【実施例1】
【0013】
図1は、縦形構造における本発明の注油式密閉型ヘリウム用スクロール圧縮機の一実施例を示す縦断面図である。
図2は固定スクロール5の平面図であり、
図3は同じく固定スクロール5の縦断面図である。
図4は、旋回スクロール6の平面図である。
図5から
図7は、本発明の両スクロールラップ5、6を組み合わせた断面図である。
図8は、回転角と圧縮室(旋回外側圧縮室(外線室)8a、と旋回内側圧縮室(内線室)8bの圧縮時の圧力変化を示す圧縮線である。
【0014】
図1を用いて、作動ヘリウムガスの流れとインジェクションされた冷却油の流れを説明する。ヘリウムガスを冷却するための油インジェクション管31を密閉容器1の上フタ2aに貫通して固定スクロール5の鏡板部5aに設けた油注入用ポート22に接続し、該油注入用ポート22の開口部は、旋回スクロール6のラップ6b(旋回側ラップ)の歯先面に対向して開口している。密閉容器1内の吸入配管17側となる上部にはスクロール圧縮機構部が、下側には電動機部3が収納されている。そして、密閉容器1内は吐出室1aとフレーム7をはさんで電動機室1bとに区画されている。
【0015】
スクロール圧縮機構部は、
図5と
図6に示すように、固定スクロール5と旋回スクロール6を互いに噛み合せて圧縮室8(8a、8b)を形成している。旋回スクロール6は、円板状の鏡板6a(旋回側板部)と、これに直立し、固定スクロールのラップと同一形状に形成されたラップ6b(旋回側ラップ)と、鏡板の反ラップ面に形成されたボス部6cとからなっている。
図7に示すように、両スクロール5、6の旋回運動によるヘリウムガスの吸入行程の動作時において、旋回スクロール6の外側曲線661と固定スクロール5の内側曲線561にて旋回外側の吸入作動室8cを形成する。一方、旋回スクロール6の内側曲線662と固定スクロール5の外側曲線562にて旋回内側の吸入作動室8dを形成する。フレーム7は中央部に軸受部40(コロ軸受)を形成し、この軸受部に回転軸14が支承され、回転軸先端の偏心軸14aは、上記ボス部6cに旋回運動が可能なように挿入されている。またフレーム7には固定スクロール5が複数本のボルトによって固定され、旋回スクロール6はオルダムリングおよびオルダムキーよりなるオルダム機構38によってフレーム7に支承され、旋回スクロール6は固定スクロール5に対して、自転しないで旋回運動をするように形成されている。回転軸14には電動機軸14bを一体に連設し、電動機部3を直結している。
【0016】
電動機部3は、内部リード線3mからハーメ端子部72とコネクタブロック70を介してインバータ部400とつながっている。該インバータ部400は、AC仕様であってもDC仕様のインバータであってもよい。一般的に、DC仕様のインバータが効率的には数%優位にある。500は商用電源部である。450、390は3相の電源ケーブルである。固定スクロール5の吸入口15には密閉容器1の上フタ2aを貫通して吸入管17が接続され、吐出10が開口している吐出室1aはフレーム7の外縁部の第一通路18a、18bを介して電動機室1b(1b1、1b2)と連通している。この電動機室1bは密閉容器中央部のケ−シング部2bを貫通する吐出管20に連通している。吐出管20は上記通路18a、18bの位置に対してほぼ反対側の位置に設置している。電動機室1bは、ステータ3aの上部空間1b1とステータ3aの下部空間1b2とに区分している。
【0017】
この両側の空間1b1、1b2を連通するように、ステータ3aとケ−シング部1dの内壁面1m側との間に油とガスの流路部となる通路25(25b、25c)を形成している。また、電動機3のエアーギャップの隙間26も通路となり、該隙間26を介して空間1b1と空間1b2とが連通している。このような容器内部の電動機室1b1、1b2内においてガスと冷却用インジェクション油の混合体の流れによって、60℃〜70℃の比較的低温な上記混合体による電動機への直接冷却が可能となる。
【0018】
吸入管17と固定スクロール5との間には高圧部と低圧部とをシールするOリング53を設けている。また、旋回スクロール6の鏡板の背面には、スクロール圧縮機部2とフレーム7で囲まれた空間36(以下背圧室と呼ぶ)が形成され、この背圧室36には旋回スクロールの鏡板に穿設した2つの細孔6dと6f、6hを介し、吸入圧力Psと吐出圧力Pdの中間圧力Pbが導入され、旋回スクロール6を固定スクロール5に押付ける軸方向の付与力を与えている。潤滑油23は密閉容器1の底部に溜められており、この潤滑油23は油吸上管27と回転軸14a、14b内に設けた中心穴13を介して、旋回軸受32に供給される。旋回軸受32に供給され排出された油は、背圧室36に移動する。
【0019】
一方、中心穴13から横穴51の遠心ポンプ作用にて下軸受39に油が供給される。該軸受39から排出された油は上方のころ軸受の主軸受部40に至り、背圧室36に移動する。このように背圧室36に移動した油は、前記穴6d、6fと横穴6hを介して圧縮室8a、8bへ排出され圧縮ガスと混合され、次いでヘリウムガスと共に吐出室1aへ吐出される。前記密閉容器1の底部には、該底部の潤滑油23を器外へ取出す油取り出し管30が設けられている。密閉容器1の底部に溜められた潤滑油23は、密閉容器1内の吐出圧力Pdと前記圧縮室8内部の圧力Piとの差圧、具体的には油注入穴22の開口部の圧力(Pi)によって油取り出し管30の流入部30aから該油取り出し管30内に流出していく。油取り出し管30内へ流出した油は外部油配管36aを通って油冷却器33へ至り、ここで適宜冷却された後、油配管36bを介して油インジェクション管31およびポート22を経て吸入作動室8cと圧縮室8(8a、8b)へ注入される。
【0020】
このように、吸入作動室8cと圧縮室8a、8bへの油注入は差圧によってなされるので、以下に説明する本実施例の油注入構造とすることにより、該穴の開口部22が吸入圧力側に近いために、従来機よりも大きな給油のための差圧、ひいては油インジェクション量を確保できることになる。
【0021】
図2に示すように、固定スクロール5は、円板状の鏡板5a(固定側板部)と、これに直立しインボリュート曲線あるいはこれに近似の曲線に形成されたラップ5bとからなり、その中心部に吐出口10、外周部に吸入口15(15a、15b)を備えている。Okは座標中心点であり、Xk、Ykは座標軸である。点53と点54は、圧縮室を形成する最外周部の接点位置を示す。
図5において、旋回外側圧縮室(外線室)8aは、旋回スクロールラップ外側曲線661と固定スクロールラップ内側曲線561
とにより形成される。旋回内側圧縮室(内線室)8bは、旋回スクロールラップの内側曲線662と固定スクロールラップ外側曲線562とにより形成される。
なお、歯溝寸法(
図2のDt寸法)は次式で与えられる。
Dt=2×εth+t
ここで、 εth : 旋回半径
t : ラップ厚さ
【0022】
図1と
図3に示すように、作動ヘリウムガスを冷却するための油インジェクション管31を密閉容器1に貫通して前記固定スクロール5の鏡板部5aの歯溝底面5zに単数の油注入用ポート22(22a)を設定する。このように圧縮機本体の冷却及びヘリウムガスの断熱圧縮時の発生熱のガス温度を低下するために、冷却用油インジェクション構造を備えている。22aは油インジェクション管31を挿入する円形穴である。
図7に示すように、上記両スクロールラップ終端部にある吸入室5fと上記油注入用ポート22とが旋回スクロール外側曲線661と固定スクロール内側曲線561とで形成する旋回外側の吸入作動室8cを介してある一定の旋回角度範囲にて連通し、その角度は、約180度(
図8のθ5の値)が適正である。
【0023】
一方、
図6に示すように、旋回スクロール内側曲線662と固定スクロール外側曲線562とで形成する旋回内側の吸入作動室8dと吸入室5fとが油注入用ポートとは全く連通しない位置となるように、該油注入用ポート22の開口部を固定スクロール5の歯溝底面5zに設定する。
上記旋回外側の吸入作動室8cと旋回内側の吸入作動室8dは、吸入行程時の作動空間であり、吸入容積に関係する空間である。
【0024】
図2に示すように、上記該油注入用ポート22の位置は、固定スクロールラップ内側曲線561の最外周部となる点54に対してスクロールラップ巻き角度にして、Δθs=約(2π/3)radの内周側の位置に設定している。また、
図3に示すように、上記油注入用ポート22の開口部が、円形状にあって、その穴径doを旋回スクロール6のラップ厚さtより大きく設定する。即ち、do>tに設定する。なお、固定スクロール5と旋回スクロール6のそれぞれのラップ厚さはtで同じ値に設定されている。
【0025】
これらの位置関係に設定することにより、ヘリウムガスの吸入行程の途中の早いタイミング(時期)から、油注入によりヘリウムガスへの冷却が促進されるため、圧縮機の体積効率の向上効果が得られる。
図6と
図7に吸入室5f周辺のヘリウムガスの流れを矢印で示す。両図に示すように、旋回外側の吸入作動室8cに至る吸入通路は、吸入孔15bから吸入室5fを左回りに流れ、旋回スクロールラップ終端部6kより外側に流れ、さらに凹部5mを経由して固定スクロールラップ終端部54に至る通路となる。一方、旋回内側の吸入作動室8dひいては圧縮室8b側への吸入通路長さは、上記の吸入孔15bから吸入室5fを左回りに流れ、旋回スクロールラップ終端部6kに至る通路となる。このため、旋回外側の吸入作動室8cに至る吸入通路は、他方の旋回内側の吸入作動室8dに至る吸入通路の長さに対して、おおよそ凹部5mの通路などの半周分長くなり、壁面からの熱伝達の影響を受けやすくなる。しかし、上記構造とすることにより、通路長さと関係する通路壁からの加熱損失の影響を除外できるように、早期に油インジェクションによる冷却促進をはかるものである。
【0026】
図4において、Osは座標中心点であり、Xs、Ysは座標軸である。旋回スクロールラップ外側曲線661と固定スクロールラップ内側曲線561とにより形成される旋回外側圧縮室8aにて設定される設定容積比Vrsは、下記式に定義される。
ここで、λ1s:点65のラップ巻き終り角度
(インボリュート伸開角)
λSs:点61のラップ巻き始め角度
(インボリュート伸開角)
π:円周率
α:旋回半径εthとスクロールラップの基礎円半径aの
比(=εth/a)
設定容積比Vrsとは、旋回外側圧縮室8aの最大吸い込み容積となる行程容積Vthsを圧縮室の吐出行程直前の旋回外側圧縮室8a側の最内室の容積Vd1で除した値である。一方、旋回スクロールラップ内側曲線662と固定スクロールラップ内側曲線562とにより形成される旋回内側圧縮室8bにて設定される設定容積比Vrkは、上記Vrsと同等である。なお、旋回スクロール6のラップ終端部6kの点64と点65は円弧半径R4にてなめらかに接続している。ラップ始端部の点61、点60と点65はそれぞれ凸部形状の円弧半径Rsと凹部形状の円弧半径R3にてなめらかに接続している。6dは圧縮室8a、8bと背圧室36を連絡する中間圧穴で、穴6fと横穴6hは圧縮室8bと側部空間6m(
図1参照)を連絡する横穴通路である。
【0027】
本実施例では、上記設定容積比Vr=Vrk=Vrs=1.7とする。これは、ヘリウム用圧縮機の運転条件が低い圧力比域、例えば圧力比Pd/Ps=1.5〜1.7前後の運転条件が、近年要求されるというヘリウム固有な運転条件によるものである。運転圧力条件との関係で表示すると、圧縮機の吸入圧力Ps(単位:MPaG)と固定スクロール側と旋回スクロール側で形成される圧縮室の設定容積比Vrとの比(Ps/Vr)が0.7〜1.2 (MPaG)の範囲にあることが重要となる。即ち、省エネルギー効果は、吸入圧力Psと設定容積比Vrとの2つの因子によって大きく影響を受ける。このPs/Vrの値に最適な範囲がある。これの最適なPs/Vr値の例として、Vr=1.7で、Ps=1.7MPaGの条件においては、Ps/Vr=1.0となる。従来技術においては、Ps/Vr値が0.3〜0.6 (MPaG)の範囲にあり、さらなる省エネルギー効果が望まれていた。
【0028】
図5は、外線室8a、内線室8bの吸入行程が完了した時の固定スクロール5と旋回スクロール6が組み合わされた状態を示す。点53と点64が接点となり、一方、点54と旋回スクロール側外側曲線661とが接している。この状態において、注入用ポート22の開口部は、外線室8a側のみに連通している。
【0029】
図6は、
図5の状態から約1/2π回転角が進んだ状態の両スクロールラップ5、6の組合せ例である。この状態において、注入用ポート22の開口部は、内線室8b側のみに連通している。また、注入用ポート22の開口部は、片側の中間圧穴6dと横穴通路6f、6hとも連通している。これらの3カ所の穴22、6d(片側のみ)、6fが一時的に連通した位置関係とすることにより、注入用ポート22から注入された大量の油が該圧縮室8bから背圧室36側にも抜けることができるようになり、油が充満することがない。このため、油圧縮による異常な圧力上昇という現象を回避できる作用・効果がある。
【0030】
図7は、
図6の状態から更に約1/2π回転角が進んだ状態の両スクロールラップ5、6の組合せ例である。この状態において、穴径doとラップ厚さtとの関係を円形穴22の場合のdo>tの寸法関係に設定することによって、これらの油注入用ポート22が旋回内側圧縮室8bと旋回外側の吸入作動室8cの両側に連通することになる。その連通する角度範囲は、
図8において、θ4となる。
【0031】
図8は、圧縮室8a、8bの圧力変化(Pi/Ps)を旋回運動時の回転角を横軸にして示す。(A)点が吸入行程の開始位置であり、(B)点が終了位置であるとともに、圧縮開始点となる。(C)点が圧縮終了位置となり、それ以降の回転角においては吐出行程となる。吸入行程時の回転角はθ1=2πとなる。旋回角度範囲のθ2は、注入用ポート22の開口部が外線室8a側に連通している角度範囲である。旋回角度範囲のθ3は、注入用ポート22の開口部が内線室8b側に連通している角度範囲であり、旋回内線室8b側は、油注入ポート22を介して吸入室5f側とは全く連通していない位置関係となる。
【0032】
以上に説明した本実施例の油インジェクション構造によって、旋回外側の吸入作動室8c及び両側の圧縮室8a、8bへの油注入が低圧力比条件においてもスムースになされ、該注入された冷却油は、両圧縮室8内において作動ガスの冷却機能と圧縮室間のシール機能を発揮することになる。また、スクロールラップ先端部等の摺動部の潤滑が万遍に効果的に行われるようになる。その結果、ヘリウム用密閉型スクロール圧縮機の高い体積効率の確保と内部漏れ低減による高い圧縮効率が確保され、圧縮機全体として高い信頼性が確保できるものである。
【0033】
図9は、運転圧力範囲を示す説明図であり、
図10は、運転周波数(Hd)とガス流量Qsとの関係図の例を示す説明図である。本実施例では、駆動用電動機部3を外部のインバータ400にて駆動する。従来の運転範囲は、
図9において、(E)−(A)−(B)−(C)−(D)−(E)の範囲である。本実施例では、(K)−(F)−(G)−(J)−(K)の範囲で、具体的には、吸入圧力Psを1.5MPaGから1.8MPaGの範囲に、吐出圧力Pdを2.8MPaGから3.1MPaGの範囲に特定設定する。即ち、従来の運転範囲に対して、高い吸入圧力及び、高い吐出圧力にシフトするものである。また、(E)−(A)−(B)−(F)−(G)−(J)−(H)−(D)−(E)の範囲であってもよい。
【0034】
このような運転範囲の条件設定とすることにより、
図10に示すように、従来技術のガス流量である(A)⇔(B)の特性から、(C)⇔(D)の特性、(E)⇔(F)の特性が得られ、その結果、従来技術に対して、圧縮機のガス流量比として本実施例では2倍〜3倍にアップできる。これにより、圧縮機の小形化ができる。また、ガス流量の容量制御幅として、従来では{(A)のガス流量}/(B)のガス流量}=0.4レベルであり、容量制御幅として40%から100%のガス流量変化となるが、これに対して、本実施例の容量制御幅は、{(A)のガス流量}/{(F)のガス流量}=0.15レベルとなり、容量制御幅としては、15%から100%のガス流量変化の幅がえられる。このように容量制御性が向上し、省エネルギー効果が大となる。このような上記構成とすることにより、より小形で高性能なヘリウム用スクロール圧縮機を実現できるものである。
【0035】
図11は、吸入圧力PsとHe成績係数Eの比率との関係図を示す説明図である。He成績係数Eとは、ガス流量Qs(Nm3/hr)を圧縮機入力Wi(kW)(インバータ駆動の場合は、インバータ入力)で徐した値で、その値Eが大きいほど省エネルギー効果が高くなる。インバータ駆動における効果の事例として、
図11に示す。
図11に示すように、従来技術の(A)点に対して本実施例では(B)点に、ひいては(C)点の位置へと、従来機に対して2倍〜3倍の極めて高いHe成績係数となる。(A)点から(B)点の効果は、本実施例の油インジェクション構造と吸入圧力と吐出圧力を高く設定したことの効果によるもので、He成績係数の比として約2.5倍となる。また(B)点から(C)点の効果は、設定容積比をVr=2.1から本実施例のVr=1.7前後に設定したことの効果によるもので、He成績係数の比として約1.2倍となる。この結果、本実施例のHe成績係数の向上効果は、(A)点から(C)点に変化し、このHe成績係数の比として約3倍となり、省エネルギー効果が顕著となるものである。本実施例の圧縮機の吸入圧力Psと固定スクロール側と旋回スクロール側で形成される圧縮室の設定容積比Vrとの比(Ps/Vr)が0.7〜1.2(MPaG)の範囲に設定した一定速機用のヘリウム圧縮機における成績係数Eは、同様に、従来機に対して約2倍〜3倍の極めて高レベルの値を実験的に得られている。このように、本実施例は、一定速機用及びインバータ駆動用ヘリウム圧縮機に適用できるものである。