(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
歯科治療の分野において、メチルメタクリレート等の低級アルキル(メタ)アクリレートを主成分とする液材と、ポリメチルメタクリレート等の非架橋のポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子を主成分とする粉材とからなる粉液型歯科用硬化性材料が使用されている。粉液型歯科用硬化性材料には、通常、上記液材及び粉材の夫々に、化学重合開始剤が配合されており、使用時にこれら液材と粉材とを混合することによりラジカルが発生し、低級アルキル(メタ)アクリレートのラジカル重合が始まるよう仕組まれている。また、上記液材と粉材とを混合すると、粉材に含まれていた非架橋のポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子の一部は、液材に含まれていた低級アルキル(メタ)アクリレートに徐々に溶解していき混合ペーストの粘度を増加させ、その操作性を高め、さらには重合反応も促進する。
【0003】
こうしたラジカル重合の結果得られた硬化体は、非架橋のポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子の作用により、無機フィラーを含有する硬化体と比較して高靭性の利点がある。また、単量体の主成分である低級アルキル(メタ)アクリレートは単官能であり、且つ上記非架橋のポリ低級アルキル(メタ)アクリレートとの相溶性も良いため、硬化体の高靭性はさらに良好になる。これらから、粉液型歯科用硬化性材料は、高靭性が求められる歯科の臨床用途に大変有用であり、歯科用レジンセメント、義歯床材料、即時重合レジンなどとして商品化されている。特に、歯科用レジンセメントの場合、応力による補綴物の離脱に抵抗する作用があるため、一般的な合着用途の他に、治療後に強い応力がかかる症例等(矯正治療や動揺歯固定等)にもよく使用されている。
【0004】
このような粉液型歯科用硬化性材料において、粉材の主成分である非架橋のポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子は、前記したように粉材を液材と混合した際に低級アルキル(メタ)アクリレートの液分に溶解し、ペーストの粘度を増加させて操作性を高め、さらには重合反応を促進する。しかし一方で、これが速く溶解しすぎると、ヘラ等ですくい取り対象部に塗布・充填する歯科医の操作時間が十分に確保できなくなる問題が生じる。すなわち、歯科医の歯科治療の好適な操作時間は一般的には液材と粉材とを混合してから40秒〜2分、より好適には1〜3分が必要とされている(この歯科医の好適操作時間を「可使時間」とも称する)が、この時間が十分に確保できないまま硬化が進行する問題がある。
【0005】
したがって、ラジカル重合開始剤として化学重合開始剤を用いる従来の粉液型歯科用硬化性材料では、上記ポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子の溶解性を工夫し、ペーストの増粘による重合促進効果を制御して、上記可使時間の確保を実現している。具体的には、混合当初に早期にヘラ等ですくい取れる操作性を備えたものに増粘させるためにはポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子の重量平均分子量や比表面積は小さい方が好ましいが、それだけでは可使時間の確保が難しくなるため、重量平均分子量が巨大なものや(60万以上)や、比表面積が微小なもの(0.6m
2/g以下)等の遅溶解性のものを主成分に含有させることが行なわれている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0006】
翻って、ラジカル重合開始剤の種類には、上記化学重合開始剤の他に、光重合開始剤がある。しかして、光重合開始剤をラジカル重合開始剤として使用した光硬化性組成物は、一般的に5秒〜60秒の光照射にて重合を完了させることができる。よって、係る光重合開始剤を、粉液型歯科用硬化性材料に適用すれば、歯科治療では対象部にペーストを適用後、光照射すれば直ぐに硬化させることができる。前記化学重合開始剤を使用した粉液型歯科用硬化性材料の場合、ペーストを対象部に充填し治療操作が終了しても、残りの可使時間、さらにはその後も強度的に十分な硬化体に至るまでは、そのまま放置しなければならず(一般的には5分〜10分程度)、治療時間の短縮化を妨げていた。したがって、必要に応じて、光照射することによりペーストを自在に硬化させることができる、上記光重合開始剤を適用した粉液型歯科用硬化性材料の優れた操作性は、歯科治療において大変魅力的である。
【0007】
これらから粉液型歯科用硬化性材料の多くの公知文献では、使用可能な重合開始剤として上記化学重合開始剤だけでなく、光重合開始剤も使用可能なように記載されている(前記特許文献1および特許文献2等)。しかしながら、その多くは一般的な使用の示唆がされるだけであり、実際に実施例で実行されているものはほとんどない。また、僅かに実施されているものも、粉材のポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子の溶解挙動にまで言及したものはなく(例えば、特許文献3の実施例9)、この使用態様に特化して検討した場合において、ポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子の重量平均分子量や比表面積は如何なるものが適するかは全く不明である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の粉液型歯科用光硬化性組成物において、液材の主成分である低級アルキル(メタ)アクリレートは、アルキル鎖の炭素数が4以下のものであり、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートが例示される。
【0016】
このような低級アルキル(メタ)アクリレートは単官能モノマーであり、元々重合性が低いモノマーとして知られている。従来、これらの低級アルキル(メタ)アクリレートを液材中に多量に(一般には70質量%以上、好ましくは80質量%以上)含む液材を使用した、粉液型硬化性組成物を短時間の光照射により硬化させる方法は実用化されていなかった。本発明においては、高い光重合活性が得られるので、このような低級アルキル(メタ)アクリレートを液材中に多量に含む液材を使用した粉液型歯科用光硬化性組成物に好適に使用できる。特に、得られる硬化体の靭性が高いことから、メチル(メタ)アクリレートを主成分とすることが最適である。
【0017】
液材には、上記低級アルキル(メタ)アクリレート以外に、本発明の物性を損ねない範囲であれば、他のラジカル重合性単量体を含んでも良い。その含有量は、一般的には、液材100質量%に対して30質量%以下、好ましくは20質量%以下の範囲である。
【0018】
このような他のラジカル重合性単量体としては、分子中に少なくとも一つの重合性不飽和基を有するものであれば従来公知のものを使用でき、このような重合性不飽和基としてはアクリロイル基、メタアクリロイル基、アクリルアミド基、メタアクリルアミド基、スチリル基等を例示できる。他のラジカル重合性単量体を具体的に示すと、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロキシエチルプロピオネート、2−メタクリロキシエチルアセトアセテート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の単官能性のもの、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等の重合性不飽和基を2つ以上有する脂肪族系のもの;2,2−ビス((メタ)アクリロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロキシフェニル)]プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン等の重合性不飽和基を2つ以上有する芳香族系のもの;11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸及びその無水物、2−メタクリイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、ビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート、10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート等の酸性基を含有しているもの;N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート等の塩基性基を含有しているもの;ω−メタクリロイルオキシヘキシル2−チオウラシル−5−カルボキシレート、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の接着性(メタ)アクリレート;ジアセトンアクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド基を含有しているもの;スチレン、α−メチルスチレン誘導体類;等が挙げられる。これらの重合性単量体は単独または2種類以上を混合して用いることができる。特には重合性をさらに高める目的から、重合性不飽和基を2つ以上有するものを添加することが好ましい。
【0019】
その他、液材中には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて様々な任意成分を含有させることができる。このような任意成分としては、pH調整剤等の安定化剤、無機粒子または有機粒子等の強度調節剤、粘度調節剤、各種塩類、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロパンジオール、アセトン等の有機溶剤、各種香料、各種抗菌剤、各種薬効成分、顔料、染料等が挙げられる。特に、保存安定性や環境光安定性を向上させるため、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6−ジターシャリーブチルフェノール等の重合禁止剤を少量加えるのが好ましい。
【0020】
本発明の粉液型歯科用光硬化性組成物において、上記(B)は、重量平均分子量が10〜60万であり、且つ比表面積が0.7〜6.0m
2/gである非架橋のポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子を主成分として含有してなる粉材である。このポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子は、アルキル鎖の炭素数が4以下の低級アルキルメタアクリレートを単独重合または共重合して得られる重合体粒子であり、原料に使用する低級アルキル(メタ)アクリレートは具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートが例示される。
【0021】
非架橋ポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子は、上述した低級アルキル(メタ)アクリレートを原料としてバルク重合または懸濁重合法等により合成された従来公知の非架橋型のポリ低級アルキル(メタ)アクリレート合成樹脂粉末を何ら制限無く使用することができる。このような非架橋ポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子を例示すれば、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、メチルメタクリレートとエチルメタクリレートの共重合体、メチルメタクリレートとブチルメタクリレートの共重合体、エチルメタクリレートとブチルメタクリレートの共重合体等、が挙げられる。これらは、2種類以上を混合して使用しても良い。
【0022】
本発明において、該非架橋ポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子は、比表面積が0.7〜6.0m
2/gと大きいものを使用するので、(A)低級アルキル(メタ)アクリレートを主成分として含有してなる液材に対して溶解性が高い。そのため、粉材と液材を混合後、短時間にその粘度が上昇し、そのため直ぐの光照射による光重合においても、重合性(硬化性)が良い。ここで、非架橋ポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子の比表面積が小さいと、(A)液材への溶解性が低くなり、混合後の粘度上昇が不十分となって高い光硬化活性が得られない。一方、比表面積が大きすぎると、(A)液材への溶解性が高すぎて、粉液混合後の粘度が高くなりすぎ、操作性が悪くなる。この効果をより良好に発揮させる観点から、比表面積は、0.9〜5.5m
2/gであるのがより好ましい。
【0023】
また、非架橋ポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子の配合割合は、粉材の合計を100質量%とした場合に70質量%以上であり、80質量%以上であるのが特に好ましい。
【0024】
該非架橋ポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子の形状は特に限定されず、比表面積が0.7〜6.0m
2/gを有するものであれば、平均粒径がおよそ5μm以下の球状から略球状の懸濁重合法等で作製した粒子も使用できるし、通常の粉砕により得られる異形化粒子または不定形状の粉砕粒子を使用しても良い。特に、前記小さい平均粒径の球状から略球状の粒子の場合、粉液型歯科用光硬化性組成物を筆積み法にて使用する場合において、筆先に形成されるレジン泥の玉が小さくなり操作性が悪くなり、さらには、異形化粒子または不定形状の方が、溶解性に優れ粘度上昇が早くなり、高い光重合活性のものにし易い観点から、異形化粒子または不定形状の粉砕粒子を使用することが好ましい。
【0025】
また、粒子径は特に限定されるものではないが、(B)粉材の平均粒子径は0.1〜150μmであるのが好ましく、好適には10〜80μmである。このような平均粒子径で、前記比表面積が0.7〜6.0m
2/gを有する不定形の非架橋ポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子は、例えば懸濁重合法等で得られた球状非架橋ポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子を加熱して融着させ、得られた融着粒子塊をボールミル等を用いて機械粉砕処理することにより製造できる。
【0026】
こうした非架橋ポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子としては歯科用で使用した場合に、硬化体の特に高い靭性が得られることから、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、およびメチルメタクリレートとエチルメタクリレートの共重合体を使用することが好ましい。このうちポリメチルメタクリレートおよびメチルメタクリレートとエチルメタクリレートの共重合体(メチルメタクリレートの共重合比が50モル%以上)が特に好ましい。
【0027】
なお、本発明において、粒子の平均粒径はレーザー回折・散乱法により測定したメジアン径である。具体的には、エタノールや水とエタノールの混合溶媒等の、(B)非架橋ポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子が良好に分散し、且つ該粒子が溶解または膨潤しない分散媒を使用し、フランホーファー回折法により平均粒径を測定する。
【0028】
尚、本発明において比表面積は、窒素吸着法によるBET比表面積値(m
2/g)のことである。具体的には、25℃にて4時間真空乾燥した、(B)非架橋ポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子のBET比表面積値を測定する。
【0029】
また、本発明において、(B)非架橋ポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子は、重量平均分子量が小さすぎると硬化体の靭性が低下してしまい、十分な硬化体強度が得られない。一方、重量平均分子量が大きすぎると、その遅溶解性の性状から、混合後の粘度上昇が不十分となって高い光硬化活性が得られない。この効果をより良好に発揮させる観点から、重量平均分子量は10〜60万であるものを使用する。好ましい重量平均分子量は、15〜55万である。
【0030】
本発明において非架橋ポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを使用しポリスチレン換算の分子量として測定する。
【0031】
その他、粉材中には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてその他のフィラー成分を含有させることができる。このようなその他のフィラー成分としては、非架橋有機フィラー、架橋有機フィラー、無機フィラー等が挙げられる。非架橋有機フィラーは、比表面積が0.7m
2/g未満、特に、0.1〜0.5m
2/gのものが、混合ペーストの粘度の調整や可使時間の調整の観点から好適に配合できる。具体的には、(B)と同様のポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子の内、上記小さな比表面積のものが挙げられる。また、他の(メタ)アクリレート類粒子や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド類、ポリエステル類、ポリスチレン類等の有機フィラーも使用できる。
【0032】
また、架橋有機フィラーとしては、架橋型ポリアルキル(メタ)アクリレート等やポリスチレン等を使用することができる。無機フィラーとしては、石英、シリカ(湿式シリカ、ヒュームドシリカ)、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、チタニア、アルミナ、ジルコニア、フルオロアルミノシリケートガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、フッ化ナトリウム等の無機塩が挙げられ、これらは(B)非架橋ポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子とのなじみをよくするために、その表面をポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート等の(メタ)アクリレート系重合体等のポリマーやシランカップリング剤等で被覆することができる。また、無機酸化物とポリマーの複合体を粉砕したような無機有機複合フィラーも使用可能であるが、(A)低級アルキル(メタ)アクリレートを主成分として含有してなる液材に対しての溶解性および硬化体強度の観点から、非架橋有機フィラーを用いるのが好ましい。
【0033】
これらその他のフィラー成分の形状は特に限定されず、通常の粉砕により得られるような粉砕型粒子、あるいは球状粒子から略球状粒子でもよい。また、平均粒子径は特に限定されるものではないが、液材とのなじみの点から、150μm以下のものが好ましく、特に80μm以下のものが好ましい。前記比表面積が0.7m
2/g未満のポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子の場合、平均粒子径は5〜80μm、より好ましくは10〜50μmであるのが好ましい。
【0034】
また、粉材中には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて様々な任意成分を含有させることができる。このような任意成分としては、重合促進剤、安定化剤、流動性調整剤、固体モノマー、顔料、染料等が挙げられる。
【0035】
本発明の粉液型歯科用光硬化性材料に用いることのできる光重合開始剤は、従来公知の光重合開始剤を使用することができる。代表的な光重合開始剤としては、ジアセチル、アセチルベンゾイル、ベンジル、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、4,4‘−ジメトキシベンジル、4,4’−オキシベンジル、カンファーキノン、9,10−フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等のα−ジケトン類、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類、2,4−ジエトキシチオキサンソン、2−クロロチオキサンソン、メチルチオキサンソン等のチオキサンソン誘導体、ベンゾフェノン、p,p’−ジメチルアミノベンゾフェノン、p,p’−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体、アシルホスフィンオキサイド誘導体、さらにはアリールボレート化合物/色素/光酸発生剤からなる系が挙げられる。これらは必要に応じ単独で、あるいは複数を組み合わせて添加することが可能である。
【0036】
また、α−ジケトン類及びアシルホスフィンオキサイド類はさらに高い活性を得るために、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸ラウリル、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミン化合物と併用してもよいが、アミン化合物は硬化体の着色の原因となるため、重合性単量体100重量%に対して2重量%以下が好ましく、特に0.5重量%以下が好ましい。これら光重合開始剤の中でも特に高い光重合活性が得られ、短時間での光硬化が可能になることから、アシルホスフィンオキサイド系の光重合開始剤が特に好ましい。
【0037】
アシルホスフィンオキサイド系重合開始剤は、>P(=O)−基にアシル基{−C(=O)−}が少なくとも一つ結合した骨格を有する化合物であれば特に制限なく、公知のモノアシルホスフィンオキサイド誘導体、ビスアシルホスフィンオキサイド誘導体が何ら制限なく用いられる。このようなものを例示すると、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸メチルエステル、2−メチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ピバロイルフェニルホスフィン酸イソプロピルエステル、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,5,6−トリメチルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイドが上げられる。これらアシルホスフィンオキサイド系重合開始剤の中でも、活性が高いことから2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドが好ましい。
【0038】
本発明の粉液型歯科用光硬化性組成物における光重合開始剤の配合量は、特に限定されないが、重合速度や硬化体の耐候性等の諸物性の観点から、(A)液材に含まれる重合性単量体の100質量%に対して、0.01〜20質量%の範囲であるのが好ましい。特に0.1〜15質量%であるのが好ましく、より好ましくは0.4〜10質量%である。
【0039】
光重合開始剤が複数成分で構成される場合には、保存中に液材中で(メタ)アクリレート系重合性単量体の重合反応が開始されないように、また開始剤の安定性を考慮して、これらはそれぞれの部材に適宜分けて配合することが好ましい。なお、場合によっては、該重合開始剤は(A)液材と(B)粉材とは別に分包することもできる。
【0040】
さらに、重合開始剤として化学重合開始剤を併用することもできる。化学重合開始剤と組み合わせる方法は、もちろん光重合と化学重合のいずれでも重合でき便利である他、光重合と化学重合とを組合せてデュアルキュア型として硬化させることもできる。具体的には、光照射により短時間に粗方の重合を進行させ、組み合わせた化学重合開始剤で重合を完遂させて硬化させることができる。この場合、機械的強度が特に高いものにでき、重合を完遂させるための化学重合による放置時間も、従来の化学重合のみの硬化性材料の硬化時間と比較して大幅に短縮化でき、操作性と機械的強度を高度に両立されたものにでき特に好ましい。
【0041】
例えば、化学重合開始剤としては、有機過酸化物/アミン化合物、又は有機過酸化物/アミン化合物/スルフィン酸塩からなるレドックス型の重合開始剤;酸と反応して重合を開始する有機金属型の重合開始剤;有機ホウ素化合物または有機ホウ素化合物の部分酸化物からなる重合開始剤;及び(チオ)バルビツール酸誘導体/第二銅イオン/ハロゲン化合物からなる重合開始剤等が使用できる。このような重合開始剤の具体例としては、例えば特願2000−361150号公報に例示されているものを使用できる。特に有機金属型の重合開始剤としてはトリブチルボランまたは後述する一般式(1)で例示されるアリールボレート塩を用いるのが審美性等の観点から好適である。この時、アリールボレート塩と組む酸としては従来公知の有機酸および無機酸が使用できる。反応性が高いことから強酸が好ましく、特にスルホン酸基含有化合物が扱いやすく、好ましいと言える。こうした酸は、酸性基を含有する重合性単量体として、上記(A)液材の一部として兼用してもよく、また、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等の場合、常温で固体であり、前記した(A)液材の保存安定性を考慮すると(B)粉材の一部として含有させても良い。
【0042】
上記のアリールボレート塩としては、分子中に少なくとも1個のホウ素−アリール結合を有する4配位のホウ素化合物であれば特に限定されず公知の化合物が使用できる。ホウ素−アリール結合を全く有しないボレート化合物は安定性が極めて悪く、空気中の酸素と容易に反応して分解するため、密閉容器に別分包する必要がある等の制限がある。
【0043】
本発明で使用されるアリールボレート塩としては、保存安定性及び重合活性の点から、下記一般式(1)
【0044】
【化1】
(上式中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はアルケニル基であり、これらの基はいずれも置換基を有していてもよく;R
4及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、置換基を有してもよいアルキル基又はアルコキシ基、または置換基を有してもよいフェニル基であり;L
+は金属陽イオン、第3級または第4級アンモニウムイオン、第4級ピリジニウムイオン、第4級キノリニウムイオンまたは第4級ホスホニウムイオンを示す。)で示されるボレート化合物が好ましい。これらの中でも、保存安定性や入手の容易さから、ホウ素原子が4つのアリール基で置換されたアリールボレート塩が特に好ましい。
【0045】
本発明の粉液型歯科用光硬化性組成物がデュアルキュア型である場合の上記化学重合開始剤の配合量は、(A)液材に含まれる重合性単量体が重合するのに充分な量であれば特に限定されないが、硬化体の耐候性等の諸物性の観点から、(A)液材に含まれる重合性単量体の100質量%に対して、0.01〜20質量%の範囲であるのが好ましい。また、これらの化学重合開始剤は保存安定性を考慮して適宜、それぞれの部材に適宜分けて配合することが好ましい。
【0046】
本発明の粉液型歯科用光硬化性組成物は硬化時間が短く、また非架橋有機樹脂フィラーを使用した粉液型であるので高い靭性が得られ、特に歯科用途として有用である。歯科用途として使用する場合、その液材または粉材に酸性基を含有する(メタ)アクリレート系重合性単量体を配合し、粉材と液材を混合して得られるレジン泥に歯質接着性を付与することで、該レジン泥をそのまま歯牙に塗布して使用する歯科用接着キットとして使用することも可能であるが、従来公知の歯科用前処理剤と併用することで、被着体への更に高い接着性が得られる歯科用接着キットとして使用できる。
【0047】
前処理剤としては、酸性溶液を用いたエッチング処理剤、エッチングおよび改質処理能を有するプライマーなどが挙げられる。エッチング処理剤としては、酸濃度が5〜80質量%のリン酸、カルボン酸あるいはクエン酸等の水溶液(酸水溶液)を使用することができ、プライマーとしては、(メタ)アクリレート系重合性単量体および水を含んでなる組成物を使用することができる。斯様な歯科用前処理材としては、特開2008−222642号公報、特開平07−118116号公報、特開平08−310912号公報、特開平08−319209号公報、特開平09−025208号公報、特開平09−227325号公報、特開平10−251115号公報、特開2002−265312号公報、特開2003−096122号公報、特開2004−043427号公報、特開2004−026838号公報等に記載の、従来公知の歯科用前処理剤を適宜選択して使用することができる。
【0048】
本発明の粉液型歯科用光硬化性組成物を使用する場合は、(A)液材と(B)粉材をヘラ等で混和してペースト状としてから用いる方法(混和法という)にて使用しても良いし、(A)液材と(B)粉材を別々に取り分けて用意し、小筆に液材を含ませ、次いで筆先を粉材に接触させることにより筆先に玉状のレジン泥を作製して用いる方法(筆積み法という)にて使用しても良い。このようにして使用する場合の(A)液材と(B)粉材の混合比は、通常、質量比で1:3〜5:1である。
【0049】
(A)液材と(B)粉材の混合により作製したレジン泥に光照射を行うまでの時間は特に制限されないが、本発明の粉液型歯科用光硬化性組成物を歯科用途として使用する場合などでは、通常の操作時間を考慮すると、液材と粉材が接触(混和もしくは筆積み開始)してから10〜120秒程度で光照射を開始するのが適当である。光照射時間は、レジン泥に含まれるフィラーや顔料等により異なるが、3〜90秒の照射時間で十分であり、好ましくは3〜60秒、特に好ましくは3〜50秒である。光源としては、アシルホスフィンオキサイド系重合開始剤およびその他の光重合開始剤の光分解に有効な波長、即ち250〜500nmの範囲の波長光を放射するものであれば、キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハイドランプ、タングステンランプ、蛍光灯、アルゴンレーザー等が制限なく使用できる。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0051】
尚、実施例および比較例で使用した化合物とその略称を(1)に、粉材組成を(2)に、硬化時間の評価方法を(3)に示した。
【0052】
(1)使用した化合物とその略称
MMA;メチルメタクリレート
UDMA;1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)2,2,4−トリメチルヘキサンと1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)2,4,4−トリメチルヘキサンの混合物
HEMA;2−ヒドロキシエチルメタクリレート
PhBTEOA;テトラフェニルホウ素トリエタノールアミン塩
MMPS;2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸
CQ;カンファーキノン
TPO;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド
BTPO;ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド
BDTPO;ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド
DMBE;4−ジメチルアミノ安息香酸エチル
BHT;ジブチルヒドロキシトルエン
【0053】
(2)ポリメチルメタクリレート粒子(P1〜P8,P12〜P15)、ポリエチルメタクリレート粒子(P9)およびメチルメタクリレートとエチルメタクリレートとの共重合体粒子(P10、P11)
それぞれ表1に示したものを用いた。なお、粒子の平均粒径は、レーザー回折・散乱法により測定したメジアン径であり、比表面積は、窒素吸着法によるBET比表面積値(m
2/g)であり、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを使用しポリスチレン換算の分子量として測定した値である。
【0054】
【表1】
【0055】
尚、不定形粒子は懸濁重合法で合成した球状粒子を90〜120℃で解砕が可能な程度に加熱融着し、振動ボールミル(ニューライトミル;中央化工機商事株式会社製、ポット;300mLアルミナポット)を使用して融着粒子100gとφ10mmのアルミナボール100gを混合して所望の比表面積を有するようになるまで解砕し処理した。
【0056】
(3)硬化時間の評価方法
硬化時間の評価は、以下のように行った。すなわち、まず、23℃において、ダッペンディッシュに粉材と液材を別々に採取し、筆穂部の根元径が約2mmで吸液量が約10〜15mgである筆(トクヤマ筆積み用ディスポ筆N、株式会社トクヤマデンタル製)を使用して筆積み法にて、筆先にレジン泥の玉[粉/液(質量比)は1.3〜2.5になる]を作製し、それをスライドガラスに塗布した。光硬化の評価を行う場合は、筆積み開始から30秒後に歯科用可視光照射器(トクソーパワーライト、600mW/cm
2、トクヤマ社製)にて光照射し、50gの荷重をかけた場合に針(φ:0.5mm)が硬化体に侵入しなくなるまでの光照射時間を評価した。化学硬化の評価を行う場合は、筆積み開始から何秒で50gの荷重をかけた針(φ:0.5mm)が硬化体に侵入しなくなるかを評価した。上記方法にて1試験当たり3回の測定を行い、その平均値を硬化時間とした。
【0057】
(4)曲げ強さの評価方法
曲げ強さの評価は、以下のように行った。すなわち、まず、23℃において、粉材と液材が1:2となるように採取し、その後、10秒間混和した。ついで、2mm×2mm×25mmの金属製金型に混和物を充填して透明フィルムと金属板で両側から圧し、クランプで固定した後、37℃±1℃の水中に60分間浸漬した。光硬化の評価を行う場合は、クランプで固定した後、試験片の中央、左、右の順で各30秒ずつ、試験片の表面と裏面の両方から光照射を行った。硬化後に型から硬化体を取り出し、バリを除去して試験片とした。試験片を37℃±1℃水中に浸漬させ、24時間後に取り出し、各試験片の断面寸法を0.01mm以上の精度で測定し、3点曲げ強さ試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いて、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/minにて曲げ強さを測定した。曲げ強さの算出は以下の式にて行った。
【0058】
σ=3Fl/2bh
2
ここで、σは曲げ強さ(MPa)、Fは最大荷重(N)、lは支点間距離(mm)、bは試料の幅(mm)、hは試料の厚さ(mm)である。
1試験当たり4本の曲げ強さの評価を上記方法で測定し、その平均値を曲げ強さとした。
【0059】
(5)筆積み性の評価
23℃において、ダッペンディッシュに粉材と液材を別々に採取し、筆穂部の根元径が約2mmで吸液量が約10〜15mgである筆(トクヤマ筆積み用ディスポ筆N、株式会社トクヤマデンタル製)を使用して筆積み法にて、筆先にレジン泥の玉[粉/液(質量比)は1.3〜2.5になる]を作製し、玉の外観を観察してその粉吹きの状態を以下の基準で評価した。
◎:レジン泥の玉は、表面が均一で滑らかであり、未溶解の粉材は観察できず、粉吹きが全く生じていない状態のもの
○:レジン泥の玉表面には、作製当初には未溶解の粉材が確認できるものの、次第に液材と馴染むもの
△:レジン泥の玉表面には、薄く未溶解の粉材が確認でき、僅かに粉吹きが生じている状態のもの
×:レジン泥の玉表面には、未溶解の粉材が多量に確認できるもの
【0060】
実施例1〜25、比較例1〜7
粉液型硬化性組成物として、表2、表3および表5に示した配合組成のものを用いた。なお、実施例1,24,25,比較例6は、光重合開始剤のみならず、化学重合開始剤も配合してデュアルキュア化して用いた。さらに、比較例7は、重合開始剤として化学重合開始剤のみを用いた。
「(3)硬化時間の評価方法」、「(4)曲げ強さの評価方法」、および「(5)筆積み性」の評価に従い、粉液型歯科用硬化性材料の物性評価を行った。評価結果を表4および表6に示した。
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
【表5】
【0065】
【表6】
【0066】
実施例1〜25のように、本発明の粉液型歯科用光硬化性組成物は、光照射により短時間で最終硬化まで至った(10秒〜70秒)。
【0067】
比較例1および比較例2のような比表面積の小さなフィラーが多く含まれている場合や、比較例4のような重量平均分子量の大きいフィラーを多く含む場合では、粉材が液材に馴染むまでに時間を要するため、硬化までに長い光照射(100秒以上)を必要とした。
【0068】
比較例3および比較例6のような重量平均分子量の小さいフィラーを多く含む場合では、硬化の方法に関わらず硬化体強度が低下した(45MPa以下)。
【0069】
比較例5のような比表面積の大きすぎるフィラーを多く使用した場合では、粉材と液材の馴染みが悪いため筆積み性が悪かった(×)。
【0070】
比較例7は重合開始剤が化学重合開始剤の例であるが、硬化に長時間を要した。