【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、銅化合物、錯化剤、及び特定の脂肪族ポリアルコールを含有するアルカリ性水溶液に、還元剤として特定の化合物を添加した水溶液によれば、この水溶液中に非導電性プラスチック成形品を浸漬するという簡単な方法によって、非導電性プラスチック成形品の表面に、ブリッジ析出のない均一な皮膜を形成できることを見出した。そして、この様にして形成される皮膜は、酸化銅を主成分とする良好な導電性を有する皮膜であって、しかも、高い耐酸性を有するものであり、硫酸銅めっき液等の強酸性のめっき液に浸漬した場合にも皮膜が侵されることがなく、均一で優れた外観を有する装飾めっき皮膜を形成することが可能となることを見出した。
【0010】
本発明は、この様な知見に基づいて、更に、研究を重ねた結果、完成されたものである。
【0011】
即ち、本発明は、下記の導電性皮膜形成浴、該導電性皮膜を形成する方法、及び非導電性プラスチック成形品への電気めっき方法を提供するものである。
1.(A)銅化合物、
(B)錯化剤、
(C)アルカリ金属水酸化物、
(D)炭素数2〜5の脂肪族ポリアルコール化合物、並びに
(E)基:−COOM(式中、Mは、H、アルカリ金属、又は基:−NH
4を示す。)を有する還元性化合物、及び炭素数6以上の還元性を示す糖類からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物
を含有する水溶液からなる導電性皮膜形成浴。
2.前記(E)成分として、基:−COOM(式中、Mは、H、アルカリ金属又は基:−NH
4を示す。)を有する還元性化合物、及び炭素数6以上の還元性糖類の両方を含有する項1に記載の導電性皮膜形成浴。
3.項1又は2に記載の導電性皮膜形成浴に、触媒物質を付与した非導電性プラスチック成形品を接触させることを特徴とする非導電性プラスチック成形品に導電性皮膜を形成する方法。
4.前記導電性皮膜形成浴中の溶存酸素を増加させた状態で、該導電性皮膜形成浴に非導電性プラスチック成形品を接触させる、項3に記載の導電性皮膜を形成する方法。
5.前記溶存酸素を増加させた状態にする手段が、酸素含有ガスをバブリングして供給する方法、又は酸化剤を添加する方法である、項4に記載の導電性皮膜を形成する方法。6.項3〜5のいずれかに記載の方法で導電性皮膜形成浴を用いて導電性皮膜を形成した後、電気めっきを行う工程を含む、非電導性プラスチック成形品への電気めっき方法。
【0012】
以下、本発明の導電性皮膜形成浴について具体的に説明する。
【0013】
本発明の導電性皮膜形成浴は、下記(A)〜(E)の成分を含有する水溶液からなるものである。
(A)銅化合物、
(B)錯化剤、
(C)アルカリ金属水酸化物、
(D)炭素数2〜5の脂肪族ポリアルコール化合物、並びに
(E)基:−COOM(式中、Mは、H、アルカリ金属、又は基:−NH
4を示す。)を有する還元性化合物、及び炭素数6以上の還元性を示す糖類からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物。
【0014】
なお、「基:−COOM(式中、Mは、H、アルカリ金属、又は基:−NH
4を示す。)を有する還元性化合物」については、「カルボキシル基含有還元性化合物」ということがある。
【0015】
以下、本発明の導電性皮膜形成浴に含有する各成分について具体的に説明する。
【0016】
(1)導電性皮膜形成浴
(A)銅化合物
本発明の導電性皮膜形成浴には、銅化合物を配合する必要がある。配合する銅化合物としては、水溶性の銅化合物であればよく、例えば、硫酸銅、塩化銅、炭酸銅、水酸化銅等を使用できる。
【0017】
銅化合物の含有量は、銅金属量として0.1〜5g/l程度とすることが好ましく、0.8〜1.2g/l程度とすることがより好ましい。
【0018】
銅金属量が少なすぎると、導電性皮膜の形成が不十分となり、次工程での電気めっきの析出が悪くなるので好ましくない。
【0019】
一方、銅金属量が多すぎると、銅濃度を上げた効果がほとんどなく、銅濃度に比例して必要な錯化剤量が増加するだけであり、経済的に不利であり、排水処理性も悪くなる。
【0020】
(B)錯化剤
本発明の導電性皮膜形成浴には、錯化剤を配合する必要がある。配合する錯化剤としては、銅イオンに対して有効な公知の錯化剤を使用することができ、例えば、ヒダントイン類、有機カルボン酸類等を用いることができる。
【0021】
ヒダントイン類の具体例としては、ヒダントイン、1−メチルヒダントイン、1,3−ジメチルヒダントイン、5,5−ジメチルヒダントイン、アラントイン等を挙げることができ、有機カルボン酸類の具体例としては、クエン酸、酒石酸、コハク酸、これらの塩類等を挙げることができる。
【0022】
錯化剤は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0023】
錯化剤の配合量は、2〜50g/l程度とすることが好ましく、10〜40g/l程度とすることがより好ましい。
【0024】
錯化剤の配合量が少なすぎると、錯化力が不十分となって銅の溶解力が不足するので好ましくない。
【0025】
一方、配合量が多すぎると、銅の溶解性は向上するが、経済的に不利であり、排水処理性も悪くなるので好ましくない。
【0026】
(C)アルカリ金属水酸化物
本発明の導電性皮膜形成浴には、アルカリ金属水酸化物を配合する必要がある。配合するアルカリ金属水酸化物としては、入手の容易性、コスト等の点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が適当である。
【0027】
アルカリ金属水酸化物は、一種単独又は適宜混合して用いることができる。
【0028】
アルカリ金属水酸化物の配合量は、10〜80g/l程度とすることが好ましく、30〜70g/l程度とすることがより好ましい。
【0029】
アルカリ金属水酸化物の配合量が少なすぎると、導電性皮膜の形成が不十分であり、次工程での電気めっきにおいて、低電流密度域のめっきの析出性が悪くなるので好ましくない。
【0030】
一方、アルカリ金属水酸化物の配合量が多すぎると、濃度の上昇に従って銅の溶解性が低下し、導電性皮膜形成浴の安定性が悪くなるので好ましくない。
【0031】
なお、該導電性皮膜形成浴では、上記した各成分の配合割合の範囲内において、めっき浴のpHを10.0〜14.0の範囲とすることが好ましく、11.5〜13.5の範囲とすることがより好ましく、使用成分の組み合わせ、具体的な配合割合等を適宜調整することができる。
【0032】
本発明においては、上記の銅化合物、錯化剤及びアルカリ金属水酸化物に加えて、下記の(D)成分と、(E)成分を含有させることが必要である。
【0033】
(D)脂肪族ポリアルコール
本発明の導電性皮膜形成浴には、炭素数2〜5の脂肪族ポリアルコールを配合する必要がある。配合する炭素数2〜5の脂肪族ポリアルコールとしては、ヒドロキシ基を2個以上有する炭素数2〜5の直鎖状又は分枝鎖状の脂肪族ポリアルコールであればよい。また、当該脂肪族ポリアルコール中の炭素鎖には、酸素原子が含まれていてもよい。
【0034】
炭素数2〜5の脂肪族ポリアルコールに含まれるヒドロキシ基の数は、2以上であればよく、その中でも2〜4が好ましく、2又は3がより好ましく、2が特に好ましい。
【0035】
炭素数2〜5の脂肪族ポリアルコールの具体例としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、グリセリン、エリトリトール、キシリトール、1,2,4−ブタントリオール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール等を挙げることができる。
【0036】
脂肪族ポリアルコール化合物は、一種単独又は適宜混合して用いることができる。
【0037】
脂肪族ポリアルコール化合物の配合量は、1〜500g/l程度が好ましく、1〜200g/l)程度がより好ましい。
【0038】
脂肪族ポリアルコール化合物の配合量が少なすぎると、導電性皮膜形成浴の形成が不十分であり、次工程での電気めっきにおいて、低電流密度域のめっきの析出性が悪くなるので好ましくない。
【0039】
一方、脂肪族ポリアルコール化合物の配合量が多すぎると、経済的に不利であって、廃水処理性の点で好ましくない。
【0040】
本発明の導電性皮膜形成浴では、特に炭素数2〜5の脂肪族ポリアルコールとして、2つのヒドロキシ基間の炭素数が2以下の脂肪族ポリアルコールを用いることが好ましい。
【0041】
例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、グリセリン、エリトリトール又はキシリトールを用いることがより好ましく、エチレングリコールを用いることが特に好ましい。
【0042】
2つのヒドロキシ基間の炭素数が2以下の脂肪族ポリアルコールを用いる場合、その配合量は、1〜50g/l程度で、導電性に優れた皮膜を形成することができる。
【0043】
なお、2つのヒドロキシ基間の炭素数が3以上の脂肪族ポリアルコールを用いる場合は、脂肪族ポリアルコール化合物の配合量は、上記した配合量の範囲内において、50g/l程度以上とすることが好ましい。
【0044】
2つのヒドロキシ基間の炭素数が3以上の脂肪族ポリアルコールとしては、例えば、1,2,4−ブタントリオール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール等が挙げられる。
【0045】
(E)還元剤
本発明の導電性皮膜形成浴には、還元剤として、カルボキシル基含有還元性化合物、及び炭素数6以上の還元性を示す糖類からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物を用いることが必要である。このような特定の還元剤を用いることによって、ブリッジ析出性のない均一な導電性皮膜を形成できる。
【0046】
カルボキシル基含有還元性化合物
本発明の導電性皮膜形成浴に配合するカルボキシル基含有還元性化合物としては、基:−COOM(式中、Mは、H、アルカリ金属、又は基:−NH
4を示す。)を有し、かつ、還元性を示す化合物であれば特に限定はなく、公知の化合物が使用できる。
【0047】
配合するカルボキシル基含有還元性化合物としては、還元性を有するカルボン酸、還元性を有するジカルボン酸、これらの塩等が挙げられる。
【0048】
還元性を有するカルボン酸としては、例えば、ギ酸、グリオキシル酸、これらの塩等を用いることができる。また、還元性を有するジカルボン酸としては、シュウ酸、マレイン酸、これらの塩等を用いることができる。
【0049】
塩としては、アルカリ金属塩、基:−NH
4を有する塩(アンモニウム塩)等が挙げられる。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。
【0050】
カルボキシル基含有還元性化合物は、一種単独又は適宜混合して用いることができる。
【0051】
炭素数6以上の還元性を示す糖類
本発明の導電性皮膜形成浴に配合する炭素数6以上の還元性を示す糖類としては、炭素数が6以上で、かつ、還元性を示す糖類であれば特に限定はなく、公知の糖類が挙げられ、例えば、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類、糖アルコール、糖酸、アミノ糖、デオキシ糖、ラクトン等が使用できる。
【0052】
炭素数6以上の還元性を示す糖類における炭素数としては、6以上が好ましく、6〜12であることがより好ましい。
【0053】
炭素数6以上の還元性を示す糖類としては、ブドウ糖等の単糖類、ショ糖等の二糖類、セルロース等の多糖類、ソルビット、マンニット等の糖アルコール、アスコルビン酸等の糖酸、グルコノラクトン等のラクトン等が挙げられる。
【0054】
炭素数6以上の還元性を示す糖類は、一種単独又は適宜混合して用いることができる。
【0055】
還元剤として、カルボキシル基含有還元性化合物、及び炭素数6以上の還元性を示す糖類からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物を配合する際、還元剤の配合総量としては、0.1〜100g/l程度が好ましく、0.5〜50g/l程度がより好ましい。
【0056】
還元剤の配合量が少なすぎると、導電性皮膜の形成が不十分であり、次工程での電気めっきにおいて、低電流密度域のめっきの析出性が悪くなるので好ましくない。
【0057】
一方、還元剤が多すぎると、経済的に不利であり、浴安定性の点で好ましくない。
【0058】
本発明の導電性皮膜形成浴では、比較的弱い還元力を示す上記「カルボキシル基含有還元性化合物」及び/又は「炭素数6以上の還元性を示す糖類」を還元剤として用いることにより、導電性皮膜形成浴の安定性を低下させることなく、比較的弱い錯化力を有するヒダントイン類又は有機カルボン酸類を錯化剤として用いることができる。この様な比較的弱い還元剤と上記の錯化剤を配合した本発明の導電性皮膜形成浴は、析出性が良好となり、また排水処理も容易となる。
【0059】
本発明の導電性皮膜形成浴では、還元剤として、上記したカルボキシル基含有還元性化合物と炭素数6以上の還元性を示す糖類を併用することが好ましい。これらの成分を同時に含有することによって、形成される皮膜の導電性が飛躍的に向上する。
【0060】
なお、本発明の導電性皮膜形成浴は、安定性に優れた浴であり、常温で3日間放置した場合にも、ほとんど沈殿が生じることがなく、銅のわずかな沈殿が見られる場合もあるが、いずれも通常使用するのには支障がない安定な浴である。
【0061】
(2)導電性皮膜を形成する方法
本発明の導電性皮膜形成浴に、触媒物質を付与した非導電性プラスチック成形品を接触させることによって、非導電性プラスチック成形品に導電性皮膜を形成することができる。
【0062】
以下、導電性皮膜を形成する方法について、具体的に説明する。
【0063】
非導電性プラスチック成形品
非導電性プラスチックとしては、特に限定はなく、例えば、自動車業界等において近年広く採用されている各種のプラスチック部品も処理対象物とすることができる。
【0064】
この様な大型のプラスチック材料としては、例えば、フロントグリル、エンブレム等の各種自動車用部品、電子関連の外装品、ツマミ等の各種装飾めっき用部品、耐食性・機能性めっき用部品等を挙げることができる。
【0065】
プラスチック材料の材質についても特に限定はなく、従来から知られている各種のプラスチック材料を処理対象とすることができる。
【0066】
例えば、従来から化学めっき用として広く用いられているABS樹脂等の汎用プラスチック、耐熱温度150℃以下のポリアミド(ナイロンPA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、変成ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等の汎用エンジニアリングプラスチック、耐熱温度200℃を越えるポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PI)、液晶ポリマー(LCP)等のスーパーエンジニアニングプラスチック、ポリカーボネート/ABS等のポリマーアロイ等を処理対象とすることができる。
【0067】
これらのプラスチック材料の内では、エッチング処理等の前処理によって密着性とめっき外観を損なわないよう工夫されたABS樹脂等のめっき用グレードのプラスチック材料が、特に好適に用いられる。
【0068】
前処理工程
本発明の導体性皮膜を形成する方法では、まず、前処理として、常法に従って、指紋、油脂等の有機物、静電気作用による塵等の付着物等を除去するために、被処理物の表面を清浄化する。処理液としては、公知の脱脂剤を用いればよく、例えば、アルカリタイプの脱脂剤等を使用して、常法に従って脱脂処理等を行えばよい。
【0069】
次いで、必要に応じて、被処理物の表面をエッチングする。
【0070】
この工程は、選択的に樹脂表面を溶解してアンカー効果を生じさせるものであり、この処理により、導体性皮膜の密着性、外観等を向上させることができる。
【0071】
エッチングは、常法に従って行えばよく、例えば、クロム酸と硫酸の混合溶液を用い、適度に加温した溶液中に被処理物を浸漬すればよい。
【0072】
ABS樹脂を被処理物とする場合には、エッチング処理によって構成成分のポリブタジエンがクロム酸の酸化作用により溶出し、樹脂表面に孔径1〜2μm程度のアンカー部が形成され、また、ポリブタジエンが酸化分解し、カルボニル基等の極性基が付与され、後工程におけるスズ−パラジウム混合コロイド溶液等の触媒の吸着が容易になる。
【0073】
汎用エンジニアリングプラスチックやスーパーエンジニアリングプラスチックを被処理物とする場合には、エッチングが困難な場合が多いので、エッチングの前に、必要に応じて、常法に従ってプリエッチング処理を行うことが好ましい。
【0074】
プリエッチング処理は、樹脂表面のスキン層や結晶の配向層を有機溶剤で膨潤させるものであり、通常、ジメチルスルホキサイド等の極性の高い溶剤を用いて行なうことができる。この処理を行なうことによって、エッチングの効果を向上させることができる。
【0075】
また、無機物やガラス繊維等を充填した樹脂についても、常法に従って適切なエッチング方法を選定すればよい。
【0076】
次に、樹脂表面に残存するクロム酸等のエッチング液を除去するために洗浄を行う。
【0077】
この場合、希薄塩酸溶液や重亜硫酸ナトリウム等の還元剤を含有する溶液を用いて洗浄処理を行なうことによって、樹脂表面に残存するクロム酸の除去が容易になる。
【0078】
触媒付与工程
次いで、前処理工程によって得られた処理物に対して、触媒を付与する。
【0079】
触媒の種類としては、特に限定はなく、通常の無電解めっき液用触媒として知られている公知の各種触媒を用いることができる。
【0080】
例えば、銀、パラジウム、金、ルテニウム、銅、ニッケル及び白金からなる群から選ばれた少なくとも1種の成分を触媒成分として含む公知の貴金属触媒付与用の組成物を用いればよい。
【0081】
具体的な触媒付与用組成物の種類、触媒付与方法については、特に限定的ではなく、公知の組成物、公知の触媒付与方法から適宜選択すればよい。
【0082】
例えば、パラジウム触媒を付与する場合には、被処理物をセンシタイザー溶液(塩化錫(II)の塩酸溶液)に浸漬した後、アクチベーター溶液(塩化パラジウムの塩酸溶液)に浸漬する方法(センシタイザー−アクチベーター法)、スズ−パラジウム混合コロイド溶液に浸漬して触媒を付与した後、硫酸等の酸性溶液からなるアクセレーター溶液に浸漬して、過剰のスズイオンを溶解させて触媒活性を向上させる方法(キャタリスト-アクセレーター法)等を適宜適用できる。
【0083】
本発明の導電性皮膜形成浴を用いる際は、特に、樹脂成形品に均一にめっき皮膜が析出しやすい点で、スズ−パラジウム混合コロイド溶液を用いることが好ましい。
【0084】
上記スズ−パラジウム混合コロイド溶液としては、通常用いられている塩化パラジウム及び塩化第一錫を含む酸性の混合コロイド水溶液を用いることができる。例えば、塩化パラジウムを0.05〜0.6g/l程度、塩化第一錫を1〜50g/l程度、及び35%塩酸を100〜400ml/l程度含む混合コロイド溶液を用いることができる。
【0085】
また、上述のとおり、通常、キャタリスト-アクセレーター法としては、スズ−パラジウム混合コロイド溶液によって触媒を付与した後、硫酸等の酸性溶液からなるアクセレーター溶液に被処理物を浸漬して、過剰のスズイオンを溶解させて触媒活性を向上させる必要があるが、本発明の導電性皮膜を形成する方法においては、上記アクセレーター液での処理を省くことができる。
【0086】
アクセレーター液での処理を省く場合は、触媒付与後の被処理物を水洗するだけでよい。このように、本発明の導電性皮膜を形成する方法では、生産工程数を減らすことができることから、コストの削減につながり、工業的に有利である。
【0087】
そして、本発明の導電性皮膜形成浴のうち、特に(E)還元剤として、カルボキシル基含有還元性化合物と炭素数6以上の還元性を示す糖類を同時に含有する導電性皮膜形成浴は、この触媒付与工程における貴金属触媒の添加量を大幅に低減することが可能である。
【0088】
カルボキシル基含有還元性化合物と炭素数6以上の還元性を示す糖類を同時に含有する導電性皮膜形成浴では、例えば、塩化パラジウムの添加量を0.05〜0.15g/l程度にまで減らすことができる。
【0089】
上記スズ−パラジウム混合コロイド溶液に浸漬する場合の条件については特に限定的ではないが、通常、上記混合コロイド溶液の温度を10〜50℃程度、好ましくは20〜40℃程度として、これに被処理物を浸漬すればよい。
【0090】
浸漬時間については、本発明の導電性皮膜形成浴の種類等に応じて、適宜必要な浸漬時間を設定すればよい。通常は、2〜10分程度の範囲の浸漬時間とすればよい。
【0091】
本発明の導電性皮膜形成浴を用いれば、高価な貴金属触媒を大量に使用することがなくなるため、生産コストの削減につながり、工業化に有利である。
【0092】
導電性皮膜形成工程
次いで、触媒を付与した非導電性プラスチック成形品に対して、本発明の導電性皮膜形成浴を用いて導電性皮膜を形成する。
【0093】
本発明の導電性皮膜形成浴に、触媒を付与した非導電性プラスチック成形品を接触させて導電性皮膜を形成する方法としては、例えば、導体性皮膜形成浴に、触媒を付与した非導電性プラスチック成形品を浸漬する方法によれば、効率よく導電性皮膜を形成することができる。
【0094】
本発明の導電性皮膜形成浴は、pH10〜14程度とすることが好ましく、pH11.5〜13.5程度とすることがより好ましい。pHが低すぎると、還元反応の円滑な進行が妨げられ、また、還元剤の分解等が生じて、導電性皮膜の析出性が低下し、導電性皮膜形成浴が分解する場合もあるので好ましくない。一方、pHが高すぎると、導電性皮膜形成浴の安定性が低下する傾向があるので好ましくない。
【0095】
導電性皮膜を形成する際の浴の温度については、具体的な導電性皮膜形成浴の組成等によって異なるが、通常、30℃程度以上とすることが好ましく、30〜60℃程度とすることがより好ましく、45〜55℃程度とするのが特に好ましい。導電性皮膜形成浴の液温が低すぎる場合には、皮膜析出反応が緩慢になって皮膜の未析出や外観不良が生じ易くなる。一方、導電性皮膜形成浴の液温が高すぎると、導電性皮膜形成浴の蒸発が激しくなってめっき液組成を所定の範囲に維持することが困難となり、更に、導電性皮膜形成浴の分解が生じ易くなるので好ましくない。
【0096】
導電性皮膜形成浴を接触させる時間は、特に限定はなく、導電性皮膜を完全に被覆できるような時間とすればよい。導電性皮膜の表面状態に応じて適宜設定することができる。接触させる時間が短すぎると、導電性皮膜が被処理物表面上へ供給するのに不十分となり、完全に導電性皮膜を形成することができない。
【0097】
上述のとおり、本発明の導電性皮膜形成浴に、触媒を付与した非導電性プラスチック成形品を接触させて導電性皮膜を形成する方法として、例えば触媒を付与した非導電性プラスチック成形品を浸漬する方法がある。浸漬させる場合の浸漬時間は、1〜10分程度とするのが好ましく、特に3〜5分程度とするのがより好ましい。
【0098】
上記した方法によって、導電性皮膜を形成する際に、導電性皮膜形成浴中の溶存酸素を増加させた状態で、該導電性皮膜形成浴に非導電性プラスチック成形品を接触させることが好ましい。
【0099】
この方法を用いることで、導電性皮膜をより厚く形成することができ、導電性皮膜の導電性をより向上させることができる。
【0100】
溶存酸素を増加させた状態にする手段としては、特に限定はなく、任意の方法、例えば、導電性皮膜形成浴中に、酸素含有ガスをバブリングして供給する方法、又は酸化剤を添加する方法等を適用できる。
【0101】
ここで、溶存酸素を増加させた状態とは、導電性皮膜形成浴中に酸素含有ガスをバブリングして供給し、溶存酸素を増加させた後の状態、又は酸化剤を添加して、溶存酸素を増加させた後の状態だけでなく、導電性皮膜形成浴中に酸素含有ガスを連続的にバブリングして供給しながら溶存酸素を増加させている状態、又は酸化剤を連続的に添加しながら溶存酸素を増加させている状態も含まれる。
【0102】
酸素含有ガスとしては、酸素又は空気を使用することができる。酸素又は空気は、窒素や希ガス等の酸素以外の気体を含んでいてもよい。
【0103】
酸化剤としては、特に限定はなく、溶存酸素を増加させることのできる公知の化合物が使用できる。例えば、過硫酸ナトリウム、過酸化水素水等を添加することで導電性皮膜形成浴中の溶存酸素を増加させることができる。
【0104】
酸化剤の添加量は、導電性皮膜形成浴に対して、0.1〜5g/l程度が好ましい。
【0105】
導電性皮膜
本発明の導電性皮膜形成浴を用いて、触媒を付与した非導電性プラスチック成形品に対して導電性皮膜を形成することができる。導電性皮膜としては、主に酸化銅を含む皮膜が形成される。
【0106】
そして、この酸化銅の皮膜は、酸性水溶液に浸漬した場合、酸化銅に不均化反応が起こり、金属銅を含む緻密な皮膜が形成されるものと考えられる。
【0107】
酸性水溶液としては、特に硫酸を含む水溶液が好ましい。
【0108】
酸化銅の皮膜を形成した後は、硫酸を含む酸性水溶液に浸漬する処理をすることで金属銅を含む緻密な皮膜が形成されるが、続く工程が硫酸銅めっき液等の硫酸を含む酸性のめっき液の場合、酸性水溶液に浸漬する工程は省くことができる。
【0109】
この金属銅を含む緻密な皮膜によって、皮膜の導電性及び耐酸性が向上し、電気めっき工程において、導電性皮膜が侵されることなく、均一な外観の電気めっき皮膜を形成することができる。
【0110】
電気めっき工程
次いで、本発明の導体性皮膜形成浴によって得られた被処理物を、常法に従って電気めっき処理に供する。
【0111】
電気めっき浴の種類は、特に限定されるものではなく、従来公知のいずれの電気めっき浴も使用可能である。また、めっき処理の条件も常法に従えばよい。
【0112】
電気めっき処理の一例として、銅めっき、ニッケルめっき、及びクロムめっきを順次行うことによる装飾用電気めっきプロセスについて具体的に説明する。
【0113】
銅めっきとしては、例えば、公知の硫酸銅めっき浴を用いることができる。
【0114】
例えば、硫酸銅100〜250g/l程度、硫酸20〜120g/l程度、及び塩素イオン20〜70ppm程度を含有する水溶液に、公知の光沢剤を添加しためっき浴を使用できる。硫酸銅めっきの条件は、通常と同様で良く、例えば、液温室温程度、電流密度3A/dm
2程度でめっきを行い、所定の膜厚までめっきを行えばよい。
【0115】
本発明の導電性皮膜形成浴によって得られた導電性皮膜は、高い耐酸性を有することから、本電気めっき工程において、硫酸銅めっき液等の強酸性のめっき液に浸漬した場合にも皮膜が侵されることがなく、均一で優れた外観を有する装飾めっき皮膜を形成することが可能である。
【0116】
また、ニッケルめっきとしては、公知のニッケルめっき浴を用いることができ、例えば、通常のワット浴を用いることができる。すなわち、硫酸ニッケル200〜350g/l程度、塩化ニッケル30〜80g/l程度、及びホウ酸20〜60g/l程度を含有する水溶液に、市販のニッケルめっき浴用光沢剤を添加したものを使用できる。めっき条件は 通常と同様で良く、例えば、液温55〜60℃程度、電流密度3A/dm
2程度で電解して所定の膜厚までめっきすればよい。
【0117】
クロムめっきとしては、公知のクロムめっき浴を用いることができ、通常のサージェント浴を用いることができる。すなわち、無水クロム酸200〜300g/l程度、及び硫酸2〜5g/l程度を含有する水溶液を使用でき、めっき条件は、液温45℃程度、電流密度20A/dm
2程度として所定の膜厚までめっきを行えばよい。