特許第6034293号(P6034293)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6034293イカリソウの多糖、その画分、及びワクチンアジュバントとしてのその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6034293
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】イカリソウの多糖、その画分、及びワクチンアジュバントとしてのその使用
(51)【国際特許分類】
   C08B 37/00 20060101AFI20161121BHJP
   A61K 36/296 20060101ALI20161121BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20161121BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20161121BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20161121BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   C08B37/00 Q
   A61K36/296
   A61K39/39
   A61K39/395 B
   A61P43/00 121
   A61P37/04
【請求項の数】14
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-536986(P2013-536986)
(86)(22)【出願日】2011年8月2日
(65)【公表番号】特表2013-541625(P2013-541625A)
(43)【公表日】2013年11月14日
(86)【国際出願番号】CN2011077915
(87)【国際公開番号】WO2012058957
(87)【国際公開日】20120510
【審査請求日】2014年6月3日
(31)【優先権主張番号】201010533445.8
(32)【優先日】2010年11月5日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】515280078
【氏名又は名称】ベイジン チョンアン アジュバント バイオテクノロジー カンパニー,リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100164563
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 貴英
(72)【発明者】
【氏名】ワン ユーシャ
(72)【発明者】
【氏名】シャン チュンチエ
(72)【発明者】
【氏名】チュー ティン
(72)【発明者】
【氏名】チャ ペイユアン
(72)【発明者】
【氏名】ウー チュンファ
(72)【発明者】
【氏名】チャオ シウナン
(72)【発明者】
【氏名】ティアオ ユーリン
(72)【発明者】
【氏名】ワン チェンユ
(72)【発明者】
【氏名】トゥアン タンタン
(72)【発明者】
【氏名】ワン ペイルイ
【審査官】 前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−157721(JP,A)
【文献】 特開昭58−092617(JP,A)
【文献】 特開昭57−181018(JP,A)
【文献】 特開昭57−181017(JP,A)
【文献】 特開昭57−009719(JP,A)
【文献】 特開昭56−156219(JP,A)
【文献】 特表2006−510678(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第1135354(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第1954857(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 37/00
A61K 36/00
A61K 39/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)イカリソウの葉を用意し、水を添加し、浸漬し、温度4〜60℃で水抽出を行なって水抽出物溶液を得て;
2)ステップ1)で得られた水抽出物溶液をエタノール沈殿に供し、沈殿部を採取し、水を添加して溶かし、遠心分離し、上清を採取し、透析を実行し;
3)透析によって得られた透析物を採取し、凍結乾燥させてイカリソウの多糖を得る、方法によって得られる、イカリソウの多糖を含む抽出物であって、糖類の含量がグルコースで計算して25〜45%であり、グルクロン酸の含量がガラクトース-ウロン酸で計算して5〜20%である、抽出物
【請求項2】
以下の(1)〜(13)、
(1)ステップ1)イカリソウの葉が、抽出されていないイカリソウの葉、または有機溶媒(石油、酢酸エチル、クロロホルム、エチルエーテル、n-ヘキサン、シクロ-ヘキサン、n-ブタノール、エタノール、メタノールなど)を用いた抽出後に得られる残りの葉である;
(2)ステップ1)では、水が蒸留水または脱イオン水である;
(3)ステップ1)では、水抽出の温度が20〜60℃である;
(4)ステップ1)では、抽出後に得られるイカリソウの葉に対して同じ条件下で抽出が1回以上実行され、水抽出物溶液が混合される;
(5)ステップ1)では、水の量が、イカリソウの量(l/kg)の5〜20倍である;
(6)ステップ1)では、抽出の間、撹拌される;
(7)ステップ1)では、得られた水抽出物溶液が減圧下で50℃〜55℃で濃縮され、濃縮された水抽出物溶液が得られる;
(8)ステップ2)では、エタノール沈殿の条件が、エタノール沈殿の後にエタノールの最終濃度が60〜80%になるというものであり;エタノール沈殿の時間は12時間超である;
(9)ステップ2)では、エタノール沈殿の後の遠心分離によって得られた沈殿物に対してさらに1回以上エタノール沈殿が実施され、上清が混合される;
(10)ステップ2)では、透析に用いる透析バッグが、分子量カットオフが1,000超である;
(11)ステップ2)では、水道水および/または蒸留水を用いて透析が行われる;
(12)ステップ2)では、透析が1回以上実施される;
(13)ステップ3)では、得られた透析物が減圧下で50℃〜55℃にて濃縮され、凍結乾燥される、
のうちの任意の1つ以上を特徴とする、請求項1に記載の抽出物
【請求項3】
ステップ1)では、水抽出の温度が20〜50℃であり、
ステップ2)では、エタノール沈殿の条件が、エタノール沈殿の後にエタノールの最終濃度が70〜75%になり、エタノール沈殿の時間が48〜72時間である、
ことを特徴とする、請求項2に記載の抽出物
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のイカリソウの多糖を含む抽出物を、0.25モル/lのNaHCO3を用いたDEAE-セルロース・カラム・クロマトグラフィに供し、
硫酸-フェノール着色によって490nmの波長に吸収を有する画分を取得する、
を含むイカリソウの酸性多糖画分を調製する方法。
【請求項5】
硫酸-フェノール着色によって490nmの波長に吸収を有し、
ラムノース、フコース、アラビノース、キシロース、マンノース、グルコース、ガラクトース、及びガラクトース-ウロン酸を含み
分子量が6,000〜20,000であり、
、イカリソウの酸性多糖画分。
【請求項6】
糖類の含量がグルコースで計算して45〜65%であり
グルクロン酸の含量がガラクトース-ウロン酸で計算して5〜15%である、請求項5に記載のイカリソウの酸性多糖画分。
【請求項7】
ラムノース、フコース、アラビノース、キシロース、マンノース、グルコース、ガラクトースが、ラムノース:フコース:アラビノース:キシロース:マンノース:グルコース:ガラクトース=1.00:0.33:4.44:0.38:0.64:0.87:5.26のモル比を有する、請求項5又は6に記載のイカリソウの酸性多糖画分。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のイカリソウの多糖を含む抽出物を、0.25モル/lのNaHCO3を用いたDEAE-セルロース・カラム・クロマトグラフィに供し、
280nmの波長に吸収を有する画分を取得する、
を含む、イカリソウの非糖画分を調製する方法。
【請求項9】
請求項8に記載の調製方法により調製されたイカリソウの非糖画分であって、分子量が2,000〜10,000である、非糖画分。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか1項に記載のイカリソウの多糖を含む抽出物、請求項5〜7のいずれか一項に記載のイカリソウの酸性多糖画分、及び請求項9に記載のイカリソウの非糖画分からなる群から選択される少なくとも1と、医薬として許容される賦形剤とを含む、医薬組成物。
【請求項11】
請求項1〜のいずれか1項に記載のイカリソウの多糖を含む抽出物、請求項5〜7のいずれか一項に記載のイカリソウの酸性多糖画分、及び請求項9に記載のイカリソウの非糖画分からなる群から選択される少なくとも1を含む、ワクチンアジュバント。
【請求項12】
請求項1〜のいずれか1項に記載のイカリソウの多糖を含む抽出物、請求項5〜7のいずれか一項に記載のイカリソウの酸性多糖画分、及び請求項9に記載のイカリソウの非糖画分からなる群から選択される少なくとも1を含む、ワクチン調製物またはワクチン組成物。
【請求項13】
ワクチンアジュバント、ワクチン調製物、ワクチン組成物、または抗体の製造における、請求項1〜のいずれか1項に記載のイカリソウの多糖を含む抽出物、請求項5〜7のいずれか一項に記載のイカリソウの酸性多糖画分、及び請求項9に記載のイカリソウの非糖画分からなる群から選択される少なくとも1の使用。
【請求項14】
請求項1〜のいずれか1項に記載のイカリソウの多糖を含む抽出物、請求項5〜7のいずれか一項に記載のイカリソウの酸性多糖画分、及び請求項9に記載のイカリソウの非糖画分からなる群から選択される少なくとも1の有効量を用いるステップを含む、抗体の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イカリソウの多糖抽出物、より詳細には中国医学の材料であるイカリソウの葉から抽出したイカリソウの全多糖と、その酸性糖画分および非糖画分に関する。本発明は、イカリソウの全多糖とその酸性糖画分および非糖画分を使用したワクチン用アジュバント、ワクチン組成物、抗体の製造にも関する。
【背景技術】
【0002】
イカリソウはメギ科の植物であり、腎陽の補強、風邪の追い出し、湿の除去、活力を得ることに一般に用いられている。現代の薬理学研究により、イカリソウは、咳を抑え、痰を排出させ、喘息を軽減し、細菌を抑制するなどの能力を有することが示されている。イカリソウは、フラボン、キシロゲン、アルカロイド、多糖などの主要な化学画分を含んでいる。近年になり、イカリソウの多糖が動物の免疫機能に及ぼす効果が以下の文献に報告されている。その具体的な内容は以下の通りである。
【0003】
XU Yingら(Journal of Shenyang Pharmaceutical University、2000年、第17巻(6):434〜437ページ)は、イカリソウを水で煎じ、アルコールで沈殿させ、洗浄し、透析することによってイカリソウの多糖が得られたことを報告している。シクロホスファミドによって免疫が低下した状態にしたマウスとがん(S180)を抱えるマウスの腹腔内にこの多糖を注射し、免疫機能に対するその効果を観察した。その結果から、この多糖の用量を50、25mg/kg×7日にすると、脾臓重量指数が増加し、低下した溶血素値とプラーク形成細胞の溶血能力が上昇し、低下した全白血球細胞の数が増大することがわかった。腫瘍を抱えるマウスは免疫力が低下していたが、この多糖を50mg/kg×8日の用量で皮下注射すると、腫瘍によって起こった胸腺指数の低下に抗することができ、血清溶血素、プラーク形成細胞の溶血能力、遅延型過敏を改善することができた。
【0004】
WANG Gangら(Journal of People’s Armed Police Medical College、2003年、第12巻(3):194〜196ページ)は、水で煎じることによる抽出、結晶化、48時間にわたる透析によってイカリソウの多糖が得られたことを報告している。腫瘍を抱えるマウスにこの多糖を12.5、25.0、50mg/kgの用量にして8日間連続で皮下注射した。その結果から、イカリソウの多糖は、マウスが腫瘍を抱えることによって起こる胸腺指数の低下、溶血素形成の低下、溶血プラーク値の低下、遅延型過敏の減少を有意に改善できることがわかった。
【0005】
JIN Luyangら(Journal of Gansu Animal Husbandry and Veterinary、2004年、第28巻(3):7〜10ページ)は、さまざまな濃度のイカリソウの多糖(EPS、多糖の含量は32.30%であった)が正常なヒヨコで免疫機能に及ぼす効果を観察した。この実験の結果から、EPSは、末梢血リンパ球の変換率とND-HI抗体力価を有意に上昇させることが可能であることがわかった。LUO Yanらは、同じイカリソウの多糖を用い、イカリソウの多糖(EPS)がヒヨコの免疫機能に及ぼす効果と、トリインフルエンザ-ニューカッスル病組み換えワクチンの免疫効果に及ぼす効果を調べた。その結果から、さまざまな濃度のEPSが、リンパ球の変換率、好中性顆粒球の食細菌力、AI-HI抗体力価、ND-HI抗体力価、赤血球-C3b連鎖率を有意に改善するとともに、赤血球-IC連鎖率を低下させることができ、中程度の用量がよりよい効果をもたらすことがわかった。
【0006】
ZHANG Shubinら(Journal of Gansu Animal Husbandry and Veterinary、2004年、第28巻(4):24〜25ページ)は、Ca(OH)2水抽出法を利用してイカリソウの多糖を調製し、フェノール-硫酸法によって糖類の濃度が73.68%であると測定した。この実験の結果から、この多糖がトリニューカッスル病用ワクチンの免疫機能を有意に向上させること、この多糖で免疫化したニワトリの血清中のHI抗体力価が対照のニワトリよりも有意に大きいこと、保持時間が延びることがわかった。それに加え、Tリンパ球ANAE陽性率とHI抗体力価は、対応する増減傾向を持っていた。
【0007】
KONG Xiangfengら(Journal of Animal Husbanndry and Veterinary、2004年、第35巻(4)、468〜472ページ)は、ニューカッスル病IVワクチンを用いてヒヨコを免疫化した。その際、免疫化の前と後にイカリソウの多糖(糖類の含量は66.38%であった)をそれぞれ高用量と低用量で注射した。抗体力価の上昇はさまざまな程度であり、投与時刻、用量、免疫化の回数と関係していた。
【0008】
SHANG Chuanchuanら(Journal of Advance in Animal Medeicine、2009年、第30巻(4)、23〜26ページ)は、50、100、150g/lという異なる濃度のイカリソウの多糖をニワトリニューカッスル病ウイルスとともに乳化してワクチンを調製し、そのワクチンでヒヨコを免疫化することにより、免疫アジュバントとしてのイカリソウの多糖がニワトリの免疫機能に及ぼす効果を調べた。その結果から、免疫アジュバントとしての100g/lと150g/lのイカリソウの多糖は抗体の産生を促進し、脾臓指数を増大させるが、ファブリキウス嚢指数には有意な効果がないことがわかった。
【0009】
SUN Yanら(中国特許、特許番号第1360894号)は、イカリソウから多糖を抽出し、その多糖が、部分Aと部分Bからなること、7種類の単糖(ラムノース、フコース、アラビノース、キシロース、マンノース、グルコース、ガラクトース)を含むこと、免疫促進に有意な効果があること、有望な生体モジュレータであることを開示した。イカリソウの多糖は、乳がん、小細胞肺がん、非ホジキンリンパ腫、非腺がん、胃がんなどのがん患者と、化学療法と放射線療法のための補助療法を必要としている患者に適していた。
【0010】
Yang LSら(Vaccine、2008年、第26巻、4451〜4455ページ)は、アストラガリンと、イカリソウの多糖(糖類の含量は71.23%であった)と、プロポリスのフラボンからなる複合組成がウサギの出血性疾患に及ぼすアジュバント効果を調べた。その結果から、この複合組成は、試験管内でTリンパ球の増殖を有意に促進し、T細胞によるIFN-γの分泌とIL-10のmRNA発現レベルを増大させることがわかった。このアジュバント効果はアルミニウム・アジュバントよりもわずかに優れており、ウサギの出血性疾患に対する保護効果を持っていた。
【0011】
Wang DWら(Vaccine、2006年、第24巻、7109〜7114ページ)は、イカリソウの多糖(糖類の含量は71.23%であった)をプロポリスのフラボンと混合し、Il-2との免疫相乗効果と、ニワトリ末梢リンパ球のIL-2とIFN-γのmRNA発現レベルに対する効果を調べた。その結果から、この混合物は抗体力価、IL-2とIFN-γのmRNA発現レベルを向上させるが、Il-2との有意な相乗効果はないことがわかった。
【0012】
Sun JLら(Vaccine、2006年、第24巻、2343〜2348ページ)は、イカリソウの多糖(糖類の含量は88.96%であった)とプロポリスのフラボンの混合物をアジュバントとして使用し、それが、ウサギの出血性疾患のためのワクチンの免疫活性化に及ぼす効果を調べると同時に、その混合物がアジュバント効果とニワトリニューカッスル病用ワクチンの免疫機能に及ぼす効果を調べた。その結果から、アジュバントとしてのイカリソウの多糖とプロポリスのフラボンは、抗体力価を有意に増大させ、リンパ球の増殖を促進することがわかったが、その効果は油アジュバントの効果に近かった。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者は、驚くべきことに、本発明で調製したイカリソウの多糖と、多糖画分および非糖画分が、ワクチン用アジュバントとして優れた機能を有することを見いだした。より詳細には、本発明は以下の特徴を有する。
【0014】
本発明の第1の特徴は、以下の方法によって得られるイカリソウの多糖(イカリソウの全多糖とも呼ぶ)に関する。当該方法は、
1)イカリソウの葉を用意し、水を添加し、浸漬し、水抽出を行なって水抽出物溶液を取得し(水抽出の時間は1〜72時間であり、この時間は抽出温度に依存する。室温では24〜48時間が好ましく、本発明の一実施態様では48時間である);
2)ステップ1)で得られたその水抽出物溶液に対してエタノール沈殿を行ない、沈殿部を採取し、水を添加して溶かし、遠心分離し、上清を採取し、透析を実行し;
3)透析によって得られた透析物を採取し、凍結乾燥させてイカリソウの多糖を得る、
方法である。
【0015】
本発明の第1の特徴によるイカリソウの多糖は、以下の(1)〜(13)の項目のうちの任意の1つ以上を特徴とする。
【0016】
(1)ステップ1)では、イカリソウの葉は、抽出されていないイカリソウの葉、または有機溶媒を用いた抽出の後に得られる残った葉であり、有機溶媒は、石油、酢酸エチル、クロロホルム、エチルエーテル、n-ヘキサン、シクロ-ヘキサン、n-ブタノール、エタノール、メタノールなどである。
【0017】
有機溶媒を用いた抽出によって葉緑素や油溶性の小分子画分といった不純物を除去できる。
【0018】
有機溶媒を用いた抽出に関しては、温度は通常は室温であり、抽出時間は4〜72時間、好ましくは12〜48時間であり、本発明の一実施態様では24時間である。
【0019】
(2)ステップ1)では、水は蒸留水または脱イオン水である。
【0020】
(3)ステップ1)では、水抽出の温度は4〜60℃、好ましくは20〜60℃、より好ましくは20〜50℃である。この温度範囲だと、糖類の特性が失われることはなく、糖類の収率は温度の上昇とともに増加すると考えられる。
【0021】
(4)ステップ1)では、抽出後に得られるイカリソウの葉を浸漬し、同じ条件下で抽出を1回以上実行し、水抽出物溶液を混合する。
【0022】
本発明の一実施態様では、抽出を2回実行する。
【0023】
(5)ステップ1)では、水の量は、イカリソウの量(l/kg)の5〜20倍である。
【0024】
(6)ステップ1)では、抽出をしている間は撹拌する。
【0025】
(7)ステップ1)では、得られた水抽出物溶液を減圧下で50℃〜55℃にて濃縮し、濃縮された水抽出物溶液を得る。
【0026】
(8)ステップ2)では、エタノール沈殿の条件は、エタノール沈殿の後にエタノールの最終濃度が60〜80%(例えば70〜75%)になるというものである。エタノール沈殿の時間は、12時間超(例えば48〜72時間)が好ましい。
【0027】
(9)ステップ2)では、エタノール沈殿の後に遠心分離によって得られた沈殿物に対してさらにもう1回以上エタノール沈殿を実施し、上清を混合する。
【0028】
(10)ステップ2)では、透析に用いる透析バッグは、分子量カットオフが1,000超である。
【0029】
(11)ステップ2)では、水道水および/または蒸留水を用いて透析を行なう。
【0030】
(12)ステップ2)では、透析時間は24〜72時間であり、透析は1回以上実施する。
【0031】
(13)ステップ3)では、得られた透析物を減圧下で50℃〜55℃にて濃縮した後、凍結乾燥させる。
【0032】
本発明の一実施態様では、イカリソウの多糖は、以下の方法によって得られる。この方法では、
イカリソウの葉を用意し、蒸留水を添加し、撹拌を続けながら浸漬し;濾過し、濾液を遠心分離し;抽出されたイカリソウの葉を用いて同じ条件下で2回目の抽出を実行し;その2回の抽出による水抽出物溶液を1つにまとめ、減圧下で濃縮し、次いで3〜4倍の体積のエタノールを添加してエタノール沈殿を実行し;そのエタノール沈殿による溶液を遠心分離し、沈殿部に水を添加して撹拌しながら溶かし、遠心分離し、沈殿物に対して同じ操作を2回実行し;可溶性の上清を1つにまとめ、分子量カットオフが1,000超の透析バッグの中に入れ、水で透析を実行し;得られた透析物を減圧下で濃縮し、小さな瓶の中に入れ、凍結乾燥を実行してイカリソウの多糖を得る。
【0033】
別の一実施態様では、本発明のイカリソウの多糖は、以下の方法によって得られる。この方法では、
イカリソウの葉を用意し、石油エーテルを添加して浸漬し;濾過し、減圧下で濾液から抽出物を回収し;抽出されたイカリソウの葉を自然揮発によって乾燥させ、蒸留水を添加し、撹拌を続けながら浸漬し;次いで濾過し、濾液を遠心分離し;抽出されたイカリソウの葉を用いて同じ条件下で2回目の抽出を実行し;その2回の抽出による水抽出物溶液を1つにまとめ、減圧下で濃縮し、次いで3〜4倍の体積のエタノールを添加してエタノール沈殿を実行し;そのエタノール沈殿による溶液を遠心分離し、沈殿部に水を添加して撹拌しながら溶かし、遠心分離し、沈殿物に対して同じ操作を2回実行し;可溶性の上清を1つにまとめ、分子量カットオフが1,000超の透析バッグの中に入れ、水で透析を実行し;得られた透析物を減圧下で濃縮し、小さな瓶の中に入れ、凍結乾燥を実行してイカリソウの多糖を得る。
【0034】
本発明の第2の特徴は、イカリソウの多糖、すなわち本発明の第1の特徴のいずれかによるイカリソウの多糖に関するものであり、この多糖は、
(1)糖類の含量が(グルコースで計算して)25〜45%であり、グルクロン酸の含量が(ガラクトース-ウロン酸で計算して)5〜20%であり;そして/または、
(2)図1図2に示した特徴を有する、
ことを特徴とする。
【0035】
本発明の一実施態様では、糖類の含量は(グルコースで計算して)35.60%であり、グルクロン酸の含量は(ガラクトース-ウロン酸で計算して)7.53%である。
【0036】
本発明の第3の特徴は、イカリソウの酸性多糖画分に関する。この酸性多糖画分は、本発明の第1または第2の特徴によるイカリソウの多糖から0.25モル/lのNaHCO3を用いてDEAE-セルロース・カラム・クロマトグラフィによって得られた溶離部であり、硫酸-フェノール着色により波長490nmに吸収を有する。
【0037】
本発明の第4の特徴は、イカリソウの酸性多糖画分、すなわち本発明の第3の特徴によるイカリソウの酸性多糖画分に関するものであり、この酸性多糖画分は、
ラムノース、フコース、アラビノース、キシロース、マンノース、グルコース、ガラクトース、ガラクトース-ウロン酸を含んでいて;分子量が6,000〜20,000である、
ことを特徴とする。
【0038】
本発明の第4の特徴によるイカリソウの酸性多糖画分は、
(1)糖類の含量が(グルコースで計算して)45〜65%であり、グルクロン酸の含量が(ガラクトース-ウロン酸で計算して)5〜15%であり;そして/または、
(2)単糖組成が、ラムノース、フコース、アラビノース、キシロース、マンノース、グルコース、ガラクトース、ガラクトース-ウロン酸であり、ラムノース:フコース:アラビノース:キシロース:マンノース:グルコース:ガラクトースのモル比が1.00:0.33:4.44:0.38:0.64:0.87:5.26である、
ことを特徴とする。
【0039】
本発明の一実施態様では、糖類の含量は(グルコースで計算して)58.93%であり、グルクロン酸の含量は(ガラクトース-ウロン酸で計算して)8.40%である。
【0040】
本発明の一実施態様では、(グルコースで計算した)糖類の含量は、硫酸-フェノール法によって決定され;(ガラクトース-ウロン酸で計算した)グルクロン酸の含量は、m-ヒドロキシル-ビフェニルによって決定される。
【0041】
本発明の第5の特徴は、イカリソウの非糖画分に関する。この非糖画分は、本発明の第1または第2の特徴によるイカリソウの多糖から0.25モル/lのNaHCO3を用いてDEAE-セルロース・カラム・クロマトグラフィによって得られた溶離部であり、波長280nmに吸収を有する。
【0042】
本発明の第6の特徴は、イカリソウの非糖画分、すなわち本発明の第5の特徴によるイカリソウの非糖画分に関するものであり、この非糖画分は、イカリソウの多糖の非糖画分であって2,000〜10,000の分子量を有する。
【0043】
本発明の第7の特徴は、本発明の第1〜第6の特徴のいずれか1つのイカリソウの多糖および/またはイカリソウの酸性多糖画分並びに/或いはイカリソウの非糖画分と、医薬として許容される賦形剤とを含む医薬組成物に関する。
【0044】
本発明の第8の特徴は、本発明の第1〜第6の特徴のいずれか1つのイカリソウの多糖および/またはイカリソウの酸性多糖画分および/またはイカリソウの非糖画分を含むワクチン用アジュバントに関する。
【0045】
本発明の第9の特徴は、本発明の第1〜第6の特徴のいずれか1つのイカリソウの多糖および/またはイカリソウの酸性多糖画分および/またはイカリソウの非糖画分を含むワクチン調製物またはワクチン組成物に関する。
【0046】
本発明の第10の特徴は、本発明の第1〜第6の特徴のいずれか1つのイカリソウの多糖および/またはイカリソウの酸性多糖画分および/またはイカリソウの非糖画分を使用してワクチン用アジュバント、ワクチン調製物、ワクチン組成物、抗体のいずれかを製造することに関する。
【0047】
本発明はさらに、抗体を調製する方法に関するものであり、この方法は、本発明の第1〜第6の特徴のいずれか1つのイカリソウの多糖および/またはイカリソウの酸性多糖画分および/またはイカリソウの非糖画分を有効量使用するステップを含んでいる。
【0048】
本発明はさらに、免疫化またはワクチン化の方法に関係し、この方法は、動物に有効量のワクチン調製物またはワクチン組成物を投与する操作を含んでいる。
【0049】
本発明では、イカリソウの多糖画分は、イカリソウの全多糖から分離することによって得られるさまざまな画分を意味する。本発明の一実施態様では、それは酸性糖画分(例えばYYH-G1)である。本発明の別の一実施態様では、それは非糖画分(例えばYYH-G4)である。
【0050】
本発明では、ワクチンに、弱毒ワクチン、不活化ワクチン、タンパク質ワクチン、DNAワクチン、ポリペプチド・ワクチンが含まれる。
【0051】
本発明では、有効量は、動物で免疫効果を持つことのできるワクチン調製物またはワクチン組成物の用量を意味する。
【発明の効果】
【0052】
本発明では、イカリソウの葉から水抽出法によってイカリソウの全多糖が得られる。そこから多糖画分と非糖画分がさらに分離されて同定され、それら画分の組成がさらに決定される。実験により、得られたイカリソウの全多糖、その酸性多糖画分、その非糖画分はすべて、免疫応答を増大させ、優れたアジュバント効果を持ち、ワクチンと抗体を調製する新たな方法を提供することが確認される。ところでアジュバント効果を有する多糖画分と非糖画分はイカリソウの全多糖から分離され、イカリソウの全多糖のアジュバント機構を研究するための基礎となるため、よりよいアジュバント効果を持つ多糖調製物と非糖調製物を見いだすことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1図1は、DEAE-セルロース・カラム・クロマトグラフィによる全多糖YYH-Gの溶離曲線を表す。フェノール-硫酸法でアッセイを実施すると、糖画分の吸収ピークが波長490nmに検出される。
図2図2は、DEAE-セルロース・カラム・クロマトグラフィによる全多糖YYH-Gの溶離曲線を表す。非糖画分の吸収ピークが波長280nmに検出される。
図3図3は、多糖YYH-Gを組み合わせたOVA抗原で1回免疫化したマウスの血清抗体力価を示す。平均値±標準偏差、n=5。
図4図4は、多糖YYH-Gを組み合わせたOVA抗原で2回免疫化したマウスの血清抗体力価を示す。平均値±標準偏差、n=5。
図5図5は、多糖YYH-Gを組み合わせたOVA抗原で3回免疫化したマウスの血清抗体力価を示す。平均値±標準偏差、n=5。
図6図6は、多糖YYH-G1または非糖YYH-G4を組み合わせたOVA抗原で1回免疫化したマウスの血清抗体力価を示す。平均値±標準偏差、n=5。
図7図7は、多糖YYH-G1または非糖YYH-G4を組み合わせたOVA抗原で2回免疫化したマウスの血清抗体力価を示す。平均値±標準偏差、n=5。
図8図8は、多糖YYH-G1を組み合わせたH1N1ウイルス抗原で1回免疫化したマウスの血清抗体力価を示す。平均値±標準偏差、n=5。
図9図9は、非糖YYH-G4を組み合わせたH1N1ウイルス抗原で1回免疫化したマウスの血清抗体力価を示す。平均値±標準偏差、n=5。
図10図10は、多糖YYH-G1を組み合わせたH1N1ウイルス抗原で2回免疫化したマウスの血清抗体力価を示す。平均値±標準偏差、n=5。
図11図11は、非糖YYH-G4を組み合わせたH1N1ウイルス抗原で2回免疫化したマウスの血清抗体力価を示す。平均値±標準偏差、n=5。
図12図12は、多糖YYH-G1または非糖YYH-G4を組み合わせたH1N1ウイルス抗原で1回免疫化したマウスの血清抗体力価を示す。平均値±標準偏差、n=5。
【発明を実施するための形態】
【0054】
本発明の実施態様を以下の実施例に関して説明するが、当業者であれば、以下の実施例は単に本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を制限すると見なしてはならないことを理解できよう。実施例に具体的に記載されていないことは、通常の条件に従って、または製造者が勧めるようにして実行される。製造者の記載がない試薬または装置はすべて、市場で入手できる一般的な製品である。
【実施例】
【0055】
実施例1:イカリソウの全多糖の調製
イカリソウの葉1kgを石油エーテルに添加し、室温にて24時間にわたって浸漬し、濾過した。減圧下で30〜35℃にて濾液から抽出物を回収した。石油エーテルで抽出したイカリソウの葉を自然揮発によって乾燥させ、15リットルの蒸留水を添加し、撹拌を続けながら室温(20〜30℃)で48時間にわたって浸漬し;続いて濾過し、濾液を10分間遠心分離し(回転速度は3000回転/分であった)、抽出されたイカリソウの葉に同じ条件下で2回目の抽出を実施した。その2回の抽出による水抽出物溶液を1つにまとめ、減圧下で50〜55℃にて濃縮して1,000mlにした。その後、95%エタノールを3回に分けて添加し(3000ml)、48〜72時間にわたってエタノール沈殿を実行した。エタノール沈殿による溶液を10分間遠心分離した(回転速度は3000回転/分であった)。沈殿部を1,000mlの水に添加し、撹拌して溶かし、遠心分離した。得られた沈殿物に同じ操作を2回実施した。可溶性の上清を1つにまとめ、透析バッグ(分子量カットオフが1,000超)の中に入れた。水道水を用いて透析を48時間実行し、次いで蒸留水を用いて透析を24時間実行した。透析物を減圧下で50〜55℃にて濃縮することにより約200mlにして小さな瓶の中に入れ、凍結乾燥させることで、茶色の粉末、すなわちイカリソウの全多糖を得た(収率は0.74%であった)。
【0056】
実施例2:イカリソウの全多糖の調製
イカリソウの葉1kgを室温の蒸留水15リットルに添加し、撹拌を続けながら室温(20〜30℃)で48時間にわたって浸漬し;次いで濾過した。濾液を10分間遠心分離した(回転速度は3000回転/分であった)。抽出されたイカリソウの葉に同じ条件下で2回目の抽出を実施した。その2回の抽出による水抽出物溶液を1つにまとめ、減圧下で50〜55℃にて濃縮して1,000mlにした。その後、95%エタノールを3回に分けて添加し(3000ml)、48〜72時間にわたってエタノール沈殿を実行した。エタノール沈殿による溶液を10分間遠心分離した(回転速度は3000回転/分であった)。沈殿部を1,000mlの水に添加し、撹拌して溶かし、遠心分離した。得られた沈殿物に同じ操作を2回実施した。可溶性の上清を1つにまとめ、透析バッグ(分子量カットオフが1,000超)の中に入れた。水道水を用いて透析を48時間実行し、次いで蒸留水を用いて透析を24時間実行した。透析物を減圧下で50〜55℃にて濃縮することにより約200mlにして小さな瓶の中に入れ、凍結乾燥させることで、茶色の粉末、すなわちイカリソウの全多糖を得た(収率は0.81%であった)。
【0057】
実施例3:イカリソウの全多糖の調製
イカリソウの葉1kgを55〜60℃の蒸留水15リットルに添加し、撹拌を続けながら48時間にわたって浸漬し;次いで濾過した。濾液を10分間遠心分離した(回転速度は3000回転/分であった)。抽出されたイカリソウの葉に同じ条件下で2回目の抽出を実施した。その2回の抽出による水抽出物溶液を1つにまとめ、減圧下で50〜55℃にて濃縮して1,000mlにした。その後、95%エタノールを3回に分けて添加し(3000ml)、48〜72時間にわたってエタノール沈殿を実行した。エタノール沈殿による溶液を10分間遠心分離した(回転速度は3000回転/分であった)。沈殿部を1,000mlの水に添加し、撹拌して溶かし、遠心分離した。得られた沈殿物に同じ操作を2回実施した。可溶性の上清を1つにまとめ、透析バッグ(分子量カットオフが1,000超)の中に入れた。水道水を用いて透析を48時間実行し、次いで蒸留水を用いて透析を24時間実行した。透析物を減圧下で50〜55℃にて濃縮することにより約200mlにして小さな瓶の中に入れ、凍結乾燥させることで、茶色の粉末、すなわちイカリソウの全多糖を得た(収率は1.9%であった)。
【0058】
実施例4:イカリソウの多糖画分の調製
室温での抽出によって得た(実施例1で調製した)1gのイカリソウの全多糖YYH-Gを50mlの蒸留水に添加して溶かした。得られた溶液をDEAE-セルロース・カラム(φ8cm×35cm)に装填し、水、0.25モル/lのNaHCO3、0.5モル/lのNaHCO3、0.1モル/lのNaOHの順番で連続的に溶離させた。流速は1ml/分であり、回収量は10ml/チューブであった。多糖画分YYH-G0(490nmの吸収、H2O)、YYH-G1(490nmの吸収、0.25モル/lのNaHCO3)、YYH-G2(490nmの吸収、0.5モル/lのNaHCO3)、YYH-G3(490nmの吸収、0.1モル/lのNaOH)、非糖画分YYH-G4(280nmの吸収、0.25モル/lのNaHCO3)、YYH-G5(280nmの吸収、0.5モル/lのNaHCO3)、YYH-G6(280nmの吸収、0.1モル/lのNaOH)が順番に得られた。
【0059】
DEAE-セルロース・カラム・クロマトグラフィ上の全多糖YYH-Gのスペクトルを図1図2に示す。
【0060】
実施例5:イカリソウの全多糖、酸性多糖画分、非糖画分の物理化学的特性
イカリソウの全多糖YYH-Gを実施例1〜3で調製し、酸性多糖画分YYH-G1と非糖画分YYH-G4を実施例4で調製した。
【0061】
1.イカリソウの全多糖と酸性多糖画分の(グルコースで計算した)糖の含量の決定
【0062】
1)実験方法
【0063】
糖の含量は、硫酸-フェノール法(参考文献:Dubois M.他、糖とその関連物質を決定するための比色法、Anal. Chem.、1956年;第28巻:350〜356ページ)によって決定した。
【0064】
2)実験結果
【0065】
全多糖YYH-Gは茶色の粉末であり、糖の含量は(グルコースで計算して)35.60%であった。
【0066】
酸性多糖画分YYH-G1は明るい黄色の粉末であり、糖の含量は(グルコースで計算して)58.93%であった。
【0067】
非糖画分YYH-G4は明るい黄色の粉末であった。
【0068】
2.イカリソウの全多糖と酸性多糖画分の(ガラクトース-ウロン酸で計算した)グルクロン酸の含量の決定
【0069】
1)実験方法
【0070】
グルクロン酸の含量は、m-ヒドロキシル-ビフェニル法(参考文献:Blumenkrantz N.他、ウロン酸の新たな定量法、Anal. Biochem.、1973年;第54巻:484〜489ページ)によって決定した。
【0071】
2)実験結果
【0072】
全多糖YYH-Gは、(ガラクトース-ウロン酸で計算して)グルクロン酸の含量が7.53%であった。
【0073】
酸性多糖画分YYH-G1は、(ガラクトース-ウロン酸で計算して)グルクロン酸の含量が8.40%であった。
【0074】
3.イカリソウの全多糖に含まれる酸性多糖画分と非糖画分の分子量の決定
【0075】
1)実験方法
【0076】
装置:HPLC、Water社;クロマトグラフィ用カラム:TSKsw 4000;移動相:0.1MのNa2SO4;流速:0.6ml/分;検出装置:差動式検出器。
【0077】
2)実験結果
【0078】
酸性多糖画分YYH-G1は分子量が6,000〜20,000であった。
【0079】
非糖画分YYH-G4は分子量が2,000〜10,000であった。
【0080】
4.イカリソウの全多糖に含まれる酸性多糖画分の単糖組成
【0081】
酸性多糖画分YYH-G1の単糖組成は、ラムノース、フコース、アラビノース、キシロース、マンノース、グルコース、ガラクトース、ガラクトース-ウロン酸であり、ラムノース、フコース、アラビノース、キシロース、マンノース、グルコース、ガラクトースのモル比は、1.00:0.33:4.44:0.38:0.64:0.87:5.26であった。
【0082】
薬材料は供給源とバッチが異なるため、その中に含まれる糖類の含量とグルクロン酸の含量は同じではありえず、本実施例の値の周辺で変動する。例えば全多糖YYH-Gは糖の含量が25〜45%であり、酸性多糖画分YYH-G1は糖の含量が45〜65%であり、全多糖YYH-Gはグルクロン酸の含量が5〜20%であり、酸性多糖画分YYH-G1はグルクロン酸の含量が5〜15%である。
【0083】
実施例6:イカリソウの全多糖の生物実験
(実施例1で調製した)室温で抽出したイカリソウの全多糖YYH-Gをアジュバントとして使用した。オボアルブミン(OVA)を抗原として使用した。そのアジュバントとOVAを1つにまとめ、マウスに筋肉内注射し、生じた抗体力価を測定した。具体的な実験方法は以下の通りであった。
【0084】
実験動物:Balb/C、生後6〜8週、1つの群に5匹、メス。
【0085】
薬の濃度:全多糖YYH-G:20mg/ml;OVA:1.2mg/ml;アルミニウム・アジュバント:2mg/ml。
【0086】
対照溶液:生理食塩水。
【0087】
投与量:OVA - 60μg/50μl/マウス;アルミニウム・アジュバント - 100μg/50μl/マウス;YYH-G - 1mg/50μl/マウス。
【0088】
グループ分け:(1)P群:PBS+OVA;(2)アルミニウム・アジュバント群:アルミニウム・アジュバント+OVA;(3)YYH-G群:YYH-G+OVA;(4)溶媒対照群:生理食塩水。注射する前に同じ体積を混合し、マウスの右後肢に100μlを筋肉内注射した。
【0089】
免疫化計画:免疫化のためマウスをグループ分けした3週間後に最初の免疫化注射を実施し、血液サンプルを尾の静脈から採取し、血清中の抗体力価を測定した。抗体力価は、最初の免疫化注射から3週間後に測定した。ブースタ免疫化を4週間後に実施した。2回目の免疫化注射の2週間後、血液サンプルを尾の静脈から採取し、血清中の抗体力価を測定した。力価に応じて3回目の免疫化注射を測定の2週間後に実施した。抗体力価をELISA法によって測定した。
【0090】
ELISA法のための試薬の調製:
【0091】
1.抗体被覆溶液:50ミリモル/lの炭酸塩緩衝溶液(pHは9.6)。1.696gの無水Na2CO3と2.856gのNaHCO3を計量し、水を添加して溶かして体積を1,000mlにした。pHを調節して9.6にした。
【0092】
2.洗浄溶液(10×PBST、pH 7.4):80gのNaCl、2gのKCl、29gのNa2HPO4、2gのKH2PO4、10mlのトゥイーン20を計量した。2回蒸留した水を添加して体積を1,000mlにした。pHを7.4に調節した。この洗浄溶液を10倍に希釈して使用した。
【0093】
3.ブロッキング溶液:1%のBSA。それを50ミリモル/lのPBS(pH 7.4)に溶かした。
【0094】
4.基質溶液(TMB-H2O2):基質溶液AとBを同じ体積混合して使用し、30%H2O2を添加して最終濃度を0.5%にした。
【0095】
5.基質溶液A(TMB):200mgのTMBと100mlの無水エタノールを用意し、2回蒸留した水を添加して体積を1,000mlにした。
【0096】
6.基質溶液B(0.1モル/lのクエン酸 - 0.2モル/lのNa2HPO4緩衝溶液):24.8gのNa2HPO4と19.33gのクエン酸に2回蒸留した水を添加して体積を1,000mlにし、pHが5.0〜5.4になるように調節した。
【0097】
7.2NのH2SO4
【0098】
8.OVAを抗原被覆溶液に溶かして濃度を4μg/mlにした。96ウエルのプレート(Costa社)上で1つのウエルにつき100μlを用い、4℃にて一晩にわたって被覆を実行した。PBSTを用いて3回洗浄した。1%BSA-PBSを37℃で用いて1時間かけてブロッキングを実行した。PBSTを用いて3回洗浄した後、PBSTで希釈したマウスの血清サンプルをプレートに100μl/ウエルの割合で添加し、37℃で1時間インキュベートした。PBSTを用いて3回洗浄した。HRP-ヤギ抗マウスIgG(1:1000、PBST)を添加した後、37℃で1時間インキュベートした。PBSTを用いて6回洗浄した。100μlの基質溶液を添加して着色した後、2NのH2SO4を50μl添加して反応を停止させ、A450を測定した。
【0099】
実験結果:
【0100】
イカリソウの全多糖YYH-G、生理食塩水、Al(OH)3を別々に同じ体積でOVAと混合し、1匹につき100μlを用いてマウスを免疫化した。免疫化の3週間後、血液サンプルを尾の静脈から採取した。血清を採取し、1:200から1:12800まで同じ比率で徐々に希釈した。血清の抗体力価をELISA法によって決定した。実験結果から、どの試験群も最初の免疫化の後は抗体力価が比較的低いことがわかった(図3)。2回目と3回目の免疫化の後、YYH-Gを注射した群のマウスは血清力価が有意に増大した(図4図5参照)。これは、YYH-Gが抗体の産生促進に大きな効果を有することを示している。
【0101】
実施例7:イカリソウの多糖の画分の生物実験
(実施例1で調製した)室温で抽出したイカリソウの全多糖YYH-Gに対してDEAE-セルロース・カラム・クロマトグラフィを実施して酸性多糖画分YYH-G1と非糖画分YYH-G4を得た。YYH-G1とYYH-G4を別々にアジュバントとして使用した。オボアルブミン(OVA)を抗原として使用した。そのアジュバントと抗原を1つにまとめ、マウスに筋肉内注射し、生じた抗体力価を測定した。具体的な実験方法は実施例6と同じであった。
【0102】
薬の濃度:YYH-G1:10mg/ml;YYH-G4:10mg/ml;OVA:1.2 mg/ml;アルミニウム・アジュバント:2mg/ml;対照溶媒:生理食塩水。
【0103】
投与量:YYH - 60μg/50μl/マウス;アルミニウム・アジュバント - 100μg/50μl/マウス;YYH-G1:0.5mg/50μl/マウス;YYH-G4:0.5mg/50μl/マウス。
【0104】
グループ分け:(1)P群:PBS+OVA;(2)アルミニウム・アジュバント群:アルミニウム・アジュバント+OVA;(3)YYH-G1群:YYH-G1+OVA;(4)YYH-G4群:YYH-G4+OVA。
【0105】
注射する前に同体積を混合し、マウスの右後肢に100μlを筋肉内注射した。
【0106】
実験結果:
【0107】
イカリソウの全多糖YYH-GをDEAE-セルロース・カラム・クロマトグラフィによって分離し、酸性多糖画分YYH-G1と非糖画分YYH-G4を得た。免疫化計画に従ってアジュバントの活性を決定した。2回目の免疫化の後の測定結果から、YYH-G1群とYYH-G4群は大きな免疫アジュバント活性を持っていて、抗体の産生を促進できることがわかった(図6図7)。
【0108】
実施例8:イカリソウの多糖の画分の生物実験
(実施例3で調製した)55〜60℃で抽出したイカリソウの全多糖YYH-GをDEAE-セルロース・カラム・クロマトグラフィによって分離し、酸性多糖画分YYH-G1と非糖画分YYH-G4を得た。抗原としてH1N1ウイルスのライセートを用いて両方の糖画分の活性を決定した。
【0109】
YYH-G1とYYH-G4を別々にアジュバントとして使用し、H1N1ウイルスのライセートを抗原として使用した。異なる用量のYYH-G1とYYH-G4を個別にインフルエンザAワクチンH1N1ウイルス・ライセートと組み合わせ、マウスに筋肉内注射し、生じた抗体力価を測定した。具体的な実験法は、実施例6と同じであった。
【0110】
混合後の薬の濃度:YYH-G1:10、5、2.5、1.25mg/ml;YYH-G4:5、2.5、1.25mg/ml;H1N1:30μg/ml;アルミニウム・アジュバント:1mg/ml;対照溶液:生理食塩水。
【0111】
投与量:H1N1:3μg/100μg/マウス;アルミニウム・アジュバント - 100μg/100μl/マウス;YYH-G1:1.0、0.5、0.25、0.125mg/100μl/マウス;YYH-G4:0.5、0.25、0.125、0mg/100μl/マウス。
【0112】
グループ分け:(1)P群:H1N1(YYH-G1またはYYH-G4:0mg/100μl/マウス);(2)アルミニウム・アジュバント群:アルミニウム・アジュバント+H1N1;(3)YYH-G1群:YYH-G1+H1N1;(4)YYH-G4群:YYH-G4+H1N1。
【0113】
注射する前に同体積を混合し、マウスの右後肢に100μlを筋肉内注射した。
【0114】
実験結果:
【0115】
イカリソウの全多糖YYH-GをDEAE-セルロース・カラム・クロマトグラフィによって分離し、酸性多糖画分YYH-G1と非糖画分YYH-G4を取得し、インフルエンザAワクチンH1N1ウイルス・ライセートと組み合わせた。その結果から、マウス1匹につき0.125mg〜1mgの用量のYYH-G1と0.125mg〜0.5mgの用量のYYH-G4を用いて最初の免疫化を行なったマウスの血清中のH1N1ウイルス抗体力価は比較的高いことがわかった。両方とも比較的大きなアジュバント活性を持ち、用量の異なる群の間で有意な差はなかった。これは、少ない用量でも効果があることを示している(図8図11)。
【0116】
実施例9:イカリソウの多糖の画分の生物実験
(実施例2で調製した)室温で抽出したイカリソウの全多糖YYH-GをDEAE-セルロース・カラム・クロマトグラフィによって分離し、酸性多糖画分YYH-G1と非糖画分YYH-G4を得た。抗原としてH1N1ウイルスのライセートを用いて両方の糖画分の活性を決定した。具体的な実験法は、実施例8と同じであった。その結果から、室温で抽出したYYH-G1とYYH-G4をH1N1抗原と組み合わせると、最初の免疫化の後に比較的大きな力価の抗体が産生することがかわった(図12)。
【0117】
本発明の実施態様を詳細に説明したが、当業者であれば、開示した教示内容に従ってこうした詳細を改変または変更できることがわかるであろう。そのような改変と変更はすべて、本発明の保護範囲に含まれる。本発明の範囲は、添付の請求項とそのあらゆる等価物によって与えられる。
図1
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図9
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図12