特許第6034497号(P6034497)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6034497
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】鞍乗り型車両のシートヒンジ構造
(51)【国際特許分類】
   B62J 1/12 20060101AFI20161121BHJP
   B62J 9/00 20060101ALI20161121BHJP
   F16C 11/04 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   B62J1/12 B
   B62J9/00 G
   F16C11/04 G
【請求項の数】11
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-530579(P2015-530579)
(86)(22)【出願日】2013年8月6日
(86)【国際出願番号】JP2013071221
(87)【国際公開番号】WO2015019413
(87)【国際公開日】20150212
【審査請求日】2015年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】特許業務法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 直紀
(72)【発明者】
【氏名】菊野 順二
(72)【発明者】
【氏名】中島 淳
(72)【発明者】
【氏名】瀧谷 誠
【審査官】 佐々木 芳枝
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−334667(JP,A)
【文献】 特開2002−178814(JP,A)
【文献】 特開平8−11532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62J 1/12
B62J 9/00
F16C 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員が着座するシート(20)を、このシート(20)の一端に囲繞されるように設けられたシートヒンジ(31)を介して車体側に開閉自在とした鞍乗り型車両のシートヒンジ構造において、
前記シートヒンジ(31)は、前記車体側に設けられた車体側ヒンジ(51A)と、この車体側ヒンジ(51A)にヒンジピン(55)を介して回動可能に取付けられたシート側ヒンジ(52)とを備え、
前記シート側ヒンジ(52)には、前記車体側ヒンジ(51A)に向かって延びる突出部(52h)を備え、
前記車体側ヒンジ(51A)には、前記突出部(52h)が当接可能な凸部(64a)を備えた板ばね(64)が設けられ、
前記シート(20)を開く際に、前記突出部(52h)が前記板ばね(64)の前記凸部(64a)を越えることにより、前記シート側ヒンジ(52)が前記板ばね(64)に支持されて、前記シート(20)が開状態に保持されることを特徴とする鞍乗り型車両のシートヒンジ構造。
【請求項2】
前記板ばね(64)は、複数重ねて設けられることを特徴とする請求項1に記載の鞍乗り型車両のシートヒンジ構造。
【請求項3】
前記板ばね(64)は、断面略V字状の部材であり、側面視で、前記ヒンジピン(55)にV字の開口が向くように配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の鞍乗り型車両のシートヒンジ構造。
【請求項4】
前記シート(20)の全閉と全開との途中に保持した状態から、全開状態までの範囲において、前記シート(20)が前記ヒンジピン(55)のみで支持されて開閉されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の鞍乗り型車両のシートヒンジ構造。
【請求項5】
前記板ばね(64)は、前記突出部(52h)及び前記車体側ヒンジ(51A)に対して曲面で接することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の鞍乗り型車両のシートヒンジ構造。
【請求項6】
前記車体側ヒンジ(51A)の上面には、前記板ばね(64)を支持するプレート(58)が設けられ、このプレート(58)は、前記板ばね(64)に沿った曲面を有するリブ(58m,58n)を備え、このリブ(58m,58n)によって前記板ばね(64)が支持されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の鞍乗り型車両のシートヒンジ構造。
【請求項7】
前記車体側ヒンジ(51A)には、前記プレート(58)が挿入される凹部(51e)が形成され、前記プレート(58)には、前記突出部(52h)が収納される凹部(58a)が形成され、これらの凹部(51e,58a)はそれぞれ水抜き穴(51h,58h)を備えることを特徴とする請求項6に記載の鞍乗り型車両のシートヒンジ構造。
【請求項8】
前記シート(20)の下方に設けられた物品収納箱(51)は、前記シート(20)の下部と当接するシール面(51b)を備え、前記シートヒンジ(31)は、前記シール面(51b)の外側に配置されることを特徴とする請求項1乃至7に記載の鞍乗り型車両のシートヒンジ構造。
【請求項9】
前記プレート(58)は、開口部(58c)を備え、この開口部(58c)から突出した前記板ばね(64)の凸部(64a)で、前記シート側ヒンジ(52)の前記突出部(52h)を支持可能であることを特徴とする請求項6乃至8のいずれか一項に記載の鞍乗り型車両のシートヒンジ構造。
【請求項10】
前記板ばね(64)は、断面が線対称な形状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の鞍乗り型車両のシートヒンジ構造。
【請求項11】
前記プレート(58)は、前記凹部(58a)を形成する前上がりの前壁(58b)を備え、この前壁(58b)の表側の面(58p)が前記シート側ヒンジ(52)に臨み、前記前壁(58b)の裏側の面(58k)に前記リブ(58m,58n)が形成され、
側面視で、前記表側の面(58p)は、前記ヒンジピン(55)を中心に描いた円弧と重なることを特徴とする請求項6乃至10のいずれか一項に記載の鞍乗り型車両のシートヒンジ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートを全閉と全開との中間位置で保持可能な鞍乗り型車両のシートヒンジ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鞍乗り型車両のシートヒンジ構造として、車体側に設けられた下部ヒンジ部材に、シート側に設けられた上部ヒンジ部材が回転軸を介して回動可能に支持されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、上記シートヒンジ構造と同様な構造で、シートを全閉と全開との中間位置で保持可能なシートストッパーが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3593905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、回転軸に回転ダンパ、渦巻きばね等が設けられるため、シートヒンジ構造の構成部品数が多くなり、組付け工数も多くなるため、コストが嵩む。更に、回転ダンパ、渦巻きばねにはシートの全閉から全開に亘って常にシート側から回転方向の外力が作用するため、長期の使用に耐え得るように形状、材質等に配慮する必要があり、この点でもコストアップに繋がる。従って、シートヒンジのより単純な構造が望まれていた。
また、上記したシートストッパーでは、中間位置でシートを保持した状態から、シートを少し上方へ持ち上げることで保持を解除する構造であるため、シートを閉じる際の使い勝手の向上が望まれていた。
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、コストが抑えられるとともに、シンプルな構造とすることによって、使い勝手を向上させることが可能な鞍乗り型車両のシートヒンジ構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため、本発明は、乗員が着座するシート(20)を、このシート(20)の一端に囲繞されるように設けられたシートヒンジ(31)を介して車体側に開閉自在とした鞍乗り型車両のシートヒンジ構造において、前記シートヒンジ(31)は、前記車体側に設けられた車体側ヒンジ(51A)と、この車体側ヒンジ(51A)にヒンジピン(55)を介して回動可能に取付けられたシート側ヒンジ(52)とを備え、前記シート側ヒンジ(52)には、前記車体側ヒンジ(51A)に向かって延びる突出部(52h)を備え、前記車体側ヒンジ(51A)には、前記突出部(52h)が当接可能な凸部(64a)を備えた板ばね(64)が設けられ、前記シート(20)を開く際に、前記突出部(52h)が前記板ばね(64)の前記凸部(64a)を越えることにより、前記シート側ヒンジ(52)が前記板ばね(64)に支持されて、前記シート(20)が開状態に保持されることを特徴とする。
【0006】
上記構成において、前記板ばね(64)は、複数重ねて設けられるようにしても良い。
また、上記構成において、複数重ねて設けられた板ばね(64)は互いに厚みを異ならせても良い。
また、上記構成において、前記板ばね(64)は、断面略V字状の部材であり、側面視で、前記ヒンジピン(55)にV字の開口が向くように配置されていても良い。
また、上記構成において、前記シート(20)の全閉と全開との途中に保持した状態から、全開状態までの範囲において、前記シート(20)が前記ヒンジピン(55)のみで支持されて開閉されるようにしても良い。
また、上記構成において、前記板ばね(64)は、前記突出部(52h)及び前記車体側ヒンジ(51A)に対して曲面で接するようにしても良い。
【0007】
また、上記構成において、前記車体側ヒンジ(51A)の上面には、前記板ばね(64)を支持するプレート(58)が設けられ、このプレート(58)は、前記板ばね(64)に沿った曲面を有するリブ(58m,58n)を備え、このリブ(58m,58n)によって前記板ばね(64)が支持されるようにしても良い。
また、上記構成において、前記車体側ヒンジ(51A)には、前記プレート(58)が挿入される凹部(51e)が形成され、前記プレート(58)には、前記突出部(52h)が収納される凹部(58a)が形成され、これらの凹部(51e,58a)はそれぞれ水抜き穴(51h,58h)を備えるようにしても良い。
また、上記構成において、前記シート(20)の下方に設けられた物品収納箱(51)は、前記シート(20)の下部と当接するシール面(51b)を備え、前記シートヒンジ(31)は、前記シール面(51b)の外側に配置されるようにしても良い。
【0008】
また、上記構成において、前記プレート(58)は、開口部(58c)を備え、この開口部(58c)から突出した前記板ばね(64)の凸部(64a)で、前記シート側ヒンジ(52)の前記突出部(52h)を支持可能であっても良い。
また、上記構成において、前記リブ(58m,58n)は、前記開口部(58c)の縁に複数形成されていても良い。
また、上記構成において、前記板ばね(64)及び前記プレート(58)は、ガラス繊維により強化されていても良い。
また、上記構成において、前記板ばね(64)は、断面が線対称な形状に形成されていても良い。
また、上記構成において、前記板ばね(64)は、前記車体側ヒンジ(51A)と前記プレート(58)との間に撓んだ状態で挟持されていても良い。
【0009】
また、上記構成において、前記プレート(58)は、前記凹部(58a)を形成する前上がりの前壁(58b)を備え、この前壁(58b)の表側の面(58p)が前記シート側ヒンジ(52)に臨み、前記前壁(58b)の裏側の面(58k)に前記リブ(58m,58n)が形成され、側面視で、前記表側の面(58p)は、前記ヒンジピン(55)を中心に描いた円弧と重なるようにしても良い。
また、上記構成において、前記板ばね(64)の凸部(64a)に当接可能な前記突出部(57h)の当接面(52s)は、前記突出部(52h)の先端の回動の軌跡(69)に対して、前記シート(20)の開方向にいくにつれて離れるように形成されていても良い。
【0010】
また、上記構成において、前記シート側ヒンジ(52)は、その基部(52k)に、前記シート(20)に取付ける際にシート(20)側から延びるボルト(59)が通される複数の取付穴(52c,52d,52e,52f)が設けられ、これらの取付穴(52c,52d,52e,52f)は、略矩形とされた前記基部(52k)の4つの角部の対向する一方の対角に設けられた一対の丸穴とされた取付穴(52d,52e)と、前記4つの角部の他方の対角に設けられた一対の長穴とされた取付穴(52c,52f)とから構成され、前記一対の丸穴とされた取付穴(52d,52e)は、内径が異なるようにしても良い。
また、上記構成において、前記一対の長穴とされた取付穴(52c,52f)は、一方が車体前後方向に長く、他方が車幅方向に長く形成されていても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、シートヒンジが、車体側に設けられた車体側ヒンジと、この車体側ヒンジにヒンジピンを介して回動可能に取付けられたシート側ヒンジとを備え、シート側ヒンジには、車体側ヒンジに向かって延びる突出部を備え、車体側ヒンジには、突出部が当接可能な凸部を備えた板ばねが設けられ、シートを開く際に、突出部が板ばねの凸部を越えることにより、シート側ヒンジが板ばねに支持されて、シートが開状態に保持されるので、本発明では、従来のようにヒンジピンに回転ダンパ、渦巻きばね等を巻き付けたりする必要がなく、板ばねでシート側ヒンジを支持する構造であるため、部品点数が少なくなる。また、本発明では、全閉位置と全開位置との中間位置で保持されて開いているシートを閉じるときに、従来のように更に開く方向へ一旦移動させる必要もなく、閉じる方向へ移動させる動作のみで板ばねを撓ませてシートを自重も利用して容易に保持位置から閉じることができる。以上より、シートヒンジをシンプルな構造とすることができ、コストを抑えることができるとともに、鞍乗り型車両の使い勝手を向上させることができる。
【0012】
また、板ばねは、複数重ねて設けられるので、板ばね全体の弾性力を容易に増大できる。従って、弾性力の強い部材を用いずとも、板ばねが塑性変形することなくシートを全閉位置と全開位置との中間位置で保持することができる。よって、シートヒンジをより廉価な構造とすることができる。また、シートの仕様、大きさ、形状等の違いによるシート重量の変化に応じて、板ばねの板厚、形状、枚数を変えるのみで容易に板ばねの弾性力を調整することができる。
また、板ばねは、断面略V字状の部材であり、側面視で、ヒンジピンにV字の開口が向くように配置されているので、板ばねに加わる荷重をV字の両端部にて分散させることができる。従って、板ばねが塑性変形するのを抑制することができる。
また、シートの全閉と全開との途中に保持した状態から、全開状態までの範囲において、シートがヒンジピンのみで支持されて開閉されるので、シートヒンジをシンプルな構造とすることができる。また、上記範囲では、突出部が板ばねに当接しないので、板ばねを摩耗しにくくすることができる。従って、板ばねを可及的に廉価な構造とすることができる。
【0013】
また、板ばねは、突出部及び車体側ヒンジに対して曲面で接するので、板ばねをスムーズに撓ませることができ、板ばねに加わる荷重を拡散して受けることができる。従って、板ばねが摩耗することを防ぐことができる。
また、車体側ヒンジの上面には、板ばねを支持するプレートが設けられ、このプレートは、板ばねに沿った曲面を有するリブを備え、このリブによって板ばねが支持されるので、局所的な当たりが生じないようにして板ばねの摺動をスムーズに行わせることができる。
また、車体側ヒンジには、プレートが挿入される凹部が形成され、プレートには、突出部が収納される凹部が形成され、これらの凹部はそれぞれ水抜き穴を備えるので、シート側ヒンジの突出部、プレートに付着した雨水等の液体を集約して水抜き穴から排出することができる。従って、プレートに固定された板ばねを腐食しにくくすることができる。
【0014】
また、シートの下方に設けられた物品収納箱は、シートの下部と当接するシール面を備え、シートヒンジは、シール面の外側に配置されるので、シート前部とシール面との間に、シートヒンジを設けることによって、物品収納箱の収納スペースを大きくすることができる。
また、プレートは、開口部を備え、この開口部から突出した板ばねの凸部で、シート側ヒンジの突出部を支持可能であるので、車体側ヒンジとプレートとに板ばねを挟んで保持しつつ板ばねの凸部でシート側ヒンジを支持することが可能になる。
【0015】
また、リブは、開口部の縁に複数形成されているので、リブで開口部の縁を補強してプレートの剛性を高めることができ、板ばねの荷重を支えることができる。
また、プレートには、ガラス繊維で強化された樹脂を用いているので、プレートの剛性と耐摩耗性とを向上させることができる。
また、板ばねは、断面が線対称な形状に形成されているので、突出部が板ばねの凸部を越える際に、板ばねに発生する荷重を線対称な部分に均等に分散させることができ、塑性変形を抑制できるとともに耐久性を向上させることができる。
【0016】
また、プレートは、凹部を形成する前上がりの前壁を備え、この前壁の表側の面がシート側ヒンジに臨み、前壁の裏側の面にリブが形成され、側面視で、表側の面は、ヒンジピンを中心に描いた円弧と重なるので、回動するシート側ヒンジの突出部と、プレートの前壁とを一定距離に保ちつつその距離をより小さくすることができ、シートヒンジのコンパクト化を図ることができる。
また、板ばねの凸部に当接可能な突出部の当接面は、突出部の先端の回動の軌跡に対して、シートの開方向にいくにつれて離れるように形成されているので、突出部の当接面を板ばねの頂部に徐々に当接させることができ、板ばねを徐々に撓ませることができるため、シートを開く際に加える力の増加を穏やかにしてシートをより開きやすくすることができる。従って、シートの使い勝手を向上させることができる。
【0017】
また、シート側ヒンジは、その基部に、シートに取付ける際にシート側から延びるボルトが通される複数の取付穴が設けられ、これらの取付穴は、略矩形とされた基部の4つの角部の対向する一方の対角に設けられた一対の丸穴とされた取付穴と、4つの角部の他方の対角に設けられた一対の長穴とされた取付穴とから構成され、一対の丸穴とされた取付穴は、内径が異なるので、一対の長穴と大きい方の丸穴とによって、シート側から延びる複数のボルトの間隔に製造ばらつきがあっても、その製造ばらつきを吸収することができる。従って、シート側ヒンジのシートへの組付けを容易に行うことができる。
また、一対の長穴とされた取付穴は、一方が車体前後方向に長く、他方が車幅方向に長く形成されているので、シート側から延びる複数のボルト間の車体前後方向及び車幅方向の間隔の製造ばらつきを吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の一実施形態のシートヒンジ構造を備える自動二輪車の左側面図である。
図2図2は、シートヒンジ及びその周囲を示す要部斜視図である。
図3図3は、シートヒンジ及びその周囲を示す要部左側面図である。
図4図4は、シートヒンジの構成部品を示す要部左側面図である。
図5図5は、シートヒンジ及びその周囲を示す要部平面図である。
図6図6は、シート全開位置におけるシートヒンジを示す要部平面図である。
図7図7は、図6に対してシート側ヒンジ及びヒンジプレートを省いた状態を拡大して示す要部平面図である。
図8図8は、ヒンジプレートの説明図であり、図8(A)はヒンジプレートの平面図、図8(B)は図8(A)のB矢視図である。
図9図9は、シート側ヒンジを示す斜視図である。
図10図10は、シートヒンジを示す斜視図である。
図11図11は、シート側ヒンジの動作を示す第1作用図であり、図11(A)は図1に示したシートの全閉位置Aでのシートヒンジを示す断面図、図11(B)はシート側ヒンジが回動途中の状態を示す第1断面図である。また、図11(A),(B)はいずれも左側面図である。
図12図12は、シート側ヒンジの動作を示す第2作用図であり、図12(A)はシート側ヒンジが回動途中の状態を示す第2断面図、図12(B)は図1に示したシートの中間位置Bでのシートヒンジを示す断面図である。また、図12(A),(B)はいずれも左側面図である。
図13図13は、シート側ヒンジの動作を示す第3作用図である。また、図13は左側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態のシートヒンジ構造を備える自動二輪車10の左側面図である。
自動二輪車10は、バーハンドル11で操舵されるフロントフォーク12と、このフロントフォーク12の下端部に車軸13を介して支持された前輪14と、車体の中央部下部に上下揺動可能に支持された駆動源となるパワーユニット16と、このパワーユニット16の後端部に設けられた出力軸17に取付けられた後輪18と、車体の中央部上部から車体の後部上部に亘って設けられた開閉可能なシート20と、骨格となる車体フレームを覆う車体カバー21とを備えたスクータ型の鞍乗り型車両である。
【0020】
前輪14は、上方からフロントフェンダ23で覆われている。パワーユニット16の下部にはメインスタンド24が取付けられ、パワーユニット16の後端部は、クッションユニット26を介して車体フレームの後部に連結されている。後輪18は、上方からリアフェンダ27で覆われている。
シート20の下方には収納ボックスが配置されている。シート20の前端部は、収納ボックスの前端部上部とシートヒンジ31で連結され、シート20の後端部は、閉状態では、収納ボックスの後端部に設けられたシートロック機構に解除可能に係合される。シート20は、図に実線で示した全閉位置A及び想像線で示した位置Cのように開き、全閉位置Aと位置Cとの中間位置Bで開状態に保持可能である。
【0021】
車体カバー21は、車体前部に設けられたフロントカバー33と、このフロントカバー33の後方に配置されて運転者の脚部の前方を覆う左右一対のレッグシールド34,34(手前側のレッグシールド34のみ図示)と、左右のレッグシールド34,34間からシート20の前端部の下方まで延びるセンタカバー36と、左右のレッグシールド34,34の下端から下方及び後方に延びる左右一対のフロアステップ37,37(手前側のフロアステップ37のみ図示)と、左右のフロアステップ37,37の両側縁部から下方に延びる左右一対のフロアスカート38,38(手前側のフロアスカート38のみ図示)と、左右のフロアステップ37,37の後部上部から後方斜め上方に延びる左右一対のボディカバー41,41(手前側のボディカバー41のみ図示)とを備える。
【0022】
フロントカバー33の上部にはウインドスクリーン43が設けられている。フロアスカート38の側方には車体フレームに取付けられたサイドスタンド44が配置されている。ボディカバー41の後部上方であってシート20の後部の側方及び後方を囲むようにグラブレール46が配置されている。左右のボディカバー41,41の後端部間にはテールランプ47が配置されている。
【0023】
図2は、シートヒンジ31及びその周囲を示す要部斜視図であり、シート20が図1で説明した中間位置Bに保持されて開いている状態を示している。
図2において、収納ボックス51の前端部に、シートヒンジ31を構成する車体側ヒンジ51Aが一体に設けられ、シート20の前端部に、シートヒンジ31を構成するシート側ヒンジ52が取付けられている。このように、収納ボックス51の前端部にシートヒンジ31を介してシート20が開閉可能に取付けられている。
収納ボックス51には、その収納部本体51cにおける開口51dの周縁に環状のシール面51bが形成され、シール面51bに密着するようにシート20、詳しくはシート20を構成する底板28の底面に無端状のシール用ゴム53が取付けられている。車体側ヒンジ51Aは収納ボックス51のシール面51bより車体前方に配置されている。
【0024】
図3は、シートヒンジ31及びその周囲を示す要部側面図である。
収納ボックス51の収納部としての箱形の収納部本体51cから車体前方に車体側ヒンジ51Aが一体に突出し、車体側ヒンジ51Aの前端部に車幅方向に延びるようにヒンジピン55が貫通し、ヒンジピン55に揺動可能にシート側ヒンジ52が支持されている。
シート側ヒンジ52は、その上面52aが、シート20の底板28の前端部下部に形成された凹部28aにボルト・ナットで固定され、傾斜した前面52bがシート20の前端部20cで前方から覆われている。
【0025】
図4は、シートヒンジ31の構成部品を示す要部側面図である。
シートヒンジ31は、シート側ヒンジ52を支持可能な重ね板ばね57と、重ね板ばね57を車体側ヒンジ51Aと協働して挟持するヒンジプレート58とを備える。ヒンジプレート58は、車体側ヒンジ51Aに複数のビス61で固定されている。なお、符号59はシート20(図1参照)の底板28(図3参照)から突出するボルト、62はシート側ヒンジ52をシート20に固定するためにボルト59にねじ結合されたナットである。
重ね板ばね57は、複数の金属製の板ばね64を重ねたものである。板ばね64は、側面視では略V字形状で線対称な形状に形成され、中央の湾曲した頂部64aと、両端部の湾曲した基部64b,64bと、頂部64a及び基部64b,64bのそれぞれを繋ぐ傾斜部64c,64cとから一体に構成されている。頂部64a及び基部64bは、それぞれ円弧状又は円弧に近い形状に形成されている。傾斜部64cは、緩やかに湾曲する、又は平面状に形成された部分である。重ね板ばね57は、そのV字の開口がヒンジピン55に向くようにシートヒンジ31に組み付けられている。
ヒンジプレート58は、その前部上部が、側面視で重ね板ばね57の頂部64a及び傾斜部64cにほぼ沿った形状に形成されている。
【0026】
上記したように、複数の板ばね64を重ねて用いることで、全体の板厚が同じ一枚の板ばねに比べて、重ね板ばね57に発生する応力を小さくすることができる。従って、塑性変形しにくくすることができる。また、全体の板厚が同じ一枚の板ばねと撓み量を同一にした場合には、重ね板ばね57を小型にすることができる。更に、板ばね64の枚数を増やすことで、重ね板ばね57で支えられる荷重を簡単に大きくすることができる。そのため、同じ弾性力を発生させるために、安価な部材を用いることができる。
【0027】
図5は、シートヒンジ31及びその周囲を示す要部平面図である。
シート側ヒンジ52は、シート20(図1参照)に取付けられるように、略矩形とされた上部基部52kの上面52aの角部に複数のシート取付穴52c,52d,52e,52fが開けられている。左前側のシート取付穴52cは車幅方向に長い長穴、左後側のシート取付穴52d及び右前側のシート取付穴52eは丸穴、右後側のシート取付穴52fは車体前後方向に長い長穴である。また、2つの丸穴であるシート取付穴52d,52eにおいて、シート取付穴52dの方が、シート取付穴52eより内径が大きくなっている。
シート側ヒンジ52は、シート20から突出するボルトとナットとによって複数支持(4点支持)され、そのうち、2点の支持部には上記したように長穴が開けられ、これらの長穴は、4カ所の角部のうちの一対の対角に設けられている。シート取付穴52c,52fを長穴とし、シート取付穴52dをシート取付穴52eより大きくすることで、シート20の底板28(図2参照)側から延びる複数のボルト間の車体前後方向及び車幅方向の間隔に製造ばらつきがあっても、その製造ばらつきをシート取付穴52c,52d,52fで吸収することができる。従って、シート側ヒンジ52のシート20への組付けを容易に行うことができる。
【0028】
図6は、シート全開位置におけるシートヒンジ31を示す要部平面図である。
シートヒンジ31のヒンジプレート58は、平面視で輪郭がほぼ矩形の樹脂製部品であり、車体側ヒンジ51Aに複数のビス61で取付けられている。ヒンジプレート58の車幅方向中央には窪み部58aが設けられている。窪み部58aの前側の壁は、前上がりに形成された傾斜壁58bであり、傾斜壁58bに、重ね板ばね57が露出する矩形の開口部58cが開けられている。
シート側ヒンジ52は、下面52gに、重ね板ばね57と車幅方向の左右幅が略同一で重ね板ばね57に当接可能な突出部52hが形成されている。
【0029】
図7は、図6に対してシート側ヒンジ52及びヒンジプレート58を省いた状態を拡大して示す要部平面図である。
車体側ヒンジ51Aは、車幅方向中央に窪み部51eが形成され、この窪み部51eにヒンジプレート58(図6参照)が挿入される。窪み部51eの縁には、ヒンジプレート58を固定するビス61(図6参照)をねじ込むビス穴51f,51fが開けられている。窪み部51eの底壁51gにもビス穴51fが開けられている。底壁51gの左後側の隅部には水抜き穴51hが開けられている。窪み部51eの前壁51jは、前上がりに傾斜し、この前壁51jに重ね板ばね57(図4参照)が載置される。
【0030】
図8は、ヒンジプレート58の説明図である。図8(A)はヒンジプレート58の平面図、図8(B)は図8(A)のB矢視図である。
図8(A)に示すように、ヒンジプレート58の前部左右の角部と、窪み部58aの底壁58dとには、ヒンジプレート58をシート側ヒンジ52(図6参照)に取付けるビス61(図6参照)を挿入するビス挿通穴58e,58f,58gが開けられている。左右のビス挿通穴58e,58fのうち、左側のビス挿通穴58eは車幅方向に長い長穴、右側のビス挿通穴58fは丸穴に形成されている。従って、長穴とされたビス挿通穴58eによってビス61(図6参照)をビス挿通穴58e及び車体側ヒンジ51A(図7参照)のビス穴51f(図7参照)とに通す際に、上記した各穴位置の製造ばらつきを吸収することができる。従って、精度要件を高くすることなく、構成を満たすことができるので、製造コストを安くすることができる。
窪み部58aの底壁58dにおける左後側の隅部には水抜き穴58hが開けられている。水抜き穴58hは、図7に示した車体側ヒンジ51Aの水抜き穴51hと上下に重なって連通している。図8(A)において、開口部58cは、その車幅方向の左右幅が窪み部58aの左右幅と略同一になるように傾斜壁58bの前部に形成されている。
【0031】
図8(B)に示すように、ヒンジプレート58は、その傾斜壁58bの裏面58kに複数の上リブ58m及び複数の下リブ58nが一体成形されている。
複数の上リブ58mは、開口部58cの上縁に車幅方向に並ぶように形成されている。複数の下リブ58nは、開口部58cの下縁にそれぞれ上下方向に延びるように且つ車幅方向に並ぶように形成されている。
【0032】
図9は、シート側ヒンジ52を示す斜視図である。
シート側ヒンジ52は、上部基部52kと、上部基部52kの両側端部から下方に延びる一対の側壁52m,52mと、一対の側壁52m、52mのそれぞれの前端部を連結する前壁52nと、上部基部52kの下面52gから突出する突出部52hとが一体に形成されている。
側壁52m、52mは、それぞれヒンジピン55(図7参照)が貫通するピン挿通穴52pが開けられている。突出部52hは、正面視略矩形状、側面視略三角形状に形成されている。なお、符号52qは突出部52hの頂部である。
シート側ヒンジ52は、上記したように、略箱形に一体に形成されているため、シート20(図1参照)を支えるのに十分な剛性を確保することができる。
【0033】
図10は、シートヒンジ31を示す斜視図であり、図5に示したX−X線で切断した断面も示している。図中のシートヒンジ31は、シート20(図1参照)の全閉位置のものである。
車体側ヒンジ51Aの窪み部51eにはヒンジプレート58が挿入され、車体側ヒンジ51Aの前壁51jとヒンジプレート58の傾斜壁58bとに重ね板ばね57が挟まれて撓んだ状態で保持されている。重ね板ばね57の頂部64a(板ばね64の頂部64a)は、ヒンジプレート58の開口部58cからシート側ヒンジ52の突出部52h側に突出している。
シート側ヒンジ52の突出部52hは、ヒンジプレート58の窪み部58a内に収容され、突出部52hを形成する前側壁52rは、重ね板ばね57の頂部64a及びヒンジプレート58の傾斜壁58bに近接するように配置されている。
【0034】
以上に述べたシートヒンジ31の作用としてシート側ヒンジ52の動作を説明する。なお、以下の図11図13では、重ね板ばね57の断面を便宜上一枚の板ばねの断面として示している。
図11は、シート側ヒンジ52の動作を示す第1作用図である。図11(A)は図1に示したシート20の全閉位置Aでのシートヒンジ31を示す断面図、図11(B)はシート側ヒンジ52が回動途中の状態を示す第1断面図である。なお、断面位置は、図5に示したX−X線断面に対応している。
図11(A)に示すように、シート側ヒンジ52の上部基部52kの上面52aは、ほぼ水平で、前壁52nは、車体側ヒンジ51Aの前端壁51kとほぼ平行となっている。突出部52hの前側壁52rの前面52sは、円弧状又は略円弧状に凹むように湾曲し、重ね板ばね57及びヒンジプレート58の傾斜壁58bに近接している。
【0035】
ヒンジプレート58の傾斜壁58bの傾斜面58pは、ヒンジピン55の軸線55aを中心とする半径R1の円弧状、又は軸線55aを略中心とする略円弧状に形成されている。また、シート側ヒンジ52の突出部52hの前面52sは、ヒンジピン55の上方に位置する点68を中心とする半径R2の円弧状、又は点68を略中心とする略円弧状に形成されている。図中の符号69はシート側ヒンジ52がヒンジピン55回りを回動する際にシート側ヒンジ52の突出部52hの頂部52qが描く軌跡である。突出部52hの前面52sは、シート20(図1参照)が開く方向にいくにつれて軌跡69から半径方向外側に徐々に離れるように延びている。重ね板ばね57の頂部64aは、軌跡69よりも上方斜め後方に突出している。従って、この突出量の分だけ重ね板ばね57は突出部52hによって圧縮されることになる。
ヒンジプレート58の上リブ58m及び下リブ58nは、その表面が凸状の湾曲面に形成されている。これにより、上リブ58m及び下リブ58nに重ね板ばね57が当たって摺動したときに、局所的な当たりが生じないようにして重ね板ばね57の摺動をスムーズに行わせることができる。
【0036】
図11(A)に示した状態から、図11(B)に示すように、シート側ヒンジ52が白抜き矢印で示すように回動すると、シート側ヒンジ52の突出部52hの前面52sは、重ね板ばね57の頂部64aに当たる。突出部52hの前面52sは、突出部52hの頂部52qの回動の軌跡に対して上記回動方向にいくにつれて徐々に離れるように延びている。従って、この状態からシート側ヒンジ52が更に回動していくと、突出部52hの前面52sは、重ね板ばね57の頂部64aを徐々に押し付けながら摺動し、重ね板ばね57は、その山の高さが低くなるように次第に撓んでいく。
【0037】
図12は、シート側ヒンジ52の動作を示す第2作用図である。図12(A)はシート側ヒンジ52が回動途中の状態を示す第2断面図、図12(B)は図1に示したシート20の中間位置Bでのシートヒンジ31を示す断面図である。なお、断面位置は、図5に示したX−X線断面に対応している。
図11(B)に示した状態から、図12(A)に示すように、白抜き矢印の向きにシート側ヒンジ52を回動させると、重ね板ばね57は、シート側ヒンジ52の突出部52hの前面52sと摺動しつつ圧縮される。図中の符号δは重ね板ばね57の撓み量である。
重ね板ばね57の頂部64a及び基部64b,64bは、湾曲した形状なので、突出部52hが重ね板ばね57と摺動したり、重ね板ばね57が撓んで基部64b,64bが車体側ヒンジ51Aの前壁51j上を摺動する際に、摺動がスムーズになる。従って、シート20(図1参照)をスムーズに開くことができる。
【0038】
図12(A)の状態から、図12(B)に示すように、白抜き矢印の向きにシート側ヒンジ52を回動させると、シート側ヒンジ52の突出部52hは、重ね板ばね57の頂部64aを乗り越える。そして、突出部52hの頂部52qは、重ね板ばね57の傾斜部64c(板ばね64の傾斜部64c)に支持される。この状態が、図1に示したシート20の中間位置Bでの保持状態であり、シート20が自重で全閉側に倒れようとするのを重ね板ばね57で支持している。
この状態から、重ね板ばね57の弾性力に抗して白抜き矢印とは反対方向に外力を加えると、重ね板ばね57がシート側ヒンジ52の突出部52hに押し付けられて撓み、突出部52hが重ね板ばね57の頂部64aを再び乗り越える。従って、シート20を全閉方向に容易に倒すことができる。
【0039】
図13は、シート側ヒンジ52の動作を示す第3作用図であり、図1に示したシート20の全開位置Cでのシートヒンジ31を示す断面図である。なお、断面位置は、図5に示したX−X線断面に対応している。
上記の図11図13に示したシート20(図1参照)の全閉位置からのシート側ヒンジ52の回動範囲において、シート側ヒンジ52の突出部52hと重ね板ばね57とは、図11(B)に示した当接開始から図12(B)の中間位置での保持までが当接状態にあり、他は離れている。従って、重ね板ばね57に荷重が加わる時間を可及的に減らした構造とすることができるため、従来のように、回転軸に設けられた回転ダンパや渦巻きばねが常に作動しているのに比較して、耐久性を向上させることができる。また、重ね板ばね57の摩耗、へたりを抑制することができ、更に、重ね板ばね57を廉価にすることができる。
【0040】
以上の図1図3及び図12(B)に示したように、乗員が着座するシートとしてのシート20を、シート20の一端に囲繞されるように設けられたシートヒンジ31を介して車体側に開閉自在とした鞍乗り型車両としての自動二輪車10のシートヒンジ構造において、シートヒンジ31は、車体側に設けられた車体側ヒンジ51Aと、車体側ヒンジ51Aにヒンジピン55を介して回動可能に取付けられたシート側ヒンジ52とを備え、シート側ヒンジ52には、車体側ヒンジ51Aに向かって延びる突出部52hを備え、車体側ヒンジ51Aには、突出部52hが当接可能な凸部としての頂部64aを備えた板ばね64からなる重ね板ばね57が設けられ、シート20を開く際に、突出部52hが板ばね64の頂部64aを越えることにより、シート側ヒンジ52が板ばね64に支持されて、シート20が開状態に保持される。
【0041】
この構成によれば、本発明では、従来のようにヒンジピンに回転ダンパ、渦巻きばね等を巻き付けたりする必要がなく、板ばね64でシート側ヒンジ52を支持する構造であるため、部品点数が少なくなる。また、本発明では、全閉位置と全開位置との中間位置で開いているシート20を閉じるときに、従来のように更に開く方向へ一旦移動させる必要もなく、閉じる方向へ移動させる動作のみで板ばね64を撓ませてシート20を自重も利用して容易に保持位置から閉じることができる。以上より、シートヒンジ31をシンプルな構造とすることができ、コストを抑えることができるとともに、自動二輪車10の使い勝手を向上させることができる。
【0042】
また、図4に示したように、板ばね64は、複数重ねられて重ね板ばね57として設けられるので、板ばね64の全体、即ち重ね板ばね57による反発力を容易に増大できる。従って、へたりに強い部材を用いずとも、板ばね64が塑性変形することなくシート20を全閉位置と全開位置との中間位置で保持することができる。よって、シートヒンジ31をより廉価な構造とすることができる。
また、図4及び図11(A)に示したように、板ばね64は、断面略V字状の部材であり、側面視で、ヒンジピン55にV字の開口が向くように配置されているので、板ばね64に加わる荷重をV字の両端部にて分散させることができる。従って、板ばね64が塑性変形することを抑制することができる。
また、図12(B)、図13に示したように、シート20の全閉位置Aから位置Cまでの範囲において、シート20がヒンジピン55のみで支持されて開閉されるので、シートヒンジ31をシンプルな構造とすることができる。また、突出部52hが板ばね64に当接しないので、板ばね64を摩耗しにくくすることができる。従って、板ばね64を可及的に廉価な構造とすることができる。
【0043】
また、図11(A)に示したように、板ばね64は、突出部52h及び車体側ヒンジ51Aに対して曲面で接するので、板ばね64に加わる荷重を拡散して受けることができる。従って、板ばね64の摩耗を防ぐことができる。
また、図10及び図11(A)に示したように、車体側ヒンジ51Aの上面には、板ばね64を支持するプレートとしてのヒンジプレート58が設けられ、このヒンジプレート58は、板ばね64に沿った曲面を有するリブとしての上リブ58m及び下リブ58nを備え、これらの上リブ58m、下リブ58nによって板ばね64が支持されるので、板ばね64を、ヒンジプレート58の板ばね64に沿った曲面で支持することができるため、板ばね64が摺動したときに、局所的な当たりが生じないようにして板ばね64の摺動をスムーズに行わせることができる。従って、シート20を保持状態から容易に且つスムーズに閉じることができる。
【0044】
また、図7図8(A)及び図11(A)に示したように、車体側ヒンジ51Aには、ヒンジプレート58が挿入される凹部としての窪み部51eが形成され、ヒンジプレート58には、突出部52hが収納される凹部としての窪み部58aが形成され、これらの窪み部51e,58aはそれぞれ水抜き穴51h,58hを備えるので、シート側ヒンジ52の突出部52h、ヒンジプレート58に付着した雨水等の液体を集約して水抜き穴51h,58hから排出することができる。従って、ヒンジプレート58に固定された板ばね64を腐食しにくくすることができる。
【0045】
また、図2及び図6に示したように、シート20の下方に設けられた物品収納箱としての収納ボックス51は、シート20の下部と当接するシール面51bを備え、シートヒンジ31、詳しくは車体側ヒンジ51Aは、シール面51bの外側に配置されるので、シート20の前部とシール面51bとの間に、シートヒンジ31を設けることによって、収納ボックス51の収納スペースを大きくすることができる。
また、図12(B)に示したように、ヒンジプレート58は、開口部58cを備え、この開口部58cから突出した板ばね64の頂部64aで、シート側ヒンジ52の突出部52hを支持可能であるので、車体側ヒンジ51Aとヒンジプレート58とで板ばね64を挟持して保持しつつ板ばね64の頂部64aでシート側ヒンジ52を支持することができる。
【0046】
また、図8(A),(B)に示したように、上リブ58m、下リブ58nは、開口部58cの縁、詳しくは、開口部58cの上縁及び下縁に複数形成されているので、板ばね64の摺動をスムーズにすることができる。
また、図11(A)に示したように、突出部52h及びヒンジプレート58には、ガラス繊維で強化した樹脂を用いているので、突出部52h及びヒンジプレート58の剛性と耐摩耗性とを向上させることができる。
また、板ばね64は、断面が略V字状に形成され、線対称な形状に形成されているので、突出部52hが板ばね64の頂部64aを越える際に、板ばね64に発生する荷重を線対称な部分に均等に分散させることができ、塑性変形を抑制できるとともに耐久性を向上させることができる。
【0047】
また、ヒンジプレート58は、窪み部58aを形成する前上がりの前壁としての傾斜壁58bを備え、この傾斜壁58bの表側の面としての傾斜面59pがシート側ヒンジ52に臨み、傾斜壁58bの裏側の面としての裏面58kに上リブ58m及び下リブ58nが形成され、側面視で、表側の傾斜面58pは、ヒンジピン55を中心に描いた円弧と重なるので、回動するシート側ヒンジ52の突出部52hと、ヒンジプレート58の傾斜壁58bとを一定距離に保ちつつその距離をより小さくすることができ、シートヒンジ31のコンパクト化を図ることができる。
また、板ばね64の頂部64aに当接可能な突出部52hの当接面としての前面52sは、突出部52hの先端(頂部52q)の回動の軌跡に対して、シート20の開方向にいくにつれて離れるように形成されているので、シート20を開く際に突出部52hの前面52sを板ばね64の頂部64aに徐々に当接させることができ、板ばね64を徐々に撓ませることができるため、シート20を開く際に加える力の増加を穏やかにしてシート20をより開きやすくすることができる。これにより、自動二輪車10(図1参照)の使い勝手を向上させることができる。
【0048】
また、図2図4及び図5に示したように、シート側ヒンジ52は、その基部としての上部基部52kに、シート20に取付ける際にシート20側から延びるボルト59が通される複数のシート取付穴52c,52d,52e,52fが設けられ、シート取付穴52c,52d,52e,52fは、略矩形とされた上部基部52kの4つの角部の対向する一方の対角に設けられた一対の丸穴とされたシート取付穴52d,52eと、4つの角部の他方の対角に設けられた一対の長穴とされたシート取付穴52c,52fとから構成され、一対の丸穴とされたシート取付穴52d,52eは、内径が異なるので、一対の長穴と大きい方の丸穴とによって、シート20側から延びる複数のボルト59の間隔に製造ばらつきがあっても、その製造ばらつきを吸収することができる。従って、シート側ヒンジ52のシート20への組付けを容易に行うことができる。また、精度要件を高くすることなく、構成を満たすことができるので、製造コストを安くすることができる。
また、一対の長穴とされたシート取付穴52c,52fは、一方が車体前後方向に長く、他方が車幅方向に長く形成されているので、シート20側から延びる複数のボルト59間の車体前後方向及び車幅方向の間隔の製造ばらつきを吸収することができる。従って、精度要件を高くすることなく、構成を満たすことができるので、製造コストを安くすることができる。
【0049】
上述した実施形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の主旨を逸脱しない範囲で任意に変形及び応用が可能である。
例えば、上記実施形態において、図10にて、突出部52h、ヒンジプレート58にガラス繊維によって強化した樹脂を用いる説明をしたが、これに限らず、炭素繊維によって強化しても良い。また、炭素繊維は、突出部52h、ヒンジプレート58のうち、少なくともいずれか一つに採用してもよい。
また、図4図6に示したように、ヒンジプレート58を樹脂製としたが、これに限らず、ヒンジプレート58を金属製としても良い。また、板ばねを樹脂製としても良い。
【0050】
また、図10において、重ね板ばね57を、車体側ヒンジ51Aとヒンジプレート58との間に挟持することで、重ね板ばね57を簡単に組み付けることができ、生産性を向上させることができる。
また、本発明のシートヒンジ構造は、自動二輪車のシートに限らず、ヒンジ構造を有する車両、航空機、船舶、人工衛星等の移動手段や、各種機械、ケース、蓋、家具等の工業製品や、家屋、ビル、橋等を含む建築物・建造物、その他の各種産業に使用するものに採用しても良い。
【符号の説明】
【0051】
10 自動二輪車(鞍乗り型車両)
20 シート
31 シートヒンジ
51 収納ボックス(物品収納箱)
51A 車体側ヒンジ
51b シール面
51e,58a 窪み部(凹部)
51h,58h 水抜き穴
52 シート側ヒンジ
52c,52d,52e,52f シート取付穴(取付穴)
52h 突出部
52k 上部基部(基部)
52s 前面(当接面)
55 ヒンジピン
57 重ね板ばね
58 ヒンジプレート(プレート)
58b 傾斜壁(前壁)
58c 開口部
58k 裏面(裏側の面)
58m 上リブ(リブ)
58n 下リブ(リブ)
58p 傾斜面(表側の面)
59 ボルト
64 板ばね
64a 頂部(凸部)
69 軌跡
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13