(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関(以下エンジンとも称する)の運転状況に応じて吸気弁および排気弁の開閉時期を変更可能とする弁開閉時期制御装置が実用化されている。この弁開閉時期制御装置は、例えば、エンジンの作動による駆動側回転部材の回転に対する従動側回転部材の相対回転位相を変化させることにより、従動側回転部材の回転に伴って開閉される吸排気弁の開閉時期を変更する機構を有している。
【0003】
一般に、吸排気弁の最適な開閉時期はエンジンの始動時や車両の走行時などエンジンの運転状況により異なる。そこで、エンジンの始動時には、駆動側回転部材の回転に対する従動側回転部材の相対回転位相を所定位相に拘束することにより、エンジンの始動に最適な吸排気弁の開閉時期を実現している。ただし、エンジン始動後のアイドリング時においても相対回転位相をこの位相を維持すると炭化水素(HC)排出量が増加するので、エンジン始動後のアイドリング時には、相対回転位相をHC排出量が抑制可能な位相に変化させることが望まれる。
【0004】
特許文献1には、カムシャフトに連結する駆動側回転体としてのハウジングの内部に、従動側回転体としての内部ロータを備えた弁開閉時期制御装置が開示されている。この弁開閉時期制御装置においては、ハウジングと内部ロータにより流体圧室が形成され、流体圧室が仕切部としてのベーンにより遅角室と進角室とに仕切られている。また、遅角室と進角室との一方を選択して作動流体としての作動油を供給することでハウジングと内部ロータとの相対回転位相を遅角位相方向または進角位相方向に移動させる相対回転用OCVが備えられている。さらに、相対回転位相を進角方向に変位するよう付勢するトーションスプリングが内部ロータからハウジングに亘って備えられている。
【0005】
特許文献1に開示された弁開閉時期制御装置では、出退自在な第一規制部材と第二規制部材とがハウジング側に備えられ、第一規制部材と嵌合する第一規制溝と、第二規制部材と嵌合する第二規制溝とが内部ロータ側に形成されている。第一規制部材と第二規制部材とはスプリングの付勢力により第一規制溝と第二規制溝に突入する。一方、内部ロータには、第一規制部材を退出させる方向に作動油の圧力を作用させる第一連通路と、第二規制部材を退出させる方向に作動油の圧力を作用させる第二連通路とが形成されている。
【0006】
第一規制部材が第一規制溝と嵌合し、かつ第二規制部材と第二規制溝が嵌合した状態が中間ロック位相であり、第二規制部材が第二規制溝から退出しかつ第一規制部材が第一規制溝の遅角側の端部に当接した状態が遅角側規制位相である。
【0007】
この弁開閉時期制御装置では、第一規制溝または第二規制溝から第一規制部材または第二規制部材をそれぞれ独立して退出させる作動を行わせるために、第一規制溝と第二規制溝とに個別に作動油を供給する規制部用OCVを備えている。この規制部用OCVによって、エンジンの始動時には相対回転位相を始動性の良好な中間ロック位相に拘束し、エンジン始動後のアイドリング時には、HC排出量を抑制するために相対回転位相を遅角側に変位させて相対回転位相を中間ロック位相より遅角側の遅角側規制位相に規制する。
【0008】
通常、エンジン運転中は、カムシャフトのトルク変動に基づく遅角方向及び進角方向の変位力が内部ロータに作用する。この変位力は平均すると遅角方向に働き、内部ロータは遅角方向に変位しようとする。以下、カムシャフトのトルク変動に基づく遅角方向及び進角方向の変位力の平均した変位力を「カムシャフトのトルク変動に基づく遅角方向への平均変位力」と称する。特許文献1に記載の弁開閉時期制御装置は、トーションスプリングを備えることにより、カムシャフトのトルク変動に基づく遅角方向への平均変位力に拘らず、相対回転位相を円滑かつ迅速に進角方向へ変位させることを可能としている。
【発明を実施するための形態】
【0025】
1.第1実施形態
〔基本構成〕
以下、本発明の第1の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
図1に、本実施形態に係る弁開閉時期制御装置10の構成を表す縦断面図を示し、
図2に、
図1のII-II線断面図を示す。
図1および
図2に示すように、内燃機関としてのエンジンEの吸気バルブ(不図示)の開閉時期を設定する弁開閉時期制御装置10と、エンジンEとを制御するエンジン制御ユニット(ECU)40を備えた内燃機関制御システムが構成されている。
【0026】
本実施形態に係る内燃機関制御システムは、信号待ち等で停車した際にエンジンEを停止させるアイドリングストップ制御を実現するものである。なお、この内燃機関制御システムは、ハイブリッド型の車両のようにエンジンEの停止と始動とが頻繁に行われる車両において、弁開閉時期制御装置10とエンジンEとを制御する場合にも適用できる。
【0027】
図1に示すエンジンEは、乗用車等の車両に備えられるものであり、クランクシャフト1に駆動回転力を伝えるスタータモータMと、インテークポートあるいは燃焼室に対する燃料の噴射を制御する燃料制御装置5と、点火プラグ(不図示)による点火を制御する点火制御装置6と、クランクシャフト1の回転角と回転速度とを検出するシャフトセンサ1Sとを備えている。弁開閉時期制御装置10には外部ロータ11と内部ロータ12との相対回転位相を検出する位相検出センサ46が備えられている。
【0028】
ECU40は、機関制御部41と位相制御部42とを備えている。機関制御部41はエンジンEの自動始動と自動停止とを行い、位相制御部42は弁開閉時期制御装置10の相対回転位相とロック機構とを制御する。このECU40に関連する制御構成と、制御形態については後述する。
【0029】
〔弁開閉時期制御装置〕
図1に示すように、弁開閉時期制御装置10は、エンジンEのクランクシャフト1と同期回転する駆動側回転部材としての外部ロータ11と、エンジンEの燃焼室の吸気バルブ(不図示)を開閉するカムシャフト3に連結ボルト13により連結する従動側回転部材としての内部ロータ12とを備えている。内部ロータ12は、カムシャフト3の軸芯Xと同軸芯に配置され、この内部ロータ12と外部ロータ11とは軸芯Xを中心にして相対回転自在に構成されている。
【0030】
外部ロータ11と内部ロータ12とは軸芯Xと同軸芯上に配置され、これらはフロントプレート14とリヤプレート15とに挟み込まれる状態で締結ボルト16により締結されている。リヤプレート15の外周にはタイミングスプロケット15Sが形成されている。内部ロータ12の中心部位がリヤプレート15の中央部に形成された開口を貫通する状態で配置され、内部ロータ12のリヤプレート15側の端部に吸気側のカムシャフト3が連結される。
【0031】
図2に示すように、外部ロータ11には、軸芯Xの方向(径方向内側)に向けて突出する複数の突出部11Tが一体的に形成されている。内部ロータ12は複数の突出部11Tの突出端に密接する外周を有する円柱状に形成されている。これにより、回転方向で隣接する突出部11Tの間に流体圧室Cが形成される。内部ロータ12の外周には、流体圧室Cに向けて突出するように嵌め込まれている仕切部としてのベーン17を複数備えている。このベーン17により仕切られた流体圧室Cは、回転方向で進角室Caと遅角室Cbとに分割されている。
【0032】
図1に示すように、内部ロータ12とフロントプレート14とに亘って、外部ロータ11と内部ロータ12との相対回転位相(以下、相対回転位相と称する)が最遅角にある状態から相対回転位相を第1中間ロック位相P1に達するまで付勢力を作用させるトーションスプリング18が備えられている。なお、トーションスプリング18の付勢力が作用する範囲は、第1中間ロック位相P1を超えるものでも良く、第1中間ロック位相P1に達しないものであっても良い。
【0033】
この弁開閉時期制御装置10は、エンジンEのクランクシャフト1に設けた出力スプロケット7と、外部ロータ11のタイミングスプロケット15Sとに亘ってタイミングチェーン8を巻回することで、外部ロータ11はクランクシャフト1と同期回転する。図面には示していないが、排気側のカムシャフト3の前端にも弁開閉時期制御装置10と同様の構成の装置が備えられており、この装置に対してもタイミングチェーン8から回転力が伝達される。
【0034】
図2に示すように、弁開閉時期制御装置10は、クランクシャフト1からの駆動力により外部ロータ11が駆動回転方向Sに向けて回転する。また、外部ロータ11に対して内部ロータ12が駆動回転方向Sと同方向へ回転する方向を進角方向Saと称し、この逆方向への回転方向を遅角方向Sbと称する。この弁開閉時期制御装置10では、相対回転位相が進角方向Saに変位する際に変位量の増大に伴い吸気圧縮比を高め、相対回転位相が遅角方向Sbに変位する際に変位量の増大に伴い吸気圧縮比を低減するようにクランクシャフト1とカムシャフト3との関係が設定されている。
【0035】
ベーン17で仕切られた流体圧室Cのうち、作動流体としての作動油が供給されることで相対回転位相を進角方向Saに変位させる空間が進角室Caであり、これとは逆に、作動油が供給されることで相対回転位相を遅角方向Sbに変位させる空間が遅角室Cbである。ベーン17が進角方向の移動端(軸芯Xを中心にした揺動端)に達した状態での相対回転位相を最進角位相と称し、ベーン17が遅角側の移動端(軸芯Xを中心にした揺動端)に達した状態での相対回転位相を最遅角位相と称する。なお、最進角位相はベーン17の進角方向の移動端だけはなく、この近傍を含む概念である。これと同様に、最遅角位相はベーン17の遅角方向での移動端だけではなく、この近傍を含む概念である。
【0036】
内部ロータ12には進角室Caに連通する進角制御油路21と、遅角室Cbに連通する遅角制御油路22と、後述する3つのロック機構に作動油を供給する主解除油路23とが形成されている。この弁開閉時期制御装置10では、エンジンEのオイルパン1Aに貯留される潤滑油を作動油(作動流体)として用いており、この作動油が進角室Caまたは遅角室Cbに供給される。
【0037】
〔弁開閉時期制御装置:ロック機構〕
この弁開閉時期制御装置10は、第1中間ロック機構L1と、第2中間ロック機構L2と、最遅角ロック機構L3の3つのロック機構を備えている。第1中間ロック機構L1は、外部ロータ11と内部ロータ12との相対回転位相を
図2に示す第1中間ロック位相P1にロックし、ロック解除する機能を有する。第2中間ロック機構L2は、相対回転位相を第1中間ロック位相P1より遅角方向Sbで
図3に示す第2中間ロック位相P2にロックし、ロック解除する機能を有する。最遅角ロック機構L3は、相対回転位相を
図4に示す最遅角位相に対応する最遅角ロック位相P3にロックし、ロック解除する機能を有する。
【0038】
第1中間ロック位相P1は、相対回転位相が進角方向Saの作動端となる最進角位相と遅角方向Sbの作動端となる最遅角位相との間の所定位相に設定され、低温状態のエンジンEの始動を良好に行うことができる相対回転位相である。第2中間ロック位相P2は、エンジンEの始動後のアイドリング時にHC排出量を抑制できる相対回転位相である。最遅角ロック位相P3は、高温状態で停止しているエンジンE(停止から時間が経過していない状態のエンジンE)を低トルクでクランキングする相対回転位相である。
【0039】
図2〜
図4に示すように、第1中間ロック機構L1と第2中間ロック機構L2と最遅角ロック機構L3とは、第1ロック部材31と、第2ロック部材32と、第1凹部35と、第2凹部36と、第3凹部37との組み合わせにより構成される。
【0040】
第1ロック部材31と第2ロック部材32はプレート状の部材で構成され、軸芯Xに平行な姿勢で軸芯X方向に向けて接近・離間できるように外部ロータ11に対し出退自在に支持されている。第1ロック部材31は第1スプリング31Sの付勢力により内部ロータ12の方向に突出し、第2ロック部材32は第2スプリング32Sの付勢力により内部ロータ12の方向に突出する。
【0041】
第1凹部35は、内部ロータ12の外周の軸芯方向に沿って溝状に形成されている。周方向の溝幅は、第1ロック部材31の厚みよりも広い。第2凹部36は内部ロータ12の外周の軸芯方向に沿って溝状に形成されており、溝の深さは第1凹部35と比較して浅く、かつ進角方向の端部には第2ロック部材32と嵌合する嵌合凹部36Aが連続的に形成されている。嵌合凹部36Aの溝深さは、第1凹部35の溝深さと同じである。第2凹部36全体の周方向の溝幅は第1凹部35の溝幅よりも広く、嵌合凹部36Aの溝幅は、第2ロック部材32が隙間なく嵌合可能な幅である。第3凹部37は内部ロータ12の軸芯方向に沿って溝状に形成されている。周方向の溝幅は、第1ロック部材31が隙間なく嵌合可能な幅に形成されている。
【0042】
図2に示すように、第1中間ロック位相P1では、第1凹部35と嵌合した第1ロック部材31が第1凹部35の内面の進角方向Saの端部に当接すると共に、第2凹部36と嵌合した第2ロック部材32が第2凹部36の内面の遅角方向Sbの端部に当接している。
【0043】
上述したように、第1中間ロック機構L1は、第1ロック部材31と第1凹部35と第2ロック部材32と第2凹部36とで構成され、これにより相対回転位相を第1中間ロック位相P1に拘束(ロック)する。
【0044】
第2中間ロック位相P2は、相対回転位相が第1中間ロック位相P1にある状態で第1ロック部材31を第1凹部35から退出させた後に、相対回転位相を遅角方向Sbに変位させて第2ロック部材32を嵌合凹部36Aに嵌合させたときの位相である。
図3に、弁開閉時期制御装置10の第2中間ロック位相P2状態を表す断面図を示す。
【0045】
このように、第2中間ロック機構L2は、第2ロック部材32と第2凹部36、特に嵌合凹部36Aとで構成され、これにより相対回転位相を第2中間ロック位相P2にロックする。
【0046】
なお、この第2中間ロック位相P2では、第2ロック部材32が第2凹部36の嵌合凹部36Aと嵌合する構成は必須ではない。嵌合凹部36Aを備えずに浅い溝だけが形成された第2凹部36によって、第2中間ロック機構L2を構成しても良い。このように嵌合凹部36Aを備えない構成では、第2中間ロック位相P2において、第2凹部36の遅角方向Sbの壁面に第2ロック部材32が当接して回転を規制する構成となる。
【0047】
最遅角ロック位相P3は、相対回転位相が第2中間ロック位相P2にある状態で第2ロック部材32を第2凹部36から退出させた後に、相対回転位相を更に遅角方向Sbに変位させて第1ロック部材31を第3凹部37に嵌合させたときの位相である。
図4に、弁開閉時期制御装置10の最遅角ロック位相P3状態を表す断面図を示す。
【0048】
このように、弁開閉時期制御装置10においては、第1中間ロック機構L1、第2中間ロック機構L2、最遅角ロック機構L3のそれぞれについて専用のロック部材と凹部を設ける必要がなく、第1ロック部材31、第2ロック部材32と、第1凹部35、第2凹部36、第3凹部37の組み合わせにより構成される。従って、弁開閉時期制御装置10の構成部品点数を減らして安価にすることができると共に、装置全体を小型にすることができる。
【0049】
〔弁開閉時期制御装置:油路構成〕
図2〜
図4に示すように、主解除油路23(共通流路の一例)の作動油を第1凹部35に給排する第1解除油路23Aと、主解除油路23の作動油を第2凹部36に給排する第2解除油路23Bと、主解除油路23の作動油を第3凹部37に給排する第3解除油路23Cとが内部ロータ12に形成されている。
【0050】
特に、主解除油路23から第2解除油路23Bを介して第2凹部36に供給される作動油の流れを抑制するために、この油路系に遅延部としてのオリフィス部Rが備えられている。前述したように、第2凹部36には嵌合凹部36Aが形成されている。この嵌合凹部36Aの径方向内側に接続された第2解除油路23Bにオリフィス部Rが形成されている。
図5に、オリフィス部Rの構成を表す断面図を示す。
【0051】
図5に示すように、オリフィス部Rは、第2解除油路23Bの内部に移動自在に収容されたボール26と、第2解除油路23Bに嵌め込まれる筒状のシート27と、ボール26が当接するホーン状の当接面27Sと、当接面27Sからボール26を離間させる方向に付勢力を与えるようにシート27とボール26との間に介装されるスプリング28とを備えている。シート27には、当接面27Sにボール26が当接した場合にも作動油の流通を可能にする溝部27Aが形成されている。
図6に、
図5のVI-VI線断面図を示す。
図6に示すように、溝部27Aの流路断面積を第1解除油路23Aの流路断面積より小さくすることにより、ボール26が当接面27Sに当接しているときに第2解除油路23B(溝部27A)を流通する作動油には、第1解除油路23Aを流通する作動油より高い流路抵抗が発生する。
【0052】
スプリング28は、内部ロータ12の回転時に発生する遠心力によりボール26が当接面27Sに当接しようとするのを、付勢力で阻止するために備えられている。また、付勢力が作用する状態でボール26に当接してボール26の位置を決める規制ピン29が第2解除油路23Bの内部に形成されている。
【0053】
この構成により、オリフィス部Rは、主解除油路23から第2ロック部材32に作動油が供給される時には、作動油の圧力がスプリング28の付勢力を上回ることによりボール26が当接面27Sに当接して溝部27Aにのみ作動油が流通する状態となる。これにより、流路断面積が小さくなり作動油の流れが抑制される。第2凹部36から作動油が排出される時には、油圧およびスプリング28の付勢力によりボール26が当接面27Sから離間するので、作動油はオリフィス部Rにおいても第2解除油路23Bを流通する。その結果、排出時の流路抵抗は小さくなり、第2解除油路23Bを流通して排出される作動油は、第1解除油路23Aを流通して排出される作動油と同等に排出される。
【0054】
このように、オリフィス部Rを備えることにより、第1中間ロック位相P1状態で主解除油路23に作動油が供給された場合には、第1凹部35には短時間に作動油が供給され、短時間のうちに第1ロック部材31を第1凹部35から退出させることができる。これに対して、第2凹部36への作動油の供給は、オリフィス部Rにより作動油の流通が制限されるため、第2ロック部材32の第2凹部36からの退出は、第1ロック部材31の退出より遅くなる。すなわち、第1ロック部材31が第1凹部35から退出した時点では、第2ロック部材32は第2凹部36と未だ嵌合した状態にあり、その後しばらくの間は、嵌合状態を維持する。
【0055】
このように第1ロック部材31に対する第2ロック部材32の退出が遅延する現象を利用することで、第1ロック部材31の退出を確実に行いつつ、第2ロック部材32と第2凹部36の嵌合を維持する状態を実現できる。これにより、第1中間ロック位相P1から第2中間ロック位相P2への移行を確実に行うことが可能になる。
【0056】
なお、遅延部としてのオリフィス部Rを、ボール26に代えてポペット弁を用いることや、ボール26やポペット弁が備えられた流路と並列にオリフィス用の流路を備えて構成しても良い。
【0057】
このように、主解除油路23を設けることにより、第1中間ロック機構L1、第2中間ロック機構L2、最遅角ロック機構L3のそれぞれについて個別に油路を形成する必要がなくなり、弁開閉時期制御装置10の油路の加工工数を削減して安価にすることができる。また、油路が占有する体積を削減することができるので、弁開閉時期制御装置10を小型化することができる。
【0058】
〔弁開閉時期制御装置の流体制御機構〕
図1に示すように、エンジンEには、エンジンEの駆動力でオイルパン1Aの潤滑油を吸引して作動油として送り出す油圧ポンプ20を備えている。本実施形態に係る内燃機関制御システムでは、油圧ポンプ20から吐出された作動油を弁開閉時期制御装置10の進角室Caと遅角室Cbとの一方を選択して供給する電磁操作型の位相制御弁24と、油圧ポンプ20から吐出された作動油を主解除油路23に供給する電磁操作型の解除制御弁25とを備えている。特に、油圧ポンプ20と、位相制御弁24と、解除制御弁25と、作動油が給排される油路とを併せて弁開閉時期制御装置10の流体制御機構が構成されている。
【0059】
位相制御弁24は、制御信号により進角ポジションと遅角ポジションと中立ポジションとに切換操作可能な電磁弁として構成されている。つまり、進角ポジションでは、油圧ポンプ20から吐出される作動油が進角制御油路21を流通して進角室Caに供給されると共に、遅角室Cbの作動油が遅角制御油路22から排出される。遅角ポジションでは、油圧ポンプ20から吐出される作動油が遅角制御油路22を流通して遅角室Cbに供給されると共に、進角室Caの作動油が進角制御油路21から排出される。中立ポジションでは、進角室Caと遅角室Cbのいずれにも作動油の給排はない。なお、位相制御弁24へ100%デューティで通電がなされたときには位相制御弁24は進角ポジションとなり、通電が切断されたときは遅角ポジションとなる。
【0060】
解除制御弁25は、ECU40からの制御信号によりアンロックポジションとロックポジションとに切換操作可能な電磁弁として構成されている。つまり、アンロックポジションでは、油圧ポンプ20から吐出される作動油が主解除油路23を流通して第1凹部35と第2凹部36と第3凹部37とに供給される。ロックポジションでは、主解除油路23を流通して第1凹部35と第2凹部36と第3凹部37とからそれぞれ作動油が排出されることにより、第1ロック部材31と第2ロック部材32がそれぞれ第1凹部35、第2凹部36、第3凹部37のいずれかに嵌合可能になる。なお、解除制御弁25への通電がなされたときは解除制御弁25はロックポジションとなり、通電が切断されたときはアンロックポジションとなる。
【0061】
〔制御構成〕
図1に示すように、ECU40には、シャフトセンサ1Sと、イグニッションスイッチ43と、アクセルペダルセンサ44と、ブレーキペダルセンサ45と、位相検出センサ46とからの信号が入力される。ECU40は、スタータモータMと、燃料制御装置5と、点火制御装置6のそれぞれを制御する信号を出力すると共に、位相制御弁24と解除制御弁25を制御する信号を出力する。
【0062】
イグニッションスイッチ43は、内燃機関制御システムを起動させるスイッチとして構成され、ON操作によりエンジンEを始動し、OFF操作によりエンジンEを停止させる。また、ON操作された場合には、アイドリングストップ制御によるエンジンEの自動停止と自動始動とが可能な状態になる。
【0063】
アクセルペダルセンサ44は、アクセルペダル(不図示)の踏み込み量を検出し、ブレーキペダルセンサ45は、ブレーキペダル(不図示)の踏み込みを検出する。
【0064】
機関制御部41は、イグニッションスイッチ43の操作に基づいてエンジンEの始動と停止とを実現すると共に、エンジンEがアイドリング状態で停車した際にエンジンEを一時的に停止するアイドリングストップ制御を実現する。
【0065】
位相制御部42は、エンジンEの稼動時に弁開閉時期制御装置10による吸気弁のタイミング制御を行い、エンジンEが停止する際の状況に基づいて弁開閉時期制御装置10の相対回転位相を設定し、ロック機構によるロック状態への移行を実現する。
【0066】
〔制御形態:通常スタート制御〕
次に、本実施形態に係る内燃機関制御システムの制御形態について
図7〜
図11を用いて説明する。なお、エンジンEの始動からエンジンEの停止までにおける位相制御弁24の制御、解除制御弁25の制御、相対回転位相の変位、第1中間ロック機構L1の状態、第2中間ロック機構L2の状態、および最遅角ロック機構L3の状態のタイムチャートを
図12に示す。
【0067】
エンジンEが低温で停止している状態では、相対回転位相は第1中間ロック機構L1により第1中間ロック位相P1にロックされている。
図7に、相対回転位相が第1中間ロック位相P1時のロック機構と流体制御機構を表す模式図を示す。
【0068】
エンジンEが低温で停止している状態では、進角室Caと遅角室Cbから作動油が排出されている。また、解除制御弁25はアンロックポジションになっているが、第1凹部35、第2凹部36、第3凹部37のいずれからも作動油は排出されている。そして第1凹部35と嵌合した第1ロック部材31が第1凹部35の内面の進角方向Saの端部に当接すると共に、第2凹部36と嵌合した第2ロック部材32が第2凹部36の内面の遅角方向Sbの端部に当接した状態にある。
【0069】
この状態で、イグニッションスイッチ43が人為的にON操作された場合には、機関制御部41が、スタータモータMを回転駆動させ、燃料制御装置5による燃焼室への燃料供給を行い、点火制御装置6により点火プラグでの点火を行う。これにより、エンジンEが始動して、アイドリング運転(触媒暖気前)が開始される。このとき、イグニッションスイッチ43のON操作と同時に解除制御弁25に通電がなされ、解除制御弁25はロックポジションに切り替わり、第1中間ロック機構L1による第1中間ロック位相P1の状態が維持される。このように、第1中間ロック機構L1により相対回転位相を最進角位相と最遅角位相の間の第1中間ロック位相P1に拘束することができるので、エンジンEを安定して始動させることができる。
【0070】
触媒暖気が終了しても、相対回転位相を第1中間ロック位相P1に維持し続けると、HC排出量が増加する。そこで、位相制御部42は、相対回転位相をアイドリング運転(触媒暖気後)に適した第2中間ロック位相P2に変位させて第2中間ロック機構L2によるロック状態に移行させる制御を行う。これにより、アイドリング時におけるHC排出量を抑制することができる。また、同時に、位相制御部42は、位相制御弁24への通電切断を継続して遅角ポジションを維持し、遅角制御を行う。
【0071】
第2中間ロック機構L2によるロック状態に移行させる具体的な作動形態として、位相制御部42は、第1ロック部材31を第1凹部35から退出させるのに必要な予め設定された時間(以下、設定時間と称する)だけ解除制御弁25に通電を行う。この通電により、解除制御弁25はロックポジションからアンロックポジションに切り換えられ、主解除油路23に設定時間だけ作動油が供給される。
【0072】
上述の設定時間だけ作動油が供給されることにより、作動油は第1解除油路23Aから直接的に第1ロック部材31に作用して第1ロック部材31を第1凹部35から退出させる。このとき、作動油は第2解除油路23Bにも同時に供給されるが、この第2解除油路23Bから第2凹部36に至る間の油路にはオリフィス部Rが形成されているため、第2ロック部材32に作用する作動油の圧力上昇が抑制され、第2ロック部材32は第2凹部36から退出しない。
【0073】
オリフィス部Rの具体的な作動形態として、第2解除油路23Bに作動油が供給された場合には、第2解除油路23Bを流通する作動油の圧力によりボール26が当接面27Sに当接し、溝部27Aだけを作動油が流通する。従って、第2凹部36に流入する作動油の量が制限され、第1ロック部材31が第1凹部35から退出した時点では、第2ロック部材32には第2凹部36から退出するのに十分な油圧が作用しておらず、嵌合状態が維持される。
【0074】
第1ロック部材31が第1凹部35から退出すると、位相制御部42の遅角制御により相対回転位相は遅角方向Sbに変位を開始する。
図8に、第1中間ロック位相P1から第2中間ロック位相P2へ相対回転位相が変化する際のロック機構と流体制御機構を表す模式図を示す。このときには、解除制御弁25は再び通電されてロックポジションとなっており、主解除油路23への作動油の供給は既に停止している。よって、この遅角方向Sbへの変位時には、第2ロック部材32は第2凹部36と嵌合した状態にある。そして、相対回転位相が第2中間ロック位相P2に達すると、第2ロック部材32が第2凹部36の嵌合凹部36Aに突入する。このように、第2中間ロック機構L2により相対回転位相が第2中間ロック位相P2にロックされる。
図9に、第2中間ロック位相P2時のロック機構と流体制御機構を表す模式図を示す。
【0075】
この通常スタート制御では、作動油の温度が低くかつ粘性が高い状況で、エンジンEを始動する。そのため、エンジンEの始動時には油圧ポンプ20から第2解除油路23Bを介して第2ロック部材32に供給される作動油がオリフィス部Rから受ける流路抵抗は大きく、第2ロック部材32に作用する圧力上昇も緩慢である。従って、主解除油路23に作動油を供給して第1ロック部材31が第1凹部35から退出した後、第2ロック部材32が第2凹部36から退出するまでの時間は長くなる。これにより、先述した設定時間を厳密に設定しない場合であっても、第1ロック部材31だけを確実に退出させて、第2中間ロック位相P2に移行させることができる。このように、第2中間ロック機構L2により相対回転位相を第2中間ロック位相P2に拘束することができるので、アイドリング運転時のHC排出量を抑制することができる。
【0076】
〔制御形態:通常運転制御〕
アイドリング運転が終了すると、内燃機関制御システムの制御は、通常運転制御に移行する。断機の終了は、エンジンE内部を流通する冷却水の温度を検出する水温センサ(不図示)の検出結果に基づき、ECU40が判断する。通常運転制御に移行すると、位相制御部42が、解除制御弁25への通電を切断し、ロックポジションからアンロックポジションに切り換える制御を行う。この操作により、主解除油路23に作動油が供給され、第2ロック部材32は第2凹部36(嵌合凹部36A)から退出する。第1ロック部材31は既に第1凹部35から既に退出しているので、外部ロータ11と内部ロータ12の間のロック状態は全て解除されることになる。この後、通常運転制御である限り、このロック状態解除が維持される。
【0077】
また通常運転制御においては、位相制御部42は、運転時のエンジンEの負荷や回転速度等に応じて、位相制御弁24に通電して進角ポジションになるよう操作して進角室Caに作動油を供給する進角制御を行ったり、通電を切断して遅角ポジションになるよう操作して遅角室Cbに作動油を供給する遅角制御を行う。これにより、相対回転位相は第1中間ロック位相P1よりも進角側に変位したり、
図10に示すように、第2中間ロック位相P2よりも遅角側に変位したりする。また、通電の位相制御弁24を中立ポジションになるよう操作して、相対回転位相を任意の位相に保持したりもする。
【0078】
〔制御形態:アイドリングストップ制御〕
アイドリングストップ制御では、通常運転中にブレーキペダルを踏み込んで停車した際に(アクセルペダルが操作されない状態で)、エンジンEを一時的に停止し、ブレーキペダルの踏み操作が解除された際にエンジンEを始動するように制御形態が設定されている。これにより無駄な燃料消費を抑制して燃費を向上させることができる。
【0079】
アイドリングストップ制御によりエンジンEを停止させる場合には、通常運転の状態で、位相制御弁24への通電を切断して遅角室Cbに作動油を供給することにより相対回転位相を遅角方向Sbに変位させる。その後、相対回転位相が最遅角位相の近傍に達した時に、解除制御弁25に通電してロックポジションに切り換えて第3凹部37から作動油を排出する。そして、相対回転位相が最遅角ロック位相P3に達した時点で、第1ロック部材31を第3凹部37と嵌合させて、最遅角ロック機構L3により第1ロック部材31をロックする。この後、機関制御部41は、燃料制御装置5により燃焼室への燃料供給を停止すると共に点火制御装置6による点火を停止してエンジンEを停止させる。
図11に、最遅角ロック位相P3時のロック機構と流体制御機構を表す模式図を示す。
【0080】
このアイドリングストップ制御では、エンジンEが高温状態でエンジンEの始動を行うため混合気の点火が容易である。また、相対回転位相を最遅角に設定してクランキングを行った場合には、クランクシャフト1の回転を軽負荷で円滑に行うことができる。このような理由から、アイドリングストップ制御でエンジンEを停止させる場合には、最遅角ロック位相P3でロックしている。その後、ブレーキペダルの踏み操作が解除され、エンジンEを始動する際には、スタータモータMによるクランキングを開始する。
【0081】
このクランキングによりクランクシャフト1の回転速度が予め設定した値に達した場合には、位相制御部42が解除制御弁25の通電を切断してアンロックポジションに切り換えることで第1ロック部材31を第3凹部37から退出させて、最遅角ロック機構L3のロックを解除する。この制御と並行して位相制御弁24を進角ポジションに切り換えることで相対回転位相を進角方向Saへ移行させながら、燃料制御装置5による燃焼室への燃料供給を行い、点火制御装置6により点火プラグでの点火を行うことでエンジンEを再始動させる。このように、アイドリングストップ時の始動において、最遅角ロック機構L3により相対回転位相を最遅角ロック位相P3に拘束することができるので、ベーン17の遅角方向及び進角方向への揺動や打音の発生を防止してエンジンEを安定して始動させることができる。
【0082】
〔制御形態:通常ストップ制御〕
エンジンEが稼動している状況でイグニッションスイッチ43が人為的にOFF操作される前には停車操作がなされ、アイドリング運転となる。このときの相対回転位相は最遅角位相となる。そしてイグニッションスイッチ43が人為的にOFF操作された場合には、ECU40は内燃機関制御システムをエンジン停止モードにする。エンジン停止モードではエンジンEを直ちに停止させず、位相制御部42が位相制御弁24に通電して進角ポジションとなるように操作して進角室Caに作動油を供給し、相対回転位相を
図2に示す第1中間ロック位相P1まで移行させる。この移行時には解除制御弁25はアンロックポジションにあるが、第1中間ロック位相P1の近傍に達すると解除制御弁25に通電してロックポジションに切り換えて、第1凹部35、第2凹部36、第3凹部37から作動油を排出する。その後、第1中間ロック位相P1において第1中間ロック機構L1によるロック状態に達する。
【0083】
なお、このロック状態では、第1ロック部材31が第1スプリング31Sの付勢力により第1凹部35と嵌合した状態で、第1凹部35の内面の進角方向Saの端部に当接する。また、第2ロック部材32は第2スプリング32Sの付勢力により第2凹部36と嵌合し、第2凹部36の内面の遅角方向Sbの端部に当接する。
【0084】
第1中間ロック位相P1への移行が完了した後に、機関制御部41が燃料制御装置5により燃焼室への燃料供給を停止すると共に点火制御装置6による点火を停止して、エンジンEを停止させる。完全にエンジンEが停止してから解除制御弁25への通電を切断する。この第1中間ロック位相P1でエンジンEを停止させると、次回、低温状態にあるエンジンEを良好に始動させることができる。
【0085】
〔第1実施形態の作用・効果〕
このように本実施形態では、アイドリングストップ制御によりエンジンEを停止する場合には、相対回転位相を最遅角ロック位相P3まで変位させ、最遅角ロック機構L3でロックする状態に移行することで、この後にエンジンEを再始動する場合には低い圧縮比により軽快なクランキングを実現している。
【0086】
また、運転者がイグニッションスイッチ43をOFF操作してエンジンEを停止させる場合には、相対回転位相を第1中間ロック位相P1まで変位させて第1中間ロック機構L1によるロック状態に移行してからエンジンEを停止させる。これにより、次回、低温の状態でエンジンEの始動を確実に行うことができる。
【0087】
このエンジンEの始動の後には、主解除油路23に対して設定時間だけ作動油を供給する制御を行うだけで、第2ロック部材32を第2凹部36と嵌合した状態を維持しながら、第1ロック部材31を第1凹部35から退出させることができる。そして、第2中間ロック位相P2への移行を確実に行わせることができる。
【0088】
このように第1中間ロック機構L1と第2中間ロック機構L2とに対して単一の主解除油路23から作動油を供給する構成であるので、主解除油路23に作動油の供給と排出とを行う2位置切換型で、出力側のポートが1つの解除制御弁25を使用することができる。従って、第1中間ロック機構L1と第2中間ロック機構L2とに対して別々に作動油の給排を行うよう出力側のポートが2つ備えるものと比較して解除制御弁25の構成が単純となり、この解除制御弁25と第1中間ロック機構L1と第2中間ロック機構L2とに作動油を給排するための油路も2つ形成する必要はなくなる。
【0089】
本実施形態においては、単一の主解除油路23から第1解除油路23A、第2解除油路23B、第3解除油路23Cに分岐する構成となっていたが、これに限られない。第1解除油路23A、第2解除油路23B、第3解除油路23Cのそれぞれが独立した油路で構成されていてもよい。そのときは、解除制御弁も独立して備える必要がある。
【0090】
2.他の実施形態
次に、本発明の他の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。本実施形態の説明においては、第1実施形態と同じ構成の箇所には同じ符号を付し、同様の構成に関する説明は省略する。
【0091】
図13に、本実施形態に係る弁開閉時期制御装置10の横断面図を示す。
図13に示すように、主解除油路23は、作動油を第1凹部35に給排する第1解除油路23Aと、第2凹部36に給排する第2解除油路23Bとに分岐している。第3凹部37への作動油の給排は進角制御油路21により行われる。
【0092】
最遅角ロック機構L3は、相対回転位相が最遅角ロック位相P3の状態にあるときに第1ロック部材31を第3凹部37に嵌合させる。このとき、作動油は第3凹部37からも進角室Caからも排出されている。逆に、相対回転位相が最遅角ロック位相P3の状態にないときには、第1ロック部材31は第3凹部37から退出し、第3凹部37にも進角室Caにも作動油が供給されている。
【0093】
すなわち、第3凹部37への作動油の給排タイミングと進角室Caへの作動油の給排タイミングは一致している。従って、本実施形態のように、第3凹部37への作動油の給排を進角制御油路21により行う構造でも、最遅角ロック機構L3は正しく作動する。