(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について、その最良の形態も含めてさらに具体的に説明する。
図1に示すように、本発明に係る保護膜形成層付ダイシングシート10は、基材フィルム1と粘着剤層2とからなる粘着シート3の粘着剤層2上に、保護膜形成層4を有する。好ましい態様では、保護膜形成層4は、粘着シート3の内周部に、貼付されるワーク(半導体ウエハ等)と略同形状に形成されてなる。好ましい態様では、粘着シート3の外周部に粘着剤層2が露出している。好ましい態様では、粘着シート3よりも小径の保護膜形成層4が、円形の粘着シート3の粘着剤層2上に同心円状に積層されている。露出している外周部の粘着剤層は、図示したように、リングフレーム5の固定に用いられる。保護膜形成層付ダイシングシート10は、長尺テープ状、単葉のラベル状などのあらゆる形状を取り得る。
【0023】
(基材フィルム1)
基材フィルム1としては、保護膜形成層4の熱硬化を、粘着シート3から保護膜形成層4を剥離後に行う場合には、特に限定されず、例えば低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE),エチレン・プロピレン共重合体、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリメチルペンテン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エチル共重合体、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、ポリウレタンフィルム、アイオノマー等からなるフィルムなどが用いられる。なお、本明細書において「(メタ)アクリル」は、アクリルおよびメタアクリルの両者を含む意味で用いる。
【0024】
また、粘着シート3上に保護膜形成層4が積層された状態で、保護膜形成層の熱硬化を行う場合には、粘着シート3の耐久性を考慮して基材フィルム1は、耐熱性を有するものが好ましく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルフィルム、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィンフィルム等が挙げられる。これらの中でも、ポリプロピレンフィルムは、耐熱性を有し、比較的柔軟であるのでエキスパンド適性やピックヤップ適性も良好であり、特に好ましく用いられる。また、これらの架橋フィルムや放射線・放電等による改質フィルムも用いることができる。基材フィルムは上記フィルムの積層体であってもよい。
【0025】
また、これら合成樹脂フィルムは、2種類以上を積層したり、組み合わせて用いたりすることもできる。さらに、これらフィルムを着色したもの、あるいは印刷を施したもの等も使用することができる。また、フィルムは熱可塑性樹脂を押出形成によりシート化したものであってもよく、延伸されたものであってもよく、硬化性樹脂を所定手段により薄膜化、硬化してシート化したものが使われてもよい。
【0026】
基材フィルムの厚さは特に限定されず、好ましくは30〜300μm、より好ましくは50〜200μmである。基材フィルムの厚みを上記範囲とすることで、ダイシングによる切り込みが行われても基材フィルムの断裂が起こりにくい。また、保護膜形成層付ダイシングシートに充分な可とう性が付与されるため、ワーク(例えば半導体ウエハ等)に対して良好な貼付性を示す。
【0027】
(粘着剤層2)
本発明における粘着剤層2は、エポキシ基含有化合物、粘着成分および必要に応じその他の添加剤から構成されている。
【0028】
<エポキシ基含有化合物>
本発明の保護膜形成層付ダイシングシート10における粘着剤層2は、エポキシ基含有化合物を有することを特徴としている。粘着剤層2中で、エポキシ基含有化合物は遊離状態で存在し、粘着剤層2と保護膜形成層4との界面において一部が油膜状となり離型剤として機能すると考えられる。つまり、粘着剤層2と保護膜形成層4との界面にエポキシ基含有化合物が存在することで、粘着剤層2と保護膜形成層4とが過度に密着することが防止され、所要の工程後に、粘着シート3から保護膜形成層4(または保護膜)を剥離する際の剥離力が適切な範囲に制御され、保護膜形成層4(または保護膜)を伴ったチップのピックアップ力が低減される。以下では、特に使用態様を説明する場合に、保護膜形成層およびその硬化物である保護膜を総称して単に「保護膜形成層」と記載することがある。
【0029】
本発明で使用されるエポキシ基含有化合物としては、分子内に少なくとも1個のエポキシ基を有する化合物が挙げられ、たとえばビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、ビフェニル型、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型のエポキシ樹脂などが挙げられる。
【0030】
エポキシ基含有化合物の分子量は、比較的低いことが好ましく100〜10000、300〜2000、好ましくは350〜1000である。分子量がこの範囲であれば、貼付後の保護膜形成層4と粘着剤層2との界面に存在するエポキシ基含有化合物が保護膜形成層4に転写しやすくなり、保護膜形成層4を伴ったチップのピックアップ力を低減させ、およびチップ上の粘着剤残渣の発生を抑制し、その後の工程におけるチップトレーへの付着等の不具合を防止する効果が得られやすい。
【0031】
エポキシ基含有化合物の配合割合の好適範囲は、エポキシ基含有化合物の種類ごとに異なり、一概には決定できないが、一般的には粘着剤層2を構成する全成分の合計100質量部中に、0.5〜50質量部、好ましくは2.5〜25質量部程度用いられる。
【0032】
上記したエポキシ基含有化合物の配合割合は、粘着剤層を形成させるための組成物の調製時点の組成を示すが、上記エポキシ基含有化合物は、粘着剤層中に遊離の状態で含まれている。すなわち、粘着剤層は、“遊離のエポキシ基含有化合物”を含んでいる。ここで、遊離の状態とは、エポキシ基含有化合物が、(メタ)アクリル酸エステル重合体などの粘着成分と実質的に未反応の状態にあり、粘着成分中のゲル成分のマトリクス中にエポキシ基含有化合物が取り込まれていない状態にあることをいう。具体的には、粘着剤層のゾル成分のエポキシ基の滴定によって、未反応のエポキシ基含有化合物の有無が判断できる。本発明においては、エポキシ当量の逆数の1000倍で表わされる「エポキシ指数」で評価した。「エポキシ指数」は試料1Kgあたりの値の換算値とした。エポキシ指数の値は、好ましくは0.05eq/kg以上であり、より好ましくは0.1〜2.0eq/kgである。なお、この「エポキシ指数」の値は、後述する実施例における測定方法により得られる値である。
【0033】
エポキシ基含有化合物と、粘着剤層2を構成する粘着成分が反応すると、エポキシ基含有化合物の遊離の状態が維持されなくなり、または粘着成分と保護膜形成層とがエポキシ基含有化合物を介して結合し、ピックアップ力が増加したり、チップ上に粘着剤残渣が発生したりすることが懸念されるために、エポキシ基含有化合物と、粘着成分とは非反応性であることが好ましい。たとえば、粘着成分が(メタ)アクリル酸エステル重合体を含む場合、(メタ)アクリル酸エステル重合体は、後述するようにカルボキシル基やアミノ基等の、エポキシ基含有化合物のエポキシ基と反応する可能性がある官能基を有さず、又はその比率が少ないことが好ましい。
【0034】
また、本発明における粘着剤層には、上記エポキシ基含有化合物を重合させる作用を有する物質(エポキシ硬化剤)は実質的に含まれないほうが好ましい。粘着剤層中にエポキシ硬化剤が含まれると、保護膜形成層付用ダイシングシートの保管時または場合によって行われる保護膜形成層の熱硬化の際に、エポキシ基含有化合物同士がエポキシ硬化剤を介して反応して硬化物を形成し、エポキシ基含有化合物の遊離の状態が維持されなくなる懸念がある。また、保護膜形成層に含まれる成分と、粘着剤層中に生じたエポキシ基含有化合物から生成した硬化物とが反応して結合され、保護膜形成層(または保護膜)と粘着剤層との界面で剥離がし難くなる懸念がある。実質的に含まれないことが好ましいエポキシ硬化剤としては、アミン類、有機酸、酸無水物、フェノール樹脂、尿素樹脂、ポリアミドが挙げられる。
【0035】
上記のように本発明における粘着剤層は、粘着成分およびエポキシ基含有化合物を主成分とし、必要に応じその他の成分を含む。
【0036】
<粘着成分>
粘着成分は、適度な再剥離性を粘着剤層に付与するものであればその種類は特に限定はされず、ゴム系、アクリル系、シリコーン系、ウレタン系、ビニルエーテル系など汎用の粘着剤から形成されてもよい。これらの中でも特にアクリル系粘着剤が好ましく用いられる。また、粘着成分は、エネルギー線硬化性の粘着成分であってもよい。
【0037】
アクリル系粘着剤は、反応性官能基を有しない(メタ)アクリル酸エステルモノマーおよび必要に応じて併用される反応性官能基含有モノマーを主原料として得られる(メタ)アクリル酸エステル重合体を主成分とするものである。ここで反応性官能基を有しない(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、たとえば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル等が用いられる。また、反応性官能基を有しない(メタ)アクリル酸エステルモノマーとして(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ベンジルエステル等の脂肪族基または芳香族基を有するアルキルエステルが用いられてもよい。これらのモノマーは1種単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
反応性官能基含有モノマーとしては、水酸基含有モノマーが挙げられる。水酸基含有モノマーとしては、たとえばアクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、N−メチロールアクリルアミド等が挙げられる。これらの中でも、アルコール性水酸基を有する水酸基含有モノマーは、エポキシ基含有化合物の有するエポキシ基と反応しにくいため好ましい。
【0039】
(メタ)アクリル酸エステル重合体に用いられる、反応性官能基を有しない(メタ)アクリル酸エステルモノマーおよび反応性官能基含有モノマー以外の共重合性モノマーとして、アクリロニトリル、アクリルアミド、酢酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステルなどが挙げられる。
【0040】
なお、カルボキシル基やアミノ基等の官能基はエポキシ基含有化合物のエポキシ基と反応する可能性があるため、(メタ)アクリル酸エステル重合体の原料としてこれらの官能基を含有するモノマーを配合する場合は、その比率が少ない方がよい。また、グリシジル基やエポキシ基は、前記エポキシ基含有化合物のエポキシ基と反応することがあるため、グリシジル(メタ)アクリレート等は(メタ)アクリル酸エステル重合体の原料として配合しないことが好ましい。
【0041】
(メタ)アクリル酸エステル重合体は、側鎖に光重合性炭素−炭素二重結合を有する基を有するもの(以下エネルギー線架橋性重合体ということがある。)であってもよい。光重合性炭素−炭素二重結合を有する基としては、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、マレイミド基等が挙げられる。このような構成とすることで、(メタ)アクリル酸エステル重合体はエネルギー線の照射による光重合性炭素−炭素二重結合の重付加により三次元網目構造を構成する。つまり、側鎖に光重合性炭素−炭素二重結合を有する(メタ)アクリル酸エステル重合体は、架橋することが可能な化合物であり、エネルギー線照射により粘着剤層の粘着力を低減する機能を有する。エネルギー線架橋性重合体を得るには、たとえば上記の反応性官能基モノマーとして例示した水酸基含有モノマーを用いて水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体を合成し、これにメタクリロイルオキシエチルイソシアナート等の、水酸基と反応する官能基と光重合性炭素−炭素二重結合を有する基のいずれも有する化合物を反応させることで得ることができる。
【0042】
さらに、(メタ)アクリル酸エステル重合体は、エネルギー線架橋性重合体が光重合性炭素−炭素二重結合の重付加により架橋されたものであってもよい。この場合、(メタ)アクリル酸エステル重合体は、後述するエネルギー線照射により架橋可能な化合物の架橋物に該当し、後述する機能を有することとなる。このような架橋物は、エネルギー線架橋性重合体を含有する粘着剤層にエネルギー線を照射し、光重合性炭素−炭素二重結合を重付加せしめることで得ることができる。この場合、以下において粘着剤層を構成する他の成分の含有量に関し、(メタ)アクリル酸エステル重合体の質量を基準としてその好ましい範囲を定める場合、(メタ)アクリル酸エステル重合体の質量は、エネルギー線架橋性重合体が光重合性炭素−炭素二重結合の重付加により重合される前の質量を指す。
【0043】
(メタ)アクリル酸エステル重合体の分子量は、好ましくは100,000以上であり、特に好ましくは150,000〜1,000,000である。またアクリル系粘着剤のガラス転移温度は、通常20℃以下、好ましくは−70〜0℃程度である。
【0044】
(メタ)アクリル酸エステル重合体は、熱架橋剤により架橋されていてもよい。架橋は、架橋前の(メタ)アクリル酸エステル重合体が反応性官能基含有モノマーに由来する構成単位を有している場合に、これを熱架橋剤と反応させることで行うことができる。
【0045】
熱架橋剤としては、多価イソシアナート化合物、キレート化合物等の公知の物が使用できる。多価イソシアナート化合物としては、トルイレンジイソシアナート、ジフェニルメタンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナートおよびこれらの多価イソシアナートと多価アルコールとの付加物等が用いられる。キレート化合物としてはエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)等が用いられる。これらは単独で用いても、混合して用いても構わない。
【0046】
熱架橋剤は架橋前の(メタ)アクリル酸エステル重合体100質量部に対して通常0.01〜10質量部、好ましくは0.1〜5質量部、より好ましくは0.5〜3質量部の比率で用いられる。
【0047】
なお、以下において粘着剤層を構成する他の成分の含有量に関し、(メタ)アクリル酸エステル重合体の質量を基準として、その好ましい範囲を定める場合、(メタ)アクリル酸エステル重合体の質量に熱架橋剤に由来する質量は含まない。
【0048】
粘着剤層は、紫外線等のエネルギー線照射により架橋可能な化合物またはその架橋物を含有することが好ましい。これにより、粘着剤層は、紫外線等のエネルギー線の照射により硬化して再剥離性を発現する。粘着剤層がエネルギー線照射により架橋可能な化合物を含有する場合は、得られる粘着シートは初期の接着力が大きく、しかもエネルギー線照射後には粘着力は大きく低下する。したがって、ダイシング時にはウエハ、チップを確実に保持でき、ピックアップ時にはエネルギー線照射により粘着力が大幅に低下するため、保護膜形成層(または保護膜)付きのチップのピックアップを確実に行える。粘着剤層がエネルギー線照射により架橋可能な化合物の架橋物を含有する場合は、粘着剤層は硬化物の三次元網目構造により、凝集性が高まっており、適度な低い粘着性を有している。このため、ウエハ、チップの保持性能と、チップのピックアップ適性を両立できる。
【0049】
エネルギー線照射により架橋可能な化合物としては、上述した側鎖に光重合性炭素−炭素二重結合を有する基を有する(メタ)アクリル酸エステル重合体のほか、たとえば光照射によって三次元網目状化しうる分子内に光重合性炭素−炭素二重結合を少なくとも2個以上有する低分子量化合物(以下、エネルギー線重合性低分子量化合物ということがある。)が広く用いられ、具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートあるいは1,4−ブリレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、オリゴエステルアクリレート、ウレタンアクリレートなどが用いられる。
【0050】
エネルギー線照射により架橋可能な化合物の重合物としては、上述したエネルギー線架橋性重合体が光重合性炭素−炭素二重結合の重付加により架橋されたもののほか、上記のエネルギー線架橋性低分子量化合物を含む粘着剤層にエネルギー線を照射し、架橋させた重合物を用いることができる。
【0051】
エネルギー線架橋性低分子量化合物またはその架橋物を用いる場合、粘着剤層中の(メタ)アクリル酸エステル重合体とエネルギー線重合性低分子量化合物、または架橋物の形成に用いるエネルギー線架橋性低分子量化合物との配合比は、(メタ)アクリル酸エステル重合体100質量部に対して10〜1000質量部、好ましくは20〜500質量部、特に好ましくは50〜200質量部の範囲の量で用いられることが好ましい。
【0052】
粘着成分にはこの他、可塑剤、粘着付与剤等が含まれていてもよい。
【0053】
<他の成分>
上記のように本発明における粘着剤層2は、粘着成分およびエポキシ基含有化合物を主成分とするが、粘着成分およびエポキシ基含有化合物に加えて、本発明の趣旨を損なわない範囲で他の成分が配合されていてもよい。エネルギー線として紫外線を用いる場合には、粘着剤層中に光重合開始剤を配合することが好ましい。光重合開始剤としては、具体的には、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール、2,4−ジエチルチオキサンソン、α―ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンジル、ジベンジル、ジアセチル、β―クロールアンスラキノンあるいは2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドなどが挙げられる。
【0054】
光重合開始剤の配合割合は、エネルギー線照射により架橋可能な化合物100質量部に対して、0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部程度用いられる。
【0055】
他の成分としては、前述した光重合開始剤の他、無機充填剤、帯電防止剤、酸化防止剤、老化防止剤、顔料、染料等が挙げられる。
【0056】
粘着剤層2の厚さは特に限定されないが、好ましくは1〜100μm、さらに好ましくは2〜80μm、特に好ましくは3〜50μmである。
【0057】
(粘着シート3)
粘着シート3は、上記の基材フィルム1の片面に、上記の粘着成分および遊離のエポキシ基含有化合物を含む粘着剤層2が形成されてなる。基材フィルム1の粘着剤層2と接する面には粘着剤層2との密着性を向上するために、コロナ処理を施したりプライマー等の他の層を設けてもよい。
【0058】
(保護膜形成層4)
本発明における保護膜形成層4は特に限定されず、例えば熱硬化性、熱可塑性、エネルギー線硬化性の保護膜形成層を用いることができる。これらの中でも、熱硬化性の保護膜形成層を用いた場合に、粘着剤層と保護膜との密着の問題が顕著となるので、本発明の効果は好ましく発揮される。また、保護膜形成層4は、単層であってもよく、本発明の趣旨を損なわない範囲で多層であってもよい。
【0059】
多層保護膜形成層
保護膜形成層4を多層構造とした場合の概略図を
図2に示した。多層の保護膜形成層は、ワークに接するための層である接着層4aと、粘着剤層側に接する粘着剤近接層4bとを含む。接着層4aは被着体に接着しうる機能を有する限り、特に限定はされない。また接着層4a自体をさらに多層構造とすることもできる。
【0060】
多層保護膜形成層のうち、粘着剤層側に接する層を「粘着剤近接層4b」と呼ぶ。粘着剤近接層4bは粘着剤層と接することおよび被着体に貼付された後には最外層に露出することを考慮した機能が要求される層である。
【0061】
以下、本発明の好ましい保護膜形成層について詳述するが、保護膜形成層は何ら限定的に解釈されるべきではない。以下特段記載しない限り、保護膜形成層についての態様は、接着層4aと粘着剤近接層4bの両方についての態様である。また、保護膜形成層が単層である場合においては、その単層を構成する唯一の層は接着層4aと粘着剤近接層4bの機能を兼ねることとなることから、接着層4a、粘着剤近接層4bのいずれか一方のみについての態様は、その単層を構成する唯一の層についての態様をも意味する。保護膜形成層は、バインダーポリマー成分(A)及び硬化性成分(B)を含有することが好ましい。
【0062】
(A)バインダーポリマー成分
保護膜形成層に十分な接着性および造膜性(シート加工性)を付与するためにバインダーポリマー成分(A)が用いられる。バインダーポリマー成分(A)としては、従来公知のアクリルポリマー、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ゴム系ポリマー、フェノキシ樹脂等を用いることができる。
【0063】
バインダーポリマー成分(A)として、アクリルポリマーが好ましく用いられる。アクリルポリマーの重量平均分子量(Mw)は、1万〜200万であることが好ましく、10万〜120万であることがより好ましい。アクリルポリマーの重量平均分子量がこのような範囲にあることで、粘着剤近接層4bと粘着剤層2との剥離力を適切な程度に維持し、保護膜形成層の転写不良が起こりにくく、また接着層4aの被着体への接着性が維持され、チップ等から保護膜が剥離することが防止される傾向がある。アクリルポリマーのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは−60〜50℃、さらに好ましくは−50〜40℃、特に好ましくは−40〜30℃の範囲にある。アクリルポリマーのガラス転移温度が低過ぎると粘着剤近接層4bについて、粘着剤層2との剥離力が大きくなって保護膜形成層の転写不良が起こることがあり、高過ぎると接着層4aについて、その接着性が低下し、チップ等に転写できなくなったり、あるいは転写後にチップ等から保護膜が剥離したりすることがある。
【0064】
上記アクリルポリマーは、これを構成するモノマーとして、(メタ)アクリル酸エステルモノマーを含む。(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、アルキル基の炭素数が1〜18であるアルキル(メタ)アクリレート、具体的にはメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。また、環状骨格を有する(メタ)アクリレート、具体的にはシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イミド(メタ)アクリレートなどが挙げられる。さらに官能基を有するモノマーとして、水酸基を有するヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられ;その他、エポキシ基を有するグリシジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。アクリルポリマーは、これを構成するモノマーとして水酸基を有しているモノマーを含有しているアクリルポリマーが、後述する硬化性成分(B)との相溶性が良いため好ましい。また、上記アクリルポリマーは、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレンなどが共重合されていてもよい。
【0065】
保護膜形成層の初期接着力および凝集力を調節するために、アクリルポリマーは架橋剤により架橋されていてもよい。架橋剤としては粘着剤層の(メタ)アクリル酸エステル重合体の架橋剤として例示したものと同じものを用いることができる。
架橋剤は、架橋前のアクリルポリマー100質量部に対して通常0.01〜20質量部、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.5〜5質量部の比率で用いられる。
【0066】
なお、以下において保護膜形成層を構成する他の成分の含有量に関し、バインダーポリマー成分(A)の質量を基準として、その好ましい範囲を定める場合、バインダーポリマー成分(A)の質量に架橋剤に由来する質量は含まない。
【0067】
さらに、バインダーポリマー成分(A)として、硬化後の保護膜の可とう性を保持するための熱可塑性樹脂を配合してもよい。かかる熱可塑性樹脂を配合することは接着層4aについて好ましい。そのような熱可塑性樹脂としては、重量平均分子量が1000〜10万のものが好ましく、3000〜8万のものがさらに好ましい。熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、好ましくは−30〜120℃、さらに好ましくは−20〜120℃のものが好ましい。熱可塑性樹脂としては、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリスチレンなどが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。上記の熱可塑性樹脂を含有することにより、保護膜形成層の転写面に接着層4aが追従しボイドなどの発生を抑えることができる。
【0068】
(B)硬化性成分
硬化性成分(B)は、熱硬化性成分および/またはエネルギー線硬化性成分が用いられ、特に熱硬化性成分が好ましく用いられる。
【0069】
<熱硬化性成分>
熱硬化性成分としては、エポキシ系熱硬化性成分が挙げられ、エポキシ系熱硬化性成分は、エポキシ系化合物および熱硬化剤からなる。
【0070】
エポキシ系化合物は、エポキシ基を有している。エポキシ系化合物としては、硬化性樹脂として公知のエポキシ系化合物を用いることができる。エポキシ系化合物としては、具体的には、多官能系エポキシ樹脂や、ビフェニル化合物、ビスフェノールAジグリシジルエーテルやその水添物、オルソクレゾールノボラックエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェニレン骨格型エポキシ樹脂など、分子中に2官能以上有するエポキシ化合物が挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0071】
保護膜形成層には、バインダーポリマー成分(A)100質量部に対して、エポキシ系化合物が、好ましくは1〜1000質量部、より好ましくは10〜500質量部、特に好ましくは20〜200質量部含まれる。熱硬化樹脂の含有量が1質量部未満であると十分な接着性が得られないことがあり、1000質量部を超えるとバインダーポリマー成分(A)に由来する保護膜形成層の可とう性や造膜性が得がたくなる懸念がある。
【0072】
熱硬化剤は、エポキシ系化合物に対する硬化剤として機能し、熱活性潜在性エポキシ樹脂硬化剤とも呼ばれる。好ましい熱硬化剤としては、エポキシ基と反応しうるエポキシ基以外の官能基を1分子中に2個以上有する化合物が挙げられる。その官能基としてはフェノール性水酸基、アミノ基、カルボキシル基および酸無水物などが挙げられる。これらのうち好ましくはフェノール性水酸基、アミノ基、酸無水物などが挙げられ、さらに好ましくはフェノール性水酸基、アミノ基が挙げられる。
【0073】
フェノール系硬化剤の具体的な例としては、多官能系フェノール樹脂、ビフェノール、ノボラック型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン系フェノール樹脂、ザイロック型フェノール樹脂、アラルキルフェノール樹脂が挙げられる。アミン系硬化剤の具体的な例としては、DICY(ジシアンジアミド)が挙げられる。これらは、1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0074】
熱硬化剤の含有量は、エポキシ系化合物100質量部に対して、0.1〜500質量部であることが好ましく、1〜200質量部であることがより好ましい。熱硬化剤の含有量が少ないと硬化不足で保護膜形成層の信頼性が低下することがあり、過剰であると保護膜形成層の吸湿率が高まり半導体装置の信頼性を低下させることがある。
【0075】
硬化性成分に含まれるエポキシ系化合物と熱硬化剤の配合量の合計は、バインダーポリマー成分(A)100質量部に対して、好ましくは40質量部以上、より好ましくは60質量部以上、特に好ましくは75〜250質量部である。
【0076】
<エネルギー線硬化性成分>
エネルギー線硬化性成分としては、エネルギー線重合性基を含み、紫外線、電子線等のエネルギー線の照射を受けると重合硬化する低分子化合物(エネルギー線重合性化合物)を用いることができる。このようなエネルギー線硬化性成分として具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートあるいは1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、オリゴエステルアクリレート、ウレタンアクリレート系オリゴマー、エポキシ変性アクリレート、ポリエーテルアクリレートおよびイタコン酸オリゴマーなどのアクリレート系化合物等の光重合性炭素−炭素二重結合を含む化合物を用いることができる。
【0077】
なお、粘着剤近接層4bがエネルギー線硬化性成分を含有する場合は、エネルギー線硬化性成分と粘着剤層中のエネルギー線照射により重合可能な化合物が同時に重合し、保護膜形成層と粘着剤層が密着してしまうことを避けるために、粘着剤層はエネルギー線照射により重合可能な化合物を実質的に含まないことが好ましい。一方、粘着剤層がエネルギー線照射により重合可能な化合物の重合物を実質的に含んでいたとしても、かかる問題は生じない。
【0078】
保護膜形成層にエネルギー線硬化性を付与することで、保護膜形成層を簡便かつ短時間で硬化でき、保護膜付チップの生産効率が向上する。熱硬化樹脂の硬化温度は100〜200℃程度であり、また硬化時間は2時間程度を要している。これに対し、エネルギー線硬化性の保護膜形成層は、エネルギー線照射により短時間で硬化するため、簡便に保護膜を形成でき、生産効率の向上に寄与しうる。
【0079】
しかしながら、本発明においては、硬化性成分としては、熱硬化性成分が好ましく用いられる。保護膜形成層が熱硬化性である場合に、保護膜形成層の硬化後に保護膜と粘着剤との間の密着性が高まり、剥離が困難となる問題は、熱硬化性の保護膜形成層を用いた場合に特に顕著であるが、本発明の保護膜形成層付ダイシングシートによれば、粘着剤層と保護膜との過度の密着を解消することができる。つまり、本発明の効果は保護膜形成層が、熱硬化性である場合に特に好ましく発揮される。また、粘着剤層2と保護膜形成層4との界面に存在するエポキシ基含有化合物が、保護膜形成層4に転写されても、熱硬化の際に同時に硬化される結果、低分子量化合物のまま残留することはなく、保護膜付きチップの信頼性低下の原因となることが防止されるため好ましい。また、粘着剤近接層4bの熱硬化性成分がエポキシ系熱硬化性成分であると、粘着剤層2と粘着剤近接層4bとの界面に存在するエポキシ基含有化合物も熱硬化性成分として機能するため、粘着剤近接層4bの特性への影響は少なく、また保護膜形成層4を硬化して得られる保護膜の機能への影響も少ないためより好ましい。
【0080】
(C)着色剤
保護膜形成層は、着色剤(C)を含有することが好ましい。保護膜形成層に着色剤を配合することで、半導体装置を機器に組み込んだ際に、周囲の装置から発生する赤外線等を遮蔽し、それらによる半導体装置の誤作動を防止することができ、また保護膜形成層を硬化して得た保護膜に、製品番号等を印字した際の文字の視認性が向上する。すなわち、保護膜を形成された半導体装置や半導体チップでは、保護膜の表面に品番等が通常レーザーマーキング法(レーザー光により保護膜表面を削り取り印字を行う方法)により印字されるが、保護膜が着色剤(C)を含有することで、保護膜のレーザー光により削り取られた部分とそうでない部分のコントラスト差が充分に得られ、視認性が向上する。着色剤(C)としては、有機または無機の顔料および染料が用いられる。これらの中でも電磁波や赤外線遮蔽性の点から黒色顔料が好ましい。黒色顔料としては、カーボンブラック、酸化鉄、二酸化マンガン、アニリンブラック、活性炭等が用いられるが、これらに限定されることはない。半導体装置の信頼性を高める観点からは、カーボンブラックが特に好ましい。着色剤(C)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明における保護膜形成層の高い硬化性は、可視光および/または赤外線と紫外線との両方の透過性を低下させる着色剤を用い、紫外線の透過性が低下した場合に、特に好ましく発揮される。可視光および/または赤外線と紫外線との両方の透過性を低下させる着色剤としては、上記の黒色顔料のほか、可視光および/または赤外線と紫外線との両方の波長領域で吸収性または反射性を有するものであれば特に限定されない。
【0081】
着色剤(C)の配合量は、保護膜形成層を構成する全固形分中における質量割合として、好ましくは0.1〜35質量%、さらに好ましくは0.5〜25質量%、特に好ましくは1〜15質量%である。
【0082】
(D)硬化促進剤
硬化促進剤(D)を、保護膜形成層の硬化速度を調整するために用いてもよい。硬化促進剤(D)は、特に、硬化性成分(B)において、エポキシ系化合物と熱硬化剤とを併用する場合に好ましく用いられる。
【0083】
好ましい硬化促進剤としては、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの3級アミン類;2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールなどのイミダゾール類;トリブチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどの有機ホスフィン類;テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレートなどのテトラフェニルボロン塩などが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0084】
硬化促進剤(D)は、硬化性成分(B)100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、さらに好ましくは0.1〜5質量部の量で含まれる。硬化促進剤(D)を上記範囲の量で含有することにより、高温度高湿度下に曝されても優れた接着特性を有し、厳しいリフロー条件に曝された場合であっても高い信頼性を達成することができる。硬化促進剤(D)の含有量が少ないと硬化不足で十分な硬度、接着特性が得られないことがあり、過剰であると高い極性をもつ硬化促進剤は高温度高湿度下で保護膜形成層中を接着界面側に移動し、偏析することにより半導体装置の信頼性を低下させることがある。
【0085】
(E)カップリング剤
有機化合物と反応しうる基と、無機物表面の官能基と結合しうる基を有するカップリング剤(E)を、保護膜形成層のチップに対する接着性、密着性および/または保護膜の凝集性を向上させるために用いてもよい。また、カップリング剤(E)を使用することで、保護膜形成層を硬化して得られる保護膜の耐熱性を損なうことなく、その耐水性を向上することができる。カップリング剤(E)は保護膜形成層のチップに対する接着性を向上させる観点から、接着層4aに用いることが特に好ましい。
【0086】
カップリング剤(E)としては、有機化合物と反応しうる基としてバインダーポリマー成分(A)、硬化性成分(B)などが有する官能基と反応する基を有する化合物が好ましく使用される。カップリング剤(E)としては、シランカップリング剤が望ましい。このようなカップリング剤としてはγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−6−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−6−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、イミダゾールシランなどが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0087】
カップリング剤(E)は、バインダーポリマー成分(A)および硬化性成分(B)の合計100質量部に対して、通常0.1〜20質量部、好ましくは0.2〜10質量部、より好ましくは0.3〜5質量部の割合で含まれる。カップリング剤(E)の含有量が0.1質量部未満だと上記の効果が得られない可能性があり、20質量部を超えるとアウトガスの原因となる可能性がある。
【0088】
(F)無機充填材
無機充填材(F)を保護膜形成層に配合することにより、硬化後の保護膜における熱膨張係数を調整することが可能となり、半導体チップに対して硬化後の保護膜の熱膨張係数を最適化することで半導体装置の信頼性を向上させることができる。また、硬化後の保護膜の吸湿率を低減させることも可能となる。
【0089】
好ましい無機充填材としては、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化鉄、炭化珪素、窒化ホウ素等の粉末、これらを球形化したビーズ、単結晶繊維およびガラス繊維等が挙げられる。これらのなかでも、シリカフィラーおよびアルミナフィラーが好ましい。上記無機充填材(F)は単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。無機充填材(F)の含有量は、保護膜形成層を構成する全固形分100質量部に対して、通常1〜80質量部の範囲で調整が可能である。
【0090】
(G)光重合開始剤
保護膜形成層が、エネルギー線硬化性成分を含有する場合には、その使用に際して、紫外線等のエネルギー線を照射して、エネルギー線硬化性成分を硬化させる。この際、光重合開始剤(G)を含有させることで、重合硬化時間ならびに光線照射量を少なくすることができる。
【0091】
このような光重合開始剤(G)として具体的には、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール、2,4−ジエチルチオキサンソン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンジル、ジベンジル、ジアセチル、1,2−ジフェニルメタン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドおよびβ−クロールアンスラキノンなどが挙げられる。光重合開始剤(G)は1種類単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0092】
光重合開始剤(G)の配合割合は、エネルギー線硬化性成分100質量部に対して0.1〜10質量部含まれることが好ましく、1〜5質量部含まれることがより好ましい。0.1質量部未満であると光重合の不足で満足な転写性が得られないことがあり、10質量部を超えると光重合に寄与しない残留物が生成し、保護膜形成層の硬化性が不十分となることがある。
【0093】
(H)汎用添加剤
保護膜形成層には、上記の他に、必要に応じて各種添加剤が配合されてもよい。各種添加剤としては、レベリング剤、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、イオン捕捉剤、ゲッタリング剤、連鎖移動剤などが挙げられる。
【0094】
保護膜形成層における可視光線および/または赤外線と紫外線の透過性を示す尺度である、波長300〜1200nmにおける最大透過率は20%以下であることが好ましく、0〜15%であることがより好ましく、0%を超え10%以下であることがさらに好ましく、0.001〜8%であることが特に好ましい。波長300〜1200nmにおける保護膜形成層の最大透過率を上記範囲とすることで、保護膜形成層がエネルギー線硬化性成分(特に紫外線硬化性成分)を含有する場合には、保護膜形成層が着色されている場合であっても硬化性に優れる。また、可視光波長領域および/または赤外波長領域の透過性が低いため、半導体装置の赤外線起因の誤作動の防止や、印字の視認性向上といった効果が得られる。波長300〜1200nmにおける保護膜形成層の最大透過率は、上記着色剤(C)により調整できる。なお、保護膜形成層の最大透過率は、UV−visスペクトル検査装置((株)島津製作所製)を用いて、硬化後の保護膜形成層(厚み25μm)の3
00〜1200nmでの全光線透過率を測定し、透過率の最も高い値(最大透過率)とした。
【0095】
保護膜形成層の厚さは特に限定されないが、好ましくは3〜300μm、さらに好ましくは5〜250μm、特に好ましくは7〜200μmである。
【0096】
保護膜形成層が、多層の構成である場合には、その全厚は前述のとおりであり、このうち、粘着剤近接層4bの厚さは、好ましくは1〜250μm、より好ましくは3〜200μm、特に好ましくは5〜100μmである。
【0097】
(剥離シート)
保護膜形成層付ダイシングシートには、使用に供するまでの間、表面の外部との接触を避けるための剥離シートを設けてもよい。剥離シートとしては、たとえば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニル共重合体フィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルムなどの透明フィルムが用いられる。またこれらの架橋フィルムも用いられる。さらにこれらの積層フィルムであってもよい。また、これらを着色したフィルム、不透明フィルムなどを用いることができる。剥離剤としては、剥離剤としては、例えば、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル基含有カルバメート等の剥離剤が挙げられる。
【0098】
剥離シートの厚さは、通常は10〜500μm、好ましくは15〜300μm、特に好ましくは20〜250μm程度である。また、保護膜形成層付ダイシングシートの厚みは、通常は1〜500μm、好ましくは5〜300μm、特に好ましくは10〜150μm程度である。
【0099】
(保護膜形成層付ダイシングシート)
保護膜形成層付ダイシングシートは、粘着シート3の粘着剤層2上に、上述の保護膜形成層4を設けてなる。
図2に示したように、保護膜形成層は多層構造であってもよい。
図1、2で示したように、本発明の保護膜形成層付ダイシングシート10は、基材フィルム1と粘着剤層2とからなる粘着シート3の内周部に保護膜形成層4(または多層保護膜形成層)が剥離可能に積層され、粘着シート3の外周部に粘着剤層2が露出していることが好ましい。つまり、粘着シート3よりも小径の保護膜形成層4(または多層保護膜形成層)が、粘着シート3の粘着剤層2上に同心円状に剥離可能に積層されていることが好ましい。なお、
図1においては、保護膜形成層は粘着剤近接層の単層から構成されている。以下、保護膜形成層がこのような単層構成である場合を例にとり説明する。
【0100】
上記構成の保護膜形成層付ダイシングシート10は、粘着シート3の外周部に露出した粘着剤層2において、リングフレーム5に貼付される。
【0101】
また、リングフレームに対する糊しろ(粘着シートの外周部における露出した粘着剤層)上に、環状の両面テープ若しくは粘着剤層を別途設けてもよい。両面テープは粘着剤層/芯材/粘着剤層の構成を有し、両面テープにおける粘着剤層は特に限定されず、たとえばゴム系、アクリル系、シリコーン系、ポリビニルエーテル等の粘着剤が用いられる。粘着剤層は、後述するチップを製造する際に、その外周部においてリングフレームに貼付される。両面テープの芯材としては、例えば、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、液晶ポリマーフィルム等が好ましく用いられる。
【0102】
(保護膜形成層付ダイシングシートの製造方法)
保護膜形成層付ダイシングシートの製造方法としては、次のような方法が挙げられる。まず、剥離シート上に保護膜形成層を形成する。保護膜形成層は、上記各成分を適宜の割合で、適当な溶媒中で混合してなる保護膜形成層用組成物を、適当な剥離シート上に塗布乾燥して得られる。また、剥離シート上に保護膜形成層用組成物を塗布、乾燥して成膜し、これを別の剥離シートと貼り合わせて、2枚の剥離シートに挟持された状態(剥離シート/保護膜形成層/剥離シート)としてもよい。多層保護膜形成層を作成する場合には、上記の操作を別途行い、2枚の剥離シートに挟持された保護膜形成層を複数準備し、それぞれの剥離シートの1枚を剥離して、保護膜形成層を露出させ、露出した保護膜形成層同士を積層することで、2枚の剥離シートに挟持された多層保護膜形成層を得る。
【0103】
次に、保護膜形成層が2枚の剥離シートに挟持された状態の場合には一方の剥離シートを剥離する。そして、保護膜形成層を貼付するワーク(例えば半導体ウエハ等)と同じサイズもしくは一回り大きい円形に型抜きし、円形に型抜きされた保護膜形成層の周囲をカス取りする。また、2枚の剥離シートに挟持された状態の場合には、一方の剥離シートと保護膜形成層を型抜きし、保護膜形成層を剥離シートごとカス取りし、その後に型抜きされた剥離シートを剥離してもよい。
【0104】
ここで、粘着シート3の製造方法について説明する。粘着剤層2は、基材フィルム1上に直接塗工されてもよく、剥離フィルムなどの工程フィルム上に形成した後、基材フィルム上に転写してもよい。粘着剤層2を形成する塗工装置としては、ロールコーター、ナイフコーター、ロールナイフコーター、ファウンテンダイコーター、スロットダイコーター、リバースコーターなどが挙げられる。
【0105】
また、粘着剤層2がエネルギー線架橋性を有する場合、粘着剤層の塗工後、エネルギー線照射することで、粘着剤層の凝集力を制御してもよい。
【0106】
次いで、円形の保護膜形成層4を、上記の方法等により用意した粘着シート3の粘着剤層2に貼付し、リングフレームに対する糊しろの外径に合わせて同心円状に型抜きし、型抜きされた粘着シートの周囲を除去する。
【0107】
粘着シートの粘着剤層にエネルギー線により重合可能な化合物の重合物を含有させようとする場合、保護膜形成層付ダイシングシートの製造段階において、粘着シートと保護膜形成層を貼り合せる前に粘着剤層にエネルギー線を照射して、エネルギー線により重合可能な化合物を重合させてよいし、粘着シートと保護膜形成層を貼り合せた後に粘着剤層にエネルギー線を照射して重合させてもよい。
【0108】
最後に、保護膜形成層に貼付された剥離シートを剥離することで、本発明の保護膜形成層付ダイシングシート10を得る。
【0109】
(チップの製造方法)
次に本発明に係る保護膜形成層付ダイシングシート10の利用方法について、該シートをチップ(例えば半導体チップ等)の製造に適用した場合を例にとって説明する。
【0110】
本発明に係る保護膜形成層付ダイシングシートを用いた半導体チップの製造方法は、表面に回路が形成された半導体ウエハ(ワーク)の裏面に、上記シートの保護膜形成層を貼付し、以下の工程(1)〜(3)を、[(1)、(2)、(3)]または[(2)、(1)、(3)] または[(2)、(3)、(1)]の順で行い、裏面に保護膜を有する半導体チップを得ることを特徴としている。
【0111】
工程(1):保護膜形成層を硬化し保護膜を得る工程、
工程(2):半導体ウエハ(ワーク)と、保護膜形成層または保護膜とをダイシングする工程、
工程(3):保護膜形成層または保護膜と粘着シートとを剥離する工程。
【0112】
また、本発明に係る半導体チップの製造方法は、上記工程(1)〜(3)の他に、下記の工程(4)をさらに含み、上記工程(1)の後のいずれかの工程において、工程(4)を行うこともできる。
工程(4):保護膜にレーザー印字を行う工程。
【0113】
半導体ウエハはシリコンウエハであってもよく、またガリウム・砒素などの化合物半導体ウエハであってもよい。ウエハ表面への回路の形成はエッチング法、リフトオフ法などの従来より汎用されている方法を含む様々な方法により行うことができる。次いで、半導体ウエハの回路面の反対面(裏面)を研削する。研削法は特に限定はされず、グラインダーなどを用いた公知の手段で研削してもよい。裏面研削時には、表面の回路を保護するために回路面に、表面保護シートと呼ばれる粘着シートを貼付する。裏面研削は、ウエハの回路面側(すなわち表面保護シート側)をチャックテーブル等により固定し、回路が形成されていない裏面側をグラインダーにより研削する。ウエハの研削後の厚みは特に限定はされないが、通常は20〜500μm程度である。その後、必要に応じ、裏面研削時に生じた破砕層を除去する。破砕層の除去は、ケミカルエッチングや、プラズマエッチングなどにより行われる。
【0114】
次いで、半導体ウエハの裏面に、上記保護膜形成層付ダイシングシートの保護膜形成層を貼付する。その後、工程(1)〜(3)を[(1)、(2)、(3)]または[(2)、(1)、(3)]または[(2)、(3)、(1)]の順で行う。一例として、工程(1)〜(3)を[(1)、(2)、(3)]の順で行う場合について説明する。なお、以下の説明では、(1)工程を行った後、(2)工程を行う前に(4)工程を行っている。
【0115】
まず、表面に回路が形成された半導体ウエハの裏面に、上記保護膜形成層付ダイシングシートの保護膜形成層を貼付する。次いで保護膜形成層を硬化し、ウエハの全面に保護膜を形成する。この結果、ウエハ裏面に保護膜が形成され、ウエハ単独の場合と比べて強度が向上するので、取扱い時の薄くなったウエハの破損を低減できる。また、ウエハやチップの裏面に直接保護膜用の塗布液を塗布・被膜化するコーティング法と比較して、保護膜の厚さの均一性に優れる。
【0116】
また、本発明の保護膜形成層付ダイシングシートにおいて保護膜形成層が熱硬化性を有する場合には、耐熱性に優れる基材フィルムを用いることにより、熱硬化時の変形による弛みが抑制され、ダイシングやピックアップ(保護膜からの粘着シートの剥離)が容易となるという効果が好ましく発揮される。
【0117】
次いで、硬化した保護膜形成層(保護膜)にレーザー印字することが好ましい。レーザー印字はレーザーマーキング法により行われ、レーザー光の照射により粘着シート越しに保護膜の表面を削り取ることで保護膜に品番等をマーキングする。本発明の保護膜形成層付ダイシングシートによれば、極薄のウエハであってもウエハの反りを抑制できるため、レーザー光の焦点が正確に定まり、精度よくマーキングを行える。
【0118】
次いで、半導体ウエハと保護膜形成層付ダイシングシートとの積層体(半導体ウエハと保護膜と粘着シートとの積層体)を、ウエハ表面に形成された回路毎にダイシングし、半導体チップと保護膜形成層付ダイシングシートとの積層体を得る。ダイシングは、ウエハと保護膜をともに切断するように行われる。本発明の保護膜形成層付ダイシングシートによれば、ダイシング時において保護膜に対して粘着シートが十分な粘着力を有するため、チッピングやチップ飛びを防止することができ、ダイシング適性に優れる。ダイシングは特に限定はされず、一例として、ウエハのダイシング時には保護膜形成層付ダイシングシートの周辺部(粘着シートの外周部)をリングフレームにより固定した後、ダイシングブレードなどの回転丸刃を用いるなどの公知の手法によりウエハのチップ化を行う方法などが挙げられる。ダイシングによる粘着シートへの切り込み深さは、保護膜形成層を完全に切断していればよく、保護膜形成層との界面から0〜30μmとすることが好ましい。基材フィルムへの切り込み量を小さくすることで、ダイシングブレードの摩擦による基材フィルムの溶融や、基材フィルムにおけるバリ等の発生を抑制することができる。
【0119】
その後、上記粘着シートをエキスパンドしてもよい。本発明における粘着シートの基材フィルムとして、伸張性に優れたものを選択した場合は、本発明の保護膜形成層付ダイシングシートは、優れたエキスパンド性を有する。ダイシングされた保護膜付半導体チップをコレット等の汎用手段によりピックアップすることで、保護膜と粘着シートとを剥離する。この結果、裏面に保護膜を有する半導体チップ(保護膜付半導体チップ)が得られる。本発明の保護膜形成層付ダイシングシートでは、粘着剤層2に含まれる遊離のエポキシ基含有化合物が、粘着剤表面において油膜状の薄膜を形成することで、粘着剤層2と保護膜形成層(または保護膜)との相互作用が少なくなり、粘着剤層2と保護膜形成層(または保護膜)との間での剥離が容易になると考えられる。この結果、保護膜形成層(または保護膜)付き半導体チップのピックアップを容易に行うことができる。
【0120】
このような本発明の製造方法によれば、厚みの均一性の高い保護膜を、チップ裏面に簡便に形成でき、ダイシング工程やパッケージングの後のクラックが発生しにくくなる。また、本発明によれば、保護膜が形成されたウエハをダイシングテープに貼り替えてダイシングしていた従来の工程と比較して、ダイシングテープへの貼り替えを行うことなく保護膜付チップを得ることができ、製造工程の簡略化が図られる。また、研削により脆弱化したウエハを単体で扱うことがなくなるため、ウエハ破損の危険を低減する。さらに、薄型化ウエハは保護膜の硬化収縮により反りが発生することがあるが、粘着シートで保持されているため反りも抑制することができる。そして、半導体チップをフェースダウン方式で所定の基台上に実装することで半導体装置を製造することができる。また、裏面に保護膜を有する半導体チップを、ダイパッド部または別の半導体チップなどの他の部材上(チップ搭載部上)に接着することで、半導体装置を製造することもできる。
【0121】
なお、工程(1)〜(3)を[(2)、(1)、(3)]の順で行った場合も、本発明の保護膜形成層付ダイシングシートを用いることで、保護膜付き半導体チップのピックアップを容易に行うことができるという効果が得られる。従来、保護膜形成層の硬化後(工程(1)後)において、粘着シートからの保護膜付チップの剥離(工程(3))が困難になるという問題がある。しかし、本発明によればこの問題が解消される。このため、本発明では、工程(3)の前に工程(1)が行われる場合、つまり工程(1)〜(3)を[(1)、(2)、(3)]の順または [(2)、(1)、(3)]の順に行う場合に、好ましく適用できる。さらに、工程(1)〜(3)を[(2)、(3)、(1)]の順で行った場合には、本発明の保護膜形成層付ダイシングシートを用いることで、保護膜形成層付き半導体チップのピックアップを容易に行うことができ、その後、保護膜形成層を硬化する(工程(1))ことで、保護膜付き半導体チップが得られる。保護膜形成層の硬化は、最終的に行われる樹脂封止時の加熱工程において行なってもよい。
【実施例】
【0122】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、<粘着力>、<ピックアップ適性>、<チップトレーへの付着性>は次のように測定・評価した。また、下記の<保護膜形成層用組成物>、<粘着剤組成物>、<基材>を用い<保護膜形成層付きダイシングシート>を作成した。
【0123】
<粘着シートと保護膜の間の粘着力>
保護膜形成層付ダイシングシートを25mmの幅に裁断して試料とし、70℃に加熱しながらシリコンミラーウエハに貼付した。その後保護膜形成層を硬化させるために130℃2時間の熱硬化を行った。硬化した保護膜から粘着シートをJIS Z 0237:2009に準拠して180°で剥離し、粘着力を測定した。なお、上記工程「(2)、(3)、(1)」の順の工程を想定した場合も考え、上記保護膜形成層の熱硬化工程を行わなかった場合の粘着力測定も行った。
【0124】
<ピックアップ適性>
厚み350μm、直径6インチ、♯2000研磨を行ったシリコンウエハの研磨面に保護膜形成層付ダイシングシートの保護膜形成層を70℃に加熱しながら貼付した。次いで、保護膜形成層付ダイシングシートを貼付したウエハを130℃の加熱オーブンに2時間投入して、保護膜形成層を硬化させた。次いで、ダイサー(ディスコ株式会社製、DFD651)を用いて、ブレード速度40mm/秒で、基材フィルムに15μmの深さに切り込みが入るようにして3mm×3mmのサイズのチップにウエハをダイスした。その際、チップ飛びの有無を目視で観察した。次いで、ダイボンダー(キャノンマシナリー社製、Bestem−D02)により50個のチップのピックアップを行い、ピックアップできた個数を調べた。なお、上記工程「(2)、(3)、(1)」の順の工程を想定して、上記保護膜形成層の熱硬化工程を行わなかった場合のピックアップ試験も行った。
【0125】
<チップトレーへの付着性>
ピックアップされたチップをプラスチックトレーに入れて1日放置後に、トレーを逆さまにしてチップがトレーに付着していないかどうかを確認した。
【0126】
<エポキシ指数>
また、実施例および比較例において、粘着剤の「エポキシ指数」の測定は、JIS K7236に準拠し、指示薬滴定法にて行った。試料として、ダイシングテープの製造過程において基材上に積層しない状態で採取した粘着剤を、室温で1週間エージングしてから測定に供した。測定用の粘着剤約1.0gをソックスレー中に投入し、ウォーターバス(シバタ社製、SB−6)で沸点以上に加熱した酢酸エチル溶媒の還流により抽出してゾル成分を得た。エポキシ指数の滴定は、酢酸エチル溶媒を揮発し、前記ゾル成分をクロロホルム約50mlで溶解した状態で行った。なお、表1 におけるエポキシ指数は抽出前の粘着剤重量1kg当たりの換算値である。
【0127】
<保護膜形成層用組成物>
保護膜形成層を構成する各成分と配合量を下記に示す(各成分/配合量)。
(A)バインダーポリマー成分:n−ブチルアクリレート55質量部、メチルメタクリレート10質量部、グリシジルメタクリレート20質量部、及び2−ヒドロキシエチルアクリレート15質量部からなるアクリルポリマー(重量平均分子量:90万、ガラス転移温度:−28℃) /100質量部
(B)硬化性成分
(B1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量180-200)50質量部、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業(株)製エピクロンHP-7200HH)50質量部を組み合わせたエポキシ系化合物/(合計100質量部)
(B2)熱活性潜在性エポキシ樹脂硬化剤
ジシアンジアミド(旭電化製、アデカハードナー3636AS):2.8重量部
(C)着色剤:カーボンブラック10.0質量部
(D)硬化促進剤:2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成工業社製, キュアゾール2PHZ)2.8重量部
(E)シランカップリング剤:A-1110(日本ユニカー製)/1重量
(F)シリカフィラー:溶融石英フィラー(平均粒径8μm)/300重量部
【0128】
<基材>
厚み100μmのポリプロピレンフィルム CT265(三菱樹脂株式会社製)
【0129】
<粘着剤>
(粘着剤A1)
(メタ)アクリル酸エステル重合体(2−エチルヘキシルアクリレート/酢酸ビニル/ヒドロキシエチルアクリレート= 45/40/5(質量比)、重量平均分子量= 約50万) に、メタクリロイルオキシエチルイソシアナートを80%当量(アクリルポリマー100質量部に対し16質量部)反応させたエネルギー線架橋性重合体100質量部に、光重合開始剤(チバ・スペシャリティケミカルズ社製、イルガキュア(登録商標)184)3.5質量部、エポキシ基含有化合物(大日本インキ化学工業(株) 製、商品名エピクロン(登録商標) EXA-4850-150、分子量約900)10質量部、およびイソシアナート化合物(東洋インキ製造社製、BHS-8515)1.07 質量部を配合(すべて固形分換算による配合比)し、粘着剤組成物とした。
【0130】
(粘着剤A2)
エポキシ基含有化合物の配合量を20質量部とした以外は、粘着剤A1と同様にして粘着剤組成物とした。
【0131】
(粘着剤A3)
粘着剤A1において、エネルギー線架橋性重合体を下記のものに代え、光重合開始剤(チバ・スペシャリティケミカルズ社製、イルガキュア(登録商標)184)の配合量を3.25質量部とした以外は、粘着剤A1と同様にして粘着剤組成物を得た。
(メタ)アクリル酸エステル重合体(ブチルアクリレート/アクリル酸メチル/ヒドロキシエチルアクリレート=50/35/15(質量比)、重量平均分子量= 約84万)に、メタクリロイルオキシエチルイソシアナートを80% 当量(アクリルポリマー100質量部に対し16質量部)反応させたエネルギー線架橋性重合体。
【0132】
(粘着剤A4)
エポキシ基含有化合物としてジャパン・エポキシレジン社製、エピコート(登録商標)828(分子量370)を20質量部とした以外は粘着剤A1と同様にして粘着剤組成物とした。
【0133】
(粘着剤A5)
エポキシ基含有化合物としてジャパン・エポキシレジン社製、エピコート(登録商標)806(分子量約330)を20質量部とした以外は粘着剤A1と同様にして粘着剤組成物とした。
【0134】
(粘着剤A6)
(メタ)アクリル酸エステル重合体(ブチルアクリレート/メチルメタクリレート/ヒドロキシエチルアクリレート=70/25/5(質量比)、重量平均分子量=約50万)に、エポキシ基含有化合物( 大日本インキ化学工業(株)製、商品名エピクロン(登録商標)EXA-4850-150、分子量約900)10質量部、およびイソシアナート化合物(東洋インキ製造社製、BHS-8515)10.0質量部を配合(すべて固形分換算による配合比)し、粘着剤組成物とした。
【0135】
(粘着剤B1)
エポキシ基含有化合物を使用しなかった以外は、粘着剤A1と同様にして粘着剤組成物とした。
【0136】
(粘着剤B2)
エポキシ基含有化合物を使用しなかった以外は、粘着剤A3 と同様にして粘着剤組成物とした。
【0137】
<保護膜形成層付きダイシングシート>
表1に記載の粘着剤を剥離フィルム(リンテック社製、SP−PET3811、厚さ38μm) に乾燥後の塗布量が10g/m
2 となるように塗布し100℃ で1分乾燥した後、基材に積層することで粘着シートを得た。次いで、実施例6以外の粘着シートについて、ウエハに貼付される領域の粘着剤層のみに対して、紫外線照射装置(リンテック社製 RAD−2000m/12)を用いて紫外線(照射条件:照度230mW/cm
2、光量800mJ/cm
2)を照射することにより硬化を行った。
【0138】
別に、上記保護膜形成層用組成物のメチルエチルケトン溶液(固形濃度61質量%)を、剥離シート(リンテック社製、SP−PET3811、厚さ38μm)の剥離処理面上に乾燥後25μmの厚みになるように塗布、乾燥(乾燥条件:オーブンにて120℃、2分間)して、剥離シート上に保護膜形成層を形成した。この保護膜形成層に、他の剥離シートとして、ポリエチレンテレフタレートフィルム(SP−PET381031、厚さ38μm)の剥離処理面を貼り合わせた。次いで、剥離シートを残して保護膜形成層および他の剥離シートのみを切断するようにシリコンウエハと同サイズ(直径8インチ)に型抜きした後、型抜きされた形状の部分を除く部分の保護膜形成層および他の剥離シートを除去し、剥離シート上に円形に型抜きされた保護膜形成層および他の剥離シートを得た。
【0139】
上記粘着シートの粘着剤層(実施例6以外の粘着シートについては、紫外線を照射した領域)上に上記の剥離シート上に形成された保護膜形成層を、型抜きされた他の剥離シートを剥離除去した上で貼付し、リングフレームに対する糊しろの外径(直径260mm)に合わせて同心円状に型抜きした。その後、保護膜形成層上の剥離シートを剥離し、保護膜形成層付ダイシングシートを得た。
【0140】
【表1】