特許第6034505号(P6034505)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジヤトコ株式会社の特許一覧
<>
  • 特許6034505-副変速機付き無段変速機の制御装置 図000002
  • 特許6034505-副変速機付き無段変速機の制御装置 図000003
  • 特許6034505-副変速機付き無段変速機の制御装置 図000004
  • 特許6034505-副変速機付き無段変速機の制御装置 図000005
  • 特許6034505-副変速機付き無段変速機の制御装置 図000006
  • 特許6034505-副変速機付き無段変速機の制御装置 図000007
  • 特許6034505-副変速機付き無段変速機の制御装置 図000008
  • 特許6034505-副変速機付き無段変速機の制御装置 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6034505
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】副変速機付き無段変速機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/04 20060101AFI20161121BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20161121BHJP
   F16H 37/02 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   F16H61/04
   F16H61/662
   F16H37/02 P
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-541507(P2015-541507)
(86)(22)【出願日】2014年9月24日
(86)【国際出願番号】JP2014075172
(87)【国際公開番号】WO2015053073
(87)【国際公開日】20150416
【審査請求日】2016年2月2日
(31)【優先権主張番号】特願2013-210903(P2013-210903)
(32)【優先日】2013年10月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】井上 真美子
(72)【発明者】
【氏名】井上 拓市郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 寛康
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−057702(JP,A)
【文献】 特開2011−021718(JP,A)
【文献】 特開平01−312265(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0234822(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0125153(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/04
F16H 37/02
F16H 61/662
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される無段変速機であって、
変速比を無段階に変化させることができるバリエータと、
前記バリエータに対して直列に設けられ、前進用変速段として第1変速段と該第1変速段よりも変速比の小さな第2変速段とを有する副変速機構と、
前記副変速機構の変速段を変更する場合、前記副変速機構を変速させつつ前記バリエータを前記副変速機構の変速方向と逆方向に変速させる協調制御を行う協調制御手段と、
を備えた副変速機付き無段変速機の制御装置において、
前記協調制御手段は、変速機全体の協調変速イナーシャフェーズ時間である第1イナーシャフェーズ時間と、前記第1イナーシャフェーズ時間よりも短い時間による第2イナーシャフェーズ時間と、を設定するイナーシャフェーズ時間設定制御部を有し、
前記協調制御手段は、前記無段変速機への入力トルクが所定値以下の協調制御であると判定されたときに、前記副変速機構を前記第1イナーシャフェーズ時間にて変速させつつ、前記バリエータを前記第2イナーシャフェーズ時間にて変速させ、前記無段変速機への入力トルクが所定値よりも大きい協調制御であると判定されたときに、前記副変速機構を前記第1イナーシャフェーズ時間にて変速させつつ、前記バリエータを前記第1イナーシャフェーズ時間にて変速させる、副変速機付き無段変速機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された副変速機付き無段変速機の制御装置において、
前記イナーシャフェーズ時間設定制御部は、前記バリエータの変速進行速度が前記副変速機構の変速進行速度より遅く、前記無段変速機への入力回転数が低下すると推定される運転領域にあるとき、前記第1イナーシャフェーズ時間よりも短い時間による第2イナーシャフェーズ時間を設定する、副変速機付き無段変速機の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された副変速機付き無段変速機の制御装置において、
前記協調制御手段は、前記副変速機構を前記第1イナーシャフェーズ時間にて変速させつつ、前記バリエータを前記第2イナーシャフェーズ時間にて変速させる協調制御実行中、前記無段変速機への入力回転数の上昇を検知すると、前記副変速機構の締結側摩擦締結要素の締結力を高める入力回転数上昇抑制制御を行う、副変速機付き無段変速機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、副変速機構の変速を伴う変速判定があると、副変速機構とバリエータとの協調変速を行う副変速機付き無段変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バリエータと有段変速機構とを同時に変速させる協調制御を行う副変速機付き無段変速機の制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ここで、「協調制御」とは、副変速機構の変速段を変更する際、副変速機構の変速比変化方向と逆の方向にバリエータの変速比を変化させる変速をいう。この協調制御による変速を行えば、変速機全体の変速比(以下、「スルー変速比」という。)の急激な変化が抑制され、副変速機構による変速前後での変速ショックを小さくする等、運転者への違和感を抑制することができる。
【0004】
上記従来装置にあっては、無段変速機への入力トルクが相対的に小さい領域(低車速、低開度)における、副変速機構の変速を伴う協調制御では、入力トルクが相対的に大きい領域(高車速、高開度)に比べ、変速前後のエンジン回転数の変化が少なく、フィードバック制御が狙い通りに機能しない場合がある。この対策として、変速機全体の協調変速イナーシャフェーズ時間を設定し、協調変速イナーシャフェーズ時間にて2つの変速が完了するように協調制御を実行する。
【0005】
しかし、協調変速イナーシャフェーズ時間を設定した場合であっても、油圧のバラツキ等によってスルー変速比に実変速比が追従せず、協調制御が崩れてしまうことがある。特に、バリエータのイナーシャ進行速度が遅く、副変速機構のイナーシャ進行速度が速いアップ変速の場合には、副変速機構のクラッチ容量が過多となり、変速機入力回転数(=エンジン回転数等の駆動源回転数)が低下してしまう、という問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、副変速機構の変速を伴う協調制御時、変速機入力回転数の変化を抑制し、運転性の向上を図ることができる副変速機付き無段変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−79554号公報
【発明の概要】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、車両に搭載される無段変速機であって、バリエータと、副変速機構と、協調制御手段と、踏み込みアップ変速制御手段と、を備える。
前記バリエータは、変速比を無段階に変化させることができる。
前記副変速機構は、前記バリエータに対して直列に設けられ、前進用変速段として第1変速段と該第1変速段よりも変速比の小さな第2変速段とを有する。
前記協調制御手段は、前記副変速機構の変速段を変更する場合、前記副変速機構を変速させつつ前記バリエータを前記副変速機構の変速方向と逆方向に変速させる協調制御を行う。
この副変速機付き無段変速機の制御装置において、
前記協調制御手段は、変速機全体の協調変速イナーシャフェーズ時間である第1イナーシャフェーズ時間と、前記第1イナーシャフェーズ時間よりも短い時間による第2イナーシャフェーズ時間を設定するイナーシャフェーズ時間設定制御部を有する。
前記協調制御手段は、前記無段変速機への入力トルクが所定値以下の協調制御であると判定されたとき、前記副変速機構を前記第1イナーシャフェーズ時間にて変速させつつ、前記バリエータを前記第2イナーシャフェーズ時間にて変速させる。
【0009】
よって、無段変速機への入力トルクが所定値以下の協調制御であると判定されたとき、副変速機構の変速は、第1イナーシャフェーズ時間にて行われ、バリエータの変速は、第1イナーシャフェーズ時間よりも短い第2イナーシャフェーズ時間にて行われる。
すなわち、無段変速機への入力トルクが所定値以下の変速時には、変速前後の変速機入力回転数の変化が小さく、フィードバック制御が狙い通りに機能しない場合がある。特に、踏み込みアップ変速時であって、副変速機構のイナーシャ進行速度に対し、バリエータのイナーシャ進行速度が遅くなった場合、副変速機構のクラッチ容量が過多となり、変速機入力回転数が低下してしまう。
これに対し、協調変速イナーシャフェーズ時間である第1イナーシャフェーズ時間とは別に、第1イナーシャフェーズ時間よりも短い第2イナーシャフェーズ時間を設定することで、イナーシャフェーズ所要時間は、副変速機構の所要時間に対し、バリエータの所要時間が短縮される。このため、協調変速のイナーシャフェーズにおいて、副変速機構のクラッチ容量が過多になることがなく、変速機入力回転数の変化が抑制される。
この結果、副変速機構の変速を伴う協調制御時、変速機入力回転数の変化を抑制し、運転性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1の制御装置が適用された副変速機付き無段変速機が搭載された車両の概略構成を示す全体図である。
図2】実施例1の変速機コントローラの内部構成を示すブロック図である。
図3】実施例1の変速機コントローラの記憶装置に格納されている変速マップの一例を示す変速マップ図である。
図4】実施例1の変速機コントローラで実行されるスルー変速比を一定に保つ協調制御を説明するためのタイムチャートである。
図5】実施例1の変速機コントローラで実行される踏み込みアップ変速協調制御処理の流れを示すフローチャートである。
図6】比較例の変速機コントローラで実行される1→2踏み込みアップ変速協調制御動作をあらわす目標副変速機変速比・実副変速機変速比・目標バリエータ変速比・実バリエータ変速比・実スルー変速比・エンジン回転数・開放側油圧(Lowブレーキ)・締結側油圧(Highクラッチ)の各特性を示すタイムチャートである。
図7】実施例1の変速機コントローラで実行される1→2踏み込みアップ変速協調制御動作をあらわす目標副変速機変速比・実副変速機変速比・目標バリエータ変速比・実バリエータ変速比・実スルー変速比・エンジン回転数・開放側油圧(Lowブレーキ)・締結側油圧(Highクラッチ)の各特性を示すタイムチャートである。
図8】実施例1の変速機コントローラで実行される1→2踏み込みアップ変速協調制御中にエンジン回転数に吹き上がりが生じたときの目標副変速機変速比・実副変速機変速比・目標バリエータ変速比・実バリエータ変速比・実スルー変速比・エンジン回転数・開放側油圧(Lowブレーキ)・締結側油圧(Highクラッチ)の各特性を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の副変速機付き無段変速機の制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
まず、構成を説明する。
実施例1における副変速機付き無段変速機の制御装置の構成を、「全体システム構成」、「変速マップによる変速制御構成」、「副変速機構とバリエータの協調制御構成」、「踏み込みアップ変速協調制御構成」に分けて説明する。
【0013】
[全体システム構成]
図1は、実施例1の制御装置が適用された副変速機付き無段変速機が搭載された車両の概略構成を示し、図2は、変速機コントローラの内部構成を示す。以下、図1及び図2に基づき、全体システム構成を説明する。
なお、以下の説明において、ある変速機構の「変速比」は、当該変速機構の入力回転速度を当該変速機構の出力回転速度で割って得られる値である。また、「最Low変速比」は当該変速機構の最大変速比を意味し、「最High変速比」は当該変速機構の最小変速比を意味する。
【0014】
前記副変速機付き無段変速機が搭載された車両は、動力源としてエンジン1を備える。エンジン1の出力回転は、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータ2、第1ギヤ列3、無段変速機(以下、単に「変速機4」という。)、第2ギヤ列5、終減速装置6を介して駆動輪7へと伝達される。第2ギヤ列5には駐車時に変速機4の出力軸を機械的に回転不能にロックするパーキング機構8が設けられている。
また、車両には、エンジン1の動力の一部を利用して駆動されるオイルポンプ10と、オイルポンプ10からの油圧を調圧して変速機4の各部位に供給する油圧制御回路11と、油圧制御回路11を制御する変速機コントローラ12とが設けられている。以下、各構成について説明する。
【0015】
前記変速機4は、無段変速機構(以下、「バリエータ20」という。)と、バリエータ20に対して直列に設けられる副変速機構30とを備える。「直列に設けられる」とは同動力伝達経路においてバリエータ20と副変速機構30が直列に設けられるという意味である。副変速機構30は、この例のようにバリエータ20の出力軸に直接接続されていてもよいし、その他の変速ないし動力伝達機構(例えば、ギヤ列)を介して接続されていてもよい。
【0016】
前記バリエータ20は、プライマリプーリ21と、セカンダリプーリ22と、プーリ21、22の間に掛け回されるVベルト23とを備えるベルト式無段変速機構である。プーリ21、22は、それぞれ固定円錐板と、この固定円錐板に対してシーブ面を対向させた状態で配置され固定円錐板との間にV溝を形成する可動円錐板と、この可動円錐板の背面に設けられて可動円錐板を軸方向に変位させる油圧シリンダ23a、23bとを備える。油圧シリンダ23a、23bに供給される油圧を調整すると、V溝の幅が変化してVベルト23と各プーリ21、22との接触半径が変化し、バリエータ20の変速比vRatioが無段階に変化する。
【0017】
前記副変速機構30は、前進2段・後進1段の変速機構である。副変速機構30は、2つの遊星歯車のキャリアを連結したラビニョウ型遊星歯車機構31と、ラビニョウ型遊星歯車機構31を構成する複数の回転要素に接続され、それらの連係状態を変更する複数の摩擦締結要素(Lowブレーキ32、Highクラッチ33、Revブレーキ34)とを備える。各摩擦締結要素32〜34への供給油圧を調整し、各摩擦締結要素32〜34の締結・開放状態を変更すると、副変速機構30の変速段が変更される。例えば、Lowブレーキ32を締結し、Highクラッチ33とRevブレーキ34を開放すれば副変速機構30の変速段は1速となる。Highクラッチ33を締結し、Lowブレーキ32とRevブレーキ34を開放すれば副変速機構30の変速段は1速よりも変速比が小さな2速となる。また、Revブレーキ34を締結し、Lowブレーキ32とHighクラッチ33を開放すれば副変速機構30の変速段は後進となる。なお、以下の説明では、副変速機構30の変速段が1速であるとき「変速機4が低速モードである」と表現し、2速であるとき「変速機4が高速モードである」と表現する。
【0018】
前記変速機コントローラ12は、図2に示すように、CPU121と、RAM・ROMからなる記憶装置122と、入力インターフェース123と、出力インターフェース124と、これらを相互に接続するバス125とから構成される。
【0019】
前記入力インターフェース123には、アクセルペダルの踏み込み開度(以下、「アクセル開度APO」という。)を検出するアクセル開度センサ41の出力信号、変速機4の入力回転速度(=プライマリプーリ21の回転速度、以下、「プライマリ回転速度Npri」という。)を検出する回転速度センサ42の出力信号、車両の走行速度(以下、「車速VSP」という。)を検出する車速センサ43の出力信号、変速機4の油温を検出する油温センサ44の出力信号、セレクトレバーの位置を検出するインヒビタスイッチ45の出力信号、エンジン1の出力トルクの信号であるトルク信号T-ENG、などが入力される。
【0020】
前記記憶装置122には、変速機4の変速制御プログラム、この変速制御プログラムで用いる変速マップ(図3)が格納されている。CPU121は、記憶装置122に格納されている変速制御プログラムを読み出して実行し、入力インターフェース123を介して入力される各種信号に対して各種演算処理を施して変速制御信号を生成し、生成した変速制御信号を、出力インターフェース124を介して油圧制御回路11に出力する。CPU121が演算処理で使用する各種値、その演算結果は記憶装置122に適宜格納される。
【0021】
前記油圧制御回路11は、複数の流路、複数の油圧制御弁で構成される。油圧制御回路11は、変速機コントローラ12からの変速制御信号に基づき、複数の油圧制御弁を制御して油圧の供給経路を切り換えるとともにオイルポンプ10で発生した油圧から必要な油圧を調製し、これを変速機4の各部位に供給する。これにより、バリエータ20の変速比vRatio、副変速機構30の変速段が変更され、変速機4の変速が行われる。
【0022】
[変速マップによる変速制御構成]
図3は、変速機コントローラ12の記憶装置122に格納される変速マップの一例を示す。以下、図3に基づき、変速マップによる変速制御構成を説明する。
【0023】
前記変速機4の動作点は、図3に示す変速マップ上で車速VSPとプライマリ回転速度Npriに基づき決定される。変速機4の動作点と変速マップ左下隅の零点を結ぶ線の傾きが変速機4の変速比(バリエータ20の変速比vRatioに、副変速機構30の変速比subRatioを掛けて得られる全体の変速比、以下、「スルー変速比Ratio」という。)を表している。
この変速マップには、従来のベルト式無段変速機の変速マップと同様に、アクセル開度APO毎に変速線が設定されており、変速機4の変速はアクセル開度APOに応じて選択される変速線に従って行われる。なお、図3には簡単のため、全負荷線(アクセル開度APO=8/8のときの変速線)、パーシャル線(アクセル開度APO=4/8のときの変速線)、コースト線(アクセル開度APO=0のときの変速線)のみが示されている。
【0024】
前記変速機4が低速モードのとき、変速機4はバリエータ20の変速比vRatioを最大にして得られる低速モード最Low線と、バリエータ20の変速比vRatioを最小にして得られる低速モード最High線と、の間で変速することができる。このとき、変速機4の動作点はA領域とB領域内を移動する。一方、変速機4が高速モードのとき、変速機4はバリエータ20の変速比vRatioを最大にして得られる高速モード最Low線と、バリエータ20の変速比vRatioを最小にして得られる高速モード最High線と、の間で変速することができる。このとき、変速機4の動作点はB領域とC領域内を移動する。
【0025】
前記副変速機構30の各変速段の変速比は、低速モード最High線に対応する変速比(低速モード最High変速比)が高速モード最Low線に対応する変速比(高速モード最Low変速比)よりも小さくなるように設定される。これにより、低速モードでとり得る変速機4のスルー変速比Ratioの範囲である低速モードレシオ範囲と、高速モードでとり得る変速機4のスルー変速比Ratioの範囲である高速モードレシオ範囲と、が部分的に重複する。変速機4の動作点が高速モード最Low線と低速モード最High線で挟まれるB領域(重複領域)にあるときは、変速機4は低速モード、高速モードのいずれのモードも選択可能になっている。
【0026】
前記変速機コントローラ12は、この変速マップを参照して、車速VSP及びアクセル開度APO(車両の運転状態)に対応するスルー変速比Ratioを到達スルー変速比DRatioとして設定する。この到達スルー変速比DRatioは、当該運転状態でスルー変速比Ratioが最終的に到達すべき目標値である。そして、変速機コントローラ12は、スルー変速比Ratioを所望の応答特性で到達スルー変速比DRatioに追従させるための過渡的な目標値である目標スルー変速比tRatioを設定し、スルー変速比Ratioが目標スルー変速比tRatioに一致するようにバリエータ20及び副変速機構30を制御する。
【0027】
前記変速マップ上には、副変速機構30のアップ変速を行うモード切換アップ変速線(副変速機構30の1→2アップ変速線)が、低速モード最High線上に略重なるように設定されている。モード切換アップ変速線に対応するスルー変速比Ratioは、低速モード最High変速比に略等しい。また、変速マップ上には、副変速機構30のダウン変速を行うモード切換ダウン変速線(副変速機構30の2→1ダウン変速線)が、高速モード最Low線上に略重なるように設定されている。モード切換ダウン変速線に対応するスルー変速比Ratioは、高速モード最Low変速比に略等しい。
【0028】
そして、変速機4の動作点がモード切換アップ変速線、又は、モード切換ダウン変速線を横切った場合、すなわち、変速機4の目標スルー変速比tRatioがモード切換変速比mRatioを跨いで変化した場合やモード切換変速比mRatioと一致した場合には、変速機コントローラ12はモード切換変速制御を行う。このモード切換変速制御では、変速機コントローラ12は、副変速機構30の変速を行うとともに、バリエータ20の変速比vRatioを副変速機構30の変速比subRatioが変化する方向と逆の方向に変化させるというように2つの変速を協調させる協調制御を行う。
【0029】
前記協調制御では、変速機4の目標スルー変速比tRatioがモード切換アップ変速線を横切ったときやモード切換アップ線と一致した場合に、変速機コントローラ12は、1→2アップ変速判定を出し、副変速機構30の変速段を1速から2速に変更するとともに、バリエータ20の変速比vRatioを最High変速比からLow変速比に変化させる。逆に、変速機4の目標スルー変速比tRatioがモード切換ダウン変速線を横切ったときやモード切換ダウン変速線と一致した場合、変速機コントローラ12は、2→1ダウン変速判定を出し、副変速機構30の変速段を2速から1速に変更するとともに、バリエータ20の変速比vRatioを最Low変速比からHigh変速比側に変化させる。
【0030】
前記モード切換アップ変速時又はモード切換ダウン変速時、バリエータ20の変速比vRatioを変化させる協調制御を行うのは、変速機4のスルー変速比Ratioの段差により生じる入力回転の変化に伴う運転者の違和感を抑えるとともに、副変速機構30の変速ショックを緩和することができるからである。
【0031】
[副変速機構とバリエータの協調制御構成]
図4は、上記協調制御が行われる様子を示したタイムチャートである。副変速機構30の協調変速は、準備フェーズ、トルクフェーズ、イナーシャフェーズ、終了フェーズの4つのフェーズで構成される。
【0032】
前記準備フェーズは、締結側摩擦締結要素への油圧のプリチャージを行い、締結側摩擦締結要素を締結直前の状態で待機させるフェーズである。締結側摩擦締結要素とは、変速後の変速段で締結される摩擦締結要素であり、1→2アップ変速ではHighクラッチ33、2→1ダウン変速ではLowブレーキ32である。
【0033】
前記トルクフェーズは、開放側摩擦締結要素への供給油圧を低下させるとともに締結側摩擦締結要素への供給油圧を上昇させ、トルクの伝達を受け持つ変速段が開放側摩擦締結要素の変速段から締結側摩擦締結要素の変速段に移行するフェーズである。開放側摩擦締結要素とは、1→2アップ変速ではLowブレーキ32、2→1ダウン変速ではHighクラッチ33である。
【0034】
前記イナーシャフェーズは、副変速機構30の変速比subRatioが変速前変速段の変速比から変速後変速段の変速比まで変化するフェーズである。イナーシャフェーズでの変速機コントローラ12は、副変速機構30の変速前変速段の変速比から変速後変速段の変速比まで滑らかに、かつ、バリエータ20の変速速度と同程度の変速速度で移り変わる副変速機構30の目標変速比tsubRatioを生成するとともに、目標スルー変速比tRatioを副変速機構30の目標変速比tsubRatioで割ってバリエータ20の目標変速比tvRatioを算出する。そして、変速機コントローラ12は、バリエータ20の変速比vRatioが目標変速比tvRatioに一致するように、バリエータ20を制御し、副変速機構30の変速比subRatioが目標変速比tsubRatioに一致するように、Lowブレーキ32、Highクラッチ33への供給油圧をフィードバック制御する。これにより、目標スルー変速比tRatioを実現しつつ、バリエータ20と副変速機構30の変速比が逆方向に制御される。
【0035】
前記終了フェーズは、開放側摩擦締結要素への供給油圧をゼロとして開放側摩擦締結要素を完全開放させるとともに締結側摩擦締結要素への供給油圧を上昇させて締結側摩擦締結要素を完全締結させるフェーズである。
【0036】
前記4つのフェーズは、運転者がアクセルペダルを踏み込んでおり車速が増大することで起こるアップ変速(オートアップ変速)、運転者がアクセルペダルを離しており車速が減少することで起こるダウン変速(コーストダウン変速)ではこの順で起こる。しかしながら、運転者がアクセルペダルから足を離したときに起こるアップ変速(足離しアップ変速)や運転者がアクセルペダルを踏み込んだときに起こるダウン変速(キックダウン変速含む踏み込みダウン変速)ではトルクフェーズとイナーシャフェーズの順序が逆になる。
【0037】
なお、図4では協調変速前後でスルー変速比Ratioが変化していないが、これは協調変速前後で目標スルー変速比tRatioを一定値としているからである。本明細書における協調制御は、このような変速態様に限定されず、副変速機構30の変速段を変更する際に、副変速機構30の変速比変化方向と逆の方向にバリエータ20の変速比を変化させてスルー変速比Ratioを目標スルー変速比tRatioに制御するもの全般を指す(協調制御手段)。
【0038】
[踏み込みアップ変速協調制御構成]
図5は、実施例1の変速機コントローラ12にて実行される踏み込みアップ変速協調制御処理流れを示す(協調制御手段)。以下、踏み込みアップ変速協調制御処理構成をあらわす図5の各ステップについて説明する。
【0039】
ステップS1では、協調制御判定であるか否かを判断する。Yes(協調制御判定)の場合はステップS2へ進み、No(非協調制御判定)の場合はエンドへ進む。
ここで、非協調制御とは、副変速機構30の変速を伴う踏み込みアップ変速時、バリエータ20の協調変速を行わない制御をいう。
【0040】
ステップS2では、ステップS1での協調制御判定であるとの判断に続き、副変速機構30での1→2アップ変速判定か否かを判断する。Yes(1→2アップ変速判定)の場合はステップS3へ進み、No(1→2アップ変速判定以外)の場合はエンドへ進む。
ここで、副変速機構30での1→2アップ変速判定は、車速VSPとアクセル開度APOとプライマリ回転速度Npriにより決まる動作点が、図3に示す変速マップにおけるモード切換アップ変速線を横切ることで判定する。
【0041】
ステップS3では、ステップS2での1→2アップ変速判定であるとの判断に続き、副変速機構30のアップ変速とバリエータ20のダウン変速を行うとき、変速機全体としての協調変速イナーシャフェーズ時間(第1イナーシャフェーズ時間)を設定し、ステップS4へ進む(イナーシャフェーズ時間設定制御部)。
ここで、協調変速イナーシャフェーズ時間は、副変速機構30でのアップ変速とバリエータ20でのダウン変速による協調変速におけるイナーシャフェーズ目標所要時間として設定される。
【0042】
ステップS4では、ステップS3での協調変速イナーシャフェーズ時間の設定に続き、パワーON判定であるか否かを判断する。Yes(パワーON判定)の場合はステップS5へ進み、No(パワーOFF判定)の場合はステップS6へ進む。
ここで、パワーON判定は、アクセル開度APOが、0<APO≦APO1(APO1は、低開度判定値)であることか、エンジンから変速機コントローラへ入力される入力トルク信号T-ENGが、0<T-ENG<T-ENG1(T-ENG1は、低トルク判定値)により判定する。つまり、変速機4への入力トルクが相対的に小さい領域のときパワーONと判定をする。
【0043】
ステップS5では、ステップS4でのパワーON判定であるとの判断に続き、車両状態が回転落ち対策領域(車速VSPにより判定)にあるか否かを判断する。Yes(回転落ち対策領域に有り)の場合はステップS7へ進み、No(回転落ち対策領域に無し)の場合はステップS6へ進む。
ここで、回転落ち対策領域は、イナーシャフェーズにおいて、副変速機構30の実変速進行速度に対し、バリエータ20の実変速進行速度が遅く、副変速機構30のクラッチ容量が過多となり、変速機入力回転数であるエンジン回転数が低下してしまうと推定される運転領域にあるとき、回転落ち対策領域に有りと判断する。具体的には、車速判定により行うもので、車速VSPが低車速判定値以下の低車速域を、バリエータ20の実変速進行速度が遅くなる回転落ち対策領域とする。
【0044】
ステップS6では、ステップS4でのパワーOFF判定、或いは、ステップS5での回転落ち対策領域に無しとの判断に続き、ステップS3にて設定された協調変速イナーシャフェーズ時間にて協調制御を実行し、ステップS12へ進む。
すなわち、ステップS6へ進むと、副変速機構30を協調変速イナーシャフェーズ時間にてアップ変速させつつ、バリエータ20を同じ協調変速イナーシャフェーズ時間にてダウン変速させる協調制御が行われる。
【0045】
ステップS7では、ステップS5での回転落ち対策領域に有りとの判断に続き、協調変速イナーシャフェーズ時間より短い時間による回転落ち対策用イナーシャフェーズ時間(第2イナーシャフェーズ時間)を設定し、ステップS8へ進む(イナーシャフェーズ時間設定制御部)。
ここで、回転落ち対策用イナーシャフェーズ時間は、バリエータ20をダウン変速させるときのイナーシャフェーズの目標時間として設定されたものである。この回転落ち対策用イナーシャフェーズ時間は、バリエータ20をダウン変速させたときのイナーシャフェーズ所要時間が、協調変速イナーシャフェーズ時間を目標時間として副変速機構30をアップ変速させたときのイナーシャフェーズ所要時間以下になるように設定される。
【0046】
ステップS8では、ステップS7での回転落ち対策用イナーシャフェーズ時間の設定に続き、副変速機構30を協調変速イナーシャフェーズ時間にてアップ変速させつつ、バリエータ20を回転落ち対策用イナーシャフェーズ時間(<協調変速イナーシャフェーズ時間)にてダウン変速させる協調制御を行い、ステップS9へ進む。
【0047】
ステップS9では、ステップS8での副変速機構30とバリエータ20で目標イナーシャフェーズ時間を異ならせた協調制御、或いは、ステップS12での協調制御変速未完了であるとの判断に続き、エンジン回転数の吹け上がりを検知したか否かを判断する。Yes(エンジン回転数吹け上がり検知)の場合はステップS10へ進み、No(エンジン回転数吹け上がり非検知)の場合はステップS11へ進む。
ここで、エンジン回転数の吹け上がりは、例えば、イナーシャフェーズに入る前のエンジン回転数からの回転数上昇量が、予め設定した吹け上がり判定値以上になると、エンジン回転数の吹け上がりであると検知する。
【0048】
ステップS10では、ステップS9でのエンジン回転数吹け上がり検知であるとの判断に続き、副変速機構30とバリエータ20の協調制御を継続しつつ、副変速機構30の締結側油圧(Highクラッチ油圧)を上昇させる制御を行い、ステップS12へ進む。
【0049】
ステップS11では、ステップS9でのエンジン回転数吹け上がり非検知であるとの判断に続き、ステップS8での副変速機構30とバリエータ20で目標イナーシャフェーズ時間を異ならせた協調制御を継続し、ステップS12へ進む。
【0050】
ステップS12では、ステップS6,S10,S11で実行されるそれぞれの協調制御に続き、協調制御変速が完了したか否かを判断する。Yes(協調制御変速完了)の場合はエンドへ進み、No(協調制御変速未完了)の場合はステップS9へ戻る。
【0051】
次に、作用を説明する。
実施例1の副変速機付き無段変速機の制御装置における作用を、[比較例の課題]、[踏み込みアップ変速協調制御でのエンジン回転数低下防止作用]、[踏み込みアップ変速協調制御でのエンジン回転数吹け上がり防止作用]に分けて説明する。
【0052】
[比較例の課題]
まず、前提を説明すると、副変速機付き無段変速機において、副変速機構の変速を伴う踏み込みアップ変速判定を行うと、副変速機構とバリエータとの協調制御を行う。
具体的には、副変速機構における変速前後での変速ショックの発生等の運転者への違和感を抑制するために、変速機全体のスルー変速比の急激な変化を抑制する。このために、副変速機構の1→2アップ変速を実行しつつ、副変速機構の変速に合わせてバリエータを副変速機構の変速比変化とは逆方向にダウン変速させる。
【0053】
副変速機付き無段変速機を搭載した車両において、協調制御を行う場合、バリエータ及び副変速機構のそれぞれで目標変速比を設定し、フィードバック制御を実施する。このフィードバック制御は、バリエータのプーリ油圧及び副変速機構の各変速段を構成するクラッチ油圧をそれぞれコントロールすることで、それぞれの目標変速比に実変速比を追従させるようにする。
【0054】
ただし、無段変速機への入力トルクが相対的に小さい領域(低車速、低開度)における副変速機構のアップ変速を伴う協調制御では、入力トルクが相対的に大きい領域(高車速、高開度)に比べ、変速前後の変速機入力回転数(=エンジン回転数)の変化が少なく、フィードバック制御が狙い通りに機能しない場合がある。
この対策として、入力トルクが相対的に小さい領域にあるとき、変速機全体の目標イナーシャフェーズ時間として、協調変速イナーシャフェーズ時間を設定し、協調変速イナーシャフェーズ時間内に2つの変速が完了するように制御を実行する。
【0055】
しかし、副変速機構の摩擦要素に関する油圧感度(油圧と摩擦要素のトルク容量との関係)のバラつきや、実油圧と指示油圧との偏差であるヒステリシス等によって、副変速機構の実変速の変化は、副変速機構の目標イナーシャ変化に対して速く変化したりすることがある。また、バリエータ実変速の変化は、バリエータの目標変速比に対する追従性に所定の遅れが発生したりすることがある。このとき、協調変速イナーシャフェーズ時間を設定した場合であっても、油圧のバラツキ等によってスルー変速比に実変速比が追従せず、協調制御が崩れてしまうことがある。
【0056】
特に、バリエータの実変速進行速度が目標変速比に対して遅く、副変速機構の実イナーシャ進行が速い場合には、副変速機構のクラッチ容量が過多となり、エンジン回転数が低下してしまう。このエンジン回転数の低下によって、エンジン回転数がロックアップクラッチの解除回転数まで低下してしまうことがあり、その場合にはエンスト防止のために、ロックアップクラッチが開放される。
【0057】
上記協調制御を行う副変速機付き無段変速機において、副変速機構のアップ変速とバリエータのダウン変速による踏み込みアップ変速判定時、変速機全体の協調変速イナーシャフェーズ時間のみを設定したものを比較例とする。この比較例における副変速機構の変速を伴う踏み込みアップ変速制御作用を、図6に示すタイムチャートに基づき説明する。
【0058】
図6の時刻t1から時刻t2までを協調変速イナーシャフェーズ時間Δtとする。この協調変速イナーシャフェーズ時間Δtを目標時間としてバリエータをダウン変速したとき、バリエータの実変速比の進行速度が目標変速比の進行速度に対して遅いと、バリエータでのイナーシャフェーズ所要時間Δt1(>Δt)となる。一方、協調変速イナーシャフェーズ時間Δtを目標時間として副変速機構をアップ変速したとき、副変速機構の実イナーシャ進行が速いと、副変速機構でのイナーシャフェーズ所要時間Δt2(<Δt)となる。このように、バリエータと副変速機構の協調制御が崩れてしまった場合には、副変速機構の締結側油圧によるHighクラッチ容量が過多となり、図6のE部に示すように、実スルー変速比及びエンジン回転数が低下してしまう。
このエンジン回転数の低下を防止するために、協調制御そのものを禁止する方法が考えられるが、協調制御を禁止すると、踏み込みアップ変速時に、変速機全体のスルー変速比が変化するため、運転性の低下につながってしまう。
【0059】
[踏み込みアップ変速協調制御でのエンジン回転数低下防止作用]
実施例1における副変速機構の変速を伴う踏み込みアップ変速協調制御でのエンジン回転数低下防止作用を、図5に示すフローチャート及び図7に示すタイムチャートに基づき説明する。
【0060】
まず、協調制御判定条件と踏み込1→2アップ変速判定条件とが成立するが、パワーON判定条件と回転落ち対策領域条件の少なくとも一方が不成立であると、図5のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4(→ステップS5)→ステップS6へと進む。ステップS3では、協調変速イナーシャフェーズ時間が設定され、ステップS6では、副変速機構30を協調変速イナーシャフェーズ時間にてアップ変速させつつ、バリエータ20を同じ協調変速イナーシャフェーズ時間にてダウン変速させる協調制御が行われる。
【0061】
そして、エンジン回転数吹け上がり非検知である限り、ステップS6からステップS12→ステップS9→ステップS11へと進み、協調制御変速が完了するまで、ステップS12→ステップS9→ステップS11へと進む流れが繰り返される。すなわち、副変速機構30を協調変速イナーシャフェーズ時間にてアップ変速させつつ、バリエータ20を同じ協調変速イナーシャフェーズ時間にてダウン変速させる協調制御が継続される。
【0062】
一方、協調制御判定条件と踏み込1→2アップ変速判定条件とパワーON判定条件と回転落ち対策領域条件が共に成立すると、図5のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS7→ステップS8へと進む。ステップS3では、協調変速イナーシャフェーズ時間が設定され、ステップS7では、回転落ち対策用イナーシャフェーズ時間が設定される。そして、ステップS8では、副変速機構30を協調変速イナーシャフェーズ時間にてアップ変速させつつ、バリエータ20を回転落ち対策用イナーシャフェーズ時間(<協調変速イナーシャフェーズ時間)にてダウン変速させる協調制御が行われる。
【0063】
そして、エンジン回転数吹け上がり非検知である限り、ステップS8からステップS9→ステップS11→ステップS12へと進み、協調制御変速が完了するまで、ステップS9→ステップS11→ステップS12へと進む流れが繰り返される。すなわち、副変速機構30を協調変速イナーシャフェーズ時間にてアップ変速させつつ、バリエータ20を回転落ち対策用イナーシャフェーズ時間にてダウン変速させる協調制御が継続される。以下、実施例1における副変速機構の変速を伴う踏み込みアップ変速制御でのエンジン回転数低下防止作用を、図7に示すタイムチャートに基づき説明する。
【0064】
図7の時刻t1から時刻t2までを協調変速イナーシャフェーズ時間Δtとする。この協調変速イナーシャフェーズ時間Δtより短い時間である回転落ち対策用イナーシャフェーズ時間Δt3(<Δt)を目標時間としてバリエータ20をダウン変速すると、変速制御ゲインを高めて変速進行速度を上昇させることにより、バリエータ20でのイナーシャフェーズ所要時間がほぼ回転落ち対策用イナーシャフェーズ時間Δt3に一致する。
一方、協調変速イナーシャフェーズ時間Δtを目標時間として副変速機構30をアップ変速したとき、副変速機構30の実イナーシャ進行が速くなったとしても、ほぼ回転落ち対策用イナーシャフェーズ時間Δt3(<Δt)となる。このように、バリエータ20と副変速機構30の協調制御が目標イナーシャフェーズ時間を異ならせることで、時刻t1からほぼ同時のタイミングで2つの変速が完了した場合には、副変速機構30の締結側油圧によるHighクラッチ容量が過多になったり過少になったりすることなく、図7のF部に示すように、実スルー変速比及びエンジン回転数がイナーシャフェーズの前後で変動することなく、一定の値に維持される。
【0065】
上記のように、実施例1では、変速機4への入力トルクが所定値以下の踏み込みアップ変速であると判定されたとき、副変速機構30を、協調変速イナーシャフェーズ時間にてアップ変速させつつ、バリエータ20を、協調変速イナーシャフェーズ時間よりも短い回転落ち対策用イナーシャフェーズ時間にてダウン変速させる構成を採用した。
すなわち、変速機4への入力トルクが所定値以下の踏み込みアップ変速時には、変速前後の変速機入力回転数の変化が小さく、フィードバック制御が狙い通りに機能しない場合がある。特に、副変速機構30のイナーシャ進行速度に対し、バリエータ20のイナーシャ進行速度が遅くなった場合、副変速機構30のクラッチ容量が過多となり、変速機入力回転数が低下してしまう。
これに対し、協調変速イナーシャフェーズ時間とは別に、協調変速イナーシャフェーズ時間よりも短い回転落ち対策用イナーシャフェーズ時間を設定することで、イナーシャフェーズ所要時間は、副変速機構30の所要時間に対し、バリエータ20の所要時間が短縮される。このため、踏み込みアップ協調変速のイナーシャフェーズにおいて、副変速機構30のクラッチ容量が過多になることがなく、変速機入力回転数の低下が抑制される。
さらに、協調制御を禁止しないため、踏み込みアップ変速時に、変速機全体のスルー変速比の変化が抑えられ、運転性が向上される。
この結果、副変速機構30の変速を伴う踏み込みアップ協調変速時、変速機入力回転数の低下を抑制し、運転性の向上を図ることができる。特に、エンジン車においては、エンジン回転数の低下が抑制されることで、エンスト防止のためのロックアップクラッチ開放を要さない。
【0066】
実施例1では、バリエータ20のダウン変速進行速度が副変速機構30のアップ変速進行速度より遅く、変速機4への入力回転数が低下すると推定される運転領域である回転落ち対策領域条件が成立するとき、目標イナーシャフェーズ時間を異ならせた協調制御を行う構成を採用した。
すなわち、図5のステップS4のパワーON判定条件と、ステップS5の回転落ち対策領域条件が共に成立するとき、ステップS7へ進み、回転落ち対策用イナーシャフェーズ時間が設定される。
したがって、協調変速イナーシャフェーズ時間を用いて協調制御すると変速機入力回転数が低下する可能性が高い回転落ち対策領域条件が成立するときに限り、回転落ち対策用イナーシャフェーズ時間が設定される。このため、回転落ち対策用イナーシャフェーズ時間の設定頻度を抑えながら、確実に変速機入力回転数の低下を抑制することができる。
【0067】
[踏み込みアップ変速協調制御でのエンジン回転数吹け上がり防止作用]
上記のように、踏み込みアップ変速協調制御実行中は、回転落ち対策用イナーシャフェーズ時間の設定有無にかかわらず、図5のフローチャートにおいて、ステップS9→ステップS11→ステップS12へと進む流れが繰り返され、ステップS9にてエンジン回転数吹け上がりが検知されると、ステップS9からステップS10へと進む。このステップS10では、副変速機構30とバリエータ20の協調制御を継続しつつ、副変速機構30の締結側油圧(Highクラッチ油圧)を上昇させる制御が行われる。締結側油圧の上昇でエンジン1に加わる負荷抵抗が増大することにより、エンジン回転数吹け上がりが抑えられる。以下、実施例1における副変速機構の変速を伴う踏み込みアップ変速制御でのエンジン回転数吹け上がり防止作用を、図8に示すタイムチャートに基づき説明する。
【0068】
図8の時刻t1から時刻t2までを協調変速イナーシャフェーズ時間Δtとする。この協調変速イナーシャフェーズ時間Δtより短い時間である回転落ち対策用イナーシャフェーズ時間Δt3(<Δt)を目標時間としてバリエータ20をダウン変速すると、フィードバックゲインを高めて変速進行速度を上昇させることにより、バリエータ20でのイナーシャフェーズ所要時間がほぼ回転落ち対策用イナーシャフェーズ時間Δt3に一致する。
一方、協調変速イナーシャフェーズ時間Δtを目標時間として副変速機構30をアップ変速したとき、副変速機構30の実イナーシャ進行が遅く停滞し、副変速機構30のクラッチ容量が不足すると、エンジン1に加わる負荷抵抗が減少することにより、エンジン回転数の吹け上がりを開始する。そして、このエンジン回転数の吹け上がりが検知されると、図8のG部に示すように、副変速機構30の締結側油圧(Highクラッチ油圧)を上昇させる制御が行われる。この締結油圧上昇制御により、副変速機構30のクラッチ容量不足が解消され、エンジン1に加わる負荷抵抗が増大し、図8のH部に示すように、実スルー変速比の増大が抑えられるとともに、エンジン回転数の吹き上がりが抑えられる。
【0069】
実施例1では、副変速機構30を協調変速イナーシャフェーズ時間にてアップ変速させつつ、バリエータ20を回転落ち対策用イナーシャフェーズ時間にてダウン変速させる協調制御実行中、エンジン回転数の吹け上がりを検知すると、副変速機構30のHighクラッチ33の油圧を高める制御を行う構成を採用した。
すなわち、副変速機構30での実イナーシャ停滞は、目標イナーシャ時間を、バリエータ20の回転落ち対策用イナーシャフェーズ時間、副変速機構30の協調変速イナーシャフェーズ時間というように、それぞれ設定することで懸念されることである。そして、副変速機構30での実イナーシャ停滞によりエンジン回転数の吹け上がりを検知すると、副変速機構30のHighクラッチ33の油圧を高める制御が行われる。つまり、エンジン回転数の吹け上がりを検知するまでは、副変速機構30のHighクラッチ33の油圧指令を変更しない。
したがって、副変速機構30とバリエータ20の目標イナーシャフェーズ時間を異ならせる協調制御を最大限保ちつつ、副変速機構30での実イナーシャ停滞によりエンジン回転数が吹け上がってしまうことを抑制することができる。
【0070】
次に、効果を説明する。
実施例1の副変速機付き無段変速機の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0071】
(1) 車両に搭載される無段変速機(変速機4)であって、
変速比を無段階に変化させることができるバリエータ20と、
前記バリエータ20に対して直列に設けられ、前進用変速段として第1変速段と該第1変速段よりも変速比の小さな第2変速段とを有する副変速機構30と、
前記副変速機構30の変速段を変更する場合、前記副変速機構30を変速させつつ前記バリエータ20を前記副変速機構30の変速方向と逆方向に変速させる協調制御を行う協調制御手段と、
を備えた副変速機付き無段変速機の制御装置において、
前記協調制御手段(図5)は、変速機全体の協調変速イナーシャフェーズ時間である第1イナーシャフェーズ時間と、前記第1イナーシャフェーズ時間よりも短い時間による第2イナーシャフェーズ時間(回転落ち対策用イナーシャフェーズ時間)を設定するイナーシャフェーズ時間設定制御部(S3,S7)を有し、
前記協調制御手段(図5)は、前記無段変速機(変速機4)への入力トルクが所定値以下の協調制御であると判定されたとき、前記副変速機構30を前記第1イナーシャフェーズ時間(協調変速イナーシャフェーズ時間)にて変速(アップ変速)させつつ、前記バリエータ20を前記第2イナーシャフェーズ時間(回転落ち対策用イナーシャフェーズ時間)にて変速(ダウン変速)させる(S8)。
このため、副変速機構30の変速を伴う協調制御時、変速機入力回転数の変化を抑制し、運転性の向上を図ることができる。
【0072】
(2) 前記イナーシャフェーズ時間設定制御部(図5のS7)は、前記バリエータ20のダウン変速進行速度が前記副変速機構30のアップ変速進行速度より遅く、前記無段変速機(変速機4)への入力回転数が低下すると推定される運転領域にあるとき、前記第1イナーシャフェーズ時間(協調変速イナーシャフェーズ時間)よりも短い時間による第2イナーシャフェーズ時間(回転落ち対策用イナーシャフェーズ時間)を設定する。
このため、(1)の効果に加え、第2イナーシャフェーズ時間(回転落ち対策用イナーシャフェーズ時間)の設定頻度を抑えながら、確実に変速機入力回転数の変化を抑制することができる。
【0073】
(3) 前記協調制御手段(図5)は、前記副変速機構30を前記第1イナーシャフェーズ時間(協調変速イナーシャフェーズ時間)にて変速させつつ、前記バリエータ20を前記第2イナーシャフェーズ時間(回転落ち対策用イナーシャフェーズ時間)にて変速させる協調制御実行中、前記無段変速機(変速機4)への入力回転数の上昇(エンジン回転数吹け上がり)を検知すると(S9でYes)、前記副変速機構30の締結側摩擦締結要素(Highクラッチ33)の締結力を高める入力回転数上昇抑制制御を行う(S10)。
このため、(1)又は(2)の効果に加え、副変速機構30とバリエータ20の目標イナーシャフェーズ時間を異ならせる協調制御を最大限保ちつつ、副変速機構30での実イナーシャ停滞によりエンジン回転数が吹け上がってしまうことを抑制することができる。
【0074】
以上、本発明の副変速機付き無段変速機の制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0075】
実施例1では、協調制御手段として、踏み込みアップ変速協調制御の例を示した。しかし、協調制御手段としては、変速機への入力トルクが所定値以下の踏み込みダウン変速協調制御であっても良く、この場合、変速機入力回転数の上昇を抑制し、運転性の向上を図ることができる。
【0076】
実施例1では、バリエータ20として、ベルト式無段変速機構を備えたものを示した。しかし、バリエータ20としては、Vベルト23の代わりにチェーンがプーリ21、22の間に掛け回される無段変速機構であってもよい。あるいは、バリエータ20としては、入力ディスクと出力ディスクの間に傾転可能なパワーローラを配置するトロイダル式無段変速機構であってもよい。
【0077】
実施例1では、副変速機構30として、前進用の変速段として1速と2速の2段を有する変速機構を示した。しかし、副変速機構30としては、前進用の変速段として3段以上の変速段を有する変速機構としても構わない。
【0078】
実施例1では、副変速機構30として、ラビニョウ型遊星歯車機構を用いて構成を示した。しかし、副変速機構30としては、通常の遊星歯車機構と摩擦締結要素を組み合わせて構成してもよいし、あるいは、ギヤ比の異なる複数の歯車列で構成される複数の動力伝達経路と、これら動力伝達経路を切り換える摩擦締結要素とによって構成してもよい。
【0079】
実施例1では、バリエータ20のプーリ21、22の可動円錐板を軸方向に変位させるアクチュエータとして、油圧シリンダ23a、23bを備えたものを示した。しかし、バリエータのアクチュエータとしては、油圧で駆動されるものに限らず電気的に駆動されるものあってもよい。
【0080】
実施例1では、本発明の副変速機付き無段変速機の制御装置をエンジン車両に適用する例を示した。しかし、本発明の副変速機付き無段変速機の制御装置は、駆動源にエンジンとモータを搭載したハイブリッド車両や駆動源にモータを搭載した電気自動車に対しても適用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8