(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態を以下の順序で説明する。
A〜C.第1〜第3実施形態:
D.皮膜層の形成:
E.耐酸化性を評価する方法:
F.実験例:
F1.主体金具の耐酸化性と、皮膜層の有無との関係に関する実験例:
F2.主体金具の熱引き性能と、皮膜層の領域との関係に関する実験例:
F3.主体金具の先端面における位置と、酸化膜の厚さとに関する実験例:
F4.主体金具の耐酸化性と、皮膜層の厚さとの関係に関する実験例:
F5.主体金具の熱引き性能と、皮膜層の厚さとの関係に関する実験例:
G.変形例:
【0017】
A.第1実施形態:
図1は、本発明の一実施形態としてのスパークプラグ100を示す部分断面図である。以下では、
図1に示す軸線方向ODを、図面における上下方向と定義し、下側をスパークプラグの先端側、上側を後端側と定義して説明する。なお、
図1では、中心軸Oの右側にスパークプラグ100の外観を示し、軸線Oの左側にスパークプラグ100の断面を示している。
【0018】
スパークプラグ100は、内燃機関のエンジンヘッド200に取り付けられる装置であり、先端の電極間において火花放電を生じさせることによって、内燃機関の燃焼室内における混合気(燃焼ガス+空気)に着火させる。
【0019】
スパークプラグ100は、絶縁碍子10と、中心電極20と、接地電極30と、端子金具40と、主体金具50とを備えている。絶縁碍子10は、絶縁体として機能する部材であり、軸線方向ODに延びる軸孔12を有している。中心電極20は、軸線方向ODに延びた電極であり、絶縁碍子10の軸孔12内に挿入された状態で保持されている。主体金具50は、絶縁碍子10の外周を囲む筒状の部材であり、絶縁碍子10を内部に固定している。
【0020】
接地電極30は、一端が主体金具50の先端に固定され、他端が中心電極20と対向する電極である。端子金具40は、電力の供給を受けるための端子であり、中心電極20に電気的に接続されている。スパークプラグ100がエンジンヘッド200に取り付けられた状態で、端子金具40とエンジンヘッド200との間に高電圧が印加されると、中心電極20と接地電極30との間に火花放電が生じる。以下、各部材の詳細について説明する。
【0021】
絶縁碍子10は、セラミックスによって形成された筒状の絶縁体であり、軸線方向ODに延びる軸孔12が中心軸Oに沿って形成されている。本実施形態では、絶縁碍子10は、アルミナを焼成することによって形成されている。絶縁碍子10の軸線方向ODの略中央には、外径が最も大きな鍔部19が形成されており、鍔部19より後端側には、後端側胴部18が形成されている。鍔部19より先端側には、後端側胴部18よりも外径の小さな先端側胴部17が形成されている。先端側胴部17よりもさらに先端側には、先端側胴部17よりも外径の小さな脚長部13が形成されている。脚長部13の外径は、先端側に近づくにしたがって小さくなっている。スパークプラグ100が内燃機関のエンジンヘッド200に取り付けられた状態では、脚長部13は、内燃機関の燃焼室内に曝される。脚長部13と先端側胴部17との間には段部15が形成されている。
【0022】
中心電極20は、絶縁碍子10の後端側から先端側に向かって延びた棒状の部材であり、中心電極20の先端は、絶縁碍子10の先端側において露出している。中心電極20は、電極母材21の内部に芯材25が埋設された構造を有している。電極母材21は、インコネル600等(インコネルは登録商標)のニッケル合金によって形成されている。芯材25は、電極母材21よりも熱伝導性に優れる銅または銅を主体とする合金によって形成されている。絶縁碍子10の軸孔12内のうち、中心電極20の後端側には、シール体4及びセラミック抵抗3が設けられている。中心電極20は、シール体4及びセラミック抵抗3を介して、端子金具40に電気的に接続されている。
【0023】
主体金具50は、低炭素鋼材によって形成された筒状の金具であり、絶縁碍子10を内部に保持している。絶縁碍子10の後端側胴部18の一部から脚長部13にかけての部位は、主体金具50によって囲まれている。
【0024】
主体金具50の外周には、工具係合部51と、ネジ部52とが形成されている。工具係合部51は、スパークプラグレンチ(図示せず)が嵌合する部位である。主体金具50のネジ部52は、ネジ山が形成された部位であり、内燃機関のエンジンヘッド200の取付ネジ孔201に螺合する。スパークプラグ100は、主体金具50のネジ部52をエンジンヘッド200の取付ネジ孔201に螺合させて締め付けることによって、内燃機関のエンジンヘッド200に固定される。
【0025】
主体金具50の工具係合部51とネジ部52との間には、径方向外側に突き出たフランジ状の鍔部54が形成されている。ネジ部52と鍔部54との間のネジ首59には、環状のガスケット5が嵌挿されている。ガスケット5は、板体を折り曲げることによって形成されており、スパークプラグ100がエンジンヘッド200に取り付けられた際には、鍔部54の座面55と取付ネジ孔201の開口周縁部205との間で押し潰されて変形する。このガスケット5の変形によって、スパークプラグ100とエンジンヘッド200との隙間が封止され、取付ネジ孔201を介した燃焼ガスの漏出が抑制される。
【0026】
主体金具50の工具係合部51より後端側には、薄肉の加締部53が形成されている。また、鍔部54と工具係合部51との間には、薄肉の座屈部58が形成されている。主体金具50の工具係合部51から加締部53にかけての内周面と、絶縁碍子10の後端側胴部18の外周面との間には、円環状のリング部材6,7が挿入されている。さらに両リング部材6,7の間には、タルク(滑石)9の粉末が充填されている。スパークプラグ100の製造工程において、加締部53が内側に折り曲げられて加締められると、座屈部58は、圧縮力の付加に伴って外向きに変形(座屈)するとともに、主体金具50と絶縁碍子10とが固定される。タルク9は、この加締め工程の際に圧縮され、主体金具50と絶縁碍子10との間の気密性が高められる。
【0027】
主体金具50の内周面に形成された段部56と、絶縁碍子10の段部15との間には、環状の板パッキン8が設けられている。主体金具50と絶縁碍子10との間の気密性は、この板パッキン8によっても確保され、燃焼ガスの漏出が抑制される。
【0028】
接地電極30は、主体金具50の先端に接合された電極であり、接地電極30の先端部33は、中心電極20の先端と対向している。接地電極30は、耐腐食性の優れた合金によって形成されていることが好ましく、本実施形態では、接地電極30は、インコネル600またはインコネル601等(「インコネル」は登録商標)のニッケルまたはニッケルを主成分とする合金によって形成されている。接地電極30と主体金具50との接合は、例えば、溶接によって行なわれる。
【0029】
端子金具40には、プラグキャップ(図示せず)を介して高圧ケーブル(図示せず)が接続される。上述したように、この端子金具40とエンジンヘッド200との間に高電圧が印加されると、接地電極30と中心電極20との間に火花放電が生じる。
【0030】
図2は、スパークプラグ100の先端近傍を拡大して示す説明図である。
図2(A)は、スパークプラグ100を正面から示しており、
図2(B)は、スパークプラグ100を先端側から示している。ただし、
図2(B)においては、便宜的に、接地電極30が主体金具50から取り外された状態で描かれている。また、
図2(A)及び
図2(B)において、斜線のハッチングが施された領域は、後述する皮膜層70が形成されている領域である。後述する
図3及び
図5においても同様である。
【0031】
本実施形態では、主体金具50のネジ部52の先端52aから、主体金具50の先端50aまでの長さLは、3mm以上である。一般的に、スパークプラグ100がエンジンヘッド200に取り付けられた状態では、主体金具50のネジ部52の先端52aから、エンジンヘッド200の取付ネジ孔201の先端201aまでの軸線方向ODに沿った長さは1mmである。このため、本実施形態のスパークプラグ100がエンジンヘッド200に取り付けられると、主体金具50の先端50aは、取付ネジ孔201から2mm以上突き出た状態となる。絶縁碍子10の先端部分は、この主体金具50の突き出た部分(以下では、拡張部分50eともいう。)に覆われた状態となる。したがって、カーボン(煤)や水滴等の異物は、主体金具50の拡張部分50eに遮られるので、異物が絶縁碍子10の表面に付着したり、異物が主体金具50と絶縁碍子10との隙間に侵入するのを抑制することができる。
【0032】
ただし、主体金具50の拡張部分50eは、内燃機関の燃焼室に晒されるため、高温になりやすく、また、エンジンヘッド200に接していないため、熱が引かれにくい。このため、主体金具50の拡張部分50eは、酸化しやすい傾向にある。そこで、本実施形態では、主体金具50の表面には、主体金具50の表面よりも耐酸化性の優れた皮膜層70が形成されている。
【0033】
具体的には、本実施形態では、皮膜層70は、主体金具50のうち、ネジ部52よりも軸線方向ODの先端側に位置する外周部61と、ネジ部52よりも軸線方向ODの先端側に位置する内周部62と、主体金具50の先端50aに位置する先端面63とに形成されている。したがって、本実施形態によれば、主体金具50の先端近傍の酸化を抑制することができる。
【0034】
皮膜層70は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)の少なくとも1種以上を含有し、クロム(Cr)、及び、アルミニウム(Al)を含有する材料によって形成されていることが好ましい。このようにすれば、主体金具50の表面よりも耐酸化性の優れた皮膜層70を実現することができる。また、皮膜層70は、上記の元素に加えて、希土類元素としてイットリウム(Y)を含有する材料によって形成されていることがさらに好ましい。このようにすれば、皮膜層70の耐酸化性をさらに向上させることができる。本実施形態では、皮膜層70は、ニッケル、コバルト、クロム、アルミニウム、及び、イットリウムを含有する材料によって形成されている。
【0035】
皮膜層70の厚さは、5μm以上60μm以下であることが好ましい。皮膜層70の厚さが5μm以上であれば、主体金具50の先端近傍の酸化を効果的に抑制することができるとともに、皮膜層70の厚さが60μm以下であれば、主体金具50の温度上昇を抑制することができるからである。本実験形態では、皮膜層70の厚さは、10μmである。皮膜層70の厚さを5μm以上60μm以下の範囲とする根拠については、後述する。
【0036】
なお、皮膜層70は、例えば、高速フレーム溶射(HVOF:High Velocity Oxygen Fuel)、プラズマ溶射、コールドスプレー法、エアロゾルデポジション法(Aerosol Deposition method)等によって形成することができる。
【0037】
このように、第1実施形態によれば、主体金具50に皮膜層70を形成するので、主体金具50の先端近傍の酸化を抑制することができる。
【0038】
B.第2実施形態:
図3は、第2実施形態としてのスパークプラグ100bの先端近傍を拡大して示す説明図である。
図1に示した第1実施形態との違いは、主体金具50の外周部61及び内周部62のうち、ネジ部52の先端52aから1mm未満の領域では、主体金具50の表面が露出している点であり、他の構成は第1実施形態と同じである。
【0039】
図4は、第2実施形態の効果を第1実施形態と比較して示す説明図である。
図4(A)は、第1実施形態の主体金具50の先端近傍の断面図を示しており、
図4(B)は、第2実施形態の主体金具50の先端近傍の断面図を示している。
図4(A)に示す第1実施形態では、主体金具50の外周部61及び内周部62のうち、ネジ部52の先端52aから1mm未満の領域にも皮膜層70が形成されている。したがって、第1実施形態の主体金具50の先端近傍では、皮膜層70によって主体金具50からの熱放射が抑制され、また、皮膜層70が断熱層となって混合気による冷却が遮られるため、高温になりやすい。
【0040】
これに対して、
図4(B)に示す第2実施形態では、主体金具50の外周部61及び内周部62のうち、ネジ部52の先端52aから1mm未満の領域には皮膜層70が形成されておらず、主体金具50の表面が露出している。このため、第2実施形態の主体金具50の先端近傍では、表面が露出している部分からの熱放射によって、主体金具50の熱がエンジンヘッド200に奪われるとともに、主体金具50の表面が露出している部分が、新規の混合気によって冷却される。この結果、主体金具50の温度上昇が抑制される。
【0041】
このように、第2実施形態によれば、第1実施形態と同様に、主体金具50の先端近傍の酸化を抑制することができるとともに、第1実施形態に比べて、主体金具50の温度上昇を抑制することができる。さらに、第1実施形態に比べて、皮膜層70が形成されている領域が狭いので、加工時間及び材料費を低減することができ、低コスト化を実現することができる。
【0042】
C.第3実施形態:
図5は、第3実施形態としてのスパークプラグ100cの先端近傍を拡大して示す説明図である。
図3に示した第2実施形態との違いは、皮膜層70が、主体金具50の外周部61と内周部62と先端面63とのうちの特定の一部の領域に形成されている点と、接地電極30の表面には皮膜層70が形成されていないという点であり、他の構成は第2実施形態と同じである。
【0043】
図5(B)に示すように、主体金具50を先端面63側から見て、中心電極20を円座標の中心の位置と定義し、接地電極30の主体金具50に接続されている部分の断面における重心Gを、円座標の0度の位置と定義する。この場合において、主体金具50のうち、円座標の±45度以内の範囲は、高温の接地電極30に近い領域であるため、他の領域に比べて酸化しやすい傾向にある。
【0044】
そこで、本実施形態では、皮膜層70は、主体金具50のうち、少なくとも円座標の±45度以内の範囲に形成されている。すなわち、本実施形態では、主体金具50のうち、最も酸化しやすい領域に皮膜層70が形成されている。したがって、本実施形態によれば、主体金具50の先端近傍の酸化を効果的に抑制することができる。
【0045】
さらに、本実施形態では、接地電極30の表面は、当該接地電極30を構成する母材が露出している、すなわち、接地電極30には皮膜層70が形成されていない。したがって、母材が露出している部分からの熱放射によって、接地電極30の温度上昇が抑制される。なお、本実施形態では、接地電極30の母材は、ニッケル合金によって形成されているため、皮膜層70が形成されていなくても、十分な耐酸化性を有している。
【0046】
このように、第3実施形態によれば、主体金具50の先端近傍の酸化を効果的に抑制することができるとともに、主体金具50及び接地電極30の温度上昇を抑制することができる。さらに、第1及び第2実施形態に比べて、皮膜層70が形成されている領域が狭いので、加工時間及び材料費を低減することができ、低コスト化を実現することができる。
【0047】
D.皮膜層70の形成:
図6は、主体金具50に対して皮膜層70を形成する様子を示す説明図である。
図6(A)は、主体金具50を正面から示しており、
図6(B)は、主体金具50を先端側から示している。皮膜層70を形成する工程に先立って、まず、主体金具50の先端に接地電極30を溶接する。次に、転造によってネジ部52を形成する。次に、主体金具50及び接地電極30に対してめっき処理を行なう。なお、めっき処理後に、皮膜層70の溶射を行なう箇所の少なくとも一部のめっき層を除去(切削又は剥離液によって剥離)してもよく、また、めっき処理の際に、皮膜層70の溶射を行なう箇所の少なくとも一部にマスキングを行なってもよい。なお、上記の実施形態のように、めっき処理は省略してもよい。
【0048】
次に、
図6(A)に示すように、主体金具50を回転させながら、皮膜層70の原材料を溶射する。溶射を行なう際には、主体金具50を少し傾けてもよい。なお、皮膜層70を、第3実施形態に示した領域に対して形成する場合には、
図6(B)に示すように、皮膜層70を形成しない領域に対してマスキング75を行なった上で、溶射を行なえばよい。
【0049】
E.耐酸化性を評価する方法:
皮膜層70や主体金具50の表面の耐酸化性については、酸化試験を行なうことによって評価をすることができる。具体的には、皮膜層70が形成されている領域と、皮膜層70が形成されておらず、表面が露出している領域とを有する主体金具50を用意する。そして、この主体金具50を電気炉に入れて、大気雰囲気にて、所定の時間、所定の温度で加熱する。その後、電気炉から主体金具50を取り出して、徐々に冷却する。この酸化試験の結果、皮膜層70の上に形成された酸化膜(酸化層)の厚さの方が、主体金具50の表面に形成された酸化膜の厚さよりも薄ければ、皮膜層70の方が、主体金具50の表面よりも耐酸化性が高いと評価することができる。
【0050】
また、主体金具50の表面にめっき層(亜鉛めっきや、ニッケルめっき等)が形成され、その上に皮膜層70が形成されている場合においても、上記と同様の酸化試験を行なうことができる。具体的には、めっき層が露出している領域と、めっき層の上に皮膜層70が形成されている領域とを有する主体金具50に対して、酸化試験を行なう。この酸化試験の結果、めっき層が露出している領域ではめっき層が消失し、一方、皮膜層70の上には薄い酸化膜が形成されるといった結果となれば、皮膜層70は、めっき層よりも耐酸化性が高いと評価することができる。すなわち、層の変化した部分の厚さが小さい方が、耐酸化性が高いと評価することができる。ここで、層の変化した部分とは、めっき層の消失した部分や、皮膜層70の表面が酸化膜として変質した部分をいう。
【0051】
F.実験例:
F1.主体金具50の耐酸化性と、皮膜層70の有無との関係に関する実験例:
本実験例では、主体金具50の先端近傍に形成された皮膜層70が、主体金具50の耐酸化性に対してどのような影響を及ぼすのかについて調べた。また、本実験例では、ネジ部52の先端52aから先端面63までの距離Lと、主体金具50の先端近傍における耐酸化性との関係についても調べた。
【0052】
本実験例では、皮膜層70の有無及び皮膜層70が形成されている領域について、以下の4つのタイプのサンプルを用意した。
タイプ0:皮膜層なし
タイプ1:皮膜層あり(上記の第1実施形態と同じ領域に皮膜層あり)
タイプ2:皮膜層あり(上記の第2実施形態と同じ領域に皮膜層あり)
タイプ3:皮膜層あり(上記の第3実施形態と同じ領域に皮膜層あり)
そして、上記の4タイプのそれぞれについて、距離Lの異なる仕様のサンプルを用意した。なお、各サンプルの他の条件は以下のとおりである。
ネジ部52のネジ径:M12
ネジ部52の長さ:25.5mm
距離L:2.0〜7.0mm
皮膜層70の材料:CoNiCrAlY系
皮膜層70の厚さ:10μm
【0053】
上記のサンプルの主体金具50を水冷チャンバーに取り付け、主体金具50の先端近傍を大気中にてバーナーで2分間加熱して650℃とし、その後バーナー停止・成り行きで1分間冷却するサイクルを2000回繰り返した。その後、サンプルを切断して主体金具50の表面における酸化膜の発生の有無を調べた。なお、このバーナーによる加熱と冷却とを繰り返す試験を、以下では「冷熱試験」とも呼ぶ。
【0054】
図7は、冷熱試験の結果を表形式で示す説明図である。本実験例では、酸化膜が発生した場合を「B」で示し、酸化膜が発生しなかった場合を「A」で示した。この
図7によれば、皮膜層が形成されていないタイプ0のサンプルのうち、距離Lが2.5mm以下のサンプルでは酸化膜が発生せず、距離Lが3mm以上のサンプルでは、酸化膜が発生したことが理解できる。
【0055】
皮膜層70が形成されていないタイプ0のサンプルのうち、距離Lが3mm以上のサンプルにおいてのみ酸化膜が発生した理由は、距離Lが3mm以上である、すなわち、主体金具50に拡張部分50eが存在すると、上述したように、主体金具50の熱引き性能が低下して高温となり、耐酸化性が低くなるためであると考えられる。
【0056】
一方、皮膜層70が形成されているタイプ1、2、3のサンプルでは、距離Lに関わらず、酸化膜が発生しなかったことが理解できる。以上より、皮膜層70が形成されていれば、距離Lが3mm以上であっても、すなわち、主体金具50に拡張部分50eが存在していても、耐酸化性が向上し、酸化膜の発生が抑制されたことが理解できる。
【0057】
F2.主体金具50の熱引き性能と、皮膜層70の領域との関係に関する実験例:
本実験例では、皮膜層70が形成されている領域と、主体金具50の先端近傍における熱引き性能との関係を調べた。使用したサンプルは、上記の実験例と同じである。
【0058】
本実験例では、エンジンの実機(1.3L、DOHC(ダブルオーバーヘッドカムシャフト))にサンプルを取り付けて、全開スロットル、6000rpmの条件でエンジンを動作させた。そして、接地電極30の先端の温度が900℃になったときの、主体金具50の温度を測定した。主体金具50の温度の測定は、主体金具50のうち、接地電極30が接続されている部位の近傍に対して行なった。なお、このエンジンの実機を用いた試験を、以下では「実機試験」とも呼ぶ。
【0059】
図8は、接地電極30の先端の温度が900℃になったときの、主体金具50の先端近傍の温度を示す説明図である。なお、
図8には、距離Lが3mmであるサンプルの結果と、距離Lが5mmであるサンプルの結果とが示されている。
【0060】
この
図8によれば、タイプ1のサンプル(第1実施形態)よりも、タイプ2のサンプル(第2実施形態)の方が熱引き性能が高く、タイプ2のサンプル(第2実施形態)よりもタイプ3のサンプル(第3実施形態)のほうが熱引き性能が高いことが理解できる。すなわち、皮膜層70が形成されている領域が少ないほど、熱引き性能が高くなることが理解できる。なお、皮膜層70が形成されていないタイプ0のサンプルの熱引き性能が最も高いが、耐酸化性については、上述したように、タイプ1〜3のサンプルの方が優れている。
【0061】
F3.主体金具50の先端面63における位置と、酸化膜の厚さとに関する実験例:
本実験例では、主体金具50の先端面63のうち、どの領域において酸化膜が形成されやすいのかについて調べた。具体的には、
図5(B)に示すように、接地電極30が接続されている箇所を円座標の0度の位置として定義した場合における角度と、主体金具50の先端面63に形成される酸化膜の厚さとの関係について調べた。
【0062】
本実験例では、皮膜層70が形成されていない以下の条件のテストプラグをエンジンの実機(1.3L、DOHC(ダブルオーバーヘッドカムシャフト))に取り付け、全開スロットル運転(2分間、6000rpm)と、アイドル運転(1分間、1000rpm)とを交互に繰り返し、100時間経過後に、主体金具50の先端面63に形成された酸化膜の厚さを観察した。
テストプラグ:
ネジ部52のネジ径:M12
ネジ部52の長さ:25.5mm
距離L:5.0mm
皮膜層70:なし
【0063】
図9は、主体金具50の先端面63の円座標における位置と、酸化膜の厚さとの関係をグラフ形式で示す説明図である。この
図9によれば、主体金具50の先端面63のうち、接地電極30が接続されている位置(0度)に近いほど、形成された酸化膜が厚く、接地電極30が接続されている位置(0度)から離れるほど、形成された酸化膜が薄くなることが理解できる。具体的には、円座標の±45度の範囲において、酸化膜が形成されやすいことが理解できる。したがって、皮膜層70は、少なくとも円座標の±45度の範囲に形成されていることが好ましいといえる。
【0064】
F4.主体金具50の耐酸化性と、皮膜層70の厚さとの関係に関する実験例:
本実験例では、皮膜層70の厚さが、主体金具50の耐酸化性に対してどのような影響を及ぼすのかについて調べた。具体的には、本実験例では、皮膜層70の厚さの異なる複数のサンプルを用意し、上記と同様の冷熱試験を行なった。ただし、本実験例の冷熱試験は、主体金具50の先端近傍を700℃まで加熱するという、より厳しい条件下で行なわれた。なお、本実験例で用いたサンプルは、タイプ2であり、距離Lは、5mmである。
【0065】
図10は、皮膜層70の厚さと、酸化膜の発生の有無との関係を表形式で示す説明図である。本実験例では、酸化膜が発生した場合を「B」で示し、酸化膜が発生しなかった場合を「A」で示した。この
図10によれば、皮膜層の厚さが5μm以上であれば、酸化膜が発生せず、十分な耐酸化性が確保されることが理解できる。したがって、耐酸化性を向上させるためには、皮膜層の厚さは、5μm以上であることが好ましいといえる。
【0066】
F5.主体金具50の熱引き性能と、皮膜層70の厚さとの関係に関する実験例:
本実験例では、皮膜層70の厚さが、主体金具50の熱引き性能に対してどのような影響を及ぼすのかについて調べた。具体的には、本実験例では、皮膜層70の厚さの異なる複数のサンプルを用意し、上記と同様の実機試験を行なった。なお、本実験例で用いたサンプルは、タイプ2であり、距離Lは、3mm又は5mmの2種類である。
【0067】
図11は、皮膜層70の厚さと、主体金具50の先端近傍の温度との関係をグラフ形式で示す説明図である。この
図11によれば、皮膜層70が厚くなるほど、主体金具50の先端近傍の温度が高くなる、すなわち、熱引き性能が低下することが理解できる。具体的には、皮膜層70の厚さが60μmを超えると、温度上昇の傾きが大きくなることが理解できる。したがって、主体金具50の熱引き性能を向上させるためには、皮膜層の厚さは、60μm以下であることが好ましいといえる。
【0068】
G.変形例:
なお、この発明は上記の実施形態や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0069】
・変形例1:
上記実施形態において、主体金具50及び接地電極30の表面には、亜鉛めっきやニッケルめっき等によるめっき層が形成されていてもよく、皮膜層70は、そのめっき層の上に形成されていてもよい。この場合には、皮膜層70は、当該めっき層よりも耐酸化性が優れた材料によって形成されていればよい。めっき層が形成されている場合には、皮膜層70が形成されていない領域からはめっき層が露出することになる。また、主体金具50及び接地電極30の表面には、クロメート処理が施され、そのクロメート層の上に皮膜層70が形成されていてもよい。また、主体金具50及び接地電極30の表面の全てに、皮膜層70が形成されていてもよい。
【0070】
・変形例2:
上記実施形態では、皮膜層70は、ニッケル、コバルト、クロム、アルミニウム、及び、イットリウムを含有する材料によって形成されている。これに対して、変形例では、皮膜層70は、耐酸化性の優れた他の材料によって形成されていてもよい。例えば、皮膜層70を形成する材料は、イットリウム以外の他の希土類元素を含んでもよく、また、希土類元素を含まなくてもよい。また、皮膜層70を形成する材料は、ニッケルまたはコバルトのいずれか1種を含有しなくてもよい。
【0071】
・変形例3:
上記実施形態において、中心電極20と接地電極30とのそれぞれには、高融点の貴金属を主成分として形成された電極チップが取り付けられていてもよい。例えば、電極チップは、イリジウム(Ir)を主成分として、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、レニウム(Re)のうち、1種類あるいは2種類以上を添加したIr合金によって形成されていてもよい。
【0072】
本発明は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。