特許第6034921号(P6034921)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6034921胡蝶蘭抽出エキス、その調製方法及びその応用(THEACTIVEEXTRACTOFPHALAENOPSIS,PREPARATIONMETHODANDUSETHEREOF)
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6034921
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】胡蝶蘭抽出エキス、その調製方法及びその応用(THEACTIVEEXTRACTOFPHALAENOPSIS,PREPARATIONMETHODANDUSETHEREOF)
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/898 20060101AFI20161121BHJP
   A61K 8/97 20060101ALI20161121BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20161121BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20161121BHJP
   A61P 17/18 20060101ALI20161121BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20161121BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20161121BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   A61K36/898
   A61K8/97
   A61Q19/02
   A61P17/16
   A61P17/18
   A61P17/00
   A61Q19/08
   A61P43/00 111
【請求項の数】24
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2015-112374(P2015-112374)
(22)【出願日】2015年6月2日
【審査請求日】2015年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】514121491
【氏名又は名称】青山▲蘭▼花生物科技有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】515149269
【氏名又は名称】▲徳▼豐銘國際股▲分▼有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】390023582
【氏名又は名称】財團法人工業技術研究院
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(72)【発明者】
【氏名】▲頼▼惠敏
(72)【発明者】
【氏名】劉青山
(72)【発明者】
【氏名】黄▲ギョク▼林
(72)【発明者】
【氏名】李宗翰
(72)【発明者】
【氏名】劉思秀
(72)【発明者】
【氏名】邱品齊
(72)【発明者】
【氏名】早川 淳一
(72)【発明者】
【氏名】山崎 智士
【審査官】 春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−070338(JP,A)
【文献】 特開2003−144871(JP,A)
【文献】 特表2006−524211(JP,A)
【文献】 特開平07−252128(JP,A)
【文献】 特開2006−282536(JP,A)
【文献】 特開2006−282537(JP,A)
【文献】 特開2004−018493(JP,A)
【文献】 一丸ファルコス株式会社,オーキッドエキスN,フレグランスジャーナル,2010年 4月15日,第38巻,第4号,p.97−98
【文献】 植物種苗電子報[online],郭華仁,2009年 1月10日,第0093期 第三版,p.1−8,[2016年3月10日検索],インターネット,URL,http://e-seed.agron.ntu.edu.tw/0093/30093.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00−36/9068
A61K 8/00− 8/99
A61Q 19/00−19/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CiNii
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一種の蘭花エキスであって、この蘭花は胡蝶蘭属であり、
(1)抽出:蘭花に、重量比0.5:1〜10:1で浸出剤を混合し、粉砕または破壁して蘭花パルプを得るが、この浸出剤は、水、アルコール類、またはその混合物で、このアルコール類は、エタノール、プロパノールまたはブタノールとする;
(2)固体液体分離:(1)の蘭花パルプの固体と液体を分離し、雑質を取り除き、液体の蘭花ろ過液を得る;
(3)活性区分:(2)のろ過液を膜にかけて純化し、蘭花エキススクリーニング液を得る;
(4)濃縮:(3)のスクリーニング液を膜を用いて濃縮するか、或いは真空装置や加熱といった方法で部分的に濃縮して、活性沈殿物及び活性の液体抽出エキスを得る;の手順で調製し
ステップ(3)における前記薄膜は、重量平均分子量150MWであることを特徴とする、
蘭花エキス。
【請求項2】
請求項1において、この胡蝶蘭は、胡蝶蘭属ソゴーユキディアン種「旭東威士忌」(Phalaenopsis Sogo Yukidian ’Shiuh−Dong Whishkey’)である蘭花エキス。
【請求項3】
請求項1において、ステップ(1)の蘭花と浸出剤を重量比5:1で混合して抽出した蘭花エキス。
【請求項4】
請求項1において、ステップ(2)の固体液体分離の温度が0〜60℃である蘭花エキス。
【請求項5】
請求項4において、ステップ(2)の固体液体分離の温度が0〜35℃である蘭花エキス。
【請求項6】
請求項1において、ステップ(2)の固体液体分離の際に遠心法またはろ過法を用い、ろ過の材料として、珪藻土、パーライト、紙フィルター、ろ過芯(0.1〜5μm)のうち、一個以上を選んで用いることを特徴とする蘭花エキス。
【請求項7】
請求項1において、ステップ(3)の活性区分及びステップ(4)の濃縮における薄膜ろ過プロセスは、第一段階は無機セラミック膜または有機複合膜、第二段階はナノフィルトレーション膜(NF、nanofiltration membrane)または逆浸透膜、という二段階に分けて行うことを特徴とする蘭花エキス。
【請求項8】
請求項7において、この無機セラミック膜は、酸化アルミニウム膜、酸化ジルコニウム膜または酸化テルルを含むことを特徴とする蘭花エキス。
【請求項9】
請求項7において、この有機複合膜は、ポリスルホン膜、酢酸セルロース膜、テフロン膜、ポリプロピレン膜を含むことを特徴とする蘭花エキス。
【請求項10】
請求項7において、ナノフィルトレーション膜または逆浸透膜は、単一の薄膜または複合薄膜で、この薄膜の素材は、複合膜(TFM、thin film membrane)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリスルホン(PS)、ポリエーテルスルホン(PES)及びポリアクリロニトリル(PAN)のうち、一種以上を含むことを特徴とする蘭花エキス。
【請求項11】
請求項1において、ステップ(4)における活性沈殿物の構造鑑定に当たり、核磁気共鳴(NMR)及び質量分析法(MS)を用いて化学構造を分析鑑定することを特徴とする蘭花エキス。
【請求項12】
医薬組成物であって、有効量の請求項1に記載の蘭花抽出濃縮液、沈殿物またはその組合せ、及び薬学的に許容可能な賦形剤を含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項13】
請求項1に記載の蘭花抽出濃縮液、沈殿物またはその組合せで、美白機能を有する組成物の調製に用いることを特徴とする蘭花エキス。
【請求項14】
請求項13において、チロシナーゼを抑制する美白薬物の調製に用いることを特徴とする蘭花エキス。
【請求項15】
請求項13において、メラニン生成を抑制する美白薬物の調製に用いることを特徴とする蘭花エキス。
【請求項16】
請求項1に記載の蘭花抽出濃縮液、沈殿物またはその組合せで、ラジカルに起因する疾病を治療する薬物に用いることを特徴とする蘭花エキス。
【請求項17】
請求項16において、ラジカルを素早く消去する薬物の調製に用いることを特徴とする蘭花エキス。
【請求項18】
請求項1に記載の蘭花抽出濃縮液、沈殿物またはその組合せで、抗シワ及び抗加齢薬物の調製に用いることを特徴とする蘭花エキス。
【請求項19】
請求項18において、コラーゲンの欠如に起因する疾病を治療する薬物の調製に用いることを特徴とする蘭花エキス。
【請求項20】
請求項18において、マトリックスメタロプロテアーゼを抑制する抗シワまたは抗加齢薬物の調製に用いることを特徴とする蘭花エキス。
【請求項21】
請求項18において、コラゲナーゼを抑制する抗シワまたは抗加齢薬物の調製に用いることを特徴とする蘭花エキス。
【請求項22】
請求項18において、エラスターゼを抑制する抗シワまたは抗加齢の薬物調製に用いることを特徴とする蘭花エキス。
【請求項23】
蘭花エキスであって、この蘭花は胡蝶蘭属であり、
(1)抽出:蘭花に、重量比0.5:1〜10:1で浸出剤を混合し、粉砕または破壁して蘭花パルプを得るが、この浸出剤は、水、アルコール類、またはその混合物で、このアルコール類は、エタノール、プロパノールまたはブタノールとする;
(2)固体液体分離:(1)の蘭花パルプの固体と液体を分離し、雑質を取り除き、液体の蘭花ろ過液を得る;
(3)活性区分:(2)のろ過液を膜にかけて純化し、蘭花エキススクリーニング液を得る;
(4)濃縮:(3)のスクリーニング液を膜を用いて濃縮するか、或いは真空装置や加熱といった方法で部分的に濃縮して、活性沈殿物及び活性の液体抽出エキスを得る;の手順で調製し、
ステップ(3)における前記薄膜は、重量平均分子量150MWであることを特徴とする蘭花エキス。
【請求項24】
蘭花エキスの調製方法であって、この蘭花は胡蝶蘭属であり、
(1)抽出:蘭花に、重量比0.5:1〜10:1で浸出剤を混合し、粉砕または破壁して蘭花パルプを得るが、この浸出剤は、水、アルコール類、またはその混合物で、このアルコール類は、エタノール、プロパノールまたはブタノールとする;
(2)固体液体分離:(1)の蘭花パルプの固体と液体を分離し、雑質を取り除き、液体の蘭花ろ過液を得る;
(3)活性区分:(2)のろ過液を膜にかけて純化し、蘭花エキススクリーニング液を得る;
(4)濃縮:(3)のスクリーニング液を膜を用いて濃縮するか、或いは真空装置や加熱といった方法で部分的に濃縮して、活性沈殿物及び活性の液体抽出エキスを得る;の手順で調製し、
ステップ(3)における前記薄膜は、重量平均分子量150MWであることを特徴とする蘭花エキス調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、美白効果、抗酸化及び抗シワ(抗加齢)の働きをする蘭花エキス及びその抽出方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、皮膚の色は、1、皮膚の中における色素の含有量と分布状況、2、皮膚を流れる血液中におけるヘモグロビンの酸化還元比率、3、皮膚の厚み及び皮膚表面における光の散乱、によって決まる。外的環境の影響(紫外線、大気汚染)、望ましくない生活習慣(不正確な美容、質の劣る化粧品、スクリーンの電磁波暴露)、皮膚の老化(免役能力の低下、微小循環の喪失、代謝能力の衰え)は、いずれも皮膚に色素沈着、色素分布の不均一、光沢の喪失と不透明感をもたらす。
皮膚の基底細胞層におけるメラノサイト(Melanocytes)は、円形を呈する単細胞分泌器官であり、分岐した長い管状の突起が表皮細胞に食い込んでいる。表皮の深層において形成されたメラニンは、皮膚の表面に転移するが、これにともなってメラノサイト本体が移動するわけではなく、角質細胞がメラニンを転移させる働きをする。角質細胞によるメラニンの皮膚表面転移は、元よりヒトに備わっている体細胞保護機能である。
【0003】
直射日光を浴びたり紫外線に暴露すると、メラノサイト内のチロシナーゼが活性化されてメラニン生成が促され、皮膚はメラニンの合成経路(Raper−Mason pathway、図2参照)を経て、一連の化学反応と活性酵素の作用でメラニンが形成される。メラニンは一種の高分子複合体であり、皮膚が紫外線に照射されると、メラノサイト内のチロシナーゼ(tyrosinase)が活性化され、メラノサイト内のチロシン(tyrosine)を酸化してジヒドロオキシフェニルアラニン(dihydroxyphenylalanine、通称DOPA、ドーパ)が形成され、ドーパがチロシナーゼによってドーパクロム(dopachrome)へと代謝される。メラニン合成経路は、チロシナーゼのチロシンをヒドロオキシ化してL−3,4−ジヒドロオキシフェニルアラニン(L−3,4−dihydroxyphenylalanine、通称L−DOPA、L−ドーパ)を生成し、L−ドーパをドーパクロム(dopachrome)へと代謝させる働きに関与している。そして、ドーパクロムが酸化してメラニンになるが、この一連の酸化反応を通して、ドーパクロムからユウメラニン(eumelanin)が合成される。
【0004】
チロシナーゼ(tyrosinase)は銅イオンを含む多フェノール酸化酵素であり、メラノサイトにより合成され、活性のレベルは出所によって異なる。チロシナーゼがチロシン(tyrosine)と結合する部位には銅イオンの活性中心が3個あることから、今日の研究によると、チロシナーゼを抑制するには次の二種類のメカニズムを利用することになる。
(1)チロシナーゼの活性阻害:この反応メカニズムは、酵素分子の構造上、銅イオンを有しているので、抑制物として、銅キレート剤(copper−chelating agent)に類似する方法を利用して銅イオンをキレート化する、或いは銅イオンと競合させて、銅イオンの結合力を弱めることによって、チロシナーゼの活性を抑制してメラニン生成のメカニズムを遮断する方法であり、この手の抑制物の代表的成分としてはコウジ酸(kojic acid)がある。
(2)チロシナーゼ基質との競合阻害:この反応メカニズムは、抑制物をチロシンまたはドーパといった基質と競合させてチロシナーゼとの反応を促進し、チロシナーゼに働きかける基質を減少させることによってメラニンの形成を抑制する方法であり、この競合による基質阻害の代表的成分として、ハイドロキノン(hydroquinone)、アルブチン(arbutin)がある。
【0005】
美白はアジア女性がもっとも重視する化粧品、スキンケア用品の機能のひとつである。化粧品原料における美白機能の有無を評価としては、以下の方法が知られている。
(1)チロシナーゼ抑制の有無:チロシナーゼはメラニンを生成する酵素なので、この酵素が抑制できれば、メラニン生成も減少する(図2)。
(2)マウス由来のメラノーマ細胞(B16 cell line):原料(または成分)がチロシナーゼを抑制するには、その成分による作用メカニズム発揮の前提として、成分が細胞内に浸透できなければならない。よって一部の学識者は、マウス由来のメラノーマ細胞(B16 cell line)を用いて、メラノサイトの生長やメラニン合成を抑制する美白の機能の有無を調べている。しかし、メラノーマ細胞はメラノサイトの黒色腫細胞であり、メラニン生成の量と成分という点では、メラノーマ細胞に対して得た抑制効果は、健康体のヒトの皮膚に対する効果とは往々にして異なる。
(3)初代培養(primary culture)ヒトメラノサイト(human melanocyte):ヒトのメラノサイトの初代培養なので、人間の真の皮膚細胞に最も近似している。通常は、無害の成分を最大量(たとえば、細胞生存率95%となる成分濃度)で、メラノサイトに対するメラニン抑制効果を確認し、美白機能の評価を行う。
以上の三種類の方法はいずれも、顕著な美白効果を示す例は決して多くなく、このような効果が示されれば、その成分が比較的優れた美白機能を有することになる。
【0006】
各国の主管機関は、新しい化粧品としての使用原料を審査するに当たり、安全性評価の結果をことのほか重視している。化粧品の新原料安全性評価は、従来ならば動物実験によって進められており、最も重要で基本的なものに、皮膚刺激性、皮膚腐食性及び皮膚感作性の試験がある。
ところが、EUは2013年7月から動物実験を禁止し(animal ban)、動物実験を実施した製品の販売を禁止した(Marketing ban)ので、国際社会は動物実験に代替する試験(Alternative testing)に対してかなりの金銭と時間を投入し、動物実験に代替する試験方法の開発に力を入れており、いわゆる3D人工皮膚、及びOECD認可の実験方法で化粧品原料の安全性試験を行っている。この研究においては、ドイツ製3D人工皮膚(3D human skin tissue)を用いて化粧品原料の皮膚刺激性試験(OECD 439)及び皮膚腐食性試験(OECD 431)を実施した。また、人体の臨床試験で皮膚感作性試験を行うとともに、3D人工皮膚による皮膚刺激性及び皮膚腐食性の試験の結果を確認した。
【0007】
成分の安全性と有効性の両方を確保するため、台湾衛生署は、コウジ酸(Kojic Acid)、アルブチン(Arbutin)、エラグ酸(Ellagic Acid)、カモミラET(Chamomile ET)など、使用可能な美白成分及びその濃度をリストアップしている(表1参照)。表1によると、使用可能な美白成分は多いとは言えず、しかも酸類はほとんどが部分的な刺激感をもたらす。最近、カネボウ社のツツジノールを使った消費者に白斑が発生する問題が起きたこともあり、安全性と有効性を求めると同時に、実際に使用しても問題のない美白化粧品の原料を求め、ひいては美白以外の機能や特性を兼備する化粧品の新原料を探し出すことが、多くのメーカーの目標となっている。
【0008】
表1 台湾食品薬物管理署が公表した美白成分
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明の発明者は長年の研究を経て、特定の蘭花(胡蝶蘭属)は、特殊なエキス抽出過程を経ることによって、そのエキスがチロシナーゼの活性抑制、抗酸化及び抗シワ(抗加齢)の各作用を有することを発見した。このエキスは、構造が類似する三種類以上のフラボノイドを含み、チロシナーゼ、マウス由来のメラノーマ細胞、初代培養ヒトメラノサイト、及び治験で、いずれも美白の作用を示すとともに、生物化学的、分子生物学的分析を通して、抗酸化及び抗シワ(抗加齢)の効果を有することがわかっている。蘭花の特定に当たっては、基原鑑定により他の蘭花と区別できる。
【0010】
全工程が低温、水抽出で行われるグリーン製造プロセスを経て得る、複数の機能を併せ持った抽出エキスは、特定のフラボン構造の結晶またはそのようなフラボンを含む活性エキスである。この抽出エキスはチロシナーゼ抑制の能力をもつと同時に、メラノサイトによるメラニン生成を抑制する能力、及び抗酸化と抗シワ(抗加齢)の機能を備えており、対外細胞実験及び治験で安全性が実証されており、商品化の可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は一種の蘭花エキスを提供することであり、この蘭花は胡蝶蘭属で、次の手順で調製することができる。
(1)抽出:蘭花に、重量比0.5:1〜10:1で浸出剤を混合し、粉砕または破壁して蘭花パルプを得るが、この浸出剤は、水、アルコール類(例:エタノール、プロパノール、ブタノール)、またはその混合物とする。
(2)固体液体分離:(1)の蘭花パルプの固体と液体を分離し、雑質を取り除き、液体の蘭花ろ過液を得る。
(3)活性区分:(2)のろ過液をゼオライト膜にかけて純化し、蘭花エキススクリーニング液を得る。
(4)濃縮:(3)のスクリーニング液をゼオライト膜を用いて濃縮するか、或いは真空装置や加熱といった方法で部分的に濃縮して、活性沈殿物及び活性の液体抽出エキスを得る。
【0012】
前記目的を達成するため、胡蝶蘭は、胡蝶蘭属ソゴーユキディアン種「旭東威士忌」(Phalaenopsis Sogo Yukidian ’Shiuh−Dong Whishkey’)とする。この蘭花は、行政院農業委員会植物品種権証書品種権字第A00595号、青山蘭花生物科技有限公司の出品である。
【0013】
前記目的を達成するため、ステップ(1)における蘭花と浸出剤の混合の重量比は5:1として蘭花パルプを得る。
【0014】
前記目的を達成するため、ステップ(2)における固体液体分離の温度は0〜60℃とする。
【0015】
前記目的を達成するため、ステップ(2)における固体液体分離は0〜35℃とする。
【0016】
前記目的を達成するため、ステップ(2)における固体液体分離の際に用いる遠心法またはろ過法は、ろ過の材料として、珪藻土、パーライト、紙フィルター、布フィルター、ろ過芯(0.1〜5μm)のうち、一個以上を選んで用いる。
【0017】
前記目的を達成するため、ステップ(3)活性区分及びステップ(4)濃縮における薄膜ろ過プロセスは、二段階に分けて行う。第一段階は無機セラミック膜または有機複合膜を用い、第二段階はナノフィルトレーション膜または逆浸透膜を用いる。無機セラミック膜は、酸化アルミニウム膜、酸化ジルコニウム膜、または酸化テルルを含む。有機複合膜は、ポリスルホン膜、酢酸セルロース膜、テフロン膜、ポリプロピレン膜を含む。ナノフィルトレーション膜または逆浸透膜は、単一の薄膜または複合薄膜で、この薄膜の素材は、複合膜(TFM、thin film membrane)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリスルホン(PS)、ポリエーテルスルホン(PES)及びポリアクリロニトリル(PAN)のうち、一種以上を含み、この薄膜分離圧力は150−400psiの範囲内とし、200−300psiとするのが望ましい。
【0018】
前記目的を達成するため、ステップ(4)における活性沈殿物の構造鑑定に当たり、核磁気共鳴(NMR)及に質量分析法(MS)を用いて化学構造を分析鑑定する。
【0019】
本発明の別の目的として、有効量の上記蘭花抽出濃縮液、沈殿物(化合物)またはその組合せ、及び薬学的に許容可能な賦形剤を含む医薬組成物を提供することがある。
【0020】
本発明の別の目的として、美白機能を有する薬物の調製に用いる蘭花エキスを提供することがあり、この蘭花エキスは上述の蘭花抽出濃縮液、沈殿物またはその組合せであり、この蘭花エキスはチロシナーゼを抑制する美白薬物または活性成分の調製に用いられ、この蘭花エキスはメラニン生成を抑制する美白薬物または活性成分の調製に用いられる。
【0021】
本発明の別の目的として、ラジカルに起因する疾病を治療する薬物に用いる蘭花エキスを提供することがあり、この蘭花エキスは上述の蘭花抽出濃縮液、沈殿物またはその組合せであり、この蘭花エキスはラジカルを素早く消去する薬物または活性成分の調製に用いられる。
【0022】
本発明の別の目的として、抗シワ(抗加齢)薬物の調製に用いる蘭花エキスを提供することがあり、この蘭花エキスは上述の蘭花抽出濃縮液、沈殿物またはその組合せであり、この蘭花エキスはコラーゲンの欠如に起因する疾病を治療する薬物または活性成分の調製に用いられ、この蘭花エキスはマトリックスメタロプロテアーゼを抑制する抗シワ(抗加齢)薬物または活性成分の調製に用いられ、この蘭花エキスはコラゲナーゼを抑制する抗シワ(抗加齢)薬物または活性成分の調製に用いられ、この蘭花エキスはエラスターゼを抑制する抗シワ(抗加齢)薬物または活性成分の調製に用いられる。
【0023】
本発明の別の目的として、蘭花活性エキスを提供することがあり、この蘭花は胡蝶蘭属で、次の手順によって調製することができる。
(1)抽出:蘭花に、重量比0.5:1〜10:1で浸出剤を混合し、粉砕または破壁して蘭花パルプを得るが、この浸出剤は、水、アルコール類(例:エタノール、プロパノール、ブタノール)、またはその混合物とする。
(2)固体液体分離:(1)の蘭花パルプの固体と液体を分離し、雑質を取り除き、液体の蘭花ろ過液を得る。
【0024】
本発明の別の目的として、蘭花活性エキスを提供することがあり、この蘭花は胡蝶蘭属で、次の手順によって調製することができる。
(1)抽出:蘭花に、重量比0.5:1〜10:1で浸出剤を混合し、粉砕または破壁して蘭花パルプを得るが、この浸出剤は、水、アルコール類(例:エタノール、プロパノール、ブタノール)、またはその混合物とする。
(2)固体液体分離:(1)の蘭花パルプの固体と液体を分離し、雑質を取り除き、液体の蘭花ろ過液を得る。
(3)活性区分:(2)のろ過液をゼオライト膜にかけて純化し、蘭花エキススクリーニング液を得る。
(4)濃縮:(3)のスクリーニング液をゼオライト膜を用いて濃縮するか、或いは真空装置や加熱といった方法で部分的に濃縮して、活性沈殿物及び活性の液体抽出エキスを得る。
【0025】
本発明の別の目的として、蘭花活性エキス調製方法を提供することがあり、この蘭花は胡蝶蘭属で、次の手順によって調製することができる。
(1)抽出:蘭花に、重量比0.5:1〜10:1で溶剤を混合し、粉砕または破壁して蘭花パルプを得るが、この浸出剤は、水、アルコール類(例:エタノール、プロパノール、ブタノール)、またはその混合物とする。
(2)固体液体分離:(1)の蘭花パルプの固体と液体を分離し、雑質を取り除き、液体の蘭花ろ過液を得る。
(3)活性区分:(2)のろ過液をゼオライト膜にかけて純化し、蘭花エキススクリーニング液を得る。
(4)濃縮:(3)のスクリーニング液をゼオライト膜を用いて濃縮するか、或いは真空装置や加熱といった方法で部分的に濃縮して、活性沈殿物及び活性の液体抽出エキスを得る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】蘭花エキス抽出作業の流れ
図2】チロシナーゼ(tyrosinase)によるメラニン合成経路(Raper−Mason pathway)DPI: 5,6−ジヒドロキシインドール(5,6−dihydroxyindole)DHICA: 5,6−ジヒドロキシインドール−2−カルボン酸(5,6−dihydroxyindole−2−carboxylic acid)
図3】蘭花エキス沈殿物プロトン核磁気共鳴(1H−NMR)分析図(バリアン社、Varian 500)(A)及びカーボン13核磁気共鳴(13C−NMR)分析図(バリアン社、Varian 500)(B)
図4】蘭花沈殿物の質量分析(MS)分析結果(A)及び標準品(アピゲニン−6−リボシド−7−グルコシド)の質量分析(MS)分析結果(B)
図5】蘭花沈殿物の質量分析(MS)分析結果(A)及び標準品(サポナリン)の質量分析(MS)分析結果(B、C)
図6】蘭花沈殿物の質量分析(MS)分析結果(A)及び標準品(アピゲニン 7−グルコシド)の質量分析(MS)分析結果(B)
図7】蘭花抽出濃縮液の皮膚腐食性試験結果(A)及び蘭花抽出濃縮液の皮膚刺激性試験結果(B)
図8】エタノール濃度が異なるエタノール水で抽出した蘭花抽出濃縮液における総フェノール含有量(没食子酸等量(gallic acid equivalent、GAE)に換算)
図9】エタノール濃度が異なるエタノール水で抽出した蘭花抽出濃縮液におけるジフェニルピクリルヒドラジル(DPPH)ラジカル消去率(A)、蘭花抽出濃縮液とジブチルヒドロキシトルエン(BHT)ラジカル消去率(B)、蘭花及び蘭葉の抽出濃縮液と2,2’−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)(ABTS)ラジカル消去能(C)
図10】エタノール濃度が異なるエタノール水で抽出した蘭花抽出濃縮液におけるチロシナーゼ抑制率評価(A)、異なる種類の蘭花を用い、異なる方法で水抽出した蘭花抽出濃縮液(物)のチロシナーゼ抑制率(B)、蘭花及び蘭葉の抽出濃縮液のチロシナーゼ抑制能力(C)
図11】エタノール濃度が異なるエタノール水で抽出した蘭花抽出濃縮液または沈殿物が、メラノサイトによるメラニン生成を抑制する実験の結果
図12】AからHの異なる「旭東威士忌」蘭花エキスを用いてヒトメラノサイト(HMC−4細胞)に対して細胞生存率実験を行った結果
図13】異なる「旭東威士忌」蘭花エキスを用いてメラニン抑制の実験を行った結果(M254:M254培地、M2:M2培地、KA:コウジ酸(Kojic acid))
図14】蘭花抽出濃縮液の抗シワ(抗加齢)能力試験
【発明を実施するための形態】
【0027】
本文書に用いる技術的、科学的用語は、別途定義されている場合を除き、その用語が属する領域で通常の技能を有する者が共有する認識に基づいて解釈する。
【0028】
本文書に用いる用語「エキス」とは、抽出の作用により調製して得た物を指す。エキスは浸出剤中に溶け込んだ液状を呈することもあれば、浸出剤を含まない、或いはほとんど含まない、濃縮物またはエッセンスの状態を呈することもある。後に詳述するように、エキスは医薬組成物または食品中に配合することができる。
用語「エキス」とは、特定の抽出の手順または一連の抽出の手順を経て得た単一のエキスである場合もあれば、おのおの独立した抽出の手順を経て得たエキスの組合せである場合もある。よって、このように組み合わせたエキスもまた、用語「エキス」に含めるものとする。
【0029】
本文書に用いる「原料」とは、通常、原材料としての植物を指し、単独の植物全体、または、葉、根(太根、細根、ひげ根を含むが、この限りではない)、茎、皮、ベリー、種子、花を含め、一個以上の植物組成部分の組合せを含み、この植物またはその組成部分は、原始の状態、乾燥、加熱、加温、または他の方法により、加工に利するよう物理的に加工した材料、そして、元の状態、刻み、切断、すりつぶし、研磨、または他の加工方法により、植物材料の寸法及び実体の完全性に影響を与えた材料を含む。用語「原料」は、別の抽出過程に用いる材料から抽出した抽出物を表すことも可能である。
【0030】
本発明は皮膚外用剤組成物とすることができ、上述の蘭花エキスを組成物とするのに加えて、基剤として、一般化粧品または医薬品などの皮膚外用剤に用いる成分(保湿剤、抗酸化剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色剤、水性成分、水、さまざまな皮膚栄養剤など)を適宜添加してもよい。
また、以下を適宜添加してもよい。エデト酸ナトリウム、エデト酸3ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、ブドウ糖などの金属遮断剤;カフェイン、タンニン酸、ベラパミル(verapamil)、トラネキサム酸及びその派生物、甘草エキス、グリチルリチン、ピラカンサ果実の熱水抽出エキス、各種の生薬、トコフェロール酢酸エステル、グリチルリチン酸及びその派生物またはその塩などの薬剤ビタミンC、アスコルビン酸リン酸ナトリウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸など、その他の美白剤;ブドウ糖、フルクトース、マンノース、スクロース、トレハロースなどの糖類。
【0031】
本発明における皮膚外用剤組成物は、たとえば、軟膏、クリーム、乳液、ローション、フェイスマスク(pack)、浴用剤、ゲルなどの剤型が考えられるが、皮膚外用剤組成物であることがわかればいずれでもよく、特に剤型を規定しない。
【0032】
「治療」、「治療において」、及びこれらに類する言葉は、患者を煩わしている病状またはその病状によりもたらされるすべての症状を緩和、改善、減少または好転させる方法、及びその病状または現在の症状を予防する方法を指す。
【0033】
「薬学的に許容可能」とは、物質または組成物が、調合される他の成分との間に相容性があり、患者に対し無害であることを指す。
【0034】
「薬学的に許容可能な賦形剤」とは、本文書においては、この分野の技能に通じる者の認識に照らし、蘭花エキスの物理的化学的特性と相容性があり、且つ、生理的にも薬学的にも不活性の物質を指す。
「薬学的に許容可能な賦形剤」とは、重合物、樹脂、可塑剤、充填料、潤滑剤、希釈剤、結合剤、崩壊剤、溶剤、溶解共力剤、界面活性剤、防腐剤、甘味剤、調味剤、薬学クラスの染料または顏料、及び粘着剤を指すが、この限りではない
【0035】
「医薬組成物」(pharmaceutical composition)とは、固体または液体の組成物で、その形式、濃度、純度が、患者(病気のヒトまたは動物)に投与するのに適合し、投与した後、生理的変化を誘発するものを指す。通常、医薬組成物は無菌及び非発熱性(non−pyrogenic)である。
【0036】
「有効量」とは、所望の生物学的反応を起こさせるのに必要な量を指す。この分野における通常の技術者の認識に照らすと、複合物または生物活性剤の有効量は、エンドポイント、生物活性剤の体内送達システム、被包物の材質、目標となる組織などの要素によって異なる。
【0037】
以下に本発明の実施例を記述するが、これに限るものではない。本発明に用いる蘭花、原料、生物材料はいずれも市販されており、次に示す例はその代表例に過ぎない。
【0038】
実施例一 蘭花エキス抽出方法
蘭花の抽出方法、手順は、図1に示すとおり。蘭花は、胡蝶蘭属ソゴーユキディアン種「旭東威士忌」(Phalaenopsis Sogo Yukidian ’Shiuh−Dong Whishkey’)とする。この蘭花は、行政院農業委員会植物品種権証書品種権字第A00595号であり、以下のように調製してエキスを得る。
【0039】
(1)抽出:蘭花に、重量比0.5:1〜10:1(5:1が望ましい)、時間3〜60分間(10分が望ましい)、温度0〜60℃(0〜35℃が望ましい)で、浸出剤を混合し、超音波、研磨などの方法(超音波が望ましい)で抽出し、粉砕または破壁して蘭花パルプを得る。この浸出剤は、水、アルコール類またはアルコール類の水溶液で、このアルコール類は、エタノール、プロパノールまたはブタノールとする。
【0040】
(2)固体液体分離:(1)の蘭花パルプの固体と液体を分離する。分離時間は20〜60分間(30〜40分間が望ましい)、温度0〜60℃(0〜35℃が望ましい)で、遠心、圧搾などの方法を用いるが、回転数1000〜3000rpm(1500〜2000rpmが望ましい)で行う。液体の蘭花粗エキスだけ残し、雑質を取り除く。
【0041】
(3)粗ろ過:(2)の蘭花粗エキスに対し、珪藻土、パーライト、紙フィルター、布フィルター、ろ過芯を用いて粗ろ過して、粗ろ過液を得る。珪藻土、パーライト、ろ過芯(0.1〜5μm)の組合せが望ましい。
【0042】
(4)活性区分:(3)の粗ろ過液をゼオライト膜にかけて純化する。この薄膜ろ過プロセスは二段階に分けて行う。
第一段階は、メッシュ径0.04〜1μm(0.04μmが望ましい)の、無機セラミック膜(酸化アルミニウム膜、酸化ジルコニウム膜、酸化テルルなど)、または有機複合膜(ポリスルホン膜(PS)、酢酸セルロース膜、テフロン膜、ポリプロピレン膜など)を用い、微細な粒子を分離し、浸透液を得る。
第二段階は、重量平均分子量100〜1000MW(150MWが望ましい)のナノフィルトレーション膜(nanofiltration membrane、NF)または逆浸透膜を用いる。この薄膜は、有機成分の、単一薄膜または複合薄膜で、この薄膜の素材は、複合膜(TFM、thin film membrane)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリスルホン(PS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアクリロニトリル(PAN)などがあり、この薄膜分離圧力は150−400psiの範囲内とする(200−300psiが望ましい)。余分な水分や有機物を取り除いて得た活性沈殿物と液体活性エキスが、蘭花抽出濃縮液である。
【0043】
(5)ろ過:(4)の蘭花エキス濃縮液をろ過して活性沈殿物を得る。沈殿物を洗浄して乾燥させ、白色・黄色の結晶を得る。
ジメチルスルホキシド(DMSO)を浸出剤とし、プロトン核磁気共鳴(1H−NMR)(図3A)パルスシーケンス(Pulse Sequence):s2pul、25℃、緩和遅延:1.0秒、パルス(pulse)45℃、取り込み時間3.000秒、スイープ幅(Width)8000.0 Hz、積算回数:52、観測 H1, 499.8789802 MHz、線幅:0.1 Hz、FT サイズ(size):65536、総時間4分16秒、及びカーボン13核磁気共鳴(13C−NMR)(図3B)、パルスシーケンス(Pulse Sequence):s2pul、25℃、緩和遅延:0.5秒、パルス(pulse)40℃、取り込み時間:1.042秒、スイープ幅(Width):31446.5 Hz、積算回数:896、観測 C13, 125.6946696 MHz、デカップル H1, 499.8814989 MHz、パワー:36dB、線幅:1.0 Hz、FT サイズ:131072、総時間50分50秒。
分析の結果,フラボン化合物と考えられる。
【0044】
質量分析(mass spectrometry、MS)により上述の蘭花沈殿物の構造を分析すると、この蘭花沈殿物はフラボン(flavone)の組成物であり、この組成物はほとんどが二個の糖類と結合したフラボンであり、少ないが一個の糖類と結合したものもある。
【0045】
この組成物の構造は、少なくとも以下のものを含んでいる。
1.C262814::MW:564、二つの糖(リポシド(ribosido)及びグルコシド(glucoside))と結合したフラボンであり、組成物中における含有量が高く、アピゲニン−6−リポシド−7−グルコシド(Apigenin−6−ribosido−7−glucoside)(図4A蘭花沈殿物と図4B標準品アピゲニン−6−リポシド−7−グルコシド)と推定される。
2.C273015:MW:594、二つの糖(2個のグルコシド)と結合したフラボンであり、組成物中における含有量が高く、サポナリン(Saponarin)(図5A蘭花沈殿物と図5B、C標準品サポナリン)と推定される。
3.C212010:MW:432、ひとつの糖(1個のグルコシド)と結合したフラボンであり、組成物中における含有量は低く、アピゲニン−7−グルコシド(図7A蘭花沈殿物と図7B標準品アピゲニン−7−グルコシド)と推定される。
【0046】
実施例二 蘭花エキスの皮膚刺激性及び感作性試験
A.蘭花エキスに皮膚刺激性及び腐食性がないことを証する試験-細胞試験
皮膚腐食性標準試験(in vitro Skin Corrosion :Reconstructed Human Epidermis (RHE) Test Method)(版4.3、2012/11)(OECD 431)、及び皮膚刺激性標準試験(in vitro Skin Irritation: Reconstructed Human Epidermis Test Method)(版3.1、2012/11)(OECD 439)を参照し、ドイツ・セルシステムズCellSystems epiCSの3Dヒト表皮モデルキットを用いて試験を実施した。
【0047】
前記のOECD431、OECD439試験標準に従って皮膚腐食性/刺激性試験を行った。腐食性試験においては水を陰性対照群、水酸化カリウムを陽性対照群とし、ステップ(4)のごとく、メッシュ径0.04μmのPS膜、並びに重量平均分子量150MWの複合膜膜にかけて濃縮した「旭東威士忌」蘭花抽出濃縮液(EW−DK)を得る。OECD431皮膚腐食性試験の結果、皮膚腐食性はなかった(図7A)。
皮膚刺激性試験においては、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(Dulbecco’s Phosphate−Buffered Saline)を陰性対照群とし、5% ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)溶液を陽性対照群として、epiCSを用いて皮膚刺激性試験を行った結果、「旭東威士忌」蘭花エキス濃縮液に皮膚刺激性はなかった(図7B)。
【0048】
B.蘭花エキスに眼刺激性がないことを証する試験-細胞試験
本実施例においては、濃度5.7%及び6.7%の「旭東威士忌」蘭花抽出濃縮液、子宮頸癌細胞(HeLa細胞)を用いて眼刺激性試験を行った。
実施例一のステップ(4)のごとく、メッシュ径0.04μmのポリスルホン膜、並びに重量平均分子量150MWの複合膜膜にかけて「旭東威士忌」蘭花抽出濃縮液を得た後、さらに赤外線水分計で固形分を計測し、濃度6.7wt%及び5.7wt%の抽出濃縮液を用意して、試験を行った。
【0049】
眼刺激性試験の手順は以下のとおり。
液体窒素に保存されていたHeLa細胞を解凍し、5% ウシ胎仔血清(Fetal Bovine Serum、FBS)を含む最小必須培地(minimum essential medium)の中で、実験に必要な濃度になるまで培養する。10,000μg/mLで、5% ウシ胎仔血清を含む最小必須培地を十倍段階希釈して実験用に5種類の濃度を用意する。実験に十分なだけの細胞が培養された後、トリプシンで細胞を収集し、96ウェルトレイ(以下、トレイという)の各ウェルにピペッティングして、3日間培養する。培地で「旭東威士忌」蘭花抽出濃縮液(実験用)を実験に適する濃度になるまで調整した後、トレイに入れて、さらに48時間培養する。
【0050】
トレイから培地を取り出し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄後、[3−(4,5−ジメチル−2−チアゾリル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウム臭化物](3−(4,5−di−methylthiazol−2−yl)−2,5−diphenyltetrazolium bromide, yellow tetrazole、MTT)を含む培地(以下、MTTという)に入れ、2時間培養する。
トレイからMTTを取り出し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(−)で洗浄後、塩酸を含むイソプロピルアルコールを加え、細胞内に生成されたホルマザン色素(Formazan dye)を抽出する。ホルマザン色素が均一に抽出されたことを確認後、570nmで吸光度を計測し、細胞生存率が50%になるときの実験用濃度(EC50)を計算する。本実験は2回実施し、平均値を取って評価する。
【0051】
試験の結果、濃度5.7%及び6.7%の「旭東威士忌」蘭花抽出濃縮液に眼刺激性はなかった(表2)。
【0052】
表2 蘭花エキスの眼刺激性試験
*動物実験を行わない条件で完全な無刺激性の判定を得るには、細胞生存率50%のとき、濃度(EC50)が5,000 μg/mL以上である必要がある。表2のEC50は5,000 μg/mLを上回っているので、無刺激性と判定された。
【0053】
表3は、「旭東威士忌」蘭花抽出濃縮液の濃度が細胞生存率に与える影響を示している。
【0054】
表3
*% エキス中の固形分(solid content)重量濃度を百分率で示したもの。
【0055】
C.蘭花エキスに皮膚刺激性及び感作性がないことを証する試験-治験
この試験は、AMA実験室(AMA LABORATORIES, INC.)が性別や年齢の異なる52人の被験者に対して「旭東威士忌」蘭花エキスの治験を実施した。被験者は、年齢18歳から69歳までの男性9人、女性43人で、人種の内訳は、コーカサス系(Caucasian)38人、ヒスパニック系(Hispanic)12人、アジア系(Asian)2人であった。おのおのの被験者が9回の暴露を受け、治験結果は表4を参照されたい(AMA実験室報告参考コード:MS12.RIPT.M6496OP50.FEN.REV.2)。
その結果は、「旭東威士忌」蘭花エキスに皮膚刺激性及び皮膚感作性がないことを示している。この「旭東威士忌」蘭花抽出濃縮液は、実施例一ステップ(4)のごとく、メッシュ径0.04μmのポリスルホン膜、並びに重量平均分子量150MWの複合膜にかけて得たものである。
【0056】
表4 蘭花エキスに皮膚刺激性及び感作性がないことを証する治験
表中、C:コーカサス系、H:ヒスパニック系、A:アジア系、F:女性、M:男性、である。9回の暴露反応のうち、「0」は無反応(no evidence of effect)を示し、Dcとは治験中断、被験者が治験場所に現れなかったことを示す。ポイントの「N/A」は、治験中断によりポイント計算が不可能であることを示す。この表によると、個人的理由により治験中断したのは2人だけで、残りの50人にはいかなる皮膚刺激性(skin irritation)も感作性反応(skin sensitization)も発生しなかった。この蘭花抽出濃縮液の皮膚に対する安全性が示されている。
【0057】
実施例三 蘭花エキス総フェノール含有量
実験方法:(1)炭酸ナトリウムが沒食子酸吸收度に与える影響の測定。濃度1,000μg/mLの沒食子酸(gallic acid)0.25mL、濃度20%、2%、0.2%、0.02%、0.002%及び0.0002%の炭酸ナトリウム0.5mL、蒸留水4.25mLを常温で25分間反応させた後、分光光度計200−800nmで吸光度を測定する。沒食子酸の最終的な濃度は50μg/mLとなる。
(2)フォリン・チオカルト(Folin−Ciocalteu)試薬と炭酸ナトリウムを添加する順序で、沒食子酸計測に与える影響を修正フォリン・チオカルト法で計測する。沒食子酸0.25mL及び同体積のフォリン・チオカルト試薬、濃度20%炭酸ナトリウム0.5mL及び蒸留水4mLを取り、沒食子酸の最終濃度を0、20、60及び100μg/mLとする。常温で25分間反応させた後、分光光度計730nmで吸光度を測定する。
【0058】
実験では、水、または20、40、60、80、100%という異なる濃度のエタノール水溶液で抽出を行い、手順は実施例一と同じで、「旭東威士忌」蘭花は実施例一ステップ(3)の粗ろ過液まで抽出したところ、図8のように、エタノール溶液の濃度によって総フェノール含有量は異なる値を示し、水抽出のほうがエタノール抽出よりも高い総フェノール含有量を示した。通常、総フェノール含有量が高いほど抗酸化性が強い。
【0059】
実施例四 蘭花エキスの抗酸化性評価
実験方法:ジフェニルピクリルヒドラジル(DPPH)ラジカル消去能の測定。2mlの濃度0.2g/ml試験サンプル、及び濃度5mg/mlのジブチルヒドロキシトルエン(BHT、2,6−Di−tert−butyl−4−methylphenol)エタノール溶液を用意し、それぞれに対し、新たに調製した2.5×10−4M α, α−ジフェニル−β−ピクリルヒドラジル(DPPH)エタノール溶液を0.5mlを加え、均一になるまで混合し、光を避けて30分間安置した後、紫外線/可視領域(UV−Vis)スキャンレンジを400nm−700nmに設定して、517nmで吸光度を測定して消去率を計算する。吸光度が低いほど消去能が高い。
実験は三重複する。ラジカル消去能EC50測定は、実験一により得たデータに基づき、濃度の異なる複数の試験サンプルの消去率を測定し、消去率が高いサンプル三つを選び、サンプルごとに適切な濃度となるよう、サンプルのエタノール溶液2mlに、2.5×10−4 M濃度ジフェニルピクリルヒドラジル(DPPH)0.5mlを加え、均一にまるまで混合し、光を避けて30分間安置した後、紫外線/可視スキャンレンジを400nm−700nmに設定して、517nmで吸光度を測定する。
実験は三重複する。濃度をY軸に、消去率をX軸にとって試験サンプルの検量線を描き、消去率50%のEC50濃度を計算する。「旭東威士忌」蘭花抽出濃縮液(EW−DK)の濃度は、実施例一ステップ(4)のごとく、メッシュ径0.04μmのPS膜、並びに重量平均分子量150MWの複合膜にかけて得たもので、赤外線水分計で固形分を測定し、濃度2mg/mlに統一する。
【0060】
実験結果は次のとおり。図9Aはジフェニルピクリルヒドラジル(DPPH)ラジカル消去率計測による総フェノール含有量計測の結果を表しており、蘭花は水抽出エキスのほうが強いラジカル消去能を示し、総フェノール含有量が高いことがわかる。図9Bは蘭花抽出濃縮液とジブチルヒドロキシトルエンの抗酸化能力の比較であり、ジブチルヒドロキシトルエンよりも蘭花抽出濃縮液のほうが遥かにラジカル消去の速度が速く、短時間で抗酸化の効果を発揮することを示している。図9Cは2,2’−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)(2,2’−azino−bis[3−ethylbenzthiazoline−6− sulphonic acid]、ABTS)ラジカル消去能の結果であり、IC50の値によると、蘭花抽出濃縮液は蘭葉抽出濃縮液よりもラジカル消去能が高いことを示している。
【0061】
実施例五 蘭花エキスの美白効果、チロシナーゼ抑制
A.チロシナーゼ抑制試験−濃度の異なるエタノール抽出
酵素の機能測定方法は、酵素によるメラニン生成過程においてドーパクロム(dopachrome)が形成されることを利用して酵素の機能性を決定する方法を採用し、ドーパクロムを紫外/可視領域波長475nmで吸収させ、酵素機能抑制率を計算し、この化合物がメラニン生成を減少させる能力を有しているかを観察できる。
1.試験溶液980μlに、0.8mM L−チロシン及び0.9M リン酸バッファ液(pH6.8)を加え、均一になるまで混合し、室温で10分間安置する。
2.440.5ユニット(unit)のチロシナーゼ及び試験サンプル10μlを素早く混合し、UV/Vis波長475nmで3分間、吸収変化を測定する。
チロシナーゼ抑制率(%)={(対照群-実験群)/対照群}×100%
【0062】
「旭東威士忌」蘭花は、0〜100%エタノールを抽出剤とし、実施例一のステップ(2)の方法で抽出した蘭花ろ過液の固形分を赤外線水分計で測定し、濃度2mg/mlに統一する。実験の結果、図10Aに示すように、6種類の試験サンプルを用意してチロシナーゼ機能の抑制を評価したところ、第一グループ、第二グループのいずれも、4種類の試験サンプル(60%、40%、20%エタノール抽出及び水抽出)が、75%以上のチロシナーゼ抑制率を示した。(注:80%エタノール抽出は、試験管による試験でチロシナーゼに性質変化が見られたため、除外した。)衛生署が認可した美白成分(本実験では3mMアルブチンを用いた)との機能比較では、低濃度の蘭花水抽出エキスが顕著なチロシナーゼ抑制効果を示し、二つのグループに分けた実験で再現性も示されており、蘭花エキスは美白機能という点で優秀な潜在力を有しているのがわかる。
【0063】
B.チロシナーゼ抑制試験−異なる蘭品種と手順による抽出液(物)
各種の蘭花、異なる手順で得た抽出液(物)を用い、いずれも水を浸出剤とする。異なるのはステップ(3)以降で、赤外線水分計で固形分を計測し、濃度2mg/mlに統一する。表5参照。
【0064】
表5 本発明における蘭花活性抽出物を得る方法
【0065】
実験結果を図10Bに示した。同属で品種の異なる「旭東威士忌」と「美人」は、いずれもチロシナーゼ抑制機能があるが、「旭東威士忌」のほうが優れている。属も品種も異なる「青山大紅袍」のエキスはチロシナーゼ抑制機能を有していない。よって、同じ胡蝶蘭でも品種が異なれば抑制効果に優劣の差があることがわかる。
【0066】
C.チロシナーゼ抑制試験−花と葉による効果の違い
「旭東威士忌」蘭花と蘭葉を用い、水抽出した後、ステップ(4)濃縮段階で、メッシュ径0.04μmのポリスルホン膜にかけて蘭花、蘭葉の抽出濃縮液を得た後、赤外線水分計で固形分を計測し、濃度2mg/mlに統一してチロシナーゼ抑制試験を実施する。
【0067】
実験の結果を図10Cに示した。IC50によりチロシナーゼ抑制の効果が示されており、蘭花抽出濃縮液は蘭葉抽出濃縮液よりも優れたチロシナーゼ抑制能力を有しているのがわかる。
【0068】
実施例六
A.蘭花エキス美白機能−マウス由来メラノーマ細胞のメラニン生成抑制
実験方法は以下のとおり。
1.マウス由来メラノーマ細胞(B16)を6植ウェルトレイで培養し、ダルベッコ改変イーグル最小必須培地(DMEM)(10% ウシ胎仔血清を含む)培養液を加えて37℃で安置し、5% 二酸化炭素培養器に入れ、翌日、異なる濃度の試剤を培養液に加える。
2.異なる濃度の試剤が入った培養液を3日間培養し、リン酸バッファ液で細胞を洗浄し、適量のトリプシン/エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を加えて3分間置き、細胞と培養皿を分けた後、脂肪を取り出してリン酸バッファ液で洗浄し、回転数5000rpmで5分間遠心分離機にかける。
3.遠心分離後、上澄み液を除去し、リン酸バッファ液を加えて細胞沈殿物と均一になるまでゆっくりと混合し、回転数5000rpmで5分間遠心分離機にかける。
4.ステップ3を繰り返す。
5.上澄み液を除去し、細胞沈殿物に1mlの1N 水酸化ナトリウムを加えて、細胞を水酸化ナトリウム溶液中に均一に分散させる。
6.回転数3000rpmで10分間遠心分離機にかけ、1mlの上澄み液を取って紫外/可視領域波長405nmで吸收する。
7.測定値を生存細胞数で除し、メラニン含有量測定の実験結果とする。
【0069】
生の蘭花がもつマウス由来メラノーマ細胞抑制効果を実験するため、「旭東威士忌」蘭花を異なる濃度の浸出剤(水、20%エタノール、80%エタノール、100%エタノール)で抽出し、ステップ(2)蘭花ろ過液(番号1−4とする)、ステップ(4)メッシュ径0.04μmのポリスルホン膜、並びに重量平均分子量150MWの複合膜にかけて得た蘭花抽出濃縮液をさらに分離して得た活性沈殿物(番号5とする)、アルブチン5mM(番号6とする)、対照群(番号7とする、1%ジメチルスルホキシド)、を用意し、いずれも赤外線水分計で固形分を計測し、濃度2mg/mlに統一する。以下、表6参照。
【0070】
表6 各試験管に添加した異なる抽出物の内訳
【0071】
実験の結果を図11に示した。マウス由来メラノーマ細胞によるメラニン生成抑制の実験で、アルブチン、エタノール抽出蘭花エキス、水抽出蘭花エキス白色結晶が顕著なメラノーマ細胞(B16)抑制効果を示した。
【0072】
B.蘭花エキスの美白機能−初代培養(primary culture)ヒトメラノサイト(HMC−4)のメラニン生成を抑制する実験は、用量や抽出方法が異なる「旭東威士忌」蘭花エキスを用い、初代培養(primary culture)ヒトメラノサイトに対してメラニン生成抑制の試験を実施する。メラニン抑制の試験を実施する前に、用量や抽出方法が異なる「旭東威士忌」蘭花エキスを用い、ヒトメラノサイト細胞に対する細胞生存率(cell viability)を調べる実験を行い、細胞生存率95%となる最大試験用量(濃度)でメラニン抑制の試験を実施する。
【0073】
表7及び表8は、用量や抽出方法が異なる「旭東威士忌」蘭花エキスを用いてメラニン抑制試験を行った。図12A−Hは、表7及び表8におけるおのおのの「旭東威士忌」蘭花エキスを用いて、ヒトメラノサイトに対する細胞生存率を調べた実験の結果であり、図13は、用量や抽出方法が異なる「旭東威士忌」蘭花エキスによるメラニン抑制試験の結果である。図13によると、メラニン抑制試験に用いた「旭東威士忌」蘭花エキスの用量はいずれも、細胞生存率が95%を超える最大試験用量(濃度)で行われたが、これらの濃度のエキスはすべて、メラニン抑制効果を示した。
【0074】
表7 メラニン抑制試験に用いた「旭東威士忌」蘭花エキスの用量と抽出方法
【0075】
表8 メラニン抑制試験に用いた「旭東威士忌」蘭花エキスの用量と抽出方法
【0076】
実施例七 蘭花エキスの抗シワ(抗加齢)機能
一、マトリックスメタロプロテアーゼ−1(MMP−1)
MMP−1(マトリックスメタロプロテアーゼ−1、Matrix Metalloproteinase−1)は、コラーゲン分解酵素の一種として知られており、真皮組織におけるコラーゲンを分解調節する働きをする。
本実施例では、まず実施例一のステップ(4)のごとく、メッシュ径0.04μmのポリスルホン膜、並びに重量平均分子量150MWの複合膜にかけて「旭東威士忌」蘭花抽出濃縮液を得る。さらに、赤外線水分計で固形分を測定し、重量比で濃度6.7%及び5.7%に統一して試験を進める。
【0077】
実験の結果を図14に示した。抗シワ(抗加齢)機能測定の方法と手順は以下のとおりである。
1.液体窒素に保存していた正常二倍体線維芽細胞(TIG−118,Normal human diploid fibroblasts)を解凍し、5%ウシ胎仔血清を含む最小必須培地を用いて、実験に必要な細胞数になるまで培養する。
2.予備試験を行う前に、試験対象物質が細胞(TIG−118)に対して毒性を有さない濃度であることを確認した後、正式の試験に最適となる最大濃度から2倍に希釈し、合計3種類の濃度(1%、0.5%、0.25%)を得て、試験濃度とする。
3.前記ステップ1における、実験に必要な細胞数となった細胞をトリプシン処理した後、35mm培養皿にピペッティングする(細胞密度50,000セル/mLまで分散させる)。
4.35mm培養皿にピペッティングした細胞を24時間培養した後、培養液を除去し、ステップ2で希釈済みの試験対象物質を含む試験溶液を加え、さらに24時間培養してから、メッセンジャーリボ核酸(mRNA)細胞(試薬抽出キット:RNeasy Mini kit、Qiagen)を抽出し、リアルタイム定量ポリメラーゼ連鎖反応(Quantitative real−time PCR)によってMMP−1の遺伝子発現量を計測する。
【0078】
リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)分析の条件:
使用設備:ABIプリズム7900HT(ABI PRISM 7900HT), アプライド・バイオシステムズ社(Applied Biosystems Co., Ltd.)
ポリメラーゼ連鎖反応温度条件:
ステージ 1:42℃ 5分, 95℃ 10秒(1周期)
ステージ 2:95℃ 5秒, 60℃ 34秒(40周期)
ステージ 3:95℃ 15秒, 60℃ 1分, 95℃ 15秒(1周期)
【0079】
二、エラスターゼ(elastase)
皮膚の弾性の減少と真皮層における弾性線維(elastic fibers)の変性が皮膚にシワを形成させるが、エラスターゼ(elastase)の活性を抑制するエラスターゼ抑制剤があれば、皮膚の弾性線維の損傷を防止してシワの形成を少なくする助けとなる。
【0080】
本実施例では、濃度5%及び1%の「旭東威士忌」蘭花抽出濃縮液を用い、それぞれトリス塩酸バッファー液で希釈し、それぞれ5種類の濃度を用意して、エラスターゼ活性抑制の試験を行う(表9)。
「旭東威士忌」蘭花抽出濃縮液は、5%、1%、いずれも良好なエラスターゼ活性抑制率を示した。次に、5%及び1%「旭東威士忌」蘭花抽出濃縮液のエラスターゼ抑制IC50の試験を実施する(表10)。ちなみに、「旭東威士忌」蘭花抽出濃縮液は、実施例一ステップ(4)のごとく、メッシュ径0.04μmのポリスルホン膜、並びに重量平均分子量150MWの複合膜にかけて得たものである。
【0081】
表9 濃度の異なる「旭東威士忌」蘭花抽出濃縮液のエラスターゼ活性抑制率
【0082】
表10 濃度の異なる「旭東威士忌」蘭花抽出濃縮液のエラスターゼ抑制IC50
【0083】
このエラスターゼ活性抑制試験の実施方法は以下のとおり。
濃度の異なる「旭東威士忌」蘭花抽出濃縮液、酵素液(elastase溶液)、基質溶液(N−スクシニル−アラニン(alanine)−アラニン−アラニン−p−ニトロアニリド、N−Succiny−Ala−Ala−Ala−p−Nitroanilide)を混合し、37℃で15分間加温後、415nmで吸光度を測定し、次の計算式によりエラスターゼ活性抑制率を計算する。
A:ブランク溶液反応後の吸光度
B:実験溶液反応後の吸光度
A0、B0:代替酵素液、トリス塩酸バッファー液を用いたときの吸光度
【0084】
三、コラゲナーゼ(collagenase)
コラゲナーゼは皮膚中のコラーゲンを分解し、シワを形成させて加齢を促すが、コラゲナーゼを抑制するコラゲナーゼ抑制剤があれば、シワの形成や加齢を防止することができる。本実施例では、5.7%及び6.7%の「旭東威士忌」蘭花抽出濃縮液を用い、それぞれにレモン酸バッファー液を加えて2倍に連続希釈していって、それぞれ5種類の濃度を用意し、コラゲナーゼ活性抑制試験を行う(表11)。そのうち、濃度100%の5.7%及び6.7%の「旭東威士忌」蘭花抽出濃縮液が、優れたコラゲナーゼ活性抑制率を示した。ちなみに、「旭東威士忌」蘭花抽出濃縮液は、実施例一ステップ(4)のごとく、メッシュ径0.04μmのポリスルホン膜、並びに重量平均分子量150MWの複合膜にかけて得たもので、赤外線水分計で固形分を測定し、濃度を6.7%及び5.7%に調整してエキス濃縮液を得、試験を実施した。
【0085】
表11 濃度の異なる「旭東威士忌」蘭花エキス濃縮液のコラゲナーゼ活性抑制率
【0086】
このコラゲナーゼ活性抑制試験の実施方法は以下のとおり。
濃度の異なる「旭東威士忌」蘭花抽出濃縮液、ペプチド溶液(4−フェニルアゾベンジルオキシカルボニル−L−プロリン−ロイシン−グリシン−プロリン−D−アルギニン、4−phenylazobenzyloxycarbonyl−L−pro−leu−gly−pro−D−arg dihydrate)を混合し、37℃で加温した後、酵素液(collagenase)を加え、37℃で反応させた後、0.1M トリスバッファ液(Tris buffer、 20mM 塩化カルシウムを含む、pH7.1)を加えて反応を停止させ、酢酸エチルを加えてから回転数3,000 rpmで遠心分離する。320nmで酢酸エチル層の吸光度を測定し、次の計算式によりコラゲナーゼ活性抑制率(%)を計算する。
A:ブランク溶液反応後の吸光度
B:実験溶液反応後の吸光度
、B:酵素液に代わって精製水を用いたときの吸光度
【0087】
実施例八 蘭花エキスのヒト皮膚保護機能治験
本実施例では、実施例一ステップ(4)のごとく、メッシュ径0.04μmのポリスルホン膜、並びに重量平均分子量150MWの複合膜にかけて「旭東威士忌」蘭花抽出濃縮液を得てから、赤外線水分計で固形分を測定し、濃度を1.0%に統一して治験を実施した。年齢、性別の異なる31人の被験者に対し、台大医院でヒト皮膚に対する効果を試験し、二週間後にその結果を分析した。
【0088】
この画像検査では、可視斑点、紫外線色斑、褐色斑、紅色斑の四種類を基準に評価した。可視斑点とは、通常の光のもとで肉眼で見える黒い斑点。紫外線色斑とは、365nm紫外線を当てて見える黒い斑点(紫外線を当てると肉眼では見えない斑点が撮影できる)である。褐色斑とは、メラニン・ヘモグロビンインデックス画像解析機能(RBX機能)で解析した皮膚深層の斑点評価。紅色斑とは、メラニン・ヘモグロビンインデックス画像解析機能で解析した紅色斑点の評価である。表中の数値は数量の多い、少ないを表し、スコアは検査項目の特徴程度(密度)を表す。
【0089】
二週間使用しても、被験者に不良反応や不快感はなかった。表12及び表13に示すように、治験の結果、可視斑点、褐色斑、紅色斑の数は、使用二週間後に下降しているが、特徴の程度(密度)に統計上の差異はなく、使用二週間の分析結果を見ると、黒色素斑(可視斑点と深層斑)の数量が減少し、紅色斑の数量が減少しているのがわかる。
【0090】
表12 ヒト皮膚に対する蘭花エキスの効果測定数値


【0091】
表13 ヒト皮膚に対する蘭花エキスの効果測定の結果統計

数値が低いほど効果が顕著である。
*統計上差異 p<0.05
【0092】
本発明は、青山蘭花が育成した独特の品種である白色胡蝶蘭を用い、エキス抽出した後、チロシナーゼ抑制、マウス由来メラノーマ細胞(B16)及びヒトメラノサイト抑制の実験、及び治験を通して、良好な美白機能、抗シワ(抗加齢)機能、抗加齢機能を有し、且つ多種類の細胞実験、体外試験及び治験の後、いずれも皮膚に対する腐食性、刺激性、そして感作性がないことを実証した。
本研究チームは長年にわたり植物活性の研究に従事しているが、多種類の系統(酵素、動物細胞、初代培養ヒト皮膚細胞、及び治験)において、美白効果を示す活性成分が実証され、且つ作用が温和で刺激性のない成分は珍しい。このあたりに、この原料と製造工程の優位性が示されている。
【0093】
製造工程においては、エキスを薄膜処理した後、量産が可能なだけでなく、分離純化濃縮の効果を得ることもできる。濃縮後の胡蝶蘭エキスは大量の沈殿物を含み、これを収集して分析したところ、この沈殿物は構造が類似した三種類のフラボン化合物群であった。エキスと沈殿物はいずれも良好な美白能力、抗シワ(抗加齢)能力及び抗酸化力を有している。この製造工程はグリーンな製造工程であり、毒性の有機溶剤を出さず、工程の拡大も容易で、微生物コントロールにより、安全で衛生的な活性抽出濃縮液、さらには沈殿させて得るフラボン化合物を生成することができる。
【0094】
属の異なる胡蝶蘭で試験したところ、チロシナーゼ抑制効果はなく、同属の胡蝶蘭どうしで比較すると、いずれもチロシナーゼ抑制効果を示したが、この白花の品種の抑制効果が最も優れていた。本発明に用いる製造工程と試薬は、化粧品、スキンケア用品に使用可能である。
【符号の説明】
【0095】
110 蘭花の花びらを用意する
120 蘭花と浸出剤を混合して破砕または破壁する
130 固体と液体を分離する
140 活性区分する
150 濃縮する
160 活性沈殿物と液体活性エキスを得る
【要約】      (修正有)
【課題】胡蝶蘭属の蘭花エキス、及びこれを含む医薬及び化粧品組成物の提供。
【解決手段】下記の(1)〜(4)の工程により調製した、蘭花エキス、及びこれを含む美白機能、抗酸化力、及び抗シワ(抗加齢)能力を有する医薬及び化粧品組成物。(1)抽出:蘭花に浸出剤を混合し、粉砕または破壁して蘭花パルプを得るが、この浸出剤は、水、アルコール類またはその混合物とする。(2)固体液体分離:(1)の蘭花パルプの固体と液体を分離し、雑質を取り除き、液体の蘭花ろ過液を得る。(3)活性区分:(2)のろ過液をゼオライト膜にかけて純化し、蘭花エキススクリーニング液を得る。(4)濃縮:(3)のスクリーニング液をゼオライト膜を用いて濃縮するか、或いは真空装置や加熱といった方法で部分的に濃縮して、活性沈殿物及び活性の液体抽出エキスを得る工程。
【選択図】なし
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