特許第6035135号(P6035135)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6035135
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】濁水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/52 20060101AFI20161121BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20161121BHJP
   E02B 1/00 20060101ALN20161121BHJP
   E02B 15/00 20060101ALN20161121BHJP
【FI】
   C02F1/52 B
   B01D21/01 102
   !E02B1/00 Z
   !E02B15/00 Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-271878(P2012-271878)
(22)【出願日】2012年12月13日
(65)【公開番号】特開2014-117626(P2014-117626A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130362
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 嘉英
(72)【発明者】
【氏名】桑野 陵一
(72)【発明者】
【氏名】下山田 俊一
(72)【発明者】
【氏名】山本 達生
【審査官】 金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−321234(JP,A)
【文献】 特開平09−234499(JP,A)
【文献】 特開昭52−070552(JP,A)
【文献】 特開2012−115770(JP,A)
【文献】 特開昭49−073832(JP,A)
【文献】 特開昭62−262788(JP,A)
【文献】 特開昭62−091206(JP,A)
【文献】 特開平06−226249(JP,A)
【文献】 特開2005−207135(JP,A)
【文献】 特開2010−265668(JP,A)
【文献】 特開昭62−011591(JP,A)
【文献】 特開2006−088021(JP,A)
【文献】 特開平01−131711(JP,A)
【文献】 特開平09−206788(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3055282(JP,U)
【文献】 特表2008−509804(JP,A)
【文献】 実開昭60−083098(JP,U)
【文献】 特開2005−048465(JP,A)
【文献】 特開平06−285462(JP,A)
【文献】 韓国登録特許第10−0943813(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/00−21/34
C02F 1/52− 1/56
E02B 3/00、15/00
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
濁水処理を行う水中に隔壁を設けて濁水処理の対象範囲を囲うことにより、当該濁水処理の対象範囲を外部の水域から隔離する工程と、
前記濁水処理の対象範囲に空気注入管を挿入する工程と、
前記空気注入管の先端部から、前記濁水処理の対象範囲に空気を注入して、上下方向の水流を発生させることにより濁水を均一に撹拌する工程と、
前記濁水処理の対象範囲に凝集材を投入する工程と、
前記空気の注入を所定時間継続して、濁水に対して凝集材を均一かつ確実に分散させることによりフロックを形成する工程と、
前記空気の注入を停止して、所定時間静置することにより前記フロックを沈殿させる工程と、
を含むことを特徴とする濁水処理方法。
【請求項2】
前記凝集材は、天然鉱物を主原料とした無機系粉体凝集材であることを特徴とする請求項1に記載の濁水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、港湾施設、ダム、河川等の潜水作業を伴う水中工事において、原位置で濁水処理を行うための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
港湾施設、ダム、河川等における水中工事では、潜水士による潜水作業を行うことがある。この場合、作業水域が濁っていたり、作業によって濁りが生じたりすると、潜水士の視界が悪化して作業効率が低下し、安全性確保のために作業を中断せざるを得ないこともあった。このため、潜水士が水中作業を行う水域において濁水処理を行い、濁度を低下させて所定基準以上の透明度を確保する必要がある。
【0003】
従来、潜水作業を行う水域において所定基準以上の透明度を確保するための濁水処理方法が種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された技術は、以下の構成を備えている。まず、湖水の底部で、湖底管の端部同士を接続するための作業水域を、筒状のカーテンで仕切る。カーテンは、上部の周面に複数のフロートを有し、下端部には錘が取り付けられているため、カーテンの上端を水面に位置させ、下端を湖底に位置させることができる。また、カーテンの下部には、湖底管を通すための切り込みが設けられている。そして、カーテンで仕切られた作業水域内に、投入口からポリ塩化アルミニウムや高分子凝集剤を適量投入して、ポンプにより作業水域内を攪拌することにより、作業水域内の水中に存在する浮遊物質を湖底に沈降させて、作業水域内の濁度を低下させることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−321234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載されたような従来の濁水処理技術では、ポリ塩化アルミニウムや高分子凝集剤を直接作業水域に投入し、水中ポンプを用いて濁水を攪拌しているが、この方法では、所定基準以上の透明度を確保することが困難であった。すなわち、従来使用されてきた凝集材は、SS(浮遊物質、懸濁物質)が1,000mg/リットル以上の濁水に対しては有効に作用するが、それ以下のSSが薄い濁水に対しては効果が小さいことが知られている。
【0006】
このように、潜水作業を伴う水中工事では、作業水域の濁度は低いが視界がほぼゼロに近くなる場合もあり、濁り除去のために従来使用されてきた凝集材を投入しても、実際には所定基準以上の透明度を確保することはできなかった。
【0007】
さらに、従来使用されてきた凝集材を濁り除去のために作用させるには、濁水を十分に攪拌して濁水中に凝集材を分散させることが必要である。しかし、特許文献1に記載されたような従来の技術では、水中ポンプを用いて攪拌を行っているため、攪拌が十分なものとならず、濁水中に凝集材を分散させることができないという問題があった。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑み提案されたもので、港湾施設、ダム、河川等の潜水作業を伴う水中工事において、良好な作業環境を確保して作業効率を向上させることが可能な濁水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の濁水処理方法は、上述した課題を解決するため、以下の特徴点を備えている。すなわち、本発明の濁水処理方法は、濁水処理を行う水中に隔壁を設けて濁水処理の対象範囲を囲うことにより、当該濁水処理の対象範囲を外部の水域から隔離する工程と、濁水処理の対象範囲に空気注入管を挿入する工程と、空気注入管の先端部から、濁水処理の対象範囲に空気を注入して、上下方向の水流を発生させることにより濁水を均一に撹拌する工程と、濁水処理の対象範囲に凝集材を投入する工程と、空気の注入を所定時間継続して、濁水に対して凝集材を均一かつ確実に分散させることによりフロックを形成する工程と、空気の注入を停止して、所定時間静置することによりフロックを沈殿させる工程とを含むことを特徴とするものである。
【0010】
また、上述した凝集材は、天然鉱物を主原料とした無機系粉体凝集材であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の濁水処理方法によれば、濁水処理の対象範囲に空気を注入して上下方向の水流を発生させることにより、濁水に対して凝集材を均一かつ確実に分散させることができる。したがって、潜水士による潜水工事を伴う水中工事において、確実に所定基準以上の透明度とすることができ、潜水士にとって良好な作業環境を確保して作業効率を向上させることが可能となる。
【0012】
また、凝集材として、天然鉱物を主原料とした無機系粉体凝集材を用いることにより、濁度は低いが十分な視界を確保できない濁水環境であっても、確実に所定基準以上の透明度とすることができる。さらに、天然鉱物を主原料とした無機系粉体凝集材は、水中生物に対する毒性が小さいため、環境に与える悪影響が極めて少ない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る濁水処理方法で使用する設備の説明図。
図2】本発明の実施形態に係る濁水処理方法の手順を示すフローチャート。
図3】本発明の実施形態に係る濁水処理方法における実験結果を示す説明図。
図4】SSと透明度及び透視度の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の濁水処理方法の実施形態を説明する。図1図4は本発明の実施形態に係る濁水処理方法を説明するもので、図1は濁水処理方法で使用する設備の説明図、図2は濁水処理方法の手順を示すフローチャート、図3は実験結果を示す説明図、図4はSSと透明度及び透視度の関係を示すグラフである。
【0015】
<濁水処理方法の概要>
本発明の実施形態に係る濁水処理方法は、例えば、港湾施設、ダム、河川等で潜水作業を伴う水中工事において、濁水処理の対象範囲を隔壁で囲むことにより閉鎖水域を形成し、当該閉鎖水域内に凝集材を投入すると共に空気を注入して攪拌を行い、閉鎖水域内の原位置で濁水処理を行う方法である。また、凝集材は、天然鉱物を主原料とした無機系粉体凝集材を使用することが好ましい。
【0016】
<濁水処理方法で使用する設備>
本発明の実施形態に係る濁水処理方法では、図1に示すように、濁水処理の対象範囲を囲む隔壁(例えば、シート材)10と、空気注入管(例えば、エアーリフト管)20と、空気注入管20に圧縮空気を送気するためのエアーポンプ(例えば、エアーリフトポンプ)30とを主要な使用設備とする。隔壁10としてシート材を使用する場合には、例えば、図1に示すように、シート材の上部にフロート11を取り付け、シート材の下部に錘12を取り付ける。
【0017】
なお、本発明の濁水処理方法で使用する設備は、上述した機器に限定されない。例えば、隔壁10は、濁水処理の対象範囲を略閉鎖できればどのような部材を使用してもよく、シート材の他に、例えば、シートパイル等を使用することができる。また、空気注入管20は、濁水処理の対象範囲内に圧縮空気を注入できれば、金属製の管材のように剛性の管であってもよいし、柔軟性を有する合成樹脂素材の管であってもよい。また、圧縮空気を送気するためのエアーポンプ30は、所定値以上の圧力で所定量の空気を送気することができれば、どのような構造のエアーポンプ30であってもよい。さらに、エアーポンプ30から空気注入管20に送気するための送気管21の途中に、送気量を調整するための開閉バルブ31を設けることができる。
【0018】
<濁水処理方法の具体的な手順>
本発明の実施形態に係る濁水処理方法は、図2に示すように、以下の6つの工程からなる。第1の工程は、濁水処理を行う水中に隔壁10を設けて濁水処理の対象範囲を囲うことにより、当該濁水処理の対象範囲を外部の水域から隔離する工程である(S1)。第1の工程により、閉鎖水域を形成し、当該閉鎖水域内の原位置で濁水処理を行う。
【0019】
第2の工程は、濁水処理の対象範囲(閉鎖水域)に空気注入管20を挿入する工程である(S2)。第2の工程において、空気注入管20の先端部を閉鎖水域の底部付近に位置させて、対象範囲内の濁水を十分に攪拌できるように、空気注入管20の挿入位置を決定する。すなわち、空気注入管20の挿入深さは、濁水処理対象となる現場の状況や水質に合わせて適宜調整する。
【0020】
第3の工程は、エアーポンプ30を用いて、空気注入管20の先端部から、濁水処理の対象範囲(閉鎖水域)に空気を注入して、上下方向の水流を発生させる工程である(S3)。第3の工程では、濁水処理の対象範囲(閉鎖水域)内で、濁水が均一に攪拌されるように空気注入量を調整する。空気注入量は、例えば、エアーポンプ30と空気注入管20との間に設けた開閉バルブ31の開度により調整することができる。
【0021】
第4の工程は、濁水処理の対象範囲(閉鎖水域)に凝集材40を投入する工程である。第4の工程では、空気の注入は継続しながら、濁水中に凝集材40を投入する(S4)。本実施形態では、凝集材40として、天然鉱物を主原料とした無機系粉体凝集材を使用している。凝集材40の投入量は、処理対象となる濁水の水質により適宜調整する。例えば、凝集材40の投入量は40〜400mg/リットル程度とし、投入速度は2〜10kg/min程度とする。凝集材40の投入速度を速めると、水中で凝集材40がダマになるため、攪拌状況を観察しながら、適宜、投入速度の調整を行うべきである。なお、凝集材40の投入には、スクリュー式、ポンプ式、自然落下式等、既存の定量投入装置(図示せず)を用いることができる。
【0022】
第5の工程は、空気の注入を所定時間継続する工程である(S5)。第5の工程では、フロックを形成するため、空気注入による攪拌を継続する。空気注入の継続時間は、処理対象となる濁水の水質により異なるが、例えば、1〜3時間程度とする。
【0023】
第6の工程は、空気の注入を停止して、所定時間静置する工程である(S6)。第6の工程は、形成されたフロックの沈殿を待つ工程である。静置時間は、フロックの状態等により異なるが、例えば、2〜5時間程度とする。
【0024】
<実験結果>
上述した濁水処理方法を用いて、無機系粉体凝集材の添加量を300mg/リットル、投入時間を30分、攪拌時間を2時間、静置時間を7時間として実験を行った。この実験では、図3に示すように、当初0.2m程度しかなかった透明度が、濁水処理後には2〜14m程度に改善した。なお、当該実験では、濁度分析により効果を確認していたため、既知の文献データに基づいて、濁度と透明度の変換を行った。
【0025】
<従来の濁水処理方法との比較>
上述したように、潜水作業を伴う水中工事を実施する際に、潜水対象となる水域で濁りが発生している場合がある。濁り具合は現場状況に応じて様々であるが、図4に示すように、SSが20mg/リットル程度であっても、透明度は20〜30cm程度の場合がある。このような視界では、潜水士による作業効率が著しく低下するだけでなく、安全性確保のために作業を中止せざるを得ない場合もある。
【0026】
従来の工事濁水処理では、ポリ塩化アルミニウムと高分子凝集剤を使用した濁水処理が行われているが、ポリ塩化アルミニウムと高分子凝集剤による機械式濁水処理方法では、SSを25mg/リットル程度にするのが限界であることが判明している。
【0027】
そこで、本願の発明者は、種々の実験を重ねた結果、無機系紛体凝集材を使用することにより、原水の濁度が15〜40NTUの低濃度濁水に対して、処理後の濁度が0.1〜1.1NTUと、ほとんど透明な処理水が得られるとの知見を得た。
【0028】
ところで、潜水士が濁水処理後に開鎖水域内の水底近くで作業した場合に、従来のポリ塩化アルミニウムと高分子凝集剤を使用した濁水処理であれば、底泥が巻き上がり視界不良が発生していた。これに対して、本発明の濁水処理方法により濁水処理を行った場合には、底泥に堆積している凝集物の耐久性が高いため、底泥を巻き上げても瞬く間に沈降し、視界不良が再発することはなかった。
【0029】
また、本発明の濁水処理方法で使用する凝集材40は、有害物質を含まない天然鉱物を主原料とした無機系粉体凝集材であるため、水中生物に対する毒性が小さく、環境に与える影響が少ない。ヒメダカを用いた魚類急性毒性試験の結果において、従来の凝集材であるポリ塩化アルミニウムでは、96時間後に半数の魚類が斃死する濃度が800mg/リットルであった。これに対して、本発明の濁水処理方法で使用する無機系紛体凝集材では、96時間後に半数の魚類が斃死する濃度が、4,500mg/リットルであった。すなわち、本発明の濁水処理方法で使用する無機系紛体凝集材は、従来の濁水処理方法で使用していたポリ塩化アルミニウムと比較して、水中生物に対する毒性(魚毒性)が大幅に小さいことが分かる。
【0030】
また、本発明の濁水処理方法で使用する無機系紛体凝集材は、従来のポリ塩化アルミニウム及び高分子凝集剤を使用した場合と比較して、強くて粒径の大きなフロックが形成されることが判明している。このため、フロックの沈降速度が速くなり、処理時間を短縮することができる。さらに、フロックは再溶解せず疎水化されるため、再巻き上がりによる視界不良が発生しないという利点もある。
【符号の説明】
【0031】
10 隔壁
11 フロート
12 錘
20 空気注入管
21 送気管
30 エアーポンプ
31 開閉バルブ
40 凝集材(無機系粉体凝集材)
図1
図2
図3
図4