【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の局面によれば、本発明はこの目的で、コーティング層を基板に直接塗布するためのコーティングシステムであって、硬化ポリエステルおよ
び硬化ポリアクリレートの材料に基づくコーティング層を備え、コーティング層の第1の側のコーティング層の材料に支持織物が組込まれる、コーティングシステムを含む。
【0013】
硬化ポリアクリレートおよ
びポリエステルは、完全に反応した材料、すなわち十分に重合した材料を意味するものと理解される。したがって、この材料に基づくコーティング層は、ばらばらにすることができない1つの完全体を形成するという重要な特徴を有する。硬化は、考えられるいかなる態様でも、例えば空気乾燥によって、IR放射によって、またはUV光下で行なうことができる。代替的に、温度が上昇すると融解して層を形成し、次いで硬化してコーティング層を形成するポリマーが、層として粉末の形態で(「粉末ラッカー」)塗布されてもよい。このように、硬化したコーティング層は、安定した一体構造を形成し、実際に、その後さらなる乾燥またはさらなる処理が不要な、所期の基板に塗布するだけでよい、すぐに使用できるコーティング層である。
【0014】
このように、本発明に係るコーティングシステムでは、コーティング層を基板に直接塗布することができ、さらなる溶剤がコーティング層から放出されることはなく、コーティング層の乾燥および硬化のさらなる仕上げ処理は不要である。
【0015】
驚くべきことに、硬化ポリエステルおよ
びポリアクリレートはコーティング層として十分な多孔性を有しており、コーティング層の塗布中に基板とコーティング層との間に封入され得る空気および水分のための通路を提供することがさらに分かった。この多孔性は、(例えば硬化可能なポリマーに基づく)接着剤層が基板とコーティング層との間に塗布され、当該接着剤層が空気中で依然として乾いた状態でなければならない場合に、特に有利である。基板へのコーティング層の塗布のさらなる詳細については、コーティングシステムの使用に関する本発明の第2の局面の文脈の中で説明する。
【0016】
なお、比較の目的で、例えば硬化ポリウレタンからなるコーティング層は必要な程度の多孔性を有しておらず、そのため、十分に多孔質の特性を有するコーティング層を得るためには貫通孔または穿孔の形態のさらなる変形構造が必要である。
【0017】
本発明に係るコーティング層は、さもなければ、多孔性を増大させるためにさらなる貫通孔または穿孔を備えていてもよい。
【0018】
本発明に係るコーティング層は支持織物も備えており、当該支持織物は、コーティング層の第1の側のコーティング層の材料に組込まれた状態で存在している。支持織物は、織られたタイプのものであってもよく、または不織タイプのものであってもよく、ポリエステル繊維などの一般的な繊維が用いられる。
【0019】
支持織物は、材料に組込まれた状態で存在している。すなわち、支持織物の繊維と繊維との間の開放空間は、コーティング層の硬化材料で充填される。このように、コーティング層および支持織物は1つの完全体を形成する。支持織物がコーティング層の第1の側に存在しているので、この側は、支持織物が大きく寄与する表面上に所定の特徴を有する。
【0020】
支持織物は、一方ではコーティング層の完全性を向上させ(それによって望ましくない裂けを防ぎ)、他方では基板への接着塗布を向上させることが分かった。この後者の場合の要因は、コーティング層の第1の側が支持織物の構造によって特徴付けられ、表面上では、繊維と繊維との間の開放空間の一部がコーティング層の材料で完全には充填されないようになっているということである。それによって、コーティング層の第1の側では、基板とコーティング層との間に塗布された接着剤層がコーティング層の第1の側に適切に入り込むことができる。
【0021】
また、支持織物により、でこぼこの表面特徴を有する基板にコーティング層を簡単に塗布することができる。表面がさまざまな木片から組み立てられる木製基板の場合、表面構造は木片ごとに変化することになる。基板の表面全体にわたってコーティング層の優れた接着を確保するためには、一般に特別な事前処理が必要である。実際、基板の表面構造はここでは水平にしなければならない。しかし、支持織物がコーティング層の第1の側に存在する場合には、この特別な事前処理はもはや必要ないことが分かった。
【0022】
支持織物は、一旦基板に塗布されると、一般にコーティング層に対して水平化効果がある。
【0023】
最後に、本発明に係るコーティングシステムは、コーティング層がすでに硬化しているためにコーティングシステムがもはや反応しないので、その運搬および保管に関して特別な規定を設定する必要がないという利点を有する。これは、有害物質として指定されているためにその保管および運搬に対して法的規定が課されている多くの従来の塗料とは対照的である。
【0024】
本発明に係るコーティングシステムのコーティング層は、好ましくは、電子放射によって硬化される硬化ポリエステルおよ
び硬化ポリアクリレートを含む。
【0025】
電子放射によるポリマーの硬化は、当該分野では電子ビーム硬化(electron beam curing:EBC)とも呼ばれる。このように硬化されるポリマーの利点は非常に多い。
【0026】
まず第一に、得られたコーティング層の硬度が、空気中での乾燥により基板上で硬化する、従来の態様で塗布された塗料層よりも実質的に高い。EBCにより硬化されるコーティング層によって達成可能な高光沢品質についても同様のことが言える。
【0027】
特に耐引っかき性、耐変色性および耐候性に関しても、得られたコーティング層の耐久性は高められる。このさらなる利点は、コーティング層も、それが塗布される基板の耐久性を実質的に高めるということである。このように、耐久性が比較的低い(例えば所定のタイプの木材からなる)基板の品質を向上させることができる。
【0028】
さらなる実用上の利点は、得られたコーティング層を容易に摩耗させることができ、上塗りすることができることである。
【0029】
EBC硬化コーティング層は、最適に架橋されて稠密なネットワーク構造を形成するポリマーからなる。コーティング層に組込まれた支持織物の有利な効果がさらに関連しているのはまさにこのようなコーティング層であり、EBC硬化コーティング層は、硬いことに加えてわずかに脆くもあり、このことは層の完全性に悪影響を及ぼし得る。硬度も、接着剤層がコーティング層に接着する能力に悪影響を及ぼし得る。支持織物は、これら2つの欠点が生じないことを保証する。
【0030】
本発明に係るコーティングシステムでは、より好ましくは、支持織物にバインダを含浸させる。
【0031】
有利に、支持織物に、アクリル樹脂の分散体などのバインダを含浸させる。これにより、一方では支持織物とコーティング層の材料との一体化が向上し、他方では基板へのコーティング層の第1の側の接着塗布が向上する。
【0032】
本発明に係るコーティングシステムのコーティング層は、好ましくは、コーティング層の第2の側に取外し可能な保護層を備える。
【0033】
したがって、コーティング層のこの側は、直接触れることなく処理することができる。第2の側は、目に見える側、すなわち、基板に塗布された後に目に見えるコーティング層の側である。保護層は、例えばポリエチレンまたはポリプロピレンからなる好適な(透明な)膜から製造でき、コーティング層から取外し可能である。さらに、コーティング層と向かい合う膜の側の表面粗さは、全体が基板に塗布されて保護層が最終的にそこから取外された時のコーティング層の光沢品質に影響を及ぼす。保護層の粗さが非常に低い場合には、高光沢ラッカー層の外観を有するコーティング層が得られる。粗さが増すにつれて、まず半艶消しの光沢が得られ、続いて艶消しの光沢が得られる。
【0034】
特にコーティング層が電子ビーム硬化によって硬化される場合に本発明によって達成可能な高光沢ラッカー層の程度は、湿潤状態で基板に塗布される高光沢品質の従来の塗料によって達成されるものよりも高い。
【0035】
また、取外し可能な保護層は、コーティングシステムでコーティングされた製品をその運搬中に保護し、使用時に保護層を取外すだけでよいという点で第2の利点を有する。
【0036】
保護層は、有利に、コーティング層と向かい合う側にレリーフを備える。したがって、以下で説明するように、塗布すべきコーティング層は、対向レリーフを備えていてもよい。このようなレリーフは、例えば塗布されたコーティング層が滑り防止特性を有していなければならない場合に望ましいであろう。
【0037】
本発明に係るコーティングシステムでは、コーティング層の第1の側に必要に応じて接着剤層が塗布される。この接着剤層は、コーティングシステムを基板に接着させる働きをする。したがって、本発明の第2の局面の文脈の中でさらに以下で説明するように、別個のステップにおいて接着剤層を塗布する必要なく、コーティングシステムを基板に接着塗布することができる。
【0038】
本発明に係るコーティングシステムの第1の側は、好ましくは、コーティング層から取外すことができるキャリア層を備える。
【0039】
このようなキャリア層のために、硬化したコーティング層の第1の側を直接触れることなく処理することができ、それによってその品質が確保される。これは、基板への接着に有利である。キャリア層は、例えばポリエチレンまたはポリプロピレンからなる(透明な)膜であってもよい。
【0040】
キャリア層および保護層の代替的な材料は、対応する利点を有する生物学的に分解可能なでんぷんベースのポリマーである。
【0041】
特に好ましくは、本発明に係るコーティングシステムは、コーティング層の以下のさらなる特徴を備える。
【0042】
コーティング層は染料または顔料を含む。これは、特定の色、特定の色パターンまたは所定の画像をコーティング層に与える選択肢を提供する。
【0043】
染料または顔料がない場合、ラッカー層は好ましくは透明である。
コーティング層は不織繊維または織り繊維を含む。このようなコーティング層は強度が高く、これはキャリア層または保護層を取外した時、および、基板に塗布された後のコーティング層の強度に有利である。特に、コーティング層の完全性は、ポリアミド、例えば「ダイニーマ(Dyneema)」繊維などの超強繊維をその中に組入れることによってさらに向上させることができる。必要に応じて、これらの超強繊維は支持織物の一部を形成する。
【0044】
コーティング層は弾性増大添加剤を含む。コーティング層を基板に塗布する際、好適な弾性および可撓性を有することが有利である。これは、さらに、キャリア層または保護層を取外した時にばらばらにならない安定したすぐに使用できるコーティング層に寄与する。このように、弾性増大添加剤は、好適な可撓性を設定する選択肢を提供する。
【0045】
さらに、殺虫剤または香料などの所定の機能性物質が恐らくコーティング層に組入れられる。また、対応する機能をコーティング層に付け加えるLEDまたは所定のチップなどの電子部品をコーティング層に組入れることもできる。
【0046】
コーティング層の表面側にスペーサが設けられる。この利点は、コーティング層を基板に塗布した時に、コーティング層が基板の表面全体にわたって同じ距離のところに位置することである。これにより、得られる美的結果が向上する。スペーサは、好ましくは、コーティング層とともに完全体を形成する。これを達成可能な1つの方法は、コーティング層の側にレリーフパターンを設けることによるものである。
【0047】
コーティング層は、好ましくは0.0010〜0.400mmの厚み、より好ましくは0.010〜0.100mmの厚みを有する。このような厚みは、所望の用途に非常に適していることが分かる。
【0048】
本発明に係るコーティングシステムは帯状片の形態で設けられることがさらに推奨される。このような実施例により、コーティング層を帯状片状に塗布することができ、これは壁およびドアなどの大きな表面のコーティングに実用上の利点を提供する。
【0049】
本発明に係るコーティングシステムは、より好ましくは、巻きの形態で設けられる。このような形態により、大面積のコーティング層のサイズを保管および運搬のために大幅に小さくすることができる。さらに、特にキャリア層を同時に取外さなければならない場合には、巻きの形態が基板への塗布に特に適している。
【0050】
第2の局面によれば、本発明は、本発明に係るコーティングシステムの使用であって、コーティング層を基板に直接塗布するステップを備える、使用に関する。
【0051】
このようにして、本発明の所期の目的、すなわち、単一の動作で基板に塗布できる、すぐに使用できるコーティング層が、時間のかかるさらなる処理なしに達成される。
【0052】
このような塗布方法は、手動式の塗布にも機械式の塗布にも適している。したがって、本発明により、例えば木材加工業界が、コーティング層を乾燥させるために生じるタイムロスなしに、コーティング層を備えた木製製品を機械的に提供することが可能になる。
【0053】
本発明に係る使用は、好ましくは、コーティング層を基板に塗布する前に、接着剤層を基板に塗布するステップも備える。接着剤層は、有利に、その硬化後に、コーティング層を基板に接着させる中間層を形成するプライマまたは下塗りなどの完全には硬化していないバインダを含む。このようにして、基板へのコーティング層の優れた耐久性のある接着が得られる。例えば、任意にポリウレタンで強化されたアクリレートの分散体がプライマとして用いられる。
【0054】
上記のように接着剤層を基板に塗布する代替的な方法として、コーティング層を基板に塗布する前にコーティングシステムの支持織物に接着剤層を塗布することができる。
【0055】
なお、接着剤層の硬化は一般に15分〜数時間かかる。したがって、塗布直後、例えば塗布が所望のごとく行なわれなかった時には、コーティングシステムの位置は依然として変更可能である。
【0056】
コーティング層を基板に塗布する際、以下の点も接着剤層のタイプの選択に関係がある:
ペースト状の接着剤層を用いる場合、比較的平滑な表面を有する支持織物が好ましくはコーティング層に塗布される。粘性のある液体接着剤層を用いる場合、わずかに容積の大きな「けば立った」支持織物が好ましくはコーティング層に塗布される。
【0057】
第3の局面によれば、本発明は、コーティングシステムの製造方法であって、
支持織物を設けるステップと、
ポリエステルおよび/またはポリアクリレートからなるプレポリマーを支持織物の側に塗布するステップと、
プレポリマーの上に保護層を配置するステップと、
プレポリマーを硬化させるステップとを備える、方法に関する。
【0058】
このようにして、上記の利点を提供するコーティングシステムが本発明に従って製造される。プレポリマーという用語は、まだ硬化していないか、または不十分に硬化した重合可能な混合物を意味するものと理解される。
【0059】
なお、明確にするために、プレポリマーの硬化後に、支持織物が組込まれたポリマー層が得られる。
【0060】
本発明に係る第1の好ましい方法に従って、上記のステップは、示された順序で連続的に行なわれる。保護層を配置するステップは、任意に省略可能である。
【0061】
上記の方法における追加的なステップとして、後に支持織物が配置されるキャリア層が上記のステップより前に設けられる。
【0062】
上記の方法におけるさらなる追加的なステップとして、接着剤層がプレポリマーの硬化後にコーティング層の第1の側に塗布される。
【0063】
本発明に係るコーティングシステムの製造方法は、さらに、
保護層を設けるステップと、
ポリエステルおよび/またはポリアクリレートからなるプレポリマーの層を保護層に塗布するステップと、
プレポリマーの層の上に支持織物を配置するステップであって、当該支持織物はプレポリマーの層に組入れられ、
プレポリマーを硬化させるステップと、
を連続的に実行することによって変形可能である。
【0064】
上記の方法における追加的なステップとして、後に支持織物が配置されるキャリア層が上記のステップより前に設けられる。
【0065】
上記の方法におけるさらなる追加的なステップとして、接着剤層がプレポリマーの硬化後にコーティング層の第1の側に塗布される。
【0066】
本発明に係る方法では、好ましくは、プレポリマーを塗布するステップが実行される前に、支持織物にバインダを含浸させる。好ましくは、含浸はここではバインダ、例えばアクリル樹脂の分散体により行なわれる。
【0067】
本発明に係る方法では、保護層は、より好ましくは、プレポリマーに塗布される側にレリーフを備える。これにより、製造プロセス中に保護層のレリーフがプレポリマーに押し込まれて、この層の対向レリーフにより跡を残すことが達成される。これは、プレポリマーが定義によればまだ硬化していないために変形可能な物質であるので、可能である。
【0068】
本発明に係る方法では、ポリエステルおよび/またはポリアクリレートは、特に好ましくは「電子ビーム硬化」(EBC)、すなわち電子放射を用いた硬化によって硬化される。このような材料は本発明の利点を達成し、硬化方法のエネルギコストは比較的低いことが分かった。
【0069】
第4の局面では、本発明は、本発明の第3の局面に係る方法によって得られるコーティングシステムに関する。
【0070】
ここで、添付の図面を参照して、以下で本発明について説明する。