(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ノズルを複数設けて主走査方向に配置したラインヘッドを、前記主走査方向と直交する副走査方向に色別に配置し、前記副走査方向に搬送した印刷用紙上に各色のラインヘッドの対応するノズルから吐出したインクを重ねて着弾させて、カラー画像を前記印刷用紙上に形成する画像形成装置において、
前記カラー画像の画像データに基づいて、前記印刷用紙上に形成したカラー画像中の色合いが変化した領域に吐出されたインクの最小ドロップ数を、前記領域に吐出されたインク色別にライン毎に取得するドロップ数取得手段と、
前記画像データに基づいて、前記領域に属するライン上に吐出されたインクのドロップ数の分布を、インク色別にライン毎に取得する分布取得手段と、
前記取得したインク色同士の最小ドロップ数の比較情報と前記取得したインク色同士のドロップ数の分布の比較情報とに基づいて、前記領域に重ねて吐出されるインク色について、吐出タイミングを補正しない基準色と、吐出タイミングを補正する補正色とに分類する処理を、ライン毎に行う分類手段と、
前記領域において、前記補正色のインクの吐出タイミングの補正内容をライン毎に取得する補正内容取得手段と、
前記領域において、前記補正色のインクの吐出タイミングを、前記補正内容取得手段が取得した補正内容でライン毎に補正する補正手段と、
を備えることを特徴とする画像形成装置。
前記分類手段は、前記最小ドロップ数が一番小さいインク色を前記基準色と決定し、それ以外のインク色を前記補正色と決定することを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
前記分類手段は、前記最小ドロップ数が一番小さいインク色が複数色であるときに、前記取得したドロップ数の分布が一番大きいインク色を前記基準色と決定し、それ以外のインク色を前記補正色と決定することを特徴とする請求項2記載の画像形成装置。
前記分類手段は、前記補正色と決定したインク色の前記取得したドロップ数の分布が所定範囲を超えるときに、該インク色の決定内容を前記基準色に変更することを特徴とする請求項2又は3記載の画像形成装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、ノズル毎にインクの吐出タイミングを補正するには、ノズル毎に個別の駆動手段を持たせなければならず、回路構成が煩雑になると共に制御内容も複雑となってしまう。しかも、カラー印刷の場合は、着弾位置ずれによって色合い変化が生じた重色を構成する色のノズルでそれぞれ吐出タイミング補正を行うこととなり、さらに複雑さを増すことになってしまう。
【0009】
本発明は前記事情に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、各色のノズル毎にインクの吐出に関する個別の制御を行うことなく、カラー印刷における重色の色合いが着弾位置ずれにより変化するのを抑制することができる画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、
ノズルを複数設けて主走査方向(例えば
図3(a)の主走査方向X)に配置したラインヘッド(例えば
図3(a)のラインヘッド110)を、前記主走査方向と直交する副走査方向(例えば
図3(a)の副走査方向Y)に色別に配置し、前記副走査方向に搬送した印刷用紙(例えば
図2の印刷用紙S)上に各色のラインヘッドの対応するノズルから吐出したインクを重ねて着弾させて、カラー画像(例えば
図4(a)のカラー画像)を前記印刷用紙上に形成する画像形成装置(例えば
図1のライン型インクジェットプリンタ1)において、
前記画像データに基づいて、前記印刷用紙上に形成したカラー画像中の色合いが変化した領域(例えば
図4(c)の領域620)に吐出されたインクの最小ドロップ数(例えば
図8のステップS122で取得する着弾位置ずれ補正の必要箇所に吐出するインクの最小ドロップ数。例えば
図4(c)の領域620では、シアンの最小ドロップ数=4、マゼンタの最小ドロップ数=1(
図4(b)、
図9参照)を、前記領域に吐出されたインク色別にライン毎(例えば
図3(a)の各ラインヘッド110単位)に取得するドロップ数取得手段(例えば
図8のステップS122)と、
前記画像データに基づいて、前記領域に属するライン上に吐出されたインクのドロップ数の分布(例えば
図4(c)の領域620では、シアンのドロップ数分布幅=1、マゼンタのドロップ数分布幅=5(
図4(b)、
図9参照)を、インク色別にライン毎に取得する分布取得手段(例えば
図8のステップS122)と、
前記取得したインク色同士の最小ドロップ数の比較情報(例えば
図8のステップS122で取得する着弾位置ずれ補正の必要箇所の画素に吐出するインク色間でのドロップ数の最小値の比較結果)と前記取得したインク色同士のドロップ数の分布の比較情報(例えば
図8のステップS124で行うドロップ数分布の色間比較結果)とに基づいて、前記領域に重ねて吐出されるインク色について、吐出タイミングを補正しない基準色(例えば
図9のマゼンタ)と、吐出タイミングを補正する補正する補正色(例えば
図9のシアン)とに分類する処理を、ライン毎に行う分類手段(例えば
図8のステップS123乃至ステップS128)と、
前記領域において、前記補正色のインクの吐出タイミングの補正内容をライン毎に取得する補正内容取得手段(例えば
図8のステップS130)と、
前記領域において、前記補正色のインクの吐出タイミングを、前記補正内容取得手段が取得した補正内容で補正する補正手段(例えば
図8のステップS131)と、
を備えることを特徴とする。
【0011】
上記発明によれば、重色を構成するインク色のインクの着弾位置ずれにより重色の色合いに変化が生じた場合、各インク色の着弾位置を相対的に調整すれば、着弾位置ずれとそれによる重色の色合い変化を抑制することができる。そこで、インクの着弾位置をインクの吐出タイミングの補正により調整する場合、重色を構成するどの色を吐出タイミングを補正しない基準色とし、どの色を吐出タイミングを補正する補正色として、両者の着弾位置を相対的に調整するかが問題となる。
【0012】
ところで、上記発明では、重色を構成するインク色のうち補正色と決定したインク色のインクの吐出タイミングを、主走査方向の1ライン単位で同じ補正内容で補正する。したがって、重色の色合い変化が生じた画素がライン上に存在すれば、同じライン上のその他の画素についても補正色のインクの吐出タイミングを、重色の色合い変化が生じた画素の各色のインクのドロップ数に応じた補正内容で一律に補正することになる。
【0013】
ここで、色合いが変化した領域の各ラインの全画素について、各ライン上の領域内の画素に吐出される基準色と補正色の各インクのドロップ数に対応する補正内容で、インクの吐出タイミングが補正される場合を、一例として想定する。この場合、重色の色合い変化が生じた画素以外の他の画素では、その画素に適用する吐出タイミングの補正内容に対応する補正色のドロップ数と、その画素にノズルから吐出される補正色のドロップ数との間に、開きが生じることになる。このドロップ数の開きが大きいほど、他の画素においては、補正色のインクの吐出タイミングを補正することでその画素の色合いが変化する度合いが大きくなる。
【0014】
そして、ライン上でのドロップ数の分布が大きいインク色を補正色にすると、上述したドロップ数の開きが大きい画素が他の画素中に数多く存在するようになる。よって、補正色のインクの吐出タイミングを上述した例のようにライン毎に同じ補正内容で補正する場合は、補正色とするのは、重色の構成色のインクのうち、ライン上でのドロップ数の分布が相対的に小さいインク色とする方が好ましい。
【0015】
また、インクの吐出タイミングを補正してインクの着弾位置を調整する場合、小ドロップ数よりも大ドロップ数の方がノズル周辺の気流の影響を受けにくいので、インクの着弾位置を確実に調整することができる。このため、重色の構成色のインクのうち最小ドロップ数が小さいインク色ほど基準色とし、最小ドロップ数が大きいインク色ほど補正色とするのが有利である。
【0016】
そこで、色合い変化が生じた領域画素に吐出されたインクの最小ドロップ数の色間比較情報と、その画素を含むラインの各画素に吐出するインクのドロップ数の分布の色間比較情報とに応じてインク色を分類し、その分類結果に応じて基準色とするインク色と補正色とするインク色とを決定する。これにより、ライン上の各画素に一律の補正内容でインクの吐出タイミングを補正しても、重色の色合い変化の原因となる構成色のインクどうしの着弾位置ずれを抑制し、かつ、重色の色合い変化が生じていない同一ライン上の他の画素についても、吐出タイミングの補正により色合いが大きく変化するのを防ぐことができる。
【0017】
よって、各色のノズル毎にインクの吐出に関する個別の制御を行うことなく、ライン単位の一律な吐出タイミングの補正により、カラー印刷における重色の色合いが着弾位置ずれにより変化するのを抑制することができる。
【0018】
また、本発明は、前記分類手段は、前記最小ドロップ数が一番小さいインク色(例えば
図4(c)の領域620の最小ドロップ数が1であるマゼンタ(
図4(b)、
図9参照)を前記基準色と決定し、それ以外のインク色(例えば
図4(c)の領域620の最小ドロップ数が4であるシアン(
図4(b)、
図9参照)を前記補正色と決定する(例えば
図8のステップS126)ことを特徴とする。
【0019】
上記発明によれば、重色を構成するインク色のうち1つを基準色とする際に、吐出タイミングの補正によりインクの着弾位置を最も調整しにくい、最小ドロップ数が一番小さいインク色を、吐出タイミングの補正対象外の基準色とする。これにより、吐出タイミングの補正によりインクの着弾位置を調整しやすいインク色を積極的に補正色とするようにして、インクの着弾位置ずれによる重色の色合い変化を効率的に抑制することができる。
【0020】
また、本発明は、前記分類手段は、前記最小ドロップ数が一番小さいインク色が複数色であるとき(例えば
図8のステップS125でYESの場合)に、前記取得したドロップ数の分布が一番大きいインク色を前記基準色と決定し、それ以外のインク色を前記補正色と決定する(例えば
図8のステップS127)ことを特徴とする。
【0021】
上記発明によれば、重色を構成するインク色のうち1つを基準色とする際に、吐出タイミングの補正によりインクの着弾位置を最も調整しにくい、最小ドロップ数が一番小さいインク色の中でも、特に、色合い変化が生じた重色以外の他の画素で不要な色合い変化が大きく生じやすい、ドロップ数の分布が一番大きいインク色を、吐出タイミングの補正対象外の基準色とする。これにより、吐出タイミングの補正によりインクの着弾位置を調整しやすいインク色や、一律な補正内容で吐出タイミングを補正することで色合い変化が生じた重色以外の他の画素において不要な色合い変化が大きく生じにくいインク色を、積極的に補正色とするようにして、インクの着弾位置ずれによる重色の色合い変化を効率的に抑制することができる。
【0022】
また、本発明は、前記分類手段は、前記補正色と決定したインク色の前記取得したドロップ数の分布が所定範囲を超えるときに、該インク色の決定内容を前記基準色に変更する(例えば
図8のステップS128及びステップS129)ことを特徴とする。
【0023】
上記発明によれば、補正色としたインク色のドロップ数が所定範囲を超えて分布する場合は、補正色とするのが、重色の構成色のインクのうち、ライン上でのドロップ数の分布が相対的に小さいインク色とする方が好ましいことを考慮して、そのインク色を補正色から基準色に変更しインクの吐出タイミングの補正対象から外す。これにより、インクの吐出タイミングをライン単位で全ノズル一律に同じ内容で補正することで他の画素において発生する色合い変化とのバランスを取って、重色の色合い変化の抑制を図ることができる。
【0024】
なお、上記発明において、前記ドロップ数取得手段及び前記分布取得手段は、前記領域が所定以上の大きさであるときに前記最小ドロップ数及び前記ドロップ数の分布をそれぞれ取得する(例えば
図8のステップS121)構成としてもよい。
【0025】
上記発明によれば、重色の色合い変化を抑制するために、インクの吐出タイミングをライン単位で全ノズル一律に同じ内容で補正すると、他の画素において新たに色合い変化が発生する可能性がある。一方、重色の色合い変化が生じている領域が、カラー画像の全体からして色合い変化が視覚上目立たない程度の大きさ(所定未満の大きさ)であるときには、重色の色合い変化が生じていてもインクの吐出タイミングを補正する必要性がない場合がある。
【0026】
そこで、重色の色合い変化が生じている領域が所定未満の大きさである場合は、重色を構成するインク色のライン毎の最小ドロップ数やドロップ数の分布を取得しない。その結果、重色の色合い変化が生じた画素を含むライン上の画素に対するインクの吐出タイミングの補正が行われなくなる。よって、重色の色合い変化が視覚上目立たない程度の大きさでしか発生していないときに、インクの吐出タイミングを補正しないようにして、他の画素に色合い変化が生じるのを防ぐことができる。
【0027】
また、上記発明において、前記所定以上の大きさは、前記印刷用紙の大きさに対する前記領域の大きさの割合が一定値以上となる大きさである(例えば
図8のステップS121)ことを特徴とする。上記発明によれば、重色の色合い変化が視覚上目立たない程度の大きさを、印刷用紙(に形成するカラー画像)の大きさに応じて適切な大きさに定まるようにすることができる。
【0028】
また、上記発明において、前記印刷用紙上に形成したカラー画像を読み込んで該カラー画像のインク色別の画像データを取得する画像データ取得手段(例えば
図7のステップS112)と、該取得した画像データから前記領域を特定する領域特定手段(例えば
図7のステップS113)とをさらに備える構成としてもよい。上記発明によれば、印刷用紙上に形成したカラー画像の重色が色合い変化した領域を客観的に規定して、そこで発生している重色の色合い変化に適応したインクの吐出タイミングを取得することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、各色のノズル毎にインクの吐出に関する個別の制御を行うことなく、カラー印刷における重色の色合いが着弾位置ずれにより変化するのを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、各図面を通じて同一もしくは同等の部位や構成要素には、同一もしくは同等の符号を付し、その説明を省略もしくは簡略化する。
【0032】
図1は本発明が適用されるライン型インクジェットプリンタの概略構成を示す説明図である。
図1に示すように、本実施形態のライン型インクジェットプリンタ(以下、「インクジェットプリンタ」と略記する。請求項中の画像形成装置に相当)1は、原稿上の原稿画像を読み取って画像信号を出力するスキャナ部101と、スキャナ部101から出力された画像信号に基づいて印刷用紙S(片面又は両面、
図2参照)に原稿画像を印刷(記録)するプリンタ部102と、各種表示入力用のディスプレイ103と、全体制御用の制御ユニット10とを備えている。
【0033】
図2は、本実施形態に係るインクジェットプリンタ1のプリンタ部102において、画像形成が行われる画像形成経路CR1を側方から示す説明図であり、
図3(a)は、画像形成経路CR1の上方に配置される
図2のヘッドホルダ500を下方から示す説明図であり、
図3(b)は、ヘッドホルダ500の側断面を拡大して示す説明図である。
【0034】
本実施形態に係るインクジェットプリンタ1のプリンタ部102は、画像形成部であるラインヘッド110を色別に有している。
図3(a)に示すように、各色のラインヘッド110は、主走査方向Xに沿ってそれぞれ延在し、副走査方向Yに等間隔をおくようにそれぞれ配置されている。また、各色のラインヘッド110は、主走査方向Xに複数のヘッドブロック110aを並べて構成されている。
【0035】
図2に示すように、本実施形態に係る印刷装置は、その搬送経路として画像形成経路CR1を含んでおり、この画像形成経路CR1では、搬送ベルト160によって、印刷条件により定められる速度で印刷用紙Sが副走査方向Yに搬送される。この画像形成経路CR1の上方には、各色のラインヘッド110が、搬送ベルト160に対向配置され、ラインヘッド110に備えられた各ヘッドブロック110aのノズルから、搬送ベルト160上の印刷用紙Sに対し、ライン単位(ラインヘッド110単位)で各色のインクを吐出し、複数の画像を互いに重なり合うように形成する。
【0036】
ヘッドブロック110aは、
図3(a)及び(b)に示すように、C(シアン)、K(ブラック)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)の色別にそれぞれ複数個ずつ設けられている。各色のヘッドブロック110aは、副走査方向Yに間隔をおいてそれぞれ配置されている。各色の複数のヘッドブロック110aは、主走査方向Xに並べて配置されており、かつ、1つおきに搬送方向の位置をずらして配置されている。これにより、隣り合う2つのヘッドブロック110aの最端部のノズル(図示せず)どうしの間隔が、各ヘッドブロック110aの隣り合うノズルの間隔と一致するようにしている。
【0037】
各ヘッドブロック110aは、インクの吐出ドロップ数を変えることができる。この吐出するドロップの数(液滴数)によりドットの濃度が変化する。なお、本実施形態のインクジェットプリンタ1は、ドロップのサイズを液滴量として調整する機能を備えている。ヘッドブロック110aにおける液滴量の調整は、ヘッドブロック110aの駆動電圧を調整することにより行うことができる。
【0038】
ところで、各色のヘッドブロック110aの対応する各ノズルから印刷用紙Sの同じ画素位置に2色以上のインク液滴を重ねて着弾させて、重色を形成する場合がある。このとき、各色のインク液滴に、印刷用紙Sの搬送により生じる気流から受ける影響等によって着弾位置にずれが生じ、その画素の色味が本来とは異なる色合いに変わってしまうことがある。特に、ドロップ数が少ないインクは軽量なため気流の影響を受けて流れやすく、着弾位置ずれが大きくなる傾向がある。
【0039】
ここで、
図4を参照して、重色を含むカラー画像を印刷用紙Sに形成する場合に生じる色合い変化について説明する。例えば、シアン(C)とマゼンタ(M)の重色で
図4(a)に示すカラー画像600を形成する場合は、シアン(C)とマゼンタ(M)の各ラインヘッド110のノズルから、
図4(b)の上段及び下段にそれぞれ示すようなドロップ数の分布(シアンのドロップ数分布幅=1、マゼンタのドロップ数分布幅=5)でインクをそれぞれ吐出する。なお、
図4(b)では、図中の左右方向が主走査方向、図中の上下方向が副走査方向である。
【0040】
図4(b)の分布でシアン(C)とマゼンタ(M)のインクが各ノズルから吐出されると、印刷用紙Sに形成されるカラー画像600には、
図4(c)の上段に示すように、図中の左から、シアン4ドロップとマゼンタ6ドロップの重色の領域610、シアン4ドロップとマゼンタ1ドロップの重色の領域620、シアン4ドロップとマゼンタ6ドロップの重色の領域610、シアン5ドロップとマゼンタ6ドロップの重色の領域630ができる。
【0041】
そして、シアン(C)とマゼンタ(M)のインクがそれぞれ理想的な位置に着弾すると、各領域610〜630にシアン(C)とマゼンタ(M)の重色が、
図4(c)の上段に示すように、それぞれの領域における各色のドロップ数に応じた色合いで印刷される。ところが、シアン(C)やマゼンタ(M)のインクの着弾位置がずれると、両インクの重なる部分の大きさが変わって、カラー画像600の色合いに変化が生じることがある。
【0042】
ここで、インクの着弾位置ずれ量は、インクのドロップ数によって異なる場合がある。例えば、マゼンタ(M)のインクの着弾位置がずれた場合は、6ドロップのインクが着弾する領域610,630と、1ドロップのインクが着弾する領域620とでは、生じる色合い変化の度合いが異なる場合がある。なお、
図4(c)の下段には、色合いが赤みがかる変化が領域620に目立って生じた場合を示している。
【0043】
このような色合い変化の原因となるインクの着弾位置ずれは、インクの吐出タイミングを補正する(早める又は遅らせる)ことで抑制することができる。そして、本実施形態では、重色を構成する複数色のインクのうち一部の色を基準色として、吐出タイミングの補正を行わないようにする。また、残る他の色を補正色として、吐出タイミングを補正することで基準色に対する着弾位置を調整し、色合い変化の抑制を図る。
【0044】
この場合、上述したようにインクの着弾位置ずれはインクのドロップ数によって変わることがある。そこで、マゼンタ(M)のラインヘッド110の各ノズルによるインクの吐出タイミングを、そのノズルから吐出するドロップ数に応じた内容で補正することが考えられる。しかし、各ノズルから吐出されるインクのドロップ数に合わせて各ノズル毎に独立した駆動回路を持たせると、回路構成が増大し、かつ、各駆動回路を個別に制御するため制御系の負担も大きくなる。
【0045】
そこで、本実施形態のインクジェットプリンタ1では、重色を構成するインクの色合い変化が生じた画素に吐出される各色のインクの最小ドロップ数や、色合い変化が生じた画素を含む主走査方向Xの1ライン分の各画素に各色のラインヘッド110のノズルが吐出するインクのドロップ数分布に応じて、インクの吐出タイミングを補正するインクの色や補正内容を決定する。そして、補正対象色のラインヘッド110の各ノズルが吐出するインクの吐出タイミングを、決定した補正内容で制御ユニット10により、各ラインヘッド110単位で一律に補正するようにしている。
【0046】
図1に示すように、制御ユニット10には、外部インタフェース部11を介して、後述するクライアント端末14の外部インタフェース部15が接続されている。この接続には、例えば、100BASE−TXの有線LANが用いられる。このクライアント端末14から制御ユニット10は、原稿画像の印刷ジョブを受け取る。この印刷ジョブは、ポストスクリプトデータと印刷環境データとを含んでいる。制御ユニット10は、受け取った印刷ジョブのポストスクリプトデータにより原稿画像のラスタデータを生成する。インクジェットプリンタ1は、印刷ジョブの印刷環境情報において指定された条件で、原稿画像の印刷用紙Sへの印刷をプリンタ部102において実行する。
【0047】
上述したプリンタ部102に印刷動作を行わせるインクジェットプリンタ1の制御ユニット10は、CPU90を備える。このCPU90には、ディスプレイ103が接続されている。このディスプレイ103は、スキャナ部101によって印刷用紙Sから画像を読み取るスキャナモードでインクジェットプリンタ1を使用する場合に、読み取った画像の電子データ化や自己診断等のメニューをユーザが選択入力する入力操作部として利用することができる。
【0048】
そして、制御ユニット10のCPU90は、ROM91に格納されているプログラム及び設定情報に基づいて、ディスプレイ103から入力設定される内容に応じたスキャナ部101やプリンタ部102の動作を制御する。
【0049】
なお、制御ユニット10にはRAM92が設けられており、RAM92にはディスプレイ103から入力されたメニュー選択内容等が随時記憶される。また、RAM92にはフレームメモリ領域が設けられている。このフレームメモリ領域には、クライアント端末14から制御ユニット10に入力された印刷ジョブのポストスクリプトデータからCPU90が生成する、原稿画像のラスタデータが、プリンタ部102に出力されるまでの間、一時的に記憶される。
【0050】
また、制御ユニット10には外部記憶装置93が設けられている。この外部記憶装置93には、ディスプレイ103、プリンタ部102のプリンタエンジン、並びに、スキャナ部101のファームウェアが、使用する領域を分けてそれぞれ記憶されている。
【0051】
さらに、外部記憶装置93(請求項中の記憶手段に相当)には、ノズルからのインクの吐出タイミングを補正するための補正プロファイルデータが記憶されている。この補正プロファイルデータは、例えば特開2010−23294号公報や特開2010−234681号公報に記載された、ノズルからのインクの吐出タイミングを補正するのに用いるプロファイルデータである。その詳細については各公報の記載内容を参照されたい。
【0052】
この補正プロファイルデータは、同一の画素に着弾する各色のインクの着弾位置ずれをなくすためのものである。補正プロファイルデータで定義する補正内容は、例えば、各色のインクの各吐出タイミングにおける搬送ベルト160のホームポジションからの実測回転距離と、各色のインクの理想的な着弾位置に対する着弾位置ずれ内容とから決定することができる。
【0053】
各色のインクの理想的な着弾位置に対する着弾位置ずれ内容は、対象の画素に吐出される各色のインクのドロップ数の組み合わせパターン毎に定義される。したがって、補正プロファイルデータは、対象の画素に吐出される各色のインクの組み合わせパターン別に設けられる。
【0054】
例えば、ノズルから吐出するインクのドロップ数が0〜7ドロップの8段階に変わる場合は、8^4(8の4乗)=4096通りの補正プロファイルデータが外部記憶装置93に記憶される。
【0055】
なお、補正プロファイルデータは、印刷用紙Sの種類毎にそれぞれ設けることが望ましい。印刷用紙Sの種類が異なるとドットゲインが変わり、ドロップ数が変わった場合と同じく着弾位置ずれの内容が変わって、発生する色合いの変化の内容が変わるからである。
【0056】
この補正プロファイルデータは、例えば、インクジェットプリンタ1の出荷前に、各インクジェットプリンタ1毎に取得して、外部記憶装置93に記憶させることができる。補正プロファイルデータの内容とする、ラインヘッド110の各ノズルから吐出するインク液滴の吐出タイミングの補正量は、実際の印刷用紙Sに対するテストパターン画像の印刷結果から、各色毎に取得することができる。
【0057】
また、補正プロファイルデータは、ヘッドブロック110aや画像形成経路CR1の交換等、各有彩色のインク液滴の着弾位置ずれパターンに変化が生じる事象が新たに発生した際に、更新してもよい。
【0058】
クライアント端末14は、PC(パーソナルコンピュータ)等によって構成されるものであり、ROM17に格納された制御プログラムに基づいて各種の処理を実行するCPU16と、CPU16のワーキングエリアとして機能するRAM18と、キーボードやマウス等から構成される入力部19と、液晶ディスプレイ等から構成される出力部20とを備えている。
【0059】
CPU16には、上述した外部インタフェース部15の他に、外部記憶装置21とディスクドライブ22とが接続されている。外部記憶装置21には、各種のデータやプログラム、原稿画像のデータの格納領域等が確保されている。
【0060】
CPU16は、外部記憶装置21のアプリケーションプログラムを起動させ、例えば、外部記憶装置21の原稿画像のデータの印刷指令が入力された場合に、印刷対象の原稿画像の印刷ジョブを生成して、生成した印刷ジョブを外部インタフェース部15から制御ユニット10の外部インタフェース部11に出力する。この印刷ジョブは、外部記憶装置21に格納されたプリンタドライバプログラムをCPU16が実行することによって、制御ユニット10に出力することができる。
【0061】
また、CPU16は、クライアント端末14のディスクドライブ22により光学ディスク等のディスク状記録媒体50から各種プログラムやデータを読み取って、外部記憶装置21にインストール(記憶)させたりインクジェットプリンタ1側に伝送することができる。
【0062】
次に、外部記憶装置93の補正プロファイルデータのプロファイリング手順、即ち、プロファイルデータの生成手順について説明する。
図5はプロファイルデータの生成手順を示すフローチャートである。
【0063】
補正プロファイルデータの生成に当たっては、まず、
図5のステップS101において、各画素の着弾位置ずれを検出するためのテストパターンを、インクジェットプリンタ1によって印刷する。
【0064】
このテストパターンは、各ドロップ数の組み合わせ毎に(8^4(8の4乗)=4096通り)あり、印刷用紙Sの全面に亘って各画素に対応するノズルから規定されたドロップ数で吐出させた、シアン(C)、K(ブラック)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各色のインク液滴により、ドットを形成したものである。
【0065】
図6はインクジェットプリンタ1によって印刷するテストパターンの一例を示す説明図である。このテストパターンは、図中左上の写真を含む原画像から抽出した補正箇所の画素に対する各色のインクの着弾位置ずれを確認するためのものである。このテストパターンでは、補正箇所の各画素に着弾するインク液滴の着弾位置ずれを各色個別に確認できるように、C(シアン)、K(ブラック)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)を単色で印刷用紙Sの各画素に順番に印刷している。なお、
図6では、補正箇所の各画素に着弾する、C(シアン)6ドロップ、K(ブラック)2ドロップ、M(マゼンタ)4ドロップ、Y(イエロー)5ドロップの組み合わせのテストパターンを例に取って示している。
【0066】
そして、
図5のステップS102において、スキャナ部101でテストパターンを読み取り、さらに、ステップS103において、その画像データを制御ユニット10で解析して、テストパターン画像上の各画素のドットの着弾位置を取得する。そして、制御ユニット10が予め認識している、印刷用紙Sの各画素に対する正規の着弾位置との比較により、各画素における着弾位置ずれ(副走査方向Yへの)を算出する(ステップS104)。
【0067】
そして、正規の着弾位置に対する各色のインクの着弾位置ずれを解消するための、各色のインクの吐出タイミングの補正値を定義した補正プロファイルデータを生成する。そして、テストパターンで印刷した各色のインクのドロップ数の組み合わせに対応する補正プロファイルデータとして、外部記憶装置93に記憶させる(ステップS105)。
【0068】
以上の手順を、各色のインクのドロップ数の組み合わせパターン分だけ行って、一連の手順を終了する。
【0069】
次に、インクジェットプリンタ1で印刷用紙Sにカラー画像を印刷する際に制御ユニット10が行うインクの吐出タイミングの補正内容を決定する手順について、
図7及び
図8のフローチャートを用いて説明する。
【0070】
まず、制御ユニット10は、カラー画像を印刷用紙Sに印刷する際にインクの吐出タイミングを補正する対象の領域とインク色とを決定する。具体的には、
図7に示すように、制御ユニット10は、吐出タイミング補正の対象領域と対象インク色とを決定するためのサンプルとして印刷用紙Sに印刷したカラー画像をスキャナ部101で読み取る(ステップS111,112)。
【0071】
このサンプルは、制御ユニット10がクライアント端末14からの印刷ジョブを受け取った際に、その印刷ジョブを実行してカラー画像を印刷する本印刷の前に1枚だけ試し印刷することで取得する。ここでは、
図4(c)の下段に示すように赤みが増したカラー画像600を、試し印刷した印刷用紙Sからスキャナ部101で読み取ったものとする。
【0072】
そして、制御ユニット10は、読み取ったカラー画像600の画像データと印刷ジョブ中のカラー画像600の画像データとの比較により、重色の色合い変化が目立って生じた領域を、着弾位置ずれの補正を必要とする箇所として抽出する(ステップS113)。
【0073】
具体的には、例えば、データ上(印刷ジョブ中のカラー画像600上)におけるシアンとマゼンタとの重ね合わせによる色味と、印刷用紙S上に実際に形成したシアンインクとマゼンタインクの重ね合わせによる色味とを比較する。そして、両者間で色味の差が一番大きい領域を、1つのラインヘッド110の各ノズルから吐出されたインクで形成される画像部分の中から、着弾位置ずれ補正を行う必要がある箇所として抽出する。
図4(c)の下段に示すカラー画像600の場合は、例えば、赤みがかる色合い変化が目立って発生した領域620を、着弾位置ずれ補正の必要箇所として抽出する。
【0074】
このようにして印刷用紙S上の着弾位置ずれ補正の必要箇所を抽出したならば、次に、制御ユニット10は、クライアント端末14から受け取った印刷ジョブを実行して印刷用紙Sにカラー画像を本印刷する際に適用するインクの吐出タイミング補正内容を、ライン単位で決定する。各ラインの吐出タイミングの補正内容は、抽出した箇所の対応するラインにおいて着弾位置ずれを補正するために適用される。
【0075】
この決定は、カラー画像の主走査方向Xの各ライン毎に
図8のステップS121〜ステップS130の手順を繰り返して行う。そして、本印刷の際には、決定した補正内容で各ラインのインクの吐出タイミングを補正して、印刷用紙Sにカラー画像を印刷する(ステップS131)。
【0076】
詳しくは、制御ユニット10は、
図7のステップS113で抽出した着弾位置ずれ補正の必要箇所を参照して、着弾位置ずれ補正のためのインクの吐出タイミング補正を行う補正対象ヘッドを、主走査方向Xの各ラインについて決定する(ステップS121)。具体的には、参照した着弾位置ずれ補正の必要箇所の大きさが、印刷用紙Sの大きさ(サイズ)に対して一定値以上の割合となる場合に、その必要箇所に形成する重色を構成する色のラインヘッド110を、各ラインの補正対象ヘッドとして決定する。
【0077】
例えば、
図4(c)の下段に示すように、赤みが増した領域620を着弾位置ずれ補正の必要箇所として抽出したカラー画像600の場合は、カラー画像600に対応する主走査方向Xの各ラインについて、シアンとマゼンタとに対応する各ラインヘッド110が補正対象ヘッドとして決定される。決定した補正対象ヘッドに対応する各インク色は、後述するように、インクの吐出タイミングを補正しない基準色と補正する補正色とのどちらかにそれぞれ設定される。
【0078】
続いて、制御ユニット10は、主走査方向Xの各ラインについて、補正対象ヘッドとして決定したラインヘッド110のノズルが着弾位置ずれ補正の必要箇所の画素に吐出するインクのドロップ数と、その画素を含む主走査方向Xの1ライン分の画素にラインヘッド110のノズルが吐出するインクのドロップ数分布とを、クライアント端末14からの印刷ジョブから取得する(ステップS122)。
【0079】
そして、制御ユニット10は、主走査方向Xの各ラインについて、取得したドロップ数分布から、重色を構成する各色のラインヘッド110のノズルが吐出するインクのドロップ数分布の分散を算出し(ステップS123)、色間でドロップ数分布の分散を比較する(ステップS124)。さらに、制御ユニット10は、主走査方向Xの各ラインについて、各色のラインヘッド10のノズルが着弾位置ずれ補正の必要箇所の画素に吐出するインクのドロップ数が最小となるインクが、複数色存在するか否かを確認する(ステップS125)。
【0080】
複数色存在しない場合は(ステップS125でNO)、制御ユニット10は、そのラインについて、着弾位置ずれ補正の必要箇所の画素に最小ドロップ数のインクを吐出する色を、吐出タイミングの補正を行わない基準色とし、その他の色を、吐出タイミングの補正を行う補正色とする(ステップS126)。また、着弾位置ずれ補正の必要箇所の画素に吐出するインクが最小ドロップ数となるインクが複数色存在する場合は(ステップS125でYES)、制御ユニット10は、そのラインについて、最小ドロップ数となる色のうち、ドロップ数の分布の分散が最も大きい色を基準色とし、その他の色を補正色とする(ステップS127)。
【0081】
図9は、
図4(b)に示した、カラー画像600を印刷する際にシアン及びマゼンタのラインヘッド110内における、ノズルが吐出するインクのドロップ数の分布を、グラフにしたものである。
図9に示すように、シアンに比べてマゼンタはドロップ数のラインヘッド110内の分布が分散しており、数値で示すと、シアンのドロップ数の分散は0.64であるのに対し、マゼンタのドロップ数の分散は6.36にも及ぶ。
【0082】
しかも、
図4(c)の下段に示すように、赤みが増す色合い変化が目立って生じる領域620に対応する画素に吐出されるインクのドロップ数(請求項中の最小ドロップ数に相当)は、4ドロップのシアンに対して1ドロップのマゼンタの方が少ない。そして、領域620にはブラックとイエローのインクが吐出されない。このため、この場合は、吐出ドロップ数が小さく(1ドロップ)しかも分散が大きい(6.36)マゼンタが基準色となり、シアンが補正色となる。
【0083】
なお、領域620の画素に吐出される各色のインクのドロップ数に分布がある場合は、そのうち最も小さいドロップ数(請求項中の最小ドロップ数に相当)を、基準色や補正色を決定する場合のドロップ数として用いる。
【0084】
このようにして基準色と補正色を決めるのは、以下のような理由があるからである。即ち、重色を構成するインク色のうち補正色と決定したインク色のインクの吐出タイミングを、主走査方向Xの1ライン単位で、色合い変化した領域620の基準色と補正色の各ドロップ数に対応する補正内容で補正する。したがって、例え主走査方向Xの一部の画素であっても領域620に属するラインについては、そのライン上の全ての画素について、補正色のインクの吐出タイミングを、重色の色合い変化が生じた画素に対する補正色のインクのドロップ数に応じた補正内容で一律に補正することになる。
【0085】
即ち、重色の色合い変化が生じた画素(領域620上の画素)以外の他の画素(領域610,630上の画素)では、その画素に適用する吐出タイミングの補正内容に対応する補正色のドロップ数と、その画素にノズルから吐出される補正色のドロップ数との間に、開きが生じることになる。
【0086】
ここで、インクの吐出タイミングの補正内容がインクのドロップ数によって異なることから明らかなように、インクを理想的な着弾位置に着弾させることができる適正な吐出タイミングは、厳密にはインクのドロップ数によって異なる。したがって、画素に適用する補正内容に対応するドロップ数と、画素に実際に吐出されるドロップ数との開きが大きいほど、領域620上の画素以外の他の画素においては、補正色のインクの吐出タイミングを補正することでその画素の色合いが変化する度合いが大きくなる。
【0087】
そして、ライン上でのドロップ数の分布が大きいインク色を補正色にすると、上述したドロップ数の開きが大きい画素が他の画素中に数多く存在するようになる。例えば、領域620の画素の場合は、シアンよりもドロップ数の分布が大きいマゼンタを補正色とする場合がこれに相当する(シアンのドロップ数分布幅=1、マゼンタのドロップ数分布幅=5)。
【0088】
本実施形態では、ノズル毎に個別の補正内容で吐出タイミングを補正するのではなく、1つのラインヘッド110にある全てのノズルの吐出タイミングを同じ補正内容で補正する。このため、主走査方向Xの各ラインにおいて、ラインヘッド110の各ノズルが吐出するインクのドロップ数の分布の分散が小さい方が、各ラインでの着弾位置ずれによる全体的な色合い変化を小さくすることができる。
【0089】
この場合は、
図4(c)の下段の領域Aで示す画素について拡大すると、
図10(a)の右側2列の画素に示すように、シアンとマゼンタの各インクが着弾位置ずれして生じた色合い変化を、
図10(b)の右側2列の画素に示すように、シアンのインクの着弾位置に対してマゼンタのインクの着弾位置をずらすことによって補正することになる。
【0090】
すると、
図10(b)の左側2列の画素に示すように、シアンの着弾位置にほぼ重なっていたマゼンタの着弾位置が、シアンの着弾位置の下側の一部において重ならなくなる。これにより、
図10(b)の右側2列の画素の色合い変化は抑制されるものの、
図10(b)の左側2列の画素に新たな色合い変化が生じてしまう。
【0091】
このため、補正色とするのは、重色の構成色のインクのうち、ライン上でのドロップ数の分布が相対的に小さいインク色とする方が好ましい。例えば、領域620の画素の場合は、シアンよりもドロップ数の分布が大きいマゼンタを補正色とするのが好ましい。
【0092】
この場合は、
図4(c)の下段の領域Aで示す画素について拡大すると、
図11(a)の右側2列の画素に示すように、シアンとマゼンタの各インクが着弾位置ずれして生じた色合い変化を、
図11(b)の右側2列の画素に示すように、マゼンタのインクの着弾位置に対してシアンのインクの着弾位置をずらすことによって補正することになる。
【0093】
すると、
図11(b)の左側2列の画素に示すように、シアンの着弾位置が、マゼンタの着弾位置の最下方から最上方に移動するものの、マゼンタの着弾位置にほぼ重なった状態で維持される。これにより、
図11(b)の右側2列の画素の色合い変化を抑制しても、
図11(b)の左側2列の画素に生じる新たな色合い変化は、
図10(b)の左側2列の画素ほど大きなものとはならない。
【0094】
なお、インクの吐出タイミングを補正してインクの着弾位置を調整する場合、小ドロップ数よりも大ドロップ数の方がノズル周辺の気流の影響を受けにくいので、インクの着弾位置を確実に調整することができる。このため、重色の構成色のインクのうち最小ドロップ数が小さいインク色ほど基準色とし、最小ドロップ数が大きいインク色ほど補正色とするのが有利である。
【0095】
つまり、上述したように本実施形態では、ノズル毎に個別の補正内容で吐出タイミングを補正するのではなく、1つのラインヘッド110にある全てのノズルの吐出タイミングを同じ補正内容で補正する。このため、ラインヘッド110の各ノズルが吐出するインクのドロップ数が全体的に大きい方が、吐出タイミングの補正によりインクの着弾位置を有効にコントロールすることができる。
【0096】
その点、ラインヘッド110の各ノズルが吐出するインクの最小ドロップ数が大きい方が、ラインヘッド110の各ノズルが吐出するドロップ数が全体的に大きいことになる。そこで、最小ドロップ数が大きいインク色ほど補正色とするのに適しており、最小ドロップ数が小さいインク色が小さいインク色ほど補正色とせず基準色とするのに適していると言える。
【0097】
したがって、
図8のフローチャートのステップS127までの手順で基準色と補正色を決定する際には、重色の色合い変化が生じた領域620の画素に対するインクの吐出ドロップ数が小さい(1ドロップ)マゼンタを基準色とし、吐出ドロップ数が大きい(4ドロップ)シアンを補正色とするようにしている。
【0098】
これにより、ライン上の各画素に一律の補正内容でインクの吐出タイミングを補正しても、重色の色合い変化の原因となる構成色のインクどうしの着弾位置ずれを抑制し、かつ、重色の色合い変化が生じていない同一ライン上の他の画素についても、吐出タイミングの補正により色合いが大きく変化するのを防ぐことができる。
【0099】
インクの吐出タイミングの補正内容を決定する手順に戻って、
図8に示すように、制御ユニット10は、補正色としたインク色のラインヘッド110のノズルによるインクの吐出ドロップ数の分布の分散が、予め定めたしきい値以上であるか否かを確認する(ステップS128)。分散がしきい値以上である場合は(ステップS128でYES)、制御ユニット10は、そのインク色を補正色から基準色に変更する(ステップS129)。なお、これに伴って、基準色を補正色に変更することはない。
【0100】
ラインヘッド110の各ノズルによるインクの吐出ドロップ数の分布の分散がしきい値以上となる場合に、補正色に決定したインク色を基準色に変更するのは、以下のような理由からである。即ち、補正色としたインク色のドロップ数の分布が、基準色としたインク色のドロップ数の分布よりは小さくても所定範囲を超える場合は、その色を補正色とすると、結局、ドロップ数の分布が大きいインク色を補正色とする場合と同じような不都合が生じかねない。つまり、重色の色合い変化が生じていない同一ライン上の他の画素において、吐出タイミングの補正により色合いが大きく変化する可能性がある。
【0101】
例えば、
図9のグラフに示す例では、ラインヘッド110の各ノズルが吐出するインクのドロップ数の分布が大きく分散しているマゼンタを基準色とし、分散の小さいシアンを補正色とした。その理由は、上述したように、分散の小さいシアンを補正色とするよりも、分散の大きいマゼンタを補正色とする方が、領域620外の画素で生じる色合い変化によりライン全体の色合いが大きく変化するからであった。
【0102】
しかし、シアンのドロップ数の分布の分散がマゼンタに比べて小さくても、その絶対値がマゼンタに近ければ、マゼンタを補正色とした場合に近い度合いの色合い変化が、領域620外の画素で生じることになる。この色合い変化の度合いが許容範囲を超える場合は、たとえ分散がマゼンタに比べて小さくても、シアンを補正色としてシアンのラインヘッド110の各ノズルがインクを吐出するタイミングを補正すべきでない場合がある。
【0103】
そこで、重色を構成する他の色のインクとの関係では、色合い変化が生じた画素(領域620の画素)の他の色のインクよりも吐出ドロップ数が大きく、あるいは、ドロップ数の分布の分散が小さい場合であっても、分散が所定範囲を超える大きさである場合は、そのインク色を補正色とせず基準色とする。
【0104】
このような補正色から基準色への変更は、1つのみであった補正色について行われることもあり、複数の補正色の一部又は全部について行われることもある。したがって、補正色から基準色への変更によって、重色を構成する全ての色のインクが基準色となることもあり、一部の色のインクが基準色、他の一部の色のインクが補正色となることもある。
【0105】
以上の手順によって補正色に決定された色については、インクの吐出タイミングをライン単位で全ノズル一律に同じ内容で補正する。これにより、領域620内の画素における色合い変化の抑制と、領域620外の画素において発生する色合い変化とのバランスを取って、重色の色合い変化の抑制を図ることができる。なお、ステップS128及びステップS129は省略してもよい。
【0106】
このようにして基準色と補正色を決定したならば、制御ユニット10は、補正色(補正対象色)のインクを着弾位置ずれ補正の必要箇所の画素に吐出する吐出タイミング(の補正値)を算出し、本印刷の際に使用するためにRAM92又は外部記憶装置93に記憶する(ステップS130)。この画素に対するインクの吐出タイミング(の補正値)は、その画素に吐出するC(シアン)、K(ブラック)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)の各インクのドロップ数に対応する補正プロファイルデータに基づいて算出する。
【0107】
具体的には、ステップS126又はステップS127で基準色としたインク色と補正色としたインク色とについて、外部記憶装置93の補正プロファイルデータでそれぞれ定義された、理想的な着弾位置に対する着弾位置ずれ量から、基準色に対する各補正色の相対的な着弾位置ずれ量を求める。そして、求めた相対的着弾位置ずれ量を補正するのに必要な吐出タイミングの補正値を、ステップS130においてRAM92又は外部記憶装置93に記憶する値として算出する。
【0108】
例えば、6ドロップのマゼンタのインクと2ドロップのシアンのインクとが着弾する画素を含む主走査方向Xのラインについて、マゼンタが基準色でシアンが補正色に決定されている場合は、マゼンタ6ドロップ及びシアン2ドロップの組み合わせパターンの補正プロファイルデータを参照する。そして、補正プロファイルデータで定義された理想的な着弾位置に対するマゼンタとシアンの着弾位置ずれ量から、シアンをマゼンタと同じ位置に着弾させるのに必要な、シアンのインクの吐出タイミングの補正値を算出する。
【0109】
そして、制御ユニット10は、本印刷を行う際に、ステップS130においてRAM92又は外部記憶装置93に記憶させた吐出タイミングの補正値を適用して、着弾位置ずれ補正の必要箇所の画素を含む主走査方向Xの1ライン分の各画素に、補正色のインクを吐出させる。これにより、クライアント端末14から入力された印刷ジョブのカラー画像が、補正対象領域の着弾位置ずれが補正された状態で本印刷(印刷出力)される(ステップS131)。
【0110】
以上に説明したように、本実施形態のインクジェットプリンタ1によれば、ドロップ数別のテストパターンの印刷画像をスキャナ部101で読み取って算出した各画素の着弾位置ずれの内容から、インクの吐出タイミングの補正値を規定した補正プロファイルデータを、各インク色のドロップ数の組み合わせパターン別に生成する。
【0111】
そして、カラー画像600を試し印刷した印刷用紙Sからカラー画像600をスキャナ101で読み取って得た画像データと、印刷ジョブにおけるカラー画像600の画像データとの比較により、色合い変化が目立って発生した領域620を抽出する。さらに、領域620の画素に吐出するインクのドロップ数やこの画素を含む主走査方向Xの1ライン上の画素に吐出するインクのドロップ数分布の分散から、インクの吐出タイミングを補正しない基準色と補正する補正色と決定する。
【0112】
決定した補正色については、領域620の画素に対するインクの吐出ドロップ数の組み合わせに対応する補正プロファイルデータから、基準色に対する補正色の相対的な吐出タイミングの補正内容を算出する。そして、カラー画像600を本印刷する際には、領域620の画素を含む1ライン分の画素に対する補正色の吐出タイミングを、算出した補正内容で一律に補正する。
【0113】
これにより、1つのライン上の各画素に一律の補正内容でインクの吐出タイミングを補正しても、重色の色合い変化の原因となる構成色のインクどうしの着弾位置ずれを抑制し、かつ、重色の色合い変化が生じていない同一ライン上の他の画素についても、吐出タイミングの補正により色合いが大きく変化するのを防ぐことができる。
【0114】
よって、各色のノズル毎にインクの吐出に関する個別の制御を行うことなく、ライン単位の一律な吐出タイミングの補正により、カラー印刷における重色の色合いが着弾位置ずれにより変化するのを抑制することができる。
【0115】
なお、上述したように、インクの吐出タイミングを補正しない基準色は、補正対象領域の画素に吐出される複数色のインクのうちドロップ数が小さい色ほど適しており、また、補正対象領域の画素を含むラインにおけるドロップ数分布やその分散が大きいほど適している。
【0116】
そのため、上述した
図4(a)〜(c)の例のように、補正対象領域である領域620に吐出されるシアンとマゼンタのインクのうち、領域620の画素に吐出されるインクのドロップ数が小さいのも、領域620の画素を含むライン上でのドロップ数分布幅(や分布の分散)が大きいのも、どちらも同じ色(マゼンタ)である場合は、基準色や補正色をスムーズに決定することができる。
【0117】
一方、例えば、補正対象領域に吐出されるシアンのドロップ数(最小ドロップ数)が2、ドロップ数分布幅が1(ドロップ数が2と3)であり、マゼンタのドロップ数(最小ドロップ数)が3、ドロップ数分布幅が3(ドロップ数が3〜6)であると、ドロップ数の比較ではシアンが基準色に適しており、ドロップ数分布(またはその分散)の比較ではマゼンタが基準色に適していることになる。
【0118】
そこで、このような場合は、例えば予め実験的に求めた結果に基づいて、ドロップ数の比較結果とドロップ数分布(またはその分散)の比較結果とをどのように考慮して基準色を決定するかを定めるようにしてもよい。
【0119】
また、上述した各実施形態では、カラー画像600中のインクの吐出タイミングを補正する対象として色合いが目立って変化した領域620を抽出するのに、印刷用紙Sから印刷したカラー画像600を読み取って得た画像データを用いるものとした。しかし、ユーザが領域620を例えばディスプレイ103等で指定するようにしてもよい。
【0120】
さらに、本実施形態では、着弾位置ずれ補正の必要箇所の大きさが、印刷用紙Sの大きさ(サイズ)に対して一定値以上の割合となる場合に、その必要箇所に形成する重色を構成する色のラインヘッド110を補正対象ヘッドとして決定した(
図8のステップS121)。しかし、印刷用紙Sの大きさ(サイズ)に関係なく、着弾位置ずれ補正の必要箇所が一定以上の大きさであれば、その必要箇所に形成する重色を構成する色のラインヘッド110を補正対象ヘッドとして決定するようにしてもよい。
【0121】
また、上述した各実施形態では、K(ブラック)の他にM(マゼンタ)、Y(イエロー)、C(シアン)の3つの有彩色を用いてフルカラー印刷を行うインクジェットプリンタ1を例に取って説明した。しかし、本発明は、少なくとも2色のインクを重ねてインクジェット方式でカラー印刷を行う画像形成装置に広く適用可能である。