特許第6035636号(P6035636)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6035636
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】機能性潤滑剤の作製方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/81 20060101AFI20161121BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20161121BHJP
   A61K 8/36 20060101ALI20161121BHJP
   A61K 8/362 20060101ALI20161121BHJP
   A61K 8/365 20060101ALI20161121BHJP
   A61K 8/19 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   A61K8/81
   A61Q19/00
   A61K8/36
   A61K8/362
   A61K8/365
   A61K8/19
【請求項の数】1
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2014-255483(P2014-255483)
(22)【出願日】2014年12月17日
(65)【公開番号】特開2016-113430(P2016-113430A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2015年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】514322272
【氏名又は名称】株式会社メディカルアーク
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】倉科 淳司
【審査官】 福永 千尋
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第99/024043(WO,A1)
【文献】 特開昭63−310807(JP,A)
【文献】 特開2014−224094(JP,A)
【文献】 特開2013−234134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00−8/99
A61K 9/00−9/72
A61K 47/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアクリル酸ナトリウム粉粒体のみと水とを混合してから、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムのうちいずれか1種又は2種以上からなる炭酸塩の粉粒体と、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸のうちいずれか1種又は2種以上からなるカルボン酸の粉粒体とを、ポリアクリル酸ナトリウム入りの水に投入し、二酸化炭素を発生させることによって、ポリアクリル酸ナトリウムを水中で撹拌することなく分散させて、ポリアクリル酸ナトリウムのみを潤滑基剤とする機能性潤滑剤を作製する方法であって、炭酸塩及びカルボン酸の粉粒体それぞれの重量比での配合割合を1とした場合に、ポリアクリル酸ナトリウムの重量比での配合割合は5以上8以下である、
機能性潤滑剤の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、例えばマッサージ時等に人体の皮膚に塗布される機能性潤滑剤の作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばマッサージ時の皮膚(肌)の負担を軽減したりするために使用される機能性潤滑剤はよく知られている(例えば特許文献1等参照)。この種の機能性潤滑剤は、例えばポリアクリル酸ナトリウムの増粘作用を利用したものであり、ポリアクリル酸ナトリウムを水に溶解させることによって、適度な粘性や潤滑性を呈するように調製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−289884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ポリアクリル酸ナトリウムは粉粒状で供されるが、粉粒状のポリアクリル酸ナトリウムを水に溶解させるには、水を撹拌しながらポリアクリル酸ナトリウムを徐々に添加し、ポリアクリル酸ナトリウムを均一に溶解させたポリアクリル酸ナトリウム水溶液になるまで、長時間撹拌し続けなければならない。一度に多量のポリアクリル酸ナトリウムを添加したり途中で水の撹拌を止めたりすると、ポリアクリル酸ナトリウムが均一に溶解できずに、ポリアクリル酸ナトリウム水溶液がだまだま状や団子状になり、ポリアクリル酸ナトリウムの溶解に更に長時間が必要となるのであった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明は、上記のような現状を検討して改善を施した機能性潤滑剤の作製方法を提供することを技術的課題としている。
【0006】
請求項1の発明は機能性潤滑剤の作製方法に係り、ポリアクリル酸ナトリウム粉粒体のみと水とを混合してから、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムのうちいずれか1種又は2種以上からなる炭酸塩の粉粒体と、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸のうちいずれか1種又は2種以上からなるカルボン酸の粉粒体とを、ポリアクリル酸ナトリウム入りの水に投入し、二酸化炭素を発生させることによって、ポリアクリル酸ナトリウムを水中で撹拌することなく分散させて、ポリアクリル酸ナトリウムのみを潤滑基剤とする機能性潤滑剤を作製する方法であって、炭酸塩及びカルボン酸の粉粒体それぞれの重量比での配合割合を1とした場合に、ポリアクリル酸ナトリウムの重量比での配合割合は5以上8以下であるというものである。
【0007】
【0008】
【発明の効果】
【0009】
本願発明に係る機能性潤滑剤の作製方法によると、ポリアクリル酸ナトリウム粉粒体のみと水とを混合してから、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムのうちいずれか1種又は2種以上からなる炭酸塩の粉粒体と、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸のうちいずれか1種又は2種以上からなるカルボン酸の粉粒体とを、ポリアクリル酸ナトリウム入りの水に投入し、二酸化炭素を発生させることによって、ポリアクリル酸ナトリウムを水中で撹拌することなく分散させて、ポリアクリル酸ナトリウムのみを潤滑基剤とする機能性潤滑剤を作製する方法であって、炭酸塩及びカルボン酸の粉粒体それぞれの重量比での配合割合を1とした場合に、ポリアクリル酸ナトリウムの重量比での配合割合は5以上8以下であるというものであるから、水を溶媒として炭酸塩とカルボン酸とが化学反応して二酸化炭素(炭酸ガス)を発生させ、二酸化炭素の発泡作用によって、ポリアクリル酸ナトリウム等が分散して水に均一に溶解する。その結果、撹拌や少しずつの添加といった長時間作業を一切することなく、適度な粘性や潤滑性を呈すると共に均一に溶解した水溶液(ポリアクリル酸ナトリウムを含有する水溶液)、すなわち機能性潤滑剤を簡単且つ確実に作成できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本願発明を具体化した実施形態について説明する。本願発明に係る機能性潤滑剤の潤滑基剤として用いるポリアクリル酸ナトリウムは、食品添加物として認定されていて、増粘剤や乳化剤としてよく使用されている。また、ポリアクリル酸ナトリウム水溶液は、弱アルカリ性〜中性を呈する比較的安全なものであり、人体に無害であると共に刺激性がほとんどなく、粘性及び潤滑性に富んでいる。本願発明に用いるポリアクリル酸ナトリウムは粉粒体(粉末状や顆粒状の固体)で供されるものであり、水に溶解することによって高粘度を示す。潤滑性を発揮するのに望ましいポリアクリル酸ナトリウム水溶液の粘度としては、例えば1重量%のポリアクリル酸ナトリウム水溶液で500mPa・s以上あるのが好ましい。また、粉粒体の粒子径も小さいほうが好適である。ポリアクリル酸ナトリウムの配合量の範囲は0.01〜5.0重量%程度である。より好ましくは0.03〜3.0重量%程度である。
【0011】
なお、ポリアクリル酸ナトリウムの粉粒体を溶解させる水としては、水道水でも差し支えない。高品質なポリアクリル酸ナトリウム水溶液を確保したい場合は、蒸留やろ過、イオン交換等によって純度を上げた精製水を用いるのが好ましい。
【0012】
本願発明で用いる炭酸塩としては、炭酸水素ナトリウム(重曹)、炭酸ナトリウム及び炭酸カルシウムが挙げられる。これらは1種類又は2種類以上混合したりして用いられる。炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸カルシウムも食品添加物として認定されていて、人体に無害である。本願発明に用いる炭酸塩は粉粒体(粉末状や顆粒状の固体)で供されるものである。
【0013】
本願発明で用いるカルボン酸としては、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、フマル酸及びマレイン酸が挙げられる。これらは1種類又は2種類以上混合したりして用いられる。クエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、フマル酸及びマレイン酸も食品添加物として認定されていて、人体に無害である。本願発明に用いるカルボン酸は粉粒体(粉末状や顆粒状の固体)で供されるものである。
【0014】
炭酸塩、カルボン酸及びポリアクリル酸ナトリウムの配合比を1:1:8にすれば、適度な粘性や潤滑性を呈すると共にポリアクリル酸ナトリウムを均一に溶解した機能性潤滑剤を得られる。本願発明者は実験の結果、前記配合比に比べて炭酸塩及びカルボン酸の配合量を少なくすると、ポリアクリル酸ナトリウムが均一に溶解できずに、ポリアクリル酸ナトリウム水溶液がだまだま状や団子状になることを確認した。前記配合比に比べて炭酸塩及びカルボン酸の配合量を多くした場合は、ポリアクリル酸ナトリウムが均一に溶解することは言うまでもない。炭酸塩、カルボン酸及びポリアクリル酸ナトリウムに関する1:1:8の配合比はあくまで基準である。
【0015】
本願発明に係る機能性潤滑剤の調製は、例えば以下のようにして実行される。すなわち、所定量の水にポリアクリル酸ナトリウムの粉粒体を投入する。投入の際は、水を撹拌したり、ポリアクリル酸ナトリウムの粉粒体を徐々に添加したりする必要はない。ポリアクリル酸ナトリウムの粉粒体は水に一度に投入して構わない。このため、ポリアクリル酸ナトリウムは均一に溶解せずに、ポリアクリル酸ナトリウム入りの水はだまだま状又は団子状になっている。
【0016】
次に、炭酸塩の粉粒体とカルボン酸の粉粒体とをだまだま状又は団子状のポリアクリル酸ナトリウム入りの水に投入する。炭酸塩の粉粒体とカルボン酸の粉粒体とは予め混合していてもよいし、別々にしていてもよい。そうすると、水を溶媒として炭酸塩とカルボン酸とが化学反応して二酸化炭素(炭酸ガス)を発生させる。そして、二酸化炭素の発泡作用によって、ポリアクリル酸ナトリウムが分散して水に均一に溶解する。その結果、撹拌や少しずつの添加といった長時間作業を一切することなく、適度な粘性や潤滑性を呈すると共に均一に溶解したポリアクリル酸ナトリウム水溶液(機能性潤滑剤)を簡単且つ確実に作成できるのである。
【0017】
特に、炭酸塩の粉粒体とカルボン酸の粉粒体とを水に添加するから、炭酸塩及びカルボン酸によって、ポリアクリル酸ナトリウム水溶液のpH(水素イオン濃度)調節が可能であり、ポリアクリル酸ナトリウム水溶液のpHを例えば確実に中性を呈するように調製できる。なお、ポリアクリル酸ナトリウムの粉粒体と炭酸塩の粉粒体とカルボン酸の粉粒体とを一度に水に投入した場合でも、上記と同様のポリアクリル酸ナトリウム水溶液を簡単且つ確実に作成できることは言うまでもない。
【0018】
なお、本願発明に係る機能性潤滑剤には更に、界面活性剤、清涼剤、鎮痛剤、殺菌剤、ホルモン剤、香料、色素、充填剤、防腐剤等を添加してもよい。
【0019】
炭酸塩とカルボン酸とポリアクリル酸ナトリウムとは、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムのうちいずれか1種又は2種以上の粉粒体と、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸のうちいずれか1種又は2種以上の粉粒体、ポリアクリル酸ナトリウムの粉粒体とからなる粉粒体セットとして、容器や袋等の包装体に小分けした状態にすれば、機能性潤滑剤を水溶液の状態で販売等するのに比べて格段にコンパクトになり、持ち運びも便利で非常に使い勝手がよい。従って、実施形態の粉粒体セットによると、コンパクト且つ軽量で液漏れの問題がなく携帯性に優れており、使用時の利便性もよくて、水さえあればいつでもどこでも手軽に使用できるのである。炭酸塩の粉粒体とカルボン酸の粉粒体とポリアクリル酸ナトリウムの粉粒体は、いずれか2種以上を予め混合してパッケージ化してもよいし、全て別々にしてパッケージ化してもよい。
【0020】
更に、前述のポリアクリル酸ナトリウムの代わりに、ポリエチレンオキサイド(ポリエチレングリコールを含む)を用いたり、これらの混合物を用いたりしてもよい。ポリエチレンオキサイドもポリアクリル酸ナトリウムと同等の性質を有するものである。
【実施例】
【0021】
本願発明者は、数多くの知見に基づいて実験を重ねた結果、適度な粘性や潤滑性を呈すると共にポリアクリル酸ナトリウムを均一に溶解した機能性潤滑剤を、以下に示す条件のもとで得られることを確認した。すなわち、ポリアクリル酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム及びクエン酸の粉粒体を水500mlに投入し、ポリアクリル酸ナトリウムを1重量%含有する水溶液としての機能性潤滑剤を調製した。ポリアクリル酸ナトリウムの配合量は5.0g、炭酸水素ナトリウムの配合量は0.625g、クエン酸の配合量は0.625gであった。つまり、炭酸水素ナトリウム、クエン酸及びポリアクリル酸ナトリウムの配合比は1:1:8であった。ポリアクリル酸ナトリウムの粉粒体は、炭酸水素ナトリウム及びクエン酸の粉粒体の投入後数秒〜数十秒で均一に溶解した。また、調製後の機能性潤滑剤を密閉容器に封入して約30日間放置したが、ポリアクリル酸ナトリウムは水溶液中で均一に溶解したままで、適切な粘性、潤滑性及び機能性を維持していた。
【0022】
また、ポリアクリル酸ナトリウム5.0g、炭酸水素ナトリウム0.5g及びクエン酸0.5gの粉粒体を水500mlに投入した場合は、1重量%ポリアクリル酸ナトリウム水溶液がだまだま状になるのを確認した。更に、ポリアクリル酸ナトリウム5.0g、炭酸水素ナトリウム1.0g及びクエン酸1.0gの粉粒体を水500mlに投入した場合は、1重量%ポリアクリル酸ナトリウム水溶液が均一に溶解するのを確認した。