特許第6035818号(P6035818)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6035818太陽電池モジュール用裏面保護シート及び太陽電池モジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6035818
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】太陽電池モジュール用裏面保護シート及び太陽電池モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/049 20140101AFI20161121BHJP
【FI】
   H01L31/04 562
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-80112(P2012-80112)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-211391(P2013-211391A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】楠瀬 幸男
(72)【発明者】
【氏名】田中 正義
(72)【発明者】
【氏名】在原 慶太
【審査官】 山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−165129(JP,A)
【文献】 特開2012−019059(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/105512(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/104069(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02−31/078、31/18−31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池モジュール用の裏面保護シートであって、
樹脂フィルムからなる基材層と、
ポリプロピレン系樹脂からなり、前記裏面保護シートの最外層に配置される、密着強化層と、を含む複数の層からなり、
前記密着強化層は、コア層と、前記最外層に露出するスキン層と、を含む多層構造であり、
前記コア層は、ホモポリプロピレン樹脂を含有し、且つ、前記コア層はタルクを前記コア層を形成する樹脂成分中5.0質量%以上20質量%以下含有し、
前記スキン層は、ランダムポリプロピレン樹脂を含有し、且つ、前記ランダムポリプロピレン樹脂はエチレンユニットをポリプロピレン樹脂中2.3質量%以上5.0質量%以下含有する、太陽電池モジュール用の裏面保護シート。
【請求項2】
前記基材層が、ポリエチレンテフタレート樹脂である請求項1に記載の太陽電池モジュール用の裏面保護シート。
【請求項3】
前記密着強化層が、スキン層/コア層/スキン層の三層共押出し層である請求項1又は2に記載の太陽電池モジュール用の裏面保護シート。
【請求項4】
透明前面基板と、
封止材と、
太陽電子素子と、
請求項1から3のいずれかに記載の太陽電池モジュール用の裏面保護シートを備え、該裏面保護シートの前記密着強化層に前記封止材が積層されている太陽電池モジュール。
【請求項5】
前記封止材がポリエチレン系樹脂又はエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂である請求項4に記載の太陽電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュール用裏面保護シートに関する。更に詳しくは、太陽電池モジュール用封止材との間の密着性に優れ、且つ、カール変形が抑制されていることによりハンドリング性にも優れた裏面保護シートと、その裏面保護シートを用いた太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する意識の高まりから、クリーンなエネルギー源としての太陽電池が注目されている。一般に、太陽電池を構成する太陽電池モジュールは、受光面側から、透明前面基板、前面封止材、太陽電池素子、背面封止材及び裏面保護シートが順に積層された構成であり、太陽光が上記太陽電池素子に入射することにより発電する機能を有している。
【0003】
太陽電池モジュール用裏面保護シートには、太陽電池モジュールを構成する部材として水分(水蒸気)の背面封止材への侵入を防止するという役割が求められる。そのような太陽電池モジュール用裏面保護シートとして、例えばポリエチレン系や、フッ素系等の樹脂フィルムが用いられている。中でも、安価で加工性に優れ、又、燃焼した際に有毒ガスが出ないことから、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを利用した裏面保護シートが特に広く用いられている。
【0004】
又、太陽電池モジュール用封止材としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)、或いは、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等のポリエチレン系樹脂が用いられている。太陽電池モジュール用裏面保護シートには、これらの封止材との間における高い密着性が求められる。
【0005】
封止材との密着性を高めた裏面保護シートとして、安価で加工性に優れるPET等からなる基材層に、封止材との間の密着性を向上させるための層(以下、「密着強化層」とも言う。)として、エチレン系重合体に対する密着性に優れる熱融着性樹脂層を貼り合わせた裏面保護シートや(特許文献1参照)、耐加水分解性に優れ、且つ、熱融着性を示すポリプロピレン樹脂を最外層に配置した裏面保護シート(特許文献2、3参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−25357号公報
【特許文献2】特開2007−150084号公報
【特許文献3】特開2007−19059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜3に記載の裏面保護シートのように、基材層の他に密着強化層を設けた裏面保護シートにおいては、各層間の収縮率の差に起因して、例えば、作業工程において枚葉状態とした場合等に、裏面保護シートがカール変形し、ハンドリング性が損なわれることが問題となっていた。
【0008】
特許文献2や3に記載の裏面保護シートのように、密着強化層を比較的融点の高いポリプロピレン樹脂で構成する場合には、裏面保護シートのカール変形をある程度抑制しつつ、同時に封止材との密着性もある程度まで高めることはできる。しかし、一般に裏面保護シートにおいて、カール変型の抑制と封止材との密着性向上はトレードオフの関係にあるため、密着性とハンドリング性のいずれもが十分に高い水準で両立している裏面保護シートは未だ存在せず、そのような高い密着性とハンドリング性を兼ね備えたより好ましい裏面保護シートが強く求められていた。
【0009】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであり、封止材との間に高い密着性を備え、長期にわたる過酷な環境での使用に耐える太陽電池モジュール用裏面保護シートであって、且つ、カール変型が十分に抑制されていることによって高いハンドリング性を備え、太陽電池モジュールの生産性向上に大きく寄与しうる太陽電池モジュール用裏面保護シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、太陽電池モジュール用裏面保護シートにおいて、裏面保護シートの基材層上に形成する密着強化層を、所定量の無機フィラーを含むポリプロピレン系樹脂のコア層と、所定量のエチレンユニットを含有するポリプロピレン系樹脂のスキン層と、を含む多層構成とすることにより、裏面保護シートと封止材との間において十分に高い密着性を備え、且つ、ハンドリング性も十分に優れた裏面保護シートとすることができることを見出し本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
【0011】
(1) 太陽電池モジュール用の裏面保護シートであって、樹脂フィルムからなる基材層と、ポリプロピレン系樹脂からなり、前記裏面保護シートの最外層に配置される、密着強化層と、を含む複数の層からなり、前記密着強化層は、コア層と、前記最外層に露出するスキン層と、を含む多層構造であり、前記コア層は、無機フィラーを3質量%以上30質量%以下含有するポリプロピレン系樹脂からなり、前記スキン層は、エチレンユニットを2.3質量%以上5.0質量%以下含有するポリプロピレン系樹脂である太陽電池モジュール用の裏面保護シート。
【0012】
(2) 前記コア層は、前記無機フィラーとして、タルクを5質量%以上20質量%以下含有する(1)に記載の太陽電池モジュール用裏面保護シート。
【0013】
(3) 前記基材層が、ポリエチレンテフタレート樹脂である(1)又は(2)に記載の太陽電池モジュール用裏面保護シート。
【0014】
(4) 前記密着強化層が、スキン層/コア層/スキン層の三層共押出し層である(1)から(3)のいずれかに記載の太陽電池モジュール用裏面保護シート。
【0015】
(5) 透明前面基板と、封止材と、太陽電子素子と、(1)から(4)のいずれかに記載の太陽電池モジュール用裏面保護シートを備え、該裏面保護シートの前記密着強化層に前記封止材が積層されている太陽電池モジュール。
【0016】
(6) 前記封止材がポリエチレン系樹脂又はエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂である(5)に記載の太陽電池モジュール。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、太陽電池モジュール用裏面保護シートの基材層上に形成する密着強化層を、それぞれ組成と物性の異なるポリプロピレン樹脂によって形成することにより、裏面保護シートと封止材との間の高い密着性と、優れたハンドリング性を備える太陽電池モジュール用裏面保護シートを提供することができ、更には、それを用いることによって、耐候性に優れた太陽電池モジュールを効率よく生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の太陽電池モジュールの層構成の一例を示す断面の模式図である。
図2】本発明の太陽電池モジュール用裏面保護シートの層構成の一例を示す断面の模式図である。
図3A】本発明の太陽電池モジュール用裏面保護シートの密着強化層の層構成の一例を示す断面の部分拡大模式図である。
図3B】本発明の太陽電池モジュール用裏面保護シートの密着強化層の層構成の他の一例を示す断面の部分拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の太陽電池モジュール用裏面保護シート(以下、単に「裏面保護シート」とも言う。)及びそれを用いた太陽電池モジュールの詳細について説明する。本発明は以下に記載される実施形態に限定されるものではない。
【0020】
<太陽電池モジュールの基本構成>
先ず、本発明の太陽電池モジュール用裏面保護シートを用いた太陽電池モジュールの構成について図1を用いて説明する。図1に示すように、太陽電池モジュール1は、受光面側から、透明前面基板2、前面封止材層3、太陽電池素子4、背面封止材層5、そして、本発明の裏面保護シート6が順に積層された構成となっている。
【0021】
透明前面基板2は、一般にガラス製の基板である。透明前面基板2は、又、太陽電池モジュール1の耐候性、耐衝撃性、耐久性を維持しつつ、且つ、太陽光線を高い透過率で透過させるものであればその他の部材であってもよい。
【0022】
前面封止材層3、背面封止材層5からなる封止材層は、太陽電池モジュール1内において、太陽電池素子4の位置を固定し、また外部からの衝撃を緩和するために配置される樹脂基材等からなる層である。封止材層を形成する樹脂基材としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)、アイオノマー、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂を用いることができる。従来より、一定の耐久性等を備え、加工性に優れ、比較的安価で入手可能なEVAが広く用いられてきたが、近年においては、EVAの欠点である水蒸気バリア性の低下という問題を解決するため、低密度ポリエチレンに架橋処理を施した樹脂等、ポリエチレン系の樹脂も多く用いられるようになっている。
【0023】
尚、本発明の裏面保護シート6は、架橋処理を施した樹脂との間の密着性に特に優れるものである。上記の材料樹脂のうち、EVAについては、一般にモジュール化の際に架橋処理を施すことが必須となっている。又、ポリエチレン系の樹脂については、適量の架橋剤を添加してモジュール化時に熱架橋するタイプの低密度ポリエチレン樹脂を好ましく用いることができる。
【0024】
尚、このような、低密度ポリエチレン樹脂等からなる封止材シートの架橋処理後のMFRは、0.08g/10min以上1.0g/10min未満であることが好ましい。MFRをこのような範囲とすることによって、封止材シートに好ましい耐熱性を備えさせることができる。このようなポリエチレン系の樹脂の封止材と本発明の裏面保護シート6とを用いて太陽電池モジュール1を構成する場合においては、耐熱性と密着性のバランスの観点から、封止材を構成する低密度ポリエチレン樹脂の架橋処理後の、MFR(JIS−K6922−2により測定した190℃、荷重2.16kgにおけるMFR。本明細書においては、以下、この測定条件による測定値をMFRと言う。)は、0.08g/10min以上1.0g/10min未満であることが好ましい。尚、ゲル分率は、0%以上80%以下であることが好ましく、0%以上20%以下であることが更に好ましい。
【0025】
太陽電池素子4は、従来公知の太陽電池素子を広く用いることができる。図1では、太陽電池素子4が、単結晶シリコン基板や多結晶シリコン基板を用いて作製する結晶シリコン太陽電池である場合を示しているが、この他、アモルファスシリコンや微結晶シリコンを透明前面基板2上に1μm程度若しくはそれ以下の極薄のシリコン膜を形成して作成する薄膜系太陽電池素子であってもよい。本発明の裏面保護シート6は、薄膜系の太陽電池素子を搭載した太陽電池モジュールにも好ましく用いることができる。
【0026】
裏面保護シート6は、太陽電池モジュール1の最外層に配置されるものであるため、高い耐候性を備え、且つ、上述した背面封止材層5との間における高い密着性を備えるものであることが求められる。裏面保護シート6はそのような太陽電池モジュールとしての使用時における物性面での要請を満たしながら、太陽モジュールの製造段階での生産性の向上に寄与しうるハンドリング性をも十分に高めたものである。このような本発明に係る裏面保護シート6の詳細については別途後述する。
【0027】
<裏面保護シート>
図2に示すように、裏面保護シート6は、少なくとも基材層61と密着強化層62とを備える多層構造の積層体である。又、更に耐候層63を備えるものも好ましく用いることができるが、耐候層63については、本発明では必須ではない。
【0028】
密着強化層62は、基材層61の一の表面上に、又、耐候層63は、必要に応じて、基材層61の他の表面上に配置されており、いずれの層も接着剤層(図示せず)を介して基材層61と一体化されている。又、太陽電池モジュール1において、密着強化層62と背面封止剤層5とが互いに密着する面となるように裏面保護シート6は配置される。
【0029】
[基材層]
基材層61は、裏面保護シート6の基材として配置される層であり、樹脂材料をシート状に成型した樹脂シートを用いる。例えば、ポリエチレン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、各種のナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアリールフタレート系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アセタール系樹脂、セルロース系樹脂等、各種の樹脂シートを用いることができる。これらの中でも、絶縁性能、機械強度、コスト、透明性等の物性及び経済性の観点からポリエチレンテレフタレート(PET)、又、特に機械強度維持の観点から耐加水分解性PETを、好ましく用いることができる。
【0030】
基材層61の厚さは、特に限定されないが、裏面保護シート6に要求される厚さを考慮して適宜決定すればよい。裏面保護シート6の厚さは、10〜500μmの範囲が一般的な例として挙げられる。基材層61の厚さもこれに合わせて、38〜250μmであることが好ましい。基材層61の厚さが38μm以上であることにより、裏面保護シート6に好ましい耐久性、耐候性を付与することができ、基材層61の厚さが250μm以下であることにより、ラミネート加工時のフィルム搬送適性を付与することができる。
【0031】
基材層にPETを用いた従来公知の一般的な裏面保護シートにおいては、基材層を形成するPET樹脂のフィルムと密着層を形成するその他の樹脂フィルムとを接着剤等で積層一体化した際に、裏面保護シートのカール変型が頻発することが問題となっていた。しかし、後に詳細を説明する通り、本発明の裏面保護シート6においては、密着強化層62を本発明に特有の構成からなる多層構造とすることにより、基材層の種類にかかわらず、裏面保護シートのカール発生を十分に抑制することができる。このため、上記の各物性と経済性に優れるPETを基材層を構成する樹脂として好ましく用いることができる。
【0032】
[密着強化層]
密着強化層62は、裏面保護シート6の一方の最外層に配置される層であり、太陽電池モジュール1において、背面封止材層5との間の密着面となり、裏面保護シート6と背面封止材層5との間の密着性を向上させる機能を備える層である。一般に背面封止材層5は、エチレン−酢酸ビニルアルコール共重合体樹脂(EVA樹脂)、又は架橋処理をされた低密度ポリエチレン樹脂等からなる。密着強化層62は、裏面保護シート6と、特にこれらの樹脂からなる背面封止材層5との間に高い密着性を備えさせるものである。
【0033】
図3Aに示すとおり、密着強化層62は、コア層621と、コア層621の表面に積層され、最外層に露出するスキン層622とを含む二以上の層からなる層である。密着強化層62を構成するコア層621とスキン層622は、いずれも、ポリプロピレン(PP)系の樹脂を主たる成分とする。裏面保護シート6に適切な剛性を付与することができ、よってカール変型の発生を抑制してハンドリング性を高めることができる。
【0034】
密着強化層62の厚さは、裏面保護シート6に要求される厚さを考慮して適宜決定すればよい。一例として、密着強化層62の厚さとして、10〜200μmが挙げられ、特に限定されない。密着強化層62の厚さが10μm以上であることにより、裏面保護シート6に背面封止材層5との間の十分な密着性を付与することができ、密着強化層62の厚さが200μm以下であることにより、ラミネート加工時のフィルム搬送適性を付与することができる。
【0035】
密着強化層は、例えば、図3Bに示すように、スキン層622a、コア層621、スキン層621bが、順次積層さされた3層構造からなる密着強化層62Aのような構成であってもよい。このような構成によっても、封止材との密着性とハンドリング性を充分に高めた裏面保護シート6とすることができる。尚、このように対称的な層構成とすることによって生産効率を高められるというメリットもある。
【0036】
密着強化層62は、コア層621とスキン層622を積層してなる多層構造を有するが、裏面保護シートに適切な剛性を付与するために、例えば密着強化層を剛性に優れる単一のPP樹脂のみによって構成すると、裏面保護シートと封止材との間の密着性が剛性の拡大に反比例して低下してしまう傾向にある。そこで本発明の裏面保護シート6においては、密着強化層62を構成するコア層621とスキン層622とで、それぞれモノマー組成の異なるポリプロピレン(PP)樹脂を材料樹脂として層毎に使い分け、更に、各層へのその他の添加物の含有量をそれぞれ別途最適化している。これにより、裏面保護シート6は、従来トレードオフの関係にあった密着性とハンドリング性とを、いずれも好ましい範囲へと向上させている。
【0037】
コア層621は、密着強化層62の密着性を保持しつつ、密着強化層62自体に適度な剛性を付与することにより、裏面保護シート6のカール変形を抑制する機能を備える層である。そのために、コア層621には、主にホモポリプロピレン(ホモPP)樹脂を用いる。ホモPPは、ポリプロピレン単体のみからなる重合体であり結晶性が高いため、剛性に優れる。これをコア層に用いることにより、裏面保護シート6のカール変形を有意に抑制して、そのハンドリング性を高めることができる。
【0038】
コア層621には更に無機フィラーが含まれる。これにより、密着強化層62の剛性は更に高まり、裏面保護シート6におけるカール変形の発生は充分に抑制される。そのような無機フィラーとしては、タルク(含水珪酸マグネシウム)、又は、酸化チタン、その他として、炭酸カルシウム、カーボンブラック、チタンブラックやCu−Mn系複合酸化物、Cu−Cr−Mn系複合酸化物、或いは、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化ケイ素、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、チタンイエロー、クロムグリーン、群青、アルミニウム粉、雲母、炭酸バリウム等を用いることができる。その中でも、本発明の主たる作用効果であるハンドリング性を充分に向上させるためには、タルクと酸化チタンを好ましく用いることができる。
【0039】
無機フィラーの含有量は、コア層621を形成するポリプロピレン系の樹脂フィルム中に3質量%以上30質量%以下であり、5質量%以上25質量%以下であることが好ましい。樹脂フィルム中の含有量が3質量%未満であると、カール変形の発生の抑止効果が不十分となり、30質量%を超えると、機械強度不足となるため好ましくない。
【0040】
無機フィラーとしては、タルクを特に好ましく用いることができるが、添加する無機フィラーとしてタルクを選択した場合、コア層を形成する樹脂中における含有量が5質量%以上20質量%以下とすることが特に好ましい。後に実施例において示す通り、このような範囲の含有量とした場合に、裏面保護シート6のハンドリング性を極めて高いものとすることができる。これは、タルクはアスペクト比が高く、押出し成型時に水平に並ぶ為、押出し方向の収縮率が小さくなるためであると考えられる。
【0041】
尚、裏面保護シートが有色の外観を有するものであることが求められる場合には、上記の無機フィラーの中でも、耐候性に優れ、塗料化が容易であること及び価格を含め入手が安易であることから、白色顔料としては、酸化チタンを、黒色顔料としては、カーボンブラックを更に含むものとしてもよい。これらの有色顔料が含まれることにより、太陽光線の再反射による発電効率の向上や、或いは意匠面での要請に応えることができる点において好ましい。特に酸化チタンについては、上記のタルクと同様にハンドリング性を向上させる効果もあることが分かっている。
【0042】
コア層621の厚さは、一例として、40μm以上160μm以下が挙げられ、特に限定されない。コア層621の厚さが40μm以上であることにより、十分な寸法安定性を付与することができ、コア層621の厚さが160μm以下であることにより、ラミネート加工時のフィルム搬送適性を付与することができる。
【0043】
スキン層622は、密着強化層62の封止材層に対する充分な密着性を発現させる機能を備える層である。そのために、スキン層622には、共重合体としてのエチレンユニットを2.3質量%以上5.0質量%以下含有するポリプロピレン系樹脂を用いる。このようにエチレンユニットを含有するポリプロピレン系樹脂は、ホモPPより結晶性が低く柔軟性に優れる。スキン層622にこのようなポリプロピレン系樹脂を用いることにより、裏面保護シート6の封止材層への密着性を充分に高めることができる。スキン層622を構成するポリプロピレン樹脂中のエチレンユニットの含有量が2.3質量%未満であると、密着性が不十分となる。又、エチレンユニットの含有量が、5.0質量%を超えると、耐熱性が不十分となるため好ましくない。
【0044】
スキン層622中を構成するポリプロピレン系樹脂中のエチレンユニットの含有量を上記の通り、2.3質量%以上5.0質量%以下とするためには、一定量のエチレンユニットがプロピレン連鎖中にランダムに取り込まれているランダムポリプロピレン(ランダムPP)と、ホモPPを用い、ポリプロピレン系樹脂中のこのランダムPPの配合比率を適切に調整することにより、ポリプロピレン系樹脂中のエチレンユニットの含有量を適切な範囲に調整することができる。例えば、エチレンユニットの含有量が3%であるランダムPPを用いる場合であれば、このランダムPPの配合比率を凡そ77質量%以上とすることにより、スキン層622中を構成するポリプロピレン系樹脂中のエチレンユニットの含有量を2.3質量%以上とすることができる。尚、このように、本明細書で言う、「ポリプロピレン系樹脂中のエチレンユニットの含有量」とは、製造プロセスにおいて、ホモPPとランダムPPを配合した場合であっても、それらの配合比率等にかかわらず、各層を構成する全てのポリプロピレン系樹脂の総量に対するエチレンユニットの含有量のことを言う。
【0045】
尚、エチレン成分を、単にブレンドするよりも、上記のように、ランダムPPに共重合させる態様でスキン層622中に含有させることにより、単にPPとポリエチレン樹脂をブレンドする場合に比べて、スキン層622の機械強度を保持しやすくなるというメリットがあると考えられる。
【0046】
スキン層622の厚さは、裏面保護シート6に要求される厚さを考慮して適宜決定すればよい。一例として、スキン層622の厚さとして、6μm以上40μm以下が挙げられ、特に限定されない。スキン層622の厚さが6μm以上であることにより、裏面保護シート6に背面封止材層5との間の十分な密着性を付与することができ、スキン層622の厚さが40μm以下であることにより、ラミネート加工時のフィルム搬送適性を付与することができる。又、コア層/スキン層の厚さの比は好ましくは1/4である。
【0047】
[耐候層]
耐候層63は、裏面保護シート6が太陽電池モジュールに使用された際に、太陽電池モジュールの裏面側の表面に位置する。そのため、耐候層63は、耐候性、耐熱性、耐光性等に優れたものを使用する。このような樹脂シートとしては、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニル・エステル共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ETFE(四フッ化エチレン・エチレン共重合体)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)等のフッ素系樹脂等の樹脂シートが好ましく例示される。尚、特に、裏面保護シート6に水蒸気バリア性等のガスバリア性を付与する必要がある場合、耐候層63の表面に金属酸化物からなる透明な蒸着層を形成してもよい。この場合、蒸着させる金属酸化物の種類や蒸着層の厚さ等は、裏面保護シート6に要求される性能等を考慮して適宜設定すればよい。
【0048】
<裏面保護シートの製造方法>
本発明の裏面保護シートの製造方法について説明する。裏面保護シート6は、基材層61を形成する基材樹脂シートを形成する基材樹脂シート形成工程と、密着強化層62を形成する密着性樹脂シートを形成する密着性樹脂シート形成工程と、基材樹脂シートに密着性樹脂シートと積層して一体化する一体化工程とを経ることによって製造することができる。
【0049】
(基材樹脂シート形成工程)
基材層61を形成する基材樹脂シートは、上記において説明したPET等の樹脂材料を、押し出し法、キャスト成形法、Tダイ法、切削法、インフレーション法、その他の成膜化法等により成膜することにより形成することができる。尚、基材樹脂シートは、本発明の効果を害さない範囲で、上記樹脂材料の他に顔料等のその他の添加物を含むものであってもよい。
【0050】
(密着性樹脂シート形成工程)
密着強化層62を形成する密着性樹脂シートは、ホモPPを主成分とし、所定の無機フィラーを含有するコア層用の樹脂組成物と、ランダムPPを主成分とするスキン層用の樹脂組成物とを、公知の共押出し法により一体成形することにより得ることができる。尚、上記のそれぞれの樹脂組生物には、それぞれ、モノマー組成の異なるPPを上記した所定量の範囲内で含むものであれば、その他の樹脂や顔料等、その他の添加物を含むものであってもよい。
【0051】
(一体化工程)
上記において説明した基材樹脂シート、密着性樹脂シート、及び必要に応じて同様の方法によって形成したその他の層を形成するシートを積層して、更に一体化することにより、本発明の裏面保護シート6を得ることができる。各シートの一体化は従来公知のドライラミネート法によることができる。ラミネート接着剤は従来公知のものが利用でき特に限定されず、ウレタン系、エポキシ系等の主剤と硬化剤とからなる2液硬化型のドライラミネート接着剤等が適宜使用可能である。
【0052】
<太陽電池モジュールの製造方法>
太陽電池モジュール1は、例えば、上記の透明前面基板2、前面封止材層3、太陽電池素子4、背面封止材層5、及び裏面保護シート6からなる部材を順次積層してから真空吸引等により一体化し、その後、ラミネーション法等の成形法により、上記の部材を一体成形体として加熱圧着成形して製造することができる。例えば真空熱ラミネート加工による場合、ラミネート温度は、130℃〜180℃の範囲内とすることが好ましい。また、ラミネート時間は、5〜20分の範囲内が好ましく、特に8〜15分の範囲内が好ましい。このようにして、上記各層を一体成形体として加熱圧着成形して、太陽電池モジュ−ル1を製造することができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例、比較例を示して、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0054】
<裏面保護シートの製造>
以下の基材樹脂シート、密着性樹脂シート、を順次積層し、ドライラミネート加工により一体化して、各実施例、比較例の裏面保護シート試料を製造した。
基材樹脂シート:PETフィルム(帝人デュポン社製、「Melinex S」)厚さ100μmを全ての裏面保護シート試料の基材樹脂シートとした
密着性樹脂シート:コア層には、下記のホモポリプロピレン樹脂、ランダムポリプロピレン樹脂、及び無機フィラーを表1に示す割合で混錬した樹脂組成物をコア層用の組成物として用いた。スキン層には、下記のホモポリプロピレン樹脂とランダムポリプロピレン樹脂とを、表1に示す割合で混錬したポリプロピレン樹脂をコア層用の組成物として用いた。上記各組成物を共押し出しによって多層フィルムとして成形し、厚さ120μmの樹脂シートとし、各実施例、比較例の裏面保護シート用の密着性樹脂シートとした。
ホモポリプロピレン樹脂(表1において「H−PP」と記載)密度0.900g/cm、融点160〜170℃。
ランダムポリプロピレン樹脂(表1において「R−PP」と記載)密度0.900g/cm、融点130〜150℃。尚、このランダムポリプロピレン樹脂のエチレンユニットの含有量はメーカー公表値で3〜4%であった。
タルク(表1において「T」と記載)
酸化チタン(表1において「TiO」と記載)平均粒径0.2〜0.25μm
【0055】
【表1】
【0056】
<密着性評価>
実施例1〜6、比較例1〜3のそれぞれの上記裏面保護シート試料について、上記密着強化層(密着性樹脂シート側)の表面に、試料と同サイズにカットした下記の封止材1又シート1又は2を140℃から150℃で11〜15分間、太陽電池モジュールの製造用の真空ラミネータを用いてラミネートし、密着性評価用のサンプルとした。
封止材シート1(表2において「EVA」と表記):EVA高速架橋タイプ、厚さ500μm(ブリヂストン社製)。尚、上記ラミネート後における封止材シート1の、190℃、荷重2.16kgにおけるMFRは、0g/10minであった。
封止材シート2(表2において「PE」と表記):下記のシラン変性透明樹脂と耐候性マスターバッチと重合開始剤コンパウンド樹脂の質量比が20:5:80となるようにブレンドした樹脂を押し出し温度210℃で厚さ400μmになるように成膜した弱架橋性を有するLLDPE樹脂。尚、上記ラミネート後における封止材シート1の、190℃、荷重2.16kgにおけるMFRは、0.1g/10minであった。
シラン変性透明樹脂:密度0.881g/cmであり、190℃でのMFRが2g/10分であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン(M−LLDPE)98質量部に対して、ビニルトリメトキシシラン2質量部と、ラジカル発生剤(反応触媒)としてのジクミルパーオキサイド0.1質量部とを混合し、200℃で溶融、混練し、密度0.884g/cm、190℃でのMFRが1.8g/10分であるシラン変性透明樹脂。
耐候性マスターバッチ:密度0.880g/cmのチーグラー直鎖状低密度ポリエチレンを粉砕したパウダー100質量部に対して、ベンゾフェノール系紫外線吸収剤3.8質量部とヒンダードアミン系光安定化剤5質量部と、リン系熱安定化剤0.5質量部とを混合して溶融、加工し、ペレット化したマスターバッチ。
重合開始剤コンパウンド樹脂:密度0.880g/cm、190℃でのMFRが3.1g/10分のM−LLDPEペレット100質量部に対して、t−アミル−パーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート0.1質量部を含浸させコンパウンドペレットした樹脂。
【0057】
実施例1〜6、比較例1〜3の試料を用いた密着性評価用のサンプルについて、密着性を評価した。評価は以下の方法で測定した数値に基づいて行った。
(初期密着性試験:剥離試験)
各密着性評価用のサンプルについて、剥離強度(N)を15mm幅の180度ピールにて密着性について密着強度を測定した。測定には、剥離試験装置(「株式会社エー・アンド・デイ」社製、商品名「TENSILON RTA−1150−H」)を用いて、180度ピールにて剥離条件50mm/minで23℃にて測定を行い、4回の測定の平均値を採用した。実際に、上記剥離が見られない場合は、結果を「>100N」とした。結果を表 に示す。
[評価基準]
A:密着強度が80N/15mm以上のものを特に好ましいものとして評価した。
B:密着強度が40N/15mm以上80N/15mm未満のものを好ましいものとして評価した。
C:密着強度が40N/15mm未満のものを好ましいものを好ましくないものとして評価した。
【0058】
<ハンドリング性評価>
実施例1〜6、比較例1〜3のそれぞれの上記裏面保護シート試料について、以下の方法で、カール変形の発生の程度を測定し、ハンドリング性について評価した。結果を表1に示す。
(カール変形測定試験)
上記の裏面保護シート試料を16cm角に切出し、試料中央の13cm角部分の対角線上に切込みを入れる。サンプルを60℃で24時間静置後、室温で1時間静置した後、切込み先端の高さを測定し、カール変形を評価した。
[評価基準]
A:27mm未満のものを特に好ましいものとして評価した。
B:27mm以上31mm未満のものを好ましいものとして評価した。
C:31mm以上のものを好ましくないものとして評価した。
【0059】
【表2】
【0060】
表1、2より、本発明の裏面保護シートは、封止材に対する優れた密着性を備え、且つ、ハンドリング性においても優れたものであることが分かる。一方、コア層におけるホモPPの比率が低い比較例1は、無機フィラーを十分に含有させたにもかかわらずハンドリング性について特段の向上が見られず、無機フィラーの含有量が少ない比較例2においては、ハンドリング性が不十分である。一方、スキン層におけるランダムPPの比率、即ち、ポリプロピレン系樹脂中のエチレンユニットの含有量が小さい比較例2、3については、密着性が不十分となることが分かる。
【符号の説明】
【0061】
1 太陽電池モジュール
2 透明前面基板
3 前面封止材層
4 太陽電池素子
5 背面封止材層
6 裏面保護シート
61 基材層
62 密着強化層
621 コア層
622 スキン層
63 耐候層
図1
図2
図3A
図3B