特許第6035167号(P6035167)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人三重大学の特許一覧 ▶ 日本メジフィジックス株式会社の特許一覧

特許6035167医用画像処理プログラム、医用画像処理方法および医用画像処理装置
<>
  • 特許6035167-医用画像処理プログラム、医用画像処理方法および医用画像処理装置 図000005
  • 特許6035167-医用画像処理プログラム、医用画像処理方法および医用画像処理装置 図000006
  • 特許6035167-医用画像処理プログラム、医用画像処理方法および医用画像処理装置 図000007
  • 特許6035167-医用画像処理プログラム、医用画像処理方法および医用画像処理装置 図000008
  • 特許6035167-医用画像処理プログラム、医用画像処理方法および医用画像処理装置 図000009
  • 特許6035167-医用画像処理プログラム、医用画像処理方法および医用画像処理装置 図000010
  • 特許6035167-医用画像処理プログラム、医用画像処理方法および医用画像処理装置 図000011
  • 特許6035167-医用画像処理プログラム、医用画像処理方法および医用画像処理装置 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6035167
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】医用画像処理プログラム、医用画像処理方法および医用画像処理装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20161121BHJP
   G01T 1/161 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   A61B5/00 G
   G01T1/161 C
【請求項の数】14
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-37857(P2013-37857)
(22)【出願日】2013年2月27日
(65)【公開番号】特開2014-161658(P2014-161658A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2015年12月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000230250
【氏名又は名称】日本メジフィジックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】竹田 寛
(72)【発明者】
【氏名】前田 壽登
(72)【発明者】
【氏名】山木 範泰
【審査官】 門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−505492(JP,A)
【文献】 特開2011−147560(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/161
A61B 5/00
A61B 5/055
G06T 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の胸部を含む医用画像をコンピュータに画像処理させるためのプログラムであって、
前記医用画像から横隔膜と肝臓との接触領域に関する画素強度の頭尾方向の変化率に基づいてフィルタ関数を生成するステップと、
生成された前記フィルタ関数を用いて前記医用画像にデコンボリューション処理を行うステップと、
を含む医用画像処理プログラム。
【請求項2】
前記医用画像が核医学画像であり、前記接触領域における放射線計測のカウント値に基づいて前記変化率を算出する請求項1に記載の医用画像処理プログラム。
【請求項3】
前記カウント値のプロファイルカーブの一次微分関数を前記フィルタ関数とする請求項2に記載の医用画像処理プログラム。
【請求項4】
前記医用画像として、肝臓の冠状断面画像または肝臓の左右方向の中間部を通る矢状断面画像を用いる請求項1から3のいずれか一項に記載の医用画像処理プログラム。
【請求項5】
前記医用画像と異なる撮像方向から撮像された複数の断層画像に基づいて胸部の三次元画像を構成するステップと、
構成された前記三次元画像から前記医用画像を作成するステップと、を更に含む請求項4に記載の医用画像処理プログラム。
【請求項6】
前記デコンボリューション処理が、以下の(i)から(iii)の工程;
(i)前記フィルタ関数を推定画像に重畳して重畳画像を生成する工程、
(ii)前記重畳画像と前記医用画像との乖離度に基づいて前記推定画像の誤差判定を行う工程、
(iii)前記誤差判定の結果に基づいて前記推定画像を更新する工程、
を反復的に行うことを含む請求項1から5のいずれか一項に記載の医用画像処理プログラム。
【請求項7】
前記推定画像の初期画像のすべての画素強度が非ゼロである請求項6に記載の医用画像処理プログラム。
【請求項8】
前記医用画像が三次元画像であり、前記フィルタ関数が三次元関数である請求項1から7のいずれか一項に記載の医用画像処理プログラム。
【請求項9】
前記医用画像が二次元画像であり、前記デコンボリューション処理が施された複数の前記医用画像に基づいて前記胸部の三次元画像を構成するステップを更に含む請求項1から7のいずれか一項に記載の医用画像処理プログラム。
【請求項10】
複数の前記医用画像に対して、一次元または二次元関数である共通の前記フィルタ関数を用いて前記デコンボリューション処理を行うことを特徴とする請求項9に記載の医用画像処理プログラム。
【請求項11】
複数の前記医用画像に関して個別に前記変化率を算出して前記フィルタ関数を生成し、生成された前記フィルタ関数を用いて当該医用画像にそれぞれ前記デコンボリューション処理を行う請求項9に記載の医用画像処理プログラム。
【請求項12】
前記フィルタ関数は、横隔膜の近傍における鮮鋭度よりも、横隔膜からの頭尾方向の距離が大きい位置における鮮鋭度の方が高いことを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の医用画像処理プログラム。
【請求項13】
人体の胸部を含む医用画像から横隔膜と肝臓との接触領域に関する画素強度の頭尾方向の変化率に基づいてフィルタ関数を算出する工程と、
算出された前記フィルタ関数を用いて前記医用画像にデコンボリューション処理を行う工程と、
を含む医用画像処理方法。
【請求項14】
人体の胸部を含む医用画像を画像処理する装置であって、
前記医用画像を入力する画像入力手段と、
入力された前記医用画像における横隔膜と肝臓との接触領域を特定する領域特定手段と、
特定された前記接触領域に関する前記医用画像の画素強度の頭尾方向の変化率を算出する変化率算出手段と、
算出された前記変化率に基づいて前記医用画像のフィルタ関数を生成するフィルタ生成手段と、
生成された前記フィルタ関数を用いて前記医用画像にデコンボリューション処理を行う鮮鋭化処理手段と、
を含む医用画像処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医用画像処理プログラム、医用画像処理方法および医用画像処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医用画像には、大別して、解剖学的情報を画像化した形態画像と、生理学的情報を画像化した機能画像とが存在する。形態画像としては、コンピュータ断層撮影(CT)画像や磁気共鳴(MR)画像が知られている。機能画像の一態様である核医学画像としては、陽電子放出型断層撮像(PET)画像や単光子放出型断層撮像(SPECT)画像が知られている。近年、形態画像と核医学画像、たとえばPET画像とCT画像を融合することで、解剖学的情報および生理学的情報を考慮した高精度の診断を行うことが提案されている。
【0003】
腹胸部領域の医用画像を撮像する場合、呼吸などの体動の影響(モーションアーチファクト)により画像にブレが生じることが問題となる。一例としてPETの場合、画像の撮像のために十分な陽電子のカウント数を得るためには2分程度の時間を要するため、その間に被験者が呼吸を停止しておくことは難しい。このため、撮像される医用画像には呼吸運動によるブレが含まれることとなる。
【0004】
非特許文献1には、PET画像とCT画像とを融合して腫瘍の位置を同定することが放射線治療に有効であることが記載されている。非特許文献1には、体表面に取り付けた赤外線マーカーから呼吸周期の位相を取得しつつ撮像を行うことで、PET画像から呼吸性移動による誤差要因を除去することが記載されている。
非特許文献2には、呼吸運動の大きい下肺野に関してはPET画像に含まれるブレが大きく、CT画像と融合することが困難であることが記載されている。非特許文献2には、この問題を解決するため、呼吸停止下でPET画像を撮像する手法のほか、呼吸同期下でPET画像とCT画像を取得し、全呼吸時相のデータを照合してPETとCTの時相の一致したデータのみを抽出する手法などが記載されている。非特許文献2には、被験者に過度の負担を与えることなくPET画像のモーションアーチファクトを実用的に十分に低減するには改善の余地があることが記載されている。
【0005】
特許文献1および2には、心臓を撮像する磁気共鳴(MR)映像装置において、呼吸動に起因するモーションアーチファクトを低減することが記載されている。具体的には、被験者の体表にプローブを装着して呼吸動による横隔膜の変位を検出し、検出された移動量に基づいて心臓のスキャン位置を補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−147560号公報
【特許文献2】特開2011−147561号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「PET/CTシミュレータによる治療計画 呼吸制御の現状」、立石宇貴秀著、臨床放射線、金原出版株式会社、Vol.57 No.4、P.496−P.501、2012年4月
【非特許文献2】「肺癌診断におけるPET−CTの有用性と限界」、野上宗伸著、画像診断、株式会社学研メディカル秀潤社、Vol.31 No.10、P.1046−P.1054、2011年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2および非特許文献1の技術は、呼吸時相を取得するためのプローブや赤外線マーカー等の特別な機器を導入する必要があるため汎用性に欠ける。また、医用画像に呼吸時相を対応づけて撮像する技術であるため、呼吸時相を取得することなく過去に通常の方法で撮像されて蓄積されている医用画像に対して適用することはできない。そして、非特許文献2に記載されているように、医用画像において呼吸動に起因するモーションアーチファクトを十分に低減することはまだ実現されていない。
【0009】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであり、呼吸時相を取得するための特別な機器を導入することなく医用画像から呼吸動に起因するモーションアーチファクトを実用的なレベルで低減することができる技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、人体の胸部を含む医用画像をコンピュータに画像処理させるためのプログラムであって、前記医用画像から横隔膜と肝臓との接触領域に関する画素強度の頭尾方向の変化率に基づいてフィルタ関数を生成するステップと、生成された前記フィルタ関数を用いて前記医用画像にデコンボリューション処理を行うステップと、を含む医用画像処理プログラムが提供される。
【0011】
また、本発明によれば、人体の胸部を含む医用画像から横隔膜と肝臓との接触領域に関する画素強度の頭尾方向の変化率に基づいてフィルタ関数を算出する工程と、算出された前記フィルタ関数を用いて前記医用画像にデコンボリューション処理を行う工程と、を含む医用画像処理方法が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、人体の胸部を含む医用画像を画像処理する装置であって、前記医用画像を入力する画像入力手段と、入力された前記医用画像における横隔膜と肝臓との接触領域を特定する領域特定手段と、特定された前記接触領域に関する前記医用画像の画素強度の頭尾方向の変化率を算出する変化率算出手段と、算出された前記変化率に基づいて前記医用画像のフィルタ関数を生成するフィルタ生成手段と、生成された前記フィルタ関数を用いて前記医用画像にデコンボリューション処理を行う鮮鋭化処理部と、を含む医用画像処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、撮像された医用画像からフィルタ関数を生成してデコンボリューション(逆畳み込み)処理を行う。このため、呼吸時相を取得するための特別な機器を導入することなく、自由呼吸下で撮像された医用画像から呼吸動に起因するモーションアーチファクトを実用的なレベルで低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態にかかる医用画像処理装置のブロック図である。
図2】被験者のPET画像の一例を示す図である。
図3図3(a)はPET画像の放射線計測のカウント値を示すプロファイルカーブの例を示すグラフである。図3(b)は図3(a)の一次微分カーブを示すグラフである。
図4図4(a)はモーションアーチファクトが存在するPET画像の放射線計測のカウント値を示すプロファイルカーブの例を示すグラフである。図4(b)は、図4(a)の一次微分カーブを示すグラフである。
図5】本発明の実施形態にかかる医用画像処理方法のフローチャートである。
図6図6(a)はPET装置で撮像された体軸断面画像の一例である。図6(b)は生成された冠状断面画像を示す図である。
図7】実施例に用いたモデル画像である。
図8図8(a)は摸擬対象画像である。図8(b)は摸擬鮮鋭画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0016】
本実施形態の医用画像処理装置100は、コンピュータプログラムを読み取って対応する処理動作を実行できるように、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、インタフェースユニット等の汎用デバイスで構築されたハードウェア、もしくは所定の処理動作を実行するように構築された専用の論理回路、またはこれらの組み合わせ、等として実施することができる。医用画像処理装置100の各構成要素は、所定の機能を発揮する専用のハードウェア、所定の機能がコンピュータプログラムにより付与された情報処理装置、もしくはコンピュータプログラムにより情報処理装置に実現された所定の機能、またはこれらの任意の組み合わせ、等として実現することができる。そして、医用画像処理装置100の各構成要素は、個々に独立した存在である必要はなく、一つの構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等を許容する。
【0017】
また、本実施形態の医用画像処理プログラムおよび医用画像処理方法を説明するにあたり、順番に記載された複数の処理ステップや工程を用いて説明する場合があるが、その記載の順番は複数の処理ステップや工程を実行する順番やタイミングを必ずしも限定するものではない。このため、本実施形態の医用画像処理プログラムおよび医用画像処理方法を実施するにあたっては、その複数の処理ステップや工程の順番を、内容的に支障のない範囲で変更することができ、また複数の処理ステップや工程の実行タイミングの一部または全部が互いに重複していてもよい。
【0018】
(医用画像処理装置)
図1は、本発明の実施形態の医用画像処理装置100のブロック図である。
はじめに、本実施形態の医用画像処理装置100の概要を説明する。
【0019】
医用画像処理装置100は、人体の胸部を含む医用画像IMを画像処理する装置である。
医用画像処理装置100は、画像入力部10、領域特定部20、変化率算出部30、フィルタ生成部40および鮮鋭化処理部50を含む。
画像入力部10は、医用画像IMを入力する手段である。領域特定部20は、入力された医用画像IMにおける横隔膜と肝臓との接触領域を特定する手段である。変化率算出部30は、特定された接触領域に関する医用画像IMの画素強度の頭尾方向の変化率を算出する手段である。フィルタ生成部40は、算出された変化率に基づいて医用画像IMのフィルタ関数を生成する手段である。鮮鋭化処理部50は、生成されたフィルタ関数を用いて医用画像IMにデコンボリューション処理を行う手段である。
【0020】
以下、医用画像処理装置100について詳細に説明する。
医用画像処理装置100は、二次元画像または三次元画像である医用画像IMをデコンボリューション処理により鮮鋭化する装置である。医用画像IMは、任意の被験者の胸部を撮像対象として含む画像である。医用画像IMは、腹部や頭部を撮像対象として含んでもよい。
【0021】
医用画像処理装置100は、ディスプレイ装置200や入力デバイス210と接続して使用される。入力デバイス210としてはマウスやキーボードを例示することができる。
【0022】
医用画像IMとしては、PET画像やSPECT画像などの核医学画像を例示することができる。このほか、MR画像などの形態画像を用いてもよい。医用画像IMは、PET装置やSPECT装置、MR装置などの専用の撮像装置(図示せず)により取得される。
【0023】
画像入力部10は、これらの撮像装置で取得された医用画像IMを医用画像処理装置100に取り込むためのインタフェースである。取り込まれた医用画像IMは記憶部90に蓄積される。記憶部90は医用画像IMを含む各種のデータを記憶する手段である。なお、記憶部90がデータを記憶するとは、記憶部90がデータを記憶する機能を有することを意味しており、医用画像処理装置100の流通時や使用開始前などに関しては医用画像IMなどのデータが記憶部90に格納されていることを必ずしも要しない。
【0024】
本実施形態の医用画像処理装置100による医用画像処理方法の実施にあたり、記憶部90には、多数の被験者に関して、複数の二次元画像、または三次元画像が、医用画像IMとしてそれぞれ記憶されている。本実施形態では、被験者の腹胸部の二次元断層画像が医用画像IMとして記憶されている。医用画像IMとしては、撮像装置で取得されて画像入力部10に入力された画像(以下、取得画像という場合がある)および鮮鋭化処理部50によりデコンボリューション処理が施された画像(以下、鮮鋭画像という場合がある)が挙げられる。ここでは、取得画像として、被験者の複数の体軸断面(axial section)画像が、頭尾方向の撮像位置を示す撮像位置情報と対応づけて記憶部90に記憶されているものとする。
【0025】
画像出力部80は、医用画像IMをディスプレイ装置200に表示させる手段である。表示される医用画像IMとしては、上記の取得画像や鮮鋭画像のほか、後述する再構成部60で再構成された三次元画像や、断層画像生成部70により生成された画像(以下、対象画像という場合がある)をディスプレイ装置200に表示させてもよい。
【0026】
演算処理部110は、医用画像IMに各種の演算処理を行う手段である。演算処理部110は医用画像処理装置100のCPUにより実現される。本実施形態の演算処理部110は、領域特定部20、変化率算出部30、フィルタ生成部40、鮮鋭化処理部50、再構成部60および断層画像生成部70を含む。
【0027】
再構成部60は、記憶部90を参照し、断層画像(体軸断面画像)である取得画像を撮像位置情報に基づいて頭尾方向に結合して被験者の三次元画像を構成(再構成)する。再構成部60は、公知の手法により複数の取得画像を前後左右方向に位置合わせしたうえで、頭尾方向に補間して三次元画像を再構成する。
【0028】
図2は被験者SのPET画像の一例を示す図である。図2は、[18F]2−フルオロ−2−デオキシ−D−グルコースを薬剤として用いたFDG−PET画像である。冠状断面(coronal section)画像CSは、撮像位置を前後方向(Y方向)にずらしながら被験者SをZX平面に平行に切った断面の画像である。矢状断面(sagittal section)画像SSは、撮像位置を左右方向(X方向)にずらしながら被験者SをYZ平面に平行に切った断面の画像である。体軸断面画像ASは、撮像位置を頭尾方向(Z方向)にずらしながら被験者SをXY平面に平行に切った断面の画像である。冠状断面画像CS、矢状断面画像SSおよび体軸断面画像ASの撮像位置の例を図2にそれぞれ一点鎖線で示す。
【0029】
接触領域300は医用画像IM(対象画像)において肝臓と横隔膜とが接している曲面領域である。一般に肝臓は右葉前上区域が最も高く突出して横隔膜と密着している。すなわち、肝臓を頭尾方向に切った断層画像である対象画像には、呼吸動により主として頭尾方向に発生する肝臓および横隔膜の体動が画像情報として含まれることとなる。
【0030】
領域特定部20は、対象画像に撮像対象として含まれる横隔膜と肝臓との接触領域300を特定する。かかる接触領域300の特定方法は特に限定されない。本実施形態では、医用画像IM(対象画像)をディスプレイ装置200に表示した状態で、医師等のユーザがこの医用画像IMを目視しながら入力デバイス210を操作して、横隔膜と肝臓とが良好に密着していると視認される接触領域300を特定する(図1参照)。接触領域300としては、肝臓の上面を特定してもよく、または横隔膜の下面を特定してもよい。
【0031】
図2に示すようなFDG−PET画像の場合、糖代謝が活発な脳や肝臓、および尿排出される糖が蓄積される腎臓や膀胱から主として放出される陽電子が画像化される。領域特定部20は、このため、FDG−PET画像のうち肝臓の画素強度(画素値)は高くなり、肺や横隔膜の画素強度は低くなる。したがって、医用画像IMがFDG−PET画像の場合は、接触領域300として肝臓の上面を特定することが好適である。このほか、領域特定部20は、取得画像または対象画像の画素強度に基づいて横隔膜と肝臓との接触領域300を算出してもよい。具体的には、取得画像(本実施形態では体軸断面画像AS)または対象画像(本実施形態では冠状断面画像CSまたは矢状断面画像SS)から画素強度に基づいて肝臓の撮像領域を特定したうえ、肝臓が最も高く突出している右葉前上区域のXY座標位置を接触領域300として算出することができる。
【0032】
接触領域300のうち、肝臓の右葉前上区域の頂部を通り頭尾方向(Z方向)に延在する計測ライン310を図2に示す。断層画像生成部70は、再構成部60により再構成された被験者Sの三次元画像から、領域特定部20で特定された接触領域300のいずれかの位置を通る頭尾方向の断面画像を対象画像として生成する(図1参照)。具体的には断層画像生成部70は計測ライン310を含む冠状断面画像CSまたは矢状断面画像SSを対象画像として生成する。
【0033】
すなわち、本実施形態の医用画像処理装置100は、医用画像IM(対象画像)と異なる撮像方向から撮像された体軸断面画像ASである複数の断層画像(取得画像)に基づいて胸部の三次元画像を構成する再構成部60と、構成された三次元画像から医用画像IM(対象画像)として冠状断面画像または矢状断面画像を作成する断層画像生成部70とを備えている。
【0034】
図1に示す変化率算出部30は、医用画像IM(対象画像)の接触領域300に関する画素強度の頭尾方向の変化率を算出する。変化率算出部30は、断層画像生成部70が生成した対象画像における画素強度(画素値)の一次元または二次元プロファイルの差分処理により、この変化率を算出する。簡単のため、計測ライン310に関する対象画像の一次元プロファイルを用いて変化率算出部30の処理を具体的に説明する。
【0035】
図3(a)は、計測ライン310に関するPET画像の放射線計測のカウント値を示すプロファイルカーブの例を示すグラフである。同図は、モーションアーチファクトが存在しない場合の理想的なプロファイルカーブを示している。ここでは、ベータ線飛程や検出器に起因するボケは無視する。図3(a)における左方は、図2の+Z方向、すなわち頭側にあたる。同図の右方は、図2の−Z方向、すなわち足側にあたる。図3(b)は、図3(a)の一次微分カーブを示すグラフである。
モーションアーチファクトが存在しない場合、図3(a)に示すように頭尾方向の所定の位置(Z=14〜15)でカウント値は急峻に立ち上がる。この立ち上がり位置が計測ライン310における肝臓の上縁にあたり、その左方は横隔膜や肺にあたる。そしてカウント値のプロファイルカーブの一次微分カーブはインパルスとなる。これは、肺や横隔膜では糖代謝が実質的に無視できる程度に低く、計測ライン310が肝臓を横切った瞬間にカウント値が計測されるためである。
【0036】
図4(a)はモーションアーチファクトが存在するPET画像における、計測ライン310に関する放射線計測のカウント値を示すプロファイルカーブの例を示すグラフである。図4(b)は、図4(a)の一次微分カーブを示すグラフである。図4(a)、(b)における左方は図2の+Z方向にあたり、右方は−Z方向にあたる。
PET画像の取得には一般に数分間の撮像時間を要するため、自由呼吸下で撮像したPET画像においては肝臓の上縁はモーションアーチファクトにより非鮮鋭となる。図4(b)に両側矢印で示した範囲がカウント値の変動領域であり、すなわち横隔膜と肝臓との接触領域300が呼吸動により頭尾方向に揺動する範囲である。また、この一次微分カーブが尖鋭でピーク値が大きいほど、図3(b)に示すインパルスに近くモーションアーチファクトの影響が小さいといえる。逆に、図4(b)に示す一次微分カーブが鈍形でピーク値が小さいほど、モーションアーチファクトの影響が大きく接触領域300は非鮮鋭であるといえる。したがって、この一次微分カーブの形状から、対象画像における胸部の動き関数を求めることができる。
【0037】
変化率算出部30は、計測ライン310に沿って医用画像IM(対象画像)の画素強度を差分演算して動き関数を算出することができる。または、医用画像IM(対象画像)の画素強度の関数を求め、この関数の一次微分演算により動き関数を算出してもよい。
【0038】
図1に示すフィルタ生成部40は、変化率算出部30が算出した動き関数に任意で係数を乗じてフィルタ関数を生成する。このフィルタ関数は、一次微分カーブを積分した面積が1になるように規格化されたボケ関数である。
【0039】
フィルタ生成部40が生成するフィルタ関数について説明する。本実施形態では、複数の医用画像IM(対象画像)に対して、一次元または二次元関数である共通のフィルタ関数を用いてデコンボリューション処理を行う。フィルタ関数が一次元関数であって対象画像が二次元画像である場合は、対象画像に対して頭尾方向にこのフィルタ関数を適用する。
【0040】
ただし本発明はこれに限られず、対象画像ごとに異なるフィルタ関数を個別に生成してもよい。すなわち、複数の医用画像IM(対象画像)に関して個別に画素強度の変化率を算出してフィルタ関数を生成し、生成されたフィルタ関数を用いて当該対象画像にそれぞれデコンボリューション処理を行うこととしてもよい。
【0041】
また、生成されたフィルタ関数を対象画像の全体に適用してデコンボリューション処理を行ってもよく、または対象画像の領域ごとにフィルタ関数に異なる係数を乗じたうえで適用してもよい。たとえば、フィルタ関数は、横隔膜の近傍における鮮鋭度よりも、横隔膜からの頭尾方向の距離が大きい位置における鮮鋭度の方が高いものとすることができる。すなわち、呼吸動に起因するモーションアーチファクトは下肺において最も顕著であり、PET画像では横隔膜と接する肝臓の上部に顕著なボケが発生する。これに対して、横隔膜から頭尾方向に大きく離間した位置では呼吸動の影響は小さくなる。このため、横隔膜の近傍に適用するフィルタ関数を鈍らせて鮮鋭度を小さくし、頭尾方向に離間した部位に適用するフィルタ関数の鮮鋭度を高くすることで、後記のデコンボリューション処理の収束を早めることが期待される。
【0042】
鮮鋭化処理部50は、生成されたフィルタ関数を用いて医用画像IM(対象画像)にデコンボリューション(逆畳み込み)処理を行う。
図1に示すように、本実施形態の鮮鋭化処理部50は、重畳演算部52、誤差判定部54および画像更新部56を備えている。
重畳演算部52は、フィルタ関数を推定画像に重畳して重畳画像を生成する手段である。誤差判定部54は、この重畳画像と医用画像IM(対象画像)との乖離度に基づいて推定画像の誤差判定を行う手段である。画像更新部56は、誤差判定の結果に基づいて推定画像を更新する手段である。具体的なデコンボリューション処理は後述するが、画像更新部56にて推定画像を反復的に更新して重畳画像を医用画像IM(対象画像)に近づけていくことにより、この推定画像を対象画像の鮮鋭画像として取得することができる。
【0043】
鮮鋭化処理部50によりデコンボリューション処理が施された複数の医用画像IM(鮮鋭画像)は、再構成部60にて三次元画像に再構成される。断層画像生成部70は、鮮鋭化された三次元画像から、体軸断面画像ASを含む任意の断層画像を生成する。これにより、本実施形態で鮮鋭化された医用画像IMと、他の医用画像(たとえばCT画像)とを融合させて高精度の診断を行うことが可能となる。
【0044】
(医用画像処理プログラム)
以下、本実施形態の医用画像処理装置100を動作させる医用画像処理プログラム(以下、本プログラムという)および本プログラムにより実行される医用画像処理方法(以下、本方法という)について説明する。
図5は本方法のフローチャートである。図1、2、5を参照して本プログラムによる画像処理を説明する。
【0045】
本プログラムは、人体の胸部を含む医用画像IMを、コンピュータである医用画像処理装置100に画像処理させるためのプログラムである。
本プログラムは、医用画像IM(対象画像)から横隔膜と肝臓との接触領域300に関する画素強度の頭尾方向の変化率に基づいてフィルタ関数を生成する生成ステップS20と、生成されたフィルタ関数を用いて医用画像IMにデコンボリューション処理を行う画像処理ステップS30と、を含む。
【0046】
本プログラムは、医用画像処理装置100の演算処理部110を制御して医用画像IMを鮮鋭化する。本プログラムによれば、呼吸時相の情報を持たない医用画像であっても、その医用画像がもつ情報に基づいて鮮鋭化することができる。
【0047】
すなわち、本プログラムによれば、人体の胸部を含む医用画像IM(対象画像)から横隔膜と肝臓との接触領域300に関する画素強度の頭尾方向の変化率に基づいてフィルタ関数を算出する工程と、算出されたフィルタ関数を用いて医用画像IMにデコンボリューション処理を行う工程と、を含む医用画像処理方法が実現される。
【0048】
本方法では、放射性薬剤が集積しやすく、かつ横隔膜に接している臓器である肝臓のうち、特別なマーカーが無くても観察できる指標部位(接触領域300)が呼吸動により経時的に移動する様子を解析する。本方法は、指標部位の移動をリアルタイムにモニタするのではなく、この指標部位の存在確率を示す空間プロファイルのデータに基づいてボケ関数を求め、同じ被験者の任意の測定部位の画像を、このボケ関数を用いて鮮鋭化するものである。これは、指標部位の周期的な体動(呼吸動)が十分に平均化された状態で空間プロファイルに含まれるとみなしうる程度に長時間に亘って撮像された取得画像に基づいてボケ関数を算出していることに基づいている。
【0049】
以下、本方法を詳細に説明する。
本方法では、生成ステップS20に先立ち、任意で画像準備ステップS10を行う。画像準備ステップS10では、PET画像などの二次元医用画像を取得画像として画像入力部10で取得する(ステップS12)。本方法では、取得画像として、PET装置で撮像された被験者Sの腹胸部を含む複数の体軸断面画像ASを取得するものとする。つぎに、この取得画像を再構成部60にて三次元画像に再構成する(ステップS14)。
なお、医用画像処理装置100以外の画像処理装置にて予め再構成された三次元医用画像を画像入力部10で取得する場合は、画像準備ステップS10は不要となる。この場合、画像入力部10で取得した三次元医用画像を再構成部60に読み込んでおく。
【0050】
生成ステップS20は、再構成された三次元画像の読み込みステップS22、対象画像作成ステップS24、カウントプロファイルカーブ作成ステップS26およびフィルタ関数生成ステップS28を含む。
【0051】
ステップS22で、断層画像生成部70は再構成部60より三次元医用画像を取得して読み込む。ステップS24で、断層画像生成部70は、領域特定部20により特定された接触領域300を通る頭尾方向の断面画像を対象画像として生成する。具体的には、断層画像生成部70は、医用画像IM(対象画像)として、肝臓の冠状断面画像または肝臓の左右方向の中間部を通る矢状断面画像を生成する。ここでは、肝臓の右葉前上区域の頂部を通る計測ライン310を含む冠状断面画像CS(図2を参照)を対象画像として生成するものとする。
【0052】
以上より、本方法は、医用画像IM(対象画像)と異なる撮像方向から撮像された複数の断層画像(体軸断面画像AS)に基づいて胸部の三次元画像を構成(再構成)するステップS14と、構成された三次元画像から医用画像IM(対象画像)を作成するステップS24と、を含むものといえる。
【0053】
つぎに、ステップS26で、変化率算出部30は核医学画像である医用画像IM(対象画像)から、接触領域300の近傍の画素強度に基づいて、放射線計測のカウント値の頭尾方向の推移を示すカウントプロファイルカーブを作成する。カウントプロファイルカーブは、画素強度の配列として作成してもよく、または画素強度を示す関数として作成してもよい。
【0054】
ステップS28でフィルタ生成部40は、このカウントプロファイルカーブの頭尾方向の変化率を算出する。変化率は、画素強度の配列の差分処理または画素強度を示す関数の一次微分処理により求めることができる。この変化率が対象画像の呼吸動のモーションアーチファクトを示す動き関数gにあたる。動き関数gは、積分値が1になるように規格化されたボケ関数である。
【0055】
動き関数gの次数は、対象画像の次数を超えない限り、一次元から三次元のいずれでもよい。すなわち、対象画像が二次元画像である場合、動き関数gは一次元関数または二次元関数である。後述するように対象画像が三次元画像である場合、動き関数gは一次元関数または二次元関数であるほか、三次元関数でもよい。
図2に示すように直線状の一次元の計測ライン310に沿って画素強度の変化率を求める場合、頭尾方向(Z方向)の一次元の一次微分カーブ(図4(b)を参照)を動き関数g(z)とすることができる。以下、動き関数が二次元または三次元関数の場合も、簡単のためg(z)と表記する場合がある。
更に、ステップS28でフィルタ生成部40は、動き関数gに任意で係数を乗じて、デコンボリューション処理のためのフィルタ関数を生成する。以下、フィルタ関数をg(z)と表記する。
【0056】
すなわち、フィルタ生成部40は、差分演算または微分演算により、医用画像IM(対象画像)のカウントプロファイルカーブの一次微分関数をフィルタ関数として生成する。
【0057】
画像処理ステップS30は鮮鋭化処理部50により実行される。画像処理ステップS30は、初期画像設定ステップS31、重畳積分ステップS32、差分処理ステップS33、画像更新ステップS34および誤差判定ステップS35を含む。
【0058】
初期画像設定ステップS31では、推定画像として初期画像f0(z)を設定する。推定画像fn(z)は、対象画像forg(z)からモーションアーチファクトを除去した鮮鋭画像として推定される画像である。初期画像f0(z)は、推定画像fn(z)にデコンボリューション処理を反復的に適用するための初期値となる画像である。初期画像f0(z)のすべての画素強度は非ゼロであることが好ましい。本方法のように核医学画像を対象画像forg(z)とする場合、カウント値(画素強度)がゼロである画素が存在することがある。これに対し、初期画像f0(z)の画素の画素強度(画素値)にゼロ以外の値を付与しておくことによりデコンボリューション処理の収束を早めることができる。
【0059】
初期画像f0(z)には、対象画像forg(z)のうち画素強度がゼロである画素に最小値(たとえば1)を付与した画像を用いることができる。初期画像f0(z)として対象画像forg(z)に近い画像を設定することでデコンボリューション処理の収束を早めることができる。
【0060】
画像処理ステップS30で行われるデコンボリューション処理では、以下の(i)から(iii)の工程を反復的に行う。
(i)フィルタ関数g(z)を推定画像fn(z)に重畳して重畳画像fcnv(z)を生成する重畳積分ステップS32。
(ii)重畳画像fcnv(z)と医用画像IM(対象画像forg(z))との乖離度に基づいて推定画像fn(z)の誤差判定を行う誤差判定ステップS35。
(iii)誤差判定の結果に基づいて推定画像fn(z)を更新する画像更新ステップS34。
【0061】
本方法では、図5に示すように、(i)重畳積分ステップS32、(iii)画像更新ステップS34、(ii)誤差判定ステップS35の順に実行される。ただし、(i)から(iii)の工程は、フローチャートに応じて任意の順序で行うことができる。具体的には、画像更新ステップS34は、誤差判定ステップS35において収束条件を満たさない(ステップS35:No)と判定された場合に行ってもよい。
【0062】
重畳積分ステップS32では、重畳演算部52は、下式(1)により、フィルタ関数g(z)を推定画像fn(z)に重畳積分して重畳画像fcnv(z)を求める。式中、nはそれまでに実行された画像処理ステップS30の反復回数である。n回の画像処理ステップS30が実行された後の推定画像を、n回目の推定画像fn(z)と呼称する。初回(n=0)の画像処理ステップS30では、推定画像fn(z)の初期画像f0(z)とフィルタ関数g(z)との重畳積分を行う。重畳画像fcnv(z)は、推定画像fn(z)にボケ関数である動き関数g(z)を重畳したボケ画像である。
【0063】
【数1】
【0064】
推定画像fn(z)にフィルタ関数g(z)を重畳積分するにあたり、推定画像fn(z)の周縁に位置する画素に対してはそのままフィルタ関数g(z)を重畳することができない。このため、重畳積分ステップS32では、推定画像fn(z)の周縁の画素に対して補間処理を行う。具体的な補間処理は特に限定されないが、初期画像f0(z)における当該画素の画素強度をそのまま与えてもよく、または当該画素に隣接する他の画素に基づく外挿演算によって画素強度を補間してもよい。
【0065】
差分処理ステップS33では、誤差判定部54は、下式(2)により、重畳画像fcnv(z)と元画像にあたる対象画像forg(z)との差分処理を行うことにより誤差画像ferr(z)を求める。誤差画像ferr(z)は、ボケ画像である重畳画像fcnv(z)と元画像との乖離度を表している。この誤差画像ferr(z)が小さくなる重畳画像fcnv(z)を求めることで、動き関数g(z)を重畳する前の推定画像fn(z)が対象画像forg(z)の鮮鋭画像であると推定される。
【0066】
(数1)
ferr(z)=fcnv(z)−forg(z) ・・・(2)
【0067】
画像更新ステップS34では、画像更新部56は、次回の画像処理ステップS30にて誤差画像ferr(z)が小さくなるように推定画像fn(z)を更新する。具体的には、画像更新部56は、下式(3)により、n回目の推定画像fn(z)から誤差画像ferr(z)を減算する。
【0068】
(数2)
fn+1(z)=fn(z)−ferr(z) ・・・(3)
【0069】
なお、画像更新ステップS34では、ベイズの定理を利用したLucy-Richardson法や、Iterative Back Projection(IBP)法などの公知の手法により逐次近似的に推定画像fn(z)を更新してもよい。すなわち、画像更新ステップS34では、n回目の推定画像fn(z)から誤差画像ferr(z)をそのまま減算してもよく、または誤差画像ferr(z)に所定の調整値を乗じて減算してもよい。または、n回目の推定画像fn(z)を、誤差画像ferr(z)が示す乖離度に対応する係数で除算してもよい。
【0070】
誤差判定ステップS35では、誤差判定部54は、重畳画像fcnv(z)と元画像との乖離度に基づいて、推定画像fn(z)の誤差判定を行う。誤差判定部54による誤差判定は種々の方法で行うことができる。一例として、誤差画像ferr(z)の画素強度の総和(単純合計または自乗和、以下同様)が、予め設定された閾値以下となったことをもって収束条件を満たす(ステップS35:Yes)と判定することができる。このほか、重畳画像fcnv(z)の画素強度の総和と対象画像forg(z)の画素強度の総和との比率が、1を中心とする所定の閾値範囲内に収まった場合に収束条件を満たすと判定することができる。このように、誤差判定ステップS35では、重畳画像fcnv(z)と対象画像forg(z)との乖離度を示す誤差画像ferr(z)の絶対値や比率に基づいて、推定画像fn(z)の収束判定を行う。
【0071】
誤差判定ステップS35において誤差判定部54が収束条件を満たさない(ステップS35:No)と判定した場合、画像処理ステップS30の反復回数nに1を加算したうえ、重畳積分ステップS32に戻って画像処理ステップS30を繰り返す。
【0072】
そして、画像処理ステップS30を複数回、場合により1回、推定画像fn(z)に適用して誤差判定部54が収束条件を満たす(ステップS35:Yes)と判定した場合、この推定画像fn(z)が対象画像forg(z)の鮮鋭画像として取得される。
【0073】
本方法では、医用画像IM(対象画像)が二次元画像であり、デコンボリューション処理が施された複数の医用画像IM(鮮鋭画像)に基づいて被験者の胸部の三次元画像を構成する再構成ステップS40を更に実行してもよい。再構成ステップS40は、医用画像処理装置100の再構成部60で行うことができる。
【0074】
本方法では、更に、鮮鋭画像を再構成した三次元画像から、対象画像とは異なる断層画像(たとえば体軸断面画像AS)を作成する断層画像作成ステップS50を実行してもよい。断層画像作成ステップS50は医用画像処理装置100の断層画像生成部70で行うことができる。
【0075】
なお、本方法に代えて、再構成ステップS40および断層画像作成ステップS50を医用画像処理装置100とは異なる他の画像処理装置で行ってもよい。
【0076】
鮮鋭化された断層画像(たとえば体軸断面画像AS)に対して、更にPET装置の検出系に起因する部分容積効果などのボケを補正してもよい。
【0077】
以上より、本方法では、複数枚の断層画像(たとえば体軸断面画像AS)を三次元再構成し(ステップS14)、この断層画像と異なる方向の他の断層画像(たとえば冠状断面画像CS)から肝臓の所定位置を特定してカウントプロファイルカーブを作成する(ステップS26)。さらに、肝臓の上記の所定位置に関する一次元から三次元のボケ関数をフィルタ関数g(z)として求め(ステップS28)、上記の断層画像(たとえば冠状断面画像CS)を鮮鋭化(更新)する(ステップS34)。これにより、過去に撮像されて医療機関等に蓄積された任意の断層画像を鮮鋭化することが可能である。
【0078】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含む。
【0079】
たとえば、上記実施形態では取得画像および対象画像として二次元画像を用い、フィルタ関数g(z)として一次元関数を用いることを例示したが、本発明はこれに限られない。対象画像を冠状断面画像CSとする場合、二次元関数であるフィルタ関数g(x,z)を用い、重畳積分ステップS32では下式(4)により重畳積分を行うことができる。
【0080】
【数2】
【0081】
二次元関数のフィルタ関数は、接触領域300を通過する対象画像(たとえば冠状断面画像CS)から、頭尾方向およびこれに直交する方向の二方向について画素強度の変化率(一次微分)を算出して求めることができる。
【0082】
さらに本発明の変形例として、医用画像IMが三次元画像であり、フィルタ関数が三次元関数であってもよい。すなわち、ステップS14で取得画像を再構成してなる三次元画像を、一つの対象画像として取り扱う。三次元関数のフィルタ関数は、三次元の対象画像のうち接触領域300を内包する部分領域を抽出し、この部分領域に関し直交三軸方向について画素強度の変化率(一次微分)を算出して求めることができる。重畳積分ステップS32では、下式(5)によりフィルタ関数g(x,y,z)と推定画像fn(x,y,z)との重畳積分を行うことができる。
【0083】
【数3】
【0084】
また、ステップS26では、領域特定部20で特定された、たとえば計測ライン310に関するカウントプロファイルカーブを作成して頭尾方向の変化率を算出することを例示したが、本発明はこれに限られない。ステップS26において、接触領域300を通過する異なる複数箇所に関してカウントプロファイルカーブを作成して頭尾方向の変化率を算出し、算出された複数の変化率のうち最も鈍形であるものを選択してもよい。これにより、横隔膜と肝臓とが良好に接触している領域を接触領域300としてユーザが特定しなくとも、モーションアーチファクトの影響が大きい部位を算出してフィルタ関数を生成することができる。
【0085】
上記実施形態では、取得画像と対象画像との撮像方向が異なる場合を例示したが、本発明はこれに限られない。ステップS12で取得する断層画像が冠状断面画像CSや矢状断面画像SSなど頭尾方向の成分を含む断層画像である場合には、これらの取得画像のうち接触領域300を含むものを対象画像として選択すればよい。この場合、ステップS14からステップS24は不要である。
【0086】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。図1から図5を適宜参照する。
図6(a)はPET装置で撮像された体軸断面画像ASの一例である。同図では、頭尾方向の位置情報を含む4枚の体軸断面画像ASを図示してある。これらの体軸断面画像ASを取得画像として画像入力部10より取り込み、記憶部90に医用画像IMとして記録する。再構成部60が体軸断面画像ASを三次元画像に再構成したうえで、断層画像生成部70は冠状断面画像CSを生成する。生成された冠状断面画像CSを図6(b)に示す。冠状断面画像CSには、陽電子のカウント値が高い環状の集積領域Cが存在している。
【0087】
図7は冠状断面画像CSのモデル画像である。このモデル画像は、肺野LGおよび肝臓LVと、それぞれに含まれる集積領域Cと、を模式的に鮮鋭に表したものである。ピクセルサイズを1mmとし、モデル画像は256ピクセル四方の画像サイズである。肺野LGの画素強度を1とし、肝臓LVの画素強度は3、集積領域Cの画素強度を6としてある。集積領域Cとしては、図6(b)に観察される環状領域のほか、直径の異なる3つの円形領域を追加してある。環状の集積領域Cは、外径49mm、内径29mmで厚さ10mmとした。円形の集積領域Cは、腫瘍サイズを摸擬して、直径19mm、9mmおよび直径5mmとした。
【0088】
図8(a)は、図7のモデル画像をY方向にのみ平滑化した摸擬対象画像である。摸擬対象画像は、図7の鮮鋭なモデル画像にモーションアーチファクトが発生した状態を摸擬している。平滑化フィルタには、Y方向に連続して並ぶ5点への重み係数を1:4:8:4:1とする一次元フィルタを用いた。環状の集積領域Cは、X方向に鮮鋭であるのに対し、Y方向に暈けた画像となった。円形の集積領域Cも、全体にY方向に伸張して暈けた画像となった。
【0089】
環状の集積領域Cの中心を通りY方向に延在する線分を計測ライン310として画素値のプロファイルカーブを作成し(図示省略)、その一次微分カーブをフィルタ関数gとして生成した。
【0090】
図5に示す画像処理ステップS30を反復的に実行した。
初期画像設定ステップS31として、推定画像fnの初期画像f0には、図8(a)に示す摸擬対象画像を設定した。重畳積分ステップS32として、推定画像fnとフィルタ関数gとの重畳積分により重畳画像fcnvを求めた。つぎに、差分処理ステップS33として、重畳画像fcnvと対象画像(摸擬対象画像)forgとの差分処理により誤差画像ferrを求めた。そして、画像更新ステップS34として、推定画像fnと誤差画像ferrとの差分処理により推定画像fnを更新した。誤差判定ステップS35を省略して重畳積分ステップS32に戻り、画像処理ステップS30を10回反復して繰り返した。
【0091】
図8(b)は、画像処理ステップS30を10回反復して繰り返した後の推定画像fnであり、すなわち摸擬対象画像を鮮鋭化した摸擬鮮鋭画像である。図8(b)に示すように、Y方向の暈けが除去されてX方向と同程度に鮮鋭な画像となっていることが分かった。肺野LGおよび肝臓LVのいずれについても集積領域Cの暈けは除去された。すなわち、集積領域Cとその周囲とのコントラスト比の高低によらず、本実施例によればモーションアーチファクトを模した暈けが除去されることが分かった。
【0092】
本発明の実施形態および実施例は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)人体の胸部を含む医用画像をコンピュータに画像処理させるためのプログラムであって、前記医用画像から横隔膜と肝臓との接触領域に関する画素強度の頭尾方向の変化率に基づいてフィルタ関数を生成するステップと、生成された前記フィルタ関数を用いて前記医用画像にデコンボリューション処理を行うステップと、を含む医用画像処理プログラム。
(2)前記医用画像が核医学画像であり、前記接触領域における放射線計測のカウント値に基づいて前記変化率を算出する上記(1)に記載の医用画像処理プログラム。
(3)前記カウント値のプロファイルカーブの一次微分関数を前記フィルタ関数とする上記(2)に記載の医用画像処理プログラム。
(4)前記医用画像として、肝臓の冠状断面画像または肝臓の左右方向の中間部を通る矢状断面画像を用いる上記(1)から(3)のいずれか一項に記載の医用画像処理プログラム。
(5)前記医用画像と異なる撮像方向から撮像された複数の断層画像に基づいて胸部の三次元画像を構成するステップと、構成された前記三次元画像から前記医用画像を作成するステップと、を更に含む上記(4)に記載の医用画像処理プログラム。
(6)前記デコンボリューション処理が、以下の(i)から(iii)の工程;(i)前記フィルタ関数を推定画像に重畳して重畳画像を生成する工程、(ii)前記重畳画像と前記医用画像との乖離度に基づいて前記推定画像の誤差判定を行う工程、(iii)前記誤差判定の結果に基づいて前記推定画像を更新する工程、を反復的に行うことを含む上記(1)から(5)のいずれか一項に記載の医用画像処理プログラム。
(7)前記推定画像の初期画像のすべての画素強度が非ゼロである上記(6)に記載の医用画像処理プログラム。
(8)前記医用画像が三次元画像であり、前記フィルタ関数が三次元関数である上記(1)から(7)のいずれか一項に記載の医用画像処理プログラム。
(9)前記医用画像が二次元画像であり、前記デコンボリューション処理が施された複数の前記医用画像に基づいて前記胸部の三次元画像を構成するステップを更に含む上記(1)から(7)のいずれか一項に記載の医用画像処理プログラム。
(10)複数の前記医用画像に対して、一次元または二次元関数である共通の前記フィルタ関数を用いて前記デコンボリューション処理を行うことを特徴とする上記(9)に記載の医用画像処理プログラム。
(11)複数の前記医用画像に関して個別に前記変化率を算出して前記フィルタ関数を生成し、生成された前記フィルタ関数を用いて当該医用画像にそれぞれ前記デコンボリューション処理を行う上記(9)に記載の医用画像処理プログラム。
(12)前記フィルタ関数は、横隔膜の近傍における鮮鋭度よりも、横隔膜からの頭尾方向の距離が大きい位置における鮮鋭度の方が高いことを特徴とする上記(1)から(11)のいずれか一項に記載の医用画像処理プログラム。
(13)人体の胸部を含む医用画像から横隔膜と肝臓との接触領域に関する画素強度の頭尾方向の変化率に基づいてフィルタ関数を算出する工程と、算出された前記フィルタ関数を用いて前記医用画像にデコンボリューション処理を行う工程と、を含む医用画像処理方法。
(14)人体の胸部を含む医用画像を画像処理する装置であって、前記医用画像を入力する画像入力手段と、入力された前記医用画像における横隔膜と肝臓との接触領域を特定する領域特定手段と、特定された前記接触領域に関する前記医用画像の画素強度の頭尾方向の変化率を算出する変化率算出手段と、算出された前記変化率に基づいて前記医用画像のフィルタ関数を生成するフィルタ生成手段と、生成された前記フィルタ関数を用いて前記医用画像にデコンボリューション処理を行う鮮鋭化処理手段と、を含む医用画像処理装置。
【符号の説明】
【0093】
10:画像入力部、20:領域特定部、30:変化率算出部、40:フィルタ生成部、50:鮮鋭化処理部、52:重畳演算部、54:誤差判定部、56:画像更新部、60:再構成部、70:断層画像生成部、80:画像出力部、90:記憶部、100:医用画像処理装置、110:演算処理部、200:ディスプレイ装置、210:入力デバイス、300:接触領域、310:計測ライン、f0:初期画像、fcnv:重畳画像、ferr:誤差画像、fn:推定画像、forg:対象画像、S:被験者、IM:医用画像、AS:体軸断面画像、CS:冠状断面画像、SS:矢状断面画像、C:集積領域、LG:肺野、LV:肝臓
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8