【文献】
European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics,69 (2008),426-435
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ナノ粒子の50%以上が、SEM,NTA、又は、DLSのいずれかによって測定されたときに、50〜150nmの大きさを有している、請求項2に記載に送達システム。
前記薬剤が、ドキソルビシン((7S、9S)‐7 - [(2R、4S、5S、6S)‐4‐アミノ‐5‐ヒドロキシ‐6−メチルオキサン‐2−イル]オキシ‐6 、9、11−トリヒドロキシ‐9‐(2‐ヒドロキシアセチル)‐4‐メトキシ‐8、10‐ジヒドロ‐7H‐テトラセン‐5、12‐ジオン)、シクロホスファミド((RS)‐N,N‐ビス(2‐クロロエチル)‐1,3,2‐オキサザホスフィナン‐2−アミン2‐オキシド)、又は、カルムスチン(N、N’−ビス(2 − クロロエチル)−N−ニトロソウレア)である、請求項7に記載の送達システム。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<標的粒子サイズ>
図1を参照すると、粒度は、投与後の薬物又は薬物送達機構の運命を決定するのに重要な役割をする。微粒子(microparticle)は、サイズが1ミクロン以上の粒子であり、毛細血管系(pulmonary capillary system)によって数分以内に身体から除去される。
【0026】
しかし、ナノ粒子(nanoparticle)(粒子サイズは1ミクロン未満)は、網状内皮系(RES)の食細胞作用を有する細胞によって血流から速やかに除去され得る。文献[Park, K., "Controlled Drug Delivery: Challenges and Strategies", American Chemical Society, Washington, DC, 1997 and Davis, S.S., "Microspheres and Drug Therapy: Pharmaceutical, Immunological and Medical Aspects", Elsevier, New York, NY, USA, Chapter 2, 1984)]参照。一つの研究(デイビス、1984)によれば、ポリ(スチレン)ラテックスのコロイド粒子を投与すると、その粒子は、肝臓のクッパー細胞に現れ、その後、脾臓に現れる。全身系へのラテックス粒子の漏れは、直径100nm未満の粒子で発生したが、直径200〜500nmの粒子は5分以内に血液から除去された。
【0027】
サイズが70nm未満の粒子は、毛細血管壁通路(Capillary wall passage)を通って取り込まれることが知られており、速やかに被験者から排泄される。従って、非常に小さい粒子はまた、長い全身循環にさらされない。これは、ほとんどの薬やアプタマーを含む。
【0028】
サイズ50〜100nm程度の範囲の粒子は、毛細管壁通路を通って、及び、RESによって取り込まれることがある。しかし、両方のメカニズムは、最大約150 nmまでこのサイズ範囲の粒子に対してのみ有効であり得る。特定の理論にこだわるつもりはないが、50〜150nm程度のサイズを有する粒子は、このサイズ範囲内にあるということの結果として、RESによる取り込みに影響を及ぼし得る表面密度又は親水性のような粒子のその他の特性とは独立して、より長い全身循環にさらされる。
【0029】
<生体高分子ナノ粒子>
生体高分子ナノ粒子は米国特許第6677386号(国際公開WO00/69916に対応する)に記載されたプロセスに基づいて製造され得る。そのプロセスでは、生体高分子、例えば、アミロースまたはアミロペクチンまたは両方を含む澱粉は、可塑剤と組み合わされる。この組み合わせ(combination)は、生体高分子を可塑化し、生体高分子の結晶構造が除去された熱可塑性の溶融相(melt phase)を作成するために、好ましくは、2軸スクリューの十分にかみ合った共回転押出機で、高剪断力下で混合される。混合を続けて架橋ナノ粒子を形成しながら、架橋剤を添加する。ナノ粒子は細かい乾燥粉末に粉砕されるストランド(strand)として押出機から出される。澱粉系ナノ粒子は凝集形態で粉末に存在し、水性媒体中に分散され得る。
【0030】
生体高分子(biopolymer)は、澱粉、又は、セルロース及びガムのようなその他の多糖類だけでなく、たんぱく質(例えば、ゼラチン、乳清タンパク質)であり得る。生体高分子は、例えばアシル化、リン酸化、ヒドロキシアルキル化、酸化等によってカチオン性基、カルボキシ‐メチル基などで予め修飾され得る。澱粉及び少なくとも50%澱粉と他のポリマーとの混合物も好ましい。澱粉(単独又は混合物として使用される)は、例えば、少なくとも10,000の分子重量を有する高分子重量の澱粉であることが好ましく、デキストラン又はデキストリンではない。例えば、澱粉は、アミロースまたはアミロペクチン又は両方で構成されても良い。例えば、ろう状トウモロコシ澱粉(waxy corn starch)のようなろう状澱粉は、特に好ましい。
【0031】
次の5つの段落は、ナノ粒子を製造するプロセスに関する米国特許第6677386号の内容を要約したものである。
【0032】
生体高分子は、好ましくは、処理開始時に、少なくとも50重量%の乾燥物質含量を有する。処理は、好ましくは少なくとも40℃の温度で行なうが、ポリマーの分解温度以下の温度、例えば200℃で行う。せん断は、バイオポリマーのgあたり100J以上の比機械エネルギー(specific mechanical energy;SME)を適用することによって行うことができる。使用される処理装置によっては、最小エネルギーが高くなることもある。また、非−事前ゼラチン化材料(non-pregelatinised material)を用いた場合、最小SMEは、より高くなり得る。例えば、少なくとも250 J / gであり、特に、少なくとも500 J / gであり得る。
【0033】
可塑剤は、水またはポリオール(エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリグリコール、グリセロール、糖アルコール、尿素、クエン酸エステルなど)であり得る。可塑剤の合計量(即ち、水と、グリセロールなど他のもの)は、好ましくは15〜50%である。レシチン、他のリン脂質またはモノグリセリドなどの潤滑剤も、0.5〜2.5重量%のレベルで存在し得る。酸、例えば、固体又は半固体有機酸、例えば、マレイン酸、クエン酸、シュウ酸、乳酸、グルコン酸、または炭水化物分解酵素、例えば、アミラーゼは、生体高分子の0.01〜5重量%のレベルで存在し得る。酸または酵素は、特定サイズのナノ粒子の製造方法において有利と思われるわずかな脱重合(slight depolymerisation)を補助する。
【0034】
架橋は、機械的な処理工程後に部分的または完全に切断(分裂)される、即ち、可逆的であるのが好ましい。好適な可逆的架橋剤(reversible crosslinker)は、より高い水濃度の存在下で解離又は加水分解し、低い水濃度で化学結合を形成するものを含む。この架橋形式は、処理時に一時的な高い粘度を伴うが、処理後に、より低い粘度となる。
【0035】
可逆架橋剤の例としては、可逆的にヘミアセタール、酸無水物及び混合無水物(例えば、コハク酸及び無水酢酸)などを形成するジアルデヒド、ポリアルデヒド等である。適切なジアルデヒド及びポリアルデヒドとしては、グルタルアルデヒド、グリオキサール(glyoxal)、過ヨウ素酸化炭水化物(periodate-oxidised carbohydrate)などである。グリオキサールが特に適した架橋剤である。
【0036】
このような架橋剤は単独でまたは可逆的架橋剤の混合物として、又は、可逆的又は非か逆的架橋剤の混合物として使用することができる。したがって、ジアルデヒド、チオール試薬等がタンパク質性生体高分子に対して使用することができる一方で、多糖類生体高分子用の非可逆的架橋剤として通常の架橋剤、例えば、エピクロロヒドリンおよびその他のエポキシド、三リン酸、ジビニルスルホン等の従来の架橋剤を使用することができる。架橋反応は、酸又は塩基触媒を用いてもよい。架橋剤のレベルは、通常、生体高分子に対して0.1〜10重量%のとすることができる。架橋剤は、既に機械的処理の開始時に存在してもよいが、粒状澱粉などの非事前ゼラチン化(non-pre-gelatinised)生体高分子の場合には、架橋剤は、機械的処理時に(即ち、機械的処理の間に)添加することが好ましい。
【0037】
機械的処理を受けた(mechanically treated)、架橋生体高分子は、その後、溶媒、通常、水及び/又はその他のヒドロキシル溶媒(hydroxylic solvent)(アルコールなど)中で4〜50重量%の濃度、特に、10〜40重量%の濃度に分散させることによって、ラテックスに形成される。分散に先立って極低温粉砕工程(cryogenic grinding step)を行うことができるが、穏やかに加熱しながら攪拌しても同様の効果が得られる。この処理によって、ゲルが得られるが、そのゲルは、自発的にまたは水吸着による誘導後に、ラテックスに分割される。この粘度挙動は、改善された混合などの粒子の適用のために使用することができる。必要に応じて、前述した架橋剤又は別の架橋剤を用いて、分散された生体高分子を更に架橋させても良い。押出物(extrudate)は、水性溶媒、例えば、水またはアルコールのような水混和性溶媒で膨脹すること、及び、その後粘度低下を示してナノ粒子の分散液を生成することを特徴とする。
【0038】
国際特許出願公開番号WO2008/022127 A2と同等の米国特許出願公開番号2011/0042841 A1には、生体高分子ナノ粒子を大量に製造するためのプロセスを説明する。米国特許出願公開番号2010/0143738 Aに1は、押出工程中の添加剤と生体高分子ナノ粒子の製造方法が記載されている。これらの公報は、参考までに本明細書に組み込まれる。
【0039】
その処理を行うことで、数平均粒度(number average particle size)が50〜150nmであり、その粒度分布が主に50〜150nmである粒子を生成することができる。かかる粒子は、例えば、エコシンテティクウス(Ecosynthetix)有限会社(米国ミシガンランシン所在)およびエコシンテティクウス株式会社(カナダオンタリオバーリントン所在)が市販するEcoSphere(登録商標)2202を含む。これらの製品は、主にアミロースとアミロペクチンを含む澱粉から製造される。製品は、通常、コート紙(coated paper)や板紙(paperboard)などの産業用用途に石油系ラテックスバインダーを取り替えるために販売されている。製品は、約300ミクロンの容積平均直径(volume mean diameter)を有する凝集ナノ粒子の乾燥粉末の形態で提供される。水中で混合・攪拌されたとき、凝集体は破壊され、ナノ粒子の安定した分散体を形成する。
【0040】
図2Aおよび2Bを比較すると、EcoSphere(登録商標)2202ナノ粒子10は、天然澱粉粒子20よりも約100〜300倍小さい。澱粉粒子20の粒度が15ミクロンであるに対して、ナノ粒子10の粒度は明らかに200nmを下回る。したがって、ナノ粒子10の有効表面積は、かなり大きく、例えば、1gあたり200平方メートル以上である。
【0041】
図4は、動力レーザー光散乱(Dynamic Laser Light Scattering; DLS)およびナノ粒子追跡分析(Nanoparticle Tracking Analysis; NTA)によるEcoSphere(登録商標)ナノ粒子の水分散液の粒径測定結果を示す。NTA技術は、ビデオトラッキングソフトウェア(video tracking software)を介して追跡された個々の粒子の拡散係数を直接測定する(および、それをストークス・アインシュタイン方程式を介して粒子径に関連させる)ものであり、そして、DLSが50nm未満のより小さい粒度を測定できるものに対して、50−1000nmの粒度を測定できる。走査型振動プローブ原子間力顕微鏡(AFM)、電子顕微鏡(SEM)、環境SEM(ESEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)および走査/透過電子顕微鏡(STEM)を、を含む他の技術はすべて
図3および
図4のデータと一致する同様の粒度画像を提供した。
【0042】
図3を参照すると、粒子のほとんどは約50〜100nm程度の範囲内のサイズを有する。また、
図3は、明らかに約10ミクロンのサイズを有する多数の粒子を示す。しかしながら、
図2および
図4のNTA測定に示されたような凍結乾燥試料の走査電子顕微鏡写真のような他の測定値に基づいて、本発明者らは、このようなより大きい粒子が試料において過剰に表現される(over-represent)可能性があり、また、その結果は、粒子の集積を含むかまたは、DLS測定における異常を含む可能性があると考える。NTA測定に示されたように、粒子の大部分(D50)はサイズ120nm未満であり、400nmよりも大きい粒子は実質的に存在しない。1000 nmより大きい任意の粒子は体から迅速に除去されて、害を引き起こさないが、薬の意図した投与量の一部が浪費されてしまう。したがって、サンプルがサイズ1000nmを超える粒子を含む場合、薬物がナノ粒子にロードされる前に、これらを濾過により除去しても良い。
【0043】
図5を参照すると、ナノ粒子は、一般に合成ラテックスエマルジョンにおけるナノ粒子よりも小さい。そのナノ粒子は、狭いサイズ分布を有し、高分子コロイドの特性および多分散性指数(polydispersity index)約30%を有する。ナノ粒子の多くは50〜150nm程度(例えば数や質量によるナノ粒子の50%以上がこの範囲内にあり得る)のサイズ範囲内にあるので、そのナノ粒子は、全身系(肝臓、脾臓)において、より大きい粒子よりもゆっくり除去される。その粒子は親水性であり、親水性はRESでの除去をさらに妨げる。澱粉ナノ粒子(D-グルコースおよびマルトデキストラン)の分解生成物は非毒性である。澱粉ナノスフェアを作るために使用される追加の天然材料および化学物質はまた、比較的非毒性である。
【0044】
個別のナノ粒子はまた、水溶性ではないが、その代り、水中の膨張(膨潤)したヒドロゲルコロイド架橋粒子の安定な分散液を形成する。
【0045】
図6Aおよび
図6Bは、バイオ系(biobased)ラテックスが水膨潤架橋澱粉ナノ粒子で構成されていることを示す。これらは、固形物の増加により脱膨潤して(de-swell)、より固形物の高い分散液が形成され得る。それとは対照的に、合成ラテックスエマルジョン中の粒子は膨潤しないし、コロイド粒子内に実質的に水を含んでない。典型的なSBラテックスとバイオラテックスコロイドの膨潤特性を比較した多くの文献が存在する。例えば、文献[Do Ik Lee, Steven Bloembergen, and John van Leeuwen, "Development of New Biobased Emulsion Binders", PaperCon2010, "Talent, Technology and Transformation", Atlanta, GA, May 2-5, 2010; and, Steven Bloembergen, Edward VanEgdom, Robert Wildi, Ian. J. McLennan, Do Ik Lee, Charles P. Klass, and John van Leeuwen, "Biolatex Binders for Paper and Paperboard Applications", Journal of Pulp and Paper Science, 36, No 3-4, p. 151-161 , 2011]参照
【0046】
図7は、ナノ粒子10の模式的なモデルを示す。ナノ粒子10は、架橋マクロ分子単位(crosslinked macromolecular unit)(−R−は、個々のポリマー12間の分子間架橋を示す)であると考えられる。他の種の架橋構造、例えば、分子内架橋も存在し得る。ナノ粒子10は、それが膨潤し、脱膨潤するにつれて水を含み、放出するコア14と、コロイド粒子の立体安定性メカニズムを提供する考えることができる。ナノ粒子の構造は、文献[Steven Bloembergen, Ian. J. McLennan, John van Leeuwen and Do Ik Lee, "Specialty Biobased Monomers and Emulsion Polymers Derived from Starch", 2010 PTS Advanced Coating Fundamentals Symposium, Munich, Germany, Oct. 11-13, 2010]に記載されている。
【0047】
通常のトウモロコシ澱粉又は他の澱粉の調理溶液(cooked solution)の場合の数分から数時間に比べて、最大で12ヶ月以上安定した澱粉粒子の水分散液を製造することができる。典型的な天然澱粉は非常に高い分子量アミロペクチンポリマー(数百万ダルトン)および高い分子量のアミロースポリマー(数十万ダルトン)を含有するため、固形分5又は10%までのその溶液は非常に高いゲル状の粘度を有する。トウモロコシ澱粉粒子の市販用分散液は、通常約30%固形分またはそれ以上に達するが、それは、これらの製品は、より高い固形分含量を得るためにその分子量を減らすよう化学的に、熱的に、または、酵素を使って処理されているからである。これは典型的な分子量/固形分のトレードオフ(trade-off)であり、よって、ポリマー溶液について合理的に低い粘度を維持できる。非常に高い固形分の純粋な分散液(約40%固形分まで)、および、超高固形製剤(72%固形分まで)は、エコスフェア(EcoSphere)(登録商標)澱粉ナノスフェアについて開発されている。これは、低粘度の分散液中の高固形分濃度が高薬物装填(high drug loading)を容易にする薬物送達用途に有益である。
【0048】
<活性剤、必要に応じて、標的化分子に抱合されたナノ粒子>
ナノ粒子は、活性剤、例えば、薬物、または他の試薬と抱合され、送達装置として使用され得る。蛍光研究から、ナノ粒子が細胞核に取り込まれることが示された。理論によって限定されるものではないが、搬送機構は、エンドサイトーシスであると考えられる。
【0049】
上述のように、ナノ粒子のコアは、それが膨潤するにつれて水を取り込む。同様に、小分子、他の薬物、または他の試薬は、ナノ粒子のコアへの取り込み、吸着、吸収、あるいはロード(装填)され得る。さらに、以下に示す例では、相分離法(実施例1)及びエタノール沈殿(実施例4)によるナノ粒子中のドキソルビシンのカプセル化について説明する。それ自体では、ドキソルビシンは、その使用を制限する急性心毒性(acute cardiotoxicity)に関連されている。他の実験では、カルムスチン(Carmustine)及びBCNU(ビス(クロロエチルニトロソウレア))をナノ粒子にロードした。
【0050】
なお、薬物カプセル化の他の方法を用いても良いし、及び他の薬剤および試薬を封入しても良い。例えば、シクロフォスフォーラミド(Cyclophosphoramide)やカンプトテシン(Camptothecin)などの化学療法剤は、ナノ粒子にロードされ、ドキソルビシンのように、癌の治療にナノ粒子を有用に使うことができる。ナノ粒子はまた、その他の治療への応用のためのアンチセンスオリゴヌクレオチド、ペプチド、およびサイトカインなどの非化学療法剤を封入することができる。
【0051】
薬物がロードされた後、粒子を凍結乾燥によって回収することができる。これによって、カプセル化された薬剤に抱合されたナノ粒子の粉末が得られる。粉末は、水、又は他のヒドロキシル溶液と混合されて、ナノ粒子を分散させることができる。薬剤は、静脈内注入または注射によって、経口的に、例えば、この液体の形態で患者を治療するために投与することができる。あるいは、粉末は医薬担体と混合して、錠剤又はカプセルのような固体またはゲル状の生成物にすることができる。固体形態は、経口等の医薬品に使用される任意の公知の方法で投与することができる。
【0052】
ナノ粒子の生体高分子は、ナノ粒子を形成した前にまたは後に、化学的または酵素的改質(修飾)を経て改質または官能化され得る。基本的に、多糖類のために公知の任意の化学的または酵素的改質(修飾)を使用することができる。例えば、種々の化学的および酵素的酸化プロセスの概要は文献[R. A. Jewel et al., US Patent 6,379,494, "Method of Making Carboxylated Cellulose Fibers and Products of The Method", April 30, 2002]のカラム1第66行目からカラム3第50行目に記載されている。これらの方法は、セルロースに関連して説明されているが、全てではないといっても、それらの多くは、澱粉ポリマーに適用することができる。
【0053】
実施例4では、ナノ粒子を形成した後、澱粉ポリマーを官能化した。具体的には、ポリマーは、酸化されてカルボキシル官能基を付加した。実施例4ではこれは主にアプタマーの結合に関連して説明されているが、官能化もドキソルビシンのカプセル化を容易にすることが示された。
【0054】
化学的または酵素的改質(修飾または変性)は、アプタマー、活性剤又は両方の結合部位を提供するために生体高分子に導入された他の種の官能基を含み得る。ナノスフェアの表面改質は、また、送達された治療用量及び標的化送達(あれば)をより良く制御するために、その全身だけでなく、局所における除去速度(clearance rate)を変更することがあり得る。例えば、酸化はナノ粒子のゼータ電位の変化をもたらした。非官能化ナノ粒子のゼータ電位は0〜−6mVの範囲である。酸化された粒子は、約−25 mVのゼータ電位を持っていた。酸化反応を制御して、中間ゼータ電位値を有する改質ナノ粒子を提供することができる。ナノ粒子の電荷の改質(変化)が異なる薬剤と試薬の選択的吸着を可能にし、加えて、放出プロファイルを制御する方法を提供する。癌治療のために開発されている多くの小さな分子は、疎水性であるか親油性であるため、溶解し難い。ナノ粒子の表面修飾は、ナノ粒子のコアにロードされるこれらの薬剤の能力を高めることができる。
【0055】
実施例4に使用された水溶性TEMPO触媒は、架橋ナノ粒子全体を通して澱粉官能性(機能性)をもたせたが、固定化されたTEMPO触媒はナノ粒子の表面に存在するポリマーのみを官能化する。これは、例えば、ナノ粒子のコアのゼータ電位のより少ない変更で、ナノ粒子にアプタマーを付着するために使用することができる。
【0056】
任意の形態の酸化を用いてもよいが、TEMPO酸化が好ましい。TEMPO触媒は、特にカルボキシル官能基にグルコピラノシド位置のC6ヒドロキシルを改質(変更)する(modify)ために使用される。このプロセスは、他の多くの酸化過程に共通する多糖ポリマーの分子量低下を防止することができる。
【0057】
多くの官能化技術は、多糖類ポリマーにアルデヒド基を追加することが知られている。これらの官能化技術の一つが有用であり得るという可能性を排除することを意図せず、それらは現に好ましくない。アルデヒド基は、反応性であり、ナノ粒子が互いにくっつかせる傾向がある。これは、コロイド分散液の形成を干渉して、体内のナノ粒子の分布を妨げる可能性がある。
【0058】
非改質ナノ粒子のゼータ電位は低いので、そのコロイド安定性は主に立体安定化に起因する。理論に束縛されることなく、水性環境へ突出する短い多糖類鎖を含むシェルは、水中で粒子のコロイド安定化剤として、および、結合した水の部分的な親水性シェルとして機能する。これは、粒子から疎水性薬剤の流出または拡散を遅らせる。
【0059】
実施例では、活性剤であるドキソルビシンをナノ粒子内にロードして、蛍光技術を用いる放出プロフィールを追跡した。この作業によって、活性剤の徐放性の数時間に及ぶ適切な放出動力学を有する二相性放出プロファイルであることが証明された。薬物がロードされたナノ粒子の蛍光は減少するが、一部の蛍光は、12時間後でも残っている。これは、完全な粒子からすべての薬物が放出されるものではないことを指示する。しかし、残りの薬物は、粒子が例えば身体内のα‐アミラーゼに基づいて分解されるにつれて、身体内で放出される。完全な放出時間はおよそ24時間であっても良い。
【0060】
実施例3に記載した動物実験では、ドキソルビシンのロードされたナノスフェアは、無胸腺マウスにおける原発性脳腫瘍である多形性膠芽腫(glioblastoma multiforme)の治療に使用された。これらの研究は、適切な対照群に対してドキソルビシン装填ナノスフェアで治療したマウスの生存率が30%増加したことを示す。いかなる特定の理論に本発明を限定するつもりはないが、この成功は、ナノ粒子のサイズ、ナノ粒子の表面特性、およびナノ粒子の放出動力学(例えば、ナノ粒子から薬物の除放出)を含むいくつかの要因の一以上に起因する。遊離薬物(遊離ドキソルビシン)が代謝及び排泄されるに対して、カプセル化されたドキソルビシンは、ナノ粒子の比較的小さなサイズのためにエンドサイトーシスを介して細胞に入ると考えられる。
【0061】
図11は、アプタマー18、ポリマー12、および、活性剤(分離されて示されているのではなく、コア14内に設けられている)を有するバイオコンジュゲート装置(bioconjugate device)30を示す。バイオコンジュゲート装置30は、特定の疾患の治療のための標的細胞への活性剤の治療有効量を送達するために用いることができる。バイオコンジュゲート装置30は、生体適合性または再吸収可能なコロイド状高分子ヒドロゲルへの化学的または酵素的修飾(改質または変性)を行い、コロイド状高分子ヒドロゲル内に活性剤を封入し、ヒドロゲルの表面上にアプタマーを付着することでヒドロゲルの表面を改質することによって、製造することができる。アプタマー18は、典型的には約10nm未満のサイズを有し、わずか約20nm以下だけバイオコンジュゲート装置30の直径を増加させる。必要に応じて、他の標的リガンドまたは他の分子をも使用することができる。
【0062】
アプタマーは、がん細胞を含んでも良い特定部位に配されている標的分子に結合することができる。例えば、AS1411はヌクレオリン(neucleolin)に結合することが報告されている。文献[(Soundararajan et al., "Plasma Membrane Nucleolin Is a Receptor for the Anticancer Aptamer AS 1411 in MV4-1 1 Leukemia Cells", Molecular Pharmacology, Vol. 76, No. 5, 200]参照。ヌクレオリン受容体への結合は、例えば、腎細胞癌、乳癌、前立腺癌等の様々な癌の治療に有用である。AS1411は、撮像のために、Cy3の蛍光タグのようなタグが付いていても良い。
【0063】
他の潜在的に有用なアプタマーはsgc4である。このアプタマーは、T細胞白血病細胞株からのSELEXプロセスを経由で開発され、そして、白血病細胞を認識することができる。文献[Shannguan et al., "Aptamers Evolved from Cultured Cancer Cells Reveal Molecular Differences of Cancer Cells in Patient Samples", Clinical Chemisty 53, No.6, 2007]参照。しかし、sgc4が抱合されていない場合、短い生物学的寿命を有する。その配列は、米国特許出願公開2009/0117549に記載されている。配列のより短い変異体が有効であり得る。Sgc8cアプタマーはまた、白血病細胞を標的化するのに有効であることが報告されている。文献[Ozalp et al., Pharmaceuticals 201 1 , 4, 1137-1157]参照。
【0064】
DNAの3’末端上のアミン修飾を有するアプタマーは、例えば1以上の共有結合によって、官能化ナノ粒子のカルボキシル基に結合することができる。その結合は、例えば、EDC化学を使用して、または、アミンとカルボキシル間の別の結合を使用して、作ることができる。DNAのアミン変性試験ストランドを使用するこうした結合の例が実施例4に記載されている。同様に、アミン修飾され得るAS1411及びsgc4のようなアプタマーはまた、ナノ粒子に結合される。また、ドキソルビシンなどの活性剤を装填するとき、得られたアプタマー‐ポリマー−活性剤のバイオコンジュゲート装置は、標的白血病または他のがん細胞への活性剤の治療有効量を送達するのに適している。
【0065】
触媒として固体化TEMPOを使用して、澱粉を酸化し、カルボキシル基を形成することによって、NHSおよびEDCによるカルボキシル基の活性化はポリマーコロイドの表面にアミン修飾アプタマーの結合を可能にし、それによって、共有結合を形成する。ナノ粒子の表面上の官能基の数は、アプタマー表面密度を決定し得る。
【0066】
TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルラジカル)は、水性媒体中で澱粉ポリマー上のヒドロキシル基と反応して、TEMPO媒介カルボキシル化として知られるプロセスによって所望のカルボキシル基(−COOH)を生成する。この反応を安定化するためにNaBrを使用する。次亜塩素酸(NaClO)は、pH10.2〜10.5を維持することによって反応を開始する。次いで、HClは、pHを低下させ、カルボキシル基を再プロトン化する(reprotonate)ために使用することができる。1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)とN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)は、カップリング剤として働いてカルボキシル−アミノ共有結合を形成する試薬である。ここで、カルボキシル−アミノ共有結合は、カルボキシル化澱粉ナノ粒子を3’−アミン変性(修飾)−ssDANアプタマーに結合させる。
【0067】
以下の実施例は、本発明の1以上の部分を説明するために設けたものであり、請求項を限定する意図はない。
【実施例1】
【0068】
<澱粉系ナノ粒子への蛍光剤の封入(取り込み)>
2つの化合物、特に、蛍光モデル化合物、ルセイン(calcein)および蛍光抗がん剤、ドキソルビシン(lUPAC名:(7S、9S)−7 − [(5S、2R、4S、6S)4 −アミノ−5 −ヒドロキシ−6−メチルオキサン −2 −イル]オキシ−6、9、11 −トリヒドロキシ−9 −(2 −ヒドロキシアセチル)−4 −メトキシ−8、10 −ジヒドロ−7H−テトラセン−5、12 −ジオン;市販品はアドリアマイシン(登録商標)およびドキシル(登録商標)を含む)の生体高分子ナノ粒子(エコシンセティックス株式会社から入手したエコシフェア(Ecosphere;登録商標))への封入(incorporation)は、 相分離技術によって行われた。この手法は、油中水型エマルジョンの形成を含む。250ミリリットルの丸底フラスコに、澱粉系ナノ粒子を、希苛性(dilute caustic)を用いて約pH10で機械的攪拌下に水中5%未満の固形分(w / w)で分散させた。得られた分散液を、希塩酸を用いてpH7に滴定した。ナノスフェアコロイドマトリックス中に封入すべき(取り込むべき)物質(カルセインまたはドキソルビシン)を、生体高分子ナノ粒子を含む分散液に溶解させた。こうして製造されたカプセル化活性剤の量は0.04%〜0.4%(w / w)の範囲であった。フラスコを断熱容器内に配置させ、適切に固定した。次いで、溶液を数分間攪拌した。エマルションが形成されるまでヘキサンを連続的に攪拌しながら滴下した。そのエマルションを直ちに液体窒素を用いて凍結させた。フラスコを真空システムに接続し、そして凍結乾燥は−85℃で行った。24時間後、真空計が更なる蒸気除去を示さなかったときに、乾燥した試料を真空システムから取り出し、−10℃で保存した。
【実施例2】
【0069】
<薬物放出研究>
包接錯体(inclusion complexation)形成を研究するためのスペクトルプローブとして蛍光染料を使用することは知られている。文献[Saenger, W. Angew. Chem. 1980, 92, 343-61 and Wenz, G. Angew. Chem. 1994, 106, 851-70). T]。このアプローチは、選択された薬物をカプセル化する澱粉系ナノ粒子(この実施例では、エコシンセティックス社のエコスフェア2202(登録商標)を使用した)の有効性、および時間の経過とともにその薬物を放出する(この材料の)能力を研究するために採択された。カルセインやドキソルビシンなどの蛍光化合物は環境の変化に非常に敏感である。分子の蛍光信号は、それが澱粉系ナノ粒子のマトリックスに封入されたときに、向上された。
図8に示すように、遊離ドキソルビシンの信号強度は、カプセル化ドキソルビシンのそれよりもはるかに低い。また、ドキソルビシンがカプセル化されたときに、有意な浅色シフト(より短い波長への分子の発光スペクトルにおけるスペクトル帯域位置の変化)が観察される。
図9Aは、時間の関数として得られた一連のドキソルビシンの蛍光スペクトルを示す。活性剤の徐放性を示す、経時的に信号強度における有意な減少があることが分かる。また、比較的小さな深色シフト(より短い波長への分子の発光スペクトルにおけるスペクトル帯域位置の変化)が見られた。特定の理論に限定するつもりはないが、すべての活性剤が12時間の実験過程で放出されたものではないことを考えると、減少されたシフトは、二相性の放出機構を示すものとみられる。
図10Aは、活性剤の除放出を指示する、経時的な信号強度における減少が存在することが分かる。
【0070】
図9Aおよび
図10Aに示すデータは、カルセインおよびドキソルビシンの信号強度における向上が、澱粉系ナノ粒子との包接錯体化(inclusion complexation)に基づいて、活性剤の放出をモニターするのに使用することができることを示す。
図9B及び
図10Bは、それぞれドキソルビシンおよびカルセインの蛍光放出スペクトル(fluorescence emission spectra)の最大信号強度における時間の関数としての信号強度のプロットである。これらのデータは、超分子腔(supermolecular cavity)内蛍光体分子の濃度が時間とともに変化することを示す。分子の放出は、活性剤の濃度勾配に比例するように見える。生体高分子からの活性剤の徐放出は、10時間以上に延びた。結果からは、生体高分子ナノ粒子は長期間にわたって(延びた時間にわたって)活性剤の一定の放出(steady release)のための安定したマトリックスを提供することが分かった。放出メカニズムは、主に拡散律速(拡散制御)であるように見える。
【実施例3】
【0071】
<無胸腺マウスに移植人間異種移植片のインビボ研究>
薬物送達装置としての澱粉系ナノ粒子の有効性を実証するために、実施例1に記載したように澱粉系ナノ粒子に抗がん剤ドキソルビシンを装填した。ドキソルビシン装填ナノ粒子を、予め皮下部位で成長させた原発性脳腫瘍(D 245神経膠芽腫多形)のヒト異種移植片(xenograph)を持つ無胸腺マウスに投与した。無胸腺マウスは、その正常なマウスが外来異種免疫片、特に、ヒト腫瘍を免疫学的に拒絶することができるために、これらの研究において選択された。動物(対照群および処理群の両方)を、腫瘍の退縮および生存(率)についてモニターした。研究の結果を表1に示す。
【0072】
手順は、無胸腺マウスの皮下部位に腫瘍ブライ(brei)の接種を含む。皮下腫瘍を、サイズは約200立方ミリメートル(直径6-8 mm)まで増殖させた。その後、遊離薬物または薬物装填ナノ粒子のどちらかを、腫瘍部位に又はi.p.(腹腔内)注入した。通常、動物がテストできるまでに20日かかった。動物は8〜10の個体で構成されたグループ毎に処理された。最高の生存率(数日で増加された寿命または最高TC値)は、ドキソルビシン装填ナノ粒子のいくつかの用量を投与した個体で見られた。表1は、無胸腺マウスにおける原発性ヒト脳腫瘍の治療でのドキソルビシン装填生体高分子ナノ粒子の安全性および有効性を示す。表1は、無胸腺マウスに移植したヒト異種移植片のインビボ研究の結果である。
【0073】
【表1】
【0074】
次の略語が表1に使用された。「Dox」はドキソルビシンであり、「Dox−nano」はドキソルビシンカプセル化澱粉系ナノ粒子である。
【0075】
分散液は、100mgナノスフェア/5ml生理食塩水(1×0.5%Dox−nano)、200mgナノスフェア/ 5ml生理食塩水(2×0.5%Dox−nano)または400mgナノスフェア/ 5 ml生理食塩水(4×0.5 %Dox−nano)であった。
【0076】
注射は、それぞれ0.25 mL/20gマウスであった(すべては単一の注射)。
【0077】
T−Cは次のように定義された:数日間で延びた寿命(薬物処理された動物が生きていた日数−対照群動物が生きていた日数)の平均
【0078】
対照群は、以下の通りであった:生理理食塩水を注入した変化型未処理マウス、未処理マウス、薬剤のないナノスフェア(100mgs/5 mLの生理食塩水)で処理したマウス。
【0079】
P値:有意性のためのテストラン(test run)。P値は、オランダとウルフ(Hollander and Wolfe)によるノンパラメトリック統計的手法を用いて算出される。
【0080】
回帰:腫瘍が前回の測定を下回り、2回の連続した測定値について下回ることを指示する。
【実施例4】
【0081】
<リガンド抱合>
ナノ粒子は、腫瘍、転移性癌細胞、または他の標的組織または器官に特異的なリガンドに抱合(conjugate)され得る。この機能は、以下の手順および試験によって実証された。
【0082】
<エコスフェアの酸化>
様々な異なる種の官能基を澱粉系ナノ粒子に導入して、アプタマーおよび活性剤の結合部位を提供しても良い。詳細な説明に記載されているように、様々な化学修飾技術を用いることができる。特に有用な化学修飾は、カルボキシル官能基を生成するための澱粉の酸化である。これを説明するために、澱粉系ナノ粒子(エコシンセティックス社からのエコスフェア(登録商標)2202)および通常の天然(非修飾、非改質)トウモロコシ澱粉の両方に対してTEMPO-媒介酸化を行った。この方法では、0〜4℃の温度、pH10.8で次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)及び2,2,6,6 −テトラメチルピペリジン−1 −オキシル(TEMPO)ラジカルで酸化した。酸化の程度を添加されたNaClOの量によって制御された。上述したように、2つの種の澱粉を使用した。その一つがエコスフェア(登録商標)澱粉系ナノ粒子であり、もう一つがシグマ−アルドリッチ(Sigma-Aldrich)社から購入した通常の(正規の)トウモロコシ澱粉であった。
【0083】
ガラスの瓶に、エコスフェア4gと80 mlのMilliQ水を添加し、十分に混合して、〜5%分散液を製造した。第二の瓶にトウモロコシ澱粉4gと80mlのMilliQ水を添加して、〜5%溶液を製造した。第2の瓶を攪拌しながら80℃を超える温度まで(最大95℃)加熱して、完全に溶解させた。次いで、室温まで冷却した。これとは別に、2つの45 mLのチューブに40mlの水、38mgのTEMPO,および、508mgのNaBrをそれぞれのチューブに添加し(澱粉の無水グルコース(anhydroglucose)単位当たり0.01モルのTEMPO、澱粉の無水グルコース単位当たり0.2モルのNaBr)、完全に溶解するまで撹拌し、そして氷バッチ中で30分間冷却した。次に、チューブの内容物を各瓶へ混合した。pH測定を行った。先ず、エコスフェア瓶は3.8であり、トウモロコシ澱粉瓶は7.4であった。次に、450μlの0.5 MのNaOHをエコスフェア瓶に添加してpH10.75にし、200μlの0.5MのNaOHをトウモロコシ澱粉瓶に添加してpH10.75にした。次いで、pHが6-7あたりにまで低下したときに10mlのNaClOを添加し、pH測定を10〜15分ごとに行った。混合物を攪拌し続け、pHが低下するにつれて、色が濃くなった(黄/オレンジ)。酸化澱粉をエタノールで1:1で希釈する前に、合計60mLのNaClOを添加し、pHを最終的に8.0に調整した。エタノールは、改質(変性)エコスフェアナノ粒子および改質(変性)澱粉を沈殿させ、それらを遠心分離によって回収し、水とエタノールで洗浄し、最後に凍結乾燥によって乾燥させた。
【0084】
酸化エコスフェアは、ゼータ電位測定および動的光散乱によって特徴付けられた。ゼタ測定の結果、非改質(非変性)粒子は本質的に中性(neutral)であるのに対して、改質(変性)粒子は−25.5 mVのゼータ電位の負電荷を保持していることが分かった。粒子の大きさは、非酸化物に比べて若干小さいことが観察された(即ち、NTAモードが113対141nmであった)。
【0085】
最終的な生成物の色は、酸化後の溶液のpHに依存していた。pHがあまり高ければ(10超)、黄色生成物が得られた。なお、この色は、pHを低下させることにより除去することができることが分かった。
【0086】
<DNA付着(結合)>
続いて、カップリング剤としてN−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)を用いて、アミノ変性及び蛍光標識されたDNAを澱粉粒子に付着(結合)させた。反応混合物は、5μΜFAM(6−カルボキシフルオレセイン)およびアミノ二重標識DNAを含み、1〜5%COOH変性澱粉、20mMの2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)緩衝液(pH 6.0)および20mMの新たに調製したEDCを最後に添加した。アガロースゲル電気泳動を、DNAおよびDNA−抱合TEMPO酸化エコスフェア(DNA−conjugated to TEMPO−oxidized EcoSphere)ナノ粒子に対して行った。ゲル蛍光強度をより均一に分布され、DNAの一部がもっとゆっくり移動したが、それは澱粉ナノ粒子への抱合(共役)(conjugation)を指示するものであることが分かった。いくつかの代替DNA付着プロトコルでは、澱粉上のカルボキシル基は、DNAを添加する前に15分間5mM(EDC量の1/4)のN−ヒドロキシルスクシンイミド(NHS)を用いて最初に活性化された。次に、この混合物を数時間反応させた。いかなる特定の動作理論に束縛されるつもりはないが、NHSは、カルボキシル基がアミンと反応してアミンを有する塩よりもアミドを形成するようカルボキシル基を活性化することによって、EDC結合反応(EDC linking reaction)を促進するのに役立つ。
【0087】
したがって、リガンド結合のためのモデル化合物として働く、この実施例に使用されたDNAは、うまく付着された。DNA配列は、5’−FAM− ACG CAT CTG TGA AGA GAA CCT GGG−NH
2 −3’ であった。
【0088】
アプタマーは、前述した手順に基づいて、エコスフェア(登録商標)2202に付着した。アプタマーの結合(付着)は、ナノ粒子蛍光の実験室的観察により確認された。アプタマーは、次の配列(変性配列として)を有すると考えられるAS1411であった:5−Cy3−TTGGTGGTGGTGGTTGTGGTGGTGGTGG−NH
2−3’(即ち、Cy3蛍光タグおよびアミン基を有するAS1411アプタマー)。必要に応じて、診断ゲル電気泳動試験における撮像目的に使用される、蛍光タグは、もちろん省略することができる。しかしながら、蛍光タグ付けのための追加の目的は、細胞による変性(改質)ナノ粒子の取り込みおよび結合のモニタリングを容易にすることである。上述したDNAについては、アプタマーは、それがEDC化学を使用してナノ粒子上のカルボキシル官能基に結合されるように、DNAの3’末端上のアミン修飾を有していた。
【0089】
4つの200マイクロリターウェル(microliter well)を、卵巣癌細胞株(HeLa)の細胞を調製し、時間をかけて培養、成長させた。ウェル1には単にHeLa細胞のみを有し、ウェル2には非抱合AS1411を添加した。ウェル3には、AS1411に抱合されたエコスフェア2202ナノ粒子を添加した。ウェル4は、対照群配列で抱合したナノ粒子を添加した。対照群配列は、HeLa細胞に対する周知の親和性を有しない。これらのウェルを放置して更に48時間培養した。
【0090】
48時間経過した後、ウェルからの細胞を洗浄して、細胞の最上層の外部に存在する結合していない粒子上の任意の蛍光マークを除去した。次いで、細胞を蛍光顕微鏡下で観察した。蛍光マークは、ウェル3の細胞内で観察されたが、それによって、ナノ粒子/アプタマー抱合体(conjugate)が細胞内に取り込まれたことが確認された。
【0091】
<薬物吸着と放出の研究>
希釈水分散液(例えば1〜5%)で、エコスフェアナノ粒子は高度に膨潤していて、その密度は水の密度に近い。その結果として、遠心分離、さらには超遠心分離は、水性分散液媒体から粒子を分離するのに有効な方法ではない。代わりに、薬物充填(drug loading)は、蛍光の変化によって評価された。抗がん剤、ドキソルビシン(Dox)の吸着は、カルボキシレート基によるエコスフェアの改質(変性)後に著しく改善されることが分かった。吸着されると、Doxの蛍光はまたカルボキシル化エコスフェアによって消された(和らげられた)。これは、ハンドヘルドUVランプを用いた暗室での245 nmの励起の下ではっきりと見えた。蛍光消光(fluorescence quenching)はDoxの吸着をモニターするための分析方法を提供する。
【0092】
観測消光がpHの効果によるものではなかったことを確認するために、その蛍光を次のものと比較した:Doxを、非改質(非変性)エコスフェア、COOH改質(変性)エコスフェアおよび緩衝液(エコスフェアなし)で0.01 mg / mlの最終濃度で溶解した。各条件において、2つのpH条件、20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.0)、または、20 mMの4−(2 − ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)緩衝液(pH 7.6)についてテストした。最終的なpHが意図した値であることが確認された。
【0093】
遊離Dox蛍光は水中pH5および.6の両方で強かった。1%非改質(非変性)エコスフェアナノ粒子分散液と混合して約50%蛍光消光(fluorescence quenching)を誘導したが、COOH(によって)改質(された)エコスフェアナノ粒子分散液は蛍光を完全に消光した。これで、COOH改質エコスフェアがDoxを吸着するのに優れていることが確認された。いかなる特定の動作理論に束縛されるつもりではないが、これはおそらく、正(+)に荷電されたDoxとの静電的相互作用によるものである。したがって、エコスフェアの電荷の逆転(turning)は様々な薬物の選択的吸着を可能にするだけでなく、放出特性を制御する方法を提供する。
【0094】
<動電測定>
粒子の表面上の静電荷の存在を評価するために、生体高分子ナノ粒子およびTEMPO酸化生体高分子ナノ粒子のゼータ電位を、ブルックヘブンゼータプラスZetaPlus機器(Brookhaven ZetaPlus instrument)を用いた動電学的測定値(electrokinetic measurement)の解析から決定した。架橋された澱粉粒子を、0.001 Mから0.1 Mの濃度範囲のNaCl溶液に懸濁させ、そしてそれらの電気泳動移動性を測定した。電気泳動移動性は、小さい粒子および希釈イオン濃度をを仮定(想定)するスモルコフスキー式を使用して、ゼータ(ζ)電位に変換された。TEMPO改質(変性)生体高分子ナノ粒子が、負に帯電したナノ粒子を示す−25 mVであるのに対して、非改質澱粉系ナノ粒子のゼータ電位はゼロに近いものであった。
【0095】
<粒径分析>
分散した澱粉系粒子およびTEMPO改質ナノ粒子の粒径は、青色レーザー(405nm)を備えたLM 20トラッキング解析装置(NanoSight社製)を用いてナノ粒子トラッキング分析(Nanoparticle Tracking Analysis; NTA)により測定した。この装置は、粒子を照らすためにCWモードで動作する50 mWのレーザー動作を使用する。粒子によって散乱された光は、デジタルカメラを使用して捉え、各粒子の動きはNanoSight社製のソフトウェアを使用してフレームからフレームに追跡される。高速ビデオを得る(秒あたり30フレーム、平均ビデオ約30s)。個々の粒子の軌道(軌跡)は、各粒子について決定された平均二乗変位(mean squared displacement)およびビデオ・シーケンスから生成される。典型的には少なくとも20軌跡(軌道)が取得され、250〜500セットの軌跡(個々のセットは個々の粒子に対応する)がビデオ・シーケンスに蓄積される。平均二乗変位の分析を使用して、拡散係数計算し、ストークス-アインシュタイン方程式(Stokes-Einstein equation)を使用して流体力学的半径(hydrodynamic radius;R
h)を決定する。従って、試料中の各粒子の直径を測定し、真の粒度分布を導出することができる。拡散係数は、視野内の各粒子について得られるので、粒径分布は、動的レーザー光散乱(DLS)分析においてのような特定の数学的モデルを想定(仮定)しない粒度分布を得ることができる。
【0096】
生体高分子ナノ粒子の分散液は、次の手順に沿って調製した:1)乾燥した凝集エコスフェア(登録商標)粉末を、シルバーソン高せん断ミキサー(Silverson high shear mixer)にて、乾燥重量を基準にして0.4重量%の炭酸ナトリウム( 「ライトソーダ灰(lite soda ash)」)を含有する水中で混合し(分散された生体ラテックス(biolatex)の最終濃度は0.015から0.030%(w / w)である)、2)この分散液を、凝集粒子がナノ粒子内に完全に分散されたことを確かめるために、測定前に、水浴中で45℃にて15分間加熱した。
【0097】
上記の説明および添付の図面は、各請求項の少なくとも1つの実施形態を説明するためのものであり、いかなる発明をも限定するものではない。本発明は、以下の特許請求の範囲によって定まる。