【実施例】
【0026】
(実施例1)界面活性剤とアルカリ処理の組み合わせ検討
(a)試料
原料果実として日本産の巨峰、界面活性剤としてエマルジーMS(理研ビタミン株式会社、グリセリン脂肪酸エステル型)、アルカリ剤として水酸化ナトリウム(和光純薬工業株式会社、特級)を用いた。
(b)方法
表1に示す試験区にて検討を行った。巨峰果実は房および果軸から脱離したのち水道水で洗浄した。界面活性剤水溶液は予め加温した水道水に1.0重量%の濃度でエマルジーMSを溶解し液温45℃で1.0 L調製した。この界面活性剤水溶液に洗浄した巨峰果実を1試験区につき6果粒(約60 g)入れ、45℃下で60分間反応させた。水酸化ナトリウム水溶液1.0 Lを表1に示した各濃度(0.00重量%、0.01重量%、0.10重量%、0.25重量%、および1.00重量%)で調製し95℃以上に沸騰させたのち、界面活性剤処理後の巨峰果粒を30秒間ないし60秒間浸漬した。浸漬後に表2に示す評価基準で、果皮実離れの様態および果皮が容易に剥皮できた果肉の果肉品質検証を行った。果皮実離れの検証は、果皮が果粒周囲の半周以上に大きく開裂した巨峰果粒の数および流水下での手作業による剥皮の容易さを評価した。
(c)結果
表1に結果を示す。表1中、「果皮の実離れ」および「果肉品質」の欄の◎、○、△、×の評価基準を表2に示す。アルカリ処理単独では、巨峰果実の果肉品質を良好に保持したまま果皮の剥皮が容易になることはなかった(表1:A〜J区)。界面活性剤処理は、単独では巨峰果実の剥皮易化効果は見られない(表1:KおよびL区)が、アルカリ処理と組み合わせることで果皮の開裂を大きくする効果が示された(表1:D区とN区、F区とP区のそれぞれの比較)。沸騰アルカリ処理の条件は、濃度が0.01重量%以上0.25重量%未満で、時間は30秒間以上であることが、果肉品質を保持したまま剥皮しやすくなるものと考えられた。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
(実施例2)界面活性剤の種類検討
(a)試料
原料果実として日本産の巨峰、界面活性剤として表3に示す10種類を用いた。ポエムDL-100、ポエムJ-0381V、リケマールPS-100、リケマールPO-100V、リケマールPP-100、およびリケマールPB-100は理研ビタミン株式会社、リョートー(登録商標)ポリグリエステルCE-19Dおよびリョートー(登録商標)シュガーエステルLWA-1570は三菱化学フーズ株式会社、SLPホワイトリゾは辻製油株式会社、カオーホモテックスPS-200Vは花王株式会社の製品を用いた。アルカリ剤として水酸化ナトリウム(和光純薬工業株式会社、特級)を用いた。
(b)方法
巨峰果実は房および果軸から脱離したのち水道水で洗浄した。界面活性剤水溶液は表3に示す各種類を予め加温した水道水に1.0重量%の濃度で溶解し液温45℃で400 mL調製した。これら界面活性剤水溶液に洗浄した巨峰果実を1試験区につき8果粒(約80 g)入れ、45℃で60分間反応させた。水酸化ナトリウム水溶液1.0 Lを0.10重量%濃度で調製し95℃以上に沸騰させたのち、界面活性剤処理後の巨峰果粒を60秒間浸漬した。果皮が果粒周囲の半周以上に大きく開裂した割合(果皮開裂率)、および流水下での手作業による果皮の実離れ様態を表4に示す評価基準で評価した。
(c)結果
結果を表3に示す。界面活性剤がグリセリン脂肪酸エステルおよびレシチンの場合、果皮開裂率が75%以上でかつ果皮の実離れ様態の効率化が見られた(表3:A〜D区、
図1)。一方で、ショ糖脂肪酸エステル型およびプロピレングリコール脂肪酸エステル型の界面活性剤では、アルカリ処理後の果皮開裂率は50%以下で、開裂した果粒についても果皮の実離れ様態は非処理のものと大差なかった(表3:E〜J区)。以上より、界面活性剤はグリセリン脂肪酸エステルおよびレシチンが適することが示された。
【0030】
【表3】
【0031】
【表4】
【0032】
(実施例3)アルカリ剤の種類検討
(a)試料
原料果実として日本産の巨峰、界面活性剤としてポエムDL-100(理研ビタミン株式会社)を用いた。アルカリ剤として水酸化ナトリウム(和光純薬工業株式会社、食品添加物用途)および重曹(炭酸水素ナトリウム)(和光純薬工業株式会社、食品添加物用途)を用いた。
(b)方法
巨峰果実は房および果軸から脱離したのち水道水で洗浄した。界面活性剤水溶液は予め加温した水道水に1.0重量%の濃度でポエムDL-100を溶解し液温45℃で400 mL調製した。これら界面活性剤水溶液に洗浄した巨峰果実を1試験区につき8果粒(約80g)入れ、45℃で60分間反応させた。水酸化ナトリウム水溶液および重曹(炭酸水素ナトリウム)水溶液1.0 Lを0.10重量%濃度で調製し95℃以上に沸騰させたのち、界面活性剤処理後の巨峰果粒をそれぞれ60秒間浸漬した。浸漬後に果皮が果粒周囲の半周以上に大きく開裂した割合(果皮開裂率)、および流水下での手作業による果皮の実離れ様態を実施例2の表4に示す評価基準で評価した。
(c)結果
界面活性剤としてグリセリン脂肪酸エステルで処理したのちに強アルカリ(pH12.7)である水酸化ナトリウム水溶液で処理を行った場合の果皮開裂率は100%で果皮の実離れも向上した(表5:A区)。これに対し、弱アルカリ(pH8.7)である重曹水溶液で処理した場合も強アルカリ処理と同様の果皮開裂率および果皮の実離れが見られた(表5:B区)。このことから、アルカリ剤は弱アルカリおよび強アルカリのいずれでも剥皮易化効果があることが示された。
【0033】
【表5】
【0034】
(実施例4)界面活性剤の濃度検討
(a)試料
原料ブドウ果実として日本産の巨峰を用いた。界面活性剤としてポエムDL-100(理研ビタミン株式会社)を用いた。アルカリ剤として重曹(炭酸水素ナトリウム)(和光純薬工業株式会社、食品添加物用途)を用いた。
(b)方法
巨峰果実は房および果軸から脱離したのち水道水で洗浄した。界面活性剤水溶液は予め加温した水道水に表6に示す4種類の各濃度(0.1重量%、0.5重量%、1.0重量%、および3.0重量%)でポエムDL-100を溶解し、それぞれ液温45℃で400 mL調製した。これら界面活性剤水溶液に洗浄した巨峰果実を1試験区につき8果粒(約80 g)入れ、45℃で60分間反応させた。重曹(炭酸水素ナトリウム)水溶液1.0 Lを0.10重量%濃度で調製し95℃以上に沸騰させたのち、界面活性剤処理後の巨峰果粒をそれぞれ60秒間浸漬した。浸漬後に果皮が果粒周囲の半周以上に大きく開裂した割合(果皮開裂率)、および流水下での手作業による果皮の実離れ様態を実施例2の表4に示す評価基準で評価した。
(c)結果
いずれの試験区においても果皮開裂率は60%以上で、果皮の実離れも向上した(表6)。特に界面活性剤濃度が0.5重量%以上(B〜D区)では、果皮開裂率は75%以上で果皮の実離れが良好であった(表6)。
【0035】
【表6】
【0036】
(実施例5)界面活性剤の反応時間検討
(a)試料
原料ブドウ果実として日本産の巨峰を用いた。界面活性剤としてポエムDL-100(理研ビタミン株式会社)を用いた。アルカリ剤として重曹(炭酸水素ナトリウム)(和光純薬工業株式会社、食品添加物用途)を用いた。
(b)方法
巨峰果実は房および果軸から脱離したのち水道水で洗浄した。界面活性剤水溶液は予め加温した水道水に1.0重量%でポエムDL-100を溶解し、液温45℃で400 mL調製した。界面活性剤水溶液に洗浄した巨峰果実を1試験区につき8果粒(約80 g)入れ、45℃で30分間ないし60分間反応させた。重曹(炭酸水素ナトリウム)水溶液1.0 Lを0.10重量%濃度で調製し95℃以上に沸騰させたのち、界面活性剤処理後の巨峰果粒をそれぞれ60秒間浸漬した。浸漬後に果皮が果粒周囲の半周以上に大きく開裂した割合(果皮開裂率)、および流水下での手作業による果皮の実離れ様態を実施例2の表4に示す評価基準で評価した。
(c)結果
いずれの試験区においても果皮開裂率は100%と良好で、果皮の実離れは同等に良好であった(表7)。
【0037】
【表7】
【0038】
(実施例6)界面活性剤処理後のブドウ果皮表面の観察
(a)試料
原料果実として日本産の巨峰、界面活性剤としてポエムDL-100(理研ビタミン株式会社)を用いた。
(b)方法
巨峰果実は房および果軸から脱離したのち水道水で洗浄した。界面活性剤水溶液は予め加温した水道水に1.0重量%の濃度でポエムDL-100を溶解し液温45℃で400 mL調製した。この界面活性剤水溶液に洗浄した巨峰果実を8果粒(約80 g)入れ、45℃下で60分間反応させた。デジタルマイクロスコープVHX-2000(株式会社キーエンス)を用いて200倍の倍率にて、界面活性剤処理をしていない巨峰果実(非処理果実)と比較した果皮表面の観察および画像取得を行った。画像取得後、視野内の微細な傷の横幅をマイクロスコープ内臓解析システムを用いて定量した。
(c)結果
非処理果実の果皮表面(
図2A)と比較して、界面活性剤処理では多数の細かい傷が生じていることが確認された(
図2B)。果皮表面の傷幅を定量した結果、非処理果実と比較して、界面活性剤処理の果皮表面の傷幅が有意に大きいことが示された(
図3)。このことから、界面活性剤とアルカリ処理による果皮の開裂および実離れの易化は、界面活性剤処理によって果皮表面の微細な傷が大きくなり、その後のアルカリ処理工程時にその傷から果皮が大きく割れることによってもたらされていることが考えられた。
【0039】
(実施例7)ブドウ品種の剥皮易化検討
(a)試料
原料ブドウ果実として日本産のピオーネ、藤稔、サニールージュ、スチューベン、甲斐路、マスカットオブアレキサンドリア、ロザリオビアンコ、翠峰、および米国産のレッドグローブ、オータムキングを用いた。界面活性剤としてポエムDL-100(理研ビタミン株式会社)を用いた。アルカリ剤として重曹(炭酸水素ナトリウム)(和光純薬工業株式会社、食品添加物用途)を用いた。
(b)方法
ブドウ果実は房および果軸から脱離したのち水道水で洗浄した。界面活性剤水溶液は予め加温した水道水に1.0重量%の濃度でポエムDL-100を溶解し液温45℃で400 mL調製した。この界面活性剤水溶液に表8に示す洗浄したブドウ果実を1試験区につき10果粒(約50〜150 g)入れ、45℃で60分間反応させた。重曹(炭酸水素ナトリウム)水溶液1.0 Lを0.10重量%濃度で調製し95℃以上に沸騰させたのち、界面活性剤処理後のブドウ果粒をそれぞれ60秒間浸漬した。浸漬後に果皮が果粒周囲の半周以上に大きく開裂した割合(果皮開裂率)、および流水下での手作業による果皮の実離れ様態を実施例2の表4に示す評価基準で評価した。
(c)結果
界面活性剤とアルカリ処理によるブドウ果実の剥皮易化は、ピオーネ、藤稔、およびサニールージュに適用可能であることが示された(表8、
図4)。ピオーネは巨峰とカノンホールマスカットから、藤稔はピオーネと井川682から、サニールージュはピオーネとレッドパールから、それぞれ作出された品種であり、黒色系または赤色系の果皮を持つ巨峰近縁種である。一方で、翠峰はピオーネとセンテニアルから作出された巨峰近縁種だが、緑色系果皮を持つ品種で、剥皮易化は見られなかった。この結果より、本剥皮易化方法は巨峰のほかには、黒色系または赤色系の果皮を持つ巨峰近縁種のブドウ果実に適用可能であることが考えられた。
【0040】
【表8】
【0041】
(実施例8)類似する特許文献方法との比較検討
(a)試料
原料果実として日本産の巨峰、界面活性剤としてポエムDL-100(理研ビタミン株式会社)を用いた。アルカリ剤として水酸化ナトリウム(和光純薬工業株式会社、食品添加物用途)および重曹(炭酸水素ナトリウム)(和光純薬工業株式会社、食品添加物用途)を用いた。その他の助剤として、エタノールは試薬特級(純正化学株式会社)、パルミチン酸は試薬特級(東京化成工業株式会社)、オレイン酸は試薬特級(東京化成工業株式会社)、グリセリンは試薬特級(和光純薬工業株式会社)、ビタミンCは食品添加物用途(純正化学株式会社)、大豆レシチンは食品添加物用途の大豆レシチンSLP-PC35(辻製油株式会社)、炭酸ナトリウムは食品添加物用途(和光純薬工業株式会社)を用いた。
(b)方法
表9に示す試験区と条件にて検討を行った。巨峰果実は房および果軸から脱離したのち水道水で洗浄した。BおよびC区は特許文献4(特開昭53-88348号公報)、D区は特許文献5(特開昭54-151153号公報)、E区は特許文献6(特開昭54-151154号公報)、FおよびG区は特許文献7(特開昭53-44647号公報)、H区は特許文献8(特開昭56-72676号公報)の特許明細書記載の実施例に準じた。
A区は実施例7記載の方法にて処理を行った。B〜H区は、表9記載の条件の加工助剤を添加した水酸化ナトリウム水溶液をそれぞれ1.0 L調製し、洗浄した巨峰果実を1試験区につき10果粒(約100 g)入れたのち、表9記載の各処理時間で浸漬した。浸漬後に果皮が果粒周囲の半周以上に大きく開裂した割合(果皮開裂率)、および流水下での手作業による果皮の実離れ様態を実施例2の表4に示す評価基準で評価した。これらの検証後に、果肉の食味について表11に示す評価基準で検討した。
(c)結果
本発明方法(A区)では100%の果皮開裂が見られ、良好な剥皮および果肉の食味であったのに対し、B〜H区においてD区以外では果皮はまったく開裂が見られず強固に残り、剥皮が易化することはなかった(表10)。D区でも果皮開裂率は40%に留まり、強アルカリ処理による果肉の損傷ならびに食味の低下が見られた(表10)。以上より、ブドウ果実の剥皮易化において、本発明方法の明らかな優位性が示された。
【0042】
【表9】
【0043】
【表10】
【0044】
【表11】
【0045】
(実施例9)巨峰に対する剥皮易化スケールアップ検討
(a)試料
原料ブドウ果実として日本産の巨峰を用いた。界面活性剤としてポエムDL-100(理研ビタミン株式会社)を用いた。アルカリ剤として重曹(炭酸水素ナトリウム)(和光純薬工業株式会社、食品添加物用途)を用いた。
(b)方法
巨峰果実は房および果軸から脱離したのち水道水で洗浄した。巨峰果実5ないし10 kgに対し、それぞれ予め加温した水道水に1.0重量%の濃度でポエムDL-100を溶解し、界面活性剤水溶液として40 L調製した。この界面活性剤水溶液に洗浄した巨峰果実を5ないし10 kg入れ、40〜60℃で60分間それぞれ反応させた。重曹(炭酸水素ナトリウム)水溶液80 Lを0.10重量%濃度で調製し95℃以上に沸騰させたのち、界面活性剤処理後の巨峰果実をそれぞれ60〜120秒間浸漬した。浸漬後に果粒100個を無作為に選び、果皮が果粒周囲の半周以上に大きく開裂した割合(果皮開裂率)を算出することを独立して3回行い、平均値を求めた。流水下での手作業による果皮の実離れ様態を実施例2の表4に示す評価基準で評価した。これらの検証後に、果肉の食味について実施例8の表11に示す評価基準で検討した。
(c)結果
ブドウ原料として巨峰果実を5〜10 kg用いて剥皮易化処理を行った場合、アルカリ処理後の果皮開裂率はそれぞれ80%および77%と良好な結果で、果皮の実離れも良く果肉の食味も良好で非処理の果肉と同等であった(表12)。
【0046】
【表12】
【0047】
(実施例10)アルカリ処理前の物理的処理による効果の検討
(a)試料
原料ブドウ果実として国産の巨峰を用いた。アルカリ剤として重曹(炭酸水素ナトリウム)(和光純薬工業株式会社、食品添加物用途)を用いた。
(b)方法
巨峰果実は房および果軸から脱離したのち水道水で洗浄した。洗浄後の巨峰果実に対し、直径3 mmの千枚通しを用いて表13に示す傷つけ方法(A〜C区)で果肉に達する程度の10〜30箇所の穴あけを行った。表13に記載の極道面とは果実の頭頂部と果梗部を結んだ一周のことをいい、赤道面とは極道面と垂直に交差する果実周囲の最も膨らんだ一周のことをいう。穴あけ後の巨峰を1試験区あたり20果粒(約200 g)用意し、95℃以上の0.10重量%濃度重曹(炭酸水素ナトリウム)水溶液1.0 Lに120秒間浸漬した。浸漬後に果皮が果粒周囲の半周以上に大きく開裂した割合(果皮開裂率)、および流水下での手作業による果皮の実離れ様態を実施例2の表4に示す評価基準で評価した。これらの検証後に、果肉の食味について実施例8の表11に示す評価基準で検討した。
(c)結果
アルカリ処理前の工程として、界面活性剤処理に代えて物理的な穴あけ処理を検討した。3種類の穴あけ方法を検討した結果、いずれの方法でもアルカリ処理後の果皮開裂率は80%と良好な結果で、果皮の実離れおよび果肉の食味も良好で、果肉品質は非処理の果肉と同等であった(表13)。
【0048】
以上より、本発明方法はアルカリ処理前の果皮への傷つけ処理が重要と考えられ、これは実施例6の結果を裏付けるものであった。その方法としては、界面活性剤による化学的処理に加えて、物理的処理も有効であることが示された。
【0049】
【表13】