(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1測定時点および前記第1測定時点より後の第2測定時点のそれぞれにおける蓄電池の複数の状態量を、前記蓄電池の用途に応じた判別空間変換関数により、1次元以上の次元数の判別空間上の第1座標および第2座標に写像する第1計算部と、
前記判別空間を蓄電池の使用可能領域と使用不可領域とに区分する電池性能判別関数について、前記第1座標および前記第2座標が前記使用可能領域に属する場合に、前記第1座標から前記電池性能判別関数上の最近傍点を求め、前記第1座標から前記第2座標へのベクトルについて、前記第1座標から前記最近傍点への方向の前記ベクトルの成分を計算する第2計算部と、
前記成分の長さを前記第1測定時点および前記第2測定時点間の時間長で除した比率に基づいて、前記蓄電池の劣化進行を診断する劣化判定部と、
を備えた蓄電池診断装置。
第1測定時点および前記第1測定時点より後の第2測定時点のそれぞれにおける蓄電池の複数の状態量を、前記蓄電池の用途に応じた判別空間変換関数により、1次元以上の次元数の判別空間上の第1座標および第2座標にそれぞれ写像し、前記第1座標から前記第2座標へのベクトルを前記第2座標および第1座標の測定時点間の時間長で除算して第1ベクトルを取得する第1ベクトル取得部と、
前記蓄電池とは別の少なくとも1つの蓄電池について、複数の測定時点毎に当該蓄電池の複数の状態量を含むデータを格納する蓄電池状態量記憶部と、
前記格納部内の各前記データを読み出し、各前記データを前記判別空間変換関数により前記判別空間上の座標へ写像し、前記座標の中から前記第2座標との距離に応じて少なくとも1つの座標を第3座標として選択し、前記座標のうち前記第3座標の次の測定時点に対応する座標である第4座標に対する前記第3座標からのベクトルを前記第4座標および第3座標の測定時点間の時間長で除算して第2ベクトルを取得する第2ベクトル取得部と、
前記第1ベクトルと前記第2ベクトルを合成して予測ベクトルを得る予測ベクトル取得部と、
前記第2測定時点より後の第3測定時点と前記第2測定時点間の時間長を前記予測ベクトルに乗算し、乗算結果を前記第2座標に加算することにより、前記判別空間において前記第3測定時点の前記蓄電池の状態量の写像先を予測し、前記判別空間を蓄電池の使用可能領域と使用不可領域とに区分する判別関数と前記写像先と基づいて、前記蓄電池の将来使用可否を診断する将来使用可否決定部と
を備えた蓄電池診断装置。
第1測定時点および前記第1測定時点より後の第2測定時点のそれぞれにおける蓄電池の複数の状態量を、前記蓄電池の用途に応じた判別空間変換関数により、1次元以上の次元数の判別空間上の第1座標および第2座標に写像する第1計算ステップと、
前記判別空間を蓄電池の使用可能領域と使用不可領域とに区分する電池性能判別関数について、前記第1座標および前記第2座標が前記使用可能領域に属する場合に、前記第1座標から前記電池性能判別関数上の最近傍点を求め、前記第1座標から前記第2座標へのベクトルについて、前記第1座標から前記最近傍点への方向の前記ベクトルの成分を計算する第2計算ステップと、
前記成分の長さを前記第1測定時点および前記第2測定時点間の時間長で除した比率に基づいて、前記蓄電池の劣化進行を診断する劣化判定ステップと、
を備えた蓄電池診断方法。
第1測定時点および前記第1測定時点より後の第2測定時点のそれぞれにおける蓄電池の複数の状態量を、前記蓄電池の用途に応じた判別空間変換関数により、1次元以上の次元数の判別空間上の第1座標および第2座標にそれぞれ写像し、前記第1座標から前記第2座標へのベクトルを前記第2座標および第1座標の測定時点間の時間長で除算して第1ベクトルを取得する第1ベクトル取得ステップと、
前記蓄電池とは別の少なくとも1つの蓄電池について、複数の測定時点毎に当該蓄電池の複数の状態量を含むデータを格納する蓄電池状態量記憶部から前記データを読み出すステップと、
前記格納部内の各前記データを読み出し、各前記データを前記判別空間変換関数により前記判別空間上の座標へ写像し、前記座標の中から前記第2座標との距離に応じて少なくとも1つの座標を第3座標として選択し、前記座標のうち前記第3座標の次の測定時点に対応する座標である第4座標に対する前記第3座標からのベクトルを前記第4座標および第3座標の測定時点間の時間長で除算して第2ベクトルを取得する第2ベクトル取得ステップと、
前記第1ベクトルと前記第2ベクトルを合成して予測ベクトルを得る予測ベクトル取得ステップと、
前記第2測定時点より後の第3測定時点と前記第2測定時点間の時間長を前記予測ベクトルに乗算し、乗算結果を前記第2座標に加算することにより、前記判別空間において前記第3測定時点の前記蓄電池の状態量の写像先を予測し、前記判別空間を蓄電池の使用可能領域と使用不可領域とに区分する判別関数と前記写像先とに基づいて、前記蓄電池の将来使用可否を診断する将来使用可否決定ステップと
を備えた蓄電池診断方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0012】
図1に本発明の実施形態に係る蓄電池診断装置のブロック図を示す。
図2に、
図1の装置による蓄電池の診断実行時の動作例のフローチャートを示す。本明細書中のステップ番号STはフローチャート中の番号に対応する。
【0013】
(ST1)
ユーザが蓄電池を電池状態測定部1にセットする。ここでいう蓄電池は測定の構成単位を示す表現であり、セル(単一の電池)やモジュール(複数のセルを組み合わせて所定の電圧・電流を得られるようにしたもの)などの概念を含むものである。電池状態測定部1は、充放電器や交流測定器、X線装置など蓄電池の状態を計測できる装置であれば、特定の形態に限定されない。
【0014】
(ST2)
次に対象蓄電池が再利用される可能性のある用途を蓄電池用途入力部3から入力する。
再利用される可能性のある用途は、たとえば、「EV」「家庭用定置」「電動スクータ」等である。
【0015】
この用途は、対象蓄電池のユーザが転売を望むものを選択すればよい。ユーザがEVとしての二次利用のみを望むのであれば、「EV」を入力すればよい。蓄電池用途入力部3からの入力値の範囲は、事前に設計者が設定し、ユーザに値を選択させるものとする。
【0016】
蓄電池用途入力部3へ入力された用途情報は、ステップST5以降の処理で使用される。
【0017】
(ST4)
電池ID入力部11から、対象蓄電池を特定するのに必要な情報を入力する。具体的には蓄電池側に具備されたIC等に記録された製造番号等を電子的に読み取ることが想定される。
別の例として、同内容の情報をユーザがキーボードやバーコードリーダを用いて入力することも可能である。
【0018】
(ST3)
蓄電池状態測定部1は、ステップST1でセットされた蓄電池のd次元状態量を計算する。
【0019】
蓄電池状態測定部1の出力は、d次元の実数値の組である。これは、一種の多変量データである。1個の蓄電池の1回の測定からは、d個の実数値が得られる。
【0020】
測定値として、充電時のデータの分析により得られる満充電までの所要時間や、内部抵抗値、電圧立ち上がりカーブの曲率の総和などの数値が想定される。また測定値は、X線等を用いた蓄電池内部の活物質状態の推定値であってもよい。
【0021】
(ST13)
蓄電池状態量履歴データ記憶部27は、蓄電池状態計算部1が計算したd次元状態量を、電池ID入力部11から入力されたID情報と対応づけて内部に格納する。また、測定回数・測定日時(測定時間情報)も同時に記録する。測定時間情報は、診断履歴の変化傾向を計算するために必要な情報となる。
図3に蓄電池状態量履歴データ記憶部27に格納されるデータ例を示す。
【0022】
ID情報の数学的形式は限定されないが、特定蓄電池の一意性を確認できるものであることが必要である。この情報によって過去の測定データとの連続性を確保することが可能になる。
【0023】
以下のST5、ST6、ST8、ST18、ST19、ST7、ST9の各ステップは、ステップST2で入力された用途数分、実行される。またステップST5から分岐される3つのパスは、並列実行しても逐次実行しても差し支えない。
【0024】
(ST5)
電池性能判別空間変換計算部2は、電池性能判別空間変換関数記憶部14から当該用途に対応した判別空間変換関数を読み出し、当該判別空間変換関数により、電池状態測定部1で測定された電池状態量を、電池性能判別空間上の座標に写像する。電池性能判別空間変換関数記憶部14は、用途ごとに判別空間変換関数を記憶している。
【0025】
電池状態量空間から電池性能判別空間への写像を模式的に
図4に示す。電池状態量空間は、電池状態量の各状態量を軸とした空間である。電池性能判別空間は、蓄電池の使用可能/不可能に関する特徴を最もよく表した部分空間である。電池性能判別空間の次元数および電池性能判別空間の各軸を表す状態量(変数)は、使用する判別空間変換関数に応じて異なる。図中の○や×は、判別空間変換関数および後述する電池性能判別関数の学習の際に用いたデータを表している。○は当該用途で使用可能と判断されている蓄電池のデータ、×は使用不可と判断されている蓄電池のデータに対応する。
【0026】
判別空間変換関数の数学的形式は限定されないが、多変量解析手法における線形判別分析の線形変換関数や、カーネル法と呼ばれる新しい多変量解析手法で用いられる非線形変換関数が想定される。
【0027】
線型変換関数の場合、変換後の空間の次元が2次元とすると、線型変換関数はd×2の行列Aで与えることができる。したがって、電池状態量のベクトルデータをxとおくと、電池性能判別空間上の当該電池の2次元ベクトル値yは、y=Axの線型変換で得ることができる。
行列Aを定める方法については後述する。
【0028】
(ST6)
電池変化量データ計算部(第1計算部、第2計算部)9は、電池性能判別関数記憶部17から当該用途に対応する電池性能判別関数を読み出す。電池性能判別関数記憶部17は、用途ごとに電池性能判別関数を記憶している。
【0029】
電池性能判別関数は、電池の使用可/不可を判別する関数である。電池性能判別関数を電池性能判別空間に描いた例を
図5に示す。電池性能判別空間上では、電池性能判別関数は、使用可/不可を分割する超平面または曲面を表す。
【0030】
電池変化量データ計算部9は、電池性能判別空間上の状態量(以降、変換後電池データと称する)を表す座標と、電池性能判別関数記憶部17から読み出した電池性能判別関数との距離を計算する。当該電池性能判別空間上の状態量は、今回測定された電池状態量を上記判別空間変換関数により変換して取得してもよいし、電池性能判別空間変換計算部2により計算された値をそのまま用いてもよい。
【0031】
電池性能判別関数をf、変換後電池データをyとすると、関数値f(y)の値の絶対値を距離として採用してもよい。あるいは、fが線型平面であれば、点と平面の距離を計算する幾何学公式を用いてもよい。またfがカーネルサポートベクターマシンとよばれる非線型関数であれば、fを高次元の線形空間の関数とみなして、平面距離計算の公式を適用して距離計算することもできる。
【0032】
サポートベクターマシンの詳細は渡辺他「学習システムの理論と実現」森北出版2005 ISBN:4-627-82941-8等に詳しい。
【0033】
サポートベクターマシンの関数fは、以下の形式で与えられる。
【数1】
yは変換後電池データであり、zは係数となる実数値である。Cは切片である。
【0034】
またki(y)は、非線型関数であり、以下の数式で表される。
【数2】
αはiごとに定まるベクトル定数であり、σは全てのki(y)で共通の定数である。
【0035】
次に、電池変化量データ計算部9は、対象電池のIDデータを元に、蓄電池状態量履歴データ記憶部27から過去(たとえば前回)に測定した状態量データと、今回測定した状態量データを読み出し、当該用途に応じた
判別空間変換関数を用いて、それぞれ変換後電池データに変換する。そして、これらの変換後電池データに基づき、過去(前回)の状態量を表す座標から電池性能判別関数面方向への単位時間あたりの移動量(移動成分)を計算する。
【0036】
図6を用いて、移動成分の計算例を示す。
図6における(2)の時点を今回の測定時点とし、(1)の前回の測定時点からの電池性能判別関数方向の移動成分の計算例を説明する。
【0037】
前回測定時点(1)の点(座標)をA、今回測定時点(2)の点をBと表現する。T
A、T
Bはそれぞれ、前回および今回の電池状態量の測定時点を表す。なお、f
Bは、点Bから電池性能判別関数までの距離を表す。
【0038】
また点Aの電池性能判別関数上の再近傍点をCとする。
【0039】
点Cは電池性能判別関数の関数形によっては解析的に定めることが可能であるが、解析的手段が不可能な場合は電池性能判別関数上の各点との距離を評価して探索的に定めることで対応する。
【0040】
最初に点Aから点Cに向かうベクトルACを求める。
【0042】
次に点Aから点Bに向かうベクトルABを求める。
【0044】
さらにベクトルABとACの間の余弦cosθを計算する
cosθは以下の式で計算できる。
【数3】
【0045】
電池性能判別関数方向の移動成分MはベクトルABのAC上への射影の長さを測定期間で除したものとして計算される。測定期間はT
B-T
Aで計算される。
【0046】
これは単位時間当たりの使用不可領域への接近度を示すものであり、電池が急速に劣化することを検出する指標といえる。
【数4】
【0047】
(ST8)
急速劣化判定部10は、電池変化量データ計算部9で計算された電池性能判別関数面との距離が閾値以下になったか、または移動成分が閾値を超えたかを判断する。当該距離が閾値以下になった、または移動成分が閾値を超えた場合、あるいはこれらの両方が成立した場合、当該用途での使用可能限界が近づいたと判断する。このとき、急速劣化判定部10は、電池状態表示部4に警告信号を送信する。
【0048】
図6の例では、距離f
Bが閾値以下になったとき、または移動成分Mが閾値を超えたとき、あるいはこれらの両方が成立した場合、当該用途での使用可能限界が近づいたと判断する。
(ST18)
状態量予測値計算部(第1ベクトル取得部、第2ベクトル取得部、予測ベクトル取得部)25は、蓄電池状態量履歴データ記憶部27から対象蓄電池の状態量データの履歴を読み出す。また、電池性能判別空間変換関数記憶部14から用途に応じた判別空間変換関数を読み出す。履歴における対象蓄電池の今回と前回の状態を、当該判別空間変換関数によりそれぞれ変換後電池データに変換する。電池性能判別空間において、前回の変換後電池データを表す座標から、今回の変換後蓄電池データを表す座標への、変化方向および単位時間あたりの変化量を表すベクトル(第1ベクトルと呼ぶ)を計算する。
【0049】
また、状態量予測値計算部25は、学習用蓄電池状態データ記憶部15の各データを該当用途に応じた判別空間変換関数により変換し、変換後蓄電池データの中から、今回測定時の対象蓄電池の変換後蓄電池データと類似したデータ(たとえば近傍に位置するデータ)を1個または複数個選択する。たとえば、各変換後蓄電池データを表す座標の中から、対象蓄電池の変換後蓄電池データを表す座標に対する距離に基づき、1個または複数個の座標を選択する。
【0050】
ここで、学習用蓄電池状態データ記憶部15と学習用蓄電池使用可/不可符号記憶部16について説明する。学習用蓄電池状態データ記憶部15は、蓄電池状態量履歴データ記憶部27と同様の形式で、蓄電池の状態量、測定日時、測定回数、IDを記憶している。蓄電池状態量履歴データ記憶部27はユーザの蓄電池を測定したデータであったが、学習用蓄電池状態データ記憶部15のデータは、管理者が判別空間変換関数および電池性能判別関数の学習用データとして、ユーザの蓄電池とは別個の1つ以上の蓄電池から、複数の時点で測定して取得したものである。また、学習用蓄電池使用可/不可符号記憶部16は、学習用蓄電池状態データ記憶部15のデータと一対一に対応して、当該蓄電池が用途毎に使用可能な否かを示す真理値データを記憶する。学習用蓄電池状態データ記憶部15と学習用蓄電池使用可/不可符号記憶部16は1つの記憶部としてまとめても良い。
図10に、学習用蓄電池状態データ記憶部15と学習用蓄電池使用可/不可符号記憶部16の1つの記憶部にまとめた場合のデータ例を示す。別々の記憶部とする場合は、少なくともIDと測定日時とを共通の項目として持てばよい。
【0051】
状態量予測値計算部25は、選択した変換後蓄電池データと、当該選択した変換後蓄電池データの蓄電池の次の測定時点に対応する変換後蓄電池データ間で、電池性能判別空間上の変化方向と単位時間あたりの変化量を表すベクトル(第2ベクトルと呼ぶ)を計算する。つまり、第2ベクトルは、当該選択した変換後蓄電池データを表す座標から、当該次の測定時点に対応する変換後蓄電池データを表す座標への、変化方向と単位時間あたりの変化量を表す。
【0052】
第1ベクトルと第2ベクトルを合成することで予測ベクトルを生成する。予測ベクトルは、対象蓄電池について、次回測定時に対する変化方向および単位時間あたりの変化量を表すベクトルである。
【0054】
以下では(3)時点を今回の測定時点として、次回測定に対する予測ベクトルを得る例を示す。
【0055】
最初に(2)の前回の測定時点から、(3)の今回の測定時点へのベクトルV
2を計算する。
【0056】
ベクトルV
2は、(3)時点で測定した変換後電池データの座標から、前回測定した変換後電池データの座標の差分を取ることで得られる。すなわちV
2=C-Bである。
【0057】
そして、ベクトルV
2を、T
CおよびT
B間の測定間隔時間で割って正規化することで、ベクトルV
2’(第1ベクトル)を得ることができる。
【数5】
【0058】
次に状態量予測値計算部25は、学習用蓄電池状態量記憶部15から過去に測定された蓄電池の全状態量を読み出し、さらに電池性能判別空間変換関数記憶部14から当該用途に応じた判別空間変換関数を読み出す。各状態量を、判別空間変換関数により、それぞれ変換後電池データに変換する。
【0059】
そして変換後電池データの集合から、(3)時点での変換後電池データC(今回測定した蓄電池の状態量の変換後電池データ)と最も類似するデータを選択する。類似の基準は電池性能判別空間上のユークリッド距離を想定するのが自然であるが、その他の距離関数を用いてもよい。
【0060】
図7の例では、データXが、(3)時点のデータCの最近傍点に対応するため選択される。
そして、選択したデータXと、当該データの次の測定時点のデータYとの間のベクトルV
3を計算する。
図7において、TxはデータXの測定時点、TyはデータYの測定時点を表す。
【0061】
ベクトルV
3は、選択したデータXと、次回測定時のデータYとの差分で計算される。すなわちV
3=Y-Xである。
【0062】
そして、ベクトルV
3’(第2ベクトル)は、ベクトルV3を、TyおよびTx間の測定間隔の時間で割って正規化することで得られる。
【数6】
【0063】
V
2’とV
3’を合成することで、予測ベクトルV
4を得ることができる。
【数7】
【0064】
(ST19)
将来使用不可決定部26は、状態量予測値計算部25で計算された予測ベクトルに、次回測定までの時間ΔTを乗じ、この結果を、今回測定された電池の変換後電池データに加算することで、次回測定時の変換後蓄電池データの予測値D(
図7参照)を得る。次回の測定時点がT
Dと表すと、ΔT=T
D-T
Cである。この場合、次回測定時の予測値Dは以下のように計算される。
【数8】
【0065】
将来使用不可決定部26は、予測値Dが使用不可領域に入れば、警告信号を生成して、電池状態表示部4に出力する。あるいは、予測値Dが使用可能領域に属するが、前記予測値Dと電池性能判別関数との距離が閾値以下のときは、警告信号を生成して出力してもよい。
【0066】
ステップS18で、類似する変換後蓄電池データを複数個読み出した場合は、複数の予測値が得られる。この場合、これらの予測値の平均、最悪値、または最良値が、使用不可領域に入れば、警告信号を生成する。
【0067】
(ST7)
電池使用可能判別量計算部(残存価値計算部)7は、電池性能判別関数記憶部17から当該用途に対応する電池性能判別関数を読み出し、電池性能判別空間変換計算部2で計算された変換後蓄電池データに基づき、対象蓄電池について、当該用途の単純残存価値を計算する。
図8の左側に、中古EV、定置蓄電池、スクータの3つの用途に応じてそれぞれ単純残存価値を計算する例を示す。この3用途は説明
用の一例であり,本発明はこれら3用途に限定されるものではない.
電池性能判別関数の数学的な定義は限定されないが、電池性能判別空間上の状態量(変換後蓄電池データ)を入力とし、戻り値は実数値とする。戻り値の符号が正なら対象電池は使用可能、負なら使用不可能に対応する(
図4参照)。電池性能判別関数fの出力を単純残存価値と定義してもよいが、0以下の負値は全て0とみなす等のフィルタ処理を加えてもよい。また電池性能判別関数fの出力が負(使用不可能)であれば、警告信号を生成して、電池状態表示部4に通知する。
【0068】
(ST9)
電池状態表示部4が、電池使用可能判別量計算部7により計算された単純残存価値を表示する。
【0069】
(ST11)
複合残存価値計算部8は、電池使用可能判別量計算部7で計算された各々の用途の各単純残存価値を、調整係数計算部6から入力された各調整係数を乗算して総和することで、複合残存価値を得る。
図8の右側に、各単純残存価値を調整係数により重み付け総和して複合残存価値を得る例を示す。調整係数計算部6は、用途毎の調整係数の値を記憶している。調整係数計算部6は、複合残存価値計算部8からの要求に応じて用途毎の調整係数を出力する。
【0070】
複合残存価値の計算式の一例を以下に示す。
【0072】
各αは調整係数計算部6から入力される重み係数である。各αは、単純残存価値→金額への変換、または当該用途の相対的市場規模を反映するパラメタである。
【0073】
(ST12)
電池状態表示部4は、複合残存価値計算部8で計算された複合残存価値を表示する。
【0074】
以上の処理により、蓄電池のユーザは自分の蓄電池がどれだけの経済上の価値を持つのかを定量的に知ることができ、合わせて近い将来までの使用可能性を予測の形で知ることができるようになる。
【0075】
次に、
図9のフローチャートを用いて、判別空間変換関数及び電池性能判別関数の学習プロセスを示す。以下のST14、ST15、ST16のステップは設計者が設定した二次利用用途の数だけ実行される。
【0076】
(ST13)
学習用データを学習用蓄電池状態データ記憶部15に格納し、学習用データに一対一に対応して使用可/不可を示す符号を学習用蓄電池使用可/不可符号記憶部16に格納し、学習を開始する。
【0077】
学習用蓄電池状態データ記憶部15に記憶されるデータは蓄電池状態量履歴データ記憶部27と同形式であり、電池状態量・測定日時・測定回数・IDの4項目を含む(
図10参照)。
【0078】
また学習用蓄電池使用可/不可符号記憶部16は使用可/不可の符号を格納する(
図10参照)。
【0079】
使用可/不可符号は各二次利用用途における使用可/不可を表す真理値であり、前設定用途数ごとに定義される。したがって、一個の状態量の組に対して用途の数だけ真理値が対応付けされる。
【0080】
(ST14)
電池性能判別空間変換関数計算部13は、学習用蓄電池状態データ記憶部15から学習用データ(蓄電池状態量)を学習に必要な所定の個数読み出し、さらに読み出した蓄電池状態量に対応する使用可/不可符号を学習用蓄電池使用可/不可符号記憶部16から読み出す。これらの読み出したデータを用いて、電池性能判別空間への変換関数を学習し、電池性能判別空間変換関数記憶部14に記憶する。
【0081】
変換関数の例としては、以下に示すパターン認識の分野等次元数削減のために用いられる線型判別等が想定される。
【0082】
同方法で用いられる変換関数の学習方法は、以下の文献に詳しい。
石井他「わかりやすいパターン認識」1998オーム社 ISBN4-274-13149-1
【0083】
ここでは上記文献の方法をもとに変換関数の学習方法の実施例の一つを説明する。
【0084】
最初に各クラス内変動行列Sを以下で定義する。ここでのクラスは使用可/不可の各電池状態量の集合を指す。
【0085】
Xは各クラス内の各電池状態量xの集合であり、d次元とする。mはクラス内の平均ベクトルである。
【数10】
【0086】
ここから、各クラス内変動行列の総和として、クラス内変動行列SWを定めることができる。
【数11】
【0087】
次にクラス間変動行列S
Bを、以下のように定める。n
iは各クラス内のデータ数、m
iは各クラスの平均ベクトル、mは全てのクラスのデータの平均である。
【0088】
S
Bが大きければ大きいほど、2つの電池のクラスは空間上で離れていると考えられる。
【数12】
【0089】
次に変換行列Aを導入する。ここでは(d、1)行列と仮定する。変換後電池データyは、以下で計算される。
【数13】
【0090】
ここで全データを変換後電池データに変換した場合、変換後の空間で電池データの使用可/不可がもっとも明確に分離するように変換行列Aを定めればよい。
【0091】
ここで変換後のクラス内変動行列
【数14】
を以下で定める。
【数15】
【0092】
また変換後のクラス間変動行列
【数16】
を以下で定める。
【数17】
【0093】
このとき、各クラスの分離度を示す指標として、次の関数
【数18】
を導入する。
【数19】
【0094】
この関数値が大きければ、変換後電池データは使用可/不可ごとに小さくまとまり、かつ互いの集団間距離は乖離していると考えることができる。
【数20】
を最大にするAが、求める変換関数(変換行列)である。
【0095】
Aを求める手順としては、最初に次の制約を導入する。
【数21】
【0096】
そして上記制約のもとで
【数22】
を最大にするAを求める。
【0097】
ここでラグランジュ乗数を導入すると、次のラグランジュ関数
【数23】
が得られる。
【数24】
【0098】
これをAで微分して0とおくと以下が得られる。
【数25】
【0099】
このとき
【数26】
の最大固有値に相当するλが、JS(A)を最大にするλである。
【数27】
の固有値問題を解き、対応する固有ベクトルを求めることでAが定まる。
【0100】
さらに第二・第三位の固有値に対応する固有ベクトルにより、電池性能判別空間の複数の次元を定めることができる。
【0101】
これらの固有ベクトルを結合し、最終的な
判別空間変換関数を得る。
【0102】
(ST15)
電池性能判別関数計算部8は、学習用蓄電池状態データ記憶部15から学習用データ(蓄電池状態量のデータ)を学習に必要な所定の個数読み出し、ステップS14で学習された判別空間変換関数を用いて、電池性能判別空間へ当該蓄電池状態量を変換する。
【0103】
(ST16)
電池性能判別関数計算部8は、ステップS15で読み出した蓄電池状態量に対応する符号を学習用蓄電池使用可/不可符号記憶部16から読み出す。使用可/不可符号の情報により、電池性能判別空間上の状態量(変換後蓄電池データ)は、使用可の蓄電池と不可の蓄電池を区別することが可能となる。
【0104】
電池性能判別関数は、電池性能判別空間上の状態量を入力とし、この使用可/不可符号を再現するように(たとえば使用可のものは正、使用不可のものは負の値が出力されるように)、所定の学習アルゴリズムを用いて計算される。
【0105】
たとえば電池性能判別関数の例として、前述のサポートベクターマシンを用いた場合、関数の計算に必要な係数行列は最適化問題をとき、必要な数値を計算すること手順で求めることができる。これらの詳細も前出の渡辺他「学習システムの理論と実現」森北出版2005 ISBN:4-627-82941-8等に詳しい。
【0106】
電池性能判別関数計算部8は、学習により得た電池性能判別関数を、電池性能判別関数記憶部17に格納する。
【0107】
前述のとおり、ステップST14、ST15、ST16を、設定された二次利用全てにおいて実施する。これにより、二次利用用途ごとに、判別空間変換関数と電池性能判別関数が得られる。
【0108】
(その他の実施形態)
上述したように、複数の二次利用用途を設定すれば、用途毎の単純残存価値を重み付け総和することで、複合残存価値を計算できる。一方で、二次利用用途を単一かつ一次利用用途と同じものに限定して、当該用途におけるリユースの可/不可判定、劣化診断ツールとして実現することも想定される。
【0109】
この際、単一の用途としてEVを設定した場合は、本実施形態をEVの蓄電池リユース判定ツールとして利用できる。
【0110】
なお、以上に説明した本実施形態における蓄電池診断装置は、例えば、汎用のコンピュータ装置を基本ハードウェアとして用いることで実現することが可能である。すなわち、蓄電池診断装置の各処理部は、上記のコンピュータ装置に搭載されたプロセッサにプログラムを実行させることにより実現することができる。このとき、蓄電池診断装置は、上記のプログラムをコンピュータ装置にあらかじめインストールすることで実現してもよいし、CD-ROMなどの記憶媒体に記憶して、あるいはネットワークを介して上記のプログラムを配布して、このプログラムをコンピュータ装置に適宜インストールすることで実現してもよい。また、残存価値診断装置内の記憶部は、装置内もしくは外付けのメモリ装置およびハードディスク、あるいは、CD-R, CD-RW, DVD-RAM, DVD-R 等の記録媒体によって構成されてもよい。