイカリソウの葉を自然揮発によって乾燥させ、15リットルの蒸留水を添加し、撹拌を続けながら室温(20〜30℃)で48時間にわたって浸漬し;続いて濾過し、濾液を10分間遠心分離し(回転速度は3000回転/分であった)、抽出されたイカリソウの葉に同じ条件下で2回目の抽出を実施した。その2回の抽出による水抽出物溶液を1つにまとめ、減圧下で50〜55℃にて濃縮して1,000mlにした。その後、95%エタノールを3回に分けて添加し(3000ml)、48〜72時間にわたってエタノール沈殿を実行した。エタノール沈殿による溶液を10分間遠心分離した(回転速度は3000回転/分であった)。沈殿部を1,000mlの水に添加し、撹拌して溶かし、遠心分離した。得られた沈殿物に同じ操作を2回実施した。可溶性の上清を1つにまとめ、透析バッグ(分子量カットオフが1,000超)の中に入れた。水道水を用いて透析を48時間実行し、次いで蒸留水を用いて透析を24時間実行した。透析物を減圧下で50〜55℃にて濃縮することにより約200mlにして小さな瓶の中に入れ、凍結乾燥させることで、茶色の粉末、すなわちイカリソウの全多糖を得た(収率は0.74%であった)。
【0056】
実施例2:イカリソウの全多糖の調製
イカリソウの葉1kgを室温の蒸留水15リットルに添加し、撹拌を続けながら室温(20〜30℃)で48時間にわたって浸漬し;次いで濾過した。濾液を10分間遠心分離した(回転速度は3000回転/分であった)。抽出されたイカリソウの葉に同じ条件下で2回目の抽出を実施した。その2回の抽出による水抽出物溶液を1つにまとめ、減圧下で50〜55℃にて濃縮して1,000mlにした。その後、95%エタノールを3回に分けて添加し(3000ml)、48〜72時間にわたってエタノール沈殿を実行した。エタノール沈殿による溶液を10分間遠心分離した(回転速度は3000回転/分であった)。沈殿部を1,000mlの水に添加し、撹拌して溶かし、遠心分離した。得られた沈殿物に同じ操作を2回実施した。可溶性の上清を1つにまとめ、透析バッグ(分子量カットオフが1,000超)の中に入れた。水道水を用いて透析を48時間実行し、次いで蒸留水を用いて透析を24時間実行した。透析物を減圧下で50〜55℃にて濃縮することにより約200mlにして小さな瓶の中に入れ、凍結乾燥させることで、茶色の粉末、すなわちイカリソウの全多糖を得た(収率は0.81%であった)。
【0057】
実施例3:イカリソウの全多糖の調製
イカリソウの葉1kgを55〜60℃の蒸留水15リットルに添加し、撹拌を続けながら48時間にわたって浸漬し;次いで濾過した。濾液を10分間遠心分離した(回転速度は3000回転/分であった)。抽出されたイカリソウの葉に同じ条件下で2回目の抽出を実施した。その2回の抽出による水抽出物溶液を1つにまとめ、減圧下で50〜55℃にて濃縮して1,000mlにした。その後、95%エタノールを3回に分けて添加し(3000ml)、48〜72時間にわたってエタノール沈殿を実行した。エタノール沈殿による溶液を10分間遠心分離した(回転速度は3000回転/分であった)。沈殿部を1,000mlの水に添加し、撹拌して溶かし、遠心分離した。得られた沈殿物に同じ操作を2回実施した。可溶性の上清を1つにまとめ、透析バッグ(分子量カットオフが1,000超)の中に入れた。水道水を用いて透析を48時間実行し、次いで蒸留水を用いて透析を24時間実行した。透析物を減圧下で50〜55℃にて濃縮することにより約200mlにして小さな瓶の中に入れ、凍結乾燥させることで、茶色の粉末、すなわちイカリソウの全多糖を得た(収率は1.9%であった)。
【0058】
実施例4:イカリソウの多糖画分の調製
室温での抽出によって得た(実施例1で調製した)1gのイカリソウの全多糖YYH-Gを50mlの蒸留水に添加して溶かした。得られた溶液をDEAE-セルロース・カラム(φ8cm×35cm)に装填し、水、0.25モル/lのNaHCO
3、0.5モル/lのNaHCO
3、0.1モル/lのNaOHの順番で連続的に溶離させた。流速は1ml/分であり、回収量は10ml/チューブであった。多糖画分YYH-G0(490nmの吸収、H
2O)、YYH-G1(490nmの吸収、0.25モル/lのNaHCO
3)、YYH-G2(490nmの吸収、0.5モル/lのNaHCO
3)、YYH-G3(490nmの吸収、0.1モル/lのNaOH)、非糖画分YYH-G4(280nmの吸収、0.25モル/lのNaHCO
3)、YYH-G5(280nmの吸収、0.5モル/lのNaHCO
3)、YYH-G6(280nmの吸収、0.1モル/lのNaOH)が順番に得られた。
【0059】
DEAE-セルロース・カラム・クロマトグラフィ上の全多糖YYH-Gのスペクトルを
図1と
図2に示す。
【0060】
実施例5:イカリソウの全多糖、酸性多糖画分、非糖画分の物理化学的特性
イカリソウの全多糖YYH-Gを実施例1〜3で調製し、酸性多糖画分YYH-G1と非糖画分YYH-G4を実施例4で調製した。
【0061】
1.イカリソウの全多糖と酸性多糖画分の(グルコースで計算した)糖の含量の決定
【0062】
1)実験方法
【0063】
糖の含量は、硫酸-フェノール法(参考文献:Dubois M.他、糖とその関連物質を決定するための比色法、Anal. Chem.、1956年;第28巻:350〜356ページ)によって決定した。
【0064】
2)実験結果
【0065】
全多糖YYH-Gは茶色の粉末であり、糖の含量は(グルコースで計算して)35.60%であった。
【0066】
酸性多糖画分YYH-G1は明るい黄色の粉末であり、糖の含量は(グルコースで計算して)58.93%であった。
【0067】
非糖画分YYH-G4は明るい黄色の粉末であった。
【0068】
2.イカリソウの全多糖と酸性多糖画分の(ガラクトース-ウロン酸で計算した)グルクロン酸の含量の決定
【0069】
1)実験方法
【0070】
グルクロン酸の含量は、m-ヒドロキシル-ビフェニル法(参考文献:Blumenkrantz N.他、ウロン酸の新たな定量法、Anal. Biochem.、1973年;第54巻:484〜489ページ)によって決定した。
【0071】
2)実験結果
【0072】
全多糖YYH-Gは、(ガラクトース-ウロン酸で計算して)グルクロン酸の含量が7.53%であった。
【0073】
酸性多糖画分YYH-G1は、(ガラクトース-ウロン酸で計算して)グルクロン酸の含量が8.40%であった。
【0074】
3.イカリソウの全多糖に含まれる酸性多糖画分と非糖画分の分子量の決定
【0075】
1)実験方法
【0076】
装置:HPLC、Water社;クロマトグラフィ用カラム:TSKsw 4000;移動相:0.1MのNa
2SO
4;流速:0.6ml/分;検出装置:差動式検出器。
【0077】
2)実験結果
【0078】
酸性多糖画分YYH-G1は分子量が6,000〜20,000であった。
【0079】
非糖画分YYH-G4は分子量が2,000〜10,000であった。
【0080】
4.イカリソウの全多糖に含まれる酸性多糖画分の単糖組成
【0081】
酸性多糖画分YYH-G1の単糖組成は、ラムノース、フコース、アラビノース、キシロース、マンノース、グルコース、ガラクトース、ガラクトース-ウロン酸であり、ラムノース、フコース、アラビノース、キシロース、マンノース、グルコース、ガラクトースのモル比は、1.00:0.33:4.44:0.38:0.64:0.87:5.26であった。
【0082】
薬材料は供給源とバッチが異なるため、その中に含まれる糖類の含量とグルクロン酸の含量は同じではありえず、本実施例の値の周辺で変動する。例えば全多糖YYH-Gは糖の含量が25〜45%であり、酸性多糖画分YYH-G1は糖の含量が45〜65%であり、全多糖YYH-Gはグルクロン酸の含量が5〜20%であり、酸性多糖画分YYH-G1はグルクロン酸の含量が5〜15%である。
【0083】
実施例6:イカリソウの全多糖の生物実験
(実施例1で調製した)室温で抽出したイカリソウの全多糖YYH-Gをアジュバントとして使用した。オボアルブミン(OVA)を抗原として使用した。そのアジュバントとOVAを1つにまとめ、マウスに筋肉内注射し、生じた抗体力価を測定した。具体的な実験方法は以下の通りであった。
【0084】
実験動物:Balb/C、生後6〜8週、1つの群に5匹、メス。
【0085】
薬の濃度:全多糖YYH-G:20mg/ml;OVA:1.2mg/ml;アルミニウム・アジュバント:2mg/ml。
【0086】
対照溶液:生理食塩水。
【0087】
投与量:OVA - 60μg/50μl/マウス;アルミニウム・アジュバント - 100μg/50μl/マウス;YYH-G - 1mg/50μl/マウス。
【0088】
グループ分け:(1)P群:PBS+OVA;(2)アルミニウム・アジュバント群:アルミニウム・アジュバント+OVA;(3)YYH-G群:YYH-G+OVA;(4)溶媒対照群:生理食塩水。注射する前に同じ体積を混合し、マウスの右後肢に100μlを筋肉内注射した。
【0089】
免疫化計画:免疫化のためマウスをグループ分けした3週間後に最初の免疫化注射を実施し、血液サンプルを尾の静脈から採取し、血清中の抗体力価を測定した。抗体力価は、最初の免疫化注射から3週間後に測定した。ブースタ免疫化を4週間後に実施した。2回目の免疫化注射の2週間後、血液サンプルを尾の静脈から採取し、血清中の抗体力価を測定した。力価に応じて3回目の免疫化注射を測定の2週間後に実施した。抗体力価をELISA法によって測定した。
【0090】
ELISA法のための試薬の調製:
【0091】
1.抗体被覆溶液:50ミリモル/lの炭酸塩緩衝溶液(pHは9.6)。1.696gの無水Na
2CO
3と2.856gのNaHCO
3を計量し、水を添加して溶かして体積を1,000mlにした。pHを調節して9.6にした。
【0092】
2.洗浄溶液(10×PBST、pH 7.4):80gのNaCl、2gのKCl、29gのNa
2HPO
4、2gのKH
2PO
4、10mlのトゥイーン20を計量した。2回蒸留した水を添加して体積を1,000mlにした。pHを7.4に調節した。この洗浄溶液を10倍に希釈して使用した。
【0093】
3.ブロッキング溶液:1%のBSA。それを50ミリモル/lのPBS(pH 7.4)に溶かした。
【0094】
4.基質溶液(TMB-H
2O
2):基質溶液AとBを同じ体積混合して使用し、30%H
2O
2を添加して最終濃度を0.5%にした。
【0095】
5.基質溶液A(TMB):200mgのTMBと100mlの無水エタノールを用意し、2回蒸留した水を添加して体積を1,000mlにした。
【0096】
6.基質溶液B(0.1モル/lのクエン酸 - 0.2モル/lのNa
2HPO
4緩衝溶液):24.8gのNa
2HPO
4と19.33gのクエン酸に2回蒸留した水を添加して体積を1,000mlにし、pHが5.0〜5.4になるように調節した。
【0097】
7.2NのH
2SO
4
【0098】
8.OVAを抗原被覆溶液に溶かして濃度を4μg/mlにした。96ウエルのプレート(Costa社)上で1つのウエルにつき100μlを用い、4℃にて一晩にわたって被覆を実行した。PBSTを用いて3回洗浄した。1%BSA-PBSを37℃で用いて1時間かけてブロッキングを実行した。PBSTを用いて3回洗浄した後、PBSTで希釈したマウスの血清サンプルをプレートに100μl/ウエルの割合で添加し、37℃で1時間インキュベートした。PBSTを用いて3回洗浄した。HRP-ヤギ抗マウスIgG(1:1000、PBST)を添加した後、37℃で1時間インキュベートした。PBSTを用いて6回洗浄した。100μlの基質溶液を添加して着色した後、2NのH
2SO
4を50μl添加して反応を停止させ、A
450を測定した。
【0099】
実験結果:
【0100】
イカリソウの全多糖YYH-G、生理食塩水、Al(OH)
3を別々に同じ体積でOVAと混合し、1匹につき100μlを用いてマウスを免疫化した。免疫化の3週間後、血液サンプルを尾の静脈から採取した。血清を採取し、1:200から1:12800まで同じ比率で徐々に希釈した。血清の抗体力価をELISA法によって決定した。実験結果から、どの試験群も最初の免疫化の後は抗体力価が比較的低いことがわかった(
図3)。2回目と3回目の免疫化の後、YYH-Gを注射した群のマウスは血清力価が有意に増大した(
図4と
図5参照)。これは、YYH-Gが抗体の産生促進に大きな効果を有することを示している。
【0101】
実施例7:イカリソウの多糖の画分の生物実験
(実施例1で調製した)室温で抽出したイカリソウの全多糖YYH-Gに対してDEAE-セルロース・カラム・クロマトグラフィを実施して酸性多糖画分YYH-G1と非糖画分YYH-G4を得た。YYH-G1とYYH-G4を別々にアジュバントとして使用した。オボアルブミン(OVA)を抗原として使用した。そのアジュバントと抗原を1つにまとめ、マウスに筋肉内注射し、生じた抗体力価を測定した。具体的な実験方法は実施例6と同じであった。
【0102】
薬の濃度:YYH-G1:10mg/ml;YYH-G4:10mg/ml;OVA:1.2 mg/ml;アルミニウム・アジュバント:2mg/ml;対照溶媒:生理食塩水。
【0103】
投与量:YYH - 60μg/50μl/マウス;アルミニウム・アジュバント - 100μg/50μl/マウス;YYH-G1:0.5mg/50μl/マウス;YYH-G4:0.5mg/50μl/マウス。
【0104】
グループ分け:(1)P群:PBS+OVA;(2)アルミニウム・アジュバント群:アルミニウム・アジュバント+OVA;(3)YYH-G1群:YYH-G1+OVA;(4)YYH-G4群:YYH-G4+OVA。
【0105】
注射する前に同体積を混合し、マウスの右後肢に100μlを筋肉内注射した。
【0106】
実験結果:
【0107】
イカリソウの全多糖YYH-GをDEAE-セルロース・カラム・クロマトグラフィによって分離し、酸性多糖画分YYH-G1と非糖画分YYH-G4を得た。免疫化計画に従ってアジュバントの活性を決定した。2回目の免疫化の後の測定結果から、YYH-G1群とYYH-G4群は大きな免疫アジュバント活性を持っていて、抗体の産生を促進できることがわかった(
図6と
図7)。
【0108】
実施例8:イカリソウの多糖の画分の生物実験
(実施例3で調製した)55〜60℃で抽出したイカリソウの全多糖YYH-GをDEAE-セルロース・カラム・クロマトグラフィによって分離し、酸性多糖画分YYH-G1と非糖画分YYH-G4を得た。抗原としてH1N1ウイルスのライセートを用いて両方の糖画分の活性を決定した。
【0109】
YYH-G1とYYH-G4を別々にアジュバントとして使用し、H1N1ウイルスのライセートを抗原として使用した。異なる用量のYYH-G1とYYH-G4を個別にインフルエンザAワクチンH1N1ウイルス・ライセートと組み合わせ、マウスに筋肉内注射し、生じた抗体力価を測定した。具体的な実験法は、実施例6と同じであった。
【0110】
混合後の薬の濃度:YYH-G1:10、5、2.5、1.25mg/ml;YYH-G4:5、2.5、1.25mg/ml;H1N1:30μg/ml;アルミニウム・アジュバント:1mg/ml;対照溶液:生理食塩水。
【0111】
投与量:H1N1:3μg/100μg/マウス;アルミニウム・アジュバント - 100μg/100μl/マウス;YYH-G1:1.0、0.5、0.25、0.125mg/100μl/マウス;YYH-G4:0.5、0.25、0.125、0mg/100μl/マウス。
【0112】
グループ分け:(1)P群:H1N1(YYH-G1またはYYH-G4:0mg/100μl/マウス);(2)アルミニウム・アジュバント群:アルミニウム・アジュバント+H1N1;(3)YYH-G1群:YYH-G1+H1N1;(4)YYH-G4群:YYH-G4+H1N1。
【0113】
注射する前に同体積を混合し、マウスの右後肢に100μlを筋肉内注射した。
【0114】
実験結果:
【0115】
イカリソウの全多糖YYH-GをDEAE-セルロース・カラム・クロマトグラフィによって分離し、酸性多糖画分YYH-G1と非糖画分YYH-G4を取得し、インフルエンザAワクチンH1N1ウイルス・ライセートと組み合わせた。その結果から、マウス1匹につき0.125mg〜1mgの用量のYYH-G1と0.125mg〜0.5mgの用量のYYH-G4を用いて最初の免疫化を行なったマウスの血清中のH1N1ウイルス抗体力価は比較的高いことがわかった。両方とも比較的大きなアジュバント活性を持ち、用量の異なる群の間で有意な差はなかった。これは、少ない用量でも効果があることを示している(
図8〜
図11)。
【0116】
実施例9:イカリソウの多糖の画分の生物実験
(実施例2で調製した)室温で抽出したイカリソウの全多糖YYH-GをDEAE-セルロース・カラム・クロマトグラフィによって分離し、酸性多糖画分YYH-G1と非糖画分YYH-G4を得た。抗原としてH1N1ウイルスのライセートを用いて両方の糖画分の活性を決定した。具体的な実験法は、実施例8と同じであった。その結果から、室温で抽出したYYH-G1とYYH-G4をH1N1抗原と組み合わせると、最初の免疫化の後に比較的大きな力価の抗体が産生することがかわった(
図12)。
【0117】
本発明の実施態様を詳細に説明したが、当業者であれば、開示した教示内容に従ってこうした詳細を改変または変更できることがわかるであろう。そのような改変と変更はすべて、本発明の保護範囲に含まれる。本発明の範囲は、添付の請求項とそのあらゆる等価物によって与えられる。