特許第6034912号(P6034912)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6034912
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】ブドウの剥皮易化方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 19/00 20160101AFI20161121BHJP
   A23N 7/01 20060101ALI20161121BHJP
   A23N 7/00 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   A23L19/00 A
   A23N7/01
   A23N7/00 D
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-67629(P2015-67629)
(22)【出願日】2015年3月27日
(65)【公開番号】特開2016-185135(P2016-185135A)
(43)【公開日】2016年10月27日
【審査請求日】2016年6月24日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003274
【氏名又は名称】マルハニチロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(72)【発明者】
【氏名】國永 史生
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 元
(72)【発明者】
【氏名】山口 秀一
(72)【発明者】
【氏名】本木 康二郎
【審査官】 森井 文緒
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−065174(JP,A)
【文献】 特開昭53−088348(JP,A)
【文献】 特開昭56−072676(JP,A)
【文献】 特開昭53−044647(JP,A)
【文献】 特開2014−008039(JP,A)
【文献】 特開2012−044984(JP,A)
【文献】 農家直伝キラキラ輝くぶどうの皮むき, COOKPAD, [オンライン], 2013.05.15, [検索日2016.06.01], インターネット <http://cookpad.com/recipe/1587439>
【文献】 ぶどうの皮の剥き方, COOKPAD, [オンライン], 2014.09.07, [検索日2016.06.01], インターネット <http://cookpad.com/recipe/2787124>
【文献】 野口真己ほか,弱アルカリ水溶液および食品用乳化剤水溶液中での前処理によるカキ果実酵素剥皮工程の改良,日本食品科学工学会誌,2013年,vol.60, no.10,p.582-588
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 19/00−19/20
A23N 7/01
DWPI(Thomson Innovation)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
果肉の品質が保持され、かつ果皮が開裂し剥きやすくなった巨峰または果皮色が黒色系もしくは赤色系の巨峰近縁種のブドウ果実の製造方法であって、果皮の開裂を生じさせるために、(a)グリセリン脂肪酸エステルとレシチンからなる群から選択される少なくとも1種類の界面活性剤処理および果皮表面へ傷をつける物理的処理から選択される少なくとも1種類の方法と、(b)アルカリ処理とを独立かつ連続して行うことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
アルカリ剤が、重曹(炭酸水素ナトリウム)である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
アルカリ処理が、95℃以上100℃未満の0.05重量%以上0.2重量%未満、pH8.0以上10.0未満のアルカリ水溶液にブドウ果実を60秒以上120秒未満で浸漬させる処理である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
界面活性剤処理が、40℃以上60℃未満の0.5重量%以上3.0重量%未満の界面活性剤水溶液にブドウ果実を30分以上90分未満で浸漬させる処理である請求項1〜のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
物理的処理が、ブドウ果実1個あたり直径1mm以上5mm未満の果肉に達する程度の穴あけを、10箇所以上30箇所未満で施される処理である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載の方法により、果皮が開裂し剥きやすくなった巨峰または果皮色が黒色系もしくは赤色系の巨峰近縁種のブドウ果実を製造し、さらに該ブドウ果実の果皮を剥くことを含む、果肉の品質が保持され、果皮が除去されたブドウ果肉の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブドウ果実の剥皮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブドウ果実を利用した加工品の生産において、房および果軸から離脱された個々のブドウ果実の剥皮を効率化する課題がある。個々のブドウ果実は器具や装置を用いることで、剥皮が容易となることが知られている。こうした先行特許文献に、個別のブドウ果皮を迅速に剥く食器具(特許文献1)があるが、個別剥皮用の器具ではブドウ加工品の大量生産には人員を多く要するなど効率的ではない。大量の房および果軸から離脱された個々のブドウ果実を効率的に剥皮する方法として、移動式のローラーと水流を組み合わせた方法(特許文献2)、および一対のロールの互いの逆方向への回転を利用して皮を剥くぶどうの剥皮装置(特許文献3)などがあるが、こうした物理的処理のみを行う大型機械では装置の導入維持によるコスト面や剥皮ムラ、装置の不具合によるライン滞留のリスクの面などから実用化には適さない。
【0003】
こうした方法の他に、薬剤等を用いた化学的処理によるブドウ果実の剥皮方法がある。例えば、アルカリ類とアルコール類からなる剥皮剤で果実表面を処理することにより、果皮を軟化崩壊させる方法(特許文献4)、果実の剥皮浸漬用溶液にアルカリ水溶液を用い、そこへ脂肪酸を添加する方法(特許文献5)、脂肪酸と界面活性剤を添加する方法(特許文献6)、界面活性剤とグリセリン、ソルビット、ビタミンCなどの化合物群の1種または2種以上とを添加する方法(特許文献7)、リン脂質および界面活性剤からなる群から1種または2種以上とアルカリ金属の炭酸塩とを添加する方法(特許文献8)などがある。これらはいずれもアルカリ類に高いpH値を示す強アルカリである苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)を用いており、大量生産の工程ラインにおいては安全性や廃液コスト面で難がある。さらに個々の事例でみると、アルコール剤に有機溶媒を用いたり、脂肪酸製剤を使用するなど、安全面や加工後の食味への影響が危惧される。さらに界面活性剤とアルカリの他に添加剤を加えて処理を行う方法においては、扱う加工助剤が多く工程が煩雑なうえにコストを押し上げる方法である。安全面やコスト面で実用化に適する剥皮易化方法として、カキ果実に対する界面活性剤処理と弱アルカリ処理、および酵素処理を組み合わせた方法(特許文献9)や、バラ科に属する植物果実に対する弱アルカリ処理と界面活性剤存在下で酵素処理を行うことを組み合わせた方法(特許文献10)などがあるが、いずれも対象はブドウ果実ではなく、また界面活性剤とアルカリの他に酵素剤などの添加剤を加えて処理を行う方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-142618号公報
【特許文献2】特開昭56-109581号公報
【特許文献3】特開平02-207779号公報
【特許文献4】特開昭53-88348号公報
【特許文献5】特開昭54-151153号公報
【特許文献6】特開昭54-151154号公報
【特許文献7】特開昭53-44647号公報
【特許文献8】特開昭56-72676号公報
【特許文献9】特開2013-243959号公報
【特許文献10】特開2014-8039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ブドウ果実を利用した加工品の生産において、房および果軸から離脱された個々の果実の剥皮を効率化した上で、品質を保持した果肉を調製する課題がある。現状の加工現場では、生鮮ブドウ原料に対し熱湯による短時間のブランチング処理などを行ったのち、手作業で果皮を除去している。これは大量の人手を要しコストを押し上げる要因となるとともに、過度に手作業で果肉に触れていた場合、果肉は軟化し品質が低下する。また先行特許文献に示されているような化学的処理では、強アルカリを使用しており安全性の問題および廃液処理の非効率性、ならびに剥皮後の果肉の食味への影響が懸念される。さらに加工剤の種類が多く、工程が煩雑になる上にコストも高くなる。
【0006】
以上から、ブドウ果肉の品質を損ねることなく、個々の果実の果皮を効率的に剥くことのできる新たな方法が望まれた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ブドウ果実の果皮は二層構造で、表面が厚いワックス層で覆われており、その下層にセルロース、ヘミセルロース、およびペクチン質といった多糖類基質が複雑に局在する層がある。ブドウ果実を房および果軸から脱離し剥皮をする際、加熱や蒸気照射などの処理を施しても果皮には大きな変化はなく、多糖類分解酵素剤による処理もワックス層に阻まれ効果がない。回転ローラーなどの機械による物理的処理による剥皮も果肉が柔らかいため、強い物理的負荷が果実にかかると果肉が損傷してしまい、その後の果肉加工工程には適さない。さらに多くの場合、果皮は部分的に剥けるだけで完全な剥皮は難しく、無理に万遍なく剥皮しようとすると更なる果肉損傷をきたしてしまう。大量のブドウ果実を一様に剥皮するための処理として、アルカリ剤やその他の加工助剤を用いる化学的処理が特許文献としてこれまで報告されている。しかし、これらは強アルカリ剤を用いているため、剥皮後の果肉品質が低下しているほか、少なくとも2種類以上の加工助剤を添加して処理を行う必要があるため、大量生産の実用面を鑑みるとコスト面や作業性の面から実用化は困難であると考えられた。
【0008】
これらを鑑みて鋭意検討した結果、ブドウ果実に対して界面活性剤水溶液への浸漬処理と果皮表面へ傷を生じさせる物理的処理から選択される少なくとも1種類の処理を行ったのちに、加熱アルカリ水溶液への浸漬処理を連続して行うことで、ブドウ果実の果皮が大きく開裂し剥皮が容易となることを見出した。本発明者らは、この剥皮処理に効果のある界面活性剤の種類と反応条件、果皮表面へ傷をつける物理的処理の条件、アルカリ剤の種類と反応条件、および対象となるブドウ品種を検証、特定したことで本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]果肉の品質が保持され、かつ果皮が開裂し剥きやすくなった巨峰または果皮色が黒色系もしくは赤色系の巨峰近縁種のブドウ果実の製造方法であって、果皮の開裂を生じさせるために、(a)界面活性剤処理および果皮表面へ傷をつける物理的処理から選択される少なくとも1種類の方法と、(b)アルカリ処理とを独立かつ連続して行うことを特徴とする製造方法。
[2]アルカリ剤が、重曹(炭酸水素ナトリウム)である[1]記載の製造方法。
[3]アルカリ処理が、95℃以上100℃未満の0.05重量%〜0.2重量%、pH8.0以上10.0未満のアルカリ水溶液にブドウ果実を60秒以上120秒未満で浸漬させる処理である[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]界面活性剤が、グリセリン脂肪酸エステルとレシチンからなる群から選択される少なくとも1種類の界面活性剤である[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]界面活性剤処理が、40℃以上60℃未満の0.5重量%以上3.0重量%未満の界面活性剤水溶液にブドウ果実を30分以上90分未満で浸漬させる処理である[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]物理的処理が、ブドウ果実1個あたり直径1mm以上5mm未満の果肉に達する程度の穴あけを、10箇所以上30箇所未満で施される処理である、[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[7][1]〜[6]のいずれかに記載の方法により、果皮が開裂し剥きやすくなった巨峰または果皮色が黒色系もしくは赤色系の巨峰近縁種のブドウ果実の果皮を剥くことを含む、果肉の品質が保持され、果皮が除去されたブドウ果肉の製造方法。
[8][1]〜[6]のいずれかに記載の方法により製造された、果肉の品質が保持され、果皮開裂が生じたブドウ果実。
[9]果皮が果実周囲の半周以上に渡って裂けている、[8]記載のブドウ果実。
[10][7]記載の方法により製造された、果肉の品質が保持された果皮が除去されたブドウ果肉。
【発明の効果】
【0010】
本発明のブドウ果実に対する剥皮方法は、従来の化学的処理による剥皮方法と比較して、使用する加工剤の種類が少なくアルカリ水溶液のpHも低いため、実用化に際する工程簡略化、安定化、および加工コストの削減につながる。また、本発明の処理方法によって大きく果皮が開裂したブドウ果実は、流水やエアー処理などで容易に果皮が果肉から脱離するため、手作業等による必要以上の果肉へのダメージが軽減でき、高品質な果肉を効率的に調製できる。これら効果によって、ブドウ果肉を用いた高品質加工品を提供することが可能となる。こうした加工品には、従来の缶詰やカップゼリーをはじめとして、これまで市場に見られないカットフルーツやシラップカップといった形態が考えられる。これら商品はより広域流通に適していると考えられ、これまで以上に高付加価値商品を市場へ投入できる可能性が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例2におけるA区の処理後の様態を示す写真である。
図2】実施例6における巨峰果実表面の微細画像である。
図3】実施例6における巨峰果実表面の傷の幅を示す。n=18の平均値±標準偏差で表記、非処理区と比較して、**はp<0.01(t検定)で有意差があることを示す。
図4】実施例7におけるA、BおよびD区のブドウ果実の処理後の様態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、ブドウ果実を対象として果肉の品質を保持しつつ剥皮を効率化するための処理方法である。本発明において、剥皮が容易に行うことができるようにする処理を剥皮易化という。本発明の方法は、ブドウ果実の剥皮容易化方法であり、また果皮が開裂し剥きやすくなったブドウ果実の製造方法でもある。ここで、果肉の品質とは、生鮮ブドウを剥皮したのち食した際の果肉における硬さ、みずみずしさ、匂い、風味、味などの総合的な食味をいう。従来より、ブドウ果実の剥皮易化方法として、器具や装置を用いてブドウ果実に強い圧をかけて物理的処理を行う方法や皮を分解する作用を有する薬剤を用いた化学的処理を行う方法が行われてきた。このような剥皮易化工程において、果皮を除去することを目的とした物理的処理は果肉に圧力が加わるので果肉軟化が生じやすく、化学的処理は強アルカリ剤などによる果肉損傷に伴う軟化や変色および水分流出、疎水性製剤などによる不自然な味や匂いおよび風味の付与が生じやすい。特に強アルカリ処理による果肉へのダメージは顕著であるが、本発明の剥皮易化方法は果皮を除去しやすくするとともに果肉品質を保持することができる。
【0013】
本発明の方法においては、ブドウ果実を界面活性剤処理するか、または果肉自体に強い圧をかけずに果皮表面に傷を生じさせる物理的処理を行った後に、アルカリ剤でアルカリ処理を行う。すなわち、界面活性剤処理もしくは物理的処理とアルカリ処理を独立に連続して行う。
【0014】
対象のブドウ果実としては、巨峰およびその近縁種が挙げられる。巨峰は、石原早生雄(ヨーロッパブドウ ヴィニフェラ種 Vitis vinifera x アメリカブドウ ラブルスカ種 Vitis labrusca)とセンテニアル雌(ヨーロッパブドウ ヴィニフェラ種 Vitis vinifera)を交配させて作出した日本原産のブドウである。巨峰の近縁種は巨峰を祖先に持つブドウ品種である。また、ブドウは、果皮の色によって黒ブドウ、赤ブドウ、緑(白)ブドウの3つに大別されるが、本願発明の対象となるブドウは、巨峰または好ましくは果皮の色が黒もしくは赤色である巨峰近縁種のブドウである。巨峰及び巨峰近縁種は元々果皮が厚く、果皮と果肉の分離性も比較的悪い。巨峰の近縁種として、具体的にはピオーネ(巨峰×カノンホールマスカットの交配4倍体品種)、藤稔(ピオーネ×井川682の交配品種)、サニールージュ(ピオーネ×レッドパールの交配品種)、アキクイーン(巨峰の自家受粉により得られた品種)、タカスミ(早生巨峰品種)、紫玉(タカスミの枝変り品種)、ナガノパープル(巨峰×リザマートの交配品種)、大峰(井川682号×ピオーネの交配品種)、ブラックオリンピア(巨峰×巨鯨の交配品種)等が挙げられる。この中でも、巨峰、ピオーネ、藤稔およびサニールージュが好ましい。
【0015】
本発明において、剥皮の対象となるブドウ果実は、房および果軸から離脱された状態の個々の果実(果粒)である。
【0016】
本発明の方法におけるアルカリ処理前の界面活性剤処理または物理的処理は、ブドウ果実の果皮表面への傷つけ作用を有する。
【0017】
界面活性剤処理に用いる界面活性剤として、エステル型界面活性剤であるグリセリン脂肪酸エステル(RCOOCH2CH(OH)CH2OH)およびレシチンが挙げられる。グリセリン脂肪酸エステルはモノグリセリン脂肪酸エステルもジグリセリン脂肪酸エステルもポリグリセリン脂肪酸エステルも含む。グリセリン脂肪酸エステルとして、例えば、グルセリンモノカプリレート、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノミリスチレート、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンモノカプレート、ジグリセリンモノカプリレート、ジグリセリンモノラウレート、ジグリセリンモノミリスチレート、ジグリセリンモノステアレート、ジグリセリンモノオレート、ジグリセリンモノベヘネート、ジグリセリンモノカプレート、ポリグルセリンモノカプリレート、ポリグリセリンモノラウレート、ポリグリセリンモノミリスチレート、ポリグリセリンモノステアレート、ポリグリセリンモノオレート、ポリグリセリンモノベヘネート、ポリグリセリンモノカプレート、グリセリンモノ・ジカプリレート、グリセリンモノ・ジラウレート、グリセリンモノ・ジミリスチレート、グリセリンモノ・ジステアレート、グリセリンモノ・ジオレート、グリセリンモノ・ジベヘネート、グリセリンモノ・ジカプレート、グリセリンモノ12-ヒドロキシステアレート、ポリグリセリンポリリシノレート等が挙げられる。具体的には、例えばグリセリン脂肪酸エステル型としてポエムDL-100(商品名)(ジグリセリンモノラウレート、理研ビタミン株式会社)、ポエムDM-100(商品名)(ジグリセリンモノミリステート、理研ビタミン株式会社)、ポエムDS-100A(商品名)(ジグリセリンモノステアレート、理研ビタミン株式会社)、ポエムDO-100V(商品名)(ジグリセリンモノオレート、理研ビタミン株式会社)、リケマールS-100(商品名)(グリセリンモノステアレート、理研ビタミン株式会社)、リケマールB-100(商品名)(グリセリンモノベヘネート、理研ビタミン株式会社)、エマルジーMS(商品名)(モノグリセリド、理研ビタミン株式会社)、リケマールL-71-D(商品名)(ジグリセリンラウレート、理研ビタミン株式会社)、リケマールS-71-D(ジグリセリンステアレート、理研ビタミン株式会社)、リケマールO-71-D(E)(商品名)(ジグリセリンオレート、理研ビタミン株式会社)、ポエムJ-4081V(商品名)(テトラグリセリンステアレート、理研ビタミン株式会社)、ポエムJ-0021(商品名)(デカグリセリンラウレート、理研ビタミン株式会社)、ポエムJ-0081HV(商品名)(デカグリセリンステアレート、理研ビタミン株式会社)、ポエムJ-0381V(商品名)(デカグリセリンオレート、理研ビタミン株式会社)、ポエムPR-100(商品名)(ポリグリセリンポリリシノレート、理研ビタミン株式会社)、リョートー(登録商標)ポリグリエステルCE-19D(ポリグリセリンカプリレート)、リョートー(登録商標)ポリグリエステルL-10D(ポリグリセリンラウレート)等が挙げられる。レシチンとして分別レシチン、酵素分解レシチン等が挙げられ、具体的には、SLPホワイトリゾ(商品名)(辻製油株式会社)、SLPペーストリゾ(商品名)(辻製油株式会社)、SLP-ホワイト(商品名)(辻製油株式会社)、SLP-PC35(商品名)(辻製油株式会社)、SLP-PC70(商品名)(辻製油株式会社)、SLP-PIパウダーA(商品名)(辻製油株式会社)、レシチンP(商品名)(理研ビタミン株式会社)、レシチンLP-1(商品名)(理研ビタミン株式会社)、レシマール(商品名)(理研ビタミン株式会社)等が挙げられる。界面活性剤は複数の界面活性剤を併用してもよい。
【0018】
界面活性剤処理により、果皮表面全体に多数の細かい傷が生じる。界面活性剤処理により果皮表面に生じる傷の幅は、10〜25μmである。
【0019】
房および果軸から離脱された個々のブドウ果実は洗浄されたのち界面活性剤による処理を行う。本発明の界面活性剤処理は、処理果実重量の4倍以上の重量の水に界面活性剤を0.1重量%〜5.0重量%(0.1重量%以上5.0重量%未満)、好ましくは0.5重量%〜3.0重量%を添加し、よく懸濁して用いる。洗浄された個々のブドウ果実を界面活性剤水溶液に入れ、20℃〜60℃(20℃以上60℃未満)で30分〜120分間(30分以上120分間未満)浸漬する。40℃〜60℃で30分〜90分間の浸漬を行うことが望ましい。本発明において、例えば「20〜60」は「20以上60未満」を表わす。
【0020】
物理的処理には果皮を摩擦によって傷つける方法や、果肉が損傷しない程度に果実の外果皮表面から穴あけ処理を行う方法が挙げられる。穴あけ処理は、先端が尖った細い針状の器具を用いて行うことができ、例えば、ようじ、ドライバー、錐、千枚通し等を用いることができる。また一度に複数の穴をあけるために、食器として用いられる家庭用フォークや生け花用の剣山、およびテンダライザー等も用い得る。さらに、カッター、ドリル、ローラー、ミシン等を含む自動穴あけ機、ナイフなどの刃物類、レーザー、超音波、風圧および水圧等を利用した傷つけ処理も含む。穴あけは、ブドウ果実の表面から上記器具を用いて穴をあける。房および果軸から離脱された個々のブドウ果実は洗浄されたのち物理的処理を行う。本発明の物理的処理は穴あけ処理がより好ましく、例えばブドウ果実1個あたり直径1 mm〜5 mmの果肉に達する程度の穴あけを10〜30箇所施すことで行われる。ブドウの果皮の厚さは0.5〜1.0 mm程度であるので、この深さの穴をあければよい。これら果皮表面への傷つけを目的とした界面活性剤処理および物理的処理は、次の工程のアルカリ処理の際に果皮に開裂を生じやすくするために行う。
【0021】
上記の界面活性剤処理と物理的処理を併用してもよい。
界面活性剤処理または物理的処理が行われたブドウ果実は、連続した工程でアルカリ処理に供される。すなわち、界面活性剤処理または物理的処理が行われたブドウ果実をアルカリ剤水溶液に浸漬すればよい。アルカリ処理には水溶液にした際のpH値が8.0〜14.0のアルカリ剤を用い得る。具体的には、例えば水酸化ナトリウムや重曹(炭酸水素ナトリウム)が用いられるが、処理後の果肉品質を考慮すると、pH値が8.0〜10.0の弱アルカリ剤がより好ましく、例えば重曹(炭酸水素ナトリウム)が適する。アルカリ処理は加熱して行い、加熱下でのアルカリ処理を加熱アルカリ処理という。本発明のアルカリ処理は、処理果実重量の5倍以上の重量の水にアルカリ剤を0.01重量%〜0.25重量%、好ましくは0.05重量%〜0.2重量%を添加し、よく懸濁して用いる。界面活性剤処理または物理的処理が行われたブドウ果実をアルカリ水溶液に入れ、90℃〜100℃で30秒〜120秒間浸漬する。より好ましくは95℃〜100℃で60秒〜120秒間の浸漬を行うことが望ましい。
【0022】
本発明の方法においては、従来の剥皮方法で用いられていた、ペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ等の酵素剤や有機溶媒、脂肪酸製剤は用いない。また、界面活性剤処理もしくは物理的処理の工程、並びにアルカリ処理する工程以外に、他の添加剤で処理する工程を含まない。
【0023】
上記の界面活性剤処理もしくは物理的処理で果皮の傷つけを行った果実を加熱アルカリ処理することにより、処理した果実のうち高い割合で果皮が大きく開裂したブドウ果実を得ることができる。ここで果皮が大きく開裂したとは、果実周囲の半周以上に渡って果皮が裂けていること、すなわちブドウ果実の表面積の半分以上が露出した状態になっていることをいう。本発明の方法により、処理したブドウ果実の数の75%以上の果実において、果皮が大きく開裂する。
【0024】
本発明は、上記の方法で得られた果皮が大きく開裂したブドウ果実をも包含する。本発明処理を行ったブドウ果実の果皮は分解はされないが大きく割れて、果肉は大きく露出された状態にある。果皮が大きく開裂したブドウ果実の状態を図1および図4に示す。果皮は果実に残存はしているものの、容易に果肉から脱離する状態であり、果肉が損傷しない程度であれば、ローラー式ベルトをはじめとする摩擦係数の大きな面の通過を伴う各種機器や、水流、風圧等を利用した物理的処理によって剥皮は容易に可能である。
【0025】
本発明は、果皮が開裂し剥きやすくなったブドウの果皮を剥くことにより除去し、果皮のないブドウ果肉を製造する方法も包含する。本発明の方法で剥皮したブドウ果肉は処理しないブドウ果肉の品質を良好に保持している。本発明は、このような本発明の方法で果皮が剥きやすくなったブドウ果実の果皮を除去することにより得られた果皮のないブドウ果肉も包含する。
【実施例】
【0026】
(実施例1)界面活性剤とアルカリ処理の組み合わせ検討
(a)試料
原料果実として日本産の巨峰、界面活性剤としてエマルジーMS(理研ビタミン株式会社、グリセリン脂肪酸エステル型)、アルカリ剤として水酸化ナトリウム(和光純薬工業株式会社、特級)を用いた。
(b)方法
表1に示す試験区にて検討を行った。巨峰果実は房および果軸から脱離したのち水道水で洗浄した。界面活性剤水溶液は予め加温した水道水に1.0重量%の濃度でエマルジーMSを溶解し液温45℃で1.0 L調製した。この界面活性剤水溶液に洗浄した巨峰果実を1試験区につき6果粒(約60 g)入れ、45℃下で60分間反応させた。水酸化ナトリウム水溶液1.0 Lを表1に示した各濃度(0.00重量%、0.01重量%、0.10重量%、0.25重量%、および1.00重量%)で調製し95℃以上に沸騰させたのち、界面活性剤処理後の巨峰果粒を30秒間ないし60秒間浸漬した。浸漬後に表2に示す評価基準で、果皮実離れの様態および果皮が容易に剥皮できた果肉の果肉品質検証を行った。果皮実離れの検証は、果皮が果粒周囲の半周以上に大きく開裂した巨峰果粒の数および流水下での手作業による剥皮の容易さを評価した。
(c)結果
表1に結果を示す。表1中、「果皮の実離れ」および「果肉品質」の欄の◎、○、△、×の評価基準を表2に示す。アルカリ処理単独では、巨峰果実の果肉品質を良好に保持したまま果皮の剥皮が容易になることはなかった(表1:A〜J区)。界面活性剤処理は、単独では巨峰果実の剥皮易化効果は見られない(表1:KおよびL区)が、アルカリ処理と組み合わせることで果皮の開裂を大きくする効果が示された(表1:D区とN区、F区とP区のそれぞれの比較)。沸騰アルカリ処理の条件は、濃度が0.01重量%以上0.25重量%未満で、時間は30秒間以上であることが、果肉品質を保持したまま剥皮しやすくなるものと考えられた。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
(実施例2)界面活性剤の種類検討
(a)試料
原料果実として日本産の巨峰、界面活性剤として表3に示す10種類を用いた。ポエムDL-100、ポエムJ-0381V、リケマールPS-100、リケマールPO-100V、リケマールPP-100、およびリケマールPB-100は理研ビタミン株式会社、リョートー(登録商標)ポリグリエステルCE-19Dおよびリョートー(登録商標)シュガーエステルLWA-1570は三菱化学フーズ株式会社、SLPホワイトリゾは辻製油株式会社、カオーホモテックスPS-200Vは花王株式会社の製品を用いた。アルカリ剤として水酸化ナトリウム(和光純薬工業株式会社、特級)を用いた。
(b)方法
巨峰果実は房および果軸から脱離したのち水道水で洗浄した。界面活性剤水溶液は表3に示す各種類を予め加温した水道水に1.0重量%の濃度で溶解し液温45℃で400 mL調製した。これら界面活性剤水溶液に洗浄した巨峰果実を1試験区につき8果粒(約80 g)入れ、45℃で60分間反応させた。水酸化ナトリウム水溶液1.0 Lを0.10重量%濃度で調製し95℃以上に沸騰させたのち、界面活性剤処理後の巨峰果粒を60秒間浸漬した。果皮が果粒周囲の半周以上に大きく開裂した割合(果皮開裂率)、および流水下での手作業による果皮の実離れ様態を表4に示す評価基準で評価した。
(c)結果
結果を表3に示す。界面活性剤がグリセリン脂肪酸エステルおよびレシチンの場合、果皮開裂率が75%以上でかつ果皮の実離れ様態の効率化が見られた(表3:A〜D区、図1)。一方で、ショ糖脂肪酸エステル型およびプロピレングリコール脂肪酸エステル型の界面活性剤では、アルカリ処理後の果皮開裂率は50%以下で、開裂した果粒についても果皮の実離れ様態は非処理のものと大差なかった(表3:E〜J区)。以上より、界面活性剤はグリセリン脂肪酸エステルおよびレシチンが適することが示された。
【0030】
【表3】
【0031】
【表4】
【0032】
(実施例3)アルカリ剤の種類検討
(a)試料
原料果実として日本産の巨峰、界面活性剤としてポエムDL-100(理研ビタミン株式会社)を用いた。アルカリ剤として水酸化ナトリウム(和光純薬工業株式会社、食品添加物用途)および重曹(炭酸水素ナトリウム)(和光純薬工業株式会社、食品添加物用途)を用いた。
(b)方法
巨峰果実は房および果軸から脱離したのち水道水で洗浄した。界面活性剤水溶液は予め加温した水道水に1.0重量%の濃度でポエムDL-100を溶解し液温45℃で400 mL調製した。これら界面活性剤水溶液に洗浄した巨峰果実を1試験区につき8果粒(約80g)入れ、45℃で60分間反応させた。水酸化ナトリウム水溶液および重曹(炭酸水素ナトリウム)水溶液1.0 Lを0.10重量%濃度で調製し95℃以上に沸騰させたのち、界面活性剤処理後の巨峰果粒をそれぞれ60秒間浸漬した。浸漬後に果皮が果粒周囲の半周以上に大きく開裂した割合(果皮開裂率)、および流水下での手作業による果皮の実離れ様態を実施例2の表4に示す評価基準で評価した。
(c)結果
界面活性剤としてグリセリン脂肪酸エステルで処理したのちに強アルカリ(pH12.7)である水酸化ナトリウム水溶液で処理を行った場合の果皮開裂率は100%で果皮の実離れも向上した(表5:A区)。これに対し、弱アルカリ(pH8.7)である重曹水溶液で処理した場合も強アルカリ処理と同様の果皮開裂率および果皮の実離れが見られた(表5:B区)。このことから、アルカリ剤は弱アルカリおよび強アルカリのいずれでも剥皮易化効果があることが示された。
【0033】
【表5】
【0034】
(実施例4)界面活性剤の濃度検討
(a)試料
原料ブドウ果実として日本産の巨峰を用いた。界面活性剤としてポエムDL-100(理研ビタミン株式会社)を用いた。アルカリ剤として重曹(炭酸水素ナトリウム)(和光純薬工業株式会社、食品添加物用途)を用いた。
(b)方法
巨峰果実は房および果軸から脱離したのち水道水で洗浄した。界面活性剤水溶液は予め加温した水道水に表6に示す4種類の各濃度(0.1重量%、0.5重量%、1.0重量%、および3.0重量%)でポエムDL-100を溶解し、それぞれ液温45℃で400 mL調製した。これら界面活性剤水溶液に洗浄した巨峰果実を1試験区につき8果粒(約80 g)入れ、45℃で60分間反応させた。重曹(炭酸水素ナトリウム)水溶液1.0 Lを0.10重量%濃度で調製し95℃以上に沸騰させたのち、界面活性剤処理後の巨峰果粒をそれぞれ60秒間浸漬した。浸漬後に果皮が果粒周囲の半周以上に大きく開裂した割合(果皮開裂率)、および流水下での手作業による果皮の実離れ様態を実施例2の表4に示す評価基準で評価した。
(c)結果
いずれの試験区においても果皮開裂率は60%以上で、果皮の実離れも向上した(表6)。特に界面活性剤濃度が0.5重量%以上(B〜D区)では、果皮開裂率は75%以上で果皮の実離れが良好であった(表6)。
【0035】
【表6】
【0036】
(実施例5)界面活性剤の反応時間検討
(a)試料
原料ブドウ果実として日本産の巨峰を用いた。界面活性剤としてポエムDL-100(理研ビタミン株式会社)を用いた。アルカリ剤として重曹(炭酸水素ナトリウム)(和光純薬工業株式会社、食品添加物用途)を用いた。
(b)方法
巨峰果実は房および果軸から脱離したのち水道水で洗浄した。界面活性剤水溶液は予め加温した水道水に1.0重量%でポエムDL-100を溶解し、液温45℃で400 mL調製した。界面活性剤水溶液に洗浄した巨峰果実を1試験区につき8果粒(約80 g)入れ、45℃で30分間ないし60分間反応させた。重曹(炭酸水素ナトリウム)水溶液1.0 Lを0.10重量%濃度で調製し95℃以上に沸騰させたのち、界面活性剤処理後の巨峰果粒をそれぞれ60秒間浸漬した。浸漬後に果皮が果粒周囲の半周以上に大きく開裂した割合(果皮開裂率)、および流水下での手作業による果皮の実離れ様態を実施例2の表4に示す評価基準で評価した。
(c)結果
いずれの試験区においても果皮開裂率は100%と良好で、果皮の実離れは同等に良好であった(表7)。
【0037】
【表7】
【0038】
(実施例6)界面活性剤処理後のブドウ果皮表面の観察
(a)試料
原料果実として日本産の巨峰、界面活性剤としてポエムDL-100(理研ビタミン株式会社)を用いた。
(b)方法
巨峰果実は房および果軸から脱離したのち水道水で洗浄した。界面活性剤水溶液は予め加温した水道水に1.0重量%の濃度でポエムDL-100を溶解し液温45℃で400 mL調製した。この界面活性剤水溶液に洗浄した巨峰果実を8果粒(約80 g)入れ、45℃下で60分間反応させた。デジタルマイクロスコープVHX-2000(株式会社キーエンス)を用いて200倍の倍率にて、界面活性剤処理をしていない巨峰果実(非処理果実)と比較した果皮表面の観察および画像取得を行った。画像取得後、視野内の微細な傷の横幅をマイクロスコープ内臓解析システムを用いて定量した。
(c)結果
非処理果実の果皮表面(図2A)と比較して、界面活性剤処理では多数の細かい傷が生じていることが確認された(図2B)。果皮表面の傷幅を定量した結果、非処理果実と比較して、界面活性剤処理の果皮表面の傷幅が有意に大きいことが示された(図3)。このことから、界面活性剤とアルカリ処理による果皮の開裂および実離れの易化は、界面活性剤処理によって果皮表面の微細な傷が大きくなり、その後のアルカリ処理工程時にその傷から果皮が大きく割れることによってもたらされていることが考えられた。
【0039】
(実施例7)ブドウ品種の剥皮易化検討
(a)試料
原料ブドウ果実として日本産のピオーネ、藤稔、サニールージュ、スチューベン、甲斐路、マスカットオブアレキサンドリア、ロザリオビアンコ、翠峰、および米国産のレッドグローブ、オータムキングを用いた。界面活性剤としてポエムDL-100(理研ビタミン株式会社)を用いた。アルカリ剤として重曹(炭酸水素ナトリウム)(和光純薬工業株式会社、食品添加物用途)を用いた。
(b)方法
ブドウ果実は房および果軸から脱離したのち水道水で洗浄した。界面活性剤水溶液は予め加温した水道水に1.0重量%の濃度でポエムDL-100を溶解し液温45℃で400 mL調製した。この界面活性剤水溶液に表8に示す洗浄したブドウ果実を1試験区につき10果粒(約50〜150 g)入れ、45℃で60分間反応させた。重曹(炭酸水素ナトリウム)水溶液1.0 Lを0.10重量%濃度で調製し95℃以上に沸騰させたのち、界面活性剤処理後のブドウ果粒をそれぞれ60秒間浸漬した。浸漬後に果皮が果粒周囲の半周以上に大きく開裂した割合(果皮開裂率)、および流水下での手作業による果皮の実離れ様態を実施例2の表4に示す評価基準で評価した。
(c)結果
界面活性剤とアルカリ処理によるブドウ果実の剥皮易化は、ピオーネ、藤稔、およびサニールージュに適用可能であることが示された(表8、図4)。ピオーネは巨峰とカノンホールマスカットから、藤稔はピオーネと井川682から、サニールージュはピオーネとレッドパールから、それぞれ作出された品種であり、黒色系または赤色系の果皮を持つ巨峰近縁種である。一方で、翠峰はピオーネとセンテニアルから作出された巨峰近縁種だが、緑色系果皮を持つ品種で、剥皮易化は見られなかった。この結果より、本剥皮易化方法は巨峰のほかには、黒色系または赤色系の果皮を持つ巨峰近縁種のブドウ果実に適用可能であることが考えられた。
【0040】
【表8】
【0041】
(実施例8)類似する特許文献方法との比較検討
(a)試料
原料果実として日本産の巨峰、界面活性剤としてポエムDL-100(理研ビタミン株式会社)を用いた。アルカリ剤として水酸化ナトリウム(和光純薬工業株式会社、食品添加物用途)および重曹(炭酸水素ナトリウム)(和光純薬工業株式会社、食品添加物用途)を用いた。その他の助剤として、エタノールは試薬特級(純正化学株式会社)、パルミチン酸は試薬特級(東京化成工業株式会社)、オレイン酸は試薬特級(東京化成工業株式会社)、グリセリンは試薬特級(和光純薬工業株式会社)、ビタミンCは食品添加物用途(純正化学株式会社)、大豆レシチンは食品添加物用途の大豆レシチンSLP-PC35(辻製油株式会社)、炭酸ナトリウムは食品添加物用途(和光純薬工業株式会社)を用いた。
(b)方法
表9に示す試験区と条件にて検討を行った。巨峰果実は房および果軸から脱離したのち水道水で洗浄した。BおよびC区は特許文献4(特開昭53-88348号公報)、D区は特許文献5(特開昭54-151153号公報)、E区は特許文献6(特開昭54-151154号公報)、FおよびG区は特許文献7(特開昭53-44647号公報)、H区は特許文献8(特開昭56-72676号公報)の特許明細書記載の実施例に準じた。
A区は実施例7記載の方法にて処理を行った。B〜H区は、表9記載の条件の加工助剤を添加した水酸化ナトリウム水溶液をそれぞれ1.0 L調製し、洗浄した巨峰果実を1試験区につき10果粒(約100 g)入れたのち、表9記載の各処理時間で浸漬した。浸漬後に果皮が果粒周囲の半周以上に大きく開裂した割合(果皮開裂率)、および流水下での手作業による果皮の実離れ様態を実施例2の表4に示す評価基準で評価した。これらの検証後に、果肉の食味について表11に示す評価基準で検討した。
(c)結果
本発明方法(A区)では100%の果皮開裂が見られ、良好な剥皮および果肉の食味であったのに対し、B〜H区においてD区以外では果皮はまったく開裂が見られず強固に残り、剥皮が易化することはなかった(表10)。D区でも果皮開裂率は40%に留まり、強アルカリ処理による果肉の損傷ならびに食味の低下が見られた(表10)。以上より、ブドウ果実の剥皮易化において、本発明方法の明らかな優位性が示された。
【0042】
【表9】
【0043】
【表10】
【0044】
【表11】
【0045】
(実施例9)巨峰に対する剥皮易化スケールアップ検討
(a)試料
原料ブドウ果実として日本産の巨峰を用いた。界面活性剤としてポエムDL-100(理研ビタミン株式会社)を用いた。アルカリ剤として重曹(炭酸水素ナトリウム)(和光純薬工業株式会社、食品添加物用途)を用いた。
(b)方法
巨峰果実は房および果軸から脱離したのち水道水で洗浄した。巨峰果実5ないし10 kgに対し、それぞれ予め加温した水道水に1.0重量%の濃度でポエムDL-100を溶解し、界面活性剤水溶液として40 L調製した。この界面活性剤水溶液に洗浄した巨峰果実を5ないし10 kg入れ、40〜60℃で60分間それぞれ反応させた。重曹(炭酸水素ナトリウム)水溶液80 Lを0.10重量%濃度で調製し95℃以上に沸騰させたのち、界面活性剤処理後の巨峰果実をそれぞれ60〜120秒間浸漬した。浸漬後に果粒100個を無作為に選び、果皮が果粒周囲の半周以上に大きく開裂した割合(果皮開裂率)を算出することを独立して3回行い、平均値を求めた。流水下での手作業による果皮の実離れ様態を実施例2の表4に示す評価基準で評価した。これらの検証後に、果肉の食味について実施例8の表11に示す評価基準で検討した。
(c)結果
ブドウ原料として巨峰果実を5〜10 kg用いて剥皮易化処理を行った場合、アルカリ処理後の果皮開裂率はそれぞれ80%および77%と良好な結果で、果皮の実離れも良く果肉の食味も良好で非処理の果肉と同等であった(表12)。
【0046】
【表12】
【0047】
(実施例10)アルカリ処理前の物理的処理による効果の検討
(a)試料
原料ブドウ果実として国産の巨峰を用いた。アルカリ剤として重曹(炭酸水素ナトリウム)(和光純薬工業株式会社、食品添加物用途)を用いた。
(b)方法
巨峰果実は房および果軸から脱離したのち水道水で洗浄した。洗浄後の巨峰果実に対し、直径3 mmの千枚通しを用いて表13に示す傷つけ方法(A〜C区)で果肉に達する程度の10〜30箇所の穴あけを行った。表13に記載の極道面とは果実の頭頂部と果梗部を結んだ一周のことをいい、赤道面とは極道面と垂直に交差する果実周囲の最も膨らんだ一周のことをいう。穴あけ後の巨峰を1試験区あたり20果粒(約200 g)用意し、95℃以上の0.10重量%濃度重曹(炭酸水素ナトリウム)水溶液1.0 Lに120秒間浸漬した。浸漬後に果皮が果粒周囲の半周以上に大きく開裂した割合(果皮開裂率)、および流水下での手作業による果皮の実離れ様態を実施例2の表4に示す評価基準で評価した。これらの検証後に、果肉の食味について実施例8の表11に示す評価基準で検討した。
(c)結果
アルカリ処理前の工程として、界面活性剤処理に代えて物理的な穴あけ処理を検討した。3種類の穴あけ方法を検討した結果、いずれの方法でもアルカリ処理後の果皮開裂率は80%と良好な結果で、果皮の実離れおよび果肉の食味も良好で、果肉品質は非処理の果肉と同等であった(表13)。
【0048】
以上より、本発明方法はアルカリ処理前の果皮への傷つけ処理が重要と考えられ、これは実施例6の結果を裏付けるものであった。その方法としては、界面活性剤による化学的処理に加えて、物理的処理も有効であることが示された。
【0049】
【表13】
図1
図2
図3
図4