(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記熱可塑性エラストマーが、スチレン/ブタジエン(SB)、スチレン/イソプレン(SI)、スチレン/ブタジエン/ブチレン(SBB)、スチレン/ブタジエン/イソプレン(SBI)、スチレン/ブタジエン/スチレン(SBS)、スチレン/ブタジエン/ブチレン/スチレン(SBBS)、スチレン/イソプレン/スチレン(SIS)、スチレン/ブタジエン/イソプレン/スチレン(SBIS)の各ブロックコポリマー、およびこれらのコポリマーのブレンドからなる群のうちから選ばれる、請求項7記載のタイヤ。
【背景技術】
【0002】
従来技術
金属補強材を、例えば、ポリアミドまたはポリエステルのような熱可塑性材料でシーズすることは、特に、これらの補強材を酸化または磨耗のような種々のタイプの外的侵襲から保護するために或いはこれらの補強材を一緒に結合させることによって各種のスレッド群またはコードのようなスレッドアッセンブリを構造的に強化し、従って、特に、これら補強材の座屈抵抗性を増強させる目的において、極めて長い間知られている。
【0003】
そのような複合補強材は、空気式タイヤのようなゴム物品におけるその使用と一緒に、多くの特許文献に記載されている。
特許出願 EP 0 962 562号は、例えば、耐摩耗性を改良する目的で、ポリエステルまたはポリアミドのような熱可塑性材料によってシーズした鋼製またはアラミド繊維製の補強材を記載している。
特許出願 FR 2 601 293号は、金属コードをポリアミドによってシーズしてこの金属コードを空気式タイヤビード内のビードワイヤーとして使用することを記載しており、このシーズ処理は、有利なことに、このビードワイヤーの形状が、このビードワイヤーが補強する空気式タイヤのビードの構造および操作条件に適応するのを可能にしている。
【0004】
また、特許文献 FR 2 576 247号およびUS 4,754,794号は、空気式タイヤビード内のビードワイヤーとして使用することのできる金属コードまたはスレッドを記載しており、これらのスレッドまたはコードを、一方ではこれらのスレッドまたはコード間の距離を調整する、また、他方では擦りによる磨耗または腐蝕のリスクを排除する目的でもって、異なる融点を有する2種または3種でさえの異なる熱可塑性材料(例えば、ポリアミド類)によって二重にシーズしてまたは三重にさえシーズして、これらのスレッドまたはコードを空気式タイヤビード内のビードワイヤーとして使用している。
【0005】
ポリエステルまたはポリアミド材料によってそのようにしてシーズしたこれらの補強材は、耐腐蝕性、耐摩耗性および構造的剛性という上記の利点は別にして、その後、ジエンゴムマトリックスに、少なくとも1種のジエンエラストマー、例えば、天然ゴムを含むRFL (レゾルシノール・ホルムアルデヒド・ラテックス)接着剤と称する単純な織物用接着剤を使用して結合させることができるというこれら補強材の無意味ではない利点を有し、これらの接着剤は、ポリエステルまたはポリアミド繊維のような織物繊維とジエンゴムとの間に満足し得る接着をもたらすことが知られている。
【0006】
従って、黄銅によるような接着性金属層によってコーティーングされてなく、さらにまた、コバルト塩のような金属塩を含有しないゴムマトリックスを取巻いている金属補強材を使用することが有利であり得る;金属塩は、知られている通り、接着特性を経時的に保持するのに必要であるが、一方ではゴムマトリックス自体のコストを、他方ではゴムマトリックスの酸化およびエージング感受性を有意に増大させる(例えば、特許出願 WO 2005/113666号を参照されたい)。
【0007】
しかしながら、上記のRFL接着剤は、欠点がない訳ではない:特に、RFL接着剤は、主物質として、ホルムアルデヒド、即ち、このタイプの製品に関するヨーロッパ法規の最近の変更によって接着剤組成物から長期に亘って排除することが望ましいという物質を含有している。
従って、空気式タイヤの製造業者は、現在、上記の欠点の全部または幾つかを軽減することのできる新たな接着剤系または新たな補強材を求めている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の詳細な説明
本説明においては、他で明確に断らない限り、示す百分率(%)は、全て質量パーセントである。
さらにまた、“aとbの間”なる表現によって示される値の範囲は、いずれも、aよりも大きいから出発しbよりも小さいに至る値の範囲を示し(即ち、限界値aとbを除く)、一方、“a〜b”なる表現によって示される値の範囲は、いずれも、aから出発しbに至る値の範囲を意味する(即ち、厳格な限定値aおよびbを含む)。
【0014】
本発明の空気式タイヤの複合補強材は、硬化させることによって直接不飽和ゴム組成物に接着させることができ、結果として、下記を含むという本質的特徴を有する:
・少なくとも1本の補強用スレッド(即ち、1本以上の補強用スレッド);
・上記スレッドもしくは各スレッドを個々に、または複数のスレッドを集合的に被覆する、一方のガラス転移温度(以下、Tg
1で示す)がプラスである(即ち、0℃よりも高い)熱可塑性ポリマー、他方のガラス転移温度(以下、Tg
2で示す)がマイナスである(即ち、0℃よりも低い)不飽和熱可塑性スチレンエラストマーを含む熱可塑性ポリマー組成物の層。
【0015】
換言すれば、この複合補強材は、1本の補強用スレッドまたは複数本の補強用スレッドを含み、各補強用スレッドは、熱可塑性ポリマー組成物の層(単分子層)またはシーズによって被覆されている。この補強材の構造を、以下で詳細に説明する。
【0016】
本出願においては、用語“補強用スレッド”は、一般に、その断面(この断面の形状、例えば、円形、楕円形、長方形、正方形、それとも平面形の如何にかかわらない)に対比して大きい長さを有する任意の細長い要素を意味するものと理解されたい;このスレッドは、直線状または非直線状、例えば、撚り形または波形であり得る。
【0017】
この補強用スレッドは、任意の既知の形状を有し得る。例えば、大直径(例えば、また、好ましくは50μm以上)を有する個々のモノフィラメント、個々のリボン、マルチフィラメント繊維(典型的には30μmよりも小さい小直径を有する複数の個々のフィラメントからなる)、一緒に撚り合せた複数本の繊維から形成された織物合撚糸(textile folded yarn)、一緒にケーブル被覆または撚り合せた複数本の繊維またはモノフィラメントから形成された繊維または金属コード、或いは、例えば、一緒に集束させた、例えば直線または非直線いずれかの主方向に沿って配列させた複数本のこれらのモノフィラメント、繊維、合撚糸またはコードを含むバンドまたはストリップであり得る。
上記または各補強用スレッドは、好ましくは5mmよりも小さい、特に、0.1〜2mmの範囲内の直径を有する。
【0018】
好ましくは、上記補強用スレッドは、金属補強用スレッド、特に、タイヤ用のスチールコードにおいて使用する鋼線のような炭素鋼線である。しかしながら、他のタイプの鋼、例えば、ステンレススチールを使用することも勿論可能である。炭素鋼を使用する場合、その炭素含有量は、好ましくは0.4%と1.2%の間、特に0.5%と1.1%の間の量である。本発明は、特に、標準強度またはNT (“普通引張(Normal Tensile)”)強度、高強度またはHT (“高引張(High Tensile)”)強度、超高強度またはSHT (“超高引張(Super High Tensile)”)強度、或いは極超高強度またはUHT (“極超高引張(Ultra High Tensile)”)強度を有するスチールコードタイプの任意の鋼に当てはまる。
【0019】
上記の鋼は、黄銅または亜鉛の層のような接着性層によってコーティーングし得る。しかしながら、有利には、光沢のある、即ち、コーティーングしていない鋼を使用し得る。さらにまた、本発明によれば、本発明に従う金属補強材によって補強することを意図するゴム組成物は、もはや、その配合においてコバルト塩のような金属塩の使用を必要としない。
【0020】
上記層またはシーズを構成する熱可塑性ポリマー組成物は、先ず、定義により、好ましくは+20℃よりも高い、より好ましくは+30℃よりも高い、プラスのTg (Tg
1で示す)を有する熱可塑性ポリマーを含む。さらにまた、この熱可塑性ポリマーの融点(Tmで示す)は、好ましくは100℃よりも高く、より好ましくは150℃よりも高く、特に200℃よりも高い。
【0021】
この熱可塑性ポリマーは、好ましくは、ポリアミド、ポリエステルおよびポリイミドからなる群の中から、特に、脂肪族ポリアミドおよびポリエステルからなる群の中から選ばれる。ポリエステルのうちでは、例えば、PET (ポリエチレンテレフタレート)、PEN (ポリエチレンナフタレート)、PBT (ポリブチレンテレフタレート)、PBN (ポリブチレンナフタレート)、PPT (ポリプロピレンテレフタレート)およびPPN (ポリプロピレンナフタレート)を挙げることができる。脂肪族ポリアミドのうちでは、特に、ポリアミド4,6、6、6,6、11および12を挙げることができる。この熱可塑性ポリマーは、好ましくは脂肪族ポリアミド、より好ましくはポリアミド6またはポリアミド11である。
【0022】
上記熱可塑性ポリマー組成物の第2の本質的な構成成分は、定義によれば、好ましくは−20℃よりも低い、より好ましくは−30℃よりも低いマイナスのTg (Tg
2)を有する不飽和熱可塑性スチレンエラストマーである。
従って、また、本発明の好ましい実施態様によれば、上記熱可塑性ポリマーと上記不飽和TPSエラストマーとのガラス転移温度の差(Tg
1−Tg
2)は、40℃よりも大きく、より好ましくは60℃よりも大きい。
【0023】
ここで、TPS (熱可塑性スチレン)エラストマーは、スチレン系ブロックコポリマーの形の熱可塑性エラストマーであることを思い起されたい。これらの熱可塑性エラストマーは、熱可塑性ポリマーとエラストマーの中間の構造を有し、知られている通り、エラストマー軟質配列、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレンまたはポリ(エチレン/ブチレン)配列によって連結されたポリスチレン硬質配列から構成される。
【0024】
このことが、知られている通り、TPSコポリマーが、一般に、2つのガラス転移ピーク、即ち、TPSコポリマーのエラストマーブロックに関連する第1(低い、Tg
2に相当するマイナスの温度)ピークと、一方のTPSコポリマーの熱可塑性(スチレンブロック)部分に関連する第2(高い、プラスの温度、典型的にはおよそ80℃)ピークの存在に特徴を有する理由である。
【0025】
これらのTPSエラストマーは、多くの場合、1つの軟質セグメントよって連結された2つの硬質セグメントを有するトリブロックエラストマーである。硬質および軟質セグメントは、線状形で或いは星型または枝分れ構造で配列させ得る。また、これらのTPSエラストマーは、1つの軟質セグメントに結合した1つの硬質セグメントを有するジブロックエラストマーでもあり得る。典型的には、これらのセグメントまたはブロックの各々は、最低でも5個よりも多い、一般的には10個よりも多い基本単位(例えば、スチレン/イソプレン/スチレンブロックコポリマーにおける場合のスチレン単位とイソプレン単位)を有する。
【0026】
注記すれば、本発明に従う複合補強材において使用するTPSエラストマーの1つの本質的な特徴は、上記TPSエラストマーが不飽和であるという事実である。“TPSエラストマー”なる表現は、定義によれば、また、周知の通り、エチレン系不飽和基を含有するTPSエラストマーであると理解されたい、即ち、上記TPSコポリマーは、炭素‐炭素二重結合(共役型であるまたは共役型でないのいずれか)を含有する。逆に、飽和TPSエラストマーは、勿論、そのような二重結合を含有しないTPSエラストマーである。
【0027】
好ましくは、上記不飽和エラストマーは、スチレン(即ち、ポリスチレン)ブロックと、ジエン(即ち、ポリジエン)ブロック、特に、イソプレン(ポリイソプレン)またはブタジエン(ポリブタジエン)ブロックとを含むコポリマーである。そのようなエラストマーは、特に、スチレン/ブタジエン(SB)、スチレン/イソプレン(SI)、スチレン/ブタジエン/ブチレン(SBB)、スチレン/ブタジエン/イソプレン(SBI)、スチレン/ブタジエン/スチレン(SBS)、スチレン/ブタジエン/ブチレン/スチレン(SBBS)、スチレン/イソプレン/スチレン(SIS)、スチレン/ブタジエン/イソプレン/スチレン(SBIS)の各ブロックコポリマー、およびこれらコポリマーのブレンドからなる群の中から選ばれる。
【0028】
さらに好ましくは、この不飽和エラストマーは、スチレン/ブタジエン/スチレン(SBS)、スチレン/ブタジエン/ブチレン/スチレン(SBBS)、スチレン/イソプレン/スチレン(SIS)、スチレン/ブタジエン/イソプレン/スチレン(SBIS)の各ブロックコポリマー、およびこれらコポリマーのブレンドからなる群の中から選ばれるトリブロックタイプのコポリマーであり;さらに詳細には、この不飽和エラストマーは、SBSまたはSIS、特にSBSである。
【0029】
本発明のもう1つの好ましい実施態様によれば、上記不飽和TPSエラストマー中のスチレン含有量は、5%と50%の間の量である。上記の範囲外では、意図する技術的効果、即ち、一方の上記熱可塑性ポリマーの層に対しての、また、他方のさらに上記補強材の使用を意図するジエンエラストマーに対しての接着性妥協点がもはや最適でなくなるリスクが存在する。これらの理由により、スチレン含有量は、さらに好ましくは、10%と40%の間の量である。
【0030】
上記TPSエラストマーの数平均分子量(M
n)は、好ましくは5000g/モルと500,000g/モルの間、より好ましくは7000g/モルと450,000g/モルの間である。上記TPSエラストマーの数平均分子量(M
n)は、SEC (立体排除クロマトグラフィー)により、既知の方法で測定する。試験標本を、先ず、約1g/lの濃度でテトラヒドロフラン中に溶解し、その後、溶液を、0.45μmの有孔度を有するフィルター上で、注入前に濾過する。使用する装置は、WATERS Allianceクロマトグラフである。溶出溶媒はテトラヒドロフランであり、流量は0.7ml/分であり、系の温度は35℃であり、分析時間は90分である。4本のWATERS “STYRAGEL”カラムセット(HMW7カラム、HMW6Eカラムおよび2本のHT6Eカラム)を直列で使用する。ポリマー試験標本溶液の注入容量は、100μlである。検出器はWATERS 2410示差屈折計であり、クロマトグラフデータを処理するその関連ソフトウェア、WATERS MILLENNIUMシステムである。算出した平均分子量を、ポリスチレン標準によって得られた較正曲線と対比する。
【0031】
例えば、SB、SBS、SBBS、SISまたはSBISのような不飽和TPSエラストマーは、既知であって、例えば、Kraton社から品名“Kraton D”(例えば、SB、SISおよびSBSエラストマーの場合、製品D1161、D1118、D1116、D1163)として、Dynasol社から品名“Calprene”(例えば、SBSエラストマーの場合、製品C405、C411およびC412)として、或いはAsahi社からの品名“Tuftec”(例えば、SBBSエラストマーの場合、製品P1500)として商業的に入手可能である。
【0032】
上記各熱可塑性ポリマーのガラス転移温度(Tg
1およびTg
2)は、例えば、また、本出願において明記した特段の指摘を除いて、ASTM D3418 (1999年)規格に従い、DSC (示差走査熱量測定法)によって既知の方法で測定する。
【0033】
本明細書に添付した
図1は、本発明に従うタイヤ用に適する複合補強材の第1の例を、断面において極めて略図的に示している(特定の縮尺で描いていない)。R‐1で示すこの複合補強材は、例えば、炭素鋼製の比較的大直径(例えば、0.10mmと0.50mmの間)を有する単一フィラメントまたはモノフィラメントからなる補強用スレッド(10)からなり、スレッド(10)は、一方の、例えばポリアミドまたはポリエステルから製造したプラスのガラス転移温度(Tg
1)を有する熱可塑性ポリマーと、他方の、マイナスのガラス転移温度(Tg
2)を有する不飽和TPSエラストマー、例えば、SB、SBS、SBBS、SISまたはSBISとを含む層(11)によって被覆されている;この層の最小厚は、この
図1においてはE
mで示している。
【0034】
図2は、本発明に従うタイヤ用に適する複合補強材の第2の例を、断面において略図的に示している。R‐2で示すこの複合補強材は、例えば、炭素鋼製の一緒に撚り合せたまたはケーブル被覆した比較的大直径(例えば、0.10mmと0.50mmの間)を有する2本の単一フィラメントまたはモノフィラメント(20a、20b)から実際になる補強用スレッド(20)からなっている。補強用スレッド(20)は、一方の、例えばポリアミドまたはポリエステルから製造したプラスのガラス転移温度(Tg
1)を有する熱可塑性ポリマーと、他方の、マイナスのガラス転移温度(Tg
2)を有する不飽和TPSエラストマー、例えば、SB、SBS、SBBS、SISまたはSBISとを含む、最小厚E
mを有する層(21)によって被覆されている。
【0035】
図3は、本発明に従うタイヤ用に適する複合補強材のもう1つの例を、断面において略図的に示している。R‐3で示すこの複合補強材は、各々が、例えば、鋼製または炭素製の一緒に撚り合せたまたはケーブル被覆した比較的大直径(例えば、0.10mmと0.50mmの間)を有する2本のモノフィラメント(30a、30b)からなる3本の補強用スレッド(30)からなっている。例えば上記3本の配列させた補強用スレッド(30)によって形成されたアッセンブリは、一方の、例えばポリアミドまたはポリエステルから製造されたプラスのガラス転移温度(Tg
1)を有する熱可塑性ポリマーと、他方の、マイナスのガラス転移温度(Tg
2)を有する不飽和TPSエラストマー、例えば、SB、SBS、SBBS、SISまたはSBISとを含む層(31)によって被覆されている。
【0036】
図4は、本発明に従うタイヤ用に適する複合補強材のもう1つの例を、この場合も断面において略図的に示している。この複合補強材R‐4は、中心線またはコア線(41a)と該中心線の周りにらせん状に一緒に巻付けた同じ直径を有する6本のフィラメント(41b)とを有する1+6本構成のスチールコードからなる補強用スレッド(40)を含む。この補強用スレッドまたはコード(40)は、一方のポリアミドと他方のSBSエラストマーとを含むポリマー組成物の層(42)によって被覆されている。
【0037】
例えば上記
図1〜4において略図的に示している複合補強材のような、本発明に従うタイヤの複合補強材においては、上記単数または複数本の補強用スレッドを取り囲むシーズの最小厚E
mは、本発明の特定の製造条件に応じて、極めて広く変動し得る。上記最小厚は、好ましくは1μmと2mmの間、より好ましくは10μmと1mmの間である。
【0038】
複数本の補強用スレッド(特に、複数本のコード)を使用する場合、上記コーティング層またはシーズは、例えば上記で説明した
図1、2および4に示しているように、補強用スレッドの各々上(特に各コード上)に個々に付着させ得るか(注:これらの補強用スレッドは、単一であっても或いは単一でなくてもよい)、或いは、例えば
図3に示しているように、適切に整列させた、例えば、主方向に沿って配列させた複数本の補強用スレッド(特に数本のコード)上に集合的に付着させてもよい。
【0039】
本発明のタイヤの複合補強材は、少なくとも1本(即ち、1本以上)の補強用スレッドを、好ましくは、押出ヘッドに通して、プラスのガラス転移温度(Tg
1)を有する上記熱可塑性ポリマーとマイナスのガラス転移温度(Tg
2)を有する上記不飽和熱可塑性スチレンエラストマーとを含む上記の熱可塑性ポリマー組成物の層によってシーズすることによるシーズ処理操作に供する工程を少なくとも含む特定の方法によって製造する。
上記シーズ処理工程は、当業者にとって既知の方法で、インラインにおいて連続して実施する。例えば、この工程は、単純に、上記補強用スレッドを適切な温度に加熱した押出ヘッド内の適切な直径のダイに通すことからなる。
【0040】
好ましい実施態様によれば、単数または複数の上記補強用スレッドを、例えば、誘導加熱によってまたはIR照射によって、押出ヘッドに通す前に予熱する。押出ヘッドを出た時点で、そのようにしてシーズした単数または複数の補強用スレッドを、その場合、例えば、低温の空気または他のガスを使用して或いはスレッド(1本以上)を水浴に、次いで、乾燥工程に通すことによって、十分に冷却してポリマー層が固化するようにする。
そのようにして得られた複合補強材は、必要に応じて、押出後或いはその後の冷却後に直接加熱処理に供し得る。
【0041】
一例として、約1mmの総直径を有するシーズ被覆補強用スレッドを得るには、約0.6mmの直径を有する補強用スレッド、例えば、一緒に撚り合せた直径0.3mmの2本の個々のモノフィラメントから単純になる金属コード(例えば、
図2に示すような)を、約0.4mmに等しい最大厚を有するポリアミド11とSBSまたはSBエラストマーとの組成物(質量比85/15)の層によって、2個のダイ、即ち、約0.65mmに等しい直径を有する第1ダイ(カウンターダイまたは上流ダイ)および約0.95mmに等しい直径を有する第2ダイ(または下流ダイ)を含み、両ダイが約210℃に加熱した押出ヘッド内に置かれている押出/シーズ処理ライン上で被覆する。ポリアミドとTPSエラストマーとの上記混合物は、押出機内の210℃の温度で溶融し、従って、シーズ処理ヘッドを典型的に数十g/分の押出ポンプ速度において典型的には数十m/分のスレッド移動速度で通過するときのコードを被覆する。このシーズ処理ダイを出た時点で、上記コードは、巻き取りリールを乾燥用のオーブン内を通過させる前に、低温水を充たしたタンク内に浸漬して冷却し得る。
【0042】
上記のシーズ処理工程においては、上記コード(補強用スレッド)を、有利には、押出ヘッドに通す前に、例えば、高周波発生器にまたは加熱用トンネルに通すことによって予熱する。
【0043】
このシーズ処理操作後、即ち、上述したシーズ処理ヘッドを出た時点で直接、上記複合補強材は、例えば長さ数メートルのトンネル炉を通り、その中で空気中の加熱処理を受ける。この処理温度は、例えば、場合に応じての数秒〜数分の処理時間(例えば、10秒と10分の間の時間)において150℃と300℃の間である;処理時間が短いほど温度は高いことおよび上記加熱処理は、必ずしも、使用する熱可塑性材料に再溶融を或いは過剰の軟化をもたらす必要はないことを理解されたい。そのようにして完成させた本発明の複合補強材は、有利には、例えば空気中で冷却して、望ましくない粘着問題を回避すると共に、最終の巻取りリール上に巻上げる。
【0044】
必要に応じて、当業者であれば、上記任意の加熱処理の温度および時間を、本発明の特定の操作条件に応じて、特に、製造した複合補強材の正確な性質に応じて、特に、上記処理が、個々に使用したモノフィラメント、数本のモノフィラメントまたはそのようなモノフィラメントの1群を含むコード或いはストリップのようなコードのいずれに対するのかに応じて、如何にして調整するは承知していることであろう。特に、当業者であれば、処理温度および処理時間を変更して、継続的な近似化により、本発明の特定の実施態様毎に最良の接着結果を得る操作条件を見出すという利益を有するであろう。
【0045】
上記で説明した方法の工程には、有利には、上記補強材を三次元架橋して、特にこの複合補強材を最終的に比較的高温において典型的には100℃よりも上で使用することを意図する場合、そのシーズの固有凝集力をさらに増強させる最終処理を追加し得る。
【0046】
この架橋は、任意の既知の方法によって、例えば、イオンまたは電子衝撃のような物理的架橋方法によって、或いは化学的架橋方法によって、例えば、架橋剤(例えば、アマニ油)を、熱可塑性ポリマーおよびTPSエラストマー組成物に、例えば、押出加工しながら混入することによってまたは加硫系(即ち、イオウベースの架橋系)をこの組成物に混入することによって実施し得る。
また、架橋は、本発明に従う複合補強材により補強することを意図する空気式タイヤの硬化中にも、そのようなタイヤを製造するのに使用するジエンゴム組成物中に存在し本発明に従う複合補強材と接触する固有の架橋系によって生じ得る。
【0047】
上記複合補強材は、直接、即ち、何らの追加の接着系を必要としないで、空気式タイヤにおける補強要素として使用することができる。有利なことに、上記複合補強材は、全てのタイプの車両用の、特に、乗用車用または重量車のような産業用車両用の空気式タイヤを補強するのに使用し得る。
1つの例として、本明細書に添付した
図5は、乗用車用の本発明に従う空気式タイヤの半径断面を極めて略図的に示している(特定縮尺に準じて描いていない)。
【0048】
この空気式タイヤ1は、クラウン補強材即ちベルト6によって補強されたクラウン2、2枚の側壁3および2つのビード4を有し、これらのビード4の各々は、ビード線5によって補強されている。クラウン2は、トレッド(この略図には示していない)が取付けられている。カーカス補強材7は、各ビード4内の2本のビード線5の周りに巻付けられており、この補強材7の上返し8は、例えば、タイヤ1の外側に向って位置しており、この場合、タイヤリム9上に取付けて示している。カーカス補強材7は、それ自体知られている通り、コード、いわゆる“ラジアル”コード、例えば、繊維または金属コードによって補強されている少なくとも1枚のプライからなる、即ち、これらのコードは、実際上、互いに平行に配置されて一方のビードから他方のビードに延びて円周正中面(2つのビード4からの中間距離に位置しクラウン補強材6の中央を通るタイヤの回転軸に対して垂直の面)と80°と90°の間の角度をなしている。
【0049】
本発明のこの空気式タイヤ1は、例えば、そのクラウンまたはカーカス補強材の少なくとも1つが上述したような複合補強材を含むという本質的な特徴を有する。本発明のもう1つの実施可能な実施態様によれば、その実施態様は、例えば、この複合補強材から製造し得るビード線5である。
【0050】
本発明の実施態様
試験 1:複合補強材の製造
本発明に従うタイヤ用に適する複合補強材を、先ず、以下の方法で製造した。出発補強用スレッドは、10mmのらせんピッチで一緒に撚り合せた直径0.30mmの2本の個々のスレッドまたはモノフィラメントからなる1×2本構造での標準鋼(0.7質量%の炭素含有量を有する)から製造された空気式タイヤ用のスチールコードであった。コード直径は0.6mmであった。
【0051】
このコードを、一方のポリアミド11 (Arkema社からのRilsen BESNO P40TL;約180℃に等しいT
m)と他方のSBSまたはSB (それぞれ、Kraton社からのそれぞれD1155とD1118)との混合物で、押出‐シーズ処理ラインにおいて、上記コードを210℃の温度に加熱し且つ2個のダイ(直径0.63mmの上流ダイと直径0.92mmの下流ダイ)を含む押出ヘッドに通すことによって被覆した。ポリアミド11(約51g/分のポンプ速度)とSBSまたはSB(約9g/分のポンプ速度)からなる熱可塑性混合物を210℃の温度に加熱し、そのようにして、60m/分の速度で移動する上記スレッド(高周波発生器に通すことによって約174℃に予熱した)を被覆した。シーズ処理ヘッドを出た時点で、得られた複合補強材は、5℃の水を充たした冷却用タンクに連続して移動させて、その熱可塑性シーズを、空気ノズルを使用して乾燥させる前に冷却した。
【0052】
上記で使用した2つのタイプのポリマーのガラス転移温度(Tg
1およびTg
2)は、それぞれ、約+45℃および−95℃に等しかった(例えば、次の操作手順に従って測定した:Mettler Toledo社からの822‐2 DSC装置;ヘリウム雰囲気、室温(20℃)から100℃に予熱し(20℃/分で)、次いで、20℃/分にて−140℃から+250℃までのDSC曲線を最終的に記録する前に、−140℃に急速冷却した試験標本)。
【0053】
このシーズ処理操作後、これらの実施例においては、アッセンブリを、このアッセンブリを、トンネル炉内で、270℃の温度に加熱した周囲雰囲気(空気)中に3m/分で通すことによって約100秒間の加熱処理に供した。この処理により、そのポリアミドとエラストマー(SBSまたはSB)の層によってシーズされた初期スチールコードからなる本発明に従うタイヤ用に適する複合補強材(
図2に略図的に示しているような補強材R‐2)が得られた;その接着特性は、最適であった。
【0054】
上記の試験における加熱処理の最良の操作条件を決定するために、4通りの処理時間(50秒、100秒、200秒および400秒)における160℃から280℃までの温度範囲を、前以って検証していた。
【0055】
試験 2:接着試験
その後、ゴムと上記で製造した複合補強材との結合の質を、上記補強材を加硫物とも称する加硫ゴム組成物から引き抜くのに要する力を測定する試験によって評価した。このゴム組成物は、天然ゴム、カーボンブラックおよび標準添加剤をベースとする、金属タイヤベルトプライのカレンダー加工において使用する通常の組成物であった。
【0056】
加硫物は、200mm×4.5mmを計測し3.5mmの厚さを有し、硬化前に互いに対して適用した2枚のシーズからなるゴムブロックであった(得られたブロックの厚さは、その場合、7mmであった)。このブロックの引抜きにおいては、複合補強材(総計で15本のストランド)を未硬化状態の2枚のゴムシートの間に等間隔で離して閉じ込め、各複合補強材の一端がこれらのシートのいずれかの側面上にその後の引張試験のための十分な量突出するようにした。その後、上記補強材を含むブロックを適切なモールド内に入れ、次いで、圧力下に硬化させた。当業者の裁量に委ねる硬化温度および硬化時間を、意図する試験条件に適応させた。例えば、本例においては、ブロックを、16バールの圧力下に160℃で15分間硬化させた。
【0057】
硬化させた後、そのように加硫ブロックと15本の補強材からなる試験標本を適切な引張試験装置の顎の間に置いて各補強材をゴムから所定の引張速度および所定の温度(例えば、本例においては、それぞれ、50mm/分および100℃)で個々に引張った。接着レベルは、補強材を試験標本から引抜くための引抜き力(F
maxで示す)を測定することによって特性決定した(このレベルは、15回の引張試験の平均である)。
【0058】
本発明に従う複合補強材は、RFL接着剤(またはあらゆる他の接着剤)を含有しないという事実にもかかわらず、ポリアミド11で単純にシーズし且つ通常のRFL接着剤を使用して結合させた、既に当業者等にとって卓越した結果を構成する対照複合補強材において測定した対照引抜き力の約52%(SBエラストマー)または約57%(SBSエラストマー)に等しい高い引抜き力F
maxを有することが判明した。
同じ試験条件下において、ポリアミド11(SBSエラストマーを含まない)で単純にシーズ被覆したがRFL接着剤(またはあらゆる他の接着剤)を含有しない対照複合補強材は、ゴムへの接着を示さなかった(実際にゼロの引抜き力)。
【0059】
また、さらなる試験は、不飽和TPSエラストマー(SBまたはSBS)のシーズ被覆層の構成成分としてではなくゴムカレンダー加工用組成物中に混入させた接着剤としての使用(従って、複合補強材と常に接触している)は、接着性寄与をもたらさなかったことを実証していた。
【0060】
結果として、本発明に従う複合補強材は、その自己接着特性故に、得られた接着レベルにより、ポリアミドまたはポリエステルのような熱可塑性材料でシーズ被覆し、知られている通り、ゴムに接着するのを確保するためにはRFL接着剤の使用を必要とする従来技術の複合補強材に対する特に有用で且つ全く信頼し得る代替品を構成する。
更に本発明は以下の態様であり得る。
〔1〕下記を含む複合補強材を含むことを特徴とする空気式タイヤ:
・1本以上の補強用スレッド;
・前記スレッドもしくは各スレッドを個々に、または複数のスレッドを集合的に被覆する、一方のガラス転移温度がプラスである熱可塑性ポリマー、他方のガラス転移温度がマイナスである不飽和熱可塑性スチレンエラストマーを含む熱可塑性ポリマー組成物の層。
〔2〕前記熱可塑性ポリマーのガラス転移温度が、+20℃よりも高い、前記〔1〕記載のタイヤ。
〔3〕前記不飽和熱可塑性スチレンエラストマーのガラス転移温度が、−20℃よりも低い、前記〔1〕または〔2〕記載のタイヤ。
〔4〕前記熱可塑性ポリマーと前記不飽和熱可塑性スチレンエラストマーとのガラス転移温度の差が、60℃よりも大きい、前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項記載のタイヤ。
〔5〕前記熱可塑性ポリマーが、脂肪族ポリアミドまたはポリエステルである、前記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項記載のタイヤ。
〔6〕前記熱可塑性ポリマーが、ポリアミド6またはポリアミド11である、前記〔5〕記載のタイヤ。
〔7〕前記熱可塑性エラストマーが、スチレンブロックとジエンブロックを含むコポリマーである、前記〔1〕〜〔6〕のいずれか1項記載のタイヤ。
〔8〕前記ジエンブロックが、イソプレンまたはブタジエンブロックである、前記〔7〕記載のタイヤ。
〔9〕前記熱可塑性エラストマーが、スチレン/ブタジエン(SB)、スチレン/イソプレン(SI)、スチレン/ブタジエン/ブチレン(SBB)、スチレン/ブタジエン/イソプレン(SBI)、スチレン/ブタジエン/スチレン(SBS)、スチレン/ブタジエン/ブチレン/スチレン(SBBS)、スチレン/イソプレン/スチレン(SIS)、スチレン/ブタジエン/イソプレン/スチレン(SBIS)の各ブロックコポリマー、およびこれらのコポリマーのブレンドからなる群のうちから選ばれる、前記〔8〕記載のタイヤ。
〔10〕前記熱可塑性エラストマーが、SBSまたはSISコポリマー、好ましくはSBSコポリマーである、前記〔9〕記載のタイヤ。
〔11〕前記熱可塑性エラストマーが、5質量%と50質量%の間の量のスチレンを含む、前記〔1〕〜〔10〕のいずれか1項記載のタイヤ。
〔12〕前記層の最小厚が、1μmと2mmの間である、前記〔1〕〜〔11〕のいずれか1項記載のタイヤ。
〔13〕前記補強用スレッドが、金属線である、前記〔1〕〜〔12〕のいずれか1項記載のタイヤ。
〔14〕前記金属線が、炭素鋼線である、前記〔13〕項記載のタイヤ。