(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
選択的透過性を有する多数の中空糸膜からなる糸束の少なくとも一方の端部が、管板によって、固着され、結束されている、有機蒸気分離を行うための分離膜モジュールを構成する中空糸エレメントにおいて、管板が、亜鉛、銅、銀、アルミ、インジウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属、及び、スズを含有し、融点が170℃以上300℃未満である金属で構成されていることを特徴とする中空糸エレメント。
少なくとも混合ガス導入口、透過ガス排出口および非透過ガス排出口を有する容器内に、請求項1乃至3のいずれかに記載の有機蒸気分離用の中空糸エレメントが収納されて構成されていることを特徴とする有機蒸気分離用ガス分離膜モジュール。
混合ガス導入口、非透過ガス排出口が中空糸膜の内部空間に通じ、キャリアガス導入口および透過ガス排出口が中空糸膜の外部空間に通じるように構成されていることを特徴とする請求項4乃至5に記載の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュール。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の有機蒸気分離用の中空糸エレメント、前記中空糸エレメントの製造方法、前記中空糸エレメントを収納した有機蒸気分離用ガス分離膜モジュール、および前記分離膜モジュールを用いた有機蒸気混合物を分離する方法について詳しく説明する。
【0020】
図1は、本発明の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールの一例である、中空糸束の略中心部にキャリアガス供給用の芯管を有し、中空糸束外周部にキャリアガスガイドフィルムが被覆されている有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールの概略を表す断面図である。
図1に示すガス分離膜モジュールは、その外枠が混合ガス導入口1、キャリアガス導入口2、透過ガス排出口3および未透過ガス排出口4を有する筒型容器5からなり、前記筒型容器5には選択的透過性を有する多数の中空糸膜6aを束ねて形成した糸束6が、次の態様の中空糸エレメントとして内蔵されているものである。すなわち、前記糸束6は、図中透過ガス排出口3側の端部で、金属により形成される第二管板7bにより、また、図中非透過ガス排出口4側の端部で同じく金属により形成される第一管板7aによりそれぞれ固着され、全体として中空糸エレメントを形成している。この中空糸エレメントにおいて、前記中空糸束6を形成する各中空糸膜6aは、前記管板7a,7bを貫通して、開口した状態でそれぞれ固着されている。また、前記中空糸束6の外周部には、キャリアガスが導入され、排出されるまでの位置に、キャリアガスガイドフィルム8が被覆されている。また、前記管板7aを貫通して、かつ中空糸束6の略中心部に前記中空糸束に沿って配せられる芯管9を設け、キャリアガス導入側の管板7aの近傍に位置する前記芯管に、前記芯管内部空間と中空糸束とを連通する連通孔10が形成されている。
【0021】
図1に示す分離膜モジュールを用いて有機蒸気混合物を分離する方法の一例を以下説明する。有機蒸気混合物は好ましくは過熱され、混合ガス導入口1から中空糸膜の開口を経て中空糸膜6aの内部空間に導入される。有機蒸気混合物が中空糸膜の内部空間を流れる間に、高透過成分が選択的に膜を透過した透過蒸気は管板7a,7bの間の中空糸束が収納されている空間に移動する。透過しなかった非透過蒸気は中空糸膜のもう一方の開口が面している空間を経て非透過ガス排出口4から排出される。キャリアガスは芯管9のキャリアガス導入口2から導入され、芯管9の連通孔10から管板7a,7bの間の中空糸が装着されている空間へ導入され、中空糸膜6aの外側に接して流れ、中空糸膜からの透過ガスと共に透過ガス排出口3から排出される。したがって、有機蒸気混合物とキャリアガスのモジュール内部での流れは分離膜を挟んで向流となる。また、高透過成分の分圧は供給側よりも透過側が低くなるように操作される。
【0022】
次に、本発明における中空糸エレメントについて説明する。本発明における中空糸エレメントとは、少なくとも選択的透過性を有する多数の中空糸膜からなる中空糸束の少なくとも一方の端部が、金属により形成される管板によって中空糸の開口を維持した状態で固着され、結束されたものである。実施形態の一つは、
図1の概略図および前記の説明のとおりであるが、その形態のみに限定されるものではない。
【0023】
本発明の中空糸エレメントに用いられる選択的透過性を有する中空糸膜は、分離対象や分離条件に適合した材料で形成される。例えば、ポリブタジエン、ポリクロロプレン、ブチルゴム、シリコーン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリスチレン、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、酢酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリカーボネートなどで例示される、エラストマーやガラス状高分子などの材料で好適に形成される。有機蒸気分離用途においては、特に耐熱性、耐有機溶剤性、および、透過性能において優れている芳香族ポリイミド製の中空糸膜が特に好適である。
【0024】
前記の中空糸膜の構造は、均質性のものであっても、複合膜や非対称膜などの非均質性のものであっても良い。有機蒸気分離用途においては、芳香族ポリイミド製の非対称膜が、選択性と透過性能において優れているため特に好適である。一例として、膜厚が20〜200μmで、外径が50〜1000μmのものが好適に使用できる。
【0025】
本発明における中空糸束は、前記選択性を有する多数の中空糸膜を集束したものである。通常、100〜1,000,000本程度の中空糸膜を集束している。集束された中空糸束の形状には特に制限はない。例えば、中空糸膜が角柱状や平板状に集束された中空糸束、および、直方体の形状をもった管板であっても良い。製造の容易さ、および容器の耐圧性の観点からは、円柱状に集束された中空糸束、および円盤状の管板が好適に用いられる。中空糸は、軸に対して実質的に平行であっても、一定の角度を持っていても良いが、軸方向に対して5〜30度の角度を持って交互に交差配列するように集束されていることが好ましい。
【0026】
本発明の中空糸エレメントは、管板が前記中空糸束の両端部を固着していても、前記中空糸束の一方の端部だけを固着していても良い。さらに、管板が中空糸束の両端部を固着している中空糸エレメントにおいても、一方の端部において中空糸の開口が維持されていれば、一方の端部が閉塞されていても構わない。管板が一方の端部だけを固着している中空糸エレメントにおいては、もう一方の端部は、中空糸端部を閉塞する、中空糸を折り返す等の手段により、中空糸が開口しないように構成される。好ましくは、中空糸束の両端部が開口を維持した状態で管板によって固着されて構成される。
【0027】
本発明の中空糸エレメントの管板を構成する金属の融点は、170℃以上であることが好ましい。また、融点が、300℃未満であることが好ましい。
【0028】
融点が170℃未満であると、高温・高圧の有機蒸気混合物にさらされた管板が溶融する可能性があるため、望ましくない。分離対象となる有機物は様々なものが考えられるが、例えばエタノールと水の分離の場合、より効率的な脱水操作を行うためにモジュールの操作温度として水の沸点である100℃を超えた温度域で用いられることがある。従って、管板金属はこの温度域より十分に高い融点を有していないと、高温・高圧の有機蒸気混合物にさらされた管板が溶融し、機密性を損なう可能性があるため、好ましくない。
【0029】
管板を構成する金属の融点が300℃以上であると、管板を形成する際に、中空糸膜の変質を伴う可能性があるため、好ましくない。
【0030】
管板を構成する金属の融点は、例えば示差走査熱量測定(DSC)の融解ピークの開始点として測定することができる。
【0031】
本発明の中空糸エレメントの管板を構成する金属は、スズを含有することが好ましい。
スズを基とし、亜鉛、銅、銀、アルミ、ビスマス、インジウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属を含有する合金は、融点が170℃〜300℃程度となることが多いため、好ましい。
【0032】
本発明の中空糸エレメントは、管板として、金属で構成された管板に加えて、さらに樹脂で構成された管板を含むことが好ましい。
【0033】
高分子から形成された中空糸膜は、金属との接着性が不十分である場合がある。その場合には、金属で構成された管板に加えて、中空糸膜との接着性に優れた樹脂製の管板を備えることにより、充分な接着力を発揮することが出来る。
また、樹脂で構成された管板は、金属で構成された管板よりも加工が容易であり、特に管板の中空糸膜の開口面側を樹脂で構成することにより、管板の加工が容易となる。
【0034】
金属で構成された管板に加えて、さらに含む樹脂で構成された管板としては、例えば、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、熱可塑性樹脂であるポリエチレン、ポリプロピレン等を使用することが出来る。その中でも、耐溶剤性と耐熱性とが優れており、中空糸膜との接着性に優れるエポキシ樹脂が好ましい。
【0035】
次いで、本発明の中空糸エレメントの製造方法について説明する。
まず、中空糸膜を中空糸束として集束する方法について説明する。
【0036】
中空糸膜を軸方向に対して5〜30度の角度を持って交互に交差配列するように集束させる方法としては、例えば、下記の方法があげられる。1〜100本の中空糸膜は、芯になる管状物(芯管)の軸方向に一定の速度で往復する配糸ガイドによって芯管に配糸されるが、同時に芯管が一定の速度で回転する。このため、中空糸膜は軸に平行に配糸されないで、軸方向に対して芯管が回転しただけ角度を持って配糸される。配糸が一方の端部までくると、そこで中空糸膜は固定され、配糸ガイドは逆方向へ引き返して更に配糸をおこなう。芯管は同方向へ回転し続けるので、こんどは軸方向に対して前回とは角度が同じで丁度反対の方向となる角度をもって配糸される。これを繰り返していくと、配糸される中空糸膜は反対の角度で配糸されている中空糸膜の上に交互に交叉して配列されて中空糸束に集束される。
【0037】
次に、管板を形成する方法について、以下に説明する。
まず、金属で構成された管板を形成する方法について説明する。
前記の方法等で所定の長さおよび本数の中空糸膜6aを集束した中空糸束6を、芯管を取り外すか或いは芯管をそのまま束の略中心部に有したまま、端部に管板を成形する金型11内の所定の位置に設置し、前記中空糸束と円柱状の容器を、端部を下にして実質的に垂直に保持する。この状態の模式図を
図2(b)に示す。
【0038】
中空糸束を保持した後、前記金属を金型11内に導入する。導入方法の一例としては、例えば、溶融した液体状態の金属を金型内に注入することが挙げられる。金型内の中空糸束の占める空間以外を溶融金属で満たした状態で、金型及び中空糸束を金属の融点以下の温度、通常は室温まで冷却することにより、金属を固化させ、管板を形成する。
【0039】
金型内に金属を導入する方法としては、溶融金属を注入する方法以外にも、固体の金属を金型内に導入した後に、金型を金属の融点以上に昇温させる方法が挙げられる。固体の金属を金型内に導入する方法としては、例えば、中空糸束を形成した後に、粒状または粉体上の金属を導入する方法、中空糸束の形成中に、シート上の金属を中空糸束内に巻き付ける方法などが挙げられる。金型に固体の金属を導入した後に、金型内を金属の融点を越える温度に十分な時間保持することによって、金型内の中空糸束が占める空間以外の部分が隙間無く溶融した金属で満たされる。
このときの時間としては1時間以上が好適である。この時間が1時間より短いと、中空糸束の封止が不完全となることがあり、好ましくない。中空糸束が金属で封止された状態の模式図を
図2(c)に示す。
【0040】
金型内の金属を固化させた後、金型から取り出し、端部を切断し、中空糸膜を端部で開口させることによって、端部で中空糸が開口状態を保持して管板で固着された中空糸エレメントとする。
【0041】
次に、金属で構成された管板に加えて、さらに樹脂で構成された管板を形成する方法について、以下に説明する。
金属で構成された管板に加えて、さらに樹脂で構成された管板を形成する場合においては、先に金属で構成された管板を形成した後に樹脂で構成された管板を形成しても良いし、先に樹脂で構成された管板を形成した後に金属で構成された管板を形成しても良い。管板の中空糸膜の開口面側を樹脂で構成する場合には、先に樹脂で構成された管板を形成することが好ましく、例えばエポキシ樹脂で構成された管板を含む金属で構成された管板は、以下の方法で製造することができる。
【0042】
所定の長さおよび本数の中空糸膜6aを集束した中空糸束6を、端部に管板を成形する金型12内の所定の位置に設置し、前記中空糸束と円柱状の容器を、端部を下にして実質的に垂直に保持する。この状態の模式図を
図3(b)に示す。
【0043】
金型12に、管板を形成するためにエポキシ樹脂と硬化剤とからなる注入樹脂組成物を所定量注入する。注入樹脂組成物が注入された状態の模式図を
図3(c)に示す。
金型12に注入樹脂組成物を注入した後、金型を一定温度に保持することで注入樹脂組成物を硬化させ、エポキシ樹脂で構成された管板を形成する。
【0044】
エポキシ樹脂で構成された管板が金型内に形成された後、さらに金型内に金属を導入する。金属の導入方法は、特に限定されないが、金属で構成された管板の形成方法と同じ方法をとることが出来る。金属を導入した後、必要に応じて加熱処理を行うことにより、中空糸膜の開口面側を樹脂で構成する管板を形成することが出来る。模式図を
図3(d)に示す。できあがった金属と樹脂を含む管板の樹脂部分を切断し、中空糸膜を端部で開口させることによって、端部で中空糸が開口状態を保持した、金属製の管板に加えてさらにエポキシ樹脂製の管板を含むエレメントとする。
【0045】
ここで、中空糸束の両端部に管板を形成する場合には、前記の手順により中空糸束の一方の端部に管板を形成した後に、他方の端部に同様の手順によって管板を形成することによって行われる。一方の端部に管板を形成した後というのは、管板を切断して、中空糸膜を開口させた後であっても良い。
【0046】
また、中空糸束6の外周部に形成されたキャリアガスガイドフィルム8は、例えば次のようにして作製することができる。まず、中空糸膜を集束した中空糸束を前記の方法等で作製し、その周囲にキャリアガスガイドフィルム8を形成するための、例えばポリエステルフィルムを巻き付け、その重なり部分を糊付けする。次いで、フィルムを巻きつけた状態で、前記束状物の両端部を前記の方法等で、管板相当部を形成する。その際、キャリアガス導入口側の管板7aに対応する端部では前記フィルム末端をも一緒に固着し、透過ガス排出口側の管板7bに対応する端部では前記フィルムの他の末端を管板7bに固着せず、透過ガスおよびキャリアガスが中空糸束から透過ガス排出口に流出するよう隙間を確保する。また、中空糸束の外周に、中空糸エレメントを保護するためのメッシュや2個の半割ケースからなる内套を、有機蒸気混合物の流路を確保できるようにして、備えても構わない。
【0047】
本発明における有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールとは、前記有機蒸気分離用の中空糸エレメントの一つあるいは二つ以上を、少なくとも混合ガス導入口、透過ガス排出口および非透過ガス排出口を備える容器内に内蔵して構成されたものである。ガス分離膜モジュールの形態は特に限定されるものではなく、中空フィードタイプでもシェルフィードタイプでも良く、キャリアガスを用いるタイプでもキャリアガスを用いないタイプでも良い。キャリアガスを用いるタイプでは、容器にキャリアガス導入口が配置されたり、中空糸エレメントにキャリアガス導入管が配置されたりすることが好適である。
【0048】
本発明のガス分離膜モジュールは、中空糸エレメントが着脱可能であることが好ましい。
【0049】
容器内に中空糸エレメントを内蔵したガス分離膜モジュールは、管板で区切られ蒸気の流路を除いて密閉され、気密性を保持した空間を形成する。密閉方法は、特に限定されないが、弾性O−リングやパッキンが好適に用いられる。
【0050】
本発明の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールは、内蔵される中空糸エレメントの形状や混合ガス導入口、透過ガス排出口、非透過ガス排出口などの配置によって種々の形態をとり得る。例えば、円筒状であっても箱型のものであっても良い。いずれの場合もモジュール内では、中空糸膜の内部空間に通じる空間と、中空糸膜の外部空間に通じる空間とは互いに隔絶され、気密性を保持している。
【0051】
有機蒸気の分離を行う際には、高温流体や高圧流体、あるいは減圧条件にさらされるものであるから、ガス分離膜モジュールの容器には、充分な強度と使用条件下での安定性が必要である。材質には特に限定はないが、金属、プラスチック、ガラス繊維複合材料、およびセラミックが好適に使用される。
【0052】
本発明の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールは、混合ガス導入口、非透過ガス排出口が中空糸膜の内部空間に通じ、キャリアガス導入口および透過ガス排出口が中空糸膜の外部空間に通じるように構成されていることが好ましい。特に、キャリアガス導入口が中空糸エレメントの略中心部にある芯管に配置されていることが、より好ましい。
【0053】
本発明の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールを用いた有機蒸気混合物を分離する方法について説明する。
【0054】
分離膜によるガス分離においては、分離膜を挟んだ二つの空間を、原料のガスを供給する空間(一次側)と、透過ガスが透過してくる空間(二次側)の二つに分ける。
【0055】
本発明の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールを用いた有機蒸気混合物を分離する方法において、中空糸膜の内部空間を一次側(原料ガス供給側)とする中空フィードと、反対に中空糸膜の外部空間を一次側とするシェルフィードのどちらを採用しても良い。中空糸膜を有効に利用するためには、原料ガスの偏流が起こりにくい中空フィードが好ましい。
【0056】
シェルフィード、中空フィードのいずれの場合においても、ガス分離膜モジュールによる有機蒸気混合物を分離する方法は、下記の方法によって行われる。すなわち、混合ガス導入口からガス分離膜モジュール内の一次側の空間に供給された有機蒸気混合物は、中空糸膜の表面に接しながら流れて、非透過ガス排出口からモジュール外へ排出される。その間、中空糸膜を透過した透過ガスは、二次側の空間に設置された透過ガス排出口からモジュール外に排出される。中空糸膜は選択的透過性を有しているので、膜を透過した透過ガスは、高透過成分に富んでおり、非透過ガス排出口から排出される非透過ガスは、高透過成分の濃度が減少している。
【0057】
本発明の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールを用いた有機蒸気混合物を分離する方法においては、一次側での高透過成分の分圧を、二次側での高透過成分の分圧より高く保つように操作される。
【0058】
具体的には、膜の二次側を減圧に保持して、中空糸膜の両側における高透過成分の分圧差を確保する方法が挙げられる。また、膜の二次側表面にキャリアガスを流通させる方法が挙げられる。その中で、膜の二次側表面にキャリアガスを流通させる方法が好ましく、かつ、キャリアガスが中空糸膜を挟んで有機蒸気混合物と向流になるように構成することが好ましい。
【0059】
前記キャリアガスは、高透過成分を含まないか、少なくとも高透過成分の分圧が非透過ガスより小さい濃度であるガスであれば特に制限はなく、例えば、窒素、空気などが使用できる。窒素は膜の二次側から一次側への逆浸透が起こりにくく、不活性であるために、防災上も好ましいキャリアガスである。そのほか、高透過成分を分離した非透過ガスの一部をキャリアガスの供給口に循環し、キャリアガスとして使用することも好適である。
【0060】
中空フィード型のガス分離膜モジュールにおいては、キャリアガスは中空糸膜の外側に沿って流れることで透過を促進する働きを有している。したがって、キャリアガスは中空糸膜の外側に沿ってショートパスがなく均一に流されることが好ましい。
【0061】
本発明の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールを用いた有機蒸気混合物を分離する方法において、分離する有機蒸気混合物(混合ガス)は、有機化合物の蒸気を含む2種以上のガス混合物であれば特に制限されるものではない。例えば、水蒸気と有機蒸気の混合蒸気からの水蒸気の分離(有機蒸気の脱水)や、メタノールとジメチルカーボネートとの混合蒸気からのメタノールの分離などに好適に使用することが出来る。
【0062】
前記の有機化合物としては、常圧における沸点が0℃以上200℃以下であるものが好ましい。有機化合物の沸点が0℃以上200℃以下であるのは、中空糸膜の使用温度範囲、有機蒸気混合物を過熱蒸気化するための設備、精製分離成分を凝集し回収するための設備や取扱いの容易さを考慮したときに実用的だからである。
【0063】
常圧における沸点が0℃以上200℃以下である有機化合物としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、s-ブタノール、t−ブタノール、エチレングリコールなどの脂肪族アルコール類、シクロヘキサノールなどの脂環族アルコール類、ベンジルアルコールなどの芳香族アルコール、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの有機カルボン酸類、酢酸ブチル、酢酸エチルなどの有機酸エステル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなど環式エーテル類、ブチルアミン、アニリンなどの有機アミン類、および、前記の化合物の混合物を挙げることができる。
【0064】
本発明の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールを用いた有機蒸気混合物を分離する方法においては、有機蒸気混合物は蒸発(蒸留)装置などによって加熱蒸発させて、常圧状態乃至0.1〜10気圧(ゲージ圧)程度の加圧状態の有機蒸気混合物として有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールへ供給される。加圧状態の有機蒸気混合物は、加圧蒸発器で直接加圧状態の有機蒸気混合物を得ても良いし、常圧蒸留器で得られた常圧状態の有機蒸気混合物をベーパーコンプレッサーによって加圧することで得ても構わない。
【0065】
また、有機蒸気混合物は有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールへ供給され中空糸内部を流通して非透過ガス排出口から排出されるまでの間で凝縮しない程度以上に十分高温に過熱された有機蒸気混合物として供給されることが好ましい。
【0066】
本発明の有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールへ供給される有機蒸気混合物は、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは120℃以上の温度のものである。
【0067】
過熱された有機蒸気混合物を得る方法としては、具体的には、有機化合物を含む溶液混合物を加熱装置付蒸発装置などによって気化すると同時に加熱(過熱)処理することが好適である。また、気化した有機蒸気混合物を、別に備えた加熱装置を用いて加熱(過熱)処理を行い、過熱された有機蒸気混合物を好適に得ることもできる。
【0068】
また、必要に応じて有機蒸気混合物を、その温度を保持しながら圧力を低下させる処理をおこなった後、有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールへ供給しても構わない。圧力を低下させる処理方法は、通常の減圧弁等に拠っても良いし、気化したガス混合物をデミスター(ミストセパレーター)などで処理してミストを除去すると同時に圧損を発生させることに拠っても良い。
【0069】
前記処理後の有機蒸気混合物はその温度での飽和蒸気圧未満の圧力を有するガス混合物になっており、その状態を保持したまま(具体的には、保温されて)有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールへ供給されるのが好適である。そうすれば、有機蒸気混合物が中空糸膜内部を流通して非透過ガス排出口から排出されるまでの間で凝縮しない。
【0070】
本発明は、前記の有機物のうち、さらに、アルコールを含有する水溶液の脱水に好ましく利用でき、特にエタノール又はイソプロパノールを含有する水溶液の脱水に好ましく使用することができる。
【実施例】
【0071】
以下本発明を実施例により説明するが、本発明は実施例に限られるものではない。
【0072】
以下の例で用いた化合物は以下のとおりである。
(1)金属
エバソルS1:石川金属製、Sn、融点231.7℃
エバソルK2:石川金属製、Sn−Ag合金、融点221.4℃
低融点合金No.1:フジメタル工業製、Sn−Zn合金、融点198.5℃
低融点合金No.10:フジメタル工業製、Sn−Bi合金、融点138.6℃
(2)エポキシ樹脂
JER604:テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、三菱化学製、エポキシ当量119 g/eq
(3)硬化剤
DDM:ジアミノジフェニルメタン、三井化学製、活性水素当量49.6 g/eq
(4)速乾性エポキシ樹脂
セメダイン社製 ハイスーパー5
【0073】
(融点の測定方法)
融点の測定は、セイコーインスツルメンツ(株)RDC220を用い、温度プログラム:室温〜300℃、走査速度10℃/分、窒素雰囲気下で測定して得られたDSC曲線から算出した。得られたDSC曲線の、低温側ベースライン延長線と低温側ピーク最大勾配点での接線との交点を融点とした。
【0074】
(ガス分離膜エレメントの製造方法)
(金属で構成された管板を含む中空糸エレメントの製造方法)
外径400μm、内径200μmの芳香族ポリイミド製中空糸膜を32本束ねて、直径12.7mm、長さ10cmのフッ素樹脂パイプに通し、そのパイプの一端から速乾性エポキシ樹脂を導入してパイプの端で中空糸束とパイプを固着、一体化させた。
次いで、中空糸膜と一体化させたフッ素樹脂パイプを、固着した面を下にして実質的に垂直に固定した状態で、50gの金属を粒状にしてフッ素樹脂パイプ下部に導入した後、250℃で1時間加熱した。その後、温度を室温に戻すことにより、溶融した金属を固化させ、中空糸膜端部を金属で固着した。
中空糸膜端部が金属で固着された後、フッ素樹脂パイプと速乾性エポキシ部位を除去し、管板の端部を切削することにより中空糸の端を開口させ、金属で構成された管板を持つエレメントを製造した。中空糸束の管板を形成していない端部は、速乾性エポキシ樹脂で固着、封止した。
【0075】
(金属で構成された管板に加えて、さらに樹脂で構成された管板を含む中空糸エレメントの製造方法)
外径400μm、内径200μmの芳香族ポリイミド製中空糸膜を32本束ねて、直径12.7mm、長さ10cmのフッ素樹脂パイプに通し、そのパイプの一端から速乾性エポキシ樹脂を導入してパイプの端で中空糸束とパイプを固着、一体化させた。
次いで、中空糸膜と一体化させたフッ素樹脂パイプを、固着した面を下にして実質的に垂直に固定した状態で、JER604(8.9g)とDDM(3.8g)の混合物をパイプ内に流しこみ、オーブンで70℃4時間、続いて120℃2時間、続いて180℃2時間加熱し、エポキシ樹脂を硬化させた。続いて40gの金属を粒状にしてフッ素樹脂パイプに導入し、250℃で1時間加熱した。その後、温度を室温に戻すことにより、溶融した金属を固化させ、中空糸膜端部を金属で固着した。フッ素樹脂パイプと速乾性エポキシ部位を除去し、管板の端部を切削することにより中空糸の端を開口させ、金属で構成された管板に加えて、さらに樹脂で構成された管板金を含む中空糸エレメントを製造した。中空糸束の管板を形成していない端部は、速乾性エポキシ樹脂で固着、封止した。
【0076】
(エポキシ樹脂で構成された管板を含む中空糸エレメントの製造方法)
外径400μm、内径200μmの芳香族ポリイミド製中空糸膜を32本束ねて、直径12.7mm、長さ10cmのフッ素樹脂パイプに通し、そのパイプの一端から速乾性エポキシ樹脂を導入してパイプの端で中空糸束とパイプを固着、一体化させた。
次いで、中空糸膜と一体化させたフッ素樹脂パイプを、固着した面を下にして実質的に垂直に固定した状態で、JER604(35.7g)とDDM(14.9g)の混合物をパイプ内に流しこみ、オーブンで70℃4時間、続いて120℃2時間、続いて180℃2時間加熱し、エポキシ樹脂を硬化させた。その後、フッ素樹脂パイプと速乾性エポキシ部位を除去し、管板の端部を切削することにより中空糸の端を開口させ、エポキシ樹脂で構成された管板を持つエレメントを製造した。中空糸束の管板を形成していない端部は、速乾性エポキシ樹脂で固着、封止した。
【0077】
(エタノール蒸気分離性能の測定方法)
図4に示すガス分離膜性能測定装置を用いた。
加熱装置を備えたフラスコ13に、エタノールと水とを、所定の混合比で仕込み、フラスコ13を加熱装置で加熱することにより混合蒸気を発生させた。前記混合有機蒸気は過熱装置14でスーパーヒートすることによって120℃に昇温したうえで、ガス分離膜エレメント16に供給した。蒸気分離性能の測定中は、ガス分離膜エレメントの中空糸膜の透過側(内側)を真空ポンプ16で700Paの減圧に維持した。
ガス分離膜エレメント16の透過側から得られる透過ガスをトラップ18に導いて凝縮物として捕集し、重量を求めると共に、各成分の濃度をガスクロマトグラフィー分析法によって測定し、透過した混合物の各成分の量を求めた。透過した各成分量から各成分の透過速度を算出した。
なお、中空糸膜を透過しなかった未透過蒸気は、冷却装置15で冷却液化してフラスコ13へ循環させた。エタノールと水とは、蒸気分離性能の測定中にガス分離膜モジュールに供給する有機蒸気濃度がエタノールと水とのモル組成比を1:1に保つに十分な量とした。
【0078】
(実施例1)
上記の方法でエバソルS1を溶融、固化させることにより金属管板をもつ有機蒸気分離用のガス分離膜エレメント(管板長さ約5cm)を作成した。作成されたエレメントを用いて、上記の方法で水蒸気の透過速度P’
H2Oと、エタノール蒸気の透過速度P’
EtOHとの比である分離度(α:P’
H2O/P’
EtOH)を測定したところ、100以上であった。この結果から、中空糸が金属管板によって確実に封止され、好適な分離が行われていることがわかる。次にこのエレメントをオートクレーブ内で水10gとエタノール40gの混合物に浸漬し、このオートクレーブ全体を150℃に加熱した。その後、150℃の真空状態において急速に乾燥させた。上記の操作を行った後に管板の外観を目視で確認したところ、クラックなどは全く見られなかった。
【0079】
(実施例2)
上記の方法でエバソルK2を溶融、固化させることにより金属管板をもつ有機蒸気分離用のガス分離膜エレメント(管板長さ約5cm)を作成した。作成されたエレメントを用いて水蒸気の透過速度P’
H2Oと、エタノール蒸気の透過速度P’
EtOHとの比である分離度(α:P’
H2O/P’
EtOH)を測定したところ、100以上であった。この結果から、中空糸が金属管板によって確実に封止され、好適な分離が行われていることがわかる。次にこのエレメントをオートクレーブ内で水10gとエタノール40gの混合物に浸漬し、このオートクレーブ全体を150℃に加熱した。その後、150℃の真空状態において急速に乾燥させた。上記の操作を行った後に管板の外観を目視で確認したところ、クラックなどは全く見られなかった。
【0080】
(実施例3)
上記の方法で低融点合金No.1を溶融、固化させることにより金属管板をもつ有機蒸気分離用のガス分離膜エレメント(管板長さ約5cm)を作成した。作成されたエレメントを用いて水蒸気の透過速度P’
H2Oと、エタノール蒸気の透過速度P’
EtOHとの比である分離度(α:P’
H2O/P’
EtOH)を測定したところ、100以上であった。この結果から、中空糸が金属管板によって確実に封止され、好適な分離が行われていることがわかる。次にこのエレメントをオートクレーブ内で水10gとエタノール40gの混合物に浸漬し、このオートクレーブ全体を150℃に加熱した。その後、150℃の真空状態において急速に乾燥させた。上記の操作を行った後に管板の外観を目視で確認したところ、クラックなどは全く見られなかった。
【0081】
(実施例4)
上記の方法でJER604とエバソルK2を用いて、金属で構成された管板に加えて、さらに樹脂で構成された管板をもつ有機蒸気分離用のガス分離膜エレメント(管板長さ約5cm、金属部位4cm、エポキシ部位1cm)を作成した。作成されたエレメントを用いて水蒸気の透過速度P’
H2Oと、エタノール蒸気の透過速度P’
EtOHとの比である分離度(α:P’
H2O/P’
EtOH)を測定したところ、100以上であった。この結果から、中空糸が金属管板によって確実に封止され、好適な分離を行うことができるモジュールであることがわかる。
【0082】
(比較例1)
上記の方法でJER604エポキシ管板をもつ有機蒸気分離用のガス分離膜エレメントを作成した。作成されたエレメントを用いて水蒸気の透過速度P’
H2Oと、エタノール蒸気の透過速度P’
EtOHとの比である分離度(α:P’
H2O/P’
EtOH)を測定したところ、100以上であった。この結果から、中空糸がエポキシ管板によって確実に封止され、好適な分離が行われていることがわかる。次にこのエレメントをオートクレーブ内で水10gとエタノール40gの混合物に浸漬し、このオートクレーブ全体を150℃に加熱した。その後、150℃の真空状態において急速に乾燥させた。上記の操作を行った後に管板の外観を目視で確認したところ、管板にクラックの発生が確認された。
【0083】
(比較例2)
上記の方法で低融点合金No.10を溶融、固化させることにより金属管板をもつ有機蒸気分離用のガス分離膜エレメント(管板長さ約5cm)を作成した。作成されたエレメントを用いて水蒸気の透過速度P’
H2Oと、エタノール蒸気の透過速度P’
EtOHとの比である分離度(α:P’
H2O/P’
EtOH)を測定したところ、100以上であった。この結果から、中空糸が金属管板によって確実に封止され、好適な分離が行われていることがわかる。次にこのエレメントをオートクレーブ内で水10gとエタノール40gの混合物に浸漬し、このオートクレーブ全体を150℃に加熱した。上記の操作を行った後に管板を取り出すと、管板は溶融、変形していた。