(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
先端部が各方向の揺動変位を許容する上部継手を介してナックルの上部に連結されると共に、基端部が車体に対し支持されるアッパアームと、先端部が各方向の揺動変位を許容する下部継手を介して前記ナックルの下部に連結されると共に、基端部が前記車体に対し揺動可能に支持されるロアアームとを備えた車両用懸架装置に於いて、
前記アッパアームが、フレームと、伸縮機構と、電動モータと、減速機構と、1対のリンク腕とを備えており、
前記フレームが、前記車体に対し直接揺動不能に支持固定されており、
前記伸縮機構が、この車体の前後方向に同一直線上に配置され、それぞれの外周面に互いに逆方向の雄ねじが形成された1対のねじ軸と、これら各ねじ軸の周囲にそれぞれ係合し、それぞれの内周面に互いに逆方向の雌ねじが形成された1対のねじナットとを備え、これら1対のねじナットと前記1対のねじ軸とのうち、何れか一方の1対の部材を、前記フレームに対し軸方向への移動のみ可能に支持すると共に、何れか他方の1対の部材を、このフレームに対し回転のみ可能に支持しており、
前記電動モータが、前記フレームに支持され、両方向に回転可能であり、
前記減速機構が、この電動モータの動力を、前記伸縮機構を構成する前記他方の1対の部材に伝達するものであり、
前記1対のリンク腕が、それぞれの基端部を、前記伸縮機構を構成する前記一方の1対の部材のそれぞれの先端部に対し、ボールジョイントを介して上下方向に揺動可能に且つ前記車体の上下方向の軸回りに回動可能に連結すると共に、それぞれの先端部を前記上部継手に対し、前記車体の上下方向の軸回りに回動可能に連結しており、
前記電動モータにより、前記減速機構を介して、前記伸縮機構を構成する前記他方の1対の部材を回転駆動する事で、この伸縮機構を構成する前記一方の1対の部材を軸方向に関して互いに反対方向に進退させ、前記両リンク腕の開き角度を変化させる事により、前記車体の幅方向に関するこれら両リンク腕の長さを変化させる事を特徴とする車両用懸架装置。
フレームに対し軸方向への移動のみ可能に支持された一方の1対の部材が、1対のねじナットであり、前記フレームに対し回転のみ可能に支持された他方の1対の部材が、1対のねじ軸であり、
これら両ねじ軸は一体に構成されており、
これら両ねじ軸の外周面にそれぞれ多条の雄ねじが形成されており、前記両ねじナットの内周面にそれぞれ多条の雌ねじが形成されており、
減速機構が、複数のはすば歯車を備えた歯車式減速機であり、このうちの最終歯車が、一体に構成された前記両ねじ軸の軸方向中央部に支持固定されている、
請求項1に記載した車両用懸架装置。
フレームに対し軸方向への移動のみ可能に支持された一方の1対の部材が、1対のねじ軸であり、前記フレームに対し回転のみ可能に支持された他方の1対の部材が、1対のねじナットであり、
減速機構が、ウォームとウォームホイールとを互いに噛合させて成るウォーム減速機であり、このうちのウォームホイールが、前記両ねじナットに対し、同期した回転を自在として組み合わされている、
請求項1に記載した車両用懸架装置。
伸縮機構を構成する一方の1対の部材或いはこれら1対の部材に固定された部材と、フレームとの間に、これら1対の部材の軸方向変位を許容しつつ相対回転を阻止する為の回り止め機構が設けられている、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載した車両用懸架装置。
【背景技術】
【0002】
乗用車等の車両用の懸架装置(サスペンション装置)として、従来から各種構造のものが知られている。その中でも、近年では、設計の自由度が高く、路面追従性に優れたダブルウィシュボーン式の懸架装置が、高級車やスポーツカーを始めとして多くの車種で採用されている。
図7は、非特許文献1に記載された、ダブルウィシュボーン式の懸架装置の従来構造の第1例を示している。
【0003】
車輪(タイヤ)1を軸受ユニット2を介して回転自在に支持するナックル3は、ダブルウィシュボーン式の懸架装置を構成するアッパアーム4とロアアーム5とにより、図示しない車体に対し揺動可能に支持されている。このうちのアッパアーム4は、略A字形(所謂A型フレーム)で、その先端部(車体への取付状態で車体の幅方向に関して外側の端部、
図7の右下側の端部)を、アッパボールジョイント6を介して前記ナックル3の上端部に連結している。又、前記アッパアーム4の基端部(車体への取付状態で車体の幅方向に関して中央側の端部、
図7の左上側の端部)は、図示しない車体に対し、揺動可能に支持(枢支)されている。
【0004】
一方、前記ロアアーム5は、略A字形(所謂A型フレーム)で、その先端部をロアボールジョイント7を介して前記ナックル3の下端部に連結している。又、前記ロアアーム5の基端部は、図示しない車体に対し、揺動可能に支持(枢支)されている。又、前記ロアアーム5は、その上端部を車体に対し固定したショックアブソーバ8の下端部を揺動可能に支持している。
【0005】
この様な従来構造のダブルウィシュボーン式の懸架装置の場合、前記アッパアーム4と前記ロアアーム5とで全長が異なるものを使用する(一般的にはロアアームをアッパアームよりも長くする)事で、キャンバ角を予め所定の角度に設定する事が行われている。しかしながら、従来構造の懸架装置の場合には、この様に予め設定されたキャンバ角を、車両の走行状況に応じて変更する事はできない。
【0006】
ところで、車両の旋回運動は、左右輪の駆動力差等によっても生じるが、主としてタイヤ横力によって生じる事が知られている。このタイヤ横力は、一般的には、運転者がステアリングホイールを操作し、ステアリングギヤを介して前輪のトー角(転舵角)を変化させ、車体の進行方向とタイヤの向きとの間にずれ(スリップ角)を生じさせる事で発生する。一方で、このタイヤ横力は、トー角の他に、キャンバ角の変化による影響を受ける事が知られている。
図8は、本発明者等がシミュレーションにより求めた、キャンバ角γをパラメータとした場合の、タイヤ横力とスリップ角との関係を示している。この
図8から明らかな通り、スリップ角を一定とした場合にも、キャンバ角を変化させる事によって、タイヤ横力を変化させられる。従って、キャンバ角γを変化させる事により、タイヤ横力の大きさを調整できれば、車両の旋回性能、延いては直進性能の更なる向上を図れる事になる。
【0007】
この様な事情に鑑みて、例えば特許文献1には、車両の走行状況に応じてキャンバ角を変更できるダブルウィシュボーン式の車両用懸架装置が示されている。
図9は、前記特許文献1に記載された従来構造の第2例を示している。この従来構造の第2例の場合、アッパアーム4aとロアアーム5aとの中間部に、伸縮可能な油圧シリンダ9、10をそれぞれ設けて、これら両アーム4a、5aの全長を変更可能にしている。そして、図示しないセンサにより車輪1の横滑り角を検出し、キャンバ角を変更する必要があると認められれば、エンジンルーム内に設置した油圧ポンプから油圧配管や各種の弁等を通じて、前記各油圧シリンダ9、10に所定量の圧油を給排する。これにより、前記各アーム4a、5aの全長を変化させて、車輪1のキャンバ角を変更する。従って、この様な従来構造の第2例の懸架装置によれば、タイヤ横力の大きさを調整できて、車両の旋回性能、延いては直進性能の向上を図れる。
【0008】
但し、上述した従来構造の第2例の場合には、キャンバ角の変更を可能にする為に、油圧ポンプや、油圧配管、各種の弁等を設ける必要があると共に、前記アッパアーム4aと前記ロアアーム5aとにそれぞれ油圧シリンダ9、10を設ける必要がある。この為、キャンバ角を可変にする為の構造が複雑になると共に、懸架装置の大型化、重量増大を招く。特に前記アッパアーム4a及び前記ロアアーム5aの重量増大は、バネ下荷重の増大に繋がり、乗り心地性や走行安定性を中心とする、車両の走行性能の向上を図る面から望ましくない。又、キャンバ角の制御(アーム4a、5aの全長制御、油圧シリンダ9、10の伸縮量制御)を油圧式に行う為、制御性や応答性が悪く、更にはエンジンの動力損失も大きくなると言った問題を生じる。
【0009】
尚、前記特許文献1以外にも、例えば特許文献2〜3には、車両の走行状況に応じてキャンバ角の大きさを変更する事を意図した発明が記載されている。但し、前記特許文献2〜3に記載された何れの発明の場合にも、上述した特許文献1に記載された発明と同様に、キャンバ角を可変にする為の構造が複雑で、懸架装置の大型化、重量増大を招くと言った問題を生じる。尚、本発明を実施する場合に関連する技術を記載した刊行物として他に、車輪に加わる荷重を測定可能とする、転がり軸受ユニットの荷重測定装置を記載した、特許文献4が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、車両の走行状況に応じてキャンバ角を適宜変更できる車両用懸架装置を簡易な構造で実現し、装置全体としての小型化・軽量化を図るべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の車両用懸架装置は、前述した従来構造のダブルウィシュボーン式の車両用懸架装置と同様に、先端部がアッパボールジョイント、アッパカルダン継手等の各方向の揺動変位を許容する上部継手を介してナックルの上部に連結されると共に、基端部が車体に対し支持されるアッパアームと、先端部がロアボールジョイント、ロアカルダン継手等の各方向の揺動変位を許容する下部継手を介して前記ナックルの下部に連結されると共に、基端部が前記車体に対し揺動可能に支持されるロアアームとを備える。
特に本発明の車両用懸架装置の場合には、このうちのアッパアームが、フレームと、伸縮機構と、電動モータと、減速機構と、1対のリンク腕とを備える。
このうちのフレームは、前記車体に対し
直接、揺動不能に支持
固定されている。
又、前記伸縮機構は、1対のねじ軸と1対のねじナットとを備える(1対の送りねじ機構を備える)。このうちの1対のねじ軸は、外周面に互いに逆方向の雄ねじを形成しており、前記車体の前後方向に同一直線上に配置されている。又、前記1対のねじナットは、内周面に互いに逆方向の雌ねじを形成したもので、前記各ねじ軸の周囲にそれぞれ係合している。そして、これら1対のねじナットと1対のねじ軸とのうち、何れか一方の1対の部材を、前記フレームに対し軸方向への移動のみ可能に支持すると共に、何れか他方の1対の部材を、このフレームに対し回転のみ可能に支持している。
又、前記電動モータは、前記フレームに支持されており、両方向(正方向及び逆方向)に回転可能である。
又、前記減速機構は、前記電動モータの動力を、前記伸縮機構を構成する前記他方の1対の部材に伝達する。
又、前記1対のリンク腕は、それぞれの基端部を前記伸縮機構を構成する前記一方の1対の部材のそれぞれの先端部に対し、直接若しくは他の部材を介して、少なくとも前記車体の上下方向の軸回りに回動可能に連結すると共に、それぞれの先端部を前記上部継手に対し、前記車体の上下方向の軸回りに回動可能に連結している。この為に例えば、前記1対のリンク腕の先端部を、前記上部継手の一部若しくはこの上部継手に取り付けられる部材に連結する。
そして、本発明の車両用懸架装置は、前記電動モータにより、前記減速機構を介して、前記伸縮機構を構成する前記他方の1対の部材を回転駆動する事で、この伸縮機構を構成する前記一方の1対の部材を軸方向に関して互いに反対方向に進退させる。これにより、前記両リンク腕の開き角度を変化させ、前記車体の幅方向に関するこれら両リンク腕の長さを変化させる(アッパアームの全長を変化させる)事で、車輪のキャンバ角を変更する。
又、本発明の車両用懸架装置の場合には、追加的に、前記1対のリンク腕のそれぞれの基端部を、前記伸縮機構を構成する前記一方の1対の部材(請求項2に記載した発明の場合には1対のねじナット、請求項3に記載した発明の場合には1対のねじ軸)のそれぞれの先端部に対し、ボールジョイントを介して、上下方向に揺動可能に連結する構成を備える。
【0014】
この様な本発明を実施する場合に、具体的には、請求項2に記載した発明の様に、前記フレームに対し軸方向への移動のみ可能に支持された一方の1対の部材を、1対のねじナットとし、前記フレームに対し回転のみ可能に支持された他方の1対の部材を、1対のねじ軸とする。又、これら両ねじ軸を一体に構成する。又、これら両ねじ軸の外周面に、それぞれ多条の雄ねじを形成し、前記両ねじナットの内周面に、それぞれ多条の雌ねじを形成する。更に、前記減速機構を、複数のはすば歯車(円筒歯車)を備えた歯車式減速機とし、このうちの最終歯車を、一体に構成された前記両ねじ軸の軸方向中央部(連結部相当部)の外周面に支持固定する。
【0015】
上述の様な請求項2に記載した発明を実施する場合には、例え
ば、前記各ねじナットの内周面に形成された雌ねじを、前記各ねじ軸の外周面に形成された雄ねじに摺動可能に係合させて、滑りねじ式の送りねじ機構を構成する。又、この場合のリード角を5.7度よりも小さい値とする。
【0016】
又、上述の様な請求項
2に記載した発明を実施する場合には、例え
ば、前記各ねじ軸の外周面に形成された雄ねじ及び前記各ねじナットの内周面に形成された雌ねじの条数を、それぞれ2条とする。
【0017】
或いは、上述の様な本発明を実施する場合に、具体的には、請求項
3に記載した発明の様に、前記フレームに対し軸方向への移動のみ可能に支持された一方の1対の部材を、1対のねじ軸とし、前記フレームに対し回転のみ可能に支持された他方の1対の部材を、1対のねじナットとする。更に、前記減速機構を、ウォームとウォームホイールとを互いに噛合させて成るウォーム減速機とし、このうちのウォームホイールを、前記両ねじナットに対し、同期した回転を自在として組み合わせる。
尚、この様な請求項3に記載した発明を実施する場合に例えば、ウォームの条数を1条とし、ウォーム歯の捩れ角の大きさを規制する事で、ウォームホールの回転がウォームに伝達されない(逆作動しない)様にする、或いは、電動モータ自体にブレーキ作用を持たせる事で、車輪から1対のリンク腕に加わる力により、アッパアームの全長が変化しない様にする。
【0018】
又、上述の様な請求項
3に記載した発明を実施する場合には、例え
ば、前記ウォームホイールを、ポリアミド66、ポリアミド樹脂の一種であるMCナイロン(登録商標)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の合成樹脂製とする。この場合には、合成樹脂中にガラス繊維や炭素繊維等を充填して、ウォームホイールの強度、剛性を向上させても良い。
【0019】
更に、上述の様な請求項
3に記載した発明を実施する場合には、例え
ば、前記ウォームを、前記電動モータにより第二の減速機構(例えば歯車式減速機)を介して回転駆動する。
【0020】
又、上述の様な請求項1〜
3に記載した発明を実施する場合には、例えば請求項
4に記載した発明の様に、前記伸縮機構を構成する前記一方の1対の部材(請求項2に記載した発明の場合には1対のねじナット、請求項
3に記載した発明の場合には1対のねじ軸)或いはこれら1対の部材に固定された部材と、フレームとの間に、これら1対の部材の軸方向変位を許容しつつ相対回転を阻止する為の回り止め機構を設ける。
【0021】
又、本発明とは異なる別発明を実施する場合には、次の構成を採用できる。前記フレームを前記車体に対し上下方向に揺動可能に支持する。又、前記1対のリンク腕のそれぞれの基端部を、前記伸縮機構を構成する前記一方の1対の部材(請求項2に記載した発明の場合には1対のねじナット、請求項
3に記載した発明の場合には1対のねじ軸)のそれぞれの先端部に対し、前記車体の上下方向の軸回りの回動のみ可能に連結する。
【0022】
尚、本発明を実施する場合に、前記各ねじ軸と前記各ねじナットとで構成される送りねじ機構としては、滑りねじ式の送りねじ機構を採用する事もできるし、ボールねじ式の送りねじ機構を採用する事もできる。
滑りねじ式の送りねじ機構を構成する場合には、ねじナットの内周面に形成された雌ねじを、ねじ軸の外周面に形成された雄ねじに摺動可能に係合させる。
又、この様な滑りねじ式の送りねじ機構を構成するねじ軸としては、例えばステンレス鋼製のねじ軸を使用でき、同じくねじナットとしては、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド66、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の合成樹脂製のねじナット、或いは、黄銅(真鍮)製のねじナットを使用できる。
一方、ボールねじ式の送りねじ機構を構成する場合には、ねじナットの内周面に形成された外径側ボールねじ溝と、ねじ軸の外周面に形成された内径側ボールねじ溝とを、それぞれ複数個のボールを介して係合させる。
【発明の効果】
【0023】
上述の様に構成する本発明によれば、車両の走行状況に応じてキャンバ角を適宜変更できる車両用懸架装置を簡易な構造で実現でき、装置全体としての小型化・軽量化を図れる。
即ち、本発明の車両用懸架装置の場合には、アッパアーム自体に、このアッパアームの全長(車体の幅方向に関するリンク腕の長さ)を可変にする為の構造を集約している。この為、ロアアーム等のその他の部材に関しては、従来構造の場合と同様のものを使用できる。又、車体側(例えばエンジンルーム)にも、前述した従来構造の第2例の場合の様な油圧ポンプ等の部材を設置する必要がない。更に、前記アッパアームは、送りねじ機構による伸縮機構と、電動モータと、減速機構と、リンク機構とを組み合わせた簡易な構成により、その全長を変更できる。従って、本発明によれば、車両の走行状況に応じてキャンバ角を適宜変更できる車両用懸架装置を簡易な構造で実現できて、装置全体としての小型化・軽量化を図れる。この為、本発明の車両用懸架装置によれば、車両の旋回性能、直進性能の更なる向上を図れるだけでなく、バネ下荷重の増大を十分に抑える事ができて、乗り心地性や走行安定性を中心とする、車両の走行性能の向上も図れる。
又、キャンバ角の制御(アッパアームの全長制御)を電動モータの通電制御により行える為、油圧式に行う場合に比べて制御性や応答性に優れると共に、エンジンの動力損失も生じなくて済む。更に、本発明によれば、左右の車輪のキャンバ角を、それぞれ独立して制御できる。
又、本発明によれば、フレームを車体に対して上下方向に揺動可能に支持する必要がなくなる為、車体に対するアッパアームの支持構造を簡易にできる。
【0024】
又、請求項2に記載した発明の場合には、雄ねじ及び雌ねじの条数を多条(2以上)としている為、ねじ軸の回転角(回転量)に対するねじナットの軸方向移動量を大きくできると共に、負荷容量の増大を図れる。又、減速機構として、複数のはすば歯車を備えた歯車式減速機を採用している為、例えばウォーム減速機を採用した場合に比べて、逆作動の面では不利になる(逆作動し易くなる)ものの、効率を高くできる。この為、電動モータとして出力の小さいものを使用する事が可能になり、懸架装置全体としての更なる小型化・軽量化を図れる。
又、
前述した様に、リード角を5.7度よりも小さくした場合には、送りねじ機構での逆作動を有効に防止できる。この為、キャンバ角を変更する駆動時にのみ電力(エネルギ)を消費し、キャンバ角を変更せずに姿勢を一定に保持している状態では電力を消費しなくて済む。従って、省エネルギ化を図れる。
【0025】
又、請求項
3に記載した発明の場合には、減速機構として、ウォーム減速機を採用している為、摩擦損失は大きくなるものの、それ自体で大きな減速比を得られる。
又、
ウォームホイールを合成樹脂製とした場合には、ウォームホイールの軽量化を図れ、懸架装置の更なる軽量化を図れる。
更に、
ウォームを第二の減速機を介して電動モータにより回転駆動すれば、電動モータの小型化を図れ、懸架装置の更なる小型化・軽量化を図れる。
【0026】
尚、前述した別発明の場合には、1対のリンク腕の基端部と伸縮機構を構成する一方の1対の部材の先端部との連結構造を簡易にできる。
【0027】
尚、送りねじ機構として、滑りねじ式の送りねじ機構を採用した場合には、ボールや循環チューブ等の部材を使用しなくて済む分だけ、ボールねじ式の送りねじ機構を採用した場合に比べて、部品点数の低減を図れ、懸架装置の小型化・軽量化を図れる。
これに対して、ボールねじ式の送りねじ機構を採用した場合には、滑りねじ式の送りねじ機構を採用した場合に比べて、前記伸縮機構を構成する前記他方の1対の部材を回転駆動する為のトルクを低減できる。この為、電動モータを小型化できて、懸架装置の小型化・軽量化を図れる。又、前記伸縮機構を構成する前記一方の1対の部材の位置決め精度の向上を図れ、キャンバ角の制御を精度良く行える。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[
参考例]
図1〜3は
、本発明
に関する参考例を示している。本
参考例の特徴は、ダブルウィシュボーン式の車両用懸架装置に関して、アッパアーム4b自体に、このアッパアーム4bの全長を可変にする為の構造を集約する事で、車両の走行状況に応じてキャンバ角γを適宜変更可能とした点にある。ロアアーム5等のその他の部材に関しては、前記
図7に示した従来構造の第1例の場合と同じである。従って、以下、本
参考例の特徴部分である前記アッパアーム4bの構造を中心に説明する。
【0030】
図1に示す様に、本
参考例の車両用懸架装置の場合にも、車輪1を軸受ユニット2を介して回転自在に支持したナックル3を、前記アッパアーム4bと前記ロアアーム5とにより、車体11(
図2参照)に対し揺動可能に支持している。この為に、前記アッパアーム4bの先端部(
図1、2の右端部)を、アッパボールジョイント6を介して前記ナックル3の上端部に連結すると共に、同じく基端部(
図1、2の左端部)を、前記車体11に対し揺動可能に支持している。又、前記ロアアーム5の先端部を、ロアボールジョイント7を介して前記ナックル3の下端部に連結すると共に、同じく基端部を、前記車体11に対し揺動可能に支持している。
【0031】
特に本
参考例の場合には、前記アッパアーム4bの全長を可変に構成する為に、このアッパアーム4bを、フレーム12と、1対の送りねじ機構13a、13bより成る伸縮機構33と、電動モータ24と、特許請求の範囲に記載した減速機構に相当するウォーム減速機14と
、第二の減速機構
である歯車式減速機25と、リンク機構15とから構成している。
【0032】
このうちのフレーム12は、その基半部(幅方向内半部、
図2の左半部)を前記車体11に前後方向に離隔して設けられた1対の取付部16、16の間部分に配置した状態で、これら両取付部16、16に対し、ボルト17、17とナット18、18とにより、ゴム製のブッシュ19を介して、前記車体11の上下方向に揺動可能に支持(枢支)されている。この為、本
参考例の場合には、前記両ボルト17、17の中心軸が、前記アッパアーム4bの揺動中心Oと一致する。又、この様な前記フレーム12の先半部(幅方向外半部、
図2の右半部)の内側には、前記両送りねじ機構13a、13bが前記車体11の前後方向に配設されており、同じく基半部の前後方向中央部には、前記電動モータ24と前記ウォーム減速機14と前記歯車式減速機25とが設けられている。
【0033】
前記両送りねじ機構13a(13b)はそれぞれ、滑りねじ式の送りねじ機構であり、1組のねじ軸20a(20b)とねじナット21a(21b)とから成る。これら両ねじ軸20a、20bは、ステンレス鋼製で、前記車体11の前後方向に、同一直線上(同軸上)に配置されている。又、前記両ねじ軸20a、20bの外周面には、螺旋状の1条の雄ねじが形成されており、そのピッチはこれら両ねじ軸20a、20b同士で同じである。又、これら両ねじ軸20a、20bの外周面の少なくとも一部には図示しない回り止め凸部が形成されており、この回り止め凸部を前記フレーム12に形成した図示しない回り止め凹溝に係合させている。この様な回り止め機構により、前記両ねじ軸20a、20bの軸方向変位を許容しつつ、前記フレーム12に対する相対回転を阻止して、これら両ねじ軸20a、20bをこのフレーム12に対し軸方向への移動のみ可能に支持している。
【0034】
又、前記両ねじナット21a、21bは、ポリフェニレンサルファイド、ポリアセタール等の合成樹脂製で、それぞれの内周面に螺旋状の1条の雌ねじが形成されている。本
参考例の場合には、前記両ねじナット21a、21bを、射出成形により同時に加工する事で、一体に形成しており(基端部同士を連結した如き形状としており)、前記フレーム12の内側に回転のみ可能に支持している。そして、本
参考例の場合には、前記各ねじナット21a、21bの内周面に形成された、互いに逆方向の雌ねじを、前記各ねじ軸20a、20bの外周面に形成された、互いに逆方向の雄ねじに摺動可能に係合させている。
【0035】
前記ウォーム減速機14は、
図3に示した様に、ウォームホイール22と、ウォーム23(ウォーム軸26)とから成る。このうちのウォームホイール22は、ポリフェニレンサルファイド、ポリアセタール等の合成樹脂製で、前記両ねじナット21a、21bと同心に配置されている。本
参考例の場合には、前記ウォームホイール22を、前記両ねじナット21a、21bと共に、射出成形により同時に加工する事で、このウォームホイール22を、前記両ねじナット21a、21bの軸方向中央部(連結部相当部)の外周面に直接形成している。この為、前記ウォームホイール22は、前記両ねじナット21a、21bと共に回転する。
【0036】
又、前記ウォーム23は、金属製或いは合成樹脂製で、その中心軸を前記両ねじ軸20a、20bに対し捩れの位置に配置したウォーム軸26の中間部に設けられており、その外周面に形成したウォーム歯27を前記ウォームホイール22に噛合させている。本
参考例の場合には、前記ウォーム23の条数を1条とし、前記ウォーム歯27の捩れ角を規制する(捩れ角を大きく設定する)事で、前記ウォームホール22の回転が前記ウォーム23に伝達されない様にしている。
【0037】
又、前記電動モータ24は、前記フレーム12に対し複数(図示の例では3本)のねじ28、28により支持固定されている。そして、通電状態の切り換えにより、図示しない出力軸を正転、逆転の何れかの方向に回転させる。又、前記歯車式減速機25は、図示しない複数の歯車から構成されており、前記電動モータ24と前記ウォーム減速機14との間に設けられ、この電動モータ24の動力(トルク)を増大して前記ウォーム軸26に伝達する。
【0038】
又、前記リンク機構15は、1対のリンク腕29a、29bと、連結部材30とから成る。このうちの両リンク腕29a、29bは、鉄系合金、アルミニウム系合金、マグネシウム系合金等の鍛造品等で、円弧状に僅かに湾曲した丸棒状に構成されている。又、前記連結部材30は、前記アッパボールジョイント6のソケットを構成するもので、その略中央部にはボール収容部の上部を塞ぐ蓋体31が設けられている。そして、本
参考例の場合には、前記両リンク腕29a、29aの基端部を、前記各ねじ軸20a、20bの先端部に対し、ジョイント部材32a、32aを用いて前記車体11の上下方向(
図2の表裏方向)に向いた軸回りの回動のみ可能に連結すると共に、同じく先端部を、前記連結部材30の角隅部に対し、ジョイント部材32b、32bを用いて前記車体11の上下方向に向いた軸回りに回動可能に連結している。
【0039】
又、本
参考例の場合には、例えば特許文献4等に記載され従来から知られている様に、前記軸受ユニット2内に配置した図示しないエンコーダと荷重センサとを利用して、前記車輪1に加わるタイヤ横力(アキシアル荷重)を測定する。そして、この様にして測定したタイヤ横力を、図示しない制御器に送り、この制御器中の比較判定手段により、現在の車両の走行状況下でのタイヤ横力の過不足を判定する。そして、この結果に基づいて、前記電動モータ24への通電(通電方向、通電量)を制御する。
【0040】
具体的には、前記電動モータ24により前記ウォーム23を、正方向或いは逆方向に所定の回転数(回転角度)だけ回転駆動する。これにより、前記ウォームホイール22を介して前記両ねじナット21a、21bを回転させ、前記両ねじ軸20a、20bを軸方向に関して互いに反対方向(車体の前後方向、
図1の表裏方向、
図2の上下方向)に所定量だけ進退させる。そして、前記両リンク腕29a、29bの開き角度を変化させて、前記車体11の幅方向(
図1、2の左右方向)に関するこれら両リンク腕29a、29bの長さLを所定量だけ変化させる(アッパアーム4bの全長を変化させる)。より具体的には、
図2の(A)に示した様に、前記両ねじ軸20a、20bの前記フレーム12からの突出量が小さくなる様に前記電動モータ24を駆動した場合には、前記両リンク腕29a、29bの開き角度が小さくなる。これにより、前記車体11の幅方向に関するこれら両リンク腕29a、29bの長さが大きくなり(L=L
max)、前記アッパアーム4bの全長が長くなる。この結果、このアッパアーム4bの揺動中心Oから前記アッパボールジョイント6の中心Pまでの距離が大きくなり、キャンバ角γが変化する(ポジティブキャンバの場合にはキャンバ角は更に大きくなり、ネガティブキャンバの場合にはキャンバ角は小さくなる)。
【0041】
これに対して、(B)に示した様に、前記フレーム12からの前記両ねじ軸20a、20bの突出量が大きくなる様に前記電動モータ24を駆動した場合には、前記両リンク腕29a、29bの開き角度が大きくなる。これにより、前記車体11の幅方向に関するこれら両リンク腕29a、29bの長さが小さくなり(L=L
min)、前記アッパアーム4bの全長が短くなる。この結果、このアッパアーム4bの揺動中心Oから前記アッパボールジョイント6の中心Pまでの距離が小さくなり、キャンバ角γが変化する(ポジティブキャンバの場合にはキャンバ角は小さくなり、ネガティブキャンバの場合にはキャンバ角は更に大きくなる)。
【0042】
本
参考例の車両用懸架装置は、この様に動作する事で、車両の走行状況に応じてキャンバ角γを適宜変更する事ができ、発生するタイヤ横力の大きさを調整できる。尚、
図2の(B)には、説明の明りょう化の為に、前記両ねじ軸20a、20bの突出量を、実際の場合よりも誇張して描いている。実際の場合に、
図2の(B)に示す程、前記突出量を大きくする必要はない。又、可動各部は、図示しないカバーやベローズ等により覆って、泥水等の異物が付着する事を防止する。
【0043】
以上の様に、本
参考例の車両用懸架装置の場合には、前記アッパアーム4b自体に、このアッパアーム4bの全長を可変にする為の構造を集約している。この為、前記ロアアーム5等のその他の部材に関しては、例えば前記
図7に示した様な従来構造の第1例の場合と同じものを使用できる。又、前記車体11側(例えばエンジンルーム)にも、前述した従来構造の第2例の場合の様な油圧ポンプ等の部材を設置する必要がない。更に、前記アッパアーム4bは、前記伸縮機構33と、前記電動モータ24と、前記ウォーム減速機14と、前記歯車式減速機25と、前記リンク機構15とを組み合わせただけの簡易な構成により、その全長を変更できる。従って、本
参考例によれば、車両の走行状況に応じてキャンバ角γを適宜変更できる車両用懸架装置を簡易な構造で実現でき、装置全体としての小型化・軽量化を図れる。この為、本
参考例の車両用懸架装置によれば、車両の旋回性能、直進性能の更なる向上を図れるだけでなく、バネ下荷重の増大を十分に抑える事ができて、乗り心地性や走行安定性を中心とする、車両の走行性能の向上も図れる。
【0044】
更に、本
参考例の場合には、キャンバ角γの制御(アッパアーム4bの全長制御)を前記電動モータ24の通電制御により行える(電動式に行える)為、油圧式に行う場合に比べて制御性や応答性に優れると共に、エンジンの動力損失も生じなくて済む。又、前記両ねじ軸20a、20bの雄ねじ及び前記両ねじナット21a、21bの雌ねじの条数をそれぞれ1条として、前記両送りねじ機構13a、13bの逆作動を防止すると共に、前記ウォーム23の条数を1条として、前記ウォーム減速機14の逆作動を防止している(逆作動しない機構を直列に2つ設けている)。この為、キャンバ角γを変更する駆動時にのみ電力(エネルギ)を消費し、キャンバ角γを変更せずに姿勢を一定に保持している状態では電力を消費しなくて済む為、省エネルギ化も図れる。又、ロアアーム5ではなく、アッパアーム4bの全長を可変としているので、車両が停止している状態でも、無理なくキャンバ角γを変化させられる。更に、本
参考例の車両用懸架装置を左右の車輪に適用する事で、左右の車輪のキャンバ角をそれぞれ独立して制御する事ができる。
【0045】
又、本
参考例の場合には、前記各送りねじ機構13a、13bを、滑りねじ式の構造としている為、ボールねじ式とした場合と比べて、部品点数の低減を図れると共に、懸架装置の軽量化も図れる。又、前記両ねじナット21a、21b及び前記ウォームホイール22を合成樹脂製としている為、懸架装置の軽量化を図る上で更に有利になる。又、本例の場合には、前記電動モータ24の駆動力を、前記歯車式減速機25を介してトルクを増大させてから前記ウォーム軸に伝達している為、前記電動モータ24の小型化を図れ、この面からも、車両用懸架装置の小型化・軽量化を図れる。
【0046】
[実施の形態の第
1例]
図4〜6は
、本発明の実施の形態の第
1例を示している。本例の場合には、アッパアーム4cを、フレーム12aと、1対の送りねじ機構13c、13dから成る伸縮機構33aと、電動モータ24aと、歯車式減速機34と、リンク機構15aとから構成している。ロアアーム等、前記アッパアーム4c以外のその他の部分の構成に就いては、前述した
参考例の場合と同じである。従って、以下、本例の特徴部分である前記アッパアーム4cの構造を中心に説明する。
【0047】
前記フレーム12aは、フレーム本体35と、収納部36とを備える。このうちのフレーム本体35は、車体11(
図2、9参照)の前後方向に配設されており、その中間部に、この車体11の幅方向内側に向けて突出した1対の取付部37、37が設けられている。又、前記フレーム本体35の両端部で、前記車体11の幅方向に関して前記両取付部37、37とは反対側(幅方向外側)には、1対の把持部38、38が設けられている。前記収納部36は、前記車体11の前後方向に関して前記両把持部38、38の間部分に、前記フレーム本体35に連続した(支持された)状態で設けられている。この様な構成を有する前記フレーム12aは、前記各取付部37、37をそれぞれ上下方向に挿通したボルト39、39により、前記車体11に対し揺動不能に支持固定されている。
【0048】
前記伸縮機構33aは、前記車体11の前後方向に配設された1対の送りねじ機構13c、13dから構成されている。これら両送りねじ機構13c(13d)はそれぞれ、滑り式の送りねじ機構である1組のねじ軸20c(20d)とねじナット21c(21d)とから成る。本例の場合には、ねじ軸20c、20dの軸方向寸法を、ねじナット21c、21dの軸方向寸法よりも十分に大きくしている。
【0049】
前記両ねじ軸20c、20dは、前記車体11の前後方向に同一直線上(同軸上)に配置されている。この様なねじ軸20c、20dの外周面には、互いに逆方向の2条の台形雄ねじが形成されており、そのピッチはこれら両ねじ軸20c、20d同士で同じである。本例の場合には、これら両ねじ軸20c、20dを一体に構成しており(基端部同士を連結した如き形状としており)、一本のねじ軸体40としている。そして、このねじ軸体40の軸方向中間部を、前記フレーム12aの収納部36の内側に、1対の転がり軸受41、41により回転のみ可能に支持している。
【0050】
一方、前記両ねじナット21c、21dは、それぞれの内周面に互いに逆方向の2条の台形雌ねじが形成されており、前記両ねじ軸20c、20dの周囲(ねじ軸体40の軸方向両側部分の周囲)にそれぞれ係合している。又、前記両ねじナット21c、21dの先端部には、その内側に前記ねじ軸体40の軸方向両端部を挿入可能な、中空筒状のガイド筒42、42を相対回転不能に固定している。具体的には、これら各ガイド筒42、42の基端部を前記各ねじナット21c、21dに外嵌すると共に、これら各ガイド筒42、42の基端部外周面に設けられたフランジ部43、43と前記各ねじナット21c、21dの中間部外周面に設けられた取付フランジ部44、44とを軸方向に重ね合わせ、ボルト45、45により結合固定している。
【0051】
又、前記両ガイド筒42、42を、前記フレーム12aを構成する1対の把持部38、38により、このフレーム12aに対する軸方向への移動のみ可能に支持している。具体的には、前記両把持部38、38の内側に前記両ガイド筒42、42を挿入した状態で、これら両ガイド筒42、42の外周面に形成した1対の回り止め凹溝46、46に、前記両把持部38、38の内周面に形成した回り止め凸部47、47を係合させている。この様な回り止め機構により、前記両ねじナット21c、21d及び前記両ガイド筒42、42の軸方向変位を許容しつつ、前記フレーム12aに対する相対回転を阻止して、これら両ねじナット21c、21d及び両ガイド筒42、42を、前記フレーム12aに対し軸方向への移動のみ可能に支持している。
【0052】
更に、本例の場合には、前記各ガイド筒42、42の先端部に、ボールジョイント48、48の一端部を固定している。具体的には、これら両ボールジョイント48、48を構成するソケット部49、49を、前記各ガイド筒42、42の先端部にねじ止め固定している。
【0053】
又、前記両ねじナット21c、21dの軸方向移動によって前記ねじ軸体40(両ねじ軸20c、20d)が回転する(逆作動する)のを防止すべく、これら両ねじ軸20c、20dに形成した雄ねじ、及び、前記両ねじナット21c、21cに形成した雌ねじのリード角を、摩擦角よりも小さい範囲で可能な限り大きくしている。具体的には、台形ねじの場合に摩擦係数μと摩擦角θとの間に成り立つ、tan θ=μの関係式を利用して設定する。本例の場合には、前記両ねじ軸20c、20dの外周面と前記両ねじナット21c、21dの内周面とをグリース潤滑している為、ねじ表面の最小摩擦係数(μ)が0.1以上となり、これに対応する摩擦角(θ)が5.7度となる。従って、リード角を、5.7度よりも小さい値(例えば5.5度や5.0度等)に設定している。
【0054】
前記電動モータ24aは、その出力軸50を、前記ねじ軸体40と平行に配置した状態で、前記フレーム12aを構成する収納部36に対し、複数本のねじにより支持固定されている。又、前述した
参考例の場合と同様に、前記電動モータ24aは、通電状態の切り換えにより、前記出力軸50を、正転、逆転の何れかの方向に回転させる。
【0055】
前記電動モータ24aと前記伸縮機構33aとの間には、複数のはすば歯車(円筒歯車)を備えた前記歯車式減速機34が設けられている。この歯車式減速機34は、前記収納部36の内側に設けられており、前記電動モータ24aの動力(トルク)を増大して、前記伸縮機構33aを構成する前記両ねじ軸20c、20d(ねじ軸体40)に伝達する。又、前記歯車式減速機34は、第一、第二カウンタ軸51a、51bと、第一、第二小はすば歯車52a、52bと、第一、第二大はすば歯車53a、53bとを備える。前記第一カウンタ軸51aと前記第二カウンタ軸51bとは、前記収納部36内に互いに平行に且つ回転自在に支持されている。このうちの第一カウンタ軸51aは、前記電動モータ24aの出力軸50に外嵌固定されており、その中間部外周面に前記第一小はすば歯車52aが直接形成されている。又、前記第二カウンタ軸51bには、その中間部外周面に、この第一小はすば歯車52aよりも大径の前記第一大はすば歯車53aが相対回転不能に支持固定されており、この第一大はすば歯車53aから軸方向に外れた位置に、この第一大はすば歯車53aよりも小径の前記第二小はすば歯車52bが直接形成されている。そして、このうちの第一大はすば歯車53aを、前記第一小はすば歯車52aに噛合させると共に、前記第二小はすば歯車52bを、この第二小はすば歯車52bよりも大径で、前記ねじ軸体40の軸方向中央部(両ねじ軸20c、20dの連結部相当部)の外周面に相対回転不能に支持固定された、最終歯車である前記第二大はすば歯車53bに噛合させている。
【0056】
又、前記リンク機構15aは、1対のリンク腕29c、29dと、連結部材30aとから成る。このうちの両リンク腕29c、29dは、鉄系合金、アルミニウム系合金、マグネシウム系合金等の鍛造品等で、略L字形に構成されている。又、前記連結部材30aは、アッパボールジョイント6(
図1参照)を構成するボールスタッド54とナット55とから成る。そして、本例の場合には、前記両リンク腕29c、29dの基端部を、前記両ガイド筒42、42の先端部に固定された前記両ボールジョイント48、48の他端部に固定している。これにより、前記両リンク腕29c、29dの基端部を、前記両ねじナット21c、21dの先端部に対し、前記両ガイド筒42、42及び前記両ボールジョイント48、48を介して、前記車体11の上下方向に向いた軸回りの回動だけでなく、この車体11の上下方向の揺動を可能に連結している。又、前記両リンク腕29c、29dの先端部を、前記連結部材30aを用いて、前記車体11の上下方向に向いた軸回りに回動可能に連結している。この様な構成を有する本例の場合には、前記両ボールジョイント48、48のボール部56、56の中心(球心)を通る中心軸が、前記アッパアーム4c(リンク腕29c、29d)の揺動中心Oとなる。
【0057】
又、本例の場合にも、軸受ユニット2(
図1、9参照)内に配置した図示しないエンコーダと荷重センサとを利用して、車輪1(
図1、9参照)に加わるタイヤ横力(アキシアル荷重)を測定する。そして、この様にして測定したタイヤ横力を、図示しない制御器に送り、この制御器中の比較判定手段により、現在の車両の走行状況下でのタイヤ横力の過不足を判定する。そして、この結果に基づいて、前記電動モータ24aへの通電(通電方向、通電量)を制御する。
【0058】
具体的には、前記電動モータ24aにより、前記歯車式減速機34を構成する第一カウンタ軸51aを、正方向或いは逆方向に所定の回転数(回転角度)だけ回転駆動する。これにより、前記第一小はすば歯車52aと、前記第一大はすば歯車53aと、前記第二小はすば歯車52bと、前記第二大はすば歯車53bとを介して、前記ねじ軸体40(ねじ軸20c、20d)を回転させる。そして、前記両ねじナット21c、21dを軸方向に関して互いに反対方向(車体の前後方向、
図3の左右方向)に所定量だけ進退させる。これにより、前記両リンク腕29c、29dの開き角度を変化させて、前記車体11の幅方向に関するこれら両リンク腕29c、29dの長さを所定量だけ変化させる(アッパアーム4cの全長を変化させる)。より具体的には、前記両ねじナット21c、21dを互いに近付ける様に前記電動モータ24aを駆動した場合には、前記両リンク腕29c、29dの開き角度が小さくなる。これにより、前記車体11の幅方向に関するこれら両リンク腕29c、29dの長さが大きくなり、前記アッパアーム4cの全長が長くなる。この結果、このアッパアーム4cの揺動中心Oから前記アッパボールジョイント6の中心までの距離が大きくなり、キャンバ角γが変化する(ポジティブキャンバの場合にはキャンバ角は更に大きくなり、ネガティブキャンバの場合にはキャンバ角は小さくなる)。
【0059】
これに対して、前記両ねじナット21c、21dを互いに遠ざける様に前記電動モータ24aを駆動した場合には、前記両リンク腕29c、29dの開き角度が大きくなる。これにより、前記車体11の幅方向に関するこれら両リンク腕29c、29dの長さが小さくなり、前記アッパアーム4cの全長が短くなる。この結果、このアッパアーム4cの揺動中心Oから前記アッパボールジョイント6の中心までの距離が小さくなり、キャンバ角γが変化する(ポジティブキャンバの場合にはキャンバ角は小さくなり、ネガティブキャンバの場合にはキャンバ角は更に大きくなる)。
【0060】
本例の車両用懸架装置は、この様に動作する事で、車両の走行状況に応じてキャンバ角を適宜変更する事ができ、発生するタイヤ横力の大きさを調整できる。尚、本例の場合にも、可動各部は、図示しないカバーやベローズ等により覆い、泥水等の異物が付着する事を防止する。
【0061】
以上の様に、本例の車両用懸架装置の場合にも、前記アッパアーム4c自体に、このアッパアーム4cの全長を可変にする為の構造を集約している。この為、ロアアーム等のその他の部材に関しては、例えば前記
図7に示した様な従来構造の第1例の場合と同じものを使用できる。又、前記車体11側(例えばエンジンルーム)にも、前述した従来構造の第2例の場合の様な油圧ポンプ等の部材を設置する必要がない。更に、前記アッパアーム4cは、前記伸縮機構33aと、前記電動モータ24aと、前記歯車式減速機34と、前記リンク機構15aとを組み合わせただけの簡易な構成により、その全長を変更できる。従って、本例によれば、車両の走行状況に応じてキャンバ角を適宜変更できる車両用懸架装置を簡易な構造で実現でき、装置全体としての小型化・軽量化を図れる。この為、本例の車両用懸架装置によれば、車両の旋回性能、直進性能の更なる向上を図れるだけでなく、バネ下荷重の増大を十分に抑える事ができて、乗り心地性や走行安定性を中心とする、車両の走行性能の向上も図れる。更に、本例の場合にも、キャンバ角の制御(アッパアーム4cの全長制御)を前記電動モータ24aの通電制御により行える(電動式に行える)為、油圧式に行う場合に比べて制御性や応答性に優れると共に、エンジンの動力損失も生じなくて済む。
【0062】
特に本例の場合には、前記両ねじナット21c、21dを軸方向に移動(進退)させ、前記両ねじ軸20c、20dを回転させる構成を採用すると共に、前記両ねじナット21c、21dの軸方向寸法をこれら両ねじ軸20c、20dの軸方向寸法よりも小さく設定している。即ち、本例の場合には、軸方向寸法の短い部材(ねじナット21c、21d)を軸方向に移動させ、軸方向寸法の長い部材(20c、20d)を回転させる様にしている。この為、前述した
参考例の場合の様に、軸方向寸法の長い部材(ねじ軸20a、20b)を軸方向に移動させ、軸方向寸法の短い部材(ねじナット21a、21b)を回転させる場合に比べて、前記伸縮機構33aが実現可能な伸縮量(ストローク)を大きくできる。つまり、軸方向寸法の長い部材を軸方向に移動させ、軸方向寸法の短い部材を回転させる場合には、これら軸方向寸法の長い部材の端部同士が当接する事によるストローク制限を生じるのに対し、本例の様に、軸方向寸法の短い部材を軸方向に移動させ、軸方向寸法の長い部材を回転させる場合には、その様なストローク制限を生じない為、前記伸縮機構33aの伸縮量を大きくできる。
【0063】
又、減速機構として、複数のはすば歯車を備えた歯車式減速機34を使用している為、前記
参考例の構造の様にウォーム減速機14(
図2、3等参照)を使用した場合に比べて、逆作動し易くなるものの、効率を高くできる。本例の場合には、前記伸縮機構33aを構成する1対の送りねじ機構13c、13dに関して、リード角を5.7度よりも小さい値に設定する事で、これら両送りねじ機構13c、13dの逆作動を防止している。従って、減速機構として、逆作動が可能な前記歯車式減速機34を使用した場合にも、前記
参考例の場合と同様に、キャンバ角γを変更する駆動時にのみ電力(エネルギ)を消費し、キャンバ角γを変更せずに姿勢を一定に保持している状態では電力を消費しなくて済む。従って、省エネルギ化を図れる。しかも、本例の場合には、雄ねじ及び雌ねじの条数を2条としている為、前記両ねじ軸20c、20dの回転角(回転量)に対する前記両ねじナット21c、21dの軸方向移動量を大きくできる(
参考例の場合の2倍にできる)と共に、負荷容量の増大を図れる。
【0064】
以上の様に、本例の場合には、前記
参考例の場合と同様に、逆作動を防止する事による省エネルギ化を図れるだけでなく、この
参考例の場合に比べて、前記伸縮機構33aの伸縮量を増大できると共に、懸架装置全体としての効率を向上できる。この結果、前記電動モータ24aとして、出力の小さい小型の電動モータを使用した場合にも、運転者のステアリングホイールの操作に追従してキャンバ角γを適宜変更する事が可能になり、車両用懸架装置全体としての更なる軽量化・小型化を図れる。
【0065】
尚、本例の場合には、前記両リンク腕29c、29dの基端部を、前記車体11の上下方向に向いた軸回りの回動だけでなく、上下方向の揺動も可能に連結している為、前記
参考例の場合に比べて、前記両リンク腕29c、29dの基端部の連結構造は複雑になる。但し、本例の場合には、前記フレーム12aを前記車体11に対して上下方向に揺動可能に支持する必要がなくなる為、全体としては、この車体11に対する前記アッパアーム4c(フレーム12a)の支持構造を簡易にできる。
その他の構成及び作用・効果に就いては、前記
参考例の場合と同様である。