特許第6034823号(P6034823)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6034823-燃料供給装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6034823
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】燃料供給装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 37/00 20060101AFI20161121BHJP
   F02M 37/04 20060101ALI20161121BHJP
   F02M 33/00 20060101ALI20161121BHJP
   B01D 61/36 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   F02M37/00 341Z
   F02M37/00 301J
   F02M37/00 P
   F02M37/04 A
   F02M33/00 D
   B01D61/36
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-78669(P2014-78669)
(22)【出願日】2014年4月7日
(65)【公開番号】特開2015-200212(P2015-200212A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2016年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石光 健吾
(72)【発明者】
【氏名】尾田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】千嶋 啓之
(72)【発明者】
【氏名】工藤 洋嗣
【審査官】 堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−007135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 37/00−37/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原燃料を貯留する原燃料タンクと、
前記原燃料タンク内に設けられ、前記原燃料をオクタン価が高い成分を前記原燃料よりも多く含む高オクタン価燃料とオクタン価が低い成分を前記原燃料よりも多く含む低オクタン価燃料とに分離する分離器と、
前記原燃料タンク内に設けられ、前記分離器によって前記原燃料から分離された前記高オクタン価燃料を貯留する高オクタン価燃料タンクとを有し、
前記分離器は、分離膜によって区画された2つの部屋を有し、前記部屋の一方に供給される前記原燃料から浸透気化法によって気体の前記高オクタン価燃料を、前記分離膜を透過させて前記部屋の他方に捕集し、
前記原燃料タンク内に設けられ、前記分離器によって分離された気体の前記高オクタン価燃料を凝縮させる凝縮器を更に有することを特徴とする燃料供給装置。
【請求項2】
前記凝縮器は、前記高オクタン価燃料タンクよりも上方に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料供給装置。
【請求項3】
前記原燃料タンク内に設けられ、前記原燃料タンクから前記分離器に供給される前記原燃料を加熱する加熱器を更に有し、
前記凝縮器は、前記加熱器を通過する前の前記原燃料と前記高オクタン価燃料との間で熱交換させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の燃料供給装置。
【請求項4】
原燃料を貯留する原燃料タンクと、
前記原燃料タンク内に設けられ、前記原燃料をオクタン価が高い成分を前記原燃料よりも多く含む高オクタン価燃料とオクタン価が低い成分を前記原燃料よりも多く含む低オクタン価燃料とに分離する分離器と、
前記原燃料タンク内に設けられ、前記分離器によって前記原燃料から分離された前記高オクタン価燃料を貯留する高オクタン価燃料タンクとを有し、
前記原燃料タンクの壁部の内面に沿って設けられ、前記分離器を通過した前記低オクタン価燃料と前記壁部との間で熱交換させる熱交換器を更に有することを特徴とする燃料供給装置。
【請求項5】
前記熱交換器が設けられる前記壁部は、前記原燃料タンクの底壁部であることを特徴とする請求項4に記載の燃料供給装置。
【請求項6】
前記壁部の外面には、フィンが設けられていることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の燃料供給装置。
【請求項7】
原燃料を貯留する原燃料タンクと、
前記原燃料タンク内に設けられ、前記原燃料をオクタン価が高い成分を前記原燃料よりも多く含む高オクタン価燃料とオクタン価が低い成分を前記原燃料よりも多く含む低オクタン価燃料とに分離する分離器と、
前記原燃料タンク内に設けられ、前記分離器によって前記原燃料から分離された前記高オクタン価燃料を貯留する高オクタン価燃料タンクとを有し、
前記原燃料タンクは、当該原燃料タンクの上壁部を貫通する原燃料タンク開口と、前記原燃料タンク開口を開閉可能に閉塞するリッドとを有し、
前記高オクタン価燃料タンクは、当該高オクタン価燃料タンクの上壁部を貫通する高オクタン価燃料タンク開口を有し、
前記高オクタン価燃料タンク開口は、前記原燃料タンク開口と整合するように配置され、前記リッドによって開閉可能に閉塞されていることを特徴とする燃料供給装置。
【請求項8】
前記高オクタン価燃料タンク内の前記高オクタン価燃料を外部に供給するべく、前記高オクタン価燃料タンク内から前記リッドを通過して外部に延びる高オクタン価燃料供給管を更に有することを特徴とする請求項7に記載の燃料供給装置。
【請求項9】
前記高オクタン価燃料タンク内に配置され、前記高オクタン価燃料供給管を介して外部に前記高オクタン価燃料を圧送する高オクタン価燃料ポンプと、
前記高オクタン価燃料ポンプの信号線及び電源線を含み、前記高オクタン価燃料タンク内から前記リッドを通過して外部に延びるケーブルとを更に有することを特徴とする請求項8に記載の燃料供給装置。
【請求項10】
前記原燃料タンクから前記分離器に供給される前記原燃料を加熱するための高温媒体を流通させるべく、外部から前記リッドを通過して前記高オクタン価燃料タンク内又は前記原燃料タンク内に延びる高温媒体輸送管を更に有することを特徴とする請求項7〜請求項9のいずれか1つの項に記載の燃料供給装置。
【請求項11】
前記高オクタン価燃料タンクは、当該高オクタン価燃料タンク内の上部の気相部分と前記原燃料タンクの上部の気相部分とを連通する連通路を有することを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか1つの項に記載の燃料供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エタノール含有ガソリンのようなオクタン価が異なる成分を含有する原燃料を分離器によって、オクタン価が高い成分を原燃料よりも多く含む高オクタン価燃料と、オクタン価が低い成分を原燃料よりも多く含む低オクタン価燃料とに分離し、高オクタン価燃料及び低オクタン価燃料を選択的に内燃機関に供給する燃料供給装置が知られている(例えば、特許文献1)。燃料供給装置は、原燃料を貯留する原燃料タンクと、原燃料を加熱する加熱器と、加熱された原燃料を、分離膜を用いた浸透気化法によって高オクタン価燃料と低オクタン価燃料とに分離する分離器と、分離された各燃料をそれぞれ冷却する冷却器と、高オクタン価燃料を貯留する高オクタン価燃料タンクとを有する。この燃料供給装置は、内燃機関が高圧縮比で運転するときに、燃焼室に噴射する高オクタン価燃料の比率を高めることによってノッキングを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−208541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に係る燃料供給装置は、原燃料タンクに加え、分離器、加熱器、冷却器、及び高オクタン価燃料タンクを有するため、これらの各装置を自動車の車体に効率良く配置することが難しい。また、分離器、加熱器、冷却器、及びそれらを接続する継手を設けることによって、燃料蒸気の漏出対策を施さなければならない範囲が増加し、装置の複雑化及び高コスト化が生じるという問題がある。
【0005】
本発明は、以上の背景を鑑み、原燃料を高オクタン価燃料及び低オクタン価燃料に分離して供給する燃料供給装置において、構成要素をコンパクトに配置すると共に、燃料蒸気のシールを容易にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明の燃料供給装置(1)は、原燃料を貯留する原燃料タンク(2)と、前記原燃料タンク内に設けられ、前記原燃料をオクタン価が高い成分を前記原燃料よりも多く含む高オクタン価燃料とオクタン価が低い成分を前記原燃料よりも多く含む低オクタン価燃料とに分離する分離器(6)と、前記原燃料タンク内に設けられ、前記分離器によって前記原燃料から分離された前記高オクタン価燃料を貯留する高オクタン価燃料タンク(5)とを有することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、分離器及び高オクタン価燃料タンクが原燃料タンク内に配置されるため、原燃料タンクとは別に分離器及び高オクタン価燃料タンクを配置するスペースを自動車の車体に確保する必要がなくなる。そのため、従来の燃料タンクを配置するスペースに燃料供給装置を配置することができる。また、燃料供給装置は、分離器、高オクタン価燃料タンク、及び原燃料タンクが一体に組み合わされ、1つのユニットとして構成されるため、車体への組付作業が容易である。また、分離器及び高オクタン価燃料タンクが原燃料タンク内に配置されるため、分離器、高オクタン価燃料タンク、及びこれらを接続する継手から燃料蒸気が漏れたとしても、燃料蒸気は原燃料タンク内に留まり、外部に漏れることがない。すなわち、原燃料タンクを気密に構成することによって、分離器、高オクタン価燃料タンク、及びこれらを接続する継手を気密に構成する必要がなくなり、気密に構成する部材を少なくすることができる。
【0008】
また、上記発明において、前記分離器は、分離膜(6A)によって区画された2つの部屋(6B、6C)を有し、前記部屋の一方(6B)に供給される前記原燃料から浸透気化法によって気体の前記高オクタン価燃料を、前記分離膜を透過させて前記部屋の他方(6C)に捕集し、前記原燃料タンク内に設けられ、前記分離器によって分離された気体の前記高オクタン価燃料を凝縮させる凝縮器(7)を更に有するとよい。
【0009】
この構成によれば、凝縮器も原燃料タンク内に配置されているため、凝集器の配置スペースを車体に確保する必要がない。また、凝縮器及び凝縮器の継手を気密に構成する必要がなくなる。
【0010】
また、上記発明において、前記凝縮器は、前記高オクタン価燃料タンクよりも上方に配置されているとよい。
【0011】
この構成によれば、凝縮器において凝縮された高オクタン価燃料を、重力によって高オクタン価燃料タンクに移動させることができる。
【0012】
また、上記発明において、前記原燃料タンク内に設けられ、前記原燃料タンクから前記分離器に供給される前記原燃料を加熱する加熱器(17)を更に有し、前記凝縮器は、前記加熱器を通過する前の前記原燃料と前記高オクタン価燃料との間で熱交換させるとよい。
【0013】
この構成によれば、原燃料タンクに貯留された比較的温度が低い原燃料を凝縮器における冷却用の低温熱媒体として利用することによって、原燃料タンク内における凝縮器の冷却源を確保することができる。
【0014】
また、上記発明において、前記原燃料タンクの壁部(2D)の内面に沿って設けられ、前記分離器を通過した前記低オクタン価燃料と前記壁部との間で熱交換させる熱交換器(10)を更に有するとよい。
【0015】
この構成によれば、昇温された状態で分離器を通過した低オクタン価燃料は、外部に放熱することができる原燃料タンクの壁部と熱交換することによって冷却される。
【0016】
また、上記発明において、前記熱交換器が設けられる前記壁部は、前記原燃料タンクの底壁部(2D)であるとよい。
【0017】
この構成によれば、車両走行時の走行風によって原燃料タンクの底壁部は、原燃料タンクの他の壁部よりも冷却され易いため、熱交換器による低オクタン価燃料の冷却効果を高めることができる。
【0018】
また、上記発明において、前記壁部の外面には、フィン(41)が設けられているとよい。
【0019】
この構成によれば、壁部の冷却効果を高めることができ、熱交換器による低オクタン価燃料の冷却効果を高めることができる。
【0020】
また、上記発明において、前記原燃料タンクは、当該原燃料タンクの上壁部(2A)を貫通する原燃料タンク開口(51)と、前記原燃料タンク開口を開閉可能に閉塞するリッド(53)とを有し、前記高オクタン価燃料タンクは、当該高オクタン価燃料タンクの上壁部(5A)を貫通する高オクタン価燃料タンク開口(5D)を有し、前記高オクタン価燃料タンク開口は、前記原燃料タンク開口と整合するように配置され、前記リッドによって開閉可能に閉塞されているとよい。
【0021】
この構成によれば、リッドを開くことによって、高オクタン価燃料タンクの内部を開くことができる。
【0022】
また、上記発明において、前記高オクタン価燃料タンク内の前記高オクタン価燃料を外部に供給するべく、前記高オクタン価燃料タンク内から前記リッドを通過して外部に延びる高オクタン価燃料供給管(65)を更に有するとよい。
【0023】
この構成によれば、高オクタン価燃料供給管がリッドを通過するため、気密構造をリッドに集約することができ、気密構造にする範囲を小さくすることができる。
【0024】
また、上記発明において、前記高オクタン価燃料タンク内に配置され、前記高オクタン価燃料供給管を介して外部に前記高オクタン価燃料を圧送する高オクタン価燃料ポンプ(16)と、前記高オクタン価燃料ポンプの信号線及び電源線を含み、前記高オクタン価燃料タンク内から前記リッドを通過して外部に延びるケーブル(66)とを更に有するとよい。
【0025】
この構成によれば、ケーブルがリッドを通過するため、気密構造をリッドに集約することができ、気密構造にする範囲を小さくすることができる。
【0026】
また、上記発明において、前記原燃料タンクから前記分離器に供給される前記原燃料を加熱するための高温媒体を流通させるべく、外部から前記リッドを通過して前記高オクタン価燃料タンク内又は前記原燃料タンク内に延びる高温媒体輸送管(47)を更に有するとよい。
【0027】
この構成によれば、高温媒体輸送管がリッドを通過するため、気密構造をリッドに集約することができ、気密構造にする範囲を小さくすることができる。
【0028】
また、上記発明において、前記高オクタン価燃料タンクは、当該高オクタン価燃料タンク内の上部の気相部分と前記原燃料タンクの上部の気相部分とを連通する連通路(5B)を有するとよい。
【0029】
この構成によれば、高オクタン価燃料タンク及び原燃料タンクの気相部分が連通路を介して互いに連通するため、外部環境に燃料蒸気を放出することなく、高オクタン価燃料タンクの圧力変動を抑制することができる。また、高オクタン価燃料タンクから放出される燃料蒸気の外部放出を回避するためのパージシステムを新たに設ける必要が無い。
【発明の効果】
【0030】
以上の構成によれば、原燃料を高オクタン価燃料及び低オクタン価燃料に分離して供給する燃料供給装置において、構成要素をコンパクトに配置すると共に、燃料蒸気のシールを容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】実施形態に係る燃料供給装置の断面図
図2】一部変形実施形態に係る燃料供給装置の断面図
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して本発明に係る燃料供給装置の実施形態を説明する。本実施形態に係る燃料供給装置は、自動車に搭載され、同じく自動車に搭載された内燃機関に燃料を供給するものである。
【0033】
図1に示すように、燃料供給装置1は、原燃料を貯留する原燃料タンク2を有する。原燃料は、オクタン価が異なる成分を含む燃料であり、例えばエタノール等のアルコールがガソリンに混合された混合燃料(例えばエタノール含有ガソリン)である。
【0034】
原燃料タンク2の形状は、任意に設定することができる。本実施形態では、原燃料タンク2は、水平方向に延びた扁平形状に形成され、その上壁部2Aの幅方向における中央部に下方に向けて凹んだ凹部2Bを有する。原燃料タンク2が自動車に搭載された状態で、凹部2Bは幅方向における中央部に配置され、プロペラシャフト等の自動車の部品が内部に配置される。原燃料タンク2は、上壁部2Aに給油管2Cを有し、給油管2Cを介して外部から原燃料の補給が可能となっている。
【0035】
原燃料タンク2の内部には、高オクタン価燃料タンク5、分離器6、凝縮器7、バッファータンク8、第1熱交換器9及び第2熱交換器10、燃料循環ポンプ11、バキュームポンプ12、原燃料ポンプ13、及びこれらの各要素を支持する骨格部材である第1キャリア14が設けられている。高オクタン価燃料タンク5の内部には、高オクタン価燃料ポンプ16、第3熱交換器17、及びこれらの各要素を支持する骨格部材である第2キャリア18が設けられている。
【0036】
燃料循環ポンプ11は、原燃料タンク2内の底部に設けられ、原燃料タンク2内に貯留された原燃料を加圧し、分離器6に向けて圧送する。燃料循環ポンプ11と分離器6と接続する導管21の経路上には、燃料循環ポンプ11側から凝縮器7、第1熱交換器9、及び第3熱交換器17が順に配置されている。燃料循環ポンプ11から圧送される原燃料は、凝縮器7、第1熱交換器9、及び第3熱交換器17で熱交換することによって、原燃料タンク2内の底部に貯留されている原燃料よりも昇温された状態で分離器6に供給される。凝縮器7、第1熱交換器9、及び第3熱交換器17の詳細については後述する。
【0037】
分離器6は、透過気化法(パーベーパレーション:PV)に基づいて、オクタン価が高い成分を原燃料よりも多く含む高オクタン価燃料及びオクタン価が低い成分を原燃料よりも多く含む低オクタン価燃料とに原燃料を分離する装置である。分離器6は、原燃料中の高オクタン価成分を選択的に透過させる分離膜6Aと、分離膜6Aによって区画された第1室6B及び第2室6Cとを有する。分離膜6Aは、例えば孔のない高分子膜や分子レベルの微細孔を有する無機膜であり、原燃料から分離する成分に応じて適宜選択される。例えば、原燃料がエタノール含有ガソリンである場合、分離膜6Aはエタノール及び芳香族を選択的に通過させる膜を選択するとよい。
【0038】
燃料循環ポンプ11によって凝縮器7、第1熱交換器9、及び第3熱交換器17を経た高温高圧の原燃料は分離器6の第1室6Bに供給される。第2室6Cは、後述するバキュームポンプ12によって減圧される。これにより、第1室6Bに供給された原燃料中の高オクタン価成分は、気体となって分離膜6Aを透過し、第2室6Cに捕集される。そのため、第2室6Cの燃料は、オクタン価が高い成分を原燃料よりも多く含む高オクタン価燃料となる。一方、第1室6Bに供給された原燃料は、第1室6Bの出口側に進むほどオクタン価が高い成分が分離され、オクタン価が低い成分を原燃料よりも多く含む低オクタン価燃料となる。原燃料がエタノール含有ガソリンである場合、第2室6Cに捕集される高オクタン価燃料は主としてエタノールを含み、第1室6Bを通過する低オクタン価燃料はエタノール含有量(濃度)が低下したガソリンを含む。
【0039】
凝縮器7は、分離器6の第2室6Cと隣接して配置されていることが好ましい。本実施形態では、凝縮器7は分離器6と結合され、1つのユニットとして構成されている。凝縮器7では、第2室6Cから供給される気体の高オクタン価燃料と、燃料循環ポンプ11から供給される原燃料とが互いに混ざり合わない状態で熱交換を行う。この熱交換によって、気体の高オクタン価燃料は冷却されて凝縮し、原燃料は加熱される。
【0040】
凝縮器7は、導管22によって高オクタン価燃料タンク5に接続されている。導管22の経路上にはバッファータンク8が設けられている。凝縮器7は、バッファータンク8及び高オクタン価燃料タンク5よりも上方に配置され、バッファータンク8は高オクタン価燃料タンク5よりも上方に配置されている。詳細には、凝縮器7内の液面が、バッファータンク8の液面及び高オクタン価燃料タンク5の液面より上方に位置し、バッファータンク8の液面が高オクタン価燃料タンク5の液面より上方に位置するように、凝縮器7、バッファータンク8、及び高オクタン価燃料タンク5の位置関係が設定されている。また、分離器6は、バッファータンク8及び高オクタン価燃料タンク5よりも上方に配置されていることが好ましい。凝縮器7、バッファータンク8、及び高オクタン価燃料タンク5の位置関係によって、凝縮器7において液体となった高オクタン価燃料は、重力によってバッファータンク8に流れ、更にバッファータンク8から高オクタン価燃料タンク5に流れる。
【0041】
導管22の凝縮器7とバッファータンク8とを接続する部分には、凝縮器7からバッファータンク8に向う流体の流れのみを許容する第1一方向弁24が設けられている。また、導管22のバッファータンク8と高オクタン価燃料タンク5とを接続する部分には、バッファータンク8から高オクタン価燃料タンク5に向う流体の流れのみを許容する第2一方向弁25が設けられている。
【0042】
バキュームポンプ12の吸気口は、導管27を介してバッファータンク8の上部の気相部分に接続されている。バキュームポンプ12の排気口は、導管28を介して高オクタン価燃料タンク5の下部に接続されている。バキュームポンプ12が駆動すると、導管27、28を介してバッファータンク8の上部の気体が高オクタン価燃料タンク5に輸送され、バッファータンク8が減圧される。バッファータンク8が減圧されることによって、凝縮器7からバッファータンク8に向う流体の流れが促進され、第1一方向弁24が開かれ、バッファータンク8に連通する凝縮器7及び分離器6の第2室6Cが減圧される。このとき、バッファータンク8が減圧されることによって、第2一方向弁25は閉じられ、高オクタン価燃料タンク5は減圧されない。
【0043】
バキュームポンプ12とバッファータンク8とを連通する導管27は、分岐した枝管29を有する。枝管29の先端部は、原燃料タンク2の気相部分と連通している。本実施形態では、高オクタン価燃料タンク5の上壁部5Aに、高オクタン価燃料タンク5の内部の上部における気相部分と原燃料タンク2の上部の気相部分とを連通する連通管5Bが設けられており、枝管29は連通管5Bに接続され、連通管5Bを介して原燃料タンク2の気相部分と連通している。連通管5Bは、原燃料タンク2の上壁部2Aの内面に近接して配置される一端と、高オクタン価燃料タンク5の上壁部5Aの内面に近接して配置される他端とを有する。
【0044】
枝管29の経路上には電磁弁である開閉弁33が設けられている。開閉弁33は、バッファータンク8を減圧するときに閉じられる。開閉弁33が開くと、原燃料タンク2内の気体が連通管5B、枝管29及び導管27を介してバッファータンク8に流れ込み、バッファータンク8内の圧力は原燃料タンク2内の圧力と等しくなる。バッファータンク8内の液体の高オクタン価燃料を高オクタン価燃料タンク5に輸送するときには、バキュームポンプ12を停止すると共に、開閉弁33を開くことによって、バッファータンク8内の減圧が解除され、重力によって高オクタン価燃料がバッファータンク8から高オクタン価燃料タンク5側に流れ、第2一方向弁25が開く。
【0045】
分離器6の第1室6Bの出口は、導管34を介して原燃料タンク2内の空間の下部に連通している。導管34の経路上には、分離器6側から第1熱交換器9、第2熱交換器10、ストレーナ36、及び圧力調整弁37が順に設けられている。
【0046】
第1熱交換器9は、燃料循環ポンプ11から分離器6に供給される比較的温度が低い原燃料と、分離器6を通過した比較的温度が高い低オクタン価燃料とを、混ざり合わない状態で熱交換させる装置である。第1熱交換器9は、公知の対向流式の熱交換器であってよい。第1熱交換器9での熱交換によって、燃料循環ポンプ11から分離器6に供給される原燃料は加熱され、分離器6を通過した低オクタン価燃料は冷却される。
【0047】
第2熱交換器10は、分離器6を通過した比較的温度が高い低オクタン価燃料が通過する内部空間と、原燃料タンク2の壁部の内面に接触する外面とを有し、低オクタン価燃料と原燃料タンク2との壁部との間で熱交換を行う。本実施形態では、第2熱交換器10は、扁平なシート状に形成され、原燃料タンク2の底壁部2Dの内面と接触するように配置されている。第2熱交換器10は、底壁部2Dとの接触面積を広く確保するために、底壁部2Dの内面の広範囲にわたって延在している。
【0048】
原燃料タンク2の底壁部2Dの外面には複数のフィン41が設けられている。フィン41は、底壁部2Dの外表面を拡張し、底壁部2Dの空冷による放熱を促進する。フィン41は、例えばひだ状(波形)に形成されたコルゲートフィンであってよい。原燃料タンク2の底壁部2Dは、燃料供給装置1が搭載される自動車の走行風によって冷却が促進される。
【0049】
原燃料タンク2の底壁部2Dの外面には、ファン42が設けられている。ファン42は、底壁部2Dの外面に向けて空気を供給し、底壁部2Dの強制冷却を行う。他の実施形態では、ファン42は、原燃料タンク2に代えて、自動車を構成する車体骨格や他の装置に支持されてもよい。
【0050】
本実施形態では、第1熱交換器9は、扁平なシート状に形成され、第2熱交換器10の上面に重ねて配置されている。第1熱交換器9及び第2熱交換器10は、互いに結合され、1つのユニットとして構成されている。
【0051】
第2熱交換器10を通過した低オクタン価燃料は、ストレーナ36を通過して異物が取り除かれた後、圧力調整弁37を通過して原燃料タンク2内の底部に放出され、原燃料と混合される。低オクタン価燃料が原燃料に混合されることによって、原燃料タンク2内の燃料のオクタン価は低下する。分離のサイクルが進む(分離器6を通過する原燃料の総量が増加する)と、原燃料タンク2内の燃料のオクタン価は低下し、低オクタン価燃料の成分に近付く。圧力調整弁37は、燃料循環ポンプ11から圧力調整弁37に到る経路内の原燃料及び低オクタン価燃料の圧力を調整し、分離器6の第1室6Bの原燃料の圧力を所定の圧力に維持する。具体的には、圧力調整弁37は、燃料循環ポンプ11によって昇圧される原燃料(低オクタン価燃料)が所定の圧力以上になる場合に、原燃料(低オクタン価燃料)を原燃料タンク2内に放出し、圧力を所定値に維持する。
【0052】
第3熱交換器17は、燃料循環ポンプ11から分離器6に圧送される原燃料と、原燃料タンク2の外部から供給される高温熱媒体とを混ざり合わない状態で熱交換する装置であり、原燃料を加熱する加熱器として使用される。第3熱交換器17は、公知の対向流式の熱交換器であってよい。第3熱交換器17に供給される高温熱媒体は、例えば内燃機関45を通過することによって昇温される冷却水や、内燃機関45やトランスミッションを通過することによって昇温される潤滑油、オートマチックフルード、内燃機関45の排気ガスと熱交換することによって昇温された液体や、排気ガス等であってよい。本実施形態における高温熱媒体は内燃機関45の冷却水であり、内燃機関45の冷却水通路46と連通する媒体輸送管47が第3熱交換器17に接続されている。
【0053】
原燃料タンク2は、上壁部2Aを厚み方向に貫通する第1開口50及び第2開口51を有する。第1開口50は第1リッド52によって、第2開口51は第2リッド53によって開閉可能に気密に閉塞される。
【0054】
高オクタン価燃料タンク5は、水平方向に延びる扁平形を呈し、凹部2Bの下方に配置されると共に、第1熱交換器9及び第2熱交換器10の上方に配置される。高オクタン価燃料タンク5の上壁部5Aには、筒状に上方に延出し、第1開口50に連通する通路を形成する通路壁部5Cが設けられている。通路壁部5Cの上端開口5Dは、第2開口51と整合するように配置されている。これにより、第2リッド53を開くと、原燃料タンク2の外部と高オクタン価燃料タンク5の内部とが連通する。通路壁部5Cの上端開口5Dの縁部と第1開口50の縁部との間は、気密にシールされている必要はなく、隙間が存在してもよい。
【0055】
第1リッド52には、原燃料ポンプ13と内燃機関45の第1インジェクタ55とを接続する第1燃料ライン56、原燃料ポンプ13の信号線及び電源線を含む第1ケーブル束57、原燃料タンク2の上部の気相部分と給油管2Cの上流端部とを接続するブリーザパイプ58、及び原燃料タンク2の上部の気相部分とキャニスタ59とを接続するベーパ管60が貫通している。第1燃料ライン56、第1ケーブル束57、ブリーザパイプ58、及びベーパ管60が第1リッド52を貫通する部分は、気密にシールされている。
【0056】
ブリーザパイプ58は、給油管2Cを通して給油を行うときに、原燃料タンク2内の気体を給油管2Cに逃がし、原燃料の原燃料タンク2への流入を促進する。ベーパ管60は、原燃料タンク2内の燃料蒸気をキャニスタ59に逃がし、原燃料タンク2内の圧力を大気圧に維持する。キャニスタ59に送られた燃料蒸気は、キャニスタ59内の活性炭に吸蔵される。キャニスタ59に吸蔵された燃料は、内燃機関45の運転時に吸気通路61の負圧を受けて吸い込まれ、燃焼室において燃焼される。ベーパ管60の原燃料タンク2内における端部には、フロート弁62が設けられている。フロート弁62は、原燃料タンク2内の原燃料の液位に応じて開閉し、ベーパ管60への液体燃料の流入を防止する。
【0057】
第2リッド53には、高オクタン価燃料ポンプ16と内燃機関45の第2インジェクタ64とを接続する第2燃料ライン65、高オクタン価燃料ポンプ16の信号線及び電源線を含む第2ケーブル束66、第3熱交換器17に高温熱媒体を循環させるための媒体輸送管47が貫通している。第2燃料ライン65、第2ケーブル束66、及び媒体輸送管47が第2リッド53を貫通する部分は、気密にシールされている。媒体輸送管47は、内燃機関45のウォータジャケットを含む冷却水通路46に接続されており、比較的高温の水が流通する。
【0058】
第2インジェクタ64は例えば吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射型インジェクタであり、第1インジェクタ55は例えば燃焼室に燃料を噴射する直噴型インジェクタであってよい。第2燃料供給ラインの第2リッド53よりも第2インジェクタ64側の部分には、燃料中の異物を捕集するストレーナ68が配置されている。
【0059】
第2ケーブル束66は、開閉弁33への信号線や、燃料循環ポンプ11の信号線及び電源線、バキュームポンプ12の信号線及び電源線、原燃料ポンプ13の信号線及び電源線を含むことができる。この場合、第2ケーブル束66は、高オクタン価燃料タンク5内から連通管5Bを通過して原燃料タンク2内に延びるとよい。
【0060】
原燃料タンク2内に配置される、燃料循環ポンプ11、分離器6、第1一方向弁24、バッファータンク8、バキュームポンプ12、開閉弁33、第2一方向弁25、高オクタン価燃料ポンプ16、第1熱交換器9、第2熱交換器10、ストレーナ36、圧力調整弁37、原燃料ポンプ13、及びフロート弁62は、骨格部材としての第1キャリア14に組みつけられ、第1組立体を構成する。第1キャリア14は原燃料タンク2の内面と係合することによって、原燃料タンク2に対する相対位置が定められている。第1組立体を構成する各装置は、第1キャリア14に組み付けられることによって、それぞれの相対位置、及び原燃料タンク2に対する位置が定められている。
【0061】
高オクタン価燃料タンク5内に配置される、第3熱交換器17及び高オクタン価燃料ポンプ16は骨格部材として第2キャリア18に組み付けられ、第2組立体を構成する。第2キャリア18は高オクタン価燃料タンク5の内面と係合することによって、高オクタン価燃料タンク5に対する相対位置が定められている。第2組立体を構成する各装置は、第2キャリア18に組み付けられることによって、それぞれの相対位置、及び高オクタン価燃料タンク5に対する位置が定められている。
【0062】
上記した燃料供給装置1の製造方法の一例を以下に説明する。最初に、第3熱交換器17及び高オクタン価燃料ポンプ16を第2キャリア18に組み付け第2組立体を形成する。このとき、第2組立体を構成する各装置に付随する導管及び配線も適宜接続する。そして、第2組立体を挟むように2枚のパリソンを配置し、かつ2枚のパリソンを金型内に配置してブロー成形を行い、高オクタン価燃料タンク5を成形する。これにより、第2組立体を内部に備えた高オクタン価燃料タンク5が形成される。
【0063】
次に、高オクタン価燃料タンク5を含む各装置を第1キャリア14に組み付けて第1組立体を形成する。このとき、第1組立体を構成する各装置に付随する導管及び配線も適宜接続する。そして、第1組立体を挟むように2枚のパリソンを配置し、かつ2枚のパリソンを金型内に配置してブロー成形を行い、原燃料タンク2を成形する。これにより、第1組立体を内部に備えた原燃料タンク2が形成される。
【0064】
次に、第1燃料ライン56、第1ケーブル束57、ブリーザパイプ58、及びベーパ管60が第1リッド52を貫通するように配置し、それぞれが第1リッド52を貫通する部分に気密シールを施す。また、第2燃料ライン65、第2ケーブル束66、及び媒体輸送管47が第2リッド53を貫通するように配置し、それぞれが第2リッド53を貫通する部分に気密シールを施す。そして、第1リッド52を第1開口50に取り付け、第2リッド53を第2開口51に取り付ける。これにより、燃料供給装置1が構成される。
【0065】
上記の製造方法では、予め高オクタン価燃料ポンプ16を第2キャリア18に取り付け、原燃料ポンプ13を第1キャリア14に取り付ける構成としたが、高オクタン価燃料ポンプ16及び原燃料ポンプ13は、原燃料タンク2が成形された後に第1開口50及び第2開口51を通して高オクタン価燃料タンク5内及び原燃料タンク2に配置してもよい。
【0066】
また、上記の製造方法では、原燃料タンク2及び高オクタン価燃料タンク5を樹脂によって形成する例を示したが、他の実施形態では原燃料タンク2及び高オクタン価燃料タンク5を金属タンクとしてもよい。この場合には、各タンク2、5を2つ以上の部品から構成し、第1組立体及び第2組立体をそれぞれ内部に配置した後に、各タンク2、5を構成する部品を溶接等によって結合し、タンクを形成するとよい。
【0067】
以上のように構成した燃料供給装置1の作用及び効果について説明する。燃料供給装置1では、原燃料タンク2内の原燃料は、燃料循環ポンプ11によって加圧され、凝縮器7、第1熱交換器9、及び第3熱交換器17を順に通過して分離機の第1室6Bに送られる。このとき、原燃料は、凝縮器7において高温の高オクタン価燃料の気体と熱交換し、第1熱交換器9において分離器6を通過した高温の低オクタン価燃料と熱交換し、第3熱交換器17において高温熱媒体と熱交換することによって昇温される。
【0068】
分離器6の第2室6Cは、開閉弁33が閉じられた状態で、バキュームポンプ12が作動することによって減圧される。分離器6では、第2室6Cがバキュームポンプ12の吸引作用によって減圧されたときに、第1室6Bに供給された高温高圧の原燃料から高オクタン価燃料が気体となって分離膜6Aを通過して第2室6Cに捕集される。第2室6Cに捕集された気体の高オクタン価燃料は、凝縮器7に流れ、凝縮器7において燃料循環ポンプ11によって分離器6に送られる原燃料と熱交換し、冷却されて凝縮する。凝縮器7において凝縮した高オクタン価燃料は、重力によってバッファータンク8に流れ、貯留される。
【0069】
開閉弁33が閉じられ、かつバキュームポンプ12が作動いているときには、第2一方向弁25が閉じられるため、バッファータンク8に貯留された液体の高オクタン価燃料は高オクタン価燃料タンク5に流れることはできない。所定のタイミングで開閉弁33が開き、かつバキュームポンプ12が停止することによって、バッファータンク8の内部と原燃料タンク2の内部とが連通し、バッファータンク8の内部が大気圧になる。バッファータンク8内が大気圧になると、バッファータンク8内の高オクタン価燃料は、重力によって第2一方向弁25を開き、高オクタン価燃料タンク5内に流れる。このようにして、高オクタン価燃料が高オクタン価燃料タンク5に貯留される。原燃料がエタノール含有ガソリンである場合、高オクタン価燃料タンク5はエタノールを主として貯留するエタノールタンクといえる。
【0070】
分離器6の第1室6Bを通過した低オクタン価燃料は、第1熱交換器9において燃料循環ポンプ11によって分離器6に送られる原燃料と熱交換して冷却され、第2熱交換器10において原燃料タンク2の底壁部2Dと熱交換して冷却される。その後、低オクタン価燃料は、ストレーナ36及び圧力調整弁37を通過して原燃料タンク2内に放出され、原燃料タンク2内の原燃料と混合される。
【0071】
燃料供給装置1では、分離器6を通過する原燃料の総量が増加するにつれて、高オクタン価燃料タンク5に貯留される高オクタン価燃料の量が増加すると共に、原燃料中に含まれる低オクタン価燃料の比率が増大する。燃料循環ポンプ11、バキュームポンプ12及び開閉弁33の制御によって、分離器6を通過する原燃料の量を制御することができる。燃料循環ポンプ11、バキュームポンプ12及び開閉弁33は、高オクタン価燃料タンク5の液位、原燃料中の高オクタン価燃料の濃度、燃料循環ポンプ11の作動継続時間等に基づいて制御されるとよい。
【0072】
本実施形態に係る燃料供給装置1は、分離器6、高オクタン価燃料タンク5、第1熱交換器9、第2熱交換器10、第3熱交換器17、バッファータンク8、バキュームポンプ12が原燃料タンク2内に配置されるため、原燃料タンク2とは別にこれらの装置を配置するスペースを自動車の車体に確保する必要がない。そのため、従来の燃料タンクを配置するスペースに燃料供給装置1を配置することができる。また、燃料供給装置1は、分離器6及び高オクタン価燃料タンク5等を含む各装置と、原燃料タンク2とが一体に組み合わされて1ユニットを構成するため、車体への組付作業が容易である。
【0073】
また、分離器6及び高オクタン価燃料タンク5等の各装置が原燃料タンク2内に配置されるため、分離器6及び高オクタン価燃料タンク5等を含む各装置と、これらの各装置を接続する継手から燃料蒸気が漏れたとしても、燃料蒸気は原燃料タンク2内に留まり、外部に漏れることがない。すなわち、原燃料タンク2を気密に構成することによって、分離器6、高オクタン価燃料タンク5、及びこれらを接続する継手を気密に構成する必要がなくなり、気密に構成する部材を少なくすることができる。
【0074】
凝縮器7及び第1熱交換器9では、原燃料タンク2内に存在する原燃料を冷却用の低温熱媒体として使用するため、低温熱媒体を外部から原燃料タンク2内に引き込む構成を省略することができ、燃料蒸気のシール構造を簡素にすることができる。また、原燃料に注目すると、分離器6に供給する前の原燃料は、原燃料タンク2内に存在する気体の高オクタン価燃料及び高温となった低オクタン価燃料を加熱用の高温熱媒体として使用することができる。
【0075】
第2熱交換器10では、第1熱交換器9において冷却された低オクタン価燃料を、原燃料タンク2の底壁部2Dと熱交換させることによって一層冷却することができる。原燃料タンク2の底壁部2Dは、自動車の走行時に走行風を受けて原燃料タンク2の他の壁部よりも冷却され易いため、第2熱交換器10における低オクタン価燃料の冷却効果を高めることができる。また、底壁部2Dの外面に設けたフィン41や、強制冷却を行うファン42によって底壁部2Dの冷却が促進され、低オクタン価燃料の冷却効果が一層高められる。
【0076】
本実施形態に係る燃料供給装置1は、原燃料タンク2の内外を延びる第1燃料ライン56、第1ケーブル束57、ブリーザパイプ58、及びベーパ管60が貫通する部分を第1リッド52に集約し、第2燃料ライン65、第2ケーブル束66、及び媒体輸送管47が貫通する部分を第2リッド53に集約したため、燃料蒸気のシール構造を簡素かつ確実にすることができる。
【0077】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、上記実施形態では、第3熱交換器17を高オクタン価燃料タンク5内に配置する構成としたが、他の実施形態では第3熱交換器17は原燃料タンク2内の高オクタン価燃料タンク5外に配置してもよい。この場合には、媒体輸送管47が第2リッド53を通過して高オクタン価燃料タンク5内に延びた後、連通管5Bを通過して原燃料タンク2内に延びるようにしてもよい。また、媒体輸送管47が第1リッド52を通過して原燃料タンク2内に延びるようにしてもよい。
【0078】
また、上記実施形態では第2キャリア18を高オクタン価燃料タンク5内に設け、第2キャリア18に第3熱交換器17及び高オクタン価燃料ポンプ16を支持させる構成としたが、第2キャリア18は省略してもよい。この場合には、高オクタン価燃料タンク5の壁部内面に第3熱交換器17及び高オクタン価燃料ポンプ16を係止させ、位置を固定するとよい。
【0079】
上記実施形態では、原燃料タンク2に第1開口50及び第2開口51を形成し、それぞれ第1リッド52及び第2リッド53で閉塞するようにしたが、図2に示すように、第2開口51及び第2リッド53を省略し、1つの第1開口50を拡張するようにしてもよい。この場合には、高オクタン価燃料タンク5の通路壁部5Cの上端開口5Dが第1開口50と重なるように配置し、第1リッド52を開くと原燃料タンク2の外部と高オクタン価燃料タンク5の内部とが連通するようにするとよい。そして、第2燃料ライン65、第2ケーブル束66、及び媒体輸送管47が第1リッド52を通過するように配置するとよい。これにより、燃料蒸気のシール構造が必要となる箇所が第1リッド52に集約され、燃料蒸気のシール構造が一層簡素かつ確実になる。
【0080】
また、上記実施形態では分離器6として、分離膜6Aを利用した透過気化法による分離器を採用したが、他の実施形態では様々な分離器を採用することができる。分離器には、例えば、改質触媒を使用してガソリンからアルコールを改質して分離する分離器を採用してもよい。
【符号の説明】
【0081】
1...燃料供給装置、2...原燃料タンク、2A...上壁部、2D...底壁部、5...高オクタン価燃料タンク、5A...上壁部、5B...連通管、5C...通路壁部、5D...上端開口(高オクタン価燃料タンク開口)、6...分離器、6A...分離膜、6B...第1室、6C...第2室、7...凝縮器、8...バッファータンク、9...第1熱交換器、10...第2熱交換器、11...燃料循環ポンプ、12...バキュームポンプ、13...原燃料ポンプ、14...第1キャリア、16...高オクタン価燃料ポンプ、17...第3熱交換器、18...第2キャリア、33...開閉弁、37...圧力調整弁、41...フィン、42...ファン、45...内燃機関、46...冷却水通路、47...媒体輸送管(高温媒体輸送管)、50...第1開口、51...第2開口(原燃料タンク開口)、52...第1リッド、53...第2リッド、56...第1燃料ライン、57...第1ケーブル束、58...ブリーザパイプ、60...ベーパ管、64...第2インジェクタ、65...第2燃料ライン(高オクタン価燃料供給管)、66...第2ケーブル束
図1
図2