【文献】
大野裕,はじめての認知療法,講談社現代新書2105,株式会社講談社,2011年 5月20日,p.49-54,146-184
【文献】
大野裕,認知療法・認知行動療法 治療者用マニュアルガイド,星和書店,2010年 9月17日,初版,p.119-123(付録1)および付録2-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ユーザの気持ちが揺れた状況において該ユーザに生じた考えである自動思考の入力を促すメッセージを出力する処理を含む自動思考引き出しステップと、前記状況に対して該ユーザが今考えられる考えである適応的思考の入力を促すメッセージを出力する処理を含む適応的思考引き出しステップとを実行する対話型認知の歪み修正支援システムであって、
前記各ステップにおいて、ユーザから必要な情報を引き出すためのメッセージである対話型メッセージを出力するメッセージ出力手段と、
前記各ステップの少なくともいずれか1つのステップにおける前記対話型メッセージを、前記ユーザがこれまでに入力した情報を利用して生成するメッセージ生成手段とを備え、
前記メッセージ生成手段は、前記対話型メッセージとして、前記ユーザが入力した情報から特定される該ユーザの、悩みを表現した語句である悩み語、気持ちを表現した語句である気持ち語の少なくとも1つを用いて前記ユーザの状況もしくは状態に対して共感を示す内容を含むメッセージを生成する
ことを特徴とする認知の歪み修正支援システム。
メッセージ生成手段は、対話型メッセージとして、ユーザが入力した情報を基に生成される、目的の情報をユーザに入力させるためのヒントまたはきっかけとなる内容を含むメッセージを生成する
請求項1に記載の認知の歪み修正支援システム。
ユーザの気持ちが揺れた状況において該ユーザに生じた気持ちの入力を促すメッセージを出力する処理を含む気分引き出しステップを実行する認知の歪み修正支援システムであって、
ユーザが入力した該ユーザの気持ちを表現した情報から、代表的な気持ちとその強度とを特定する気持ち強度特定手段を備え、
メッセージ生成手段は、前記気持ち強度特定手段によって特定された代表的な気持ちとその強度とに基づいて、対話型メッセージとして、ユーザの気持ちへの共感を示すメッセージであって前記強度に応じて表現が異なるメッセージを生成する
請求項1から請求項6のうちのいずれか1項に記載の認知の歪み修正支援システム。
メッセージ生成手段は、自動思考引き出しステップで自動思考の入力を促すメッセージの前置きに表示する対話型メッセージとして、ユーザに生じた気持ちを復唱または代弁するメッセージを生成する
請求項5から請求項7のうちのいずれか1項に記載の認知の歪み修正支援システム。
否定的な自動思考が向きやすい対象を基準に自動思考を分類した所定のカテゴリ別に予め記憶されている、否定的な自動思考の表現に用いられやすい単語またはその用法に関する情報に基づいて、ユーザの自動思考が前記所定のカテゴリのいずれかに該当するか否かを判定する自動思考カテゴリ判定手段を備え、
メッセージ生成手段は、前記自動思考カテゴリ判定手段による判定の結果、ユーザの自動思考が前記所定のカテゴリのいずれかに該当すると判定された場合に、対話型メッセージとして、予め用意しておいた該当するカテゴリに応じた適応的思考または反証をユーザに入力させるためのヒントを示すメッセージを生成する
請求項1から請求項8のうちのいずれか1項に記載の認知の歪み修正支援システム。
思い込みの表現をその表現内容に応じて分類した所定のカテゴリ別に予め記憶されている、思い込みの表現に用いられやすい単語またはその用法に関する情報に基づいて、ユーザが入力した自動思考を表現した情報に含まれる思い込みの表現を抽出することにより、ユーザの自動思考の表現に思い込みの表現があるか否かを判定する思い込み判定手段を備え、
メッセージ生成手段は、前記思い込み判定手段によって思い込みの表現があると判定された場合に、適応的思考または反証をユーザに入力させるためのヒントであって前記思い込み表現が分類される所定のカテゴリに応じたヒントを示すメッセージを生成する
請求項1から請求項9のうちのいずれか1項に記載の認知の歪み修正支援システム。
自動思考の根拠の入力を促すメッセージを出力する処理と自動思考に対する反証の入力を促すメッセージを出力する処理とを含む根拠反証引き出しステップを実行する対話型認知の歪み修正支援システムであって、
メッセージ生成手段は、対話型メッセージとして、ユーザが入力した情報から特定される根拠、または根拠と反証とを用いて、適応的思考をユーザに入力させるためのヒントとして適応的思考の表現の雛形を示すメッセージを生成する
請求項1から請求項10のうちのいずれか1項に記載の認知の歪み修正支援システム。
予め記憶されている曖昧な表現に関する情報に基づいて、ユーザが入力した自動思考を表現した情報に含まれる曖昧な表現を抽出することにより、ユーザの自動思考の表現に曖昧な表現があるか否かを判定する曖昧判定手段を備え、
メッセージ生成手段は、前記曖昧判定手段によって曖昧な表現があると判定された場合に、対話型メッセージとして、前記曖昧な表現を指摘するメッセージを生成する
請求項1から請求項11のうちのいずれか1項に記載の認知の歪み修正支援システム。
ユーザの自動思考を表現した情報またはユーザの自動思考を所定のカテゴリに分類した自動思考カテゴリと、前記自動思考が生じた際のユーザの気持ちを表現した情報またはユーザの気持ちを所定のカテゴリに分類した気持ちカテゴリとに基づいて、自動思考と気持ちとの間の矛盾性の有無を判定する矛盾性判定手段を備え、
メッセージ生成手段は、前記矛盾性判定手段によって自動思考と気持ちとの間に矛盾があると判定された場合に、対話型メッセージとして、前記矛盾を指摘するメッセージを生成する
請求項1から請求項13のうちのいずれか1項に記載の認知の歪み修正支援システム。
メッセージ生成手段は、矛盾性判定手段によって自動思考と気持ちとの間に矛盾があると判定された場合に、対話型メッセージとして、さらに自動思考または気持ちを再確認する、または自動思考または気持ちを深掘するためのメッセージを生成する
請求項14に記載の認知の歪み修正支援システム。
予め記憶されている思い込みの表現に関する情報に基づいて、ユーザが入力した自動思考を表現した情報に含まれる思い込みの表現を抽出することにより、ユーザの自動思考の表現に思い込みの表現があるか否かを判定する思い込み判定手段を備え、
メッセージ生成手段は、前記思い込み判定手段によって思い込みの表現があると判定された場合に、対話型メッセージとして、前記思い込みの表現を指摘するメッセージを生成する
請求項1から請求項15のうちのいずれか1項に記載の認知の歪み修正支援システム。
自他等判定手段は、抽出された悩み語または気持ち語を含む文の主体が自己であるか否かを判定する自他判定、該悩み語または該気持ち語が否定されているか否かを判定する否定判定、該悩み語または該気持ち語を含む文が疑問文となっているか否かを判定する疑問判定、該悩み語または該気持ち語が推量であるか否かを判定する推量判定、該悩み語または該気持ち語が条件項であるか否かを判定する条件判定、の少なくともいずれかの判定を行って、該悩み語または該気持ち語が実際にユーザに起こった出来事またはユーザに生じた気持ちを表現したものであるかを判定する
請求項4から請求項6のうちのいずれか1項に記載の認知の歪み修正支援システム。
自他等判定手段は、予め悩み語または気持ち語となりうる語句もしくは表現を含む文に対して該語句もしくは該表現が実際にユーザに起こったことであるか否かを人が判定した結果を学習した機械学習器を用いて、抽出された悩み語または気持ち語が実際にユーザに起こった出来事またはユーザに生じた気持ちを表現したものであるか否かを判定する
請求項4から請求項6のうちのいずれか1項に記載の認知の歪み修正支援システム。
自他等判定手段は、否定判定として、抽出された悩み語や気持ち語の後方に出現する否定表現の数に基づいて、抽出された悩み語または気持ち語が否定されているか否かを判定する
請求項17に記載の認知の歪み修正支援システム。
自他等判定手段は、疑問判定として、抽出された悩み語または気持ち語の後方に疑問表現が出現するか否かに基づいて、該悩み語または該気持ち語が疑問文となっているか否かを判定する
請求項17に記載の認知の歪み修正支援システム。
自他等判定手段は、推量判定として、抽出された悩み語または気持ち語の後方に推量表現が出現するか否かに基づいて、該悩み語または該気持ち語が推量であるか否かを判定する
請求項17に記載の認知の歪み修正支援システム。
自他等判定手段は、条件判定として、抽出された悩み語または気持ち語の後方の文字列において条件節となる語があるか否かに基づいて、該悩み語または該気持ち語が条件項であるか否かを判定する
請求項17に記載の認知の歪み修正支援システム。
ユーザの気持ちが揺れた状況において該ユーザに生じた考えである自動思考の入力を促すメッセージを出力する処理を含む自動思考引き出しステップと、前記状況に対して該ユーザが今考えられる考えである適応的思考の入力を促すメッセージを出力する処理を含む適応的思考引き出しステップとを実行する対話型認知の歪み修正支援システムであって、
各ステップの実行順序を制御するフロー制御手段を備え、
前記フロー制御手段は、少なくとも前記自動思考引き出しステップ、前記適応的思考引き出しステップをこの順序で行うことを基本フローとして、前記自動思考引き出しステップまたは前記適応的思考引き出しステップでのユーザ入力が進んでいないと判定した場合に、当該ステップを中断して、中断した当該ステップにおけるユーザの入力のきっかけまたはヒントとなる情報の入力を促すメッセージを出力する処理を含む所定のステップに移行するフロー制御を行う
ことを特徴とする認知の歪み修正支援システム。
ユーザの気持ちが揺れた状況において該ユーザに生じた気持ちの入力を促すメッセージを出力する処理を含む気分引き出しステップを実行する認知の歪み修正支援システムであって、
フロー制御手段は、自動思考引き出しステップでのユーザ入力が進んでいないと判定した場合に、前記気分引き出しステップに移行するフロー制御を行う
請求項24に記載の認知の歪み修正支援システム。
自動思考の根拠の入力を促すメッセージを出力する処理と自動思考に対する反証の入力を促すメッセージを出力する処理とを含む根拠反証引き出しステップを実行する対話型認知の歪み修正支援システムであって、
フロー制御手段は、適応的思考引き出しステップでのユーザ入力が進んでいないと判定した場合に、前記根拠反証引き出しステップに移行するフロー制御を行う
請求項24または請求項25に記載の認知の歪み修正支援システム。
ユーザの気持ちが揺れた状況において該ユーザに生じた考えである自動思考の入力を促すメッセージを出力する処理を含む自動思考引き出しステップと、前記状況に対して該ユーザが今考えられる考えである適応的思考の入力を促すメッセージを出力する処理を含む適応的思考引き出しステップとを実行する対話型認知の歪み修正支援システムに適用される認知の歪み修正支援用プログラムであって、
コンピュータに、
前記各ステップにおいて、ユーザから必要な情報を引き出すためのメッセージである対話型メッセージを出力するメッセージ出力処理、および
前記各ステップの少なくともいずれか1つのステップにおける前記対話型メッセージを、前記ユーザがこれまでに入力した情報を利用して生成するメッセージ生成処理を実行させ、
前記メッセージ処理において、前記対話型メッセージとして、前記ユーザが入力した情報から特定される前記ユーザの悩みを表現した語句である悩み語、気持ちを表現した語句である気持ち語の少なくとも1つを用いて前記ユーザの状況もしくは状態に対して共感を示す内容を含むメッセージを生成させる
認知の歪み修正支援用プログラム。
ユーザの気持ちが揺れた状況において該ユーザに生じた考えである自動思考の入力を促すメッセージを出力する処理を含む自動思考引き出しステップと、前記状況に対して該ユーザが今考えられる考えである適応的思考の入力を促すメッセージを出力する処理を含む適応的思考引き出しステップとを実行する対話型認知の歪み修正支援システムに適用される認知の歪み修正支援用プログラムであって、
コンピュータに、
前記自動思考引き出しステップ、前記適応的思考引き出しステップをこの順序で行うことを基本フローとして、前記自動思考引き出しステップまたは前記適応的思考引き出しステップでのユーザ入力が進んでいないと判定した場合に、当該ステップを中断して、中断した当該ステップにおけるユーザの入力のきっかけまたはヒントとなる情報の入力を促すメッセージを出力する処理を含む所定のステップに移行するフロー制御処理
を実行させるための認知の歪み修正支援用プログラム。
ユーザの気持ちが揺れた状況において該ユーザに生じた気持ちの入力を促すメッセージを出力する処理を含む気分引き出しステップを実行する認知の歪み修正支援システムに適用される認知の歪み修正支援用プログラムであって、
コンピュータに、
自動思考引き出しステップでのユーザ入力が進んでいないと判定した場合に、前記気分引き出しステップに移行するフロー制御処理を実行させる
請求項41に記載の認知の歪み修正支援用プログラム。
自動思考の根拠の入力を促すメッセージを出力する処理と自動思考に対する反証の入力を促すメッセージを出力する処理とを含む根拠反証引き出しステップを実行する対話型認知の歪み修正支援システムに適用される認知の歪み修正支援用プログラムであって、
コンピュータに、
適応的思考引き出しステップでのユーザ入力が進んでいないと判定した場合に、前記根拠反証引き出しステップに移行するフロー制御処理を実行させる
請求項41または請求項42に記載の認知の歪み修正支援用プログラム。
【発明を実施するための形態】
【0025】
まず、言葉の定義を説明する。認知再構成法において、相談者の心が揺れた状況においてその相談者に生じた考えを「自動思考」という。この自動思考において認知の歪みが生じていると偏った考えから事実を間違って認識して気持ちが落ち込みやすくなったり、目的を達成しにくくさせたりすることがある。このような認知の歪みを修正したりまたは歪みがあることをユーザに気付かせて気持ちの改善を図るためには、相談者の気持ちを生じさせた自動思考を特定することが重要である。また、本発明では、ユーザの意識に上った情報であって、状況、自動思考、気分、自動思考を生じた根拠などの解決に必要な情報や、自動思考に対する反証や適応的思考などの解決策となる情報をまとめて「ユーザ意識情報」という。
【0026】
実施形態1.
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態のメンタルヘルスケアシステムの構成例を示すブロック図である。
図1に示すメンタルヘルスケアシステムは、ユーザインタフェース部1(以下、UI部1)と、対話機能部2とを備える。また、対話機能部2は、フロー制御部3と、情報共有部4と、情報引き出し部5とを含む。なお、情報引き出し部5には、状況引き出し部51と、自動思考引き出し部52と、適応的思考引き出し部53と、気分引き出し部54と、根拠・反証引き出し部55とが含まれている。
【0027】
UI部1は、本システムのユーザインタフェースとなる画面をユーザに提供する機能部である。また、UI部1は、予め画面情報によって規定されている画面制御を実行する。UI部1は、ディスプレイやマウス、またはLANカードなどのネットワーク通信手段等の入出力手段を有し、一般的な画面制御に用いられるプロトコルやプログラムに準じた処理が可能であれば、特に限定されない。
【0028】
画面制御には、例えば、相談者が情報を記入後、対話機能部2で記入内容について共感や内容に関する提案を行えるようにするために、記入内容を対話機能部2(より具体的には、フロー制御部3や各情報引き出し部5)に引き渡す処理が含まれる。「記入後」とは、例えば、記入した画面上にある「次へ」ボタンなどが押下されたときである。また、「記入後」とは、例えば、テキストボックスからフォーカスがはずれたときであってもよい。また、「記入後」とは、例えば、ユーザからの入力キーにおいて「。」(句点)に続いてリターンキーが押下されたときであってもよい。
【0029】
また、画面制御には、例えば、相談者が記入する前に、対話機能部2で相談者の記入を促進するような対話を行えるようにするために、画面遷移の情報や画面上の各種イベントを対話機能部2に通知する処理が含まれる。「記入前」とは、例えば、対象とするステップの前のステップに対応づけられた画面において「次へ」といった画面遷移を指示するボタンが押下されたときである。また、「記入前」とは、例えば、対象とするステップに対応づけられた入力画面において情報記入用のテキストボックスなどからフォーカスが外れたときであってもよい。また、「記入前」とは、例えば、予めリターンキーの入力をユーザからの入力の終わりと指定しておいた場合において、対象とするステップの前のステップに対応づけられた画面においてリターンキーが押下されたときであってもよい。
【0030】
また、画面制御には、例えば、画面上に相談者が対話的支援を求めるためのボタン等が配置される場合に、そのような制御ボタン等が押下された旨を対話機能部2に通知する処理が含まれる。また、例えば、ユーザに何らかの文字を入力させるステップにおいて、予め定められた所定の時間ごとに文字数を計測した値が増えていないことを条件にフロー切り替えを動作させるために、所定の時間ごとの文字数の計測やその増加チェックが画面制御に含まれてもよい。また、画面制御には、対話機能部2が所定の時間ごとの文字数の計測やその増加チェックができるように、入力文字数の情報を提供する処理が含まれてもよい。なお、上述の所定の時間すなわち計測間隔は、一定であってもよいし、書きはじめは多少時間がかかることを考慮して可変であってもよい。
【0031】
なお、これらの画像制御は、いずれも予め画面情報に規定されているものとし、UI部1では、一般的な画面制御に用いられるプロトコルやプログラムに準じた処理を行えばよい。
【0032】
フロー制御部3は、全体フローを制御する。具体的には、フロー制御部3は、各ステップに対応する情報引き出し部5に、処理の開始や終了を指示したり、必要に応じてステップ間の情報の受け渡しを行う。
【0033】
情報引き出し部5の各処理部(本例では、状況引き出し部51,自動思考引き出し部52,適応的思考引き出し部53,気分引き出し部54,根拠・反証引き出し部55)は、各々割り当てられたステップ処理を実行する。具体的には、情報引き出し部5の各処理部は、認知再構成法に準じたステップに対応して、UI部1を介してユーザに情報を入力させたり、治療関係を醸成させるようなメッセージを出力したりする。なお、情報引き出し部5の各処理部で共通する処理についてはそれを行う処理部を別途設けておき、各処理部が必要に応じてその共通の処理を行う処理部を呼び出す構成であってもよい。
【0034】
以下、具体的なステップ処理について説明する。本実施形態のメンタルヘルスケアシステムが実行する処理は、少なくとも自動思考引き出しステップと、適応的思考引き出しステップとを含むものとする。なお、本実施形態のメンタルヘルスケアシステムが実行する処理は、これらの他に、さらに状況引き出しステップを含むことが好ましい。また、本実施形態のメンタルヘルスケアシステムが実行する処理は、さらに気分引き出しステップと、根拠・反証引き出しステップとを含んでいてもよい。これら各ステップは、基本的には次に示す順番で実行される。すなわち、あれば「状況引き出しステップ」→あれば又はあった上で必要に応じて「気分引き出しステップ」→「自動思考引き出しステップ」→あれば又はあった上で必要に応じて「根拠・反証引き出しステップ」→「適応的思考引き出しステップ」。なお、ここでいう「あれば」とは、当該ステップが実装されていればという意味である。また、「あった上で必要に応じて」とは、当該ステップが実装されていることを前提に、前のステップで当該ステップで引き出そうとしていた情報が得られた場合には省略されてもよいことを表している。さらに、「あった上で必要に応じて」とは、一旦当該ステップをとばして次のステップを実行し、その次ステップで必要な情報が引き出せない場合に当該ステップが実行されるといったフロー制御が行われてもよいことも表している。
【0035】
[状況引き出しステップ]
まず、状況引き出しステップについて説明する。本実施形態において当該ステップ処理に対応づけられている情報引き出し部5は、状況引き出し部51である。状況引き出し部51は、状況引き出しステップで、相談者から「状況」を引き出すための各種処理を実行する。状況引き出し部51が相談者から引き出す情報は、具体的には、認知に歪みのある自動思考が生じたときの状況に関する情報である。この情報は、たとえば、最近ユーザが嫌だと感じた出来事や、最近ユーザの気持ちが揺れたときの状況などに関する情報であってもよい。状況引き出し部51は、当該ステップで、ユーザの問題状況に関する情報の入力を促すメッセージを出力して、ユーザから情報(ユーザの問題状況に関する情報)の入力を受け付ける。
【0036】
図2および
図3は、状況引き出しステップで使用する画面の例を示す説明図である。
図2に例示する画面は、「どんなことで困っているのか教えてください」といった状況、より具体的にはユーザの問題状況に関する情報の記入を促すメッセージを表示する領域と、状況の記入欄とを含む。状況引き出し部51は、状況引き出しステップにおいて、例えば、
図2に示すような画面を用いて、相談者の思う「状況」を表現したテキストを相談者に入力させる。なお、画面は予め作成しておいたものが利用されてもよいし、その都度生成されてもよい。また、画面のパーツとその画面制御を規定した画面情報を予め用意しておき、表示させるメッセージの内容等をリアルタイムに画面に反映させてもよい。この点は他のステップ処理に用いる画面も同様である。
【0037】
また、
図3に例示する画面は、困った状況について「場面」と「出来事」とを分けて入力させるための2つの記入欄を含む。状況引き出し部51は、例えば
図3に示す画面を用いて、相談者から問題状況を引き出すようにしてもよい。なお、この画面は、「場面」の代わりに「時」を入力させるための入力欄を含んでもよい。「場面」や「時」と、「出来事」とを分けて入力させることで、ユーザにSlice of Timeを意識させやすくできる。また、記入欄の行を少なくする(例えば、1行にする)ことでユーザに記入内容が発散しないように絞らせる効果が得られる。また、見かけ上の記入スペースを小さくする、例えば、所定の文字数以内(例えば、100文字以内等)の大きさに制限すれば、ユーザに書く内容を整理しようという気持ちを働かせることができる。なお、あくまで見かけ上の記入スペースの大きさを制限するだけで、実際に入力可能な文字数はこの限りではない。気持ちの改善効果を高めるためには、このようにシーンを明確にして1つの悩みに絞らせることが有効である。
【0038】
また、
図2および
図3に示す例では、いずれも対話感を出すためにメッセージの出力を吹き出し形状にしている。また、会話がまず目に入るように、吹き出しの位置を画面上部に設けるとともに、相対的に字を大きくしている。また、対話感およびユーザの目を引かせるために、メッセージの文字を一文字ずつ遅延させて表示してもよい。
【0039】
また、状況引き出し部51は、対話機能として、相手の困った状況や起きた出来事への共感を示すメッセージを生成し、出力してもよい。メッセージの出力先は、当該ステップの画面上であっても、次のステップの画面上であってもよい。入力された内容から相談者を困らせている状況や辛くしている出来事を具体的に特定し、共感するメッセージを出力することで、メンタルヘルスケアにとって重要な治療関係(信頼関係)を相談者とシステムとの間で醸成することができる。
【0040】
状況引き出し部51は、具体的には、状況の記入欄に相談者が書いたテキスト情報を入力とし、共感するメッセージを生成して出力すればよい。なお、状況を「場面」や「時」と「出来事」とに分けて書かせる場合には、状況引き出し部51は、「出来事」の情報だけを入力としてもよい。
【0041】
共感メッセージは、相手が辛いと感じたことを総括する内容であることが望ましい。「総括」とは、実際に起きたことの要約とその復唱、またはその人の気持ちを代弁もしくは復唱することを意味する。なお、状況引き出し部51は、これら全ての内容を示すメッセージを生成してもよい。
【0042】
例えば、「上司から、明日の会議で使う資料を指摘された。今頃言うなんて・・・。同期も少し怒られたようだ。」という入力がなされた場合には、状況引き出し部51は、「資料を指摘されたのですね。」「それは悲しかったですね。」という共感メッセージを生成、出力してもよい。このように、状況引き出し部51は、ユーザにとっての問題状況が記載された文書から、その人が辛いと感じたことを示す箇所すなわち悩み箇所と気持ちとを特定し、それを復唱するメッセージを出力してもよい。このとき、状況引き出し部51は、気持ちが明記されていなくても、その人が感じた気持ちを推定して、共感メッセージに含めるようにしてもよい。
【0043】
悩み箇所および気持ちの特定は、例えば、辞書を用いて悩みを表現した語句(以下、悩み語という。)や気持ちを表現した語句(以下、気持ち語という。)を抽出することにより行われてもよい。このとき、抽出されたものが相談者自身のことや気持ちであることが重要である。
【0044】
状況引き出し部51は、例えば、辞書を用いて抽出した悩み語や気持ち語の前後の表現を基に、自他判定、否定判定、疑問判定、推量判定、条件判定等の各種個別判定を行ってもよい。そして、状況引き出し部51は、その結果を総合して、抽出された悩み語が相談者に起こったことであるか否かや、抽出された気持ち語が相談者が感じたことであるか否かを判定してもよい。処理手順としては、悩み語や気持ち語の抽出、各種個別判定、総合判定の順に行われればよい。なお、個別判定はこれら全てを必須とするものではなく、どのような認知を扱うか、またどのようなユーザを対象にするか等によって適宜必要と思われるものを取り入れていけばよい。
【0045】
以下、より具体的に説明する。悩み語、気持ち語の抽出は、例えば、予め悩み語または気持ち語となりやすい表現について、その単語の原型を辞書に登録しておき、入力文に対して形態素解析等を行って得られた単語の原型と辞書とをマッチングすることによって行われる。
【0046】
例えば、悩み語辞書に、「指摘−する−れる」、「怒る−られる」が登録されていたとする。このような場合に、「資料を指摘される」という入力文に対して、形態素解析結果として「資料/を/指摘/する/れる」が得られたとする。この場合には、状況引き出し部51は、上記辞書とのマッチングにより、「指摘/する/れる」に該当する部分である「指摘される」を悩み語として抽出してもよい。
【0047】
次に、抽出した悩み語、気持ち語に対する各種判定処理について説明する。まず、自他判定処理について説明する。例えば、「上司から、明日の会議で使う資料を指摘された。同期も少し怒られたようだ」という文章から、「指摘された」と「怒られた」という表現が悩み語として抽出されたとする。ただし、上述の例において「指摘された」は当人の出来事、「怒られた」は同期の出来事である。そこで、主体が当人であるか他人であるかを判定すれば、当人が主体のものを優先することができる。
【0048】
図4は、日本語における自他判定処理のフローの一例を示す説明図である。
図4に示すように、状況引き出し部51は、入力されたテキスト内における、抽出された悩み語または気持ち語とその前後表現を基に、抽出された悩み語または気持ち語を含む1つの文(気持ち表現文や出来事表現文)の主体が自己であるのか他者であるのかもしくは不明であるかを判定してもよい。
図4に示す例では、状況引き出し部51は、話者がどの格で出現したか(属格)を判定し、さらに出現した格と抽出された悩み語または気持ち語を含む文における動詞の態とを組み合わせて主体を判定している。
【0049】
次に、否定判定処理について説明する。否定判定処理では、状況引き出し部51は、抽出された悩み語または気持ち語が否定されているか否かを判定する。そして、状況引き出し部51は、「否定」であれば悩み箇所ではないとみなして、当該悩み語または気持ち語が相談者に生じた悩み、気持ちであるかの判定においてその対象から除外するまたはその度合いを下げる処理を行う。例えば「指摘されずにすんだ」という入力文に対して、「指摘され」の部分が悩み語として抽出された場合を考える。このような場合に、状況引き出し部51は、抽出された悩み語や気持ち語の後方に出現する、「ない」、「不可能」等の否定を示す語句や否定を表す際に用いられる表現(以下、まとめて否定表現という。)を数え、奇数個であれば否定されていると判定してもよい。
【0050】
次に、疑問判定処理について説明する。疑問判定処理では、状況引き出し部51は、悩み語や気持ち語を含む文が疑問文となっているか否かを判定する。そして、状況引き出し部51は、疑問文となっていれば実際に生じたこと・気持ちではないとみなして、当該悩み語または気持ち語が相談者に生じた悩み、気持ちであるかの判定においてその対象から除外するまたはその度合いを下げる処理を行ってもよい。例えば「指摘されるのだろうか」という表現から「指摘され」の部分が悩み語として抽出された場合を考える。このような場合に、状況引き出し部51は、抽出された悩み語や気持ち語の後方に、「だろうか」、「ではないか」や「?」記号など、疑問を表す際に用いられる記号や表現(以下、まとめて疑問表現という。)があれば、疑問文であると判定してもよい。
【0051】
次に、条件判定処理について説明する。条件判定処理では、状況引き出し部51は、悩み語や気持ち語が条件項であるかを判定する。状況引き出し部51は、条件項であれば実際に生じたこと・気持ちではないとみなして対象から除外するまたは優先度を下げる処理を行ってもよい。例えば、「指摘されたら」という表現から「指摘され」の部分が悩み語として抽出された場合を考える。このような場合に、状況引き出し部51は、抽出された悩み語や気持ち語の後方の文字列において、「たら」、「なら」などの条件節となる語があれば、条件項であると判定してもよい。
【0052】
次に、推量判定処理について説明する。推量判定処理では、状況引き出し部51は、悩み語や気持ち語が推量であるか否かを判定する。そして、状況引き出し部51は、推量であれば実際に生じたこと・気持ちではないとみなして、当該悩み語または気持ち語が相談者に生じた悩み、気持ちであるかの判定においてその対象から除外するまたはその度合いを下げる処理を行ってもよい。例えば「指摘されるだろう」という表現から「指摘され」の部分が悩み語として抽出された場合を考える。このような場合に、状況引き出し部51は、抽出された悩み語や気持ち語の後方の文字列において、「だろう」、「かもしれない」などの推量を表す語句や推量を表す際に用いられる表現(以下、まとめて推量表現という。)があれば、推量であると判定してもよい。
【0053】
次に、総合判定処理について説明する。総合判定処理では、状況引き出し部51は、例えば、上記の各判定処理を利用して検出した悩み語や気持ち語に対して、自他、否定、疑問、条件、推量等を必要に応じて判定し、その結果に基づいてこれらの要素(例えば、自他、否定、疑問、条件、推量の5つの要素)からなるベクトルを生成してもよい。そして、状況引き出し部51は、生成したベクトルと、各要素に対して定めておいた重要度を要素とするベクトルの内積を評価値として、入力文内の全ての悩み語、気持ち語に対して計算してもよい。評価値は、重要度の総和などの値で正規化されてもよい。また、状況引き出し部51は、辞書等に悩み語や気持ち語に対して悩みの大きさ、気持ちの大きさを表す強度を付与しておき、それを掛け合わせるなどして評価値に悩みの深刻さを加味させてもよい。最終的に、状況引き出し部51は、評価値の最も高いものや上位数個を相談者の悩み語、気持ち語と判定する。
【0054】
なお、評価値の計算においては、状況引き出し部51は、主体が「自己」であることを必須としたり、「他者」である場合は対象から除外するなど個別の取捨選択を行ってもよい。
【0055】
また、これらの方法以外にも、対象となる「悩み語」、「気持ち語」などを含む文(例えば、予め登録しておいた悩み語や気持ち語となりうる語句や表現を含む文)に対して、実際にユーザに起こったことであるか否かを人が判断しておいてもよい。そして、その結果を正例、負例として機械学習器に学習をさせ、状況引き出し部51は、そのように学習された機械学習器を用いて判定を行ってもよい。
【0056】
図5に、入力文の例と併せて総合判定結果の例を示す。
図5に示す例では、6種類の入力文からそれぞれ抽出された悩み語について、各判定処理の結果と総合判定処理の結果である評価値を示している。なお、
図5に示す例では、自他判定処理の結果が「自己」であれば1、「他者」もしくは「不明」であれば0となる要素と、否定判定処理の結果が「肯定文」であれば1、「否定文」であれば0となる要素と、疑問判定処理の結果が「平叙文」であれば1、「疑問文」であれば0となる要素と、条件判定処理の結果が「主節」であれば1、「条件節」であれば0となる要素と、推量判定処理の結果が「断定」であれば1、「推量」であれば0となる要素とを含むベクトルが生成された。その上で、自他判定の重要度(本例では「1」)と、否定判定の重要度(本例では「0.8」)と、疑問判定の重要度(本例では「0.5」)と、条件判定の重要度(本例では「0.5」)と、推量判定の重要度(本例では「0.2」)とを要素とする重みベクトルが生成され、生成された2つのベクトルの内積を計算した結果を評価値としている。
【0057】
図5に示す例では、「上司に指摘された。」という入力文から抽出される悩み語「指摘−する−れる」(指摘される)に対する評価値は「1」である。また、「同期が指摘された。」という入力文から抽出される悩み語「指摘−する−れる」に対する評価値は「0.66」である。また、「上司に指摘されなかった。」という入力文から抽出される悩み語「指摘−する−れる」に対する評価値は「0.7」である。また、「上司に指摘される?」という入力文から抽出される悩み語「指摘−する−れる」に対する評価値は「0.83」である。また、「もし、上司に指摘されたら、」という入力文から抽出される悩み語「指摘−する−れる」に対する評価値は「0.83」である。また、「上司に指摘されるだろう」という入力文から抽出される悩み語「指摘−する−れる」に対する評価値は「0.93」である。
【0058】
仮に、上記6種類の例文が一人の相談者から書かれた場合、評価値の最も高い「上司に指摘された。」から抽出された悩み語「指摘された」が一番相談者に生じたことらしいと判断できる。なお、総合判定処理では、同じ悩み語に対してのみ行うのではなく、入力文内の全ての悩み語、気持ち語に対して行うことで、悩み語と気持ち語とを1つまたは所定数に絞ることができる。
【0059】
このようにして、状況引き出し部51は、問題状況が記載された文書から、その人が辛いと感じたことを示している箇所すなわち悩み箇所と、可能であれば気持ちを特定する。悩み箇所や気持ちが特定されると、状況引き出し部51は、特定した悩み箇所や気持ちを基に共感のメッセージを生成し、出力する。
【0060】
例えば「5月10日夕方、退社しようとした時、上司から明日の会議で使う資料を指摘された。なんでぎりぎりで…。同期も少し指摘されていたようだ。」という文が入力されたとする。また、悩み語の特定の処理で、入力文中の「指摘された」と「指摘されていた」の2カ所が抽出され、そのうちの前半箇所が悩み箇所として特定されたとする。
【0061】
共感メッセージの生成処理では、状況引き出し部51は、まず、特定された悩み箇所や気持ちの前の文節から「ヲ格」や「ガ格」を取得するなどして、抽出した悩み語や気持ち語を含む語句の整形を行う。本例では、悩み箇所である「指摘された」の前の文節から「資料を」という「ヲ格」を取得して悩み語を示す文字列と合成することで「資料を指摘された」という整形句が得られる。そして、状況引き出し部51は、得られた整形句を用いて共感のメッセージを生成する。本例では、状況引き出し部51は、「資料を指摘されたのですね。それは辛かったですね。」といったメッセージを生成してもよい。このとき、「のですね。それは辛かったですね。」の部分はテンプレートとして用意しておいてもよい。なお、テンプレート文に複数の種類を用意しておき、その中から、所定の順序またはランダムでテンプレート文が選択されるようにしておいてもよい。こうすることで、当該システムを複数回利用するユーザであっても、利用するたびに違うメッセージが提示されるようになるため、システムに飽きることを避けることができる。
【0062】
なお、入力文から気持ちが取得できた場合には、状況引き出し部51は、「辛かった」の部分を取得できた気持ち語に置き換えてもよい。また、辞書に悩み語と対応づけて想起されやすい気持ちを予め対応付けておくなどして、気持ち語が入力文に含まれていない場合でも、悩み語から気持ちを推定し、推定された気持ちを表す表現を含む共感メッセージを生成できるようにしてもよい。
【0063】
また、状況引き出し部51は、本ステップ処理で得られた情報(入力文、ユーザに起きたことの要約、悩み語、気持ち語など)を情報共有部4に記憶し、他のステップで利用可能にしてもよい。
【0064】
[自動思考引き出しステップ]
次に、自動思考引き出しステップについて説明する。本実施形態において当該ステップ処理に対応づけられている情報引き出し部5は、自動思考引き出し部52である。自動思考引き出し部52は、自動思考引き出しステップで、相談者から「自動思考」を引き出すための各種処理を実行する。自動思考引き出し部52が相談者から引き出す情報は、具体的には、状況引き出しステップで聞き出した状況において相談者に生じた考え、特に、辛い気持ちに繋がる考えを示す情報である。自動思考引き出し部52は、当該ステップで、ユーザの気持ちが揺れた状況において生じた自動思考の入力を促すメッセージを出力して、ユーザから情報(自動思考を示す情報)の入力を受け付ける。
【0065】
図6および
図7は、自動思考引き出しステップで使用する画面の例を示す説明図である。自動思考引き出し部52は、自動思考引き出しステップにおいて、例えば
図6に示すような「そのときどんなことを考えたのでしょう」といった自動思考の記入(入力)を促すメッセージを表示する領域と、自動思考の記入欄とを含む画面を用いて、相談者の思う「自動思考」を表現したテキストを相談者に入力させる。
【0066】
また、自動思考引き出し部52は、例えば
図7に示すように、前ステップまでに取得された相談者の気持ちを含ませた上で自動思考の記入を促すメッセージを含む画面を用いてもよい。このようにすることにより、辛い気持ちに繋がった自動思考を書きやすくさせることができる。
【0067】
なお、
図6および
図7に示す例でも、対話感を出すためにメッセージの出力を吹き出し形状にしている。また、会話がまず目に入るように、吹き出しの位置を画面上部に設けるとともに、相対的に字を大きくしている。
【0068】
また、自動思考引き出し部52は、例えば
図7に示すように、自動思考をできるだけ多く挙げさせるため複数の記入欄を含む画面を用いて複数の自動思考を書かせるようにしてもよい。その後、記入された自動思考のうち一番辛い気持ちに繋がったものを選択させる画面を用いて、相談者に自動思考を1つに絞らせてもよい。このように、自動思考をできるだけ挙げさせる画面とそれを選択させる画面とを利用すれば、相談者に自分を客観視しやすくさせることができる。なお、自動思考引き出し部52は、複数の自動思考の中から1つの自動思考を選択させる画面においても、「あなたを一番悲しませている考えはどれでしょう」といったように、前ステップまでに取得された相談者の気持ちを含ませた上で自動思考の選択を促すメッセージを出力してもよい。
【0069】
なお、状況引き出しステップで気持ちを特定できなかった場合や、気持ちの推定処理を行わない場合、自動思考引き出し部52は、当該ステップで気持ちの推定を行ってもよい。自動思考は相談者が感じている辛い気持ちに対応づくものであることが望ましい。また、相談者の状況を知ることができれば、そのとき相談者が感じたであろう気持ちをある程度推察することは可能である。そこで、自動思考引き出し部52が、状況引き出しステップで得た状況を示す情報に基づいて気持ちを推定してもよい。推定された気持ちを自動思考を聞くメッセージと一緒に出力することで、気持ちに繋がる自動思考を暴露させやすくする。
【0070】
また、単に考えを聞くだけで何も誘導もない場合、「そのときどんな考えが思い浮かびましたか」といった自動思考を問う質問に対して、相談者が「悲しかった」など気持ちを書いてしまうことも多い。このような回答を避けるためにも、予め質問メッセージに気持ちを含ませることは有効である。気持ちを含む質問メッセージに対して同じ気持ちを書く相談者は少ないからである。このように、自動思考の記入を促すメッセージにそのときの気持ちを含ませておくことで、自動思考を書くべき記入欄に気持ちが記入されることを防ぐことができる。
【0071】
自動思考引き出し部52は、気持ちの推定処理として、例えば、状況引き出しステップで状況の記入欄に相談者が書いたテキスト情報を入力として、入力されたテキストに含まれる語句を基に気持ちを推定し、推定された気持ちを含む自動思考の記入を促すメッセージを出力してもよい。なお、自動思考引き出し部52は、自動思考の記入を促すメッセージの前の前置きメッセージを出力してもよい。
【0072】
例えば、「上司から、明日の会議で使う資料を指摘された。今頃言うなんて・・・。同期も少し怒られたようだ。」という入力文に対して、自動思考引き出し部52は、「それは悲しいですね。そのときどんな考えが思い浮かびましたか」といった文を出力してもよい。
【0073】
本処理では、自動思考引き出し部52は、問題状況が記載された文書からその人が辛いと感じた気持ちを特定できれば、あとは用意しておいたテンプレートを利用すればよい。出来事に関する情報から気持ちを推定する処理は、状況引き出しステップにおいて説明した方法と同様でよい。なお、状況引き出しステップにおける悩み箇所および気持ちの特定処理でも既に述べたが、気持ちの抽出および推定では、その相談者が実際に感じたことを抽出、推定することが重要である。
【0074】
なお、気持ちの推定に際して、悩み語と気持ちとを対応づけた辞書を利用する場合に、気持ちに対して、「悲しい」、「不安」、「怒り」など所定の数のカテゴリ(以下、気持ちカテゴリという。)を設けておき、各悩み語に対して、その語から想起される1つ以上の気持ちカテゴリをその関連度と共に記憶しておいてもよい。
【0075】
気持ちの推定に気持ちカテゴリを利用する場合、自動思考引き出し部52は、自身に生じたものとして特定された全ての悩み語に対応づけられた気持ちカテゴリを取得してもよい。そして、自動思考引き出し部52は、取得された気持ちカテゴリごとに、その関連度と、対応づけられていた悩み語の評価値との線形和を確信度として計算してもよい。そして、自動思考引き出し部52は、確信度が最も大きい気持ちカテゴリを相談者の気持ちとして出力する。
【0076】
図8は、気持ち推定に用いる辞書の例を示す説明図である。
図8に示すように、予め悩み語となりやすい表現について、その単語の原型を、気持ちカテゴリとの関連度とともに辞書に登録しておいてもよい。
図8では、例えば「指摘される」等の悩み語の原型「指摘−する−れる」に対応づけて、気持ちカテゴリ「悲しい」との間の関連度「0.8」と、気持ちカテゴリ「怒り」との間の関連度「0.2」とが登録されている。また、例えば「相談相手がいない」等の悩み語の原型「相談−相手−いる−いない」に対応づけて、気持ちカテゴリ「悲しい」との間の関連度「0.4」と、気持ちカテゴリ「不安」との間の関連度「0.5」とが登録されている。また、例えば、「一人で」や「独りで」、「独りぼっちで」等の悩み語の原型として「ひとり−で」に対応づけて、気持ちカテゴリ「悲しい」との間の関連度「0.7」と、気持ちカテゴリ「不安」との間の関連度「0.5」とが登録されている。なお、本例では、「−」で繋がる語句の間に「ぼっち」などの語が含まれていても問わないものとしている。また、「残業」の悩み語の原型「残業」に対応づけて、気持ちカテゴリ「悲しい」との間の関連度「0.5」と、気持ちカテゴリ「怒り」との間の関連度「0.6」とが登録されている。
【0077】
ここで、「上司に資料を指摘された。相談相手もいないので、一人で残業して仕上げた。」という文が状況を示すテキスト情報として入力されたとする。また、悩み箇所の特定処理で、入力文に含まれる悩み語として、「指摘された」、「相談相手もいない」、「一人で」、「残業」が特定されたとする。各々の評価値は、「指摘された」=1、「相談相手もいない」=1、「一人で」=0.8、「残業」=0.5であったとする。この場合、自動思考引き出し部52は、特定された各悩み語に対応する気持ちカテゴリを取得し、気持ちカテゴリごとに確信度を、関連度と評価値との積和から以下のように求めてもよい。
【0078】
すなわち、気持ちカテゴリ「悲しい」の確信度は、
図8に示した辞書と上述の評価値の算出結果から、0.8×1+0.4×1+0.7×0.8+0.5×0.5=2.01となる。また、気持ちカテゴリ「不安」の確信度は、
図8に示した辞書と上述の評価値の算出結果から、0.5×1+0.5×0.8=0.9となる。また、気持ちカテゴリ「怒り」の確信度は、
図8に示した辞書と上述の評価値の算出結果から、0.2×1+0.6×0.5=0.5となる。以上の結果から、自動思考引き出し部52は、確信度が最も大きい気持ちカテゴリ「悲しい」を推定結果とし、その「悲しい」を含むメッセージを予め用意しておいたテンプレートに当てはめる等して生成してもよい。本例の場合、自動思考引き出し部52は、「それは悲しくなりますね。」といった共感メッセージを生成し、自動思考の記入を促すメッセージの前に付加してもよいし、「悲しい気持ちになったとき、どんなことを考えていたのでしょうか」といった、生じた気持ちを特定しつつそのときの自動思考の記入を促すメッセージを生成し、出力してもよい。
【0079】
また、自動思考引き出し部52は、得られた自動思考の表現テキストに含まれる曖昧表現への注意喚起を行う機能を有していてもよい。認知行動療法では、自動思考を意識させることが重要であるが、この方法になれていない相談者は「だったかもしれない」など、自動思考を曖昧な表現にしてしまうことが多い。そこで、自動思考引き出し部52は、自動思考引き出しステップで、入力されたテキストから曖昧な表現を検知し、自動思考を言い切りの形で記載させるための注意喚起を行ってもよい。
【0080】
自動思考引き出し部52は、曖昧表現への注意喚起処理として、例えば、自動思考の記入欄に相談者が書いたテキスト情報を入力とし、曖昧な記述を抽出する処理を行い、曖昧な記述があれば自動思考の書き方すなわち表現の仕方に関する指摘を含むメッセージを出力してもよい。
【0081】
例えば、「また資料作りに失敗するかもしれない」という入力文に対して、自動思考引き出し部52は、「『また資料作りに失敗する』という考えがあなたを辛くしているのかもしれませんね。言い切ってみるのも良いと思います。」といった文を出力してもよい。
【0082】
自動思考引き出し部52は、曖昧表現への注意喚起処理において、例えば疑問と推量の表現を抜き出してもよい。自動思考引き出し部52は、疑問と推量の表現を、悩み箇所や気持ちの特定処理で説明した疑問判定や推量判定を利用して抜き出せばよい。具体的には、自動思考引き出し部52は、入力文に対して、形態素解析と構文解析を行った上で、文の後方から動詞があるまで各語句を走査してもよい。そして、自動思考引き出し部52は、動詞が見つかるまでの間で、該動詞が掛かる先で「だろう」「かもしれない」などの推量表現や、「か」や「?」などの疑問表現がないか否かを判定してもよい。判定の結果、それらの表現があれば、自動思考引き出し部52は、それらの文字を含むひとまとまりの文を入力文から切り取り、言い切りの形になるように文末を修正したものを修正案として出力してもよい。
【0083】
また、自動思考引き出し部52は、気持ちと自動思考の矛盾の検知機能を有していてもよい。自動思考引き出し部52は、例えば、相談者の自動思考を表現したテキストまたは相談者の自動思考を所定のカテゴリに分類した自動思考カテゴリと、自動思考が生じた際の相談者の気持ちを表現したテキストまたは相談者の気持ちを所定のカテゴリに分類した気持ちカテゴリとが入力されるとする。このとき、自動思考引き出し部52は、その自動思考を表現したテキストまたは自動思考カテゴリと、気持ちを表現したテキストまたは気持ちカテゴリとに基づいて、自動思考と気持ちとの間の矛盾性の有無を判定してもよい。
【0084】
自動思考は、「喪失」、「危険」、「不当」、「獲得」という4つの認知に関わるものと言われている。そのうちネガティブな自動思考は、「喪失」、「危険」、「不当」の3つであり、それらはそれぞれ「うつ」、「不安」、「怒り」の気持ちを想起させると言われている。このように自動思考と気持ちとは、それぞれをカテゴリに分類すると、1対1の関係にあると言われている。すなわち、「喪失」は「うつ」を想起させ、「危険」は「不安」を想起させ、「不当」は「怒り」を想起させると言われている。なお、「獲得」は「喜び」を想起させると言われている。本例では、自動思考を上記の認知の点で分類したものを「自動思考カテゴリ」と呼び、この自動思考カテゴリに対応する気持ちのカテゴリを「気持ちカテゴリ」と呼ぶ。
【0085】
自動思考引き出し部52は、例えば、自動思考のテキスト表現または自動思考カテゴリから自動思考に対応する気持ちカテゴリを推定してもよい。そして、自動思考引き出し部52は、推定した自動思考に対応する気持ちカテゴリと、相談者から入力させた気持ちを分類した気持ちカテゴリとが一致するか否かを判定することによって、自動思考と気持ちとの間の矛盾性の有無を判定してもよい。
【0086】
自動思考引き出し部52は、例えば、気持ちカテゴリの推定に、文書分類技術として、確率モデルなどの分類器(モデル)を用いてもよい。具体的には、自動思考引き出し部52は、生成モデルや識別モデルなどの文書分類器を用いることができる。なお、自動思考がどの気持ちカテゴリまたはどの自動思考カテゴリに該当するかを特定できるモデルであれば、分類器に特別の制限はない。利用シーンに応じて使い勝手の良いものが選択されればよい。生成モデルの例としては、Naive Bayes(単純ベイズ分類器)やSupport Vector Machine(SVM)などが挙げられる。
【0087】
自動思考カテゴリである各認知カテゴリには、それぞれ考え方の特徴的な傾向がある。例えば、「喪失」カテゴリに分類される認知には、例えば「私には明るい未来が待っていない」という表現のように、「自分がだめだ」、「人が自分をだめという」、「将来がだめだ」といった考え方が多い。また、「危機」カテゴリに分類される認知には、例えば「うつ病患者はきっと職場復帰できない」という表現のように、「身に危険が迫る」、「自分には力がない」、「他の人の支援がない」といった考え方が多い。また、「不当」カテゴリに分類される認知には、例えば「会社が私の自由を奪う」という表現のように、「自分では問題ないと思うが、人が自分をだめだという」といった考え方が多い。自動思考引き出し部52は、自動思考のカテゴリ分類に際し、生成器において、このような考え方の傾向の差異を学習すればよい。
【0088】
また、単語の特徴だけでは、十分な精度が確保できない場合には、自動思考引き出し部52は、認知の表現ならではの特徴、具体的には、時制、主語と動詞の態、文のタイプを素性に加えて学習してもよい。例えば、「喪失」カテゴリに分類される自動思考表現には、次のような特徴がある。すなわち、この自動思考表現では、過去や現在の時制で語られることが多い。また、この自動思考表現では、自分を主語にして能動態で語られることが多い。また、この自動思考表現では、疑問形式で語られることが多い。例えば、「危険」カテゴリに分類される自動思考表現には、次のような特徴がある。すなわち、この自動思考表現では、現在や未来の時制で語られることが多い。また、この自動思考表現では、他者を主語にして能動態で語られることが多い。また、この自動思考表現では、推量形式で語られることが多い。例えば、「不当」カテゴリに分類される自動思考表現には、次のような特徴がある。すなわち、この自動思考表現では、現在や過去の時制で語られることが多い。また、この自動思考表現では、他者を主語にして能動態で語られる、または自分を主語にして受動態で語られることが多い。
【0089】
このように、状況引き出しステップや後述する気持ち引き出しステップにおいて相談者から引き出した(相談者に入力させた)気持ちと、自動思考引き出しステップにおいて相談者から引き出した(相談者に入力させた)自動思考との間に矛盾が生じていたとする。この場合には、自動思考引き出し部52は、「『○○』という考えで『××』という気持ちが生じるのは無理がありませんか」や「『○○』という考えだと、割と悲しくなることが多いと思うのですが、何故怒りを感じるのでしょうか」といった、矛盾があることを知らせるメッセージを出力してもよい。また、この場合には、自動思考引き出し部52は、自動思考や気持ちを再確認または深掘するためのメッセージを出力してもよい。
【0090】
例えば、自動思考表現として「いつも資料作りに失敗する」といった文が入力され、かつ気持ちを表すものとして「不安」カテゴリに該当する気持ち語が入力されたとする。「失敗する」という悩み語に最も合致する自動思考カテゴリは「うつ」である。この場合、自動思考引き出し部52は、例えば、「『いつも資料づくりに失敗する』と考えたなら『ゆううつ』になりますね。そのときはどうして『不安』に感じたのでしょうか。そのとき考えたことをもう少し詳しく教えてください」といった自動思考を見直させるメッセージを出力してもよい。なお、自動思考引き出し部52は、自動思考を見直させるメッセージを出力する以外に、気持ちを見直させるメッセージを出力することも可能である。
【0091】
また、自動思考引き出し部52は、対話機能の一つとして、最終的に得られた自動思考への共感メッセージを生成し、出力してもよい。例えば、「いつも資料作りに失敗する」という文が自動思考の表現テキストとして得られた場合には、自動思考引き出し部52は、「『いつも資料作りに失敗する』という考えがあなたを辛くしているのですね。」といった文を出力してもよい。また、このとき気持ちが特定されている場合には、自動思考引き出し部52は、「『いつも資料作りに失敗する』という考えがあなたを『ゆううつな』気持ちにさせているのですね。」といった文を出力してもよい。
【0092】
また、自動思考引き出し部52は、本ステップ処理で得られた情報(入力文、自動思考の要約、自動思考の分類結果、推定した気持ち、悩み語、悩み語の評価値、自動思考に対する曖昧表現の有無など)を情報共有部4に記憶し、他のステップで利用可能にしてもよい。
【0093】
[適応的思考引き出しステップ]
次に、適応的思考引き出しステップについて説明する。本実施形態において当該ステップ処理に対応づけられている情報引き出し部5は、適応的思考引き出し部53である。適応的思考引き出し部53は、適応的思考引き出しステップで、相談者から「適応的思考」を引き出すための各種処理を実行する。適応的思考引き出し部53が相談者から引き出す情報は、具体的には、自動思考が生じたときの状況について今だったらどう考えられるかを示す情報である。適応的思考引き出し部53は、当該ステップで、ユーザの気持ちが揺れた状況についての適応的思考の入力を促すメッセージを出力し、ユーザから情報(適応的思考を示す情報)の入力を受け付ける。
【0094】
図9および
図10は、適応的思考引き出しステップで使用する画面の例を示す説明図である。適応的思考引き出し部53は、適応的思考引き出しステップにおいて、例えば、
図9に示すような「また同じ状況になったら、どう考えますか」といった適応的思考の記入を促すメッセージを表示する領域と、状況の記入欄とを含む画面を用いて、相談者の思う「適応的思考」を表現したテキストを相談者に入力させる。
【0095】
また、適応的思考引き出し部53は、例えば
図10に示すように、前ステップまでに根拠と反証を取得していた場合には、それらを基に、「『根拠』、『しかし』『反証』」というような根拠と反証を逆接の接続詞で接続した文章を、適応的思考の例文として記入欄に表示して、相談者が適応的思考を入力しやすくしてもよい。なお、根拠や反証が複数記入されていた場合には、適応的思考引き出し部53は、根拠と反証それぞれについて最も文として成立しそうな2つを選んでもよい。また、根拠のみを得ていた場合には、適応的思考引き出し部53は、“「根拠」+しかし”といった逆接で終わる文章を、記入欄に記入しておいてもよい。そうすることで、適応的思考に繋がる反証を書きやすくなる。
【0096】
また、適応的思考引き出し部53は、根拠や反証を得ていない場合でも、自動思考として得た情報から反証のヒントを出力する機能を有していてもよい。
【0097】
適応的思考引き出しステップでは、今後同じ状況になった場合にどう考えられるようになるかを相談者が検討した結果を入力させる。相談者が適応的思考を得るためには、自分の考えとは違う事実、特に自動思考を打ち消すような事実すなわち反証に着目することが重要となる。しかし、考え方が一つの方向に集中してしまう人にとっては反証を自ら考えだすことは難しい。一方で、その答えとなる情報を提示することは認知行動療法の「相談者自身から引き出す」というコンセプトに反することになる。そこで、相談者が「自らの考えとは違う事実」を気づけるようなヒントを提示することで、相談者が反証に気づき適応的思考として引き出せるようにする。
【0098】
適応的思考引き出し部53は、例えば、自動思考の記入欄に相談者が記入したテキスト文書に思い込みの表現が入っていないかを確認し、その結果に基づいてヒントを選択することによって反証のヒントを生成してもよい。その場合、ヒントとなる文章は事前に用意しておいてもよい。適応的思考引き出し部53は、入力された自動思考に対して、予め用意しておいたヒント文のうちどのヒント文が利用できるかを特定すればよい。なお、前ステップで根拠を記入したテキスト文書が取得できた場合、適応的思考引き出し部53は、根拠を記入したテキスト文書も利用してもよい。
【0099】
ヒント文の特定は、例えば、自動思考や根拠を分類することによって行われる。
【0100】
まず、ヒント文の特定のための自動思考の分類について説明する。否定的な自動思考は「自分」「他者」「世界」のいずれかに向きやすいとされている。その見方を変えることで自動思考を別の視点から捉えられる可能性がある。
【0101】
対象が「世界」に分類される自動思考は、世の中や世間に対する否定的認知が多いことが特徴である。このため、表現の例として「世の中」や「世間」といった不特定多数の対象を表現する単語やその用法等を、「世界」カテゴリである旨の情報と対応づけて辞書に保有しておいてもよい。そして、適応的思考引き出し部53は、その辞書とマッチングさせることで、自動思考の対象カテゴリが「世界」か否かを判定してもよい。
【0102】
また、対象が「他者」に分類される自動思考は、特定の人に対する不満が多いことが特徴である。このため、表現の例として人を表す単語や彼、彼女など特定の人を表す単語やその用法等を、「他者」カテゴリである旨を示す情報と対応づけて辞書に保有しておいてもよい。そして、適応的思考引き出し部53は、その辞書とマッチングさせることで、自動思考の対象カテゴリが「他者」か否かを判定してもよい。また、受け身の表現であれば、適応的思考引き出し部53は、他者がいるとするなどで判定してもよい。
【0103】
また、適応的思考引き出し部53は、「自分」カテゴリが、「世界」カテゴリおよび「他者」カテゴリに該当しないものとしてもよい。
【0104】
適応的思考引き出し部53は、このような自動思考のタイプ(対象カテゴリ)に基づいて、ヒントの選択および出力メッセージの生成を行ってもよい。適応的思考引き出し部53は、例えば、
図11に示すように、自動思考の対象カテゴリと対応づけてヒント文を記憶しておき、それを参照し、抽出した自動思考の対象カテゴリに対応するヒント文を選択してもよい。
【0105】
図11では、例えば、「自分」カテゴリに対応づけて、「『できていない』、『だめだ』と考えると辛いですね。では反対に、あなたができていることは何でしょうか」といったヒント文が登録されている例が示されている。また、「他者」カテゴリに対応づけて、「相手の方はどのような考えがあったと思いますか」といったヒント文が登録されている例が示されている。また、「世界」カテゴリに対応づけて、「世の中思い通りにいかないものだ」というヒント文が登録されている例が示されている。
【0106】
また、自動思考に含まれる思い込み表現の分類に応じてヒント文を特定することも可能である。思い込みの表現は、その表現内容に応じて推量表現、可能表現、汎化表現、評価表現、他者心理表現、自己感情表現、限定表現に分けることができる。このような分類ごとに、具体的な表現の例(単語やその用法等)を辞書に登録しておく。
図12は、思い込み表現の分類項目ごとの表現例を登録した辞書の例を示す説明図である。
【0107】
適応的思考引き出し部53は、例えば、上記の辞書を用いて悩み語の抽出方法と同様の方法により、思い込み表現を取得してもよい。このとき、推量表現、可能表現、汎化表現、評価表現、自己感情表現に分類される語句については、自他判定が「自己」であるものを抽出対象とする。また、他者心理表現に分類される語句については、自他判定が「他者」であるものを抽出対象とする。
【0108】
例えば、自動思考の記入欄に「私を憎んでいるようなので、私は彼が嫌いだ。みんな我慢ができないはずだ。」というテキストが入力されたとする。この場合、思い込み表現の候補として、他者心理表現としての「憎む」が、推量表現としての「ようだ」が、自己感情表現としての「嫌い」が、汎化表現としての「みんな」が、可能表現としての「れる」が、推量表現としての「はずだ」がそれぞれ抽出される。
【0109】
また、適応的思考引き出し部53は、例えば
図13に示すように、思い込み表現の種類と対応づけてヒント文を記憶しておき、それを参照し、抽出した思い込み表現に対応するヒント文を選択してもよい。
【0110】
図13では、例えば、自己感情表現に分類される思い込み表現があった場合に、「『抜き出し部分』は、感情的に考えすぎていないか振り返ってみてください。」といったヒント文が登録されている例が示されている。また、推量表現に分類される思い込み表現があった場合に、「『抜き出し部分』はあなたの推測が含まれていないか振り返ってみてください」といったヒント文が登録されている例が示されている。ここで、ヒント文に含まれる『抜き出し部分』とは、思い込み表現として抜き出した語句をあてはめることを意味している。このように、ヒント文のテンプレートを登録することも可能である。テンプレートの内容としては、抽出した表現の特徴を踏まえ、その特徴を指摘するまたはその特徴を否定する事実がないかを考えさせるメッセージを出力できるものであればよい。
【0111】
適応的思考引き出し部53は、このような登録データを用いて、例えば、「いつも資料作りに失敗する」といった入力文に対して、「いつも」という汎化表現を抽出し、登録されているヒント文のテンプレートにあてはめることで、「『いつも』は一般化しすぎていませんか」といった出力メッセージを生成できる。
【0112】
また、適応的思考引き出し部53は、適応的思考引き出しステップが実行されるまでに後述する根拠・反証引き出しステップを経由している場合には、対話機能として、
図10に示したような、根拠または根拠と反証を用いた適応的思考の例文を生成して出力してもよい。
【0113】
適応的思考は、通常、悩んでいる人間にとって今の考え方を見直すことは難しいだけでなく、どう書いてよいかもわかりづらいため、特に記入が難しい項目である。考え方を見直すための方法として、いきなり適応的思考を考えるのではなく、根拠と反証というように、ステップを細かく分けて、自分の考えを整理する方法がとられてもよい(後述する根拠・反証ステップを参照)。
【0114】
このようにステップを細かく分け、根拠と反証を相談者から引き出した場合、適応的思考引き出し部53は、本ステップで、対話機能として、記載の仕方を相談者に理解させることを目的として、根拠と反証から適応的思考の雛形(例文)を作成して出力してもよい。
【0115】
このとき、1つ以上の根拠と1つ以上の反証が得られている場合には、適応的思考引き出し部53は、つながりのよいものを選び、雛形を生成する。具体的には、適応的思考引き出し部53は、全ての組み合わせの中から、適応的思考として文章化する際に、文の意味として破綻しない根拠と反証の組を選択する。適応的思考引き出し部53は、文の意味として破綻しているか否かを、例えば、次のようにして判定すればよい。まず、適応的思考引き出し部53は、逆接の接続詞で連結している文章対とそうでない文章対をネットワーク上から集めておく。適応的思考引き出し部53は、それらの文章対を正例、不例として用いることで、任意の2文の入力に対して、それらが逆接で繋がりやすいか否かを判定できる学習器を構築する。適応的思考引き出し部53は、その学習器に対して、根拠と反論の各組み合わせを入力し、最も逆接の接続詞で繋がりやすいと判定された組み合わせをユーザに提示する。
【0116】
例えば、「いつも資料作りに失敗する」という自動思考に対して、根拠として「以前も資料づくりで指摘された」と「昔から物覚えが悪い」という2つの文が得られたとする。また、反証として「この種の資料作成は初めてだ」と「指摘されずに済んだこともある」という2つの文が得られたとする。このような場合に、適応的思考引き出し部53は、最も逆接の接続詞で繋がりやすい「以前も資料作りで指摘された」と「指摘されずに済んだこともある」の組を選択して、「以前も資料作りで指摘された。しかし、指摘されずに済んだこともある」という適応的思考の雛形文を作成してもよい。
【0117】
また、適応的思考引き出し部53は、ステップ処理で得られた情報(入力文、自動思考のタイプ、思い込み表現の有無、思い込み表現、思い込み表現の分類結果など)を情報共有部4に記憶し、他のステップで利用可能にしてもよい。
【0118】
[気分引き出しステップ]
次に、気分引き出しステップについて説明する。本実施形態において当該ステップ処理に対応づけられている情報引き出し部5は、気分引き出し部54である。気分引き出し部54は、気分引き出しステップで、相談者から自動思考を生じたときの「気分」を引き出すための各種処理を実行する。気分引き出し部54が相談者から引き出す情報は、具体的には、状況引き出しステップで聞き出した状況において感じた気分、特に、最も辛い気持ちを示す情報である。気分引き出し部54は、当該ステップで、ユーザの気持ちが揺れた状況において生じた気持ちの入力を促すメッセージを出力し、ユーザから情報(該気持ちを示す情報)の入力を受け付ける。
【0119】
図14および
図15は、気分引き出しステップで使用する画面の例を示す説明図である。気分引き出し部54は、気分引き出しステップにおいて、例えば
図14に示すような「そのときどんな気持ちになりましたか」といった気持ちの記入を促すメッセージを出力する領域と、気持ちの記入欄とを含む画面を用いて、相談者の思う「気持ち」を表現したテキストを相談者に入力させる。
【0120】
また、気分引き出し部54は、例えば
図15に示すような「資料を指摘されたのですね。そのときどんな気持ちになりましたか」といったように、ユーザの状況を総括した文章を出力した上で、そのときの気持ちを聞くメッセージを出力してもよい。どのときの気持ちを聞いているかを明確にすることで、相談者が自身を辛くしている気持ちを書きやすくすることができる。問題状況の総括メッセージの生成方法は、状況引き出しステップにおいて共感メッセージを生成する方法と同様でよい。なお、本処理の場合は問題状況の総括メッセージに用いる悩み語や気持ち語を1つに絞ることが好ましい。なお、状況引き出し部51が本処理で生成する問題状況の総括メッセージにも相当するメッセージすなわちユーザの状況に対する共感メッセージを情報共有部4に記憶している場合には、気分引き出し部54は、情報共有部4に記憶されている該共感メッセージを読み出して利用してもよい。
【0121】
なお、気持ちの記入欄は、自由記入形式(相談者が自由に語句を記入できる形式)であってもよいし、選択入力形式(予めいくつかの気分を表す語を用意しておき、その中から選択させる形式)であってもよい。また、気持ちの記入欄は、自由記入形式と選択入力形式を組み合わせてもよい。
【0122】
また、気分引き出し部54は、対話機能の一つとして、気持ちへの共感メッセージを生成し、出力してもよい。
【0123】
相談者を辛くしている状況や出来事を具体的に特定し、それによって生じた気持ちへの共感メッセージを出力することで、メンタルヘルスケアにとって重要な治療関係(信頼関係)を相談者とシステムとの間で醸成できる。相談者との間に信頼関係、例えば相談者の気持ちが的確にくみ取られていて、当該システムを利用すれば効果が得られるといった期待がもてる関係を築くためには、複数の悩みに該当する語があっても的確に共感すべき箇所を特定することが重要である。
【0124】
気分引き出し部54は、例えば、気分引き出しステップで相談者に入力させた気持ちを表す情報を入力として、その気持ちに共感するメッセージを生成し、出力してもよい。気分引き出しステップでは、気持ちの強さを数字等で入力できるようにしておき、その値を当該共感メッセージの生成処理の入力に含めてもよい。また、気持ちの強さは、定量的な数字でなくてもよい。画面上に「とても」「ふつう」「すこし」といった気持ちの程度に対応して選択項目を用意しておき、相談者に気持ちの記入または選択とともにその気持ちの程度も選択させ、その選択結果が入力に含まれてもよい。
【0125】
気分引き出し部54は、共感メッセージの生成処理で、例えば、気持ちを表現したテキストからネガティブな単語を抽出する処理を行い、抽出した単語とその気持ちの強度に応じて予め用意しておいた共感メッセージのテンプレート文の内容を変化させてもよい。
【0126】
ネガティブな単語の抽出は、辞書とのマッチング処理によって行える。すなわち、ネガティブな気持ちを表す単語と、代表される気持ちとを対応づけて予め辞書に登録しておき、入力文中に辞書に登録されている単語があれば、それを抽出する。なお、辞書には、自然なメッセージとなるよう文例を対応付けておいてもよい。その際、複数の気持ちに共感する場合と単一の気持ちに共感する場合とのように複数のパターンの文例を用意しておいてもよい。これにより、気分引き出し部54は、より自然な共感メッセージを生成できる。
【0127】
なお、気持ちに強度が付与されている場合には、気分引き出し部54は、値の大きさに応じて、「強く」「かなり」「少し」などの修飾語句を付けてもよい。また、複数の抽出結果が得られた場合に、それぞれを代表的な気持ちに変換した際、重複するものがあれば、気分引き出し部54は、その気持ちを強く感じていると判定してもよい。なお、各単語に重要度を付与しておき、代表的な気持ちカテゴリごとにその和を求めた結果をその気持ちの強度としてもよい。
【0128】
例えば、入力文から「悲しい」と「不安」と「泣きたい」という気持ち語が抽出されたとする。また、「悲しい」に対してその強度を60、「不安」に対してその強度を30、「泣きたい」に対してその強度を40とする入力であったとする。
【0129】
その場合に、気分引き出し部54は、まずこれらをそれぞれ代表的な気持ちに変換してもよい。本例の場合は、「悲しい」「不安」については代表的な気持ちであるためそのままとされ、「泣きたい」が「悲しい」に変換される。その結果、「悲しい」の強度が100、「不安」の強度が30とする抽出結果が得られる。すると、気分引き出し部54は、予め用意しておいたテンプレート文「『強い強度の修飾語』『気持ち表現』、『弱い強度の修飾語』『気持ち表現』だったのですね。」を利用して、「とても悲しく、不安だったのですね。」という共感メッセージを出力してもよい。なお、本例では、代表的な気持ち「悲しい」に対して、前半の文の場合は「悲しく」、その他の場合は「悲しかった」とする例文が登録されている。また、代表的な気持ち「不安」に対して、前半の文の場合は「不安で」、その他の場合は「不安」とする例文が登録されている。また、強い強度の修飾語として「とても」が登録され、弱い強度の修飾語として「(なし)」が登録されている。
【0130】
このように、ユーザの状況や気持ちに対する共感メッセージを出力することで、メンタルヘルスケアにとって重要な治療関係(信頼関係)を相談者とシステムとの間で醸成される効果が期待できる。このような治療関係が醸成されることで、相談者が正直な気持ちを記入しやすくなったり、継続して利用してもらえるようになる。そのため、認知行動療法による効果、具体的には気分の改善、気持ちの整理・切り替えの向上に繋がる。
【0131】
また、気分引き出し部54は、ステップ処理で得られた情報(入力文、気持ち語、気持ちの分類結果など)を情報共有部4に記憶し、他のステップで利用可能にしてもよい。
【0132】
[根拠・反証引き出しステップ]
次に、根拠・反証引き出しステップについて説明する。本実施形態において当該ステップ処理に対応付けられている情報引き出し部5は、根拠・反証引き出し部55である。根拠・反証引き出し部55は、根拠・反証引き出しステップで、自動思考の「根拠」と「反証」を引き出すための各種処理を実行する。根拠・反証引き出し部55が相談者から引き出す情報は、具体的には、引き出した自動思考について相談者がなぜそう思ったかの根拠である。すなわち、根拠・反証引き出し部55が相談者から引き出す情報は、相談者において自動思考が生じた理由に関する情報と、相談者自身が気づいた自動思考の別の見方であり、例えば、引き出した自動思考のように考えなくても済む事実、引き出した自動思考を打ち消すような逆の事実に関する情報である。なお、本ステップは、根拠引き出しステップと反証引き出しステップの2つに分かれていてもよい。根拠・反証引き出し部55は、根拠・反証引き出しステップで、自動思考の根拠の入力を促すメッセージを出力し、ユーザから情報(該根拠を示す情報)の入力を受け付ける。また、根拠・反証引き出し部55は、自動思考に対する反証の入力を促すメッセージを出力し、ユーザから情報(該反証を示す情報)の入力を受け付ける。
【0133】
図16および
図17は、根拠・反証引き出しステップの根拠引き出しステップで使用する画面の例を示す説明図である。根拠・反証引き出し部55は、根拠引き出しステップにおいて、例えば
図16に示すような「そう考えたのはどんな事実があったからでしょうか」といった自動思考に対する根拠の記入を促すメッセージを表示する領域と、根拠の記入欄とを含む画像を用いて、相談者の思う「根拠」を表現したテキストを相談者に入力させる。
【0134】
また、根拠・反証引き出し部55は、例えば
図17に示すような、「だから『自動思考』」といったメッセージを根拠の記入欄に続けて表示する画面を用いて、相談者が、自身の自動思考に対する根拠を挙げられるように誘導してもよい。すなわち、根拠・反証引き出し部55は、根拠の記入欄に続けて「だから」「そのため」「それで」「なので」等の順接の接続詞(前の文脈の結果として後ろの文脈を導く働きをする接続詞)と、引き出した自動思考の総括表現とをつなげたメッセージとを出力してもよい。なお、根拠・反証引き出し部55は、例えば「だから『引き出した自動思考の総括表現』と考えた」といったように、メッセージの末尾に「と考えた」等の語句を付加して、『』内の表現が自動思考であることをより明確にしてもよい。
【0135】
なお、
図17に示す例では、複数の根拠を記入できるようにし、かつ各記入欄に書ける行を少なくする(例えば、1行)にすることでユーザに書く内容を整理させ、また簡潔な表現で書かせる工夫をしている。
【0136】
また、根拠引き出しステップにおいても、根拠・反証引き出し部55は、記入された根拠に思い込み発言が含まれていないかどうかをチェックすることが好ましい。自動思考に対する根拠は事実ベースであることが求められるからである。しかし、考え方が一つの方向に集中してしまう人の場合、思い込みを根拠として書いてしまうケースが多い。そこで、根拠・反証引き出し部55は、根拠として入力されたテキストから思い込みの表現を抽出して、根拠に相談者の思い込みが入っていないかどうかを判定するようにしてもよい。思い込みが入っていると判定した場合には、根拠・反証引き出し部55は、その旨または思い込み表現を指摘するメッセージや事実に即した記載を促すメッセージを出力してもよい。
【0137】
思い込みの表現の有無は、入力テキストから思い込みの表現を抽出することによって判定できる。なお、思い込みの表現の抽出方法は、上述した自動思考に対する思い込み表現の抽出方法と同様でよい。具体的には、根拠・反証引き出し部55は、推量表現、可能表現、汎化表現、評価表現、他者心理表現、自己感情表現、限定表現といった思い込み表現の分類ごとの具体的な表現例が登録された辞書を用いて、入力テキストから形態素解析、構文解析して得られた語句と辞書に登録された各表現例とを比較して、一致したものを思い込み表現として抽出すればよい。
【0138】
次いで、根拠・反証引き出し部55は、抽出した表現に対して自他判定を行えばよい。このとき、根拠・反証引き出し部55は、推量表現、可能表現、汎化表現、評価表現、自己感情表現に分類される語句については、自他判定が「自己」であるものを抽出対象とする。また、根拠・反証引き出し部55は、他者心理表現に分類される語句については、自他判定が「他者」であるものを抽出対象とする。
【0139】
そして、根拠・反証引き出し部55は、各種類に対応づけて登録しておいたテンプレートと、発言箇所(抽出した思い込み表現)を用いて、メッセージを構築すればよい。テンプレートの例としては、例えば評価表現に対して「『抽出した部分』のようにあなたなりの捉え方ではなく、他の人にも分かるような表現で書いてみてください。」といったメッセージが考えられる。また、テンプレートの例として、例えば他者心理表現に対して「『抽出した部分』のように相手の気持ちを推測する表現を使わず、具体的にどのような事実を受けてそう思ったかを書いてみてください。」といったメッセージが考えられる。テンプレートの内容としては、抽出した思い込み表現の特徴を説明しつつ、そのような表現ではなく、それと反対の表現となるようにまたは事実を用いて書くことを促すメッセージを出力できる内容であればよい。
【0140】
例えば、根拠1として「以前も資料作りで指摘された」、根拠2として「上司はずいぶん怒っていた」といったテキストが入力されたとする。この場合に、根拠・反証引き出し部55は、このような登録データを用いて、根拠2のテキストに含まれる「怒っていた」という思い込み表現(他者心理表現)を抽出してもよい。そして、根拠・反証引き出し部55は、「『怒っていた』のように相手の気持ちを推測する表現を使わずに、具体的にどのような事実を受けてそう思ったかを書いてみてください。」といった指摘メッセージを出力してもよい。また、根拠・反証引き出し部55は、「ずいぶん」という思い込み表現(評価表現)を抽出して、「『ずいぶん』のようにあなたなりの捉え方ではなく、他の人にも分かるような表現で書いてみてください。」といった指摘メッセージを出力してもよい。
【0141】
また、
図18および
図19は、根拠・反証引き出しステップの反証引き出しステップで使用する画面の例を示す説明図である。根拠・反証引き出し部55は、反証引き出しステップにおいて、例えば
図18に示すような「そうとは言い切れない事実はないですか?」といった自動思考の反証の記入を促すメッセージを表示する領域と、反証の記入欄とを含む画像を用いて、相談者の思う「反証」を表現したテキストを相談者に入力させる。
【0142】
また、根拠・反証引き出し部55は、例えば
図19に示すように「だから『自動思考』とは言い切れない」といったメッセージを反証の記入欄に続けて表示する画面を用いて、相談者が、自身の自動思考に対する反証を挙げられるように誘導してもよい。すなわち、反証の記入欄につづく形で「だから」「そのため」「それで」「なので」等の順接の接続詞(前の文脈の結果として後ろの文脈を導く働きをする接続詞)と、引き出した自動思考の総括表現と、「とは言い切れない」「とは限らない」といった当然・必然の否定や否定形による当為を表わす表現をつなげたメッセージを出力してもよい。
【0143】
また、根拠・反証引き出し部55は、反証引き出しステップで、上述の反証のヒントの提示を行ってもよい。このとき、根拠引き出しステップで取得した根拠の情報を入力として用いることができる。なお、当該ステップで反証のヒントを提示した場合には、適応的思考引き出しステップでの反証のヒントの提示を省略してもよい。
【0144】
また、根拠・反証引き出し部55は、ステップ処理で得られた情報(入力文、根拠に対する思い込み表現の有無、思い込み表現、思い込み表現の分類結果など)を情報共有部4に記憶し、他のステップで利用可能にしてもよい。
【0145】
本実施形態において、フロー制御部3、情報引き出し部5は、例えば、CPU(Central Processing Unit )等のプログラムに従って動作する情報処理装置によって実現される。また、情報共有部4はメモリやHDD(Hard disk drive )といった記憶装置やデータベースシステムによって実現される。また、当該メンタルヘルスケアシステムは、これら各機能部や記憶部がネットワークに接続されたサーバ装置やユーザが個人的に使用するパーソナルコンピュータや携帯端末等のユーザ端末に実装されることにより実現される。
【0146】
次に、本実施形態の動作を説明する。
図20は、本実施形態のメンタルヘルスケアシステムの動作の一例を示すフローチャートである。
図20に示す例では、まず状況引き出し部51が、相談者から「状況」を引き出す処理を行う(ステップS11:状況引き出しステップ)。本ステップは、例えば、当該システムのトップページに対するユーザアクセスが検知されると、その通知を受けたフロー制御部3が、状況引き出し部51に処理の開始を指示することにより行われる。
【0147】
状況引き出し部51は、フロー制御部3から処理の開始が指示されると、例えば、予め用意しておいた状況引き出し画面(例えば、
図3に示す画面)をUI部1を介して当該システムが有するディスプレイまたはユーザ端末のディスプレイに表示して、ユーザ(相談者)に、該ユーザの思う「状況」を表現したテキストを入力させる。なお、状況を表現したテキストは、「場面」や「時」を表現したテキストと「出来事」を表現したテキストとに分かれていてもよい。
【0148】
そして、状況引き出し部51は、状況引き出し画面においてユーザによる状況を表現したテキストの記入が終了したことを検知すると、記入欄に入力された情報を取得して、ユーザから取得した「状況」を示す情報として情報共有部4に記憶する。また、このとき、状況引き出し部51は、ユーザの状況への共感メッセージを生成して同画面上に出力してもよい。なお、状況引き出し部51は、記入の終了を、UI部1からの画面制御によるイベント通知によって検知すればよい。
【0149】
また、状況引き出し部51は、状況引き出し画面においてユーザが状況を表現したテキストを記入後、次ステップに進む操作を入力したことを検知すると、次ステップに処理を移行させるために、状況引き出しステップの完了を示す旨をフロー制御部3に通知する。また、状況引き出し部51は、記入欄に記入された情報以外にも取得した情報があれば、このときまでに取得した情報を情報共有部4に記憶する。なお、状況引き出し部51は、次ステップに進む操作の入力を、UI部1からの画面制御によるイベント通知によって検知すればよい。
【0150】
フロー制御部3は、状況引き出しステップの完了の通知を受けると、処理を自動思考引き出しステップに進める。具体的には、フロー制御部3は、自動思考引き出し部52に処理の開始を指示する。
【0151】
自動思考引き出し部52は、フロー制御部3からの処理の開始の指示を受けると、前ステップに続けてユーザから「自動思考」を引き出す処理を行う(ステップS12:自動思考引き出しステップ)。自動思考引き出し部52は、例えば、予め用意しておいた自動思考引き出し画面(例えば、
図6に示す画面)をUI部1を介して表示して、ユーザに、該ユーザが認識している「自動思考」を表現したテキストを入力させる。
【0152】
このとき、自動思考引き出し部52は、自動思考引き出し画面において、例えばステップS11で取得された状況や後述するステップS14で取得された気持ちが情報共有部4に記憶されていれば、状況から気持ちを推定し、推定した気持ちまたは取得された気持ちを含む表示メッセージを出力してもよい。また、自動思考引き出し部52は、ステップS11で取得された状況の総括表現を含む表示メッセージを出力してもよい。また、自動思考引き出し部52は、自動思考引き出し画面を、自動思考をできるだけ挙げさせる画面とそれを選択させる画面とに分けて表示してもよい。この場合、自動思考引き出し部52は、まず自動思考をできるだけ挙げさせる画面を表示し、その後、挙げた自動思考の中から1つを選択する画面を表示すればよい。
【0153】
そして、自動思考引き出し部52は、自動思考引き出し画面においてユーザによる自動思考を表現したテキストの記入が終了したことを検知すると、記入欄に入力された情報を取得する。このとき、曖昧な表現が含まれていれば、自動思考引き出し部52は、注意喚起を行ってもよい。また、自動思考引き出し部52は、自動思考と気分に矛盾があればそれを指摘して、自動思考または気持ちを再確認する、または深掘するための質問メッセージを出力してもよい。また、自動思考引き出し部52は、そのようにして取得した自動思考に関する情報を情報共有部4に記憶する。
【0154】
また、自動思考がなかなか書けないユーザのために、自動思考引き出し画面に、対話的支援を求めるボタンや、一定時間の記入文字数をチェックする処理を具備させておいてもよい。このとき、自動思考引き出し部52は、ボタン押下を検出した時または一定時間の記入文字数が所定数以内であることを検知した時には、自動思考の引き出しステップに失敗したとみなして、その旨をフロー制御部3に通知してもよい。なお、自動思考引き出し部52は、自動でフロー切り替えせずに、フロー切り替えを推薦するメッセージを出力し、相談者の承諾を得た後に、フロー制御部3に通知するようにしてもよい。
【0155】
フロー制御部3は、自動思考引き出しステップの失敗の通知を受けると、処理を気分引き出しステップに進める制御を行う(ステップS13のNo)。具体的には、フロー制御部3は、気分引き出し部54に処理の開始を指示する。
【0156】
気分引き出し部54は、フロー制御部3からの処理の開始の指示を受けると、前ステップに続けてユーザから「気分」を引き出す処理を行う(ステップS14:気分引き出しステップ)。気分引き出し部54は、例えば、予め用意しておいた気分引き出し用画面(例えば、
図15に示す画面)をUI部1を介して表示して、ユーザに、該ユーザが認識している「気分」を表現したテキストを入力させる。
【0157】
このとき、気分引き出し部54は、気分引き出し画面において、ステップS11で取得された状況の総括表現を表示メッセージに含めることで、ユーザの状況への共感を示してもよい。
【0158】
そして、気分引き出し部54は、気分引き出し画面においてユーザによる気分を表現したテキストの記入が終了したことを検知すると、記入欄に入力された情報を取得して、情報共有部4に記憶する。また、気分引き出し部54は、このとき、その気持ちへの共感メッセージを生成して同画面上に出力してもよい。
【0159】
また、気分引き出し部54は、気分引き出し画面においてユーザが気分を表現したテキストを記入後、次ステップに進む操作を入力したことを検知すると、次ステップに処理を移行させるために、気分引き出しステップの完了の旨をフロー制御部3に通知する。また、気分引き出し部54は、記入欄に記入された情報以外にも取得した情報があれば、このときまでに取得した情報を情報共有部4に記憶する。
【0160】
フロー制御部3は、気分引き出しステップの完了の通知を受けると、処理を再度自動思考引き出しステップに進める(ステップS12に戻る)。具体的には、フロー制御部3は、自動思考引き出し部52に処理の開始を指示すればよい。
【0161】
一方、ステップS12で、自動思考引き出し部52は、自動思考引き出し画面においてユーザが自動思考を表現したテキストを記入後、次ステップに進む操作を入力したことを検知すると、次ステップに処理を移動させるために、自動思考引き出しステップの完了の旨をフロー制御部3に通知する。また、自動思考引き出し部52は、記入欄に記入された情報以外にも取得した情報があれば、このときまでに取得した情報を情報共有部4に記憶する。
【0162】
フロー制御部3は、自動思考引き出しステップの完了の通知を受けると、処理を適応的思考引き出しステップに進める(ステップS13のYes、ステップS15)。具体的には、フロー制御部3は、適応的思考引き出し部53に処理の開始を指示する。
【0163】
適応的思考引き出し部53は、フロー制御部3からの処理の開始の指示を受けて、前ステップに続けてユーザから「適応的思考」を引き出す処理を行う(ステップS15:適応的思考引き出しステップ)。適応的思考引き出し部53は、例えば、予め用意しておいた適応的思考引き出し画面(例えば、
図9や
図10に示す画面)をUI部1を介して表示して、ユーザに、該ユーザが思う「適応的思考」を表現したテキストを入力させる。
【0164】
このとき、適応的思考引き出し部53は、適応的思考引き出し画面において、例えば後述するステップS17で取得された根拠や反証が情報共有部4に記憶されていれば、その情報を基に適応的思考の例文を生成し、記入欄に予め表示しておいてもよい。
【0165】
また、適応的思考引き出し部53は、ステップS12で引き出された自動思考を示す情報を基に、自動思考に思い込み表現が含まれているか否かを検証して、その結果得られる反証のヒントを適応的思考引き出し画面に提示してもよい。適応的思考引き出し部53は、反証のヒントを、ステップ開始時に画面上に出力しておいてもよいし、ヒントを求めるボタンの押下を検知したときに表示するようにしてもよい。
【0166】
そして、適応的思考引き出し部53は、ユーザによる適応的思考を表現したテキストの記入が終了したことを検知すると、記入欄に入力された情報を取得する。このとき、適応的思考引き出し部53は、記入欄に入力された情報(特に反証部分)に思い込み表現が含まれていれば注意喚起のメッセージを出力してもよい。適応的思考引き出し部53は、そのようにして最終的に取得した情報を、適応的思考を示す情報として情報共有部4に記憶する。
【0167】
また、反証のヒントの提示とは別に、適応的思考がなかなか書けないユーザのために、対話的支援を求めるボタンや、一定時間の記入文字数をチェックする処理を具備させておいてもよい。このとき、適応的思考引き出し部53は、ボタン押下を検出した時または一定時間の記入文字数が所定数以内であることを検知した時には、適応的思考の引き出しステップに失敗したとみなして、その旨をフロー制御部3に通知してもよい。なお、適応的思考引き出し部53は、自動でフロー切り替えせずに、フロー切り替えを推薦するメッセージを出力し、相談者の承諾を得た後に、フロー制御部3に通知するようにしてもよい。
【0168】
フロー制御部3は、適応的思考引き出しステップの失敗の通知を受けると、処理を根拠・反証引き出しステップに進める制御を行う(ステップS16のNo)。具体的には、フロー制御部3は、根拠・反証引き出し部55に処理の開始を指示する。
【0169】
根拠・反証引き出し部55は、フロー制御部3からの処理の開始の指示を受けると、前ステップに続けてユーザから「根拠」と「反証」を引き出す処理を行う(ステップS17:根拠・反証引き出しステップ)。根拠・反証引き出し部55は、例えば、予め用意しておいた根拠引き出し用画面(例えば、
図17に示す画面)をUI部1を介して表示して、ユーザに、まず該ユーザが思う「根拠」を表現したテキストを入力させる。
【0170】
このとき、根拠・反証引き出し部55は、根拠引き出し画面において、記入欄に続けてステップS12で取得された自動思考の総括表現を順接の接続詞に繋げて表示することで、自動思考の理由となる文を書きやすいように誘導してもよい。
【0171】
そして、根拠・反証引き出し部55は、ユーザによる根拠を表現したテキストの記入が終了したことを検知すると、記入欄に入力された情報を取得する。このとき、根拠・反証引き出し部55は、記入欄に入力された情報に思い込み表現が含まれていれば注意喚起のメッセージを出力してもよい。根拠・反証引き出し部55は、そのようにして最終的に取得した情報を、根拠を示す情報として情報共有部4に記憶する。
【0172】
次いで、根拠・反証引き出し部55は、ユーザから「反証」を引き出す処理を行う。根拠・反証引き出し部55は、例えば、予め用意しておいた反証引き出し画面(例えば、
図19に示す画面)をUI部1を介して表示して、ユーザに、該ユーザが思う「反証」を表現したテキストを入力させる。
【0173】
このとき、根拠・反証引き出し部55は、反証引き出し画面において、記入欄に続けて順接の接続詞とステップS12で取得された自動思考の総括表現と当然・必然の否定や否定形による当為を表わす表現とを繋げて表示することで、自動思考に対する反証を書きやすいように誘導してもよい。
【0174】
また、根拠・反証引き出し部55は、ステップS12で引き出した自動思考を示す情報を基に、自動思考に思い込み表現が含まれているか否かを検証して、その結果得られる反証のヒントを反証引き出し画面に提示してもよい。根拠・反証引き出し部55は、反証のヒントを、ステップ開始時に画面上に表示するようにしてもよいし、ヒントを求めるボタンの押下を検知したときに表示するようにしてもよい。
【0175】
そして、根拠・反証引き出し部55は、ユーザによる反証を表現したテキストの記入が終了したことを検知すると、記入欄に入力された情報を取得して、反証を示す情報として情報共有部4に記憶する。このようにして根拠を示す情報と反証を示す情報とを取得すると、根拠・反証引き出し部55は、根拠・反証引き出しステップの完了の旨をフロー制御部3に通知する。
【0176】
フロー制御部3は、根拠・反証引き出しステップの完了の通知を受けると、処理を再度適応的思考引き出しステップに進める(ステップS15に戻る)。具体的には、フロー制御部3は、適応的思考引き出し部53に処理の開始を指示すればよい。
【0177】
一方、ステップS15で、適応的思考引き出し部53は、適応的思考引き出し画面においてユーザが適応的思考を表現したテキストを記入後、次ステップに進む操作を入力したことを検知すると、次ステップに処理を移動させるために、適応的思考引き出しステップの完了の旨をフロー制御部3に通知する。また、適応的思考引き出し部53は、記入欄に記入された情報以外にも取得した情報があれば、このときまでに取得した情報を情報共有部4に記憶する。
【0178】
フロー制御部3は、適応的思考引き出しステップの完了の通知を受けると、認知再構成法によるメンタルヘルスケアの処理を終了する。なお、メンタルヘルスケアの処理を終了せずに、この後にまとめを行うステップに移行してもよい。
【0179】
まとめステップでは、フロー制御部3は、例えば「気分は変わりましたか?」などといったメッセージを表示して、今の気分や気持ちの改善度などをユーザに入力してもらい、効果の確認、具体的には気分の改善、気持ちの整理・切り替えがどれくらい出来たかの確認ができるようにしてもよい。また、フロー制御部3は、例えば、気分が軽くなったユーザに対して改善につながったポイントはどこなのかを入力してもらってもよい。また、フロー制御部3は、併せてユーザに今後の課題を入力してもらってもよい。それらを入力させることで、改善につながったポイントや課題をユーザに認識させることができ、以降の日常生活において自分だけでも気持ちを見直すことができるようにする。また、気分が軽くならなかった場合には、その後の日常生活で事実認識させることが有効であるので、フロー制御部3は、どういう事実認識の仕方がよいかのヒントを教えるためのメッセージを出力してもよい。例えば、自動思考の思い込みの傾向から反証のヒントを挙げ、「そのような事実がないかを今後の日常生活で見つけるようにしてください」といったメッセージを表示してもよい。
【0180】
また、気持ちの改善度や改善ポイントといったユーザ評価を、今回の一連の入力内容(各ステップで得られた各種情報)とともに記憶しておくことで、次のアクセス時に活かすことができる。情報引き出し部5の各部は、例えば、気分の変化量すなわち気持ちの改善効果が大きかったときに出力したメッセージや改善ポイントなどからその人に響く言葉を特定し、次のアクセス時に優先的に選択するようにしてもよい。また、前回のアクセス時に入力された内容を、次のアクセス時の対話メッセージに反映することも可能である。状況引き出し部51は、例えば、次回開始時に、「課題はどうなっていますか?」などを聞いてもよい。また、情報引き出し部5の各部は、例えば、ステップ処理中に「前もこんなことがあってそういう気持ちになりましたね」などと、ユーザの自動思考や気持ちの傾向を気づかせるメッセージを出力してもよい。
【0181】
また、
図20では、自動思考の引き出しの成否を判定して失敗したとみなされた場合に自動思考を引き出すための気分引き出しステップが行われる動作例を示した。また、
図20では、適応的思考の引き出しの成否を判定して失敗したとみなされた場合に適応的思考を引き出すための根拠・反証ステップが行われる動作例を示した。ただし、これらの成否判定を省略して、状況引き出しステップと自動思考引き出しステップと適応的思考引き出しステップの3ステップ構造としてもよい。この場合、ユーザ支援は、自動思考引き出しステップのヒント提示処理や適応的思考引き出しステップのヒント提示処理によって行われる。
【0182】
また、成否判定せずに初めから気分引き出しステップや根拠・反証ステップを経由する5ステップ構造とすることも可能である。
【0183】
また、
図21は、上述したステップ別のUI的工夫や対話機能の工夫のうち代表的なものをまとめて示す説明図であるが、これら以外にも、様々な工夫が挙げられる。例えば、自動思考引き出しステップで、自動思考引き出し部52は、考え方のくせをチェックし、そのパターンに応じて、例えば「白黒思考っぽいのがでていますね」、「べき思考っぽいのがでていますね」といった指摘メッセージや反証のヒントを出力してもよい。自動思考はいくつかのパターンに分けることができる。そこで、自動思考引き出し部52は、取得した自動思考がどのパターンに属するかをパターン認識などを用いてチェックして、そのパターンに応じたメッセージを出力してもよい。考え方のくせがわかるとアドバイスしやすくなるため、自動思考引き出し部52は、対話内で、ユーザのくせが分かるような質問を投げかけてもよい。または、自動思考引き出し部52は、別途アンケート方式の質問を行う画面を設けてもよい。
【0184】
また、情報引き出し部5は、一度利用したユーザに対して、例えば開始画面や終了画面において、本システムの使い時がわかるメッセージを表示するようにしてもよい。なお、ユーザを同定するために、当該システムがユーザ認証システムを備え、好ましくはユーザ認証システムと連携し、当該認証システムでログイン情報や以前の記載内容をユーザごとに記憶できるようになってもよい。そのような場合、情報引き出し部5は、ログイン後に、ログインしたユーザの識別子とともに参照可能になった該ユーザのログイン情報や以前の記載内容から、本システムの使い時がわかるメッセージを表示するようにしてもよい。また、本システムがユーザ端末に実装される場合には、情報引き出し部5は、ユーザの同定処理を行わずに無条件に同一ユーザとみなして、過去のログイン履歴や記載内容から本システムの使い時がわかるメッセージを表示するようにしてもよい。情報引き出し部5は、例えば、ユーザの本システムの使用履歴から最終使用日を参照し、その最終使用日から予め定めておいた期間経過後を本システムの使い時としてもよい。また、情報引き出し部5は、そのユーザの使用頻度から最適な経過期間を算出して、本システムの使い時としてもよい。なお、社内などで本システムを利用する場合などは、本システムが、勤怠管理システムと連携して勤怠情報を基にうつ傾向があるか否かなどを判定してもよい。そして、当該システムによるメンタルヘルスケアサービスをやった方がよいと思われるユーザに対して、当該システムの案内が通知されるようにしてもよい。本システムは、例えば、遅刻や欠勤が所定数以上のユーザに対して、案内を通知してもよい。また、本システムは、例えば、メール機能と連携して、メールの送信内容を基にうつ傾向があるか否かなどを判定してもよい。そして、当該システムによるメンタルヘルスケアサービスをやった方がよいと判定された場合に、当該システムの案内を通知することも可能である。
【0185】
また、ユーザが使用している端末上に入力画面を常駐させ、愚痴をこぼしたい時などに、気軽に入力を開始できるようにしてもよい。
【0186】
また、情報引き出し部5は、例えば、開始時に「いついつ振りですね」等のユーザ固有の情報を出力することで、自分のことが覚えられている感を与えられるようにしてもよい。そうすることで、相手の心をほぐし、メンタルヘルスケアサービスを始めやすくできる。例えば、スケジュール管理システムと連携している場合、情報引き出し部5は、会議後であれば、ユーザ固有の情報として、「会議ご苦労様です」といったメッセージを出力してもよい。また、情報引き出し部5は、顔画像を利用して、状態(例えば、見た目年齢)を推定してもよい。この場合、いつもより老けていると判定した場合、情報引き出し部5は、「今日、調子悪くないですか?」と出力してみてもよい。また、いつもより若いと判定した場合、情報引き出し部5は、「今日は調子良さそうですね」と出力してみてもよい。
【0187】
また、情報引き出し部5は、天気などの情報を出力するWebサービスを利用して、「今日は暑いですね」といったアイスブレークとなるような会話を出力して、メンタルヘルスケアサービスを始めやすくしてもよい。
【0188】
また、情報引き出し部5は、この他にもユーザの登録情報や入力内容から、出身地を特定し、出力メッセージに方言を入れ込んでもよい。方言を入れ込むことで郷愁感を漂わせることができるので、懐かしさによる心のケアも行える。なお、情報引き出し部5は、Webサービスを利用して地元のイベント情報を取得し、「○○では、今度○○があるそうですね」といったメッセージを出力して、相手の心をほぐすようにしてもよい。
【0189】
また、全ステップ共有の工夫として、情報引き出し部5は、例えば、入力された情報から、ユーザが辛いと感じる状況や出来事、自動思考、気持ち、適応的思考らしいものを抜き出せたときは、以降のステップでのメッセージで利用するようにしてもよい。情報引き出し部5は、例えば、抽出できたところまでの情報を利用して、「○○なことがあって、○○な気持ちになったのですね」や「○○なことがあって、○○な気持ちになって、○○なことを考えたのですね」というようなユーザに確認を求めるメッセージを出力してもよい。このようにすることで、ユーザは状況やその時生じる気持ちや考えを客観視できるので、思考の見直しに有効となる。
【0190】
また、情報引き出し部5は、例えば、相手の発言の肝となる部分を抜き出してオウム返しをすることで、ユーザとの信頼関係を向上でき、その結果より良い治療関係を醸成することができる。
【0191】
また、情報引き出し部5は、例えば、心配している様子や喜びを共有するために、ユーザの入力内容に応じて、キャラクターの表情やメッセージを変化させてもよい。
【0192】
また、画面共通の工夫として、例えば、次に進むボタンを一色(例えば、緑)に統一してもよい。また、本実施形態では、対話感を出すために、メッセージの出力を吹き出しにしている。また、本実施形態では、入力した内容を画面上で確認できるようにしている。また、本実施形態では、会話がまず目に入るように吹き出し内の字を相対的に大きくしている。このような画面上での工夫によってもユーザが情報を入力しやすくできる。
【0193】
また、本実施形態では、画面上に常に
図22に示すような全体の流れや必要な時間、これまでの進行状況を示すインジケータが表示されるようにし、カウンセリングがいつまで続くかが気がかりなユーザに、終わりが分かるようにしている。
図22に示すインジケータは、各ステップに対応づけた白丸201を繋げて表示することで全体の流れを示している。また、各白丸201の上部に付与した時間情報203は、各ステップの所要時間の目安を示している。また、白丸201を結ぶ実線204は、その線が結んでいるステップまで処理が進んでいることを示している。また、白丸201を結ぶ破線206は、その線が結んでいるステップが未処理であることを示している。また、白丸201が黒丸205で塗られているステップは、現在表示中のステップであることを示している。このような用法のインジケータを設けることにより、例えば、
図22(a)では、根拠・反証引き出しステップまで処理が進んでおり、現在その根拠・反証引き出しステップに対応する画面が表示されていることがわかる。
【0194】
また、認知再構成法ではユーザ自身が自分の思考を見直す作業を行うため、ユーザが自由に各記入フォームをいったり来たりすることができるのが好ましい。そのため、本実施形態では、いつでも前に戻れる機能を設けている。具体的には、上述したインジケータ上で既に記入が完了しているステップの白丸201をクリックすることにより、そのステップに対応する画面が表示されるようにしている。例えば、
図22(b)に示すように、根拠・反証引き出しステップまで処理が進んでいる状態で、自動思考の入力を見直したい場合には、自動思考引き出しステップの白丸201をクリックするなどして、自動思考引き出しステップに戻ることができるようにしてもよい。このとき、自動思考引き出しステップに対応する画面(すなわち、自動思考引き出し用画面)が表示されるが、記入欄には既に一度ユーザが入力したテキストが表示されているものとする。ユーザが入力したテキストの取得は、情報共有部4に記憶されている情報を参照すればよい。
【0195】
なお、
図22(c)では、処理の進む先が2以上に分かれている場合のインジケータの例を示している。なお、全体の流れを表示する機能や前のステップに戻る機能は、このようなインジケータによる方法に限定されない。
【0196】
また、場合によっては本物のカウンセラーに頼るのも有効であるため、その際に過去の入力情報をカウンセラーと共有できることが好ましい。このため、対話機能部2は、これまでの入力内容を一覧にし、ブック化して(印刷可能な表示形式にして)出力できるようにしてもよい。ブック化の際に、対話機能部2は、時系列、シチュエーション、気持ち、等で分類、並べ替えできるようにしてもよい。過去の入力内容を一覧にして出力することで、ユーザ自身による見直しもしやすくなる。
【0197】
また、対話機能部2は、履歴の他の利用例として、過去の事例に対して再度入力が行える振り返りモードを具備していてもよい。すなわち、履歴の中で気になる事例を選択し、同じ状況に対して今ならどう考えるだろうかを記入できるようにしてもよい。このような振り返りモードでは、対話機能部2は、例えば、過去に記入した問題状況、自動思考を引き継いだ形で適応的思考引き出しステップまたは根拠・反証引き出しステップから開始できるようにしてもよい。
【0198】
なお、上記例ではいずれもテキスト入力することを想定していたが、音声を入力としてもよい。そのような場合、情報引き出し部5の各部は、入力音声からテキスト変換を行った後、上述の処理を行えばよい。また、出力形式もテキストでなく、音声としてもよい。そのような場合、情報引き出し部5の各部は、出力メッセージに対して音声合成処理を行えばよい。そうすることで、目の不自由な人でも利用できるようになる。
【0199】
以上のように、本実施形態によれば、例えば、簡潔な入力、共感・総括メッセージの出力、不明確な点を補うための応答といった相談者から解決に必要な情報や解決策を引き出すためのUIの工夫、記載支援、対話機能の充実がなされている。これによって相談者は、考えを見直すのに必要な情報や解決策を自ら書けるようになる。その結果、認知行動療法による効果、具体的には気分の改善、気持ちの整理・切り替えの向上が期待できる。
【0200】
また、本実施形態によれば、例えば、経過時間と入力文字数などを基に、ユーザが書けていない度合いを判定して、書けていないようならより書きやすくなるフローに切り替えるなどの制御を行っている。そのため、慣れたユーザに対して作業時間の削減ができるとともに、慣れていないユーザに対しては手厚く入力支援を行うことができる。
【0201】
実施形態2.
なお、上記説明では、うつ傾向のあるユーザに対して認知行動療法に基づくメンタルヘルスケアを提供するためのメンタルヘルスケアシステムを例にして本発明の特徴や構成や動作を示した。ただし、本発明は認知の歪みをもつユーザに対してその歪みを修正するまたは気付かせる用途のシステムであれば、メンタルヘルスケアに限らず適用可能である。
【0202】
例えば、喫煙者に禁煙を支援するシステムに本発明を適用可能である。具体的には、喫煙者が禁煙を試みる際または禁煙中に持ちやすい認知の歪みを修正したりまたはその歪みを気付かせるためのシステムとしても本発明を適用可能である。
【0203】
禁煙中は、途中で1本でも吸ってしまうと「もうだめだ」と諦めてしまう人が多いため、その際に認知面に着目した治療を施すことが有効となる場合がある。
【0204】
例えば、客観的事実は「禁煙中にたばこを1本吸った」に過ぎないにもかかわらず、禁煙者の自動思考では「自分は意志が弱い。禁煙失敗だ」となっている場合がある。そのような場合に、たばこを1本吸ったからといって禁煙が失敗したものと決めつけない方向に認知を再構成させる。すなわち、適応的思考として、「むしろ1本でやめることができて良かった」「1本吸っただけでは禁煙が失敗したということにはならない」といった考えを気付かせるようなアドバイスや情報を引き出す。
【0205】
具体例としては、自動思考として「自分は意志が弱い。禁煙失敗だ」が入力されたとする。この場合に、対話機能部2は、例えば、「意志が弱い」といった発言に対して、「罪悪感から諦めそうになっているのですね」といった共感を表すメッセージを出力してもよい。また、対話機能部2は、例えば「禁煙失敗」といった発言に対して、「本当にそこで失敗なのですか?」といったヒントを提示してもよい。そのような共感メッセージやヒントを提示することで、「たしかに1本吸っただけでは失敗とは言えない。むしろ1本でやめられたというのは禁煙がうまくいっているということでもある」等の適応的思考を引き出すことが期待できる。
【0206】
このように、メンタルヘルスケア以外の用途においても、例えば、抽出した悩み語や気持ち語に対して自他判定等の各種判定処理を行うことで、当人に起こった出来事や気持ちに対して共感を示すメッセージを作成できるようになる。また、例えば、ユーザが入力した情報に含まれる曖昧な表現、思い込みの表現もしくは矛盾を指摘する内容を抽出して、それを指摘するメッセージや、そこから適応的思考に繋がるヒントを含むメッセージを提示できる。
【0207】
なお、喫煙者への禁煙支援用途だけでなく、例えば、過食症や拒食症や生活習慣病の治療のためといった生活上に認められる負の傾向を減少させる用途に本発明を適用可能である。なお、各システムでは当該システムがどの用途に用いられるかに応じて、対象者の傾向を加味して悩み語や気持ち語等の辞書登録を行うことがより好ましい。
【0208】
次に、本発明の概要を説明する。
図23は、本発明による認知の歪み修正支援システムの概要を示すブロック図である。
図23に示すように、本発明による認知の歪み修正支援システムは、各ステップにおいて、ユーザから必要な情報を引き出すためのメッセージである対話型メッセージを出力するメッセージ出力手段101(例えば、UI部1)と、各ステップの少なくともいずれか1つのステップにおける対話型メッセージを、ユーザがこれまでに入力した情報を利用して生成するメッセージ生成手段102(例えば、情報引き出し部5)とを備えていることを特徴とする。
【0209】
ここで、各ステップとは、少なくとも、ユーザの気持ちが揺れた状況において生じた考えである自動思考の入力を促すメッセージを出力する処理を含む自動思考引き出しステップと、その状況に対して今考えられる考えである適応的思考の入力を促すメッセージを出力する処理を含む適応的思考引き出しステップとをいう。
【0210】
また、メッセージ生成手段102は、対話型メッセージとして、ユーザが入力した情報から特定される該ユーザの、悩みを表現した語句である悩み語、気持ちを表現した語句である気持ち語の少なくとも1つを用いてユーザの状況もしくは状態(例えば、ある気持ちが生じている状態)に対して共感を示す内容を含むメッセージを生成してもよい。
【0211】
また、メッセージ生成手段102は、対話型メッセージとして、ユーザが入力した情報を基に生成される、目的の情報をユーザに入力させるためのヒントまたはきっかけとなる内容を含むメッセージを生成してもよい。
【0212】
また、メッセージ生成手段102は、対話型メッセージとして、ユーザが入力した情報に含まれる曖昧な表現、思い込みの表現もしくは矛盾を指摘する内容を含むメッセージを生成してもよい。
【0213】
また、
図24に示すように、本発明の認知の歪み修正支援システムはさらに、予め記憶されている悩み語に関する情報に基づいて、ユーザが入力した該ユーザの気持ちが揺れた状況を表現した情報に含まれる悩み語を抽出する悩み語抽出手段103(例えば、状況引き出し部51や適応的思考引き出し部53に含まれる悩み語の抽出モジュール)と、悩み語抽出手段103が抽出した悩み語について、ユーザに起こった出来事を表現したものであるか否かを所定の判定方法を用いて判定する自他等判定手段104(例えば、状況引き出し部51や適応的思考引き出し部53に含まれる各種判定モジュール)と、自他等判定手段104による判定結果に基づいて、ユーザが入力した該ユーザの気持ちが揺れた状況に関する情報に含まれる、ユーザに起こった出来事を表現した悩み語を特定する悩み語特定手段105(例えば、状況引き出し部51や適応的思考引き出し部53に含まれる総合判定モジュール)とを備えていてもよい。そのような場合に、メッセージ生成手段102は、悩み語特定手段105によって特定された悩み語を少なくとも1つ用いて、対話型メッセージとして、ユーザに起こった出来事の要約を復唱するメッセージを生成してもよい。そのような場合に、当該システムは、さらに、ユーザの気持ちが揺れた状況に関する情報の入力を促すメッセージを出力する処理を含む状況引き出しステップを実行する認知の歪み修正支援システムであってもよい。
【0214】
また、
図25に示すように、本発明の認知の歪み修正支援システムはさらに、予め記憶されている気持ち語に関する情報に基づいて、ユーザが入力した該ユーザの気持ちが揺れた状況を表現した情報に含まれる気持ち語を抽出する気持ち語抽出手段106(例えば、状況引き出し部51や適応的思考引き出し部53に含まれる気持ち語の抽出モジュール)と、気持ち語抽出手段106が抽出した気持ち語について、ユーザに生じた気持ちを表現したものであるか否かを所定の判定方法を用いて判定する自他等判定手段107(例えば、状況引き出し部51や適応的思考引き出し部53に含まれる各種判定モジュール)と、自他等判定手段107による判定結果に基づいて、ユーザが入力した該ユーザの気持ちが揺れた状況に関する情報に含まれる、ユーザに生じた気持ちを表現した気持ち語を特定する気持ち語特定手段108(例えば、状況引き出し部51や適応的思考引き出し部53に含まれる総合判定モジュール)とを備えていてもよい。そのような場合に、メッセージ生成手段102は、気持ち語特定手段108によって特定された気持ち語を少なくとも1つ用いて、対話型メッセージとして、ユーザに生じた気持ちを復唱するメッセージを生成してもよい。そのような場合に、当該システムは、さらに、ユーザの気持ちが揺れた状況に関する情報の入力を促すメッセージを出力する処理を含む状況引き出しステップを実行する認知の歪み修正支援システムであってもよい。
【0215】
また、自他等判定手段107は、抽出された悩み語または気持ち語を含む文の主体が自己であるか否かを判定する自他判定、該悩み語または該気持ち語が否定されているか否かを判定する否定判定、該悩み語または該気持ち語を含む文が疑問文となっているか否かを判定する疑問判定、該悩み語または該気持ち語が推量であるか否かを判定する推量判定、該悩み語または該気持ち語が条件項であるか否かを判定する条件判定、の少なくともいずれかの判定を行って、該悩み語または該気持ち語が実際にユーザに起こった出来事またはユーザに生じた気持ちを表現したものであるかを判定してもよい。
【0216】
また、自他判定は、話者の属格と抽出された悩み語または気持ち語を含む文における動詞の態とに基づいて、該文の主体が自己であるか否かを判定するものであってもよい。
【0217】
また、否定判定は、抽出された悩み語や気持ち語の後方に出現する否定表現の数に基づいて、抽出された悩み語または気持ち語が否定されているか否かを判定するものであってもよい。
【0218】
また、疑問判定は、抽出された悩み語または気持ち語の後方に疑問表現が出現するか否かに基づいて、該悩み語または該気持ち語が疑問文となっているか否かを判定するものであってもよい。
【0219】
また、推量判定は、抽出された悩み語または気持ち語の後方に推量表現が出現するか否かに基づいて、該悩み語または該気持ち語が推量であるか否かを判定するものであってもよい。
【0220】
また、条件判定は、抽出された悩み語または気持ち語の後方の文字列において条件節となる語があるか否かに基づいて、該悩み語または該気持ち語が条件項であるか否かを判定するものであってもよい。
【0221】
また、自他等判定手段107は、予め悩み語または気持ち語となりうる語句もしくは表現を含む文に対して該語句もしくは表現が実際にユーザに起こったことであるか否かを人が判定した結果を学習した機械学習器を用いて、抽出された悩み語または気持ち語が実際にユーザに起こった出来事またはユーザに生じた気持ちを表現したものであるか否かを判定してもよい。
【0222】
また、
図26に示すように、本発明の認知の歪み修正支援システムはさらに、予め記憶されている悩み語と気持ちとの対応関係に関する情報に基づいて、悩み語特定手段105によって特定された悩み語から、ユーザに生じた気持ちを推定する気持ち推定手段109(例えば、状況引き出し部51に含まれる気持ち推定モジュール)を備えていてもよい。そのような場合には、メッセージ生成手段102は、気持ち推定手段109によって推定された気持ちを表現する気持ち語を少なくとも1つ用いて、対話型メッセージとして、ユーザの気持ちを代弁するメッセージを生成してもよい。なお、さらに
図25に示す構成と組み合わせて、メッセージ生成手段102は、気持ち語特定手段108によってユーザが入力した該ユーザの気持ちが揺れた出来事に関する情報に含まれる、ユーザに生じた気持ちを表現した気持ち語が特定できなかった場合に、気持ち語推定手段109によって推定された気持ちを表現する気持ち語を少なくとも1つ用いて、対話型メッセージとして、ユーザの気持ちを代弁するメッセージを生成してもよい。
【0223】
また、
図26に示すように、本発明の認知の歪み修正支援システムが、さらに、ユーザが入力した該ユーザの気持ちを表現した情報から、代表的な気持ちとその強度とを特定する気持ち強度特定手段110(例えば、気分引き出し部54に含まれるネガティブな単語の抽出モジュールや単語の重複度や重要度に基づく強度算出モジュール)を備えていてもよい。そのような場合に、メッセージ生成手段102は、気持ち強度特定手段110によって特定された代表的な気持ちとその強度とに基づいて、対話型メッセージとして、ユーザの気持ちへの共感を示すメッセージであってその強度に応じて表現が異なるメッセージを生成してもよい。なお、そのような場合に、当該システムは、さらに、ユーザの気持ちが揺れた状況において該ユーザに生じた気持ちの入力を促すメッセージを出力する処理を含む気分引き出しステップを実行する認知の歪み修正支援システムであってもよい。
【0224】
また、メッセージ生成手段102は、ユーザに生じた気持ちを復唱または代弁するメッセージを生成する場合に、自動思考引き出しステップで自動思考の入力を促すメッセージの前置きに表示する対話型メッセージとして、ユーザに生じた気持ちを復唱または代弁するメッセージを生成してもよい。
【0225】
また、
図27に示すように、本発明の認知の歪み修正支援システムはさらに、否定的な自動思考が向きやすい対象を基準に自動思考を分類した所定のカテゴリ別に予め記憶されている、否定的な自動思考の表現に用いられやすい単語またはその用法に関する情報に基づいて、ユーザの自動思考が所定のカテゴリのいずれかに該当するか否かを判定する自動思考カテゴリ判定手段111(例えば、自動思考引き出し部52に含まれる自動思考のカテゴリ分類モジュール)を備えていてもよい。そのような場合に、メッセージ生成手段102は、自動思考カテゴリ判定手段111による判定の結果、ユーザの自動思考が所定のカテゴリのいずれかに該当すると判定された場合に、対話型メッセージとして、予め用意しておいた該当するカテゴリに応じた適応的思考または反証をユーザに入力させるためのヒントを示すメッセージを生成してもよい。
【0226】
また、
図28に示すように、本発明の認知の歪み修正支援システムはさらに、思い込みの表現をその表現内容に応じて分類した所定のカテゴリ別に予め記憶されている、思い込みの表現に用いられやすい単語またはその用法に関する情報に基づいて、ユーザが入力した自動思考を表現した情報に含まれる思い込みの表現を抽出することにより、ユーザの自動思考の表現に思い込みの表現があるか否かを判定する思い込み判定手段112(例えば、自動思考引き出し部52に含まれる思い込み表現の抽出モジュール)を備えていてもよい。そのような場合に、メッセージ生成手段102は、思い込み判定手段112によって思い込みの表現があると判定された場合に、適応的思考または反証をユーザに入力させるためのヒントであって思い込み表現が分類される所定のカテゴリに応じたヒントを示すメッセージを生成してもよい。
【0227】
また、
図28に示す構成において、メッセージ生成手段102は、思い込み判定手段112によって思い込みの表現があると判定された場合に、対話型メッセージとして、思い込みの表現を指摘するメッセージを生成してもよい。
【0228】
また、メッセージ生成手段102は、対話型メッセージとして、ユーザが入力した情報から特定される根拠、または根拠と反証とを用いて、適応的思考をユーザに入力させるためのヒントとして適応的思考の表現の雛形を示すメッセージを生成してもよい。なお、そのような場合に、当該システムは、自動思考の根拠の入力を促すメッセージを出力する処理と自動思考に対する反証の入力を促すメッセージを出力する処理とを含む根拠反証引き出しステップを実行する認知の歪み修正支援システムであってもよい。
【0229】
また、
図29に示すように、本発明の認知の歪み修正支援システムはさらに、予め記憶されている曖昧な表現に関する情報に基づいて、ユーザが入力した自動思考を表現した情報に含まれる曖昧な表現を抽出することにより、ユーザの自動思考の表現に曖昧な表現があるか否かを判定する曖昧判定手段113(例えば、自動思考引き出し部52に含まれる曖昧表現の抽出モジュール)を備えていてもよい。そのような場合に、メッセージ生成手段102は、曖昧判定手段113によって曖昧な表現があると判定された場合に、対話型メッセージとして、その曖昧な表現を指摘するメッセージを生成してもよい。
【0230】
また、
図29に示す構成において、メッセージ生成手段102は、曖昧表現判定手段113によって曖昧な表現があると判定された場合に、対話型メッセージとして、さらに自動思考の表現の仕方に関して曖昧な表現を言い切りの形にすることを提案するメッセージを生成してもよい。
【0231】
また、
図30に示すように、本発明の認知の歪み修正支援システムはさらに、ユーザの自動思考を表現した情報またはユーザの自動思考を所定のカテゴリに分類した自動思考カテゴリと、自動思考が生じた際のユーザの気持ちを表現した情報またはユーザの気持ちを所定のカテゴリに分類した気持ちカテゴリとに基づいて、自動思考と気持ちとの間の矛盾性の有無を判定する矛盾性判定手段114(例えば、自動思考引き出し部52に含まれる矛盾性判定モジュール)を備えていてもよい。そのような場合に、メッセージ生成手段102は、矛盾性判定手段114によって自動思考と気持ちとの間に矛盾があると判定された場合に、対話型メッセージとして、その矛盾を指摘するメッセージを生成してもよい。
【0232】
また、
図30に示す構成において、メッセージ生成手段102は、矛盾性判定手段114によって自動思考と気持ちとの間に矛盾があると判定された場合に、対話型メッセージとして、さらに自動思考または気持ちを再確認する、または自動思考または気持ちを深掘するためのメッセージを生成してもよい。
【0233】
また、本発明の認知の歪み修正支援システムは、
図23〜
図30に示した構成の2以上を組み合わせてもよい。
【0234】
また、
図31は、本発明による認知の歪み修正支援システムの他の構成例を示すブロック図である。
図31に示すように、本発明による認知の歪み修正支援システムは、各ステップの実行順序を制御するフロー制御手段201(例えば、フロー制御部3)を備えていることを特徴とする。フロー制御手段201は、少なくとも自動思考引き出しステップと適応的思考引き出しステップとをこの順序で行うことを基本フローとして、自動思考引き出しステップまたは適応的思考引き出しステップでのユーザ入力が進んでいないと判定した場合に、当該ステップを中断して、中断した当該ステップにおけるユーザの入力のきっかけまたはヒントとなる情報の入力を促すメッセージを出力する処理を含む所定のステップに移行するフロー制御を行う。
【0235】
また、フロー制御手段201は、自動思考引き出しステップでのユーザ入力が進んでいないと判定した場合に、ユーザの気持ちが揺れた状況において該ユーザに生じた気持ちの入力を促すメッセージを出力する処理を含む気分引き出しステップに移行するフロー制御を行ってもよい。
【0236】
また、フロー制御手段201は、適応的思考引き出しステップでのユーザ入力が進んでいないと判定した場合に、自動思考の根拠の入力を促すメッセージを出力する処理と自動思考に対する反証の入力を促すメッセージを出力する処理とを含む根拠反証引き出しステップに移行するフロー制御を行ってもよい。
【0237】
また、本発明による認知の歪み修正支援システムは、
図32に代表して示すように、
図23〜
図30に示したメッセージ出力手段101と、メッセージ生成手段102とを備える構成と、
図31に示したフロー制御手段201を備えた構成とを組み合わせることも可能である。
【0238】
また、本発明による認知の歪み修正支援システムは、ユーザから、該ユーザの気持ちが揺れた状況に関する情報を引き出すための画面を有し、その画面は、場面を書くための記入欄と、出来事を書くための記入欄とが分けて設けられていてもよい。
【0239】
また、本発明による認知の歪み修正支援システムは、ユーザから、該ユーザの気持ちが揺れた状況に関する情報を引き出すための画面を有し、その画面は、ユーザが記入できる記入欄の見かけ上の記入可能スペースが所定の文字数以内の大きさに制限されていてもよい。
【0240】
また、本発明による認知の歪み修正支援システムは、ユーザから、該ユーザの気持ちが揺れた状況において該ユーザに生じた考えである自動思考を引き出すための画面を有し、その画面は、ユーザが自動思考を記入するための記入欄が複数ある画面と、自動思考が複数記入された場合にそのうちの1つを選択する選択機能を有する画面とを含んでいてもよい。
【0241】
また、本発明による認知の歪み修正支援システムは、ユーザから、該ユーザの気持ちが揺れた状況に対して該ユーザが今考えられる考えである適応的思考を引き出すための画面を有し、その画面には、それ以前にユーザから取得した自動思考が生じた理由である根拠、または根拠と自動思考に対する反証とから生成される、適応的思考の例文が表示されていてもよい。
【0242】
また、本発明による認知の歪み修正支援システムは、ユーザから、該ユーザの気持ちが揺れた状況において該ユーザに生じた考えである自動思考の根拠を引き出すための画面を有し、その画面には、根拠の記入欄に続く形で、順接の接続詞と自動思考の総括表現とを繋げた文が表示されていてもよい。
【0243】
以上、実施形態及び実施例を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0244】
この出願は、2012年11月21日に出願された日本特許出願2012−255033を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。