【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らの最近の研究から、鋳造ノズルの注湯口近傍の鋳造雰囲気における酸素濃度を一定に制御することが、欠陥の少ないMg合金の鋳造材を連続的に作製する上で重要であることが分かった。この知見に基づいて本発明を以下に規定する。
【0008】
本発明は、一対の可動鋳型の間に鋳造ノズルからMg合金の溶湯を供給し、その溶湯を一対の可動鋳型の間で急冷凝固させることでMg合金の鋳造材を連続的に作製するMg合金の連続鋳造方法に係る。本発明のMg合金の連続鋳造法では、鋳造ノズルの外周を覆って、その覆った部分の内部空間の雰囲気と、覆った部分の外部空間の雰囲気とを異ならせることができる状態とする。そのような状態とした上で、本発明のMg合金の連続鋳造方法では、不活性ガスを内部空間に連続的に導入し、鋳造ノズルの注湯口近傍の鋳造雰囲気における少なくとも酸素濃度をモニターすると共に、そのモニター結果に基づいて不活性ガスの導入量を調整することで上記鋳造雰囲気を一定に制御しながら連続鋳造を実施する。なお、本発明におけるMg合金は、99.8質量%以上のMgと不可避的不純物とからなる純Mgも含む。
【0009】
本発明のMg合金の連続鋳造方法において内部空間内に導入する不活性ガスとしては、例えばN
2ガス、Arガスなどを挙げることができる。これら不活性ガスであれば、無用なMg合金の化学状態の変化を抑制することができる。ここで、不活性ガスの導入量(流量)は、高すぎるとMg合金の溶湯を不必要に冷却してしまうし、低すぎると内部空間内の大気の追い出しが十分でなく、鋳造ノズル近傍の鋳造雰囲気を制御することが難しい。不活性ガスの流量は、1分間あたり、内部空間の体積以下とすることが好ましい。例えば、内部空間が10Lであれば、不活性ガスの流量は10L/min以下とすることが好ましい。
【0010】
上記本発明の構成のように、鋳造ノズルの外周を覆って、その覆った部分の内部空間の雰囲気と、覆った部分の外部空間の雰囲気とを異ならせることができる状態とし、その内部空間へ連続的に不活性ガスを導入することで、鋳造雰囲気における酸素濃度を容易に管理することができる。加えて、本発明のMg合金の連続鋳造方法では、鋳造雰囲気における少なくとも酸素濃度をモニターすると共に、必要に応じて不活性ガスの導入量を調整することで、鋳造雰囲気を一定に制御しながら連続鋳造を行なっている。そのため、欠陥の少ないMg合金の鋳造材を連続的に安定して作製することができる。
【0011】
一方、本発明の構成と異なり、例えば鋳造ノズル周辺に向かって不活性ガスを吹き付けるだけでは鋳造雰囲気を一定に制御することが困難であり、また鋳造ノズル周辺を覆って不活性ガスを一旦パージするだけでは鋳造雰囲気の変化が起こる場合がある。いずれの構成であっても、欠陥の少ないMg合金の鋳造材を連続的に安定して作製することは難しい。また、先行技術として例示した上記特許文献1に記載されるMg合金の連続鋳造方法は、鋳造雰囲気中の酸素濃度を5体積%以下の低酸素状態とするとはいうものの、その酸素濃度を一定に制御する構成が欠けているため、作製する鋳造材の長さが長くなるほど、鋳造材に欠陥が発生する可能性が高くなると予想される。
【0012】
本発明のMg合金の連続鋳造方法の一形態として、内部空間への不活性ガスの導入により、注湯口近傍の鋳造雰囲気における酸素濃度を制御することで、Mg合金の溶湯と可動鋳型との接触位置を調整する形態を挙げることができる。
【0013】
上記構成における注湯口近傍の鋳造雰囲気における酸素濃度の制御は、例えば、内部空間に導入する不活性ガスの流量によって調節することができる。鋳造雰囲気の酸素濃度を低くすれば、Mg合金の溶湯の表面に形成される酸化皮膜を薄くすることができ、その結果、溶湯の表面張力を低下させることができる。溶湯の表面張力が小さくなると、溶湯とロール(可動鋳型)との接触位置は鋳造ノズル側に移動する。ここで、双ロール式連続鋳造方法における急冷凝固においては、その凝固開始位置、即ち鋳造ノズルから吐出されるMg合金の溶湯とロールとの接触位置が、鋳造材の品質に非常に大きな影響を与える。溶湯とロールとの接触位置は、鋳造ノズルとロールとの位置関係、溶湯の送り圧、溶湯の表面張力など、様々な因子によって決定される。これらの因子のうち、位置関係の調節には限界があるし、溶湯の送り圧は精度良く制御することが難しい。これに対して、不活性ガスの導入によって鋳造雰囲気の酸素濃度を制御する本発明の構成によれば、溶湯の表面張力を比較的容易に微調整することができ、表面張力の変化に伴う溶湯とロールとの接触位置の微調整を行なうことができる。
【0014】
なお、Mg合金の種類によって溶湯の表面張力が異なるため、Mg合金の種類によって溶湯表面の酸化皮膜の形成のされ方が異なる。つまり、Mg合金が純Mgであるか、あるいはどのような添加元素をどの程度含むかによって、溶湯とロールとの接触位置に差が生じてくる。そのような合金種の違いによる溶湯とロールとの接触位置の変化に対して、鋳造雰囲気の酸素濃度を制御することで対応することが可能である。既に述べたように、鋳造雰囲気の酸素濃度の制御によって、溶湯とロールとの接触位置を所望の位置に調整することが比較的容易であるからである。
【0015】
本発明のMg合金の連続鋳造方法の一形態として、上記鋳造雰囲気を、露点8℃以下、酸素濃度15体積%以下、温度65℃〜450℃に制御する形態を挙げることができる。なお、言う迄もないが、露点とは、水蒸気を含む気体を冷却したときに凝結が始まる温度のことで、露点が低いほど乾燥した気体といえる。
【0016】
本発明者らの最近の研究から、溶融したMg合金は、低酸素雰囲気下においても雰囲気中の水蒸気と反応して酸化マグネシウムを生成する可能性があることが分かった。つまり、鋳造雰囲気中の酸素濃度と湿度とを一体的に調整することが、欠陥の少ないMg合金の鋳造材を連続的に作製する上で重要であることが分かった。また、不活性ガスのフローによって酸素濃度と湿度を調整するにあたり、鋳造雰囲気の温度が高くなり過ぎたり低くなり過ぎたりしないように調整することも、欠陥の少ないMg合金の鋳造材を連続的に作製するためには重要である。
【0017】
露点8℃以下で酸素濃度15体積%以下の鋳造雰囲気中では、Mgが非常に酸化し難い。また、鋳造雰囲気の温度を65℃以上とすることで、鋳造ノズル中でMg合金の溶湯が凝固することを抑制できる。一方、鋳造雰囲気を450℃以下とすることで、鋳造ノズルから可動鋳型に吐出されたMg合金の溶湯の冷却速度を十分に確保することができる。以上、鋳造雰囲気における露点、酸素濃度、および温度を規定範囲内とすることで、欠陥の少ないMg合金の鋳造材を連続的に得ることができる。
【0018】
本発明のMg合金の連続鋳造方法の一形態として、内部空間内への不活性ガスの導入は、鋳造ノズルの側方で、かつ下方から行なう形態を挙げることができる。
【0019】
内部空間に不活性ガスを導入する場合、その不活性ガスが直接、溶湯や鋳造ノズルに当たらないようにすることが好ましい。溶湯や鋳造ノズルが部分的に冷却されて、鋳造材に凝固ムラができる恐れがあるからである。また、内部空間は上昇気流が生じ易い環境にあるため、下方から不活性ガスを導入すれば、自然と内部空間内における不活性ガスの割合を高めることができ、その内部空間における鋳造ノズルの注湯口近傍の鋳造雰囲気を上記規定範囲内にすることができる。
【0020】
本発明のMg合金の連続鋳造方法の一形態として、Mg合金は、ASTM規格のAZ91相当のMg合金である形態を挙げることができる。
【0021】
本発明におけるMg合金(純Mgを含む)は特に限定されないが、Mgに添加元素としてAlを含有させたMg−Al合金は、耐食性に優れるため、好ましい。特に、ASTM規格のAZ91相当のMg合金は、Alを8.3質量%〜9.5質量%、Znを0.5質量%〜1.5質量%含有し、非常に優れた耐食性を備える。このAZ91相当のMg合金の鋳造材は、その耐食性のために、種々の工業製品に好適に利用可能である。
【0022】
一方、本発明のMg合金の鋳造材は、上記本発明のMg合金の連続鋳造方法で得られたことを特徴とする。
【0023】
既に述べたように、本発明のMg合金の連続鋳造方法では、Mg合金の酸化が生じ難い。そのため、本発明のMg合金の連続鋳造方法で得られた本発明のMg合金の鋳造材では、酸化マグネシウムからなる表面欠陥および内部欠陥が従来品よりも少ない。具体的には、幅が約200mm〜600mm、厚さが約3mm〜5mmのMg合金の鋳造材を連続的に作製した場合、本発明のMg合金の鋳造材の表面性状および内部性状は、鋳造直後の状態で次の数値を満たす。
[表面性状]…直径0.5mm以上の酸化マグネシウムによる表面欠陥が、鋳造材1m当たり0.1個以下。
[内部性状]…直径20μm以上の酸化マグネシウムによる内部欠陥が、鋳造材の断面1mm
2当たり0.1個以下。
【0024】
鋳造ノズルから可動鋳型までの間で鋳造雰囲気に触れることで生成した酸化マグネシウムは、そのまま鋳造材の表面に残ったり、ノズル内を移動中に溶湯内部に巻き込まれたり、可動鋳型で溶湯が圧縮される際に鋳造材の内部に巻き込まれたりする。内部に巻き込まれた酸化マグネシウムは、巻き込まれる際に分断されて、表面に残った酸化マグネシウムよりも小さくなる傾向にある。参考までに、Mg合金の鋳造材の断面における酸化マグネシウムからなる内部欠陥の顕微鏡写真を
図4に示す。
図4に示すように、鋳造材に生成した酸化マグネシウムは、タバコの焼け跡のようになっており、その周りの健全な組織とは明らかに異なるため、見た目に確認することができる。なお、鋳造材の表面に残った酸化マグネシウムは、鋳造材から脱落して、鋳造材の表面に穴を形成することがある(後述する実施形態の
図2(B)を参照)。つまり、鋳造材の表面に形成された穴の存在によって、間接的に酸化マグネシウムが生成されたことを知ることもできる。
【0025】
上述したように、本発明のMg合金の鋳造材では、酸化マグネシウムからなる表面欠陥および内部欠陥が従来に比べて少ないため、曲げたり、塑性加工したりしても鋳造材にクラックなどの欠陥が生じ難い。そのため、本発明のMg合金の鋳造材をコイル状に巻き取ることで形成されたMg合金の鋳造コイル材、本発明のMg合金の鋳造材または本発明のMg合金の鋳造コイル材を圧延加工して得られたMg合金の展伸材、本発明のMg合金の展伸材をプレス加工して得られたMg合金の構造体も、クラックなどの欠陥を殆ど有さない工業材料となる。