特許第6034372号(P6034372)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6034372ブタジエンの製造用触媒、その触媒の製造方法およびその触媒を用いたブタジエンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6034372
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】ブタジエンの製造用触媒、その触媒の製造方法およびその触媒を用いたブタジエンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/887 20060101AFI20161121BHJP
   B01J 37/00 20060101ALI20161121BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20161121BHJP
   C07C 11/167 20060101ALI20161121BHJP
   C07C 5/48 20060101ALI20161121BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20161121BHJP
【FI】
   B01J23/887 Z
   B01J37/00 E
   B01J35/10 301G
   C07C11/167
   C07C5/48
   !C07B61/00 300
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-512522(P2014-512522)
(86)(22)【出願日】2013年4月19日
(86)【国際出願番号】JP2013061623
(87)【国際公開番号】WO2013161702
(87)【国際公開日】20131031
【審査請求日】2015年12月21日
(31)【優先権主張番号】特願2012-98259(P2012-98259)
(32)【優先日】2012年4月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平岡 良太
(72)【発明者】
【氏名】日野 由美
(72)【発明者】
【氏名】奥村 公人
(72)【発明者】
【氏名】元村 大樹
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−246384(JP,A)
【文献】 特公昭43−027742(JP,B1)
【文献】 特開昭56−163756(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
WPI
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデンを必須成分とする複合金属酸化物の成型触媒であり、該成型触媒のマクロ孔の細孔容積が全体の細孔容積の80%以上を占める、n-ブテンを分子状酸素存在下、気相接触酸化脱水素反応により、ブタジエンを製造するのに用いる成型触媒。
【請求項2】
該成型触媒のマクロ孔の細孔容積が全体の細孔容積の90%以上を占める、請求項1に記載の成型触媒。
【請求項3】
全細孔容積が0.1ml/g以上0.4ml/g以下である請求項1または2に記載の成型触媒。
【請求項4】
前記複合金属酸化物が下記式(1)で表される組成を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の成型触媒。
MoBiNiCoFe 式(1)
(式(1)中、Mo、Bi、Ni、Co、Fe及びOはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄及び酸素を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、セリウム、テルル、ホウ素、ゲルマニウム、ジルコニウムおよびチタンからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を表し、Yはカリウム、ルビジウム、カルシウム、バリウム、タリウムおよびセシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を表し、a、b、c、d、f、g、h及びxは、それぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Yおよび酸素の原子数を表し、a=12、b=0.1〜7、c+d=0.5〜20、f=0.5〜8、g=0〜2、h=0.005〜2、x=各元素の酸化状態によって決まる値である。)
【請求項5】
前記複合金属酸化物を不活性球状担体に担持した球状の被覆成型触媒である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の成型触媒。
【請求項6】
前記複合金属酸化物の粉末を転動造粒法により担持する請求項5に記載の被覆成型触媒の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載の成型触媒を用い、n-ブテンを分子状酸素存在下、気相接触酸化脱水素し、ブタジエンを製造する方法。
【請求項8】
反応開始1時間以内の△Tと2時間における△Tの変化が20℃以下である、請求項に記載のブタジエンを製造する方法。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1項に記載の成型触媒を用いて、反応開始1時間以内の△Tと2時間における△Tの変化が10℃以下である請求項またはに記載のブタジエンを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、n-ブテンからブタジエンを、高転化率、高収率の下、反応初期から安定して製造する触媒、その触媒の製造方法およびその触媒を用いたブタジエンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブタジエンは合成ゴムの原料として使用される重要な化学品であり、合成ゴムは自動車のタイヤなどに大量に使用されている。ブタジエンのほとんどすべてが石油の分解工程で製造される。イソブテン、n-ブテン、ブタジエンなどからなるC4留分からブタジエンを抽出・分離して製造されている。近年、世界的な自動車需要の高まりと環境意識向上により、ブタジエンを製造原料とする省エネルギータイプの自動車タイヤの需要が急増している。また、ナフサクラッカーの稼働率の低下、天然ガス由来の石油化学原料の利用により、ブタジエンの需要量がC4留分からの生産を大きく上回っている状態が続いており、新たなブタジエン製造方法の開発が望まれている。
【0003】
ブタジエンを抽出して残るn-ブテンから、ブタジエンを製造する方法は公知であり、例えば特許文献1や特許文献2には、モリブデン、ビスマス、鉄およびコバルトを主成分とする複合金属酸化物触媒の存在下に酸化脱水素する方法が記載されているが、触媒活性、ブタジエン選択性、反応運転の安定性、触媒寿命および触媒製造などの点から、従来の触媒では工業化には不十分であり、その改良が望まれていた。
【0004】
該反応の触媒寿命および反応運転の不安定さは、触媒上に蓄積する炭素分が原因と考えられている。特許文献3には、触媒を不活性な固形物により希釈することで、生成物の逐次反応を抑制し、炭素分の蓄積を抑制できるとある。しかし、この方法では、炭素分の蓄積を十分に抑制できないだけでなく、活性成分量の減少に伴う収率の減少、活性成分と不活性固形物との混合などのコストがかかるため、工業的に不利である。
【0005】
特許文献4には公知の触媒活性成分組成に微量のシリカを混在させることで、高い転化率、選択率を長期間保持することが記載されているが、安定して工業的なスケールで製造することが困難な触媒であるという欠点を有している。
【0006】
また、特許文献5には、触媒前駆体中に細孔形成剤を混在させる被覆成型触媒についての記載があり、工業スケールでの製造についても記載されている。しかし、細孔形成剤を混在させて被覆成型触媒を製造したことによる、ブテンの変換率及びブタジエンの選択率に対する効果が明確に示されてはいない。
【0007】
このように、従来の触媒では触媒性能や触媒寿命、プラントでの運転制御の観点で工業用触媒として必ずしも十分な性能が得られておらず、更なる改良が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】日本国特公昭49−003498号公報
【特許文献2】日本国特開昭58−188823号公報
【特許文献3】日本国特開2011−219366号公報
【特許文献4】日本国特開2011−178719号公報
【特許文献5】日本国特表2011−518659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、n-ブテンからブタジエンを、反応初期から安定的に高収率で製造することができる触媒とその触媒の工業的製造方法、およびその触媒を使用してブタジエンを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討した結果、該成型触媒のマクロ孔の細孔容積が全体の細孔容積の80%以上、好ましくは90%以上を占める、モリブデンを必須成分とする複合金属酸化物の成型触媒を用いることで、n-ブテンからブタジエンを反応初期から安定的に高収率で製造することができることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は
(1)モリブデンを必須成分とする複合金属酸化物の成型触媒であり、該成型触媒のマクロ孔の細孔容積が全体の細孔容積の80%以上を占める、n-ブテンを分子状酸素存在下、気相接触酸化脱水素反応により、ブタジエンを製造するのに用いる成型触媒
(2)該成型触媒のマクロ孔の細孔容積が全体の細孔容積の90%以上を占める、(1)に記載の成型触媒
(3)全細孔容積が0.1ml/g以上0.4ml/g以下である(1)または(2)に記載の触媒
(4)前記複合金属酸化物が下記式(1)で表される組成を有する(1)〜(3)いずれか1項に記載の成型触媒
MoBiNiCoFe式(1)
(式(1)中、Mo、Bi、Ni、Co、Fe及びOはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄及び酸素を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、セリウム、テルル、ホウ素、ゲルマニウム、ジルコニウムおよびチタンからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を表し、Yはカリウム、ルビジウム、カルシウム、バリウム、タリウムおよびセシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を表し、a、b、c、d、f、g、h及びxは、それぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Yおよび酸素の原子数を表し、a=12、b=0.1〜7、c+d=0.5〜20、f=0.5〜8、g=0〜2、h=0.005〜2、x=各元素の酸化状態によって決まる値である。)
(5)前記複合金属酸化物を不活性球状担体に担持した球状の被覆成型触媒である、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の成型触媒
(6)前記複合金属酸化物の粉末を転動造粒法により担持した(5)に記載の成型触媒
(7)前記複合金属酸化物の粉末を転動造粒法により担持する(5)に記載の被覆成型触媒の製造方法
(8)(1)〜(6)のいずれかに記載の成型触媒を用いた、n-ブテンを分子状酸素存在下、気相接触酸化脱水素し、ブタジエンを製造する方法
(9)反応開始1時間以内の△Tと2時間における△Tの変化が20℃以下である、(8)に記載のブタジエンを製造する方法
(10)(1)〜(6)のいずれかに記載の成型触媒を用いて、反応開始1時間以内の△Tと2時間における△Tの変化が10℃以下である(8)または(9)に記載のブタジエンを製造する方法
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の触媒およびその触媒の製造方法によれば、n-ブテンからブタジエンを反応初期から安定的に高収率で製造する方法、ならびに、当該方法に対して好適に使用される触媒が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明のブタジエンの製造用触媒とその触媒の製造方法、ならびに本発明の触媒を用いたブタジエンの製造方法について、実施の形態を詳細に説明する。
本発明は、固定床多管式反応器に用いることができるモリブデンを必須成分とする複合金属酸化物の成型触媒であり、該成型触媒が有する細孔分布のうち、マクロ孔の細孔容積が全体の細孔容積の80%以上を占めることを特徴とし、好ましくは90%以上を占める、n-ブテンを分子状酸素存在下、気相接触酸化し、ブタジエンを製造するのに用いる成型触媒である。
【0014】
本発明に用いられる触媒は、公知の方法で調製することが出来、モリブデンを必須成分とする複合金属酸化物の触媒である。好ましい触媒の構成元素およびその構成比は下記一般式(1)において
MoBiNiCoFe式(1)
(式中、Mo、Bi、Ni、Co、Fe及びOはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄及び酸素を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、セリウム、テルル、ホウ素、ゲルマニウム、ジルコニウムおよびチタンからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を表し、Yはカリウム、ルビジウム、カルシウム、バリウム、タリウムおよびセシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を表し、a、b、c、d、f、g、h及びxは、それぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Yおよび酸素の原子数を表し、a=12、b=0.1〜7、好ましくはb=0.5〜4、c+d=0.5〜20、好ましくはc+d=1〜12、f=0.5〜8、好ましくはf=0.5〜5、g=0〜2、好ましくはg=0〜1、h=0.005〜2、好ましくはh=0.01〜0.5、x=各元素の酸化状態によって決まる値である。)で表記することが出来る。
ここで、原料混合液および/または触媒活性成分である複合金属酸化物を含有する混合液は共沈法など公知の方法で調製されるが、その際使用する原料はモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、上記組成式に記載したX及びY等各種金属元素の硝酸塩、アンモニウム塩、水酸化物、酸化物、酢酸塩などを用いることができ、特に制限されない。供給する金属塩の種類および/または量を変えることで異なる組成の複合金属酸化物を含有する混合液を得ることもできる。
【0015】
混合液の乾燥方法としては、種々の方法を用いることが可能であり、例えば、蒸発乾固法、噴霧乾燥法、ドラム乾燥法、気流乾燥法、真空乾燥法等が挙げられる。乾燥に使用する乾燥機の機種は特に限定されないが、80℃〜300℃の範囲で乾燥することができれば、当範囲内で乾燥条件を適宜変えることによって目的に応じた複合金属酸化物の乾燥粉末を得ることができる。
【0016】
こうして得られた乾燥粉末を300〜600℃、好ましくは400〜500℃で、空気または窒素気流中にて焼成し、複合金属酸化物の予備焼成粉末(以下、予備焼成粉末という)を得ることができる。以下、乾燥粉末と予備焼成粉末を合わせて、触媒粉末と表す。
【0017】
得られた触媒粉末は、このままでも触媒として使用できるが、工業生産規模での生産効率、作業性を考慮し成型して本発明の触媒とする。成型物の形状は特に限定されず、球状、円柱状、リング状などであっても良い。触媒の反応成績、触媒の製造効率、機械的強度などを考慮して形状を選択すべきであるが、球状であることが好ましい。成型に際しては、乾燥粉末を用いても良いが、好ましくは単独の予備焼成粉末を使用し、成型するのが良い。別々に調製した成分組成が異なる触媒粉末を任意の割合であらかじめ混合し成型してもよいし、不活性担体上に異種の触媒粉末を担持する操作を繰り返して、複層に触媒粉末が被覆成型されるような手法を採用してもよい。尚、成型する際には結晶性セルロースなどの成型助剤および/またはセラミックウィスカーなどの強度向上剤を混合することが好ましい。成型助剤および/または強度向上剤の使用量は触媒粉末に対しそれぞれ30重量%以下であることが好ましい。また、成型助剤および/または強度向上剤は上記触媒粉末と成型前にあらかじめ混合してもよいし、成型機に触媒粉末を添加するのと同時または前後に添加してもよい。即ち、最終的に反応に使用する成型触媒が、本発明の触媒物性および/または触媒組成の範囲内にあれば、上記成型形状や成型手法を採用することができる。
【0018】
上記のように成型するにあたり、成型方法に特に制限はないが円柱状、リング状に成型する際には打錠成型機、押し出し成型機などを用いることができる。さらに好ましくは、球状に成型する場合であり、成型機で触媒粉末を球形に成型しても良いが、触媒粉体(必要により成型助剤、強度向上剤を含む)を不活性なセラミック等の担体に被覆成型させる方法が好ましい。ここで担持方法としては転動造粒法、遠心流動コーティング装置を用いる方法、ウォッシュコート等触媒粉末が担体表面に均一に被覆成型できる方法で有れば特に限定されないが、触媒の製造効率等を考慮した場合、固定円筒容器の底部に、平らな、あるいは凹凸のある円盤を有する装置で、円盤を高速で回転させることにより、容器内に仕込まれた担体を、担体自体の自転運動と公転運動の繰り返しにより激しく撹拌させ、ここに触媒粉末並びに必要により、成型助剤及び強度向上剤を添加することにより触媒粉体が担体上に被覆成型される方法が好ましい。転動造粒したときにかかる相対遠心加速度は、好ましくは1G〜35G、より好ましくは1.2G〜30Gである。ここで相対遠心加速度とは、転動造粒機に担体を入れて、当該装置で回転させたときに単位重量あたりにかかる遠心力の大きさを、重力加速度との比であらわした数値であり、下記式(2)で表される。これは当該装置の回転の中心からの距離の絶対値および回転速度の2乗に比例して増大する。
RCF=1118×r×N×10−8・・・(2)
式(2)において、RCFは相対遠心加速度(G)、rは回転中心からの距離(cm)、Nは回転速度(rpm)を表す。
【0019】
尚、担持に際して、バインダーを使用するのが好ましい。使用できるバインダーの具体例としては、水やエタノール、メタノール、プロパノール、多価アルコール、高分子系バインダーのポリビニールアルコール、無機系バインダーのシリカゾル水溶液等が挙げられるが、エタノール、メタノール、プロパノール、多価アルコールが好ましく、エチレングリコール等のジオールやグリセリン等のトリオール等が更に好ましく、グリセリンの濃度が5重量%以上の水溶液が特に好ましい。グリセリン水溶液を適量使用することにより成型性が良好となり、機械的強度の高い、高活性な被覆成型触媒が得られる。
これらバインダーの使用量は、触媒粉末100重量部に対して通常2〜60重量部であるが、グリセリン水溶液の場合は10〜30重量部が好ましい。担持に際してバインダーは触媒粉末と予め混合してあっても、触媒粉末を転動造粒機に供給しながら添加してもよい。
【0020】
不活性担体の大きさは、通常2〜15mm程度の径のものを使用し、これに触媒粉末を担持させるが、その担持量は触媒使用条件、たとえば空間速度、原料炭化水素濃度を考慮して決定される。
【0021】
なお、被覆成型触媒における触媒粉末の担持量は、触媒粉末の重量/(触媒粉末の重量+担体の重量)×100で表される。この式において、分母は場合により成型助剤および/または強度向上剤を含む。担持量が低すぎると活性が低くなり、また担持量が高すぎると、触媒層の温度が高くなるので好ましくない。好ましい担持量は10〜70重量%であり、更に好ましくは30〜60重量%である。
【0022】
成型した触媒は反応に使用する前に再度焼成する。再度焼成する際の焼成温度は通常400〜700℃、焼成時間は通常3〜30時間、好ましくは4〜15時間であり、使用する反応条件に応じて適宜設定される。再度焼成する際の焼成の雰囲気は空気雰囲気、窒素雰囲気などいずれでもかまわないが、工業的には空気雰囲気が好ましい。
【0023】
このようにして得られた成型触媒に対して、各種分析で物性値を測定する。IUPACによれば2nm以下の細孔をミクロ孔、2nmから50nmの細孔をメソ孔、50nm以上の細孔をマクロ孔と規定している。全細孔に占めるミクロ孔やメソ孔の割合が多くなると、細孔内において活性点が近接することにより、逐次反応が進行しやすくなる。一方で、マクロ孔の割合が多いと、逐次反応が進行しにくくなり、ブタジエンの選択率を高くすることができる。本発明においては、マクロ孔の細孔容積が全体の細孔容積の80%以上、より好ましくは90%以上を占める触媒を用いることで、ブタジエンの選択率を高くすることができることを特徴としている。また、全細孔容積としても、低ければ十分な触媒活性が得られず、また、高すぎれば、上記の副生成物が多くなるだけでなく、触媒としての強度も十分でなくなる。したがって、本発明においては、好ましい全細孔容積としては0.1ml/g以上、0.4ml/g以下であることを特徴としている。本発明のマクロ孔については、水銀ポロシメーター(Pore Master 60−GT(Quanta Chrome Co.))を用いて、水銀表面張力を480dyn/cm、水銀接触角を140°のもと、水銀圧入法で測定した値である。したがって、マクロ孔の上限は、装置の検出限界である。マクロ孔を有するとは、水銀が試料1gに対し何ml浸入したのかを表すNormalized Volume[ml/g]を縦軸に、Pore diameterを横軸においた相関グラフから得られる細孔容積において、少なくとも0.01ml/g以上の細孔を有する場合とする。
【0024】
本発明のブタジエンの製造方法は、上記本発明の触媒および分子状酸素を用いて、n-ブテンを気相接触酸化脱水素する。
【0025】
原料となるn-ブテンとしては、1-ブテン単独、あるいは1-ブテン、trans-2-ブテン、cis-2-ブテンの少なくとも2種類以上を含む混合ブテンも使用できる。また、原料としては、ナフサ分解炉や石油の流動接触分解設備(FCC設備)からのn-ブテンを含むブテン類も使用できる。その他、公知の方法で製造されるn-ブテンを使用しても良い。また、反応器出口の未反応原料を再度反応原料として使用しても良い。
【0026】
分子状酸素としては通常空気が使用されるが、純酸素を使用してもよい。
【0027】
上記原料ガス及び分子状酸素は、不活性ガスによって希釈して混合ガスとして利用することが望ましい。希釈ガスとしては窒素、ヘリウム、アルゴン、炭酸ガスなどの不活性ガスを使用する。反応ガスに含まれる非凝縮性ガスの一部を循環して希釈ガスとして使用してもよい。また、希釈ガスに水蒸気が含まれていることが触媒の活性、選択性、寿命を高める上で好ましい。
【0028】
混合ガスとしては、該混合ガス100容量%に対して、n-ブテンを、1〜16容量%、好ましくは3〜12容量%含有し、分子状酸素を、1〜20容量%、好ましくは5〜16容量%含有し、希釈ガスを、64〜98容量%、好ましくは72〜92容量%含有し、および水蒸気を60容量%以下含有してなるものが挙げられる。
【0029】
本発明による気相接触酸化脱水素は、具体的には、上記本発明の触媒の存在下に、250〜450℃、好ましくは280〜400℃の温度範囲、及び、常圧〜10気圧(ゲージ圧)の圧力下で、少なくともn-ブテンと分子状酸素とを含む混合ガスを、触媒の単位体積当たりの空間速度が300〜5000/hr、好ましくは500〜3500/hrで導入することで実施される。
【0030】
本発明において、ブタジエンを製造する反応装置の形式は、流動床、移動床、固定床のいずれの形式でも良いが、本発明の触媒を使用することにおいては固定床が好ましい。
【0031】
本発明の触媒を固定床で使用する場合、反応管中で種々の物性、活性、担持量および粒径の触媒を使用しても良い。
【0032】
反応中の触媒層における局所的な高温部分(PT)はプラントを安定的に長期間運転する上で問題になる。この指標として、PTから設定温度を引いた温度差(ΔT)を用いて表現でき、ΔTは極力小さいことが好ましい。一般に、Moを主成分とする複合金属酸化物では、触媒が高温にさらされることによって、Moが飛散したり、MoOへ結晶相が変化したりするため、触媒が劣化することが知られている。つまり、反応時に△Tが特に大きい部分があると、その部分の触媒が失活してしまい、触媒の寿命が短くなる。また、反応開始後1時間以内のΔTから、2時間以上経過した後の△Tへの変化が少ないことも、安定的な運転を考えた場合には重要である。この変化が少なければ、プラントにおけるスタートアップが速やかに行われるため、経済的に有利になる。ΔTや反応開始後から安定状態までのPTの変化を緩和する目的で、不活性物質と共に充填してもよく、その結果、反応管の原料ガス流れ方向に複数個分割して形成された触媒層が設けられる。不活性物質としては、反応に対し実質的に不活性なものであれば特に制限はないが、シリカ、アルミナ、チタニアまたはそれらの複合体等が挙げられる。不活性物質と共に充填した場合には、分割された触媒層ごとに活性の異なる触媒を設けることができる。
【実施例】
【0033】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。実施例中のn-ブテン転化率、ブタジエン選択率、ブタジエン収率は次の通り定義する。
n-ブテン転化率=(反応したn-ブテンのモル数)/(供給したn-ブテンのモル数)×100
ブタジエン選択率=(生成したブタジエンのモル数)/(反応したn-ブテンのモル数)×100
ブタジエン収率=(n−ブテン転化率/100)×(ブタジエン選択率/100)×100
【0034】
実施例1
<触媒>
蒸留水3000重量部を加熱攪拌しながらモリブデン酸アンモニウム423.8重量部と硝酸カリウム1.64重量部を溶解して水溶液(A1)を得た。別に、硝酸コバルト302.7重量部、硝酸ニッケル162.9重量部、硝酸第二鉄145.4重量部を蒸留水1000重量部に溶解して水溶液(B1)を、また濃硝酸42重量部を加えて酸性にした蒸留水200重量部に硝酸ビスマス164.9重量部を溶解して水溶液(C1)をそれぞれ調製した。上記水溶液(A1)に(B1)、(C1)を順次、激しく攪拌しながら混合し、生成した懸濁液をスプレードライヤーを用いて乾燥し440℃で6時間焼成し予備焼成粉末(D1)を得た。このときの触媒活性成分の酸素を除いた組成比は原子比でMo=12、Bi=1.7、Ni=2.8、Fe=1.8、Co=5.2、K=0.15であった。
その後、予備焼成粉末100重量部に結晶セルロース5重量部を混合した粉末を不活性担体(アルミナ、シリカを主成分とする直径4.5mmの球状物質)に、担持量が、50重量%を占める割合になるように、成型に使用する担体重量および予備焼成粉末重量を調整した。20重量%グリセリン水溶液をバインダーとして使用し、直径5.2mmの球状に転動造粒器を用いて担持し、被覆成型触媒(E1)を得た。
担持成型には直径23cmの円柱状の成型機を使用し、底板の回転数を260rpmとした。このときの相対遠心加速度は8.7Gであった。
被覆成型触媒(E1)を、焼成温度530℃で4時間、空気雰囲気下で焼成することで触媒(F1)を得た。
【0035】
<触媒分析>
上記触媒(F1)の全細孔容積は0.24ml/gであり、マクロ孔の細孔容積の占める割合は99%であった。
<脱水素反応試験>
内径22.2mmのステンレス製反応管に、触媒層温度を測定するための熱電対を同管軸に設置して、反応管の原料ガス入口側から直径5.2mmのシリカ―アルミナ球を30cm、上記触媒(F1)を8cm、順次充填し、反応浴温度を320℃にした。ここにn-ブテン:空気:水=1:10:5のモル比を有する混合ガスを空間速度1440h−1となるように供給量を設定し反応管内へ導入して、脱水素反応を行った。なお、n-ブテンとして1−ブテンが99%の純度のガスを用いた。反応開始後2時間経過後の出口ガスをガスクロマトグラフィーにて分析した。n-ブテン転化率、ブタジエン選択率、ブタジエン収率を表1に示す。また、反応開始直後、2時間経過後のΔTも表1に示した。
【0036】
表1より、反応開始後2時間経過後においても、n-ブテン転化率は99.3%、ブタジエン収率は89.0%と高転化率および高収率となることがわかった。反応開始直後の△Tは42.8℃、2時間経過後は39.2℃となっており、大幅な温度変化は見られず、反応開始初期から安定していることがわかった。
以上の結果からn-ブテンからブタジエンを高転化率かつ高収率で長時間得ることができ、かつ、反応開始初期から安定的な運転が可能であることがわかる。
【0037】
【表1】
【0038】
比較例1
<触媒>
予備焼成粉末(D1)100重量部に結晶セルロース10重量部、ユケン工業株式会社製YB−155(押出し成型用成型助剤)10重量部を混合した混合粉末を得た。この混合粉末に日本アエロジル社製アエロジルOX50を100重量部混合し、リング状になるように押出し成型し、押出し成型触媒(E2)を得た。得られた成型触媒(E2)の外径/内径/長さ(mm)は5.4/3.6/5.0であった。
押出し成型触媒(E2)を、実施例1と同様の条件下で焼成することで触媒(F2)を得た。
【0039】
<触媒分析>
上記触媒(F2)の全細孔容積は0.42ml/gであり、マクロ孔の細孔容積の占める割合は78%であった。
【0040】
<脱水素反応試験>
触媒(F2)を用いた以外は実施例1と同様にして脱水素反応試験を行った。反応開始後2時間経過後の出口ガスをガスクロマトグラフィーにて分析した。実施例1と同様にして反応結果を表2に示す。
【0041】
表2より、反応開始初期に△Tが97.4℃となり、実施例1と比べて50℃以上も高くなっており、特に大きな発熱が起こっていることがわかる。反応開始後2時間においても、実施例1と比べて10℃以上も△Tが高くなっている。したがって、触媒がより高温にさらされているため、触媒寿命においては不利になる。反応開始直後と2時間経過後の△Tがそれぞれ、97.4℃、55.8℃となっており、反応直後から大きく温度変化をしていることから、プラントにおける運転が非常に難しいと推測される。
また、2時間経過後のブタジエン収率は実施例1と比べて2.5%低いことがわかった。これは、逐次反応が進行し、COやCOが増え、ブタジエン選択率が下がったためである。触媒の活性成分量は、比較例1と実施例1では同等であるため、本発明においては、細孔容積におけるマクロ孔とメソ孔の割合の差が逐次反応の多少に大きく影響を及ぼしていると推測される。逐次反応が増えると、反応による反応熱が大きくなり、その結果、△Tが大きくなる。
したがって、本発明のマクロ孔の細孔容積の占める割合が大きい触媒を用いることで、△Tを抑え、かつ、ブタジエン収率を高くすることができた。
【0042】
【表2】
【0043】
比較例2
<触媒>
予備焼成粉末(D1)100重量部に結晶セルロース5重量部、ユケン工業株式会社製YB−155(押出し成型用成型助剤)5重量部を混合した混合粉末を得た。この混合粉末に日本アエロジル社製アエロジル200を20重量部混合し、リング状になるように押出し成型し、押出し成型触媒(E3)を得た。得られた成型触媒(E3)の外径/内径/長さ(mm)は5.4/3.6/5.0であった。
押出し成型触媒(E3)を、実施例1と同様の条件下で焼成することで触媒(F3)を得た。
【0044】
<触媒分析>
上記触媒(F3)の全細孔容積は0.47ml/gであり、マクロ孔の細孔容積の占める割合は79%であった。
【0045】
<脱水素反応試験>
単位体積当たりの活性成分量が実施例1や比較例1と同等になるように、触媒(F3)と不活性物質とを混ぜ合わせ、実施例1および比較例1と同容量充填した。不活性物質としては直径5.2mmのシリカ−アルミナ球を用いた。その他は実施例1と同様にして脱水素反応試験を行った。反応開始後2時間経過後の出口ガスをガスクロマトグラフィーにて分析した。反応結果を表3に示す。
【0046】
表3の結果から、触媒を不活性物質で希釈することで、反応時の発熱を抑えることが出来るものの、実施例1と同等の活性成分量にも関わらず、n-ブテン転化率が反応開始後2時間経過後で5.2%下がった。したがって、単純に触媒を不活性物質で希釈することでは、本発明の触媒と同等の効果を示すことが出来ない。
【0047】
【表3】
【0048】
実施例2
<触媒>
蒸留水3000重量部を加熱攪拌しながらモリブデン酸アンモニウム750重量部と硝酸セシウム13.8重量部を溶解して水溶液(A4)を得た。別に、硝酸コバルト695.5重量部、硝酸ニッケル103重量部、硝酸第二鉄286重量部を蒸留水1000重量部に溶解して水溶液(B4)を、また濃硝酸73重量部を加えて酸性にした蒸留水300重量部に硝酸ビスマス291.8重量部を溶解して水溶液(C4)をそれぞれ調製した。上記水溶液(A4)に(B4)、(C4)を順次、激しく攪拌しながら混合し、生成した懸濁液をスプレードライヤーを用いて乾燥し460℃で5時間焼成し予備焼成粉末(D4)を得た。このときの触媒活性成分の酸素を除いた組成比は原子比でMo=12、Bi=1.7、Ni=1.0、Fe=2.0、Co=6.8、Cs=0.20であった。
その後予備焼成粉末100重量部に結晶セルロース5重量部を混合した粉末を不活性担体(アルミナ、シリカを主成分とする直径4.0mmの球状物質)に、担持量が、50重量%を占める割合になるように、成型に使用する担体重量および予備焼成粉末重量を調整した。20重量%グリセリン水溶液をバインダーとして使用し、直径4.4mmの球状に担持し、被覆成型触媒(E4)を得た。
担持成型には直径23cmの円柱状の成型機を使用し、底板の回転数を260rpmとした。このときの相対遠心加速度は8.7Gであった。
被覆成型触媒(E4)を、520℃で4時間焼成して触媒(F4)を得た。
【0049】
<触媒分析>
上記触媒(F4)の全細孔容積は0.25ml/gであり、マクロ孔の細孔容積の占める割合は100%であった。
<脱水素反応試験>
触媒(F4)を用いて、反応温度330℃とした以外は実施例1と同様にして脱水素反応試験を行った。反応開始後2時間経過後の出口ガスをガスクロマトグラフィーにて分析した。実施例1と同様にして反応結果を表4に示す。
【0050】
表4の結果から、触媒(F1)とは組成の異なる触媒(F4)においても、反応開始後2時間経過後においては、n−ブテン転化率は98.9%、ブタジエン収率は91.0%と高転化率および高収率となることがわかった。
また、反応初期の△Tが26.7℃であり、発熱が少ないことがわかる。反応開始2時間経過後の△Tは27.6℃となっている。
したがって実施例1と同様、大幅な温度変化は見られず、反応開始初期から安定していることがわかった。
【0051】
【表4】
【0052】
以上の結果より、マクロ孔の細孔容積が占める割合が80%以上の触媒は、発熱挙動を抑えられ、安定的に使用でき、かつ、小さい△Tでも、高いn−ブテン転化率で使用することができ、高いブタジエン収率を維持することのできる触媒であるため、工業的に非常に有用であることがわかる。
【0053】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。
なお、本出願は、2012年4月23日付で出願された日本国特許出願(特願2012−098259)に基づいており、その全体が引用により援用される。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の触媒は、反応初期から安定的にn-ブテンからブタジエンを高収率で製造する方法に供される。