特許第6034812号(P6034812)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6034812
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】ブッシュ軸受の構造
(51)【国際特許分類】
   F16H 19/04 20060101AFI20161121BHJP
   B62D 3/12 20060101ALI20161121BHJP
   F16C 27/02 20060101ALI20161121BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20161121BHJP
   F16C 33/20 20060101ALI20161121BHJP
   F16C 35/02 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   F16H19/04 G
   B62D3/12 503A
   F16C27/02 Z
   F16C17/02 Z
   F16C33/20
   F16C35/02 C
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-10276(P2014-10276)
(22)【出願日】2014年1月23日
(65)【公開番号】特開2015-137721(P2015-137721A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2015年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000146010
【氏名又は名称】株式会社ショーワ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
(74)【代理人】
【識別番号】100111545
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 悦夫
(72)【発明者】
【氏名】財家 康弘
(72)【発明者】
【氏名】濱口 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】君島 力
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 達也
【審査官】 塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−040429(JP,A)
【文献】 特開2009−243653(JP,A)
【文献】 特開2005−178482(JP,A)
【文献】 特開2007−009962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 19/04
B62D 3/12
F16C 17/02
F16C 27/02
F16C 33/20
F16C 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に円周方向に沿う溝が形成されたブッシュと、前記ブッシュの溝に装着される無端環状弾性部材と、を備え、ギヤハウジングに対しラック軸を摺動自在に支承するブッシュ軸受の構造であって、
前記ブッシュの内周面は、ブッシュ軸心回り180°よりも大きな角度範囲にわたって形成され、ラック歯の形成位置と反対側のラック軸の外周面と摺接する第1内周面と、前記第1内周面よりも大径に形成され、ラック軸の外周面と隙間をもって対向する第2内周面と、を備え、
前記ブッシュの内周面および外周面と前記ギヤハウジングの内周面とは、ブッシュ軸心を中心とした円状に形成され、
前記溝は、ブッシュ軸心よりも前記第1内周面寄りに偏心した軸心を中心に形成されることにより、第1内周面の形成範囲の方が第2内周面の形成範囲よりも浅く形成され、
前記無端環状弾性部材は、前記ブッシュ軸受を前記ギヤハウジングに組み付ける前の状態では、前記ブッシュの外周面からの突出寸法について前記第2内周面側の方が前記第1内周面側よりも小さい状態であり、前記ブッシュ軸受を前記ギヤハウジングに組み付けた状態では、ラック歯の形成位置と反対側の方がラック歯の形成位置側よりも径方向の変形代が大きい状態で前記ギヤハウジングの内周面に密着されることを特徴とするブッシュ軸受の構造。
【請求項2】
前記ブッシュに、ブッシュ軸心方向に沿いブッシュ軸心方向端部において開口するスリットが形成され、
前記スリットは、ブッシュ軸心回り360°の範囲の内で第1内周面の形成範囲のみに配置されていることを特徴とする請求項1に記載のブッシュ軸受の構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブッシュ軸受の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ラックアンドピニオン式操舵装置において、ピニオンの歯に噛み合うラック歯を有したラック軸は、ギヤハウジングにブッシュ軸受を介して移動自在に支持される。ブッシュ軸受としては合成樹脂製のものが種々提案されているが、かかる合成樹脂製のブッシュ軸受は、通常、締め代をもってラック軸を移動自在に支持するようになっている。
【0003】
ブッシュ軸受において、支持するラック軸に対して締め代を大きくすると、ラック軸を径方向に関して所定の剛性をもって支持できるが、ラック軸をきつく締め付けることにより、摺動摩擦抵抗が大きくなり、ラック軸の摺動が悪くなる。逆に、支持するラック軸に対して締め代を小さくすると、ラック軸に対して摺動摩擦抵抗を小さくした良好な移動特性となるが、ラック軸に大きな心ずれやラック軸との間に隙間等が生じ易く、径方向の剛性支持が低下し、ラック軸の移動においてピニオンの歯とラック歯との間に打音(歯打ち音)が発生することにもなる。
【0004】
合成樹脂製のブッシュ軸受では、クリープ変形及び熱履歴に伴う合成樹脂の応力緩和によって、ラック軸との間に隙間が生じ、径方向の剛性支持が低下し、打音(歯打ち音)が発生する。また、合成樹脂の応力緩和によって特に径方向の収縮が生じる場合には、ラック軸に対する締め代が増加して摺動摩擦抵抗が大きくなる虞がある。また、ラック軸の全周を保持するブッシュの場合、ラック歯とブッシュとが干渉し、ブッシュが削られる虞がある。
【0005】
これに対し特許文献1には、凹面状又は平面状の内側内周面と、この内側内周面よりも径方向において外側に配された外側内周面と、内側内周面に対応する部位に設けられたスリットとを具備したブッシュ、およびこのブッシュの円周方向溝に装着された無端環状弾性部材からなるブッシュ軸受が開示されている。このブッシュ軸受は、無端環状弾性部材がブッシュの円周方向溝に装着されているために、径方向かつピニオンの歯から離れる方向に関してはラック軸を所定の剛性をもって支持でき、外乱によるラック軸のラック歯側とは反対側への変位を内側内周面で抑制できる。また、軸方向の移動に関しては低い摩擦抵抗をもって移動自在に支持でき、外側内周面がラック軸のラック歯側の外周面との間で隙間を形成することで、クリープ変形及び熱履歴に伴う応力緩和の影響を低減できる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−9962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の技術のように、合成樹脂製のブッシュ軸受においてラック軸のラック歯側とブッシュ内周面に隙間を設けた場合、ラック軸全体の強い締め付けを回避でき、低い摩擦抵抗をもって摺動自在に支持できる。また、ラック歯によりブッシュが削られる虞も解消される。しかし、隙間の範囲が180°以上であるため、ラック軸のラック歯側への外力に対してラック軸の位置ずれを規制できないため、ラック軸が隙間側に撓んで位置ずれし、ギヤハウジングに接触する虞がある。
また、特許文献1の技術は、ハウジングと無端環状弾性部材との間に隙間を設ける構造のため、その分、ギヤハウジングの内径が大きくなり、ギヤハウジングの大型化・重量増につながる。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するために創作されたものであり、ラック軸のラック歯形成側への位置ずれを抑制するとともに、ギヤハウジングの小型化が図れるブッシュ軸受の構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、外周面に円周方向に沿う溝が形成されたブッシュと、前記ブッシュの溝に装着される無端環状弾性部材と、を備え、ギヤハウジングに対しラック軸を摺動自在に支承するブッシュ軸受の構造であって、前記ブッシュの内周面は、ブッシュ軸心回り180°よりも大きな角度範囲にわたって形成され、ラック歯の形成位置と反対側のラック軸の外周面と摺接する第1内周面と、前記第1内周面よりも大径に形成され、ラック軸の外周面と隙間をもって対向する第2内周面と、を備え、前記ブッシュの内周面および外周面と前記ギヤハウジングの内周面とは、ブッシュ軸心を中心とした円状に形成され、前記溝は、ブッシュ軸心よりも前記第1内周面寄りに偏心した軸心を中心に形成されることにより、第1内周面の形成範囲の方が第2内周面の形成範囲よりも浅く形成され、前記無端環状弾性部材は、前記ブッシュ軸受を前記ギヤハウジングに組み付ける前の状態では、前記ブッシュの外周面からの突出寸法について前記第2内周面側の方が前記第1内周面側よりも小さい状態であり、前記ブッシュ軸受を前記ギヤハウジングに組み付けた状態では、ラック歯の形成位置と反対側の方がラック歯の形成位置側よりも径方向の変形代が大きい状態で前記ギヤハウジングの内周面に密着されることを特徴とする。
【0010】
このブッシュ軸受の構造によれば、ラック軸の外周面と接する第1内周面がブッシュ軸心回り180°よりも大きな角度範囲にわたって形成されるため、外力等を受けてラック軸が、隙間を隔てた第2内周面側に位置ずれすることがない。
無端環状弾性部材は、ラック歯の形成位置と反対側の方がラック歯の形成位置側よりも径方向の変形代が大きい状態となってギヤハウジングの内周面に密着されることから、ブッシュは第1内周面の形成範囲側の方が第2内周面の形成範囲側よりもギヤハウジングの内周面に強く押し付けられる。したがって、ギヤハウジングに対するブッシュの第1内周面の形成範囲の支持強度が高まり、ひいてはこの第1内周面に摺接するラック軸の支持強度を高めることができる。
第1内周面の形成範囲よりも隙間の寸法分だけ薄肉に形成された第2内周面の形成範囲においては溝の形成により強度が低下しやすいところ、第2内周面の形成範囲の溝が深く形成されることにより、第2内周面の形成範囲のブッシュの過度の変形を防止できる。
ラック歯と第2内周面との間に隙間が存在するため、ラック歯とブッシュとが干渉するおそれも解消される。
無端環状弾性部材がギヤハウジングの内周面に密着される構造のため、特許文献1のように無端環状弾性部材とギヤハウジングとの間に隙間が存在しなくなる。したがって、その分、ギヤハウジングを小型化でき、重量増加を抑えることができる。
【0011】
また、本発明は、前記ブッシュに、ブッシュ軸心方向に沿いブッシュ軸心方向端部において開口するスリットが形成され、前記スリットは、ブッシュ軸心回り360°の範囲の内で第1内周面の形成範囲のみに配置されていることを特徴とする。
【0012】
このブッシュ軸受の構造によれば、スリットを形成することで、その分、摺動面積が減るので、ラック軸の外周面と第1内周面との間に生じる摺動抵抗の低下および摺動音の抑制を図ることができる。スリットは、第1内周面の形成範囲のみに配置されるため、第1内周面よりも隙間の寸法分だけ薄肉に形成された第2内周面はスリットによる剛性低下の影響をさほど受けない。したがって、無端環状弾性部材の弾性変形力を受けることによる第2内周面の形成範囲でのブッシュの過度の変形を抑制できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ラック軸のラック歯形成側への位置ずれを抑制できるとともに、ギヤハウジングの小型化および重量増加の抑制が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のブッシュ軸受の外観斜視図である。
図2】本発明のブッシュの説明図であり、(a),(b)はそれぞれ正面図、側面図である。
図3】本発明のブッシュ軸受の断面図(無端環状弾性部材は仮想線にて示す)である。
図4】ギヤハウジングにブッシュ軸受を組み付けた状態の断面図である。
図5図4におけるA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係るブッシュ軸受の構造は、たとえば自動四輪車のラックアンドピニオン式操舵装置に適用される。ラックアンドピニオン装置は、運転者が操作する操舵ハンドルに連結したピニオン(図示せず)と、ピニオンの歯に噛合するラック歯1Aが形成されたラック軸1(図4)とを備える。ラック軸1の両端にはタイロッドを介して車輪(図示せず)が連結される。ブッシュ軸受2は、ギヤハウジング3に対しラック軸1を摺動自在に支承する機能を担う。
【0016】
図1および図2において、ブッシュ軸受2は、ブッシュ4と2本の無端環状弾性部材5とを備えて構成される。ブッシュ4はたとえば合成樹脂材により構成される。無端環状弾性部材5はたとえばゴム材からなるOリング等である。ブッシュ4は、両端が開口した円筒状部材であり、軸方向中央に形成される胴部4Aと、胴部4Aの一端に形成され胴部4Aよりも大きな外径を有する大径部4Bと、胴部4Aの他端に形成され胴部4Aよりも小さな外径を有する小径部4Cとから構成されている。胴部4A、大径部4B、小径部4Cの外周面はいずれもブッシュ4の軸心(ブッシュ軸心O)を中心として円状に形成されている。ブッシュ軸心Oは、ブッシュ軸受2がギヤハウジング3に組み込まれた際のラック軸1の軸心およびギヤハウジング3の内周面13A,13B(図4参照)の軸心と同じである。
【0017】
ブッシュ4の内周面は、ブッシュ軸心O回り180°よりも大きな角度範囲(角度θ1)にわたって形成され、ラック歯1Aの形成位置と反対側のラック軸1の外周面1Bと摺接する第1内周面6と、ラック歯1Aとの干渉を避けるために第1内周面6よりも大径に形成され、ラック軸1の外周面1Bと隙間c(図5参照)をもって対向する第2内周面7と、を備えている。第1内周面6および第2内周面7は共にブッシュ4の全長にわたりブッシュ軸心Oを中心とした円弧状に形成されている。また、第1内周面6の一端にはテーパ面8が形成され、第1内周面6および第2内周面7の各他端にはテーパ面9が形成されている。
【0018】
ブッシュ4には、ブッシュ軸心O方向に沿いブッシュ軸心O方向端部において開口するスリット10が径方向に貫通形成されている。本実施形態では、図3にも示すように、複数のスリット10(10A〜10G)が互いに円周方向に離間して形成されている。スリット10A〜10Dおよび10Gはブッシュ4の他端側(小径部4C側)に開口するように形成され、スリット10E,10Fはブッシュ4の一端側(大径部4B側)に開口するように形成される。
【0019】
図3において、スリット10A〜10Gはいずれもブッシュ軸心O回り360°の範囲の内で第1内周面6の形成範囲のみに配置されており、第2内周面7の形成範囲(角度θ2)には配置されていない(厳密に言えば一部のスリット10(スリット10Aおよびスリット10C)については第1内周面6と第2内周面7との境界部に配置されているが、本発明ではこの場合も第1内周面6の形成範囲に配置されたものとする)。スリット10A〜10Dは第2内周面7寄りに配置されており、スリット10A,10Bとスリット10C,10Dとはブッシュ軸心O方向から見て左右対称に配されている。スリット10E,10Fは第2内周面7から離れて配置されており、これらもブッシュ軸心O方向から見て互いに左右対称に配されている。スリット10Gは第2内周面7から最も離れて配置されている。スリット10A〜10D,10Gのスリット幅はブッシュ4の外周面から第1内周面6までにわたり一定であるが、スリット10E,10Fのスリット幅はブッシュ4の外周面から第1内周面6に向かうにしたがい次第に狭くなるように形成されている。
【0020】
第1内周面6には、図1および図3に示すように、ブッシュ軸心O方向に沿った浅溝11が適宜に凹設されている。この浅溝11により摺動面積が減ることとなり、ブッシュ4によるラック軸1の保持強度をさほど低下させることなく、ラック軸1の外周面1Bと第1内周面6との間に生じる摺動抵抗の低下および摺動音の抑制を図ることができる。
【0021】
図1および図2に示すように、ブッシュ4の大径部4Bには位置決め突部12が径外方向に向けて突設されている。図4に示すように、ギヤハウジング3の内周面は、ブッシュ4の胴部4Aおよび小径部4Cを収容する内周面13Aと、大径部4Bを収容する内周面13Bとを備えており、内周面13Bには、前記位置決め突部12が入り込む位置決め凹部14が凹設されている。また、第1内周面6の形成範囲(角度θ1)において、大径部4B寄りの胴部4Aの外周面15には、円周方向に沿う凹溝16が形成されている。当該凹溝16により大径部4B寄りの胴部4Aの肉部は薄肉として形成される。
【0022】
ブッシュ4の胴部4Aの外周面15には、無端環状弾性部材5を装着するための円周方向に沿う溝17が形成されている。本実施形態では溝17は2つ形成されている。溝17は、第1内周面6の形成範囲の方が第2内周面7の形成範囲よりも浅く形成されている。一例として、図3に示すように、溝17はその溝底17Aがブッシュ軸心Oよりも第1内周面6寄りに距離sだけ偏心した軸心O1を中心として形成されている。これにより、第1内周面6側における溝17の溝深さL1の方が第2内周面7側における溝17の溝深さL2よりも浅くなる。したがって、無端環状弾性部材5を溝17に装着した際には、第2内周面7側における胴部4Aの外周面15からの無端環状弾性部材5の突出寸法M2の方が第1内周面6側における胴部4Aの外周面15からの無端環状弾性部材5の突出寸法M1よりも小さい状態となる。
【0023】
「作用」
ギヤハウジング3に組み付ける前のブッシュ軸受2は、前記したように第2内周面7側における胴部4Aの外周面15からの無端環状弾性部材5の突出寸法M2の方が第1内周面6側における胴部4Aの外周面15からの無端環状弾性部材5の突出寸法M1よりも小さい状態である。つまり、無端環状弾性部材5は、弾性変形無しに軸心O1を中心として環状に位置している。
【0024】
ブッシュ軸受2をギヤハウジング3の内部に挿入するとき、無端環状弾性部材5とギヤハウジング3の内周面13Aとの間には抵抗が働くが、ブッシュ軸心O方向に沿いブッシュ軸心O方向端部において開口するスリット10が形成されていることで、このスリット10により円周方向に分断された胴部4Aが径内方向に撓み、ブッシュ軸受2はスムーズにギヤハウジング3の内部に挿入される。本実施形態では、図1図4に示す凹溝16によりブッシュ軸受2の一端側である大径部4B寄りの胴部4Aの肉部は薄肉となっているため、挿入先端側となるブッシュ軸受2の胴部4Aの他端側はこの薄肉部を略起点として径内方向に容易に撓むこととなる。したがって、ブッシュ軸受2はより一層スムーズにギヤハウジング3の内部に挿入される。
【0025】
そして、図4に示すように、ブッシュ4の位置決め突部12がギヤハウジング3の位置決め凹部14に入り込むことでブッシュ軸受2のブッシュ軸心O回りの位置決めがなされる。次いで、ブッシュ4の大径部4Bに当接するカバー部材18をギヤハウジング3に取り付けることで、ブッシュ軸受2のブッシュ軸心O方向の位置決めがなされる。ギヤハウジング3に対するカバー部材18の取り付け構造は特に限定されるものではなく、圧入方式、螺子方式、溶接等である。
【0026】
次いでラック軸1を、ラック歯1Aがブッシュ4の第2内周面7に対向するようにブッシュ軸受2の内部に挿通することで、ブッシュ軸受2およびラック軸1の組み付けが完了する。組み付け完了後においては、以下のような作用が生ずる。
【0027】
ラック軸1の外周面1Bと接する第1内周面6は、ブッシュ軸心O回り180°よりも大きな角度範囲(角度θ1)にわたって形成されているため、外力等を受けてラック軸1が、隙間cを隔てた第2内周面7側に位置ずれすることはない。角度θ1の値は、ラック歯1Aの歯元近傍あたりまで形成するなど、ラック歯1Aと干渉しない範囲内で最大の値に設定することが好ましい。
【0028】
組み付け前の状態で軸心O1を中心としていた無端環状弾性部材5は、組み付け後にはギヤハウジング3の内周面13Aと密着することにより弾性変形し、その外径はブッシュ軸心Oを中心とした位置に変わる。つまり、無端環状弾性部材5は、ラック歯1Aの形成位置と反対側の方がラック歯1Aの形成位置側よりも径方向の圧縮弾性変形代が大きい状態となってギヤハウジング3の内周面13Aに密着される。これにより、ブッシュ4は第1内周面6の形成範囲側の方が第2内周面7の形成範囲側よりもギヤハウジング3に強く押し付けられる。したがって、ギヤハウジング3に対するブッシュ4の第1内周面6の形成範囲の支持強度が高まり、ひいてはこの第1内周面6に摺接するラック軸1の支持強度を高めることができる。
【0029】
そして、無端環状弾性部材5が装着される溝17に関し、第1内周面6の形成範囲よりも隙間cの寸法分だけ薄肉に形成された第2内周面7の形成範囲においては溝17の形成により強度が低下しやすいところ、本発明は溝17の溝深さを深く形成したことにより、第2内周面7の形成範囲のブッシュ4の過度の変形を防止できる。
ラック歯1Aと第2内周面7との間に隙間cが存在するため、ラック歯1Aとブッシュ4とが干渉するおそれも解消される。
【0030】
スリット10は、第1内周面6の形成範囲のみに配置されているため、第1内周面6よりも隙間cの寸法分だけ薄肉に形成された第2内周面7は、スリット10による剛性低下の影響をさほど受けない。したがって、無端環状弾性部材5の弾性変形力を受けることによる第2内周面7の形成範囲でのブッシュ4の過度の変形を抑制できる。
【0031】
以上のように本発明によれば、ラック軸1と摺接する第1内周面6がブッシュ軸心O回り180°よりも大きな角度範囲にわたって形成されるため、外力等を受けることによるラック軸1の第2内周面7側への位置ずれを防止できる。また、無端環状弾性部材5がギヤハウジング3の内周面13Aに密着される構造のため、特許文献1のように無端環状弾性部材とギヤハウジングとの間に隙間が存在しない。したがって、その分、ギヤハウジング3を小型化でき、重量増加を抑えることができる。さらに、スリット10を形成することで、その分、摺動面積が減るので、ラック軸1の外周面1Bと第1内周面6との間に生じる摺動抵抗の低下および摺動音の抑制を図ることができる。
【0032】
以上、本発明の好適な実施形態を説明した。本発明は、図面に記載されたものに限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 ラック軸
1A ラック歯
2 ブッシュ軸受
3 ギヤハウジング
4 ブッシュ
5 無端環状弾性部材
6 第1内周面
7 第2内周面
10(10A〜10G) スリット
17 溝
θ1 第1内周面の形成範囲
θ2 第2内周面の形成範囲
図1
図2
図3
図4
図5