(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
数平均繊維幅が2〜1000nmの微細セルロース繊維を含有する微細セルロース繊維含有分散液を工程基材上に塗工する塗工工程と、工程基材上の微細セルロース繊維含有分散液を乾燥させて微細セルロース繊維含有シートを形成するシート形成工程とを有し、
前記微細セルロース繊維含有分散液として、セルロース繊維濃度が1.5〜7.5質量%、JIS K7117−1に従い、B型粘度計を用いて23℃で測定した粘度が3800〜30000mPa・sのものを用いる、微細セルロース繊維含有シートの製造方法。
塗工工程の前に、塗工開始の10分前から塗工開始までの間、微細セルロース繊維含有分散液を攪拌する攪拌工程を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の微細セルロース繊維含有シートの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<微細セルロース繊維含有シート>
本発明における微細セルロース繊維含有シートは、少なくとも微細セルロース繊維を含有するシートである。
微細セルロース繊維含有シートの厚さは特に制限されるものではないが、製造の安定性、強度の点からは、5μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましく、80μm以上であることがさらに好ましい。
また、微細セルロース繊維含有シートの厚さは、生産性、均一性点からは、1mm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましく、250μm以下であることが特に好ましい。
【0009】
(微細セルロース繊維)
微細セルロース繊維は、通常製紙用途で用いるパルプ繊維よりもはるかに細く且つ短いI型結晶構造のセルロース単繊維の複数本より構成された繊維である。
微細セルロース繊維がI型結晶構造を有していることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14〜17°付近と2θ=22〜23°付近の2箇所の位置に典型的なピークを有することで同定することができる。
微細セルロース繊維の、X線回折法によって求められる結晶化度は、好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上、さらに好ましくは70%以上である。結晶化度が前記下限値以上であれば、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求めることができる(Segalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0010】
[繊維幅]
微細セルロース繊維は、電子顕微鏡で観察して求めた平均繊維幅が2〜1000nmのセルロースである。微細セルロース繊維の平均繊維幅は2〜200nmが好ましく、2〜100nmがより好ましい。微細セルロース繊維の平均繊維幅が前記上限値を超えると、微細セルロース繊維としての特性(高強度や高剛性、高寸法安定性、樹脂と複合化した際の高分散性、透明性)を得ることが困難になる。微細セルロース繊維の平均繊維幅が前記下限値未満であると、セルロース分子として水に溶解してしまうため、微細セルロース繊維としての特性(高強度や高剛性、高寸法安定性)を得ることが困難になる。
【0011】
微細セルロース繊維の電子顕微鏡観察による平均繊維幅の測定は以下のようにして行う。微細セルロース繊維含有スラリーを調製し、該スラリーを親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストして透過型電子顕微鏡(TEM)観察用試料とする。幅広の繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面の操作型電子顕微鏡(SEM)像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍、20000倍、50000倍あるいは100000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線Xと垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記のような電子顕微鏡観察画像に対して、直線Xに交錯する繊維、直線Yに交錯する繊維の各々について少なくとも20本(すなわち、合計が少なくとも40本)の幅(繊維の短径)を読み取る。こうして上記のような電子顕微鏡画像を少なくとも3組以上観察し、少なくとも40本×3組(すなわち、少なくとも120本)の繊維幅を読み取る。このように読み取った繊維幅を平均して平均繊維幅を求める。
【0012】
微細セルロース繊維の平均繊維幅が200nm以下である場合、微細セルロース繊維の最大繊維幅は1000nm以下が好ましく、250nm以下がより好ましく、50nm以下がさらに好ましい。微細セルロース繊維の最大繊維幅が前記上限値以下であれば、エマルション樹脂と混ぜ合わせて得た複合材料の強度が高く、また、複合材料の透明性を確保しやすいため、透明用途に好適である。
【0013】
[繊維長]
本発明における微細セルロース繊維の平均繊維長は0.5μm〜1000μmが好ましく、5μm〜800μmがより好ましく、10μm〜600μmが特に好ましい。平均繊維長が0.5μm未満になると、微細セルロース繊維含有シートを形成しにくくなり、1000μmを超えると、微細セルロース繊維のスラリー粘度が非常に高くなり、取り扱い性が低下する。
繊維長は、前記平均繊維幅を測定する際に使用した電子顕微鏡観察画像を解析することにより求めることができる。すなわち、上記のような電子顕微鏡観察画像に対して、直線Xに交錯する繊維、直線Yに交錯する繊維の各々について少なくとも20本(すなわち、合計が少なくとも40本)の繊維長を読み取る。こうして上記のような電子顕微鏡画像を少なくとも3組以上観察し、少なくとも40本×3組(すなわち、少なくとも120本)の繊維長を読み取る。このように読み取った繊維長を平均して平均繊維長を求める。
【0014】
[軸比]
本発明における微細セルロース繊維の平均軸比は100〜10000の範囲であることが好ましい。平均軸比が100未満であると、微細セルロース繊維含有シートを形成しにくくなるおそれがあり、平均軸比が10000を超えると、微細セルロース繊維含有分散液の粘度が高くなりすぎることがある。
前記軸比は、繊維幅及び繊維長を測定する際に使用した電子顕微鏡観察画像を解析することにより求めることができる。すなわち、上記のような電子顕微鏡観察画像に対して、直線Xに交錯する繊維、直線Yに交錯する繊維の各々について少なくとも20本(すなわち、合計が少なくとも40本)の繊維幅、繊維長を読み取って、各々の繊維の軸比(繊維長/繊維幅)を求める。こうして上記のような電子顕微鏡画像を少なくとも3組以上観察し、少なくとも40本×3組(すなわち、少なくとも120本)の繊維の軸比を求める。このように求めた軸比の平均値を求める。
【0015】
[微細セルロース繊維の製造方法]
微細セルロース繊維の製造方法には特に制限はないが、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、超音波ホモジナイザーなどの機械的作用を利用する湿式粉砕でセルロース原料を細くする方法が好ましい。
また、セルロース原料を微細化する前に、解繊をしやすくするために、化学修飾や化学処理を施してもよい。
【0016】
セルロース原料としては、セルロースを含むものであり、製紙用パルプ、コットンリンターやコットンリントなどの綿系パルプ、麻、麦わら、バガスなどの非木材系パルプ、ホヤや海草などから単離されるセルロースなどが挙げられる。これらの中でも、入手のしやすさという点で、製紙用パルプが好ましい。製紙用パルプとしては、広葉樹クラフトパルプ(晒クラフトパルプ(LBKP)、未晒クラフトパルプ(LUKP)、酸素漂白クラフトパルプ(LOKP)など)、針葉樹クラフトパルプ(晒クラフトパルプ(NBKP)、未晒クラフトパルプ(NUKP)、酸素漂白クラフトパルプ(NOKP)など)、サルファイトパルプ(SP)、ソーダパルプ(AP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ、楮、三椏、麻、ケナフ等を原料とする非木材パルプ、古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。これらの中でも、微細セルロース繊維の結晶化度を容易に70%以上にできることから、化学パルプが好ましい。さらに、化学パルプの中でも、繊維長を容易に短くできる点では、広葉樹クラフトパルプがより好ましい。
セルロース原料は1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0017】
化学処理の方法は、特に限定しないが、例えば、下記(a)〜(g)から選ぶことが可能である。(a)〜(f)の処理では、セルロースをアニオン化し、(g)の処理では、セルロースをカチオン化する。これにより、セルロース同士の電気的反発性を高めたり、分子量を低下させたりして、解繊性を高める。
(a)無水マレイン酸等の、カルボン酸系化合物による処理
(b)リン酸等の、リン原子を含むオキソ酸またはその塩による処理
(c)オゾンによる処理
(d)酵素による処理
(e)2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカルによる処理
(f)硫酸による処理
(g)カチオン化剤による処理
化学処理にて処理したセルロースを分散媒中で微細化し、解繊して、微細セルロース繊維を含む微細セルロース繊維分散液を得ることができる。解繊に際しては、公知の粉砕装置を用いればよい。
【0018】
化学修飾は、セルロース中の水酸基が化学修飾剤と反応して化学修飾されたものである。
化学修飾によって導入される官能基としては、カルボキシ基、アセチル基、硫酸基、スルホン酸基、アクリロイル基、メタクリロイル基、プロピオニル基、プロピオロイル基、ブチリル基、2−ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、ナフトイル基、ニコチノイル基、イソニコチノイル基、フロイル基、シンナモイル基等のアシル基、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアノイル基等のイソシアネート基、メチル基、エチル基、プロピル基、2−プロピル基、ブチル基、2−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基等のアルキル基、オキシラン基、オキセタン基、チイラン基、チエタン基等が挙げられる。
【0019】
セルロースの化学修飾は、通常の方法を採ることができる。すなわち、セルロースを化学修飾剤と反応させることによって化学修飾することができる。必要に応じて、溶媒、触媒を用いたり、加熱、減圧等を行ったりしてもよい。
化学修飾剤の種類としては、酸、酸無水物、アルコール、ハロゲン化試薬、アルコール、イソシアナート、アルコキシシラン、オキシラン(エポキシ)等の環状エーテルが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
酸としては、例えば、酢酸、アクリル酸、メタクリル酸、プロパン酸、ブタン酸、2−ブタン酸、ペンタン酸等が挙げられる。
【0020】
化学修飾を行った後には、反応を終結させるために水で充分に洗浄することが好ましい。未反応の化学修飾剤が残留していると、後で着色の原因になったり、樹脂と複合化する際に問題となったりすることがある。水で充分に洗浄した後、さらにアルコール等の有機溶媒で置換することが好ましい。この場合、セルロースをアルコール等の有機溶媒に浸漬しておくことで置換される。
【0021】
微細セルロース繊維含有シートには、エマルション樹脂が含まれてもよい。微細セルロース繊維含有シートにエマルション樹脂が含まれると、繊維と樹脂とを含む複合材料となる。
エマルション樹脂とは、分散媒中で乳化した、粒子径が0.001〜10μmの天然樹脂あるいは合成樹脂の粒子である。エマルション樹脂を構成する樹脂の種類としては特に限定されないが、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステル重合体、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、ポリ(メタ)アクリロニトリル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、珪素樹脂、ジアリルフタレート樹脂等の前駆体、およびこれらを構成するモノマーやオリゴマー等の樹脂エマルション、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、(メタ)アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、スチレン−ブタジエン−メチルメタクリレート共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体等が挙げられる。また、後乳化法によってエマルション化したポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等であってもよい。これらのエマルション樹脂は2種類以上含有しても構わない。
【0022】
微細セルロース繊維とエマルション樹脂の配合比は特に限定されず、エマルション樹脂含有量は、微細セルロース繊維100質量部に対して500質量部未満であることが好ましく、1〜100質量部であることがより好ましく、2〜50質量部であることがさらに好ましい。エマルション樹脂含有量が前記下限値以上であれば、複合材料として充分に機能し、前記上限値以下であれば、下記記載の工程基材からの剥離性の低下を防止できる。微細セルロース繊維とエマルション樹脂とを混合する方法としては、微細セルロース繊維含有分散液にエマルション樹脂を、攪拌装置により攪拌しながら投入する方法が挙げられる。攪拌装置としては、アジテーター、ホモミキサー、パイプラインミキサーなどを使用することができる。
【0023】
また、微細セルロース繊維含有シートには、必要に応じて、一般的な紙と同様に、サイズ剤、紙力増強剤、填料などが含まれても構わない。
【0024】
<微細セルロース繊維含有シートの製造方法>
本発明の微細セルロース繊維含有シートの製造方法は、微細セルロース繊維含有分散液を工程基材上に塗工する塗工工程と、工程基材上の微細セルロース繊維含有分散液を乾燥させて微細セルロース繊維含有シートを形成するシート形成工程とを有する。
【0025】
(塗工工程)
工程基材に塗工する微細セルロース繊維含有分散液は、微細セルロース繊維と分散媒と必要に応じてエマルション樹脂とを含有する液である。
分散媒としては、水、有機溶剤を使用することができるが、取り扱い性やコストの点から、水のみが好ましい。有機溶剤を使用する場合でも水と併用することが好ましい。
水と併用する有機溶剤としては、アルコール系溶剤(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン等)、エーテル系溶剤(ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン等)、アセテート系溶剤(酢酸エチル等)等の極性溶剤が好ましい。
【0026】
微細セルロース繊維含有分散液におけるセルロース繊維濃度は1.5〜7.5質量%であり、2.0〜7.0質量%であることが好ましく、2.3〜6.0質量%であることがより好ましく、2.5〜5.0質量%であることが最も好ましい。ここで、セルロース繊維濃度とは、微細セルロース繊維とそれ以外のセルロース繊維の総量の濃度のことである。
セルロース繊維濃度が前記下限値未満であると、微細セルロース繊維含有シートを形成できないことがある。微細セルロース繊維含有シートを形成できた場合でも、厚みが不均一となり、また、厚みのある微細セルロース繊維含有シートを得ることは困難である。一方、セルロース繊維濃度が前記上限値を超えると、粘度が高くなりすぎて塗工が困難になる。
微細セルロース繊維含有分散液に含まれる全セルロース繊維に対する微細セルロース繊維含有割合は40質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、100質量%以上であることが最も好ましい。微細セルロース繊維含有割合が前記下限値以上であれば、微細セルロース繊維を充分に含む微細セルロース繊維含有シートを形成できる。
【0027】
微細セルロース繊維含有分散液の粘度は300〜30000mPa・sであり、500〜15000mPa・sが好ましく、1000〜10000mPa・sであることがより好ましい。本発明における粘度は、JIS K7117−1に従い、B型粘度計を用いて23℃で測定した値である。微細セルロース繊維含有分散液の粘度が前記下限値未満であると、微細セルロース繊維含有シートを形成できないことがある。微細セルロース繊維含有シートを形成できた場合でも、厚みが不均一となり、また、厚みのある微細セルロース繊維含有シートを得ることは困難である。一方、微細セルロース繊維の粘度が前記上限値を超えると、粘度が高くなりすぎて塗工が困難になる。
粘度は、セルロース繊維濃度、微細セルロース繊維の平均繊維幅、微細セルロース繊維の平均繊維長、微細セルロース繊維のアニオン基量またはカチオン基量、分散媒の種類等によって調整できる。例えば、セルロース繊維濃度を高くする程、微細セルロース繊維の平均繊維幅を小さくする程、微細セルロース繊維の平均繊維長が長くなる程、微細セルロース繊維のアニオン基量またはカチオン基量が多くなるほど、粘度は高くなる。このように、粘度は複数の要因によって決まるため、セルロース繊維濃度を前記範囲にするだけでは、前記粘度の範囲になるとは限らない。
【0028】
微細セルロース繊維含有分散液には、界面活性剤が含まれてもよい。微細セルロース繊維含有分散液に界面活性剤が含まれると、表面張力が低下して、工程基材に対する濡れ性を高めることができ、微細セルロース繊維含有シートをより容易に形成できる。
具体的に、微細セルロース繊維含有分散液の表面張力は25〜45mN/mであることが好ましく、27〜40mN/mであることがより好ましく、30〜38mN/mであることが最も好ましい。微細セルロース繊維含有分散液の表面張力が前記下限値以上であれば、水を保持しやすい界面活性剤による微細セルロース繊維含有分散液の乾燥性の低下を防ぐことができ、前記上限値以下であれば、工程基材に対する微細セルロース繊維含有分散液の濡れ性を充分に向上させることができる。
界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤を使用することができるが、セルロースがアニオン性である場合、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤が好ましく、セルロースがカチオン性である場合、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤が好ましい。
【0029】
微細セルロース繊維含有分散液を塗工する工程基材としては、シート、板または円筒体を使用することができる。工程基材の材質としては、樹脂または金属が使用され、より容易に微細セルロース繊維含有シートを製造できる点では、樹脂が好ましい。また、工程基材の表面は疎水性であってもよいし、親水性であってもよい。
樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、アクリル樹脂等が挙げられる。
金属としては、アルミニウム、ステンレス、亜鉛、鉄、真鍮等が挙げられる。
【0030】
微細セルロース繊維含有分散液を塗工する塗工機としては、例えば、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができ、厚みをより均一にできることから、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターが好ましく、ダイコーターがより好ましい。
塗工温度は、20〜45℃であることが好ましく、25〜40℃であることがより好ましく、27〜35℃であることがさらに好ましい。塗工温度が前記下限値以上であれば、微細セルロース繊維含有分散液を容易に塗工でき、前記上限値以下であれば、塗工中の分散媒の揮発を抑制できる。
【0031】
塗工工程の前には、塗工開始の10分前から塗工開始までの間、微細セルロース繊維含有分散液を攪拌する攪拌工程を有することが好ましい。微細セルロース繊維含有分散液は静置しておくと不均一になる傾向にあるが、該攪拌工程を有すれば、塗工直前の微細セルロース繊維含有分散液を均一化できる。そのため、均一な微細セルロース繊維含有シートがより得られやすくなる。
攪拌工程の具体例としては、微細セルロース繊維含有分散液塗工直前の微細セルロース繊維含有分散液を貯めておくタンクの内部を攪拌する方法が挙げられる。
【0032】
(シート形成工程)
シート形成工程における微細セルロース繊維含有分散液の乾燥方法としては、熱風または赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができ、加熱乾燥法と真空乾燥法を組み合わせてもよい。通常は、加熱乾燥法が適用される。
加熱乾燥法における加熱温度は40〜120℃とすることが好ましく、60〜105℃とすることがより好ましい。加熱温度を前記下限値以上とすれば、分散媒を速やかに揮発させることができ、前記上限値以下であれば、加熱に要するコストの抑制及びセルロースの熱による変色を抑制できる。
通常は、乾燥後に、得られた微細セルロース繊維含有シートを工程基材から剥離するが、工程基材がシートの場合には、微細セルロース繊維含有シートと工程基材とを積層したまま巻き取って、微細セルロース繊維含有シートの使用直前に微細セルロース繊維含有シートを工程基材から剥離してもよい。
【0033】
(作用効果)
上記製造方法では、工程基材に塗工する微細セルロース繊維含有分散液の濃度及び粘度の両方を高めにしているため、工程基材上での微細セルロース繊維含有分散液のはじきを抑制でき、さらに、乾燥の際の収縮を抑制できる。そのため、微細セルロース繊維含有分散液の塗工によって微細セルロース繊維含有シートを容易に製造でき、しかも微細セルロース繊維含有シートを容易に厚くできる。また、微細セルロース繊維含有シートの表面に凹凸が形成されにくいため、厚みを容易に均一化できる。
また、微細セルロース繊維含有分散液を工程基材上に塗工し、工程基材上の微細セルロース繊維含有分散液を乾燥させて微細セルロース繊維含有シートを形成する方法では、微細セルロース繊維含有分散液に含まれるほぼ全ての微細セルロース繊維を微細セルロース繊維含有シートの形成に利用できるため、歩留まりが高い。
【実施例】
【0034】
下記に実施例を示して、本発明方法をより具体的に説明するが、もちろん本発明の範囲はこれらにより限定されるものではない。また、例中の「部」および「%」は特に断らない限り、いずれも水を除いた「固形分質量部」及び「固形分質量%」のことである。
また、以下の例において、微細セルロース繊維含有分散液の粘度は、JIS K7117−1に従い、23℃にて、B型粘度計で測定した値である。
また、微細セルロース繊維含有分散液におけるセルロース繊維濃度は、JIS P8225に従って測定した値である。
また、微細セルロース繊維含有分散液の表面張力は、協和界面科学社製 SURFACETENSIOMETER CBVP−A3を用いて、試料温度が23℃の条件で測定した値である。
各例の微細セルロース繊維含有分散液の粘度、セルロース繊維濃度、表面張力は表1に示した。
【0035】
(
参考例1)
針葉樹晒クラフトパルプ(王子製紙社製、水分50%、JIS P8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)は550ml)を濃度7.0%になるように水を加え、ディスインテグレーターで離解して、パルプ分散液を得た。このパルプ分散液を熊谷理機工業株式会社製レファイナー(商品名「KRK高濃度ディスクリファイナー」)で解繊を行い、さらにエムテクニック社製高速分散機(商品名「クレアミクス11S」)にて30分微細化処理を行った。得られた解繊液の上澄み濃度は3.25%であった。また、上澄み中の微細セルロース繊維の幅は60〜700nmの範囲にあり、平均繊維幅は140nmであった。
上記解繊液の濃度が約1.5%になるように水を加えて希釈し、ホモミキサーで攪拌して微細セルロース繊維含有分散液を得た。微細セルロース繊維含有分散液の粘度は2200mPa・s、セルロース繊維濃度は1.50%であった。
【0036】
上記微細セルロース繊維含有分散液をダイヘッドより工程基材上に押出し、80℃で熱風乾燥した。工程基材として、ポリエチレンテレフタレートのフィルムを用いた。乾燥後、得られた微細セルロース繊維含有シートを工程基材から剥離し、坪量を測定したところ、27.5g/m
2であった。
【0037】
(実施例2)
参考例1にて解繊液の濃度が約3.1%になるように希釈し、ホモミキサーで攪拌して微細セルロース繊維含有分散液を得た。微細セルロース繊維含有分散液の粘度は4650mPa・s、セルロース繊維濃度は3.13%であった。この微細セルロース繊維含有分散液を
参考例1と同じようにシート化したところ、坪量は34.8g/m
2であった。
【0038】
(実施例3)
参考例1にて解繊液の濃度が約4.4%になるように希釈し、ホモミキサーで攪拌して微細セルロース繊維含有分散液を得た。微細セルロース繊維含有分散液の粘度は10500mPa・s、セルロース繊維濃度は4.40%であった。この微細セルロース繊維含有分散液を
参考例1と同じようにシート化したところ、坪量は65.0g/m
2であった。
【0039】
(実施例4)
参考例1にて解繊液の濃度が約5.0%になるように希釈し、ホモミキサーで攪拌して微細セルロース繊維含有分散液を得た。微細セルロース繊維含有分散液の粘度は15100mPa・s、セルロース繊維濃度は5.01%であった。この微細セルロース繊維含有分散液を
参考例1と同じようにシート化したところ、坪量は70.0g/m
2であった。
【0040】
(実施例5)
参考例1にて解繊液の濃度が約5.0%になるように希釈し、この希釈した解繊液100部(固形分換算)に、濃度5.0%に希釈したアニオン性ポリプロピレン樹脂エマルション(商品名「ハイテックP−5800」、東邦化学社製)50質量部(固形分換算)を混合して微細セルロース繊維含有分散液を得た。微細セルロース繊維含有分散液の粘度は15000mPa・s、セルロース繊維濃度は4.99%であった。この微細セルロース繊維含有分散液を
参考例1と同じようにシート化したところ、坪量は69.5g/m
2であった。
【0041】
(実施例6)
参考例1にて微細化処理の時間を60分としたほかは全て
参考例1と同じようにして微細セルロース繊維含有解繊液を得た。この解繊液の濃度が約3.1%になるように希釈し、ホモミキサーで攪拌して微細セルロース繊維含有分散液を得た。微細セルロース繊維含有分散液の粘度は5500mPa・s、セルロース繊維濃度は3.13%であった。この微細セルロース繊維含有分散液を
参考例1と同じようにシート化したところ、坪量は35.5g/m
2であった。
【0042】
(実施例7)
参考例1にて微細化処理の時間を15分としたほかは全て
参考例1と同じようにして微細セルロース繊維含有解繊液を得た。この解繊液の濃度が約3.1%になるように希釈し、ホモミキサーで攪拌して微細セルロース繊維含有分散液を得た。微細セルロース繊維含有分散液の粘度は3800mPa・s、セルロース繊維濃度は3.13%であった。この微細セルロース繊維含有分散液を
参考例1と同じようにシート化したところ、坪量は34.5g/m
2であった。
【0043】
(実施例8)
参考例1と同じようにして微細セルロース繊維含有解繊液を得た。解繊液の濃度が約3.1%になるように希釈し、ホモミキサーで攪拌して微細セルロース繊維含有分散液を得た。微細セルロース繊維含有分散液の粘度は4650mPa・s、セルロース繊維濃度は3.13%であった。この微細セルロース繊維含有分散液をシート化前に10分間ホモミキサーで攪拌し、
参考例1と同じようにシート化したところ、坪量は34.9g/m
2であった。
【0044】
(
参考例9)
NBKP(王子製紙社製、水分50%、JIS P8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)600ml)を、ナイアガラビーター(容量23リットル、東西精器社製)を用いて200分間叩解し、パルプ分散液(A)(パルプ濃度2%、叩解後の加重平均繊維長:1.61mm)を得た。
パルプ分散液(A)を脱水して濃度3%にし、0.1%硫酸でpH6に調整し、50℃になるまで水浴で温めた後、酵素optimaseCX7L(Genencor社製)をパルプ(固形分換算)に対して3%添加し、50℃、1時間撹拌しながら反応させて、酵素処理を施した。その後、パルプ分散液(A)を95℃以上、20分間加熱して、酵素を失活させて、酵素処理分散液(B)を得た。
酵素処理分散液(B)を約1.5%になるよう希釈し、高圧ホモジナイザー(NiroSoavi社「Panda Plus 2000」)で、120MPa×1パス処理を行い、高速回転型解繊機(エムテクニック社製「クレアミックス」)で
参考例1と同条件で処理し微細セルロース繊維含有分散液を得た。微細セルロース繊維含有分散液の粘度は950mPa・s、セルロース繊維濃度は1.50%であった。この微細セルロース繊維含有分散液を用いて、
参考例1と同様にシート化を行ったところ、坪量は28.2g/m
2であった。
【0045】
(実施例10)
実施例2にて得た微細セルロース繊維含有分散液に界面活性剤(花王株式会社製、商品名:エマルゲン709)を、表面張力が32mN/mになるように添加して微細セルロース繊維含有分散液を得た。微細セルロース繊維含有分散液の粘度は4100mPa・s、セルロース繊維濃度は3.13%であった。この微細セルロース繊維含有分散液を
参考例1と同じようにシート化したところ、坪量は34.7g/m
2であった。
【0046】
(実施例11)
実施例10にて得た微細セルロース繊維含有分散液に界面活性剤(花王株式会社製、商品名:エマルゲン709)を、表面張力が35mN/mになるように添加して微細セルロース繊維含有分散液を得た。微細セルロース繊維含有分散液の粘度は5700mPa・s、セルロース繊維濃度は3.13%であった。この微細セルロース繊維含有分散液でシート化を行ったところ、坪量は34.9g/m
2であった。
【0047】
(比較例1)
実施例9において高速解繊機での解繊を行わずに微細セルロース繊維含有分散液を得た。それ以外は
参考例1と同様にしてシート化しようとしたが、ダイ出口で原料が均一に吐出されずシート化できなかった。
【0048】
(比較例2)
参考例1にて希釈を行わずに微細セルロース繊維含有分散液を得た。微細セルロース繊維含有分散液の粘度は測定できなかった。また流動性がないため、ダイより吐出できず、シート化できなかった。
【0049】
(比較例3)
参考例1にて得た微細セルロース繊維含有分散液をセルロース繊維濃度が約0.6%になるまで希釈した。この分散液に、粘度調整剤(サンノプコ社製、商品名:SNシックナー621N)をB型粘度2500mPa・sになるように添加して微細セルロース繊維含有分散液を得た。このときのセルロース繊維濃度は0.51%であった。この微細セルロース繊維含有分散液を
参考例1と同じようにシート化したが、乾燥負荷が高く
参考例1の乾燥時間の3倍の乾燥時間がかかった。坪量は15.4g/m
2であった。
【0050】
(比較例4)
参考例1にて得た微細セルロース繊維含有分散液をセルロース繊維濃度が約5.2%になるまで希釈した。この分散液に、粘度調整剤(サンノプコ社製、商品名:SNシックナー621N)をB型粘度40000mPa・sになるように添加して微細セルロース繊維含有分散液を得た。このときのセルロース繊維濃度は4.99%であった。この微細セルロース繊維含有分散液を
参考例1と同じようにシート化を試みたが流動性がなく、ダイより吐出できず、シート化できなかった。
【0051】
【表1】
【0052】
実施例の微細セルロース繊維含有分散液をシート化することにより、厚みのある微細セルロース繊維含有シートを得ることができた。
濃度及び粘度が低すぎた比較例1の微細セルロース繊維含有分散液、濃度及び粘度が高すぎた比較例2の微細セルロース繊維含有分散液ではシート化できなかった。
粘度は発明範囲内であったが、濃度が低すぎた比較例3の微細セルロース繊維含有分散液では、厚みのある微細セルロース繊維含有シートを得ることができなかった。
濃度は発明範囲内であったが、粘度が高すぎた比較例3の微細セルロース繊維含有分散液では、シート化できなかった。