(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下では、本明細書に開示する発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本明細書に開示する発明は以下の説明に限定されず、その形態および詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。また、本明細書に開示する発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0028】
なお、図において、明示的にはソース電極やドレイン電極を有しない場合があるが、便宜上、このような状態を含めてトランジスタと呼ぶ場合がある。また、この場合、トランジスタの接続関係を説明するために、ソース領域やドレイン領域を含めてソース電極やドレイン電極と表現することがある。つまり、本明細書において、ソース電極との記載には、ソース領域が含まれうる。
【0029】
また、「ソース」および「ソース領域」ならびに「ドレイン」および「ドレイン領域」の機能は、異なる極性のトランジスタを採用する場合や、回路動作において電流の方向が変化する場合などには入れ替わることがある。このため、本明細書等においては、「ソース」や「ドレイン」という用語は、入れ替えて用いることができるものとする。また本明細書等において、チャネル形成領域とは、ソース領域(ソース電極)およびドレイン領域(ドレイン電極)の対向する領域をいう。
【0030】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様に係る半導体装置の構成と作製方法について、
図1および
図2を参照して説明する。
【0031】
<<構成>>
まず半導体装置の構成について説明する。
図1に半導体装置の一例であるトランジスタ201を示す。
図1(A)はトランジスタ201の上面図である。
図1(A)のA―B間の断面図を
図1(B)に示す。
【0032】
トランジスタ201は、基板101上に、絶縁膜103と、絶縁膜103と接する酸化物半導体膜105と、酸化物半導体膜105とゲート絶縁膜107を介して重畳するゲート電極109を有する。酸化物半導体膜105は、ソース領域105aと、ドレイン領域105cと、両者に挟まれたチャネル形成領域105bを有する。また絶縁膜103は、チャネル形成領域と重畳する領域103bと、少なくともソース領域と重畳する領域103aと、少なくともドレイン領域と重畳する領域103cと、を有する。またゲート絶縁膜107は、チャネル形成領域と重畳する領域107bと、少なくともソース領域と重畳する領域107aと、少なくともドレイン領域と重畳する領域107cと、を有する。
【0033】
ここで、絶縁膜103およびゲート絶縁膜107の少なくとも一の、少なくともソース領域およびドレイン領域と重畳する領域に、チャネル形成領域と重畳する領域よりも多くの水素を有する絶縁膜を適用する。
【0034】
該絶縁膜は、酸化物半導体膜105から水素を引き寄せて捕獲した膜である。
【0035】
さらに、水素を引き寄せて捕獲するために不純物の添加を行った場合、該絶縁膜は、水素に加えて不純物を有する絶縁膜になりうる。
【0036】
これは下記のように言い換えることもできる。絶縁膜103の少なくともソース領域と重畳する領域103aと、少なくともドレイン領域と重畳する領域103cは、チャネル形成領域と重畳する領域103bよりも多くの水素を有する。また、絶縁膜103の少なくともソース領域と重畳する領域103aと、少なくともドレイン領域と重畳する領域103cは、チャネル形成領域と重畳する領域103bよりも多くの不純物を有していてもよい。
【0037】
またはゲート絶縁膜107の少なくともソース領域と重畳する領域107aと、少なくともドレイン領域と重畳する領域107cは、チャネル形成領域と重畳する領域107bよりも多くの水素を有する。また、ゲート絶縁膜107の少なくともソース領域と重畳する領域107aと、少なくともドレイン領域と重畳する領域107cは、チャネル形成領域と重畳する領域107bよりも多くの不純物を有していてもよい。
【0038】
また、チャネル形成領域と重畳する領域103b、またはチャネル形成領域と重畳する領域107bに不純物および水素が少ない構成とすることで、水素がトランジスタの特性へ悪影響を及ぼすことを防ぐことができる。
【0039】
また、酸化物半導体膜105の、ソース領域105aおよびドレイン領域105cは、チャネル形成領域105bよりも多くの不純物および水素を有していてもよい。
【0040】
ソース領域105aおよびドレイン領域105cが不純物を多く有する構成とすることで、チャネル形成領域105b中の水素を引き寄せて捕獲することができる。ソース領域105aおよびドレイン領域105cが不純物および水素を多く有すると、低抵抗となるため、ソース領域105aおよびドレイン領域105cと配線との電気的接続が良好となる。またLDD(Lightly Doped Drain)領域として機能させ、トランジスタ特性の劣化を低減させることもできる。
【0041】
酸化物半導体膜105のチャネル形成領域105bの水素濃度は、5×10
19atoms/cm
3以下、好ましくは5×10
18atoms/cm
3以下、より好ましくは5×10
17atoms/cm
3以下とする。
【0042】
チャネル形成領域105b中の水素濃度を低減することで、キャリア密度を低減することができる。これにより、トランジスタのしきい値電圧が負の方向にシフトすることを抑制することができる。また、トランジスタのオフ電流を極めて小さくすることが可能である。酸化物半導体を用いたトランジスタのオフ電流は、室温において、10yA/μm(1×10
−23A/μm)以下、85℃〜95℃においても、1zA/μm(1×10
−21A/μm)以下と、極めて小さくすることができる。オフ電流の測定方法としては、たとえば特開2011−237418号公報(特許文献4)に記載の方法を適用することができる。
【0043】
さらにソース領域105aおよびドレイン領域105cは、チャネル形成領域105bよりも結晶性が低くてもよい。
【0044】
酸化物半導体は、例えば非単結晶を有してもよい。非単結晶は、例えば、CAAC(C Axis Aligned Crystal)、多結晶、微結晶、非晶質部を有する。
【0045】
酸化物半導体は、例えばCAACを有してもよい。なお、CAACを有する酸化物半導体を、CAAC−OS(C Axis Aligned Crystalline Oxide Semiconductor)と呼ぶ。
【0046】
CAAC−OSは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)による観察像で、結晶部を確認することができる場合がある。CAAC−OSに含まれる結晶部は、例えば、TEMによる観察像で、一辺100nmの立方体内に収まる大きさであることが多い。また、CAAC−OSは、TEMによる観察像で、結晶部と結晶部との境界を明確に確認できない場合がある。また、CAAC−OSは、TEMによる観察像で、粒界(グレインバウンダリーともいう。)を明確に確認できない場合がある。CAAC−OSは、例えば、明確な粒界を有さないため、不純物が偏析することが少ない。また、CAAC−OSは、例えば、明確な粒界を有さないため、欠陥準位密度が高くなることが少ない。また、CAAC−OSは、例えば、明確な粒界を有さないため、電子移動度の低下が小さい。
【0047】
CAAC−OSは、例えば、複数の結晶部を有し、当該複数の結晶部においてc軸が被形成面の法線ベクトルまたは表面の法線ベクトルに平行な方向に揃っている場合がある。また、CAAC−OSは、例えば、X線回折(XRD:X−Ray Diffraction)装置を用い、out−of−plane法による分析を行うと、配向を示す2θが31°近傍のピークが現れる場合がある。また、CAAC−OSは、例えば、電子線回折像で、スポット(輝点)が観測される場合がある。なお、特に、ビーム径が10nmφ以下、または5nmφ以下の電子線を用いて得られる電子線回折像を、極微電子線回折像と呼ぶ。また、CAAC−OSは、例えば、異なる結晶部間で、それぞれa軸およびb軸の向きが揃っていない場合がある。CAAC−OSは、例えば、c軸配向し、a軸または/およびb軸はマクロに揃っていない場合がある。
【0048】
CAAC−OSに含まれる結晶部は、例えば、c軸がCAAC−OSの被形成面の法線ベクトルまたは表面の法線ベクトルに平行な方向になるように揃い、かつab面に垂直な方向から見て金属原子が三角形状または六角形状に配列し、c軸に垂直な方向から見て金属原子が層状または金属原子と酸素原子とが層状に配列している。なお、異なる結晶部間で、それぞれa軸およびb軸の向きが異なっていてもよい。本明細書において、単に垂直と記載する場合、80°以上100°以下、好ましくは85°以上95°以下の範囲も含まれることとする。また、単に平行と記載する場合、−10°以上10°以下、好ましくは−5°以上5°以下の範囲も含まれることとする。
【0049】
また、CAAC−OSは、例えば、欠陥準位密度を低減することで形成することができる。酸化物半導体において、例えば、酸素欠損は欠陥準位である。酸素欠損は、トラップ準位となることや、水素を捕獲することによってキャリア発生源となることがある。CAAC−OSを形成するためには、例えば、酸化物半導体に酸素欠損を生じさせないことが重要となる。従って、CAAC−OSは、欠陥準位密度の低い酸化物半導体である。または、CAAC−OSは、酸素欠損の少ない酸化物半導体である。
【0050】
不純物濃度が低く、欠陥準位密度の低い(酸素欠損の少ない)ことを高純度真性または実質的に高純度真性と呼ぶ。高純度真性または実質的に高純度真性である酸化物半導体は、キャリア発生源が少ないため、キャリア密度を低くすることができる場合がある。従って、当該酸化物半導体をチャネル形成領域に用いたトランジスタは、しきい値電圧がマイナスとなる電気特性(ノーマリーオンともいう。)になることが少ない場合がある。また、高純度真性または実質的に高純度真性である酸化物半導体は、欠陥準位密度が低いため、トラップ準位密度も低くなる場合がある。従って、当該酸化物半導体をチャネル形成領域に用いたトランジスタは、電気特性の変動が小さく、信頼性の高いトランジスタとなる場合がある。なお、酸化物半導体のトラップ準位に捕獲された電荷は、消失するまでに要する時間が長く、あたかも固定電荷のように振る舞うことがある。そのため、トラップ準位密度の高い酸化物半導体をチャネル形成領域に用いたトランジスタは、電気特性が不安定となる場合がある。
【0051】
また、高純度真性または実質的に高純度真性であるCAAC−OSを用いたトランジスタは、可視光や紫外光の照射による電気特性の変動が小さい。
【0052】
酸化物半導体は、例えば多結晶を有してもよい。なお、多結晶を有する酸化物半導体を、多結晶酸化物半導体と呼ぶ。多結晶酸化物半導体は複数の結晶粒を含む。
【0053】
酸化物半導体は、例えば微結晶を有してもよい。なお、微結晶を有する酸化物半導体を、微結晶酸化物半導体と呼ぶ。
【0054】
微結晶酸化物半導体は、例えば、TEMによる観察像では、明確に結晶部を確認することができない場合がある。微結晶酸化物半導体に含まれる結晶部は、例えば、1nm以上100nm以下、または1nm以上10nm以下の大きさであることが多い。特に、例えば、1nm以上10nm以下の微結晶をナノ結晶(nc:nanocrystal)と呼ぶ。ナノ結晶を有する酸化物半導体を、nc−OS(nanocrystalline Oxide Semiconductor)と呼ぶ。また、nc−OSは、例えば、TEMによる観察像では、結晶部と結晶部との境界を明確に確認できない場合がある。また、nc−OSは、例えば、TEMによる観察像では、明確な粒界を有さないため、不純物が偏析することが少ない。また、nc−OSは、例えば、明確な粒界を有さないため、欠陥準位密度が高くなることが少ない。また、nc−OSは、例えば、明確な粒界を有さないため、電子移動度の低下が小さい。
【0055】
nc−OSは、例えば、微小な領域(例えば、1nm以上10nm以下の領域)において原子配列に周期性を有する場合がある。また、nc−OSは、例えば、結晶部と結晶部との間で規則性がないため、巨視的には原子配列に周期性が見られない場合、または長距離秩序が見られない場合がある。従って、nc−OSは、例えば、分析方法によっては、非晶質酸化物半導体と区別が付かない場合がある。nc−OSは、例えば、XRD装置を用い、結晶部よりも大きいビーム径のX線でout−of−plane法による分析を行うと、配向を示すピークが検出されない場合がある。また、nc−OSは、例えば、結晶部よりも大きいビーム径(例えば、20nmφ以上、または50nmφ以上)の電子線を用いる電子線回折像では、ハローパターンが観測される場合がある。また、nc−OSは、例えば、結晶部と同じか結晶部より小さいビーム径(例えば、10nmφ以下、または5nmφ以下)の電子線を用いる極微電子線回折像では、スポットが観測される場合がある。また、nc−OSの極微電子線回折像は、例えば、円を描くように輝度の高い領域が観測される場合がある。また、nc−OSの極微電子線回折像は、例えば、当該領域内に複数のスポットが観測される場合がある。
【0056】
nc−OSは、微小な領域において原子配列に周期性を有する場合があるため、非晶質酸化物半導体よりも欠陥準位密度が低くなる。ただし、nc−OSは、結晶部と結晶部との間で規則性がないため、CAAC−OSと比べて欠陥準位密度が高くなる。
【0057】
なお、酸化物半導体が、CAAC−OS、多結晶酸化物半導体、微結晶酸化物半導体、非晶質酸化物半導体の二種以上を有する混合膜であってもよい。混合膜は、例えば、非晶質酸化物半導体の領域、微結晶酸化物半導体の領域、多結晶酸化物半導体の領域、CAAC−OSの領域、のいずれか二種以上の領域を有する場合がある。また、混合膜は、例えば、非晶質酸化物半導体の領域、微結晶酸化物半導体の領域、多結晶酸化物半導体の領域、CAAC−OSの領域、のいずれか二種以上の領域の積層構造を有する場合がある。
【0058】
<<材料・作製方法>>
次に半導体装置に用いることができる材料および作製方法について説明する。
図2に半導体装置の一例であるトランジスタ201の作製工程の一部を示す。
【0059】
<基板>
絶縁表面を有する基板101に使用することができる基板に大きな制限はないが、少なくとも後の熱処理工程に耐えうる程度の耐熱性を有していることが必要となる。例えば、バリウムホウケイ酸ガラスやアルミノホウケイ酸ガラスなどのガラス基板、セラミック基板、石英基板、サファイア基板などを用いることができる。また、シリコンや炭化シリコンなどの単結晶半導体基板、多結晶半導体基板、シリコンゲルマニウムなどの化合物半導体基板、SOI基板などを適用することもでき、これらの基板上に半導体素子が設けられたものを、基板101として用いてもよい。
【0060】
また、基板101として、可撓性基板を用いて半導体装置を作製してもよい。可撓性を有する半導体装置を作製するには、可撓性基板上に酸化物半導体膜105を含むトランジスタ201を直接作製してもよいし、他の作製基板に酸化物半導体膜105を含むトランジスタ201を作製し、その後可撓性基板に剥離、転置してもよい。なお、作製基板から可撓性基板に剥離、転置するために、作製基板と酸化物半導体膜を含むトランジスタ201との間に剥離層を設けるとよい。剥離層としてはたとえば、タングステン等の金属を用いることができる。
【0061】
基板101上に下地絶縁膜として絶縁膜103を設け、絶縁膜103上に半導体装置を作製することが好ましい。絶縁膜103としては、プラズマCVD法又はスパッタリング法等により形成することができ、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化酸化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、窒化酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化ガリウム、又はこれらの混合材料を含む膜の単層又は積層構造とすることができる。プラズマCVD法を適用する場合、原料のガスとしては金属およびシリコンの水素化合物、金属化合物、ハロゲン化物等を用いることができる。たとえば酸化窒化シリコンを形成する場合、材料ガスとしてはシランおよび亜酸化窒素を用いることができる。酸化ガリウムを形成する場合、トリメチルガリウム等を用いることができる。また基板101としてシリコン基板を用い、該シリコン基板を酸化することで形成した酸化シリコン膜を絶縁膜103として用いることもできる。
【0062】
但し、絶縁膜103は、酸化物絶縁層を含む単層又は積層構造とすることが好ましい。
【0063】
絶縁膜103は酸素過剰領域を有すると、絶縁膜103に含まれる過剰な酸素によって、後に形成される酸化物半導体膜105の酸素欠損を補填することが可能であるため好ましい。絶縁膜103が積層構造の場合は、少なくとも酸化物半導体膜105と接する層において酸素過剰領域を有することが好ましい。絶縁膜103に酸素過剰領域を設けるには、例えば、酸素雰囲気下にて絶縁膜103を成膜すればよい。又は、成膜後の絶縁膜103に、酸素(少なくとも、酸素ラジカル、酸素原子、酸素イオンのいずれかを含む)を導入して、酸素過剰領域を形成してもよい。酸素の導入方法としては、イオン注入法、イオンドーピング法、プラズマイマージョンイオン注入法、プラズマ処理などを用いることができる。
【0064】
また、絶縁膜103は、酸素過剰領域を有する層の下側に接して、窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜又は酸化アルミニウム膜を有することが好ましい。絶縁膜103が窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜又は酸化アルミニウム膜を有することで、酸化物半導体膜105への不純物の拡散を防止することができる。
【0065】
<酸化物半導体膜>
次に、基板101上に酸化物半導体膜を形成し、島状に加工して酸化物半導体膜105を形成する(
図2(A)参照)。酸化物半導体膜105の膜厚は、例えば、1nm乃至30nm、好ましくは5nm乃至10nmとする。
【0066】
酸化物半導体膜は、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。また、アモルファス構造であってもよいし、結晶性を有していてもよい。酸化物半導体膜をアモルファス構造とする場合には、後の作製工程において、酸化物半導体膜に熱処理を行うことによって、結晶性酸化物半導体膜としてもよい。アモルファス酸化物半導体膜を結晶化させる熱処理の温度は、250℃以上700℃以下、好ましくは、400℃以上、より好ましくは500℃以上、さらに好ましくは550℃以上とする。なお、当該熱処理は、作製工程における他の熱処理を兼ねることも可能である。
【0067】
酸化物半導体膜の成膜方法は、スパッタリング法、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法、プラズマCVD法、パルスレーザ堆積法、ALD(Atomic Layer Deposition)法、ミストCVD法等を適宜用いることができる。
【0068】
酸化物半導体膜を成膜する際、できる限り酸化物半導体膜に含まれる水素濃度を低減させることが好ましい。水素濃度を低減させるために、例えばスパッタリング法を用いて成膜を行う場合には、スパッタリング装置の処理室内に供給する雰囲気ガスとして、水素、水、ヒドロキシ基又は水素化物などの不純物が除去された高純度の希ガス(代表的にはアルゴン)、酸素、及び希ガスと酸素との混合ガスを適宜用いることが好ましい。
【0069】
また、成膜室内の残留水分を除去しつつ水素及び水分が除去されたスパッタガスを導入して成膜を行うことで、成膜された酸化物半導体膜の水素濃度を低減させることができる。成膜室内の残留水分を除去するためには、吸着型の真空ポンプ、例えば、クライオポンプ、イオンポンプ、チタンサブリメーションポンプを用いることが好ましい。また、ターボ分子ポンプにコールドトラップを加えたものを用いてもよい。クライオポンプは、例えば、水素分子、水など水素原子を含む化合物、さらには炭素原子を含む化合物等の排気能力が高いため、クライオポンプを用いて排気した成膜室で成膜した酸化物半導体膜に含まれる不純物の濃度を低減できる。
【0070】
また、酸化物半導体膜をスパッタリング法で成膜する場合、成膜に用いる金属酸化物ターゲットの相対密度(充填率)は90%以上100%以下、好ましくは95%以上99.9%以下とする。相対密度の高い金属酸化物ターゲットを用いることにより、成膜した酸化物半導体膜を緻密な膜とすることができる。
【0071】
また、基板101を高温に保持した状態で酸化物半導体膜を形成することも、酸化物半導体膜中に含まれうる不純物濃度を低減するのに有効である。基板101を加熱する温度としては、150℃以上450℃以下とすればよく、好ましくは基板温度が200℃以上350℃以下とすればよい。また、成膜時に基板を高温で加熱することで、酸化物半導体膜の結晶性高めることができる。
【0072】
酸化物半導体膜105に用いる酸化物半導体としては、少なくともインジウム(In)を含むことが好ましい。特に、インジウムと亜鉛(Zn)を含むことが好ましい。また、該酸化物半導体を用いたトランジスタの電気特性のばらつきを減らすためのスタビライザーとして、それらに加えてガリウム(Ga)を有することが好ましい。また、スタビライザーとしてスズ(Sn)、ハフニウム(Hf)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)のいずれか一種または複数種を有することが好ましい。
【0073】
また、他のスタビライザーとして、ランタノイドである、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)のいずれか一種または複数種を有してもよい。
【0074】
例えば、酸化物半導体として、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、二元系金属の酸化物であるIn−Zn系酸化物、In−Mg系酸化物、In−Ga系酸化物、三元系金属の酸化物であるIn−Ga−Zn系酸化物(IGZOとも表記する)、In−Al−Zn系酸化物、In−Sn−Zn系酸化物、In−Hf−Zn系酸化物、In−La−Zn系酸化物、In−Ce−Zn系酸化物、In−Pr−Zn系酸化物、In−Nd−Zn系酸化物、In−Sm−Zn系酸化物、In−Eu−Zn系酸化物、In−Gd−Zn系酸化物、In−Tb−Zn系酸化物、In−Dy−Zn系酸化物、In−Ho−Zn系酸化物、In−Er−Zn系酸化物、In−Tm−Zn系酸化物、In−Yb−Zn系酸化物、In−Lu−Zn系酸化物、四元系金属の酸化物であるIn−Sn−Ga−Zn系酸化物、In−Hf−Ga−Zn系酸化物、In−Al−Ga−Zn系酸化物、In−Sn−Al−Zn系酸化物、In−Sn−Hf−Zn系酸化物、In−Hf−Al−Zn系酸化物を用いることができる。
【0075】
例えば、In−Ga−Zn系酸化物とは、InとGaとZnを主成分として有する酸化物という意味であり、InとGaとZnの比率は問わない。また、InとGaとZn以外の金属元素が入っていてもよい。
【0076】
また、酸化物半導体として、InMO
3(ZnO)
m(m>0、且つ、mは整数でない)で表記される材料を用いてもよい。なお、Mは、Ga、Fe、MnおよびCoから選ばれた一の金属元素または複数の金属元素を示す。また、酸化物半導体として、In
2SnO
5(ZnO)
n(n>0、且つ、nは整数)で表記される材料を用いてもよい。
【0077】
例えば、In:Ga:Zn=1:1:1、In:Ga:Zn=2:2:1、あるいはIn:Ga:Zn=3:1:2の原子数比のIn−Ga−Zn系酸化物やその組成の近傍の酸化物を用いることができる。あるいは、In:Sn:Zn=1:1:1、In:Sn:Zn=2:1:3あるいはIn:Sn:Zn=2:1:5の原子数比のIn−Sn−Zn系酸化物やその組成の近傍の酸化物を用いることができる。
【0078】
なお、例えば、In、Ga、Znの原子数比がIn:Ga:Zn=a:b:c(a+b+c=1)である酸化物の組成が、原子数比がIn:Ga:Zn=A:B:C(A+B+C=1)の酸化物の組成の近傍であるとは、a、b、cが、(a−A)
2+(b−B)
2+(c−C)
2≦r
2を満たすことをいう。rとしては、例えば、0.05とすればよい。他の酸化物でも同様である。
【0079】
しかし上記に限られず、必要とするトランジスタの電気的特性(電界効果移動度、しきい値電圧、ばらつき等)に応じて適切な組成のものを用いればよい。また、必要とする電気的特性を得るために、キャリア濃度や不純物濃度、欠陥密度、金属元素と酸素の原子数比、原子間距離、密度等を適切なものとすることが好ましい。
【0080】
例えば、In−Sn−Zn系酸化物半導体を用いたトランジスタでは比較的容易に高い電界効果移動度が得られる。しかしながら、In−Ga−Zn系酸化物半導体を用いたトランジスタでも、バルク内欠陥密度を低くすることにより電界効果移動度を上げることができる。
【0081】
さらに酸化物半導体膜105は、単層構造としてもよいし、複数の酸化物半導体膜が積層された構造としてもよい。例えば、酸化物半導体膜105を、第1の酸化物半導体膜と第2の酸化物半導体膜の積層として、第1の酸化物半導体膜と第2の酸化物半導体膜に、異なる組成の金属酸化物を用いてもよい。例えば、第1の酸化物半導体膜に三元系金属の酸化物を用い、第2の酸化物半導体膜に二元系金属の酸化物を用いてもよい。また、例えば、第1の酸化物半導体膜と第2の酸化物半導体膜を、どちらも三元系金属の酸化物としてもよい。
【0082】
また、第1の酸化物半導体膜と第2の酸化物半導体膜の構成元素を同一とし、両者の組成を異ならせてもよい。例えば、第1の酸化物半導体膜の原子数比をIn:Ga:Zn=1:1:1またはその組成の近傍とし、第2の酸化物半導体膜の原子数比をIn:Ga:Zn=3:1:2またはその組成の近傍としてもよい。また、第1の酸化物半導体膜の原子数比をIn:Ga:Zn=1:3:2またはその組成の近傍とし、第2の酸化物半導体膜の原子数比をIn:Ga:Zn=2:1:3またはその組成の近傍としてもよい。
【0083】
この時、第1の酸化物半導体膜と第2の酸化物半導体膜のうち、ゲート電極に近い側(チャネル側)の酸化物半導体膜のInとGaの含有率をIn>Gaとするとよい。またゲート電極から遠い側(バックチャネル側)の酸化物半導体膜のInとGaの含有率をIn≦Gaとするとよい。
【0084】
酸化物半導体では主として重金属のs軌道がキャリア伝導に寄与しており、Inの含有率を多くすることによりs軌道のオーバーラップが多くなる傾向があるため、In>Gaの組成となる酸化物はIn≦Gaの組成となる酸化物と比較して高い移動度を備える。また、GaはInと比較して酸素欠損の形成エネルギーが大きく酸素欠損が生じにくいため、In≦Gaの組成となる酸化物はIn>Gaの組成となる酸化物と比較して安定した特性を備える。
【0085】
チャネル側にIn>Gaの組成となる酸化物半導体を適用し、バックチャネル側にIn≦Gaの組成となる酸化物半導体を適用することで、トランジスタの移動度および信頼性をさらに高めることが可能となる。
【0086】
また、第1の酸化物半導体膜と第2の酸化物半導体膜に、結晶性の異なる酸化物半導体膜を適用してもよい。すなわち、単結晶酸化物半導体膜、多結晶酸化物半導体膜、アモルファス酸化物半導体膜、またはCAAC−OS膜を適宜組み合わせた構成としてもよい。また、第1の酸化物半導体膜と第2の酸化物半導体膜の少なくともどちらか一方にアモルファス酸化物半導体膜を適用すると、酸化物半導体膜105の内部応力や外部からの応力を緩和し、トランジスタの特性ばらつきが低減され、また、トランジスタの信頼性をさらに高めることが可能となる。
【0087】
一方で、アモルファス酸化物半導体膜は水素などのドナーとなる不純物を吸収しやすく、また、酸素欠損が生じやすいためn型化されやすい。このため、チャネル側の酸化物半導体膜は、CAAC−OS膜などの結晶性を有する酸化物半導体膜を適用することが好ましい。
【0088】
また、酸化物半導体膜105に、当該酸化物半導体膜105に含まれる過剰な水素(水やヒドロキシ基を含む)を除去(脱水化又は脱水素化)するための熱処理を行うことが好ましい。熱処理の温度は、300℃以上700℃以下、又は基板の歪み点未満とする。熱処理は減圧下又は窒素雰囲気下などで行うことができる。
【0089】
この熱処理によって、例えば、脱水化又は脱水素化処理後の酸化物半導体膜105に含まれる水素濃度を、5×10
19/cm
3以下、好ましくは5×10
18/cm
3、より好ましくは5×10
17atoms/cm
3以下とすることができる。
【0090】
なお、脱水化又は脱水素化のための熱処理は、酸化物半導体膜の成膜後であればトランジスタ201の作製工程においてどのタイミングで行ってもよい。また、脱水化又は脱水素化のための熱処理は、複数回行ってもよく、他の熱処理と兼ねてもよい。
【0091】
なお、下地絶縁膜として酸素を含む絶縁膜を設ける場合、脱水化又は脱水素化のための熱処理を、酸化物半導体膜を島状に加工する前に行うと、下地絶縁膜に含まれる酸素が熱処理によって外部へ放出されるのを防止することができるため好ましい。
【0092】
熱処理においては、窒素、又はヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガスに、水、水素などが含まれないことが好ましい。又は、熱処理装置に導入する窒素、又はヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガスの純度を、6N(99.9999%)以上好ましくは7N(99.99999%)以上(即ち不純物濃度を1ppm以下、好ましくは0.1ppm以下)とすることが好ましい。
【0093】
また、熱処理で酸化物半導体膜105を加熱した後、加熱温度を維持、又はその加熱温度から徐冷しながら同じ炉に高純度の酸素ガス、高純度の亜酸化窒素ガス、又は超乾燥エア(CRDS(キャビティリングダウンレーザー分光法)方式の露点計を用いて測定した場合の水分量が20ppm(露点換算で−55℃)以下、好ましくは1ppm以下、より好ましくは10ppb以下の空気)を導入してもよい。酸素ガス又は亜酸化窒素ガスに、水、水素などが含まれないことが好ましい。又は、熱処理装置に導入する酸素ガス又は亜酸化窒素ガスの純度を、6N以上好ましくは7N以上(即ち、酸素ガス又は亜酸化窒素ガス中の不純物濃度を1ppm以下、好ましくは0.1ppm以下)とすることが好ましい。酸素ガス又は亜酸化窒素ガスの作用により、脱水化又は脱水素化処理による不純物の排除工程によって同時に減少してしまった酸化物半導体を構成する主成分材料である酸素を供給することができる。酸素を供給することによって、酸化物半導体膜105を高純度化及びi型(真性)化することができる。i型(真性)化した酸化物半導体を有するトランジスタは、電気特性変動が抑制されており、電気的に安定である。
【0094】
また、脱水化又は脱水素化処理を行った酸化物半導体膜に、酸素(少なくとも、酸素ラジカル、酸素原子、酸素イオン、のいずれかを含む)を導入して膜中に酸素を供給してもよい。
【0095】
なお、酸化物半導体膜への酸素導入は、酸化物半導体膜に直接行ってもよいし、後に形成されるゲート絶縁膜107などの他の膜を通過して酸化物半導体膜105行ってもよい。酸素を他の膜を通過して酸素を導入する場合は、イオン注入法、イオンドーピング法、プラズマイマージョンイオン注入法などを用いればよい。露出された酸化物半導体膜105へ直接酸素を導入する場合は、上記の方法に加えてプラズマ処理なども用いることができる。
【0096】
酸素の供給ガスとしては、Oを含有するガスを用いればよく、例えば、O
2ガス、N
2Oガス、CO
2ガス、COガス、NO
2ガス等を用いることができる。なお、酸素の供給ガスに希ガス(例えばAr)を含有させてもよい。
【0097】
例えば、イオン注入法で酸化物半導体膜105へ酸素イオンの注入を行う場合、ドーズ量を1×10
13ions/cm
2以上5×10
16ions/cm
2以下とすればよい。
【0098】
または、酸化物半導体膜105と接する絶縁層を、酸素過剰領域を含む層とし、該絶縁層と酸化物半導体膜105とが接した状態で熱処理を行うことにより、絶縁層に過剰に含まれる酸素を酸化物半導体膜105へ拡散させ、酸化物半導体膜105へ酸素を供給してもよい。該熱処理は、トランジスタ201の作製工程における他の熱処理と兼ねることもできる。
【0099】
酸化物半導体膜への酸素の供給は酸化物半導体膜の成膜後であれば、そのタイミングは特に限定されない。また、酸化物半導体膜への酸素の導入は複数回行ってもよい。また、酸化物半導体膜を複数層の積層構造とする場合には、脱水化又は脱水素化のための熱処理及び/又は酸素の供給は、各酸化物半導体膜に対して別々に行ってもよいし、積層構造を形成した後の酸化物半導体膜に対して行ってもよい。
【0100】
絶縁膜103を形成する場合は、絶縁膜103と酸化物半導体膜105とを大気に曝露せずに連続的に形成することが好ましい。絶縁膜103と酸化物半導体膜105とを大気に曝露せずに連続して形成すると、絶縁膜103表面に水素や水分などの不純物が吸着することを防止することができる。
【0101】
<ゲート絶縁膜>
次いで、酸化物半導体膜105を覆うゲート絶縁膜107を形成する。ゲート絶縁膜107は、1nm以上20nm以下の膜厚で、スパッタリング法、MBE法、プラズマCVD法、パルスレーザ堆積法、ALD法等を適宜用いて形成することができる。なお、μ波(例えば、周波数2.45GHz)を用いた高密度プラズマCVDは、緻密で絶縁耐圧の高い高品質な絶縁層を形成することができるため、ゲート絶縁膜107の形成に用いると好ましい。
【0102】
ゲート絶縁膜107の材料としては、酸化シリコン膜、酸化ガリウム膜、酸化アルミニウム膜、窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜、酸化窒化アルミニウム膜、または窒化酸化シリコン膜を用いることができる。ゲート絶縁膜107は、酸化物半導体膜105と接する部分において酸素を含むことが好ましい。特に、ゲート絶縁膜107は、膜中(バルク中)に少なくとも化学量論比を超える量の酸素が存在することが好ましく、例えば、ゲート絶縁膜107として、酸化シリコン膜を用いる場合には、SiO
2+α(ただし、α>0)とする。さらに、ゲート絶縁膜107は、作製するトランジスタのサイズやゲート絶縁膜107の段差被覆性を考慮して形成することが好ましい。
【0103】
また、ゲート絶縁膜107の材料として酸化ハフニウム、酸化イットリウム、ハフニウムシリケート(HfSi
xO
y(x>0、y>0))、窒素が添加されたハフニウムシリケート、ハフニウムアルミネート(HfAl
xO
y(x>0、y>0))、酸化ランタンなどの材料を用いてもよい。さらに、ゲート絶縁膜107は、単層構造としても良いし、積層構造としても良い。
【0104】
<ゲート電極>
次にゲート絶縁膜107上に導電膜を形成し、該導電膜をエッチングして、ゲート電極109を形成する(
図2(B)参照)。
【0105】
ゲート電極109は、モリブデン、チタン、タンタル、タングステン、アルミニウム、銅、クロム、ネオジム、スカンジウム等の金属またはこれらを主成分とする合金を用いて形成することができる。また、ゲート電極109としてリン等の不純物をドーピングした多結晶シリコン膜に代表される半導体膜、ニッケルシリサイドなどのシリサイド膜を用いてもよい。ゲート電極109は、単層構造としてもよいし、積層構造としてもよい。また、ゲート電極109の膜厚は50nm以上300nm以下が好ましい。
【0106】
また、ゲート電極109は、酸化インジウム酸化スズ、酸化タングステンを含むインジウム酸化物、酸化タングステンを含むインジウム亜鉛酸化物、酸化チタンを含むインジウム酸化物、酸化チタンを含むインジウム錫酸化物、酸化インジウム酸化亜鉛、酸化ケイ素を添加したインジウム錫酸化物などの導電性材料を適用することもできる。また、上記導電性材料と、上記金属の積層構造とすることもできる。
【0107】
また、ゲート絶縁膜107と接するゲート電極109の一層として、窒素を含む金属酸化物、具体的には、窒素を含むIn−Ga−Zn−O膜や、窒素を含むIn−Sn−O膜や、窒素を含むIn−Ga−O膜や、窒素を含むIn−Zn−O膜や、窒素を含むSn−O膜や、窒素を含むIn−O膜や、金属窒化膜(InN、SnNなど)を用いることができる。これらの膜は5eV(電子ボルト)以上、好ましくは5.5eV(電子ボルト)以上の仕事関数を有し、ゲート電極として用いた場合、トランジスタのしきい値電圧をプラスにすることができ、所謂ノーマリーオフのスイッチング素子を実現できる。
【0108】
<欠陥形成>
次に、絶縁膜103およびゲート絶縁膜107の少なくとも一方に、欠陥を生じさせる。欠陥を生じさせる方法としては、アルゴン、窒素、炭素、リン、ホウ素、金属等の不純物の添加、プラズマ処理、UV照射等が挙げられる。
【0109】
絶縁膜に生じた欠陥に、酸化物半導体中の水素は引き寄せられ、水素の存在により欠陥は安定化する(水素が捕獲される)。
【0110】
本実施の形態では、欠陥を生じさせるために、絶縁膜103、酸化物半導体膜105およびゲート絶縁膜107に不純物110を添加することとする(
図2(C)参照)。
【0111】
このとき、ゲート電極109をマスクとして用いることで、酸化物半導体膜105に自己整合的にソース領域105a、ドレイン領域105c、およびチャネル形成領域105bを形成することができる(
図2(D)参照)。同様に絶縁膜103に自己整合的に、少なくともソース領域と重畳する領域103a、少なくともドレイン領域と重畳する領域103c、およびチャネル形成領域と重畳する領域103bを形成することができる。同様にゲート絶縁膜107に自己整合的に、少なくともソース領域と重畳する領域107a、少なくともドレイン領域と重畳する領域107c、およびチャネル形成領域と重畳する領域107bを形成することができる。
【0112】
不純物110は特に限定されず、一般的には窒素、アルゴン等の希ガスの他、炭素、リン、ホウ素、アルミニウム、砒素、その他金属等を用いることができる。また、酸化物半導体膜および絶縁膜の構成元素となりうるIn,Ga,Zn,Si,O等を用いてもよい。この場合、酸化物半導体膜105、絶縁膜103およびゲート絶縁膜107の組成に変化が生じうる。
【0113】
不純物110の添加方法としては、イオンドーピング法、イオンインプランテーション法等を適用することができる。
【0114】
不純物110が添加されることで、少なくともソース領域と重畳する領域103a、少なくともドレイン領域と重畳する領域103c、少なくともソース領域と重畳する領域107a、少なくともドレイン領域と重畳する領域107cに欠陥、たとえば未結合手が生じる。
【0115】
これは、少なくともソース領域と重畳する領域103a、少なくともドレイン領域と重畳する領域103c、少なくともソース領域と重畳する領域107a、少なくともドレイン領域と重畳する領域107cが化学的に活性化されると言ってもよい。
【0116】
なお
図2(C)では絶縁膜103、酸化物半導体膜105およびゲート絶縁膜107に不純物110を添加した例を示すが、必ずしも3種の膜全てに添加する必要はない。たとえば絶縁膜103にのみ添加してもよいし、ゲート絶縁膜107にのみ添加してもよい。
【0117】
また、不純物が添加されない膜でも、不純物の通過により欠陥が生じる場合がある。例えばイオンドーピング法等によって絶縁膜103に不純物が添加され、ゲート絶縁膜107に不純物が添加されない場合でも、ゲート絶縁膜107には、不純物110の通過による欠陥が生じうる。
【0118】
また不純物110が添加されることで、ソース領域105aおよびドレイン領域105cに欠陥が生じ、結晶性が低下する。そのため、たとえばチャネル形成領域105bをCAAC−OS膜とし、ソース領域105aおよびドレイン領域105cをアモルファス酸化物半導体膜とすることができる。
【0119】
<加熱処理>
不純物110を添加した後、加熱処理を行うことが好ましい。加熱処理を行うことで、酸化物半導体膜105から周囲の絶縁膜(ここでは絶縁膜103およびゲート絶縁膜107の少なくとも一方)への水素の拡散が容易となる。
【0120】
酸化物半導体膜105から拡散した水素は、周囲の絶縁膜が有する未結合手に引き寄せられ捕獲される。未結合手は水素を捕獲して安定化する。
【0121】
これは、水素が、化学的に活性となった少なくともソース領域と重畳する領域103a、少なくともドレイン領域と重畳する領域103c、少なくともソース領域と重畳する領域107a、少なくともドレイン領域と重畳する領域107cに引き寄せられて捕獲されると言ってもよい。
【0122】
該加熱処理における加熱温度は、水素の拡散に十分な温度であればよい。CAAC−OS膜中の水素の拡散係数は3.0×10
−17であり、アモルファス酸化物半導体膜中の水素の拡散係数は9.0×10
−17である。そのため、加熱温度はたとえば150℃以上650℃以下が好ましく、200℃以上450℃以下がより好ましい。また後の工程の加熱処理と兼ねて行ってもよい。
【0123】
なお少なくともソース領域と重畳する領域103a、少なくともドレイン領域と重畳する領域103c、少なくともソース領域と重畳する領域107a、少なくともドレイン領域と重畳する領域107cに含まれる不純物の量は、10
14atoms/cm
3以上10
22atoms/cm
3以下となることが好ましい。
【0124】
またソース領域105aおよびドレイン領域105cに含まれる不純物の量は、10
14atoms/cm
3以上10
21atoms/cm
3以下となることが好ましい。不純物イオンを添加することでソース領域105aおよびドレイン領域105cの抵抗を低下させることができるが、不純物の濃度が高すぎるとキャリアの移動を阻害し、かえって導電性を低下させることになるためである。
【0125】
なお、ソース領域105aおよびドレイン領域105cをLDD領域として機能させる場合は、不純物としてリンまたは炭素を用いると低抵抗化がより容易になり好ましい。
【0126】
上述のように、不純物の添加および加熱処理により、酸化物半導体膜105の周囲の絶縁膜が酸化物半導体膜から水素を引き寄せて捕獲するのと同時に、酸化物半導体膜105のソース領域105aおよびドレイン領域105cを低抵抗化することができる。そのため欠陥を生じさせる方法として不純物の添加を適用すると、トランジスタ特性の向上と生産性の向上が可能となる。
【0127】
なお
図2(C)ではゲート電極109をマスクとして用いる例を説明したが、これに限らない。フォトレジスト等により別途マスクを形成してから、不純物110を添加してもよい。
【0128】
上記の材料および作製方法を適用することで、トランジスタ201を作製することができる。
【0129】
(実施の形態2)
本実施の形態では、実施の形態1と異なる本発明の一態様に係る半導体装置の構成について、
図3および
図4を参照して説明する。以下には主に、実施の形態1で説明した半導体装置との相違点を述べる。他の部分は、実施の形態1を参酌することができる。
【0130】
図3(A)のトランジスタ202は、
図1(B)のトランジスタ201にソース電極111aおよびドレイン電極111bを加えた構成である。ソース領域105aはソース電極111aと電気的に接続されている。ドレイン領域105cはドレイン電極111bと電気的に接続されている。
【0131】
トランジスタ202では、ソース電極111aおよびドレイン電極111b上に、酸化物半導体膜105が設けられている。
この場合、絶縁膜103中の、ソース電極111aおよびドレイン電極111bと重畳する領域103dに含まれる不純物濃度および水素濃度は、少なくともソース領域と重畳する領域103a、少なくともドレイン領域と重畳する領域103cよりも低くなる場合がある。
【0132】
図3(B)のトランジスタ203のように、酸化物半導体膜105上に、ソース電極111aおよびドレイン電極111bを設けてもよい。この場合、酸化物半導体膜105中の、ソース電極111aおよびドレイン電極111bと重畳する領域105dに含まれる不純物濃度は、ソース領域105aおよびドレイン領域105cに含まれる不純物濃度よりも低くなる場合がある。
【0133】
図3(C)のトランジスタ204のように、酸化物半導体膜105の下に、絶縁膜113を介して導電層115を設けてもよい。導電層115はバックゲートと呼ぶこともできる。
【0134】
絶縁膜113には、絶縁膜103と同様の材料および形成方法を適用することができる。
【0135】
導電層115はゲート電極109と同様の材料および作製方法を適用することができる。導電層115は電気的に絶縁しているフローティングの状態であってもよいし、電位が他から与えられている状態であってもよい。後者の場合、ゲート電極109と同じ高さの電位が与えられていても良いし、導電層115にのみ接地電位などの固定の電位が与えられていてもよい。導電層115に与える電位の高さを制御することで、トランジスタ201のしきい値電圧を制御することができる。なお導電層115に与える電位の高さを制御する場合、窒素を含む金属酸化物を用いることで、トランジスタ204のしきい値電圧をプラスにすることができ、所謂ノーマリーオフのスイッチング素子を実現することがより容易となる。
【0136】
図4(A)のトランジスタ205のように、トランジスタの構成要素の積層順を変更してもよい。トランジスタ205は、基板101上に、ゲート電極109と、ゲート電極109とゲート絶縁膜107を介して重畳する酸化物半導体膜105を有する。また酸化物半導体膜105上に、絶縁膜113a、絶縁膜113b、絶縁膜113cを有していてもよい。
【0137】
酸化物半導体膜105は、ソース領域105aと、ドレイン領域105cと、両者に挟まれたチャネル形成領域105bを有する。さらに絶縁膜113aおよび絶縁膜113cと重畳する領域105dを有していてもよい。
【0138】
トランジスタ205のように、ゲート電極109上に酸化物半導体膜105を設ける構成の場合、絶縁膜113bを設けることで、ソース電極111aおよびドレイン電極111bを加工する際のエッチング等によるダメージを抑制することができる。
【0139】
さらに絶縁膜113aおよび絶縁膜113cを、酸化物半導体膜105の端部を覆うように設けることで、酸化物半導体膜105の端部を保護することができる。島状に加工された酸化物半導体膜の端部は、酸素欠損が生じやすい。そのため、端部を保護することで、酸素欠損によるキャリア密度の増加、およびキャリア密度の増加による寄生チャネルの発生を防止することができる。なお絶縁膜113aおよび絶縁膜113cを設ける場合、酸化物半導体膜105中の、絶縁膜113aおよび絶縁膜113cと重畳する領域105dに含まれる不純物濃度は、ソース領域105aおよびドレイン領域105cに含まれる不純物濃度よりも低くなる場合がある。
【0140】
なおソース電極111aおよびドレイン電極111bを加工する際のダメージや、端部の寄生チャネルが問題とならない場合は、絶縁膜113a、絶縁膜113b、絶縁膜113cを形成しなくともよい。
【0141】
図4(B)のトランジスタ206のように、酸化物半導体膜105の下に、ソース電極111aおよびドレイン電極111bを設けてもよい。
【0142】
図4(C)のトランジスタ207のように、酸化物半導体膜105の上に、導電層115を設けてもよい。
【0143】
図4(C)のトランジスタ207の導電層115は、
図3(C)のトランジスタ204の導電層115と同様の効果を有し、バックゲートと呼んでもよい。またトランジスタ204の導電層115と同様の材料および作製方法を適用することができる。また、
図4(C)の導電層115は、ソース電極111aおよびドレイン電極111bと同一の導電層から形成してもよい。
【0144】
本実施の形態は、他の実施の形態に記載した構成と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0145】
(実施の形態3)
本実施の形態では、実施の形態1および実施の形態2で説明した半導体装置を有し、消費電力を低減することのできる半導体装置の一例を、
図5乃至
図8を参照して説明する。
【0146】
<半導体装置1>
まず
図5(A)および
図5(B)を用いて、トランジスタ302および容量素子303を有するメモリセル304を有する半導体装置の一例について説明する。
図5(A)に、メモリセル304の断面図を、
図5(B)にメモリセル304の回路図を示す。
【0147】
図5(A)及び
図5(B)に示すトランジスタ302は、実施の形態1および実施の形態2で示したトランジスタ201乃至トランジスタ207と同様の構成とすることができる。
【0148】
図5(A)に示すように、容量素子303は、トランジスタ302のドレイン電極上に、絶縁膜を介して電極305を形成することより、形成される。すなわち、トランジスタ302のドレイン電極は容量素子303の一方の電極を兼ねている。電極305の材料や作製方法については、ゲート電極109の記載を参酌することができる。
【0149】
また
図5(B)に示すように、メモリセル304は、トランジスタ302および容量素子303を有する。トランジスタ302のゲート電極はワード線に電気的に接続され、トランジスタ302のソース電極はビット線に電気的に接続される。容量素子303の他方の電極は容量線CLに電気的に接続される。
【0150】
メモリセル304は、トランジスタ302のドレイン電極および容量素子303の一方の電極に電荷を蓄えることで、DRAM(Dynamic Random Access Memory)の素子として用いることができる。トランジスタ302は、実施の形態1および実施の形態2に記載の酸化物半導体を用いたトランジスタであり、オフ電流が極めて小さいため、電荷を長期にわたり保持することが可能である。つまり、リフレッシュ動作の頻度を極めて低くすることが可能となるため、消費電力を十分に低減することができる。
【0151】
図6(A)に、メモリセル304を複数有する半導体装置の一例を示す。
図6(A)に示す半導体装置は、n本のビット線BLと、m本のワード線WLと、メモリセル304が縦m個(行)×横n個(列)のマトリクス状に配置されたメモリセルアレイと、各メモリセル304に接続する容量線CLと、n本のビット線BLに接続する第1の駆動回路310と、m本のワード線WLに接続する第2の駆動回路311と、を有する。
【0152】
図6(A)に示す半導体装置(たとえばメモリセル304(1,1))に、情報の書き込みおよび保持を行う場合について以下に説明する。
【0153】
まず、容量線CLを接地電位とし、ワード線WLの電位を、トランジスタ302がオン状態となる電位として、トランジスタ302をオン状態とする。これにより、ビット線BLの電位が、容量素子303の一方の電極に与えられる(書き込み)。その後、ワード線WLの電位を、トランジスタ302がオフ状態となる電位として、トランジスタ302をオフ状態とすることにより、容量素子303の一方の電極の電位が保持される(保持)。
【0154】
次に、情報の読み出しについて説明する。ビット線BLをV
B0にプリチャージしてから浮遊状態とし、トランジスタ302をオン状態とすると、ビット線BLと容量素子303とが導通し、ビット線BLと容量素子303の間で電荷が再分配される。その結果、ビット線BLの電位が変化する。ビット線BLの電位の変化量は、容量素子303の一方の電極の電位(あるいは容量素子303に蓄積された電荷)によって、異なる値をとる。
【0155】
例えば、容量素子303の一方の電極の電位をV、容量素子303の容量をC、ビット線BLが有する容量成分(以下、ビット線容量とも呼ぶ)をC
B、電荷が再分配される前のビット線BLの電位をV
B0とすると、電荷が再分配された後のビット線BLの電位は、(C
B×V
B0+C×V)/(C
B+C)となる。従って、メモリセル304の状態として、容量素子303の一方の電極の電位がV
1とV
0(V
1>V
0)の2状態をとるとすると、電位V
1を保持している場合のビット線BLの電位(=(C
B×V
B0+C×V
1)/(C
B+C))は、電位V
0を保持している場合のビット線BLの電位(=(C
B×V
B0+C×V
0)/(C
B+C))よりも高くなることがわかる。
【0156】
そして、ビット線BLの電位を所定の電位と比較することで、情報を読み出すことができる。
【0157】
図6(A)に示す半導体装置は、トランジスタ302のオフ電流が極めて小さいという特徴から、容量素子303に蓄積された電荷は長時間にわたって保持することができる。つまり、リフレッシュ動作が不要となるか、または、リフレッシュ動作の頻度を極めて低くすることが可能となるため、消費電力を十分に低減することができる。
【0158】
次に、
図6(B)に示す半導体装置について、説明を行う。
【0159】
図6(B)に示す半導体装置は、上部に記憶回路として
図6(A)に示したメモリセル304を複数有するメモリセルアレイ320a及び320bを有し、下部に、メモリセルアレイ330(メモリセルアレイ320a及び320b)を動作させるために必要な周辺回路331を有する。なお、周辺回路331は、メモリセルアレイ320a、メモリセルアレイ320bとそれぞれ電気的に接続されている。
【0160】
メモリセル304が有するトランジスタ302および容量素子303は、薄膜で形成可能なため、メモリセルアレイ330は、
図6(B)のようにメモリセルアレイ320a及び320bを積層して形成することができる。
【0161】
図6(B)に示した構成とすることにより、周辺回路331と、メモリセルアレイ330(メモリセルアレイ320a及び320b)とを重畳して設けることができるため、半導体装置の小型化を図ることができる。
【0162】
周辺回路331に設けられるトランジスタは、トランジスタ302とは異なる半導体材料を用いることがより好ましい。例えば、シリコン、ゲルマニウム、シリコンゲルマニウム、炭化シリコン、またはガリウムヒ素等を用いることができ、単結晶半導体を用いることが好ましい。他に、有機半導体材料などを用いてもよい。このような半導体材料を用いたトランジスタは、十分な高速動作が可能である。したがって、該トランジスタにより、高速動作が要求される各種回路(論理回路、駆動回路など)を好適に実現することが可能である。
【0163】
なお、
図6(B)に示した半導体装置では、2つのメモリセルアレイ(メモリセルアレイ320aと、メモリセルアレイ320b)が積層された構成を例示したが、積層するメモリセルアレイの数はこれに限定されない。3つ以上のメモリセルアレイを積層する構成としても良い。
【0164】
<半導体装置2>
次に
図7を用いて、
図5と異なる半導体装置の一例について説明する。
図7(A)に、半導体装置の断面図を、
図7(B)に半導体装置の回路図をそれぞれ示す。
【0165】
図7(A)及び
図7(B)に示す半導体装置は、下部に第1の半導体材料を用いたトランジスタ401を有し、上部に第2の半導体材料を用いたトランジスタ402と容量素子403を有するものである。トランジスタ402としては、実施の形態1及び実施の形態2で示すトランジスタ201乃至トランジスタ207を適用することができる。
【0166】
ここで、第1の半導体材料と第2の半導体材料は異なる禁制帯幅を持つ材料とすることが望ましい。例えば、第1の半導体材料を酸化物半導体以外の半導体材料(シリコンなど)とし、第2の半導体材料を酸化物半導体とすることができる。酸化物半導体以外の材料を用いたトランジスタは、高速動作が容易である。一方で、実施の形態1または実施の形態2で示した酸化物半導体を用いたトランジスタはオフ電流を極めて小さくすることができる。そのため、酸化物半導体を用いたトランジスタのソース電極またはドレイン電極が接続されるノード(たとえば
図7(B)のFG)に、電荷を長時間保持することができる。
【0167】
そのため、
図7に示す半導体装置は、酸化物半導体を用いたトランジスタのソース電極またはドレイン電極が接続されるノードに電荷を保持することで、記憶素子として用いることができる。
【0168】
なお、第1の半導体材料を用いたトランジスタは、nチャネル型トランジスタとpチャネル型トランジスタのどちらを用いても構わない。また、情報を保持するために酸化物半導体を用いた実施の形態1および実施の形態2に示すようなトランジスタを用いる他は、半導体装置に用いられる材料や半導体装置の構造など、半導体装置の具体的な構成をここで示すものに限定する必要はない。
【0169】
図7(A)におけるトランジスタ401は、第1の半導体材料(
図7では、単結晶シリコンとする)を含む基板101に設けられたチャネル形成領域と、チャネル形成領域を挟むように設けられたソース領域413a、ドレイン領域413bと、チャネル形成領域上に設けられたゲート絶縁膜と、ゲート絶縁膜上に設けられたゲート電極417aと、を有する。
【0170】
基板101上にはトランジスタ401を囲むように素子分離絶縁層411が設けられており、トランジスタ401を覆うように絶縁層415が設けられている。
【0171】
トランジスタ402のソース電極又はドレイン電極の一方はトランジスタ401のゲート電極417aと電気的に接続されている。また、トランジスタ402のソース電極又はドレイン電極の他方は、電極417bを介して、トランジスタ401のドレイン領域413bと電気的に接続されている。
【0172】
また、電極405と、トランジスタ402のソース電極と、ゲート絶縁層によって、容量素子403が構成される。すなわち、電極405は容量素子403の一方の電極として機能し、トランジスタ402のソース電極は容量素子403の他方の電極として機能する。なお、容量素子が不要の場合には、容量素子403を設けない構成とすることもできる。また、容量素子403は、別途、トランジスタ402の上方に設けてもよい。
【0173】
図7(A)において、トランジスタ402及び容量素子403が、トランジスタ402の少なくとも一部と重畳するように設けられている。例えば、容量素子403の電極405は、トランジスタ401のゲート電極と少なくとも一部が重畳して設けられている。このような平面レイアウトを採用することにより、半導体装置の占有面積の低減を図ることができるため、高集積化を図ることができる。
【0174】
図7(A)に対応する回路構成の一例を
図7(B)に示す。
【0175】
図7(B)に示すように、第1の配線(1st Line)とトランジスタ401のソース領域とは、電気的に接続されている。また第2の配線(2nd Line)と、トランジスタ401のドレイン領域およびトランジスタ402のドレイン電極とは、電気的に接続されている。また第3の配線(3rd Line)と、トランジスタ402のゲート電極とは、電気的に接続されている。また第4の配線(4th Line)と容量素子403の一方の電極とは、電気的に接続されている。そして、トランジスタ401のゲート電極と、トランジスタ402のソース電極は、容量素子403の他方の電極と電気的に接続されている。
【0176】
なお、
図7(A)および(B)では、トランジスタ401のドレイン領域413bおよびトランジスタ402のドレイン電極が電気的に接続されている構成を示したが、これに限らない。トランジスタ401のドレイン領域413bと、トランジスタ402のドレイン電極は、それぞれ異なる配線に電気的に接続されていてもよい。
【0177】
図7(B)に示す半導体装置では、トランジスタ401のゲート電極の電位(
図7(B)のFG)が保持可能という特徴を生かすことで、次のように、情報の書き込み、保持、読み出しが可能である。
【0178】
情報の書き込みおよび保持について説明する。まず、第3の配線の電位を、トランジスタ402がオン状態となる電位にして、トランジスタ402をオン状態とする。これにより、第2の配線の電位が、トランジスタ401のゲート電極、および容量素子403の他方の電極(FG)に与えられる。すなわち、トランジスタ401のゲート電極には、所定の電荷が与えられる(書き込み)。ここでは、異なる二つの電位レベルを与える電荷(以下Lowレベル電荷、Highレベル電荷という)のいずれかが与えられるものとする。その後、第3の配線の電位を、トランジスタ402がオフ状態となる電位にして、トランジスタ402をオフ状態とすることにより、トランジスタ401のゲート電極に与えられた電荷が保持される(保持)。
【0179】
トランジスタ402のオフ電流は極めて小さいため、トランジスタ401のゲート電極の電荷は長時間にわたって保持される。
【0180】
次に情報の読み出しについて説明する。第1の配線に所定の電位(定電位)を与えた状態で、第4の配線に適切な電位(読み出し電位)を与えると、トランジスタ401のゲート電極に保持された電荷量に応じて、第2の配線は異なる電位をとる。一般に、トランジスタ401をpチャネル型とすると、トランジスタ401のゲート電極にHighレベル電荷が与えられている場合の見かけのしきい値電圧Vth_Hは、トランジスタ401のゲート電極にLowレベル電荷が与えられている場合の見かけのしきい値電圧Vth_Lより低くなるためである。ここで、見かけのしきい値電圧とは、トランジスタ401を「オン状態」とするために必要な第4の配線の電位をいうものとする。したがって、第4の配線の電位をVth_HとVth_Lの間の電位V0とすることにより、トランジスタ401のゲート電極に与えられた電荷を判別できる。例えば、書き込みにおいて、Highレベル電荷が与えられていた場合には、第4の配線の電位がV0(<Vth_L)となれば、トランジスタ401は「オフ状態」となる。Lowレベル電荷が与えられていた場合には、第4の配線の電位がV0(>Vth_H)となって、トランジスタ401は「オン状態」となる。このため、第2の配線の電位を見ることで、保持されている情報を読み出すことができる。
【0181】
なお、メモリセルをアレイ状に配置して用いる場合、所望のメモリセルの情報のみを読み出せることが必要になる。このように情報を読み出さない場合には、ゲート電極の状態にかかわらずトランジスタ401が「オフ状態」となるような電位、つまり、Vth_Lより高い電位を第4の配線に与えればよい。または、ゲート電極の状態にかかわらずトランジスタ401が「オン状態」となるような電位、つまり、Vth_Hより低い電位を容量線CLに与えればよい。
【0182】
単結晶シリコンを用いたトランジスタ401は、高速動作が可能である。このため、当該トランジスタを読み出し用のトランジスタとして用いることで、情報の読み出しを高速に行うことができる。トランジスタ402は、実施の形態1および実施の形態2に記載の酸化物半導体を用いたトランジスタであり、オフ電流が極めて小さいため、長期にわたり記憶内容を保持することが可能である。つまり、リフレッシュ動作を必要としない、或いは、リフレッシュ動作の頻度が極めて少ない半導体記憶装置とすることが可能となるため、消費電力を十分に低減することができる。
【0183】
なお
図7では、下部にMOS(Metal−Oxide−Semiconductor)型のトランジスタを適用した例を示したが、これに限定されない。下部に、MES(Metal−Semiconductor)型のトランジスタを適用してもよい。
【0184】
図8(A)および(B)に示す半導体装置は、下部にMES型のトランジスタ501を適用した例である。この場合、下部のトランジスタに用いる第1の半導体材料としては、砒化ガリウム、リン化インジウム、炭化ケイ素等の化合物半導体が好ましい。
【0185】
図8に示す半導体装置は、下部にMES型のトランジスタ501を有し、上部に第2の半導体材料を用いたトランジスタ402と容量素子403を有する。
図8(A)に、半導体装置の断面図を、
図8(B)に半導体装置の回路図をそれぞれ示す。
【0186】
トランジスタ501は、基板101上に、半導体層513、ソース電極515a、ゲート電極515b、ドレイン電極515cを有する。
【0187】
このように、酸化物半導体以外の材料を用いたトランジスタ(換言すると、十分な高速動作が可能なトランジスタ)を用いた周辺回路と、酸化物半導体を用いたトランジスタ(より広義には、十分にオフ電流が小さいトランジスタ)を用いた記憶装置とを一体に備えた半導体装置を実現することができる。
【0188】
本実施の形態は、他の実施の形態に記載した構成と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0189】
(実施の形態4)
本実施の形態では、実施の形態1および実施の形態2で説明した半導体装置を有する論理回路の例について、
図9を用いて説明する。
【0190】
実施の形態1および実施の形態2で説明した半導体装置、たとえば
図3(C)で示したバックゲートを有する酸化物半導体を用いたトランジスタ204を用いて、論理回路を構成することが可能である。
【0191】
入力信号A、入力信号B、出力信号Xについて”0”を低電位、”1”を高電位とし、バックゲート電位Vbgをたとえば接地電位とする。
図9において各信号および電位の入出力端子は、各信号および電位と同じ符号で示す。
【0192】
このとき、
図9(A−1)はOR回路、
図9(A−2)はNOR回路、
図9(C−1)はAND回路、
図9(C−2)は、NAND回路として機能させることができる。
【0193】
図9(B)に、
図9(A−1)および
図9(A−2)の回路図に用いることのできるトランジスタの断面図を示す。
図9(D)に、
図9(C−1)および
図9(C−2)の回路図に用いることのできるトランジスタの断面図を示す。
【0194】
本実施の形態は、他の実施の形態に記載した構成と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【実施例1】
【0195】
本実施例では、酸化物半導体膜の不純物を添加しなかった領域と添加した領域について、両者の結晶性をTEM(Transmission Electron Microscope;透過型電子顕微鏡)を用いて比較した。
【0196】
<サンプル作製条件>
まずサンプルの作製条件について説明する。
【0197】
基板には、5インチ角のシリコン基板を用いた。
【0198】
基板上に、下地絶縁膜として300nmの酸化窒化シリコン膜を形成した。下地絶縁膜はCVD法により形成した。
【0199】
下地絶縁膜上に、酸化物半導体膜を30nm形成した。該酸化物半導体膜は、スパッタリング法により、In:Ga:Zn=1:1:1(原子数比)のターゲットを用い、圧力0.4Pa、電力0.5kW、流量比Ar:O
2=2:1(体積比)、基板温度400℃として形成した。
【0200】
酸化物半導体膜を形成した基板に、加熱処理を行った。該加熱処理は、N
2雰囲気、450℃で1時間行った。
【0201】
加熱処理を行った基板に対して、不純物として窒素またはアルゴンを添加した。添加にはイオンインプランテーション法を適用し、添加量は窒素の場合5.0×10
16ions/cm
2、電圧10kVとした。またアルゴンの場合1.0×10
16ions/cm
2、電圧25kVとした。
【0202】
上記の条件で不純物を添加した場合の、酸化物半導体膜中の不純物プロファイルの計算を行った。
【0203】
計算にはTRIM−98を用い、条件は以下の通りとした。
・イオン数
99999個
・注入層
組成 In:Ga:Zn:O=1:1:1:4(原子数比)、密度6.2g/cm
3
・注入する不純物と、その加速電圧およびドーズ量
14N:電圧10kV、5.0×10
16ions/cm
2
14N:電圧10kV、1.0×10
16ions/cm
2
40Ar:電圧25kV、1.0×10
16ions/cm
2
40Ar:電圧25kV、1.0×10
15ions/cm
2
【0204】
図10(A)に不純物として窒素を添加した場合、
図10(B)にアルゴンを添加した場合の計算結果を示す。
【0205】
<結晶性の比較>
上記のように作製したサンプルの、不純物を添加しなかった領域と添加した領域の結晶性について、TEMを用いて観察した。観察にはH−9000NARを用い、加速電圧300kV、倍率4,000,000倍とした。
【0206】
図11に不純物を添加しなかった領域の酸化物半導体膜、
図12に不純物として窒素を添加した領域の酸化物半導体膜、
図13に不純物としてアルゴンを添加した領域の酸化物半導体膜の断面TEM写真を示す。
【0207】
不純物を添加しなかった
図11では、酸化物半導体膜がCAAC−OS膜となっていることが明らかとなった。
【0208】
それに対して、不純物を添加した
図12および
図13では酸化物半導体膜に結晶性が確認されず、アモルファスであった。
【0209】
上記より、不純物を添加することにより、酸化物半導体膜の結晶性が低下することが明らかとなった。
【0210】
本実施例から、不純物を添加した領域をソース領域105aおよびドレイン領域105c、不純物を添加しない領域をチャネル形成領域105bとした場合、ソース領域105aおよびドレイン領域105cの結晶性が、チャネル形成領域105bよりも低いトランジスタを作製できることが示唆される。
【実施例2】
【0211】
本実施例では、酸化物半導体膜の一部に不純物を添加することで、不純物を添加しなかった領域と添加した領域を隣り合わせて形成し、両者の水素の濃度を3D−SIMS(Three−Dimensional Secondary Ion Mass Spectrometry)を用いて測定した。
【0212】
<サンプル作製条件>
まずサンプルの作製条件について説明する。
【0213】
基板には、5インチ角のシリコン基板を用いた。
【0214】
基板上に、下地絶縁膜として100nmの酸化シリコン膜を形成した。該酸化シリコン膜は、基板のシリコンを加熱により酸化することで形成した。
【0215】
下地絶縁膜上に、酸化物半導体膜を300nm形成した。該酸化物半導体膜は、スパッタリング法により、In:Ga:Zn=1:1:1(原子数比)のターゲットを用い、圧力0.5Pa、電力0.5kW、流量比Ar:O
2=2:1(体積比)、基板温度400℃として形成した。
【0216】
次に、酸化物半導体膜をエッチングし、島状に加工した。
【0217】
島状に加工した酸化物半導体膜のうち、不純物を添加しない領域には、フォトレジストを塗布し保護した。
【0218】
次に、一部をフォトレジストで保護した酸化物半導体膜に、不純物を添加した。不純物としては窒素を用い、イオンインプランテーション法により、加速電圧100kV、ドーズ量2.0×10
16/cm
2として添加した。
【0219】
不純物を添加した後、O
2アッシングによりフォトレジストを除去した。
【0220】
フォトレジストを除去した酸化物半導体膜上に、絶縁膜を形成した。絶縁膜としては100nmの窒化シリコン膜を用いた。
【0221】
絶縁膜形成後、加熱処理を行った。加熱処理は1時間、窒素雰囲気下、450℃で行った。
【0222】
<水素濃度の比較>
上記のように作製したサンプルの、不純物を添加しなかった領域と添加した領域の境界付近における水素の濃度を、3D−SIMSを用いて測定した。
図14に実線で、上記サンプルの水素ラインプロファイルを示す。リファレンスとして破線で、不純物を添加する前のサンプルの水素ラインプロファイルを示す。
【0223】
なお、測定は、CAMECA IMS−7fを用い、一次イオン種をCs
+、一次加速電圧を15.0kV、測定領域を30μm×30μmとして行った。ラインプロファイルの数値は深さ方向に積分し、体積で平均化した値である。
【0224】
上記より、不純物を添加した領域の方が、不純物を添加しなかった領域よりも水素濃度が高いことが明らかとなった。
【0225】
本実施例から、不純物イオンを添加した領域をソース領域105aおよびドレイン領域105c、不純物イオンを添加しない領域をチャネル形成領域105bとした場合、ソース領域105aおよびドレイン領域105cに水素を多く有するトランジスタを作製できることが示唆される。
【実施例3】
【0226】
本実施例では、酸化物半導体膜の下面および上面に絶縁膜を形成し、これらに不純物を添加しなかった領域と添加した領域を形成した。その後これらの水素濃度を、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)を用いて測定した。
【0227】
<サンプル作製条件>
まずサンプルの作製条件について説明する。
【0228】
基板には、5インチ角のシリコン基板を用いた。
【0229】
基板上に、下地絶縁膜として100nmの酸化シリコン膜を形成した。該酸化シリコン膜は、基板のシリコンを加熱により酸化することで形成した。
【0230】
下地絶縁膜上に、酸化物半導体膜を100nm形成した。該酸化物半導体膜は、スパッタリング法により、In:Ga:Zn=1:1:1(原子数比)のターゲットを用い、圧力0.4Pa、電力0.2kW、流量比Ar:O
2=2:1(体積比)、基板温度400℃として形成した。
【0231】
次に、酸化物半導体膜をエッチングし、島状に加工した。
【0232】
島状に加工した酸化物半導体膜のうち、不純物を添加しない領域には、フォトレジストを塗布し保護した。
【0233】
次に、一部をフォトレジストで保護した酸化物半導体膜に、不純物を添加した。不純物としては窒素またはアルゴンを用い、イオンインプランテーション法により添加した。窒素の場合、加速電圧35kV、ドーズ量5.0×10
16/cm
2とした。アルゴンの場合、加速電圧100kV、ドーズ量1.0×10
16/cm
2として添加した。
【0234】
不純物を添加した後、O
2アッシングによりフォトレジストを除去した。
【0235】
フォトレジストを除去した酸化物半導体膜上に、絶縁膜を形成した。絶縁膜としては100nmの酸化アルミニウムを用いた。該酸化アルミニウムはスパッタリング法により、流量比Ar:O
2=1:1(体積比)、圧力0.4Pa、電力2.5kW、基板温度250℃形成した。
【0236】
絶縁膜形成後、加熱処理を行った。加熱処理は1時間、窒素雰囲気下で、450℃または650℃で行った。
【0237】
<水素濃度の比較>
上記のように作製したサンプルについて、不純物を添加しなかった領域と添加した領域の水素濃度を、SIMSを用いて測定した。測定は、CAMECA IMS−7fを用い、一次イオン種をCs
+、一次加速電圧を15.0kV、測定領域を30μm×30μmとして行った。
【0238】
図15および
図16に、破線で不純物を添加しなかった領域、実線で不純物を添加した領域の水素プロファイルを示す。
【0239】
図15(A)〜(C)は不純物として窒素を添加したサンプルの水素プロファイルである。
図15(A)にリファレンスとして、窒素添加後、加熱処理を行う前のサンプルの水素プロファイルを示す。
図15(B)に窒素添加後、450℃で加熱したサンプルの水素プロファイルを示す。
図15(C)に窒素添加後、650℃で加熱したサンプルの水素プロファイルを示す。
【0240】
図16(A)〜(C)は不純物としてアルゴンを添加したサンプルの水素プロファイルである。
図16(A)にリファレンスとして、アルゴン添加後、加熱処理を行う前のサンプルの水素プロファイルを示す。
図16(B)にアルゴン添加後、450℃で加熱したサンプルの水素プロファイルを示す。
図16(C)にアルゴン添加後、650℃で加熱したサンプルの水素プロファイルを示す。
【0241】
図15および
図16から、不純物を添加した領域では、450℃または650℃で加熱処理を行うことで、酸化物半導体膜の水素濃度が低減され、酸化物半導体膜と接する絶縁膜の水素濃度が増加することが明らかとなった。
【0242】
上記から、酸化物半導体膜と接する、不純物の添加により欠陥が生じた絶縁膜は、酸化物半導体膜中の水素を引き寄せて捕獲できることが示唆される。
【0243】
以上の実施例1乃至実施例3から、酸化物半導体を用いたトランジスタにおいて、酸化物半導体膜のソース領域およびドレイン領域と接する絶縁膜に不純物の添加等により欠陥を生じさせることで、酸化物半導体から水素を引き寄せて捕獲できることが示唆される。これにより、しきい値電圧が安定し、信頼性の向上した酸化物半導体を用いたトランジスタを提供できることが示唆される。
【実施例4】
【0244】
≪酸化物半導体膜の光物性評価≫
本実施例では、酸化物半導体膜(OS膜、IGZO膜、In−Ga−Zn−O膜ともいう)の光物性評価について示す。なお以降の実施例において、酸化物半導体膜はスパッタリング法を用いて成膜し、ターゲットにはIn:Ga:Zn=1:1:1の組成のものを使用した。
【0245】
<酸化物半導体膜の光応答特性>
酸化物半導体膜におけるその光応答に関してはいくつか報告がなされており、光照射後照射を止めた後でも電流は速やかに緩和せず、電流値が徐々に低下する非常に遅い光応答を有することがわかっている(非特許文献1:D. H. Lee, et al: Electrochemical and Solid State letters, 13 (2010) H324−H327)。この遅い緩和現象に関して、酸化物半導体膜中の深い準位に存在する捕獲準位により、光電流の緩和が妨げられることによるものと考察しているとの報告がある。(非特許文献2:T. Inoue et al.: Proc. AM−FPD’10 Digest, 33 (2010)., 非特許文献3:K. Graffarzadah, et al: APPLIED PHYSICS LETTERS 97 143510(2010))。
【0246】
図17に酸化物半導体膜の光電流の測定結果を示す。測定サンプルのサイズはL/W=30/100000[μm]である。また薄膜トランジスタと同様にゲート電極を設けている。測定電圧はVd=0.1Vで、光源はキセノンランプの光をフィルターで分光し、波長400[nm]の光を照射強度3.5[mW/cm
2]で照射している。測定にはAgilent製B1500を用いた。測定シーケンスとしては、測定開始60sec後に600sec間光照射を行った。その600sec後に1秒間ゲート電極に−20Vを印加し、最後にまたさらに300sec後にゲート電極に1秒間+20Vを印加し、ドレイン電極に流れる電流を合計1800秒間連続的に測定した。
【0247】
図17の測定結果から、酸化物半導体膜の光電流の緩和は、ゲート電極にマイナスバイアスを印加した際にはほとんど緩和は見られないが、プラスバイアスを印加することで、電流値が急激に減少する様子が確認できる。これはトラップされた電荷がプラスバイアスでは開放され、マイナスバイアスではそのまま捕獲され続けるということを示していると考えられる。
【0248】
<酸化物半導体膜の欠陥準位の評価>
上述の光応答測定結果よりその存在が示唆される酸化物半導体膜のバンドギャップ内の欠陥準位に関して、アモルファスシリコン等におけるギャップ内準位評価技術として知られているphoto luminescence(PL)ならびにConstant photo−current method(CPM)による評価を試みた。PL測定にはHORIBA製PL測定装置(LabRAM HR−PL)を使用し、励起波長325[nm]、測定温度10[K]にて測定を行った。CPM測定には、分光計器株式会社の協力を得て作製したワイドバンドギャップ材料に対応させた装置を用いた。PL測定は欠陥準位に起因する発光を、CPM測定は欠陥準位に起因する光吸収を観測することが出来る。
【0249】
それぞれの測定法により得られたギャップ内欠陥準位に起因していると考えられるピークを
図18に示す。ピーク位置こそ若干異なるものの、そのスペクトルの広がりはほぼ等しく、1.5〜2.3eVの広がりをもつ酸素欠損の欠陥準位に起因すると考えられるピークが確認された。
【0250】
<CAAC−OS膜による欠陥準位の低減>
次に、CAAC−OS膜(CAAC−IGZO膜ともいう)と、nc−OS膜(nc−IGZO膜、nc−酸化物半導体膜ともいう)の欠陥準位の比較をCPM測定により行った結果を示す。
【0251】
CPM測定により得られた欠陥準位による吸収スペクトルを
図19に、その測定結果から下記式(1)より定量化した吸収係数の値の比較を表1に示す。この結果から、CAAC−IGZOはnc−IGZOと比較し、一桁以上欠陥準位による吸収が低減されており、より欠陥が少なくなっていることが示唆される。
【0252】
【表1】
【0253】
【数1】
【0254】
α:欠陥準位における吸収係数
α
CPM:CPM測定によって得られた吸収係数
α
Urbach Tail:非局在準位による吸収
【実施例5】
【0255】
≪光負バイアス劣化モデル≫
実際の薄膜トランジスタにおいては、酸化物半導体膜における欠陥準位だけではなく、ゲート絶縁膜側もその特性に大きな影響を与えると考えられる。一般的に酸化物半導体膜を用いた薄膜トランジスタにおいても、シリコンデバイスと同様にCVD法により作製された酸化シリコン膜や窒化シリコン膜が使用されている。実施例4で示した酸化物半導体膜の基礎物性評価に対し、本実施例ではゲート絶縁膜の欠陥準位そのものやゲート絶縁膜と酸化物半導体膜と接触させた時のバンドダイヤグラムについて考察を行った。
【0256】
<酸化シリコンの欠陥準位>
酸化シリコンの欠陥準位に関しては、光ファイバーに用いられるシリカガラスの研究で議論されており、E’センターとNon Bridging Oxygen Hole Center(NBOHC)という二つの欠陥準位が良く知られている(非特許文献4:S. Munekuni, et al.: J. Appl. Phys. 68 1212 (1990).)。
【0257】
特に酸化シリコン中に含まれる水素の結合が切れることにより生成されるNBOHCに注目し、第一原理計算によるその準位の計算を試みた。計算にはCASTEP(密度汎関数法を用いた第一原理計算プログラム(Accelrys))で行った。条件としては平面波基底、ウルトラソフト擬ポテンシャル、GGA−PBE汎関数を用いている。
【0258】
計算により得られた酸化シリコンのDOSを
図20に示す。計算結果より、前述したNBOHCによる欠陥準位は価電子帯側の深い準位に位置することがわかった。
【0259】
<酸化物半導体膜と酸化シリコン膜のバンドダイヤグラム>
酸化物半導体膜のバンドギャップ並びにイオン化ポテンシャルについて、エリプソメトリー法並びに紫外光電子分光法(UPS)より測定した値を表2に示す。
【0260】
【表2】
【0261】
上記酸化物半導体膜の実験値並びに、酸化シリコンの計算値および文献値(非特許文献4:S. Munekuni, et al.: J. Appl. Phys. 68 1212 (1990).)より両者のバンドダイヤグラムを大まかに見積もった。それを図示した結果を
図21に示す。
【0262】
実施例4から得られた酸化物半導体膜の酸素欠損(Vo)ならびに上述した酸化シリコンの欠陥も図中に示す。
図21中のEv、Ecの値は真空準位からのエネルギー値を示しており、また両者の接触の際には、それぞれの膜のフェルミレベルがバンドギャップの中央に位置すると仮定している。実際には酸化物半導体膜はn型化しやすいため、酸化物半導体膜のフェルミレベルは伝導帯側に位置すると考えられる。
【0263】
上記の図のように、酸化物半導体膜の単膜測定結果と酸化シリコンの計算結果や文献値より見積もった両者の欠陥準位は、共に価電子帯の深い位置に存在しており、非常に近いエネルギー位置に存在していることがわかった。
【0264】
上記測定結果やそれによるバンドダイヤグラムから、光負バイアス劣化に関して、下記のようなモデルが考察できる。
1.光照射により酸化物半導体膜中に電子−正孔が生成される。
2.生成された正孔が酸素欠損に起因する酸化物半導体膜中の深い欠陥準位にトラップされる。
3.マイナスバイアスにより、トラップされた正孔が水素起因の酸化シリコン膜の欠陥準位に注入される。
4.注入された正孔は、酸化シリコン膜中において正の電荷を持つ固定電荷となり、薄膜トランジスタのしきい値を変動させる。
【実施例6】
【0265】
≪光負バイアス劣化の改善≫
実施例5の光負バイアス劣化のモデルに対して、考えられる要因は
1.光照射によるホールの生成
2.酸化物半導体膜中の欠陥準位
3.酸化シリコン膜の欠陥準位
の3つを上げることができる。これらの要素が絡み合うことで、薄膜トランジスタのしきい値変動が生じていると考えられる。
【0266】
そこで酸化物半導体膜にCAAC−OSを使用し、さらにゲート絶縁膜として用いる酸化シリコン膜中の水素を低減させ、価電子帯側に深い準位を形成するNBOHCを少なくさせることで光負バイアス劣化の低減に成功した。
図22にゲート絶縁膜の水素低減有無による信頼性測定結果の比較を示す。
図22(A)に水素低減されていないゲート絶縁膜を有するサンプル、
図22(B)に加熱処理により水素低減されたゲート絶縁膜を有するサンプルのId−Vg特性を示す。
【0267】
図22(B)の水素低減されたゲート絶縁膜を有するサンプルにおいて、ストレス電圧:VG=−30V、ストレス温度:80℃、ストレス時間:2000sec、白色LEDによる3000[lx]照射下でしきい値変動がほぼゼロに抑えられていることがわかる。
【0268】
<さらなる信頼性向上に向けて>
さらに、単膜評価レベルではあるが、前述したCPM測定において、さらに欠陥準位による吸収をCAAC−OSによって低減させることに成功した。
図23(A)および(B)に酸素欠損をさらに低減させたOS膜のCPM測定結果を示す。
【0269】
図23に示す結果のように、この酸化物半導体膜においては、非局在準位によるアーバックテイルと呼ばれる傾き一定の吸収しか観測されておらず、わずかに観測される欠陥準位による吸収は4.5×10
−5[cm
−1]と非常に小さい値となっている。
【0270】
このように非常にバンドギャップ内の欠陥準位を低減したサンプルでは、前述した光負バイアス劣化が低減できると共に、その他の信頼性も含めた特性向上が望めると考えている。
【0271】
<高信頼性AM−LCDパネル>
上述のCAAC−OSを用いた薄膜トランジスタをバックプレーンに用いた信頼性の高いAM−LCDパネルの写真を
図24に示す。
【実施例7】
【0272】
本実施例では、酸化物半導体膜にイオンインプランテーション法により不純物を導入した場合の、酸化物半導体膜のバンドギャップ内の欠陥準位について、硬X線光電子分光分析(HX−PES:Hard X−ray Photoelectron Spectroscopy)を用いて調査した結果を示す。
【0273】
HX−PESは、大型放射光施設(SPring−8)にて行った。分析時の硬X線のエネルギーは7.94keV、測定分解能は0.25keVである。なお、通常の光電子分光分析(PES:Photoelectron Spectroscopy)は、サンプル表面から数nm程度の深さまでの情報しか得られず、サンプル内部の正確な情報が得られにくい。一方、HX−PESはサンプル表面から数十nm程度の深さまでの情報を検出することができるため、サンプル内部の情報をより正確に知ることができる。
【0274】
具体的には、高エネルギーのX線をサンプルに照射することにより、サンプル内部に存在する電子を光電子として放出させ、その光電子の放出量と運動エネルギーを測定することにより、サンプル内部の情報を知ることができる。一例として、サンプル内部の欠陥準位を知ることができる。
【0275】
<サンプル作製条件>
まずサンプルの作製条件について説明する。
【0276】
基板には、5インチ角のシリコン基板を用いた。
【0277】
基板上に、酸化物半導体膜(CAAC−OS)を100nm形成した。該酸化物半導体膜は、スパッタリング法により、In:Ga:Zn=1:1:1(原子数比)のターゲットを用い、圧力0.4Pa、電力0.5kW、流量比Ar:O
2=2:1(体積比)、基板温度300℃として形成した。
【0278】
続いて、上記構造のサンプルに、不純物元素として水素(
1H)を導入したサンプルAと、不純物元素としてアルゴン(Ar)を導入したサンプルBと、不純物導入を行わないサンプルCを作製した。なお、水素の導入は、イオンインプランテーション法により、加速電圧5keV、ドーズ量1.0×10
16/cm
2の条件で行った。また、アルゴンの導入は、イオンインプランテーション法により、加速電圧5keV、ドーズ量1.0×10
15/cm
2の条件で行った。
【0279】
<調査結果>
図25(A)に、サンプルA乃至サンプルCのHX−PESによる分析結果を示す。
図25(A)の横軸はバンドギャップ内の結合エネルギーを示しており、伝導帯下端(Ec)のエネルギーを0としている。また、
図25(A)は、得られたスペクトルを酸素原子の2p軌道の最大値で規格化し、結合エネルギーが0〜4eVの範囲を拡大して示している。
【0280】
図25(A)より、2〜3eV付近において、水素を導入したサンプルAとアルゴンを導入したサンプルBでは、不純物導入を行っていないサンプルCと比較して、信号が増大していることがわかる。上記酸化物半導体膜のバンドギャップは3.15eV程度であることから、2〜3eV付近に検出される信号は、バンドギャップ内の軌道、すなわち酸化物半導体膜内の欠陥準位と考えることができる。この結果から、サンプルA、およびサンプルBでは、2〜3eV付近の欠陥準位がイオンインプランテーション法による不純物導入により増加したと考えられる。
【0281】
一方、0.2〜0.5eV付近(領域909)では、サンプルCと比較して、サンプルAは信号が増大しているが、サンプルBはほぼ変わっていない。このことから、サンプルAではEc付近の浅い欠陥準位が多く形成されたと考えられる。
【0282】
前述の浅い準位の帰属を明らかにするために、HX−PES分析に用いたサンプルと同じ条件で作製したサンプルについて、SIMS分析を用いて、酸化物半導体膜における深さ方向の水素濃度プロファイルを調査した。
図25(B)に、サンプルA乃至サンプルCのSIMS分析結果を示す。
図25(B)の横軸はサンプル表面からの深さを示しており、深さ0nmが酸化物半導体膜の表面に相当する。よって、深さ0〜100nmまでが酸化物半導体膜に相当する。
【0283】
図25(B)より、サンプルAでは酸化物半導体膜の全域に渡って1.0×10
21atoms/cm
3程度の濃度で水素の存在が確認できている。一方、サンプルBとサンプルCの水素濃度プロファイルはほぼ一致していることから、アルゴンの導入時に酸化物半導体膜中に水素は導入されていないことがわかる。
【0284】
図25(A)および
図25(B)より、Ecから2〜3eV付近でHX−PESにより検出された信号はイオンインプランテーション時のダメージによる酸素欠損によって生じ、その欠陥準位密度はダメージの大きさにより決定されると推測される。
【0285】
一方、サンプルBとサンプルCはともに水素が5×10
18atoms/cm
3程度含まれているにもかかわらず領域909の信号はサンプルAほど増えていない。サンプルBとサンプルCに比べ、サンプルAは領域909の信号が強く検出されている。このことから、Ecから0.2〜0.5eV付近の位置に存在するエネルギー準位は、酸化物半導体膜中に生じた酸素欠損部位に水素が結合することで生じると推測される。