【実施例1】
【0013】
図1は、実施例1の光検出器の原理を説明するための図である。複数の光検出器10A〜10C(適宜、「光検出器10」と総称する)が支持基板31上に配置されてイメージセンサ1を形成する。各光検出器10は、第1の波長域の光を吸収する第1活性層(光吸収層)11と、第2の波長域の光を吸収する第2活性層(光吸収層)12を有し、2つの波長域の入射光を検出する。
【0014】
図1の例では、支持基板31上に下部電極層21、第1活性層11、共通電極層23、第2活性層12、上部電極層25がこの順に積層されている。第1活性層11は、たとえば中波長(たとえば3〜5μm)の赤外光MWを吸収する。第2活性層12は長波長(たとえば7.8〜10μm)の赤外光LWを吸収する。
【0015】
上部電極層25の表面に、金属膜26で被覆されたグレーティングカプラ29が形成されている。グレーティングカプラ29は、長波長の赤外光LWを反射するように、格子間隔と格子サイズなどが設定されている。
【0016】
共通電極層23は、中波長の光に対して屈折率の異なる2種類の層を交互に配置した積層構造を有する。この積層構造は、中波長赤外光MWを反射回折するように、各層の組成や膜厚が選択されている。屈折率の異なる層を交互に配置することで、屈折率が周期的に変化する多層反射膜(光結合構造)23aとして機能させる。
【0017】
赤外線検出器の場合、垂直に入射する赤外光は積層方向への電界成分を有しないため、活性層で吸収されない。そこで、光結合構造を設けることによって、被検出光に活性層の積層方向の電界成分を生じさせる。
【0018】
支持基板31から光検出器10bに垂直入射した長波長赤外光LWは、共通電極層23を透過し、グレーティングカプラ29で積層方向と異なる方向に反射される。反射光は、積層方向の電界成分を有し、第2活性層12で吸収される。他方、支持基板31から光検出器10bに垂直入射した中波長赤外光MWは、共通電極層23で、第1活性層11へと反射回折される。共通電極層23からの反射光は積層方向の電界成分を有し、中波長赤外光MWは第1活性層11で吸収される。
【0019】
多層反射膜23aを有する共通電極層23を設けることにより、第2活性層12への中波長赤外光MWの進入を防止し、中波長赤外光MWが第2活性層12を往復することによる減衰を抑制することができる。この構成により、異なる波長域の光を対応する活性層11、12で高効率に吸収することができる。
【0020】
なお、
図1の模式図では、下部電極層21上に複数の積層構造が形成されているが、下部電極層21を支持基板31まで掘り下げて、光検出器10A、10B、10Cを電気的に分離してもよい。
【0021】
図2は、実施例1の赤外線検出器10の概略構成図である。支持基板31上に、下部電極層21、下部活性層11、周期的な屈折率変化構造の共通電極層23、上部活性層12、上部電極層25、グレーティングカプラ29が、この順に積層されている。下部活性層11は多重量子井戸(MQW)構造を有し、第1の波長域の光、たとえば波長が3〜5μmの赤外光を吸収する。上部活性層12は多重量子井戸(MQW)構造を有し、第2の波長域の光、たとえば7.8〜10μmの波長の赤外光を吸収する。共通電極層23は、第2の波長域の光に対して透明であるが、第1の波長の光を反射回折する。
【0022】
赤外線検出器10は、その側面及び上面に絶縁性の保護膜32を有する。赤外線検出器10の側面は、隣接する赤外線検出器との間を電気的に分離する画素分離溝の内壁に相当する。保護膜32の一部に、共通電極層23に連絡するコンタクトホール42が形成されている。共通電極層23は、引き出し配線34を介して、バンプ電極36aと電気的に接続されている。また、保護膜32に形成されたコンタクトホール43により、引き出し配線35を介して、下部電極層21とバンプ電極36bが電気的に接続されている。さらにコンタクトホール44によって、上部電極層25とバンプ電極36cが電気的に接続されている。
【0023】
電極36aと36cに電圧を印加することで、上部活性層12を動作させる。電極36aと36bに電圧を印加することで、下部活性層11を動作させる。
【0024】
図3〜
図8は、
図2の赤外線検出器10の製造工程図である。
【0025】
図3において、半導体層の積層構造を形成する。具体的には、アンドープの半絶縁性GaAs(i-GaAs)基板31上に、分子線エピタキシー法(MBE)または有機金属気相成長法(MOCVDにより、下部電極層21、下部活性層11、共通電極層23、上部活性層12、上部電極層24、グレーティングカプラ層28をこの順に形成する。
【0026】
下部電極層21として、1×10
18cm
-3以上のSiをドーピングしたn−GaAs層を1.5μmの膜厚に成長する。支持基板31と下部電極層21の間に、GaAsバッファ層(不図示)を介してストッパ層(不図示)を挿入してもよい。
【0027】
下部活性層11は、この例では、AlGaAs層と、GaAs層と、SiをドープしたInAsGa層の積層(InGaAs/GaAs/AlGaAs)を10〜50周期繰り返して成長したものである。各層の膜厚とInの組成、及びAlの組成は、感度波長(たとえば、5μmの中波長)に応じて、最適に設計されている。InGaAs/GaAs量子井戸層をAlGaAsバリア層で挟み込むことによってキャリアの閉じ込めを行う。下部活性層11の膜厚は、たとえば1.5μmである。
【0028】
共通電極層23は、下部活性層11の感度ピーク波長(5μm)に対して屈折率の異なる2種類の材料GaAs、AlAsを用いる。GaAsとAlAsを、ドーピングしながらそれぞれλ/4の膜厚(GaAsは0.4μm、AlAsは0.45μm)に成長し、これを10〜30周期繰り返す。
【0029】
上部活性層12は、この例では、AlGaAs層と、SiをドープしたAsGa層の積層(GaAs/AlGaAs)を10〜50周期繰り返して1.5μmの膜厚に成長したものである。AlGaAs層の膜厚とAlの組成、及びAsGa層の膜厚は、感度波長(たとえば、8〜10μmの長波長)に応じて、最適に設計されている。GaAs量子井戸層をAlGaAsバリア層で挟み込むことによってキャリアの閉じ込めを行う。
【0030】
上部電極層25として、1×10
18cm
-3以上のSiをドーピングしたn−GaAs層を0.1〜0.5μmの膜厚に成長する。
【0031】
グレーティングカプラ層28は、たとえばアンドープのGaAs層である。上記構成において、下部電極層21上、共通電極層23上、上部電極層25上に、それぞれエッチングストッパ層(不図示)を挿入してもよい。
【0032】
図4において、グレーティングカプラ層28を加工して、上部活性層12に対して最適化したグレーティングカプラ29を形成する。具体的には、フォトリソグラフィーにより図示しないレジストパターンを形成し、ドライエッチング又はウェットエッチングによりグレーティングカプラ29の格子パターンを形成する。上部電極層25とグレーティングカプラ層28の間にエッチングストッパ層(不図示)が挿入されている場合はエッチングの制御が容易になる。
【0033】
格子パターンの形成後、光をデバイス内部に効率よく反射させるために格子表面に金属膜(たとえばAu)26を形成する。金属膜26は、真空蒸着法、真空スパッタ法など、一般的な方法で形成される。グレーティングカプラ29は、金属膜26を含めたグレーティング全体が所定のデューティーとなるように、凸部と凹部の間隔が設計されている。
【0034】
図5において、ドライエッチングまたはウェットエッチングにより、画素分離するための深溝を形成する。各画素の下部電極層21の形状に対応する形状のレジストマスク(不図示)を形成し、画素(デバイス)表面から半絶縁性基板31まで掘り下げる。レジストマスクを除去し、別のレジストマスクを形成して、各画素の一部をドライエッチングまたはウェットエッチングにより、デバイス表面から共通電極層23まで掘り下げる。使用したレジストマスクを除去してさらに別のレジストマスクを形成し、各画素の一部を、ドライエッチングまたはウェットエッチングにより、デバイス表面から下部電極層21まで掘り下げる。これにより、
図5のような画素の断面形状が得られる。
【0035】
図6において、全面に絶縁性の保護膜32を形成する。保護膜32は、たとえばシリコン酸窒化膜(SiON)である。各電極層と電気的コンタクトをとるために、保護巻く32の所定の箇所にコンタクトホール42、43、44を形成する。コンタクトホール42は、共通電極層23の一部を露出する。コンタクトホール43は、下部電極層21の一部を露出する。コンタクトホール44は、上部電極層25の一部を露出する。コンタクトホール42、43、44の形成は、ドライエッチングでもウェットエッチングでもよい。
【0036】
図7において、保護膜32上に、共通電極層23からデバイス上面まで引き出し配線34を形成する。同様に、保護膜32上に、下部電極層21からデバイス上面まで引き出し線35を形成する。引き出し線34、35は、共通電極層23、下部電極層21にそれぞれオーミック接触し、半導体に対して接触抵抗の低い材料で形成される。一例として、Au/Ti、Au/AuNiAu、AuGe/Ni/Au/Ti、Au/Pt/Tiなど、適切な材料を選択することができる。
【0037】
図8において、下部電極層21、共通電極層23、上部電極層25と電気的に接続するバンプ電極36b、36a、36cを形成する。バンプ電極36a〜36cはたとえばIn電極である。これにより、光検出器10が得られる。
【0038】
バンプ電極36aと36bにより共通電極層23と下部電極層21の間に適切なバイアス電圧が印加された状態で、下部活性層11の量子井戸構造に応じた波長(たとえば5μmの波長)の光が入射すると、量子井戸内のキャリアが励起され、光吸収が起きる。励起されたキャリアの走行による光電流を検出することで、特定波長の入射光を検出することができる。
【0039】
バンプ電極36aと36cにより共通電極層23と上部電極層25の間に適切なバイアス電圧が印加された状態で、上部活性層12の量子井戸構造に応じた波長(たとえば9μmの波長)の光が入射すると、量子井戸内のキャリアが励起され、光吸収が起きる。励起されたキャリアの走行による光電流を検出することで、別の波長の入射光を検出することができる。
【0040】
図9は、実施例1の構成の効果を示す図である。共通電極層23を、GaAs(0.4μm)/AlAs(0.45μm)を1周期として10周期で構成し、支持基板31側から波長5μmの光を入射したときの、素子内部における光の電界強度分布の計算結果である。
【0041】
下部活性層11に対応する波長5μmの光は、上部活性層(LW−MQW)12と比較して、下部活性層(MW−MQW)11の内部に集中していることがわかる。この計算例では、上部活性層12に侵入する波長5μmの電界強度を1/3に低減できる。これは、波長5μmの光を下部活性層11で高効率に検出できることを意味する。
【0042】
実施例1では、長波長赤外光(LW)を吸収する層を上部活性層12、中波長赤外光(MW)を吸収する層を下部活性層11として配置したが、逆であってもよい。逆にした場合は、グレーティングカプラ29を中波長赤外光に対して最適化するように格子パターンを設計し、共通電極層23の屈折率周期構造を、長波長赤外光に対して最大の反射回折を与えるように材料、組成、膜厚、周期を設計する。
【0043】
実施例1では2つの異なる波長の入射光を検出する構成としたが、3以上の波長の光の検出器に適用することも可能である。この場合、3つの活性層を共通電極を間に挟んで積層し、各共通電極を、対応する波長の光に適合する屈折率周期構成を有するように形成すればよい。
【実施例2】
【0044】
図10は、実施例2の光検出器20の原理を説明するための図である。複数の光検出器20A〜20C(適宜、「光検出器20」と総称する)が支持基板31上に配置されてイメージセンサ2を形成する。光検出器20は、下部電極層21、第1活性層(下部活性層)11、共通電極層53、第2活性層(上部活性層)12、上部電極層25、グレーティングカプラ29を有する。実施例1と同様に、第1活性層11は、第1の波長域の光を吸収し、第2活性層12は、第2の波長域の光を吸収する。
【0045】
共通電極層53は、多層反射膜23aと、多層反射膜23aに形成された屈折率周期構造39を有する。この構成によって、下部活性層11への回折効率がさらに向上する。
【0046】
図11は、屈折率周期構造39の形成方法を示す図である。実施例1と同様に、
図3〜
図5の工程により、支持基板31上に、下部電極層21、下部活性層11、多層反射膜23a、上部活性層12、上部電極層25、金属膜26が形成されたグレーティングカプラ29の積層構造を作製し、積層構造を所定の断面形状に加工する。その後、全面に絶縁性の保護膜32を形成する。
【0047】
この状態で、多層反射膜23aにフェムト秒レーザ光Lを照射して、一部分をアモルファス化することにより、基板31と平行な方向に屈折率が周期的に変化する屈折率周期構造39を形成する。屈折率周期構造39が形成された多層反射膜23aは、共通電極層53として機能するとともに、下部活性層11への光結合部として機能する。
【0048】
フェムト秒レーザ加工は、超短パルスを用いた加工方法であり、焦点位置のみを加工することができる。多層反射膜23aの屈折率周期構造39を形成したい部分に焦点を合わせてレーザを走査する。
【0049】
フェムト秒レーザが照射された領域は、結晶がアモルファス化して屈折率が変化する。フェムト秒レーザの照射を周期的に行うことで、屈折率周期構造39を形成することができる。レーザパワーが強すぎると、共通電極層53の内部にボイド(空孔)が形成される場合があるので、共通電極層53の材料をアモルファス化するのに適したレベルにレーザパワーを設定する。一例として、5μmに感度ピークを有する共通電極層53(λ/4の膜厚のGaAsとAlAsを繰り返し積層)に屈折率周期構造39を形成する場合、波長800nmのフェムト秒レーザを用い、レーザパワー0.1〜1mW、パルス幅100fs以下で加工する。
【0050】
屈折率周期構造39が形成された後、
図6〜
図8のように保護膜32の所定の箇所にコンタクトホール42、43、44を形成して、共通電極層53、下部電極層21、上部電極層25と電気的なコンタクトをとる。
【0051】
実施例2の構成では、下部活性層11と上部活性層12のそれぞれに対して最適化された光結合構造を配置することにより、2つの異なる波長域の光を効率的に検出することができる。
【0052】
3つ以上の波長域の光を検出する場合は、それぞれの波長の光を吸収する量子井戸構造の活性層の間に多層反射膜の共通電極層を挟んで積層し、フェムト秒レーザの焦点をそれぞれの共通電極層に合わせて照射する。フェムト秒レーザを走査して周期的に照射することで、各共通電極層に検出波長に応じた屈折率周期構造を形成することができる。
【0053】
実施例1、2では、量子井戸型の赤外線検出器の例を説明したが、本発明はたとえば量子ドットを用いた赤外線検出器にも適用することができる。この場合は、活性層を構成する多重量子井戸(MQW)を量子ドット層とバッファ層を繰り返し形成する。たとえば、AlGaAsあるいはGaAsのバッファ層と、InAsあるいはInGaAsの量子ドット層を10〜50周期積層する。共通電極を多層反射膜、あるいは屈折率周期構造が形成された多層反射膜で構成することにより、実施例1,2の量子井戸型赤外線検出器と同等の効果が得られる。
【0054】
実施例1の光検出器10、又は実施例2の光検出器20を基板上に多数配置することでイメージセンサを形成することができる。