特許第6035672号(P6035672)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友電気工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6035672-マグネシウム合金部材 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6035672
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】マグネシウム合金部材
(51)【国際特許分類】
   C22C 23/02 20060101AFI20161121BHJP
   C22C 23/04 20060101ALN20161121BHJP
   C22C 23/06 20060101ALN20161121BHJP
   C22C 23/00 20060101ALN20161121BHJP
【FI】
   C22C23/02
   !C22C23/04
   !C22C23/06
   !C22C23/00
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-225782(P2012-225782)
(22)【出願日】2012年10月11日
(65)【公開番号】特開2014-77176(P2014-77176A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2015年6月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】奥田 伸之
(72)【発明者】
【氏名】水野 修
(72)【発明者】
【氏名】井口 光治
【審査官】 荒木 英則
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−157598(JP,A)
【文献】 特開平11−245015(JP,A)
【文献】 特開2008−212981(JP,A)
【文献】 特開2000−340728(JP,A)
【文献】 特開昭63−101067(JP,A)
【文献】 特開昭52−156130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 23/00−23/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のマグネシウム合金材を一体にしてなるマグネシウム合金部材であって、
マグネシウムを主成分とし、添加元素として少なくともアルミニウムを含有するマグネシウム合金からなる展伸部材と、
前記展伸部材を構成するマグネシウム合金と添加元素の種類が同一で、かつアルミニウムの含有量が前記展伸部材のASTM規格で規定される合金種のアルミニウムの規定範囲内であるマグネシウム合金からなる鋳造部材と、
前記展伸部材と鋳造部材との接合領域とを具え、
前記接合領域は、前記展伸部材と鋳造部材とが溶着された溶着領域を有し、
前記溶着領域の形成箇所は、前記接合領域の少なくとも中央部分であり、
前記接合領域に対する前記溶着領域の面積割合が、60%以上であるマグネシウム合金部材。
但し、前記展伸部材と前記鋳造部材との接合構造がスポット溶接部であるマグネシウム合金部材を除く。
【請求項2】
前記接合領域は、前記溶着領域の周りに、前記展伸部材と鋳造部材とが溶着されず接触する接触領域を具え、
前記接合領域に対する接触領域の面積割合が、40%未満である請求項1に記載のマグネシウム合金部材。
【請求項3】
前記展伸部材及び鋳造部材における前記アルミニウムの含有量が、5.5質量%以上10.5質量%以下である請求項1または請求項2に記載のマグネシウム合金部材。
【請求項4】
前記展伸部材及び鋳造部材は、アルミニウムを8.3質量%以上9.5質量%以下、亜鉛を0.5質量%以上1.5質量%以下含有する請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のマグネシウム合金部材。
【請求項5】
前記展伸部材が、板材である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のマグネシウム合金部材。
【請求項6】
前記鋳造部材が、リブ、ボス、及びピンの少なくとも一つである請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のマグネシウム合金部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のマグネシウム合金材同士を一体にしてなるマグネシウム合金部材に関するものである。特に、これらマグネシウム合金材同士の接合強度に優れるマグネシウム合金部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、マグネシウム(以下、Mg)合金が、携帯電話やノートパソコンの筺体や自動車部品などの材料に利用されている。そのMg合金からなる部材として、例えば、特許文献1に示すものがある。
【0003】
特許文献1では、Mg合金からなる板材(Mg合金材)に、金属(例えば、Mg合金)からなる補強材(Mg合金材)を接合したMg合金部材を開示している。この板材と補強材とは、スポット溶接で接合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−157598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Mg合金からなる圧延材などの展伸部材は、塑性加工により成形できる形状に限界がある。そのため、上述のように複数のMg合金材同士を接合すれば、展伸部材を塑性加工しても成形できない複雑な形状のMg合金部材が得られる。しかし、複数のMg合金材同士の接合強度の更なる向上が望まれている。Mg合金は酸化し易く、自然酸化膜が形成され易い。そのため、複数のMg合金材同士を上述のようにスポット溶接で接合すると、Mg合金材同士の接触面において局所的な接合となり、Mg合金材同士の接合強度が不十分となる虞がある。また、Mg合金材同士の厚さが異なる場合は溶接されず接合できない虞もある。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、複数のMg合金材同士を一体にしてなるMg合金部材で、それらMg合金材同士の接合強度に優れるMg合金部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のMg合金部材は、複数のMg合金材を一体にしてなるもので、展伸部材と、鋳造部材と、これら展伸部材と鋳造部材との接合領域とを具える。展伸部材は、Mgを主成分とし、添加元素として少なくともアルミニウム(以下、Al)を含有するMg合金からなる。鋳造部材は、展伸部材を構成するMg合金と添加元素の種類が同一で、かつAlの含有量が実質的に同一のMg合金からなる。接合領域は、展伸部材と鋳造部材とが溶着された溶着領域を有する。そして、接合領域に対する溶着領域の面積割合が、60%以上である。
【0008】
本発明のMg合金部材は、それを構成する展伸部材と鋳造部材との接合強度に優れる。これら展伸部材と鋳造部材は、上述のMg合金からなり、それらの接合領域の60%以上が溶着されているからである。
【0009】
また、これら展伸部材と鋳造部材とが上述のMg合金からなるため、腐食環境下で接合領域、特に溶着領域に電食が生じ難い。
【0010】
そして、これら展伸部材と鋳造部材とが溶着されているため、展伸部材を塑性加工しても成形できない複雑な形状でも成形可能であり、種々の形状のMg合金部材とすることができる。
【0011】
本発明のMg合金部材の一形態として、接合領域は、溶着領域の周りに、展伸部材と鋳造部材とが溶着されず接触する接触領域を具えることが挙げられる。この接触領域の接合領域に対する面積割合は、40%未満である。
【0012】
面積割合が上記範囲の接触領域を具えていても、溶着領域が十分に多いため、展伸部材と鋳造部材との接合強度に十分に優れる。
【0013】
本発明のMg合金部材の一形態として、展伸部材及び鋳造部材におけるAlの含有量が、5.5質量%以上10.5質量%以下であることが挙げられる。
【0014】
上記の構成によれば、Alの含有量が多いので、Mg合金部材自体の耐食性に優れると共に、機械的特性にも優れる。
【0015】
本発明のMg合金部材の一形態として、展伸部材及び鋳造部材は、Alを8.3質量%以上9.5質量%以下、亜鉛(Zn)を0.5質量%以上1.5質量%以下含有することが挙げられる。
【0016】
上記の構成によれば、さらに耐食性に優れると共に、機械的特性にも優れる。
【0017】
本発明のMg合金部材の一形態として、上記展伸部材が板材であることが挙げられる。
【0018】
展伸部材を板材とすることで、鋳造部材を一体に成形し易い。
【0019】
本発明のMg合金部材の一形態として、上記鋳造部材が、リブ、ボス、及びピンの少なくとも一つであることが挙げられる。
【0020】
鋳造部材をリブやボスやピンとすることで、展伸部材を塑性加工しても形成できない又は形成し難い形状を具えるMg合金部材とすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のMg合金部材は、それを構成する展伸部材と鋳造部材との接合強度に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態に係るMg合金部材を示し、(A)は概略斜視図、(B)は(A)における(B)−(B)断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。
【0024】
《Mg合金部材》
図1を参照して、本発明のMg合金部材100を説明する。本発明のMg合金部材100は、複数のMg合金材を一体にしてなるもので、展伸部材1と、鋳造部材2と、これら展伸部材1と鋳造部材2とが溶着された溶着領域31を有する接合領域3とを具える。このMg合金部材100の特徴とするところは、展伸部材1と鋳造部材2とを構成するそれぞれのMg合金が、添加元素の種類が同一で、その添加元素として少なくともAlを含み、かつ互いにAlの含有量が実質的に同一である点と、接合領域3に対する溶着領域31の面積割合が大きい点にある。本例では、接合領域3が、さらに、展伸部材1と鋳造部材2とが溶着しない接触領域32を有している。以下、各構成を詳細に説明する。
【0025】
〔展伸部材〕
展伸部材1は、後述する鋳造部材2が一体に溶着されるMg合金材である。具体的には、双ロール、ダイカストやチクソモールドなどの鋳造によって作製された鋳造材に圧延を施した圧延材が挙げられる。その他、圧延部材を更に熱処理やレベラー加工、研磨加工などを施した加工材、これら圧延材や加工材にさらに塑性加工が施された塑性加工材などでもよい。展伸部材1は、上記圧延前に、溶体化処理が施されていてもよいし、塑性加工時に生じた歪を除去するための熱処理が施されていてもよい。
【0026】
展伸部材1の形状は、その後の成型品によって適宜選択できる。例えば、展伸部材1は板状体であってもよいし、板状体に適宜塑性加工を施されたL字状体、[字状体、筒状体、或いは箱状体などであってもよい。ここでは、図1(A)に示すように、展伸部材1を、[字型に曲げ加工(塑性加工)してなる[字状体10としている。隣接する突片の側部同士は溶接などで接合できる。
【0027】
なお、展伸部材1の表面のうち、鋳造部材2が一体に成形される箇所を除く箇所には、保護膜や塗装膜を具えていてもよい。そうすれば、展伸部材1の酸化防止や、外観を良好にできる。
【0028】
〔鋳造部材〕
鋳造部材2は、展伸部材1に一体に溶着するMg合金材である。例えば、ダイカストやチクソモールドにより作製することが挙げられ、作製と共に展伸部材1に一体に溶着する。
【0029】
鋳造部材2の形状は、その後の成型品における役割(機能)に応じて適宜できる。鋳造部材2の機能として、例えば、成形されたMg合金部材100の補強や、他の部材をMg合金部材100に、または他の部材にMg合金部材100を組み合わせるための組立用とすることが挙げられる。具体的には、リブ、ボス、或いはピンなどが挙げられる。
【0030】
鋳造部材2をリブとする場合、例えば、横断面形状がL字、T字、あるいはI字など種々の形状からなる長尺体とすることが挙げられる。同様に、ボスとする場合、例えば、円筒状や角筒状などの筒状体とすることが挙げられる。その場合、筒状体の内周面に雌ねじを形成して、その雌ねじに雄ねじを螺合できるようにしてもよい。また、ピンとする場合、例えば、円柱状、角柱状、或いは錘台状などの棒状体とすることが挙げられる。これらは、製造過程(後述)において使用する鋳型の形状を適宜選択することで成形できる。ここでは、図1に示すように、鋳造部材2を、L字状の長尺体(リブ)20や、円筒状の筒体(ボス)21や、円柱状の棒体(ピン)22としている。
【0031】
なお、鋳造部材2の表面にも、展伸部材1と同様、保護膜や塗装膜を具えていてもよい。
【0032】
[展伸部材と鋳造部材の構成材料]
展伸部材1と鋳造部材2とを構成するそれぞれのMg合金は、添加元素として少なくともAlを含有し、残部がMg及び不可避的不純物で構成されるMg−Al系合金である。
【0033】
Alの含有量は、3質量%以上とすることが好ましく5.5質量%、更には、7.3質量%以上とすると一層好ましい。Alの含有量が多いほど、製造時には湯流れがよく鋳造性に優れる。また、製造後の部材としては、耐食性に優れる上に、強度、耐塑性変形性といった機械的特性にも優れる傾向にある。但し、Alの含有量が12質量%を超えると塑性加工性の低下を招くことから、上限は12質量%とする。Alの含有量は、11質量%以下、更に、10.5質量%以下が好ましく、特に8.3質量%〜9.5質量%が好ましい。
【0034】
Mg合金には、Alの他、種々の添加元素を含有した種々の組成のものが挙げられる。その場合、展伸部材1と鋳造部材2とは、Al以外の添加元素の種類が同一であり、その上、Mg合金に含まれる添加元素のうちAlの含有量が最も多いことが好ましい。具体的な添加元素としては、Zn、Mn、Si、Be、Ca、Sr、Y、Cu、Ag、Sn、Li、Zr、Ce、Ni、Au及び希土類元素(Y、Ceを除く)から選択された1種以上の元素が挙げられる。このような元素を含む場合、その含有量は、合計で0.01質量%以上10質量%以下、好ましくは0.1質量%以上5質量%以下が挙げられる。これら添加元素のうち、Si、Sn、Y、Ce、Ca、及び希土類元素(Y、Ceを除く)から選択される少なくとも1種の元素を合計0.001質量%以上、好ましくは合計0.1質量%以上5質量%以下含有すると、耐熱性、難燃性に優れる。希土類元素を含有する場合、その合計含有量は0.1質量%以上が好ましく、特に、Yを含有する場合、その含有量は0.5質量%以上が好ましい。不純物は、例えば、Feなどが挙げられる。
【0035】
Mg−Al系合金のより具体的な組成は、例えば、ASTM規格におけるAZ系合金(Mg−Al−Zn系合金、Zn:0.2質量%〜1.5質量%)、AM系合金(Mg−Al−Mn系合金、Mn:0.05質量%〜0.5質量%)、AS系合金(Mg−Al−Si系合金、Si:0.3質量%〜4.0質量%)、Mg−Al−RE(希土類元素)系合金、AX系合金(Mg−Al−Ca系合金、Ca:0.2質量%〜6.0質量%)、AZX系合金(Mg−Al−Zn−Ca系合金、Zn:0.2質量%〜1.5質量%、Ca:0.1質量%〜4.0質量%)、AJ系合金(Mg−Al−Sr系合金、Sr:0.2質量%〜7.0質量%)などが挙げられる。
【0036】
展伸部材1と鋳造部材2のMg合金は、添加元素の種類が同一で、かつAlの含有量が実質的に同一である。ここでAlの含有量が実質的に同一とは、上述したASTM規格で規定される合金種のAlの規定範囲内であることを言う。一方、添加元素の含有量は、近似していることが好ましい。この添加元素の含有量が近似とは、上述のASTM規格で規定されるAlを含有する合金種における添加元素の規定範囲の上限値よりも2質量%多い値までの範囲内であることを言う。例えば、ASTM規格におけるAZ系合金の場合、上述のようにZnの規定値が0.2質量%〜1.5質量%なので、Znの近似する範囲は0.2質量%〜3.5質量%である。特に、添加元素の含有量も実質的に同一であることが好ましい。この添加元素の含有量が実質的に同一とは、上述のASTM規格で規定されるAlを含有する合金種における添加元素の規定範囲内であることを言う。即ち、展伸部材1と鋳造部材2のMg合金種を、AZ61(Al:5.5質量%〜7.2質量%、Zn:0.4質量%〜1.5質量%)同士、AZ91(Al:8.3質量%〜9.5質量%、Zn:0.5質量%〜1.5質量%)同士、AM60(Al:5.5質量%〜6.0質量%、Mn:0.05質量%〜0.5質量%)同士、或いはAZX911(Al:8.3質量%〜9.5質量%、Zn:0.5質量%〜1.5質量%、Ca:0.1質量%〜1.5質量%)同士のいずれかとすることなどが挙げられる。そうすれば、腐食環境下において、展伸部材1との接合領域3(特に、溶着領域31)で電食が生じ難くなり、Mg合金部材100が錆び難い。特に、展伸部材1と鋳造部材2の両者をAZ91合金とすれば、耐食性、機械的特性に優れて好ましい。
【0037】
〔接合領域〕
接合領域3は、展伸部材1と鋳造部材2とが合わさる箇所であり、鋳造部材2の作製と共に形成される。通常、この接合領域3は、展伸部材1と鋳造部材2とが溶着された溶着領域31と、展伸部材1と鋳造部材2とが溶着されず接触する接触領域32とを有する。このように、接合領域3は、溶着領域31に加えて接触領域32をも有するが、鋳造部材2の鋳造条件によっては接合領域3全域を溶着領域31とすることが期待できる。その場合、展伸部材1と鋳造部材2との接合強度により一層優れるMg合金部材100とすることができる。ここでは、接合領域3は、図1(B)に示すように、[字状体10の表面と、長尺体20、筒状体21、及び棒状体22のそれぞれとの間である。
【0038】
溶着領域31の形成箇所は、接合領域3の少なくとも中央部分である。その溶着領域31の面積割合は、接合領域3に対して60%以上である。このように、溶着領域31が多いため、接触領域32を有していても、展伸部材1と鋳造部材2との接合強度に十分優れるMg合金部材100とすることができる。溶着領域31は、展伸部材1と鋳造部材2の構成材料で形成されている。そのため、展伸部材1と鋳造部材2との界面が存在しない。
【0039】
一方、接触領域32の形成箇所は、溶着領域31の周りの部分であり、接合領域3の周縁側である。その接触領域32の面積割合は、接合領域3に対して40%未満である。接触領域32は展伸部材1と鋳造部材2とが溶着されていないので、展伸部材1と鋳造部材2との界面が存在する。
【0040】
《Mg合金部材の製造方法》
Mg合金部材の製造方法は、複数のMg合金材を一体に成形する方法で、展伸部材を用意する展伸部材準備工程と、展伸部材と鋳造部材とを一体に成形する一体成形工程とを具える。
【0041】
[展伸部材準備工程]
展伸部材準備工程では、まず、展伸部材として圧延板材を用意する。具体的には、上述の組成を有するMg合金からなる鋳造材を作製し、その鋳造材に圧延を施して製造するか、予め同様に製造されたMg合金圧延材を購入するなどして用意する。前者の場合、例えば、WO2006/003899や特開2007-98470号公報に記載の製造方法など、公知の方法により製造することができる。ここで用意したMg合金圧延材に上述したようにレベラー加工、研磨加工、塑性加工など種々の加工を適宜施してもよい。
【0042】
[一体成形工程]
一体成形工程では、まず、展伸部材準備工程で用意した展伸部材を鋳型に収納する。この鋳型により成形後の鋳造部材の形状を決定できるため、所望の形状に応じて鋳型の形状を適宜選択するとよい。例えば、上下に分割可能で、下鋳型に展伸部材を配置して上鋳型を下鋳型と合わせた際、その内部空間の輪郭形状が、所望の形状、具体的にはL字状、円筒状、或いは円柱状となる分割鋳型を用意する。
【0043】
次に、上記展伸部材と同種のMg合金の溶湯を鋳型内に充填する。このとき、鋳型内を酸素濃度が5体積%以下とすることが好ましい。そうすれば、空気中の酸素によるMg合金の溶湯および展伸部材の表面の酸化を抑制し、成形後のMg合金部材において展伸部材と鋳造部材との接合強度の低下を抑制できる。充填した溶湯が直接展伸部材に接触して、溶湯の展伸部材との接触箇所において、周縁側部分が鋳型により冷却されて凝固すると共に、周縁側部分に囲まれる中央部分が展伸部材の表面を溶融する。その際、鋳型内に収納した展伸部材の温度を300℃以下、更には200℃以下に保つことが好ましい。展伸部材の温度を300℃以下に保つことで、展伸部材の結晶粒径の粗大化を抑制でき、展伸部材の強度の低下を抑制できる。そして、その状態で、溶湯を冷却して完全に凝固すると、鋳造部材が形成されると共に、展伸部材における上記周縁部分で鋳造部材と溶着されず接触する接触領域と、展伸部材の中央領域が鋳造部材と溶着された溶着領域とが形成され、展伸部材と鋳造部材とが一体に成形されたMg合金部材を製造できる。
【0044】
[その他の工程]
その他の工程として、適宜、一体成形工程前の展伸部材に種々の表面処理(前処理)を施してもよいし、一体成形工程後のMg合金部材に種々の表面処理(後処理)を施してもよい。
【0045】
前処理としては、例えば、展伸部材の表面のうち、少なくとも鋳造部材を成形する箇所の酸化膜を除去するための研磨やエッチングなどが挙げられる。そうすれば、展伸部材と鋳造部材との接合強度を向上できる。
【0046】
後処理としては、例えば、Mg合金部材の表面に保護膜を形成する化成処理や陽極酸化処理、Mg合金部材の表面に塗装膜を形成する電着塗装や吹き付け塗装などの種々の塗装処理などが挙げられる。そうすれば、Mg合金部材の酸化防止や、外観を良好にできる。本例では、展伸部材と鋳造部材とが、上述のように同種のMg合金からなるため、展伸部材と鋳造部材とを別々に後処理せず、Mg合金部材を一気に後処理でき、後処理が煩雑になり難い。
【0047】
《作用効果》
上述のMg合金部材は、それを構成する展伸部材と鋳造部材との接合強度に優れる。これら展伸部材と鋳造部材とが同種のMg合金からなり、それら接合領域のうち60%以上が互いの構成材料で溶着されているからである。その上、展伸部材と鋳造部材とが同種のMg合金からなるので、腐食環境下において、溶着箇所で電食し難くMg合金部材が錆び難い。
【0048】
一方、上述のMg合金部材の製造方法によれば、展伸部材と鋳造部材との接合強度に優れるMg合金部材を製造できる。その上、鋳型の形状を選択することで鋳造部材の形状を適宜選択できるので、展伸部材を塑性加工しても成形できない複雑な形状も容易に成形でき、種々の形状のMg合金部材を製造できる。
【0049】
《試験例》
試験例として、Mg合金からなる展伸部材とMg合金からなる鋳造部材とが一体に成形されたMg合金部材(実施例:試料1〜4、比較例:試料21〜23)を用意し、以下に示す接合強度試験と耐食性試験を施した。まず、表1に示す組成に相当する展伸部材を用意して、その展伸部材の表面に同表に示す組成に相当する鋳造部材を一体に成形して試料1〜4、及び試料21〜23を作製した。ここでは、展伸部材の形状を板状体とし、鋳造部材の形状を図1を参照して説明した円筒状の筒体21と同様の形状とした。
【0050】
[接合強度試験]
各試料に対し、接合強度試験を施す。具体的には、各試料の筒体21の内周面に雌ねじを形成し、その雌ねじに雄ねじを螺合した後、筒体21が板状体から脱落するまでトルクレンチで回転を加える。この試験では、筒体21が板状体から脱落した際のトルクが1.0N・m以上の場合に接合強度が優良(◎)、0.5N・m以上1.0N・m未満の場合に良好(○)、0.5N・m未満の場合に不良(×)とした。その結果を表1に示す。
【0051】
また、上記接合強度試験後、展伸部材における鋳造部材との接合領域跡から展伸部材と鋳造部材との溶着領域の接合領域に対する面積割合を算出した。その結果も合わせて表1に示す。
【0052】
[耐食性試験]
各試料に対し、耐食性試験として「塩水噴霧試験方法 JIS Z 2371(2000)」に定められた試験方法によって塩水噴霧試験を施す。この試験では、試験後の各試料における展伸部材と鋳造部材との接合領域での腐食が全く見られない場合に耐食性が優良(◎)、腐食がほとんど見られない場合に良好(○)、腐食が見られる場合に不良(×)とした。その結果を表1に示す。
【0053】
(塩水噴霧試験条件)
塩水濃度:5%
試験温度:35℃
試験時間:24h
【0054】
【表1】
【0055】
《結果》
試料1〜4は、試料21〜23よりも接合強度に優れる。試料1〜4が試料21よりも接合強度に優れる結果となったのは、試料1〜4における展伸部材と鋳造部材との溶着領域が60%以上と大きいからだと考えられる。そして、この試料1〜4は、溶着領域が80%以上である試料22,23よりも溶着領域が小さいにも関わらず、接合強度に優れる。これは、試料1〜4の展伸部材と鋳造部材とが、同一種の添加元素で、かつAlの含有量が実質的に同一のMg合金からなるからだと考えられる。
【0056】
また、試料1〜4は耐食性に優れる。この結果となったのは、試料1〜4の展伸部材と鋳造部材とが同一種の添加元素で、かつAlの含有量が実質的に同一のMg合金からなるからだと考えられる。そのため、両部材の接合領域、特に溶着領域で電食をより生じ難くできたからである。中でも、試料3、4は試料1、2よりも耐食性に優れる結果となった。これは、試料3、4のAlの含有量が試料1、2よりも多いからであると考えられる。
【0057】
以上から、展伸部材と鋳造部材とは、同一種の添加元素で、かつAlの含有量が実質的に同一のMg合金からなり、それら両部材の溶着領域が60%以上であるMg合金部材は接合強度及び耐食性に優れ、中でも、Alの含有量の多いほど耐食性に優れることが分かった。
【0058】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のMg合金部材は、携帯電話やノートパソコンの筺体や、産業機械・自動車などにおけるシャーシやステーなどに好適に利用できる。
【符号の説明】
【0060】
100 Mg合金部材
1 展伸部材
10 [字状体
2 鋳造部材
20 長尺体(リブ) 21 筒状体(ボス) 22 棒状体(ピン)
3 接合領域
31 溶着領域 32 接触領域
図1