(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記材料交換ステップでは、前記成形型が分解できない場合、前記成形型から前記ガラス成形体を取り外すことができない場合、前記成形型の組立てが完了していない場合、又は、前記ガラス成形体が所定の評価基準を満足していない場合の少なくともいずれかの場合に、前記異常が発見された前記成形型を、前記擬似金型と取り替えて、前記擬似金型を前記供給部に供給する、請求項1から4の何れか1項に記載のガラス成形体の製造方法。
前記異常検知機構は、前記成形型が分解できない場合、前記成形型から前記ガラス成形体を取り外すことができない場合、前記成形型の組立てが完了していない場合、又は、前記ガラス成形体が所定の評価基準を満足していない場合の少なくともいずれかの場合に、前記成形型を異常と判断する、請求項7に記載の製造システム。
前記供給機構は、前記成形型の数が前記製造装置を連続的に駆動するのに必要な所定数に満たない場合に、不足数に応じた数の擬似金型を前記供給部に供給する、請求項7に記載の前記製造システム。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のガラス成形体の製造方法の一実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態では、
図1に示すガラス成形体の製造装置を含むガラス成形体のシステムにより、ガラス成形体の製造を行う。
図1は、本実施形態で用いられるガラス成形体の製造装置の構成を示す水平断面図であり、
図2は、
図1におけるA−A断面図である。
図1に示すように、本実施形態のガラス成形体の製造装置1は、有底円筒状に形成された装置筐体2と、装置筐体2内に設けられた回転テーブル4と、回転テーブル4の上方に設けられた水平断面円弧状の内部ケーシング6と、を有する。これら装置筐体2、内部ケーシング6及び回転テーブル4は同心同軸に配置されている。
【0018】
装置筐体2は、上下に略円形の上蓋および底板(図示省略)が取り付けられており、その内部は密閉状態にある。装置筐体2の内部空間は不活性ガス雰囲気とされている。不活性ガスとしては、窒素やアルゴンなどが使用され、酸素濃度が5ppm以下であることが好ましい。なお、このように内部空間を不活性ガス雰囲気とすることで、金型ユニット8の酸化やガラス材料の表面変質を防止できる。
【0019】
上蓋には、成形型を装置内に搬入できるとともに成形型を装置内から搬出できる搬入・搬出口(図示せず)が形成されていて、その下方の装置内部には搬入・搬出部46が形成されている。なお、本実施形態では、搬入・搬出部46が本発明における供給部と搬出部とを兼ね備えた例を示しているが、搬入部(供給部)と搬出部(搬出口)とを個別に設けてもよい。
【0020】
回転テーブル4は、回転盤10と、回転盤10の中心に接続された駆動軸(図示せず)と、駆動軸を回転させる、例えば、モータなどの駆動機構(図示せず)と、を備える。回転盤10上には、処理室の数に応じた数(本実施形態では8個)の金型ユニット8が等間隔にそれぞれ離間して配置されている。金型ユニット8は、後述するように、支持台12と、支持台12に載置された複数の(本実施形態では4つ)の成形型52と、により構成される。なお、これら金型ユニット8同士が接触して配置されていると、隣接する支持台12同士の間で熱交換が起こってしまい、個別に温度制御をすることが困難となる。これに対して、本実施形態では、このように金型ユニット8が離間して配置されているため、金型ユニット8ごとに個別に温度制御することができる。
【0021】
回転盤10上に配置された金型ユニット8は、回転盤10が回転することにより、内部ケーシング6内の各処理室を間欠的に移送される。本実施形態では、回転テーブル4は、駆動機構が所定時間おきに、間欠的に45度ずつ回転することにより、所定の半径の円周に沿って金型ユニット8を搬送する。この金型ユニット8の搬送される経路が、本発明の搬送経路に相当する。また、回転テーブル4は、各回転動作の間に、予め設定された所定の停止時間にわたり停止する。なお、この回転テーブル4の停止時間は、後述するプレス室26におけるプレス処理に要する時間よりも長くなるように決定されている。
【0022】
内部ケーシング6は、装置筐体2と同心同軸に水平方向に270度の角度範囲にわたって円弧状に延びる内壁6Aと、内壁6Aの半径方向外側に位置し、水平方向に270度の角度範囲にわたって円弧状に延びる外壁6Bと、内壁6Aと外壁6Bの上部の間を塞ぐ天井部と、内壁6Aと外壁6Bの下部の間を塞ぐ底部とを有する。これら内壁6A、外壁6B、天井部、及び底部により、内部ケーシング6内には水平断面が円弧形状の処理空間が形成されている。内部ケーシング6の底部には、金型ユニット8の搬送経路に沿って、円弧状のスリット6Cが形成されている。
【0023】
内部ケーシング6の処理空間は、回転テーブル4の回転方向に45度の角度範囲で6つの室に区切られている。これら6つの室は、金型ユニット8の搬送経路に沿って、第1加熱室20、第2加熱室22、均熱室24、プレス室26、第1徐冷室28、第2徐冷室30の順序で並んでいる。本実施形態における第1加熱室20、第2加熱室22、及び均熱室24は本発明の加熱部に相当し、本実施形態のプレス室26は本発明のプレス部に相当し、本実施形態の第1徐冷室28及び第2徐冷室30は本発明の冷却部に相当する。
内部ケーシング6の周方向端部及び各室の間には、隣接する処理室を区画するためのシャッター(図示せず)が設けられている。なお、本実施形態では、均熱室24とプレス室26との間にもシャッターを設けることとしているが、均熱室24とプレス室26の間のシャッターは省略してもよい。
【0024】
第1加熱室20、第2加熱室22、均熱室24、プレス室26、第1徐冷室28、第2徐冷室30の搬送経路の両側部には、それぞれ、ヒータ32、34、36、38、40、42が設けられている。これらヒータ32、34、36、38、40、42は、それぞれ、第1加熱室20、第2加熱室22、均熱室24、プレス室26、第1徐冷室28、第2徐冷室30内を所定の温度になるように加熱している。
【0025】
プレス室26の上方の上蓋には、プレス機構(図示せず)が設けられている。プレス機構は、支持台12に載置された複数の成形型それぞれに対応して設けられたモータや油圧シリンダ等の駆動機構を備え、この駆動機構を駆動することにより、駆動機構の一端部に取り付けられたプレスヘッドが、プレス室26内の金型ユニット8の各成形型52を上方から押圧し、ガラス素材に対してプレス処理を行う。なお、回転テーブル4のプレス機構の下方に相当する位置には、プレス機構が金型ユニット8の各成形型52を押圧する際に、回転テーブル4を下方から支持する支持部材を設けておくことが望ましい。
【0026】
図1に示すように、装置筐体2内の搬送経路の第2徐冷室30と、第1加熱室20との間には、急冷部44及び搬入・搬出部46が形成されている。急冷部44は、金型ユニット8を急速に冷却するための領域であり、周囲にヒータが配置されていない。また、搬入・搬出部46は搬入・搬出口を通じて、成形が完了したガラス成形体が収容された成形型と、成形処理が行われていない新たなガラス材料が収容された成形型とを交換するための領域である。なお、搬入・搬出部46には、金型ユニット8を昇降させることができる搬入・搬出機構が設けられており、搬入・搬出機構により金型ユニット8が持ち上げられることにより、搬入・搬出口から成形が完了した成形型52を取り出し、新たな成形型52を支持台12に載置することができる。この搬入・搬出機構が本発明の供給機構及び搬出機構に相当する。
【0027】
図2に示すように、金型ユニット8は、支持台12と、支持台12に載置された複数の(本実施形態では4つ)の成形型52と、により構成される。これら成形型52の材料としては、炭化珪素や超硬合金、窒化珪素等が用いられている。支持台12は、基部12Aと、基部12Aに立設された複数の(本実施形態では4つ)の円柱状の支持部12Bとを備える。各成形型52は、支持台12のそれぞれの支持部12B上に載置されている。成形型52は、製造すべきガラス成形体の形状に合わせて形成された成形面を有する上型54、下型56と、これら上型54及び下型56の径方向の相互位置を規制する胴型58とを有する。上型54及び下型56の成形面には離型膜が成膜されている。ガラス材料60は、上型54と下型56の間に挟み込まれた状態で配置されている。ガラス材料60をガラス屈伏点温度以上に加熱した状態で、上下型54、56を相対的に近接する方向に加圧することにより、ガラス材料に成形面形状が転写され、所望の形状のガラス成形体(光学素子)にプレス成形することができる。
【0028】
また、本実施形態のガラス成形体の製造システムは、図示はしないが、装置1から搬出された成形型52を分解して、成形が完了したガラス成形体を取り出し、ガラス成形体を取り出した成形型1に新たなガラス材料60を装填して成形型52を組立てるロボットアームなどを備えた分解・組立機構と、分解・組立機構において後に詳述する成形型の異常を検知する異常検知機構と、異常検知機構が成形型52の異常を検知した場合に、異常と判断された成形型と擬似金型とを交換する型交換機構と、を備える。
【0029】
以下、本実施形態のガラス成形体の製造装置1により、ガラス成形体を製造する方法を説明する。なお、以下の説明では、一の金型ユニット8に着目して、ガラス成形体を製造する方法を説明するが、本実施形態のガラス成形体の製造装置1では、各処理室の数に応じた複数の金型ユニット8が回転テーブル4の回転盤10上に45度の等角度範囲で配置される。そして、これら複数の金型ユニット8が回転テーブル4により連続して搬送経路に沿って搬送されて、各処理室で加熱処理、プレス処理、徐冷処理等の処理が並行して行われる。
【0030】
図3は、本実施形態のガラス成形体の製造方法の流れを示すフローチャートである。
まず、回転テーブル4が回転し、成形処理が完了したガラス成形体を収容する金型ユニット8が搬入・搬出部46に到達すると、搬入・搬出機構により金型ユニット8が持ち上げられ、搬入・搬出口から、処成形理が完了した成形型52を複数個同時に装置筐体2の外部へ搬出する。そして、これらの成形型52を図示しないロボットハンドで把持して、後述する材料交換ステップ(S60)を行う。また、これらの成形型52を取出した直後に、新たなガラス材料が収容された成形型52を搬入・搬出口から装置内に供給する(S44)。
【0031】
そして、前回の回転動作の完了から予め設定された回転テーブル4の停止時間(以下、タクトタイムという)が経過すると、内部ケーシング6の周方向端部及び各室の間に設けられたシャッターが開かれ、回転テーブル4が平面視反時計回りに45度回転する。これにより、成形型25は支持台12に保持された状態で、第1加熱室20内に搬送される。この際、支持台12の支持部12Bは、内部ケーシング6の底部に設けられたスリット6C内を通るため、支持部12Bと内部ケーシング6とが干渉することはない。
【0032】
第1加熱室20に金型ユニット8が搬送されると、金型ユニット8を加熱する第1の加熱ステップ(S12)が行われる。第1加熱室20内は、搬送経路の両側に設けられたヒータ32により、ガラス屈伏点温度(Ts)と同等もしくはそれ以上の温度に保たれている。そして、第1加熱室20に搬送された金型ユニット8は、搬送経路の両側に設けられたヒータ32により加熱される。
【0033】
前回の回転テーブル4の回転から予め設定されたタクトタイムが経過すると、内部ケーシング6の周方向端部及び各室の間に設けられたシャッターが開かれ、回転テーブル4が平面視反時計回りに45度回転する。これにより、金型ユニット8は、第2加熱室22内に搬送される。
【0034】
第2加熱室22に金型ユニット8が搬送されると、金型ユニット8の成形型52をガラス屈伏点温度(Ts)程度まで加熱する第2の加熱ステップ(S14)が行われる。第2加熱室22内は、ヒータ34によりガラス屈伏点温度(Ts)と同等もしくはそれ以上の温度に保たれている。これにより、第2加熱室22内に搬送された金型ユニット8内のガラス材料60がガラス屈伏点温度(Ts)程度に到達するまで加熱される。
【0035】
前回の回転テーブル4の回転から予め設定されたタクトタイムが経過すると、内部ケーシング6の周方向端部及び各室の間に設けられたシャッターが開かれ、回転テーブル4が平面視反時計回りに45度回転する。これにより、金型ユニット8は、均熱室24内に搬送される。
【0036】
均熱室24に成形型52が搬送されると、成形型52及び内部に収容されたガラス材料60を均熱化する均熱ステップ(S16)が行われる。均熱室24内は、ヒータ36によりガラス屈伏点温度(Ts)程度に保たれている。これにより、成形型52及びガラス材料60は、その温度がガラス屈伏点温度(Ts)程度で均一な温度分布となるように、均熱化される。
【0037】
前回の回転テーブル4の回転から予め設定されたタクトタイムが経過すると、内部ケーシング6の周方向端部及び各室の間に設けられたシャッターが開かれ、回転テーブル4が平面視反時計回りに45度回転する。これにより、金型ユニット8はプレス室26内に搬送される。
【0038】
プレス室26に金型ユニット8が搬送されると、プレスステップ(S18)が行われる。プレスステップでは、ヒータ38により金型ユニット8をガラス屈伏点温度(Ts)程度に保つように加熱しながら、プレス機構により金型ユニット8の成形型52を押圧し、ガラス材料をプレス成形する。プレス荷重は、30〜500kgf/cm
2の範囲内で適宜設定することが好ましい。
【0039】
そして、プレスステップが完了し、前回の回転テーブル4の回転からタクトタイムが経過すると、内部ケーシング6の周方向端部及び各室の間に設けられたシャッターが開かれ、回転テーブル4が平面視反時計回りに45度回転する。これにより、金型ユニット8の成形型52は、第1徐冷室28内に搬送される。
第1徐冷室28ではヒータ40により成形型52を加熱しながら、ゆっくりと成形型52を冷却する第1の徐冷ステップ(S20)が行われる。ことのきの冷却速度は、10〜100℃/分の範囲内で適宜設定することが好ましい。
【0040】
そして、第1の徐冷ステップが完了し、前回の回転から予め設定されたタクトタイムが経過すると、内部ケーシング6の周方向端部及び各室の間に設けられたシャッターが開かれ、回転テーブル4が平面視反時計回りに45度回転する。これにより、金型ユニット8の成形型52は、第2徐冷室30内に搬送される。
第2徐冷室30ではヒータ42により成形型52を加熱しながら、ゆっくりと成形型52を冷却する第2の徐冷ステップ(S22)が行われる。ことのきの冷却速度は、10〜100℃/分の範囲内で適宜設定することが好ましい。
【0041】
前回の回転テーブル4の回転からタクトタイムが経過すると、内部ケーシング6の周方向端部及び各室の間に設けられたシャッターが開かれ、回転テーブル4が平面視反時計回りに45度回転する。これにより、金型ユニット8の成形型52は、第2徐冷室30から急冷部44へ搬送される。
【0042】
急冷部44に成形型52が搬送されると、急冷ステップ(S24)が行われる。急冷部44には、ヒータが設置されておらず、装置の周囲と同程度の温度となっている。このため、金型ユニット8及び内部のガラス成形体は急速に冷却される。このときの冷却速度は、徐冷ステップでの冷却速度よりも速く、例えば、30〜300℃/分の範囲内で適宜設定することが好ましい。また、必要に応じて金型ユニット8に向けて冷却ガスを吹き付けてもよい。
【0043】
さらに、前回の回転テーブル4の回転から予め設定されたタクトタイムが経過すると、回転テーブル4が45度回転して、金型ユニット8が搬入・搬出部46へ移送される。
成形処理が完了したガラス成形体を収容する金型ユニット8が搬入・搬出部46に到達すると、昇降機構によって金型ユニット8が上昇し、搬入・搬出口から、処成形理が完了した成形型52を複数個同時に装置筐体2の外部へ搬出する。(S26)。なお、ここでは、成形型52のみが取出され、支持台12は装置内に留まる。
【0044】
次に、搬入・搬出部46から搬出された成形型52を分解して、成形が完了したガラス成形体を取り出し、ガラス成形体を取り出した成形型52に新たなガラス材料60を装填して成形型52を組立て、搬入・搬出部46に成形型52を供給する材料交換ステップ(S60)を行う。
【0045】
本実施形態では、材料交換ステップ(S60)において、成形型52の異常を検知した場合に、異常と判断された成形型8に替えて擬似金型(以下、ダミー型ともいう)を搬出・搬入部46に供給する。もしくは、成形型8の数が所定数に満たない場合に、不足数に応じた数の擬似金型を搬出・搬入部46に供給する。
【0046】
ここで、本実施形態のダミー型は、下記の条件の1つ以上を満たすことが望ましい。
第1に、正規の成形型と同等の比熱容量を有すること。
ダミー型の比熱容量は、正規の成形型の比熱容量の±50%の範囲内とすることが好ましく、正規の成形型の比熱容量の±20%の範囲内とすることがさらに好ましく、正規の成形型の比熱容量と同一すなわち同一材料であることが最も好ましい。
【0047】
ダミー型の材質としては、炭化珪素(SiC)、窒化珪素(Si
3N
4)、タングステンカーバイト(WC)、タングステン合金、ステンレス鋼、ニッケルクロム鋼、炭素鋼などのセラミックスもしくは金属とすることが望ましい。ここに例示した材料は、いずれも比熱容量が400〜700J/(kg・K)の範囲内にある。
【0048】
第2に、正規の成形型の最大幅と同等の最大幅を有すること。
なお、ダミー型の最大幅は、正規の成形型の最大幅の±50%の範囲内にあることが好ましく、正規の成形型の最大幅の±20%の範囲内とすることがさらに好ましく、正規の成形型の最大幅と同一であることが最も好ましい。ここで、最大幅とは成形型またはダミー型を把持する箇所の最大幅を指す。
【0049】
第3に、容易に分離・分解ができない一体構造であること。
なお、上記の第1〜第3の条件のうち、最も優先されるのは第1の条件である。
【0050】
成形型52の異常を検知した場合とは、例えば、成形型52を分解することができない場合や、ガラス成形体を成形型52から取り外すことができない場合や、成形型52の組立ができない場合もしくは所定時間内に組立が間に合わない場合などである。要するに、ガラス成形体を取り出し、新たなガラス材料60を収容した成形型52をガラス成形体の製造装置1に供給することができない場合に、成形型52が異常と判断される。
【0051】
また、成形型8の数が所定数に満たない場合とは、例えば、製造装置1を用いて連続的にガラス成形体を製造するために必要な数の成形型を準備することができない場合である。具体的にいうと、本実施形態の製造装置1では、8台の金型ユニット8を用いており、各金型ユニットに4個の成形型52を載置している。このため、装置内で32個の成形型が必要であり、加えて、装置外で材料交換ステップを実行するために最低でも1台の金型ユニット、すなわち4個の成形型が必要になり、成形型は少なくとも36個必要となる。したがって、本実施形態では、成形型の新規加工や追加の加工を行うため、36個未満の成形型しか準備することができない場合が、成形型8の数が所定数に満たない場合に当たる。
【0052】
以下、この材料交換ステップ(S60)について詳細に説明する。
まず、装置外部へ搬出された成形型52を、分解・組立機構により分解する(S28)。本実施形態における成形型52の分解とは、上型54と下型56が胴型58に挿入された状態から、上型54を上方に引き抜く動作、もしくは下型56を下方に引き抜く動作をいう。分解後の下型56の成形面上には、プレス成形されたガラス成形体が載っている。
ここで、上型54または下型56を胴型58から引き抜くときにカジリが発生するなどして、複数の成形型52のうち何れかが正常に分解することができない場合(S30でYESの場合)には、異常検知機構がこれを検知して異常が発生したと判定する。このように成形型を正常に分解できないか否かについては、例えば、上型または下型を胴型から引き抜くときの負荷(吸引圧力など)が所定レベルを超えるか否かに基づき判定することができる。この場合には、上型または下型を胴型から引き抜くときの負荷が所定レベルを超えた場合に、正常に分解することができないと判定される。
【0053】
異常と判断された成形型52は、後述するステップ(S32〜S42)をスキップして、型交換機構によりダミー型(擬似金型)に交換される(S52)。そして、供給機構がダミー型を製造装置1に供給する。なお、成形型52を正常に分解できた場合(S30でNO)には、この成形型52はダミー型に交換する必要はない。複数個の成形型52を同時に処理する場合は、正常にS32〜S42のステップを経た成形型52とダミー型とを同時に製造装置1に供給する。
【0054】
次に、正常に分解された成形型52からガラス成形体を取り出す(S32)。ここで、ガラス成形体が成形面に貼り付いたり、ガラス成形体が欠落したり割れるなどして、いずれかの成形型52において、ガラス成形体を成形型52から取り出すことができない場合(S34でYESの場合)には、異常検知機構がこれを検知して異常が発生したと判定する。なお、ガラス成形体を取り出せないか否かについては、例えば、成形型52上にある成形体を吸着する時の圧力が所定の範囲内であるか否かに基づき判定することができる。例えば、成形体が無かったり割れたりしている場合には、吸着する圧力が所定範囲以下となる。また、成形体が成形型52に張り付いている場合には、吸着する所定範囲以上となる。このような場合に、ガラス成形体を取り出せないと判定すればよい。
【0055】
S34において異常と判断された成形型53は、後述するステップ(S36〜S42)をスキップして、型交換機構によりダミー型に交換される(S52)。なお、成形型52からガラス成形体を取り出すことができた場合(S34でNOの場合)には、この成形型52はダミー型に交換する必要はない。
【0056】
次に、正常に分解された成形型52から取り出したガラス成形体について、例えば、所定の形状に成形されているか等の品質検査を行う(S36)。そして、品質検査において、ガラス成形体が所定の評価基準を満たしていないケースが連続して発生した場合など、ガラス成形体の品質が低い場合(S38でYESの場合)は、異常検知機構がこれを検知して異常が発生したと判定する。異常と判断された成形型53は、後述するステップ(S39〜S42)をスキップして、型交換機構によりダミー型に交換される(S52)。なお、ガラス成形体が所定の評価基準を満たしている場合(S38でYESの場合)には、この成形型52はダミー型に交換する必要はない。
【0057】
次に、下型56の成形面上に新たなガラス材料60を供給して、成形型52を組み立てる(S40)。本実施形態における成形型52の組立とは、分解の逆の動作であって、上型54を挿嵌した胴型58に下型56を挿入する動作、もしくは下型56を挿嵌した胴型58に上型54を挿入する動作をいう。組立後の成形型52内には、ガラス材料が収容されている。
【0058】
ここで、ガラス成形体の製造装置1の回転テーブル4は、所定のタクトタイムごとに回転する。このため、タクトタイムが経過してしまう前に、新たな金型ユニット8を製造装置1内に供給しなければならない。このため、例えば、タクトタイムが経過するまでに成形型52の組立ができない場合や胴型への挿入時にカジリが生じて完全に組み立てができない場合などの、成形型52の組立が正常にできない場合(S42でYESの場合)には、異常検知機構がこれを検知して異常が発生したと判定し、型交換機構が、組立ができない成形型52をダミー型に交換する(S52)。なお、成形型の組立てができないか否かについては、例えば、上型または下型を胴型に挿入するときの負荷(圧力)に基づき判定することができる。上型または下型を胴型に挿入するときの負荷が所定レベルを超えた場合には、成形型の組立てができないと判定すればよい。タクトタイムが経過するまでに正常に成形型52の組立が行われた場合(S42でNOの場合)には、成形型52をダミー型に交換する必要はない。
また、成形型8の数が所定数に満たない場合には、予め不足数に応じた数の擬似金型を準備しておき、正規の成形型52と同様に搬出・搬入部46に供給すればよい。
【0059】
そして、新たなガラス材料60が装填された正規の成形型52又は型交換機構により交換されたダミー型を、搬入・搬出機構により持ち上げられた支持台12に載置して、成形型52およびダミー型を搬入・搬出部に供給する(S44)。このように支持台12に載置されたダミー型は、正規の成形型52と同様に、他の正規の成形型52と同時にS12〜S24のステップが行われる。すなわち、加熱ステップ(S12,S14)や徐冷ステップ(S20,S22)等では、正規の成形型52と同時に加熱又は冷却処理を行う。なお、プレスステップ(S18)では、ダミー型に対してもプレス機構により、プレスヘッドを当接させることが好ましい。これにより、プレスヘッドの温度変動を低減することができる。
【0060】
以上のようなプロセスを経て、何らかの異常があると判断されてダミー型に交換された成形型52は、製造装置1近傍の所定位置に設けられたトレー上に移されて、作業者によって異常部分の修繕が施される。
【0061】
上記実施形態では、4個の成形型を同時に材料交換ステップ(S60)に供しており、1個の成形型をダミー型と交換した場合、3個の正規の成形型52と1個のダミー型を同時にロボットハンドなどで把持しながら、製造装置1の搬入・搬出口まで搬送し、搬入・搬出口を通して、搬入・搬出機構により支持された支持台に載置し、支持台が下降することにより成形型52およびダミー型が搬入・搬出部に供給される(S44)。このような工程を繰り返すことにより、連続的にガラス成形体を製造することができる。
【0062】
図4は、複数の成形型52のうちの一つをダミー型62に交換した場合の金型ユニット8を示す図である。同図に示すように、複数の成形型52のうちの何れかに異常が発生した場合には、異常が発生した成形型52に換えて、ダミー型62を支持台12に載置する。
【0063】
以下、本願発明者らが、支持台12に正規の成形型52(以下、「正規型」という)の代わりにダミー型62を載置することにより、ダミー型62も正規型も載置しない場合に比べて、成形型温度のばらつきを減少することができたことを実験により確認したので説明する。
【0064】
―実験1―
本実験では、二つの支持部を有する支持台を用い、一方の支持部に正規型を載置し、他方の支持部にダミー型を載置した場合(実施例1)と、一方の支持部に正規型を載置し、他方に何も設置しない場合(比較例1)とについて、上記のガラス成形体の製造装置1により、ガラス成形体を製造した際の、各支持部の温度履歴を測定した。なお、本実験では、正規型の材質を炭化珪素(比熱は約700J/(kg・K))とし、ダミー型の材質をステンレス鋼(比熱は約500J/(kg・K))とし、最大幅(外径寸法)は双方共に30mmのものを使用した。
【0065】
図5は、実施例1の正規型及びダミー型が載置された各支持部の温度履歴を示すグラフであり、
図6は、比較例1における正規型が載置された支持部、及び、何も載置されていない支持部の温度履歴を示すグラフである。なお、
図6には、実施例1における正規型を載置した支持部の温度履歴も重ねて示している。
【0066】
図5に示すように、正規型を載置した支持部の温度履歴(実線)及びダミー型を載置した支持部の温度履歴(一点鎖線)は、略等しい温度履歴となった。これにより、ダミー型を載置することにより、正規型を載置した場合と略同等の温度履歴となることがわかった。
【0067】
これに対して、
図6に示すように、比較例1の何も載せていない支持部の温度履歴(二点鎖線)は、実施例1の正規型を載置した支持部の温度履歴(実線)に比べて、加熱処理を行っている際には温度が上昇する傾向を示した。さらに、プレス処理では、プレスヘッドが支持台に接触することはなく、成形型からプレスヘッドへの熱の移動がないため、支持部の温度はさらに上昇した。しかも、製造工程後段側の冷却処理の間は金型ユニットの熱容量が低下するため、温度が低下しやすく、ガラス成形体の製造完了時において実施例1よりも低い温度となった。
【0068】
さらに、
図6に示すように、二つの支持部のうち一方の支持部に何も載せずに、他方の支持部に正規型を載せた場合、正規型を載せた方の支持部にも温度変動が生じた。すなわち、
図6の正規型を載置した支持部の温度履歴(破線)は、何も載せていない支持部の温度履歴(二点鎖線)と同様に、加熱処理を行っている際には温度が上昇する傾向を示し、冷却処理の間は温度が低下する傾向を示した。そして、製造工程完了時において、支持台の温度は、実施例1よりも低い温度となった。
【0069】
以上の実験から、複数の成形型が載置される支持台において、支持部にダミー型を載置することにより、支持部に何も載置しない場合に比べて、本来の温度履歴(すなわち、全て正規型を載置した場合の温度履歴)からの温度のずれが減少することができることがわかる。
【0070】
―実験2―
次に、以下に説明する実施例2及び比較例2について、上記のガラス成形体の製造装置1を用いて3サイクル連続して、金型ユニットに一連のガラス成形プロセスを行った場合の、各金型ユニットの支持部の温度履歴を測定した。なお、ここでいう1サイクルとは、
図3のフローチャートのS12〜S24を一回繰り返すことをいう。本実験2では、実験1と同様に、正規型の材質を炭化珪素とし、ダミー型の材質をステンレス鋼とし、最大幅(外径寸法)は双方共に30mmのものを使用した。
【0071】
実施例2では、支持部が1本のみ立設した支持台を用いて、1サイクル目では、支持台に正規型を載置し、2サイクル目では支持台にダミー型を載置し、3サイクル目では、支持台に正規型を載置してガラス成形体に製造を行った。
【0072】
また、比較例2では、1サイクル目では、支持台に正規型を載置し、2サイクル目では支持台に正規型もダミー型を載置せず、3サイクル目では、支持台に正規型を載置してガラス成形体に製造を行った。なお、何も載置されていない金型ユニットでは、プレス処理において、プレスヘッドが支持台に接触させなかった。
【0073】
図7は、実施例2の各サイクルの金型ユニットの支持部の温度履歴を示すグラフであり、
図8は、比較例2の各サイクルの金型ユニットの支持部の温度履歴を示すグラフである。
図7に示すように、実施例1では、2サイクル目にダミー型を用いているものの、ダミー型を用いた2サイクル目の温度履歴は、正規型を用いた1サイクル目の温度履歴と略等しい。さらに、2サイクル目でダミー型を用いたとしても、3サイクル目の温度履歴にはほとんど影響がないことがわかる。
【0074】
これに対して、比較例2では、
図8に示すように、2サイクル目において加熱処理及びプレス処理の間、実施例2よりも高温となるものの、2サイクル目の終了時において、実施例2に比べて低温となってしまう。さらに、3サイクル目は、低温状態から開始するため、加熱処理において目標温度まで正規型(支持部)の温度が上昇せず、プレス温度が低下してしまうことがわかる。
【0075】
実験2から以下のことがわかる。金型ユニットに成形型を載置しないでレンズの成形を行うと、次のサイクルにおいて成形型が所望の温度よりも低温となってしまい、プレス成形体の割れや肉厚不足になる等の成形不良が発生するおそれがある。これに対して、本発明によれば、ダミー型を用いることにより、ダミー型を用いたサイクル中の温度履歴が正規型を用いたサイクルの温度履歴と略等しくなる。このため、次のサイクルの開始時においても、正規型のサイクルの開始時と略同じ温度からガラス成形体の製造を開始することができ、成形不良の発生を防止できる。
【0076】
以上説明したように、本実施形態では、成形型52に異常が判明した場合、もしくは、成形型52の数が所定数に満たない場合に、支持台12にダミー型を取り付けることにより、以下の効果が得られる。
金型ユニット8の何れかの支持部12Bに正規型もダミー型62も載置せずに、ガラス成形体の製造を行うと、他の支持部12Bに載置された成形型52は、ヒータからより多くの放射熱を受ける。また、成形型52が載置されていないため、金型ユニット8全体の熱容量が低下する。このため、他の支持部12Bに載置された成形型52は、加熱処理及びプレス処理の際に全ての支持部12Bに正規型を載置された場合に比べてより高温になる。
【0077】
これに対して、本実施形態によれば、ダミー型62を載置することにより、他の成形型52へのヒータからの放射熱の増加を減らし、また、金型ユニット8の熱容量の低下を抑えることができるため、加熱処理及びプレス処理の際に他の成形型52が高温になるのを防止できる。
【0078】
また、金型ユニット8の何れかの支持部12Bに正規型もダミー型62も載置せずに、ガラス成形体の製造を行うと、サイクルの終了時における支持台12の支持部12Bの温度が、正規型を載置した場合に比べて低下する。このため、次のサイクルにおいて、成形型52の温度が十分に上昇せずに、成形不良を起こす。これに対して、本実施形態によれば、ダミー型62を載置することにより、このような温度低下を防止することができるため、次のサイクルにおいて、成形型52の温度が低下することを抑止できる。
【0079】
また、金型ユニット8の何れかの支持部12Bに正規型もダミー型62も載置せずに、ガラス成形体の製造を行うと、プレス処理時において、プレスヘッドが成形型(又はダミー型)に接触しない。このため、プレスヘッドの温度が低下してしまい、次にプレス処理を行う成形型の温度が低下してしまう。これに対して、本実施形態によれば、ダミー型62を載置することにより、プレスヘッドの温度低下を防止することができるため、ダミー型62の次にプレス処理を実施される成形型52の温度が低下することを抑止できる。
【0080】
このように、本実施形態によれば、ダミー型62を用いることにより、成形型52に異常が発生した場合であっても、他の成形型52及び支持台12が正規型を載置していた場合と同様の温度でプレス処理を行うことができるため、ガラス成形体に成形不良が発生するのを防止できる。
【0081】
さらに、例えば、成形型の分解、組立等の工程を、ローダーを用いて行う場合には、成形型52が無いと、エラーが発生してしまうおそれがあるが、ダミー型62を用いることにより、このようなエラーの発生を抑えることができる。
【0082】
なお、本実施形態では、回転テーブルにより円周上を金型ユニットが搬送されるガラス成形体の製造装置を用いた場合について説明したが、これに限らず、直線上に金型ユニットを搬送する場合であっても本発明を適用することができる。この場合には、交換部に換えて、上流側に金型ユニットが供給される供給部と、下流側に金型ユニットを取り出す搬出部とを設ければよい。
【0083】
また、本実施形態では、4つの支持部が設けられた金型ユニットを用いたガラス成形体の製造方法について説明したが、これに限らず、単一の成形型を搬送するための支持台、または、複数(例えば、2つ、3つ、5つ以上)の支持部が設けられている金型ユニットを用いるガラス成形体の製造方法に本発明を適用できる。
【0084】
また、本実施形態におけるガラス成形体の製造装置は、第1加熱室20、第2加熱室22、均熱室24、プレス室26、第1徐冷室28、第2徐冷室30、急冷部44及び搬入・搬出部46の合計8つの処理部を備えた装置であるが、処理部の数はこれに限らず、必要に応じて、7個以下もしくは9個以上設けても良い。例えば、第2加熱室22と均熱室24との間に第3加熱室を設けたり、第1徐冷室28と第2徐冷室30との間に第2プレス室を設けたりすることができる。なお、処理部の数を増減した場合であっても、各処理部の配置角度は均等にすることが好ましい。
【0085】
また、本実施形態では、型交換機構と搬入・搬出部46の搬入・搬出機構とを別個に設けているが、これに限らず、多関節ロボットアームにより製造装置1からの成形型52の搬入・搬出及び型の交換を行っても良い。
【0086】
また、本実施形態では、成形型の分解・組立を分解・組立機構により、成形型の異常を検知する異常検知機構により、成形型52と擬似金型との交換を型交換機構により行っているが、これらの作業は手作業で行うことも可能である。
【0087】
以下、図面を参照しながら、本発明を総括する。
本発明のガラス成形体の製造方法では、
図1に示すように、少なくとも上型54及び下型56を含み、ガラス材料60を内部に収容した成形型52を搬入及び搬出する交換部46と、搬送経路に沿って成形型52を搬送する回転テーブル8と、搬送経路に沿って設けられた、第1及び第2加熱部20、22、均熱部24、プレス部26、及び第1及び第2徐冷部28、30を含む複数の処理部と、を備えたガラス成形体の製造装置1を用いる。そして、本方法は、
図3に示すように、加熱部にて成形型を加熱処理する加熱ステップ(S12,S14)と、加熱ステップを経た成形型をプレス部26にて押圧し、内部に収容されたガラス素材をプレス成形するプレスステップ(S18)と、プレスステップを経た成形型52を冷却部にて冷却する冷却ステップ(S20,S22)と、交換部56から搬出された成形型52を分解して、成形が完了したガラス成形体を取り出し、ガラス成形体を取り出した成形型52に新たなガラス材料を装填して成形型を組立て、交換部46に成形型52を供給する材料交換ステップ(S60)を備え、材料交換ステップにおいて成形型の異常を検知した場合(S30、S34、S38、S42でYESの場合)に、異常と判断された成形型に替えて擬似金型(ダミー型)を供給部に供給する(S44)、または、成形型の数が製造装置を連続的に駆動するのに必要な所定数に満たない場合に、不足数に応じた数のダミー型を供給部に供給する。
【0088】
なお、擬似金型の比熱は成形型の比熱の±50%の範囲内とすることが好ましい。
【0089】
また、材料交換ステップにおいて、成形型に替えて供給部に擬似金型が供給された場合、加熱ステップでは、成形型と擬似金型とを同時に加熱し、冷却ステップでは、成形型と擬似金型とを同時に冷却することが好ましい。
【0090】
さらに、本実施形態では、回転盤10上には、処理室の数に応じた数の金型ユニット8が等間隔にそれぞれ離間して配置されている。このように金型ユニット8が離間して配置されているため、金型ユニット8ごとに個別に温度制御することができる。