特許第6035868号(P6035868)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6035868
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】防護服用材料および防護服
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/00 20060101AFI20161121BHJP
   A41D 31/00 20060101ALI20161121BHJP
   A41D 31/02 20060101ALI20161121BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20161121BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   A41D13/00 102
   A41D31/00 501H
   A41D31/00 501Z
   A41D31/00 L
   A41D31/00 503C
   A41D31/00 503N
   A41D31/02 G
   A41D31/02 A
   B32B5/26
   B32B9/00 A
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-117224(P2012-117224)
(22)【出願日】2012年5月23日
(65)【公開番号】特開2013-245407(P2013-245407A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2015年5月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】太田 昌三
(72)【発明者】
【氏名】福井 弘生
【審査官】 新田 亮二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−030449(JP,A)
【文献】 特開2011−042033(JP,A)
【文献】 特開2008−190085(JP,A)
【文献】 特開2000−045113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 13/00
A41D 31/00
B32B 1/00 − 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非熱溶融性繊維を50重量%以上含み、JIS L1091(1999)の垂直法による炭化長が15cm以下の織物からなる外層布と、絶乾質量が80〜150g/mである織物、編物あるいは不織布の形状をした活性炭素繊維シートを含み、かさ高性が5.0以上である内層布との積層体からなり、
その熱防護性が45℃/15秒以下であり、
前記活性炭素繊維シートの厚さが前記内層布の厚さの55%以下である防護服用材料。
【請求項2】
前記外層布が綿を50〜99重量%含む織物である請求項1に記載の防護服用材料。
【請求項3】
前記内層布が前記活性炭素繊維シートの表裏両面に保護層を配置し、キルティングにより結合した積層体からなる請求項1または2に記載の防護服用材料。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の防護服用材料を用い、胴回りに締め紐を有した上着
と吊りベルトを備えたズボンからなる防護服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の防護服用材料および防護服は、有毒化学物質を取り扱う作業者を保護するための防護服用材料および防護服に関し、特に事故や災害等で火災が発生した場合に、火炎による身体の熱傷を軽減することを目的とするものである。被服材料が火炎や高熱で溶融して穴が開いて有毒化学物質に対する防護性が低下したり、熱伝導により衣服内部が高温になることを防ぐための防護服に関するものである。
【背景技術】
【0002】
消防士などが消火作業中に着用する耐熱性防護服を構成する繊維としては、アラミド繊維、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリベンズイミダゾールやポリベンズオキサゾールなどの難燃性の有機繊維からなる布帛に輻射熱を防止する目的からアルミ箔をラミネートしたりアルミをコーティングや蒸着などで表面処理したものが使用されている。この耐熱防護服を有毒化学物質を取り扱う作業者が通常に着用すると、重量が重く通気性が低いために熱ストレスの負荷が激しい。
【0003】
ガス状および液体状の有毒化学物質から身体を保護する防護衣およびその材料として、特許文献1に示されるような通気性の高い衣服材料があるが、この材料で作成した防護服の場合には、火災事故などが発生した場合には火炎による着火、溶融穴あきなどの欠損が生じて着用者が火傷を負うおそれがある。また、欠損が生じると有毒化学物質に対する防護性を損なう。
【0004】
有機化学物質の取り扱い作業者を保護するための防護材料および防護衣服の着用者を高熱・火炎から保護する技術として特許文献2に有毒化学物質吸着層の外側に外層材料を配置し、該外層材料が難燃性を有することにより火炎から防護する技術が開示されている。しかしながら、当該技術では被服材料を通しての輻射熱を防ぐことは出来ず、ある時間以上の熱に曝されると結果として着用者の身体表面に熱傷などの危害を及ぼす可能性が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−308945号公報
【特許文献2】特開2008−30449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記従来技術を背景になされたもので、その目的はガス状および液体状の有毒化学物質から身体を防護する防護服用材料および防護服において、熱・火炎から身体を防護するために熱防護性、特に遮熱性に優れるという機能をさらに付加した防護服用材料および防護服を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明者らは鋭意検討の結果、本発明に至った。すなわち本発明は以下の通りである。
1.非熱溶融性繊維を50重量%以上含み、JIS L1091(1999)の垂直法による炭化長が15cm以下の織物からなる外層布と、絶乾質量が80〜150g/mである織物、編物あるいは不織布の形状をした活性炭素繊維シートを含み、かさ高性が5.0以上である内層布との積層体からなり、その熱防護性が45℃/15秒以下である防護服用材料。
2.外層布が綿を50〜99重量%含む織物である上記1に記載の防護服用材料。
3.内層布が活性炭素繊維の編物の表裏両面に保護層を配置し、キルティングにより結合した積層体からなる上記1または2に記載の防護服用材料。
4.上記1から3のいずれかに記載の防護服用材料を用い、胴回りに締め紐を有した上着と吊りベルトを備えたズボンからなる防護服。
【発明の効果】
【0008】
外層布と内層布からなる防護服用材料において、外層布に溶融および炭化長が短い材料を用い、内層布に活性炭素繊維からなる織編物あるいは不織布を含む所定以上のかさ高性を持つ材料を用いることによって、高い熱防護性と有毒化学物質に対する防護性を両立した防護服用材料を得ることができる。
また、上着の胴回りに締め付け紐を配置し、ズボンに吊りベルトを配置することで、より熱の遮蔽と有毒化学物質の侵入を防ぐ防護服とすることができる。
本発明では外層布は炎に接しても延焼を防ぐ機能を有し、内層布は熱を遮蔽する機能を有する。内層布の熱遮蔽においては、そのかさ高性が有効であり、さらに活性炭素繊維の織編物もしくは不織布が不融性と断熱性を併せ持って効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明による防護服の形状の一例を挙げた図である。
図2】防護服における締め紐通し部の断面構造を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の防護服用材料は、非熱溶融性繊維を50重量%以上含み、JIS L1091(1999)の垂直法による炭化長が15cm以下の織物からなる外層布と、絶乾質量が80〜150g/mである織物、編物あるいは不織布の形状をした活性炭素繊維シートを含み、かさ高性が5.0以上である内層布との積層体からなり、その熱防護性が45℃/15秒以下である防護服用材料である。
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の防護衣服用材料は外層布と内層布の積層体で構成される。外層布は非熱溶融性繊維を50重量%以上含み、JIS L1091(1999)の垂直法による炭化長が15cm以下である織物からなる。非熱溶融性繊維としてはアラミド繊維、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリベンズイミダゾールやポリベンズオキサゾールなどの難燃性合成繊維、難燃処理を施したセルロース系繊維や獣繊維などが挙げられる。ここでセルロース系繊維としては綿、麻、ジュート、亜麻、ケナフ、芭蕉、などの天然セルロースやビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン、ポリノジック、リヨセル、溶融紡糸型などの再生セルロース繊維が含まれる。獣毛繊維には羊毛、山羊、アルパカ、うさぎ、らくだ、ミンク、アザラシなどから得られる動物(天然ケラチン質)繊維を言う。
【0012】
セルロース系繊維の場合は、難燃加工を施す必要がある。難燃加工にはリン酸アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム、アルキルリン酸アンモニウム塩、無機臭素化化合物、ホウ砂、ホウ酸などの難燃剤を付与する方法がある。この中でも難燃加工剤として好ましいのは無機系リン酸塩、ポリリン酸塩、ポリリン酸アミド、ポリリン酸カーバメイト、Nリンニトリルクロライド、有機系のリン酸エステル、チオリン酸エステル、ホスファイト型、ホスファート型、ホスフィン型(ホスホニウム塩)、ホスフィンオキサイド型、リン酸アミド型、有機化縮合物などのリン系難燃化合物があげられる。代表的な難燃加工剤としてはTHPC(Tetrakis Hydroxy Methyl Phosphonium Chloride)、THPS(Tetrakis Hydroxy Methyl Phosphonium Sulfite)、THPOH(Tetrakis Hydroxy Methyl Phosphonium Hydroxide)、Dialkyl Phoshon−Carbonic Acid Amid N−Metylol、N−Metylol Dimethyl Phosphonopropionamideがあり、反応時にメチロール基を形成し、セルロース系繊維の水酸基(−OH)と反応して高い洗濯耐久性等を付与することができる。
【0013】
獣毛繊維の場合は弱い難燃性のあるせんいであるが、自己消火性までには至らないので、セルロース系繊維と同様に難燃加工を施すことが好ましく、チタニウム塩あるいはジルコニウム塩を化学的に結合させるザプロ加工が代表的な加工法である。
【0014】
上記の非熱溶融繊維すなわち難燃性合成繊維および難燃加工処理したセルロース系繊維や獣毛繊維はそれら単独でも良いが、混紡、交織あるいは交編などによって他の繊維と混合することが可能である。混合する場合はこれら非熱溶融繊維が50重量%以上含まれる必要があり、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上含まれることである。混合率が50重量%未満の場合は生地が溶融して穴が開いたり、自己消火に時間が掛かるために着用者の身体に火傷を生じさせる場合がある。
【0015】
外層布は有毒化学物質の浸透を抑制し、また熱・火炎の輻射熱を出来るだけ防ぐためには織物であることが望ましく、その織組織は特に限定されるものではなく平織、斜文織、朱子織などがあげられ、エアージェットルーム、ウォータージェットルーム、レピアルーム、プロジェクタイルルームなど公知の織機を用いて製織される。
【0016】
本発明の外層布に用いる織物の質量は好ましくは150g/m以上280g/m以下、より好ましくは170g/m以上200g/m以下である。質量が280g/mを越えると風合いが硬くなり、屈曲磨耗が低下するとともに、防護服としての重量が大きくなり着用者の生理的負担が増大する。また、その質量が150g/m未満では平面磨耗性や屈曲磨耗性が低下するとともに、充分な難燃性や熱防護性を得ることが出来ない。また、強度を増すために太繊度糸を一定間隔毎に織り込んだリップストップ織物とすることも可能である。
【0017】
本発明における防護服用材料が優れた熱防護性を有するためには、外層布がJIS L1091(1999)附属書8に記載の「垂直燃焼性試験方法−垂直バーナー法」による燃焼長さ(炭化長)が15cm以下である必要がある。繊維製品において炭化長が25cm以上の場合は易燃性、15cmを越え25cm未満は可燃性、15cm以下は難燃性を有するとされており、本発明の防護服材料における外層布は難燃性を示すものである。
【0018】
本発明の外層布は必要に応じて柔軟加工、形態安定加工、防水加工、はっ水はつ油加工、帯電防止加工、抗菌・防臭加工、防ダニ加工、吸水・吸汗加工、防汚加工、可視光迷彩加工、近赤外迷彩加工、遠赤外線遮蔽加工などの機能加工を施すことが可能である。液体の有毒化学物質が付着した際に外層布の生地表面ではじいて内部に浸透することを防ぐためにはっ水はつ油加工を施すことが好ましい。
【0019】
本発明の内層布は、活性炭素繊維の織編物または不織布を含む繊維材料(以下、「活性炭素繊維シート」という)であり、活性炭素繊維の織編物または不織布を単独で用いても良いが、好ましくはその片面、さらに好ましくは表裏両面に保護層を設けたものである。
【0020】
本発明の防護服用材料は、内層布と外層布とを重ね合わせて、実施例に示す測定法による熱防護性が45℃/15秒以下となる積層体である。人体の細胞組織は約65℃で熱による凝固を生じて死滅するので、防護服の内側の身体表面では65℃以下に保つ必要がある。熱防護性を測定するにあたっては、雰囲気の温度を20±2℃で行う場合には、火炎を暴露した後の上昇温度は45℃以下にする必要がある。また、実際に活動作業中に火炎を浴びた場合には所定の時間のうちに避難や消火などの処置を講ずることが出来るので、15秒のうちに衣服内の温度が65℃、即ち上昇温度が45℃以下であれば被害を最小に抑えることができる。
【0021】
本発明で使用される活性炭素繊維は前駆体繊維を炭化・賦活の熱処理を施して得られるものであり、前駆体繊維としてはビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン、ポリノジック、リヨセル、溶融紡糸型などの再生セルロース繊維、アクリロニトリル繊維、フェノール系繊維、ピッチ系繊維、ポリビニルアルコール繊維、リグニン系繊維などが挙げられる。この中で防護衣服用の材料としては、ビスコースレーヨンやポリノジックの再生セルロース系繊維、フェノール系繊維またはアクリロニトリル繊維が好ましく、炭化・賦活後の繊維強度と化学物質吸着量のバランスからはフェノール系繊維がさらに好ましい。
【0022】
上記前駆体繊維を製編織あるいは不織布化した後に、300〜800℃で不活性ガス雰囲気下で炭化した後に、600〜1100℃の活性ガスを含んだ雰囲気下で賦活することにより活性炭素繊維シートが得られる。炭化と賦活はバッチ式で処理しても、連続的に処理してもよい。
【0023】
本発明は有毒化学物質から身体を保護するための防護服用材料に関するものであり、ここで有毒化学物質は活性炭素繊維によって吸着ろ過され、防護服の内部に浸透することを防ぐものである。従って、本発明における活性炭素繊維の吸着性能を得る特性として、BET法による比表面積が好ましくは1000〜2000m/gであり、より好ましくは1300〜1700m/gである。また有機溶剤に対する吸着特性としては、JIS K1477(2008)に記載のトルエン吸着性能における平衡吸着量が30%以上の活性炭素繊維シートである。
【0024】
本発明において、活性炭素繊維シートは上述の有毒化学物質を吸着ろ過する機能とともに熱・火炎に対する遮蔽の役割もする。すなわち活性炭素繊維シートはほとんどが炭素質で出来ているので、高温に曝されても溶融せず穴が開くことがないので断熱層となる。このためには活性炭素繊維シートの絶乾質量は80〜150g/mであり、好ましくは100〜130g/mである。
【0025】
活性炭素繊維シートは内層布として単独で使用しても良いが、活性炭素繊維は脆いので、衣服として使用した場合に摩擦や圧縮によって損耗する可能性がある。これを防ぐために活性炭素繊維シートの片面あるいは表裏両面に保護層を配置することが好ましい。保護層は柔軟で通気性のある織編物が適しており、好ましくは編物による保護層を活性炭素繊維シートの表裏両面に貼り合わせることができる。
【0026】
内層布は活性炭素繊維シートを中心としてその片面あるいは両面に保護層を配置した構成とするのが好ましい。内層布のかさ高性は5.0以上であり、好ましくは5.0〜8.0、さらに好ましくは5.5〜7.0である。また内層布の厚さは好ましくは1.6〜3.5mmであり、より好ましくは1.8〜2.5mmである。かさ高性が5.0未満の場合は断熱性が悪くなり、充分な熱防護性が得られない。さらに、厚さが1.6mm未満の場合は断熱層が薄くなり熱防護性が低下し、また厚さが3.5mmを超えると衣服として使用する場合にはかさ張り、フィット性に劣り、作業活動の妨げとなる。
【0027】
内層布は活性炭素繊維シートと保護層の貼り合わされたものであるが、その貼り合わせる方法はミシン糸で縫い合わせるキルティング法、水性バインダーを用いたラミネート法あるいは熱可塑性接着シートを用いたラミネート法など公知の方法が利用できるが、活性炭素繊維シートの吸着能力を妨げるような有機溶剤を含む接着媒体は避ける必要がある。
【0028】
外層布と内層布を用いて作製した防護服が本発明に含まれる。即ち非熱溶融性繊維を50重量%以上含み、JIS L1091(1999)の垂直法による炭化長が15cm以下の織物からなる外層布と、絶乾質量が80〜150g/mである織物、編物あるいは不織布の形状をした活性炭素繊維シートを含み、かさ高性が5.0以上である内層布との積層体からなり、その熱防護性が45℃/15秒以下である防護服用材料である。
ここで外層布と内層布はキルティング法やラミネート法で接合してもよいが、接合することなく重ね合わせただけで衣服の形状に縫製しても構わない。本発明の防護服はこれら外層布と内層布を材料として用いて、胴回りに締め紐を有した上着と吊りベルトを備えたズボンからなる。ズボンの吊りベルトを取り付けることにより、体にフィットして着用者が行動しやすくなると共に、胴回りに防護服材料を配置することにより身体駆幹部を熱や化学剤から防護することができる。また上着の胴回りに締め紐を配置することにより同じく行動しやすくなると共に防護服材料が身体駆幹部からずれて熱や化学剤に対する防護性が低下することを抑制できる。
【実施例】
【0029】
以下実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。尚、実施例に記載の評価方法は以下に記載する方法による。
【0030】
<熱防護性試験>
ASTM D4108−1987の試験装置に準拠して、次の方法によって測定した。下から試験供試体である外層布と内層布を順に重ねて把持具に装着して、プロパンガスバーナーの口の上50mmとなるように試料を設置する。この時、外層布がバーナー側であり、防護服を作製した場合の身体側になる内層布が上側になる。試料から離れた1cm上方に熱電対温度計を設置し、接炎前の温度(A)をする。一旦バーナーを外して、プロパンガスを送って炎を点火し、炎の長さが4cmとなるように調整する。炎が安定した後にバーナーを試料の下に素早く移動して、15秒後の熱電対温度計の表示温度(B)を計測する。本発明による熱防護性は次式による。尚、熱防護性試験は20±2℃の雰囲気で行った。
熱防護性(℃)=B(℃)−A(℃)
【0031】
<トルエン平衡吸着量>
JIS K1477(2007)に記載のトルエン吸着性能のうち平衡吸着量による。
【0032】
<厚さ>
厚さはJIS L1096(2010)に記載の8.4厚さのうちA法により、加圧する一定圧力は0.7kPaとした。
【0033】
<質量>
質量はJIS L1096(2010)に記載の8.3.2標準状態における単位面積当たりの質量のうちA法により測定した。
【0034】
<かさ高性>
かさ高性はJIS L1096(2010)に記載の8.5かさ高性により測定した。
【0035】
<絶乾質量>
絶乾質量は試料を115±5℃の恒温乾燥器中で約3時間加熱した後、密栓してデシケータ中で室温まで冷却した後の単位面積当りの質量を求めた。
【0036】
<炭化長>
炭化長はJIS L1091(1999)附属書8に記載の「垂直燃焼性試験方法−垂直バーナー法」によって測定した。
【0037】
[外層布1]
ナイロン66フィラメント糸と綿の混率を23/77とし、電気開繊方式により40番手の混紡糸を作成した。次いで常法によりエアジェット織機を用いて製織し、たて糸密度140本/2.54cm、よこ糸密度108本/2.54cmの2/1綾織物を作成した。次いで、定法により毛焼、糊抜、精練、漂白、シルケット、染色、ソーピングを行った。さらに、この染色織物をN−メチロールジメチルホスホノプロピオン酸アミドを主成分とするピロバテックスCPを40%、塩化アンモニウムを0.5%含む水溶液に浸漬し、ピックアップが65%となるように絞り、乾燥・熱処理を施して外層布1を得た。本外層布1の質量は171g/mであった。
【0038】
[外層布2]
ナイロン糸と綿の混率を5/95とし、精紡交撚方式により得た40番手の混紡糸を用いた以外は外層布1と同様の製織、下晒、染色、加工処理を施して外層布2を得た。本外層布2の質量は179g/mであった。
【0039】
[外層布3]
78dtex−30filのナイロン66糸をたて糸に用い、単糸繊度が2.2dtexのモダクリル繊維であるカネカロン(登録商標)ステープルの20番手紡績糸をよこ糸に用いた、たて糸密度116本/2.54cm、よこ糸密度50本/2.54cmの綾織物を定法により、精練、染色して外層布3を得た。本外層布3の質量は125g/mであった。
【0040】
[活性炭素繊維シート1]
単糸繊度2.2dtexのフェノール系繊維であるカイノール(登録商標)ステープルを用いて20番手の紡績糸を得た。この紡績糸を22ゲージの両面丸編み機により質量が225g/mで厚さが1.65mmのフライス編地を成編した。
この編地を焼成炉を用いて不活性ガス中で常温から400℃まで昇温させて30分間炭化し、次いで水蒸気が12wt%含有する活性ガス中で890℃の温度で90分間賦活した。得られた活性炭素繊維編物は、絶乾質量が120g/m、厚さが1.05mmであった。この活性炭素繊維編物のトルエン吸着量は47%であり、BET比表面積は1380m/gと非常に高い吸着性能を有するものであった。
【0041】
[活性炭素繊維シート2]
活性炭素繊維シート1の製造に用いたフェノール系繊維の紡績糸を用いて目付90g/mの平織物を作成し、同様に炭化・賦活処理を施して活性炭素繊維織物を作成した。得られた活性炭素繊維織物は絶乾質量が50g/m、厚さが0.35mmであった。この活性炭素繊維編物のトルエン吸着量は51%であり、BET比表面積は1400m/gであった。
【0042】
[保護層1]
78dtex−24filのナイロン66フィラメント糸を地糸に用い、244dtexのナイロン66モノフィラメント糸をパイル糸として、22ゲージ6枚筬ダブルラッセイル機でたて編地を編み立てた後に、定法により精練、染色した。この編物を半裁してカットパイルに下の後にパイルの先端を熱溶融して球状物を形成させた。このようにして得られた編物は質量が310g/mで厚さが1.88mmであった。
【0043】
[保護層2]
84dtex−24filのナイロン66フィラメント糸を地糸に用い、176dtexのナイロン66モノフィラメント糸をパイル糸として、22ゲージ6枚筬ダブルラッセイル機でたて編地を編み立てた後に、定法により精練、染色した。この編物を半裁してカットパイルに下の後にパイルの先端を熱溶融して球状物を形成させた。このようにして得られた編物は質量が147g/mで厚さが0.90mmであった。
【0044】
[保護層3]
28ゲージ2枚筬トリコット編機により、フロント筬にポリエステル仮撚加工糸167dtex−48filを、バック筬にポリエステル仮撚加工糸83dtex−24filを各々フルセットとして、フロント1−0/5−6、バック1−2/1−0の組織で経編地を編成させて、経方向に伸長させてループパイルを発現させてフレンチパイルとした後に、定法により精練・染色した。このようにして得られた編物は質量が230g/mで厚さが1.69mmであった。
【0045】
[保護層4]
83dtex−36filのポリエステルフィラメント糸をフロント糸に、22dtexのポリエステルモノフィラメント糸をバック糸に用いてトリコット編機にてたて編地を成編し、定法により精練、染色した。このようにして得られたトリコット編物の質量は60g/m、厚さが0.22mmであった。
【0046】
[内層貼り合せ方法1]
上糸にポリエステルフィラメント糸50番手のミシン糸を用い、下糸にポリエステルスパン糸130番手のミシン糸を用いて、保護層の間に活性炭素繊維シートを挟んで、打ち込み本数1本/2.54cm、ダイヤ柄でキルティング縫製した。
【0047】
[内層貼り合せ方法2]
保護層と活性炭素繊維シートの間に質量が15g/mのポリアミド系不織布状熱可塑性接着剤(呉羽テック製ダイナック(登録商標)、融点115℃)により加熱ローラによってラミネートして貼り合わせた。
【0048】
(実施例1)
保護層1/活性炭素繊維シート1/保護層4をこの順で重ねてキルティング法により貼り合わせた。そのときの質量、かさ高性および厚さを表1に示す。外層布1を保護層1側に配置して重ねて配置したときの熱防護性を同じく表1に示した。この防護服材料は優れた熱防護性を有する。
【0049】
(実施例2)
保護層2/活性炭素繊維シート1/保護層4をこの順で重ねてキルティング法により貼り合わせた。そのときの質量、かさ高性および厚さを表1に示す。外層布2を保護層2側に配置して重ねて配置したときの熱防護性を同じく表1に示した。この防護服材料は優れた熱防護性を有する。
【0050】
(実施例3)
保護層3/活性炭素繊維シート1/保護層4をこの順で重ねてラミネート法により貼り合わせた。そのときの質量、かさ高性および厚さを表1に示す。外層布2を保護層3側に配置して重ねて配置したときの熱防護性を同じく表1に示した。この防護服材料は優れた熱防護性を有する。
【0051】
(比較例1)
保護層4/活性炭素繊維シート1/保護層4をこの順で重ねてラミネート法により貼り合わせた。そのときの質量、かさ高性および厚さを表1に示す。外層布2を保護層4の片方側に配置して重ねて配置したときの熱防護性を同じく表1に示した。この防護服材料は熱防護性に劣るものである。
【0052】
(比較例2)
保護層3/活性炭素繊維シート2/保護層4をこの順で重ねてラミネート法により貼り合わせた。そのときの質量、かさ高性および厚さを表1に示す。外層布2を保護層3側に配置して重ねて配置したときの熱防護性を同じく表1に示した。この防護服材料は熱防護性に劣るものである。
【0053】
(比較例3)
保護層2/活性炭素繊維シート1/保護層4をこの順で重ねてキルティング法により貼り合わせた。そのときの質量、かさ高性および厚さを表1に示す。外層布3を保護層2側に配置して重ねて配置したときの熱防護性を同じく表1に示した。この防護服材料は熱防護性に劣るものである。
【0054】
(実施例4)
実施例2に示す防護服材料を用いて、図1に示す防護服を作成した。防護服上着の前身ごろと後見ごろの外層布の内側に外層布生地材料で作成した腰締め紐覆い布を縫いつけ、胴締め紐をその中に入れて、前立て部で紐の端部を固定した。また、脇部にハトメを取り付けて、その穴から紐を外に出し、胴部の周囲を締め付けられるようにした。
【0055】
この防護服は胴回りの駆幹部がズボンと上着の両方の材料が重なり合って防護性が充分に確保できると共に、ズボン吊りと胴締め紐を調整することにより身体にフィットして、諸動作を行ってもずれることはなかった。
【0056】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の防護服用材料および防護服は、ガス状および液体状の有毒化学物質から身体を防護する防護服用材料および防護服において、熱・火炎から身体を防護するために熱防護性、特に遮熱性に優れるという機能をさらに付加した防護服用材料および防護服を提供しようとするものであり、産業界に寄与すること大である。
【符号の説明】
【0058】
1:上着
2:ズボン
3:胴締め紐
4:締め紐通し部
5:吊りベルト
6:外層布
7:腰締め紐覆い布
8:締め紐
9:保護層
10:活性炭素繊維シート
11:内層布
図1
図2