(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
活性化可能な結合ポリペプチド(ABP)であって、そのN末端からC末端に向けて又はC末端からN末端に向けて、マスキング部分(MM)、切断可能部分(CM)及び標的結合部分(TBM)を備え、
前記MMは前記TBMの標的への結合を阻害することができるペプチドであり、前記TBMの天然に生じる結合相手のアミノ酸配列を有さず、
前記CMはマトリクスメタロプロテアーゼ(MMP)基質を含み、
前記TBMは抗体あるいは標的に特異的に結合できる抗原結合ドメイン(ABD)を含む抗体断片を含み、
前記ABPが切断された状態では、前記TBMが標的と結合可能であり、前記ABPが未切断状態では、前記ABDが前記MMに特異的に結合していることにより前記TBMの標的への結合が阻害され、
前記MMは、切断状態での前記TBMの標的への結合を妨害しない又は競合せず、
前記ABPは、MMとCMとの間に位置する第1のフレキシブルリンカーペプチド及び/又はCMとTBMとの間に位置する第2のフレキシブルリンカーペプチドを含む、活性化可能な結合ポリペプチド。
前記ABDが、ベバシズマブ、ラニビズマブ、セツキシマブ、パニツムマブ、インフリキシマブ、アダリムマブ、ナタリズマブ、バシリキシマブ、エクリズマブ、エファリズマブ、トシツモマブ、イブリツモマブ・チウキセタン、リツキシマブ、ダクリズマブ、ゲムツズマブ、ゲムツズマブ・オゾガマイシン、アレムツズマブ、アブシキシマブ、オマリズマブ、トラスツズマブ、パリビズマブ、イピリムマブ、及びトレメリムマブからなる抗体の1つに由来する、請求項1又は2に記載の活性化可能なポリペプチド。
前記ABDが、セツキシマブ、ベバシズマブ、ラニビズマブ、イピリムマブ、トレメリムマブ、パニツムマブ、インフリキシマブ、アダリムマブ、及びエファリズマブからなる群から選択される抗体に由来する、請求項1又は2に記載の活性化可能なポリペプチド。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明についてさらに説明する前に、本発明はここに記載の特定の実施形態に限定されるものではなく、それ自体がもちろん可変であることは理解できよう。また、本明細書で用いる専門用語は特定の実施形態を説明するだけのためのものであり、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることになるため、限定することを意図したものではない旨も理解できよう。
【0044】
値の範囲が与えられている場合、それぞれの間にある値、文脈から他の内容が明確に示される場合を除いて下限の10分の1単位、その範囲の上限と下限との間、他の表記の範囲またはその表記の範囲での中間値も本発明に包含されることが理解される。これらのさらに小さな範囲の上限と下限は独立に、さらに小さな範囲に含まれることもあり、表記の範囲で具体的に排除された限界まで本発明内に包含される。表記の範囲が限界のうちの一方または両方を含む場合、この含まれる範囲の一方または両方を排除する範囲も本発明に包含される。
【0045】
特に定義しないかぎり、本明細書で使用する技術用語および科学用語はいずれも、本発明が属する分野の当業者らに一般に理解されている意味と同一の意味を持つ。本明細書に記載したものと同様または同等の方法および材料を、本発明の実施または試験に用いることが可能であるが、ここでは好ましい方法および材料について説明する。本明細書で言及する刊行物はいずれも、その刊行物を引用することに関して方法および/または材料を説明および開示するために本明細書に援用する。
【0046】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用する場合、単数形「a」「an」「and」および「the」は、その指示対象の複数形を含む(文脈から、そうでないことが明白な場合を除く)ことに注意されたい。よって、たとえば、「活性化可能な結合ポリペプチド」とは、複数のこのような活性化可能な結合ポリペプチドを含み、「活性化可能な結合ポリペプチド」とは、1つ以上の活性化可能な結合ポリペプチドならびに当業者間で周知のその等価物を含むといった具合である。また、特許請求の範囲は、任意の要素を排除するようにも記載できる。その際、この記述は、権利請求する要素の記述に関連してこのような排除的な用語を「唯一」「単に」などと使用するか、「負の」限定として使用する先行技術として機能することを意図している点に注意されたい。
【0047】
本明細書に言及する刊行物は、本出願の出願日前の開示物として提供したものにすぎない。本明細書のいずれの部分も、本発明が先行する発明のおかげでこのような刊行物に先行する資格がないと認めたとは解釈されない。さらに、ここにあげた発行日が実際の発行日とは異なる場合もあり、独立に確認する必要がある場合もある。
【0048】
例示としての実施形態の詳細な説明
本開示は、活性化可能な結合ポリペプチド(ABP)を提供するものであり、これは、標的結合部分(TBM)と、マスキング部分(MM)と、切断可能部分(CM)とを含有する。ABPは、たとえば切断作用剤(CMの切断部位を認識するプロテアーゼなど)の存在下でCMが未切断のときに切断後よりもTBMが標的に到達しにくいように「活性化可能な」コンホメーションを呈する。本開示はさらに、候補ABPのライブラリ、このようなABPを同定するためのスクリーニング方法および使用方法も提供するものである。本開示はさらに、VEGFと結合するTBMを有するABPならびに、組成物および使用方法も提供するものである。
【0049】
また、本開示は、第1のTBMと、第2のTBMと、CMとを含有するABPも提供するものである。これらのABPは、CMを切断できる切断剤の存在下で、CMが未切断のときに切断後よりも少なくとも1つのTBMが標的に到達しにくいように「活性化可能な」コンホメーションを呈する。本開示はさらに、このようなコンフィギュレーションを有する候補ABPのライブラリ、当該ABPを同定するためのスクリーニング方法および使用方法も提供するものである。本開示はさらに、VEGFと結合してVEGF活性を阻害するTBMと、FGFと結合してFGF活性を阻害するTBMとを有するABPならびに、組成物および使用方法も提供するものである。
【0050】
また、本開示は、標的と結合できる抗原結合ドメイン(ABD)を含有する抗体または抗体フラグメントである標的結合部分(TBM)と、マスキング部分(MM)と、切断可能部分(CM)とを含む活性化可能な結合ポリペプチド(ABP)を提供するものである。ABPは、たとえば切断作用剤(CMの切断部位を認識するプロテアーゼなど)の存在下でCMが未切断のときに切断後よりもABDが標的に到達しにくいように「活性化可能な」コンホメーションを呈する。本開示はさらに、候補ABPのライブラリ、ABDの候補MM、このようなABPおよびMMを同定するためのスクリーニング方法および使用方法も提供するものである。本開示はさらに、本明細書に開示の複数の標的のうちの1つ以上と結合するABDを有するABPならびに、組成物および使用方法も提供するものである。
【0051】
定義
「活性化可能な結合ポリペプチド」または「ABP」という用語は、広義には、標的結合部分(TBM)と、切断可能部分(CM)と、マスキング部分(MM)とを含有するポリペプチドを示す。TBMは通常、標的タンパク質(VEGFなど)への結合用のアミノ酸配列を含有する。いくつかの実施形態では、TBMが、抗体またはその抗体フラグメントの抗原結合ドメイン(ABD)を含む。
【0052】
CMは通常、酵素および/または還元可能なジスルフィド結合を形成可能なシステイン−システイン対の基質として機能するアミノ酸配列を含む。それ自体、CMとの関連で「切断」、「切断可能な」、「切断された」などの表現を用いる場合、これらの表現は、プロテアーゼなどによる酵素切断ならびに、還元剤への曝露後のジスルフィド結合の還元によるシステイン−システイン対間のジスルフィド結合の破壊を包含する。
【0053】
MMは、ABPのCMが無傷(すなわち、対応する酵素によって切断されていないおよび/または非還元システイン−システインジスルフィド結合を含有する)である場合に、自らの標的に対するTBMの結合にMMが干渉するアミノ酸配列である。CMのアミノ酸配列は、MMと重なることもあれば、MMに含まれることもある。便宜上、本明細書で用いる「ABP」は、その未切断の(または「ネイティブな」)状態にあるABPと、その切断状態にあるABPの両方を示す点に注意されたい。いくつかの実施形態では、少なくともMMを切り離すプロテアーゼなどによるCMの切断(MMが共有結合によってABPと結合していない場合など(システイン残基間のジスルフィド結合など)が原因で、切断後のABPにMMが欠けている場合がある旨は、当業者であれば自明であろう。例示としてのABPについては、下記において詳細に説明する。
【0054】
特に関心の対象となる一実施形態では、ABPが2つのTBMを含み、少なくとも1つのTBMが他のTBMに対するマスキング部分(MM)として作用する、および/または未切断のコンホメーションで、少なくとも1つのTBMの標的に対するABPの結合が、ABPが切断されたコンホメーションにある場合に比して少なくなるように、2つのTBMが互いにマスキング部分として機能する。よって、本実施形態における「活性化可能な結合ポリペプチド」または「ABP」は、第1の標的結合部分(TBM)と、第2のTBMと、切断可能部分(CM)とを含有するポリペプチドを包含し、第1および第2のTBMが相互作用して、標的に対する少なくとも1つのTBMの結合を「マスク」する(すなわち、第1および/または第2のTBMが標的結合のマスキング部分(MM)として作用する)。TBMは通常、標的タンパク質(VEGFなど)への結合用のアミノ酸配列を含有する。
【0055】
後者の実施形態では、ABPのCMが無傷(すなわち、対応する酵素によって切断されていない、および/または非還元システイン−システインジスルフィド結合を含有する)である場合に、第1および第2のTBMの相互作用が、自らの対応する標的に対する一方または両方のTBMの結合に干渉する。便宜上、本明細書で使用する「ABP」は、その未切断の(または「ネイティブな」)状態にあるABPと、その切断状態にあるABPの両方を示す点に注意されたい。いくつかの実施形態では、プロテアーゼなどによるCMの切断が原因で、切断後のABPに上述したような2つのTBMが含まれなくなる場合がある旨は、当業者であれば自明であろう。ABPが、プロテアーゼ切断可能なCMと、ジスルフィド結合を含むCMの両方を含む場合、プロテアーゼ切断可能なCMを切断してもジスルフィド結合が無傷のまま残り、切断後の形態のABPには標的結合が可能な「マスクされない」コンフィギュレーションで2つのTBMが保持される場合もある。例示としてのABPについては、下記において詳細に説明する。
【0056】
本明細書で使用する場合、「切断剤」という用語は、酵素切断などによってCMの配列を切断できる作用剤あるいは、システイン−システイン対間のジスルフィド結合を還元できる還元剤を示す。「還元剤」は一般に、ジスルフィド結合との還元酸化反応で電子供与化合物として機能する化合物または元素を示す。特に注目される還元剤として、タンパク質などの細胞還元剤あるいは、グルタチオン、チオレドキシン、NADPH、フラビン、アスコルビン酸塩などの生理学的条件下でジスルフィド結合を還元できる他の作用剤があげられる。
【0057】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、「タンパク質」という用語は、本明細書では同義に用いられ、長さを問わずアミノ酸のポリマー形態を示し、これには、コードされたアミノ酸およびコードされないアミノ酸、化学的または生化学的に修飾されたまたは誘導体化されたアミノ酸、修飾されたペプチド骨格を有するポリペプチドを含み得る。この用語は、異種アミノ酸配列を有する融合タンパク質、N末端メチオニン残基を含むまたは含まない異種および同種リーダー配列との融合物;免疫学的にタグ付けされたタンパク質などを含むがこれに限定されるものではない、融合タンパク質を含む。
【0058】
「プロテアーゼ」、「プロテイナーゼ」および「ポリペプチドを切断できる酵素」は、本明細書では同義に用いられ、ペプチド結合を加水分解するエンドペプチダーゼまたはエキソペプチダーゼなどの酵素、通常はエンドペプチダーゼを示す。
【0059】
「複製可能な生命体」という表現は、細菌、酵母、原虫、哺乳類細胞ならびに、このような細胞に感染し、複製できるさまざまなウイルスおよびバクテリオファージなどをはじめとする自己複製生物細胞を示す。
【0060】
「核酸分子」および「ポリヌクレオチド」という用語は、同義に用いられ、長さを問わずヌクレオチドのポリマー形態、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドのいずれか、あるいはその類似体を示す。ポリヌクレオチドは、どのような三次元構造であってもよく、周知のまたは周知ではないどのような機能を果たすものであってもよい。ポリヌクレオチドの非限定的な例として、遺伝子、遺伝子断片、エキソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分岐鎖ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離DNA、任意の配列の単離RNA、核酸プローブ、プライマーがあげられる。
【0061】
「でコードされる」とは、ポリペプチド配列をコードする核酸配列を示し、ポリペプチド配列またはその一部は、核酸配列でコードされるポリペプチドから少なくとも3から5アミノ酸、一層好ましくは少なくとも8から10アミノ酸、なお一層好ましくは少なくとも15から20アミノ酸からなるアミノ酸配列を含有する。また、配列によってコードされるポリペプチドで免疫学的に同定可能なポリペプチド配列も包含される。
【0062】
「コンストラクト」は、本明細書では、共有結合的におよび作動的に結合された要素として特徴付けられるポリペプチドまたは核酸を示すものとして用いられる。たとえば、ABPコンストラクトは、少なくともTBM、MM、CMを含むABPポリペプチド(これが作動的に結合されて本明細書に記載の切り替え可能な表現型が得られる)ならびにこのようなABPポリペプチドをコードする核酸を示し得るものである。
【0063】
「ベクター」は、遺伝子配列を標的細胞に伝達できる。一般に、「ベクターコンストラクト」、「発現ベクター」および「遺伝子導入ベクター」は、宿主細胞で目的の遺伝子の発現を指令できる核酸コンストラクトを意味する。よって、この用語は、クローニングベクターおよび発現媒体(vehicle)ベクターならびに組み込み用(integrating)ベクターも含む。
【0064】
本明細書で使用する場合、「組換え」は当該技術分野での通常の意味であり、in vitroで合成またはそうでなければ操作されたポリヌクレオチド(「組換えポリヌクレオチド」など)、細胞または他の生物学的系で組換えポリヌクレオチドを用いて遺伝子産物を産生する方法、組換えポリヌクレオチドでコードされるポリペプチド(「組換えタンパク質」)を示す。
【0065】
「組換え」という表現を細胞に関して用いる場合、細胞が異種核酸を含有するか、このような異種核酸でコードされるペプチドまたはタンパク質を発現し、通常はこのような異種核酸を複製することを示す。組換え細胞は、その細胞のネイティブな(非組換え)形態には見られない遺伝子を含み得る。組換え細胞はまた、その細胞のネイティブな形態に見られる遺伝子も含み得るものであり、これらの遺伝子が修飾されて人工的な手段で細胞に再導入される。この用語はまた、細胞から核酸を除去することなく修飾されている細胞に対して内在性の核酸を含有する細胞も包含する。このような修飾は、遺伝子の代置、部位特異的変異、関連の技法によって得られるものを含む。
【0066】
「異種配列」、「異種核酸」、「異種ポリペプチド」または「異種アミノ酸配列」とは、本明細書で使用する場合、特定の宿主細胞にとって外来である起源に由来するものであり、あるいは、同一起源である場合には、その元の形態から修飾されている。よって、宿主細胞の異種核酸は、特定の宿主細胞に内在するが、修飾されている(宿主細胞に通常は見られない配列を提供するための核酸に対して、天然に生じる核酸または親核酸とは異なるアミノ酸配列をコードするなど)核酸を含む。異種配列の修飾は、DNAを制限酵素で処理して、プロモーターに作動的に結合され得るDNAフラグメントを生成する、あるいはDNAを異種プロモーターに作動的に結合させて宿主細胞にとって内在性ではない発現カセットを提供するなど、多岐にわたる方法で達成可能である。部位特異的突然変異誘発などの技法も異種核酸の修飾には有用である。
【0067】
「作動的に結合された」という表現は、所望の機能を得るための分子間の機能的リンケージを示す。たとえば、核酸に関して「作動的に結合された」とは、転写、翻訳などの所望の機能を得るための核酸間の機能的リンケージ、たとえば核酸発現対照配列(プロモーター、シグナル配列または転写因子結合部位のアレイなど)と第2のポリヌクレオチドとの間の機能的リンケージを示し、発現対照配列は第2のポリヌクレオチドの転写および/または翻訳に影響する。ポリペプチドに関して「作動的に結合された」とは、ポリペプチドのここに記載の活性(ABPが未切断にあるときのTBMの「マスキング」、切断を容易にするためのプロテアーゼに対する到達しやすさ、ABPのTBMの「未マスキング」など)を得るためのアミノ酸配列(異なるドメインなど)間の機能的リンケージを示す。
【0068】
「組換え発現カセット」または単に「発現カセット」とは、このような配列と矛盾しない宿主の対照要素と作動的に結合された構造的遺伝子の発現に影響できる対照要素を有する組換え的および/または合成的に生成された核酸コンストラクトである。発現カセットは、少なくともプロモーターを含み、任意に、転写終結シグナルも含む。一般に、組換え発現カセットは、少なくとも転写対象となる核酸とプロモーターとを含む。発現させるのに必要または役立つ別の因子も本明細書に記載したようにして使用可能である。たとえば、転写終結シグナル、エンハンサー、遺伝子発現に影響する他の核酸配列も発現カセットに含み得るものである。
【0069】
「ゲノムに導入する」とは、組換え複製可能な生命体(宿主細胞、バクテリオファージなど)を作製することに関して本明細書で使用する場合、複製をするための組換え複製可能な生命体の生成を示し、必要があれば、複製可能な生命体の複製による外来性ポリペプチドの発現を示す。複製可能な生命体が宿主細胞(細菌、酵母または哺乳類細胞など)である場合、「ゲノムに導入する」とは、ゲノムの組み込み(安定した組み込みなど)によるゲノム的導入ならびに、宿主細胞で外来性核酸の安定したまたは一過性の維持を提供するためのエピソーム要素(プラスミドなど)の導入の両方を包含する。「トランスフォーメーション」という用語も同様に、目的のポリペプチドをコードする外来性核酸の導入による組換え細胞の生成を示して用いられ、この場合の外来性核酸は、エピソーム要素(細菌または酵母宿主細胞との関連ではプラスミドなど)と同様に安定してまたは一過的に維持可能であるか、安定してまたは一過性にゲノム組み込み可能である。
【0070】
「単離された」という表現は、実体(ポリペプチド、核酸など)を、これが本来関連しているまたは合成(組換え、化学合成など)時に関連することがある他の実体から分離したことを示す。「単離された」という用語は、実体が天然に見いだせる状態にないことを意味し、実体が組換えまたは他の合成手段で産生される場合であれば、存在し得る他の成分に対して分離または富化されていることを意味する。よって、たとえば、「単離されたタンパク質」は、天然に見られるようなものではないが実質的に100%未満の純粋なタンパク質のこともある。
【0071】
「実質的に純粋」とは、実体(ポリペプチドなど)がなす部分が組成物全体(組成物の全タンパク質など)の約50%を超え、一般に、タンパク質全体の約60%を超えることを示す。より一般に、「実質的に純粋」とは、組成物全体の少なくとも75%、少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも90%またはそれより多くが目的の実体(全タンパク質のなどである組成物を示す。好ましくは、タンパク質がなす部分が約90%を超え、一層好ましくは組成物のタンパク質全体の約95%を超える。
【0072】
「富化された」とは、開始組成物に比して、組成物で目的の実体の割合が増したことを示す。たとえば、メンバの10%が所望の属性(酵素的に「切り替え可能」など)を呈する開始個体群すなわち第1の個体群を富化して、全体の10%を超える(15%またはそれより多くなど)メンバが所望の活性を呈する第2の個体群を得ることが可能である。富化に選択を伴うなど、富化によって個体群の異なるメンバ全体が減少する場合がある点に注意されたい。
【0073】
「スクリーン」または「スクリーニング」ならびに、「選択」または「選択する」という表現は、本明細書では、所望の属性(酵素的に「切り替え可能」など)を有する個体群のメンバを、属性がそれほど望ましくない(検出可能な酵素的に切り替え可能な表現型がない、あるいは所望のダイナミックレンジにない酵素的に切り替え可能な表現型など)メンバから分離しやすくなるように個体群を処理することを示して用いられる。スクリーニングは、1つ以上の基準を用いてメンバの個体群について実施可能である。スクリーニングは、(たとえばFACSを用いる細胞選別によるなど)分離後の個体群の回復性および/または生存度を維持する手段によって達成可能であるか、あるいは個体群の望ましくないメンバの生存度または回復性を抑えることで達成可能である。
【0074】
スクリーニング(または選択)には、「ポジティブスクリーニング」または「ネガティブスクリーニング」(本明細書ではそれぞれ、「ポジティブ選択」または「ネガティブ選択」とも呼ぶ)が可能である。「ポジティブスクリーニング」では、所望の属性を呈するメンバを、ポジティブシグナル(検出可能なシグナルの存在、所望の属性を欠いたメンバの成長を阻害する作用剤の存在下での成長など)の存在に応じて選択する。「ネガティブスクリーニング」では、所望の属性を呈するメンバを、減少したシグナルまたは検出できないシグナル(比較的減少または検出できないシグナル;所望の属性を呈するメンバの成長を阻害する作用剤の存在下での成長の低下など)に応じて選択する。
【0075】
本明細書で使用する場合、「接触」とは通常の意味であり、2つ以上の実体(標的タンパク質、候補ABP、酵素など)を組み合わせることを示す。接触は、たとえば、試験管または他の容器内で(2つ以上の作用剤[切断剤(酵素など)とペプチド提示足場を発現している細胞など]を組み合わせるなど)、細胞ベースの系で(標的タンパク質および/または切断剤(酵素など)と細胞表面に提示されたでABPの接触など)または無細胞系で(無傷細胞を必要とせずにペプチド提示足場を提示するための切断剤(酵素など)と細胞膜、合成膜または他の膜とを組み合わせるなどなど)起こり得る。
【0076】
本明細書で使用する場合、「リガンド」とは、酵素に対する基質、阻害剤またはアロステリックレギュレーターの結合などの結合相手の分子に結合する分子を示し、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、核酸分子、炭水化物、糖、脂質、リポタンパク質、小分子、天然および合成の有機物質および無機物質、合成ポリマーなどの天然および合成の生体分子を含む。
【0077】
「結合」とは、本明細書で使用する場合、主に2つの分子間(本明細書では基質および酵素などの「結合相手」と呼ぶ)での共有結合または非共有結合の相互作用を示し、この結合は通常、特異的である。
【0078】
本明細書で使用する場合、「特異的結合」または「特異的に結合する」とは、結合相手が互いに結合するが、その環境(生物学的試料中、組織中など)に存在し得る他の分子とは、特定の条件の組(生理学的条件など)のもとで有意なレベルまたは相当なレベルでは結合しないような結合相手間の相互作用を示す。
【0079】
本明細書で使用する場合、「蛍光基」は、選択した波長の光で励起されると、異なる波長の光を放出する分子を示す。蛍光基を「フルオロフォア」と呼ぶこともある。
【0080】
本明細書で使用する場合、「提示足場」という用語は、宿主細胞で発現されると、宿主細胞の細胞外到達可能な表面に提示され、作動的に結合された異種ポリペプチドを提示するポリペプチドを示す。たとえば、提示足場には、本明細書に開示した方法で候補ABPのスクリーニングを容易にする用途がある。提示足場は、提示足場からの融合タンパク質の切断と候補ABPの放出を容易にするプロテアーゼの作用によって、目的の異種ポリペプチドを提示足場から容易に放出できるように提供可能である。
【0081】
「検出する」または「評価する」とは、あらゆる形態の定性的測定または定量的測定を含み、要素の有無を判断することを含む。「判断する」、「測定する」、「見極める」、「評価する」、「アッセイする」という表現は同義に用いられ、定量的および定性的判断を含む。評価は相対的なものであっても絶対的なものであってもよい。「存在を評価する」とは、存在する何かの量を判断することおよび/または有無を判断することを含む。本明細書で使用する場合、「検出する」、「判断する」、「測定する」、「評価する」、「アッセイする」という用語は同義に用いられ、定量的判断と定性的判断の両方を含む。
【0082】
「有効量」または「治療有効量」という用語は、治療対象となる疾患状態を治療するあるいは、そうでなければ所望の効果(腫瘍サイズの減少、血管形成の低減など)を得るのに十分な薬用量を意味する。厳密な薬用量は、被検体依存の変数(年齢、免疫系の健康など)、疾患(癌または腫瘍のタイプなど)、実施する治療などの多岐にわたる要因に応じて変わってくる。
【0083】
「治療部位」という用語は、ABPの一方または両方のTBMの標的とABPのCMを切断できる切断剤とが共存する部位など、本明細書に記載したようにABPが切り替え可能に設計される部位を示すことを意図している。治療部位としては、局所投与(注射、点滴など(カテーテルによるなど))または全身投与(治療部位から離れた部位への投与など)で到達できる組織がある。治療部位は、生物学的に比較的限局された部位(臓器、嚢、腫瘍部位など)も含む。
【0084】
活性化可能な結合ポリペプチド
本開示は、標的タンパク質に対して、「切り替え可能な」結合とも呼ばれる「活性化可能な」結合を呈する活性化可能な結合ポリペプチド(ABP)を提供するものである。ABPは主に、標的結合部分(「TBM」)と、マスキング部分(「MM」)と、切断可能部分(「CM」)とを含む。いくつかの実施形態では、CMが、対象となるプロテアーゼの基質として機能するアミノ酸配列を含有する。他の実施形態では、CMが、還元によって切断可能なシステイン−システインジスルフィド結合を提供する。
【0085】
ABPの概略を、
図1、
図35および
図36に示す。後者の2つは、ABPのTBMが抗原結合ドメイン(ABD)を含有する実施形態を概略的に表したものである。
図1、
図35、
図36に示すように、切断状態(または比較的「活性な」状態)で標的が存在すればTBMが標的と結合するのに対し、未切断状態(または比較的「不活性な」状態)で標的が存在すると、MMによるTBMの「マスキング」を伴い得るABPのコンホメーションがゆえに、標的に対するTBMの結合が阻害されるような位置にCMがあるような形で、ABPの各要素が配置されている。本明細書で使用する場合、「切断状態」という表現は、プロテアーゼおよび/またはCMのシステイン−システインジスルフィド結合の還元によるCM切断後のABPの様子を示す。「未切断状態」という表現は、本明細書で使用する場合、プロテアーゼによるCMの切断がないおよび/またはCMのシステイン−システインジスルフィド結合の還元がない、ABPの様子を示す。上述したように、「ABP」は、本明細書では便宜上、その未切断の(または「ネイティブな」)状態にあるABPと、その切断状態にあるABPの両方を示すのに用いられる。いくつかの実施形態では、少なくともMMを切り離すプロテアーゼによるCMの切断(MMが共有結合(システイン残基間のジスルフィド結合など)によってABPと結合していない場合などが原因で、切断後のABPにMMが欠けている場合がある旨は、当業者であれば自明であろう。
【0086】
「活性化可能な」または「切り替え可能な」とは、ABPがネイティブな状態または未切断状態(すなわち、第1のコンホメーション)で標的に対して第1のレベルの結合を呈し、切断状態(すなわち、第2のコンホメーション)で標的に対して第2のレベルの結合を呈し、第2のレベルの標的結合が第1のレベルの結合よりも強いことを意味する。通常、CMを切断できる切断剤の存在下でのほうが、このような切断剤の非存在下よりもABPのTBMへの標的の到達が大きくなる。よって、ネイティブな状態または未切断状態で、TBMは標的結合から「マスクされ」(すなわち、第1のコンホメーションは、これがTBMに対する標的の到達に干渉するようなものである)、切断状態では、TBMが標的結合に対して「マスクされない」。
【0087】
ABPのCMおよびTBMについては、TBMが目的の標的用の結合部分を表し、CMが被検体の治療部位で標的と共存するプロテアーゼの基質を表すように選択してもよい。上記の代わりまたは上記に加えて、CMは、このジスルフィド結合の還元の結果として切断可能なシステイン−システインジスルフィド結合である。ABPは、少なくとも1つのプロテアーゼ切断可能なCMまたはシステイン−システインジスルフィド結合を含有し、いくつかの実施形態では、両方の種類のCMを含む。本明細書に開示のABPには、たとえば、CMの部位を切断できるプロテアーゼが、非治療部位の組織よりも治療部位の標的含有組織で比較的高めのレベルで存在する場合に、特定の利用法がある。
【0088】
別の言い方をすると、ABPのCM−TBM対は、標的と共存するプロテアーゼのレベルが高くなることを有効利用するよう設計されている。このため、被検体の非治療部位よりも治療部位で優先的に酵素活性化される(よって、高い標的結合レベルを呈する)ようにABPを設計することが可能である。このように、ABPを用いると、非治療部位でTBMの結合に起因し得る毒性および/または有害な副作用を減らすことが可能である。ABPが、ジスルフィド結合を還元しやすくする還元剤によって切断可能なCMを含有する場合、たとえば非治療部位の環境よりも環境での還元の可能性が高くなるような形で、還元剤のレベルの高さを特徴とする所望の治療部位に目的の標的が存在するTBMの活性化を有効利用するよう、このようなABPのTBMを選択してもよい。
【0089】
通常、ABPを設計するには、目的のTBMを選択し、コンホメーション的に制限がある場合はMMがTBMをマスクするようABPの残りを構築すればよい。この機能的な特徴を提供するために構造的な設計基準が考慮対象となる。たとえば、ABPが、MMと、少なくとも1つのCMと、リンカーとを含む場合、このリンカーは、TBMの標的結合部位からコンストラクトの残りが結合することになるTBMの末端までの距離を代表する長さに対して、一般に少なくとも1.5から2倍、通常は少なくとも2倍になるように選択される。
【0090】
二重標的結合ABPは、本開示において特に関心の対象となる。このような二重標的結合ABPは2つのTBMを含有し、これらは同一の標的と結合することもあれば異なる標的と結合することもある。この場合、少なくとも1つのTBMが、標的結合と「マスキング」の二重の機能を果たす。上述したように、このような二重標的結合ABPは通常、2つのTBMを含有し、少なくとも1つのTBMが他のTBMに対するマスキング部分(MM)として作用および/またはABPが切断されたコンホメーションにある場合に比して、未切断のコンホメーションで、少なくとも1つのTBMの標的に対するABPの結合が少なくなるように、2つのTBMが互いにマスキング部分として作用する。よって、本実施形態における「ABP」は、第1の標的結合部分(TBM)と、第2のTBMと、切断可能部分(CM)とを含有するポリペプチドを包含し、第1および第2のTBMが相互作用して、標的に対する少なくとも1つのTBMの結合を「マスク」する(すなわち、第1および/または第2のTBMが標的結合のマスキング部分(MM)として作用する)。TBMは、異なる標的(VEGFならびに、FGF2などの線維芽細胞成長因子(FGF)など)に結合するTBMを含み得る。各TBMは、各々が標的に対する結合用の1つ以上の活性部位を含むように、独立して選択可能である。
【0091】
図20は、ABPが切断されたときにそれぞれの標的を結合し、ABPが未切断のときにTBMの一方または両方の標的に対する結合からABPをマスクする、二重機能を果たし得る2つのTBMを有する本開示の例示としてのABPを示す概略図である。
図20の上側には「MM」が示されているが、この場合のMMは単一の結合部位を有する第1のTBMである。
図20の中程に、第1のTBMおよび第2のTBM(任意にTBM1およびTBM2と表示)を有し、2つのTBM間に切断可能部分(CM)が位置するABPを示す。切り替え可能な未切断のコンホメーション(すなわちCMが対応する酵素によって切断されていないおよび/または非還元システイン−システインジスルフィド結合を含有する無傷のとき)では、
図20の下側に示すように、TBM1がTBM2と相互作用することで、少なくともTBM1の標的に対する結合を「マスク」し、特定の実施形態では、TBM1およびTBM2の両方の標的結合をマスクする。切断されると、各TBMは「マスクされていない」ため、それぞれの標的に自由に結合できる。
【0092】
二重標的結合TBMについては、ABPのTBMに結合できる標的の一方または両方と標的組織で共存する、切断剤によって切断可能なCMを有するように設計可能である。本開示はさらに、単一のABPを切断剤で切断することで、複数の標的結合フラグメントが放出されるように、TBM1−TBM2ドメインの複数の「単位」を企図するものである。
【0093】
図20に例示するように、「マスクされた」TBMと、標的または(血清IgG結合タンパク質で例証されるような)血清半減期の延長などの別の所望の機能を提供し得る目的の部分との間に、第2のCMを配置することが可能である。この第2のCMは、同一または異なる切断剤による切断の影響を受けやすい。
【0094】
いくつかの実施形態では、プロテアーゼなどによるCMの切断が原因で、切断後のABPに上述したような2つのTBMが含まれなくなる場合がある旨は、当業者であれば自明であろう。ABPが、プロテアーゼ切断可能なCMと、ジスルフィド結合を含むCMの両方を含む場合、プロテアーゼ切断可能なCMを切断してもジスルフィド結合が無傷のまま残り、切断後の形態のABPには標的結合が可能な「マスクされない」コンフィギュレーションで2つのTBMが保持される場合もある。例示としてのABPについては、下記において詳細に説明する。
【0095】
切断されたコンホメーション対未切断のコンホメーションで標的結合に対する所望のダイナミックレンジを切り替え可能な表現型を呈するABPが、特に関心の対象となる。「ダイナミックレンジ」という用語は、本明細書で使用する場合、主に(a)第1の組の条件下でのパラメータの最大検出レベルと、(b)第2の組の条件下でのそのパラメータの最小検出値との比を示す。たとえば、ABPとの関連では、ダイナミックレンジは、(a)ABPのCMを切断できるプロテアーゼの存在下でABPに結合する標的タンパク質の最大検出レベルと、(b)プロテアーゼの非存在下でABPに結合する標的タンパク質の最小検出レベルとの比を示す。ABPのダイナミックレンジについては、ABP切断剤(酵素など)治療の平衡解離定数と、ABP切断剤治療の平衡解離定数との比として算出可能である。ABPのダイナミックレンジが大きくなればなるほど、ABPの「切り替え可能な」表現型が一層よくなる。ダイナミックレンジの値が比較的大きい(1を超えるなど)ABPは、ABPによる標的タンパク質結合が、ABPのCMを切断できる切断剤(酵素など)の存在下で、切断剤の非存在下よりも大きな度合いで生じる(優先的に生じるなど)ような一層望ましい切り替え表現型を呈する。
【0096】
ABPは、切り替え可能な表現型が得られるように、TBM、MM、CMがABPに作動的に配置されるかぎり、多岐にわたる構造的コンフィギュレーションで提供可能なものである。ABPの例示としての式を以下にあげておく。TBM、MMおよびCMのN末端からC末端の順序をABP内で反転してもよいことが、特に企図される。また、たとえばCMがMM内に含まれるように、CMとMMのアミノ酸配列が重なってもよいことも特に企図される。
【0097】
たとえば、ABPについては、以下の式で表すことが可能である(アミノ(「N」)末端領域からカルボキシル(「C」)末端領域への順で以下のとおりであり、
(MM)−(CM)−(TBM)
(TBM)−(CM)−(MM)
式中、MMはマスキング部分であり、CMは切断可能部分であり、TBMは標的結合部分である。上記の式ではMMとCMが別々の成分として示されているが、本明細書に開示の例示としてのすべての実施形態(式を含む)では、CMが完全にまたは部分的にMMの中に含まれるなど、MMとCMのアミノ酸配列が重なってもよい旨に注意されたい。また、上記の式では、ABP要素のN末端側またはC末端側に配置できる別のアミノ酸配列も得られる。いくつかの実施形態では、二重標的結合ABPは、MMが第2のTBMであるようなものである。本開示全体をとおして、ここに記載の式はこのような二重標的結合ABPを包含し、式中の「MM」がTBM1であり、「TBM」がTBM2であり、この場合のTBM1およびTBM2は第1および第2のTBMを任意に示しただけのものであり、TBMと結合できる標的が同一の標的であっても異なる標的であってもよく、同じ標的の同一の結合部位であっても異なる結合部位であってもよい旨は、理解できよう。
【0098】
通常、ABPは、標的のTBMへの到達が少なくともMMによって阻害されるようなABPの畳み込みの結果として、切り替え可能な表現型を呈することが可能である旨は理解できよう。よって、多くの実施形態では、MM−CM結合部分、CM−TBM結合部分の1つ以上または両方で柔軟性を持たせるために、フレキシブルリンカーなどの1つ以上のリンカーをABPコンストラクトに挿入すると望ましいことがある。たとえば、TBM、MMおよび/またはCMには、所望の柔軟性が得られるほどの十分な数の残基(Gly、Ser、Asp、Asn、特にGlyおよびSer、ことさらGlyなど)が含まれていないことがある。それ自体、このようなABPコンストラクトの切り替え可能な表現型が、フレキシブルリンカーを得るための1つ以上のアミノ酸の導入から恩恵を受けることがある。また、後述するように、ABPがコンホメーション的に制約されたコンストラクトとして提供される場合、フレキシブルリンカーを作動的に挿入して、未切断ABPの環状構造の形成と維持を容易にすることができる。
【0099】
たとえば、特定の実施形態では、ABPが、以下の式(この場合、後述の式はNからC末端方向またはCからN末端方向のいずれかのアミノ酸配列を示す)のうちの1つを含み、
(MM)−L
1−(CM)−(TBM)
(MM)−(CM)−L
1−(TBM)
(MM)−L
1−(CM)−L
2−(TBM)
シクロ[L
1−(MM)−L
2−(CM)−L
3−(TBM)]
式中、MM、CM、TBMは先に定義したとおりであり、L
1、L
2、L
3は各々独立かつ任意に存在するか存在せず、少なくとも1つのフレキシブルアミノ酸(Glyなど)を含む同一または異なるフレキシブルリンカーであり、「シクロ」が含まれる場合は、ABPにおけるシステインの対間のジスルフィド結合がゆえにABPが環状構造である。また、上記の式では、ABP要素のN末端側またはC末端側に存在してもよい別のアミノ酸配列も得られる。式シクロ[L
1−(MM)−L
2−(CM)−L
3−(TBM)]では、ABPがジスルフィド結合構造にある(よって、コンホメーション的に制約された状態である)場合に、ジスルフィド結合を担うシステインをABPに配置して1つまたは2つの「尾」を許容し、これによって「ラッシ」または「オメガ」構造を生成してもよい旨を理解されたい。尾のアミノ酸配列によって、ABPの局在化を容易にするための標的受容体に対する結合、ABPの血清半減期増大などのABPの別の特徴を得ることも可能である。標的部分(標的組織中に存在する細胞の受容体のリガンドなど)と血清半減期延長部分(免疫グロブリン(IgGなど)または血清アルブミン(ヒト血清アルブミン(HSA)などなどの血清タンパク質と結合するポリペプチドなど。
【0100】
上述したように、上記の式は、式の「MM」がTBM1であり、「TBM」がTBM2であるような二重標的結合ABPを包含し、この場合のTBM1およびTBM2は第1および第2のTBMを任意に示しただけのものであり、TBMと結合できる標的が同一の標的であっても異なる標的であってもよく、同じ標的の同一の結合部位であっても異なる結合部位であってもよい。本開示はさらに、第2のCMが異なるかまたは同じであるようなABPが第2のCMを含み得ることをさらに提供するものであり、目的の部分(標的部分、血清半減期延長部分、ABPを支持体に固定化するための部分など)の切断可能な放出を提供するものである。
【0101】
ABPで使用するのに適したリンカーは通常、「マスクされた」コンホメーションを容易にするための柔軟性をABPに与えるものである。このようなリンカーは通常、「フレキシブルリンカー」と呼ばれる。好適なリンカーは容易に選択可能であり、1アミノ酸(Glyなど)から20アミノ酸、2アミノ酸から15アミノ酸あるいは、4アミノ酸から10アミノ酸、5アミノ酸から9アミノ酸、6アミノ酸から8アミノ酸または7アミノ酸から8アミノ酸をはじめとして3アミノ酸から12アミノ酸など、異なる長さの好適なもののうちどのようなものであってもよく、1、2、3、4、5、6または7アミノ酸であればよい。
【0102】
例示としてのフレキシブルリンカーには、グリシンポリマー(G)
n、グリシン−セリンポリマー(たとえば、(GS)
n(GSGGS:配列番号1)
nおよび(GGGS:配列番号2)
nを含み、nは少なくとも1の整数である)、グリシン−アラニンポリマー、アラニン−セリンポリマー、従来技術において周知の他のフレキシブルリンカーがある。このうちグリシンおよびグリシン−セリンポリマーが注目されているが、これらのアミノ酸が比較的構造化されておらず、成分間の中性テザーとして機能しやすいことがその理由である。グリシンはアラニンよりもかなり多くphi−psiスペースに到達し、側鎖が長めの残基よりも制限がかなり少ないことから、グリシンポリマーが特に注目されている(Scheraga, Rev. Computational Chem. 11173〜142 (1992)を参照のこと)。例示としてのフレキシブルリンカーには、Gly−Gly−Ser−Gly:配列番号3、Gly−Gly−Ser−Gly−Gly:配列番号4、Gly−Ser−Gly−Ser−Gly:配列番号5、Gly−Ser−Gly−Gly−Gly:配列番号6、Gly−Gly−Gly−Ser−Gly:配列番号7、Gly−Ser−Ser−Ser−Gly:配列番号8、などがあるが、これに限定されるものではない。所望のABP構造を得るために、フレキシブルリンカーと、これよりも柔軟性の低い構造となる1つ以上の部分とをリンカーに含み得るように、ABPの設計に全体または一部が柔軟なリンカーを含み得ることは、当業者であれば分かるであろう。
【0103】
上述した要素に加えて、ABPは、たとえば、ABPのアミノ酸配列N末端またはC末端などの別の要素を含むものであってもよい。たとえば、ABPは、目的の細胞または組織への送達を容易にするための標的部分を含むことができる。さらに、後述するABPライブラリとの関連では、細胞表面でのABPの提示を容易にするための足場タンパク質との関連でABPを提供可能である。
【0104】
ABPの例示としての基本要素については、下記において詳細に説明する。
【0105】
標的結合部分(TBM)
ABPの標的結合部分(TBM)は、通常はタンパク質標的である目的の標的と結合でき、通常は特異的に結合できる、多岐にわたる周知のアミノ酸配列のどれを含むものであってもよい。たとえば、目的の標的タンパク質の結合相手のアミノ酸配列を含むようにTBMを選択可能であり、この場合、結合相手と標的の結合によって、標的タンパク質の活性の阻害および/または標的タンパク質の検出などの所望の生物学的作用が得られる。
【0106】
結合相手のアミノ酸配列(阻害剤など)が周知である例示としてのクラスの標的タンパク質として、細胞表面レセプターおよび分泌結合タンパク質(成長因子など)、可溶性酵素、構造的タンパク質(コラーゲン、フィブロネクチンなど)などがあげられるが、必ずしもこれに限定されるものではない。具体的な例示としての実施形態では、何ら限定することなく、TBMが以下の表1に示すような任意の標的の結合相手である。
【0108】
いくつかの実施形態では、TBMが、通常は目的のタンパク質標的である目的の標的に結合、特に特異的に結合できる抗原結合ドメイン、抗原結合ドメインフラグメントまたは抗体の抗原結合フラグメント(単鎖の抗原結合ドメインなど)を含有する全長抗体または抗体フラグメントを含む。この実施形態では、TBMが、抗原結合ドメイン(ABD)を含有する。ABDを含有するTBMを含むABPの概略を
図36に示す。このような実施形態では、ABDは、抗体の軽鎖および/または重鎖の可変領域または高頻度可変領域(VL、VH)、可変フラグメント(Fv)、F(ab’)2フラグメント、Fabフラグメント、単鎖抗体(scAb)、単鎖可変領域(scFv)、相補性決定領域(CDR)あるいは、標的タンパク質または標的タンパク質上のエピトープと結合できるABDを含有する従来技術において周知の他のポリペプチドなどの結合ポリペプチドであればよいが、これに限定されるものではない。他の実施形態では、各ABDが同一または異なる標的と結合できるように、ABDを含有する第1のTBMと、ABDを含有する第2のTBMとをTBMに含む、キメラまたはハイブリッドコンビネーションであるTBMであってもよい。いくつかの実施形態では、TBMが、2つの異なる抗原と結合するよう設計された二重特異性抗体またはそのフラグメントである。いくつかの実施形態では、活性化可能な形態で第1のTBMにカップリングされた第1のMMと、第2のTBMにカップリングされた第2のMMとがある。ABDの起源としては、天然に生じる抗体またはそのフラグメント、非天然の抗体またはそのフラグメント、合成抗体またはそのフラグメント、ハイブリッド抗体またはそのフラグメントあるいは、改変抗体またはそのフラグメントが可能である。
【0109】
特定の標的に対する抗体を作製するための方法は、従来技術において周知である。抗体およびそのフラグメント、抗体の重鎖および軽鎖の可変領域(V
HおよびV
L)、Fv、F(ab’)2、Fabフラグメント、単鎖抗体(scAb)、単鎖可変領域(scFv)、相補性決定領域(CDR)の構造は、十分に理解されている。標的抗原の所望の抗原−結合ドメインを有するポリペプチドを生成するための方法は、従来技術において周知である。別のポリペプチドをカップリングするよう抗体を修飾するための方法も、従来技術において周知である。たとえば、MM、CMまたはリンカーなどのペプチドをカップリングして抗体を修飾し、本開示のABPおよび他の組成物を生成してもよい。
図37に概略的に示すような標準的な方法を用いて、プロテアーゼ活性化ABDを含有するABPを開発し、生成することが可能である。
【0110】
TBMがABDを含有する標的タンパク質の例示としてのクラスとしては、細胞表面レセプターおよび分泌結合タンパク質(成長因子など)、可溶性酵素、構造的タンパク質(コラーゲン、フィブロネクチンなど)などがあげられるが、必ずしもこれに限定されるものではない。標的は、本明細書に記載し、表1に例示するがこれに限定されるものではない、TBM標的から選択可能である。具体的な例示としての実施形態では、何ら限定することなく、例示としてのABDソースを以下の表2にあげておく。
【0112】
表2に記載した例示としてのABDソースについては、1つ以上の参考ABDソースの説明について本明細書に援用する、以下の参考文献に一層詳細に論じられている。Remicade(商標)(インフリキシマブ):米国特許第6,015,557号明細書、Nagahira K,Fukuda Y,Oyama Y,Kurihara T,Nasu T,Kawashima H,Noguchi C,Oikawa S,Nakanishi T.Humanization of a mouse neutralizing monoclonal antibody against tumor necrosis factor−alpha(TNF−alpha).J Immunol Methods.1999 Jan 1;222(1−2):83〜92)。Knight DM,Trinh H,Le J,Siegel S,Shealy D,McDonough M,Scallon B,Moore MA,Vilcek J,Daddona P,et al.Construction and initial characterization of a mouse−human chimeric anti−TNF antibody.Mol Immunol.1993 Nov;30(16):1443〜53。Humira(商標)(アダリムマブ):米国特許第6 258 562号明細書の配列。Raptiva(商標)(エファリズマブ):Werther WA,Gonzalez TN,O’Connor SJ,McCabe S,Chan B,Hotaling T,Champe M,Fox JA,Jardieu PM, Berman PW,Presta LG.Humanization of an anti−lymphocyte function−associated antigen(LFA)−1 monoclonal antibody and reengineering of the humanized antibody for binding to rhesus LFA−1。J Immunol.1996 Dec 1;157(11):4986〜95に列挙された配列。Mylotarg(商標)(ゲムツズマブ・オゾガマイシン):(CO MS,Avdalovic NM,Caron PC,Avdalovic MV,Scheinberg DA,Queen C:Chimeric and humanized antibodies with specificity for the CD33 antigen.J Immunol 148:1149,1991に列挙された配列)(Caron PC,Schwartz MA,Co MS,Queen C,Finn RD,Graham MC,Divgi CR,Larson SM,Scheinberg DA.Murine and humanized constructs of monoclonal antibody M195(anti−CD33) for the therapy of acute myelogenous leukemia.Cancer.1994 Feb 1;73(3 Suppl):1049〜56)。Soliris(商標)(エクリズマブ):Hillmen P,Young N,Schubert J,Brodsky R,Socie G,Muus P,Roth A,Szer J,Elebute M,Nakamura R,Browne P,Risitano A,Hill A,Schrezenmeier H, Fu C,Maciejewski J,Rollins S,Mojcik C,Rother R,Luzzatto L(2006)。“The complement inhibitor eculizumab in paroxysmal nocturnal hemoglobinuria”.N Engl J Med 355(12):1233〜43。Tysabri(商標)(ナタリズマブ):Leger OJ,Yednock TA,Tanner L,Horner HC,Hines DK,Keen S,Saldanha J,Jones ST,Fritz LC,Bendig MM.Humanization of a mouse antibody against human alpha−4 integrin:a potential therapeutic for the treatment of multiple sclerosis.Hum Antibodies.1997;8(1):3〜16に列挙された配列。
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【0113】
いくつかの実施形態では、ABP(二重標的結合ABPを含む)のTBMが、標的の結合用に複数の活性部位(1、2、3またはそれより多いなど)を含む。これらの活性部位は、同一または異なるアミノ酸配列を有するものであってもよく、通常は、TBMの第1の活性部位の結合が、標的に対するTBMの第2の活性部位の結合に実質的に干渉しないように、目的の標的上の異なる結合部位に結合するよう設計される。特定の実施形態では、活性部位はアミノ酸リンカー配列によって分離されている。複数の活性部位を含むTBMを
図17〜
図19に概略的に示す。ABPはさらに、複数のTBM−MM「単位」を含むことが可能であり、これらの単位は、切断剤への曝露時に1つ以上のTBMのマスクが外れるように任意に別のCMで分離されていてもよい。二重標的結合ABPは、複数のTBM1−TBM2単位を含むことが可能であり、これらの単位は、二重標的結合ABPの「アーム」のいずれかに位置する1つ以上のCMで分離可能であって、同一または異なる切断剤で切断可能なものであってもよい。
【0114】
特定の実施形態では、ABPのTBMが2つ以上のABDを含有することが可能である。いくつかの実施形態では、ABDは二重特異性抗体またはそのフラグメント由来のものであってもよい。他の実施形態では、ABPは、2つの異なる抗体またはそのフラグメント由来のABDを取り込むために合成的に改変されたものであってもよい。このような実施形態では、2つの異なる標的、同じ標的上の2つの異なる抗原または2つの異なるエピトープと結合するようABDを設計可能である。2つ以上の標的部位を結合できる複数のABDを含有するTBMは通常、TBMの第1のABDの結合が、標的に対するTBMの第2のABDの結合に実質的に干渉しないように、目的の標的上の異なる結合部位に結合するよう設計される。複数のABDを含有するABPはさらに、複数のABD−MM「単位」を含むことが可能であり、これらの単位は、切断剤への曝露時に、ABDのマスクが外れるように任意に別のCMで分離されていてもよい。二重標的結合ABPは、複数のABD1−ABD2単位を含むことが可能であり、これらの単位は、二重標的結合ABPの「アーム」のいずれかに位置する1つ以上のCMで分離可能であって、同一または異なる切断剤で切断可能なものであってもよい。
【0115】
総じて、本開示に企図されるABPは、通常は細胞外タンパク質標的である細胞外標的を結合できるTBMを有するものである。しかしながら、細胞取り込みができ、細胞内で切り替え可能なよう設計されるように、ABPを設計することも可能である。
【0116】
マスキング部分(MM)
ABPのマスキング部分(MM)は通常、未切断状態では、TBMの標的が存在する場合ですらMMが標的に対するTBMの結合に干渉する、ABPに配置されたアミノ酸配列を示す。しかしながら、ABPが切断状態にあると、TBMの標的結合に対するMMの干渉が低減されることで、TBMが標的に到達しやすくなるとともに、標的が結合される。よって、MMは、ABPが未切断であるときに、TBMを標的結合から「マスキング」するが、ABPが切断されたコンホメーションにあるときにはTBMに対する標的の結合に実質的にまたは有意に干渉または拮抗しないものである。このように、MMとCMの組み合わせによって「切り替え可能な」表現型が容易になり、ABPが未切断のときにはMMが標的の結合を抑え、プロテアーゼによるCMの切断によって標的の結合が増す。
【0117】
MMの構造的な特性は、標的に対するTBM結合への干渉に必要な最小アミノ酸配列、目的の標的タンパク質−TBM結合対、TBMの長さ、CMの長さ、CMがMM内にあるか否か、未切断のABPでTBMを「マスク」する機能を果たすか否か、リンカーの有無、システイン−システインジスルフィド結合のCMを得るのに適したTBM内にあるまたはこれをフランキングするシステインの有無などの多岐にわたる要因に応じて変化する。
【0118】
いくつかの実施形態では、MMが共有結合によってABPにカップリングされる。このような一実施形態では、カップリングがABPのC末端へのものである。もうひとつの実施形態では、カップリングがABPの内部アミノ酸への架橋によるものである。もうひとつの実施形態では、ABP組成物がMMをABPのN末端に結合することでマスクされる。さらにもうひとつの実施形態では、MMとABPとの間のシステイン−システインジスルフィドブリッジによってABPがMMにカップリングされる。
【0119】
MMは、多岐にわたる異なる形態で提供可能なものである。たとえば、標的TBM結合におけるMMの干渉を抑えるためにCMの切断後にTBMが結合するよう設計された標的タンパク質よりも低親和性および/またはアビディティでMMがTBMと結合するかぎり、MMをTBMの周知の結合相手になるよう選択可能である。言い方を変えると、上述したように、MMは、ABPが未切断であるときに、TBMを標的結合から「マスクする」が、ABPが切断されたコンホメーションにあるときには標的の結合に実質的にまたは有意に干渉または拮抗しないものである。特定の一実施形態では、TBMおよびMMが、TBMおよびMMのうちの少なくとも1つが天然に生じる結合相手のメンバのアミノ酸配列を有さないような形で、天然に生じる一対の結合相手のアミノ酸配列を含有しない。特定の一実施形態では、TBMおよびMMが、TNF−αの一対の結合相手、TNF−αの結合相手として作用するTNF受容体の完全または部分細胞外ドメインあるいはその誘導体以外である。もうひとつの特定の実施形態では、TBMおよびMMが、TNF−αの一対の結合相手、TNF−αの結合相手として作用するウイルスT2タンパク質またはその誘導体以外である。もうひとつの特定の実施形態では、TBMおよびMMが、FasLの一対の結合相手ならびに、FasLの結合相手として作用するFas受容体またはその誘導体の完全または部分細胞外ドメイン以外である。もうひとつの特定の実施形態では、TBMおよびMMが、FasLの一対の結合相手ならびに、FasLの結合相手として作用するウイルスタンパク質またはその誘導体以外である。もうひとつの特定の実施形態では、TBMおよびMMが、FasLの一対の結合相手ならびに、FasLに対する結合親和性のある抗体またはそのフラグメント以外である。
【0120】
たとえば、天然の結合相手ではないようにTBMおよびMMを選択することも可能であり、この場合のMMは、たとえば、切断後にMMがTBM標的結合に実質的にまたは有意に干渉しないように、親和性および/またはTBMへの結合のアビディティを少なくとも若干低下させるアミノ酸の変化を含むTBMの修飾された結合相手であってもよい。ABPは、結合を容易にするアミノ酸配列が分かっている既知の結合相手に基づくものであってもよいため、このようなMM−TBM対の生成は当業者の技量の範囲内である。たとえば、VEGFおよびVEGF阻害剤の相互作用を容易にするアミノ酸配列が周知であり、本明細書に例示されている。
【0121】
MMは、さまざまなMMを有する候補ABPのライブラリからのスクリーニング手法で同定可能である。たとえば、TBMおよびCMを選択し、所望の酵素/標的の組み合わせを得ることができ、後述するスクリーニング手法によってMMのアミノ酸配列を同定し、切り替え可能な表現型を提供するMMを同定することが可能である。たとえば、本明細書に開示のスクリーニング方法でランダムペプチドライブラリ(約4から約40アミノ酸またはそれより多いなど)を使用して、好適なMMを同定してもよい。ランダムペプチドライブラリはまた、ジスルフィド結合の形成を助け、コンホメーション的に制約された「環状」ABP構造の形成を容易にするためのシステイン残基の標的導入との関連でも利用できる。
【0122】
他の実施形態では、候補MMからなるペプチド足場のライブラリを提供することを含むスクリーニング手法であって、各足場が膜貫通タンパク質および候補MMで構成されるスクリーニング手法で、抗原結合ドメイン(ABD)に特異的結合親和性のあるMMを同定することが可能である。次に、抗原結合ドメイン(目的の標的の結合もできる)を含有する全長抗体、天然に生じる抗体フラグメントまたは非天然型のフラグメントなどのTBMの全体または一部とライブラリとを接触させ、検出可能な結合ABDを有する1つ以上の候補MMを同定する。スクリーニングは、磁気細胞分離(MACS)または蛍光標識細胞分取(FACS)を1回以上実施することを含み得る。
【0123】
このようにして、未切断状態で標的に対するTBMの結合を阻害し、切断状態では標的に対するTBMの結合を可能にするMMを有するABPを同定可能であり、さらに切り替え可能な表現型の最適なダイナミックレンジを有するABPを選択できる。望ましい切り替え表現型を有するABPを同定するための方法については、下記において詳細に説明する。
【0124】
あるいは、MMがTBMと特異的に結合せず、立体障害などの非特異的相互作用によってTBM−標的結合に干渉する形であってもよい。たとえば、折り畳まれたABPがゆえにMMが電荷に基づく相互作用によってTBMを「マスク」でき、これによってMMをTBMへの標的の到達に干渉する適所に保持するように、未切断のABPにMMを配置してもよい。
【0125】
また、環状構造などのコンホメーション的に制約された構造でABPを提供し、切り替え可能な表現型を容易にすることも可能である。これは、システイン対間のジスルフィド結合の形成によってABPがループまたは環状構造になるよう一対のシステインをABPコンストラクトに含むことで達成可能である。こうすると、TBMへの標的結合を阻害しつつ、ABPは所望のプロテアーゼによって切断可能なままである。CMの切断時、環状構造が「開き」、標的がTBMに到達できるようになる。
図6に、ABPの端(この場合、「端」はジスルフィド結合形成前の線形形態のABPを示す)またはその付近の領域にあるシステイン残基間のジスルフィド結合(点線で表示)によってコンホメーション的に制約された未切断のABPの概略をあげておく。このような環状ABPは、未切断のABPではCMから対応するプロテアーゼへの到達性が標的タンパク質結合に対するTBMの到達性よりも大きいように、(後述するスクリーニング方法を用いるなどして)設計または最適化が可能である。TBMへの標的の到達は、ジスルフィド結合の還元後にも生じる場合がある点に注意されたい。
【0126】
システイン対は、コンホメーション的に制約されたABPが得られるが、CM切断後、TBMへの標的結合に実質的にまたは有意に干渉しないのであれば、ABPのどの位置にあっても構わない。たとえば、システイン対のシステイン残基をMMと、MMおよびTBMあるいは他の好適なコンフィギュレーションによってフランクされたリンカーに配置する。たとえば、MMまたはMMをフランキングするリンカーに1つ以上のシステイン残基を含むことが可能であり、ABPが折り畳まれた状態のときに、このシステイン残基がMMと対向して配置され、システイン残基がジスルフィドブリッジを形成する。通常、ABPの切断後に標的結合との干渉を回避するには、システイン対のシステイン残基がTBMの外側にあると望ましい。ジスルフィド結合対象となるシステイン対のシステインがTBM内にある場合、還元剤への曝露後などの切断剤への曝露後にTBM−標的結合との干渉を回避するよう配置されると望ましい。
【0127】
システイン間にジスルフィド結合による環状構造を形成できる例示としてのABPには、以下の一般式のものが可能である(NからC末端方向またはCからN末端方向のいずれであってもよい)。
X
n1−(Cys
1)−X
m−CM−TBM−(Cys
2)−X
n2
X
n1−シクロ[(Cys
1)−X
m−CM−TBM−(Cys
2)]−X
n2
式中、
X
n1およびX
n2は独立に、任意に存在してもしなくてもよく、存在する場合は、独立にアミノ酸を示し、任意に、フレキシブルリンカーのアミノ酸配列(Gly、Ser、Asn、Aspのうちの少なくとも1つ、通常はGlyまたはSerのうちの少なくとも1つ、通常は少なくとも1つのGlyなど)を含むものであってもよく、n
1およびn
2は独立に、sゼロまたは任意の整数から選択され、通常は1、2、3、4、5、6、7、8、9または10以下であり、
Cys
1およびCys
2は、ジスルフィド結合を形成できる対の第1および第2のシステインを表し、
X
mは、マスキングモチーフ(MM)のアミノ酸を表し、Xは任意のアミノ酸であり、式中、X
mは任意に、フレキシブルリンカー(少なくとも1つのGly、Ser、Asn、Asp、通常は少なくとも1つのGlyまたはSer、通常は少なくとも1つのGlyなど)を含むことが可能であり、この場合のmは1よりも大きく、通常は2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれよりも大きい整数(上述のとおり)であり、
CMは切断可能部分(本明細書に記載のとおり)を表し、
TBMは標的結合部分(本明細書に記載のとおり)を表す。
【0128】
上記の式で使用する場合、「シクロ」は、ABPの環状構造を提供するABPのジスルフィド結合を示す。さらに、上記の式は、「MM」がTBM1、「TBM」がTBM2を示す二重標的結合ABPを企図し、この場合のTBM1およびTBM2は第1および第2のTBMを任意に示しただけのものであり、この場合、TBMと結合できる標的が同一の標的であっても異なる標的であってもよく、同じ標的の同一の結合部位であっても異なる結合部位であってもよい。このような実施形態では、TBM1および/またはTBM2が、未切断の二重標的結合ABPに対する標的結合に干渉するためのマスキング部分として作用する。
【0129】
先に示したように、システインはこうしてABPに配置可能であり、ABPがジスルフィド結合構造にある(よって、コンホメーション的に制約された状態である)場合に、1つまたは2つの「尾」を許容(上記のX
n1およびX
n2で表される)し、これによって「ラッシ」または「オメガ」構造を生成する。尾のアミノ酸配列によって、ABPの局在化を容易にするための標的受容体に対する結合などのABPの別の特徴を得ることも可能である。
【0130】
たとえば、TBMとして例示としてのVEGFバインダーを含有するABPでは、TBMがアミノ酸配列NFGYGKWEWDYGKWLEKVGGC:配列番号10を含むことが可能であり、対応するMMがアミノ酸配列PEWGCG:配列番号11を含む。その他の具体例については、下記の実施例のセクションにあげておく。
【0131】
特定の具体的な実施形態では、MMがABPの細胞侵入を阻害しない。
【0132】
切断可能部分(CM)
ABPの切断可能部分(CM)は、通常は細胞外プロテアーゼ(すなわち細胞内プロテアーゼ以外)であるプロテアーゼの基質として機能し得るアミノ酸配列を含むものであってもよい。任意に、CMは、ジスルフィド結合を形成できるシステイン−システイン対を含むが、これは還元剤の作用で切断可能である。CMは、標的の存在下でCMが切断剤で切断されて(CMのプロテアーゼ基質がプロテアーゼで切断されるおよび/またはシステイン−システインジスルフィド結合が還元剤への曝露による還元で破壊されるなど)切断状態になると、TBMが標的と結合し、未切断状態では標的が存在しても標的に対するTBMの結合がMMによって阻害されるように、ABPに配置される。CMのアミノ酸配列は、ABPが未切断のコンホメーションにあるときに、CMの全体または一部がTBMの「マスキング」を容易にするように、MMと重なるものであってもよいし、MM内に含まれるものであってもよい旨に注意されたい。
【0133】
上述したように、CMは、所望のABPの標的のTBMとともに組織内に共存するプロテアーゼに基づいて選択できるものである。目的の標的がプロテアーゼと共存する多岐にわたる異なる条件が周知であり、この場合のプロテアーゼの基質は従来技術において周知である。たとえば、標的組織が癌性組織、特に固体腫瘍の癌性組織の可能性がある。文献には固体腫瘍などの多数の癌で周知の基質を有するプロテアーゼのレベル増大についての多くの報告がなされている。たとえば、La Rocca et al,(2004)British J.of Cancer 90(7):1414〜1421を参照のこと。さらに、VEGFなどの抗血管新生標的も周知である。それ自体、VEGFなどの抗血管新生標的と結合できるようにABPのTBMが選択される場合、好適なCMは、癌性治療部位に存在し、特に非癌性組織と比較して高いレベルで癌性治療部位に存在するプロテアーゼで切断可能なペプチド基質を含むものであろう。たとえば、ABPのTBMには、VEGFと結合するポリペプチド、ペプチドまたは抗原結合ドメイン(ABD)が可能であり、CMには、マトリクスメタロプロテアーゼ(MMP)基質が可能であり、よってMMPで切断可能である。
【0134】
例示としての基質には、以下の酵素すなわち、MMP−1、MMP−2、MMP−3、MMP−8、MMP−9、MMP−14、PLASMIN、PSA、PSMA、CATHEPSIN D、CATHEPSIN K、CATHEPSIN S、ADAM10、ADAM12、ADAMTS、Caspase−1、Caspase−2、Caspase−3、Caspase−4、Caspase−5、Caspase−6、Caspase−7、Caspase−8、Caspase−9、Caspase−10、Caspase−11、Caspase−12、Caspase−13、Caspase−14、TACE1つ以上で切断可能な基質があげられるが、これに限定されるものではない。
【0135】
上記に代えてまたは上記に加えて、ABPのTBMはVEGFと結合するものであればよく、CMはシステイン対のジスルフィド結合を伴い得るものであり、よって、たとえば、固体腫瘍の組織またはその周辺の組織に大量に存在し得る、グルタチオン(GSH)、チオレドキシン、NADPH、フラビン、アスコルビン酸塩などの細胞還元剤などの還元剤で切断可能である。
【0136】
例示としてのABP
特定の実施形態では、ABPは、TBM、CM、MMを含む活性化可能な抗体または活性化可能な抗体フラグメントである。このような実施形態では、TBMは、ABDまたはABDフラグメントを含む。非限定的な例示としての活性化可能な抗体組成物として、MMP−9活性化可能な、マスクされた抗VEGF scFv、MMP−9活性化可能な、マスクされた抗VCAM scFv、MMP−9活性化可能なマスクされた抗CTLA4があげられる。これらは単に一例としてあげたものにすぎず、このような酵素活性化可能なマスクされた抗体ABPは、表2に列挙したようなものであるがこれに限定されるものではない、任意の抗体を用いて、表1に列挙したようなものであるがこれに限定されるものではない、任意の標的に対して設計可能である。
【0137】
ABPを同定および/または最適化するための方法および組成物
ABPを同定および/または最適化するための方法ならびに、このような方法で有用な組成物については、後述する。
【0138】
複製可能な生命体で提示されるABPまたは候補ABPのライブラリ
総じて、切り替え可能な表現型についてABPを同定するおよび/またはABPを最適化するためのスクリーニング方法には、表面に複数の異なる候補ABPを提示する(細胞で例示されるような)複製可能な生命体のライブラリの生成を伴う。ライブラリを生成したら、これらのライブラリにスクリーニング方法を適用し、ABPの1つ以上の所望の特徴を有する候補ABPを同定することが可能である。
【0139】
候補ABPライブラリは、MM、リンカー(MMの一部であってもよい)、CM(MMの一部であってもよい)、TBMのうちの1つ以上が異なる候補ABPを含み得る。上述したように、ABPは、目的の症状についての周知のプロテアーゼ−標的対を標的するよう設計される。よって、一般に、ライブラリの候補ABPは、TBMおよびCMを事前に選択してMMおよび/またはリンカーごとに可変である。ABPでジスルフィド結合を提供するためのシステイン残基の対をABPに含むのであれば、ABPでのシステインの相対位置も可変である。
【0140】
スクリーニング用のライブラリは通常、表面に異なる候補ABPを提示する複製可能な生命体のライブラリとして提供される。たとえば、候補ABPのライブラリは、複製可能な生命体の個体群の表面に提示される候補となる複数のABPを含み得るものであり、候補となる活性化可能な結合ポリペプチドの前記複数の各メンバが、(a)標的結合部分(TBM)と、(b)切断可能部分(CM)と、(c)候補マスキング部分(候補MM)とを含み、未切断状態で候補MMが標的に対するTBMの結合を阻害し、切断状態で標的に対するTBMの結合を可能にする機能を判断できるように、TBM、CMおよび候補MMが配置されている。
【0141】
好適な複製可能な生命体としては、細胞(細菌(大腸菌(E.coli)など)、酵母(S.cerevesiaeなど)、哺乳類細胞など)、バクテリオファージ、ウイルスがあげられる。細菌宿主細胞およびバクテリオファージ、特に細菌宿主細胞が注目される。
【0142】
複製可能な生命体の表面での候補ABPの提示
複製可能な生命体を用いるさまざまな提示技術が従来技術において周知である。これらの方法および実体として、mRNAおよびリボソーム提示、真核生物ウイルス提示ならびに、細菌、酵母、哺乳類細胞表面提示などの提示方法論があげられるが、これに限定されるものではない。Wilson,D.S.,et al.2001 PNAS USA 98(7):3750〜3755;Muller,O.J.,et al.(2003)Nat.Biotechnol.3:312;Bupp,K.and M.J.Roth(2002)Mol.Ther.5(3):329 3513;Georgiou,G.,et al.,(1997)Nat.Biotechnol.15(1):29 3414;Boder,E.T.and K.D.Wittrup(1997)Nature Biotech.15(6):553 557を参照のこと。表面提示方法は、ライブラリ解析およびスクリーニングに蛍光標識細胞分取(FACS)を適用できるため魅力的である。Daugherty,P.S.,et al.(2000)J.Immuunol.Methods 243(1 2):211 2716;Georgiou,G.(2000)Adv.Protein Chem.55:293 315;Daugherty,P.S.,et al.(2000)PNAS USA 97(5):2029 3418;Olsen,M.J.,et al.(2003)Methods Mol.Biol.230:329 342;Boder,E.T.et al.(2000)PNAS USA 97(20):10701 10705;Mattheakis,L.C.,et al.(1994)PNAS USA 91(19):9022 9026;Shusta,E.V.,et al.(1999)Curr.Opin.Biotech.10(2):117 122を参照のこと。目的の生物標的に結合可能なペプチドを同定するのに使用できる別の提示方法論が、米国特許第7,256,038号明細書に記載されており、その開示内容を本明細書に援用する。
【0143】
ファージ提示には、バクテリオファージ粒子のpIII、pIIVなどのコートタンパク質への末端融合物としてのペプチドの局在化を伴う。Scott,J.K.and G.P.Smith(1990)Science 249(4967):386 390;Lowman,H.B.,et al.(1991)Biochem.30(45):10832 10838を参照のこと。一般に、特定の結合機能を有するポリペプチドは、標的とともにインキュベートし、非結合ファージを洗い流し、結合したファージを溶出した後、細菌の新鮮な培養に感染させてファージ個体群を再増幅することで単離される。
【0144】
例示としてのファージ提示および細胞提示組成物ならびに方法が、米国特許第5,223,409号明細書、同第5,403,484号明細書、同第7,118,879号明細書、同第6,979,538号明細書、同第7,208,293号明細書、同第5571698号明細書、同第5,837,500号明細書に記載されている。
【0145】
別の例示としての提示足場および方法として、2007年3月22日公開の米国特許出願公開第2007/0065878号明細書に記載されているものがあげられる。
【0146】
任意に、提示足場にプロテアーゼ切断部位(CMのプロテアーゼ切断部位とは異なる)を含み、ABPまたは候補ABPを宿主細胞の表面から切断できるようにすることも可能である。
【0147】
ひとつにおいて、複製可能な生命体が細菌細胞である場合、好適な提示足場は、Rice et al,Protein Sci.(2006)15:825〜836に記載された円順列変異大腸菌(Esccherichia coli)外膜タンパク質OmpX(CPX)を含む。2007年8月14日に発行された米国特許第7,256,038号明細書も参照のこと。
【0148】
ABPおよび候補ABPをコードするコンストラクト
本開示はさらに、ABPおよび/または候補ABPをコードする配列を含む核酸コンストラクトを提供するものである。好適な核酸コンストラクトは、原核生物または真核生物の細胞を発現できるコンストラクトを含むが、これに限定されるものではない。発現コンストラクトは通常、これを使用することになる宿主細胞と適合するように選択される。
【0149】
たとえば、ABPコードDNAまたは候補ABPコードDNAを複製および/または宿主細胞での発現を実現するためのプラスミドをはじめとして、非ウイルスおよび/またはウイルスコンストラクトベクターを調製および使用してもよい。どのベクターを選択するかは、増殖が望ましい細胞のタイプや増殖の目的に左右されることになる。所望のDNA配列を大量に増幅および作製するには、特定のコンストラクトが有用である。培養内での細胞の発現には、他のベクターも適している。適切なベクターの選択肢は当業者の技量の範囲内である。このようなベクターの多くが市販されている。コンストラクトを生成するための方法は、従来技術において周知の方法を用いて実現可能である。
【0150】
宿主細胞での発現を達成するために、ABPまたは候補ABPをコードするポリヌクレオチドを制御配列に適宜作動的に結合し、所望の発現特性を得やすくする。これらの制御配列としては、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、オペレーター、リプレッサー、誘導物質があげられる。発現コンストラクトも一般に、必要あるいは要望があれば、誘導的または構成的であってもよい転写開始領域および翻訳開始領域となり、この場合のコード領域は、転写開始領域ならびに、転写終結領域および翻訳終結領域の転写制御下で作動的に結合される。これらの制御領域は、核酸を入手した種にとってネイティブであってもよいし、外来起源由来のものであってもよい。
【0151】
プロモーターは、構成的であっても制御可能であってもよい。状況によっては、誘導型プロモーターなどの条件的活性プロモーター(温度感受性プロモーターなど)を用いると望ましいことがある。誘導的要素は、プロモーターと連動して作用するDNA配列要素であり、リプレッサー(大腸菌(E.coli)のlacO/LAC Iqリプレッサー系など)または誘導物質(酵母のgal1/GAL4誘導物質系など)と結合できる。このような場合、プロモーターが抑制解除または誘導されるまで転写は事実上「遮断」され、抑制解除または誘導の時点で転写が「開始」される。
【0152】
発現コンストラクトをはじめとするコンストラクトは、たとえば目的のコンストラクトを含有する宿主細胞を成長させやすくするために宿主で作動的な選択可能なマーカーも含むことが可能である。このような選択可能なマーカー遺伝子は、ジヒドロ葉酸レダクターゼなどの形質転換宿主細胞選択用の表現型形質または真核生物細胞培養のネオマイシン耐性を提供できるものである。
【0153】
発現コンストラクトには、ABPおよび/または候補ABPをコードする核酸配列を挿入および除去するための便利な制限部位を含み得る。上記に代えてまたは上記に加えて、発現コンストラクトには、目的のABP−コード配列の核酸増幅(PCRベースの増幅など)を容易にするためのプライマーの基礎として機能できるフランキング配列を含み得る。
【0154】
発現の目的に応じて、上述した発現系を従来の方法で原核生物または真核生物に使用してもよい。いくつかの実施形態では、大腸菌(E.coli)、枯草菌(B.subtilis)、出芽酵母(S.cerevisiae)などの単細胞生物、バキュロウイルスベクターと組み合わせた昆虫細胞あるいは、脊椎動物などの高等生物の細胞、たとえばCOS 7細胞、HEK 293、CHO、Xenopus卵母細胞などを発現宿主細胞として用いてもよい。これらのクラスおよびタイプの宿主細胞それぞれについての発現系が従来技術において周知である。
【0155】
複製可能な生命体に提示されるABPまたは候補ABPのライブラリの作製方法
本開示は、本明細書に記載のABPおよび/または候補ABPのライブラリの作製方法を企図する。
【0156】
一実施形態では、ABPライブラリおよび/または候補ABPライブラリの作製方法が、(a)複数のABPおよび/または候補ABPをコードする、本明細書に記載するような一組の組換えDNAベクターを構成し、(b)ステップ(a)のベクターで宿主細胞を形質転換し、(c)ステップ(b)で形質転換した宿主細胞を融合ポリペプチドに発現および提示に適した条件下で培養することを含む。
【0157】
候補ABPをコードする核酸配列の生成
スクリーニング方法で用いる候補ABPの生成は、従来技術において周知の方法を用いて実現可能である。ポリペプチド提示、単鎖抗体提示、抗体提示、抗体フラグメント提示は、従来技術において周知の方法である。総じて、候補ABPライブラリで変更の対象となるMMなどのABPの要素をランダム化用に選択する。ライブラリの候補ABPを完全にランダム化してもよいし、ヌクレオチド/残基頻度などのランダム化に、全体的または要素内のアミノ酸の位置で偏らせてもよい。「ランダム化」とは、ランダム化したアミノ酸配列のどの位置でも遺伝的にコード可能なアミノ酸を提供可能であることを意味する。最適化対象となるABPの要素のアミノ酸配列も部分的にランダム化可能である。たとえば、選択した位置でアミノ酸のサブセットだけを提供する(アミノ酸配列の選択した位置でフレキシブルリンカーを提供する、所望の特徴のアミノ酸残基を提供する(たとえば疎水性、極性、正に荷電、負に荷電など)ように、ABP要素(候補MMなど)を部分的にランダム化することが可能である。もうひとつの例では、別の方法でランダム化されたアミノ酸配列内の1つ以上の残基が、ABPライブラリメンバの個体群または部分母集団から選択され、不変のものとして保持されるように(候補MM内の所望の位置でシステインが得られるようになど)、ABP要素(候補MMなど)を部分的にランダム化することが可能である。
【0158】
ABPが二重標的結合ABPである場合、第1のTBMを「固定」してもよく、周知の標的結合活性を有する第2のTBMについては、未修飾の形態(周知の標的結合活性を有するネイティブなアミノ酸配列など)で提供してもよいし、「切り替え可能な」表現型を提供するにあたって修飾(定方向またはランダム突然変異誘発によるなど)して活性をスクリーニングしてもよい。スクリーニング方法で同定したTBMを同定後に目的の標的を結合する活性を見極め、たとえば「マスキング」TBMが所望のレベルの標的結合を保つか否かを判断することが可能である。
【0159】
このような方法を使用して、変更対象となる要素のアミノ酸配列の長さ方向全体に考えられるさまざまな異なるアミノ酸配列の組み合わせを有する候補ABPを生成し、こうしてランダム化候補ABPのライブラリを提供できる。それ自体、いくつかの実施形態では、要素の任意の位置における配列の優先度または定数を最適化することなく、候補ABPのライブラリを完全にランダム化することが可能である。他の実施形態では、候補ペプチドのライブラリに偏らせる。すなわち、配列内の何らかの位置を一定に保つか、限られた数の可能性から選択する。たとえば、一実施形態では、疎水性アミノ酸、親水性残基、架橋用にシステインが生成されるよう立体的に偏らせた(小さいまたは大きい)残基、SH−3ドメイン用のプロリン、セリン、トレオニン、チロシンまたはリン酸化部位用のヒスチジンあるいは、プリンに対してなどの定義されたクラス内で、ヌクレオチドまたはアミノ酸残基をランダム化する。
【0160】
活性化可能な結合ポリペプチドのスクリーニング方法
本開示は、酵素的に活性化されたABP、還元剤感受性のABPあるいは、酵素的活性化または還元ベースの活性化のいずれかまたは両方で活性化可能なABPが可能なABPを同定する方法を提供するものである。大まかに、この方法は、候補となる複数のABPと、ABPのTBMと結合できる標的およびABPのCMを切断できるプロテアーゼとを接触させ、プロテアーゼへの曝露時に標的に結合する前記複数のメンバの第1の個体群を選択し、プロテアーゼの非存在下で前記第1の個体群を標的と接触させ、プロテアーゼの非存在下で標的と結合するメンバを前記第1の個体群から除外することで、前記第1の個体群からメンバの第2の個体群を選択することを含み、前記方法は、プロテアーゼの存在下での標的結合と比較して、プロテアーゼの非存在下で標的に対する結合が低下する候補ABPを選択できるものである。
【0161】
総じて、所望の切り替え可能な表現型を有する候補ABPをスクリーニングするための方法は、(プロテアーゼへの曝露後に標的と結合するメンバを同定するための)ポジティブスクリーニングステップと、(プロテアーゼに曝露されないときに標的と結合しないメンバを同定するための)ネガティブスクリーニングステップで達成される。ネガティブスクリーニングステップは、たとえば、プロテアーゼの非存在下で標的と結合するメンバを個体群から除外することで達成可能である。本明細書に記載のライブラリのスクリーニング方法は、まずはネガティブスクリーニングを実施して、酵素処理の非存在下で標識された標的と結合しない(すなわち未切断時に標識された標的と結合しない)候補を選択し、続いてポジティブスクリーニング(すなわち、酵素で処理して、切断状態で標識された標的と結合するメンバを選択)を実施することで開始できるものである点に注意されたい。しかしながら、便宜上、以下では第1のステップとしてのポジティブ選択についてスクリーニング方法を説明する。
【0162】
フローサイトメトリーを用いてポジティブスクリーニングステップとネガティブスクリーニングステップを適宜実施し、検出可能に標識された標的の結合に基づいて候補ABPを選別することが可能である。たとえば、
図18の概略に示すように、プロテアーゼによる切断に感受性のあるCMを有する候補ABP(
図18に例示するものなど)を、提示足場(CPXで例示)にて宿主細胞(大腸菌(E.coli)など)で発現させることが可能である。候補ABPを提示している宿主細胞を、CMを切断できるプロテアーゼに曝露し、TBMと結合できる、検出可能に標識された標的に曝露する。
図18右側の下側パネルに示すように、FACSを使用して検出可能に標識された標的の検出可能なシグナルの強度(赤色蛍光で例示)に応じて細胞を選別する。検出可能に標識された細胞は、細胞表面に存在し、プロテアーゼで切断可能なCMを含み、かつ、検出可能に標識された標的に結合された候補ABPを提示している細胞を含む。未標識の部分母集団(または相対的に検出可能なシグナルが低めの個体群)は、望ましいレベルで標的と結合できなかった宿主細胞を表す。次に、「標識された」部分母集団を回収し、プロテアーゼの非存在下で候補ABPを検出可能に標識された標的に曝露するネガティブスクリーニングを実施ことが可能である。
図18右側の上側パネルで例示したように、未標識の細胞は、個体群の他のメンバに比して検出可能に標識された標的の検出可能な結合が比較的少なめであるかまったくない、自らの表面で候補ABPを示す細胞を含む。検出可能に標識された細胞は、切断の非存在下で標的と結合する候補ABPを提示している細胞を含む。こうして、「未標識の」部分母集団を回収し、必要があれば、さらに回数を重ねてスクリーニングを実施することが可能である。
【0163】
1「回」または「サイクル」のスクリーニング手順には、ポジティブ選択ステップとネガティブ選択ステップの両方を含む。複数のサイクル(完全サイクルと、1.5サイクル、2.5サイクルなどの部分サイクルを含む)を実施するライブラリでは、この方法を繰り返せばよい。このようにして、得られる個体群で、ABPの切り替えの特徴を呈する候補となる複数のABPのメンバを富化させることができる。
【0164】
総じて、まずは提示足場にて候補となる複数のABPをコードする核酸ライブラリを生成し、これを複製可能な生命体の表面での発現用に提示足場に導入することで、スクリーニング方法を実施する。本明細書で使用する場合、「複数の候補となる活性化可能な結合ポリペプチド」または「複数の候補ABP」とは、候補ABPをコードするアミノ酸配列を有する複数のポリペプチドを示し、この場合、複数が、MM、CMまたはTBM、通常はMMのアミノ酸配列に関して可変であるなど、複数のメンバがABPの少なくとも1つの成分のアミノ酸配列に関して可変である。
【0165】
たとえば、候補ABPのTBMおよびCMを「固定」に保ち、ライブラリの候補ABPがMMのアミノ酸配列に関して可変である。以下、MMの可変のアミノ酸配列を候補マスキング部分(候補MM)と呼ぶ。
図19に示すように、異なるMMを有するライブラリを生成することが可能であり、これは、たとえばシステイン残基を配置して、候補ABPに存在する別のシステイン(他の方法で完全にまたは少なくとも部分的にランダム化されたアミノ酸配列を有するMMを提供するよう選択される他の残基)とのジスルフィド結合の形成を「強制」するよう設計されるMMを有する候補ABPを含み得るものである。もうひとつの例では、候補ABPでの別のシステイン(他の方法で完全にまたは少なくとも部分的にランダム化されたアミノ酸配列を有するMMを提供するよう選択される他の残基)とのジスルフィド結合形成が望ましいようにシステイン残基を配置するよう設計されるMMを有する候補ABPを含む形でライブラリを生成することが可能である。もうひとつの例では、MMが完全にランダム化されたアミノ酸配列を含む候補ABPを含む形でライブラリを生成することが可能である。このようなライブラリは、これらの基準のうち1つ以上によって設計された候補ABPを含み得る。本明細書に記載の方法による前記複数のメンバをスクリーニングすることによって、所望の切り替え可能な表現型を提供する候補MMを有するメンバを同定することが可能である。
【0166】
「候補」という用語は、たとえば「候補ABP」または「候補MM」(あるいはスクリーニング対象となるABPの他の要素)などの文脈で使用する場合、所望の構造的および/または機能的特徴を呈するか否かを判断するためのスクリーニング対象となるポリペプチドを示す。たとえば、「候補ABP」は、MM、CM、TBM、リンカーのうちの少なくとも1つがそのアミノ酸配列に関して可変である場合を除いて、本明細書に記載したようなABPの構造に似るよう設計されるポリペプチドを示し、ここで、候補ABPは、所望の切り替え可能な表現型についてスクリーニングされる。「候補MM」は、たとえば、ABPとの関連でマスキング部分としての機能についてのスクリーニング対象となるABPのアミノ酸配列を示す。
【0167】
方法の一実施形態では、候補となる複数のABPの各メンバが、複製可能な生命体(ここでは細菌細胞で例示)の表面に提示される。複数のメンバが候補ABPのCMを切断できるプロテアーゼに曝露され、候補ABPのTBMの結合相手である標的と接触される。プロテアーゼへの曝露後に標的と結合するTBMを含むメンバを提示している細菌細胞を、標的結合の検出(標的−TBM複合体の検出など)によって同定および/または分離する。次に、(CMの切断につながり得る)プロテアーゼ曝露後に標的と結合するTBMを含むメンバを、プロテアーゼの非存在下で標的と接触させる。切断の非存在下で標的に対する結合が低下または検出不能であるTBMを含むメンバを提示している細菌細胞を、結合標的のない細胞の検出によって同定および/または分離する。このようにして、切断状態で標的と結合し、未切断状態では標的結合が低下または検出不能である候補となる複数のABPのメンバを同定および/または選択する。
【0168】
上述したように、候補ABPライブラリは、MM、CM、TBMのうちの1つ以上について切り替え可能な表現型を最適化するなど、ABPコンストラクトの1つ以上の態様をスクリーニングするよう構築可能である。ABPの1つ以上の他の要素を変化させて、最適化しやすくすることが可能である。たとえば、切断剤(酵素など)の非存在下にてABPの異なるコンホメーションの特徴を提供できるシステインまたは他の残基の数または位置を変えることをはじめとして、MMを変化させる:1つ以上の所望の特徴(酵素切断の特異性など)について最適化される基質を同定するようCMを変化させる;および/または「切り替え可能な」標的結合が最適化されるようTBMを変化させる。
【0169】
総じて、候補ABPライブラリの要素は、目的の標的タンパク質に応じて選択される。この場合、ABPはCMを切断する切断剤(酵素など)の存在下で標的の結合を増すよう活性化される。たとえば、ライブラリメンバの中でCMおよびTBMを「固定」に保つ場合、目的の標的と共存する切断剤(酵素など)によって切断可能なようにCMを選択する。この場合、目的の標的はTBMの結合相手である。このようにして、適切な生物学的条件下、ひいては生物学的に適切な場所で、ABPを選択的に活性化されるよう選択可能である。たとえば、抗血管新生化合物として使用され、VEGF結合に対して切り替え可能な表現型を呈するABPを開発すると望ましい場合、候補ABPのCMをVEGFと共存する酵素の基質および/または還元剤になるよう選択する(CMがマトリクス−メタロプロテアーゼによって切断可能であるなど)。
【0170】
上述したように、TBMは通常、目的の標的に応じて選択される。多くの標的が従来技術において周知である。目的の生物学的標的は、疾患において何らかの役割を果たすものとして同定されたタンパク質標的を含む。このような標的としては、細胞表面レセプターおよび分泌結合タンパク質(成長因子など)、可溶性酵素、構造的タンパク質(コラーゲン、フィブロネクチンなど)などがあげられるが、これに限定されるものではない。例示としての非限定的な標的を表1にあげておくが、他の好適な標的も当業者であれば容易に同定可能である。また、目的の標的と共存する多くのプロテアーゼが従来技術において周知である。それ自体、当業者であれば、上記の方法で用いるのに適切な酵素および酵素基質を容易に同定できよう。
【0171】
ABPスクリーニング前の細胞表面提示の任意の富化
スクリーニング方法の前に、細胞表面で適切なペプチド提示足場を発現する細胞を富化すると望ましいことがある。任意の富化によって、(1)細胞外膜でペプチド提示足場を発現しない、あるいは(2)細胞外膜で非機能的ペプチド提示足場を発現する細胞ライブラリから細胞を除去できる。「非機能的」とは、停止コドンまたは欠失変異の結果などでペプチド提示足場が候補ABPを適切に提示しないことを意味する。
【0172】
細胞の富化は、細胞個体群を増殖し、ペプチド提示足場の発現を誘導することで達成できる。次に、たとえば、足場に取り込んだ検出可能なシグナルまたは部分の検出に基づいて、あるいは提示足場またはABPの共通の部分に結合する検出可能に標識した抗体を用いて、細胞を選別する。これらの方法は、2007年3月22日公開の米国特許出願公開第2007/0065878号明細書に詳細に記載されている。
【0173】
切断されたABPによる標的結合のスクリーニング
スクリーニング前に、(好適な条件下での好適な培地での成長によるなど)候補ABPライブラリを拡大することができる。任意の拡大後、あるいは初期ステップとして、ライブラリに第1のスクリーニングをほどこしてプロテアーゼへの曝露後に標的と結合する候補ABPを同定する。したがって、本明細書ではこのステップを「ポジティブ」選択ステップと呼ぶことが多い。
【0174】
プロテアーゼ切断後に標的と結合するメンバを同定するために、候補ABPライブラリを、十分な長さの時間、CMのプロテアーゼ基質の切断に適した条件下で、提示された候補ABPのCMを切断できるプロテアーゼと接触させる。多岐にわたるプロテアーゼ−CMの組み合わせが、当業者により容易に確認できるであろうが、この場合のプロテアーゼは、CMを切断でき、in vivoにて目的の標的(TBMの結合相手)と共存するものである。たとえば、目的の標的が固体腫瘍関連の標的(VEGFなど)である場合、好適な酵素としては、たとえば、マトリクス−メタロプロテアーゼ(MMP−2など)、Aディスインテグリンおよびメタロプロテアーゼ(ADAM)/トロンボスポンジン様モチーフを有するADAM(ADAMTS)、カテプシン、カリクレインがあげられる。本明細書に記載のABPにおけるCMとして有用な基質のアミノ酸配列が従来技術において周知であり、望ましい場合、これをスクリーニングして、本明細書に記載の方法に手を入れてCMとして使用するのに適した最適な配列を同定することが可能である。例示としての基質には、以下の酵素すなわち、MMP−1、MMP−2、MMP−3、MMP−8、MMP−9、MMP−14、PLASMIN、PSA、PSMA、CATHEPSIN D、CATHEPSIN K、CATHEPSIN S、ADAM10、ADAM12、ADAMTS、Caspase−1、Caspase−2、Caspase−3、Caspase−4、Caspase−5、Caspase−6、Caspase−7、Caspase−8、Caspase−9、Caspase−10、Caspase−11、Caspase−12、Caspase−13、Caspase−14、TACEのうちの1つ以上で切断可能な基質を含み得るが、これに限定されるものではない。
【0175】
候補ABPライブラリも、十分な長さの時間、標的結合に適した条件下で、標的に曝露される。この条件については、TBMに対する標的結合が想定されるよう条件に応じて選択可能である。プロテアーゼと標的の両方が同一の環境に存在する、想定されるin vivoの状況を最適にモデル化するために、(切断されたABPを含む候補ABPの個体群を提供するなど)標的への曝露前あるいは、標的への曝露との組み合わせ(通常は後者である)で、候補ABPライブラリをプロテアーゼに曝露することができる。プロテアーゼと標的の両方に曝露後、ライブラリをスクリーニングして、結合標的を有するメンバを選択するが、これは候補ABPを標的TBM複合体の形で含むものである。
【0176】
標的結合候補ABPの検出を多岐にわたる方法で達成可能である。たとえば、標的を検出可能に標識でき、検出可能な標識を検出することで標的結合候補ABPの第1の個体群を選択して、結合標的を有する第2の個体群を生成できる(標的結合候補ABPのポジティブ選択など)。
【0177】
プロテアーゼ切断の非存在下では標的と結合しない候補ABPのスクリーニング
(好適な条件下での好適な培地での成長によるなど)プロテアーゼへの曝露後の標的結合用に選択される候補ABPの個体群を拡大することが可能であり、拡大後のライブラリに第2のスクリーニングをほどこして、プロテアーゼ曝露の非存在下で標的に対する検出可能な結合が低下または認められないメンバを同定する。この第2のスクリーニングで得られた個体群には、未切断では標的を有意にまたは検出可能なレベルで結合しない候補ABPが含まれることになる。したがって、本明細書ではこのステップを「ネガティブ」選択ステップと呼ぶことが多い。
【0178】
第1のスクリーニングで得られた個体群をプロテアーゼの非存在下で十分な長さの時間、標的結合に適した条件下で標的と接触させるが、この条件はTBMへの標的結合が想定される条件下で選択可能なものである。次に、ネガティブ選択を実施して、検出可能な標的結合を呈さないものなどの標的結合が比較的少ない候補ABPを同定することが可能である。この選択については、たとえば、検出可能に標識された標的を使用して標的曝露個体群をフローサイトメトリー分析し、検出可能な標的結合を呈さないおよび/または比較的低めの検出可能なシグナルを呈する候補ABPを提示する細胞の別々の部分母集団に選別することで達成可能である。このように、上記の部分母集団は、切断の非存在下で標的への結合が少ないまたは検出不能である候補ABPを有する細胞が富化されたものである。
【0179】
検出可能な標識
本明細書で使用する場合、「標識」、「検出可能な標識」、「検出可能な部分」という表現は同義に用いられ、放射性同位元素、蛍光剤、化学発光剤、発色団、酵素、酵素基質、酵素補助因子、酵素阻害剤、発色団、染料、金属イオン、金属ゾル、リガンド(ビオチン、アビジン、ストレプトアビジンまたはハプテンなど)などを含むがこれに限定されるものではない、検出できる分子を示す。「蛍光剤」とは、検出可能な範囲の蛍光を呈することのできる物質またはその一部を示す。標的標識として用いるのに適した例示としての検出可能な部分には、親和性タグおよび蛍光タンパク質がある。
【0180】
「親和性タグ」という用語は、本明細書で使用する場合、親和性タグと結合して検出可能なシグナル(蛍光化合物またはタンパク質など)を提供する分子を用いて検出可能な標的と結合可能なペプチドセグメントを示す。原理上、抗体または他の特異的結合剤を利用できるものであれば、どのようなペプチドまたはタンパク質でも親和性タグとして使用可能である。使用するのに適した例示としての親和性タグとしては、単球アダプタータンパク質(MONA)結合ペプチド、T7結合ペプチド、ストレプトアビジン結合ペプチド、ポリヒスチジントラクト、タンパク質A(Nilsson et al.,EMBO J.4:1075(1985);Nilsson et al.,Methods Enzymol.198:3(1991))、グルタチオンSトランスフェラーゼ(Smith and Johnson,Gene 67:31(1988))、Glu−Glu親和性タグ(Grussenmeyer et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:7952(1985))、サブスタンスP、FLAGペプチド(Hopp et al.,Biotechnology 6:1204(1988))または他の抗原エピトープまたは結合ドメインがあげられるが、これに限定されるものではない。概要については、Ford et al.,Protein Expression and Purification 2:95(1991)を参照のこと。親和性タグをコードするDNA分子を供給業者(Pharmacia Biotech,Piscataway,N.J.など)から入手可能である。
【0181】
従来技術において周知のどのような蛍光ポリペプチド(本明細書では蛍光標識とも呼ぶ)であっても、検出可能な部分としてあるいは、本明細書に記載のペプチド提示足場の親和性タグとともに用いるのに適している。好適な蛍光ポリペプチドは、細菌細胞または哺乳類細胞などの所望の宿主細胞で発現可能であって、定性的(ポジティブ/ネガティブ)および定量的(蛍光の比較度)に評価できる検出可能なシグナルを容易に得られるものである。例示としての蛍光ポリペプチドには、黄色蛍光タンパク質(YFP)、シアン蛍光タンパク質(CFP)、GFP、mRFP、RFP(t二量体2)、HCREDなど、あるいは任意の変異体(蛍光を増大または放出スペクトルをシフトさせるための蛍光タンパク質など)、類似体またはその誘導体があるが、これに限定されるものではない。他の好適な蛍光ポリペプチドならびに、本明細書に列挙したものの具体例は、従来技術において提供されており、周知である。
【0182】
ビオチンベースの標識にも、本明細書に開示の方法での用途がある。標的分子および基質のビオチン化は周知であり、たとえば、タンパク質、核酸、炭水化物、カルボン酸のビオチン化用のアミン反応剤およびチオール反応剤をはじめとして多数のビオチン化剤が周知である;本明細書に援用するMolecular Probes Catalog,Haugland,6th Ed.1996の第4章などを参照のこと。ビオチン化基質については、アビジンまたはストレプトアビジンなどの検出可能に標識されたビオチン結合相手の結合によって検出可能である。同様に、多数のハプテニル化試薬も周知である。
【0183】
スクリーニング方法
目的のABPを分離および回収できる好適な方法を利用すればよい。たとえば、目的のABPを提示する細胞を、FACSで、イムノクロマトグラフィあるいは、検出可能な標識が磁性である場合は磁気分離によって、分離すればよい。分離の結果、切断後に標的に対する結合を呈するあるいは、切断の非存在下で標的に対する検出可能な結合が低減または認められないなど、所望の特徴を呈する細胞の個体群が富化される。
【0184】
たとえば、検出可能に標識された結合標的を有する候補ABPの選択を、従来技術において周知の多岐にわたる技法を用いて達成可能である。たとえば、フローサイトメトリー(FACS(登録商標)など)法を用いて、検出可能に標識された候補ABPを未標識の候補ABPから選別することが可能である。フローサイトメトリー法を実施し、さらにスクリーニングするために第2の個体群に分けられるよう、「一層薄暗い」細胞個体群を許容または「一層明るい」細胞個体群を必要とするゲーティング(gating)の修飾などによって、候補ABPの個体群分離についての多かれ少なかれストリンジェントな要件を得ることができる。
【0185】
もうひとつの例では、イムノアフィニティクロマトグラフィを使用して、標的と結合しないものから標的結合候補ABPを分離することが可能である。たとえば、結合した抗標的抗体を有する支持体(カラム、磁気ビーズなど)を、プロテアーゼおよび標的に曝露しておいた候補ABPと接触させることができる。結合標的を有する候補ABPは、抗標的抗体に結合するため、結合標的のない候補ABPからの分離が容易になる。スクリーニングステップが、(他の候補ABPとの比較などで)標的結合が比較的減少したか検出可能な標的結合がない未切断の候補ABPが富化された個体群を提供するためのものである場合、目的の部分母集団は、結合標的に対する検出可能なシグナルが欠けているか、比較的少ないメンバである。たとえば、このような結合標的のネガティブ選択にイムノアフィニティの技術を使用する場合、目的の部分母集団は、抗標的支持体に結合されないものである。
【0186】
二重標的結合ABPのスクリーニング
本明細書に開示のスクリーニング方法に対して容易に手を入れて、2つのTBM間の相互作用がゆえに所望の切り替え可能な表現型を有する二重標的結合ABPを同定することが可能である。総じて、上記の例における候補MMよりも、周知の結合活性を有するTBMがMMの代わりに候補ABPに提示される。総じて、この方法では候補となる複数のABPを含有するライブラリを必要とし、前記複数の各メンバが、第1のTBMと、第2のTBMと、CMとを含む。ライブラリを少なくとも第1のTBMと結合できる標的およびCMを切断できる切断剤と接触させる。切断剤(CMのプロテアーゼなど)の存在下で標的を結合するために、ライブラリのメンバの第1の個体群を選択する。この選択された個体群に対して上記のネガティブスクリーニングを実施し、切断剤の非存在下でのライブラリメンバへの標的の結合を評価する。次に、切断剤の非存在下で前記標的に結合するメンバの部分母集団を除外することで、メンバの第2の個体群を生成する。これは、たとえば、標的に結合されないメンバを標的に結合されるメンバから選り分ける(検出可能に標識された標的の検出で判断)ことで達成可能である。このように、この方法では切断剤の存在下での標的に対する結合に比して、切断剤の非存在下で前記標的に対する結合が少ない候補ABPが選択される。
【0187】
この方法は、両方の標的に対して反復可能なものであるが、溶液中にてTBM含有ABPフラグメントとの間で複合体を形成した標的の有無(および/または相対レベル)を見極め、切断後の提示足場と関係のないTBMへの標的結合を評価しなければならない。
【0188】
一例では、候補となる複数のABPを含むライブラリが生成され、各メンバが、第1のTBMと、第2のTBMと、CMとを含み、CMが第1のTBMと第2のTBMとの間に配置され、第1のTBMが提示足場によって複製可能な生命体の表面に固定化される。次に、このライブラリに、第2のTBMを結合できる標的で上記のポジティブおよびネガティブスクリーニングステップをほどこす。たとえば、ライブラリを第1のTBMと結合できる標的およびCMを切断できる切断剤と接触させた後、前記標的と結合する前記複数のメンバの第1の個体群を切断剤の存在下で選択する。選択された第1の個体群を切断剤の非存在下で第1のTBMと結合できる標的と接触させ、切断剤の非存在下で前記標的に結合するメンバの第2の個体群を選択する。
【0189】
上記同様、ライブラリ内で二重標的結合ABPの任意の要素を変更できる。たとえば、第1のTBMを「固定」にし、周知の標的結合活性を有する第2のTBMを未修飾の形態(周知の標的結合活性を有するネイティブなアミノ酸配列など)で提供してもよいし、修飾(定方向突然変異誘発またはランダム突然変異誘発など)して「切り替え可能な」表現型での活性をスクリーニングしてもよい。このようにすれば、スクリーニング方法で「マスキング」活性を呈するものとして同定されるTBMを、たとえば「マスキング」TBMが所望のレベルの標的結合を保っていることを判断するために、目的の標的を結合する活性について見極めることが可能である。たとえば、複製可能な生命体の表面での発現および提示のために、提示足場および二重標的結合ABPのTBM−MM二重機能要素をコードするコンストラクトを挿入可能である。こうして、従来技術の方法でTBM−MMの結合を見極めることができる。
【0190】
候補ABPを選択するためのスクリーニング方法の例示としての変形例
上記の方法を改変し、切り替えについて所望の特徴を示す個体群およびライブラリメンバを選択するようにしてもよい。
【0191】
ABP要素を同定および/または最適化するための反復スクリーニング
本明細書に記載の方法および候補ABPライブラリに対して容易に手を入れて、ABPの1つ以上の要素を同定および/または最適化することが可能である。たとえば、TBM、CM、リンカーなどの1つ以上について変化する候補ABPを生成し、本明細書に記載のスクリーニング方法を用いることが可能である。
【0192】
還元剤活性化可能なABP
上記の方法はABPを同定するためのスクリーニング方法を説明するものであるが、ABPでのシステイン−システインジスルフィド結合の形成を容易にできるCMを有するABPまたは候補ABPにも本明細書に開示のスクリーニング方法を用いることが可能である旨を理解されたい。このようなABPは、プロテアーゼ基質を含んでもよいし含まなくてもよいCM(同一であっても異なるCMであってもよい)をさらに含むものであってもよいし、含まないものであってもよい。これらの実施形態では、ABPまたは候補ABPをABPのシステイン−システイン対のジスルフィド結合を切断できる還元剤(還元条件など)に曝露して上述したポジティブスクリーニングを実施してもよい。その後、還元条件の非存在下でネガティブスクリーニングを実施すればよい。その際、生成されるライブラリは、ジスルフィド結合還元条件への曝露によって活性化可能なABPが富化されたものであってもよい。
【0193】
サイクル数と足場なしのABPスクリーニング
上記の方法のサイクル数を増やすことで、
図8に例示するように切り替えの特徴が改善された個体群とライブラリメンバを同定することが可能である。スクリーニングのサイクルについては何回でも実施可能である。
【0194】
また、候補ABPのダイナミックレンジを判断する目的で、候補ABPの個々のクローンを単離し、スクリーニングすることが可能である。また、足場とは別に所望の切り替え可能な表現型について候補ABPを試験することも可能である。すなわち、提示足場とは別に候補ABPを発現させるか、そうでなければ生成し、必要があれば、無細胞系(可溶化ABPを用いるなど)にて足場の非存在下で候補ABPの切り替え可能な表現型を評価することが可能である。
【0195】
分泌シグナルを含むABP発現コンストラクトを提供してABPを細胞外分泌させ、これによって目的のABPの生成と回収を容易にすると望ましいことがある。細菌系および哺乳類系で用いるのに適した分泌シグナルは、従来技術において周知である。
【0196】
ABP成分および切り替え活性の最適化
上記の方法を改変して、本明細書に記載のスクリーニング方法で同定されるABPなどのABPの性能を最適化してもよい。たとえば、未切断状態でのTBMの標的結合の阻害を改善するなど、マスキング部分の性能を最適化すると望ましい場合、候補ABPライブラリでTBMおよびCMのアミノ酸配列を「固定」し、ライブラリのメンバのMMが互いに異なるようにMMを変更してもよい。MMについては、MMを構成するアミノ酸の数およびまたはタイプを変えるなどの多岐にわたる方法で最適化すればよい。たとえば、候補となる複数のABPの各メンバが候補MMを含んでもよく、この場合の候補MMは、少なくとも1つのシステインアミノ酸残基を含み、残りのアミノ酸残基は複数のメンバ間で可変である。他の例では、候補となる複数のABPの各メンバが候補MMを含んでもよく、この場合の候補MMは、システインアミノ酸残基と、5アミノ酸のランダム配列などのアミノ酸残基のランダム配列とを含む。
【0197】
拡大したダイナミックレンジの選択
上述したように、切断状態と未切断状態での標的結合に関して所望のダイナミックレンジを有するABPが、特に注目されている。このようなABPは、たとえば、被検体の治療部位および非治療部位に見られる生理学的レベルでの標的の存在下で検出可能な結合がないが、ひとたびプロテアーゼで切断されると、標的に対する高い親和性および/または高アビディティの結合を呈するものである。ABPのダイナミックレンジが大きくなればなるほど、ABPの「切り替え可能な」表現型が一層よくなる。このため、切断剤の存在下および非存在下で標的結合のダイナミックレンジが「拡大した」ものを選択するように、ABPを最適化することが可能である。
【0198】
本明細書に記載のスクリーニング方法については、所望のおよび/または最適化されたダイナミックレンジを有するABPを選択しやすいように改変可能である。総じて、これは未切断のABPの標的結合のスクリーニングよりも標的濃度が比較的低いプロテアーゼに曝露されたABPの標的結合のスクリーニング(すなわち、切断されたABPを含む個体群のスクリーニング)を実施するような形で、方法のポジティブ選択ステップとネガティブ選択ステップで用いられる標的の濃度を変えて達成できる。したがって、切り替え可能な表現型に対する「選択圧」が得られるようにステップ間で標的濃度を変更する。必要があれば、サイクル数を増やしてポジティブ選択ステップとネガティブ選択ステップで用いる標的濃度の差を大きくすることも可能である。
【0199】
ポジティブ選択ステップで比較的低濃度の標的を用いることで、切断状態にあるときの標的結合が改善されたこれらのABPメンバの選択をドライブする機能を果たすことが可能である。たとえば、TBM−標的相互作用のKdに対して約2から約100分の1、約2から50分の1、約2から20分の1、約2から10分の1または約2から5分の1の標的濃度で、プロテアーゼに曝露したABPを用いるスクリーニングを実施できる。結果として、標的と結合されたABPの個体群の選択後、選択された個体群は、その個体群の他のABPに比して親和性および/またはアビディティ結合が高いABPの富化されたものとなる。
【0200】
ネガティブ選択ステップで比較的高濃度の標的を用いることで、未切断状態で検出可能な標的結合が減少したかまったくない、これらのABPメンバの選択をドライブする機能を果たすことが可能である。たとえば、TBM−標的相互作用のKdに対して約2から約100倍、約2から50倍、約2から20倍、約2から10倍または約2から5倍の標的濃度で、(ネガティブ選択ステップで)プロテアーゼに曝露していないABPを用いるスクリーニングを実施できる。結果として、検出可能な状態では標的と結合しないABP個体群の選択後、選択された個体群は、その個体群の他の未切断ABPに比して、未切断状態での標的に対する結合度が低いABPの富化されたものとなる。言い方を変えると、検出可能な状態では標的と結合しないABPの個体群の選択後、選択された個体群は、標的結合からのTBMの「マスキング」などによってTBMに対する標的結合が阻害されるABPの富化されたものとなる。
【0201】
ABPが二重標的結合ABPである場合、上述したスクリーニング方法に手を入れて、第1のTBMと結合できる第1の標的と、第2のTBMと結合できる第2の標的とに対する所望のダイナミックレンジを有するABPを得ることも可能である。切断されたフラグメントを捕捉するための抗ABPフラグメント抗体を有するイムノクロマトグラフィなど、溶液中(培養液中など)での標的−TBM複合体の形成を評価した後、カラムに捕捉された結合後の検出可能に標識された標的を検出することで、提示足場に存在するABPから「切断除去」されたABPの一部に局在するTBMへの標的結合を見極めることが可能である。
【0202】
可溶性ABPの試験
候補ABPが可溶性形態で「切り替え可能な」表現型を維持する機能を試験することが可能である。このような方法のひとつに、支持体(Biacore(商標)CM5センサチップ表面などのアレイなど)に対する標的の固定化を利用するものがある。目的の標的の固定化は、好適な任意の技法(標準的なアミンカップリングなど)を用いて実現可能である。支持体の表面をブロックして、非特異的結合を還元する。任意に、この方法は、対照(固定化された標的を含まない支持体など(支持体へのバックグラウンド結合を評価するためなど)および/またはネガティブ対照として機能する化合物を含む(標的対非標的に対する候補ABPの結合の特異性を評価するためなど)の使用を必要とするものであってもよい。
【0203】
標的を共有結合的に固定化した後、この固定化された標的への特異的結合を可能にするのに適した条件下で、候補ABPを支持体と接触させる。候補ABPについては、「切り替え可能な」表現型を評価する目的で、好適な切断作用剤の存在下および非存在下で支持体に固定化された標的に接触させることが可能である。切断作用剤の非存在下と比較して、かつ、任意にネガティブ対照での結合と比較して、切断作用剤の存在下での候補ABPの結合の評価では結合応答が得られ、これが「切り替え可能な」表現型を示す指標となる。
【0204】
候補ABPで使用される個々の部分のスクリーニング
候補ABPの「切り替え可能な」表現型を試験する前に、TBM、MMまたはCMなどの候補ABPの1つ以上の部分を別々にスクリーニングすると望ましいことがある。たとえば、特異的プロテアーゼで切断可能なペプチド基質を同定する周知の方法を利用して、このようなプロテアーゼによる活性化用に設計されるABPで用い切断可能な部分を同定することが可能である。また、目的の標的に結合するペプチド配列の同定には多岐にわたる方法を利用できる。これらの方法は、たとえば、特定の標的に結合するTBMを同定あるいは、特定のTBMに結合するMMを同定するのに使用可能である。
【0205】
上記の方法は、たとえば、TBM、MMまたはCMなどの候補ABPの一部が複製可能な生命体を用いて提示される方法を含む。
【0206】
本明細書にて上述したように、複製可能な生命体を用いるさまざまな提示技術が従来技術において周知である。これらの方法および実体として、mRNAおよびリボソーム提示、真核生物ウイルス提示ならびに、細菌、酵母、哺乳類細胞表面提示などの提示方法論があげられるが、これに限定されるものではない。Wilson,D.S.,et al.2001 PNAS USA 98(7):3750〜3755;Muller,O.J.,et al.(2003)Nat.Biotechnol.3:312;Bupp,K.and M.J.Roth(2002)Mol.Ther.5(3):329 3513;Georgiou,G.,et al.,(1997)Nat.Biotechnol.15(1):29 3414;Boder,E.T.and K.D.Wittrup(1997)Nature Biotech.15(6):553 557を参照のこと。表面提示方法は、ライブラリ解析およびスクリーニングに蛍光標識細胞分取(FACS)を適用できるため魅力的である。Daugherty,P.S.,et al.(2000)J.Immuunol.Methods 243(1 2):211 2716;Georgiou,G.(2000)Adv.Protein Chem.55:293 315;Daugherty,P.S.,et al.(2000)PNAS USA 97(5):2029 3418;Olsen,M.J.,et al.(2003)Methods Mol.Biol.230:329 342;Boder,E.T.et al.(2000)PNAS USA 97(20):10701 10705;Mattheakis,L.C.,et al.(1994)PNAS USA 91(19):9022 9026;Shusta,E.V.,et al.(1999)Curr.Opin.Biotech.10(2):117 122を参照のこと。目的の生物標的に結合可能なペプチドを同定するのに使用できる別の提示方法論が、米国特許第7,256,038号明細書に記載されており、その開示内容を本明細書に援用する。
【0207】
ファージ提示には、バクテリオファージ粒子のpIII、pIIVなどのコートタンパク質への末端融合物としてのペプチドの局在化を伴う。Scott,J.K.and G.P.Smith(1990)Science 249(4967):386 390;Lowman,H.B.,et al.(1991)Biochem.30(45):10832 10838を参照のこと。一般に、特定の結合機能を有するポリペプチドは、標的とともにインキュベートし、非結合ファージを洗い流し、結合したファージを溶出した後、細菌の新鮮な培養に感染させてファージ個体群を再増幅することで単離される。
【0208】
例示としてのファージ提示および細胞提示組成物ならびに方法が、米国特許第5,223,409号明細書、同第5,403,484号明細書、同第7,118,879号明細書、同第6,979,538号明細書、同第7,208,293号明細書、同第5571698号明細書、同第5,837,500号明細書に記載されている。
【0209】
別の例示としての提示足場および方法として、2007年3月22日公開の米国特許出願公開第2007/0065878号明細書に記載されているものがあげられる。
【0210】
任意に、提示足場にプロテアーゼ切断部位(CMのプロテアーゼ切断部位とは異なる)を含み、ABPまたは候補ABPを宿主細胞の表面から切断できるようにすることも可能である。
【0211】
ひとつにおいて、複製可能な生命体が細菌細胞である場合、好適な提示足場は、Rice et al,Protein Sci.(2006)15:825〜836に記載された円順列変異大腸菌(Esccherichia coli)外膜タンパク質OmpX(CPX)を含む。2007年8月14日に発行された米国特許第7,256,038号明細書も参照のこと。
【0212】
自動スクリーニング方法
本明細書に記載のスクリーニング方法を自動化し、所望の切り替え可能な活性についてABPのライブラリをリアルタイムに大量スクリーニングする便利な方法を提供してもよい。自動方法は、所望のサイクル数にわたって選択した個体群を分離し、自動的に次のスクリーニングに送る、ポジティブ選択とネガティブ選択を何度も反復する形で設計可能である。
【0213】
個体群の候補ABPを評価するための解析点は、ポジティブ選択ステップ、ネガティブ選択ステップまたはその両方の終了後の経時的なものであってもよい。また、異なる標的濃度の選択圧による影響を評価するために、ポジティブ選択ステップとネガティブ選択ステップにおける選択された標的濃度での候補ABPの個体群の平均ダイナミックレンジに関する情報を監視して、後の解析用に保存することが可能である。
【0214】
コンピュータプログラム製品は、検出および/または測定手段の動作を制御可能であり、上述したステップに関する算術演算を実施し、所望の出力(フローサイトメトリー解析など)を生成することが可能である。コンピュータプログラム製品は、媒体に統合されたコンピュータ読み取り可能なプログラムコード手段を有するコンピュータ読取り可能な記憶媒体を備える。このような自動装置に適したハードウェアは、当業者間で周知であり、コンピュータコントローラ、自動サンプルハンドラ、蛍光測定ツール、プリンタ、光ディスプレイを含み得る。測定ツールは、蛍光検出可能な分子が用いられている試料からの蛍光シグナルを測定するための1つ以上の光検出器を含むものであってもよい。また、測定ツールは、各制御および/または被検試料を、試料のアレイとして配置し、蛍光強度を測定するステップの間に光検出器と対向して自動的かつ繰り返し位置決めできるように、コンピュータ制御されたステップモータを含むものであってもよい。
【0215】
測定ツール(蛍光標示式細胞分取器など)を、汎用コンピュータまたは特定用途向けコンピュータのコントローラと作動的に接続することが可能である。このコントローラは、測定ツールの動作を制御し、上述したステップに関する算術演算を実施するためのコンピュータプログラム製品を含み得る。コントローラは、ファイル、ディスク入力またはデータバスを介してセットアップデータまたは他の関連のデータを受け取るようになっていてもよい。ディスプレイとプリンタを設けて、コントローラの動作を表示してもよい。コントローラが実施する機能の全体または一部を汎用コンピュータシステム上で動作するソフトウェアモジュールとして実現してもよいことは、当業者であれば理解できよう。あるいは、上述した機能と動作を実現するための特定用途向け集積回路を備える専用のスタンドアロン型システムを設けてもよい。
【0216】
セラピーでのABPの使用方法
たとえば目的のABPおよびキャリア薬学的に許容される賦形剤(薬学的に許容されるキャリアとも呼ぶ)を治療有効量で含有する医薬組成物に、ABPを取り入れることが可能である。多くの薬学的に許容される賦形剤が従来技術において周知であり、一般に、投与経路、治療対象となる症状、従来技術において十分に理解されている他の可変要素などに応じて選択される。薬学的に許容される賦形剤は、たとえば、A.Gennaro(2000)“Remington:The Science and Practice of Pharmacy,”20th edition,Lippincott,Williams,& Wilkins;Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems(1999)H.C.Ansel et al.,eds.,7
th ed.,Lippincott,Williams,& Wilkins;Handbook of Pharmaceutical Excipients(2000)A.H. Kibbe et al.,eds.,3
rd ed.Amer.Pharmaceutical Assocをはじめとする多岐にわたる刊行物に多く記載されている。医薬組成物は、pH調整剤および緩衝剤、等張化調整剤、安定剤、湿潤剤などの他の成分を含むものであってもよい。いくつかの実施形態では、ナノ粒子またはリポソームがABP含有医薬組成物を担持する。
【0217】
ABPの医薬組成物に適した成分を、ABPのTBMに利用できる医薬組成物によってガイドすることが可能である。たとえば、ABPがVEGFバインダー(すなわちVEGF阻害剤)を含む場合、このようなABPを、VEGFバインダーとの併用に適した方法および組成物による製剤処方薬の形で処方することが可能である。ABPが全長抗体またはその抗原結合フラグメントを含む実施形態では、組成物を、抗体および抗原結合フラグメントとの併用に適した方法および組成物による製剤処方薬の形で処方することが可能である。
【0218】
総じて、1つ以上のABPの製剤処方薬は、所望の純度のABPと、生理学的に許容される任意のキャリア、賦形剤または安定剤(Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980))とを、凍結乾燥製剤または水溶液の形で混合することで、保存できるように調製される。許容可能なキャリア、賦形剤または安定剤は、使用する薬用量および濃度でレシピエントにとって無毒であり、リン酸塩、クエン酸塩、他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸およびメチオニンをはじめとする酸化防止剤;防腐剤(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;メチルパラベンまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール;m−クレソールなど);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンまたはリシンなどのアミノ酸;単糖、二糖および他のグルコース、マンノースまたはデキストリンをはじめとする炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトールなどの糖類;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(Zn−タンパク質錯体など);および/またはTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)またはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン系界面活性剤を含む。
【0219】
in vivoでの投与に使用される製剤は滅菌されたものでなければならない。これは、滅菌濾過膜での濾過によって容易に達成される。また、製剤処方薬は、治療対象となる特定の徴候に合わせて、必要に応じて2種類以上の活性化合物を含むものであってもよく、この場合の別の活性化合物は通常、ABPに対して相補的な活性を有するものである。このような化合物は、意図した目的に効果的な量で適宜組み合わせて用いられる。
【0220】
製剤処方薬は、全身調製物または局所注射可能な調製物などの多岐にわたる剤形で提供可能なものである。これらの成分は、コロイド状のドラッグデリバリー系(たとえば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、ミクロエマルション、ナノ粒子、ナノカプセル)で、あるいはマクロエマルションで、たとえばヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチン−マイクロカプセルおよびポリ−(メチルメタクリレート)マイクロカプセルを、それぞれたとえばコアセルベーション法によって、あるいは界面重合によって調製されるものなどのマイクロカプセルなどのキャリアで提供可能である。このような技法は、Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980)に開示されている。
【0221】
徐放調製物もABP含有製剤の範囲内である。例示としての徐放調製物は、抗体を含有する疎水性の固体ポリマーの半透性マトリクスを含み得るものであり、このマトリクスはフィルムまたはマイクロカプセルなどの造形品の形である。徐放マトリクスの例としては、ポリエステル、ヒドロゲル(たとえば、ポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)またはポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号明細書)、L−グルタミン酸およびγ−エチル−L−グルタミン酸塩のコポリマー、非分解性エチレン−酢酸ビニル、LUPRON DEPOT(商標)(乳酸−グリコール酸コポリマーおよび酢酸ロイプロリドで構成される注射可能なミクロスフェア)などの分解性乳酸−グリコール酸コポリマー、ポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸があげられる。エチレン−酢酸ビニルおよび乳酸−グリコール酸などのポリマーは100日を超えて分子の放出を可能にするのに対し、特定のヒドロゲルは、これよりも短い期間タンパク質を放出する。
【0222】
ABPがカプセル化されたまま体内に長期間とどまると、37℃で水分に曝露されることで変性したり凝集したりして、生物活性の低下や免疫原性の変化につながる場合がある。これに関与する機序に応じて、安定化のための合理的な戦略を考案することが可能である。たとえば、凝集機序がチオ−ジスルフィド相互交換による望ましくない分子間S−S結合の形成であることが分かったのであれば、スルフヒドリル残基の修飾、酸性溶液からの凍結乾燥、水分含有量の制御、適切な添加剤の使用、特定のポリマーマトリクス組成物の開発といった方法で、安定化できることがある。
【0223】
治療の目的を果たす活性作用剤の標的送達用に、ABPを送達ビヒクルにコンジュゲートすることが可能である。たとえば、医薬品がカプセル封入された、あるいは医薬品と関連付けられたナノ粒子またはリポソームに、ABPをコンジュゲートすることができる。このようにして、医薬品を特異的に標的送達することが可能である。ポリペプチドをリポソームにリンクする方法は従来技術において周知であり、このような方法を適用して、リポソーム内容物の標的およびまたは選択的送達用にABPをリポソームにリンクさせることができる。一例として、チオエーテル結合を介してポリペプチドをリポソームに共有結合的にリンクさせることが可能である。PEG化ゼラチンナノ粒子およびPEG化リポソームも、単鎖抗体などのポリペプチド結合用の支持体として使用されている。たとえば、抗体フラグメントなどのポリペプチドをリポソームにコンジュゲートするための方法についての開示を本明細書に援用する、Immordino et al.(2006)Int J Nanomedicine.September;1(3):297〜315を参照のこと。
【0224】
治療方法
本明細書に記載のABPは、ABPで提供されるCM−TBMの組み合わせによる好適な被検体の治療方法で使用するよう選択可能である。VEGF−阻害ABPに基づく例を以下にあげておく。
【0225】
ABPは、非経口、皮下、腹腔内、肺内、鼻腔内、さらには必要であれば局所注射(固体腫瘍部位での注射など)をはじめとする好適な手段で投与可能である。非経口投与経路としては、筋肉内投与、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与または皮下投与があげられる。
【0226】
ABPの適切な薬用量は、治療対象となる疾患のタイプ、疾患の重篤度と経過、患者の臨床履歴とABPに対する応答、主治医の裁量に左右される。ABPは、患者に対して一度にまたは一連の治療をとおして適宜投与可能である。
【0227】
疾患のタイプと重篤度に応じて、たとえば1回以上の個別投与であるか連続注入であるかを問わず、約1μg/kgから15mg/kg(0.1〜20mg/kgなど)のABPが患者に投与する初期の候補薬用量となり得る。一般的な1日薬用量は、上述したものなどの要因次第で約1μg/kgから100mg/kgまたはこれより多くの範囲であろう。数日間またはそれよりも長期にわたる反復投与では、症状に応じて、疾患症候に対する所望の抑制が生じるまで治療を続ける。しかしながら、他の投与計画が有用なこともある。
【0228】
ABP組成物は、適正な医療規範と矛盾しないような方法で、処方、投薬、投与される。この観点で考慮すべき要因としては、どの機能障害が治療対象となっているのか、どの哺乳動物が治療対象となっているのか、個々の患者の臨床症状、機能障害の原因、ABPの送達部位、投与方法、投与スケジュールならびに、医療関係者にとって周知の他の要因があげられる。投与される「治療有効量」のABPは、これらの考慮事項に影響され、疾患または機能障害の予防、寛解または治療に必要な最低限の量である。
【0229】
通常、疾患または機能障害の軽減または治療には、疾患または機能障害に関連する1つ以上の症候または医学的な問題の低減が関与する。たとえば、癌の場合、治療有効量の医薬品によって、癌細胞数の低減;腫瘍サイズの縮小;周辺臓器に対する癌細胞の浸潤の阻害(すなわち、ある程度の減少および/または停止);腫瘍転移の阻害;腫瘍成長のある程度の阻害;および/または癌に関連する1つ以上の症候のある程度の軽減のうちの1つまたはその組み合わせが実現可能である。いくつかの実施形態では、本発明の組成物を使用して、被検体すなわち哺乳動物での疾患または機能障害の発症または再発を予防することが可能である。
【0230】
ABPは、(同一の製剤または別の製剤で)1つ以上の別の治療薬または治療方法(「併用剤」)と併用可能である。ABPを、別の治療薬との混合物で投与してもよいし、別々の製剤で投与してもよい。ABPとの併用で投与可能であり、なおかつ治療対象となる症状に応じて選択される治療薬および/または治療方法としては、外科手術(癌性組織の外科的除去など)、放射線療法、移植、化学治療、上記の特定の組み合わせなどがあげられる。
【0231】
抗血管新生療法においてVEGFを阻害するABPの使用
ABPがVEGF阻害剤であるTBMを含有する場合、このABPには、血管形成の阻害が望ましい症状、特にVEGFの症状が注目される症状の治療用途がある。VEGF阻害ABPは、VEGFに結合するTBMならびに、線維芽細胞成長因子(たとえばFGF−2)などの第2の成長因子に結合して、FGF活性を阻害するTBMを有する二重標的結合ABPを含み得る。よって、2つの血管形成促進因子を阻害する目的でこのような二重標的結合ABPを設計することが可能であり、これは、異所性の血管形成部位に共存する切断剤(たとえば、本明細書に記載のMMPまたは他の酵素などの酵素)によって活性化可能である。
【0232】
血管形成阻害ABPには、被検体(ヒトなど)での固体腫瘍、特に、血管形成の阻害によって阻害または腫瘍成長が得られる腫瘍に栄養分を与える、関連の血管床を有する固体腫瘍の治療に用途がある。また、抗VEGFベースの抗血管形成ABPには、異常な血管形成の阻害によるセラピーに適している1つ以上の症候を有する他の症状でも用途がある。
【0233】
総じて、異常な血管形成は、疾患のある状態あるいは、疾患のある状態を引き起こすような形で新たな血管が過剰に、不十分にまたは不適切に成長する(血管形成の場所、タイミングまたは開始が医療的な観点から望ましくないなど)際に生じる。過剰な、不適切なまたは未制御の血管形成は、癌、特に血管新生化した固体腫瘍および転移性腫瘍(大腸癌、肺癌(特に小細胞肺癌)または前立腺癌を含む)、眼血管新生によって生じる疾患、特に糖尿病性失明、網膜症、一次糖尿病性網膜症または加齢による黄斑変性症および虹彩血管新生;乾癬、乾癬性関節炎、血管腫などの血管芽細胞腫;糸球体腎炎などの炎症性腎疾患、特にメサンギウム増殖性糸球体腎炎、溶血性尿毒症症候群、糖尿病性腎症または高血圧性腎硬化症;関節炎、特に関節リウマチ、炎症性腸疾患、乾癬、サルコイドーシス、動脈硬化症などのさまざまな炎症性疾患ならびに、移植後に発生する疾患、子宮内膜症または慢性喘息、当業者において容易に認識可能な他の症状などで、疾患のある状態の悪化の一因となるか、あるいは疾患のある状態を引き起こす新たな血管成長があるときに生じる。新たな血管は、疾患のある組織に栄養を与え、正常な組織を破壊する可能性があり、癌の場合は、新たな血管がゆえに腫瘍細胞が血液の循環に混じって他の臓器にとどまる(腫瘍の転移)可能性がある。
【0234】
ABPベースの抗血管形成療法には、移植片拒絶、肺炎、ネフローゼ症候群、妊娠高血圧腎症、心膜炎に関連するものや胸水貯留などの心膜液貯留、脳腫瘍関連の浮腫などの望ましくない血管透過性を特徴とする疾患および機能障害、悪性腫瘍に関連する腹水症、メージュ症候群、肺炎、ネフローゼ症候群、心膜液貯留、胸水貯留、心筋梗塞および脳卒中後の症状などの心血管疾患に関連する透過性などの治療に用途がある可能性もある。
【0235】
本明細書に記載したような抗血管新生ABPを用いて治療できる他の血管形成依存性疾患としては、血管線維腫(出血しやすい血管の異常な血液)、血管新生緑内障(眼における血管の成長)、動静脈奇形(動脈と静脈との連絡異常)、癒着不能骨折(治癒しない骨折)、動脈硬化性プラーク(動脈の硬化)、化膿性肉芽腫(血管で構成される一般的な皮膚病変)、強皮症(結合組織疾患の一形態)、血管種(血管で構成される腫瘍)、トラコーマ(第三世界での失明の主因)、血友病性関節炎、血管接着および肥厚性瘢痕(異常な痕形成)があげられる。
【0236】
所望の治療効果を得るためのABPの投与量は、上述したものなどの多数の要因に応じて変わってくる。総じて、癌に対するセラピーとの関連では、ABPの治療有効量とは、血管形成を阻害し、これによってたとえば、好適な対照と比較した場合に、被検体における腫瘍量、アテローム性動脈硬化症を少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約85%または少なくとも約90%、最大で腫瘍の完全根絶まで低減しやすくするのに有効な量である。実験動物系では、好適な対照は、作用剤で処置していない遺伝的に等しい動物であってもよい。非実験系では、好適な対照は作用剤投与前の腫瘍量であってもよい。他の好適な対照としてプラセボ対照があげられる。
【0237】
腫瘍量が減少しているか否かについては、固体腫瘍体積の測定;細胞学的アッセイを用いる腫瘍細胞数の計数;特定の腫瘍抗原を持つ細胞数を求めるための蛍光標識細胞分取(腫瘍関連抗原に特異な抗体を用いるなど);腫瘍サイズを見極めるおよび/または監視するための腫瘍のコンピュータ断層撮影走査、磁気の磁気共鳴画像法および/またはX線撮像;血液または血清などの生物学的試料における腫瘍関連抗原量の測定などであるがこれに限定されるものではない、周知の方法で判断すればよい。
【0238】
いくつかの実施形態では、これらの方法は、好適な対照と比較した場合に、腫瘍の成長率を少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約85%または少なくとも約90%、最大で腫瘍の成長を完全に阻害するまで抑えるのに有効である。よって、これらの実施形態では、ABPの「有効量」は、好適な対照と比較した場合に、腫瘍の成長率を少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約85%または少なくとも約90%、最大で腫瘍の成長を完全に阻害するまでの量である。実験動物系では、好適な対照は、作用剤で処置していない遺伝的に等しい動物における腫瘍成長率であってもよい。非実験系では、好適な対照は、作用剤投与前の腫瘍量または腫瘍成長率であってもよい。他の好適な対照としてプラセボ対照があげられる。
【0239】
腫瘍の成長が阻害されたか否かについては、腫瘍成長のin vivoアッセイ;in vitro増殖アッセイ;
3H−チミジン取り込みアッセイなどであるがこれに限定されるものではない、周知の方法で判断すればよい。
【0240】
ABPを用いる非治療方法
また、診断および/または画像形成方法にABPを使用することも可能である。たとえば、酵素的に切断可能なCMを有するABPを使用して、CMを切断できる酵素の有無を検出することができる。このようなABPを診断に使用してもよく、それには、特定の宿主生物の特定組織における活性化ABPの蓄積測定値による目的の標的の存在が附随する酵素活性のin vivo検出(定性的または定量的など)(あるいは、いくつかの実施形態では、ジスルフィド結合を低減できる提供できるものなどの還元可能性のある環境の増加)を含み得る。
【0241】
たとえば、生物学的に限局された部位(膿瘍内、臓器内など)といった腫瘍の部位、ウイルス感染または細菌感染の部位に見られるプロテアーゼのプロテアーゼ基質にCMを選択することが可能である。TBMは、標的抗原と結合するものであればよい。当業者に馴染みのある方法を使用して、検出可能な標識(蛍光標識など)をABPのTBMまたは他の領域にコンジュゲートすることが可能である。適した検出可能な標識については上記のスクリーニング方法との関連で論じてあるが、さらに別の具体例を以下にあげておく。目的の疾患組織で活性が高まるプロテアーゼと一緒に疾患状態のタンパク質またはペプチドに特異的なTBMを使用すると、ABPはCM特異的酵素が検出可能なレベルで存在しないか、疾患組織よりも低めのレベルで存在する組織よりも疾患組織への結合率が高くなることになる。小タンパク質およびペプチドは、腎臓の濾過システムによって短時間で血中から排除され、CMに特異的な酵素が検出可能なレベルで存在しない(あるいは非疾患組織に低めのレベルで存在する)がゆえに、疾患のある組織での活性化されたABPの蓄積が非疾患組織よりも増大する。
【0242】
もうひとつの例では、試料中の切断剤の有無の検出にABPを使用できる。たとえば、ABPが酵素によって切断されやすいCMを含有する場合、ABPを使用して試料中の酵素の存在を検出(定性的または定量的のいずれか)することが可能である。もうひとつの例では、ABPが還元剤によって切断されやすいCMを含有する場合、ABPを使用して試料における還元条件の存在を検出(定性的または定量的のいずれか)することが可能である。これらの方法での解析を容易にするために、ABPを検出可能に標識してもよく、支持体(スライドまたはビーズなどの固相支持体など)に結合してもよい。検出可能な標識をABPの切断後に放出される部分に配置することも可能である。アッセイについては、たとえば、検出可能に標識した固定化ABPを、酵素および/または還元剤を含有する可能性のある試料と、切断を生じさせるのに十分な長さの時間接触させた後、洗浄して余分な試料や汚染物質を洗い流すことで実施可能である。その後、試料と接触させる前にABPの検出可能なシグナル(試料中の切断剤によるABPの切断ならびに、このような切断の結果として検出可能な標識が結合したABPフラグメントの除去による検出可能なシグナルの減少などの変化を頼りに試料中の切断剤(酵素または還元剤など)の有無を評価する。
【0243】
このような検出方法を、ABPのTBMと結合できる標的の有無を検出するようにしてもよい。よって、in vitroアッセイを、切断剤の有無と目的の標的の有無を評価するようにしてもよい。切断剤の有無については、上述したようなABPの検出可能な標識が減少することに基づいて検出可能であり、検出可能に標識された抗標的抗体を用いるなどして標的−TBM複合体を検出することで、標的の有無を検出可能である。
【0244】
上述したように、本明細書に開示のABPは、検出可能な標識を含み得るものである。一実施形態では、ABPは、診断作用剤として使用できる検出可能な標識を含み得る。診断作用剤として使用できる検出可能な標識の非限定的な例には、インジウムまたはテクネチウムなどの放射性同位元素を含有する画像形成剤;ヨウ素、ガドリニウムまたは酸化鉄を含有するMRIおよび他の用途での造影剤;西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼまたはβ−ガラクトシダーゼなどの酵素;GFP、ユーロピウム誘導体などの蛍光物質およびフルオロフォア;N−メチルアクリジニウム誘導体などのルミネッセント物質などがある。
【0245】
不安定プラークの破綻と、以後の血塊形成は、心臓発作の大部分を引き起こすと考えられている。不安定プラークを効果的に標的することで、安定化用の治療薬を送達することによる破綻の尤度を抑えられる可能性がある。
【0246】
VCAM−1は、アテローム性動脈硬化症になりやすい領域ならびに、確立された病変境界の両方で上方制御される。Iiyama,et al.(1999)Circulation Research,Am Heart Assoc.85:199〜207。MMP−1、MMP−8およびMMP−13などのコラゲナーゼは、アテローム性プラークの破綻の一助となり得るヒトアテローマで過発現される。Fricker,J.(2002)Drug Discov Today 7(2):86〜88。
【0247】
一例では、本明細書に開示のABPには、動脈硬化性不安定プラークなどの動脈硬化性プラークを検出および/または標識するよう設計された診断および/または画像形成方法に用途がある。動脈硬化性プラークに関連したタンパク質を標的することで、ABPを用いてこのようなプラークを検出および/または標識することが可能である。たとえば、抗VCAM−1 ABDと検出可能な標識とを含むABPには、動脈硬化性プラークを検出および/または標識するよう設計された方法に用途がある。これらのABPについては、ApoEマウスなどの動物モデルで試験可能である。
【実施例】
【0248】
以下の実施例は、本発明をどのように製造および使用するのかについて当業者に完全に開示および説明すべくまとめたものであり、本発明者らが自らの発明とみなす範囲を限定することを意図したものではなければ、以下の実験が実施した実験のすべてまたは唯一のものであると表すことを意図したものでもない。使用した数(量、温度など)については正確を期するよう最善を尽くしているが、若干の実験誤差や偏差とを念頭におく必要がある。特に明記しないかぎり、部は重量部、分子量は重量平均分子量、温度は摂氏であり、圧力は大気圧前後である。また、塩基対にbp;キロベースにkb;ピコリットルにpl;秒にsまたはsec;分にmin;時間にhまたはhr;アミノ酸にaa;キロベースにkb;塩基対にbp;ヌクレオチドにnt;筋肉内の(に)にi.m.;腹腔内の(に)にi.p.;皮下(に)にs.c.などの標準的な略記を使用することもある。
【0249】
方法および材料
下記の実施例1〜5では、以下の方法および材料を用いた。
【0250】
大腸菌(E.coli)株MC1061を用いてクローニングと発現実験を実施した。LB培地およびクロラムフェニコールにて細胞を37℃で一晩成長させた。次に、培養をクロラムフェニコール含有LB培地で1:50に希釈し、37℃で2時間成長させ、0.2%L−(+)−アラビノースを用いて37℃で2時間、基質発現を誘導した。およそ2×10
8個の細胞を5000rpmで5分間遠心処理し、20mMのNaCl/2mMのCaCl
2/100μMのZnCl
2を加えた50mMのTris−Cl(pH7.5)で1回洗浄し、10uLのTris−Cl緩衝液で再懸濁させた。
【0251】
酵素の添加を伴う実験では、30nMのMMP−2をTris−Cl緩衝液に含め(対照反応には酵素を添加しなかった)、反応混合物を室温にて2時間インキュベートした。次に、細胞を取り出し、PBS(pH7.4)で1:100に希釈して反応を停止させ、遠心処理によってペレット化し、25nMのビオチン化VEGFを含有する30マイクロリットルの冷蔵PBSに再懸濁させた。回転式振盪培養器の冷蔵庫で45分間のインキュベーション後、細胞を4℃でペレット化し、50nMのストレプトアビジン−フィコエリトリン蛍光コンジュゲートを含有する冷蔵PBSに再懸濁させた。回転式振盪培養器の冷蔵庫で45分間のインキュベーション後、細胞を4℃でペレット化し、PBSに再懸濁させ、FACSAria細胞選別機にて解析または選別用に赤色蛍光を測定した。酵素で処理した細胞の蛍光を対照試料と比較し、VEGF結合の増加を判断した。
【0252】
円順列変異外膜タンパク質X(CPX)のN末端を使用して、スイッチコンストラクトおよびライブラリをすべて、大腸菌(E.coli)細菌の表面に提示した。
【0253】
下記の実験で同定したクローンについて説明するにあたり、以下の命名規則すなわち#−#X−#および#.#X.#(この場合、#は数字の識別子であり、Xはアルファベットの識別子である)を同義に使用する点に注意されたい。
【0254】
実施例1:VEGF結合部分と酵素で切断可能な部分とを有するポリペプチドの構成
上述したように、活性化可能な結合ポリペプチド(ABP)は、標的結合部分(TBM)と切断可能部分(CM)とを含み、CMがプロテアーゼの基質を含有する。ABP生成の第1のステップとして、VEGF結合配列(TBMとして作用)とマトリクスメタロプロテアーゼ−2(MMP−2)で切断可能なアミノ酸配列とを含有する、細菌細胞表面での提示用のコンストラクトを生成した。T7抗原のアミノ酸配列は、未切断の生成物を検出しやすくするための免疫検出可能なタグとしてN末端に含まれる。具体的には、検出可能に標識された抗T7抗体の結合が、未切断ABPを示す目安となった。この細胞表面アンカー配列を持たないコンストラクトのアミノ酸配列を、以下に配列番号12としてあげておく。
図3に酵素の存在下および非存在下におけるコンストラクトの概略を示す(詳細については右上のパネルを参照のこと)。
【0255】
【表3】
【0256】
MMP−2の存在下または非存在下でコンストラクトが標識されたVEGFと結合する能力を試験した。自己の表面でコンストラクトを提示している細菌を、標識されたVEGFの存在下で、MMP−2の存在下または非存在下のいずれかにてインキュベートした(
図3、左側のパネル)。検出可能に標識された抗T7抗原抗体の存在下または非存在下のいずれにて細胞をインキュベートして、プロテアーゼによるコンストラクトの切断を確認した(
図3、右側のパネル)。標識されたVEGFまたは標識された抗T7抗体のいずれかの結合をFACSで評価した。
図3に示すように、MMP−2の存在下または非存在下のいずれかでコンストラクトが標識されたVEGFと接触すると、標識されたVEGFがVEGFバインダー配列と結合できることから、酵素基質が存在してもコンストラクトのTBMに対するVEGF結合が実質的に干渉されないことが分かる。また、
図3は、酵素の存在下でコンストラクトの平均蛍光がおよそ16.5分の1に低下したことから分かるように、MMP−2がコンストラクトのPLGLAG基質を切断したことも示している。
【0257】
これらのデータは、MMP−2基質が存在してもVEGF結合が実質的に損なわれず、T7対照ポリペプチドに用いられるMMP−2基質がABPでCMとして用いられる候補酵素基質であることを示す。
【0258】
実施例2:システイン制約ループを有するABP
ABPの標的結合部分(TBM)を「マスクする」ためのひとつの戦略に、標的がTBMに到達するのを立体的に邪魔する「ループ」状のABPを提供することがある。この戦略では、システイン間でのジスルフィド結合の形成時にTBMがマスクされるような形で、ABPのN末端およびC末端またはその付近にシステインを配置する。
【0259】
例示としてのABPを
図4に示す。このABPは、MMP−2基質(切断可能部分(CM)、以下では「基質」と表記)のN末端に位置するシステイン含有フレキシブルリンカー配列を含み、これがTBMとしてのVEGFバインダーのN末端であった。フレキシブルリンカーは、CMとTBMとの間に配置された。この配列を以下に配列番号13としてあげておく。
【0260】
【表4】
【0261】
システイン−システインジスルフィド結合のない対照(「GS対照」)も構成した。GS対照の配列を以下に配列14としてあげておく。
【0262】
【表5】
【0263】
次に、これらのコンストラクトが上述したようなMMP−2の存在下または非存在下で標識されたVEGFと結合する能力を試験した。
【0264】
図4のABPは細菌細胞の表面に提示され、MMP−2酵素の存在下または非存在下で標識されたVEGFと接触された。VEGF標識細胞を検出するためのFACS解析を実施して、システイン−システインジスルフィド結合のない対照ポリペプチドと比較してABPが切り替え挙動を示したか否かを判断した。
図5に示すように、酵素の非存在下の場合と比較すると、酵素の存在下で、MMP−2処理後に蛍光がおよそ2.6倍になった(
図5、右側のパネル)ことから分かるように、標識されたVEGFの結合が増大した。VEGF結合における同様の増加はGS対照ポリペプチドには認められなかった。
【0265】
これらのデータは、MMP−2で基質が切断されることで、MMP−2の非存在下でのABPに対するVEGFの結合と比較した場合にABPに対するVEGFの結合が増大したことを示す。また、システインループ含有ABPのほうがGS対照に比して「切り替え可能な」VEGF結合表現型が増大した。未切断のシステインループ含有ABPと比較した切断後のシステインループ含有ABPへのVEGF結合のレベルは、未切断のGS対照と比較した切断後のGS対照に対するVEGF結合レベルよりも高かった。
【0266】
実施例3:ABPライブラリのスクリーニング
所望の「切り替え」特徴を有する(すなわち、切断されたコンホメーションにあるときの標的結合と比較して、未切断のコンホメーションでは標的結合が低下する)別のABPを同定するために、マスキング部分(MM)に異なる可変アミノ酸配列を有し、MMのシステインの位置が変わる候補ABPのライブラリを生成した。例示としてのライブラリのアミノ酸配列を表6の配列番号15〜18として以下にあげておく。「X」はランダム化アミノ酸配列を示す。MMに柔軟性を持たせるために、グリシンを含めた。
【0267】
【表6】
【0268】
図6はライブラリコンストラクトの概略であり、ジスルフィドブリッジを形成可能なコンストラクトのシステイン(下線を付した残基)を提供することで、未切断状態でのコンストラクトのコンホメーションを抑制するためのコンストラクト設計を示す。
【0269】
図7は、切り替え可能な表現型を提示する候補を同定するのに用いられるスクリーニング/選別方法を示す概略である。細菌細胞表面でのABPポリペプチドの提示につながる発現ベクターを介してライブラリを導入した。得られた提示ライブラリには、3×10
8個を超える形質転換体が含まれていた。培養によるライブラリの拡大(「成長させたライブラリ」)後、ABPポリペプチドを提示する細胞をMMP−2酵素で処理し、切断可能な基質部分を切断した。次に、MMP−2処理細胞を蛍光標識されたVEGFと接触させ、FACSで細胞を選別して、MMP−2の切断後にVEGFと結合したABPを提示する細胞を単離する。次に、VEGF結合コンストラクトを提示した細胞を培養中で成長させて拡大(「成長させたライブラリ」)した。さらに、これらの細胞を標識されたVEGFと接触させ、FACSで選別して、MMP−2の非存在下で標識されたVEGFと結合しなかったABPを提示する細胞を単離した。これらのステップをスクリーニング手順の1「サイクル」とする。その後、別のサイクルで細胞を培養中にて成長させて拡大(「成長させたライブラリ」)し、この培養物に対して再度スクリーニングステップの全体または一部を実施することが可能である。
【0270】
ライブラリのスクリーニングと選別は、まずは酵素処理の非存在下で標識されたVEGFと結合しない(すなわち、切断されていないときにVEGFと結合しない)候補を選択して開始することも可能である旨に注意されたい。
【0271】
ライブラリのうちの1つの例示としてのデータを
図8にあげておく。1.5サイクルの選択(すなわち、完全な1サイクルの酵素処理、選別、VEGF結合、選別に続いて、半サイクルの酵素処理と選別)後、ライブラリでは「切り替え可能な」表現型に顕著な改善が認められ、酵素の非存在下での標識されたVEGFの結合(
図8、右上パネル)が酵素の存在下(
図8、右下パネル)よりも有意に低かった。また、
図8の左側のパネルに示すように、未選別のライブラリはそれほど有意でもない切り替え可能な表現型を呈することから、この選択/選別方法が、ライブラリでの所望の切り替え可能な表現型を有するABPを提示する細胞の富化に有効であることが確認された。
【0272】
また、選択されたクローンでは、システイン制約対照に比して「切り替え」活性の改善が認められた。
図9は、各ライブラリ1〜4から同定された選択後のライブラリクローンについてのMMP−2での切断後の蛍光の増加倍数を示す。
図6で同定されたライブラリのスクリーニング後に同定された
図9の選択後のクローンは、ランダムライブラリのスクリーニング由来のクローンと比較すると、適度な改善を示した。たとえば、
図9で同定された40のクローンのうち、6つで蛍光が3倍に増加した。40のクローンの平均蛍光増加はおよそ2倍であった。ランダムライブラリ由来のクローンでは、23のクローンのうち2つで蛍光が3倍になった。クローンのランダムライブラリの平均蛍光増加はおよそ1.5倍であった。
【0273】
最も顕著な「切り替え」表現型(酵素的に「活性化可能な」表現型とも呼ぶ)を呈するクローンのアミノ酸配列を
図10にあげておく。
【0274】
さらにスクリーニングして、顕著な「切り替え」表現型を呈する別のクローンをいくつか同定した。これらのクローンでの酵素処理後の蛍光の増加倍数を
図24に示す。
【0275】
図25は、酵素切断後の蛍光の増加倍数に基づく、選択されたクローンの切り替え活性を示す。クローン4−2A−11(GEDEEG:固定のG残基を含む配列番号19)、2−2A−5(PEWGCG:固定のG残基を含む配列番号11)、2−3B−5(CEYAFG:固定のG残基を含む配列番号20)、1−3A−4(CSMYWMRG:固定のC残基およびG残基を含む配列番号21)、および2−3B−6(EYEGEG:固定のG残基を含む配列番号22)の各々で、対照に比して切り替え活性の改善が示され、GS対照では蛍光の増加がおよそ2倍未満であったのに対してクローン2−3B−5では蛍光がほぼ10倍増加した。
【0276】
実施例4:切り替え可能な表現型は切断可能部分の切断に起因する
総じて、切り替え可能な表現型は、多かれ少なかれ標的結合部分(TBM)に標的が到達できるようにするABPのコンホメーションの変化によるものである。ABPがジスルフィドブリッジを形成できるシステインを含有する場合、切り替え可能な表現型は少なくとも2つの異なる機序すなわち、1)酵素切断部位でのABPの切断または2)ABPのN末端およびC末端付近のシステイン間のジスルフィド結合の還元の結果であろう。
【0277】
たとえば、システインを欠いたMMを含有するABPで切り替え挙動が観察された。各々異なる5アミノ酸MMライブラリ配列を有する3つのクローンを、MMP−2の存在下および非存在下で標識されたVEGFと結合する機能について試験した。
図11に示すように、GEDEE:配列番号23(GEDEEG:固定のG残基を含む配列番号19)およびDDMEE:配列番号24(DDMEEG:固定のG残基を含む配列番号25)のMMライブラリアミノ酸配列を有するクローンでは、MMでシステイン残基が欠けているにもかかわらず、MMP−2の存在下で結合の改善が認められた。この結果から、ABPが所望の切り替え活性を呈するのにジスルフィド結合リンケージが必ずしも必要ではないことが分かる。
【0278】
本明細書に記載のスクリーニング方法による同定された別のシステインおよび非システイン含有MM配列を、
図22に示す。
【0279】
上述したように、切り替え可能な表現型は、MMのシステイン残基とTBMに隣接するシステイン残基との間のジスルフィド結合リンケージの破壊によって生じる可能性がある。この可能性を、ジスルフィド結合の還元条件の存在下および非存在下でクローンを試験して確認した。
図12に示すように、クローン2.2A.5(上記のスクリーニング手順の生成物であるクローン)と、スクリーニング手順の生成物ではないシステイン制約親(すなわち、2倍の切り替え活性を示す設計または「トライアル」配列であり、配列を
図4にあげてある)の各々を、DTT還元条件の存在下および非存在下で標識されたVEGFと結合する機能について試験した。システイン制約親とクローン2.2A.5の両方で、DTTによるジスルフィド結合の還元後に標識されたVEGFの結合の増加が認められた。
【0280】
しかしながら、上記実施例のスクリーニング手順では、ジスルフィド結合の還元の結果として、コンホメーションの変化と関連するものよりも切り替え表現型が増大する。これは、システイン制約親コンストラクトおよびクローン2.2A.5の切り替え表現型の解析結果によって実証される。MMP−2の存在下および非存在下で、システイン制約親によるVEGF結合のK
d,app値を求め、MMP−2の存在下および非存在下で、ライブラリクローン2.2A.5によるVEGF結合のK
d,app値と比較した。酵素の存在下でのシステイン制約親のK
dがおよそ3.4倍改善された(
図13)のに対し、クローン2.2A.5では酵素の存在下でK
dがおよそ4.8倍改善された(
図14)。
【0281】
別の実験では、MMP−2の存在下および非存在下でシステイン制約ループ構造の蛍光値を求め、MMP−2の存在下および非存在下でライブラリクローン4.2A.11(別名4−2A−11)および2.3B.5(別名2−3B−5)の蛍光値と比較した。システイン制約ループ構造では酵素の存在下で蛍光がおよそ3倍に増加した(
図23)のに比して、クローン4.2A.11では酵素の存在下で蛍光がほぼ5.7倍に増加(
図23)し、クローン2.3B.5では酵素の存在下で蛍光がほぼ11.8倍に増加した。
【0282】
これらの結果から、切り替え可能な表現型を増すためのシステイン制約ABPの最適化は、可変アミノ酸配列を有するMMを含有するABPライブラリをスクリーニングすることで達成可能であることが分かる。
【0283】
実施例5:所望のダイナミックレンジのスクリーニング
1)MMを改善して標的とTBMとの間の結合を防止することで、スイッチオフ状態を改善可能である、2)協働標的結合要素として作用するMMモチーフにつながる基質切断後にTBMの親和性を改善可能であるという少なくとも2つの機序で、ダイナミックレンジを増すことが可能である(
図4および
図5)。拡大されたダイナミックレンジのスクリーニングは、特定の実施形態では、
図2に表される「A」ステップと「B」ステップに異なる濃度の標的タンパク質を用いる交互分離(FACSを用いるなど)を使用することで、効果的に実現可能である。単独で(すなわちスイッチの状況外で)使用する場合にTBMに比して親和性が改善されている場合がある分離「A」バインダーで同定するには、TBMの想定解離定数(100nM)のおよそ10分の1である標的ceontration10nMを使用した。次に、FACSを用いて蛍光レベルが最大の細胞を回収し、一晩成長させて増幅した。続いて、オフ状態(すなわちプロテアーゼの非存在下で標的と結合する機能)を改善する目的で、1μMのVEGF(TBMのKDよりも有意に高い濃度)とともに細胞個体群をインキュベートし、蛍光レベルの低い細胞を回収した。このプロセスによって、A選別とB選別の両方で同一濃度の標的を用いるプロセスよりもダイナミックレンジが大きいABPのプールが得られた。ステップ「A」および「B」に異なる標的濃度を用いるスクリーニング方法の別の実施形態を
図21に示す。ここでは、VEGF濃度25nMを「A」選別に使用し、VEGF濃度250nMを「B」選別に使用する。FACSを用いた選択による富化された細胞個体群を、選別1A、1B、2A、2B、3Aについて
図15および
図16に示す。この場合、AおよびBは、それぞれポジティブ選択とネガティブ選択である。ライブラリのABP富化については、プロテアーゼ処理による未選別のライブラリ個体群での蛍光分布の変化と、プロテアーゼ処理前後のラウンド3Aの個体群の蛍光分布の変化とを比較することで、判断可能である。後者の富化されたプールでは、酵素処理後の細胞蛍光の4倍増(
図16、右側のパネル「選別3A 25nM VEGF」)から分かるように、平均ダイナミックレンジがおよそ4倍になる。
【0284】
実施例6:可溶性タンパク質融合物が酵素による結合を実証
可溶性形態でのABPの活性を実証するために、VEGF結合クローンおよびVEGF結合ABPのC末端マルトース結合タンパク質(MBP)融合物を構成し、試験した。
【0285】
方法および材料
標準的なアミンカップリングキットを用いて、VEGFをBiacore(商標)CM5センサチップ表面に固定化した。まず、Biacore(商標)ソフトウェアの表面調製ウィザードを用いてNHS/EDC混合物を注入して、表面を活性化した。次に、所望の固定化量に達する(一般に約5000応答単位)まで濃度25ug/mLのVEGFを注入した。さらに、表面をエタノールアミンでブロックする。別の表面で、NHS/EDCを使用し、続いてエタノールアミンを用いて対照反応を実施した。
【0286】
VEGFを共有結合的に固定化した後、VEGF結合またはVEGF結合ABPクローンのマルトース結合タンパク質(MBP)融合物を、VEGF表面と対照表面の両方に注入した。注入は一般に1分間なされ、注入ごとに数分の解離時間を取った。30nMのMMP−2酵素を用いる場合と用いない場合の両方で、クローンを注入した。解析用に、VEGF表面でのシグナルから対照表面でのシグナルを差し引いた値を結合応答(RU)とする。酵素を用いる場合と用いない場合とで、クローン濃度を最大で15マイクロモルとして、クローンを3重に比較した。
【0287】
結果
図27に示すように、例示としてのMBP−ABP融合物は、その酵素によるVEGF結合特性を保ち、2.3B.5(2−3B−5)融合物ではMMP−2酵素の存在下で結合応答がほぼ4倍に増加した。酵素の存在下で、VEGF結合ペプチド対照には同様の結合応答の増加は認められなかった。これらの結果から、可溶性ABPの「切り替え活性」が保たれたことが実証される。
【0288】
実施例7:抗VCAM−1 ABPでMMとして用いるペプチド配列の同定
ABPのマスキング部分(MM)として用いるペプチド配列の同定には、以下の材料および方法を利用した。ここで、標的結合部分(TBM)は、抗VCAM−1 scFvの抗原結合ドメイン(ABD)を含む。
【0289】
方法および材料
磁気細胞分離(MACS)(1回)と蛍光標識細胞分取(FACS)(3回)を利用して、抗VCAM−1 scFvと強く結合しているクローンを富化した。
【0290】
1nMの抗ビオチンフィコエリトリン(PE)または50nMのビオチン化抗VCAM scFv、続いて1nMの抗ビオチンPEと接触させた後、選択されたペプチド配列を提示する細菌細胞をFACSで選別した。
【0291】
結果
参照MACSおよびFACS解析の結果として、以下のペプチド配列を同定した。
【0292】
【表7】
【0293】
図28のFACS解析で示されるように、各クローンBBB−08、BBB−09、BBB−16は、抗VCAM−1 scFVに対して有意な結合を示した。3種類のクローンのうち、BBB−08が抗VCAM−1 scFVに対して最高レベルの結合を示し、抗VCAM−1 scFVの非存在下での平均蛍光値が142であったのに比して、抗VCAM−1 scFVを伴うインキュベーション後の平均蛍光値は2,625であった。それ自体、これらのペプチドは、TBMとして抗VCAM−1 scFvの抗原結合ドメイン(ABD)を含むABPにおける機能的MMの候補となる可能性が高い。
【0294】
実施例8:抗VCAM−1抗原結合ドメインを含む予測的ABP
抗VCAM−1 scFv(MK271)を含むABPの予測的な例を本明細書に記載する。これらのABPは、結合されたMMがゆえに正常な状態で不活性になる。しかしながら、scFvがプラークの部位に到達すると、マトリックスメタロプロテイナーゼ−1がペプチド阻害剤とscFvとをつないでいる基質リンカーを切断し、これがVCAM−1と結合できるようにする。このプロセスの表示を
図35に示す。細菌細胞の表面提示を実施例7に記載されているようにして使用し、抗体の好適なMMを見いだした。予測的ABPでは、プロテアーゼ活性化後に標的された結合とコンピテントになるscFvコンストラクトを作製するトリガーとして用いられる酵素基質と、選択されたMMとを組み合わせる。
【0295】
実施例7で同定され、抗VCAM−1 scFvの抗原結合ドメイン(ABD)を含むペプチド配列を利用する予測的ABPを、
図29、
図30、
図31に示す。これらの予測的ABP配列は、抗VCAM scFV、MMP−1基質、抗VCAM scFV配列と結合するOmpA周辺質シグナル配列、Flagタグ、Hisタグ、ペプチド配列を含む。小文字の太字ではない文字はリンカー配列を示す。抗VCAM scFVの配列については、下線と大文字で示してある。MM配列は太字の大文字で示してある。
【0296】
プロテアーゼ活性化抗体の構成
単鎖形態のVCAM−1抗体を含むABPをコードする遺伝子を、フランキング用のSfiI制限酵素部位を用いる全遺伝子合成またはオーバーラップ伸長PCRで生成し、SfiIで消化し、同様に消化した発現プラスミドpBAD33あるいは、当業者に馴染みのある他の好適な細菌、酵母または哺乳類の発現ベクターにライゲートする。あるいは、半減期延長部分(IgGのFc領域、血清アルブミンまたはトランスフェリンなど)を取り入れた市販の発現ベクターと当業者に馴染みのある方法とを用いて、全長抗体を生成してもよい。次に、大腸菌(E.coli)のBL21またはHEK293t細胞などの適切な発現宿主に、発現プラスミドを形質転換またはトランスフェクトする。周辺質画分抽出キット(Pierce)を用いて、一晩培養から単鎖抗体を収穫し、固定化金属イオン親和性クロマトグラフィとサイズ排除クロマトグラフィで精製する。
【0297】
場合によっては、細胞質に不溶性凝集体として抗体を含むABPを生成すると望ましいことがある。このような場合、シグナル配列を除去することができ、適切な親和性タグ(6×His)をC末端に導入して精製を助けることが可能である。(封入体としての)細胞質発現用の予測的ABP配列を、
図32、
図33、
図34にあげておく。小文字の太字ではない文字はリンカー配列を示す。抗VCAM scFVの配列については、下線と大文字で示してある。MM配列は太字の大文字で示してある。
【0298】
in vitroでの抗体切り替え活性のアッセイ
濃度1pM〜1μM)のプロテアーゼ活性化抗体のアリコートを、0nMと50nMのMMP−1を用いて別々に3時間、緩衝水溶液でインキュベートする。次に、固定化抗原VCAM−1を用いるELISAまたは表面プラズモン共鳴によって、反応混合物の結合をアッセイする。BIAcore(商標) SPR機器を用いると、共鳴単位が増加することで、プロテアーゼ処理後のABPの結合活性の増大が示される。その後、機器製造業者の指示(BIAcore, GE Healthcare)に従って、MMP切断の結果としての見かけの解離定数(Kdiss)の変化を計算することができる。
【0299】
実施例9:抗VEGF scFV TBMのクローニング
特定の実施形態では、ABPは、ABDと、MMと、CMとを含有するTBMを含む。この例ならびに以下の例では、マスクされたMMP−9切断可能な抗VEGF scFv(標的=VEGF;TBM=抗VEGF単鎖Fv)を含有するABPを構成した。このようなABPの生成における第1のステップとして、抗VEGF scFvを含有するコンストラクトを生成した(TBM)。ラニビズマブの公開されている配列(Genetech,Chen,Y.,Wiesmann,C.,Fuh,G.,Li,B.,Christinger,H.,McKay,P.,de Vos,A.M.,Lowman,H.B.(1999)Selection and Analysis of an Optimized Anti−VEGF Antibody:Crystal Structure of an Affinity−matured Fab in Complex with Antigen J.Mol.Biol.293,865〜881)から、抗VEGF scFv TBM(V
L−リンカーL−V
H)を設計し、Codon Devices(Cambridge,MA)で合成した。
【0300】
ラニビズマブは、ベバシズマブと同一の親マウス抗体に由来するモノクローナル抗体Fabフラグメントである(Presta LG,Chen H,O’Connor SJ,et al Humanization of an anti−vascular endothelial growth factor monoclonal antibody for the therapy of solid tumors and other disorders.Cancer Res,57:4593〜9,1997)。親分子よりもかなり小さく、VEGF−Aに対して一層強い結合が得られるよう親和性成熟されている。ラニビズマブは、血管内皮増殖因子A(VEGF−A)のあらゆるサブタイプと結合し、これを阻害する。N末端のHis6タグとTEVプロテアーゼ切断部位とを設計に含めた。TEVプロテアーゼは、タバコエッチウイルスから単離されたプロテアーゼであり、極めて特異的であり、精製後に融合タンパク質を分離するのに用いられる。抗VEGF scFvヌクレオチドおよびアミノ酸配列を、以下の配列番号29および30に示す。
【0301】
【表8】
【0302】
【表9】
【0303】
実施例10:抗VEGF scfvに対するMMのスクリーニングと同定
ラニビズマブを使用して、X
15(8.3×10
9)、X
4CX
7CX
4(3.6×10
9)またはX
12CX
3(1.1×10
9)であるペプチドからなるプールされたランダムペプチドライブラリをスクリーニングした。この場合のXは任意のアミノ酸であり、数字はライブラリの全多様性を表している。プールされたライブラリの全多様性は1.3×10
10であった。スクリーニングについては、MACSを1回とFACS選別を2回で構成した。1回目のMACSスクリーニングでは、1×10
11個の細胞を150nMのビオチン化−ラニビズマブでプローブし、5.5×10
7個の結合細胞を単離した。1回目のFACSスクリーニングでは、MACSスクリーニングで単離されたポジティブ細胞を500nMのビオチン化−ラニビズマブでプローブし、ニュートラアビジン−PE(Molecular Probes、Eugene、OR)で可視化した。2回目と3回目のFACS選択は、500nMと100nMのAlexa−標識ラニビズマブを用いて、20uMのIgGの存在下で実施した。個々のクローンを配列決定し、続いてFACS解析により抗VEGF scfvと結合する機能を検証した。抗VEGF scFvに対するMMのアミノ酸配列を以下の表10にあげておく。(以下、これらの配列を283MM、292MM、306MMなどと呼ぶ。)
【0304】
【表10】
【0305】
実施例10:ABPの構成:MMP−9切断可能な、マスクされた抗VEGF scFvベクター
CM(MMP−9の基質)をマスクされた抗VEGF scFvコンストラクトに融合し、切断可能な、マスクされたABPを得た。例示としてのコンストラクトを
図38に示す。異なるCMを含有するいくつかの例示としてのABPコンストラクトおよび配列について、詳細を以下で説明する。例示としてのコンストラクトの構成に利用されるプライマーを、以下の表11にあげておく。
【0306】
【表11】
【0307】
ABPのクローニングと発現:MBP融合物としてのMMP−9切断可能な、マスクされた抗VEGF scFv
クローニング:MBP:抗VEGF scFv TBM融合物をクローニングした。MBP(マルトース結合タンパク質)は、融合タンパク質としての大腸菌(E.coli)で十分に発現し、融合タンパク質を生成するための従来技術において周知の方法であるマルトースカラムで精製可能である。この例では、MBPを用いて、マスクされたscFvを分離した。複数のクローニング部位(MCS)でEcoRIおよびHindIII制限部位を用いて、His6タグを付した抗VEGF scFv TBMをMBPとのC末端融合物としてのpMal−c4xベクター(NEB)にクローニングした。プライマーCX0233およびCX0249(表11)を用いて、抗VEGF scFv TBMを増幅し、それぞれEcoRIおよびHindIII部位を導入した。
【0308】
ペプチドMMのクローニング部位、リンカー配列、MMP−9 CMプロテアーゼ部位を、TEVプロテアーゼ部位と抗VEGF scFv TBMとの間に配置するオーバーラッププライマーCX0271およびCX0270を用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、ABP(ペプチドMM、抗VEGF scFv TBM、MMP−9 CM)の受容ベクターを合成した。プライマーCX0271とCX0249(表11)を用いて、コンストラクトのC末端部分を増幅し、かたやプライマーCX0270とCX0288(表11)を用いて、N末端部分を増幅した。両方の反応で得られる生成物を、外部プライマーであるCX0249およびCX0288(表11)を用いる最終PCR反応用に組み合わせ、SacIおよびHindIII制限部位(配列番号50)を用いてMBP融合物としてpMal ベクターにクローニングした。
【0309】
【表12】
【0310】
プライマーCX0289およびCX0290(表11)を用いて、ecpX提示ベクターから306MMおよび314MM(表10)を増幅し、SfiI制限部位を用いてN末端マスクされたベクターに方向クローニングした。対応するヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を以下の表13にあげておく。
【0311】
【表13】
【0312】
【表14】
【0313】
発現:大腸菌(E.coli)のK12 TB1株でMBP:ABP融合物を発現させた。所望のコンストラクトを含有するアンピシリン耐性コロニーを用いて、50μg/mLのアンピシリンを補充したLB培地を含有する5mlの一晩培養を播種した。この一晩培養全体を、50μg/mLのアンピシリンと0.2%のグルコースとを補充した500mLの新鮮なLB培地の播種に使用し、37℃にて250rpmで振盪してO.D.0.5に達するまで成長させた。次に、イソプロピルチオ−β−D−ガラクトシダーゼを最終濃度0.3mMまで加え、同一条件下で培養をさらに3時間成長させた後、3000×gでの遠心分離によって細胞を収穫した。標準的な方法を用いて封入体を精製した。簡単に説明すると、10mlのBPER II細胞溶解試薬(Pierce)。14,000×gの遠心処理で不溶性材料を回収し、可溶性タンパク質を廃棄した。1mg/mLのリゾチームを補充した5mlのBPER IIに不溶性材料を再懸濁させ、氷上にて10分間インキュベートした後、水で1:20に希釈した5mlのBPER IIを加えて、試料を14,000×gでスピンした。上清を除去し、ペレットを1:20のBPERIIで2回洗浄した。精製後の封入体を、PBS 8Mの尿素、10mMのBME、pH7.4に可溶化した。
【0314】
MBP融合タンパク質をおよそ1mg/mLの濃度まで希釈し、PBS(pH7.4)中、8から0Mの尿素から、6、4、2、0.5、0Mの尿素で段階的に透析し、再び折り畳んだ。4、2、0.5Mの尿素のステップでは、0.2Mのアルギニン、2mMの還元グルタチオン、0.5mMのオキシグルタチオンを加えた。0Mの尿素での透析には0.2Mのアルギニンを含めた。尿素の除去後、0.05Mのアルギニンに対してタンパク質を透析した後、PBS pH7.4に対して大規模に透析した。透析はすべて4℃で一晩実施した。凝集体を除去するために、セファクリルS−200カラムで各タンパク質にサイズ排除クロマトグラフィをほどこした。正しく折り畳まれたタンパク質を含有する画分を、Amicon Ultra遠心濾過機で濃縮した。
【0315】
ABPのクローニングと発現:MMP−9切断可能な、マスクされた抗VEGF scfv CHisタグ
クローニング:プライマーCX0308およびCX0310(表11)を用いて、NcoI制限部位を増幅して(MM受容部位/MMP−9 CM/VEGFscFv TBM)ベクターの5’末端に加え、HindIII制限部位およびHis6タグを増幅して3’末端に加えた上で、これをpelBシグナルペプチド含有ベクターにクローニングした。抗VEGF scFv MMを上述したようにしてクローニングした。対応するヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を以下の表14にあげておく。
【0316】
【表15】
【0317】
発現:大腸菌(E.coli)のK12 TB1株で抗VEGF scFv His ABPを発現させた。所望のコンストラクトを含有するアンピシリン耐性コロニーを用いて、50μg/mLのアンピシリンを補充したLB培地を含有する5mlの一晩培養を播種した。この一晩培養2.5mlを、50μg/mLのアンピシリンと0.2%のグルコースとを補充した250mLの新鮮なLB培地の播種に使用し、37℃にて250rpmで振盪してO.D.1.0に達するまで成長させた。次に、イソプロピルチオ−β−D−ガラクトシダーゼを最終濃度0.3mMまで加え、30℃で培養をさらに5時間成長させた後、3000×gでの遠心分離によって細胞を収穫した。リゾチーム/浸透圧衝撃法を用いて、周辺質画分をすみやかに精製した。簡単に説明すると、細胞ペレットを、50mMのTris、200mMのNaCl、10mMのEDTA、20%スクロース(pH7.4)3mLに再懸濁させ、2uL/mLのすぐに使える状態にあるリゾチーム溶液を加えた。氷上にて15分間のインキュベーション後、1.5容量の水(4.5mL)を加え、細胞を氷上にてさらに15分間インキュベートした。14,000×gでの遠心処理で可溶性周辺質画分を回収した。
【0318】
Ni−NTA樹脂を用いて、抗VEGF scFv Hisタンパク質を部分精製した。粗周辺質抽出物をNi−NTA樹脂0.5mlに仕込み、50mMのホスフェート、300mMのNaCl、pH7.4で洗浄した。Hisタグを付したタンパク質を、50mMのホスフェート、300mMのNaCl、200mMのImidizale、pH6.0で溶出した。Amicon Ultra遠心濃縮器を用いてタンパク質をおよそ600μLまで濃縮し、緩衝液をPBSに交換した。
【0319】
ABPのクローニングと発現:ヒトFc融合物としてのMMP−9切断可能な、マスクされた抗VEGF scFv
クローニング:プライマーCX0312およびCXO314(表11)を用いて、MMP−9 CM/抗VEGF scFvをコードする配列を増幅した。このプライマーは、5’EcoRI制限部位および3’NcoI制限部位の配列ならびに、リンカー配列も含んでいた。PCR増幅配列をEcoRIおよびNcoIで切断し、続いてpFUSE−hIgG1−Fc2ベクターにクローニングすることで、Fc融合タンパク質の発現用のベクターを生成した。これらのベクターに、上述したようにして抗VEGF scFv TBM MMを挿入した。306MM、313MM、314MM、315MM、非結合MM(100MM)を含有するコンストラクトならびに、MMを持たないコンストラクトを構成し、配列を確認した。対応するヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を以下の表15にあげておく。
【0320】
【表16】
【0321】
【表17】
【0322】
発現:transfectamine 2000を製造業者のプロトコール(Invitrogen, CA)どおりに用いるトランスフェクションによって、306 MM/MMP−9 CM/抗VEGFscFv−Fc、314 MM/MMP−9 CM/抗VEGFscFv−Fcまたは抗VEGFscFv−Fcの発現ベクター10μgを、10
7個のHEK−293 freestyle細胞(Invitrogen, CA)に導入した。トランスフェクトした細胞を、さらに72時間インキュベートした。インキュベーション後、条件培地を収穫し、遠心処理して細胞とデブリを取り除いた。条件培地の活性をELISAでアッセイした。
【0323】
実施例11:ABPの試験
MMP−9による、マスクされたMMP−9切断可能な抗VEGF ABPの活性化を測定するために、VEGFの2μg/mlのPBS溶液100μlをマイクロウェル(96 Well Easy Wash;Corning)に加え、4℃で一晩インキュベートした。次に、ウェルを3×15分間300uLのSuperblock(Pierce)でブロックした。次に、MMP−9で処理したまたは未処理のABP(各コンストラクトに関する詳細については下記参照)100マイクロリットルを、PBST、10%Superblockでウェルに加え、室温(RT)にて1時間インキュベートした。300ulのPBSTを用いて、すべての洗浄ステップを3回実施した。次に、100マイクロリットルの二次検出試薬を加え、RTで1時間インキュベートしておいた。100ulのTMB 1(Pierce)溶液を用いてHRPの検出を終了した。100μLの1N HCLを用いて反応を停止し、450nMでの吸光度を測定した。
【0324】
MBP/MM/MMP−9 CM/抗VEGF scFv TBMを含有するABPコンストラクトのELISAアッセイ
200マイクロリットルのビオチン化ABPを、MMP−9消化緩衝液(50mMのTris、2mMのCaCl
2、20mMのNaCl、100μMのZnCl
2、pH6.8)中、濃度200nMで、20U TEVプロテアーゼを用いて4℃で一晩消化し、MBPの融合相手を除去した。次に、約3UのMMP−9を用いて37℃で試料を3時間インキュベートし、PBST、10%Superblockにて1:1で最終濃度100nMまで希釈し、ELISAウェルに加えた。アビジン−HRPコンジュゲートを希釈率1:7500で用いて、ABPを検出した。MMP−9切断可能なマスクされたMBP:抗VEGF scFv ABPのMMP−9活性化を
図39に示す。
【0325】
MM/MMP−9 CM/抗VEGF scFv Hisを含有するABPコンストラクトのELISAアッセイ
MMP−9消化緩衝液(150μL)で透析した粗周辺質抽出物を、約3UのMMP−9を用いる場合と用いない場合とで、37℃で3時間インキュベートした。次に、PBST、10%Superblockを用いて試料を400μLまで希釈し、ELISAウェルに加えた。抗His6−HRPコンジュゲートを希釈率1:5000で用いて、ABPを検出した。MMP−9切断可能なマスクされた抗VEGF scFv His ABPのMMP−9活性化を
図40に示す。
【0326】
MM/MMP−9 CM/抗VEGF scFv−Fcを含有するABPコンストラクトのELISAアッセイ
50マイクロリットルのHEK細胞上清を200μLのMMP−9消化緩衝液に加え、約19UのMMP−9を用いる場合と用いない場合とで、37℃で2時間インキュベートした。次に、PBST、10%Superblockにて試料を1:1に希釈し、100μLをELISAウェルに加えた。抗ヒトFc−HRPコンジュゲートを希釈率1:2500で用いて、ABPを検出した。MMP−9切断可能なマスクされた抗VEGF scFv−FcのMMP−9活性化を
図41示す。
【0327】
MM/MMP−9 CM/抗VEGF scFv−Fcを含有するABPコンストラクトの精製とアッセイ
タンパク質Aカラムクロマトグラフィを用いて抗VEGF scFv Fc ABPを精製した。簡単に説明すると、HEK細胞上清10mLをPBSで1:1に希釈し、PBSで事前に平衡化した0.5mLのタンパク質A樹脂に加えた。結合されたタンパク質を、170mMの酢酸塩、300mLのNaCl pH2.5で溶出する前に、10カラム容量のPBSでカラムを洗浄し、200μLの2M Tris pH8.0で1mLの画分をすみやかに中和した。次に、Amicon Ultra遠心濃縮器を用いてタンパク質を含有する画分を濃縮した。HEK細胞上清でELISAを実施した。タンパク質Aカラムを用いて精製したMM 306および314を有する抗VEGFscFv Fc ABPコンストラクトのMMP−9依存性VEGF結合を示すELISAデータを
図42に示す。
【0328】
実施例12:抗CTLA4 MMのライブラリスクリーニングと単離
Bessette et al(Bessette,P.H.,Rice,J.J and Daugherty,P.S.Rapid isolation of high−affinity protein binding peptides using bacterial display.Protein Eng.Design & Selection.17:10,731〜739,2004)の方法で、CTLA4抗体マスキング部分(MM)を大腸菌(E.coli)の表面に提示された10
10のランダム15merペプチドのコンビナトリアルライブラリから単離した。ビオチン化マウス抗CTLA4抗体(クローンUC4 F10−11、25nM)をライブラリとともにインキュベートし、推定上の結合ペプチドを発現している抗体結合細菌を、ストレプトアビジンコート磁気ナノビーズを用いて非バインダーから磁気的に選別した。FACSを用いて富化の後続回を実施した。FACSの初回では、ビオチン化標的(5nM)と、ストレプトアビジンフィコエリトリンを用いる二次標識ステップによって、細菌を選別した。FACSの後続回では、Dylight標識抗体を用いて選別し、標的の濃度を低下させて(1nM、続いて0.1nM)、二次標識ステップのアビディティの影響を回避するとともに、親和性が最も高いバインダーを選択した。MACSを1回とFACSを3回でバインダーのプールを得て、そこから個々のクローンを配列決定した。フィシン消化Dylight標識Fab抗体フラグメントを用いて個々のクローンの相対親和性およびオフレートスクリーニングを実施し、細菌表面での複数のペプチドの発現による二価抗体のアビディティの影響を抑えた。標的特異性についての別の試験として、競合相手としての20uMの大腸菌(E.Coli)欠失IgGの存在下で個々のクローンの結合をスクリーニングした。MM最適化用に選んだ4つのクローンのアミノ酸とヌクレオチド配列を表16にあげておく。これらの配列は、187MM、184MM、182MM、175MMと同義に示される。切断後にMMの解離に対してオフレートがおよぼす影響を判断するように、一定範囲のオフレートを有するMM候補を選択した。抗CTLA4と結合しなかったMMをネガティブ対照として使用した。
【0329】
【表18】
【0330】
実施例13:抗CTLA4 scFvのクローニング
Gilliland et al.(Gilliland L.K.,N.A.Norris,H.Marquardt,T.T.Tsu,M.S.Hayden,M.G.Neubauer,D.E.Yelton,R.S.Mittler,and J.A.Ledbetter..Rapid and reliable cloning of antibody variable regions and generation of recombinant single chain antibody fragments.Tissue Antigens 47:1,1〜20,1996)の方法に基づいて、UC4F10−11ハムスター抗マウスCTLA4抗体を分泌するHB304ハイブリドーマ細胞系(American Type Culture Collection)から抗CTLA4 ScFvをクローニングした。このプロトコールの詳細な内容については、http://www in front of .ibms.sinica.edu.tw/〜sroff/protocols/scFv.htmで指定可能なウェブサイトで参照可能である。簡単に言えば、RNeasy全RNA単離キット(Qiagen)を用いて、ハイブリドーマから全RNAを単離した。プライマーIgK1(gtyttrtgngtnacytcrca)およびIgH1(acdatyttyttrtcnacyttngt)(上記にて引用したGilliland et al.)を、それぞれ可変軽鎖および重鎖の最初の鎖合成に使用した。末端トランスフェラーゼとともにポリG尾を加えた後、軽鎖と重鎖(ポリG尾特異的)の両方に対するEcoRI、SacI、XbaI部位を含有する5’ANCTAILプライマー(上記にて引用したGilliland et al.)(cgtcgatgagctctagaattcgcatgtgcaagtccgatggtcccccccccccccc:配列番号73)と、マウス抗体定常領域配列由来であって、それぞれ軽鎖および重鎖の増幅用にHindIII、BamHI、SalI部位を含有する3’HBS−hIgK(cgtcatgtcgacggatccaagcttacyttccayttnacrttdatrtc:配列番号74)およびHBS−hIgH(cgtcatgtcgacggatccaagcttrcangcnggngcnarnggrtanac:配列番号75)(上記にて引用したGilliland et al.)とを用いて、PCRを実施した。コンストラクトおよびベクターをHindIIIおよびSacIで消化し、ライゲートして、大腸菌(E.Coli)に形質転換した。個々のコロニーを配列決定し、既存のマウス抗体およびハムスター抗体と比較して、V
LおよびV
Hの正しい配列(それぞれ表17および表18)を確認した。提示された配列における抗CTLA4について説明したようなリーダー配列も一般にシグナル配列または分泌リーダー配列と呼ばれ、抗体の分泌を指令するアミノ酸配列である。この配列は、分泌時に細胞によって切り落とされ、成熟タンパク質には含まれない。また、Tuve et al(Tuve,S.Chen,B.M.,Liu,Y.,Cheng,T−L.,Toure,P.,Sow,P.S.,Feng,Q.,Kiviat,N.,Strauss,R.,Ni,S.,Li,Z.,Roffler,S.R.and Lieber,A.Combination of Tumor Site −Located CTL−Associated Antigen−4 Blockade and Systemic Regulatory T−Cell Depletion Induces Tumor Destructive Immune Responses.Cancer Res.67:12,5929〜5939,2007)によってクローニングされた同一のscFvが、本明細書に記載の配列と同一であった。
【0331】
【表19】
【0332】
【表20】
【0333】
実施例14:MMおよびCMを用いる抗CTLA4 scFvの構成
発現と機能に最適な抗CTLA4 scFvの向きを判断するために、プライマーを設計し、V
HまたはV
LのいずれかをN末端に用いて、後の「オーバーラップ伸長によるスプライシング」PCR(SOE−PCR用に(GGGS)
3リンカーの半分をN末端またはC末端のいずれかに用いて可変軽鎖および重鎖を個々にPCR増幅した;Horton,R.M.,Hunt,H.D.,Ho,S.N.,Pullen,J.K.and Pease,L.R.(1989)Engineering hybrid genes without the use of restriction enzymes:gene splicing by overlap extension.Gene 77,61〜68)。NdeI制限部位をN末端で操作して、ヌクレオチド配列の最初で開始コドンをインフレームに生成し、Hisタグおよび停止コドンをC末端に加えた。次に、アウタープライマーを用いてソーイングPCRによって軽鎖と重鎖を接合し、V
HV
LおよびV
LV
Hの両方でScFvを生成した(
図43)。プライマーを以下の表19にあげておく。
【0334】
【表21】
【0335】
次に、一組のオーバーラッププライマーを設計してMMクローニング用のsfiおよびxho1部位を加えた後、ScFvコンストラクトのN末端にMMP−9切断配列および(GGS)
2リンカーを加えた。これらのプライマーを表20にあげ、
図44に概略的に示す。
【0336】
【表22】
【0337】
ScFvを含有するリンカーをPCR増幅し、Nde1およびEcoR1(V
Hの内部制限部位)で消化し、ゲル精製した。PCRフラグメントをベクターにライゲートし、大腸菌(E.Coli)に形質転換した。ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を表21にあげ、
図45に示す。
【0338】
【表23】
【0339】
MM配列をPCR増幅し、sfi1部位およびxho1部位で消化し、リンカー抗CTLA4 scFvコンストラクトにライゲートし、大腸菌(E.Coli)に形質転換して配列決定した。MM187−CM−TBMの完全なヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を、以下の表22および表23にそれぞれ配列番号96および97としてあげておく。
【0340】
【表24】
【0341】
【表25】
【0342】
MM−CM−抗CTLA4 scFV−Fc融合体を生成するために、表24に列挙する以下のプライマーを設計して、インフュージョンシステム(Clontech)によってpfuse Fcベクターへのクローニング用にコンストラクトをPCR増幅した。プラスミドを大腸菌(E.coli)に形質転換し、個々のクローンの配列を確認した。
【0343】
【表26】
【0344】
実施例15:HEK−293細胞におけるマスクされた/MMP−9/抗CTLA scFv−Fcの発現とアッセイ
transfectamine 2000を製造業者のプロトコール(Invitrogen)どおりに用いるトランスフェクションによって、p175CTLA4pfuse、p182CTLA4pfuse、p184CTLA4pfuse、p187CTLA4pfuseまたはpnegCTLA4pfuseの発現ベクター10ugを、10
7個のHEK−293 freestyle細胞(Invitrogen)に導入した。トランスフェクトした細胞を、さらに72時間インキュベートした。インキュベーション後、条件培地を収穫し、遠心処理して細胞とデブリを取り除いた。条件培地の活性を後述するようにELISAでアッセイした。
【0345】
MM175−抗CTLA4 scFv、MM182−抗CTLA4 scFv、MM184−抗CTLA4 scFv、MM187−抗CTLA4 scFvまたはMMneg−抗CTLA4 scFvを発現しているHEK−293由来の条件培地50マイクロリットルを、200μLのMMP−9消化緩衝液に加え、約19UのMMP−9を用いる場合と用いない場合とで、37℃で2時間インキュベートした。次に、試料をPBS、4%ノンファット脱脂粉乳(NFDM)で1:1に希釈し、競合ELISAで結合活性をアッセイした。
【0346】
マウスCTLA4−Fc融合タンパク質(R & D systems)をPBSに入れた0.5mg/mlの溶液100ulを96ウェルのEasy Wash plate(Corning)のウェルに加え、4℃で一晩インキュベートした。次に、2%ノンファット脱脂粉乳(NFDM)をPBSに入れたもの100ulでウェルを室温(RT)にて1時間ブロックした後、PBS;0.05% Tween−20(PBST)で3回洗浄した。MMP−9で事前に処理しておくか未処理のMM175−抗CTLA4 scFv、MM182−抗CTLA4 scFv、MM184−抗CTLA4 scFv、MM187−抗CTLA4 scFvまたはMMneg−抗CTLA4 scFvを発現しているトランスフェクトしたHEK−293細胞由来の条件培地50ulを、ウェルに加え、RTで15分間インキュベートした。インキュベーション後、0.5ug/mlのビオチン化マウスB71−Fc(R & D systems)を含有する50ulのPBSを各ウェルに加えた。RTで30分さらにインキュベーションした後、ウェルを150ulのPBSTで5×洗浄した。アビジン−HRPの1:3000希釈物を含有する100ulのPBSを加え、プレートをRTで45分間インキュベートした後、150ulのPBSTで7×洗浄した。100ulのTMB(Pierce)を用いるELISAを展開し、100μLの1N HCLを用いて反応を停止し、450nMでの吸光度を測定した。
【0347】
以上、本発明をその特定の実施形態を参照して説明したが、本発明の真の主旨および範囲を逸脱することなくさまざまな変更をほどこしてもよく、これを等価物で置き換えてもよいことは、当業者であれば理解できよう。また、多くの改変をほどこして、特定の状況、材料、組成物、プロセス、プロセスステップまたはステップを、本発明の目的、主旨、範囲に合わせるようにしてもよい。このような改変はいずれも添付の特許請求の範囲に記載の範囲に包含されるものとする。