【実施例】
【0033】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。実施例中のn-ブテン転化率、ブタジエン選択率、ブタジエン収率は次の通り定義する。
n-ブテン転化率=(反応したn-ブテンのモル数)/(供給したn-ブテンのモル数)×100
ブタジエン選択率=(生成したブタジエンのモル数)/(反応したn-ブテンのモル数)×100
ブタジエン収率=(n−ブテン転化率/100)×(ブタジエン選択率/100)×100
【0034】
実施例1
<触媒>
蒸留水3000重量部を加熱攪拌しながらモリブデン酸アンモニウム423.8重量部と硝酸カリウム1.64重量部を溶解して水溶液(A1)を得た。別に、硝酸コバルト302.7重量部、硝酸ニッケル162.9重量部、硝酸第二鉄145.4重量部を蒸留水1000重量部に溶解して水溶液(B1)を、また濃硝酸42重量部を加えて酸性にした蒸留水200重量部に硝酸ビスマス164.9重量部を溶解して水溶液(C1)をそれぞれ調製した。上記水溶液(A1)に(B1)、(C1)を順次、激しく攪拌しながら混合し、生成した懸濁液をスプレードライヤーを用いて乾燥し440℃で6時間焼成し予備焼成粉末(D1)を得た。このときの触媒活性成分の酸素を除いた組成比は原子比でMo=12、Bi=1.7、Ni=2.8、Fe=1.8、Co=5.2、K=0.15であった。
その後、予備焼成粉末100重量部に結晶セルロース5重量部を混合した粉末を不活性担体(アルミナ、シリカを主成分とする直径4.5mmの球状物質)に、担持量が、50重量%を占める割合になるように、成型に使用する担体重量および予備焼成粉末重量を調整した。20重量%グリセリン水溶液をバインダーとして使用し、直径5.2mmの球状に転動造粒器を用いて担持し、被覆成型触媒(E1)を得た。
担持成型には直径23cmの円柱状の成型機を使用し、底板の回転数を260rpmとした。このときの相対遠心加速度は8.7Gであった。
被覆成型触媒(E1)を、焼成温度530℃で4時間、空気雰囲気下で焼成することで触媒(F1)を得た。
【0035】
<触媒分析>
上記触媒(F1)の全細孔容積は0.24ml/gであり、マクロ孔の細孔容積の占める割合は99%であった。
<脱水素反応試験>
内径22.2mmのステンレス製反応管に、触媒層温度を測定するための熱電対を同管軸に設置して、反応管の原料ガス入口側から直径5.2mmのシリカ―アルミナ球を30cm、上記触媒(F1)を8cm、順次充填し、反応浴温度を320℃にした。ここにn-ブテン:空気:水=1:10:5のモル比を有する混合ガスを空間速度1440h
−1となるように供給量を設定し反応管内へ導入して、脱水素反応を行った。なお、n-ブテンとして1−ブテンが99%の純度のガスを用いた。反応開始後2時間経過後の出口ガスをガスクロマトグラフィーにて分析した。n-ブテン転化率、ブタジエン選択率、ブタジエン収率を表1に示す。また、反応開始直後、2時間経過後のΔTも表1に示した。
【0036】
表1より、反応開始後2時間経過後においても、n-ブテン転化率は99.3%、ブタジエン収率は89.0%と高転化率および高収率となることがわかった。反応開始直後の△Tは42.8℃、2時間経過後は39.2℃となっており、大幅な温度変化は見られず、反応開始初期から安定していることがわかった。
以上の結果からn-ブテンからブタジエンを高転化率かつ高収率で長時間得ることができ、かつ、反応開始初期から安定的な運転が可能であることがわかる。
【0037】
【表1】
【0038】
比較例1
<触媒>
予備焼成粉末(D1)100重量部に結晶セルロース10重量部、ユケン工業株式会社製YB−155(押出し成型用成型助剤)10重量部を混合した混合粉末を得た。この混合粉末に日本アエロジル社製アエロジルOX50を100重量部混合し、リング状になるように押出し成型し、押出し成型触媒(E2)を得た。得られた成型触媒(E2)の外径/内径/長さ(mm)は5.4/3.6/5.0であった。
押出し成型触媒(E2)を、実施例1と同様の条件下で焼成することで触媒(F2)を得た。
【0039】
<触媒分析>
上記触媒(F2)の全細孔容積は0.42ml/gであり、マクロ孔の細孔容積の占める割合は78%であった。
【0040】
<脱水素反応試験>
触媒(F2)を用いた以外は実施例1と同様にして脱水素反応試験を行った。反応開始後2時間経過後の出口ガスをガスクロマトグラフィーにて分析した。実施例1と同様にして反応結果を表2に示す。
【0041】
表2より、反応開始初期に△Tが97.4℃となり、実施例1と比べて50℃以上も高くなっており、特に大きな発熱が起こっていることがわかる。反応開始後2時間においても、実施例1と比べて10℃以上も△Tが高くなっている。したがって、触媒がより高温にさらされているため、触媒寿命においては不利になる。反応開始直後と2時間経過後の△Tがそれぞれ、97.4℃、55.8℃となっており、反応直後から大きく温度変化をしていることから、プラントにおける運転が非常に難しいと推測される。
また、2時間経過後のブタジエン収率は実施例1と比べて2.5%低いことがわかった。これは、逐次反応が進行し、COやCO
2が増え、ブタジエン選択率が下がったためである。触媒の活性成分量は、比較例1と実施例1では同等であるため、本発明においては、細孔容積におけるマクロ孔とメソ孔の割合の差が逐次反応の多少に大きく影響を及ぼしていると推測される。逐次反応が増えると、反応による反応熱が大きくなり、その結果、△Tが大きくなる。
したがって、本発明のマクロ孔の細孔容積の占める割合が大きい触媒を用いることで、△Tを抑え、かつ、ブタジエン収率を高くすることができた。
【0042】
【表2】
【0043】
比較例2
<触媒>
予備焼成粉末(D1)100重量部に結晶セルロース5重量部、ユケン工業株式会社製YB−155(押出し成型用成型助剤)5重量部を混合した混合粉末を得た。この混合粉末に日本アエロジル社製アエロジル200を20重量部混合し、リング状になるように押出し成型し、押出し成型触媒(E3)を得た。得られた成型触媒(E3)の外径/内径/長さ(mm)は5.4/3.6/5.0であった。
押出し成型触媒(E3)を、実施例1と同様の条件下で焼成することで触媒(F3)を得た。
【0044】
<触媒分析>
上記触媒(F3)の全細孔容積は0.47ml/gであり、マクロ孔の細孔容積の占める割合は79%であった。
【0045】
<脱水素反応試験>
単位体積当たりの活性成分量が実施例1や比較例1と同等になるように、触媒(F3)と不活性物質とを混ぜ合わせ、実施例1および比較例1と同容量充填した。不活性物質としては直径5.2mmのシリカ−アルミナ球を用いた。その他は実施例1と同様にして脱水素反応試験を行った。反応開始後2時間経過後の出口ガスをガスクロマトグラフィーにて分析した。反応結果を表3に示す。
【0046】
表3の結果から、触媒を不活性物質で希釈することで、反応時の発熱を抑えることが出来るものの、実施例1と同等の活性成分量にも関わらず、n-ブテン転化率が反応開始後2時間経過後で5.2%下がった。したがって、単純に触媒を不活性物質で希釈することでは、本発明の触媒と同等の効果を示すことが出来ない。
【0047】
【表3】
【0048】
実施例2
<触媒>
蒸留水3000重量部を加熱攪拌しながらモリブデン酸アンモニウム750重量部と硝酸セシウム13.8重量部を溶解して水溶液(A4)を得た。別に、硝酸コバルト695.5重量部、硝酸ニッケル103重量部、硝酸第二鉄286重量部を蒸留水1000重量部に溶解して水溶液(B4)を、また濃硝酸73重量部を加えて酸性にした蒸留水300重量部に硝酸ビスマス291.8重量部を溶解して水溶液(C4)をそれぞれ調製した。上記水溶液(A4)に(B4)、(C4)を順次、激しく攪拌しながら混合し、生成した懸濁液をスプレードライヤーを用いて乾燥し460℃で5時間焼成し予備焼成粉末(D4)を得た。このときの触媒活性成分の酸素を除いた組成比は原子比でMo=12、Bi=1.7、Ni=1.0、Fe=2.0、Co=6.8、Cs=0.20であった。
その後予備焼成粉末100重量部に結晶セルロース5重量部を混合した粉末を不活性担体(アルミナ、シリカを主成分とする直径4.0mmの球状物質)に、担持量が、50重量%を占める割合になるように、成型に使用する担体重量および予備焼成粉末重量を調整した。20重量%グリセリン水溶液をバインダーとして使用し、直径4.4mmの球状に担持し、被覆成型触媒(E4)を得た。
担持成型には直径23cmの円柱状の成型機を使用し、底板の回転数を260rpmとした。このときの相対遠心加速度は8.7Gであった。
被覆成型触媒(E4)を、520℃で4時間焼成して触媒(F4)を得た。
【0049】
<触媒分析>
上記触媒(F4)の全細孔容積は0.25ml/gであり、マクロ孔の細孔容積の占める割合は100%であった。
<脱水素反応試験>
触媒(F4)を用いて、反応温度330℃とした以外は実施例1と同様にして脱水素反応試験を行った。反応開始後2時間経過後の出口ガスをガスクロマトグラフィーにて分析した。実施例1と同様にして反応結果を表4に示す。
【0050】
表4の結果から、触媒(F1)とは組成の異なる触媒(F4)においても、反応開始後2時間経過後においては、n−ブテン転化率は98.9%、ブタジエン収率は91.0%と高転化率および高収率となることがわかった。
また、反応初期の△Tが26.7℃であり、発熱が少ないことがわかる。反応開始2時間経過後の△Tは27.6℃となっている。
したがって実施例1と同様、大幅な温度変化は見られず、反応開始初期から安定していることがわかった。
【0051】
【表4】
【0052】
以上の結果より、マクロ孔の細孔容積が占める割合が80%以上の触媒は、発熱挙動を抑えられ、安定的に使用でき、かつ、小さい△Tでも、高いn−ブテン転化率で使用することができ、高いブタジエン収率を維持することのできる触媒であるため、工業的に非常に有用であることがわかる。
【0053】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。
なお、本出願は、2012年4月23日付で出願された日本国特許出願(特願2012−098259)に基づいており、その全体が引用により援用される。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。