(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車輪の速度を検出する車輪速検出手段と、前記車輪を制動するブレーキ装置のホイールシリンダ圧を調整する液圧調整手段と、車両の制動時に車輪速検出手段で検出された車輪速に基づいて前記液圧調整手段を制御して前記ホイールシリンダ圧の減圧および増圧をこの順番で繰り返し実行してABS制御を実行するABS制御実行手段とを備えたアンチスキッド制御装置であって、
前記車両の加速度を検出する車両加速度検出手段と、
前記車両加速度検出手段が検出した前記車両の加速度に基づいて、車輪加速度閾値を設定する開始閾値設定手段と、
前記車輪速検出手段が検出した車輪速に基づいて前記車輪の加速度を演算し、当該車輪の加速度と前記車輪加速度閾値に基づいて、前記ABS制御実行手段に前記ABS制御を開始させるか否かを判断するABS制御開始判断手段と、
前記開始閾値設定手段が設定する前記車輪加速度閾値を、前記ABS制御の開始が困難となる方向にABS制御補正量分だけ補正する開始閾値補正手段と、
前記演算された前記車輪の加速度の負の絶対値である車輪減速度が大きくなるに従って、前記開始閾値補正手段が補正する前記ABS制御補正量を大きくする補正量調整手段と、を有し、
前記補正量調整手段は、制動中の前記車輪の減速度が、路面から前記車輪に作用する垂直方向の荷重が0となった状態を表す予め定めた車輪浮き減速度となった場合には、前記車輪浮き減速度を前記ABS制御補正量として演算するアンチスキッド制御装置。
車輪の速度を検出する車輪速検出手段と、前記車輪を制動するブレーキ装置のホイールシリンダ圧を調整する液圧調整手段と、車両の制動時に車輪速検出手段で検出された車輪速に基づいて前記液圧調整手段を制御して前記ホイールシリンダ圧の減圧および増圧をこの順番で繰り返し実行してABS制御を実行するABS制御実行手段とを備えたアンチスキッド制御装置であって、
前記車両の加速度を検出する車両加速度検出手段と、
前記車両加速度検出手段が検出した前記車両の加速度に基づいて、車輪加速度閾値を設定する開始閾値設定手段と、
前記車輪速検出手段が検出した車輪速に基づいて前記車輪の加速度を演算し、当該車輪の加速度と前記車輪加速度閾値に基づいて、前記ABS制御実行手段に前記ABS制御を開始させるか否かを判断するABS制御開始判断手段と、
前記開始閾値設定手段が設定する前記車輪加速度閾値を、前記ABS制御の開始が困難となる方向にABS制御補正量分だけ補正する開始閾値補正手段と、
前記演算された前記車輪の加速度の負の絶対値である車輪減速度が大きくなるに従って、前記開始閾値補正手段が補正する前記ABS制御補正量を大きくする補正量調整手段と、を有し、
前記補正量調整手段は、制動中の前記車輪の減速度が、予め定めた低μ路制動中減速度以下の場合には、前記ABS制御補正量を0とするアンチスキッド制御装置。
車輪の速度を検出する車輪速検出手段と、前記車輪を制動するブレーキ装置のホイールシリンダ圧を調整する液圧調整手段と、車両の制動時に車輪速検出手段で検出された車輪速に基づいて前記液圧調整手段を制御して前記ホイールシリンダ圧の減圧および増圧をこの順番で繰り返し実行してABS制御を実行するABS制御実行手段とを備えたアンチスキッド制御装置であって、
前記車両の加速度を検出する車両加速度検出手段と、
前記車両加速度検出手段が検出した前記車両の加速度に基づいて、車輪加速度閾値を設定する開始閾値設定手段と、
前記車輪速検出手段が検出した車輪速に基づいて前記車輪の加速度を演算し、当該車輪の加速度と前記車輪加速度閾値に基づいて、前記ABS制御実行手段に前記ABS制御を開始させるか否かを判断するABS制御開始判断手段と、
前記開始閾値設定手段が設定する前記車輪加速度閾値を、前記ABS制御の開始が困難となる方向にABS制御補正量分だけ補正する開始閾値補正手段と、
前記演算された前記車輪の加速度の負の絶対値である車輪減速度が大きくなるに従って、前記開始閾値補正手段が補正する前記ABS制御補正量を大きくする補正量調整手段と、
前記車両の速度を検出する車両速度検出手段と、を有し、
前記開始閾値設定手段は、前記車両速度検出手段が検出した前記車両の速度に基づいて、前記車輪の速度の閾値である車輪速度閾値を設定し、
前記ABS制御開始判断手段は、前記車輪速検出手段が検出した車輪速が前記車輪速度閾値を下回り、且つ、前記車輪の加速度が前記車輪加速度閾値を下回った場合に、前記ABS制御を開始させるアンチスキッド制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
段差でのABS制御の実行を防止するためには、段差の判定を高感度とするか、ABS制御開始条件を鈍化する必要がある。しかしながら、段差の判定を高感度とすると、車輪が段差を通過していないのにも関わらず、車輪が段差を通過したと判定され、例えば、車両が低摩擦抵抗の路面を走行し、ABS制御が必要な場合に、ABS制御が開始されず、車輪のロックが生じてしまうおそれがある。また、制御開始条件を鈍化すると、緊急制動時に、ABS制御が実行されず、車輪のロックが生じてしまうおそれがある。このように、車両の段差通過により不要な場合にABS制御が作動することの抑制を向上させることと、ABS制御の開始の精度を向上させることは、互いに相反しているという問題があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ABS制御の適切な開始が妨げられることが無く、段差通過に起因するABS制御の実行を抑制することができるアンチスキッド制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するためになされた、請求項1に係る発明によると、車輪の速度を検出する車輪速検出手段と、前記車輪を制動するブレーキ装置のホイールシリンダ圧を調整する液圧調整手段と、車両の制動時に車輪速検出手段で検出された車輪速に基づいて前記液圧調整手段を制御して前記ホイールシリンダ圧の減圧および増圧をこの順番で繰り返し実行してABS制御を実行するABS制御実行手段とを備えたアンチスキッド制御装置であって、前記車両の加速度を検出する車両加速度検出手段と、前記車両加速度検出手段が検出した前記車両の加速度に基づいて、車輪加速度閾値を設定する開始閾値設定手段と、前記車輪速検出手段が検出した車輪速に基づいて前記車輪の加速度を演算し、当該車輪の加速度と前記車輪加速度閾値に基づいて、前記ABS制御実行手段に前記ABS制御を開始させるか否かを判断するABS制御開始判断手段と、前記開始閾値設定手段が設定する
前記車輪加速度閾値を、前記ABS制御の開始が困難となる方向にABS制御補正量分だけ補正する開始閾値補正手段と、前記
演算された
前記車輪の加速度の負の絶対値である車輪減速度が大きくなるに従って、
前記開始閾値補正手段が補正する前記ABS制御補正量を大きくする補正量調整手段と、を有し、
前記補正量調整手段は、制動中の前記車輪の減速度が、路面から前記車輪に作用する垂直方向の荷重が0となった状態を表す予め定めた車輪浮き減速度となった場合には、前記車輪浮き減速度を前記ABS制御補正量として演算する。なお、前記ブレーキ装置が車輪に作用させる制動力であるブレーキトルクを検出するブレーキトルク検出手段を有し、前記補正量調整手段は、制動中の前記車輪の減速度が、路面から前記車輪に作用する垂直方向の荷重が0となった状態の前記車輪の減速度以上である場合には、前記ブレーキトルクに前記車輪の半径を積算するとともに前記車輪のイナーシャを除した値を前記ABS制御補正量として演算することが好ましい。
【0009】
請求項2に係る発明によると、請求項1において、
前記補正量調整手段は、制動中の前記車輪の減速度が、予め定めた低μ路制動中減速度以下の場合には、前記ABS制御補正量を0とする。
【0010】
請求項3に係る発明によると、
車輪の速度を検出する車輪速検出手段と、前記車輪を制動するブレーキ装置のホイールシリンダ圧を調整する液圧調整手段と、車両の制動時に車輪速検出手段で検出された車輪速に基づいて前記液圧調整手段を制御して前記ホイールシリンダ圧の減圧および増圧をこの順番で繰り返し実行してABS制御を実行するABS制御実行手段とを備えたアンチスキッド制御装置であって、前記車両の加速度を検出する車両加速度検出手段と、前記車両加速度検出手段が検出した前記車両の加速度に基づいて、車輪加速度閾値を設定する開始閾値設定手段と、前記車輪速検出手段が検出した車輪速に基づいて前記車輪の加速度を演算し、当該車輪の加速度と前記車輪加速度閾値に基づいて、前記ABS制御実行手段に前記ABS制御を開始させるか否かを判断するABS制御開始判断手段と、前記開始閾値設定手段が設定する前記車輪加速度閾値を、前記ABS制御の開始が困難となる方向にABS制御補正量分だけ補正する開始閾値補正手段と、前記演算された前記車輪の加速度の負の絶対値である車輪減速度が大きくなるに従って、前記開始閾値補正手段が補正する前記ABS制御補正量を大きくする補正量調整手段と、を有し、前記補正量調整手段は、制動中の前記車輪の減速度が、予め定めた低μ路制動中減速度以下の場合には、前記ABS制御補正量を0とする。
【0011】
請求項4に係る発明によると、請求項
2において、前記補正量調整手段は、制動中の前記車輪の減速度が、前記車輪浮き減速度より小さく、且つ、前記低μ路制動中減速度より大きい場合には、前記ABS制御補正量を前記車輪浮き減速度と0との間の値とする。
【0012】
請求項5に係る発明によると、
車輪の速度を検出する車輪速検出手段と、前記車輪を制動するブレーキ装置のホイールシリンダ圧を調整する液圧調整手段と、車両の制動時に車輪速検出手段で検出された車輪速に基づいて前記液圧調整手段を制御して前記ホイールシリンダ圧の減圧および増圧をこの順番で繰り返し実行してABS制御を実行するABS制御実行手段とを備えたアンチスキッド制御装置であって、前記車両の加速度を検出する車両加速度検出手段と、前記車両加速度検出手段が検出した前記車両の加速度に基づいて、車輪加速度閾値を設定する開始閾値設定手段と、前記車輪速検出手段が検出した車輪速に基づいて前記車輪の加速度を演算し、当該車輪の加速度と前記車輪加速度閾値に基づいて、前記ABS制御実行手段に前記ABS制御を開始させるか否かを判断するABS制御開始判断手段と、前記開始閾値設定手段が設定する前記車輪加速度閾値を、前記ABS制御の開始が困難となる方向にABS制御補正量分だけ補正する開始閾値補正手段と、前記演算された前記車輪の加速度の負の絶対値である車輪減速度が大きくなるに従って、前記開始閾値補正手段が補正する前記ABS制御補正量を大きくする補正量調整手段と、前記車両の速度を検出する車両速度検出手段
と、を有し、前記開始閾値設定手段は、前記車両速度検出手段が検出した前記車両の速度に基づいて、前記車輪の速度の閾値である車輪速度閾値を設定し、前記ABS制御開始判断手段は、前記車輪速検出手段が検出した車輪速が前記車輪速度閾値を下回り、且つ、前記車輪の加速度が前記車輪加速度閾値を下回った場合に、前記ABS制御を開始させる。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によると、開始閾値補正手段が、車輪加速度閾値をABS制御の開始が困難となる方向にABS制御補正量分だけ補正し、補正量調整手段は、
演算された
車輪の加速度の負の絶対値である車輪減速度が大きくなるに従って、ABS制御補正量を大きくする。これにより、車輪減速度が大きくなる程、ABS制御補正量が大きくなり、ABS制御が開始され難くなる。このため、制動中の車輪が段差を通過し、路面から車輪に作用する荷重が小さくなり、制動力が付与されている車輪がスリップして、車輪減速度が大きくなった場合に、車輪加速度閾値が、ABS制御の開始が困難となる方向に補正されるので、段差通過に起因するABS制御の実行が抑制される。一方で、制動中の車輪が段差を通過していない状態でスリップした場合には、車輪の段差通過時に比べて車輪減速度が小さくなる。すると、ABS制御補正量が小さくなり、ABS制御の適切な開始が妨げられることが無い。このように、ABS制御の適切な開始が妨げられることが無く、段差通過に起因するABS制御の実行を抑制することができるアンチスキッド制御装置を提供することができる。
また、補正量調整手段は、制動中の車輪の減速度が、路面から車輪に作用する垂直方向の荷重が0となった状態を表す予め定めた車輪浮き減速度となった場合には、車輪浮き減速度を車輪の減速度をABS制御補正量として演算する。制動中の車輪が段差を通過し、制動中の車輪が路面から離れて、路面から車輪に作用する荷重が0となった場合には、補正量調整手段は、車輪の減速度をABS制御補正量として演算する。このため、車輪加速度が、補正後の車輪加速度閾値に達することが無いので、制動中の車輪の段差通過に起因するABS制御の実行が確実に防止される。
【0014】
請求項2に係る発明によると、
補正量調整手段は、制動中の車輪の減速度が、予め定めた低μ路制動中減速度以下の場合には、ABS制御補正量を0とする。これにより、車輪が低μ路において制動中である場合には、ABS制御補正量が0となるので、車両が低μ路を走行中において、ABS制御の適切な開始をより確実なものとすることができる。
【0015】
請求項3に係る発明によると、補正量調整手段は、制動中の車輪の減速度が、予め定めた低μ路制動中減速度以下の場合には、ABS制御補正量を0とする。これにより、車輪が低μ路において制動中である場合には、ABS制御補正量が0となるので、車両が低μ路を走行中において、ABS制御の適切な開始をより確実なものとすることができる。
【0016】
請求項4に係る発明によると、補正量調整手段は、制動中の車輪の減速度が、車輪浮き減速度より小さく、且つ、低μ路制動中減速度より大きい場合には、ABS制御補正量を車輪浮き減速度と0との間の値とする。これにより、車両の段差通過時に車輪の浮き程度が低く減速度が小さい場合に、ABS制御補正量が車輪の浮きが発生した状態より小さくまた0でない値として設定される。このため、段差通過時に車輪の浮き程度が低い場合に、同時に段差通過以外の要因、例えば低μ路面の通過の要因でスリップが発生した際にも、適切なABS制御補正量が設定されるようにすることができる。
【0017】
請求項5に係る発明によると、開始閾値設定手段は、車両速度検出手段が検出した車両の速度に基づいて、車輪の速度の閾値である車輪速度閾値を設定し、ABS制御開始判断手段は、車輪速検出手段が検出した車輪速が車輪速度閾値を下回り、且つ、車輪の加速度が車輪加速度閾値を下回った場合に、ABS制御を開始させる。このように、車輪速が車輪速度閾値を下回り、且つ、車輪の加速度が車輪加速度閾値を下回った場合に限り、ABS制御が開始されるので、ABS制御の適切な開始をより確実なものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(アンチスキッド制御装置の構造)
以下、本発明に係るアンチスキッド制御装置の一実施形態を、
図1を参照して説明する。アンチスキッド制御装置Aは、ABS(アンチロックブレーキシステム)機能を有するものである。アンチスキッド制御装置Aは、マスタシリンダ10、リザーバタンク12、負圧式ブースタ13を有している。
【0020】
マスタシリンダ10は、ブレーキペダル11の踏込状態に応じた液圧のブレーキ液を生成して車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrの回転を規制するブレーキ装置のホイールシリンダWC1〜WC4に供給するものである。リザーバタンク12は、ブレーキ液を貯蔵するとともにマスタシリンダ10へ補給するものである。負圧式ブースタ13は、ブレーキペダル11の踏み込み力を助勢するものである。
【0021】
アンチスキッド制御装置Aのブレーキ配管系は、X配管方式にて構成されている。マスタシリンダ10の第1および第2出力ポート10a、10bは、第1および第2配管系La、Lbにそれぞれ接続されている。第1配管系Laは、マスタシリンダ10と左前輪Wfl、右後輪WrrのホイールシリンダWC1、WC2とをそれぞれ連通するものである。第2配管系Lbは、マスタシリンダ10と左後輪Wrl、右前輪WfrのホイールシリンダWC3、WC4とをそれぞれ連通するものである。
【0022】
第1配管系Laは、第1〜第6油路La1〜La6から構成されている。第1油路La1は、一端がマスタシリンダ10の第1出力ポート10aに接続されている。第2油路La2は、一端が第1油路La1に接続され他端がホイールシリンダWC1に接続されている。第2油路La2上には、保持弁21が配設されている。第3油路La3は、一端が第1油路La1に接続され他端がホイールシリンダWC2に接続されている。第3油路La3上には、保持弁22が配設されている。第4油路La4は、一端が第1油路La1に接続され他端が内蔵リザーバタンク24に接続されている。第4油路La4上には、ポンプ23が配設されている。第2および第4油路La2、La4の間には、両油路La2、La4を接続する第5油路La5が設けられている。第5油路La5上には、減圧弁25が配設されている。第3および第4油路La3、La4の間には、両油路La3、La4を接続する第6油路La6が設けられている。第6油路La6には、減圧弁26が配設されている。
【0023】
保持弁21は、マスタシリンダ10とホイールシリンダWC1を連通・遮断するノーマルオープン型の電磁開閉弁である。保持弁22は、マスタシリンダ10とホイールシリンダWC2を連通・遮断するノーマルオープン型の電磁開閉弁である。保持弁21、22は、ECU(制御装置)40の指令に応じて非通電されると連通状態(図示状態)にまた通電されると遮断状態に制御できる2位置弁として構成されている。保持弁21、22にはホイールシリンダWC1、WC2からマスタシリンダ10への流れを許容する逆止弁21a、22aがそれぞれ並列に設けられている。
【0024】
ポンプ23は、吸い込み口がブレーキ液を貯蔵する内蔵リザーバタンク24に連通し、吐出口が逆止弁27を介してマスタシリンダ10およびホイールシリンダWC1、WC2に連通するものである。ポンプ23は、ECU40の指令に応じた電動モータ23aの作動によって駆動されている。ポンプ23は、ABS制御の減圧モード時においては、ホイールシリンダWC1、WC2内のブレーキ液または内蔵リザーバタンク24内に貯められているブレーキ液を吸い込んでマスタシリンダ10に戻している。なお、ポンプ23が吐出したブレーキ液の脈動を緩和するために、第4油路La4のポンプ23の上流側にはダンパ28が配設されている。
【0025】
減圧弁25は、ホイールシリンダWC1と内蔵リザーバタンク24を連通・遮断するノーマルクローズ型の電磁開閉弁である。減圧弁26は、ホイールシリンダWC2と内蔵リザーバタンク24を連通・遮断するノーマルクローズ型の電磁開閉弁である。減圧弁25、26は、ECU40の指令に応じて非通電されると遮断状態(図示状態)にまた通電されると連通状態に制御できる2位置弁として構成されている。
【0026】
また、第2および第3油路La2、La3の保持弁21、22の各上流には、マスタシリンダ10から左前輪WflのホイールシリンダWC1に供給する液圧(油圧)の供給量を規定するオリフィスLa2a、およびマスタシリンダ10から右後輪WrrのホイールシリンダWC2に供給する液圧(油圧)の供給量を規定するLa3aがそれぞれ設けられている。これらオリフィスLa2a、La3aの内径を大きくすることによりホイールシリンダへの油圧の供給量を多くして制動初期の減速度を向上させることができる。
【0027】
さらに、第2配管系Lbは前述した第1配管系Laと同様な構成であり、第1〜第6油路Lb1〜Lb6を備えている。第1油路Lb1は一端がマスタシリンダ10の第2出力ポート10bに接続されている。第2油路Lb2は、一端が第1油路Lb1に接続され他端がホイールシリンダWC3に接続されている。第2油路Lb2上には、第1油路La1にあるオリフィスLa3a、保持弁22および逆止弁22aと同様なオリフィスLb2a、保持弁31および逆止弁31aが配設されている。第3油路Lb3は、一端が第1油路Lb1に接続され他端がホイールシリンダWC4に接続されている。第3油路Lb3上には、オリフィスLa2a、保持弁21および逆止弁21aと同様なオリフィスLb3a、保持弁32および逆止弁32aが配設されている。第4油路Lb4は、一端が第1油路Lb1に接続され他端が内蔵リザーバタンク34に接続されている。第4油路Lb4上には、ダンパ28、逆止弁27およびポンプ23と同様なダンパ38、逆止弁37およびポンプ33が配設されている。第2および第4油路Lb2、Lb4を接続する第5油路Lb5には、減圧弁26と同様な減圧弁35が配設されている。第3および第4油路Lb3、Lb4を接続する第6油路Lb6には、減圧弁25と同様な減圧弁36が配設されている。
【0028】
また、第2配管系Lbの第1油路Lb1には、マスタシリンダ10内のブレーキ液圧であるマスタ圧を検出する圧力センサPが設けられており、この検出信号はECU40に送信されるようになっている。マスタ圧はブレーキペダル11の踏込操作状態を示すものである。なお、圧力センサPは第1配管系Laの第1油路La1に設けるようにしてもよい。
【0029】
また、アンチスキッド制御装置Aは、ブレーキペダル11の付近に設けられて、ブレーキペダル11が踏まれるとオンされ、踏み込みが解除されるとオフされるストップスイッチ14を備えている。このストップスイッチ14のオン・オフ信号はECU40に送信されるようになっている。さらに、アンチスキッド制御装置Aは、各車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrの付近に設けられて、それらの車輪速度をそれぞれ検出する車輪速度センサ41、42、43、44を備えている。それらの車輪速度を示す検出信号はECU40に送信されるようになっている。さらに、アンチスキッド制御装置Aは、車両に設けられて、車両の前後加速度を検出する前後加速度センサ45を備えている。前後加速度を示す検出信号はECU40に送信されるようになっている。
【0030】
さらに、アンチスキッド制御装置Aは、上述した圧力センサP、ストップスイッチ14、電動モータ23a、各電磁弁21、22、25、26、31、32、35、36、各車輪速度センサ41、42、43、44および前後加速度センサ45に接続されたECU(電子制御ユニット)40を備えている。ECU40は、圧力センサPで検出されたマスタ圧に基づいて、「ブレーキトルク」を演算する。ECU40は、マスタ圧、車輪速度、ストップスイッチ14の状態および前後加速度に基づき、各電磁弁21、22、25、26、31、32、35、36の開閉を切り換え制御し電動モータ23aを必要に応じて作動してホイールシリンダWC1〜WC4に付与するブレーキ液圧すなわち各車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrに付与する制動力を調整するABS制御を実行する。
【0031】
ECU40は、マイクロコンピュータを有しており、マイクロコンピュータは、バスを介してそれぞれ接続された入出力インターフェース、CPU、RAM、及びROMや不揮発性メモリー等の「記憶部」を備えている。CPUは、
図2に示すフローに対応したプログラムを実行する。RAMは同プログラムの実行に必要な変数を一時的に記憶するものである。「記憶部」は前記プログラムや、
図2に示すフローを実行するプログラムを記憶している。
【0032】
なお、液圧制御装置Bは、車両の制動時に車輪速検出手段で検出された車輪速に基づいてホイールシリンダ圧の減圧および増圧をこの順番で繰り返し実行するものであり、保持弁21、22、31、32、減圧弁25、26、35、36、内蔵リザーバタンク24、34、ポンプ23、33、および電動モータ23aから構成されている。
【0033】
(ABS制御処理)
次に、上記のように構成したアンチスキッド制御装置Aの作動を、
図2に示すフローチャート、
図3に示すグラフ、
図4に示すマッピングデータを用いて説明する。まず、
図3に示すグラフについて説明する。制動中の車両が段差を通過すると路面から段差を通過した車輪に作用する荷重が小さくなり、その車輪と路面との摩擦力が低下して、制動力が付与されている特定の車輪のうち段差を通過した車輪がスリップする。すると、車輪加速度DVWが低下するとともに(
図3の(1))、車輪速度VWが低下する(
図3の(2))。そして、再び、路面から段差を通過した車輪に作用する荷重が通常状態に戻ると、路面との摩擦力によりその車輪が加速されるとともに(
図3の(3))、車輪速度VWが上昇する(
図3の(4))。なお、
図3に示す車輪加速度DVWが車輪加速度閾値DVsを下回り、且つ、車輪速度VWが車輪速度閾値Vsを下回ると、ABS制御が開始される。
【0034】
次に、
図2に示す「ABS制御処理」のフローについて説明する。ECU40は、車両のイグニションスイッチ(図示省略)がオン状態になると、「ABS制御処理」が開始し、プログラムがS11に進む。
【0035】
S11において、ECU40は、各車輪速度センサ41、42、43、44からの車輪速度信号に基づいて、各車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrの車輪速度VW**を演算する(**は、各輪に対応する添え字であって、fl,rr,rl,frのいずれかである。以下の説明及び図面において同じである)。なお、車輪速度VW**は、各車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrの接地面(外周面)の速度である。次に、ECU40は、各車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrの車輪速度VWを時間微分することにより、各車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrの車輪加速度DVW**を演算する。S11が終了すると、プログラムはS12に進む。
【0036】
S12において、ECU40は、S11で演算された各車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrのうち例えば最大速度VWMaxに基づき、車両速度V(いわゆる推定車体速度、以下同じ)を演算する。この処理は、例えば、各車輪Wfl〜Wfrの車輪速度VWfl〜VWfrの内の最大速度VWmaxが、前回求めた車両速度V(n−1)に所定値を加えた加速限界値Vαから、車両速度V(n−1)から所定値を減じた減速限界値Vβまでの範囲内にあるか否かを判断する。最大速度VWmaxが加速限界値Vαから減速限界値Vβまでの範囲内にあれば、最大速度VWmaxをそのまま車両速度Vとして設定する。最大速度VWmaxが加速限界値Vαを越えていれば、この加速限界値Vαを車両速度Vとして設定する。最大速度VWmaxが減速限界値Vβを下回っていれば、その減速限界値Vβを車両速度Vとして設定する。次に、ECU40は、前後加速度センサ45からの検出信号に基づき、車両加速度DVを演算する。S14が終了すると、プログラムはS13に進む。
【0037】
S13において、ECU40は、圧力センサPで検出されたマスタ圧に基づいて、「ブレーキトルク」を演算する。「ブレーキトルク」は、各ブレーキ装置が車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrに作用させる制動力、即ち、各ブレーキ装置が車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrの回転を規制するトルクである。S13が終了すると、プログラムはS14に進む。
【0038】
S14において、ECU40は、S12で演算した車両速度Vから車輪速度閾値Vs(
図3の点線)を演算する。具体的には、ECU40は、まず、S12で演算した車両速度Vに対して所定の割合(1−A)の値、即ち(1−A)・Vから所定の速度B(例えば3km)を減算することにより、車輪速度閾値Vsを演算する。ここで、Aは一定の値で、例えば5%に設定される。
【0039】
S15において、ECU40は、
図3の一点鎖線で示すように、S12で演算した車両加速度DVから所定の閾値Cを減算して、車輪加速度閾値DVsを演算し、プログラムをS21に進める。
【0040】
S21において、ECU40が、ABS制御中であると判断した場合には(S21:YES)、プログラムをS24進め、ABS制御中で無いと判断した場合には(S21:NO)、プログラムをS22に進める。
【0041】
S22において、ECU40は、ゲインK_Gainを演算する。具体的には、ECU40は、S11で演算した車輪加速度DVWを、
図4に示す車輪加速度DVWとゲインK_Gainとの関係を表したマッピングデータに参照させることにより、ゲインK_Gainを演算する。
【0042】
以下に、
図4に示すマッピングデータの設定原理について説明する。
制動中の車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrの運動方程式は、下式(1)で表される。
I・dω/dt=μ・W・r−Br…(1)
I:車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrのイナーシャ
dω/dt:車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrの角加速度
μ:車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrと路面との摩擦係数
W:路面から車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrに作用する垂直方向の荷重
Br:ブレーキトルク
r:車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrの半径
【0043】
車輪加速度DVWと車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrの角加速度dω/dtとの関係は、下式(2)に示される。
DVW=dω/dt・r…(2)
DVW:車輪加速度
dω/dt:車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrの角加速度
r:車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrの半径
【0044】
上式(1)と上式(2)により下式(3)が導き出される。
DVW=(μ・W・r−Br)・r/I…(3)
μ:車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrと路面との摩擦係数
W:路面から車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrに作用する垂直方向の荷重
Br:ブレーキトルク
r:車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrの半径
I:車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrのイナーシャ
【0045】
車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrが段差に乗り上げ、車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrが路面から完全に浮いた場合には、車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrに作用する垂直方向の荷重Wが0となる。従って、車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrが段差に乗り上げ、車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrが路面から離れた状態の車輪加速度DVW1は、下式(4)で表される。
DVW1=−Br・r/I…(4)
DVW1:車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrが路面から離れた状態の車輪加速度(車輪浮き減速度)
Br:ブレーキトルク
r:車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrの半径
I:車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrのイナーシャ
【0046】
凍結している路面等の低μ路で制動中の車輪加速度DVW2は、下式(5)で表される。
DVW2=(μ1・W・r−Br)・r/I…(5)
DVW2:低μ路で制動中の車輪加速度(低μ路制動中減速度)
μ1:車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrと低μ路との摩擦係数
W:路面から車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrに作用する垂直方向の荷重
Br:ブレーキトルク
r:車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrの半径
I:車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrのイナーシャ
なお、μ1は、路面と車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrとのあり得る最低の摩擦係数である。本実施形態では、μ1は0.1と設定されている。
【0047】
図4に示すマッピングデータでは、車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrが段差に乗り上げ、車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrが路面から完全に浮き、車輪加速度DVWがDVW1となった場合に、ゲインK_Gainが1となるように設定している。また、車輪加速度DVWが低μ路で制動中の車輪加速度DVW2となった場合に、ゲインK_Gainが0となるように設定している。そして、車輪加速度DVWが、DVW1とDVW2の間(
図4の(5))では、DVW1でゲインK_Gainが1、DVW2でゲインK_Gainが0となる一次関数(
図4の(6))となっている。つまり、前記一次関数は、車輪加速度DVWがDVW2よりも小さい場合には(車輪Wfl〜Wfrの減速度がDVW2よりも大きい場合には)、車輪Wfl〜Wfrの減速度(マイナスの車輪加速度DVW)が大きくなるに従って、ゲインK_Gainが大きくなるような関数となっている。すなわち、制動中の車輪の減速度が後述する車輪浮き減速度より小さく、また、低μ路制動中減速度より大きい場合には、ABS制御補正量を車輪浮き減速度と0との間の値をとるようにしている。S22が終了すると、プログラムは、S23に進む。
【0048】
S23において、ECU40は、車輪加速度閾値DVsを「ABS制御補正量」分だけ補正して、補正後車輪加速度閾値DVs’を演算する。具体的には、ECU40は、S13で演算した「ブレーキトルク」、S15で演算した車輪加速度閾値DVs、及びS22で演算したゲインK_Gainを下式(6)に代入して、補正後車輪加速度閾値DVs’を演算する。
DVs’=DVs+K_Gain・(−Br)・r/I…(6)
DVs’:補正後車輪加速度閾値
DVs:補正前車輪加速度閾値
K_Gain:ゲイン
Br:ブレーキトルク
r:車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrの半径
I:車輪Wfl、Wrr、Wrl、Wfrのイナーシャ
なお、K_Gain・(−Br)・r/Iが、「ABS制御補正量」である。
S23が終了すると、プログラムは、S31に進む。
【0049】
S24において、ECU40は、車輪加速度閾値DVsの補正を停止する。つまり、ECU40は、補正後車輪加速度閾値DVs’を、車輪加速度閾値DVsと同一の値にする。S24が終了すると、プログラムをS31に進める。
【0050】
S31において、ECU40は、S11で演算した車輪加速度DVWが、補正後車輪加速度閾値DVs’以下であると判断した場合には(S31:YES)、プログラムをS32に進め、車輪加速度DVWが、補正後車輪加速度閾値DVs’より大きいと判断した場合には(S31:NO)、プログラムをS36に進める。
【0051】
S32において、ECU40は、S11で演算した車輪速度VWが、S14で演算した車輪速度閾値Vs以下であると判断した場合には(S32:YES)、プログラムをS33に進め、車輪速度VWが、車輪速度閾値Vsより大きいと判断した場合には(S32:NO)、プログラムをS36に進める。
【0052】
S33において、ECU40は、「ABS制御」の終了条件が成立したと判断した場合には(S33:YES)、プログラムをS36に進め、「ABS制御」の終了条件が成立していないと判断した場合には(S33:NO)、プログラムをS34に進める。なお、ECU40は、圧力センサPによって検出されたマスタ圧が、0又は殆ど0になったと判断した場合には、ECU40は、「ABS制御」の終了条件が成立したと判断する。
【0053】
S34において、ECU40は、「ABS制御フラグ」をONにして、プログラムをS35に進める。
【0054】
S36において、ECU40は、「ABS制御フラグ」をOFFにして、プログラムをS11に戻す。なお、「ABS制御フラグ」がOFFの状態では、「ABS制御」は実行されず、既に「ABS制御」が実行中であれば、「ABS制御」が終了する。
【0055】
S35において、ECU40は、ABS制御を実行する。具体的には、ECU40は、S11で演算した各車輪Wfl〜Wfrの車輪速度VWfl〜VWfrと、S12した車両速度Vに基づき、各車輪Wfl〜Wfrのスリップ量ΔVW**を演算する。次に、ECU40は、車両の制動時に車輪速度センサ41〜44で検出された車輪速度VW**に基づいて液圧調整装置Bを制御してホイールシリンダ圧の減圧および増圧をこの順番で繰り返し実行する。つまり、ECU40は、車輪スリップ量ΔVW**と、S11で演算した車輪加速度DVW**とに基づいて、液圧調整装置Bを増圧モード、減圧モード、パルス減モード、保持モード、通常パルス増モードおよび補正パルス増モードの何れに制御するかを設定し、その制御モードにて液圧調整装置Bの制御を実行する。なお、減圧モードは、「ABS制御」の始めに実行される。このABS制御については、特開2007−22404号公報に詳細に記載されているので、ここでは詳細な説明を割愛する。なお、「ABS制御フラグ」がONの状態に限って、「ABS制御」が実行される。S35が終了すると、プログラムはS11に戻る。
【0056】
S34において、ECU40は、ABS制御が実行されている場合には、ABS制御を停止させ、プログラムをS11に戻す。
【0057】
(本実施形態の効果)
上述した説明から明らかなように、ECU40(開始閾値補正手段)が、
図2のS23において、車輪加速度閾値DVsをABS制御の開始が困難となる方向に「ABS制御補正量」であるK_Gain・(−Br)・r/I分だけ補正する。そして、ECU40(補正量調整手段)は、
図2のS22において、車輪加速度DVWを
図4に示すマッピングデータに参照させることにより、車輪Wfl〜Wfrの減速度(マイナスの車輪加速度DVW)が大きくなるに従って、上述した「ABS制御補正量」の元となるゲインK_Gainを大きく演算する。これにより、車輪Wfl〜Wfrの減速度が大きくなる程、「ABS制御補正量」が大きくなり、ABS制御が開始され難くなる。このため、制動中の車輪Wfl〜Wfrが段差を通過し、路面から車輪Wfl〜Wfrに作用する荷重が小さくなり、制動力が付与されている車輪Wfl〜Wfrがスリップして、車輪Wfl〜Wfrの減速度が大きくなった場合に(
図3の(1))、車輪加速度閾値DVsが、車輪加速度DVWの低下に追従してABS制御の開始が困難となる方向に補正されるので(
図3の(5)示)、段差通過に起因するABS制御の実行が抑制される。
【0058】
一方で、制動中の車輪Wfl〜Wfrが段差を通過していない場合において、車輪Wfl〜Wfrがスリップした場合には、車輪Wfl〜Wfrの段差通過時に比べて車輪Wfl〜Wfrの減速度(マイナスの車輪加速度DVW)が小さくなる(
図3の(6)示)。
図4に示すマッピングデータを用いて、「ABS制御補正量」の元となるゲインK_Gainを演算しているので、車輪Wfl〜Wfrの減速度が小さい場合には、ゲインK_Gainも小さく演算される。このため、「ABS制御補正量」が小さくなるか0となり、
図3の(7)に示すように、ABS制御の適切な開始が妨げられることが無い。このように、ABS制御の適切な開始が妨げられることが無く、段差通過に起因するABS制御の実行を抑制することができるアンチスキッド制御装置Aを提供することができる。
【0059】
また、
図2のS22において、ECU40は、制動中の車輪Wfl〜Wfrの減速度である車輪加速度DVWが、上式(4)に示すように、路面から車輪Wfl〜Wfrに作用する垂直方向の荷重が0となった状態、すなわち、浮いた状態の車輪の減速度が減速度DVW1となった場合には、そのDVW1を車輪浮き減速度とし(
図4の(1))、ゲインK_Gainを1と演算する(
図4の(2))。そして、
図2のS23において、ECU40は、上式(6)に示すように、車輪浮き減速度DVW1である(−Br)・r/Iを「ABS制御補正量」として、補正後車輪加速度閾値DVs’を演算する。このように、制動中の車輪Wfl〜Wfrが段差を通過して、路面から車輪Wfl〜Wfrに作用する垂直方向の荷重が0となった場合には、ブレーキトルクBrによって車輪Wfl〜Wfrが減速した車輪浮き減速度DVW1である(−Br)・r/I分だけ、車輪加速度閾値DVsをABS制御の開始が困難となる方向に補正する。このため、
図3の(5)に示すように、車輪加速度DVWの低下に追従して、車輪加速度閾値DVsが、ABS制御の開始が困難となる方向に補正されて、補正後車輪加速度閾値DVs’(
図3の二点鎖線)となり、車輪加速度DVWが、補正後車輪加速度閾値DVs’に達することが無いので、制動中の車輪Wfl〜Wfrの段差通過に起因するABS制御の実行が確実に防止される。
【0060】
また、
図2のS22において、ECU40は、制動中の車輪Wfl〜Wfrの減速度が、上式(5)に示す低μ路において制動中である時に現れる減速度として予め定めた車輪Wfl〜Wfrの減速度DVW2(低μ路制動中減速度、
図4の(3))以下の場合には、車輪加速度DVWを
図4に示すマッピングデータに参照させることにより、ゲインK_Gainを0と演算する(
図4の(4))。そして、
図2のS23において、ECU40は、上式(6)にゲインK_Gain0を代入することにより、「ABS制御補正量」を0とする。このように、車輪Wfl〜Wfrが低μ路において制動中である場合には、「ABS制御補正量」が0となるので、車両が低μ路を走行中において、ABS制御の適切な開始をより確実なものとすることができる。
【0061】
また、
図2のS22において、ECU40は、制動中の車輪Wfl〜Wfrの減速度が、車車輪浮き減速度DVW1より小さく、且つ、低μ路制動中減速度減速度DVW2より大きい場合には、「ABS制御補正量」を車輪浮き減速度DVW1と0との間の値とする(
図4の(6))。これにより、車両の段差通過時に車輪Wfl〜Wfrの浮き程度が低く減速度が小さい場合に、「ABS制御補正量」が車輪Wfl〜Wfrの浮きが発生した状態より小さくまた0でない値として設定される。このため、段差通過時に車輪Wfl〜Wfrの浮き程度が低い場合に、同時に段差通過以外の要因、例えば低μ路面の通過の要因でスリップが発生した際にも、適切なABS制御補正量が設定されるようにすることができる。
【0062】
また、
図2のS14において、ECU40(開始閾値設定手段)は、車輪速度センサ41、42、43、44(車輪速検出手段)が検出した車両の速度に基づいて、車輪の速度の閾値である車輪速度閾値Vsを設定する。そして、ECU40(ABS制御開始判断手段)は、車輪加速度DVWが車輪加速度閾値DVsを下回り(
図2のS31:YES)、且つ、車輪速度VWが車輪速度閾値Vsを下回った場合に(S32:YES)、S33において、ABS制御を開始させる。このように、車輪加速度DVWが車輪加速度閾値DVsを下回り、車輪速度VWが車輪速度閾値Vsを下回った場合に限り、ABS制御が開始されるので、ABS制御の適切な開始が確実なものとなっている。
【0063】
(別の実施形態)
なお、上述した実施形態においては、「ブレーキトルク」の演算に、マスタ圧を採用したが、ブレーキペダル11のストローク量を採用するようにしてもよい。この場合、ブレーキペダル11のストロークを検出するストロークセンサを設け、その検出信号をECU40に送信するようにすればよい。そして、検出信号に基づいてストローク量を演算するようにすればよい。また、上述した辞し形態においては、ゲインを算出するマップには、一次関数を用いたが、二次関数その他の関数を用いても差し支え無い。
【0064】
また、上述した実施形態においては、前後加速度センサ45を設ける代わりにS12で演算した車両速度Vを時間で微分して車両加速度DVを導出するようにしても差し支え無い。