【実施例】
【0242】
実施例1:ERGとETV1遺伝子融合
A.材料および方法
癌の例外事象の解析(Cancer Outlier Profile Analysis:COPA)
COPA解析を10,486のマイクロアレイ実験を含むOncomine3.0の132の遺伝子発現データセット上で行った。さらにまた、99個の増幅された、レーザーキャプチャーマイクロダイセクションで採取した前立腺組織試料からのデータを、COPA解析に含めた。COPAは3つの工程を有する。まず第1工程として、遺伝子発現値は中央値を中心にし、各遺伝子の中央値発現をゼロに設定する。第2工程で、中央値絶対偏差(MAD)を計算し、各遺伝子発現値をそのMADで割ることで、1に縮尺調整する。中央値およびMADを、平均および標準的な偏差とは対照的に、アウトライアー発現値が分布推定値に対して過度に影響を与えず、したがって正規化後もこれらが保たれるように、変換に用いた。第3工程で、変換された発現値の75、90、および95パーセンタイルを各遺伝子について一覧にまとめて、遺伝子をこれらのパーセンタイル値スコアでランク付けし、例外プロファイルについて優先順位付けされた一覧を得る。
【0243】
試料
使用した組織は、共に米国ミシガン大学の前立腺癌専門優良研究プログラム(Specialized Program of Research Excellence:SPORE)組織コアの一部である、米国ミシガン大学の根治的前立腺切除系列由来および迅速剖検プログラム由来(Shah et al.,Cancer Res 64,9209(2004年12月15日))のものである。
【0244】
組織は、ウルム大学病院(独国ウルム)での根治的前立腺切除術系列からも得た。すべての試料は、各それぞれの研究施設での事前の研究所審査委員の承認を得て、同意した患者から収集したものである。すべての試料からの全RNAを、製造業者の使用説明書に従って、トリゾール(インビトロジェン社)を用いて単離した。全RNAを、RWPE、PC3、PC3+AR(Dai et al.,Steroids 61、531(1996))、LNCaP、VCaPおよびDuCaP細胞株のからも単離した。RNAの完全性を、ホルムアルデヒドゲル変性 電気泳動またはアジレント社のバイオアナライザー2100により検証した。良性前立腺組織の全RNA(CPP、Clontech社)の市販のプールも用いた。
【0245】
定量PCR(QPCR)
定量PCR(QPCR)を、基本的に記載されているように、SYBR緑色素を用いて、アプライドバイオシステム社の7300リアルタイムPCRシステム上で行った(Chinnaiyan et al.,Cancer Res 65、3328(2005);Rubin et al.,Cancer Res 64、3814(2004))。要約すると、1〜5μgの全RNAを、ランダムプライマーまたはランダムプライマーおよびオリゴdTプライマーの存在下で、スーパースクリプトIII(インビトロジェン社)を用いて、cDNAに逆転写した。すべての反応は、SYBRグリーンマスターミックス(アプライドバイオシステム社)および25ngの順方向および逆方向プライマーの両者を製造業者の推奨する熱サイクル条件を用いて、実施した。すべての反応を融解曲線分析し、および選択した実験から得た産物を1.5%アガロースゲル上で電気泳動させることで分離した。各実験について、閾値を、配列検出ソフト、バージョン1.2.2(アプライドバイオシステム社)を用いて、QPCR反応の指数期において設定した。各試料について、ハウスキーピング遺伝子グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)と比較した各標的遺伝子の量を、cDNA試料を図説の各実験について検量用試料として用いて、比較閾値サイクル(threshold cycle:Ct)法(アプライドバイオシステム社ユーザーブリテン#2)により決定した。すべてのオリゴヌクレオチドプライマーは、インテグレイテッドDNAテクノロジーズ社により合成されたものであった。
【0246】
GAPDHプライマーは、(Vandesompele et al.,Genome Biol 3,RESEARCH0034(2002))に記載されており、その他すべてのプライマーは表4に列挙している。
【0247】
およそ等しい効率のプライマーを、比較Ct法を利用するため、前立腺癌cDNAまたはプラスミド鋳型の段階希釈により確認した。
【0248】
cDNA末端のRNAリガーゼ介在性迅速増幅(RLM-RACE)
cDNA末端のRNAリガーゼ介在性迅速増幅をジーン・レーサーRLM-RACEキット(インビトロジェン社)を製造業者の使用説明書に従って用いて実施した。最初に、試料をERGまたはETV1の発現に基づき、QPCRにより選択した。全RNAの5μgを仔ウシ腸由来ホスファターゼで処理し、切断されたmRNAおよび非mRNAから5´ホスフェートを除去し、タバコ酸性フィロホスファターゼでキャップ構造を除去する。ジーン・レーサーRNAオリゴを全長転写物に連結し、スーパースクリプトIIIを用いて逆転写した。5´末端を得るため、第1の鎖のcDNAを、ETV1に対してジーンレーサー5´プライマーおよびETV1エクソン4-5_r、あるいはERGに対してジーンレーサー5´プライマーおよびERGエクソン4a_rまたはERGエクソン4b_rを用いて、プラチナTaqハイフィデリティ(Platinum Taq High Fidelity)(インビトロジェン社)で増幅した。プライマー配列を表S2に示す。産物を1.5%アガロースゲル上で電気泳動により分離し、バンドを切除、精製し、TOPO TAをpCR4-TOPOにクローン化した。少なくとも4つの結腸からの精製プラスミドDNAを、米国ミシガン大学DNA配列決定コアのABIモデル3730自動配列決定装置で、M13逆方向およびM13順方向(-20)プライマーまたはT3およびT7プライマーを双方向で用いて、配列決定した。RLM-RACEd cDNAは、その他のアッセイに使用しなかった。
【0249】
TMPRSS2:ERG融合についての逆転写PCR
上述のようにQPCRを用いた場合のTMPRSS2:ERG陽性を同定後、同一のcDNA試料を、プラチナTaqハイフィデリティおよびTPRSS2:ERGプライマーを用いてPCR増幅した。産物を電気泳動で分離し、pCR4-TOPOクローン化し、上述のように配列決定した。
【0250】
インビトロアンドロゲン応答性
ヒトアンドロゲン受容体で安定的にトランスフェクトしたRWPE、LNCaP、VCaP DuCaP、PC3およびPC3細胞(PC3+AR)(3)を、1%エタノール対照または1nMの合成アンドロゲンR1881で24時間処理した。全RNAを単離し、ERGエクソン5-6_fおよび_rプライマーを用いて逆転写とQPCRを行った。各試料についてERG/GAPDHの相対量をRWPE対照試料に対して較正した。
【0251】
正常な末梢リンパ球由来の蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)
ホルマリン固定パラフィン包理(FFPE)組織切片と転移性前立腺癌試料MET‐26およびMET‐28を、間期蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)解析に用いた。さらにまた、間期FISHを、13の臨床的に局在化した前立腺癌と16の転移性前立腺癌試料のFFPE部分由来のコアを含む組織マイクロアレイ上で実施した。2色、2シグナルアプローチをTMPRSS2とETV1の融合を評価するのに用い、プローブはそれぞれの遺伝子座位のほとんどにまたがっていた。ビオチン-14-dCTP BACクローンRP11-124L22をETV1座位に対して用い、ジゴキシン-dUTP標識BACクローンRPP11-35CDをTMPRSS2座位に対して用いた。ERGを含む遺伝子再配列を解析するには、2つのプローブがERG座位(ビオチン-14-dCTP標識BACクローンRP11-476D17およびジゴキシン-dUTP標識BACクローンRP11-95I21)にまたがる、分断シグナルプローブ手法を利用した。すべてのBACクローンは、オークランド研究所小児科病院(CHORI)より入手したものである。組織分析の前に、すべてのプローブの完全性と純度を、正常な末梢リンパ球の分裂中期スプレッドのハイブリッド形成により確認した。組織ハイブリッド形成、洗浄および色検出を、(Rubin et al.,Cancer Res 64、3814(2004);Garraway et al.,Nature 436、117(2005))に記載のように実施した。
【0252】
B.結果
癌の例外事象解析
近年において、DNAマイクロアレイを用いた遺伝子発現のプロファイリングは、癌トランスクリトームを研究するための通常的な方法となってきている。マイクロアレイ研究は、癌の分子多様性に対する膨大な知見を与えており、多くの場合に、腫瘍組織像、患者予後、および治療応答に対応する疾患の新規分子サブタイプを同定してきた(Valk et al.,N Engl J Med 350、1617(2004))。しかしながら、一般に、トランスクリトーム解析は、新規の癌の原因となる遺伝子の発見にはつながらなかった。癌遺伝子の著しい過剰発現を生じる再配列および高レベルの複製数変化は、トランスクリトームデータで顕著だが、必ずしも従来の解析アプローチで顕著であるわけではなかったと仮定される。
【0253】
癌の種類の大多数は、癌遺伝子活性化の不均一パターンが観測されており、それゆえ癌試料の1つのクラスにわたって遺伝子の通常の活性化を探すような、従来の解析方法(例えば、t検定またはシグナル・ノイズ比)では、このような癌遺伝子発現プロファイルをみつけることはできない。かわりに、症例のサブセットにおける著しい過剰発現を探す方法が必要である。本発明の過程において実施した実験は、癌の例外事象の解析(COPA)を発展させた。COPAは、遺伝子発現プロファイルの中央値および中央値絶対偏差に基づいて簡単な数値的変換を応用することで、例外プロファイルを増強および同定しようとするものである(Ross et al.,Blood 102、2951(2003))。このアプローチを
図5Aに示す。COPAを10,486のマイクロアレイ実験を示す132遺伝子発現データセットの概要を含むOncomineデータベース(Bittner et al.,Nature 406、536(2000))に応用した。COPAは、再発性再配列または高レベル増幅が起こると知られている特定の癌型における遺伝子について、いくつかの例外プロファイルを正確に同定した。この解析では、癌遺伝子調査(Vasselli et al.,Proc Natl Acad Sci USA 100、6958(2003))により定義されるような、Oncomineデータセットにおいて上位10の例外プロファイルに位置する(表1および表3)既知の癌原因遺伝子の例外プロファイルに着目した。例えば、Valkらの急性骨髄性白血病(AML)データセットにおいては、RUNXlTl(ETO)は、95パーセンタイルで最強度の例外プロファイルを示し、AMLのサブセットにおけるこの遺伝子の既知の転位および発癌活性と一致している(Davis et al.,Proc Natl Acad Sci USA 100、6051(2003))(表1)。この例外プロファイルは、RUNXl(AML1)、およびRUNXlTl(ETO)(
図5B)を融合させる、既に確認済みのt(8;21)転位を有する症例に正確に関連している。同様に、Rossらの急性リンパ芽球性白血病(ALL)データセットにおいては、PBX1は90パーセンタイルで最強度の例外プロファイルを示し、ALLのサブセットで起こることが知られるE2A-PBX1と一致している(Segal et al.,J Clin Oncol 21、1775(2003))(表1)。ここで、このアウトライアー発現プロファイルは、ALLに関するこの図中の特性決定されたt(l;19)E2A-PBX1転位と完全に相関している(
図S1C)。
【0254】
前立腺癌におけるETSファミリーメンバーERGとETV1に関する例外プロファイルの同定
次に、新規COPA予測を検討した。いくつかの独立したデータセットにおいて、COPAは、ユーイング肉腫および骨髄性白血病における発癌転位に関与していることが知られる2つのETSファミリー転写因子、ERGとETV1、について前立腺癌における強い例外プロファイルを同定した(Lapointe et al.,Proc Natl Acad Sci USA 101、811(2004);Tian et al.,N Engl J Med 349、2483(2003))。Dhanasekaranら(Keats et al.,Blood 105、4060(2005))、Welshら(Dhanasekaran et al.,Faseb J 19、243(2005))、およびLapointeら(Wang et al.,Lancet 365、671(2005))の前立腺癌遺伝子発現データセットにおいては、ERGは、75パーセンタイルで最高スコアの例外プロファイルを示し(表1)、Lapointe et al.およびTomlins et al.(Welsh et al.,Cancer Res 61、5974(2001))データセットでは、ETV1が90パーセンタイルで最高スコアの例外プロファイルを示した(表1)。これらのことから、COPAは、7つの独立した前立腺癌プロファイリング研究において、ERGまたはETV1をアウトライアー遺伝子の上位10番以内に9回ランク付けした。ERGとETV1の両者は、ユーイング肉腫における発癌転位に関与している。EWS遺伝子の5´活性化領域の、ERG(t(21;22)(q22;ql2))またはETV1(t(7;22)(p21;ql2))等のETSファミリーメンバーの高保存3´DNA結合領域への融合は、ユーイング肉腫の特徴である(上述のLapoint et al.,Zhan et al.,Blood 99、1745(2002);Fonseca et al.,Cancer Res 64、1546(2004))。ETSファミリーメンバーの関与する転移は発癌形質転換において機能的に重複するので、転移の1種のみが、ユーイング肉腫の各症例において通常観測される。
【0255】
ERGとETV1が前立腺癌の発達に同様に関与しているならば、これらの例外プロファイルは、相互排他的、すなわち、各症例は、2つ遺伝子のうち1つのみを過剰発現するはずであると考えられる。機能的重複遺伝子または同じ発癌経路にある遺伝子における変異は、腫瘍進行において共に選択される可能性は低い。ERGとETV1の共発現プロファイルをいくつかの前立腺癌データセットにわたって調べたところ、これらが相互排他的な例外プロファイルを示すことがわかった。異なるマイクロアレイプラットフォームを用いて全体的に切除された前立腺組織をプロファイルした、2つラージスケールでのトランスクリトーム研究からのERGとETV1の発現プロファイル(上記既出のWang et al.,Cheok et al.,Nat Genet 34、85(2003))を同定した(
図1A左および中央)。Glinskyらの研究が臨床的に局在化した前立腺癌試料のみについてプロファイリングを行ったのに対し、Lapointeらによる研究は、ERGとETV1アウトライアー発現を前立腺癌および転移性前立腺癌に限定して、良性前立腺組織、臨床的に局在化した前立腺癌、および転移性前立腺癌をプロファイリングしている。これら両研究においては、前立腺癌は、もっぱらERGまたはETV1を発現している(
図1A右)。同様の結果は、レーザーキャプチャーマイクロダイセクション(LCM)によって得られた99の前立腺組織試料に関するプロファイリング研究においてもみられる(Welsh et al.,上記)。ERGまたはETV1の排他的なアウトライアー発現(
図1B右)に加え、LCM研究の結果は、ETV1およびERGが、推定前駆病変前立腺上皮内腫瘍(PIN)あるいは隣接する良性上皮内にではなく、前立腺癌または転移性前立腺癌由来の上皮細胞内のみに過剰発現されることを実証した。観察されたこの排他的なアウトライアーパターンが活性化遺伝子が複数のパートナーと融合できるその他の転移と一致しているかを直接的に決定するため、Zhanらは、複数の骨髄腫データセット(Dhanasekaran et al.,Nature 412、822(2001))について検討した。免疫グロブリン重鎖プロモーターの、CCNDlまたはFGFR3、それぞれt(11,14)またはt(4,14)、への再発性融合は、複数の骨髄腫の特定のサブセットを特徴付ける(Wigle et al.,Cancer Res 62、3005(2002))。CCNDlが75パーセンタイルで最高スコアのアウトライアーを示し、FGFR3が95パーセンタイルで3番目に高いスコアのアウトライアーを示したので(表1)、これらの転位は例外プロファイル分析(
図1C)に反映されている。2つの症例を除き、骨髄腫試料は、CCNDlまたはFGFR3の排他的な過剰発現を示した(
図1Cの右)。これらを総合すると、複数の前立腺癌データセットにわたるERGとETV1の例外プロファイルは、様々なヒト悪性腫瘍におけるその他の原因変異と一致している。ERGまたはETV1の個々の前立腺癌試料における排他的な過剰発現は、多発性骨髄腫等の活性化遺伝子が生物学的重複パートナー遺伝子と融合できるその他の腫瘍と一致している。
【0256】
前立腺癌におけるTMPRSS2のERGまたはETV1への再発性遺伝子融合の発見
次に、個々の前立腺癌試料におけるERGとETV1過剰発現の機構を決定した。ERGまたはETV1を過剰発現した前立腺癌細胞株および臨床試料を、定量PCR(QPCR)を実施して、同定した(
図2A)。LNCaP前立腺癌細胞株およびホルモン抵抗性転移性前立腺癌で死亡した患者から入手した2試料(前立腺における残存原発癌腫であるMET‐26RPおよび、リンパ節転移であるMET‐26LN)は、QPCRにより、ETV1を顕著に過剰発現した(
図2A)。異なる解剖学的位置由来の5つの独立した転移性病巣のほかに、同患者の前立腺における残存癌腫も、DNAマイクロアレイ解析でETV1を過剰発現し(上記既出のWelshらの文献を参照)、ETV1活性化が広範な転移の前に原発性腫瘍で起こったことを示唆している。リンパ節転移はホルモン抵抗性転移性前立腺癌(MET‐28LN)で死亡した第2の患者、および、過剰発現されたERGを過剰発現した、VCaPおよびDuCaPの2つの前立腺癌細胞株からも同定された(
図2A)。これらの細胞株は、椎骨転移(VCaP)、およびホルモン抵抗性前立腺癌を有する第3の患者由来の硬膜転移(DuCaP)から独立に単離された(Golub et al.,Science 286、531(1999);Rosenwald et al.,Cancer Cell 3,185(2003))。繰り返しとなるが、これらの2つの細胞株におけるERGの通常の過剰発現は、ERG活性化が広範な転移の前に起こったことを示唆する。これらを総合すると、これらの結果は、特定の遺伝現象が、前立腺腫瘍形成の前に個々の試料においてERGまたはETV1を活性化しているかもしれないことを示唆していることになる。
【0257】
これらの遺伝現象の特性を決定する上で、高ERGまたはETV1発現を有する試料について、これらのそれぞれの座位(7p21.2および21q22.3)での染色体増幅を試験した。ゲノムDNA上でのQPCRによると、試料中のERGまたはETV1の、それぞれの転写物過剰発現(Sotiriou et al.,Proc Natl Acad Sci USA 100,10393(2003))による増幅は見られなかった。続いて、DNA再配列の発生を分析した。上述のQPCRに用いたプライマーは、ユーイング肉腫においてはERGとETV1の既知のブレイクポイントに対して5´に位置するため、同じ転位が前立腺癌において起こりそうになかった。従って、ETV1エクソンの発現レベルは、ETV1過剰発現を示した、上記の同定した試料中のエクソンウォーキングQPCRにより測定した。ETV1エクソン2〜7におよぶ5つのプライマー対を用い、LNCaP細胞はすべての測定ETV1エクソンの実質的に均一な過剰発現を示し、およびMET26の両試料ではエクソン4〜7に比べて、ETV1エクソン2および3の発現が>90%の減少していることを示した(
図2B)。本結果の可能性のある説明として、別のスプライシング、新規の癌特異性アイソフォームまたは未報告の再配列が考えられる。
【0258】
全長ETV1転写物の特性を決定するため、cDNA末端の5´RNAリガーゼ介在性迅速増幅(RLM-RACE)をLNCaP細胞およびMET26-LN上で行った。さらにまた、MET28-LNにおけるERGの全長転写物を得るため、RLM−RACEを行った。RLM-RACE cDNA由来のETV1のPCR増幅のため、完全転写物の5´末端に連結したRNA-オリゴヌクレオチドに相補な順方向プライマーと、LNCaP細胞およびMET26-LNの両者で過剰発現された最も5´側のエクソンである、エクソン4の逆方向プライマーを用いた。上述と同様の手法により、ERGのエクソン4がMET28-LN内に過剰発現されたことを決定した。このエクソン中の逆方向プライマーをRLM-RACE cDNAのPCR増幅に用いた。クローン化産物の配列決定により、前立腺特異性遺伝子TMPRSS2(28)(21q22.2)の、MET26-LNにおけるETV1との融合およびMET28-LNにおけるERGとの融合が明らかになった(
図2C)。MET26-LNでは、2つのRLM-RACE PCR産物を同定した。
【0259】
第1の産物であるTMPRSS2:ETV1aは、TMPRSS2の完全エクソン1の、ETV1のエクソン4の始めとの融合を生じた(
図2C)。第2の産物であるTMPRSS2:ETV1bは、TMPRSS2のエクソン1および2の、ETV1のエクソン4の始めとの融合を生じた(
図6)。これらの両産物は、MET26-LNがエクソン2および3における過剰発現の消失を示した、上述のエクソン-ウォーキングQPCRと矛盾がない。MET28-LNにおいては、単一のRLM-RACE PCR産物を同定し、配列決定により、TMPRSS2の完全エクソン1が、ERGのエクソン4の初めに融合していることが明らかになった(TMPRSS2:ERGa)(
図2C)。
【0260】
前立腺癌におけるTMPRSS2:ERGおよびTMPRSS2:ETV1遺伝子融合の検証
これらの結果に基づき、QPCRプライマー対は、TMPRSS2においては順方向プライマーで、ERGとETV1のエクソン4においては逆方向プライマーで設計された。SYBRグリーンQPCRを、両プライマー対を臨床的に局在化した前立腺癌および転移性前立腺癌の42の症例より得た試料のパネルにわたって用いて行い、代表的な結果を描出した(
図2DおよびE)。これらの結果は、高レベルのETV1またはERGを有する試料のみがTMPRSS2を有するそれぞれの融合産物を発現することを実証している。QPCRがいくつかの陰性試料において35サイクル後に測定可能な産物を生じたにもかかわらず、融解曲線分析は、陽性および陰性試料中の個別の産物を明らかにし、40サイクルのQPCR解析後の産物のゲル電気泳動は陰性融合試料のプライマーダイマーのみを明らかにした(
図2、DおよびE)。プライマーダイマーの形成は、高GC含有量(80.3%)に起因するTMPRSS2のエクソン1全体でプライマーを設計する困難さで部分的に説明できる。しかしながら、TMPRSS2:ERGa、TMPRSS2:ETV1a、およびTMPRSS2:ETV1b融合の特異的発現をタックマン(Taqman)QPCRでそれぞれの融合にまたがる順方向プライマーを用いて確認し、各症例において産物はSYBRグリーンQPCRと同じ症例でのみ検出された(上記Sotiriou et al.)。SYBRグリーンQPCRと増幅産物に対して用いたプライマーの特異性をさらに確認するため、標準的な逆転写PCRを、TMPRSS2:ERGaを発現した試料のパネル上でSYBRグリーンQPCRと同じプライマーでおこなった。同様の大きさの産物が得られ、クローン化産物の配列決定はTMPRSS2:ERGaの存在を確認した。高レベルのETV1またはERGをそれぞれ発現したが、QPCRによる転位の証拠を示さなかったPCA16およびPCA17の2症例(
図2DおよびE)を同定した。PCA16においてETV1プライマーで産生された産物の配列決定が融合転写物の証拠を示さず、PCA17においてはERGプライマーで産物は得られなかったので、RLM-RACEはこれらの結果を裏付けた。同様の結果はLNCaP細胞についても得られ、RLMRACEまたはQPCRによる融合の証拠はなく、上記のエクソンウォーキングQPCRと矛盾しなかった。
【0261】
前立腺癌試料におけるETSファミリーメンバーとのTMPRSS2融合転写物の証拠の概要
RLM-RACE産物の配列決定、RT‐PCR産物のQPCRおよび配列決定を含む、TMPRSS2:ERGおよびTMPRSS2:ETV1融合転写物についての3つの異なるアッセイから得られた結果を表2にまとめる。すべての試料におこなったTMPRSS2融合に対するQPCRに加え、これらの融合の存在を、選択した試料についていくつかの手法を用いて確認した。例えば、PCA1(前立腺癌試料1)において、TMPRSS2:ERGaを、RLMRACE産物の配列決定、RT‐PCR産物のQPCRおよび配列決定により同定した。QPCR産物のQPCR融解曲線分析およびゲル電気泳動により、PCA4は予想より大きな増幅産物を産生した。続くRLM-RACE解析で、TMPRSS2の完全エクソン1の、ERGのエクソン2の初めとの融合(TMPRSS2:ERGb)を確認した(
図6)。TMPRSS2:ERGb接合部にまたがる順方向プライマーを用いたタックマンQPCRはTMPRSS2:ERGbがPCA4のみに存在することを確認し、TMPRSS2:ERGa接合部にまたがる順方向プライマー を用いたタックマンQPCRは、この試料中で産物を産生しなかった(27)。TMPRSS2:ERGおよびTMPRSS2:ETV1融合の証拠は、過剰発現したERGまたはETV1をそれぞれ発現した症例のみに、QPCRまたはDNAマイクロアレイにより見られた。これらの結果は、アウトライアー解析で観察された排他的な発現と一致している。
【0262】
蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)によるTMPRSS2 :ETV1転位およびERG再配列の確認
TMPRSS2:ETV1およびTMPRSS2:ERG融合転写物の存在確認後、染色体レベルでのこれらの再配列の証拠を、間期蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)をホルマリン固定パラフィン包理(FFPE)試料上で用いて得た。2つの異なるプローブ手法を用いた。すなわち、TMPRSS2:ETV1転位を検出するのに2色、融合-シグナルアプローチ、およびERG座の再配列を検出するのに2色、分断シグナルアプローチを用いた。これらのプローブ手法は、RLM-RACE、MET26およびMET28に当初使用した2症例で検証した(
図3)。TMPRSS2とETV1に対するプローブを用いて、正常な末梢リンパ球(NPLs)は1対の赤と1対の緑のシグナルを示した(
図3A)。MET26は、プローブの重複の指標である一対のシグナルの融合を示し(
図3B、黄色矢印)、本試料中におけるTMPRSS2:ETV1転写物の発現と一致していた。さらにまた、ETV1に対する残りの2つのシグナルにより示されるように(
図3B、赤矢印)、ETV1座位の一貫した低レベル増幅を確認した。同様に、ERG座位の5´および3´領域にわたるプローブを用いて、NPLにおける一対の黄色のシグナルを観測した(
図3C)。MET28においては、一対のプローブは緑と赤の別々のシグナルに分かれ、ERG座位での再配列を示している(
図3D、緑および赤の矢印)。この結果は、本症例におけるTMPRSS2:ERG転写物の発現と一致している。これらの結果に基づき、上述の個々のFISH解析を、局在化した前立腺癌の13症例および転移性前立腺癌の16症例(
図3E)由来のコアを含む連続組織マイクロアレイでおこなった。マトリックスで示すように、29の症例中23症例(79.3%)が、TMPRSS2:ETV1融合(7症例)またはERG再配列(16症例)の証拠を示した。さらにまた、29症例のうちの12症例で(41.4%)ETV1座位での低レベル増幅の証拠を示した。過去の報告では、ETV1、7pのゲノム位置を、局在化したおよび転移性前立腺癌において最もよく増幅された領域の1つとして同定した(Slamon et al.,Science 235、177(1987))。しかしながら、ETV1増幅がERG再配列を有する6症例で起こり、本発明者らの転写物データが、高いERG発現およびTMPRSS2:ERG融合を有する試料のうち高いETV1発現も有するものは19試料のうち0試料であることを実証しているので、7p増幅はETV1発現を誘発していないようである。さらにまた、ETV1増幅およびTMPRSS2:ETV1融合の両者がFISHにより存在した場合、融合シグナルではなく、個々のETV1シグナルのみが増幅された。にもかかわらず、このFISH解析結果は、 上述の転写物データと一致した、ゲノムレベルでのTMPRSS2:ETV1およびERG再配列の存在を実証している。
【0263】
TMPRSS2はアンドロゲン調節遺伝子であり、ERGとの融合でERGのアンドロゲン制御を生じている。TMPRSS2は、初期にLNCaP細胞中でアンドロゲンにより発現が増大された前立腺特異的遺伝子として同定されたものであり、アンドロゲン応答性エレメント(ARE)もそのプロモーター中に含む(Huang et al.,Lancet 361、1590(2003);Schwartz et al.,Cancer Res 62、4722(2002))。続く研究により、正常および腫瘍性前立腺組織における高い発現が確認され、TMPRSS2がアンドロゲン感受性前立腺細胞株においてアンドロゲン制御されていることが実証された(Schwartz et al.,Cancer Res 62、4722(2002);Ferrando et al.,Cancer Cell 1,75(2002);Chen et al.,Mol Biol Cell 14,3208(2003);LaTulippe et al.,Cancer Res 62,4499(2002))。さらにまた、アンドロゲンがアンドロゲン非感受性前立腺癌細胞株PC3におけるTMPRSS2の発現を増大しないのに対し、PC3細胞におけるアンドロゲン受容体の安定な発現は、アンドロゲン応答性となるTMPRSS2を生じた(Schwartz et al.,上記;Ferrando et al.上記;Chen et al.上記;LaTulippe et al.上記)。これに対し、アンドロゲンで処理したLNCaP前立腺細胞株のマイクロアレイ研究では、アンドロゲン応答性であるためERGまたはETV1を同定しておらず(Jain et al.,Cancer Res 64、3907(2004))、これらのプロモーター配列を調べることでは共通AREを明らかにしなかった(上記Sotiriou et al.)。各細胞株において3つの独立したアッセイにより確認された(表2)DuCaPおよびVCaP細胞株におけるTMPRSS2:ERGa融合が、ERGのアンドロゲン制御を生じていると考えられた。ERG発現のアッセイにQPCRを用いて、ERGがVCaPおよびDuCaP細胞の両者で高発現されたにもかかわらず、合成アンドロゲンR1881による処理が、ERGの発現を、未処理対照と比較して、DuCaP細胞では2.57倍に、およびVCaP細胞では5.02倍に増大したことが確認された(
図4)。ERGの発現は最小であり、R1881治療後では未処理対照試料に比べて、RWPE(1.37倍)、LnCaP(0.86倍)、PC3(1.28倍)、およびアンドロゲン受容体を発現するPC3細胞(0.73倍)では実質的に変化しなかった。
【0264】
同一試料のマイクロアレイ解析は、ERGは、DuCaPおよびVCaP細胞おけるアンドロゲンに対する応答で、上方制御されるだけであることを確認した(Sotiriou et al.,上記)。本発明は特定の機構に限定されるものではない。実際、機構の理解は、本発明の実施に必要ではない。にもかかわらず、これらの結果は、TMPRSS2とのそれぞれの融合が存在する場合に前立腺癌におけるERGまたはETV1の異常発現についての可能な機構を示唆していると考えられる。
【0265】
(表1)癌の例外事象の解析(COPA)
強度の例外プロファイルを有する癌において原因となる変異が起こることが知られている遺伝子。「X」は、後天性病原ゲノム(pathogenomic)転位についての文献証拠を示す。「XX」は、転位について特性決定した具体的な研究における例と、具体的な転位についての文献証拠を示す。「Y」は、既知の増幅との一致を示す。「
**」は、前立腺癌におけるERGとETV1の例外プロファイルを示す。
【0266】
表2は、前立腺癌試料および細胞株におけるETSファミリーメンバー状態に対するTMPRSS2融合をまとめたものである。すべてのアッセイについて、陽性結果を「+」で示し、陰性結果を「−」で示している。空欄になっている細胞は、所定のアッセイがその試料について行われなかったことを示す。定量PCR(QPCR)によるERGまたはETV1の過剰発現が示されており、アステリスク(*)で示す試料は、その試料がcDNAマイクロアレイでも評価され過剰発現が確認されたことを示す。TMPRSS2:ERGまたはTMPRSS2:ETV1遺伝子融合を検出するために、選択した試料について過剰発現したETSファミリーメンバーについてのRLM-RACEを行い、配列決定後にTMPRSS2融合を有する試料を示す。すべての試料について、QPCRによるTMPRSS2:ETV1およびTMPRSS2:ERG発現を分析した。選択した症例はまた、QPCRで用いたものと同じTMPRSS2融合プライマーを用いて標準的な逆転写PCR(RT‐PCR)により増幅し、増幅産物を配列決定した。TMPRSS2:ETV1またはTMPRSS2:ERG融合の証拠を示す試料を表中の1番最後の列に示す。
【0267】
(表2)
【0268】
(表3)癌の例外事象の解析(COPA)
Oncomineでの検討で上位10位に入る例外プロファイルを有する癌における原因となる変異が起こることが知られている遺伝子を示す。「X」は、後天性病原ゲノム転位に関する文献証拠を示す。「XX」は転位について特性決定した具体的な研究における例と、具体的な転位についての文献証拠を示す。「Y」は、既知の増幅との一致を示す。「
**」は、前立腺癌におけるERGとETV1の例外プロファイルを示す。
【0269】
(表4)本研究で用いたオリゴヌクレオチドプライマー
すべてのプライマーについて、遺伝子、塩基、およびエクソン(UCSCゲノムブラウザーを用いた、2004年5月のヒトゲノムのアセンブリと本文中に記載の参照配列のアラインメントに従う)を列挙する。順方向プライマーを「f」でおよび逆方向プライマーを「r」で示す。
【0270】
実施例2:ETV4遺伝子融合
A.材料および方法
プロファイリング研究におけるETSファミリーの発現
前立腺癌におけるETSファミリーメンバーの発現を調べるため、Oncomineデータベース(Rhodes et al.,Neoplasia 2004;6:1-6)にある、2つの前立腺癌プロファイリング研究を利用した(Lapointe et al.,Proc Natl Acad Sci USA 2004;101 :811-6およびTomlins et al.,Science 2005;310:644-8)。ETS領域を有する遺伝子をインタープロフィルター「Ets」(インタープロID:IPR000418)により同定した。ヒートマップ表示を「遺伝子ごとに中央値を中心」のオプションを用いてOncomine中に作製し、その色の対比を、ERGとETV1の発現差異を強調するように設定した。
【0271】
試料
前立腺癌組織(PCAl-5)は、米国ミシガン大学前立腺癌専門優良研究プログラム(SPORE)組織コアの一部である、米国ミシガン大学の根治的前立腺切除術系列から得た。すべての試料は、患者らのインフォームドコンセントおよび事前の研究所審査委員の承認を得て収集した。全RNAをトリゾール(インビトロジェン社、米国カリフォルニア州カールスバッド)を製造業者の使用説明に従って用いて単離した。良性前立腺組織全RNAの市販のプール(CPP、Clontech社、米国カリフォルニア州マウンテンビュー)も用いた。
【0272】
定量PCR(QPCR)
QPCRを、既述のように(上記Tomlins et al.)、SYBRグリーン色素をアプライドバイオシステム社7300リアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステム社、米国カリフォルニア州フォスターシティ)上で用いて実施した。各試料についての、ハウスキーピング遺伝子グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)に対する各標的遺伝子の量を報告した。これらの標的遺伝子の相対量を、良性前立腺組織(CPP)のプール由来量に対する値に対して較正した。すべてのオリゴヌクレオチドプライマーは、インテグレイテッドDNAテクノロジーズ(米国アイオワ州コーラルビル)により合成されたものである。GAPDHプライマーについては、文献(Vandesompele et al.,Genome Biol 2002;3:RESEARCH0034)に記載のとおりである。ETV4のエクソンに対するプライマーは以下のとおりである(5´→3´方向に列挙)。すなわち、
である。エクソンを、UCSCゲノムブラウザーを用いて2004年5月凍結のヒトゲノムで、ETV4(NM001986.1)に関するRefSeqのアラインメントにより番号付けした。TMPRSS2:ETV4融合転写物のQPCR確認のため、TMPRSS2:ETV4aおよびTMPRSS2;ETV4b転写物の両者を検出する
を、ETV4_エクソン4-rと共に用いた。
【0273】
cDNA末端のRNAリガーゼ介在性迅速増幅(RLM-RACE)
RLM-RACEを、ジーンレーサーRLM-RACEキット(インビトロジェン社)を用いて、記載の製造業者の使用説明書に従い(上記Tomlins et al.)実施した。ETV4の5´末端を得るために、PCA5由来の第1の鎖cDNAを、ジーンレーサー5´プライマーおよびETV4_エクソン4-rまたはETV4_エクソン7-r
を用いて増幅した。産物をクローン化し、記載のように配列決定した(上記Tomlins et al.)。TMPRSS2:ETV4転写物の等価物5´末端を両プライマー対から得た。
【0274】
蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)
ホルマリン固定したパラフィン包理(FFPE)組織切片を間期FISHに用いた。パラフィンを除去した組織を、0.2MのHClで10分間、2倍濃度のSSCで80℃で10分間処理し、プロテアーゼK(インビトロジェン社)で10分間消化した。これらの組織とBACプローブを5分間94℃で共に変性し、一晩37℃でハイブリッド形成させた。ハイブリッド形成後洗浄を0.1%ツイーン20を含む2倍濃度のSSCで5分間行い、蛍光検出を、フルオレセインに結合した抗ジゴキシゲニン(Roche Applied Science社、米国インディアナ州インディアナポリス)、およびAlexa Fluor594に結合したストレプトアビジン(インビトロジェン社)を用いて実施した。スライドを対比染色し、DAPI含有のProLong Gold退色防止試薬(インビトロジェン社)中においた。スライドをLeica DMRA蛍光顕微鏡(Leica社、米国イリノイ州ディアフィールド)を用いて観察し、サイトビジョンソフトウェアシステム(アプライドイメージング社、米国カリフォルニア州サンタクララ)を用いてCCDカメラで撮像した。
【0275】
いずれのBACも、BACPACリソースセンター(米国カリフォルニア州オークランド)から入手したものであり、プローブ位置を正常な末梢リンパ球の分裂中期スプレッドとのハイブリッド形成により確認した。TMPRSS2:ETV4融合の検出については、RP11-35C4(TMPRSS2に対して5´側)をETV4に対して3´側に位置する複数のBAC(ETV4に対して遠位側から近位側へ、順にRP11-266I24、RP11-242D8、およびRP11-100E5)と共に用いた。ETV4再配列の検出については、RP11-436J4(ETV4に対して5´側)をETV4に対して3´側に位置する複数のBACと共に用いた。各ハイブリッド形成について、癌性細胞の領域が病理学者により同定され、一試料につき100細胞をカウントした。TMPRSS2:ETV4融合についての報告された細胞数は、RP11-242D8を用い、同様の結果がすべての3´ETV4 BACで得られた。PCA5におけるさらなる再配列を排除するため、FISHを、ETV4に対して3´側(RP11-266I24およびRP11-242D8)、ERG分断シグナルプローブ(RP11-95I21およびRP11-476D17)、およびTMPRSS2:ETV1融合プローブ(RP11-35C4およびRP11-124L22)の2つのプローブを用いて実施した。BAC DNAをQIAフィルター・マキシプレップキット(Qiagen社、米国カリフォルニア州ヴァレンシア)を用いて単離し、プローブをジゴキシゲニンまたはビオチン・ニックトランスレーションミックス(Roche Applied Science社)を用いて合成した。
【0276】
B.結果
最初のCOPAスクリーニングは、ERGまたはETV1とのTMPRSS2融合の特性決定に至った(実施例1)。これらの遺伝子融合に対して陰性な前立腺癌は、その他のETSファミリーメンバーを含む再配列を有しているとさらに考えられる。Oncomineデータベース(上記既出のRhodes et al.)からの前立腺癌プロファイリング研究においてモニターされたすべてのETSファミリーメンバーの発現を調べることで、ETSファミリーメンバーETV4の著しい過剰発現を、1つは全体解剖組織のプロファイリング(Lapointe et al.,上記)(
図7A)であり、もう1つがレーザーキャプチャーマイクロダイセクション(LCM)組織のプロファイリング(
図7B)である、2つの研究の各々から単一の前立腺癌の症例で同定した。これらの症例はERGまたはETV1を過剰発現せず、いずれの良性前立腺組織も過剰発現を示さなかったので、TMPRSS2との融合がこれらの症例におけるETV4の過剰発現に関与したと考えられた。ELF3が前立腺癌の症例のうちのわずかでも過剰発現されたにも拘わらず、これらの両研究で、正常な前立腺組織試料も著しいELF3過剰発現を示しており、良性および癌性組織の両者での発現を引き起こす遺伝子融合の可能性が低いことを示している。従って、このETV4過剰発現の事例(PCA5として表す)をさらに分析した。
【0277】
全RNAをPCA5から単離し、エクソン-ウォーキング定量PCR(QPCR)を用いてETV4の過剰発現を確認した。この場合、QPCRは、プールされた良性前立腺組織(CPP)(約900倍)、およびETV4を過剰発現せずかつTMPRSS2:ERG陽性(PCAl-2)であるかまたは陰性(PCA3-4)であった前立腺癌に比べて、ETV4の3´からエクソン2までのエクソンが著しく発現されたことを実証した(
図8A)。しかしながら、PCA5における遠位領域に対する、ETV4のエクソン2の発現の顕著な減少(>99%)が観測されており、TMPRSS2:ERGおよびTMPRSS2:ETV1陽性の例(上記既出のTomlins et al.)ですでに観察されているように、可能性のあるTMPRSS2との融合を示している。
【0278】
PCA5におけるETV4転写物の5´末端を同定するため、cDNA末端のRNA-リガーゼ介在性迅速増幅(RLM-RACE)を、エクソン7において逆方向プライマーを用いて行った。RLM-RACEは2つの転写物を明らかにし、これらは各々、ETV4由来の配列に融合したTMPRSS2のおよそ8kb上流に位置する配列からなる5´末端を有していた(
図8B)。具体的には、TMPRSS2:ETV4aの5´末端は、TMPRSS2の該領域上流から47塩基対を有しているが、TMPRSS2:ETV4bの5´末端は、同じ末端13塩基対を有している。これら両転写物の5´末端は、ETV4のエクソン7の逆方向プライマーを通じて、ETV4のエクソン3の直前の5´側に位置するイントロンの9塩基対と、エクソン3の既報の基準配列とからなる、同一の隣接配列に融合した。
【0279】
PCA5における両転写物の存在およびCPPおよびPCA1〜4におけるこれらの非存在を、QPCRを用いて確認した。既知のエクソンを含む融合物の存在をTMPRSS2からさらに排除するため、QPCRを、TMPRSS2のエクソン1の順方向プライマー、およびETV4エクソン4逆方向プライマーを用いて実施し、予測どおり、CPPまたはPCA1〜5で産物は検出されなかった。
【0280】
ETV4調節不全を有するその他の前立腺癌が、TMPRSS2:ERGおよびTMPRSS2:ETV1転写物(TMPRSS2由来の既知のエクソン含む)に構造的により類似したTMPRSS2:ETV4融合転写物を含み得るかどうかは不明である。本願明細書で報告されているTMPRSS2:ETV4融合は、TMPRSS2のすぐ上流の十分特性決定されたAREを含んでいない。しかしながら、本願明細書に記載のTMPRSS2:ETV4転写物(Rabbitts,Nature 1994;372:143-9)に存在するTMPRSS2配列の上流に位置するアンドロゲン応答性エンハンサーについての証拠はある。にもかかわらず、融合転写物に関わるETV4エクソンのみの著しい過剰発現は、遺伝子融合が、ETV4の調節不全に関与していることを強く示唆している。これらをあわせると、TMPRSS2:ETV4融合転写物の構造は、転写されたTMPRSS2配列よりむしろ、TMPRSS2上流の制御エレメントが、ETSファミリーメンバーの調節不全を引き起こしているという結論を支持する。
【0281】
RLM-RACEおよびQPCRで実証されている、TMPRSS2(21q22)とETV4(17q21)を取り囲むゲノム座位の融合を確認するため、間期蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)を利用した。TMPRSS2に対して5´側、ETV4に対して3´側のプローブを用いることで、TMPRSS2とETV4座位の融合が、PCA5由来の癌性細胞の65%で観測された(
図8D)。ETV4の再配列のさらなる確認として、5´および3´側のプローブをETV4に用いると、PCA5由来の癌性細胞の64%が分断シグナルを示した。FISHも、さらなる再配列を排除するため、ETV4に対して3´側の2つプローブ、ERG分断シグナルプローブ、およびTMPRSS2:ETV1融合プローブを用いてPCA5上で実施し、各ハイブリッド形成について陰性の結果が得られた。
【0282】
これらを総合すると、この結果は、多くの分析方法は一貫した調節解除を示さないプロファイルを考慮にいれず(Eisen et al.,Proc Natl Acad Sci USA 1998;95:14863-8;Golub et al.,Science 1999;286:531-7;Tusher et al.,Proc Natl Acad Sci U S A 2001;98:5116-21)、それゆえ希少にみえる(98症例中2症例)前立腺癌におけるETV4を同定できないので、腫瘍遺伝子発現データの例外プロファイルを注意深く調べて用いることを強調している。TMPRSS2:ERGおよびTMPRSS2:ETV1融合の同定と組み合わせると、ここに示す結果は、AREまたはTMPRSS2上流のエンハンサーの破壊によってもたらされるETSファミリーメンバーの調節不全は、前立腺腫瘍形成の顕著な特徴である。
【0283】
実施例3:遺伝子融合RNAの検出
本実施例では、4つの異なる定性的アッセイにおける、4つの遺伝子融合配列を有するRNA(IVT)を標的とした捕捉、増幅および定性的検出(TMPRSS2:ETV1a、TMPRSS2:ETV1b、TMPRSS2:ERGa、およびTMPRSS2:ERGb、APTIMA製剤試薬を使用)、ならびに各々を適当な標的特異的なオリゴヌクレオチド、プライマー、およびプローブを加えたHPA検出について説明する。表5は、アッセイに用いたオリゴヌクレオチドの配列を示す。
【0284】
(表5)
【0285】
A.材料および方法
RNA標的捕捉
溶解緩衝液は、15mMのリン酸1ナトリウム(1水塩)、15mMのリン酸2ナトリウム(無水)、1.0mMのEDTA2ナトリウム2水和物、1.0mMのEGTA遊離酸、および110mMのラウリル硫酸リチウムをpH6.7を含有した。標的捕捉試薬は、250mMのヘペス(HEPES)、310mMの水酸化リチウム、1.88Mの塩化リチウム、100mMのEDTA遊離酸(pH6.4)、および250μg/mLの1ミクロンの、共有結合したオリゴマー(dT)
14を有するカルボキシレート改変磁性粒子であるSERA-MAG MG-CM(Seradyn社、米国インディアナ州インディアナポリス)を含んだ。洗浄液は、10mMのヘペス、6.5mMの水酸化ナトリウム、1mMのEDTA、0.3%(v/v)エタノール、0.02%(w/v)メチルパラベン、0.01%(w/v)プロピルパラベン、150mMの塩化ナトリウム、0.1%(w/v)ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)をpH7.5で含有する。
【0286】
RNA増幅および検出
増幅試薬は、26.7mMのrATP、5.0mMのrCTP、33.3mMのrGTPおよび5.0mMのrUTP、125mMのヘペス、8%(w/v)トレハロース2水和物、1.33mMのdATP、1.33mMのdCTP、1.33mMのdGTP、および1.33mMのdTTPを、pH7.5で含有する3.6mLの溶液の凍結乾燥させた形態である。この増幅試薬は、9.7mLの増幅試薬再構成溶液(下記参照)中で再構成した。使用前に、各15pmolのプライマーオリゴマーを加えた。増幅試薬再構成溶液は、0.4%(v/v)エタノール、0.10%(w/v)メチルパラベン、0.02%(w/v)プロピルパラベン、33mMのKCl、30.6mMのMgCl
2、0.003%フェノールレッドを含んでいた。酵素試薬は、20mMのヘペス、125mMのN-アセチル-L-システイン、0.1mMのEDTA2ナトリウム2水和物、0.2%(v/v)トリトン7X100洗浄液、0.2Mのトレハロース2水和物、0.90 RTU/mLのモロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)逆転写酵素、および0.20U/mLのT7 RNAポリメラーゼをpH7.0で含有する1.45mLの溶液の凍結乾燥された形態のものである。1単位(RTU)の活性を、5.75fmolのcDNAの、37℃15分間におけるMMLV逆転写酵素およびT7 RNAポリメラーゼに対する合成および遊離と定義し、1単位(U)の活性を、37℃20分間での5.0fmolのRNA転写物の産生と定義する。酵素試薬を、3.6mLの酵素試薬再構成溶液(下記参照)中で再構成した。酵素試薬再構成溶液は、50mMのヘペス、1mMのEDTA、10%(v/v)トリトン7X100、120mMの塩化カリウム、20%(v/v)無水グリセリンをpH7.0で含有する。ハイブリッド形成試薬は、100mMのコハク酸遊離酸、2%(w/v)ラウリル硫酸リチウム、100mMの水酸化リチウム、15mMのアルドリチオール-2、1.2Mの塩化リチウム、20mMのEDTA遊離酸、3.0%(v/v)エタノールを、pH4.7で含有した。
【0287】
選択試薬は、600mMのホウ酸、182.5mMの水酸化ナトリウム、1%(v/v)トリトン7X100を、pH8.5で含有した。この検出試薬は、1mMの硝酸および32mMの過酸化水素を含有する検出試薬Iと、1.5Mの水酸化ナトリウムを含有する検出試薬IIとを含んだ。
【0288】
B.アッセイプロトコル
標的捕捉
1.反応管1本につき400μLの試料に対して示される複製レベルで、IVTストック溶液をSTMに希釈することで試料を調製する。
2.連続分注器を用いて、TCOを有するTCR100μLを適切な反応管に添加する。
3.マイクロピペットを用いて各試料400μLを加えて、適切に標識する。
4.反応管をシーリングカードでカバーして、ラックを緩やかに手で振とうする。ボルテックスしない。ラックを62±1℃ウォーターバス中で30±5分間インキュベートする。
5.ウォーターバスからラックを取り出し、反応管の底を吸収性材料で拭いて乾かす。
6.シーリングカードがしっかりと固定されていることを確認する。必要に応じて、シーリングカードを新しいものと取替え、しっかりと密封する。
7.シーリングカードを取り外さずに、ラックを室温で30±5分間インキュベートする。
8.ラックを5〜10分間TCSマグネチックベース上に置く。
9.APTIMA洗浄液を分注マニフォールドを通してポンプでくみあげて、分注装置のポンプラインを準備する。ライン中の気泡がなくすべての10個のノズルが安定な流れの液体を送液するように、ポンプで十分に液体をシステム内に通す。
10.真空ポンプを始動し、吸引マニフォールドとトラップ瓶の間の第一のコネクターで吸引マニフォールドの接続を切る。真空計の読みが、25in.Hgを超えないようにする。真空計の読みには15秒かかる可能性がある。マニフォールドを再び接続して、および真空計の読みが7〜12in.Hgの範囲になるようにする。すべての標的捕捉工程が完了するまで真空ポンプを運転させておく。
11.吸引マニフォールドを第1セットの先端部にしっかりと取り付ける。先端部が軽く反応管の底に接触するまで、先端部を第1のTTUに下げて、すべての液体を吸引する。先端部を反応管の底に触れたままにしない。
12.吸引終了後、先端部をもとの先端カセットに外し入れる。各試料専用の先端部用いて、吸引工程を残りのTTUについて繰り返す。
13.分注マニフォールドを各TTUに配置し、分注装置ポンプを用いて、1.0mLのAPTIMA洗浄液をTTUの各反応管に送液する。
14.反応管をシーリングカードで封をし、ラックをTCSから取り除く。マルチチューブボルテックスミキサーで1度ボルテックスする
15.ラックをTCSマグネチックベース上に5〜10分間置く。
16.すべての液体を工程13および14のように吸引する。
17.最終吸引の後、ラックをTCSベースから取り出し、目視で反応管を検査してすべての液体が吸引されたかを確認する。液体がまだ見られる場合、ラックをTCSベースに2分間戻して、各試料について先に用いたものと同じ先端部を用いてTTUに対して吸引を繰り返す。
【0289】
プライマーアニーリングおよび増幅
1.連続分注器を用いて、分析物特異性プライマーを含有する再構成増幅試薬75μLを各反応管に加える。この時点ですべての反応混合物は赤色となるはずである。
2.連続分注器を用いて、200μLの油試薬を加える。
3.シーリングカードで反応管に封をし、マルチチューブボルテックスミキサー上でボルテックスする。
4.ラックをウォーターバス中62±1℃で10±5分間インキュベートする。
5.ラックをウォーターバスに移し、42±1℃で5±2分間放置する。
6.ラックをウォーターバスにつけたまま、シーリングカードを注意深く取り外し、連続分注器を用いて、25μLの再構成酵素試薬を反応混合物の各々に添加する。この段階で、すべての反応は、オレンジ色となっているはずである。
7.直ちに新しいシーリングカードで反応管に封をしてウォーターバスから取り出し、ラックを手で緩やかに振とうさせて反応物を混合する。
8.ラックを42±1℃で60±15分間インキュベートする。
【0290】
ハイブリッド形成
1.増幅前ウォーターバスからラックを取り出し、増幅後領域に移す。分析物特異性プローブを有する再構成したプローブ試薬100μLを、連続分注器を用いて加える。すべての反応混合物はこの時点で黄色となっているはずである
2.反応管をシーリングカードで封をし、マルチチューブボルテックスミキサー上で10秒間ボルテックスする。
2.ラックを62±1℃のウォーターバス中で20±5分間インキュベートする。
3.ラックをウォーターバスから取り出し、室温で5±1分間インキュベートする。
【0291】
選別
1.連続分注器を用いて、250μLの選択試薬を各反応管に加える。すべての反応は、この段階で赤色を呈するはずである。
2.反応管をシーリングカードで封をして10秒間あるいは色が均一になるまでボルテックスし、ラックを62±1℃のウォーターバス中で10±1分間インキュベートする。
3.ラックをウォーターバスから取り出す。ラックを室温で15±3分間インキュベートする。
【0292】
TTUの読み取り
1.試験完了に十分な量の自動検出試薬IおよびIIがあることを確認する。
2.カセット位置番号1に空のTTUを1つ入れてLEADERルミノメーターを準備し、WASHプロトコルをおこなう。
3.TTUをルミノメーターにロードし、HC+RevBプロトコルを実行する。
【0293】
C.結果
TMPRSS2:ERGおよびTMPRSS2:ETV1遺伝子融合IVTの各々をTCRに添加した4つのアッセイに対する結果を表6〜9に示す。
【0294】
(表6)
【0295】
(表7)
【0296】
(表8)
【0297】
(表9)
【0298】
実施例4:遺伝子融合に関するFISH分析
本実施例では、前立腺癌試料29試料中23試料がERGまたはETV1に再配列を保持することを実証するための、蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)の使用について説明する。細胞株実験は、TMPRSS2のアンドロゲン応答性プロモーターエレメントが、前立腺癌においてETSファミリーメンバーの過剰発現を介在していることを示唆する。これらの結果は、癌腫の発症および前立腺癌の分子的診断および治療に意味をもつ。
【0299】
FISHアッセイに用いた具体的なBACプローブの一覧を以下に示す。
【0300】
ETSファミリーメンバーにおける異常をFISHにより検査するための臨床的FISH解析
・1つがETV1にまたがり1つがTMPRSS2座位にまたがるプローブを用いたETV1-TMPRSS2融合の評価
ETV1に対するBAC:RP11-692L4
TMPRSS2に対するBAC:RP11-121A5、(RP11-120C17、PR11-814F13、RR11-535H11)
・c‐ERG:t‐ERG分断に関する1組のプローブを用いたERG転位の評価:
c‐ERGに対するBAC:RP11-24A11
t‐ERGに対するBAC:RP11-372O17、RP11-137J13
・1つはETV1座位にまたがり1つの基準プローブは7番染色体上にある1組のプローブを用いたETV1欠失/増幅試験:
ETV1に対するBAC:RP11-692L4
7番染色体上の標準プローブに対するBAC:chrのセントロメア上の市販プローブ
・1つがERG座位にまたがり1つの基準プローブが21番染色体上にある1組のプローブを用いたERG欠失/増幅試験:
ERGに対するBAC:RP11-476D17
21番染色体上の標準プローブに対するBAC:
*
・1つがTMPRSS2座位にまたがり1つの基準プローブが21番染色体上にある1組のプローブを用いたTMPRSS2欠失/増幅試験:
TMPRSS2に対するBAC:RP11-121A5、(RP11-120C17、PR11-814F13、RR11-535H11)
21番染色体上の基準プローブに対するBAC:
*
*21番染色体上の基準プローブに対するBAC:PR11-32L6、RP11-752M23、RP11-1107H21、RP11-639A7、(RP11-1077M21)
【0301】
実施例5:欠失を伴うTMPRSS2:ERG融合
本実施例では、TMPRSS2:ERG融合に伴う、21番染色体q22.2-3上のERGとTMPRSS2との間に位置する共通の欠失(common deletion)の存在について説明する。疾患進行と臨床成績との関連を、広い範囲にわたるヒトPCA試料、6つの細胞株、および13の異種移植を用いて調べた。
【0302】
A.材料および方法
臨床試料
本検討で用いた前立腺試料は、IRB認定プロトコルのもとで収集されたものである。すべての臨床的に局在化したPCA試料を、1名の病理学者により特性決定し、病理報告の際の観察者間の差異を排除するため、グリーソンスコアをつけた。臨床的に局在化したPCA試料を、ウルム大学での現在進行中の研究プロトコルの一部として収集した。これらのホルモン抵抗性試料は、米国ミシガン大学の迅速剖検プログラムから採取されたものである。
【0303】
FISH実験を、214名の患者由来の897の組織コア(ヒストスポット)からなる、2つのPCA予後評価アレイについておこなった。患者の個体群統計の要約を表10に示す。すべての患者が、1989年から2001年の間にウルム大学(独国ウルム)にて、骨盤リンパ節切除術を伴う根治的前立腺切除術を受けた。術前PSAは、1から314ng/mL(平均36ng/mL)の範囲であった。平均および最大追跡期間は、それぞれ3.4および8.4年である。
【0304】
細胞株および異種移植片
アンドロゲン非依存性(PC‐3、DU-145、HPV10、および22Rv1)、およびアンドロゲン感受性(LNCaP)PCA細胞株は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(米国バージニア州マナサス)から購入したものであり、限定培地中で維持した。HPV10は、HPV18DNA(18)によるトランスフェクションで形質転換した、高悪性度PCA(グリーソンスコア:4+4=8)由来の細胞に由来した。22Rv1は、性腺摘除誘発性退縮および親のアンドロゲン依存性CWR22異種移植の再発後にマウスにおいて連続的に増殖させた、異種移植に由来するヒトPCA上皮細胞株である。VCAP細胞株は、米国ミシガン大学での迅速剖検プログラムの一部として、椎骨転移性病変から得られたものである。
【0305】
LuCaP23.1、35、73、77、81、86.2、92.1、および105は、アンドロゲン非依存性ホルモン-抵抗性疾患PCAの患者由来のものである。LuCaP49および115は、アンドロゲン依存PCAの患者由来のものである。LuCaP58は、臨床的に進行した転移性疾患を有する未治療の患者由来のものであり、LuCaP96は、ホルモン抵抗性PCAを有する患者で増殖する前立腺由来腫瘍から樹立したものである。LuCaP49(大網腫瘤より樹立)、およびLuCaP93は、ホルモン非感受性(アンドロゲン受容体[AR]-陰性)小細胞PCAである。これらの2つの異種移植は、神経内分泌表現型を実証した。LuCaP23.1はSCIDマウス内で維持され、およびその他の異種移植は、オスのBALB/cnu/nuマウスに腫瘍を移植することで維持される。
【0306】
間期FISHを利用したTMPRSS2 :ERG融合の決定
TMPRSS2:ERGの転位に関するFISH解析は、本願明細書中や過去にも記載がある(Tomlins,et al.,Science 310:644-8(2005))。この分離アッセイを
図11および14に示す。21番染色体q22.2上におけるERG再配列を解析するために、それぞれがERG座位の隣接するセントロメアおよびテロメア領域に広がる、ビオチン-14-dCTP標識BACクローンRP11-24A11(最終的に結合して赤のシグナルを生成)、およびジゴキシゲニン-dUTP標識BACクローンRP11-137J13(最終的に結合して緑のシグナルを生成)からなる分離プローブシステムを応用した。すべてのBACクローンは、BACPACリサーチセンター、オークランド研究所小児科病院(CHORI)、米国カリフォルニア州オークランドより入手したものである。
【0307】
この分離プローブシステムを利用して、ERG再配列を有さない核は、赤と緑の並列した2対のシグナルを示した。赤-緑の並列シグナルは、黄色の融合シグナルを形成する。ERG再配列を有する核は、1つの並んだ赤-緑シグナル対の分離が各細胞において、転位置された対立遺伝子に対する単一の赤および緑シグナルと非転位置対立遺伝子に対する複合した黄色のシグナルを生じることを示している。組織解析の前に、すべてのプローブの完全性と純度を正常な末梢リンパ球の分裂中期スプレッドとのハイブリッド形成により確認した。組織ハイブリッド形成、洗浄、および蛍光検出は、過去の記載に基づいておこなった(Garraway,et al.,Nature 436:117-22(2005);Rubin,et al.,Cancer Res.64:3814-22(2004))。少なくとも1つのTMAコアを、2つTMA由来の59%のPCAの症例で評価できた。このアッセイの技術的な難点として、評価する診断材料がないこと、弱いプローブシグナル、および正確な診断を妨げる重複細胞が挙げられた。残りの本解析では、評価可能な臨床的に局在化したPCAの118の症例に絞った。15の症例では、同じく評価可能な、対応するホルモン未処理転移性リンパ節試料を有した。
【0308】
これらの試料を、適切なフィルターを装備したオリンパスBX−51蛍光顕微鏡、CCD(charge−coupled device)カメラおよびサイトビジョン FISH撮像および画像取り込み用ソフト(アプライドイメージング社、米国カリフォルニア州サンノゼ)を用いて、100x油浸対物レンズで観察した。これらの試験の評価は、ともに間期FISH実験の解析の経験のある病理学者2名により独立におこなった。各症例について、1症例につき少なくとも100個の核を評定するようにした。両病理学者による結果において顕著な差が見られ場合、その症例は、第3の病理学者が審査した。
【0309】
オリゴヌクレオチドSNPアレイ解析
SNPアレイは対立遺伝子の遺伝子型解析を対象としているにもかかわらず、このSNPアレイデータは、異型接合性の損失(Lieberfarb,et al.,Cancer Res 63:4781-5(2003);Lin,et al.,Bioinformatics 20:1233-40(2004))および複製数変化の検出(Zhao,et al.,Cancer Cell 3:483-95(2003))に関する情報を提供できる。SNPアレイ解析を利用すると、黒色腫(MITF)等の様々な癌における増幅遺伝子を確認および検証することが可能である(Garraway,et al.,Nature 436:117-22(2005))、およびPCA(TPD52)(Rubin,et al.,Cancer Res.64:3814-22(2004))。
【0310】
100Kアレイ上でのSNP検出は、ゲノム表現(genome representation)の減少で始まった。ゲノムDNA250ngの2つのアリコットを別々にXbaI HindIIIで消化した、これらの消化された断片を独立にオリゴヌクレオチドリンカーに連結した。この結果得られる産物を、200〜2000bpのPCR断片を増幅する条件下で単一のPCRプライマーを用いて増幅した。これらの断片は、ゲノムの細分画を示す。これらはそのXbaIおよびHindIII断片内にあるので、アレイ上にタイル張り状に配置したSNPを予備選択し、アレイ上で強く検出されることを確認した。続いて、これらの得られたDNAの増幅プールを標識して断片化し、さらに、HindIIIおよびXbaIオリゴヌクレオチドSNPアレイを分離するためハイブリッド形成した。
【0311】
アレイをジーンチップスキャナー3000で走査した。遺伝子型決定(Genotyping call)およびシグナル定量化を遺伝子操作システム1.1.1およびアフィメトリックス・ジェノタイピングツールズ2.0ソフトを用いて得た。遺伝子型決定割合が90%を超えるアレイのみをさらに解析した。生データファイルを呼び処理し、dChipSNP(Lin,et al.,Bioinformatics 20:1233-40(2004))において描出した。具体的には、予備処理は、一組の不変プローブを用いたベースラインに対するアレイデータの正規化を含み、続く処理でモデルベースの(PM/MM)方法(Li,et al.,Proc.Nat´lAcad.Sci.USA 98:31-6(2001))を利用して、各試料の各SNPの単一の強度値を得る。
【0312】
TMPRSS2:ERGおよびTMPRSS2:ETV1融合転写物の定量PCR
QPCRをSYBRグリーン色素(Qiagen社)を用いてMJリサーチ社のDNAエンジンオプティコン2マシンで行った。全RNAを、ランダム6量体の存在下でTAQMAN逆転写試薬(アプライドバイオシステム社)を用いて、cDNAに逆転写した。すべてのQPCR反応をSYBRグリーンマスターミックス(Qiagen社)を用いて行った。すべてのオリゴヌクレオチドプライマーは、インテグレイテッドDNAテクノロジーで設計されたものである。Tomlinらが記載し(Science 310:644-8(2005))、融合に特異的なプライマーを用いた。すなわち、
である。
【0313】
GAPDHプライマーについては過去に報告されている(Vandesompele,et al.,Genome Biol 3:RESEARCH 0034(2002))。10μmolの順方向および逆方向プライマーを用い、製造業者の推奨する熱サイクル条件に従って手順を実施した。閾値は、QPCR反応の指数期の間にOpticon Monitor解析ソフト、バージョン2.02を用いて設定した。各試料について、ハウスキーピング遺伝子グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)に対する各標的遺伝子の量を比較閾値サイクル(Ct)法(アプライドバイオシステム社ユーザーブルテン#2)により決定した。すべての反応について融解曲線分析し、選択した実験から得られた生成物を2%アガロースゲル上で電気泳動させて分離した。
【0314】
統計
臨床的および病理学的変数を再配列状態および欠失の存在との関連について調べた。χ2乗検定およびフィッシャーの正確確率検定を適切に用いた。カプラン‐マイヤー分析を、病態についての前立腺特異的な抗原無再発生存曲線とゲノム変化パラメーターを作製するのに用いた。対数順位検定を、関連性の統計学的有意性を評価するのに用いた。ネオアジュバントホルモンアブレーション療法の前歴のある患者は排除した。すべての統計を、ウィンドウズ用SPSS13.0(SPSS社、米国イリノイ州シカゴ)を用いて有意水準0.05でおこなった。
【0315】
B.結果
TMPRSS2:ERG遺伝子再配列に伴う21番染色体上の欠失の検出
PCAにおけるTMPRSS2:ERG再配列の頻度の特性決定を行うため、Tomlinsらにより記載されたアッセイ(Science 310:644-8(2005))を改変したFISH分析を用いた。当初のFISH分析は、セントロメア3´およびテロメア5´末端のERG上に位置する2つのプローブを用いた。この新しいアッセイは、5´プローブをテロメア方向に移動した(
図14)。PCAスクリーニング組織マイクロアレイ(TMA)を用いて、TMPRSS2:ERG再配列(
図11Aおよび11B)を実証するおよそ70%のPCAが、テロメア5´ERGプローブ(
図11Cおよび11D)に対応する緑のシグナルの消失も示すことが観察され、この染色体領域が消失したことを示唆している。100KオリゴヌクレオチドSNPアレイを、これらの欠失の範囲を特徴付けるため用いた。細胞株、異種移植およびホルモン未処理およびホルモン抵抗性転移性PCA試料を含む30のPCA試料を調べることで、21番染色体q23上のERGとTMPRSS2との間のゲノム消失が確認された(
図12A-C)。
【0316】
TMPRSS2:ERGおよびTMPRSS2:ETV1に関する再配列状態を、これらの30個のPCAについてのFISHおよび/またはqPCRにより決定した(
図12A中の灰色および薄い青色の棒状部)。個別のゲノム喪失が、LuCaP49、LuCaP93、ULM LN13、MET6-9、MET18-2、MET24-28、およびMET28-27について、TMPRSS2とERG座位の間の領域に関わるTMPRSS2:ERG再配列陽性試料中で観測された。これらの個別の欠失の範囲は不均一であった。TMPRSS2とERG座位の間の領域を含む21番染色体上での、より広範囲のゲノム喪失は、LuCaP35、LuCaP86.2、LuCaP92.1、およびMET3-81において観測された。VCaP細胞株および異種移植片LuCaP23.1は、この領域での喪失を実証しなかった。試料のサブセット45%(11試料のうち5試料)については、欠失が、ERGイントロン3の近くで起こっている。試料の大半64%(11試料のうち7試料)では、欠失がTMPRSS2上に位置するSNPの近辺で終結している(テロメア方向で次のSNPが約100K離れている)。VCaP細胞株は、全21番染色体にわたり複製数増加を示した。
【0317】
TMPRSS2:ERG再配列陽性腫瘍については、71%(7試料のうち5試料)のホルモン治療不応性PCAは、TMPRSS2とERG座位の間の欠失を実証しているの対し、欠失は25%(4試料のうち1試料)のホルモン未処理転移性PCA試料(ULM LN13)でのみ同定された。38.765Mbまたは38.911Mbの欠失の開始点で区別される2つ個別のサブクラスとの欠失境界について、顕著な均一性がある。標準的なPCA細胞株(PC‐3、LNCaP、DU-145、またはCWR22(22Rv1))のいずれもが、TMPRSS2:ERGまたはTMPRSS2:ETV1融合を実証しなかった。いくつかのLuCap異種移植片には、ともにホルモン非感受性(アンドロゲン受容体[AR]陰性)小細胞PCAである、LuCaP49(大網腫瘤から確立)、およびLuCaP93、等の欠失を有するTMPRSS2:ERG融合を実証するものもあった。
【0318】
ERGの複製数増加は、TMPRSS2:ERG再配列のある場合とない場合の両方で小サブセットで観測された。ホルモン抵抗性PCA由来のVCaP細胞株は、顕著な複製数増加を21番染色体上で実証し(
図12A〜C)、この増加はFISHにより確認された。
【0319】
原発性前立腺癌試料におけるTMPRSS2 :ERG再配列とホルモン未処理リンパ節転移
これらの観察についての頻度および潜在的臨床意義を特徴づけるため、118の臨床的に局在化したPCAの症例をFISHにより調べた。これらの臨床的および病理学的個体群統計を表10に示す。患者のコホートは、高腫瘍悪性度(グリーソン評価)、病態の段階、および予備治療PSAレベルにより実証される疾患再発のリスクが高い。PCAの大きな領域が微視的に調べることのできる、このコホート由来の標準的な組織切片を用いると、TMPRSS2:ERG再配列は、所与の腫瘍について均一に観察された。TMA実験により、これらの観測を確認した。3〜6つのコアが腫瘍の異なる領域から得られたPCAの症例では、100%の一致がTMPRSS2:ERG再配列状態(すなわち、存在または非存在)について観察された。欠失を伴うTMPRSS2:ERG再配列の場合、97.9%(94/96)の症例で欠失が同じ患者由来のすべてのTMAコアで観察された。
【0320】
(表10)前立腺切除術で治療された臨床的に局在化した前立腺癌を有する男性118名の臨床的および病理学的個体群統計
*
*118症例においてデータ点のないものもあった。
【0321】
TMPRSS2:ERG再配列を、原発性PCA試料の49.2%およびホルモン未処理転移性LN試料の41.2%で確認した(
図13A)。テロメアプローブの欠失(緑シグナル)(
図1C〜D)を、原発性PCA試料の60.3%(35/58)およびTMPRSS2:ERG再配列を有するホルモン未処理リンパ節腫瘍の42.9%(3/7)で観測した。
【0322】
整合した原発性およびホルモン未処理リンパ節腫瘍のあった15症例においては、TMPRSS2:ERG再配列状態は、再配列を示す対のうちの47%(15のうちの7)と100%の一致があった。テロメア(緑シグナル)プローブの欠失は42.9%(7症例のうち3症例)の対で一致してみられた。
【0323】
TMPRSS2:ERG再配列状態および前立腺癌の進行
再配列状態と臨床的および病理学的変数との関連を観察した(
図13)。欠失を有するTMPRSS2:ERG再配列は、進行した腫瘍段階(pT)(p=0.03)(
図13B)および局所骨盤リンパ節への転移性疾患の存在(pN
0対pN
1−2)(p=0.02)を有するPCAの症例でより高い割合で観察された。欠失を伴うまたは伴わないTMPRSS2:ERG再配列と、経過観察データのある70名の患者についての前立腺特異的抗原(PSA)生化学的欠陥により決定された臨床成績との関連性も評価した。グリーソン評価、腫瘍段階、核異型度、およびリンパ節状態は、PSA生化学的欠陥値(全てのp値<0.0005)の良好な予測因子である。FISHアッセイにより決定された欠失のないTMPRSS2:ERG再配列PCAの症例におけるPSA無再発延命効果を示唆する傾向が一変量レベルで観察された。
【0324】
実施例6:致死性前立腺癌に関連するTMPRSS2:ERG遺伝子融合
過去の研究において、ERG(21q22.2)、ETV1(7p21.2)(Tomlins,et al.,Science 310:644-8(2005))、またはETV4(Tomlins,et al.,Cancer Res.66(7):3396-400(2006))のいずれかであるETS転写因子ファミリーメンバーとのTMPRSS2(21q22.3)の5´非翻訳領域の遺伝子融合は、大多数の前立腺癌におけるETS遺伝子の過剰発現に関する機構を与える。さらにまた、アンドロゲン制御遺伝子であるTMPRSS2、および癌遺伝子の融合は、疾患の進行がこれらの分子のサブタイプに基づいて変動しうる可能性を示唆している。遺伝子融合に関して最もよくある機構は、TMPRSS2とERGの間の約2.8メガベースのゲノムDNAの喪失である(
図17AおよびB)。この例は、通常のTMPRSS2:ERG遺伝子融合の存在に基づく転移または前立腺癌特異的な死亡のリスクについて説明する。
【0325】
A.方法
本治験対照母集団は、Andrenらの文献(J.Urol.175(4)1337-40(2006))に記載の症候性良性前立腺肥大に対する経尿道的前立腺切除術(TURP)または経膀胱腺腫核摘出により、1977年から1991年の間にスウェーデンのオレブロ大学病院で診断された初期の前立腺癌(T1a−b、Nx、M0)を有する男性からなる。診断でのベースライン評価として、物理的検査、胸部X線、骨スキャンおよび骨格X線検査(必要に応じて)をおこなった。リンパ節転移段階評価はおこなわなかった。この評価では遠隔転移の証拠が示されなかったので、患者は診断後最初の2年間は6ヶ月ごとそしてその後12ヶ月ごとに治験、臨床検査および骨スキャンを受けることとした。骨スキャンによる決定で転移のあった患者は、症状のあった場合、アンドロゲン欠乏療法で治療した。
【0326】
このコホートにおける死亡原因を、研究調査員による医療記録を調べて決定した。スウェーデン死亡記録(Swedish Death Register)と比較した死亡原因に関する検証研究は、90%を超える一致を示し、いずれの死亡原因についても系統的な過小または過剰報告がなかった(Johansson,et al.,Lancet l(8642):799-803(1989))。死亡率についてのコホートの追跡調査は100%であり、いずれの患者についても2005年10月まで追跡できた。本研究の終了点は、遠隔転移の進行または前立腺癌所定の死亡として定義した(追跡時間の中央値は9.1年であり、最大27年)。
【0327】
すべてのTURP試料について、過去に報告されたように(J.Urol.175(4):1337-40(2006))、前立腺癌の診断確認、グリーソンスコアおよび核異型度の決定、および腫瘍量の評価を1人の病理学者により再調査した。組織マイクロアレイを、マニュアル式のアレイヤー(Rubin,et al.,Cancer Epidemiol.Biomarkers Prev.14(6):1424-32(2005))を用いて組み立てた。前立腺癌におけるTMPRSS2:ERG再配列の頻度をTomlinsらによりもともと報告されたアッセイ(Science 310:644-8(2005))から生まれた改変蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)アッセイを利用して評価した。この新しいアッセイは5´プローブをテロメア方向におよそ600kb動かした。少なくとも1つのTMAコアを92の前立腺癌の症例で評価することができた。
【0328】
B.結果
局在化した癌を診断された男性のこの集団ベースのコホートにおいて、TMPRSS2:ERG融合の頻度は15.2%(14/92)であった(
図17AおよびB)。TMPRSS2:ERG融合陽性腫瘍は、より高いグリーソンスコア(両側P=.014)を有する可能性が高い(表11)。融合状態と致死性前立腺癌の関係を評価するために、累積罹患率回帰を用いた。累積罹患率(CIR)が3.6(P=.004、95%信頼区間[CI]=1.5〜8.9)である、TMPRSS2:ERG遺伝子融合の存在と転移または疾患特有の死亡との顕著な関連が観測された(
図17C)。グリーソンスコアを調節した場合、CIRは2.4であった(P=.07および95%CI=0.9〜6.1)。本発明は特定の機構に限定されるものではない。実際、機構を理解することは、本発明を実施するのに必要ではない。にもかかわらず、所与の細胞腫瘍の細胞内でのTMPRSS2:ERG遺伝子融合の均一性および侵襲性前立腺癌のみにおけるその存在(前立腺上皮内腫瘍と比べた場合に)に基づいて、このことは、グリーソンパターンの表現型の影にひそむ生物学に一部寄与する初期の現象であると考えられていた。
【0329】
(表11)TMPRSS2:ERG遺伝子により重層化した局在化前立腺癌に対し指示に従って対処した男性のコホートに関する予後因子
*TMPRSS2:ERG融合を有する対象とTMPRSS2:ERG融合を持たない対象の臨床用変数を、連続変数およびカテゴリー変数のそれぞれについてt検定またはχ2乗検定を用いることで比較した。
**グリーソンスコアは、優勢型および従属型グリーソンパターンを加算することで得た。
***1つの症例について、核異型度は評価しなかった。
****2005年の時点で少なくとも12年間生存し、転移進行がなかったあるいは前立腺癌で死亡しなかった個人を長期生存者に分類した。12年未満の期間生存しおよび転移進行しなかった個人を短期生存者に分類した。
【0330】
実施例7:前立腺癌患者の尿中のTMPRSS2:ETS融合の検出
A.材料および方法
尿採取、RNA単離および増幅
尿試料は、針生検または根治的前立腺切除術の前に、直腸診後患者から採取した。尿は、DNA/RNA保存料を含む尿採集用のカップ(シエラダイアグノスティック社)への排尿により採取した。RNAの単離には、少なくとも30mLの尿を4℃で15分間400rpmで遠心分離した。RNAlater(アンビオン)を尿沈渣に添加し、RNAが単離するまで、−20℃で保存した。全RNAを、Qiagen社のRNイージーマイクロキットを製造業者の使用説明書に従って使用して単離した。全RNAを、オムニプレックス全トランスクリトーム増幅(WTA)キット(ルビコンゲノムス社)を製造業者の使用説明書に従って(Tomlins et al.,Neoplasia 8:153[2006])用いて増幅した。25ngの全RNAをWTAライブラリ合成に用い、cDNAライブラリについてWTAPCR増幅を1回行った。増幅産物をキアクイック(QIAquick)PCR精製キット(Qiagen社)を用いて精製した。概念実験の細胞株証明として、記載数のVCaPまたはLNCaP細胞を1mLの滅菌尿中に添加し、これらの試料を排尿採取尿として処理した。
【0331】
定量PCR
定量PCR(QPCR)を、基本的に記載(上記既出のTomlins et al.,Neoplasia 8:153[2006]、Tomlins et al.,Science 310:644[2005]、および実施例1)に基づき、WTA増幅cDNA由来のERG、ETV1およびTMPRSS2:ERG転写物を検出するのに用いた。各QPCR反応について、10ngのWTA増幅cDNAを鋳型として用いた。ERG、ETV1、PSA、およびGAPDHの反応には、2倍濃度のパワーSYBRグリーンマスターミックス(アプライドバイオシステム社)、および25ngの順方向および逆方向プライマーを用いた。TMPRSS2:ERGaの反応には、2xタックマンユニバーサルPCRマスターミックスおよび最終濃度900nMの順方向および逆方向プライマー、および250nMのプローブを用いた。タックマンアッセイでは、38サイクルを超えるCt値を有する試料は、増幅を示さないと考えた。すべての試料について、ERGとETV1の量は、GAPDHの量に基準化した。尿中の前立腺細胞の乏しい回復を示すPSAの不適切な増幅の試料は、さらなる解析から排除した。ERG(エクソン5_6順方向)とETV1(エクソン6_7)
2、GAPDH
3、およびPSA
4プライマーは記載のとおりである。TMPRSS2:ERGaに対して特異的なタックマンプライマーおよびプローブ(MGB標識)は、以下のとおりである。すなわち、
である。
【0332】
蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)
整合する針生検から得た、厚さ4μmのホルマリン固定パラフィン包理(FFPE)切片を間期蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)に用い、既述のように(実施例2およびTomlins et al.,Cancer Res 66:3396[2006])、処理およびハイブリッド形成した。ERG再配列検出用のBACプローブである、RP11-95I21(ERGに対して5´側)およびRP11-476D17(ERGに対して3´側)を既述のように調製した(Tomlins et al.,Cancer Res 66:3396[2006];Tomlins et al.,Science 310:644[2005];上記の例1および2)。
【0333】
B.結果
本実施例では、直腸診後の尿に排泄された前立腺癌細胞内のTMPRSS2:ETS融合転写物の存在により前立腺癌を検出する非侵襲性方法について記載する。結果を
図33に示す。概念の証拠として、高レベルのERGおよびTMPRSS2:ERG(VCaP)または高レベルのETV1(LNCaP)を発現する前立腺癌細胞株を添加した滅菌尿を用いた。
図33Aに示すように、1,600細胞でVCaP中に排他的に過剰発現したERGと16,000細胞でLNCaP中に排他的に過剰発現したETV1を定量PCR(QPCR)により検出することができる。
【0334】
添加したVCaPおよびLNCaP細胞の数をGAPDH C
t(閾値サイクル)値に相関させることにより、いくつかの症例では、直腸診後に患者から採取した尿は、ERGまたはETV1過剰発現を確実に検出するには不十分な細胞数を含有していたことが観察された。従って、前立腺癌の疑いのある患者の尿から採取した全RNAを、QPCR解析の前にオムニプレックス全トランスクリトーム増幅(OmniPlex Whole Transcriptome Amplification)により増幅した。この手法を利用して、前立腺癌を検出するために直腸診後で針生検前に尿を採取した、16名の患者のコホートを評価した。続いて行った針生検の評価は、このコホートでは、4名の患者が良性前立腺を有し、1名は高悪性度前立腺上皮内腫瘍(HGPIN)を有し、そして11名が前立腺癌を有していたことを実証した。さらにまた、直腸診後で根治的前立腺切除術前に尿を採取した、3名の前立腺患者のコホートを評価した。
【0335】
コホートの特徴を表12に示す。各尿試料は、固有の患者から得たものであり、認識番号を有する。試料入手源(生検前または根治的前立腺切除術(RP))を示している。針生検後の診断(良性、高悪性度前立腺上皮内腫瘍(HGPIN)、および前立腺癌(PCa)等)を示している。針生検後に前立腺癌と診断された患者については、優勢型グリーソン、従属型グリーソン、およびグリーソン合計スコアを示している。すべての患者について、可能なものについては生検前PSA(ng/mL)および年齢を報告している。
【0336】
(表12)
【0337】
前記針生検コホートから、5名の患者がERGの著しい過剰発現を有することが確認され、そのうち1名は針生検でHGPINを有すると診断され、その他の4名は前立腺癌を有すると診断された。前記根治的前立腺切除術コホートからは、前立腺癌を有する3名のうち1名の患者は、高ERG発現を有することが確認された(
図33B)。ETV1過剰発現は、いずれのコホートの患者からも検出されなかった。ERGを過剰発現した試料中のTMPRSS2:ERGの発現を確認するため、TMPRSS2:ERGaを特異的に増幅するように設計されたタックマンプライマー/プローブアッセイを利用した。このアッセイは、TMPRSS2:ERGaを発現するVCaP細胞からの産物を強力に増幅する(Tomlins et al.,Science 310:644[2005])。さらにまた、ERGを過剰発現した前立腺癌を有する患者由来の尿試料の6つのうち5つがTMPRSS2:ERGa(Ct値:29.8-38.9)も発現したのに対し、ERG過剰発現なしの患者の10試料のうち、TMPRSS2:ERGaを発現したものは無かった。1つの試料はTMPRSS2:ERGaの発現なくERGを過剰発現したので、この試料は、TMPRSS2:ERGbまたはより最近同定された融合転写物(Soller et al.,Genes Chromosomes Cancer 45:717[2006];Yoshimoto et al.,Neoplasia 8:465:2006)等の融合転写物のその他のアイソフォームを発現しているようである。TMPRSS2:ERG融合転写物の存在がTMPRSS2:ERG陽性癌性組織の存在を示すことを確認するため、蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)を、代表的な症例より得た整合した組織切片上でERG配列を検出するように設計されたプローブを用いて実施した。整合した組織は、検出可能なTMPRSS2:ERG転写物を尿中に有し癌と診断された3名の患者から得たものであり、1名は検出可能なTMPRSS2:ERG転写物を尿中に含有し、高悪性度のPINと診断され、そして2名の患者は検出可能なTMPRSS2:ERG転写物を持たず癌と診断されている。
図33Bに示すように、癌と診断されたが検出可能なTMPRSS2:ERG転写物を自身の尿に含有しない患者の両名は、FISHでは癌性組織中のERG再配列を有さなかった。癌と診断されかつ検出可能なTMPRSS2:ERG転写物を自身の尿中に含有する3名の患者はすべて、癌性組織中のERG再配列もFISHにより示した。最後に、高悪性度PINと診断され、検出可能なTMPRSS2:ERGを自身の尿に有する患者は、高悪性度PIN組織中にERG再配列を示さなかった。このことは、この患者が前立腺のどこかに未診断の癌を有しているかもしれず、このためこれらの尿中に検出可能なTMPRSS2:ERG転写物が存在することになったことを示している。
【0338】
実施例8:前立腺癌におけるTMPRSS2とETSファミリー遺伝子の融合
本検討では、臨床的に局在化した前立腺癌を手術により治療したアメリカ人男性111名からなるスクリーニングベースのコホートにおける、TMPRSS2とETSファミリー遺伝子の再配列の頻度に関する包括的な解析について述べる。
【0339】
A.材料および方法
治験対象母集団、臨床的データ、および前立腺試料の収集
臨床的に局在化した前立腺癌の源として、癌を示す組織マイクロアレイ(TMA)含有コアおよび良性組織を、米国ミシガン大学で初期単独治療(すなわち、アジュバントまたはネオアジュバントの無いホルモンまたは放射線療法)として根治的前立腺切除術を受けた111名の男性から構築した。根治的前立腺切除術系列は、米国ミシガン大学前立腺癌専門優良研究プログラム(SPORE)組織コアの一部である。TMAを構築するため、3つのコア(直径0.6mmの)を各代表組織ブロックから取り出した。TMA構築プロトコルについては、文献(Kononen et al.,Nat.Med.4:844[1998];Rubin et al.,Am.J.Surg.Pathol.26:312[2002])に記載されている。詳細な臨床的、病理学的、およびTMAデータは、既述の確実な関連データベースに保存されている(Manley et al.,Am J.Pathol.159:837[2001])。
【0340】
間期蛍光インサイツハイブリッド形成アッセイを利用したTMPRSS2-ETS遺伝子融合の評価
厚さ4μmの組織マイクロアレイ切片を、間期蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)に用い、既述のように処理およびハイブリッド形成した(Tomlins et al.,Science 310:644[2005];Tomlins et al.,Cancer Res 66:3396[2006])。スライドをAxioplanイメージングZ1顕微鏡(Carl Zeiss)を用いて観察し、Metaferイメージ解析システム(メタシステム社、独国Altlussheim)でISISソフトウェアシステムを利用し、CCDカメラで撮像した。形態学的に無傷のおよび非オーバーラップ核の状態で、FISHシグナルを病理学者により手作業で評価し(100x油浸)、1つ症例からの3つのコアにある少なくとも30細胞または最大数の癌細胞を記録した。30個の評価可能な細胞のない症例は、不十分なハイブリッド形成として報告した。すべてのBACは、BACPACリサーチセンター(米国カリフォルニア州オークランド)から入手し、プローブ位置は、正常な末梢リンパ球の分裂中期スプレッドとのハイブリッド形成により検証した。TMPRSS2、ERG、およびETV4再配列の検出については、以下のプローブを用いた。すなわち、RP11-35C4(TMPRSS2に対して5´側)、およびRP11-120C17(TMPRSS2に対して3´側)、RP11-95I21(ERGに対して5´側)、およびRP11-476D17(ERGに対して3´側)、およびRP11-100E5(ETV4に対して5´側)、およびRP11-436J4(ETV4に対して3´側)。TMPSS2-ETV1融合の検出については、RP11-35C4(TMPRSS2に対して5´側)をRP11-124L22(ETV1に対して3´側)と共に用いた。BAC DNAをQIAフィルターマキシプレップキット(Qiagen社、米国カリフォルニア州ヴァレンシア)を用いて単離し、プローブをジゴキシゲニン-またはビオチンニックトランスレーションミックス(Roche Applied Science社、米国インディアナ州インディアナポリス)を用いて合成した。ジゴキシゲニンおよびビオチン標識されたプローブを、フルオレセイン結合ジゴキシゲニン抗体(Roche Applied Science社)、およびAlexa594結合ストレプトアビジン(インビトロジェン社、米国カリフォルニア州Carlsbad)をそれぞれ用いて検出した。
【0341】
分断(TMPRSS2、ERG、ETV4)または融合(TMPRSS2-ETV1)プローブ手法を染色体レベルでの再配列を検出するために用いた。DAPI染色核におけるTMPRSS2、ERG、およびETV4についての正常なシグナルを、2対の共存した緑および赤のシグナルにより示した。これらのプローブについて、再配列を、この2つの共存したシグナルの1つを分離することで確認した。TMPRSS2-ETV1融合については、2対の赤と緑の分離シグナルを正常値として記録し、1対の分離シグナルと1対の共存したシグナルを再配列として記録した。
【0342】
B.結果と考察
本例では、臨床的に局在化した前立腺癌を外科的に処置したアメリカ人男性の大きなスクリーニングベースのコホートにおけるTMPRSS2とETS転写因子遺伝子再配列のシグネチャーの概要を描く包括的な解析について説明する。TMPRSS2スプリットプローブFISH分析アプローチを、
図34に示すように、既知のETSファミリーパートナーであるERG、ETV1、ETV4とその他の未知のパートナーを有する前立腺癌における遺伝子再配列の全体的な頻度を検出するのに用いた。3つの既知のETSパートナー(ERG、ETV1、およびETV4)に対して陰性である前立腺癌は、その他のETSファミリーメンバーに関わる再配列を有している可能性があると仮定した。これらの結果は、臨床的に局在化した前立腺癌におけるTMPRSSとETSファミリー遺伝子再配列が、複合分子シグネチャーを示した(
図35AおよびB)。全体的なTMPRSS2が評価可能な症例の65%で再配列したのに対し、ERG、ETV1およびETV4が評価可能な症例の55%、2%および2%で再配列した(
図35A)。TMPRSS2再配列を有する症例の40.5%において、3´プローブの損失が観測され、これは遺伝子融合の機構としてのTMPRSS2とERGとの間の染色体欠失と一致している。これらの結果は、前立腺癌における高頻度のTMPRSS2:ETS融合を確認し、TMPRSS2:ERGが極めて共通の型であることを示す過去の研究を立証している(Tomlins et al.,Science 310:644;Perner et al.,Cancer Res 66:3396[2006];Yoshimoto et al.,Neoplasia 8:4665[2006];Soller et al.,Genes Chromosomes Cancer 45:717[2006];Wang et al.,Cancer Res 66:8347[2006]および上述の例)。
【0343】
同様の結果は、すべての4つのプローブが評価可能であったこれらの症例のみに(
図35AおよびB)コホートが限られる場合に、観測された。いずれの症例も複数のETSファミリーメンバーの再配列を示さなかったので、本解析でTMPRSS2:ETS再配列が相互排他的であることが確認された。ERG、ETV1またはETV4再配列を有する24症例のうち23症例がTMPRSS2アッセイにより検出されたので、本解析が単一のTMPRSS2アッセイがほぼすべてのETS再配列を効果的に検出できることも実証した。5´ERGプローブが消失したすべての9つの症例において、3´TMPRSS2プローブの欠失が同定された。
【0344】
さらにまた、TMPRSS2プローブの分断により2つの事例が同定され、これは、ERG、ETV1またはETV4の再配列を伴わない再配列(症例32および36)、ならびにTMPRSS2再配列を有するがERG再配列を有さず、ETV1および/またはETV4が評価できなかった事例を示した。これらの事例は、前立腺において、TMPRSS2が、新規ETSファミリーメンバーまたは関係のない癌遺伝子と対を作ることを示している。これらのことから、これらの結果は、単一のTMPRSS2アッセイが前立腺癌における診断および予後の情報を与えることができることを示唆している。
【0345】
実施例9:PSA遺伝子融合
FISH実験を、PSAに対し5´および3´に位置するプローブについて分断シグナルを示す事例をFISHにより同定するために用いた。PSAスプリットを検出するのに用いた5´および3´ BACはそれぞれRP11-510I16およびRP11-26P14である。PSA遺伝子融合についてのパートナーはいまだ同定されていない。これらの同じプローブは、PSAのごく近傍に位置しているため、ETSファミリーメンバーSPIB内のスプリットもとらえる。
【0346】
実施例10:FLI1過剰発現
FLI1発現を、FLI1遺伝子融合を有していない異なる細胞試料で評価した。FLI1の5´および3´エクソン発現を高FLI1発現を有する症例から測定した。結果を
図18に示す。5´および3´転写物の存在量に差異は検出されなかった。RACEでも融合転写物を示さなかった。FLI1は、対照試料と比較して前立腺癌において過剰発現された。Fli1増幅のためのプライマーを、タックマンプローブとともに
図37に示す。
【0347】
FISHを、再配列を示すFLI1についての分断シグナルを有する試料を同定するのに用いたが、これらの症例は、FISHによるTMPRSS2:FLI1融合を有していない。BACプローブを表13に示す。これらの症例は、高FLI1発現も有する。
【0348】
実施例11:組織マイクロアレイ
組織マイクロアレイを遺伝子融合の存在についての分析に使用した。用いたTMAは、前立腺癌進行アレイ,前立腺癌予後評価アレイ、温式生検アレイ,前立腺癌スクリーニングアレイ、Erg陰性前立腺癌アレイ、および個々の前立腺癌の症例である。以下の遺伝子プローブを組織マイクロアレイ上で使用した。すなわち、TMPRSS2-ETV1融合プローブ、Ergスプリットプローブ、TMPRSS2スプリットプローブ、ETV1スプリットプローブ、ETV4スプリットプローブ、およびFL1スプリットプローブを使用した。
【0349】
さらにまた、Ergスプリットプローブを予後評価アレイ上に用いた。これらの結果は以下のとおりである。すなわち、陰性の症例:30、陽性の症例:29、境界の症例:1。Erg陽性の症例の比較的高いグリーソンスコア(≧7)との関連は低かった。
【0350】
タンパク質アレイおよび質量分析をERG2についての核相互作用因子を同定するのに使用した。これらの結果を
図21に示す。
【0351】
実施例12:Erg発現のアンドロゲン制御
本実施例では、ERG発現のアンドロゲン制御について述べる。LNCap(TMPRSS2-ERG-)、およびVCaP(TMPRSS2-ERG+)細胞株を用いた。これらの細胞を異なる量のR1881と48時間接触させた。Erg、PSA(陽性対照)、およびβ-チューブリン(陰性対照)の発現を評価した。これらの結果を
図19に示す。ERG発現は、VCaPにおいてはアンドロゲン依存であるが、LNCap細胞ではアンドロゲン依存ではないことがわかった。
【0352】
実施例13:ペプチド抗体およびアクアプローブの作製
図22〜25は、ペプチド抗体作製およびアクアプローブの作製における使用のためのERG1、ETV1、FLI-1、およびETV4の配列(下線部)を示す。プライマーは、すべてのETSファミリーメンバー用にアプライドバイオシステム社により設計されたものである。発現を前立腺癌の症例においてモニターし、高発現は、可能な遺伝子融合の指標およびFISHのための指標である。
【0353】
実施例14:LnCaP細胞におけるETV1
本実施例では、VCaPおよびLNCaPにおけるアンドロゲンに対する転写応答の解析について述べる。PSA等の両細胞株で異なって発現された転写物の数を検出することに加え、VCaPまたはLNCaP細胞において独自に調節不全な転写物の数も同定した。本解析は、ETV1がLNCaP細胞内でアンドロゲンに対し排他的に応答性を示すことを立証した。LNCaP細胞におけるETV1の過剰発現と合わせて、FISHをLNCaP細胞におけるETV1座位を調べるのに用いた。
【0354】
A.材料および方法
細胞株
前立腺癌細胞株LNCaP(リンパ節前立腺癌転移由来)、およびVCaP(Korenchuk,S.et al.,In vivo 15,163-8(2001))(椎骨前立腺癌転移由来)を本検討に用いた。マイクロアレイ研究については、VCaPおよびLNCaP細胞を、0.1%エタノール、またはエタノールに溶解した1nMの合成アンドロゲンメチルトリエノロン(R1881、NENライフサイエンスプロダクツ社、米国マサチューセッツ州ボストン)を用いた48時間の処理の前に、活性炭処理済血清含有培地中で24時間増殖させた。定量PCR(QPCR)研究に関しては、細胞の増殖を、活性炭処理済血清含有培地中で24時間、0.1%エタノール、アセトンに溶解したカソデックス(10μM、ビカルタミド、AstraZeneca Pharmaceuticals社、米国デラウェア州ウィルミングトン)またはエタノールに溶解したフルタミド(10μM、シグマ社、米国ミズーリ州セントルイス)と共に予備インキュベートして行った。2時間後、0.1%エタノールまたは0.5nMのR1881を添加し、細胞を48時間後に回収した。全RNAを、すべての試料からトリゾール(Trizol)(インビトロジェン社、米国カリフォルニア州カールスバッド)製造業者の使用説明書に従って用いて単離した。RNA完全性を、変性ホルムアルデヒドゲル電気泳動またはアジレント社のバイオアナライザー2100(アジレントテクノロジーズ社、米国カリフォルニア州パロアルト)により確認した。
【0355】
マイクロアレイ解析
本検討で用いたcDNAマイクロアレイは、アレイが32,448の特徴(feature)を含むこと意外は、基本的に既述のように構築した。アレイのプリントおよび後処理のためのプロトコルは、インターネット上で入手できる。cDNAマイクロアレイ解析を基本的に既述のようにおこなった。要約すると、対照およびR1881で処理したVCaPおよびLNCaP細胞株由来の全RNAを逆転写し、cy5蛍光色素で標識した。対照VCaPまたはLNCaP試料から得たプールした全RNAを逆転写し、それぞれの細胞株由来のすべてのハイブリッド形成に対してcy3蛍光色素で標識した。その後、標識産物を混合し、cDNAアレイとハイブリッド形成した。イメージを、GenePixソフトウェアパッケージ(アクソンインスツルメンツ社、米国カリフォルニア州ユニオンシティ)を用い、フラグ付けおよび正規化した。データをアレイ単位で中央値を中心にし、試料の少なくとも80%に存在する発現値を有した遺伝子のみを本解析に用いた。
【0356】
定量PCR(QPCR)
QPCRを、文献(Tomlins et al.,Cancer Res 66、3396-400(2006);Tomlins et al.,Science 310、644-8(2005))に記載のように、アプライドバイオシステム社 7300リアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステム社、米国カリフォルニア州フォスターシティ)でSYBRグリーンの色素を用いておこなった。各試料のハウスキーピング遺伝子グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)に対する各標的遺伝子の量を報告した。各細胞株および/または実験における標的遺伝子の相対量は、対照に対し較正した。すべてのオリゴヌクレオチドプライマーは、インテグレイテッドDNAテクノロジーズ社(米国アイオワ州コーラルビル)により合成されたものである。GAPDH(Vandesompele et al.,Genome Biol 3,RESEARCH0034(2002))、PSA(Specht et al.,Am J Pathol 158、419-29(2001))、ERG(エクソン5-6_fおよびエクソン5-6_r)およびETV1(エクソン6-7_fおよびエクソン6-7_r)、プライマー(Tomlins et al.,Science 310、644-8(2005))は、記載のとおりである。
【0357】
蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)
分裂中期スプレッドを、標準的な手法により、正常な末梢リンパ球(NPLs)およびLNCaP細胞から調製した。スライドを、2倍濃度のSSCで2分間、70%エタノールで2分間、そしてプローブの添加前に100%エタノールで2分間処理した。スライドを、カバースリップでカバーし、75℃で2分間インキュベートし、そして一晩37℃でハイブリッド形成した。ハイブリッド形成後の洗浄を2倍濃度のSSCで42℃にて5分間行い、その後PBST中で3回洗浄した。蛍光検出を、フルオレセインに結合した抗ジゴキシゲニン(Roche Applied Science社、米国インディアナ州インディアナポリス)およびAlexaFluor594に結合したストレプトアビジン(インビトロジェン社、米国カリフォルニア州カールスバド)を用いて実施した。スライドを対比染色し、DAPI含有ProLong Gold退色防止試薬(インビトロジェン社)中においた。スライドをツァイスAxio ImagerZ1蛍光顕微鏡(ツァイス社、米国ニューヨーク州ソーンウッド)を用いて観察し、ISISソフトウェア(Metasystems社、独国Altlussheim)を用いてCCDカメラで撮像した。
【0358】
いずれのBACもBACPACリサーチセンター(米国カリフォルニア州オークランド)より入手したものであり、プローブ位置を正常な末梢リンパ球の分裂中期スプレッドとのハイブリッド形成により確認した。7番染色体p上のETV1領域とのハイブリッド形成のために、4つのBAC(テロメアからセントロメア)、すなわちRP11-124L22、RP11-313C20、RP11-703A4、およびRP11-1149J13を用いた。14番染色体qに対する局在化については、FISHによりBAC RP11-483K13をマッピングし、またこれが14qとハイブリッド形成することも、本発明者らはNPLを用いて確認した。BAC DNAをQIAフィルターマキシプレップキット(Qiagen社、米国カリフォルニア州ヴァレンシア)を用いて単離し、プローブをジゴキシゲニン-またはビオチンニックトランスレーションミックス(Roche Applied Science社)を用いて合成した。
【0359】
B.結果
結果を
図26〜28に示す。
図26は、LNCaP前立腺癌細胞株におけるETV1の過剰発現およびアンドロゲン制御を示す。
図26Aは、VCaPおよびLNCaP前立腺癌細胞株におけるアンドロゲン調節遺伝子の発現シグネチャーを示す。遺伝子のヒートマップは、媒体のみでの治療(灰色)と比較した、1nMの合成アンドロゲンR1881(緑)によるいずれかの細胞株(特徴数3,499、p<0.05および変化倍率>=1.5)における誘発または抑制を示す。各列は遺伝子、各列は試料を示す。黄色および青色の細胞は、カラースケールに従い、過剰または過小発現をそれぞれ示す。灰色の細胞は、欠測データを示す。各細胞株についての値は、対応する対照試料を中心に示している。ヒートマップ中でPSA、ERG、およびETV1の位置を示し、これらの発現を挿入図中に示している。
図26Bは、定量PCR(QPCR)による、VCaPおよびLNCaP細胞の両細胞におけるアンドロゲンによるPSA誘発を示す。LNCaP(赤色)、およびVCaP(青色)細胞株におけるPSA(GAPDHに対し正規化)の相対発現をQPCRにより決定した。細胞を、媒体または1nMのR1881で48時間、抗アンドロゲンカソデックスまたはフルタミドの存在または非存在下で記載どおりに処理した。各試料におけるPSAの相対量を、各細胞株に対する対照試料中の量に対して較正した。
図26Cは、LNCaP細胞におけるアンドロゲンによるETV1誘発を示す。Bと同じ試料を用いて、ETV1の相対量をQPCRにより決定した。
図26Dは、ETV1がLNCaP細胞中で顕著に過剰発現されていることを示す。PSA、ETV1およびERGの相対発現を、QPCRにより各細胞株由来の48時間対照試料で決定した。各試料における標的遺伝子の相対量を、両細胞株由来のPSAの平均量に対して較正した。LNCaPとVCaPでのERGとETV1発現における差の倍率を示す。
【0360】
図27は、LNCaP細胞におけるETV1の再配列を示す。
図27Aは、蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)でプローブとして使用したBACの模式図である。7p21および14q32での位置と座標(ETV1座位および周囲BACを含む)を、UCSCゲノムブラウザーを用いて2004年5月凍結のヒトゲノムで決定した。本研究で用いたBACを番号のついた長方形で示す。ETV1およびDGKBの位置を転写の方向を示す矢印で示す。
図27Bは、正常な末梢リンパ球(NPL)における7番染色体へのRP11-124L22およびRP11-1149J13同時局在化を示す。分裂中期スプレッド(図中上)または間期細胞(図中下)上でのRP11-124L22(BAC#1)およびRP11-1149J13(BAC#4)の局在化をNPL中でFISHにより決定した。すべての分裂中期の写真について、7番染色体上のシグナルを矢印で示し、14番染色体上のシグナルを対応するプローブの色の矢印で示す。分裂中期スプレッドの情報領域のより高い倍率での拡大図を囲み部分に示す。
図27Cは、分裂中期スプレッド(図中上)上および間期細胞(図中下)でのBAC#1およびBAC#4の局在化が、ほぼ4倍体のLNCaP細胞株で決定されたことを示している。7番染色体上の2つの同時に局在化したシグナル、7番染色体上の2つの赤色シグナル、および異なる染色体上の2つの緑色シグナルが観察された。
図27Dは、LNCaP細胞における、14番染色体に局在化したRP11-124L22由来のシグナルを示す。同
図Cに示すように、RP11-124L22(BAC#1)以外は、LNCaP分裂中期スプレッド上でRP11-483K13(BAC#5、14番染色体qにFISHマッピング)と同時にハイブリッド形成した。RP11-483K13由来の4つの赤色シグナルは14番染色体qに局在し、2つの緑のシグナルは7番染色体pに局在し、2つの緑のシグナルは14番染色体qに局在している。
【0361】
図28は、ETV1座位全体がLNCaP細胞内の14番染色体に挿入されていることを示す。
図28Aは、この実験で用いたBACの模式図である。
図28Bは、分裂中期スプレッド(図中上)におけるRP11-124L22(BAC#1)および間期細胞(図中下)におけるRP11-313C20(BAC#2)の局在化が、LNCaP細胞においてFISHにより決定されたことを示している。分裂中期スプレッドでは、2対の同時局在化したシグナルは7番染色体(黄色矢印)および14番染色体(黄色矢印)で観察された。
【0362】
これらの結果は、ETV1座位全体が7番染色体から14番染色体に転座していることを実証している。14番染色体上の挿入断片上流のゲノム配列が未知であっても、この領域は、LNCaP細胞でのみ観察される高レベルのETV1とアンドロゲン応答性を誘発するAREをおそらく有すると思われる。これらの結果は、LNCaP細胞に、ヒト前立腺癌にみられるETS遺伝子融合のインビトロモデルとしての用途があることを示唆している。
【0363】
実施例15:PCAにおけるETSファミリーメンバーのノックダウン
本実施例では、前立腺癌におけるETSファミリーメンバーのノックダウンについて述べる。siRNAをLNCaPおよびVCAPにおけるETV1およびERGの発現をノックダウンするのに用いた。定量PCRをこのノックダウンの確認に用いた。結果を
図29および30に示す。このノックダウンは増殖に影響を与えなかった。shRNAを発現するレンチウイルスを安定なノックダウンのために作製した。
【0364】
ERG発現がVCaP細胞(TMPRSS2:ERG融合を有する)においてノックダウンされる場合にどの遺伝子が異なって発現するかを決定するために、マイクロアレイをアジレント社の44K全ゲノムアレイ上で実施した。この実験について、3つの条件を用いた。すなわち、ERG(ERGsi)に対してDharmacon社のsiRNAを用いたノックダウン、ルシフェラーゼ(対照)およびトランスフェクトされなかった(非形質移入)VCaP細胞のノックダウン。ERG/非形質移入の3つのハイブリッド形成および2つの対照/非形質移入を実施した。これらの遺伝子は、5つすべての実験に存在するとしており、標準偏差(両条件についての平均)は0.5未満であり、ERGと対照との差の倍率は<0.75または>1.5を示した。ERGdifフィールドは、ERGと対照ノックダウン実験との差の倍率を示すので、1未満は遺伝子がERGノックダウンにおいて過小発現されていることを意味する(本解析においてERG自身は81番目に位置する)。
【0365】
実施例16:遺伝子導入マウス
本発明の遺伝子融合を過剰発現する遺伝子導入マウスのほかに、ETSとアンドロゲン応答性遺伝子も作製した。
図31は、マウス作製に用いるためのウイルス過剰発現システムである。
図32は、遺伝子導入マウスにおけるゲノム挿入断片の模式図である。このようなマウスは、研究(例えば、機構研究)および薬物スクリーニング応用における用途がある。
【0366】
実施例17:TMPRSS2:ERGaの同定
上述のように(実施例1)、TMPRSS2のERGへの融合を観察した。TMPRSS2:ERGa遺伝子融合からの発現タンパク質を決定するため、3xFlagタグを停止コドンのすぐ上流に挿入して、VCaP前立腺癌細胞株から、エクソン4の始まりにある融合区切り点からエクソン11内の推定の停止コドンまでのERG(NM_004449)の部分を増幅するのに、PCRを用いた。この産物をpCR8/GW/TOPOTA(インビトロジェン社)にTAクローン化し、双方向で配列決定した。配列決定は、本願明細書においてERG1(ERGアイソフォーム1由来のエクソン6を含む
)およびERG2(該エクソンを含まない)と名付けている2つの異なるアイソフォームの存在を明らかにした。この産物をpLenti6/V5-DESTデスティネーションベクターにGatewayクローン化した。このプラスミドを、ERGタンパク質産生のため、直接的にPHINX細胞にトランスフェクトした。
【0367】
A.方法
トランスフェクトアッセイ:
Phinx細胞に、FuGeneトランスフェクション試薬(Roche社)を製造業者の使用説明書に従って用いて、ERG2または空ベクターをトランスフェクトした。直径150mmのプレート計10個を各コンストラクトに用いた。トランスフェクション後48時間の時点でこれらの細胞を収集し、以下に述べる免疫沈降アッセイに用いた。
【0368】
タンパク質溶解および免疫沈降:
細胞を氷冷したPBS含有プロテアーゼ阻害剤により洗浄し、1%NP40含有TBS中で均質化して溶解した。タンパク質を含有するこの上澄みについて、Bradfordタンパク質アッセイ(バイオラッドラボラトリーズ社、米国カリフォルニア州ハーキュリーズ)を製造業者の使用説明書に従って用いて、タンパク質含有量を評価した。すべての試料からの等量のタンパク質(緩衝液15mL中に約30mg)を免疫沈降研究に用いた。EZVIEWレッド抗FLAG M2親和性ゲル(シグマ社、米国ミズーリ州セントルイス)の50%スラリー約200μLを各試料に加え、4℃で一晩インキュベートした。この免疫沈降物をTBS含有0.1%NP40およびTBSのみで、3回ずつ洗浄した。結合したタンパク質を、FLAGペプチド(シグマ社、米国ミズーリ州セントルイス)を製造業者の使用説明に従って用い、溶出した。この溶出を3回行った。溶出物中のタンパク質を50%TCA(シグマ社、米国ミズーリ州セントルイス)を用いて沈殿させた。沈降物を氷冷したアセトンで3回洗浄し、ラエミリ緩衝液に再懸濁し、4〜20%のBIS−TRISゲル(インビトロジェン社、米国カリフォルニア州カールスバッド)上で電気泳動させた。これらのゲルを質量分析用の銀染色(シルバーケスト、インビトロジェン社、カールスバッド、米国カリフォルニア州)で染色した。ERG2に対応するバンドおよびベクターレーン中で対応する領域を各1cmの6片に切り取った。ゲル片の各一片は、ゲル上の高分子量領域から始まり移動していくバンド1〜6で標示した。それゆえバンド1は高分子量タンパク質を含む領域に対応するのに対し、バンド6は低分子量領域に対応する。ERG2の未変性分子量(約55KDa)に基づくと、バンド4および5を移動することになる。ERG2配列同定を3回繰り返し、すべての実験からデータをまとめた。
【0369】
タンパク質同定
ゲルバンドを採取し、製造業者の使用説明書に従い銀染色キット(インビトロジェン社、米国カリフォルニア州カールスバッド)に含まれる脱染溶液を用いて脱染した。ゲル中で、消化をpH9の1Mの重炭酸アンモニウム中で、ブタ由来トリプシン(1:50、Promega社、米国ワイオミング州マジソン)を用いて行った。この消化は、37℃で16時間行った。24時間後、トリプシン活性を3%ギ酸により停止した。これらのペプチドを50%アセトニトリルを用いて抽出した。これらのペプチドを乾燥して0.1%ギ酸含有の2%アセトニトリルに懸濁し、パラダイムHPLCポンプ(Michrome BioResources社)に取り付けた0.075mm x 150mmのC18カラムを用いて、逆相クロマトグラフィにより分離した。ペプチドを、溶媒Aを0.1%ギ酸/2%アセトニトリルとし、B(0.1%ギ酸/95%アセトニトリル)を45分5〜95%の濃度勾配で用いて溶出した。フィニガン(Finnigan)LTQ質量分析計(サーモエレクトロン社)をスペクトルを得るのに用い、装置をデータ依存モードでダイナミック・エクスクルージョン(dynamic exclusion)を可動状態にして操作した。フルMSスキャンにおける3つの最大量ペプチドイオンでのMS/MSスペクトルを得た。これらのスペクトルを、混成の、非同一のNCBIヒト標準配列データベースに対してMASCOT検索ツールを用いて検索した。これらのデータベースの検索結果は、ペプチド帰属精度について、PeptideProphetプログラムを用いて確認した。これは混合モデルであり、検索結果スコアやトリプシン末端数等の様々なペプチドの特徴に基づいた正確なペプチド同定の確率を決める期待値最大化推定である。第2のプログラムであるProteinProphetを、ペプチドをタンパク質によりグループ化し、これらの確率を組み合わせて正しいタンパク質帰属の確率を決めるために用いた。識別能は、これらのNSP値により、またはペプチドグループ化情報および起こりうるマルチヒットのタンパク質の状態を意味する同胞ペプチド数により、個々のペプチドの確率の2次的な再評価で増加する。
【0370】
結果:
(表14)カバレージマップ(ERG2)
注:E
*BAND
*−
*は、ERG1実験におけるERG2ペプチドを意味する。
【0371】
本表は、3つ異なる実験にわたって得たERG2についてのカバレージマップを示す。下線部アミノ酸配列は、VCAP細胞からクローン化されたERG1のシリコ翻訳配列に対応する。アミノ酸配列
は、ERG1に特異的でERG2では欠損しているエクソンに対応している。残りのアミノ酸配列は、3つの実験の各々で同定されたERG2配列に対応している。ERG2をすべての実験におけるバンド1〜5で同定した。これらのバンドの各々で得たERG2についてのペプチド配列を示す。非常に高いカバレージのERG2タンパク質が、3つの実験にわたり観測された。このカバレージマップは、第1の50アミノ酸残基に対応する、クローン化タンパク質のN末端領域におけるペプチドのカバレージが、質量分析カバレージマップにおいてほどんど観測されないことを示した。しかしながら、アミノ酸バリンで始まるペプチドVPQQDWLSQP(配列番号:197)は極めて大量に見られ、それ故すべての実験において同定された。より詳しい評価は、47番目の位置にあるアミノ酸がメチオニンのフレームにあることを示唆した。複数の実験における47番目のメチオニンの上流(N終端)にあるどのようなペプチドの欠如も、それがERG2のN末端アミノ酸であることを確認している。さらにまた、50番目の位置にあるアルギニン残基の存在により、潜在的なトリプシン切断部位とした。この部位でのトリプシンによる消化は、イオン捕捉質量分析計による同定には小さすぎるより短鎖のN末端ペプチドMSPRや、すべての実験で同定された長鎖C末端ペプチドVPQQDWLSQP(配列番号:198)を生じることになる。さらに、ペプチド配列MIQTVPDPAAHI(配列番号:199)も単一の実験において非常に低い確率スコアで同定された。これは、NCBIにおいて報告されているように、ERGのN末端にマッピングされる。この配列は、VCAP細胞からクローン化された、異所的に過剰発現されたコンストラクトの一部ではなかった。これは、PHINX細胞において発現されたインビボのERGより入手できたかもしれず、したがって良性細胞に関連するERGの一部を示しているのかもしれない。
【0372】
従って要約すると、この結果は、3番目のメチオニンがTMPRSS2-ERG融合産物の翻訳開始部位であることを示している。
。第1のメチオニンは、内在性ERGの翻訳開始部位である。MIQTVPDPAAHI(配列番号:201)。
図20は、内在性および融合ポリペプチドの模式図を示す。
【0373】
実施例18:尿試料でのFISH解析
尿から前立腺細胞を分離および調製するため、約30mLの尿を直腸診後に採取する。この後直ちに、15mLのPreservCytを加え、試料を50mLの遠心管中で10分間室温で4000rpmにて遠心分離する。上澄みを廃棄し、沈渣を15mLの0.75MのKCl中に15分間室温で再懸濁し、50mLの遠心管中で10分間室温で4000rpmにて遠心分離する。上澄みを廃棄し、沈渣を10mLの3:1比メタノール:氷酢酸中に再懸濁する。この後、4000rpmで8分間遠心する。上澄みを200μLを除き廃棄し、ペレットを再懸濁する。続いてこの再懸濁したペレットをガラススライドに滴下し、風乾する。ハイブリッド形成およびプローブ調製を上記の実施例2のように、ERG5´/3´およびTMPRSS5´/3´プローブ対で行う。
【0374】
実施例19:さらなるETV1遺伝子融合
A.材料および方法
試料および細胞株
前立腺組織は、共に米国ミシガン大学前立腺癌専門優良研究プログラム(SPORE)組織コアの一部である、米国ミシガン大学の根治的前立腺切除術系列および迅速剖検プログラム1から得たものである。すべての試料を、患者らのインフォームドコンセントおよび事前の研究所審査委員の承認を得て採取した。
【0375】
良性不死化前立腺細胞株RWPEおよび前立腺癌細胞株LNCaP、Dul45NCI−H660およびPC3は、ATCCから入手したものである。原発性良性前立腺上皮細胞(PrEC)は、カムブレックス・バイオサイエンス社(米国メリーランド州Walkersville)より入手した。前立腺癌細胞株C4-2B、LAPC4およびMDA-PCa2Bは、Evan Keller(米国ミシガン大学)により提供された。前立腺癌細胞株22-RV1は、Jill McKoska(米国ミシガン大学)により提供された。VCaPは、ホルモン-抵抗性転移性前立腺癌を有する患者由来の椎骨転移から誘導した(Korenchuk et al.,In Vivo 15、163-8(2001))。
【0376】
アンドロゲン刺激実験のため、LNCaP細胞を、1%エタノール、またはエタノールに溶解した1nMのメチルトリエノロン(Rl881、NENライフサイエンスプロダクツ社、米国マサチューセッツ州Boston)を用いた24時間の処置の前に、活性炭処理済血清含有培地中で24時間増殖させた。すべての試料について、トリゾール(インビトロジェン社、米国カリフォルニア州Carlsbad)を製造業者の使用説明書に従って用い、全RNAを単離した。
【0377】
定量PCR(QPCR)
定量PCR(QPCR)を、パワーSYBRグリーンのマスターミックス(アプライドバイオシステム社、米国カリフォルニア州Foster City)をアプライドバイオシステム社の7300リアルタイムPCRシステム上で、文献(Tomlins et al., Cancer Res 66, 3396−400 (2006); Tomlins et al., Recurrent fusion of TMPRSS2 and ETS transcription factor genes in prostate cancer. Science 310, 644−8 (2005))に記載のように用いて行った。すべてのオリゴヌクレオチドプライマーは、インテグレイテッドDNAテクノロジーズ社(米国アイオワ州コーラルビル)により合成されたものであり、表15に列挙されている。HMBSおよびGAPDH5、およびPSA6プライマーは記載のとおりである。アンドロゲン刺激反応を4回行い、その他すべての反応を2回行った。
【0378】
cDNA末端のRNAリガーゼ介在性迅速増幅(RLM-RACE)
RLM-RACEを、既述のように(上記Tomlins et al.,2005;上記Tomlins et al.,2006)、製造業者の使用説明書に従ってジーン・レーサーRLM-RACEキット(インビトロジェン社)を用いて行った。ETV1の5´末端を得るため、第1の鎖のcDNAを、ジーン・レーサー 5´プライマーおよびETV1_エクソン4-5-rを用いて、プラチナTaqハイフィデリティ(インビトロジェン社)で増幅した。産物をクローン化し、文献(上記Tomlins et al.,2005;上記Tomlins et al.,2006)に記載のように双方向で配列決定した。RLM-RACEdcDNAは、その他のアッセイに使用しなかった。
【0379】
蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)
ホルマリン固定したパラフィン包理(FFPE)組織切片に対する間期FISHを、文献(上記Tomlins et al.,2005)に記載のように行った。1アッセイにつき少なくとも50の核を評価した。LNCaPおよびMDA-PCa2Bの分裂中期スプレッドを、標準的な細胞遺伝学的手法により調製した。スライドを2倍濃度のSSC中で2分間、70%エタノールで2分間、そして100%エタノールで2分間前処理し、風乾した。スライドおよびプローブを同時に75℃で2分間変性し、一晩37℃でハイブリッド形成した。ハイブリッド形成後、0.5倍濃度のSSC中42℃で5分間、続いてPBST中で3回洗浄した。蛍光検出を、フルオレセインについては抗ジゴキシゲニン抱合体(Roche Applied Science社、米国インディアナ州インディアナポリス)、Alexa Fluor594(インビトロジェン社)についてはストレプトアビジンコンジュゲートを用いて行った。スライドを対比染色し、DAPI含有ProLong Gold退色防止試薬(インビトロジェン社)中においた。スライドをツァイス社のAxio Imager Z1蛍光顕微鏡(ツァイス、米国ニューヨーク州ソーンウッド)で観察し、ISISソフトウェア(メタシステム社、独国Altlussheim)を利用しCCDカメラで撮像した。BAC(表16に記載)はBACPACリサーチセンター(米国カリフォルニア州オークランド)から入手したものであり、プローブは文献(上記Tomlins et al.,2005)に記載のように調製した。予め標識された7番染色体セントロメアおよび7pテロメアプローブはVysis社(米国イリノイ州デスプレーンズ)から入手したものである。すべてのプローブについて、完全性および正確な局在化を正常な末梢リンパ球の分裂中期スプレッドとのハイブリッド形成により確認した。
【0380】
組織特異的発現
14ql3〜q21における5´融合パートナーと遺伝子の組織特異的発現を決定するため、29の異なる種類の630の腫瘍から得た発現プロファイルからなる、国際ゲノムコンソーシアムのexpOデータセットをOncomineデータベースを利用して用いた。市販のアレイプラットフォームではモニターされない、HERV-K_22q11.23の発現を調べるため、Lynx Therapeutics社の正常組織MPSS(massively parallel signature sequencing)データセット(GSE1747)に対するクエリーを、文献(Stauffer et al.,Cancer Immun 4、2(2004))に記載のように、HERV-K_22ql1.23を明確に同定するMPSSタグ「GATCTTTGTGACCTACT」(配列番号:308)を用いて行った。expOデータセットより得た腫瘍型の記述およびMPSSデータセットより得た正常な組織型を表17に示す。
【0381】
発現のプロファイリング
LNCaP、C4-2B、RWPE-ETV1およびRWPE-GUS細胞の発現プロファイリングをアジレント社の全ヒトゲノムオリゴマイクロアレイ(米国カリフォルニア州Santa Clara)を利用しておこなった。トリゾールを用いて単離した全RNAを、Qiagen社のRNAeasyマイクロキット(米国カリフォルニア州バレンシア)を用いて精製した。1μgの全RNAをcRNAに転換し、製造業者のプロトコル(アジレント社)に従って標識した。ハイブリッド形成を65℃で16時間行い、およびアレイをアジレント社DNAマイクロアレイスキャナーでスキャンした。画像を解析し、線形およびLowess正規化を各アレイに対して実施して、データをアジレント社の特性抽出ソフト9.1.3.1を利用して抽出した。LNCaPおよびC4-2Bハイブリッド形成については、各細胞株に対する標準をプール良性前立腺全RNA(Clontech社、米国カリフォルニア州マウンテンビュー)とした。各細胞株についてダイフリップもおこなった。特性を色素フリップの補正後の2つC4-2Bアレイにおける平均発現で割った2つLNCaPアレイにおける平均発現(対数比)で順位付けした。RWPE細胞については、4つのハイブリッド形成を行った(複製RWPE-ETV1/RWPE-GUSおよびRWPE-GUS/RWPE-ETVlハイブリッド形成)。過剰および過小発現したシグネチャーを、すべての4つのハイブリッド形成で顕著な異なる発現差異(P値対数比<0.01)と、ダイフリップに対する補正後に2倍平均過剰または過小発現(対数比)を有する特性のみを含むようにフィルタリングして作製した。
【0382】
サザンハイブリッド法
LNCaP、VCaP、プールした正常なヒト雄DNA(Promega社、米国ウィスコンシン州マディソン)、および正常な胎盤DNA(Promega社)由来のゲノムDNA(10μg)を、EcoRIまたはPstI(New England Biologicals、米国マサチューセッツ州イプスウィッチ)で一晩消化した。断片を0.8%アガロースゲル上40Vで一晩分離し、ハイボンドNXナイロン膜に移し、予備ハイブリッド形成して、プローブとハイブリッド形成し、標準的なプロトコルに従って洗浄した。FISHにより関連付けられたchr7の領域にまたがる一連の22プローブ(RP11-313C20とRP11-703A4との間)を、プールした正常なヒト雄ゲノムDNA(表15)上でプラチナTaqハイフィデリティを用いてPCR増幅により作製した。各プローブ25ngをdCTP-P32で標識し、ハイブリッド形成に用いた。
【0383】
逆PCR
LNCaP細胞におけるETV1区切り点を同定するため、サザンブロット法により同定した再配列に基づく逆PCR法を用いた。野生型の配列由来の逆相補配列であり、プライマーB1、B2、B3と異なる、プライマーA1、A2、A3を、PstIで消化および再連結した(分子内結合を促進するため)LNCaPゲノムDNA鋳型に対する逆PCRに用いた。ネステッドPCRを、以下のプライマー組の順で実施した。すなわち、A1-B1、A2-B2、およびA3-B3。エキスパンド20kbPLUS PCRシステム(Roche Diagnostics GmbH社、独国マンハイム)を、製造業者の指示にしたがい、融合産物の増幅に用いた。このネステッドPCRで観測された濃縮3KbバンドをpCR8/GW/TOPO(インビトロジェン社)にクローン化し、ミニプレップDNAを挿入断片についてスクリーニングし、陽性クローンを配列決定した(ミシガン大学DNA配列決定コア、米国ミシガン州アンアーバー)。その後、融合特異性プライマーを用いたプラチナTaqハイフィデリティにより、融合をPCRにより確認した(表15)。
【0384】
ETV1のインビトロ過剰発現
ETV1の既報の停止コドンに対するTMPRSS2:ETV1融合(269-1521、NM_004956.3)に存在する、ETV1のcDNAをMET264からRT−PCRで増幅して、GatewayエントリーベクターpCR8/GW/TOPO(インビトロジェン社)にTOPOクローン化し、pCR8-ETV1を得た。アデノウイルスおよびレンチウイルスのコンストラクトを作製するため、pCR8-ETV1および対照エントリークローン(pENTR-GUS)をそれぞれpAD/CMV/V5(インビトロジェン社)とpLenti6/CMV/V5(インビトロジェン社)と、LRクロナーゼII(インビトロジェン社)を用いて組み換えた。対照pAD/CMV/LACZクローンをインビトロジェン社から入手した。アデノウイルスおよびレンチウイルスは、米国ミシガン大学ベクターコアにより作製されたものである。この良性不死化前立腺細胞株RWPEをETV1またはGUSを発現するレンチウイルスに感染させ、安定なクローンをブラストサイジン(インビトロジェン社)を用いた選択により作製した。初代PrEC細胞では安定な培養細胞を作製できないので、良性PrECをETV1またはLACZを発現するアデノウイルスに感染させた。細胞数を、細胞のトリプシン処理および記載の時点で3回コールターカウンターで分析することで概算した。侵襲アッセイについては、同数のPREC‐ETV1および-LACZ(感染後48時間)または安定なRPWE-ETV1および-GUS細胞を、化学誘引物質として下側チャンバーにはウシ胎児血清を加えた、24ウェル培養プレートのインサート内にある基底膜マトリックス(ECマトリックス、ケミコン社、米国カリフォルニア州テメクラ)上に播種した。48時間後、非侵襲性細胞およびECマトリックスを綿棒で除去した。感染細胞をクリスタルバイオレットで染色し、写真撮像した。これらのインサートを10%酢酸で処理し、吸収を560nmで測定した。
【0385】
ETV1ノックダウン
LNCaP細胞におけるETV1のsiRNAノックダウンについて、ダーマコン社のETV1用SMARTpool(MU-003801-01、米国イリノイ州シカゴ)を構成する個々のsiRNAを、qPCRによりETV1ノックダウンについて試験し、最も効果的な1本鎖siRNA(D-003801-05)をさらなる実験に用いた。siCONTROL非標的siRNA#1(D-001210-01)またはETV1に対するsiRNAを、オリゴフェクタミン(インビトロジェン社)を用いてLNCaP細胞にトランスフェクトした。24時間後、2回目の同一トランスフェクションを実行し、24時間後に以下に記載するようなRNAおよび侵襲アッセイのために細胞を回収した。LNCaP細胞におけるETV1のshRNAノックダウンについては、pMS2レトロウイルスベクター由来のETV1に対するshRNAmirコンストラクト(V2HS_61929、Open Biosystems社、米国アラバマ州ハンツビル)を、製造業者のプロトコルに従ってpGIPZレンチウイルス空ベクター(RHS4349、Open Biosystems社)にクローン化した。ETV1のshRNAmirを有するpGIPZレンチウイルスまたは非発現抑制対照(RHS4346)は、米国ミシガン大学ベクターコアにより作製されたものである。LNCaP細胞をレンチウイルスに感染させ、48時間後に細胞を以下に述べるように侵襲アッセイに用いた。6つの独立した実験の代表的な結果を示す。
【0386】
侵襲アッセイ
同じ数の記載の細胞を、ウシ胎児血清を化学誘引物質として下側のチャンバーに添加した24ウェル培養プレートのインサート内にある基底膜マトリックス(ECマトリックス、Chemicon社、米国カリフォルニア州テメクラ)上に播種した。48時間後、非侵襲細胞およびECマトリックスを綿棒で除去した。感染細胞をクリスタルバイオレットで染色し、写真撮像した。これらのインサートを10%酢酸で処理し、吸収を560nmで測定した。
【0387】
FACS細胞周期分析
RWPE-ETV1およびRWPE-GUS細胞を、細胞周期特性決定についてFACSで評価した。細胞を2倍濃度のPBSで洗浄し、およそ2x10
6細胞を70%エタノール中に固定する前にPBS中に再懸濁した。沈渣の細胞を洗浄し、RNase(100μg/mL最終濃度)およびヨウ化プロピジウム(10μg/mL最終濃度)で30分間37℃で処理した。染色細胞をFACSDiviaを利用してLSRIIフローサイトメーター(BD Biosciences社、米国カリフォルニア州サンノゼ)で分析し、および細胞周期の段階をModFit LT(ベリティソフトウェアハウス社、米国メーン州トプシャム)を用いて計算した。
【0388】
軟寒天アッセイ
正常培地の低融点アガロースの0.6%(質量/体積)の下層を、6ウェル培養プレート中で調製した。一番上に、1x10
4RWPE-GUS、RWPE-ETV1、またはDU145(陽性対照)細胞を含有する0.3%アガロースの層をいれた。12日後、病巣をクリスタルバイオレットで染色しカウントした。
【0389】
免疫ブロット分析
細胞を、50mMのTris−HCl(pH7.4)、1%NP40(シグマ社、米国ミズーリ州セントルイス)、および完全プロテアーゼ阻害剤混合物(Roche社)を含むNP40溶解緩衝液中でホモジナイズした。15μgのタンパク質抽出物をSDS試料緩衝液と混合し、10%SDS-ポリアクリルアミドゲル上で還元条件下で電気泳動させた。これらの分離したタンパク質を、ニトロセルロース膜(Amersham Pharmacia Biotech社、米国ニュージャージー州ピスカタウェイ)上に移した。この膜を、ブロッキング用緩衝液[0.1%ツイーン(TBS−T)および5%脱脂乾燥乳を含有するトリス緩衝生理食塩水]中で1時間インキュベートした。一次抗体を、ブロッキング用緩衝液中一晩4℃で、記載の希釈率で適用した。TBS−T緩衝液で3回洗浄後、膜を、西洋わさびペルオキシダーゼ結合ロバ抗マウスIgG抗体(Amersham Pharmacia Biotech社)で、1:5,000希釈で1時間室温にてインキュベートした。これらのシグナルを、改良型化学発光検出システム(Amersham Pharmacia Biotech社)および放射線写真法で描出した。
【0390】
マウスモノクローナル抗MMP-3(IM36L、Calbiochem社、米国カリフォルニア州サンディエゴ)を1:500希釈で適用し、マウスモノクローナル抗uPA(IM13L、CalbioChem社)を1:500希釈で適用し、マウス抗GAPDH抗体(Abcam社、米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)を1:30,000希釈で対照に添加するのに適用した。
【0391】
遺伝子導入ETV1マウス
ETV1のインビボでの過剰発現について、C末端3XFLAG-エピトープタグをつけたコンストラクトを、停止コドンの前で3xFLAGタグをコードする逆方向プライマーと、pCR8-ETV1を鋳型として用いて、PCRにより作製した。この産物をpCR8にTOPOクローン化した。前立腺特異的ETV1遺伝子導入コンストラクトを作製するため、3倍濃度のFLAG-ETV1を、改変低分子複合プロバシンプロモーター(ARR2PB)の下流およびウシ成長ホルモンpolyA部位(PA-BGH)の上流で、pBSII(Strata Gene社、米国カリフォルニア州ラホヤ)に挿入した。ARR2PB配列は、本来のプロバシン配列PB(−426/+28)とさらに2つのアンドロゲン応答エレメントを有する。このコンストラクトを配列決定し、FVBマウス卵への微量注入の前の一過性トランスフェクトの際にLNCaP細胞におけるアンドロゲンによるプロモーター誘導能を試験した。ARR2PB-ETV1プラスミドをPvuI/KpnI//SacIIで直線化し、受精FVBマウス卵に微量注入し、米国ミシガン大学遺伝子導入動物モデルコアにより、偽妊娠の雌に手術で移植した。遺伝子導入初代動物を、切り取った尾から単離したゲノムDNAを用いてPCRによりスクリーニングした。遺伝子導入ARR2PB-ETV1初代動物を、FVBマウスと交配し、導入遺伝子陽性雄マウス子孫を様々な時点で屠殺した。遺伝子導入マウス由来の前立腺をNikon社の切開用顕微鏡を用いて切開し、10%緩衝ホルマリンに固定し、パラフィン中に包理した。5μmの切片をヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、3名の病理学者により、ヒト癌コンソーシアム前立腺病理委員会のマウスモデルに関するバーハーバーミーティングのコンセンサスレポートに従って評価した(Nam et al.,Cancer Biol Ther 6(2007))。
【0392】
ETV1-FLAGの免疫組織化学的検出に関しては、基底細胞マーカーであるp63およびサイトケラチン5(CK5)、および平滑筋アクチン、脱パラフィン化スライドについて、マイクロ波-クエン酸塩抗原検索を行い、ウサギ抗FLAGポリクローナル抗体(1:50希釈、一晩恒温放置、Cell Signaling Technology,#2368)、マウスモノクローナル抗p63抗体(1:100希釈、45´ 恒温放置、Lab Vision、MS1081P1)、マウスモノクローナル抗平滑筋アクチン抗体(1:50希釈、30℃恒温放置、DakoAb M0851)、およびウサギポリクローナル抗CK5抗体(1:500希釈、30℃恒温放置、AbCam、ab24647)と共に、それぞれインキュベートした。p63およびSMAの描出を、M.O.M免疫検出キット(PK2200、ベクターラボラトリー社)を用いた標準的なビオチン-アビジン複合体手法によりおこなった。FLAGおよびCK5をEnvision+システム-HRP(DAB)キット(K4011、DakoCytomation社)を用いて検出した。
【0393】
(表15)
【0394】
(表16)
【0395】
(表17)
【0396】
B.結果
前立腺癌における新規 5´ETS融合パートナーの同定
qPCRにより、前立腺組織試料の2つのコホートを、ETV1のアウトライアー発現を有する症例を同定するために、ERGとETV1の発現についてスクリーニングした。
図38aに示すように、これら2つのコホートにわたり、54の局在化した前立腺癌試料のうち26および3試料が、それぞれERG(48%)およびETV1(5.5%)アウトライアー発現を示した。さらにまた、2つのホルモン抵抗性転移性前立腺癌試料であるMET26およびMET23は、ETV1アウトライアー発現を示した。qPCRにより、ERGのアウトライアー発現を有する、26の局在化した試料中25試料(96%)が、TMPRSS2:ERG融合転写物を発現した。MET26を除き、4つのETV1アウトライアー(PCa_ETV1_1〜3およびMET23)を含むいずれの試料も、TMPRSS2:ETV1融合転写物を発現しなかった。
【0397】
これらの症例におけるETV1転写物構造の特性決定をするため、cDNA末端(RLM-RACE)の5´RNAリガーゼ介在性迅速増幅をおこなった。MET26におけるTMPRSS2由来の5´エクソンよりむしろ、すべての4つの試料は、特有の5´配列を有した(
図38b)。PCa_ETV1_1においては、ETV1のエクソン1〜4を、5´末端反復配列(LTR)に対して相同性を有する22q11.23由来の2つのエクソン、およびヒト内在性レトロウイルスファミリーK(以下「HERV-K_22q11.23」と称する)のgag配列で置換した。PCa_ETV1_2では、ETV1のエクソン1は、HNRPA2B1(7pl5)由来のエクソン1で置換されていたのに対し、PCa_ETV1_3では、ETV1のエクソン1〜4がさらなる上流配列およびSLC45A3(1q32)のエクソンで置換されていた。MET23においては、ETV1のエクソン1〜5が、C15ORF21(15q21)由来のエクソン1および2で置換されていた(
図1b)。これらの融合転写物の排他的な発現は、qPCRおよびFISHによるこれらの症例におけるゲノムレベルでの融合により確認された(
図38c、39、および40)。PCaETV1_2において、FISHは、HNRPA2B1に対して5´側およびETV1に対して3´側のプローブの対応する融合を伴った、HNRPA2B1に対して3´側およびETV1に対して5´側のプローブの欠失を実証し、7p上でおよそ13MB離れてヘッドからテールの方向に配向する、HNRP2A2B1とETV1との間の染色体内欠失と一致した(
図38cおよび40)。遺伝子融合の配列を
図51に示す。
【0398】
5´融合パートナーの明確な機能分類
HERV-K_22qll.23:ETV1、SLC45A3:ETV1、およびC15ORF21:ETV1融合は、5´パートナー由来の予測翻訳配列を含まず、HNRPA2B1:ETV1融合におけるHNRPA2B1配列は、融合タンパク質に対して2つの残基のみが寄与する。従って、5´パートナーのプロモーターエレメントは、おそらくこれらの症例における異常ETV1発現を誘発するので、これらの遺伝子の組織特異性およびアンドロゲン制御が特徴決定された。SLC45A3、C15ORF21、およびHNRPA2B1の組織特異性を調べるため、29の異なる種類の630の腫瘍から得た発現プロファイルからなる国際ゲノムコンソーシアムexpOデータセットを、Oncomineデータベースを用いて検索した(Rhodes et al.,Neoplasia 9、166-80(2007))。TMPRSS2と同様に、SLC45A3は、その他すべての腫瘍型(中央値=0.33、P=2.4E-7)と比較して、前立腺癌において著しい過剰発現 (中央値=2.45、1つのアレイ当たりの中央値を超える標準偏差)を示した。C15ORF21は、前立腺癌において同様の過剰発現を示した(中央値=2.06vs-0.12、P=3.4E-6)。一方、HNRPA2B1は、前立腺およびその他の腫瘍型で高発現を示した(中央値=2.36vs2.41、P>0.05)(
図38d)。HERV-K_22q11.23をexpOデータセットで用いたDNAマイクロアレイでモニターしていないにもかかわらず、Staufferら(Cancer Immun 4、2(2004))が記載するように、MPSSにより明確に測定される。従って、HERV-K_22q11.23の発現を、31のその他の正常な組織(中央値=100万あたり9個の転写物)と比較して、HERV-K_22q11.23が正常な前立腺組織において最高レベルで発現(100万あたり94個の転写物)した、32の正常な組織型(Jongeneel et al.,Genome Res 15、1007-14(2005))からのプロファイルを含むリンクス治療法MPSSデータセット中で検索した(
図38d)。
【0399】
qPCRにより、SLC45A3(21.6倍、P=6.5E-4)とHERV-K_22q11.23(7.8倍、P=2.4E-4)の、LNCaP前立腺癌細胞株における内在性発現は、TMPRSS2(14.8倍、P=9.95E-7)と同様に、合成アンドロゲンR1881によって著しく増加する。逆に、C15ORF21の発現は、R1881刺激により著しく減少する(1.9倍、P=0.0012)。最後に、HNRPA2B1の発現は、アンドロゲン刺激により著しくは変化しない(1.17倍、P=0.29))(
図38e)。
【0400】
ETV1は、良性前立腺細胞において侵襲を誘導する
5´パートナーがコード配列をETV1転写物に与えないので、臨床的試料および前立腺癌細胞株における異なるクラスのETV1再配列についての共通の結果は、切断されたETV1の異常過剰発現である。従って、この現象は、前立腺癌における異常ETSファミリーメンバー発現の役割を決定するために、インビトロおよびインビボで繰り返された。アデノウイルスおよびレンチウイルスコンストラクトは、指標のTMPRSS2:ETV1融合が陽性の症例、MET26(ETV1のエクソン4から始まって報告の終始コドンまで)で表されるようにETV1を過剰発現するようにデザインされている(
図41a)。良性不死化前立腺上皮細胞株RWPEを、ETV1を発現するレンチウイルスに感染させ、安定なRWPE-ETV1細胞を選択し、ETV1を発現するアデノウイルスによる感染により、原発性良性前立腺上皮細胞株PrECにおいてETV1を一時的に過剰発現した。RWPEおよびPrEC細胞の両者において、ETV1の過剰発現は、増殖に対して検出可能な効果はなく(
図44a〜b)、細胞周期解析は、S期におけるRWPE-ETV1とRWPE-GUS細胞の割合に何の差異も示さなかった(
図44c)。さらにまた、軟寒天形質転換アッセイでは、ETV1過剰発現がRWPE細胞を形質転換するには十分でないことが示された(
図44d)。
【0401】
ETV1過剰発現は、RWPE(3.4倍、P=0.0005)およびPrEC(6.3倍、P=0.0006)の両者で顕著に侵襲を増大させた(
図41b〜c)。さらにまた、LNCaPにおける、siRNA、または異なる配列に対して設計されたshRNAを用いたETV1ノックダウンは、侵襲を顕著に阻害し(
図41d〜eおよび
図45)、過去の研究と一致している(Cai et al.,Mol Endocrinol(2007))。これらの結果は、ETV1過剰発現が重要な発癌表現型である侵襲を誘発することを実証している。安定なETV1過剰発現により制御される転写プログラムを調べるため、RWPE-ETV1細胞をプロファイリングし、発現シグネチャーを、分子概念マップ(MCM)と呼ばれる生物学的に関連した概念の概要に対して解析した。MCMは、20,000以上の生物学的に関連した遺伝子セット間の関連を不均衡なオーバーラップにより探すためのものである(Tomlins et al.,Nat Genet 39、41-51(2007))。
図41fに示すように、MCM分析は本発明者らのETV1過剰発現されたシグネチャーにおいてエンリッチメントが起こっている細胞侵襲に関連する分子概念のネットワークを明らかにしており、上述の表現型効果と一致している。qPCRおよび免疫ブロット法により、マトリックスメタロプロテイナーゼおよびウロキナーゼプラスミノーゲン活性化因子経路のメンバー(Laufs et al.,Cell Cycle 5、1760-71(2006);Fingleton,Front Biosci 11、479-91(2006))等の、過去に侵襲に関与した複数の遺伝子のRWPE-ETV1細胞における過剰発現を確認した(
図41gおよび47)。これらの結果は、ETV1がマトリックスメタロプロテイナーゼを通じてLNCaP細胞内での侵襲に影響を与えることを実証する最近の研究(上述のCai et al.)と一致している。
【0402】
mPINを誘発するマウス前立腺におけるETV1発現
つぎに、インビボでのETV1過剰発現の効果を、アンドロゲン制御下で前立腺において排他的に強力な導入遺伝子発現を誘発する、改変プロバシンプロモーター(ARR2Pb-ETV1)の制御下にあるFLAGタグのついた切断されたバージョンのETV1(
図41a)を発現する遺伝子導入マウスを用いて調べた(Ellwood-Yen et al.,Cancer Cell 4,223-38(2003))。この導入遺伝子は、ヒト前立腺癌において同定されたETV1のアンドロゲン誘導遺伝子融合に機能的に類似している(すなわち、TMPRSS2:ETV1、SLC45A3:ETV1、およびHERV-K_22q11.23:ETV1)。複数のARR2Pb-ETV1初代動物を入手し、表現型解析に展開した。12〜14週齢の、ARR2Pb-ETV1遺伝子導入マウス8匹中6匹(75%)が、マウス前立腺上皮内腫瘍(mPIN)を発症した(表18および
図42)。mPINの定義に従い、層形成、高色素血および肥大核小体(macronucleoli)を含む核異型を示す、ARR2Pb-ETV1マウスの前立腺における正常な腺内に含まれる局所性増殖病変を観察した(
図42a〜f)。mPINは、ARR2Pb-ETV1マウスのすべての3つの前立腺葉(前側、腹側、および背外側)で観察され、腹側葉で最もよくみられた(7/11、63.6%)(表18)。免疫組織化学的検査により、強度のETV1-FLAG発現が、ARR2Pb-ETV1マウスの良性腺ではなく、排他的にmPIN病巣で観察され(
図48)、qPCRは、導入遺伝子発現が前立腺に限定されるものであることを確認した。
【0403】
すべての病変は、近接する平滑筋アクチン染色により実証されるように、無傷の繊維筋層の存在により、インサイツであることが確認された(
図42g〜h)。しかしながら、基底細胞マーカーサイトケラチン5およびp63を用いた免疫組織化学的検査は、良性腺と比較した、ARR2Pb-ETV1mPINにおける周囲基底上皮層の消失を実証し(
図42i〜l)、基底細胞層の破損を示している。これらの結果は、ETV1がマウス前立腺における腫瘍表現型を誘導を実証し、ヒト前立腺癌におけるETS遺伝子融合の発癌役割を支持する。
【0404】
(表18)
【0405】
実施例20:さらなる遺伝子融合
本実施例では、TMPRSS2:ETV5およびSLC45A3:ETV5遺伝子融合の同定を説明する。SYBRグリーンを用いたQPCRによるETV5アウトライアー発現の検出には、以下のプライマー対、すなわち、
を用いた。
【0406】
PCa_ETV5_1由来のTMPRSS2:ETV5融合の同定には、RLM-RACEに対し、以下のプライマー、すなわち、
を用いた。
【0407】
PCa_ETV5_2由来のSLC45A3:ETV5融合の同定には、以下のプライマー、すなわち、
を用いた。
【0408】
図52は、上述の融合を示す。TMPRSS2:ETV5については、3つのスプライスバリアントを同定した。すべてについての配列を示した。
図53は、ETV5アウトライアー発現を示す2つの前立腺癌(PCa)の例のQPCRによる同定を示す。
図Bは、RACEで決定した、両例についての融合転写物の構造を示す。
【0409】
すべての刊行物、特許、特許出願、および上述の明細書において述べた配列番号を、ここでこれらの前内容を参照により援用する。本発明は特定の実施形態と関連させて記載されているが、特許請求の本発明はこのような特定の実施形態に不当に限定されるべきではないことを理解すべきである。実際、本発明の記載の組成物および方法の様々な変形および変更は、当業者に明らかであり、以下の請求項の範囲内であると考える。