(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転可能に保持されたねじ軸と、当該ねじ軸に前後進可能に螺合されたナット体と、当該ナット体の前後進に連動して前後進する射出プランジャと、前記ねじ軸を回転駆動する射出用電動サーボモータ及び増圧用電動サーボモータと、前記ねじ軸と前記増圧用電動サーボモータとの間に設けられたワンウェイクラッチと、前記射出用電動サーボモータ及び増圧用電動サーボモータの駆動を制御するコントローラとを備え、
前記ワンウェイクラッチは、前記ねじ軸の外周に固定される内輪と、前記増圧用電動サーボモータの回転力を前記ねじ軸に伝達するプーリの内周に固定される外輪と、これら内輪と外輪との間に揺動可能に配置された複数のカムとを備え、
前記射出プランジャを前進駆動する方向に前記ねじ軸を回転駆動する際には、前記増圧用電動サーボモータによって回転駆動される前記ねじ軸の回転速度よりも、前記射出用電動サーボモータによって回転駆動される前記ねじ軸の回転速度の方が高速である場合に空転し、前記増圧用電動サーボモータによって回転駆動される前記ねじ軸の回転速度よりも、前記射出用電動サーボモータによって回転駆動される前記ねじ軸の回転速度の方が低速になった場合に、前記増圧用電動サーボモータの回転力を前記ねじ軸に伝達し、
前記射出プランジャを後退駆動する方向に前記ねじ軸を回転駆動する際には、前記射出用電動サーボモータによって回転駆動される前記ねじ軸の回転速度に関わりなく、空転することを特徴とする電動ダイカストマシン。
前記コントローラは、予め定められた駆動条件にしたがって前記射出用電動サーボモータの駆動を制御し、射出工程中の低速射出工程及び高速射出工程を実行すると共に、前記高速射出工程における前記射出用電動サーボモータの減速制御中又は当該減速制御を開始する以前に、前記増圧用電動サーボモータの起動を開始して、前記増圧用電動サーボモータの回転速度を予め定められた所定の回転速度に保持することを特徴とする請求項1に記載の電動ダイカストマシン。
【背景技術】
【0002】
ダイカストマシンは、射出装置に備えられた射出プランジャを1ショット毎に前進駆動することにより、一定量のAl合金やMg合金などの溶融金属材料を金型キャビティ内に射出・充填して、所要形状の製品を成形する成形機である。ダイカストマシンも、プラスチック材料を金型キャビティ内に射出・充填して所要形状の製品を成形する射出成形機と同様に、低速射出工程、高速射出工程及び増圧工程(射出成形機にあっては、保圧工程と称される。)を経て成形材料を金型キャビティ内に射出・充填するが、ダイカストマシンは射出成形機に比べて、高速射出工程における射出速度が1ケタ程度高速であるという特徴がある。このため、従来においては、射出プランジャを油圧により駆動する油圧射出装置を備えた油圧式のダイカストマシンが主流であった。
【0003】
しかしながら、油圧射出装置を備えたダイカストマシンは、射出プランジャを高速駆動できる反面、工場設備が大掛かりになる、エネルギ効率が悪い、成形工場内が油で汚れやすく作業環境が悪い、といった種々の問題がある。このため、近年においては、このような欠点のない電動射出装置を備えたダイカストマシンが提案されるに至っている(例えば特許文献1参照。)。
【0004】
本願の出願人は、先に、ダイカストマシンの電動射出装置として、低速射出及び増圧に用いる第1射出用電動モータと、高速射出に用いる第2射出用電動モータと、前記第1射出用電動モータの回転運動をボールねじ機構のねじ軸に伝達する第1動力伝達機構、及び前記第2射出用電動モータの回転運動を前記ねじ軸に伝達する第2動力伝達機構と、前記第1動力伝達機構中に備えられた第1クラッチ機構、及び前記第2動力伝達機構中に備えられた第2クラッチ機構と、前記ねじ軸に螺合されたナット体と、該ナット体を保持する直動体と、該直動体に一端が連結された射出プランジャと、前記第1及び第2の射出用電動モータの起動・停止並びに前記第1及び第2のクラッチ機構の断続を制御するコントローラを備え、前記コントローラは、低速射出工程、高速射出工程及び増圧工程の開始タイミングを記憶しており、前記高速射出工程の開始タイミング以前に前記第2射出用電動モータを停止状態から起動し、前記高速射出工程の開始タイミング又はそれ以前の前記第2射出用電動モータの起動タイミング以後に、前記第2クラッチ機構を切断状態から接続状態に切り換えることを特徴とするものを提案した(特許文献1の請求項1参照。)。この特許文献1に記載の電動射出装置によれば、高速射出工程の開始タイミング以前に高速射出用の第2射出用電動モータを停止状態から起動し、当該高速射出工程の開始タイミング又はそれ以前において高速射出用の第2クラッチ機構を切断状態から接続状態に切り換えるので、第2クラッチ機構を切断状態から接続状態に切り換えて、高速射出用の第2射出用電動モータの駆動力をボールねじ機構のねじ軸に伝達する段階においては、高速射出用の第2射出用電動モータの回転数を高めておくことができる。よって、第2クラッチ機構を切断状態から接続状態に切り換えた後に、ボールねじ機構及び直動体を介して駆動される射出プランジャの加速度を大きくすることができ、比較的低出力の射出用モータを用いて、所要の射出工程を実行することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の電動射出装置は、第1及び第2のクラッチ機構を備えるので、ダイカストマシンが高コスト化するという問題がある。また、特許文献1に記載の電動射出装置は、第1及び第2のクラッチ機構の切換をコントローラからの指令によって行う構成であるので、例えばダイカストマシン全体の制御を司るマシンコントローラの負担が大きくなるという問題もある。さらに、特許文献1に記載の電動射出装置は、クラッチ機構として断続時に滑りを生じる摩擦クラッチを備えているので、使用中に経時劣化を起こしやすく、メンテナンスに多大の労力を要するという問題もある。
【0007】
本発明は、このような従来技術の問題を解消するためになされたものであり、その目的は、低コストにして所定の射出運転及び増圧運転が可能であり、かつクラッチ機構のオンオフ制御が不要でメンテナンスも容易な電動ダイカストマシンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するため、回転可能に保持されたねじ軸と、当該ねじ軸に前後進可能に螺合されたナット体と、当該ナット体の前後進に連動して前後進する射出プランジャと、前記ねじ軸を回転駆動する射出用電動サーボモータ及び増圧用電動サーボモータと、前記ねじ軸と前記増圧用電動サーボモータとの間に設けられたワンウェイクラッチと、前記射出用電動サーボモータ及び増圧用電動サーボモータの駆動を制御するコントローラとを備え、前記ワンウェイクラッチは、
前記ねじ軸の外周に固定される内輪と、前記増圧用電動サーボモータの回転力を前記ねじ軸に伝達するプーリの内周に固定される外輪と、これら内輪と外輪との間に揺動可能に配置された複数のカムとを備え、前記射出プランジャを前進駆動する方向に前記ねじ軸を回転駆動する際に
は、前記増圧用電動サーボモータによって回転駆動される前記ねじ軸の回転速度よりも、前記射出用電動サーボモータによって回転駆動される前記ねじ軸の回転速度の方が高速である場合に空転し、前記増圧用電動サーボモータによって回転駆動される前記ねじ軸の回転速度よりも、前記射出用電動サーボモータによって回転駆動される前記ねじ軸の回転速度の方が低速になった場合に、前記増圧用電動サーボモータの回転力を前記ねじ軸に伝達
し、前記射出プランジャを後退駆動する方向に前記ねじ軸を回転駆動する際には、前記射出用電動サーボモータによって回転駆動される前記ねじ軸の回転速度に関わりなく、空転することを特徴とする。
【0009】
本構成によると、ねじ軸と増圧用電動サーボモータの間にワンウェイクラッチを所定の向きで設け、コントローラが高速射出工程における射出用電動サーボモータの減速制御中又は当該減速制御の開始前に増圧用電動サーボモータの起動を開始するので、射出工程中における増圧用電動サーボモータによって回転駆動されるねじ軸の回転速度よりも、射出用電動サーボモータによって回転駆動されるねじ軸の回転速度の方が高速である場合には、ワンウェイクラッチが空転し、射出用電動サーボモータの駆動制御を行うだけで、低速射出工程及び高速射出工程が実行される。そして、増圧用電動サーボモータによって回転駆動されるねじ軸の回転速度よりも、射出用電動サーボモータによって回転駆動されるねじ軸の回転速度の方が低速になった段階で、ワンウェイクラッチが自動的に接続状態に切り替わり、増圧用電動サーボモータの回転力がねじ軸に伝達されて、射出工程に引き続く増圧工程が実行される。したがって、本構成によると、増圧用電動サーボモータとねじ軸との間に1つのワンウェイクラッチを備えれば足りるのであって、ダイカストマシンの低コスト化を図ることができる。また、本構成によると、増圧用電動サーボモータによって回転駆動されるねじ軸の回転速度よりも、射出用電動サーボモータによって回転駆動されるねじ軸の回転速度の方が低速になった段階で、ワンウェイクラッチが自動的に接続状態に切り替わるので、コントローラによるクラッチ装置の切換制御が不要になり、コントローラの負担を軽減することができる。
【0010】
また本発明は、前記構成の電動ダイカストマシンにおいて、前記ワンウェイクラッチとして、内輪と、外輪と、これら内輪と外輪との間に揺動可能に配置された複数のカムを備え、前記内輪及び前記外輪を特定の一方向に回転する場合において、前記内輪の回転速度が前記外輪の回転速度よりも高速であるときには、前記内輪及び前記外輪に対する前記カムの係合が解除されて、前記外輪に対して前記内輪が空転し、前記内輪の回転速度が前記外輪の回転速度よりも低速であるときには、前記内輪及び前記外輪に前記カムが係合し、前記内輪と前記外輪が前記特定の一方向に回転するものを用いたことを特徴とする。
【0011】
本構成のワンウェイクラッチは、構造が簡単で、しかも摩擦クラッチのように断続時に滑りをほとんど生じないので、長期間使用しても経時劣化しにくく、メンテナンスが容易で、ダイカストマシンの耐久性及び信頼性を高めることができる。
【0012】
また本発明は、前記各構成の電動ダイカストマシンにおいて、前記増圧用電動サーボモータの出力軸と前記ねじ軸とを多段減速装置を介して連結したことを特徴とする。
【0013】
本構成によると、1段の減速装置を用いる場合よりも、低出力の増圧用電動サーボモータを用いて、射出プランジャに高い増圧圧力を付与できるので、増圧用電動サーボモータひいてはダイカストマシンの低コスト化、或いはダイカストマシンの高性能化を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、増圧用電動サーボモータとねじ軸との間に1つのワンウェイクラッチを備えれば足りるので、複数のクラッチ機構を備える場合に比べて、ダイカストマシンの低コスト化を図ることができる。また、本発明によると、高速射出工程における射出用電動サーボモータの減速制御中において、増圧用電動サーボモータによって回転駆動されるねじ軸の回転速度よりも、射出用電動サーボモータによって回転駆動されるねじ軸の回転速度の方が低下した段階で、ワンウェイクラッチが自動的に接続状態に切り替わり、増圧工程が実行されるので、コントローラによるクラッチ装置の切換制御が不要になり、コントローラの負担を軽減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る電動ダイカストマシンに備えられる電動射出装置の一実施形態を、図を用いて説明する。
【0017】
図1及び
図2に示すように、実施形態に係る電動射出装置1は、所定の間隔を隔てて対向に配置された第1乃至第3の保持プレート2,3,4と、第1及び第2の保持プレート2,3に回転可能に保持されたねじ軸5と、第2及び第3の保持プレート3,4に両端が固定されたガイドバー6と、ねじ軸5に螺合され、ねじ軸5を回転駆動することによりガイドバー6に沿って前後進駆動されるナット体7と、ナット体7の先端部に一端が固定された筒状の連結体8と、連結体8の先端部に一端が固定された射出プランジャ9と、ねじ軸5を回転駆動する射出用電動サーボモータ10及び増圧用電動サーボモータ11と、ねじ軸5と増圧用電動サーボモータ11との間に設けられたワンウェイクラッチ(One-way clutch)12と、射出用電動サーボモータ10及び増圧用電動サーボモータ11の駆動を制御するコントローラ13とを備えている。なお、図中の符号14は、射出装置1と型締装置の固定ダイプレートDPとを接続するCフレームを示しており、該Cフレーム14は、
図2に示すように、ボルト15,16を用いて第3保持プレート4の外面及び固定ダイプレートDPに固定される。射出プランジャ9の先端部は、固定ダイプレートDPに形成された射出スリーブIS内に配置される。
【0018】
図3に拡大して示すように、第1保持プレート2の中央部内面には、輪状のベアリング保持部2aが突設されており、ねじ軸5の一端部は、当該ベアリング保持部2aの内面とねじ軸5の外面とに挿入されたベアリング(軸受)21を介して、第1保持プレート2に回転可能に保持される。また、第2保持プレート3の中央部には、円形の開口部3aが開設されており、該開口部3aの周囲からは輪状の段付きボス3bが起立されていて、開口部3a内には、ベアリングホルダ22が摺動可能に嵌入されている。ねじ軸5の中間部は、該ベアリングホルダ22の内面とねじ軸5の外面とに挿入されたアンギュラベアリング(軸受)23及びベアリング(軸受)24を介して、第2保持プレート3に回転可能に保持される。さらに、第3保持プレート4の中央部には、ねじ軸5及び連結体8の貫通孔4aが開設されている。これらの各保持プレート2,3,4は、
図1及び
図2に示すように、固定部材25により一体化され、図示しない電動ダイカストマシンのフレーム上に固定される。これら保持プレート2,3,4及び固定部材25の周囲は、作業者等の安全を図るため、保護カバー26をもって覆うことが望ましい。
【0019】
図1乃至
図3に示すように、第2保持プレート3に形成された段付きボス3bの内周には、内径がねじ軸5の外径よりも大きいリング状に形成されたロードセルユニット27が、ねじ軸5と同心に配置されている。本例のロードセルユニット27は、
図3に拡大して示すように、内輪部27aと外輪部27bとこれら両部の間に形成された弾性変形部27cとを有しており、内輪部27aがベアリングホルダ22にボルト締結されると共に、外輪部27bが段付きボス3bにボルト締結されている。弾性変形部27cには図示しない歪ゲージが貼られており、弾性変形部27cの歪み量、即ち、射出プランジャ9に作用する射出圧力、サージ圧及び増圧圧力が検出される。このように、本実施形態に係る電動射出装置1は、リング状に形成されたロードセルユニット27が、ねじ軸6と同心に配置され、かつベアリングホルダ22と段付きボス3bとの間に設置されているので、ロードセルユニット27の設定スペースを小さくすることができ、電動射出装置1ひいてはこれが搭載される電動ダイカストマシンの小型化を図ることができる。
【0020】
ガイドバー6は、
図2に示すように、その両端部がボルト28をもって第2及び第3の保持プレート3,4に締結される。
【0021】
また、
図1乃至
図3に示すように、ナット体7の外周には、一端がガイドバー6に摺動自在に連結されたサージ圧抑制用の衝撃緩衝装置31が備えられる。本例の衝撃緩衝装置31は、
図4及び
図5に示すように、ナット体7にボルト32を用いて締結される第1部材33と、連結体8にボルト34を用いて締結される第2部材35と、第1部材33と第2部材35との間に設定されたコイルばねなどの弾性部材36と、第1部材33及び第2部材35を所要の間隔を隔てて連結する連結ボルト37とから構成される。
図5に示すように、第1部材33及び第2部材35は、内面形状が横長の略六角形に形成されており、その中央部にはナット体7を貫通するためのナット体貫通孔38が開設され、該ナット体貫通孔38の周囲の所定位置には、連結ボルト37を貫通するための連結ボルト貫通孔39が開設されている。また、ナット体貫通孔38の周囲の、連結ボルト貫通孔39と干渉しない部分には、複数個(
図5の例では、10個)の弾性部材収容穴40がほぼ等分に形成されている。さらに、ナット体貫通孔38を介して長径方向の端部には、ガイドバー6を貫通するためのガイドバー貫通孔41が開設され、該ガイドバー貫通孔41内には、すべり軸受(メタル)42が備えられている。
【0022】
第1部材33は、ナット体貫通孔38内にナット体7を貫通し、かつガイドバー貫通孔41内にガイドバー6を貫通した状態で、ボルト32を用いてナット体7に締結される。したがって、この第1部材33は、ねじ軸5の回転駆動時にナット体7をガイドバー6に沿って移動させる案内部材としての機能も有する。一方、第2部材35は、ナット体貫通孔38内にナット体7を貫通し、かつガイドバー貫通孔41内にガイドバー6を貫通した状態で、ボルト34を用いて連結体8に締結される。したがって、この第2部材35は、ナット体7の前後進運動を連結体8を介して射出プランジャ9に伝達すると共に、射出プランジャ9をガイドバー6に沿って移動させる、動力伝達機構及び案内部材としての機能も有する。
【0023】
弾性部材36は、射出工程から増圧工程に切り換える際の溶湯圧力と同等かこれよりも若干(例えば、1.05倍〜1.1倍)大きい圧縮力を付与された状態で、第1部材33及び第2部材35の間に収容される。これにより、射出工程中に弾性部材36が縮むことはなく、金属溶湯に所要の射出圧力を付与することができる。また、第1部材33と第2部材35は、サージ圧を受けたときにも密着しない所定の間隔を隔てて組み合わされる。これにより、サージ圧の吸収が可能になる。なお、弾性部材36に付与される圧縮力は、連結ボルト37を調整することにより、適宜調整される。
【0024】
ねじ軸5の先端部には、所要の連結具42aを介して第1プーリ42が固定されると共に、ワンウェイクラッチ12を介して第2プーリ43が取り付けられる。第1プーリ42は、射出用電動サーボモータ10の回転力をねじ軸5に伝達するもので、射出用電動サーボモータ10の出力軸に固定された駆動側プーリ10aとの間に、タイミングベルト44が輪掛けされる。これに対して、第2プーリ43は、増圧用電動サーボモータ11の回転力をねじ軸5に伝達するもので、増圧用電動サーボモータ11の出力軸に固定された駆動側プーリ11aとの間に、タイミングベルト45が輪掛けされる。
【0025】
ワンウェイクラッチ12は、
図6及び
図7に示すように、内輪51と、外輪52と、これら内輪51及び外輪52の間に揺動可能に配置された複数のカム53と、カム53を保持するリテーナ54と、カム53を一方向に付勢するばね部材55とから主に構成されている。カム53は、内輪51及び外輪52を特定の一方向に回転する場合において、内輪51の回転速度が外輪52の回転速度よりも高速であるときには、これら内輪51及び外輪52との係合が解除されて、外輪52に対して内輪51が空転する。また、このカム53は、内輪51の回転速度が外輪52の回転速度よりも低速になったときには、内輪51及び外輪52に係合し、内輪51と外輪52とを前記特定の一方向に一体に回転させる。内輪51は、ねじ軸5の外周に固定され、外輪52は、第2プーリ43の内周に固定される。
【0026】
コントローラ13は、射出用電動サーボモータ10及び増圧用電動サーボモータ11に備えられたエンコーダ10b,11bからの信号及びロードセルユニット27からの信号等を取り込み、射出用電動サーボモータ10及び増圧用電動サーボモータ11の起動タイミング、停止タイミング、加速条件、減速条件、回転速度及び回転トルクなど、射出用電動サーボモータ10及び増圧用電動サーボモータ11の駆動制御全般を司る。なお、このコントローラ13としては、ダイカストマシン全体の駆動制御を司るマシンコントローラを用いることもできる。
【0027】
以下、上述のように構成された実施形態に係る電動射出装置1の動作につき、
図8を参照しながら説明する。以下の動作は、コントローラ13から出力される指令信号に基づいて行われる。
【0028】
図8(b)に示すように、ダイカストマシンが連続自動運転を実行している状態において、低速射出の開始タイミングに至ると、射出用電動サーボモータ10が所定の回転方向に起動され、その回転速度が予め定められた低速射出用の回転速度に制御される。次いで高速射出の開始タイミングに至ると、射出用電動サーボモータ10が増速され、その回転速度が予め定められた高速射出用の回転速度に制御される。射出用電動サーボモータ10の回転は、駆動側プーリ10a、タイミングベルト44及び第1プーリ42を介してねじ軸5に伝達され、ねじ軸5を低速射出時の回転速度及び高速射出時の回転速度で回転駆動する。ねじ軸5が回転駆動されると、ねじ軸5に螺合されたナット体7が前進駆動され、
図8(b)に示すように、ナット体7と衝撃緩衝装置31及び連結体8を介して連結された射出プランジャ9が、所定の低速射出時の前進速度及び高速射出時の前進速度で前進駆動される。これにより、射出スリーブIS内に供給された一定量の溶融金属が、図示しない金型キャビティ内に所定の射出速度で低速射出された後、所定の射出速度で高速射出される。
【0029】
射出プランジャ9の前進により、射出スリーブIS内の溶融金属が金型キャビティ内に射出されたとき、金型キャビティ内の溶融金属には、衝撃的なサージ圧が作用する。サージ圧が過大であると、製品にバリなどの成形不良が発生しやすくなる。本実施形態に係る電動射出装置1は、衝撃緩衝装置31に備えられた弾性部材36でサージ圧を吸収する。即ち、高速射出工程において発生したサージ圧は、射出プランジャ9及び連結体8を介して衝撃緩衝装置31の第2部材35に伝達されるので、
図8(a)に示すように、第1部材33と第2部材35との間で弾性部材36が圧縮され、その弾性変形によってサージ圧が吸収される。よって、金型キャビティ内の溶融金属に過大なサージ圧が作用せず、良品の製造が可能になる。また、本実施形態に係る衝撃緩衝装置31は、ナット体7の外周に配置したので、衝撃緩衝装置31とナット体7とを直列に配置した場合に比べて、電動射出装置1ひいては電動ダイカストマシンの全長を短縮することができる。
【0030】
射出工程の終期に至ると、コントローラ13は、
図8(b)に示すように、射出用電動サーボモータ10を減速制御し、最終的には射出用電動サーボモータ10の回転を停止する。また、コントローラ13は、射出用電動サーボモータ10の減速制御を開始する以前に、増圧用電動サーボモータ11の起動を開始し、その回転速度を予め定められて所定の回転速度に保持する。射出用電動サーボモータ10の回転速度は減速制御によって漸減し、増圧用電動サーボモータ11の回転速度は起動制御によって漸増するので、射出用電動サーボモータ10の減速制御中に、射出用電動サーボモータ10の回転速度と増圧用電動サーボモータ11の回転速度は逆転する。
【0031】
したがって、増圧用電動サーボモータ11を起動した後においても、射出用電動サーボモータ10によって回転駆動されるねじ軸5の回転速度の方が、増圧用電動サーボモータ11によって回転駆動されるねじ軸5の回転速度よりも高速である場合には、ワンウェイクラッチ12が空転し、増圧用電動サーボモータ11の回転力はねじ軸5に伝達されない。よって、射出用電動サーボモータ10を駆動制御することにより、射出工程中の低速射出工程及び高速射出工程が実行される。この状態からさらに射出用電動サーボモータ10によって回転駆動されるねじ軸5の回転速度が低下し、増圧用電動サーボモータ11によって回転駆動されるねじ軸5の回転速度よりも、射出用電動サーボモータ10によって回転駆動されるねじ軸5の回転速度の方が低速になると、その段階で、ワンウェイクラッチ12が自動的に接続状態に切り替わり、増圧用電動サーボモータ11の回転力がねじ軸5に伝達される。この回転力は、ナット体7によって直進力に変換され、衝撃緩衝装置31及び連結体8を介して射出プランジャ9に伝達される。この増圧用電動サーボモータ11による動力補給により、
図8(c)に示すように、金型キャビティ内の溶融金属に所要の増圧圧力が付与され、射出工程に引き続く増圧工程が実行される。これにより、鋳物巣などの成形不良を防止することができる。
【0032】
なお、前述の増圧用電動サーボモータ11の駆動制御においては、射出用電動サーボモータ10の減速制御を開始する以前に増圧用電動サーボモータ11の起動を開始したが、本発明の要旨はこれに限定されるものではなく、射出用電動サーボモータ10の減速制御を開始すると同時、又はそれ以降に増圧用電動サーボモータ11の起動を開始することもできる。
【0033】
このように、本実施形態に係る電動射出装置1は、クラッチ機構として、増圧用電動サーボモータ11によって回転駆動されるねじ軸5の回転速度よりも、射出用電動サーボモータ10によって回転駆動されるねじ軸5の回転速度の方が低速になった段階で、自動的に接続状態に切り替わるワンウェイクラッチ12を用いたので、コントローラ13によるクラッチ機構の切換制御が不要になり、コントローラ13の負担を軽減することができる。また、ワンウェイクラッチ12は、摩擦クラッチに比べて断続時における滑りが格段に小さく、使用中に経時劣化しにくいので、摩擦クラッチを備えた場合に比べて電動射出装置1の耐久性を高めることができ、かつメンテナンスを容易なものにすることができる。さらに、本実施形態に係る電動射出装置1は、増圧用電動サーボモータ11とねじ軸5との間にワンウェイクラッチ12を1つのみ備えるので、複数のクラッチ機構を備えた従来技術に比べて、電動射出装置1の低コスト化を図ることができる。
【0034】
低速射出工程、高速射出工程及び増圧工程のそれぞれにおいて射出プランジャ9に作用する低速射出圧力、高速射出圧力、サージ圧及び増圧圧力は、射出プランジャ9、連結体8、衝撃緩衝装置31、ナット体7、ねじ軸5、アンギュラベアリング23及びベアリングホルダ22を介して、ロードセルユニット27の内輪部27aに伝達される。よって、ロードセルユニット27の弾性変形部27cに、低速射出圧力、高速射出圧力、サージ圧及び増圧圧力に応じた歪みが生じ、その歪み量に応じた電気信号が歪ゲージから出力されるので、この電気信号をコントローラ13に取り込むことにより、低速射出圧力、高速射出圧力、サージ圧及び増圧圧力の監視を行うことができる。本実施形態に係る射出装置は、ロードセルユニット27をねじ軸5の外周に配置したので、ロードセルユニット27とねじ軸5とを直列に配置した場合に比べて、電動射出装置1ひいては電動ダイカストマシンの全長を短縮することができる。
【0035】
増圧工程の完了後、冷却工程が終了し、図示しない型開閉電動サーボモータを駆動して、型開き工程が実行されると、増圧工程時に圧縮されていた弾性部材36の復元力により、型開き工程の開始時から射出プランジャ9によってビスケットに対して押出方向の圧力がかかり、型開き動作にビスケット押出動作を追従させることができる。その後、射出用電動サーボモータ10を逆転駆動してナット体7を原位置に復帰する。これに伴って連結体8及び射出プランジャ9も原位置に復帰する。
【0036】
なお、本発明の要旨は、ねじ軸5と増圧用電動サーボモータ11との間にワンウェイクラッチ12を配置したことにあるのであって、他の構成に関しては、前記実施形態に限定されるものではなく、適宜設計変更することができる。例えば、
図9に示すように、複数台(
図9の例では2台)の射出用電動サーボモータ10を備え、各射出用電動サーボモータ10の回転力を、複数本(
図9の例では2本)のタイミングベルト44を介して、ねじ軸5に伝達するという構成にすることもできる。また、同じく
図9に示すように、増圧用電動サーボモータ11の回転力を、多段(
図9の例では2段)減速機構を介して、ねじ軸5に伝達するという構成にすることもできる。
図9に示す2段減速機構は、増圧用電動サーボモータ11の出力軸に固定された駆動側プーリ11aと、中間軸61に固定された第1中間プーリ62及びこれよりも小径の第2中間プーリ63と、ねじ軸5にワンウェイクラッチ12を介して取り付けられた第2プーリ43と、駆動側プーリ11a及び第1中間プーリ62に輪掛けされた第1タイミングベルト64と、第2中間プーリ63及び第2プーリ43に輪掛けされた第2タイミングベルト65とからなる。これらの各変形例によると、低出力の射出用電動サーボモータ10及び増圧用電動サーボモータ11を用いて、高い射出圧力及び増圧圧力を発生できるので、より安価にしてより高性能の電動ダイカストマシンを得ることができる。