特許第6035938号(P6035938)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6035938低熱膨張セラミックス、露光装置用ステージおよび低熱膨張セラミックスの製造方法
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  • 特許6035938-低熱膨張セラミックス、露光装置用ステージおよび低熱膨張セラミックスの製造方法 図000014
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6035938
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】低熱膨張セラミックス、露光装置用ステージおよび低熱膨張セラミックスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/447 20060101AFI20161121BHJP
   C04B 35/00 20060101ALI20161121BHJP
   C04B 35/622 20060101ALI20161121BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20161121BHJP
   H01L 21/027 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   C04B35/00 S
   C04B35/00 H
   C04B35/00 E
   H01L21/68 N
   H01L21/30 503A
   H01L21/30 515F
   H01L21/30 515G
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-161580(P2012-161580)
(22)【出願日】2012年7月20日
(65)【公開番号】特開2014-19628(P2014-19628A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年7月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 紀子
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩章
(72)【発明者】
【氏名】三浦 友幸
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−096827(JP,A)
【文献】 特開2010−235386(JP,A)
【文献】 特表2004−509048(JP,A)
【文献】 特開2005−213084(JP,A)
【文献】 特開2004−224668(JP,A)
【文献】 特開2006−054289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/51
C04B 35/622−35/657
H01L 21/027−21/033
H01L 21/683
G03F 7/20−7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度上昇に対して膨張する正膨張材料および温度上昇に対して収縮する負膨張材料が複合されてなる低熱膨張セラミックスの製造方法であって、
リン酸タングステン酸ジルコニウムまたはタングステン酸ジルコニウムからなる負膨張材料の原料を混合する工程と、
前記混合された負膨張材料の原料を仮焼する工程と、
前記負膨張材料の仮焼体をD50の粒度が2.0〜5.0μmになるように粉砕し、正膨張材料を添加して混合する工程と、
前記混合された材料を成形し、大気雰囲気で、1150℃を超え1300℃未満の温度で焼成する工程と、を含むことを特徴とする低熱膨張セラミックスの製造方法。
【請求項2】
正膨張材料は、酸化アルミニウム、酸化チタンまたは酸化イットリウムからなることを特徴とする請求項1記載の低熱膨張セラミックスの製造方法
【請求項3】
前記焼成の工程での昇温速度は、100℃/hr以上800℃/hr以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の低熱膨張セラミックスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度上昇に対して膨張する正膨張材料および温度上昇に対して収縮する負膨張材料により複合されてなる低熱膨張セラミックス、露光装置用ステージおよび低熱膨張セラミックスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ユークリプタイト(−2.5×10−6(1/K))からなる負膨張材およびSiC、Siからなる正膨張材で形成され、熱膨張を低くしている低熱膨張材(ゼロ膨張材)が知られている。このような低熱膨張材は、室温において、0.0×10−6(1/K)の熱膨張率を有し、150(GPa)の高ヤング率を維持できる。
【0003】
たとえば、特許文献1記載の黒色低抵抗セラミックスは、ユークリプタイトを70〜85体積%、TiB、ZrB、WC、TiC、ZrN、β−SiCから選ばれる1種以上の導電性化合物を4.9〜23体積%、窒化ケイ素を0.1〜3.9体積%、カーボンを3.1〜10体積%含有し、かつ、20℃〜30℃における熱膨張係数が−1×10−6〜1×10−6(1/℃)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−76949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような低膨張材料を平面の精度が必要な部品に使用する場合、平面度が経時変化し、精度が徐々に狂う。また、上記の低膨張材料は耐薬品性が必ずしも高いとはいえず、薬品に浸した場合、成分が溶け出して精度が狂うこともある。
【0006】
このような問題は、結晶中に発生するマイクロクラックを縮小して、体積収縮するユークリプタイトの負膨張メカニズムに由来する。すなわち、マイクロクラックの存在を前提とするため時間とともにマイクロクラックを起点とするクラックが進展することが平面度の経時変化に繋がっている。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、平面度の経時変化を防止でき、耐薬品性を向上できる低熱膨張セラミックス、露光装置用ステージおよび低熱膨張セラミックスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の低熱膨張セラミックスは、温度上昇に対して膨張する正膨張材料および温度上昇に対して収縮する負膨張材料が複合されてなる低熱膨張セラミックスであって、負膨張材料は、リン酸タングステン酸ジルコニウムまたはタングステン酸ジルコニウムからなることを特徴としている。
【0009】
このように、負膨張材料としてユークリプタイトを用いないことでマイクロクラックを前提としないため、マイクロクラックに起因する平面度の経時変化を防止できる。また、耐薬品性を向上できる。
【0010】
(2)また、本発明の低熱膨張セラミックスは、酸化アルミニウム、酸化チタンまたは酸化イットリウムからなることを特徴としている。
【0011】
このように、正膨張材料に上記の酸化物系の材料を用い、負膨張材料にユークリプタイトの膨張率より負側の膨張率の大きい材料を用いることができる。
【0012】
(3)また、本発明の露光装置用ステージは、半導体製造工程に用いられ、上記(1)または(2)記載の低熱膨張セラミックスで形成されることを特徴としている。これにより、低熱膨張で耐薬品性に優れ、平面度を維持できる露光装置用ステージを実現できる。
【0013】
(4)また、本発明の低熱膨張セラミックスの製造方法は、温度上昇に対して膨張する正膨張材料および温度上昇に対して収縮する負膨張材料が複合されてなる低熱膨張セラミックスの製造方法であって、リン酸タングステン酸ジルコニウムまたはタングステン酸ジルコニウムからなる負膨張材料の原料を混合する工程と、前記混合された負膨張材料の原料を仮焼する工程と、前記負膨張材料の仮焼体を粉砕し、正膨張材料を添加して混合する工程と、前記混合された材料を成形し、大気雰囲気で焼成する工程と、を含むことを特徴としている。このような工程により、平面度を維持でき、耐薬品性に優れた低熱膨張セラミックスを製造することができる。
【0014】
(5)また、本発明の低熱膨張セラミックスの製造方法は、前記焼成の工程での焼成温度が、1300℃以下であることを特徴としている。これにより、負膨張材料中のタングステンが酸化物となり分解するのを防止することができる。
【0015】
(6)また、本発明の低熱膨張セラミックスの製造方法は、前記焼成の工程での昇温速度が、100℃/hr以上800℃/hr以下であることを特徴としている。これにより、負膨張材料中のタングステンの分解を抑制でき、緻密な焼結体の低熱膨張セラミックスを製造できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、低熱膨張セラミックスの平面度の経時変化を防止でき、耐薬品性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(a)、(b)負膨張材料の焼結の状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
[低熱膨張セラミックスの構成]
本発明の低熱膨張セラミックス(以下、低熱膨張セラミックス)は、正膨張材料および負膨張材料により複合されて形成されている。正膨張材料は、温度上昇に対して膨張する材料である。負膨張材料は、温度上昇に対して収縮する材料である。
【0020】
正膨張材料は、酸化物で形成されている。また、正膨張材料となる酸化物には、酸化アルミニウム、酸化チタンまたは酸化イットリウムが挙げられる。
【0021】
このように、正膨張材料に上記の材料を用い、後述のように負膨張材料にユークリプタイトの膨張率より負側の膨張率の大きい材料を用いることで、従来のものより高いヤング率の低熱膨張材料が得られる。
【0022】
負膨張材料は、リン酸タングステン酸ジルコニウムまたはタングステン酸ジルコニウムからなる。このように、負膨張材料としてユークリプタイトを用いず、従来とは負膨張メカニズムが異なるため、マイクロクラックに起因する問題が生じない。そのため、マイクロクラックに起因する平面度の経時変化を防止できる。また、耐薬品性を向上できる。なお、リン酸タングステン酸ジルコニウムの熱膨張係数は、20℃〜100℃において−4.0×10−6(1/K)であり、タングステン酸ジルコニウムの熱膨張係数は、−8.0×10−6(1/K)である。
【0023】
このような構成の低熱膨張セラミックスは、少なくとも20℃以上100℃以下の範囲での熱膨張係数を、−2×10−6(1/K)以上2×10−6(1/K)以下にできる。これにより、十分に低い熱膨張率の材料として利用できる。特に、低熱膨張セラミックスは、露光装置用ステージ等として半導体製造工程に用いるのが好適である。これにより、低熱膨張で耐薬品性に優れ、平面度を維持できる露光装置用ステージを実現できる。
【0024】
[低熱膨張セラミックスの製造方法]
次に、上記のように構成される低熱膨張セラミックスの製造方法を説明する。まず、リン酸タングステン酸ジルコニウムまたはタングステン酸ジルコニウムからなる負膨張材料の原料を所定の配合で混合する。リン酸タングステン酸ジルコニウムのリン源としてはリン酸塩が好ましく、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられるが、仮焼後に仮焼体内に不純物として残留しないリン酸アンモニウムがより好ましい。タングステン源としては三酸化タングステンや、タングステン酸塩、例えばタングステン酸アンモニウムなどが好ましい。ジルコニウム源としては、ジルコニウム化合物が好ましく、ジルコニアや塩化ジルコニウムがより好ましい。
【0025】
タングステン酸ジルコニウムのタングステン源としては、三酸化タングステンや、タングステン酸塩、例えばタングステン酸アンモニウムなどが好ましい。ジルコニウム源としては、ジルコニウム化合物が好ましく、ジルコニアや塩化ジルコニウムがより好ましい。
【0026】
混合には、各原料粉末をエタノール溶媒と樹脂ボールなどのボールとともにボールミル内に投入し、湿式にて混合を行なうことが好ましい。なお、ボールミル以外にも乳鉢や遊星型ボールミル等で混合してもよい。そして、混合されて得られた負膨張材料の原料を仮焼する。
【0027】
次に、負膨張材料の仮焼体を混合粉砕する。この方法には、ジルコニアボールでのボールミル、遊星ボールミル粉砕、やスタンプミルのような種々の粉砕方法にて粉砕し、粒度を調整後に正膨張材料を添加して樹脂ボールを用いたボールミル混合などの様々な方法で混合する方法や、負膨張材料の仮焼体に正膨張材を添加し、ジルコニアボールにてボールミルによる混合粉砕を行う方法などがある。
【0028】
負膨張材料の粒度を精密に調整する観点では、負膨張材料をあらかじめ調整した後に混合する方法が適している。一方、作業性という観点では、負膨張材料の仮焼体に正膨張材料を加え、粉砕混合する方法が適している。
【0029】
ボールミルによる粉砕を行う際にはジルコニアボールが好ましい。ジルコニアボール以外、例えばアルミナボールを使用した場合は、コンタミの原因となりやすく、所定の熱膨張係数が得られない場合がある。負膨張材料の粒度調整の詳細については後述する。そして、混合された材料を成形し、大気雰囲気で焼成する。このような工程により、平面度を維持でき、耐薬品性に優れた低熱膨張セラミックスを製造することができる。
【0030】
なお、成形の工程では、各種成形方法、例えば一軸加圧成形や静水圧加圧成形、鋳込み成形等により成形できる。焼成の工程では、焼成温度を1300℃以下として焼成することが好ましい。より好ましくは1150〜1300℃間である。これにより、高温で負膨張材料中のタングステンが酸化タングステンとなり分解するのを防止することができる。焼成の工程での昇温速度を、100℃/hr以上800℃/hr以下とすることが好ましい。これにより、緻密な焼結体の低熱膨張セラミックスを製造できる。
【0031】
[混合粉体の粒度]
ユークリプタイトの膨張率より負側への膨張率が大きい負膨張材料を正熱膨張材料と複合させることについては、正膨張と負膨張の差が大きすぎて異常な亀裂が発生しうるため、従来は低熱膨張材料として実現できなかった。これは負膨張材料が十分に焼結できていないことに一因がある。すなわち、負膨張材料は、その粒子が粗大すぎると焼結しにくく、微粒過ぎても焼結しにくい。
【0032】
図1(a)、(b)は、負膨張材料の焼結の状態を示す模式図である。図中の破線は焼結について注目する粒子の組合せを示している。たとえば、図1(a)に示すように、負膨張材料が微粒であり、D50の粒度が1.5μm以下である場合には、負膨張材料の微粒粒子1同士の焼結が進行する。一方、図1(b)に示すように、この焼結の進行によって生じた焼結粒子2同士の焼結は、起き難くなり、空隙の多い焼結体が生成される。
【0033】
本発明の低熱膨張セラミックスでは、負膨張材料の粒度を調整することで、異常な亀裂の発生を防止している。すなわち、混合粉砕後の粉体のD50粒度を2.0〜5.0μm、またはD90−D10の粒度分布を4.0〜13.5μmに制御している。その結果、負膨張材料を緻密化している。D50粒度を2.0〜5.0μmまたはD90−D10の粒度分布を4.0〜13.5μmとすることで、負膨張材料が十分に焼結でき、低熱膨張材料の異常な亀裂の発生を防止できる。
【0034】
[実施例]
上記の製造方法に基づき、表1〜表4に示す配合量で、負膨張材料と正膨張材料とを配合し、低熱膨張セラミックスを作製した。そして、得られた焼結体の試料をアルキメデス法により相対密度を測定した。また、得られた低熱膨張セラミックスの20〜100℃での熱膨張率を測定したところ、−2.0×10−6(1/K)以上2.0×10−6(1/K)以下の範囲にあることを確認できた。熱膨張係数は、JIS R3251「低膨張ガラスのレーザ干渉計による線膨張率の測定方法」に規定されている方法により測定した。
【0035】
表1〜表3は、リン酸タングステン酸ジルコニウムの負膨張材料に、酸化物系の正膨張材料(それぞれAl、TiO、Y)を加えて低熱膨張セラミックス(実施例および比較例)を作製したときの配合、1150〜1300℃で焼成した試料の相対密度および熱膨張率を示している。
【表1】

【表2】

【表3】
【0036】
表4〜6は、リン酸タングステン酸ジルコニウムの負膨張材料に、酸化物系の正膨張材料(それぞれAl、TiO、Y)を加えて低熱膨張セラミックス(比較例)を作製したときの配合、1000℃で焼成した試料の相対密度および熱膨張率を示している。作製した試料では、十分高い相対密度が得られず、熱膨張率を測定できなかった。
【表4】

【表5】

【表6】
【0037】
表7〜9は、タングステン酸ジルコニウムの負膨張材料に、酸化物系の正膨張材料(それぞれAl、TiO、Y)を加えて低熱膨張セラミックス(実施例および比較例)を作製したときの配合、1150〜1300℃で焼成した試料の相対密度および熱膨張率を示している。
【表7】

【表8】

【表9】
【0038】
表10〜12は、タングステン酸ジルコニウムの負膨張材料に、酸化物系の正膨張材料(それぞれAl、TiO、Y)を加えて低熱膨張セラミックス(比較例)を作製したときの配合、1000℃で焼成した試料の相対密度および熱膨張率を示している。十分高い相対密度が得られず、熱膨張率を測定できなかった。
【表10】

【表11】

【表12】
【0039】
以上のように、上記の各配合において緻密な低熱膨張セラミックスの製造が可能になったことを検証できた。その結果、平面度の経時変化を防止でき、耐薬品性を向上できる低熱膨張セラミックスの提供が可能になった。
【符号の説明】
【0040】
1 微粒粒子
2 焼結粒子
図1