特許第6034504号(P6034504)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6034504
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】アイドルストップ制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/02 20060101AFI20161121BHJP
   F02D 17/00 20060101ALI20161121BHJP
   F02D 29/06 20060101ALI20161121BHJP
   F02D 9/02 20060101ALI20161121BHJP
   F02D 11/10 20060101ALI20161121BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20161121BHJP
   H02J 7/16 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   F02D29/02 321A
   F02D17/00 Q
   F02D29/06 D
   F02D29/06 F
   F02D9/02 301Z
   F02D11/10 F
   F02D41/04 310G
   H02J7/16 X
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-538935(P2015-538935)
(86)(22)【出願日】2014年4月24日
(86)【国際出願番号】JP2014061622
(87)【国際公開番号】WO2015045464
(87)【国際公開日】20150402
【審査請求日】2016年3月15日
(31)【優先権主張番号】特願2013-205984(P2013-205984)
(32)【優先日】2013年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-205985(P2013-205985)
(32)【優先日】2013年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092772
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 清孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119688
【弁理士】
【氏名又は名称】田邉 壽二
(72)【発明者】
【氏名】大澤 俊章
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 貴則
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 祐紀
(72)【発明者】
【氏名】武若 智之
【審査官】 藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−163281(JP,A)
【文献】 特許第5299576(JP,B1)
【文献】 特開2004−122925(JP,A)
【文献】 特開2001−090572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/00 〜 29/06
F02D 9/00 〜 9/02
F02D 11/10
F02D 17/00
F02D 41/00 〜 41/40
H02J 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(14)の回転駆動力によって発電する発電機(18)と、
前記発電機(18)の発電電力で充電されるバッテリ(19)と、
前記バッテリ(19)の充電状態に応じて前記発電機(18)の発電量を増減させる充電制御手段(46)と、
所定のエンジン停止条件が満たされると前記エンジン(14a)を停止するアイドルストップ制御手段(45)と、
前記バッテリ(19)の充電状態を検知する充電状態検知手段(41)と、
前記エンジン(14a)の出力を調整するために運転者によって操作されるスロットル操作子(5)と、
前記スロットル操作子(5)の操作量に応じた前記エンジン(14a)の出力を制御するエンジン出力制御手段(47)とを有し、
前記充電状態検知手段(41)で検知された充電状態に基づいて、前記アイドルストップ制御によるエンジン停止に適した状態でないと判定された場合に、前記充電制御手段(46)によって前記発電機(18)の発電量を増大させるようにしたアイドルストップ制御装置において、
前記エンジン出力制御手段(47)は、前記充電制御手段(46)により発電機の発電量を増大させる充電補強制御が実行されると、これに対応して、ドライバビリティの低下を防ぐために前記スロットル操作子(5)の操作量に対するスロットルバルブ(63)の開度を通常時より大きくして低下したエンジンの出力を補う出力増加制御を実行し、
前記充電制御手段(46)は、進角遅角制御を行うものであり、
前記発電機(18)の発電量を増大させる充電補強制御は、通常発電時の進角遅角制御に対して、最大遅角を所定の割合で増加させる制御を実行するものであることを特徴とするアイドルストップ制御装置。
【請求項2】
前記充電補強制御において適用される前記最大遅角(Hmax)は、通常発電の最大遅角(Umax)に対して、15〜35%の間で増加率(C)が設定されることを特徴とする請求項1に記載のアイドルストップ制御装置。
【請求項3】
前記充電状態検知手段(41)で検知された充電状態に基づいて前記アイドルストップ制御によるエンジン停止に適した状態でないと判定された場合は、運転者に対して、警告が発せられて、前記充電補強制御および出力増加制御が実行されることを特徴とする請求項1または2に記載のアイドルストップ制御装置。
【請求項4】
エンジン(14)の回転駆動力によって発電する発電機(18)と、
前記発電機(18)の発電電力で充電されるバッテリ(19)と、
前記バッテリ(19)の充電状態に応じて前記発電機(18)の発電量を増減させる充電制御手段(46)と、所定のエンジン停止条件が満たされると前記エンジン(14a)を停止すると共に、所定のエンジン再始動条件が満たされると前記エンジン(14a)を再始動するアイドルストップ制御手段(45)と、
前記バッテリ(19)の充電状態を検知する充電状態検知手段(41)と、前記エンジン(14a)の出力を調整するために運転者によって操作されるスロットル操作子(5)と、
前記スロットル操作子(5)の操作量に応じた前記エンジン(14a)の出力を制御するエンジン出力制御手段(47)とを有し、
前記充電状態検知手段(41)で検知された充電状態に基づいて、前記アイドルストップ制御によるエンジン停止に適した状態でないと判定された場合に、前記エンジン(14a)を自動的に再始動するアイドルストップ制御装置において、
前記エンジン出力制御手段(47)は、
前記アイドルストップ制御によるエンジン停止に適した状態でないと判定されて前記エンジン(14a)が自動的に再始動する際に、所定条件が満たされるまでの間、前記スロットル操作子(5)の操作量に対するスロットルバルブ(63)の開度を通常時より小さくするスロットルバルブ駆動抑制制御を実行し、
前記所定条件が満たされると、前記スロットルバルブ駆動抑制制御を終了すると共に、前記充電制御手段(46)により前記発電機(18)の発電量を増大させる充電補強制御と、ドライバビリティの低下を防ぐために前記スロットル操作子(5)の操作量に対するスロットルバルブ(63)の開度を通常時より大きくして低下したエンジンの出力を補う出力増加制御とを実行することを特徴とするアイドルストップ制御装置。
【請求項5】
前記アイドルストップ制御によるエンジン停止に適した状態でないと判定された場合に、前記エンジン(14a)を自動的に再始動すると共に、音または灯火によって運転者に警告を発する警告手段(50)を具備することを特徴とする請求項4に記載のアイドルストップ制御装置。
【請求項6】
前記所定条件は、前記エンジン再始動の後、所定時間(T)が経過することで満たされ、
前記スロットルバルブ駆動抑制制御は、前記スロットル操作子(5)の操作量に比して前記スロットルバルブ(63)の開度を小さく設定して前記エンジン(14a)の出力を通常時より小さくする出力抑制制御を含むことを特徴とする請求項4または5に記載のアイドルストップ制御装置。
【請求項7】
前記所定条件は、前記エンジン(14a)の再始動時に前記発電機(18)を発動機として駆動する際に、前記エンジン(14a)が燃焼により自発回転する前の所定回転数に達することで満たされ、前記スロットルバルブ駆動抑制制御は、前記スロットル操作子(5)の操作に関わらず前記スロットルバルブ(63)を開かないようにするポンピングロス低減制御を含むことを特徴とする請求項4に記載のアイドルストップ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイドルストップ制御装置に係り、特に、所定の条件下でエンジンの停止と再始動とを行うアイドルストップ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、信号待ち等で車両が一時停止している間を想定し、所定の停止条件が満たされるとエンジンを停止させて燃料消費の低減を図ると共に、乗員の操作に伴って再始動条件が満たされるとセルモータでエンジンを再始動するようにしたアイドルストップ制御が知られている。このアイドルストップによるエンジンの停止中は、エンジンに連結された発電機も停止している一方、灯火装置等の電装部品は通電している。したがって、再始動時に車載バッテリからセルモータに供給する電力が十分に確保されるように、バッテリ充電量の低下状態を考慮する必要がある。
【0003】
特許文献1には、アイドルストップ制御中にバッテリの充電状態を検知して、アイドルストップ制御に適した状態でない場合は、乗員の操作がなくとも自動的にエンジンを再始動するようにしたアイドルストップ制御装置が開示されている。この特許文献1の技術では、バッテリ充電量に応じた発電量のフィードバック制御を行っており、エンジンの再始動後、バッテリ充電状態が回復するまでは、発電機の駆動回路を遅角制御して発電量を増大させるように構成されている。
【0004】
また、特許文献2には、アクチュエータでスロットルバルブを駆動するTBW(スロットル・バイ・ワイヤ)を備えた自動二輪車のアイドルストップ制御装置が開示されている。このアイドルストップ制御装置では、アイドルストップ制御によるエンジン停止から再始動した際に、再始動後の所定時間の間は、不意の発進を防止するために乗員のスロットル操作に対する実際のスロットルバルブ開度を小さくする出力抑制制御が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−163879号公報
【特許文献2】国際公開2012/128021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、遅角制御により発電量を増大させる制御を行うと、エンジン負荷が増大することにより駆動輪に伝達される出力が相対的に低下する。これにより、同じスロットル開度でも同じ加速感が得られないという感覚を乗員に与える可能性が生じる。しかしながら、特許文献1では、このようなドライバビリティへの影響は検討されていなかった。
【0007】
また、特許文献1の技術では、発電量を増大させる制御が実行中であることを乗員に報知することは検討されていなかった。
【0008】
さらに、特許文献2の技術では、エンジンの出力抑制制御によって不意の発進を防ぐことができるものの、バッテリ充電量が不足している場合はこれを補うために発電量を増大させることでエンジン負荷が増大する。このエンジン負荷の増大により、駆動輪に伝達される出力が相対的に低下してドライバビリティに影響を与える可能性があることは検討されていなかった。
【0009】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、エンジン再始動後のドライバビリティを向上させることができるアイドルストップ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、エンジン(14)の回転駆動力によって発電する発電機(18)と、前記発電機(18)の発電電力で充電されるバッテリ(19)と、前記バッテリ(19)の充電状態に応じて前記発電機(18)の発電量を増減させる充電制御手段(46)と、所定のエンジン停止条件が満たされると前記エンジン(14a)を停止するアイドルストップ制御手段(45)と、前記バッテリ(19)の充電状態を検知する充電状態検知手段(41)と、前記エンジン(14a)の出力を調整するために運転者によって操作されるスロットル操作子(5)と、前記スロットル操作子(5)の操作量に応じた前記エンジン(14a)の出力を制御するエンジン出力制御手段(47)とを有し、前記充電状態検知手段(41)で検知された充電状態に基づいて、前記アイドルストップ制御によるエンジン停止に適した状態でないと判定された場合に、前記充電制御手段(46)によって前記発電機(18)の発電量を増大させるようにしたアイドルストップ制御装置において、前記エンジン出力制御手段(47)は、前記充電制御手段(46)により発電機の発電量を増大させる充電補強制御が実行されると、これに対応して、前記スロットル操作子(5)の操作量に対する前記エンジン(14a)の出力を通常時より大きくする出力増加制御を実行する点に第1の特徴がある。
【0011】
また、前記充電制御手段(46)は、進角遅角制御を行うものであり、前記発電機(18)の発電量を増大させる充電補強制御は、通常発電の場合に比べて、最大遅角を増加させる制御を実行するものである点に第2の特徴がある。
【0012】
また、前記充電補強制御において適用される前記最大遅角(Hmax)は、通常発電の最大遅角(Umax)に対して、15〜35%の間で増加率(C)が設定される点に第3の特徴がある。
【0013】
また、前記充電状態検知手段(41)で検知された充電状態に基づいて前記アイドルストップ制御によるエンジン停止に適した状態でないと判定された場合は、運転者に対して、警告が発せられて、前記充電補強制御および出力増加制御が実行される点に第4の特徴がある。
【0014】
また、エンジン(14)の回転駆動力によって発電する発電機(18)と、前記発電機(18)の発電電力で充電されるバッテリ(19)と、前記バッテリ(19)の充電状態に応じて前記発電機(18)の発電量を増減させる充電制御手段(46)と、所定のエンジン停止条件が満たされると前記エンジン(14a)を停止すると共に、所定のエンジン再始動条件が満たされると前記エンジン(14a)を再始動するアイドルストップ制御手段(45)と、前記バッテリ(19)の充電状態を検知する充電状態検知手段(41)と、前記エンジン(14a)の出力を調整するために運転者によって操作されるスロットル操作子(5)と、前記スロットル操作子(5)の操作量に応じた前記エンジン(14a)の出力を制御するエンジン出力制御手段(47)とを有し、前記充電状態検知手段(41)で検知された充電状態に基づいて、前記アイドルストップ制御によるエンジン停止に適した状態でないと判定された場合に、前記エンジン(14a)を自動的に再始動するアイドルストップ制御装置において、前記エンジン出力制御手段(47)は、前記アイドルストップ制御によるエンジン停止に適した状態でないと判定されて前記エンジン(14a)が自動的に再始動する際に、所定条件が満たされるまでの間、前記スロットル操作子(5)の操作量に対するスロットルバルブ(63)の開度を通常時より小さくするスロットルバルブ駆動抑制制御を実行し、前記所定条件が満たされると、前記スロットルバルブ駆動抑制制御を終了すると共に、前記充電制御手段(46)により前記発電機(18)の発電量を増大させる充電補強制御と、前記スロットル操作子(5)の操作量に対する前記エンジン(14a)の出力を通常時より大きくする出力増加制御とを実行する点に第5の特徴がある。
【0015】
また、前記アイドルストップ制御によるエンジン停止に適した状態でないと判定された場合に、前記エンジン(14a)を自動的に再始動すると共に、音または灯火によって運転者に警告を発する警告手段(50)を具備する点に第6の特徴がある。
【0016】
また、前記所定条件は、前記エンジン再始動の後、所定時間(T)が経過することで満たされ、前記スロットルバルブ駆動抑制制御は、前記スロットル操作子(5)の操作量に比して前記スロットルバルブ(63)の開度を小さく設定して前記エンジン(14a)の出力を通常時より小さくする出力抑制制御を含む点に第7の特徴がある。
【0017】
さらに、前記所定条件は、前記エンジン(14a)の再始動時に前記発電機(18)を発動機として駆動する際に、前記エンジン(14a)が燃焼により自発回転する前の所定回転数に達することで満たされ、前記スロットルバルブ駆動抑制制御は、前記スロットル操作子(5)の操作に関わらず前記スロットルバルブ(63)を開かないようにするポンピングロス低減制御を含む点に第8の特徴がある。
【発明の効果】
【0018】
第1の特徴によれば、エンジン出力制御手段は、充電制御手段により発電機の発電量を増大させる充電補強制御が実行されると、これに対応して、スロットル操作子の操作量に対するエンジンの出力を通常時より大きくする出力増加制御を実行するので、発電量の増大に伴うエンジン負荷の増大をエンジンの出力の増加によって補うことで、発電量を増大させる充電補強制御の実行中も運転者の意志に沿った駆動輪出力が得られることとなる。これにより、良好なドライバビリティを保つことが可能となる。
【0019】
第2,3の特徴によれば、充電制御手段は、進角遅角制御を行うものであり、発電機の発電量を増大させる充電補強制御は、通常発電の場合に比べて、最大遅角を増加させる制御を実行するものであり、充電補強制御において適用される最大遅角は、通常発電の最大遅角に対して、15〜35%の間で増加率が設定されるので、出力増加制御を実行する中で迅速かつ確実に充電補強制御を行うと共に、通常発電の場合は、過剰な発電を抑えて負荷を減らし、出力増加制御の出力増加を抑制することができる。これにより、燃費の向上が期待できる。
【0020】
第4の特徴によれば、充電状態検知手段で検知された充電状態に基づいてアイドルストップ制御によるエンジン停止に適した状態でないと判定された場合は、運転者に対して、警告が発せられて、充電補強制御および出力増加制御が実行されるので、警告により運転者が制御状態を認識することができる。これにより、自らのスロットルコントロールで充電を加速したり燃料消費を抑制することができる。
【0021】
第5の特徴によれば、エンジン出力制御手段は、アイドルストップ制御によるエンジン停止に適した状態でないと判定されてエンジンが自動的に再始動する際に、所定条件が満たされるまでの間、スロットル操作子の操作量に対するスロットルバルブの開度を通常時より小さくするスロットルバルブ駆動抑制制御を実行し、所定条件が満たされると、スロットルバルブ駆動抑制制御を終了すると共に、充電制御手段により発電機の発電量を増大させる充電補強制御と、スロットル操作子の操作量に対するエンジンの出力を通常時より大きくする出力増加制御とを実行するので、バッテリ充電量の低下に伴うエンジン再始動時において、運転者のスロットル操作に関わらず始動時に望ましい適切なスロットルバルブの開閉制御を行うことができる。また、スロットルバルブ駆動抑制制御の後は、発電量を増大させてバッテリ充電量を補いつつ、発電量の増大に伴うエンジン負荷の増大に対応するようにエンジン出力を増大させることで、運転者の意志に沿った駆動輪出力が得られる。これにより、バッテリ充電量の確保と良好なドライバビリティとを両立することが可能となる。
【0022】
第6の特徴によれば、アイドルストップ制御によるエンジン停止に適した状態でないと判定された場合に、エンジンを自動的に再始動すると共に、音または灯火によって運転者に警告を発する警告手段を具備するので、バッテリ充電量の低下に伴ってエンジンが再始動したことを運転者に警告することで、運転者が再始動に気づかずにスロットルを操作することを防ぐことができる。
【0023】
第7の特徴によれば、所定条件は、エンジン再始動の後、所定時間が経過することで満たされ、スロットルバルブ駆動抑制制御は、スロットル操作子の操作量に比してスロットルバルブの開度を小さく設定してエンジンの出力を通常時より小さくする出力抑制制御を含むので、スロットルバルブ駆動抑制制御を終了して充電補強制御および出力増加制御を開始するタイミングを容易に設定することができ、エンジン始動時の出力抑制制御をスムーズに実行することが可能となる。
【0024】
第8の特徴によれば、所定条件は、エンジンの再始動時に発電機を発動機として駆動する際に、エンジンが燃焼により自発回転する前の所定回転数に達することで満たされ、スロットルバルブ駆動抑制制御は、スロットル操作子の操作に関わらずスロットルバルブを開かないようにするポンピングロス低減制御を含むので、エンジン始動時のポンピングロスを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係るアイドルストップ制御装置を適用した自動二輪車の左側面図である。
図2】自動二輪車の正面図である。
図3】自動二輪車のハンドルまわりの一部拡大図である。
図4】メータユニットの正面図である。
図5】アイドルストップ制御装置およびその周辺構成を示すブロック図である。
図6】ACGスタータモータの制御システムの回路図である。
図7】充電補強制御による遅角制御の原理説明図である。
図8】バッテリ上がり警告制御の流れを示すフローチャートである。
図9】バッテリ上がり警告解除制御の流れを示すフローチャートである。
図10】充電補強制御の流れを示すフローチャートである。
図11】発電負荷と発電出力との関係を示す説明図である。
図12】発電出力と位相角との関係を示すグラフである。
図13】再始動時スロットルバルブ制御の手順を示すフローチャートである。
図14】出力抑制制御が実行された際のスロットルバルブ開度の変化を示すグラフである。
図15】バッテリ充電量の低下に伴うエンジン再始動制御の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るアイドルストップ制御装置が適用された自動二輪車1の左側面図である。また、図2は、自動二輪車1の正面図である。
【0027】
自動二輪車1は、車体前後方向に伸びるまたぎ部11の車幅方向左右に、乗員が足を乗せる低床フロア12が設けられたスクータ型車両である。車体フレーム2の前端部には、ステアリングステム4を回動自在に軸支するヘッドパイプ3が結合されている。ステアリングステム4の上部には車幅方向に伸びる操向ハンドル21が取り付けられ、一方の下部には、前輪WFを回転自在に軸支する左右一対のフロントフォーク6が取り付けられている。フロントフォーク6には、前輪WFを覆うフロントフェンダ7が固定されている。
【0028】
ヘッドパイプ3の前方には、電力負荷としての補機類に電力を供給するバッテリ19と、エンジンの点火装置や燃料噴射装置等を制御するECU40が配設されている。このバッテリ19およびECU40を覆うように形成されるフロントカウル8には、前照灯(ヘッドライト)9およびウインドスクリーン10が取り付けられている。前照灯9の車幅方向両端部の内部にはウインカ装置20が配設されている。
【0029】
車体フレーム2の後端部には、シートカウル16およびシート15を支持するリヤフレーム17が結合されている。燃料タンク13は、またぎ部11の内部で車体フレーム2を上方から覆うように配設されている。燃料タンク13の後方には、後輪WRが回転自在に軸支されたユニットスイング式のパワーユニット14が取り付けられている。パワーユニット14の前端には、シリンダを車体前後方向に指向させたエンジン14aが一体に設けられている。パワーユニット14の後部には、ベルト式の無段変速機が内設された伝動ケース24が一体に設けられており、この伝動ケース24の上部にエアクリーナボックス25が取り付けられている。パワーユニット14は、リヤフレーム17の前方側で揺動自在に軸支されると共に、リヤフレーム17の後方側でリヤショック26に吊り下げられるように支持されている。
【0030】
本実施形態に係るパワーユニット14は、駆動源としてのエンジン14aを始動するスタータモータ(セルモータ)およびエンジン14aの回転駆動力で発電する発電機とを一体にしたACGスタータモータ18を備えている。なお、このスタータモータおよび発電機の構成は種々の変形が可能であり、例えば、スタータモータと発電機とを別個独立させて設けてもよい。また、ACGスタータモータ18を補助モータとして使用し、走行時にエンジンおよびモータを併用するハイブリッド車両を構成することもできる。
【0031】
図3は、自動二輪車1のハンドルまわりの一部拡大図である。操向ハンドル21は、ハンドルバーの左右端部に、ハンドルグリップ5(5L,5R)、前後ブレーキの操作レバー21a,21b、ハンドルスイッチのスイッチボックスを取り付けた構成とされている。操向ハンドル21は、ステアリングステム4(図1参照)の上端部に設けられたハンドルポスト22に固定されている。右側のハンドルグリップ5Rは、スロットル操作子としてのスロットルグリップであり、操向ハンドル21に対して回動自在に取り付けられている。
【0032】
右側のスイッチボックス23には、エンジン14aを始動するスタータスイッチ23aが設けられている。また、左側のスイッチボックス24には、前照灯の光軸切り換えスイッチ24a、ホーンスイッチ24b、ウインカ装置20を作動させるウインカスイッチ24cが設けられている。ハンドルポスト22の車体前方側には、各種の計器類が設けられたメータユニット30が配設されている。
【0033】
図4は、メータユニット30の正面図である。ハウジング31の略中央にはアナログ式の速度計32が配置されており、その上部左右にはウインカ装置の作動に伴って点滅するウインカ作動灯33が配設されている。速度計32の右側には、デジタル式の時計・距離計36が配設されている。速度計32の左側には、時計・距離計36の表示切り換えやトリップ計のリセット等を行う操作ボタン35と、アイドルストップ制御中に作動するスタンバイランプ34とが設けられている。さらに、速度計32の下部左右には、燃料噴射装置の状態に応じて点灯するエンジン警告灯38と、前照灯9をハイビームに切り換えた際に点灯する前照灯上向き表示灯37とがそれぞれ配設されている。
【0034】
スタンバイランプ34は、走行中に所定条件が満たされてアイドルストップ制御が開始されると点灯し、その後、アイドルストップ制御中にバッテリ19の放電が進んだ際に、点滅に切り換わることでエンジンの再始動を促す警告手段50(図5参照)として機能する。スタンバイランプ34の点灯パターンは、種々の変更が可能である。
【0035】
図5は、本発明の一実施形態に係るアイドルストップ制御装置およびその周辺構成を示すブロック図である。ECU40には、エンジン出力制御手段47を介して点火装置54および燃料噴射装置55を制御することで、アイドルストップ制御を実行するアイドルストップ制御手段45と、エンジン出力制御手段47と、バッテリ19の充電状態に基づいてアイドルストップ制御に適した状態か否かを判定するアイドルストップ許可判定手段42と、バッテリ19の充電状態を検知する充電状態検知手段41と、ACGスタータモータ18の発電量を制御する充電制御手段46と、アクチュエータによりスロットルバルブ63を開閉するスロットルバルブ駆動手段48とが含まれる。
【0036】
なお、アイドルストップ制御によるエンジン14aの停止は、燃料噴射装置55の停止のみで行ってもよい。また、アイドルストップ状態からの再始動時には、アイドルストップ制御手段45の指令によりバッテリ19の電力がACGスタータモータ18に供給されると共に、エンジン出力制御手段47によって、燃料噴射装置55および点火装置54が駆動され、さらに、スロットルバルブ駆動手段48を介してスロットルバルブ63が駆動される。
【0037】
アイドルストップ許可判定手段42には、充電値カウンタ43およびタイマ44からの情報が入力される。この充電値カウンタ43およびタイマ44の詳細は後述する。
【0038】
前記したように、アイドルストップ制御手段45は、所定条件が満たされるとエンジンを停止し、アイドルストップ制御中に発進操作が検知されるとエンジンを自動的に再始動するように設定されている。アイドルストップ制御手段45には、自動二輪車1の車速を検知する車速センサ51、スロットルグリップ5の開度を検知するスロットルグリップ開度センサ52、乗員がシート15に着座しているか否かを検知する感圧式の着座センサ53からの情報が入力されている。アイドルストップ制御を開始する所定条件は、車速が所定値(例えば、5km/h)未満で、かつスロットル開度が所定値(例えば、5度)未満で、かつ乗員が着座していること等に設定することができる。また、アイドルストップ状態からのエンジン14aの再始動条件は、スロットルグリップ開度が所定開度(例えば、5度)を超えた場合等に設定することができる。
【0039】
アイドルストップ制御中は、ACGスタータモータ18による発電が行われないため、アイドルストップ制御の実行時間に伴ってバッテリ19の放電が進むことが考えられる。例えば、本実施形態に係る前照灯9は常時点灯式とされており、前照灯9がアイドルストップ制御中でも点灯し続けることで、バッテリ19の放電が進むこととなる。
【0040】
警告手段50は、アイドルストップ許可判定手段42によって、バッテリ19の充電状態がアイドルストップ制御に適した状態ではないと判定された際に、乗員にエンジンの再始動を促す警告を行うことができる。本実施形態では、前記スタンバイランプ34(図4参照)がこれに相当する。警告手段50は、灯火する各種の表示手段や液晶表示のほか、音を発するスピーカや振動を発するバイブレータ等で構成してもよい。
【0041】
アイドルストップ制御手段45は、充電状態検知手段41によってバッテリ19の充電状態がアイドルストップ制御に適した状態ではないと判定された際に、ACGスタータモータ18を駆動してエンジン14aを自動的に再始動する機能を有する。
【0042】
また、充電制御手段46は、ACGスタータモータ18の発電量を調整する制御を行う。本実施形態では、バッテリ充電量に応じたフィードバック制御として、バッテリ充電量が低下した際に、これを補うように発電量を増加する「充電補強制御」を実行する。
【0043】
本実施形態に係る自動二輪車1には、吸気量を調整するスロットルバルブ63をアクチュエータによって駆動するTBW(スロットル・バイ・ワイヤ)システムが適用されている。スロットルボディ62内に開閉自在に軸支されるバタフライ式のスロットルバルブ63は、ドライバ60からの駆動信号によって回動するアクチュエータとしてのステッピングモータ61に連結されている。
【0044】
スロットルバルブ63の回動角度は、スロットルバルブ開度センサ64で検知される。スロットルバルブ駆動手段48は、通常運転時においては、スロットルグリップ開度、エンジン回転数、車速等の情報に基づいて適切なスロットルバルブ開度が得られるようにドライバ60を駆動する。スロットルグリップ開度、エンジン回転数および車速からなる3つのパラメータとスロットルバルブ開度との関係は、予め定められた三次元マップ等に規定されている。すなわち、スロットルバルブ開度は、3つのパラメータが同じであれば同じ値が導き出されることとなる。
【0045】
ここで、前記したように、バッテリ充電量が低下した際には、ACGスタータモータ18の発電量を増加する充電補強制御が実行されるが、この充電補強制御は、充電制御手段46がACGスタータモータ18の駆動回路を遅角制御することによって実行される。この遅角制御が行われると、発電負荷が増大する分だけエンジン負荷が大きくなるため、同じスロットルバルブ開度で運転した場合でも、駆動輪に伝達される出力が相対的に小さくなる。すなわち、充電補強制御の実行中は、乗員が同じ開度でスロットルグリップを操作しても充電補強制御が実行されていない場合に比して得られる加速感等が小さくなり、ドライバビリティの変化を感じる可能性がある。
【0046】
本実施形態では、このドライバビリティの低下を防ぐために、充電補強制御中は、スロットルグリップ開度に対するスロットルバルブ開度を大きくして、低下した分の出力を補う「出力増加制御」を実行するように構成されている。この出力増加制御は、エンジン出力制御手段47がスロットルバルブ駆動手段48に発する指令によって実現される。
【0047】
エンジンが充電不足により始動した場合、その直後に始動に気付かずに、発進しようとしてスロットルグリップを開いたときは、すでにエンジン回転数が上がっており、エンジン回転数が0よりスタートするときに比べて、早くエンジン回転が高回転側に移行し、運転者が加速に違和感を覚えることが考えられる。
【0048】
そこで、アイドルストップ状態からエンジンが自動的に再始動された場合には、この再始動後、所定時間Tが経過するまでの間にスロットルグリップが操作された場合、エンジン出力の増加を抑制する「出力抑制制御」を実行するように構成されている。この出力抑制は、エンジン出力制御手段47が、スロットルバルブ駆動手段48に発する指令によって実現される。
【0049】
この出力抑制制御によれば、運転者がエンジンの再始動に気付かずにスロットルグリップを操作した場合でも、運転者の加速の違和感を抑制することができる。この制御は、また、自動始動後、特定時間(例えば、2秒。運転者が自動始動に気付くのに十分な時間)経過後に、充電補強制御に移行することにもなっている。
【0050】
なお、エンジン停止状態からエンジンが始動される場合には、始動後、ACGスタータモータ18によって駆動されてエンジンが燃焼により自発回転に至らない低回転域(例えば、500rpm以下)においては、運転者がスロットルグリップを開き方向に操作しても、それに応じずにスロットルバルブ63が開かないようにするポンピングロス低減制御が実行される。これにより、エンジンが燃焼に至らない回転時に吸気によるポンピングロスを低減することができ、始動時のフリクション負荷を小さくできる。このエンジン始動時の、極低回転でのポンピングロスを低減する制御は、バッテリ充電量の低下に起因してアイドルストップ状態からエンジン14aを再始動する際にも実行される。この制御も、エンジン出力制御手段47がスロットルバルブ駆動手段48に発する指令によって実現できる。
【0051】
上記した各制御をまとめると、本実施形態に係るアイドルストップ制御装置は、バッテリ充電量の低下に起因してアイドルストップ状態からエンジン14aを再始動した際に、バッテリ充電量を補う充電補強制御およびエンジン出力を増加させる出力増加制御を行い、一方、所定条件が満たされるまでの間、スロットルグリップ5の操作量に対するスロットルバルブ63の開度を通常時より小さくするスロットルバルブ駆動抑制制御を実行しており、このバルブ駆動は、再始動直後の出力の増加を抑制する「出力抑制制御」と、始動時のフリクションを低減する「ポンピングロス低減制御」を含むものである。
【0052】
図6は、ACGスタータモータ18の制御システムの回路図である。ACGスタータモータ18は3相ブラシレスモータであり、ステータ74と、ステータ74に対向して配置され、ステータ74の外周側で回転する不図示のロータを含む。ステータ74には、3相のステータ巻線U、V、Wが巻かれている。ロータの周囲には、30度間隔で配置した3つのホール素子70,71,72からなるロータセンサ73が設けられる。
【0053】
出力制御部76は、ステータコイルU、V、Wにそれぞれ対応したMOS−FET(以下、単にFETと示す)Q1、Q2、Q3、Q4、Q5、およびQ6からなるブリッジ回路構成のDC−AC変換部(インバータ回路)75が設けられる。FETQ1〜Q6には、それぞれダイオードD1〜D6が並列に設けられる。
【0054】
FETQ1とQ4とは直列に接続され、その接続部aはステータコイルUに接続される。同様に、FETQ2とQ5、FETQ3とQ6とはそれぞれ直列に接続され、接続部bはステータコイルWに接続され、接続部cはステータコイルVに接続される。
【0055】
FETQ1〜Q6の各ゲートは駆動回路78に接続される。駆動回路78は、ホール素子70,71,72の検出信号に基づいてFETQ1〜Q6の通電タイミングを決定するとともに、要求電力または要求負荷に応じて通電デューティ(オン時間/(オン時間+オフ時間))を決定する。駆動回路78は、CPU79によって決定された通電タイミングとデューティによってFETQ1〜Q6を制御する。
【0056】
電源としてのバッテリ19は出力制御部76のパワーライン77とグランドライン80との間に接続される。コンデンサC1は、ACGスタータモータ18を発電機として運転するときにパワーライン77およびグランドライン80間に生じる3相交流を平滑化する。CPU67は、ステータコイルU、V、Wとグランドライン80との間の電位、および各ステータコイル間の電位を計測する機能を有する。
【0057】
充電制御手段46(図5参照)は、駆動回路65に指令を与えることでFETの通電タイミングを制御することで、ACGスタータモータ18の発電量を調整することができる。充電補強制御の際には、FETを遅角制御することによって発電量を増加させる。
【0058】
図7は、充電補強制御における遅角制御の原理説明図である。この図では、上から順に、U相磁極センサ出力、U相誘起電圧、U相FET出力、設定電圧、充電電流をそれぞれ示している。
【0059】
時刻t=0では、充電補強制御による遅角制御が開始されており、検出電圧が上昇中の状態にある。これは、U相FET出力を、U相磁極センサの立下りパルスが入力されてから期間Aの間だけ遅らせて立ち下げる、すなわち、U相FET出力の位相を遅角側へ移動させる遅角制御の実行によるものである。充電補強制御は、この遅角制御に伴ってバッテリ19の充電量が規定値に達するまで実行される。
【0060】
時刻t1では、バッテリ19の充電量が規定値に達したことに伴って、遅角制御を終了すると共に通常発電制御に戻す制御が実行される。この制御は、U相FET出力を、U相磁極センサの立下りパルスに合わせて立ち下げる、すなわち、U相FET出力の位相を進角側へ移動させることにより行われる。通常発電制御への復帰に伴い、充電電流は標準値へ向けて低下することとなる。
【0061】
図8は、バッテリ上がり警告制御の流れを示すフローチャートである。前記したように、本実施形態に係るアイドルストップ制御装置は、走行中に所定条件が満たされてアイドルストップ制御が開始されると点灯し、その後、アイドルストップ制御中にバッテリ19の放電が進んだ際に、点滅に切り換わることでエンジンの再始動を促す警告手段50を備える。
【0062】
ステップS1では、警告フラグが0であるか否かが判定され、肯定判定されるとステップS2へ進む。ステップS2では、エンジン回転数Ne=0(ゼロ)であるか否かが判定され、肯定判定されるとステップS3へ進む。なお、ステップS1の判定は、車両のメインスイッチがオンであるときにのみ実行される。
【0063】
ステップS3では、充電状態検知手段41によって、ACGスタータモータ18に時間t1(例えば、20msec)の通電を行うと共に、時間t2(例えば、15msec)経過時のバッテリ電圧値を計測する。これにより、ACGスタータモータ18に通電した状態での電圧値、すなわち、負荷電圧値を計測することで、より実用的な電圧計測値を用いてバッテリ19の充電状態を検知することが可能となる。なお、ACGスタータモータ18への通電は、エンジン(クランク軸)の正転方向、または、これと逆方向に回転させるように行うことができる。上記の各通電時間は、ACGスタータモータ18が回転を開始しない程度の短い時間に設定される。これにより、モータの作動音が発生することがなく、アイドルストップ制御中の静粛性を保つことができる。
【0064】
続くステップS4では、今回計測された電圧値と前回計測された電圧値との比較が行われ、ステップS5では、電圧値の低下率が所定値(例えば、1%)を上回ったか否かが判定される。ステップS5で肯定判定されるとステップS6に進んで警告判定のフラグを0(ゼロ)から1に切り換える。なお、ステップS2,S5で否定判定されるとステップS1の判定に戻る。
【0065】
すなわち、本実施形態では、アイドルストップ制御中のバッテリ電圧の低下率を一定時間(例えば、1分)毎に計測し、計測電圧の低下度合いが所定値を上回ると、バッテリ19がアイドルストップ制御に適した状態ではないと判定する。そして、ステップS7では、バッテリ上がり計測解除制御へ移行して、一連の制御を終了する。なお、ステップS1で否定判定された場合は、そのままバッテリ上がり警告解除制御へ移行する。
【0066】
図9は、バッテリ上がり警告解除制御の流れを示すフローチャートである。このフローチャートでは、図8に示した警告フラグ1の状態から、警告フラグ0となって再びアイドルストップ制御の実行が許可されるまでの流れを示す。本実施形態では、バッテリ19の充電状態がどの程度回復したかを、ACGスタータモータ18の発電制御を行う際の遅角値の変化に基づいて推測検知するように構成されている。
【0067】
ステップS10では、警告フラグが1であるか否かが判定され、肯定判定されるとステップS11に進み、エンジンが運転中であるか否かが判定される。ステップS11で肯定判定されると、ステップS12において、ACGスタータモータ18の通電角の遅角値をフィルタリング処理する。
【0068】
なお、前記したように、通電角の遅角値は、ACGスタータモータ18の発電出力を調整する値であり、例えば、回転速度が同じ場合、遅角値を大きくすると発電量が増大し、遅角値を小さくすると発電量が低減する。本実施形態では、発電機の作動中は、バッテリの充電状態に応じて遅角値が適切な値になるようにフィードバック制御を行っているが、バッテリ19の充電量が所定値以下となった場合は、この遅角値を最大値に設定し、その後、時間経過に伴って遅角値を低減させつつフィードバック制御に切り換えるように構成されている。また、ステップS12におけるフィルタリング処理は、遅角値の検出信号をローパスフィルタを通して高周波成分を除去することで、ACGスタータモータに与えられる間欠負荷の影響を排除するためのものである。
【0069】
ステップS13では、エンジン回転数Neが所定値NeX(例えば、3000rpm)を超えているか否かが判定される。この判定に適用されるエンジン回転数NeXは、エンジン特性やACGスタータモータ18の発電特性に応じて適宜変更できる。そして、ステップS13で肯定判定されるとステップS14に進む。
【0070】
ステップS14では、通電角の遅角値が、標準値+(最大値−標準値)×0.5で算出される値、すなわち標準値と最大値との中間値を下回ったか否かが判定される。ステップS13,14の判定は、エンジン回転数Neが所定値NeXを超えた状態で、かつ通電角の遅角値が前記中間値を下回ったことに基づいて、バッテリ19の充電状態が十分に回復したことを判断するものである。
【0071】
ステップS14で肯定判定されると、ステップS15に進んで警告フラグがゼロとされ、続くステップS16では、図8に示したバッテリ上がり警告制御に移行して一連の制御を終了する。なお、ステップS10で否定判定されると、そのままステップS16に移行する。また、ステップS11,13,14で否定判定されると、それぞれステップS10の判定に戻る。
【0072】
なお、バッテリ上がり警告解除制御は、図5に示した充電値カウンタ43およびタイマ44を用いて検知されるエンジンの回転状態に基づいて実行することもできる。この場合、充電値カウンタ43を1秒毎にインクリメントまたはデクリメントするように設定しておき、エンジン回転数Neが所定値を超えている場合には充電値カウンタ43をインクリメントし、他方、エンジン回転数が所定値以下である場合には充電値カウンタ43をデクリメントするように設定する。これにより、エンジン回転数Neが所定値を超えた状態が継続されている間は、1秒毎に充電値カウンタ43のカウンタ値が増え続けることとなり、カウンタ値が設定値を超えた場合に、バッテリ19が十分に充電されたものと判断することができる。
【0073】
図10は、充電補強制御の流れを示すフローチャートである。ステップS21では、警告フラグが1または0のいずれかであるかが判定され、1であると判定されるとステップS22に進んで警告灯(スタンバイランプ34)を点灯し、続くステップS23において充電補強制御に移行して、一連の制御を終了する。なお、ステップS22に示す警告灯は、警告手段50に含まれる他の表示手段等に替えることができる。
【0074】
一方、ステップS21で警告フラグが0であると判定されると、ステップS24に進んで警告灯を消灯し、続くステップS25において通常発電制御に移行して、一連の制御を終了する。
【0075】
図11は、発電負荷と発電出力との関係を示す説明図である。(a)に示すように、発電負荷Lと発電出力Gとは比例関係にある。通常発電領域における発電負荷Lは、常用負荷Laを挟んで発電負荷L1〜L2の範囲とされており、これに対応する発電出力Gは、常用負荷Laに対応する発電出力GLを挟んで発電負荷G1〜G2の範囲に収まる。
【0076】
これに対し、バッテリ充電量の低下に伴い、充電制御手段46(図5参照)が充電補強制御を実行した場合には、発電出力Gの範囲が、発電出力G2より大きな発電出力G3まで拡大される。これにより、発電負荷L3とL2の差Bの分がエンジン負荷として追加されて、前記したようなドライバビリティへの影響を生じることとなる。
【0077】
一方、(b)に示すように、スロットルバルブ開度が一定(例えば、10度)のときの発電出力Gとスロットルバルブ開度補正量Hとの間にも比例関係が成立しており、開度補正量Hが0(ゼロ)の場合に、発電出力Gが常用負荷Laに対応する発電出力GLと同値となるように設定されている。常用負荷Laでの運転時には開度補正量Hはゼロであり、通常発電領域では常用負荷Laを挟んでプラスマイナスのフィードバック制御が行われる。これに対し、充電補強制御中は、開度補正量HがH1を超えてH2の範囲まで許容される。なお、(a),(b)の両図ともに、エンジン回転数Neを固定(例えば、3000rpm)した場合の例であり、実際の発電負荷と発電出力との関係は、エンジン回転数に応じて変化する。
【0078】
図12は、発電出力と位相角との関係を示すグラフである。ACGスタータモータ18の発電によって生じる誘起電圧の一部を切り取った拡大図を参照して、進角値が進角方向または遅角方向に変化すると、これに伴って発電出力Gが直線的に変化する。充電制御手段46(図5参照)は、この進角値の変更によって発電出力(発電量)を調整する。この図の例では、位相の値を位相max(例えば、20度)まで遅角方向に移動して発電量を増大させることができる。この遅角制御により、充電補強制御中の発電領域の最大遅角Hmaxは、通常発電領域の最大遅角Umaxに対して最大で増加率C(例えば、25%。15〜35%の間で任意に設定可能)だけ増加されることで、発電電力Gが最大で増加量Dだけ充電補強されることとなる。
【0079】
図13は、バッテリ充電量の低下に伴ってエンジンが再始動した際のスロットルバルブ制御(再始動時スロットルバルブ制御)の手順を示すフローチャートである。ステップS30では、カウンタのカウント値がゼロにリセットされる。ステップS31では、カウンタによるカウントが開始される。ステップS32では、エンジン回転数Ne=0であるか否かが判定される。
【0080】
ステップS32で否定判定されると、ステップS33において、エンジン回転数Ne(rpm)が所定回転数NeYを超えているか否かが判定される。所定回転数Neは、例えば、アイドル回転数よりやや低い900rpmに設定されている。これは、着火が継続し、エンジンが起動して連続回転していると推量できる回転数として設定される。
【0081】
ステップS33で肯定判定されると、ステップS34に進んで、カウント値cが所定値Cn(例えば、2秒)未満であるか否かが判定される。ステップS34で肯定判定されると、ステップS35において出力抑制制御が実行され、ステップS32の判定に戻る。また、ステップS33で否定判定されると、ステップS30に戻る。
【0082】
一方、ステップS34で否定判定される、すなわち、カウント値cが所定値Cn以上であると判定されると、ステップS36で出力抑制制御が解除される。続くステップS37ではカウンタによるカウントが停止され、ステップS38においてカウント値cがリセットされる。そして、ステップS39では充電補強制御(図10のフローチャート参照)へ移行して、一連の制御を終了する。
【0083】
一方、ステップS32で肯定判定されると、ステップS40に進んで、出力抑制制御が解除される。続くステップS41では、カウンタによるカウントが停止され、ステップS42においてカウンタ値がリセットされる。そして、ステップS43ではエンジン再始動制御(図15のフローチャート参照)へ移行して、一連の制御を終了する。
【0084】
図15は、バッテリ充電量の低下に伴うエンジン再始動制御の手順を示すフローチャートである。ステップS50では、警告フラグが1であるか否かが判定され、肯定判定されるとステップS51に進む。ステップS51では、アイドルストップ制御中であるか否かが判定され、肯定判定されるとステップS52に進む。ステップS52では、エンジン回転数Ne=0であるか否かが判定される。
【0085】
ステップS52で肯定判定される、すなわち、エンジンが停止していると判定されると、ステップS53で警告灯を点灯すると共に、ステップS54でエンジンが再始動される。ステップS55では、このエンジン再始動に伴う再始動時スロットルバルブ制御(図13のフローチャート参照)が実行され、一連の制御を終了する。なお、ステップS50,S51,S52の判定で否定判定されると、それぞれ、ステップS53,S54,S55をスキップして元に戻る。
【0086】
図14は、出力抑制制御が実行された際のスロットルバルブ開度の変化を示すグラフである。時刻t=0では、バッテリ充電量の低下に伴うエンジン再始動に伴ってアイドル運転が実行されている。このとき、スロットルバルブ63は、スロットルバルブ駆動手段48の駆動指令に基づいて所定のアイドル運転開度Th1にあり、乗員が操作するスロットルグリップ5の開度はゼロである。すなわち、乗員による再発進操作が行われる前の状態であり、この状態では、警告灯が作動していたとしても、依然として乗員がエンジンの再始動に気づいていないことも考えられる。
【0087】
時刻taでは、乗員によるスロットルグリップ5の開操作が開始される。この図の例では、時間経過に比例してスロットルグリップ5の開度が大きくなるように操作されているものとする。このとき、本実施形態に係るアイドルストップ制御装置は、スロットルグリップ5の操作が開始されてから、所定時間Tが経過するまでの間、エンジン出力制御手段47によって出力抑制制御を実行する。これにより、通常時であれば、スロットルグリップ5の操作量に対して、スロットルバルブ開度Thも直線的に増加する(図示破線)ところ、この出力抑制制御によれば、スロットルグリップ開度に対するスロットルバルブ開度Thが小さくされる(図示実線)ことでエンジン出力を抑えて不意の発進が防止される。
【0088】
さらに、本実施形態では、所定時間Tの経過に伴い、ACGスタータモータ18の発電量を増大させる充電補強制御を実行するので、この充電補強制御に伴う駆動輪出力の低下に対応するため、スロットルグリップ開度に対するスロットルバルブ開度Thを増大させる出力増加制御が開始される。すなわち、時刻ta所定時間Tが経過した時刻tbにおいて、出力抑制制御が終了すると共に、充電補強制御および出力増加制御が開始されることとなる。出力増加制御は、充電補強制御と表裏一体の関係で実行され、バッテリ充電量の増加に応じてスロットルバルブ開度の補正量が徐々に小さくなり、充電補強制御の終了に伴って終了する。
【0089】
なお、自動二輪車の形態、アイドルストップ制御装置の構成、出力抑制制御の実行開始トリガとなるスロットルグリップ角度、出力抑制制御を実行する所定時間、出力抑制制御により低減させる出力の大きさ等は、上記実施形態に限られず、種々の変更が可能である。本発明に係るアイドルストップ制御装置は、自動二輪車に限られず、鞍乗型三輪車等の各種車両に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0090】
1…自動二輪車、5…スロットルグリップ(スロットル操作子)、9…前照灯、14…パワーユニット、14a…エンジン、18…ACGスタータモータ(スタータモータ/発電機)、19…バッテリ、30…メータユニット、34…スタンバイランプ(警告手段)、40…ECU、41…充電状態検知手段、42…アイドルストップ許可判定手段、43…充電値カウンタ、44…タイマ、45…アイドルストップ制御手段、46…充電制御手段、47…エンジン出力制御手段、48…スロットルバルブ駆動手段、50…警告手段、52…スロットルグリップ開度センサ、54…点火装置、55…燃料噴射装置、62…スロットルボディ、63…スロットルバルブ、64…スロットルバルブ開度センサ
図1
図2
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図5
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図10
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図12
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