(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
本発明による回転電機は、たとえば回転電機のみによって走行する純粋な電気自動車や、エンジンと回転電機の双方によって駆動されるハイブリッド型の電気自動車に適用できる。
【0010】
−第1の実施の形態−
図1は、回転電機100を示す半断面図である。
図1は、ロータ2の回転中心軸CLに平行な平面であって、回転中心軸CLを含む平面で切断した断面を模式的に示している。なお、
図1では、説明の便宜上、各構成を概念的に示している。
図2は
図1のII−II線で切断した断面模式図である。回転電機100は、電動機または発電機として作動するものであり、ロータ2と、ステータ1と、ロータ2およびステータ1を保持するハウジング9とを有している。
【0011】
ロータ2は、円筒形状のステータ1の内側において、回転可能に配設されている。ロータ2は、円筒形状のロータコア7と、永久磁石6とを備えている。ロータコア7の中空部には円柱状のシャフト8が圧入され、ロータコア7がシャフト8に固定されている。ロータコア7の外周近傍には、永久磁石6が周方向に沿って等間隔に配設されている。永久磁石6はロータ2の界磁極として作用し、本実施の形態では16極構成となっている。3相交流電流がステータコイル5に流されると、回転磁界がステータ1に発生し、この回転磁界がロータ2の永久磁石6に作用してトルクが生じる。
【0012】
ハウジング9は、円筒状のセンターブラケット9cと、センターブラケット9cの両端の開口を塞ぐように取り付けられた一対のエンドブラケット9a,9bとを備えている。一方のエンドブラケット9aには軸受11aが設けられ、他方のエンドブラケット9bには軸受11bが設けられている。ステータ1はセンターブラケット9cにより保持され、ロータ2のシャフト8はエンドブラケット9a,9bのそれぞれに設けられた軸受11a,11bにより回転自在に保持されている。
【0013】
ステータ1は、略円筒形状のステータコア4と、U相、V相、W相巻線と、結線用部材(
図3参照)とを備えている。
図2に示すように、ステータコア4は、24個の分割コア4aで構成され、24個の分割コア4aが周方向に配設されることで円筒形状を呈している。換言すれば、ステータコア4は周方向に24個の分割コア4aに分割されている。分割コア4aは、たとえば、厚さ0.05〜1.0mm程度の電磁鋼板をプレス加工により打ち抜いて形成されたコアプレートを複数枚積層して形成されている。
【0014】
分割コア4aの各々は、コアバック43と、コアバック43から径方向内側に突出するティース41とを有している。分割コア4aは、周方向で隣接する一対の分割コア4aとの間で1つのスロット40を区画するように平面視T字状に形成されている。分割コア組立体であるステータコア4の内周側には、複数のスロット40とティース41とが周方向に等間隔となるように形成されている。
【0015】
U相巻線、V相巻線およびW相巻線は、それぞれが複数のステータコイル5が電気的に接続されてなる。ステータコイル5は、ステータコア4を構成する各分割コア4aのティース41に、絶縁被覆導線(以下、単に絶縁線と記す)を巻き回すことにより形成される。なお、
図2では、便宜上、ステータコイル5が一の分割コア4aに装着されている状態を模式的に示しているが、実際には、ステータコイル5は、各分割コア4aに装着されている(
図4参照)。
【0016】
図3(a)はボビン21が取り付けられた分割コア4aを示す斜視図であり、
図3(b)はボビン21にステータコイル5が装着された状態を示す斜視図である。分割コア4aのティース41には、
図3(a)に示すように樹脂製のボビン21が取り付けられ、
図3(b)に示すように、ステータコイル5を構成する絶縁線105がボビン21に集中的に巻回されている。
図3(a)に示すように、ボビン21の四隅の角部には、平角線である絶縁線105の巻乱れを防ぐ溝22が設けられている。
【0017】
図4はステータ1を示す斜視図であり、
図5は
図4のA部を拡大した部分拡大図である。結線用部材60は、U相、V相、W相に対応した結線リング61U,61V,61Wと、スター結線の中性点を構成する結線リング61Nと、結線リング61U,61V,61W,61Nを絶縁した状態で支持する絶縁支持部材62とを備えている。結線用部材60は、ステータコア4の軸方向一端側に設けられ、各分割コア4aのコアバック43が連結されてなるバックヨーク上に配置されている。
【0018】
結線リング61U,61V,61Wは、円環状で、ステータコイル5を構成する絶縁線105のコイル端末部151に接続される端子部106を有している。結線リング61U,61V,61Wは、それぞれ、径が異なり、同心円状に配置されている。本実施の形態では、各相に対応する結線リング61U,61V,61Wのそれぞれに8箇所の端子部106が設けられ、中性点を構成する結線リング61Nに24箇所の端子部106が設けられている。端子部106は、結線リング61U,61V,61W,61Nの軸方向に向けて突出した平板状部材であり、幅が約10mm、厚さが約1mmとされている。
【0019】
U相巻線を構成する複数のステータコイル5は、それぞれ、一端が結線リング61Uに接続され、他端が結線リング61Nに接続されている。V相巻線を構成する複数のステータコイル5は、それぞれ、一端が結線リング61Vに接続され、他端が結線リング61Nに接続されている。W相巻線を構成する複数のステータコイル5は、それぞれ、一端が結線リング61Wに接続され、他端が結線リング61Nに接続されている。このようにして、ステータコイル5を構成する複数の絶縁線105同士が端子部106を介して、結線リング61U,61V,61W,61Nにより電気的に接続されている。
【0020】
図5に示すように、分割コア4aに対するステータコイル5の巻き始め引出し線、および、巻終わり引出し線は、結線用部材60に向かって引き出されている。各引出し線の先端部は、周方向に沿うように屈曲され、端子部106と接合されるコイル端末部151とされている。本実施の形態では、各ステータコイル5のコイル端末部151と、各結線リング61U,61V,61W,61Nの端子部106とが、回転電機100の径方向に沿って重ねられ、超音波接合により接合される。
【0021】
各結線リング61U,61V,61W,61Nの端子部106と、コイル端末部151との接続構造および接合方法は、同様であるため、以下では、結線リング61Nの端子部106と、コイル端末部151との接続構造および接合方法を代表して説明し、各相に対応する結線リング61U,61V,61Wの端子部106と、コイル端末部151との接続構造および接合方法についての説明は省略する。
【0022】
本実施の形態では、コイル端末部151の絶縁層の剥離作業を個別に行わずに、コイル端末部151の絶縁層の剥離作業と、コイル端末部151の導電体153の一の面と端子部106の一の面との接合作業とを一工程で行うことで製造工数を低減している。以下、コイル端末部151の導電体153における上記一の面を導線接合面153aと記し、端子部106における上記一の面を導体接合面161と記す。
【0023】
図6は、端子部906とコイル端末部151とが超音波接合される様子を模式的に示す図であり、本実施の形態の比較例を示す図である。比較例では端子部906の形状のみが本実施の形態の端子部106と異なっている。端子部906は、コイル端末部151と接合する導体接合面961が凹凸の無い平面とされている。絶縁線105は平角線であり、コイル端末部151の導電体153の断面形状は矩形状である。導電体153の長辺寸法は約1.9mm、短辺寸法は約1.1mmとされ、導電体153の角部にはR面取りが施されている。導電体153の外周表面には、厚さ0.05mm程度の絶縁層152が被覆されている。導電体153は、一対の長辺側側面(以下、幅広側面と記す)と一対の短辺側側面(以下、幅狭側面と記す)とを有し、外周表面を構成する幅広側面と幅狭側面とが絶縁層152で覆われている。
【0024】
コイル端末部151は、導線接合面153aである一の幅広側面が絶縁層152を介して端子部906に当接される。超音波接合では、アンビルWAとホーンWHとで、コイル端末部151と端子部906とを挟み、圧力を付与した状態でホーンWHからv方向の高周波振動を与える。しかしながら、比較例のように、導体接合面906が平面である場合、端子部906と絶縁層152との間の摩擦力を十分に得ることができない。さらに、コイル端末部151の中心付近の絶縁層152が外方に押し出されにくい。このため、比較例では、絶縁層152の剥離が難しく、固相接合させる作業に時間がかかったり、接合ができない場合がある。
【0025】
そこで、本実施の形態では、端子部106に接合凸部165を設け、絶縁層152の剥離が容易に行われるようにした。
【0026】
図7は本発明の第1の実施の形態に係る回転電機100における端子部106とコイル端末部151とを示す斜視図であり、
図8は
図7のVIII−VIII線で切断した断面模式図である。
図7および
図8に示すように、第1の実施の形態では、接合凸部165がマトリクス状に配列された複数の突起166で構成されている。なお、突起166の高さ寸法は、説明の便宜上、誇張して図示している。
【0027】
端子部106の一の面には、ローレット工具(不図示)が押し当てられて塑性変形されることにより、格子状の溝167が形成される。溝167同士の交差角度は直角とされている。その結果、溝167によって囲まれる矩形部分が、溝167の底部から立ち上がる突起166として形成され、
図8(a)に示すように、突起166の頂面が導体接合面161として絶縁層152を介してコイル端末部151と当接する。第1の実施の形態では、このような複数の突起166が絶縁層152に接触されるため、超音波接合の際に、接触界面において摩擦力が上昇し、絶縁層152の剥離が促進され、
図8(b)に示すように、コイル端末部151の導電体153と端子部106とが固相接合される。
【0028】
回転電機100の製造方法について説明する。
図9は、回転電機100を製造する工程を説明するための図である。回転電機100の製造方法は、
図9(a)に示すように、準備工程S100と、ステータ組み付け工程S110と、コイル接続工程S120と、ロータ組み付け工程S130とを含む。
【0029】
−準備工程−
準備工程S100では、回転電機100を構成する各部品、たとえばセンターブラケット9c、エンドブラケット9a,9b、分割コア4a、ロータ2等を準備する。ロータ2のロータコア7には、予め永久磁石6が装着され、シャフト8がロータコア7の中空部に圧入されて一体となっている。なお、分割コア4aには、ボビン21が装着され、ボビン21には絶縁線105が巻回されてステータコイル5が形成されている。
【0030】
−ステータ組み付け工程−
ステータ組み付け工程S110では、ステータコア4を焼き嵌めによりセンターブラケット9cに固定する。分割コア4aを円筒状に組立てたステータコア4を配置しておき、分割コア組立体であるステータコア4に対して、予め加熱して熱膨張により内径を広げておいたセンターブラケット9cを嵌め込む。センターブラケット9cを冷却して内径を収縮させることで、その熱収縮によりステータコア4の外周部を締め付ける。
【0031】
運転時におけるロータ2のトルクによる反作用によって、センターブラケット9cに対してステータコア4が空転しないように、センターブラケット9cの内径寸法は、ステータコア4の外径寸法よりも所定値だけ小さく設定され、焼き嵌めによりステータコア4がセンターブラケット9c内に強固に固定されるようになっている。なお、ステータコア4は焼き嵌めにより固定する場合に限定されることなく、圧入によりセンターブラケット9cに固定することとしてもよい。
【0032】
−コイル接続工程−
コイル接続工程S120では、ステータコイル5の引出し線の先端部に設けられたコイル端末部151と、結線リング61U,61V,61W,61Nの端子部106とを超音波接合により電気的、機械的に接続する。コイル接続工程S120は、
図9(b)に示すように、プレス加工工程S121と、位置決め工程S123と、狭圧工程S125と、振動工程S127とを含む。
【0033】
−プレス加工工程−
プレス加工工程S121では、ローレット工具(不図示)を端子部106の一の面に押し当てて、すなわちプレスすることで端子部106を塑性変形させることにより、格子状の溝167を形成する(
図7参照)。その結果、溝167によって囲まれる部分が、溝167の底部から立ち上がる突起166として形成され、マトリクス状に配列された複数の突起166により接合凸部165が形成される(
図7参照)。本実施の形態では、溝167の深さ、すなわち突起166の高さを、約0.1mmとした。
【0034】
−位置決め工程−
位置決め工程S123では、
図8(a)に示すように、絶縁線105のコイル端末部151の一の幅広側面である導線接合面153aと、端子部106の導体接合面161とを絶縁層152を介して当接させるように位置決めを行う。コイル端末部151と端子部106とは回転電機100の径方向に沿って重ねて配置する(
図5参照)。
【0035】
−挟圧工程−
挟圧工程S125では、
図8(a)に示すように、絶縁線105のコイル端末部151と端子部106とを、回転電機100の径方向外側と内側から、アンビルWAとホーンWHとで挟み、加圧する。
【0036】
−振動工程−
振動工程S127では、
図8(a)に示すように、ホーンWHを加圧方向に対して略垂直方向であるv方向に振動させ、ホーンWHからコイル端末部151に高周波振動を与える。これにより、コイル端末部151の導電体153における導線接合面153aに被覆された絶縁層152と、接合凸部165との間の摩擦力により、絶縁層152が破壊、剥離される。剥離された細かい絶縁層152は、コイル端末部151の短手方向外方から排出される。導線接合面153aに被覆された絶縁層152が除去されると、
図8(b)に示すように、コイル端末部151の導電体153の導線接合面153aと導体接合面161とが直接に接触される。
【0037】
導電体153の導線接合面153aと導体接合面161とが直接に接触した状態から、続けてホーンWHからコイル端末部151に高周波振動を与える。導線接合面153aと導体接合面161との接触界面が、摩擦熱により加熱され、原子運動が活性化される。その結果、拡散による金属原子の移動が発生し、金属原子相互間に引力が生じ、コイル端末部151の導電体153と端子部106とが固相接合される。
【0038】
なお、導電体153と端子部106との間の絶縁層152は剥離されるが、コイル端末部151における導線接合面153aの反対側の面など、導線接合面153aを除く導電体153の外周表面には絶縁層152が残されている。
【0039】
−ロータ組み付け工程−
図9(a)に示すロータ組み付け工程S130では、シャフト8を一方のエンドブラケット9aの軸受け11aに装着する。ロータ2をステータ1の内側に配置させるように、一方のエンドブラケット9aによりセンターブラケット9cの一端側の開口を塞いで、エンドブラケット9aをセンターブラケット9cに固着させる。センターブラケット9cの他端側の開口を他方のエンドブラケット9bによって塞いで、エンドブラケット9bをセンターブラケット9cに固着させる。以上で、回転電機100が完成する。
【0040】
このように、本実施の形態に係る回転電機100の製造方法は、結線リング61U,61V,61W,61Nの端子部106の一の面に、プレス加工によって接合凸部165を形成する。その後、絶縁線105のコイル端末部151の導線接合面153aを絶縁層152を介して接合凸部165に当接させる。コイル端末部151と端子部106とを、アンビルWAとホーンWHとで挟み、加圧し、その状態でホーンWHから高周波振動を与えて、コイル端末部151の導線接合面153aに被覆された絶縁層152を除去し、コイル端末部151と端子部106とを固相接合する。
【0041】
上述した第1の実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)超音波接合の際に、絶縁層152を剥離させてコイル端末部151の導電体153の表面を露出させ、露出された導電体153の表面と端子部106とを固相接合させることができる。つまり、絶縁層152を予め剥離しておく必要がなく、一工程で絶縁層152の剥離と、固相接合とを実現することができ、製造工数の低減を図ることができる。さらに、本実施の形態では超音波接合法を採用したので、接合時に熱の発生を抑えることができる。ヒュージング工法の際に発生する熱により絶縁層を軟化させ、溝部に押し出す特許文献1に記載の技術(以下、従来技術と記す)で必要となる冷却時間に比べて、本実施の形態では冷却時間が短くて済むため、従来技術に比べて、製造工数の低減を図ることができる。
【0042】
(2)端子部106には、接合凸部165が設けられている。接合凸部165は、マトリクス状に配列された複数の突起166で構成され、摩擦係数を高めることができる。このため、コイル端末部151に被覆される絶縁層152と、端子部106との間の摩擦力を比較例(
図6参照)に比べて向上させることができる。その結果、超音波接合の際に、絶縁層152の破壊、剥離が促進され、絶縁層152の除去を比較例(
図6参照)に比べて短い時間で行うことができる。
【0043】
比較例(
図6参照)において超音波接合した際の絶縁層除去時間と、第1の実施の形態(
図8参照)において超音波接合した際の絶縁層除去時間とを実験により比較検証した。
図10は、比較例での絶縁層除去時間と、本発明の第1の実施の形態の絶縁層除去時間とを示すグラフである。絶縁層除去時間とは、ホーンWHを振動させてから、コイル端末部151の導電体153と端子部106との間の絶縁層152が除去されるまでの時間のことを指す。なお、実験では、絶縁層除去時間を、ホーンWHを一定の力(たとえば、0.5MPa)でコイル端末部151に加圧した状態を原点とし、ホーンWHにより高周波振動を与えてから、ホーンWHが原点から所定の距離(たとえば、絶縁層152の厚み0.05mmに対して十分に長い0.6mm)だけ端子部106側に移動するまでの時間とした。
【0044】
実験で用いた端子部106,906の試験部材は、幅が約10mm、厚さが約1mmの寸法を有している。実験で用いたコイル端末部151の試験部材は、導電体153の長辺寸法が約1.9mm、短辺寸法が約1.1mmであり、導電体153の角部にはR面取りが施されている。
【0045】
接合凸部が設けられていない比較例の端子部906の試験部材と、コイル端末部151の試験部材とに対して、超音波接合を行って絶縁層除去時間を測定した。実験は数十回行った。比較例での絶縁層除去時間の平均値は2.1秒となった。接合凸部165が設けられた第1の実施の形態の端子部106の試験部材と、コイル端末部151の試験部材とを、比較例と同じ実験回数だけ、超音波接合を行って絶縁層除去時間を測定した。その結果、第1の実施の形態での絶縁層除去時間の平均値は0.76秒となった。つまり、第1の実施の形態では、絶縁層除去時間が比較例に比べて1/3程度となり、比較例に比べて短い時間で絶縁層152を除去できることが確認された。
【0046】
(3)上記したように、接合凸部165は、マトリクス状に配列された複数の突起166で構成され、摩擦係数を高めることができるため、コイル端末部151に被覆される絶縁層152と、端子部106との間の摩擦力を比較例(
図6参照)に比べて向上させることができる。その結果、超音波接合の際に、絶縁層152の破壊、剥離が促進され、比較例(
図6参照)に比べて、コイル端末部151の導電体153と、端子部106とによって挟まれる絶縁層152を、より確実に除去し、導電体153と端子部106とを固相接合させることができる。
【0047】
比較例(
図6参照)において超音波接合した際の接合成功率と、第1の実施の形態(
図8参照)において超音波接合した際の接合成功率とを実験により比較検証した。
図11は、比較例での接合成功率と、本発明の第1の実施の形態の接合成功率とを示すグラフである。接合成功率とは、実験回数に対する成功回数の割合である。
【0048】
なお、成功とは、コイル端末部151の導電体153と端子部106との間の絶縁層152が十分に除去され、導電体153と端子部106とが固相接合されたことである。これに対して失敗とは、絶縁層152の除去が不十分であることに起因して導電体153と端子部106とが固相接合されなかったことである。なお、実験では、ホーンWHを一定の力(たとえば、0.5MPa)でコイル端末部151に加圧した状態を原点とし、ホーンWHにより高周波振動を与えてから、ホーンWHが原点から所定の距離(たとえば、絶縁層152の厚み0.05mmに対して十分に長い0.6mm)だけ端子部106側に移動した後、ホーンWHとアンビルWAの間から試験部材を取り出した時に、力を加えなくても分離してしまう場合を失敗とし、分離しない場合を成功として判断した。
【0049】
実験で用いた端子部106,906の試験部材は、幅が約10mm、厚さが約1mmの寸法を有している。実験で用いたコイル端末部151の試験部材は、導電体153の長辺寸法が約1.9mm、短辺寸法が約1.1mmであり、導電体153の角部にはR面取りが施されている。
【0050】
接合凸部が設けられていない比較例の端子部906の試験部材と、コイル端末部151の試験部材とに対して、超音波接合を行って成功回数と失敗回数とを測定した。実験は数十回行った。比較例での接合成功率=(成功回数)/(成功回数+失敗回数)×100は、62.5%となった。接合凸部165が設けられた第1の実施の形態の端子部106の試験部材と、コイル端末部151の試験部材とを、比較例と同じ実験回数だけ、超音波接合を行って成功回数と失敗回数とを測定した。その結果、第1の実施の形態での接合成功率=(成功回数)/(成功回数+失敗回数)×100は100%となった。つまり、第1の実施の形態では、接合成功率が比較例に比べて高く、固相接合の信頼性が高められることが確認された。
【0051】
(4)コイル端末部151と端子部106とを回転電機100の径方向に沿って重ねて配置した。このため、超音波接合の際に、アンビルWAとホーンWHの十分な配置スペースを確保することができるため、作業性を向上させることができる。
【0052】
−第2の実施の形態−
図12を参照して第2の実施の形態について説明する。図中、第1の実施の形態と同一もしくは相当部分には同一符号を付し、説明を省略する。以下、第1の実施の形態との相違点について詳しく説明する。
図12は、第1の実施の形態の
図7に対応する図であり、本発明の第2の実施の形態に係る回転電機における端子部206とコイル端末部151とを示す斜視図である。
【0053】
第2の実施の形態の回転電機が第1の実施の形態と異なる点は、
図12に示すように、コイル端末部151の導電体153に固相接合される部分である接合凸部265の形状が、波状とされている点である。接合凸部265は、互いに平行に延在する複数の山形状の突起266で構成されている。
【0054】
第2の実施の形態の回転電機の製造方法が第1の実施の形態と異なる点は、プレス加工工程において、互いに平行に延在する押圧用突起が複数設けられた押圧工具(不図示)を端子部206の一の面に押し当てて、端子部206を塑性変形させることにより、接合凸部265を形成する点である。
【0055】
さらに第1の実施の形態の回転電機の製造方法における振動工程では、ホーンWHを加圧方向に対して略垂直方向に振動させていた。これに対して、第2の実施の形態の回転電機の製造方法における振動工程では、ホーンWHを加圧方向に対して略垂直方向である条件に加え、突起266の延在方向と略直交するv2方向にホーンWHを振動させている。突起266の延在方向と略直交するv2方向にホーンWHを振動させることで、端子部106とコイル端末部151との接触面における摩擦力を上昇させ、絶縁層152の破壊、剥離を効果的に行うことができる。
【0056】
このような第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の作用効果を奏する。
【0057】
−第3の実施の形態−
図13〜
図17を参照して第3の実施の形態について説明する。図中、第1の実施の形態と同一もしくは相当部分には同一符号を付し、説明を省略する。以下、第1の実施の形態との相違点について詳しく説明する。
【0058】
図13は、第1の実施の形態の
図7に対応する図であり、第3の実施の形態に係る回転電機における端子部306とコイル端末部151とを示す斜視図である。
図14は第1の実施の形態の
図8(a)に対応する図であり、
図13のコイル端末部151と端子部306とを当接させた状態を示す側面断面模式図である。第3の実施の形態の回転電機が第1の実施の形態と異なる点は、
図13および
図14に示すように、コイル端末部151の導電体153に固相接合される部分である接合凸部の形状が、単一の突起366とされている点である。接合凸部としての突起366は、直径約7mmで平面部からの突出高さが約0.5mmの略部分球形状であって、頂部から外方に向かって傾斜する湾曲面を有している。
【0059】
第3の実施の形態の回転電機の製造方法が第1の実施の形態と異なる点は、プレス加工工程において、先端が曲面とされた押圧工具(不図示)を端子部306の一の面に押し当てて、端子部306を塑性変形させることにより、接合凸部としての曲面形状の突起366を形成する点である。
【0060】
図15は、コイル端末部151と端子部306との超音波接合の際に、絶縁層152が剥離され、コイル端末部151と端子部306とが固相接合される様子を説明する図である。位置決め工程では、
図15(a)に示すように、コイル端末部151の導線接合面153aと、突起366の頂部とを絶縁層152を介して当接させるように位置決めを行う。その後、挟圧工程において、コイル端末部151と端子部106とを、アンビルWAとホーンWHとで挟み、加圧する。
【0061】
振動工程において、ホーンWHを加圧方向に対して略垂直方向に振動させ、ホーンWHからコイル端末部151に高周波振動を与える。これにより、
図15(b)および
図15(c)に示すように、コイル端末部151の導線接合面153aに被覆される絶縁層152と、突起366との間の摩擦力により、絶縁層152が破壊、剥離される。このとき、破壊、剥離された絶縁層152が矢印Bで模式的に示すように、コイル端末部151と突起366との隙間から傾斜面に沿って、外方に向かって排出される。また、軟化した絶縁層152が矢印Bで模式的に示すように、コイル端末部151と突起366との隙間から傾斜面に沿って、外方に向かって押し出される。
【0062】
コイル端末部151と突起366との間の絶縁層152が除去され、さらに、ホーンWHによって高周波振動がコイル端末部151に与えられると、
図15(c)に示すように、突起366の外表面とコイル端末部151の導電体153とが固相接合される。
【0063】
このような第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態で説明した(1)と同様の作用効果を奏する。さらに、第3の実施の形態によれば、次の作用効果を奏する。
【0064】
(5)端子部306には、接合凸部として単一の突起366が設けられている。突起366は、頂部から外方に向かって傾斜する構成とされ、頂部をコイル端末部151に接触させたときに、頂部の周囲に隙間が形成され、超音波接合の際に破壊、剥離された絶縁層152や軟化した絶縁層152を傾斜面に沿って容易に押し出すことができる。その結果、超音波接合による絶縁層152の除去を、比較例(
図6参照)に比べて短い時間で行うことができる。
【0065】
比較例(
図6参照)において超音波接合した際の絶縁層除去時間と、第3の実施の形態(
図14参照)において超音波接合した際の絶縁層除去時間とを実験により比較検証した。実験条件は、上述した第1の実施の形態と同じである。
図16は、比較例での絶縁層除去時間と、本発明の第3の実施の形態の絶縁層除去時間とを示すグラフである。
【0066】
接合凸部が設けられていない比較例の端子部906の試験部材と、コイル端末部151の試験部材とに対して、超音波接合を行って絶縁層除去時間を測定した。実験は数十回行った。比較例での絶縁層除去時間の平均値は2.1秒となった。接合凸部としての突起366が設けられた第3の実施の形態の端子部306の試験部材と、コイル端末部151の試験部材とを、比較例と同じ実験回数だけ、超音波接合を行って絶縁層除去時間を測定した。その結果、第3の実施の形態での絶縁層除去時間の平均値は0.75秒となった。つまり、第3の実施の形態では、絶縁層除去時間が比較例に比べて1/3程度となり、比較例に比べて短い時間で絶縁層152を除去できることが確認された。
【0067】
(6)上記したように、接合凸部としての突起366は、頂部から外方に向かって傾斜する構成とされ、突起366の頂部をコイル端末部151に当接させたときに、突起366の頂部の周囲には隙間が形成される。このため、軟化した絶縁層152を傾斜面に沿って押し出し、あるいは、剥離された絶縁層152を傾斜面に沿ってスムースに除去できる。このため、比較例(
図6参照)に比べて、コイル端末部151の導電体153と、端子部306とによって挟まれる絶縁層152を、より確実に除去し、導電体153と端子部306とを固相接合させることができる。
【0068】
比較例(
図6参照)において超音波接合した際の接合成功率と、第3の実施の形態(
図14参照)において超音波接合した際の接合成功率とを実験により比較検証した。実験条件は、第1の実施の形態と同じである。
図17は、比較例での接合成功率と、第3の実施の形態の接合成功率とを示すグラフである。
【0069】
接合凸部が設けられていない比較例の端子部906の試験部材と、コイル端末部151の試験部材とに対して、超音波接合を行って成功回数と失敗回数とを測定した。実験は数十回行った。比較例での接合成功率=(成功回数)/(成功回数+失敗回数)×100は、62.5%となった。接合凸部としての突起366が設けられた第3の実施の形態の端子部306の試験部材と、コイル端末部151の試験部材とを、比較例と同じ実験回数だけ、超音波接合を行って成功回数と失敗回数とを測定した。その結果、第3の実施の形態での接合成功率=(成功回数)/(成功回数+失敗回数)×100は100%となった。つまり、第3の実施の形態では、接合成功率が比較例に比べて高く、固相接合の信頼性が高められることが確認された。
【0070】
−第3の実施の形態の変形例−
第3の実施の形態では、突起366を略部分球形状としたが、突起366の形状はこれに限定されない。接合凸部は、コイル端末部151に当接される頂部から外方に向かって傾斜する単一の突起で構成されていればよい。たとえば、第3の実施の形態を次のように変形して実施することもできる。
(1)
図18に示すように、
図13の端子部306に設けられた略部分球形状の突起366に代えて、回転電機の回転中心軸に沿って切断した部分円筒形状の突起466を設けた端子部406をコイル端末部151に接合させるようにしてもよい。
(2)
図19に示すように、
図13の端子部306に設けられた略部分球形状の突起366に代えて、回転電機の回転中心軸に沿って延在する断面V字状の突起566を設けた端子部506をコイル端末部151に接合させるようにしてもよい。
(3)
図20に示すように、
図13の端子部306に設けられた略部分球形状の突起366に代えて、頂点Pを有する円錐形状の突起666を設けた端子部606をコイル端末部151に接合させるようにしてもよい。
(4)
図21に示すように、
図13の端子部306に設けられた略部分球形状の突起366に代えて、四角錐形状の突起766を設けた端子部706をコイル端末部151に接合させるようにしてもよい。なお、四角錐形状に限ることなく、三角錐形状や五角錐形状などの他の多角錐形状の突起を端子部706に設けてもよい。
【0071】
次のような変形も本発明の範囲内であり、変形例の一つ、もしくは複数を上述の実施形態と組み合わせることも可能である。
(1)上述した実施の形態では、絶縁線105に平角線を用いた例を説明したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、
図22に示すように、断面円形状の導電体853に絶縁層852を被覆した絶縁線のコイル端末部851と、第1の実施の形態で説明した端子部106とを超音波接合させるようにしてもよい。
【0072】
(2)第1の実施の形態では、溝167同士の交差角度が直角とされ、矩形状の突起166がマトリクス状に配列された端子部106について説明したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、溝同士の交差角度を鋭角や鈍角として、菱形形状の突起をマトリクス状に配列した端子部を形成してもよい。
【0073】
(3)上述した実施の形態では、コイル端末部151,851にホーンWHを当接させ、端子部106,206,306,406,506,606,706にアンビルWAを当接させる例について説明したが、コイル端末部151,851にアンビルWAを当接させ、端子部106,206,306,406,506,606,706にホーンWHを当接させて超音波接合を行ってもよい。
【0074】
(4)上述した実施の形態では、ハイブリッド型の電気自動車や純粋な電気自動車に搭載される回転電機について説明したが本発明はこれに限定されない。他の電動車両、たとえばハイブリッド電車などの鉄道車両、バスなどの乗合自動車、トラックなどの貨物自動車、バッテリ式フォークリフトトラックなどの産業車両などに搭載される回転電機に本発明を適用してもよい。
【0075】
本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。
【0076】
次の優先権基礎出願の開示内容は引用文としてここに組み込まれる。
日本国特許出願2013年第171233号(2013年8月21日出願)