特許第6034710号(P6034710)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6034710電線ヒューズ及び電線ヒューズの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6034710
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】電線ヒューズ及び電線ヒューズの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01H 85/11 20060101AFI20161121BHJP
   H01H 85/10 20060101ALI20161121BHJP
   H01H 69/02 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   H01H85/11
   H01H85/10
   H01H69/02
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-17218(P2013-17218)
(22)【出願日】2013年1月31日
(65)【公開番号】特開2014-149957(P2014-149957A)
(43)【公開日】2014年8月21日
【審査請求日】2015年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100105474
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 弘徳
(74)【代理人】
【識別番号】100177910
【弁理士】
【氏名又は名称】木津 正晴
(72)【発明者】
【氏名】岩田 匡司
【審査官】 澤崎 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−181445(JP,A)
【文献】 実開昭55−059455(JP,U)
【文献】 米国特許第01629266(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 85/10 − 85/11
H01H 69/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の素線を束ねた芯線を含む電線の長さ方向の両端に回路接続用の端子部が設けられ、
両端の前記端子部の間の前記芯線上に、外部から前記芯線を圧縮して断面積を前記芯線の他の部分より小さくした圧縮部が設けられ、
前記圧縮部の長さ方向の中央に、弱めの圧縮をすることで前記素線間の隙間を残した低圧縮部が設けられると共に、前記低圧縮部の両側に、前記低圧縮部よりも強めの圧縮をすることで前記素線間の隙間を極小にした高圧縮部が設けられ、
前記低圧縮部に、前記芯線よりも低融点の金属が溶着されることで、前記低融点の金属が前記素線間の隙間に保持されていることを特徴とする電線ヒューズ。
【請求項2】
多数の素線を束ねた芯線を含む電線の長さ方向の両端に回路接続用の端子部を設ける工程と、
両端の前記端子部の間に位置する前記芯線上に、外部から前記芯線を圧縮して断面積を前記芯線の他の部分より小さくした圧縮部を設け、その圧縮の際に、前記圧縮部の長さ方向の中央に、弱めの圧縮をすることで前記素線間の隙間を残した低圧縮部を設けると共に、前記低圧縮部の両側に、前記低圧縮部よりも強めの圧縮をすることで前記素線間の隙間を極小にした高圧縮部を設ける工程と、
前記低圧縮部に前記芯線より低融点の金属を溶着することで、前記低融点の金属を前記素線間の隙間に保持させる工程と、
を有することを特徴とする電線ヒューズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線に定格以上の電流が流れた際に、電線が溶断して通電を遮断する電線ヒューズ及び電線ヒューズの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電線に定格以上の電流(過電流)が流れた際に、電線が溶断して通電を遮断する電線ヒューズについて、様々な提案がなされている。
【0003】
例えば、電線の芯線の長手方向の中間部に、芯線の他の部分よりも断面積が小さく且つ全周囲が囲まれている窪み部を有するヒートスポット部(可溶部)を設け、前記窪み部の中に低融点金属を配置した電線ヒューズが、特許文献1に記載されている。
【0004】
この電線ヒューズに過電流が流れると、ヒートスポット部が芯線の他の部分よりもジュール発熱量が多くなるため、低融点金属が溶融し、溶融した低融点金属がヒートスポット部の中に拡散することで、ヒートスポット部の抵抗値が増加し、温度が上昇する。そして、ヒートスポット部は、もともとの抵抗値が他の部分よりも大きいため、低融点金属の拡散による抵抗値の増加と相まって、他の部分よりも大きく発熱し、ヒートスポット部の箇所で溶断して、通電を遮断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−181445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載の電線ヒューズでは、芯線の長手方向の中間部に窪み部を有するヒートスポット部を形成し、その窪み部の中に低融点金属を配置しているだけなので、低融点金属が溶融した際に芯線の隙間を通って拡散しやすく、低融点金属の拡散の範囲が安定しない上、溶融した際に低融点金属が飛び散ったり落下したりすることにより、低融点金属の容積が減る可能性もあるため、溶断特性がバラツキやすいという問題があった。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、バラツキを少なくして溶断特性の安定化を図ることのできる電線ヒューズ及び電線ヒューズの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 多数の素線を束ねた芯線を含む電線の長さ方向の両端に回路接続用の端子部が設けられ、
両端の前記端子部の間の前記芯線上に、外部から前記芯線を圧縮して断面積を前記芯線の他の部分より小さくした圧縮部が設けられ、
前記圧縮部の長さ方向の中央に、弱めの圧縮をすることで前記素線間の隙間を残した低圧縮部が設けられると共に、前記低圧縮部の両側に、前記低圧縮部よりも強めの圧縮をすることで前記素線間の隙間を極小にした高圧縮部が設けられ、
前記低圧縮部に、前記芯線よりも低融点の金属が溶着されることで、前記低融点の金属が前記素線間の隙間に保持されていることを特徴とする電線ヒューズ。
【0009】
(2) 多数の素線を束ねた芯線を含む電線の長さ方向の両端に回路接続用の端子部を設ける工程と、
両端の前記端子部の間に位置する前記芯線上に、外部から前記芯線を圧縮して断面積を前記芯線の他の部分より小さくした圧縮部を設け、その圧縮の際に、前記圧縮部の長さ方向の中央に、弱めの圧縮をすることで前記素線間の隙間を残した低圧縮部を設けると共に、前記低圧縮部の両側に、前記低圧縮部よりも強めの圧縮をすることで前記素線間の隙間を極小にした高圧縮部を設ける工程と、
前記低圧縮部に前記芯線より低融点の金属を溶着することで、前記低融点の金属を前記素線間の隙間に保持させる工程と、
を有することを特徴とする電線ヒューズの製造方法。
【0010】
上記(1)の構成の電線ヒューズによれば、低融点金属が素線間の隙間に保持された低圧縮部の両側に、素線間の隙間を極小とした高圧縮部が設けられているので、低融点金属が溶融した際に、低融点金属は高圧縮部の素線間には入り込まず、低圧縮部の外側に拡がらない。また、低圧縮部の素線間の隙間に低融点金属が入り込んでいるので、低融点金属が溶融した際にも、飛び散ったり落下したりするのを防ぐことができ、低融点金属の容積が減る可能性も少ない。そのため、溶断特性のバラツキが少なくなり、溶断特性が安定する。また、低圧縮部の素線が低融点金属で覆われた形になるので、クイックブロー特性(溶断時間の短縮)が得られる。
【0011】
上記(2)の構成の電線ヒューズの製造方法によれば、上記(1)の構成の電線ヒューズを簡単な工程で得ることができる。
【0012】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、溶断特性のバラツキを少なくして溶断特性の安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は本発明の一実施形態の電線ヒューズの製造工程を示す図で、図1(a)は電線の中間部の絶縁被覆を除去して芯線を露出させた状態を示す図、図1(b)は芯線の途中に圧縮部を設け、その圧縮部に低融点金属を保持させた状態を示す図、図1(c)は圧縮部の中の低圧縮部及び高圧縮部と圧縮しない芯線の断面積の違いを示す図である。
図2図2は前記圧縮部を形成する際に、圧縮部の中央に低圧縮部を設けると共に、その両側に高圧縮部を設ける工程を模式的に示す拡大断面図である。
図3図3は前記圧縮部の構成を示す拡大側面図である。
図4図4(a)は図3のIVa−IVa矢視拡大断面図、図4(b)は図3のIVb−IVb矢視拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照しながら説明する。
図1は一実施形態の電線ヒューズの製造工程を示す図で、図1(a)は電線の中間部の絶縁被覆を除去して芯線を露出させた状態を示す図、図1(b)は芯線の途中に圧縮部を設け、その圧縮部に低融点金属を保持させた状態を示す図、図1(c)は圧縮部の中の低圧縮部及び高圧縮部と圧縮しない芯線の断面積の違いを示す図である。
【0016】
図1(a)及び図1(b)に示すように、この電線ヒューズ1は、芯線23及び絶縁被覆21よりなる電線20と、電線20の長さ方向の両端に固定された回路接続用のLA端子(端子部)10と、芯線23の所定箇所に保持された低融点金属27(後述)と、からなる。この電線ヒューズ1は、両端のLA端子10を電源側と負荷側の回路にそれぞれ接続することで利用される。
【0017】
この電線ヒューズ1では、電線20の長さ方向の中央部の所定長さ範囲22の絶縁被覆21が除去されており、それにより露出した芯線23の長手方向の中央部に、外部から芯線23を圧縮して断面積を芯線23の他の部分より小さくした圧縮部24が設けられている。
【0018】
芯線23は、複数の銅又は銅合金よりなる素線26を撚って構成されており、ほぼ断面が円形状である。芯線23の長手方向の中央に設けられた圧縮部24は、他の箇所よりも断面積が小さいために、芯線23の他の箇所よりも比抵抗値が大きく、この圧縮部24で溶断を発生させるようになっている。
【0019】
図2は圧縮部を形成する際に、圧縮部の中央に低圧縮部を設けると共に、その両側に高圧縮部を設ける工程を模式的に示す拡大断面図、図3は圧縮部の構成を示す拡大側面図、図4(a)は図3のIVa−IVa矢視拡大断面図、図4(b)は図3のIVb−IVb矢視拡大断面図である。
【0020】
図2及び図3に示すように、前記圧縮部24には、その長さ方向の中央に、弱めの圧縮をすることで素線26間の隙間を残した低圧縮部24aが設けられると共に、低圧縮部24aの両側に、低圧縮部24aよりも強めの圧縮をすることで素線26間の隙間を極小にした高圧縮部24bが設けられている。
【0021】
圧縮部24は、図2に示すように、一対のボンダー電極101、102によって加熱成形する。一対のボンダー電極101、102には、ボンダー電極101、102間に挟んだ芯線23を弱めに圧縮する型面101a、102aと、強めに圧縮する型面101b、102bとが設けられている。一対のボンダー電極101、102に加圧力を加えながら通電して芯線23にジュール熱を発生させると、芯線23はジュール熱によって形状が潰され、一対のボンダー電極101、102の先端形状に倣って変形する。即ち、弱めに圧縮する型面101a、102aは芯線23に低い圧縮力を加え、強めに圧縮する型面101b、102bは芯線23に高い圧縮力を加え、それにより、素線間に隙間を残した低圧縮部24aと、素線間に隙間をほとんど残さない高圧縮部24bとが形成される。
【0022】
そして、この圧縮工程の途中あるいは圧縮を終えた後に、低圧縮部24aに芯線23よりも融点の低い低融点金属27(例えば、錫又は錫合金)を配置して、低融点金属27に熱を加えることで、低融点金属27を融解させる。融解した低融点金属27は、流体であるため、低圧縮部24aの隅々にまで流れて、素線26間の隙間を埋める。つまり、図4(a)に示すように、素線26間の隙間に充填された状態となる。この状態で低融点金属27を固化させることにより、低圧縮部24aに低融点金属27が溶着された状態で保持される。
【0023】
この際、図4(b)に示すように、高圧縮部24bには、素線26間に隙間がほとんどないため、低融点金属27が入り込んでいない。
【0024】
このように構成された電線ヒューズ1に定格以上の大電流が流れると、低融点金属27が素線26内に拡散し、これによって低圧縮部24aの抵抗値が増加し、温度が上昇する。そして、圧縮部24はもともとの抵抗値が芯線23の他の部分よりも大きいため、低融点金属27の拡散による抵抗増加と相まって他の部分よりも大きく発熱し、圧縮部24の箇所で確実に溶断する。
【0025】
その際、低融点金属27が素線26間の隙間に保持された低圧縮部24aの両側に、素線26間の隙間を極小とした高圧縮部24bが設けられているので、低融点金属27が溶融した際に、低融点金属27は高圧縮部24bの素線26間には入り込まず、低圧縮部24aの外側に拡がらない。また、低圧縮部24aの素線26間の隙間に低融点金属27が入り込んでいるので、低融点金属27が溶融した際にも、飛び散ったり落下したりするのを防ぐことができ、低融点金属27の容積が減る可能性も少ない。そのため、溶断特性のバラツキが少なくなり、溶断特性が安定する。また、低圧縮部24aの素線26が低融点金属27で覆われた形になるので、クイックブロー特性(溶断時間の短縮)が得られる。
【0026】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0027】
ここで、上述した本発明に係る電線ヒューズ及び電線ヒューズの製造方法の実施形態の特徴をそれぞれ以下[1]〜[2]に簡潔に纏めて列記する。
【0028】
[1] 多数の素線(26)を束ねた芯線(23)を含む電線(20)の長さ方向の両端に回路接続用の端子部(10)が設けられ、
両端の前記端子部(10)の間の前記芯線(23)上に、外部から前記芯線(23)を圧縮して断面積を前記芯線(23)の他の部分より小さくした圧縮部(24)が設けられ、
前記圧縮部(24)の長さ方向の中央に、弱めの圧縮をすることで前記素線(26)間の隙間を残した低圧縮部(24a)が設けられると共に、前記低圧縮部(24a)の両側に、前記低圧縮部(24a)よりも強めの圧縮をすることで前記素線(26)間の隙間を極小にした高圧縮部(24b)が設けられ、
前記低圧縮部(24a)に、前記芯線(23)よりも低融点の金属(27)が溶着されることで、前記低融点の金属が前記素線(26)間の隙間に保持されていることを特徴とする電線ヒューズ(1)。
【0029】
[2] 多数の素線(26)を束ねた芯線(23)を含む電線(20)の長さ方向の両端に回路接続用の端子部(10)を設ける工程と、
両端の前記端子部(10)の間に位置する前記芯線(23)上に、外部から前記芯線(23)を圧縮して断面積を前記芯線(23)の他の部分より小さくした圧縮部(24)を設け、その圧縮の際に、前記圧縮部(24)の長さ方向の中央に、弱めの圧縮をすることで前記素線(26)間の隙間を残した低圧縮部(24a)を設けると共に、前記低圧縮部(24a)の両側に、前記低圧縮部(24a)よりも強めの圧縮をすることで前記素線(26)間の隙間を極小にした高圧縮部(24b)を設ける工程と、
前記低圧縮部(24a)に前記芯線(23)より低融点の金属(27)を溶着することで、前記低融点の金属を前記素線(26)間の隙間に保持させる工程と、
を有することを特徴とする電線ヒューズ(1)の製造方法。
【符号の説明】
【0030】
1 電線ヒューズ
10 LA端子(端子部)
20 電線
23 芯線
24 圧縮部
24a 低圧縮部
24b 高圧縮部
26 素線
27 低融点金属
図1
図2
図3
図4