(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6035163
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】皮膚ガス測定装置および皮膚ガス測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/02 20060101AFI20161121BHJP
G01N 33/497 20060101ALI20161121BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20161121BHJP
G01N 1/22 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
G01N1/02 W
G01N33/497 Z
A61B5/00 L
G01N1/22 B
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-29140(P2013-29140)
(22)【出願日】2013年2月18日
(65)【公開番号】特開2014-157125(P2014-157125A)
(43)【公開日】2014年8月28日
【審査請求日】2015年8月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】392026693
【氏名又は名称】株式会社NTTドコモ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】檜山 聡
【審査官】
後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/121260(WO,A1)
【文献】
特開2013−061159(JP,A)
【文献】
特開平8−150144(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00− 1/44
A61B 5/00
G01N 33/48−33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚に密着させる開口部を持つ皮膚ガス捕集空間を2つ以上含む、皮膚ガス捕集部と、
前記皮膚ガス捕集空間に捕集された皮膚ガス成分を測定し、前記皮膚ガス成分の放出量又は濃度を算出する、皮膚ガス測定部と、を備え、
前記皮膚ガス測定部は、
前記それぞれの皮膚ガス捕集空間に捕集された前記皮膚ガス成分について算出された放出量もしくは濃度を相互に比較するか、又は予め定められた閾値と比較することで、前記それぞれの皮膚ガス捕集空間に捕集された前記皮膚ガス成分の漏れを判断し、
漏れていないと判断される前記皮膚ガス捕集空間について、前記皮膚ガス成分の放出量又は濃度から、それらの平均値、中央値、最頻値、又は最高値を算出して提示値とする、
皮膚ガス測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の皮膚ガス測定装置であり、前記皮膚ガス測定部が、
前記それぞれの皮膚ガス捕集空間について、前記皮膚ガス成分の放出量又は濃度から、それらの平均値、中央値、最頻値、又は最高値を算出して提示値とする、皮膚ガス測定装置。
【請求項3】
請求項1記載の皮膚ガス測定装置であり、前記皮膚ガス捕集部はさらに前記2つ以上の皮膚ガス捕集空間における前記皮膚ガス成分の混合手段を有し、
前記皮膚ガス測定部が、前記混合手段により混合された前記2つ以上の皮膚ガス捕集空間における前記皮膚ガス成分の放出量または濃度を算出して提示値とする、皮膚ガス測定装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の皮膚ガス測定装置であり、さらに前記皮膚の表面を含む前記皮膚ガス捕集空間内の水分を除去又は抑制する水分除去・抑制手段を有する、皮膚ガス測定装置。
【請求項5】
請求項4記載の皮膚ガス測定装置であり、前記水分除去・抑制手段が、吸水材、除湿剤、乾燥材若しくは小型送風装置、又は吸水材、除湿剤、乾燥材若しくは小型送風装置の組み合わせによって構成される、皮膚ガス測定装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の皮膚ガス測定装置であり、さらに表示部を備え、前記表示部が、測定条件データ、及びそれぞれの皮膚ガス捕集空間の漏れの判断結果、それぞれの皮膚ガス捕集空間における前記皮膚ガス成分の放出量または濃度の算出結果、前記皮膚ガス成分の提示値の算出結果、のいずれか一つ以上を表示する、皮膚ガス測定装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の皮膚ガス測定装置であり、さらに通信部を備え、前記通信部が、測定条件データ、及びそれぞれの皮膚ガス捕集空間の漏れの判断結果、それぞれの皮膚ガス捕集空間における前記皮膚ガス成分の放出量または濃度の算出結果、前記皮膚ガス成分の提示値の算出結果、のいずれか一つ以上を送受信可能とする、皮膚ガス測定装置。
【請求項8】
皮膚表面と隔壁によって独立された2つ以上の閉空間からなる皮膚ガス捕集空間を形成するステップと、
前記形成された2つ以上の前記皮膚ガス捕集空間における皮膚ガス成分を測定するステップと、
前記測定された皮膚ガス成分の放出量または濃度を相互に比較して又は予め定めた閾値と比較して、それぞれの皮膚ガス捕集空間で皮膚ガス成分の漏れを判断するステップと、
前記皮膚ガス成分が漏れていないと判断される前記皮膚ガス捕集空間の前記放出量または前記濃度から、それらの平均値、中央値、最頻値又は最高値を算出して提示値とするステップ、を有する、皮膚ガス測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の皮膚表面から放出されるガス(皮膚ガス)成分の測定において、皮膚ガス成分の放出量や濃度を精度良く測定する装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、国民医療費は増加の一途を辿り、疾病の発生や進行を未然に防ぐ「予防医療」が注目を集めている。予防医療を成功させるためには、いつでもどこでも簡単・手軽に自身の健康状態を詳細に検査・確認できる測定デバイスと、個人差を考慮したサービス(健康アドバイス等)の実現が望まれる。これまで、脈拍や血圧、心拍数、活動量や歩数などを計測することで自身の健康状態を簡易的に検査・確認することが一般的であった。これらは主に加速度計などの物理センサを用いた測定デバイスであるが、物理センサだけでは得られにくい生体情報も存在する。例えば医療機関等では、血液や尿、リンパ液、髄液等の生体サンプルを採取して測定することで、物理センサだけでは得られにくい生化学的な生体情報を取得し、健康状態の検査・確認や病気の診断に利用している。しかし、これらの生体サンプルは、医療従事者ではない一般の個々人が採取するには技術的な困難が伴ったり、採取の際に感染するリスクが伴ったり、人体への侵襲や精神的な負担が伴ったりするため、簡単・手軽な測定には適していない。
【0003】
採取が容易で感染リスクが無く、人体への侵襲や精神的な負担が伴わない生体サンプルの一つとして、呼気ガスや皮膚ガス等の生体ガスが挙げられる。生体ガスは、血液などの液体サンプルと同様に、個人差を反映した生体情報の宝庫であり、生体ガス中に含まれる特定のガス成分の有無や濃度を計測することで、健康状態に関する情報が得られることが知られている。
【0004】
例えば、最近、安静状態、運動状態の変化により、生体内代謝などの生体反応の変化に伴い、呼気ガスや皮膚ガス等の生体ガスにも成分や濃度が変動することが知られてきた(非特許文献1,2)。さらに睡眠時においても呼気ガス中のアセトンが変動することも知られており(非特許文献3)、日常の種々の身体状態である、睡眠時、安静状態時、日常作業時又は運動時などのそれぞれの状態での生体ガスからの情報を得ることが重要であると認識されてきた。
【0005】
生体ガスそして、生体ガスの中でも皮膚ガスは、呼気ガスのように吹きかけるといった能動的な動作が必要ないため、腕時計に代表される皮膚に接して身につけるタイプのデバイスに皮膚ガス測定装置を搭載出来れば、デバイスを身につけているだけで常時計測・無意識計測による健康管理が実現できるものと期待される。
【0006】
このような背景から、皮膚ガス成分を捕集・測定することで、生体の健康状態等に代表される生体情報を取得・把握する技術に関して従来から検討がなされている。例えば、特許文献1ではスパイラル形状の溝を有する部材を皮膚に密着させ、溝にキャリアガスを流すことで皮膚ガス成分を捕集する手法が開示されている。特許文献2では、開口部がある空間および閉空間を有する装置の開口部を皮膚に密着させて皮膚ガス成分を捕集し、ガスの流通制御を行う弁部材により、開口部がある空間から閉空間に皮膚ガス成分を流通させ、皮膚ガス成分を閉空間に貯留する手法が開示されている。特許文献3では、ガスセンサ、通気用細管および開口部を有する容器の開口部を皮膚に密着させ、微量流量の皮膚ガス成分を大気中に排気させながら皮膚ガス成分を捕集、測定する手法が開示されている。特許文献4では、開口部と皮膚ガス捕集剤を有する容器の開口部を皮膚に密着させて、皮膚ガス捕集剤に皮膚ガス成分を捕集する手法が開示されている。特許文献5では、指サックを指にはめることにより閉空間を形成し、皮膚ガス成分を捕集する手法が開示されている。
【0007】
前記特許文献1乃至4に基づく皮膚ガス測定装置ならびに皮膚ガス測定方法によれば、皮膚ガス測定装置を搭載した装用型デバイスを身につけて安静にしていることで、装着部位における皮膚ガス成分の放出量や濃度を測定できる。しかし、デバイスを身につけた状態でユーザが普段通りの日常生活を送ったり、激しい運動を行ったりすると、ユーザの日常動作や運動によって、デバイスと皮膚表面とを密着させて形成した閉空間を維持できず、測定対象となる皮膚ガス成分が前記閉空間から漏れてしまうことがある。このように従来技術では、ユーザが常時計測を行おうとすると、この漏れが頻繁に発生し易く、前記皮膚ガス成分の単位時間、単位面積あたりの放出量(例えばpg/min・mm
2)や濃度を精度良く測定することができないという問題があった。
【0008】
一方、前記特許文献5の指サックによる捕集方法によれば、日常動作や運動を行っても前記閉空間の維持が可能であるため、前記皮膚ガス成分の単位時間、単位面積あたりの放出量や濃度を精度良く測定できる。しかし、測定中は指1本がほぼ使えなくなってしまうばかりか、外観的にも日常生活を送るには不自然である問題があった。また、当該方法は、指先などに測定部位が限定されてしまう問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4024817号公報
【特許文献2】特許第3850662号公報
【特許文献3】特開2010−148692号公報
【特許文献4】特許第4654045号公報
【特許文献5】特許第4057039号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】K.Mori,et.al.,Redox Report,vol.13,No.3,pp.139−142,2008
【非特許文献2】C.Turner,et.al.,Rapid Commun.Mass Spectrom.,vol.22,pp.526−532,2008
【非特許文献3】J.King,et.al.,Physiol.Meas.,vol.33,pp.413−428,2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記問題点に鑑み、本発明の課題は日常動作や運動を行っても皮膚ガス成分の単位時間、単位面積あたりの放出量や濃度を精度良く測定可能で、日常生活に支障をきたさずに、どの部位にも汎用的に適用可能な皮膚ガス測定装置および皮膚ガス測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題が、皮膚ガス捕集部に、前記皮膚ガス捕集空間を2つ以上設けることで、解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
即ち、本発明の皮膚ガス測定装置は、皮膚に密着させる開口部を持つ皮膚ガス捕集空間を2つ以上含む皮膚ガス捕集部と、前記皮膚ガス捕集空間に捕集された皮膚ガス成分を測定し、前記皮膚ガス成分の放出量又は濃度を算出する皮膚ガス測定部とを備えることを特徴とする、皮膚ガス測定装置である。
【0014】
また、本発明の皮膚ガス測定装置は、前記皮膚ガス成分の放出量又は濃度の算出を、前記2つ以上の皮膚ガス捕集空間のそれぞれに基づきそれらの平均値、中央値、最頻値、又は最高値を算出して提示値とすることを特徴とする、皮膚ガス測定装置である。
【0015】
本発明の皮膚ガス測定装置は、さらに前記皮膚ガス測定部が、前記それぞれの皮膚ガス捕集空間に捕集された前記皮膚ガス成分について算出された放出量または濃度を相互に比較するか、又は予め定められた閾値と比較することで、前記それぞれの皮膚ガス捕集空間に捕集された前記皮膚ガス成分の漏れを判断し、漏れていないと判断される前記皮膚ガス捕集空間について、前記皮膚ガス成分の放出量又は濃度から、それらの平均値、中央値、最頻値、又は最高値を算出して提示値とすることを特徴とする、皮膚ガス測定装置である。
【0016】
また、本発明の皮膚ガス測定装置は、さらに前記2つ以上の皮膚ガス捕集空間における前記皮膚ガス成分の混合手段を有することを特徴とし、前記皮膚ガス測定部が、前記混合手段により混合された前記2つ以上の皮膚ガス捕集空間における前記皮膚ガス成分の放出量または濃度を算出して提示値とすることを特徴とする、皮膚ガス測定装置である。
【0017】
また、本発明の皮膚ガス測定装置は、さらに前記皮膚の表面を含む前記皮膚ガス捕集空間内の水分を除去又は抑制する水分除去・抑制手段を有することを特徴とする、皮膚ガス測定装置である。
【0018】
さらに、前記水分除去・抑制手段が、吸水材、除湿剤、乾燥材若しくは小型送風装置、又は吸水材、除湿剤、乾燥材若しくは小型送風装置の組み合わせによって構成される、ことを特徴とする、皮膚ガス測定装置である。
【0019】
また、本発明の皮膚ガス測定装置は、さらに、表示部を備えることを特徴とし、前記表示部が、測定日時、温度、湿度などの測定条件データ、又はそれぞれの皮膚ガス捕集空間の漏れの判断結果、それぞれの皮膚ガス捕集空間における前記皮膚ガス成分の放出量または濃度の算出結果、前記皮膚ガス成分の提示値の算出結果、のいずれか一つ以上を表示することを特徴とする、皮膚ガス測定装置である。
【0020】
また、本発明の皮膚ガス測定装置は、さらに、通信部を備えることを特徴とし、前記通信部が、測定日時、温度、湿度などの測定条件データ、及びそれぞれの皮膚ガス捕集空間の漏れの判断、それぞれの皮膚ガス捕集空間における前記皮膚ガス成分の放出量または濃度の算出結果、前記皮膚ガス成分の提示値の算出結果、のいずれか一つ以上を送受信可能とすることを特徴とする、皮膚ガス測定装置である。
【0021】
本発明はまた皮膚ガス測定方法を提供するものであり、本発明の皮膚ガス測定方法は、皮膚表面と隔壁とによって独立された2つ以上の閉空間からなる皮膚ガス捕集空間を形成するステップと、前記形成された2つ以上の前記皮膚ガス捕集空間における皮膚ガス成分の放出量または濃度を測定・算出するステップと、前記算出された皮膚ガス成分の放出量または濃度から、それらの平均値、中央値、最頻値、又は最高値を算出して提示値とするステップとを有することを特徴とする、皮膚ガス測定方法である。
【0022】
さらに本発明の皮膚ガス測定方法は、皮膚表面と隔壁によって独立された2つ以上の閉空間からなる皮膚ガス捕集空間を形成するステップと、前記形成された2つ以上の前記皮膚ガス捕集空間における皮膚ガス成分を測定・算出するステップと、前記算出された皮膚ガス成分の放出量または濃度を相互に比較して又は予め定めた閾値と比較して、それぞれの皮膚ガス捕集空間で皮膚ガス成分の漏れを判断するステップと、前記皮膚ガス成分が漏れていないと判断される前記皮膚ガス捕集空間の前記放出量または前記濃度から、それらの平均値、中央値、最頻値、又は最高値を算出して提示値とするステップとを有することを特徴とする、皮膚ガス測定方法である。
【0023】
さらに、本発明の皮膚ガス測定方法は、皮膚表面と隔壁とによって独立された2つ以上の閉空間からなる皮膚ガス捕集空間を形成するステップと、前記2つ以上の前記皮膚ガス捕集空間における皮膚ガス成分を混合するステップと、前記混合された前記皮膚ガス捕集空間における皮膚ガス成分を測定・算出するステップと、前記算出された皮膚ガス成分の放出量または濃度を提示値とするステップとを有することを特徴とする、皮膚ガス測定方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、2つ以上の皮膚ガス捕集空間を有することから、ユーザの日常動作(安静時のみならず、睡眠時又は運動時)によって、前記皮膚ガス捕集空間の一部から皮膚ガス成分が漏れてしまったとしても、漏れの判断が可能となり、その結果、漏れによる影響を排除するか小さくすることができる。従って、皮膚ガス成分の単位時間、単位面積あたりの放出量や濃度を精度良く算出することができる。また、本発明は任意の皮膚表面上に適用できるため、日常生活に支障をきたさずに、どの部位にも汎用的に適用可能な皮膚ガス測定装置および皮膚ガス測定方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態による皮膚ガス測定装置を説明するための構成例である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態による皮膚ガス捕集部を説明するための構成例である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態による皮膚ガス捕集空間の開口部側から見た図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態による皮膚ガス測定装置を説明するための構成例である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態による皮膚ガス測定装置を説明するための構成例である。
【
図6】
図6は、実施例1における皮膚ガス測定方法のフローチャートである。
【
図7】
図7は、実施例2における皮膚ガス測定方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1に示されるように本発明の皮膚ガス測定装置は、皮膚ガス捕集部100と、皮膚ガス測定部101とを含む。
【0027】
本発明の皮膚ガス捕集部100は、皮膚から放出されるガス(皮膚ガス)成分を、一定の容積中に一定時間捕集する皮膚ガス捕集空間を2つ以上含む。ここで前記皮膚ガス捕集空間とは、皮膚表面から放出される皮膚ガス成分を捕集する開口部と共に、捕集された皮膚ガス成分を保持するために形成される空間を意味する。前記空間は、皮膚ガス成分捕集の際に、前記開口部に密着される皮膚と共に隔壁により閉空間を形成する。
【0028】
ここで前記開口部の形状・サイズについては特に制限はなく、皮膚ガス成分の捕集される身体の位置・形状又は捕集皮膚ガス成分の種類・予想される濃度や放出量などにより、前記開口部から皮膚ガス成分が漏れないように、かつ必要な容量の捕集空間となるように適宜選択することができる。さらに、前記隔壁の形状・サイズには特に制限はなく、皮膚ガス成分捕集の際に、前記開口部に密着される皮膚と共に閉空間を形成するものであればよい。例えば、前記開口部を表面の一部とする、立方形状、直方形状、円筒形状、多角形状、球状形状などである。また、前記閉空間のサイズには特に制限はないが、前記閉空間の必要な容積から選択することができる。また、各皮膚ガス捕集空間の開口部の面積が同一、かつ各皮膚ガス捕集空間の体積が同一であることが望ましい。皮膚ガス測定部101は、皮膚ガス捕集部100と一体になって、細分化された皮膚ガス捕集空間の各々に配置されていても良いし、細分化された複数の皮膚ガス捕集空間に対して1つの皮膚ガス測定部101を配置しても良い。前者の構成では、細分化された各皮膚ガス捕集空間の測定を並列して全て同時に行えるため、より短い時間で測定を行える。
【0029】
本発明の皮膚ガス捕集部100は、前記皮膚ガス捕集空間を2つ以上有することを特徴とする。皮膚ガス捕集空間は少なくとも2つあればよいが、この数が多いほど隔壁が多くなり、皮膚ガス捕集空間が細分化される。例えば
図2には、200、201、202、203、204、205の6つの皮膚ガス捕集空間を2×3の配列で形成された1つの直方形状を示す。このように、皮膚ガス捕集空間を細分化することで、ユーザの日常動作や運動によって皮膚ガス捕集空間の一部から皮膚ガス成分が漏れてしまったとしても、その影響範囲を最小限に留められることから、皮膚ガス捕集空間の数は多い方が望ましい。本発明においては、前記2つ以上の前記皮膚ガス捕集空間のそれぞれが、同じ構造であってよいが、又それぞれが異なっていてもよい。さらに、2つ以上の前記皮膚ガス捕集空間が規則的に配置されていてもよく、又は不規則的に配置されていてもよい。皮膚ガス成分の捕集される身体の位置・形状又は捕集皮膚ガス成分の種類・予想される濃度や放出量などにより、前記開口部から皮膚ガス成分が漏れないように、かつ必要な容量の捕集空間となるように適宜選択することができる。さらに本発明の2つ以上の皮膚ガス捕集空間は、必ずしも同一平面内に配置される必要はない。例えば凹凸のある皮膚からの皮膚ガス成分を捕集するために、前記凹凸に合せてそれぞれの開口部を3次元的に配置することが可能である。
【0030】
さらに前記隔壁は、固定されている必要はなく、場合により、手動又は自動で取り外すことができる。例えば2つ以上の隣接する皮膚ガス捕集空間が1つの隔壁を共有している場合、手動又は自動で共有隔壁を取り外すことで、これらの2つの皮膚ガス捕集空間を1つにすることができる。
【0031】
本発明の2つ以上の皮膚ガス捕集空間、及び前記開口部を形成する材料についても特に制限はないが、捕集される皮膚ガス成分の測定に影響を与えないか、又は無視できる材料であればよい。具体的には、皮膚ガス捕集空間は皮膚ガス成分を吸着しない材料かつ皮膚ガス成分測定に影響を与えるガス成分を放出しない材料で作られていること、もしくは皮膚ガス捕集空間の内壁が前記材料でコーティングされていることが望ましく、テフロン(登録商標)やガラス、ポリフッ化ビニル樹脂等が望ましいが、これらに限定されるものではない。さらに、少なくとも前記開口部は皮膚と密着させるために、皮膚との生体適合性がある材料の選択が好ましい。具体的には、皮膚ガス捕集空間の開口部の皮膚に密着する部分は、皮膚に長時間密着してもかぶれ等の悪影響を及ぼさない生体適合性・親和性が高い材料であることが望ましく、ハイドロキシアパタイトやシリコン、セラミックス等が望ましいが、これらに限定されるものではない。また場合により、前記開口部を形成する材料が柔軟性を有することが好ましい。というのは前記開口部が密着される皮膚の形状に沿って、2つ以上の開口部及び皮膚ガス捕集空間が配置され得るからであり、この配置により、以下説明する漏れが低減されるからである。
【0032】
ここで、本発明で捕集され、測定される皮膚ガス成分については特に制限はなく、皮膚表面から放出される種々の皮膚ガス成分が上げられる。例えば、日常活動などの条件で、身体状態と関連付けられる皮膚ガス成分である、アセトン、水素、一酸化炭素、メタン、硫化水素、イソプレン、トリメチルアミン、アンモニア、メタノール、アセトアルデヒド、エタノール、一酸化窒素、ホルムアルデヒド、ノニナール等が挙げられる。
【0033】
本発明の皮膚ガス測定装置はさらに、皮膚ガス測定部101を含むことを特徴とする。前記皮膚ガス測定部101は、前記皮膚ガス捕集空間に捕集された皮膚ガス成分を測定し、前記皮膚ガス成分の放出量又は濃度を算出する手段を有する。ここで前記皮膚ガス捕集空間に捕集された皮膚ガス成分を測定する方法は、例えば種々の知られたセンサ、又は種々のガス成分分析装置、例えばガスクロマトグラフィー装置及びガスクロマトグラフィー装置と組合せた分析装置などが挙げられる。本発明では、利便性、感度などから、例えば半導体式ガスセンサ、カーボンナノチューブ型センサ、グラフェン型センサ、電気化学式センサ、光ファイバー型センサ、薄膜型センサ、MEMS熱伝導式センサ、弾性表面波センサ、マイクロ熱電式センサ、接触燃焼式センサ、起電力変化方式センサ、光学式センサ等の使用が望ましく、特に半導体式ガスセンサの使用が好ましい。さらに、皮膚ガス測定部は、特定の1ガス成分のためのセンサであっても良いし、複数種類のセンサをアレイ状に配置し、複数の異なる皮膚ガス成分を測定できるような構成であっても良い。この場合、皮膚ガス測定部101は、アレイ状に配置されることに限定されるものではなく、小型化したガスクロマトグラフィーチップ等を用いて皮膚ガス成分を分離し、複数の皮膚ガス成分を測定できるようにしてもよい。さらにこれらのセンサは通常、各皮膚ガス成分の有無、存在量に依存して、シグナルを出力する。
【0034】
本発明の皮膚ガス測定部101はさらに、前記測定された皮膚ガス成分の放出量又は濃度を算出する手段を有する。前記算出方法には特に制限はなく、前記測定のためのセンサから出力されるシグナルに基づき、前記皮膚ガス捕集空間内の皮膚ガス成分の放出量や濃度を算出する。このためには、前記センサの出力シグナルと放出量又は濃度の関係を表す検量線などの較正手段が必要となる場合があるが、ユーザが用意する又はセンサが自動で計算することが可能である。さらに、放出量又は濃度の変動や時間的な変動などを算出することが望まれる場合には、所定の時間毎に前記皮膚ガス捕集空間内の皮膚ガス成分の放出量や濃度を算出すればよい。
【0035】
また、この算出は、各皮膚ガス捕集空間毎に独立して行うことができ、又は、いくつかの皮膚ガス捕集空間をまとめて行うことも可能である。これにより、本発明の皮膚ガス測定装置では、(i)それぞれの皮膚ガス捕集空間下の個別の皮膚表面から放出された皮膚ガス成分の放出量又は濃度をそれぞれ測定することが可能となり、(ii)特定の皮膚ガス捕集空間下の皮膚表面から放出された皮膚ガス成分の放出量又は濃度をまとめて測定することが可能となり、(iii)全ての皮膚ガス捕集空間下の皮膚表面から放出された皮膚ガス成分の放出量又は濃度を全てまとめて測定することが可能となる。例えば、皮膚ガス成分の放出量又は濃度が異なることが予想される身体の一部(例えば創傷部を含む皮膚)に本発明の皮膚ガス測定装置を使用することで、皮膚ガス成分の放出量又は濃度の分布など、より細かい生体情報が得られることになる。
【0036】
さらに本発明において算出された前記皮膚ガス成分の放出量又は濃度から、提示値を算出する方法については特に制限はない。本皮膚ガス測定装置の使用の目的に応じて、必要な計算を行うことができる。例えば前記全ての皮膚ガス捕集空間について、又は特定の皮膚ガス捕集空間について、統計的処理を望む場合、前記算出された前記皮膚ガス成分の放出量又は濃度の値に基づいて、知られた方法で統計処理を行うことができる。例えば、前記全ての皮膚ガス捕集空間について、又は特定の皮膚ガス捕集空間についての、平均値、中央値、最頻値、又は最高値などを算出し、前記皮膚ガス成分の提示値とすることである。これらの統計的処理は、ユーザが手動で行うこともできるが、前記皮膚ガス測定部101がかかる処理手段を含むことも好ましい。
【0037】
本発明の皮膚ガス測定部101はさらに、皮膚ガス捕集空間に捕集された皮膚ガス成分の漏れを判断する手段を含むことを特徴とする。ここで皮膚ガス捕集空間に捕集された皮膚ガス成分の漏れとは、皮膚ガス捕集空間に捕集された皮膚ガス成分の一部又は全部が、捕集の間、又はその後の前記皮膚ガス成分の放出量又は濃度を測定・算出する間に、前記皮膚ガス捕集空間から漏れることを意味する。従って、前記漏れがある場合には、漏れがない場合と比較して、捕集された皮膚ガス成分の一部又は全部の測定・算出された放出量又は濃度が低くなる。本発明の皮膚ガス測定装置を用いる場合に起こる漏れの原因は、前記皮膚と前記開口部との密着性が破れる場合であり、例えば、ユーザの急激な身体運動、前記皮膚ガス測定装置と他の物品、人などとの接触、ユーザの皮膚形状の変形などが挙げられる。具体的には、ユーザの日常生活における、睡眠時の寝返り、覚醒時の移動、種々の機器、道具の使用、運動時の筋肉の使用などである。
【0038】
本発明において、漏れの判断は、前記それぞれの皮膚ガス捕集空間に捕集された前記皮膚ガス成分について測定・算出された放出量または濃度を相互に比較するか、又は予め定められた閾値と比較することにより行う。その上で、漏れがないと判断された皮膚ガス捕集空間における前記皮膚ガス成分の放出量又は濃度に基づいて、それらの平均値、中央値、最頻値、又は最高値を算出して提示値とする。なお、皮膚ガス捕集空間から皮膚ガス成分が漏れたかどうかの判断は、これらに限定されるものではない。例えば、皮膚ガス捕集空間の開口部周辺に圧力センサや照度センサを設置し、これらセンサの測定結果から、皮膚ガス成分が漏れているか判断しても良い。
【0039】
前記相互に比較するためには、特に制限はないが、前記それぞれの皮膚ガス捕集空間に捕集された前記皮膚ガス成分について測定・算出された放出量または濃度を直接比較するか、又は測定誤差も含めて有意の差があるかどうかを判定することで比較できる。また予め定められた閾値は、例えば捕集する皮膚ガスの成分について、知られた(予想される)放出量又は濃度をある程度下回る値を閾値とする、又はこれまで測定されてきたユーザ固有の皮膚ガス成分の放出量または濃度に基づき決めることが可能である。
【0040】
また皮膚ガス捕集部101はさらに、前記2つ以上の皮膚ガス捕集空間における前記皮膚ガス成分の混合手段を有することを特徴とする(
図3)。前記2つ以上の皮膚ガス捕集空間301,304が共通の隔壁307を共有している場合に、前記隔壁307を除去することで、2つの皮膚ガス捕集空間301と304を1つの皮膚ガス捕集空間にすることを可能にする。さらに、必要な場合、2つ以上の共通の隔壁を除去し、2つ以上の皮膚ガス捕集空間を1つの皮膚ガス捕集空間にすることを可能にする。
【0041】
さらに皮膚ガス捕集部101は、皮膚の表面を含む前記皮膚ガス捕集空間内の水分を除去又は抑制する水分除去・抑制手段を有することを特徴とする。これらの水分は場合により、皮膚ガス捕集空間内の皮膚ガス成分と混合されることで、各皮膚ガス成分の測定に悪影響を与える可能性がある。特に半導体式ガスセンサは水分が多い場合、検出感度が低下することがある。水分除去・抑制手段について、具体的には、例えば、吸水剤、除湿剤、乾燥剤、小型送風装置、のいずれか、またはこれらの組み合わせによって構成される。発生した水分を除去するための吸水剤、除湿剤、乾燥剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウムやシリカゲル、酸化カルシウム、塩化カルシウム、活性炭、紙片、繊維などが使用できるが、これらに限定されるものではない。また、例えば、小型送風装置にて皮膚表面に風を吹き掛けることで、皮膚表面を乾燥させ、水分が発生しにくい状態を作り出してもよい。
【0042】
さらに本発明の皮膚ガス測定装置は、
図4に示されるように表示部402を備えてもよい。前記表示部に表示する内容は特に限定されないが、ユーザデータ、測定日時、温度、湿度などの測定条件データ、及びそれぞれの皮膚ガス捕集空間の漏れの判断結果、それぞれの皮膚ガス捕集空間における前記皮膚ガス成分の放出量または濃度の算出結果、前記皮膚ガス成分の提示値の算出結果、のいずれか一つ以上を表示することが好ましい。ユーザはこの表示により、皮膚ガス測定装置の設定状態、皮膚ガス捕集空間の漏れを容易にチェックでき、また日常動作中や運動中であっても、常に皮膚ガス成分の放出量、濃度の変化を観察することができる。
【0043】
また本発明の皮膚ガス測定装置はさらに、
図5に示されるように通信部502を備えてもよい。前記通信部502は、有線、無線又は電話回線、インターネットを介してデータの送受信を行う通信手段を含む。前記通信部502は、測定日時、温度、湿度などの測定条件データ、及びそれぞれの皮膚ガス捕集空間の漏れの判断、それぞれの皮膚ガス捕集空間における前記皮膚ガス成分の放出量または濃度の算出結果、前記皮膚ガス成分の提示値の算出結果、のいずれか一つ以上を送受信可能とする。これにより、ユーザと、ユーザをモニターする、医者、介護者、運動インストラクターなどとの間で、前記結果を、望むならばオンラインで送受信可能となり、ユーザへの遠隔診断、遠隔治療、遠隔指示などが可能となる。また、これらのデータを蓄積し、管理することで、ユーザへの健康アドバイス、運動指針提供などの遠隔通信サービスなどが可能となる。
【0044】
また本発明の皮膚ガス測定装置を、ユーザがいつでも必要な際に使用可能なように携帯型に構成することも可能である。例えば腕時計型(手首)、足輪型(足首)、絆創膏型(背中、腹部、顔面など)、指輪型(指)、ネックレス型(首の後ろ)、眼鏡型(こめかみ、耳付近)、イヤホン・ヘッドホン型(耳付近)、靴型(足)などが可能である。さらに携帯型の本発明の皮膚ガス測定装置を携帯電話などの携帯端末、パソコンなどに有線または無線によって接続するように構成することも可能である。この場合には、測定結果などを携帯端末、パソコンで処理、記憶、表示させることも好ましい。また、上で説明した通信部の機能を、これらの携帯端末、パソコン上で作用させることも好ましい。
【0045】
本発明の皮膚ガス測定方法の1つの実施態様が
図6に示される。ステップ601(S601)で、皮膚ガス捕集部100により、皮膚に密着させる開口部を持つ2つ以上に細分化された各皮膚ガス捕集空間に皮膚ガス成分を捕集する。ここで皮膚ガス捕集空間への皮膚ガス成分の捕集方法については上記該当する詳細な説明が参照できる。さらにステップ602(S602)で、皮膚ガス測定部101により、各皮膚ガス捕集空間の皮膚ガス成分を測定し、単位時間あたり、単位面積あたりの皮膚ガス成分の放出量を算出する。ここで皮膚ガス成分の測定及び算出については上記該当する詳細説明を参照できる。
【0046】
さらに、本発明の皮膚ガス測定方法は、漏れを判断するステップ603(S603)を含み得る。ここで、前ステップで得られた各皮膚ガス捕集空間の放出量を比較又は予め定められた閾値と比較して、皮膚ガス成分が漏れているかどうかを判断する。ここで前記判断については上記該当する詳細説明を参照できる。
【0047】
従って、本発明の皮膚ガス測定方法により、種々の理由から、捕集された皮膚ガス成分が漏れたと判断された前記皮膚ガス捕集空間がある場合でも、その他の漏れていないと判断された皮膚ガス捕集空間について、得られた放出量等を用いて、平均値などの提示値を得ることが可能となる(S604)。
【0048】
さらに、本発明の皮膚ガス測定方法は
図7に示されるように、ステップ701(S701)で、各皮膚ガス捕集空間に皮膚ガス成分を捕集した後、ステップ702(S702)で、各皮膚ガス捕集空間の皮膚ガス成分を混合するステップを有する。この混合を行うためには、例えば上記詳細に説明したように、各独立した皮膚ガス捕集空間の隔壁を除去することで実施できる。あるいは、各皮膚ガス捕集空間の天井部を一時的に開放して1つの別の空間内に捕集ガス成分を集約してもよい。このステップにより、いくつかの捕集空間に捕集された各皮膚ガス成分を1つにまとめることができる。さらに混合された皮膚ガス成分につき放出量や濃度などの提示値を算出することができる(S703、S704)。
【0049】
さらに本発明を実施例に基づき説明する。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
本実施例では、体積と開口部の面積が同一である6つの皮膚ガス捕集空間(
図2、A〜F)を有する皮膚ガス捕集部100により、皮膚ガス成分を一定時間捕集し、皮膚ガス測定部101によってアセトンの放出量を測定・算出することとする。なお、ここでは例として、測定対象部位の皮膚表面から単位時間、単位面積あたりに放出されているアセトン放出量の真値が7.2pg/min・mm
2であったと仮定する。また、6つの各皮膚ガス捕集空間のアセトン放出量が、A=1.0pg/min・mm
2、B=3.0pg/min・mm
2、C=7.3pg/min・mm
2、D=6.8pg/min・mm
2、E=7.3pg/min・mm
2、F=7.6pg/min・mm
2、と測定・算出されたと仮定する。
【0051】
次に、個々の皮膚ガス捕集空間からアセトンが漏れているか否かを判定するため、予め閾値を2.0pg/min・mm
2と設定した場合、皮膚ガス捕集空間Aはアセトンが漏れていると判定され、皮膚ガス捕集空間B、C、D、E、Fはアセトンが漏れていないと判定される。次に、漏れていないと判定された5つの皮膚ガス捕集空間のアセトン放出量について、平均値(=6.4pg/min・mm
2)、中央値(=7.3pg/min・mm
2)、最頻値(=7.3pg/min・mm
2)、最高値(=7.6pg/min・mm
2)を算出し、そのいずれかの算出結果を提示値とすることができる。
【0052】
なお、前記閾値は2.0pg/min・mm
2と設定したが、任意の値を設定することができ、例えば対象者の日常の皮膚アセトン放出量の最低値や、各皮膚ガス捕集空間のアセトン放出量の平均値ないしは中央値等に基づいて設定されるのが好ましい。また、前記閾値を設定することなく、各皮膚ガス捕集空間のアセトン放出量から平均値(=5.5pg/min・mm
2)、中央値(=7.1pg/min・mm
2)、最頻値(=7.3pg/min・mm
2)、もしくは最高値(=7.6pg/min・mm
2)を算出し、そのいずれかの算出結果を提示値とすることも可能である。
【0053】
この例から、本発明では皮膚ガス成分を捕集する小閉空間が複数存在することから、ある小閉空間の皮膚ガス成分が漏れてしまったとしても、上記算出例のように、その影響を排除して、またはその影響を小さくして、皮膚ガス成分の単位時間、単位面積あたりの放出量や濃度を精度良く算出することができ、真値である7.2pg/min・mm
2に概ね近しい値が得られることが分かる。
(実施例2)
実施例1と同様に、体積と開口部の面積が同一である6つの皮膚ガス捕集空間(A〜F)を有する皮膚ガス捕集部100により、皮膚ガス成分を一定時間捕集し、皮膚ガス測定部101によってアセトン放出量を測定・算出することとする。ただし、本実施例では、各皮膚ガス捕集空間のアセトン放出量を個別に測定せず、各皮膚ガス捕集空間に捕集された皮膚ガス成分を混合して、皮膚ガス測定部でアセトン放出量を測定・算出し、提示値を求めるものとする。ここで、測定・算出されたアセトン放出量が実施例1で仮定した値と同一であるとすると、単位時間、単位面積あたりに放出されているアセトン放出量の提示値は、5.5pg/min・mm
2(A〜Fのアセトン放出量の平均値)と算出される。各皮膚ガス捕集空間のアセトン放出量を個別に測定する実施例1の結果と比べると少々精度が落ちるが、従来技術による結果よりも精度が高い。
【0054】
なお、本実施例では皮膚ガス成分を混合させて一度に測定することで、測定時間が短くなるとともに、測定する皮膚ガス成分の量が多くなるため、測定が容易になる。また、各皮膚ガス捕集空間のアセトン放出量を個別に測定しないことから、皮膚ガス測定装置全体の構造が単純化される。
【0055】
これらの実施例から、本発明による皮膚ガス測定装置・方法を用いることで、ユーザの種々の日常動作のうち、安静状態の場合の測定が可能となることはもちろん、その他のユーザの身体(全部又は一部)の動きを伴う動作、筋肉の動き(全身、一部又は局所的)を伴う動作、又は無意識に身体の動きを伴う睡眠時などの種々の日常動作での皮膚ガス成分を簡便にかつ正確に測定することができることが分かる。
(比較例1)
これに対し、従来技術による皮膚ガス捕集装置・方法(例えば前記先行技術文献に記載された装置又は方法)では、皮膚ガス成分を捕集する閉空間が1つだけしか設定されていないことから、例えば上記の例では、皮膚ガス成分の大きな漏れが生じたと予想される皮膚ガス捕集空間Aのアセトン放出量(=1.0pg/min・mm
2)に近い値が測定・算出される可能性が高く、真値である7.2pg/min・mm
2との乖離が大きくなってしまう。
【0056】
この例から、従来技術による皮膚ガス捕集装置・方法では、ユーザの日常動作の特に安静状態の場合の測定が可能となるが、その他のユーザの身体の動きや、筋肉の動きを伴う動作、又は無意識に身体を動かす睡眠時の皮膚ガス成分測定には使用できないことが分かる。
【符号の説明】
【0057】
100…皮膚ガス捕集部
101…皮膚ガス測定部
200…皮膚ガス捕集空間A
201…皮膚ガス捕集空間B
202…皮膚ガス捕集空間C
203…皮膚ガス捕集空間D
204…皮膚ガス捕集空間E
205…皮膚ガス捕集空間F
300…皮膚ガス捕集空間
301…皮膚ガス捕集空間
302…皮膚ガス捕集空間
303…皮膚ガス捕集空間
304…皮膚ガス捕集空間
305…皮膚ガス捕集空間
306…隔壁
307…隔壁
308…隔壁
400…皮膚ガス捕集部
401…皮膚ガス測定部
402…表示部
500…皮膚ガス捕集部
501…皮膚ガス測定部
502…通信部