(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6035229
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】レール削正台車およびレール削正方法
(51)【国際特許分類】
E01B 31/17 20060101AFI20161121BHJP
【FI】
E01B31/17
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-240547(P2013-240547)
(22)【出願日】2013年11月21日
(65)【公開番号】特開2015-101820(P2015-101820A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2015年12月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】特許業務法人 インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100083839
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 泰男
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】田中 博文
【審査官】
須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−312101(JP,A)
【文献】
実開昭62−133701(JP,U)
【文献】
特開昭49−043295(JP,A)
【文献】
特公昭31−005044(JP,B1)
【文献】
特開平08−268276(JP,A)
【文献】
特開昭62−156403(JP,A)
【文献】
特開昭62−156401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01B 27/00−37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に周期的なレール凹凸が生じたレールの当該凹凸を除去するレール削正台車であって、
前記レール上を転走する前車輪及び後車輪と、前記レールに当接して凹凸を除去する砥石と、前記前車輪及び後車輪並びに砥石が取り付けられた車体と、
前記前車輪及び後車輪の軸間距離が前記周期的なレール凹凸の波長に合わせて前記レールの長手方向に沿って位置調整可能な軸距調整手段を備え、
前記砥石は、前記前車輪及び前記後車輪の間に配置されると共に、前記レールとの当接点が前記前車輪と前記レールの当接点と前記後車輪と前記レールの当接点を繋げた仮想線よりも前記車体側に位置することを特徴とするレール削正台車。
【請求項2】
請求項1に記載のレール削正台車において、
前記軸距調整手段は、砥石並びに前記前車輪及び前記後車輪を前記台車から分離して取り付ける梁に形成されることを特徴とするレール削正台車。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のレール削正台車において、
前記砥石は、複数配置されることを特徴とするレール削正台車。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のレール削正台車において、
前記砥石並びに前記前車輪及び前記後車輪は、前記台車の進行方向の左右に一対設けられ、前記砥石は、それぞれ独立して前記レールと当接することを特徴とするレール削正台車。
【請求項5】
周期的なレール凹凸が生じたレールの当該凹凸を除去するレール削正方法であって、
前記レール上を転走する前車輪及び後車輪と、前記レールに当接して凹凸を除去する砥石と、前記前車輪及び後車輪並びに砥石が取り付けられた車体とを用い、
前記前車輪及び後車輪の軸間距離を前記周期的なレール凹凸の波長に合わせて前記レールの長手方向に沿って位置調整する軸距調整手段を備え、
前記砥石を、前記前車輪及び前記後車輪の間に配置すると共に、前記レールとの当接点が前記前車輪と前記レールの当接点と前記後車輪と前記レールの当接点を繋げた仮想線よりも前記車体側に配置することを特徴とするレール削正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両が走行する鉄道軌道のレール凹凸を除去するレール削正台車及びレール削正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鉄道軌道のレール凹凸を除去してレールの軌道面を研削及び再型取りする方式として種々の方式が知られている。
【0003】
特許文献1に記載されたレール削正台車は、モータによって回転駆動される少なくとも1つの砥石車の構体から構成される少なくとも1つの研削ユニットからなり、各構体が直線的に動くことができる対応する支持体に取り付けられ、かくして砥石車を研削されるべきレールの表面に向離させる研削ユニットを形成し、各砥石車の軸線が長手方向軸線に対して垂直な平面内に置かれ、各支持体がレールに関連して横方向にフレームに関連して支持体自体を移動させる並進運動手段によりフレームに独立して取り付けられ、そして各支持体が少なくとも1つの支持ローラおよびこの支持体をフレームに接続し、かつこの支持ローラに対応する研削ユニットの直ぐ近くにレールの1側に対して当てる休止手段からなるという構成を備えている。
【0004】
このようなレール削正台車によれば、レールに対してレール削正台車を簡単な手段で案内することができ、トロリの脱線の危険を抑制することができると共に、より正確なレール凹凸の除去を行うことでレールの軌道面を研削および再型取りすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−106203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した特許文献に記載されたレール削正装置は、凹凸の波長が1から3mといった比較的長い波長である所謂レール波状曲りが生じている場合には、これを除去するために数十パス程度という通常よりも多くの削正パス数が必要となることに加え、このパス数を多くした場合であっても凹凸を完全に除去することができないという問題があった。
【0007】
このレール波状曲りが生じたレールは、レール波状曲りの度合いが著しい場合にはレール上を鉄道車両が走行すると通常よりも大きな輪重変動を引き起こし、走行安全性上の問題や地盤振動などを引き起こすことが知られている。このレール波状曲りは、レールの製造方法が鋼塊を圧延してレールを製造する際に、矯正ローラの位置や矯正ローラが鋼塊を押し付ける圧力などの製造条件によってレールに波長が1から3m程度の周期的な凹凸が生じるものであり、現在ではこのような問題を防止するために、レール製造時にレールの真直性に関する基準が定められて顕著なレール波状曲りが生じたレールは出荷されないように見直されている。しかし、当該真直性の基準の制定前に製造したレールについては、レール波状曲りが生じたものが残存しており、これを除去する必要がある。また、レール波状曲りが生じたレール自体を真直性の基準を満たしたレールと交換することも考えられるが、レール波状曲りが生じたレールの数が多数である場合には、交換費用が増大してしまう。
【0008】
そこで、本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、波長の長い周期的なレール凹凸所謂レール波状曲りが生じたレールについて、レール自体の交換や多数の削正パスを必要とすることなく、その凹凸を除去することができるレール削正台車及びレール削正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るレール削正台車は、長手方向に周期的なレール凹凸が生じたレールの当該凹凸を除去するレール削正台車であって、前記レール上を転走する前車輪及び後車輪と、前記レールに当接して凹凸を除去する砥石と、前記前車輪及び後車輪並びに砥石が取り付けられた車体と、前記前車輪及び後車輪の軸間距離が前記周期的なレール凹凸の波長に合わせて前記レールの長手方向に沿って位置調整可能な軸距調整手段を備え、前記砥石は、前記前車輪及び前記後車輪の間に配置されると共に、前記レールとの当接点が前記前車輪と前記レールの当接点と前記後車輪と前記レールの当接点を繋げた仮想線よりも前記車体側に位置することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るレール削正台車において、前記軸距調整手段は、砥石並びに前記前車輪及び前記後車輪を前記台車から分離して取り付ける梁に形成されると好適である。
【0011】
また、本発明に係るレール削正台車において、前記砥石は、複数配置されることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係るレール削正台車において、前記砥石並びに前記前車輪及び前記後車輪は、前記台車の進行方向の左右に一対設けられ、前記砥石は、それぞれ独立して前記レールと当接することが好ましい。
【0013】
また、本発明に係るレール削正方法は、周期的なレール凹凸が生じたレールの当該凹凸を除去するレール削正方法であって、前記レール上を転走する前車輪及び後車輪と、前記レールに当接して凹凸を除去する砥石と、前記前車輪及び後車輪並びに砥石が取り付けられた車体とを用い、前記前車輪及び後車輪の軸間距離を前記周期的なレール凹凸の波長に合わせて前記レールの長手方向に沿って位置調整する軸距調整手段を備え、前記砥石を、前記前車輪及び前記後車輪の間に配置すると共に、前記レールとの当接点が前記前車輪と前記レールの当接点と前記後車輪と前記レールの当接点を繋げた仮想線よりも前記車体側に配置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るレール削正台車及びレール削正方法は、周期的なレール凹凸が生じたレールの波長と前後の車輪の軸間距離を一致させて、砥石によってレール凹凸を除去するので、前後の車輪が凹凸の凹部を走行するときのみ砥石がレールを削正するので、少ないパス数で確実に波状曲りのような比較的波長の長いレール凹凸を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るレール削正台車の概要図。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係るレール削正台車の上面からみた概要図。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係るレール削正台車の削正手順を示す図。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係るレール削正台車の変形例を示す概要図。
【
図5】本発明の第2の実施形態に係るレール削正台車の概要図。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係るレール削正台車の概要図。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係るレール削正台車の変形例を示す概要図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0017】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係るレール削正台車の概要図であり、
図2は、本発明の第1の実施形態に係るレール削正台車の上面からみた概要図であり、
図3は、本発明の第1の実施形態に係るレール削正台車の削正手順を示す図であり、
図4は、本発明の第1の実施形態に係るレール削正台車の変形例を示す概要図である。
【0018】
図1に示すように、本実施形態に係るレール削正台車1は、波長λの周期的なレール凹凸が生じたレール2のレール凹凸を除去するレール削正台車である。なお、レール削正台車1の進行方向は例えば
図1に矢印に示すように紙面右側へ向かって走行する。
【0019】
レール削正台車1は、レール2上を転走する前車輪12と後車輪13と砥石14が軸距調整手段20を介して車体11に取り付けられている。
【0020】
軸距調整手段20は、前車輪12と後車輪13の軸間距離Lを調整することができるように、前車輪12及び後車輪13をレール2の延設方向に沿って位置調整自在に取り付ける部材である。また、軸距調整手段20には、付勢手段15を介して砥石14が取り付けられている。
【0021】
軸距調整手段20は、前車輪12と後車輪13の軸間距離Lを調整することができれば如何なる構成でも構わないが、例えば軸距調整手段20に0.1m程度の間隔で穿孔した孔にロックピンなどを用いて前車輪12と後車輪13を固定する構造を採用することができる。
【0022】
砥石14は、図示しないモータ等によって回転することでレール2に当接した場合にレール2の軌道面を削正するものである。
【0023】
また、砥石14は、前車輪12と後車輪13の間に配置されており、付勢手段15によってレール2側へ付勢されている。付勢手段15は、油圧や空気圧等の圧力を用いる他、電動アクチュエータやコイルバネなどの弾性体によって砥石14を上下に移動可能に付勢することができる。また、付勢手段15は、砥石14が前車輪12と後車輪13がそれぞれレール2と当接する当接点P1,P2を繋げた仮想線Xよりも常に車体11側に位置するように砥石14の位置を調整している。即ち、砥石14は、付勢手段15によってその鉛直方向の位置が所定の範囲で変動するが、その範囲が車体11から最も離れた状態で輪軸+車輪の半径/2よりもレール2に近づかない構成となっている。
【0024】
更に、
図2に示すように、レール2は左右一対に並設されており、夫々のレール2に対応するように左側前車輪12Lと左側後車輪13Lとの間に配置された砥石14Lと、右側前車輪12Rと右側後車輪13Rとの間に配置された砥石14Rとを備えている。また、左右の砥石14L,14Rは、夫々縁切りされて独立しており、その上下動は同期していない。左右のレール2はレール凹凸の位相及び振幅が夫々異なるため、このように左右の砥石14L,14Rが縁切りされることで、確実にレール2の削正作業を行うことができる。
【0025】
次に
図3を参照して本実施形態に係るレール削正台車1の削正手順について説明を行う。まず、周知のレール凹凸測定手段を用いて、レール凹凸の測定を行う。
【0026】
この測定は、例えば簡易式軌道検測装置(所謂トラックマスター)などの軌道変位検測装置によって直接的に検測することができるほか、軸箱加速度などによって間接的に把握することができる。この測定の結果、周期的な波長が比較的長い波状曲りが生じている箇所及びその周期的な波長を特定する。
【0027】
この検測結果に基づいて、レール削正台車1の前車輪12と後車輪13の軸間距離Lを検測結果から得られたレール凹凸の波長λに合わせる。このように軸間距離Lが波長λと一致しているので、
図3(a)に示すように、前車輪12と後車輪13はレール凹凸の周期に対応して夫々同位相で転走する。
【0028】
さらに、砥石14は、仮想線Xよりも常に車体11側に位置しているので、
図3(a)に示すように、前車輪12と後車輪13がレール凹凸の山部を転走する場合には、砥石14はレール2と当接しないことからレール2の削正を行わない。
【0029】
これに対し、
図3(b)に示すように、前車輪12と後車輪13がレール凹凸の谷部を転走する場合には、前車輪12と後車輪13の間にレール凹凸の山部が介在する形となり、砥石14が該山部と当接することでレール2の削正を行う。この時、砥石14は、付勢手段15によって付勢されているので、山部の突出量に応じてレール2に所定の付勢力を付与しつつも上方へ移動する。
【0030】
この結果、
図3(c)に示すように、レール2の山部が削正されて削正面2aが削り出される。一度の削正パスで適当な真直性が得られれば削正作業を終了することもできるが、更なる真直性向上のために
図3(d)に示すように削正作業を数パス行うことでレール2の真直性を向上させることができ、レール凹凸を確実に除去することができる。
【0031】
なお、本実施形態に係るレール削正台車1は、砥石14を左右に夫々1つずつ配置した場合について説明を行ったが、砥石14の数はこれに限らず、
図4(a)及び(b)に示すようにいずれの砥石14も仮想線Xよりも車体11側に配置するようにすれば、2個またはそれ以上配置しても構わない。あるいは、レール削正台車1そのものを複数配置しても構わない。
【0032】
[第2の実施形態]
以上説明した第1の実施形態に係るレール削正台車1は、車体11に軸距調整手段20を備える場合について説明を行った。次に説明する第2の実施形態に係るレール削正台車1´は、第1の実施形態に係るレール削正台車と異なる形態を有するレール削正台車について説明を行う。なお、上述した第1の実施形態の場合と同一又は類似する部材については、同一符号を付して説明を省略する。
【0033】
図5は、本発明の第2の実施形態に係るレール削正台車の概要図であり、
図6は、本発明の第2の実施形態に係るレール削正台車の概要図であり、
図7は、本発明の第2の実施形態に係るレール削正台車の変形例を示す概要図である。なお、
図5において、図の簡略化のため、台車部分を省略して記載した。
【0034】
図5に示すように、本実施形態に係るレール削正台車1´は、前車輪12を回転可能に取り付ける前輪軸12aと、後車輪13を回転可能に取り付ける後輪軸13aとをかけ渡すように基準梁21が取り付けられている。基準梁31は、台車から分離した部材であり、付勢手段15を介して砥石14が取り付けられている。
【0035】
なお、砥石14は、上述した第1の実施形態に係るレール削正台車と同様に、仮想線Xよりも台車側に位置するように取り付けられており、付勢手段15によって上下に運動可能に取り付けられている。
【0036】
また、砥石14の数は1個に限られず、
図5(b)に示すように2以上設置しても構わない。さらに、
図6に示すように、基準梁21は、左右に一対取り付けられており、砥石14は、剛な基準梁21に取り付けられているので、左右の砥石14が同期しておらず、確実に縁切りされている。
【0037】
図7(a)に示すように砥石14は、レール2の軌道面Tに対し水平に当接するように配置しても構わないし、(b)に示すように、複数配置した砥石14の角度を適宜変更して、斜め上方から当接するように配置しても構わない。
【0038】
以上説明した第2の実施形態に係るレール削正台車1´は、剛な基準梁21に砥石14を取り付けているので、左右に配置した砥石14が互いに同期することなく取り付けることができ、剛性が向上することによって、削正精度を向上させることができる。
【0039】
なお、第1及び第2の実施形態に係るレール削正台車は、走行用の動力及び削正作業用の動力を車体11に搭載した自走式であっても構わないし、別の車両によって牽引される牽引式であっても構わない。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0040】
1,1´ レール削正台車, 2 レール, 11 車体, 12 前車輪, 12a 前車軸, 13 後車輪, 13a 後車軸, 14 砥石, 15 付勢手段, 20 軸距調整手段, 21 基準梁, P1 前車輪の接点, P2 後車輪の接点, L 軸間距離, λ 波長, X 仮想線。