(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6035152
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】色覚補正メガネ
(51)【国際特許分類】
G02C 7/10 20060101AFI20161121BHJP
A61F 9/00 20060101ALN20161121BHJP
【FI】
G02C7/10
!A61F9/00
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-2485(P2013-2485)
(22)【出願日】2013年1月10日
(65)【公開番号】特開2014-134661(P2014-134661A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2015年12月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】513008683
【氏名又は名称】足立 公
(73)【特許権者】
【識別番号】508044313
【氏名又は名称】白井 利明
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(74)【代理人】
【識別番号】100117097
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 充浩
(72)【発明者】
【氏名】足立 公
(72)【発明者】
【氏名】白井 利明
【審査官】
南 宏輔
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−028138(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0090453(US,A1)
【文献】
特開平06−018819(JP,A)
【文献】
特開平11−311756(JP,A)
【文献】
米国特許第06135595(US,A)
【文献】
特開2002−303832(JP,A)
【文献】
米国特許第04300819(US,A)
【文献】
米国特許第05369453(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の波長が440nmから大きくなるにつれて透過率が減少して最小値に達したのち光の波長が600nmまで大きくなるにつれて透過率が増加する透過率曲線を有する複数等級のレンズを含むAB類のレンズ郡、光の波長が440nmから大きくなるにつれて透過率が減少し最小値に達したのち光の波長が600nmまで大きくなるにつれて透過率が増加するとともに当該透過率の最小値が50%以上である透過率曲線を有する複数等級のレンズを含むC類のレンズ郡、及び光の波長が440nmから600nmまでの範囲で略右上がり形状の透過率曲線を有する複数等級のレンズ郡を含むD類のレンズ郡からなる3類のレンズ郡より選択された色覚補正レンズと、
前記色覚補正レンズと同類のレンズ郡から選択された明度向上レンズと、
を備え、
前記明度向上レンズは、前記色覚補正レンズより視感透過率が大きい色覚補正メガネ。
【請求項2】
前記AB類のレンズ郡は、A類のレンズ郡とB類のレンズ郡とからなり、
前記A類のレンズは、波長440nmの光の透過率が40%以上となるよう形成され、
前記B類のレンズは、波長440nmの光の透過率が40%未満であるとともに、B類に含まれる異なる等級のレンズは、波長440nmの光の透過率と波長600nmの光の透過率の大小関係が逆に成るよう形成されており、
前記色覚補正レンズがB類のレンズ郡より選択され、前記明度向上レンズがA類のレンズ郡より選択された請求項1に記載の色覚補正メガネ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、色覚異常者の色覚を補正する色覚補正メガネに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、色覚異常者の色覚を色覚正常者の色覚に近づけるべく補正する色覚補正メガネを製造販売しており、多数の色覚異常者がこの色覚補正メガネを利用するに至っている。
【0003】
この色覚補正メガネは、色覚異常者の3種の錘状体視細胞の何れかが、他の錘状体視細胞より感度が相対的に強いことが色覚異常の原因であるとする理論に基づいている。即ち、当該色覚補正レンズは、色覚異常者が相対的に強く感じる光の透過率を抑えることで、色覚異常者の色覚を正常者の色覚に近づけるものである(特許文献1参照)。
【0004】
ところが、当該色覚補正レンズは、色覚異常者が強く感じる光の透過率を押えるためにレンズを透過する光が減少して視界が暗くなり、夕暮れ時等には視力が利かなくなるという不都合が有った。
【0005】
そこで、本発明者は、一方のレンズのみに色覚補正レンズを用い、他方のレンズには色覚異常者がレンズを通して感じる明るさが色覚補正レンズを通して感じる明るさより大きい色覚明度向上レンズを用いた色覚補正メガネを提案している(特許文献2参照)。このレンズは、色覚異常者が色覚明度向上レンズで感じた明るさを、脳内にて色覚補正レンズで感じた明るさに置き換えることより、色覚異常者の視界が暗くなるのを抑制するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−18819号公報
【特許文献2】特開2005−28138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2に係る色覚補正メガネは、両方のレンズの色が大きく異なり、人前では使用しづらいという不都合があった。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、色覚補正レンズと色覚明度向上レンズの色が近く、人前でも使用しやすい色覚補正メガネの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた発明は、光の波長が440nmから大きくなるにつれて透過率が減少して最小値に達したのち光の波長が600nmまで大きくなるにつれて透過率が増加する透過率曲線を有する複数等級のレンズを含むAB類のレンズ郡、光の波長が440nmから大きくなるにつれて透過率が減少し最小値に達したのち光の波長が600nmまで大きくなるにつれて透過率が増加するとともに当該透過率の最小値が50%以上である透過率曲線を有する複数等級のレンズを含むC類のレンズ郡、及び光の波長が440nmから600nmまでの範囲で略右上がり形状の透過率曲線を有する複数等級のレンズ郡を含むD類のレンズ郡からなる3類のレンズ郡より選択された色覚補正レンズと、前記色覚補正レンズと同類のレンズ郡から選択された明度向上レンズと、を備え、前記明度向上レンズは、前記色覚補正レンズより視感透過率が大きい色覚補正メガネである。
【0009】
本発明の色覚補正メガネでは、片方のレンズに当該メガネを使用する色覚異常者が最もよく色の判別を行うことができる類のレンズである色覚補正レンズを用い、他方のレンズに色覚補正レンズより視感透過率の大きい明度向上レンズを用いることで、両目用のレンズとして共に色覚異常者が最もよく色の判別を行うことができるレンズを使用する場合に比べて、色覚異常者が感じる明るさを向上させることができる。また、明度向上レンズと色覚補正レンズとを、AB類、C類及びD類の3類のうちの同類のレンズとすることで、色覚補正レンズと明度向上レンズの外観差を抑制することができる。
【0010】
本発明は、前記AB類のレンズ郡が、A類のレンズ郡とB類のレンズ郡とからなり、前記A類のレンズは、波長440nmの光の透過率が40%以上となるよう形成され、前記B類のレンズは、波長440nmの光の透過率が40%未満であるとともに、B類に含まれる異なる等級のレンズは、波長440nmの光の透過率と波長600nmの光の透過率の大小関係が逆に成るよう形成されており、前記色覚補正レンズがB類のレンズ郡より選択され、前記明度向上レンズがA類のレンズ郡より選択された色覚補正メガネを含む。このように、B類のレンズは、異なる等級のレンズが光の波長440nmにおける透過率と光の波長600nmにおける透過率の大小関係が逆になるため、各等級で視感透過率がほとんど変化しない。このため、色覚補正レンズとしてB類のレンズが最適であるとされた際には、明度向上レンズとしてA類のレンズを用いることで使用者が感じる明度を向上させることができる。
【0011】
ここで、透過率が「増加する」若しくは「減少する」とは、多少増減しながら増加又は減少する場合を含むものとする。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明の色覚補正メガネによれば、色覚補正メガネのデザイン性を損なうことなく当該メガネを使用する色覚異常者が感じる明るさを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係るA類のレンズの透過率曲線を模式的に示したグラフである。
【
図2】本発明に係るB類のレンズの透過率曲線を模式的に示したグラフである。
【
図3】本発明に係るC類のレンズの透過率曲線を模式的に示したグラフである。
【
図4】本発明に係るD類のレンズの透過率曲線を模式的に示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、適宜図面を参照しながら本発明に係る色覚補正メガネの実施形態について詳述する。本発明の色覚補正メガネは、色覚異常者の色覚を補正する色覚補正レンズと色覚異常者が感じる明るさを向上させる明度向上レンズとを備えている。
尚、本発明の色覚補正メガネは以下の実施の形態に限られるものではない。また、色覚補正レンズと明度向上レンズを総称して単に「レンズ」ともいうものとする。
【0015】
色覚補正レンズ、及び明度向上レンズは、
図1乃至
図4のグラフに模式的に示したような透過率曲線を有している。
図1乃至
図4のグラフは、それぞれA類、B類、C類、及びD類のレンズの透過率曲線を示しており、各類は、少しずつ透過率曲線の形状の異なる8つのレンズ郡からなる。A類とB類のレンズは、透過率曲線の形状が類似するため、合わせてAB類のレンズと称するものとする。
【0016】
AB類のレンズ郡は、光の波長が440nmから大きくなるにつれて透過率が減少して最小値に達したのち光の波長が600nmまで大きくなるにつれて透過率が増加する透過率曲線を有している。AB類のレンズ郡のうち、A類のレンズ郡は、
図1に示すように、光の波長が440nmにおける透過率が40%以上となるように形成されたA1からA8までの8等級のレンズからなる。
【0017】
AB類のレンズ郡のうち、B類のレンズ郡は、
図2に示したように、光の波長440nmにおける透過率が40%未満となるよう形成されたB1からB8までの8等級のレンズからなる。B類に含まれる異なる等級のレンズは、
図2に示すように、光の波長440nmにおける透過率と光の波長600nmにおける透過率の大小関係が逆になるよう形成されている。
【0018】
C類のレンズ郡は、
図3に示すように、C1からC8までの8等級のレンズからなり、光の波長が440nmから大きくなるにつれて透過率が減少して最小値に達したのち、光の波長が600nmまで大きくなるにつれて透過率が増加する透過率曲線を有している。C類の各レンズの波長440nmから600nmまでの透過率曲線における透過率の最小値は50%以上である。
【0019】
D類のレンズは、
図4に示すように、D1からD8までの8等級のレンズからなり、光の波長が440nmから600nmまでの範囲で略右上がり形状の透過率曲線を有している。
【0020】
次に、レンズの製造方法について説明する。表1乃至表4は、A〜D類のレンズの透過率分布の設計値の一例を示している。各分類のレンズは、表1乃至表4に示した透過率から所定の許容範囲(例えば、設計値±5%)を満たすように、かつ
図1乃至
図4に示した模式図と近似の形状となることをねらって製造される。
【0025】
レンズに、所望の透過率曲線を付与する方法としては、レンズ生地を着色する方法、部分反射膜を設ける方法、着色と部分反射膜とを併用する方法を用いることができる。
レンズ生地を着色する方法は、特に限定されず、レンズ生地表面に着色を行ってもよいし、レンズ生地をモノマーから重合する際に染料や顔料を配合することによりレンズ生地自体を着色してもよい。レンズ生地表面に着色を行う場合は、所望の透過率曲線をより精度よく形成するために、グラディエーション状に行ってもよい。また、着色を行う前にハードコート被膜を設けてもよい。
【0026】
部分反射膜は、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等により形成することができる。部分反射膜は、単層又は多層のいずれにしてもよい。
【0027】
ハードコート被膜を形成する方法は、特に限定されないが、例えば、レンズ生地表面にシリコーン系のハードコート液を塗布した後に熱処理をして、ハードコート液を硬化させる方法を用いることができる。ハードコート被膜の上に部分反射層を形成する場合は、酸処理やアルカリ処理、紫外線照射処理、プラズマ処理、イオンビーム照射等のいずれかの方法により、ハードコート被膜表面の処理を行うことが好ましい。
【0028】
レンズの製造を完了すると、同一ロットのレンズからサンプルを抽出して、標準光源D65について、透過率測定器(例えば、株式会社村上色彩技術研究所製の高速積分球式分光透過率測定器「DOT−3C」)を用いて光線透過率の測定を行い、JIST7330(2000)に準拠して視感透過率を算出する。
本実施形態では、各類のレンズとも、1等級から8等級にかけて視感透過率が順次低下するよう設計されている。ただし、B類のレンズは、異なる等級のレンズが光の波長440nmにおける透過率と光の波長600nmにおける透過率の大小関係が逆になるため、各等級で視感透過率がほとんど変わらない値となっている。
【0029】
次に、色覚補正メガネの使用者に適合したレンズを選択する方法について説明する。レンズを購入しようとする色覚異常者が、検査により、A類の色覚補正メガネが最適であると判断された場合は、明度向上レンズとしてもA類のレンズを用いる。例えば、表1に示したA6の透過率曲線を有するレンズ(以下「A6レンズ」のように言う。)が色覚補正レンズとして最適であるいう検査結果が出た場合、色覚補正レンズとしてA6レンズを選択し、明度向上レンズとして、A6レンズよりも視感透過率の大きいA1からA5までの透過率曲線を有するレンズを選択する。
【0030】
また、使用者にB類の色覚補正レンズが最適であると診断された場合、明度向上レンズとしてB類のレンズの中で色覚補正レンズよりも視感透過率の大きいレンズを選択することもできるが、B類のレンズは各等級の視感透過率がほとんど変わらないため、A類のレンズを明度向上レンズに選択することができる。例えば、色覚補正レンズとして表2のB4レンズを選択した場合、B1からB3のレンズで充分に使用者が感じる明るさを確保できないときは、明度向上レンズとしてA1やA2のレンズを用いることができる。
【0031】
色覚補正レンズとしてC類又はD類のレンズを選択する場合は、明度向上レンズとして色覚補正レンズと同類のレンズの中で色覚補正レンズよりも視感透過率の大きいレンズの中から明度向上レンズを選択する。
【0032】
本発明の色覚補正レンズは、上記の実施形態に限らず、例えば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば、透過率曲線が表1乃至表4に示した透過率分布と異なる透過率分布や、
図1乃至
図4に示した透過率曲線と異なる形状の透過率曲線を有していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の色覚補正メガネは、薄暗い場所で視力が落ちることを抑制でき、かつ意匠性に優れるため、色覚補正メガネに好適に採用することができる。