特許第6034648号(P6034648)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6034648ビールに付与されるホップ由来の香り及び味を増減する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6034648
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】ビールに付与されるホップ由来の香り及び味を増減する方法
(51)【国際特許分類】
   C12C 11/02 20060101AFI20161121BHJP
   C12C 11/00 20060101ALI20161121BHJP
   C12C 7/00 20060101ALI20161121BHJP
   C12C 7/24 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   C12C11/02
   C12C11/04
   C12C9/02
   C12C9/04
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-228925(P2012-228925)
(22)【出願日】2012年10月16日
(65)【公開番号】特開2014-79191(P2014-79191A)
(43)【公開日】2014年5月8日
【審査請求日】2015年5月15日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】岸本 徹
【審査官】 吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−135530(JP,A)
【文献】 特開平09−271396(JP,A)
【文献】 Technical Quarterly,1997年,Vol.34, No.3,p.174-178
【文献】 宮地 秀夫,ビール醸造技術,1999年,p.494
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/FSTA/FROSTI(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦芽又は麦芽を含む穀類を糖化して糖液を得る工程;
糖液にホップを加えて煮沸する工程;
煮沸糖液を20℃以下の温度に冷却する工程;
予め選択された、その表層疎水度が、ホップ由来の香り及び味を増大させようとするビールに使用しているビール酵母の表層疎水度より低い種類のビール酵母を冷却糖液に接種して発酵させる工程;
を包含する、ビールに付与されるホップ由来の香り及び味を増大させる方法。
【請求項2】
前記酵母は80以下の表層疎水度を有する請求項に記載の方法。
【請求項3】
麦芽又は麦芽を含む穀類を糖化して糖液を得る工程;
糖液にホップを加えて煮沸する工程;
煮沸糖液を20℃以下の温度に冷却する工程;
予め選択された、その表層疎水度が、ホップ由来の香り及び味を減少させようとするビールに使用しているビール酵母の表層疎水度より高い種類のビール酵母を冷却糖液に接種して発酵させる工程;
を包含する、ビールに付与されるホップ由来の香り及び味を減少させる方法。
【請求項4】
前記ホップは0.0007〜5.6g/Lの量で糖液に添加される請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記糖液の煮沸は30分〜120分の時間行われる請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記冷却糖液の発酵は96時間〜360時間の期間行なわれる請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビールの製造方法に関し、特に、ラガービールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールは麦芽、ホップ、及び水を主原料として、これらを酵母で発酵させて得られる飲料をいう。ビールは、麦芽及びホップに由来する香り及び味を有し、これらのバランスによって、ビール特有のコク感、爽快な苦味、香り及びスッキリとして爽やかな口当たりが実現される。
【0003】
原料の中で、ホップは香味付けのための薬草であり、ホップには、ビールに香りを付与する物質や苦味を付与する物質が含まれる。ホップからビールに付与される香り及び味の強度がビールの出来栄えを左右する。
【0004】
ビールの香り及び味を最適化するために、ホップの種類、使用量、煮沸条件を特定するための試行錯誤が長年行なわれてきた。その結果、多様な香味を示す多くの種類のビールが誕生し、醸造所特有の銘柄が多く存在する。
【0005】
しかし、ホップの種類、使用量、煮沸条件が最適化されたある種類のビールに、更に香り及び味の変化が要求された場合、ホップ由来の香り及び味の強度を変化させることは困難である。
【0006】
その理由は、まず、ビールに付与されるホップ由来の香り及び味の強度は、ホップの使用量を増減するだけでは変化し難い性質がある。ホップの使用量を極端に増減すると他の原料由来の味及び香りとホップ由来の香り及び味のバランスが崩れ易い。また、ホップの種類及び煮沸条件は長年の試行錯誤の結果最適化されており、新たに採用できる選択肢の範囲は限られている。
【0007】
特に、比較的低温で熟成させながら比較的長時間の発酵を行う、いわゆるラガービールについて、ビールに付与されるホップ由来の香り及び味の強度の調節が困難という問題が明らかになった。例えば、ある種のラガービールでは、ホップの使用量を増大させてもホップからビールに付与される香り及び味の強度が増大し難いのである。
【0008】
特許文献1には、ホップの抽出エキスを発酵アルコール飲料に添加することにより、調和した苦味が付与された高香味発酵アルコール飲料の製造方法が記載されている。しかし、この方法では、得られる高香味発酵アルコール飲料について特殊な特性値を充足させることで、苦味の調和が図られ、ホップの抽出エキス等の添加量は最適化されている。
【0009】
したがって、ホップに代えてホップの抽出エキスを使用し、又はホップとホップの抽出エキスを併用したとしても、ビールに付与されるホップ由来の香り及び味の強度の調節が可能かどうかは未だ不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2012−135263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、ホップの種類、使用量、煮沸条件を実質的に変更することなくビールに付与されるホップ由来の香り及び味を増減することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、麦芽又は麦芽を含む穀類を糖化して糖液を得る工程;
糖液にホップを加えて煮沸する工程;
煮沸糖液を20℃以下の温度に冷却する工程;
予め選択された表層疎水度が低い種類のビール酵母又は表層疎水度が高い種類のビール酵母を冷却糖液に接種して発酵させる工程;
を包含する、ビールに付与されるホップ由来の香り及び味を増減する方法であって、
該ビール酵母の選択は、ビール酵母の表層疎水度を指標として用いて行われるものである方法を提供する。
【0013】
ある一形態においては、前記ホップは0.0007〜5.6g/Lの量で糖液に添加される。
【0014】
ある一形態においては、前記糖液の煮沸は30分〜120分の時間行われる。
【0015】
ある一形態においては、前記冷却糖液の発酵は96時間〜360時間の期間行なわれる。
【0016】
また、本発明は、前記いずれかに記載の方法によって製造されたホップ由来の香り及び味が増減されたビールを提供する。
【0017】
また、本発明は、麦芽又は麦芽を含む穀類を糖化して糖液を得る工程;
糖液にホップを加えて煮沸する工程;
煮沸糖液を20℃以下の温度に冷却する工程;
予め選択された表層疎水度がより低い種類のビール酵母を冷却糖液に接種して発酵させる工程;
を包含する、ビールに付与されるホップ由来の香り及び味を増大させる方法を提供する。
【0018】
ある一形態においては、前記酵母は80以下の表層疎水度を有する。
【0019】
また、本発明は、前記いずれかの方法によって製造されたホップ由来の香り及び味が増大したビールを提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の方法によれば、ホップの種類、使用量、煮沸条件を実質的に変更することなくビールに付与されるホップ由来の香り及び味を増減することができる方法が提供される。特に、本発明の方法によれば、ホップの使用量を増大させてもホップからビールに付与される香り及び味の強度が増大しなかったラガービールにおいて、ホップ由来の香り及び味、更にはコク感を増大させることができる。本発明の方法によってビールに付与されるホップ由来の香り及び味を増減した場合、他の原料由来の味及び香りとホップ由来の香り及び味のバランス、即ち、ビールの味質は維持される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ビールの苦渋味強度と酵母表層疎水度の関係を示すグラフである。
図2】ビールのホップ香強度と酵母表層疎水度の関係を示すグラフである。
図3】ビールの苦渋味、ホップ香、コク感と酵母表層疎水度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のビールに付与されるホップ由来の香り及び味を増減する方法は、煮沸を行った麦汁を発酵させる際に、ビール酵母として、表層疎水度が低い種類のビール酵母又は表層疎水度が高い種類のビール酵母を選択して使用する。そして、そのこと以外は、ビールを製造する際に通常行われる工程を包含する。
【0023】
ビール酵母はその種類に依存して細胞表層の疎水性に差異があることが知られている(Appl.Environ.Microbiol.,58,3709,1992 Yeast 12,207−213,1996)。ビール酵母の表層疎水度は定量化する方法が確立されており、その一例として、特開平9−271396号公報に記載の方法がある。
【0024】
本発明の方法では、まず、複数の種類のビール酵母の表層疎水度を測定しておく。そして、ビール酵母の表層疎水度を指標として、これらの中から麦汁を発酵させるために使用する酵母を選択する。具体的には、ホップからビールに付与される香り及び味の強度を増大させることを目的とする場合は、表層疎水度が低い種類のビール酵母を選択する。逆に、ホップからビールに付与される香り及び味の強度を減少させることを目的とする場合は、表層疎水度が高い種類のビール酵母を選択する。ビールに付与されるホップ由来の香り及び味を増減するために、原料として使用するホップの種類、使用量、煮沸条件を実質的に変更する必要はない。
【0025】
一般に疎水性の物質は、疎水性の粒子に吸着する。ホップは、疎水度の高い香気成分(テルペン群)や疎水度の高い苦渋味成分などの呈味成分を含む。これらはビール全体のコク感等に寄与する。しかし、それらの成分は、疎水性を持つ酵母の表層に吸着し、発酵後に酵母とともにビールから取り除かれる。この成分の酵母表層への吸着量は、酵母表層の疎水度によって変わると考えられる。すなわち、酵母表層疎水度が高い酵母を用いると、酵母とともに香気と呈味成分が除去されやすく、低い酵母を用いて発酵させると、ホップ由来の香り、呈味成分をビール中に残しやすいのである。
【0026】
使用するビール酵母として好ましいものは下面発酵酵母である。
【0027】
ホップ香気が弱く、すっきりした香り及び味のビールに対し、ホップ由来の香り及び味を増大させるためには、麦汁を発酵させる際に、現在使用しているビール酵母の代わりに、より表層疎水度が低い種類のビール酵母を選択する。
【0028】
ホップ由来の香り及び味を増大させる目的を達成するために有効なビール酵母の表層疎水度は80以下、好ましくは5〜60、より好ましくは10〜45である。
【0029】
ホップ香気が強く、コク感が高いビールに対し、ホップ由来の香り及び味を減少させるためには、麦汁を発酵させる際に、現在使用しているビール酵母の代わりに、より表層疎水度が高い種類のビール酵母を選択する。
【0030】
ホップ由来の香り及び味を減少させる目的を達成するために有効なビール酵母の表層疎水度は40以上、好ましくは80〜100、より好ましくは95〜100である。
【0031】
発酵に供する麦汁は、麦芽を含む穀類を糖化して得られる糖液にホップを加えて煮沸し、次いで冷却することにより得られる。
【0032】
穀類を糖化する操作はビールを製造する際に通常行われる方法及び条件に従って行われる。例えば、まず、麦芽の破砕物、大麦等の副原料、及び温水を仕込槽に加えて混合してマイシェを調製する。マイシェの調製は、常法により行うことができ、例えば、35〜50℃で20〜90分間保持することにより行うことができる。また、必要に応じて、主原料と副原料以外にも、後述する糖化酵素やプロテアーゼ等の酵素剤や、スパイスやハーブ類等の香味成分等を添加してもよい。
【0033】
その後、該マイシェを徐々に昇温して所定の温度で一定期間保持することにより、麦芽由来の酵素やマイシェに添加した酵素を利用して、澱粉質を糖化させる。糖化処理時の温度や時間は、用いる酵素の種類やマイシェの量、目的とする麦芽アルコール飲料の品質等を考慮して、適宜決定することができ、例えば、60〜72℃にて30〜90分間保持することにより行うことができる。糖化処理後、76〜78℃で10分間程度保持した後、マイシェを麦汁濾過槽にて濾過することにより、透明な糖液を得る。
【0034】
上記副原料とは、麦芽とホップ以外の原料を意味する。該副原料として、例えば、大麦、小麦、コーンスターチ、コーングリッツ、米、こうりゃん等の澱粉原料や、液糖や砂糖等の糖質原料がある。ここで、液糖とは、澱粉質を酸又は糖化酵素により分解、糖化して製造されたものであり、主にグルコース、マルトース、マルトトリオース等が含まれている。その他、香味を付与又は改善することを目的として用いられるスパイス類、ハーブ類、及び果物等も、副原料に含まれる。
【0035】
上記糖化酵素とは、澱粉質を分解して糖を生成する酵素を意味する。該糖化酵素として、例えば、α−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルナラーゼ等がある。
【0036】
糖化に供される穀類は麦芽を含む。糖化に供される穀類中の麦芽の含有量は、特に限定されないが、25重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは67重量%以上である。糖化に供される穀類は麦芽100%であってもよい。穀類中の麦芽の含有量が多いほど、得られる麦汁の麦芽由来の旨味やコク感が強くなる。また、穀類中の麦芽の含有量が多いほど得られる麦汁中の窒素化合物の含有量が多くなり、麦汁が発酵に供される場合に発酵不順、不快臭が発生し難くなる。
【0037】
糖液の煮沸は、ビールを製造する際に通常行われる方法及び条件に従って行えばよい。例えば、pHを調節した糖液を煮沸釜に移し、ホップを加えて煮沸する。ホップは、煮沸開始から煮沸終了前であればどの段階で加えてもよい。
【0038】
ホップの添加量は糖液中の濃度が0.0007〜5.6g/L、好ましくは0.01〜3.5g/L、より好ましくは0.2〜2.5g/L、更に好ましくは0.5〜1.5g/Lになる量である。ホップの添加量が0.0007g/L未満であるとホップによる香味がビールに付与されず、コク感を失うビールとなり、5.6g/Lを越えると渋味等のホップ由来の雑味が付与されすぎたビールとなる。
【0039】
糖液の煮沸時間は30分〜120分、好ましくは30分〜90分、より好ましくは60分〜90分である。糖液の煮沸時間が30分未満であると麦芽由来の不快な香気成分が蒸散せず、120分を越えると加熱により生成する焦げ臭や甘味が付与されるようになる。
【0040】
煮沸した糖液は、ワールプールと呼ばれる沈殿槽に移し、煮沸により生じたホップ粕や凝固した蛋白質等を除去した後、プレートクーラーにより適切な温度まで冷却する。
【0041】
冷却した糖液は、次いで、発酵させる。発酵は常法に従って行えばよい。例えば、冷却した糖液に酵母を接種して、発酵タンクに移し、発酵を行う。糖液に接種する酵母は、上述の手法により、目的に応じて選択された表層疎水度が低い種類のビール酵母又は表層疎水度が高い種類のビール酵母である。
【0042】
糖液に接種する酵母の量は使用する酵母の種類に依存して変化するが、糖液1ml当たり5×10〜50×10個、好ましくは10×10〜30×10個、より好ましくは15×10〜25×10個である。接種する酵母の量が糖液1ml当たり5×10個未満であると酵母が発酵せず、アルコールの生成が不十分に完了し、50×10個を越えると酵母の香りが付与される。
【0043】
発酵温度は使用する酵母の種類に依存して変化するが、20℃以下、好ましくは5〜15℃、より好ましくは9〜15℃である。発酵温度が20℃を越えると、使用する酵母の種類に依存して発酵が正常に進行しない場合がある。
【0044】
発酵期間は使用する酵母の種類に依存して変化するが、72時間〜480時間好ましくは96時間〜360時間、より好ましくは120時間〜240時間である。発酵期間が72時間未満であると、十分に発酵が完了せず、480時間を越えると、酵母の香りが付与されることになる。
となる。
【0045】
さらに、熟成工程として、得られた発酵液を、貯酒タンク中で熟成させ、0℃程度の低温条件下で貯蔵し安定化させる。次いで濾過工程として、熟成後の発酵液を濾過することにより酵母及びタンパク質等を除去して、目的のホップ由来の香り及び味が増減されたビールが得られる。
【実施例】
【0046】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0047】
ビール酵母を入手し、特開平9−271396号公報に記載の方法を使用してビール酵母の表層疎水度を測定した。結果を表1に示す。
【0048】
製麦工程として、収穫された大麦を、水に浸けて適度に発芽させた後、熱風により焙燥して、麦芽を製造した。該麦芽は常法により破砕した。次に、麦芽の破砕物40kg及び温水を仕込槽に加えて混合してマイシェを調製した。マイシェの調製は、50℃で90分間保持することにより行った。その後、該マイシェを徐々に昇温して所定の温度で一定期間保持することにより、麦芽由来の酵素を利用して、澱粉質を糖化させた。糖化処理時の温度や時間は、72℃にて30分間保持することにより行った。糖化処理後、78℃で10分間保持した後、マイシェを麦汁濾過槽にて濾過することにより、透明な糖液200Lを得た。
【0049】
得られた糖液は煮沸釜に移した。糖液にホップ160gを添加した。次いで、煮沸釜を加熱することにより、100℃で70分間麦汁煮沸を行った。下層に沈んだホップ粕を除去することで清澄な糖液を得た。
【0050】
得られた糖液を4℃まで冷却した。冷却した糖液5Lずつを、5L容の発酵タンクに移し、タンクに1gのホップを添加し、麦汁1mlあたり18×10個の泥状酵母を接種し、13.5℃で216時間発酵させた。得られた発酵液を遠心分離し、発酵液から酵母を除いた。酵母を除いた発酵液を、官能評価に供した。
【0051】
官能評価1
専門評価者7名が調製したビールを試飲し、苦渋味強度、及びホップ香強度を官能評価した。採点基準は、最も弱い場合の点数を−3、最も強い場合の点数を+3として、12段階刻みとした。7名の点数の平均値を評価値として採用した。評価結果を表1に示す。また、図1及び2に評価結果をグラフとして示す。
【0052】
[表1]
【0053】
評価結果に示されるように、ビールの苦味強度及びホップ香強度は、使用した酵母の表層疎水度と負の相関関係がある。従って、ビール酵母の表層疎水度を指標として用いてビール酵母の種類を選択することにより、ビールに付与されるホップ由来の香り及び味を増減することが可能である。
【0054】
官能評価2
同じ専門評価者7名が、酵母の表層疎水度12.9〜100までのビール計10点(酵母記号:AA、BA、CA、FA、GA、HA、NA、QA、XA、HB)を試飲し、「ホップ由来の香気、苦味、渋味が付与されており、それらがコク感にも寄与している」というコンセプトに適合しているか、官能評価した。採点基準は、全く適合しない場合の点数を−3、非常に適合する場合の点数を+3として、12段階刻みとした。7名の点数の平均値を評価値として採用した。図3に評価結果を示す。
【0055】
評価結果に示されるように、ビール酵母の表層疎水度が低いほど、コク感に寄与するホップ由来の香気、苦味、渋味の点数が高くなっている。従って、表層疎水度が低い種類のビール酵母を選択することにより、ビールに付与されるホップ由来の香り及び味、及びコク感を増大させることが可能である。
図1
図2
図3