(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
図1は、本発明による燃料電池システムの第1実施形態の概要を示す図である。
【0013】
燃料電池システムは、燃料電池スタック100と、水素タンク200と、圧力調整弁300と、バッファータンク400と、パージ弁500と、コントローラー600と、を含む。
【0014】
燃料電池スタック100は、反応ガス(アノードガスH
2、カソードガスO
2)が供給されて発電する。詳細は後述する。
【0015】
水素タンク200は、アノードガスH
2を高圧状態で貯蔵する高圧ガスタンクである。水素タンク200は、アノードラインの最上流に設けられる。
【0016】
圧力調整弁300は、水素タンク200の下流に設けられる。圧力調整弁300は、水素タンク200から新たにアノードラインに供給するアノードガスH
2の圧力を調整する。アノードガスH
2の圧力は、圧力調整弁300の開度によって調整される。
【0017】
バッファータンク400は、燃料電池スタック100の下流に設けられる。バッファータンク400は、燃料電池スタック100から排出されたアノードガスH
2を蓄える。
【0018】
パージ弁500は、バッファータンク400の下流に設けられる。後述するように、燃料電池スタックでは、カソード流路に空気(酸素)が供給されるとともに、アノード流路に水素が供給される。この結果、電解質膜で発電反応が生じる。このとき、カソード流路に供給された空気の一部が電解質膜を透過してアノード流路に漏れることがある。この場合、空気中の窒素N
2は、反応することなく、バッファータンク400に溜まる。このような窒素N
2が、燃料電池スタックのアノード流路に逆流しては、水素分圧が下がってしまって、発電反応が阻害される。そこで適時、パージ弁500が開かれて、アノードガスH
2とともに窒素N
2がパージされる。
【0019】
コントローラー600は、アノードラインに設けられた圧力センサー71や燃料電池スタック100に設けられた電流電圧センサー72などの信号に基づいて圧力調整弁300の作動を制御する。具体的な制御内容は後述される。
【0020】
図2は、燃料電池スタックを説明する図であり、
図2(A)は外観斜視図、
図2(B)は発電セルの構造を示す分解図である。
【0021】
図2(A)に示されるように、燃料電池スタック100は、積層された複数の発電セル10と、集電プレート20と、絶縁プレート30と、エンドプレート40と、4本のテンションロッド50とを備える。
【0022】
発電セル10は、燃料電池の単位発電セルである。各発電セル10は、1ボルト(V)程度の起電圧を生じる。各発電セル10の構成の詳細については後述される。
【0023】
集電プレート20は、積層された複数の発電セル10の外側にそれぞれ配置される。集電プレート20は、ガス不透過性の導電性部材、たとえば緻密質カーボンで形成される。集電プレート20は、正極端子211及び負極端子212を備える。燃料電池スタック100は、正極端子211及び負極端子212によって、各発電セル10で生じた電子e
-が取り出されて出力する。
【0024】
絶縁プレート30は、集電プレート20の外側にそれぞれ配置される。絶縁プレート30は、絶縁性の部材、たとえばゴムなどで形成される。
【0025】
エンドプレート40は、絶縁プレート30の外側にそれぞれ配置される。エンドプレート40は、剛性のある金属材料、たとえば鋼などで形成される。
【0026】
一方のエンドプレート40(
図2(A)では、左手前のエンドプレート40)には、アノード供給口41aと、アノード排出口41bと、カソード供給口42aと、カソード排出口42bと、冷却水供給口43aと、冷却水排出口43bとが設けられている。本実施形態では、アノード供給口41a、冷却水供給口43a及びカソード排出口42bは図中右側に設けられている。またカソード供給口42a、冷却水排出口43b及びアノード排出口41bは図中左側に設けられている。
【0027】
テンションロッド50は、エンドプレート40の四隅付近にそれぞれ配置される。燃料電池スタック100は内部に貫通した孔(不図示)が形成されている。この貫通孔にテンションロッド50が挿通される。テンションロッド50は、剛性のある金属材料、たとえば鋼などで形成される。テンションロッド50は、発電セル10同士の電気短絡を防止するため、表面には絶縁処理されている。このテンションロッド50にナット(奥にあるため図示されない)が螺合する。テンションロッド50とナットとが燃料電池スタック100を積層方向に締め付ける。
【0028】
アノード供給口41aにアノードガスとしての水素を供給する方法としては、例えば水素ガスを水素貯蔵装置から直接供給する方法、又は水素を含有する燃料を改質して改質した水素含有ガスを供給する方法などがある。なお、水素貯蔵装置としては、高圧ガスタンク、液化水素タンク、水素吸蔵合金タンクなどがある。水素を含有する燃料としては、天然ガス、メタノール、ガソリンなどがある。
図1では、高圧ガスタンクが使用される。また、カソード供給口42aに供給するカソードガスとしては、一般的に空気が利用される。
【0029】
図2(B)に示されるように、発電セル10は、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly;MEA)11の両面に、アノードセパレーター(アノードバイポーラープレート)12a及びカソードセパレーター(カソードバイポーラープレート)12bが配置される構造である。
【0030】
MEA11は、イオン交換膜からなる電解質膜111の両面に電極触媒層112が形成される。この電極触媒層112の上にガス拡散層(Gas Diffusion Layer;GDL)113が形成される。
【0031】
電極触媒層112は、たとえば白金が担持されたカーボンブラック粒子で形成される。
【0032】
GDL113は、十分なガス拡散性及び導電性を有する部材、たとえばカーボン繊維で形成される。
【0033】
アノード供給口41aから供給されたアノードガスは、このGDL113aを流れてアノード電極触媒層112(112a)と反応し、アノード排出口41bから排出される。
【0034】
カソード供給口42aから供給されたカソードガスは、このGDL113bを流れてカソード電極触媒層112(112b)と反応し、カソード排出口42bから排出される。
【0035】
アノードセパレーター12aは、GDL113a及びシール14aを介してMEA11の片面(
図2(B)の裏面)に重ねられる。カソードセパレーター12bは、GDL113b及びシール14bを介してMEA11の片面(
図2(B)の表面)に重ねられる。シール14(14a,14b)は、たとえばシリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム(ethylene propylene diene monomer;EPDM)、フッ素ゴムなどのゴム状弾性材である。アノードセパレーター12a及びカソードセパレーター12bは、たとえばステンレスなどの金属製のセパレーター基体がプレス成型されて、一方の面に反応ガス流路が形成され、その反対面に反応ガス流路と交互に並ぶように冷却水流路が形成される。
図2(B)に示すようにアノードセパレーター12a及びカソードセパレーター12bが重ねられて、冷却水流路が形成される。
【0036】
MEA11、アノードセパレーター12a及びカソードセパレーター12bには、それぞれ孔41a,41b,42a,42b,43a,43bが形成されており、これらが重ねられて、アノード供給口(アノード供給マニホールド)41a、アノード排出口(アノード排出マニホールド)41b、カソード供給口(カソード供給マニホールド)42a、カソード排出口(カソード排出マニホールド)42b、冷却水供給口(冷却水供給マニホールド)43a及び冷却水排出口(冷却水排出マニホールド)43bが形成される。
【0037】
図3は、燃料電池スタックにおける電解質膜の反応を説明する模式図である。
【0038】
上述のように、燃料電池スタック100は、反応ガス(カソードガスO
2、アノードガスH
2)が供給されて発電する。燃料電池スタック100は、電解質膜の両面にカソード電極触媒層及びアノード電極触媒層が形成された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly;MEA)が数百枚積層されて構成される。そのうちの1枚のMEAが
図3(A)に示される。ここではMEAにカソードガスが供給されて(カソードイン)、対角側から排出されながら(カソードアウト)、アノードガスが供給されて(アノードイン)、対角側から排出される(アノードアウト)、という例が示されている。
【0039】
各膜電極接合体(MEA)は、カソード電極触媒層及びアノード電極触媒層において以下の反応が負荷に応じて進行して、発電する。
【0041】
図3(B)に示すように、反応ガス(カソードガスO
2)がカソード流路を流れるにつれて上式(1-1)の反応が進行し、水蒸気が生成される。するとカソード流路の下流側では相対湿度が高くなる。この結果、カソード側とアノード側との相対湿度差が大きくなる。この相対湿度差をドライビングフォースとして、水が逆拡散しアノード上流側が加湿される。この水分がさらにMEAからアノード流路に蒸発してアノード流路を流れる反応ガス(アノードガスH
2)を加湿する。そしてアノード下流側に運ばれてアノード下流のMEAを加湿する。
【0042】
上記反応によって効率よく発電するには、電解質膜が適度な湿潤状態であることが必要である。電解質膜中の水分が多すぎれば、余剰の水分が反応ガス流路に溢れてしまって、ガスの流れが阻害される。
【0043】
カソード流路は大気に開放される。そのため、カソード流路の水分は、カソードガスとともに大気に排出される。しかしながら、アノード流路には、上述の通り、パージ弁500が設けられている。通常は、パージ弁500が閉弁された状態で、高圧のアノードガスの供給/停止が繰り返される。したがってアノード流路の水分は、排出されにくい。
【0044】
そこでアノード流路の水分を排出するために、パージ弁500を開弁してパージしてアノードガスの流れを促進することも考えられる。しかしながら、パージすると、未反応のアノードガスH
2も排出されてしまう。したがって、パージは、少ないほうが好ましい。
【0045】
そこで発明者らは、以下のように制御することに想到した。
【0046】
図4は、燃料電池システムの第1実施形態のコントローラーが実行する制御フローチャートである。なおコントローラーは、微小時間(たとえば10ミリ秒)ごとにこのフローチャートを繰り返し実行する。
【0047】
ステップS11においてコントローラーは、排水運転中であるか否かを判定する。コントローラーは、判定結果が否であればステップS12へ処理を移行し、判定結果が肯であればステップS14へ処理を移行する。
【0048】
ステップS12においてコントローラーは、排水運転が必要であるか否かを判定する。具体的には、たとえば
図5に示されるようなマップを予め実験等を通じて用意しておく。そしてそのマップに要求負荷を適用して、セル電圧の閾値を求める。そして、その閾値よりも、セル電圧が低ければ、排水運転が必要であると判定する。コントローラーは、判定結果が肯であればステップS13へ処理を移行し、判定結果が否であればステップS16へ処理を移行する。
【0049】
なお燃料電池スタックの電解質膜の湿潤度によって、排水運転が必要であるか否かを判定してもよい。すなわち、燃料電池スタックの電解質膜の湿潤度が高い場合に(すなわち電解質膜中の水分が多い場合に)、排水運転が必要であると判定する。電解質膜の湿潤度は、電解質膜のインピーダンス(内部抵抗)から把握できる。すなわち電解質膜の湿潤度が小さいほど(電解質膜中の水分が少なく乾き気味であるほど)、インピーダンスは大きくなる。電解質膜の湿潤度が大きいほど(電解質膜中の水分が多く濡れ気味であるほど)、インピーダンスは小さくなる。この特性を利用して、たとえば燃料電池スタックの発電電流を例えば1kHzの正弦波で変動させて電圧の変動を見る。そして1kHzの交流電圧振幅を交流電流振幅で除算することでインピーダンスを求める。そしてこのインピーダンスに基づいて電解質膜の湿潤度を得ることができる。このようにして求められた湿潤度が基準湿潤度よりも大きければ、排水運転が必要であると判定してもよい。
【0050】
ステップS13においてコントローラーは、排水運転用のアノード脈動の目標上限圧力及び目標下限圧力を設定する。具体的な内容は後述する。
【0051】
ステップS14においてコントローラーは、排水運転が不要か否かを判定する。具体的には、ステップS12とは反対の判定を行えばよい。なお判定のための閾値は、ステップ12の排水運転が必要であることを判定する閾値と同一の閾値を用いても、
図5に復帰閾値と示されるように、異なる閾値を用いてもよい。コントローラーは、判定結果が肯であればステップS15へ処理を移行し、判定結果が否であればステップS16へ処理を移行する。
【0052】
ステップS15においてコントローラーは、通常運転用のアノード脈動の目標上限圧力及び目標下限圧力を設定する。具体的には、たとえば
図6に示されるようなマップを予め実験等を通じて用意しておく。そしてそのマップに目標要求負荷を適用して、通常運転用のアノード脈動の目標上限圧力及び目標下限圧力を設定する。
【0053】
なおステップS13で設定される排水運転用の目標上限圧力及び目標下限圧力は、たとえば
図7に示されるようなマップに、バッファータンク400の水素濃度が適用されて求められた下げ幅だけ、通常運転用の目標上限圧力及び目標下限圧力を下げることで求めればよい。
【0054】
なお
図7から明らかなように下げ幅は、バッファータンク400の水素濃度が高いほど大きい。水素濃度は、たとえば水素センサーで検出すればよい。また、通常は、高負荷運転であれば水素濃度は90%を越える高い濃度になる。その一方で、低負荷運転であれば、水素濃度は80%の濃度になる。したがって運転負荷に応じて水素濃度を推定してもよい。さらにパージ直後は水素濃度が高くなるので、パージしてからの経過時間も考慮して水素濃度を推定するとよい。
【0055】
ステップS16においてコントローラーは、アノードガスを脈動供給する。具体的な内容は後述する。
【0056】
図8は、脈動供給ルーチンを示すフローチャートである。
【0057】
ステップS161においてコントローラーは、現在圧力が上昇中であるか否かを判定する。コントローラーは、判定結果が肯であればステップS162へ処理を移行し、判定結果が否であればステップS164へ処理を移行する。
【0058】
ステップS162においてコントローラーは、現在の圧力が目標上限圧力よりも小であるか否かを判定する。コントローラーは、判定結果が肯であれば一旦処理を抜け、判定結果が否であればステップS163へ処理を移行する。
【0059】
ステップS163においてコントローラーは、アノードガスの供給を停止する。
【0060】
ステップS164においてコントローラーは、現在の圧力が目標下限圧力よりも大であるか否かを判定する。コントローラーは、判定結果が肯であれば一旦処理を抜け、判定結果が否であればステップS165へ処理を移行する。
【0061】
ステップS165においてコントローラーは、アノードガスの供給を開始する。
【0062】
図9及び
図10は、第1実施形態の制御フローチャートが実行されたときの作動を説明するタイミングチャートである。
【0063】
なお上述のフローチャートとの対応が分かりやすくするために、フローチャートのステップ番号も併記する。
【0064】
以上の制御フローチャートが実行されて以下のように作動する。
【0065】
図9では、時刻t11の以前に、目標要求負荷に基づいて脈動運転の目標下限圧力P11及び目標上限圧力P12が設定されている。
【0066】
時刻t11以後は、ステップS11→S12→S16→S161→S162の処理が繰り返される。この結果、
図9に示されるように、アノード圧が上昇する。
【0067】
時刻t12でアノード圧が目標上限圧力P12に達したら、ステップS162→S163が処理される。この結果、
図9に示されるように、アノード圧が下降に転じる。
【0068】
時刻t12以後は、ステップS11→S12→S16→S161→S164の処理が繰り返される。アノードガスの供給が停止されている間も、発電反応でアノードガスが消費されるので、
図9に示されるように、アノード圧が下降し続ける。
【0069】
時刻t13でアノード圧が目標下限圧力P11に達したら、ステップS164→S165が処理される。この結果、
図9に示されるように、アノード圧が上昇に転じる。
【0070】
同様の制御が時刻t14まで繰り返される。
【0071】
時刻t14でセル電圧が閾値を下回ったら、ステップS12→S13が処理されて、排水運転用のアノード脈動の目標上限圧力P22及び目標下限圧力P21が設定される。そしてこの目標上限圧力P22及び目標下限圧力P21になるように、アノードガスが脈動供給される。
【0072】
時刻t14以後は、ステップS11→S14→S16→S161→S164の処理が繰り返される。アノードガスの供給が停止されている間も、発電反応でアノードガスが消費されるので、
図9に示されるように、アノード圧が下降し続ける。またパージ量が通常よりも多くなるようにパージ弁500を制御することで、アノード圧が迅速に低下する。またバッファータンク400から窒素N
2が逆流することを確実に防止できる。
【0073】
時刻t15でアノード圧が目標下限圧力P21に達したら、ステップS164→S165が処理される。この結果、
図9に示されるように、アノード圧が上昇に転じる。
【0074】
時刻t15以後は、ステップS11→S14→S16→S161→S162の処理が繰り返される。この結果、
図9に示されるように、アノード圧が上昇する。
【0075】
時刻t16でアノード圧が目標上限圧力P22に達したら、ステップS162→S163が処理される。この結果、
図9に示されるように、アノード圧が下降に転じる。
【0076】
時刻t16以後は、ステップS11→S14→S16→S161→S164の処理が繰り返される。アノードガスの供給が停止されている間も、発電反応でアノードガスが消費されるので、
図9に示されるように、アノード圧が下降し続ける。
【0078】
図10の時刻t21でセル電圧が閾値を上回ったら、ステップS14→S15が処理されて、通常運転用のアノード脈動の目標上限圧力P12及び目標下限圧力P11が設定される。そしてこの目標上限圧力P12及び目標下限圧力P11になるように、アノードガスが脈動供給される。
【0079】
時刻t21以後は、ステップS11→S12→S16→S161→S162の処理が繰り返される。この結果、
図10に示されるように、アノード圧が上昇する。
【0080】
時刻t22でアノード圧が目標上限圧力P12に達したら、ステップS162→S163が処理される。この結果、
図10に示されるように、アノード圧が下降に転じる。
【0081】
時刻t22以後は、ステップS11→S12→S16→S161→S164の処理が繰り返される。アノードガスの供給が停止されている間も、発電反応でアノードガスが消費されるので、
図10に示されるように、アノード圧が下降し続ける。
【0082】
時刻t23でアノード圧が目標下限圧力P11に達したら、ステップS164→S165が処理される。この結果、
図10に示されるように、アノード圧が上昇に転じる。
【0084】
本実施形態の燃料電池システムは、アノードガスを脈動供給する燃料電池システムである。そして、本実施形態では、アノード流路から水分を除去する必要があるときには、脈動圧を下げるようにした。アノードガスの供給圧力が低いほうが、同じ脈動振幅であっても体積流量が多くなる。したがって供給圧力が低いほうが、アノードガスを脈動供給したときにアノードガスの流速が上がる。この結果、排水しやすくなるのである。
【0085】
なお、脈動圧のうち、特に下限圧力を下げれば、アノードガスの流速が上がり、排水しやすくなる。したがって、排水運転用の目標圧力として、
図11(A)に示されるように、目標上限圧力P12を変更することなく、その一方で目標下限圧力P21は、目標下限圧力P11よりも小さくなるように設定してもよい。また
図11(B)や
図11(C)に示されるように、目標下限圧力P21は、目標下限圧力P11よりも小さくなるように設定する一方で、目標上限圧力P23は、目標上限圧力P12よりも大きくなるようにを設定してもよい。これらのようにしても、排水効果が得られる。
【0086】
また本実施形態では、アノードガスの脈動運転の下限圧力を下げている場合に、液水を排出する運転が不要になったときには、下げている下限圧力を戻す。脈動圧を下げれば、出力も低下するが、この第1実施形態では、液水を排出する運転が不要になったときには、下げている下限圧力を戻すので、出力の低下もできる限り小さい範囲にとどめることができる。
【0087】
さらに排水運転が必要であるか否かを、セル電圧に基づいて判定すれば、簡易に判定できる。また電解質膜の湿潤度(インピーダンス)に基づいて判定すれば、精度よく判定できる。
【0088】
さらにまた排水運転に移行するときに、パージ量が通常よりも多くなるようにパージ弁500を制御することで、アノード圧が迅速に低下する。またバッファータンク400から窒素N
2が逆流することを確実に防止できる。
【0089】
また本実施形態では、水素濃度に応じて排水運転の目標圧力を設定するようにした。そして水素濃度が高いほど、排水運転の圧力が低くなるように設定する。水素濃度が高ければ、排水運転の圧力を下げても、バッファータンク400から窒素N
2が逆流しにくい。したがって、排水運転の圧力を低くできるのである。そして、排水運転の目標圧力を低く設定することで、アノードガスを脈動供給したときにアノードガスの流速が上がりやすくなり、排水しやすくなるのである。
【0090】
(第2実施形態)
図12は、燃料電池システムの第2実施形態のコントローラーが実行する制御フローチャートである。
【0091】
なお以下では前述と同様の機能を果たす部分には同一の符号を付して重複する説明を適宜省略する。
【0092】
図1に示されたような燃料電池システムでは、酸素O
2とともに空気中の窒素N
2も電解質膜を透過して、アノード流路に移動する可能性がある。この窒素N
2は、バッファータンク400に溜まる。このような場合に、脈動圧を大幅に下げてしまうと、窒素N
2が燃料電池スタックのアノード流路に逆流する可能性がある。窒素N
2がアノード流路に逆流しては、水素分圧が下がってしまって、発電反応が阻害される。
【0093】
そこで、この第2実施形態では、排水運転が必要であれば、脈動圧を少し下げて様子を見る。このようにしても、液水が排水されないときには、さらに追加排水運転を実行するようにした。具体的な内容を以下に説明する。
【0094】
ステップS11〜S16は、第1実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0095】
ステップS21においてコントローラーは、追加排水運転中であるか否かを判定する。コントローラーは、判定結果が否であればステップS22へ処理を移行し、判定結果が肯であればステップS16へ処理を移行する。
【0096】
ステップS22においてコントローラーは、追加排水運転が必要であるか否かを判定する。なおこの判定は、排水運転を開始してから所定時間が経過しても液水が排出できていないときに追加排水運転が必要であると判定すればよい。コントローラーは、判定結果が肯であればステップS23へ処理を移行し、判定結果が否であればステップS16へ処理を移行する。
【0097】
ステップS23においてコントローラーは、追加排水運転用のアノード脈動の目標上限圧力及び目標下限圧力を設定する。
【0098】
図13は、第2実施形態の制御フローチャートが実行されたときの作動を説明するタイミングチャートである。
【0099】
以上の制御フローチャートが実行されて以下のように作動する。
【0100】
時刻t16までは、第1実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0101】
なお第1実施形態では、時刻t14から排水運転を実行したら、セル電圧が回復した。しかしながら、この第2実施形態では、時刻t14から排水運転を実行しても、セル電圧が回復しない。そこで、時刻t31で、ステップS11→S14→S21→S22→S23が実行されて、追加排水運転用のアノード脈動の目標上限圧力P42及び目標下限圧力P41が設定される。
【0102】
時刻t31以後は、ステップS11→S14→S21→S16→S161→S164の処理が繰り返される。アノードガスの供給が停止されている間も、発電反応でアノードガスが消費されるので、
図13に示されるように、アノード圧が下降し続ける。
【0103】
時刻t32でアノード圧が目標下限圧力P41に達したら、ステップS164→S165が処理される。この結果、
図13に示されるように、アノード圧が上昇に転じる。
【0104】
時刻t32以後は、ステップS11→S14→S21→S16→S161→S162の処理が繰り返される。この結果、
図13に示されるように、アノード圧が上昇する。
【0105】
時刻t33でアノード圧が目標上限圧力P42に達したら、ステップS162→S163が処理される。この結果、
図13に示されるように、アノード圧が下降に転じる。
【0106】
時刻t33以後は、ステップS11→S14→S21→S16→S161→S164の処理が繰り返される。アノードガスの供給が停止されている間も、発電反応でアノードガスが消費されるので、
図13に示されるように、アノード圧が下降し続ける。
【0107】
脈動圧を一気に大幅に下げてしまうと、バッファータンク400に溜まっていた窒素N
2が燃料電池スタックのアノード流路に逆流する可能性がある。
【0108】
しかしながら、この第2実施形態では、排水運転が必要であれば、脈動圧を少し下げて様子を見る。そして、このようにしても、液水が排水されないときには、さらに追加排水運転を実行するようにしたので、バッファータンク400からの窒素N
2の逆流を防止できるのである。
【0109】
また脈動圧を下げれば、出力も低下するが、この第2実施形態では、脈動圧を一気に大幅に下げることをしないので、出力の低下もできる限り小さい範囲にとどめることができるのである。
【0110】
なお時刻t14から時刻t31までの排水運転では、パージ量が通常よりも多くなるようにパージ弁500を制御するとよい。このようにすれば、アノード圧を迅速に低下させることができる。また排水運転中に、バッファータンク400からの窒素N
2をより確実に除去できるので、その後の追加排水運転において、バッファータンク400から窒素N
2が逆流しない。
【0111】
(第3実施形態)
第1実施形態や第2実施形態では、排水運転の要否を、実際のセル電圧に基づいて判定した。これに対して本実施形態では、脈動運転の所定周期ごとに排水運転が必要であると判定してもよい。この周期は運転状態にかかわらず一定にしてもよい。また上述のように、インピーダンスに基づいて電解質膜の湿潤度を推定し、その推定された湿潤度を
図14のマップに適用することで、湿潤度が低ければ圧力を下げる頻度を少なく、すなわち圧力を下げる周期を長くしてもよい。
【0112】
この第3実施形態によれば、
図15に示されるように、脈動運転の所定周期ごとに排水運転が実行される。したがって、実際のセル電圧を検出する必要がないので、システムを簡素化できる。また脈動運転の周期を、電解質膜の湿潤度が高く湿潤気味であるほど長く、湿潤度が低く乾燥気味であるほど短く設定すれば、圧下げ運転(排水運転)を無用に多く実行してしまうことを防止できる。
【0113】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0114】
たとえば、上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。
【0115】
また上記説明中の「検出」には、直接検出するのみならず、間接的に検出すなわち他から推定することも含む。
【0116】
さらに、上記実施形態で説明した調圧弁の制御を以下の通りの制御としても良い。
【0117】
燃料電池の供給負荷(電流)に応じて設定される上限圧力と下限圧力をマップから読み出す。上限圧力と下限圧力は、いずれも負荷が大きいほど、大きくなる。それと共に、負荷が大きくなるほど上限圧力と下限圧力との差圧も大きくなる。
【0118】
このようなマップにより、低負荷よりも高負荷側のアノード圧力が高くなると共に、低負荷での脈動幅に比して、高負荷での脈動幅が大きくなる。
【0119】
そして、脈動制御部は、昇圧させる場合は、上限圧力を目標値として、燃料電池スタックのアノード入口に設けられる圧力センサの値を参照して、調圧弁による圧力フィードバック制御を行う。
【0120】
フィードバック制御により実圧力が目標圧力付近になると、脈動制御部は下限圧力を目標圧力として、再びフィードバック制御を行う。
【0121】
この制御を繰り返すことで、調圧弁による上下限圧力での脈動運転を行う。