【実施例】
【0051】
以下には、本発明の複合体、光電極及び色素増感型太陽電池を具体的に作製した例を実験例として説明する。
【0052】
[複合体の光吸収特性評価]
種々の金属含有材料(アルカリ系材料、Cu系材料及び非Cu系材料を含む遷移金属材料)を用い、有機色素分子として
図2,3に示す色素1(D149とも称する)及び色素5(MK2とも称する)を用いて、n型半導体層であるTiO
2基板上に本発明の複合体を作製し、光吸収スペクトルを検討した。ここでは、TiO
2基板のみ、TiO
2基板に有機色素を形成したもの、TiO
2基板に有機色素及び金属含有材料を含む複合体を形成したものの3種を測定した。また、有機色素を形成したTiO
2基板の吸収スペクトル、及び複合体の吸収スペクトルからTiO
2基板の吸収スペクトルを差し引き、色素のみで得られる吸収スペクトルと複合体に含まれる色素で得られる吸収スペクトルとの対比を行い、その特性を評価した。吸収スペクトルは、分光光度計(日立製作所社製U−3400)により、290nm〜900nmの波長領域で測定した。なお、この評価では、アルカリ系材料のみを含む複合体、遷移金属材料のみを含む複合体、及び、アルカリ系材料及び遷移金属材料の両方を含む複合体の光吸収特性を検討した。
【0053】
(複合体の作製)
TCOガラス基板上に、n型半導体層としての多孔質TiO
2膜をスクリーン印刷法で塗布し、150℃で乾燥したのち電気炉内で450℃で加熱して、多孔質TiO
2膜基板を作製した。この多孔質TiO
2膜基板を複数作製した。次に、有機色素1(D149)及び有機色素5(MK2)を各々含む色素溶液を調製した。色素溶液は、例えばD149では、アセトニトリルとtert−ブチルアルコールとを混合した混合溶液を溶媒として用い、MK2では、トルエンを溶媒として用いた。続いて、上記作製したいずれかの色素溶液に多孔質TiO
2膜基板をそれぞれ浸漬し、25℃の温度条件の下で15時間放置した。このようにして、有機色素1又は有機色素5を吸着させた多孔質TiO
2膜基板(TiO
2/色素基板とも称する)をそれぞれ作製した。その後、金属含有材料(例えば、LiTFSIやFeI
2など)を所定濃度、溶解したアセトニトリル溶液に、上記TiO
2/色素基板を30秒浸漬させた。
【0054】
[実験例1〜4(複合体)]
有機色素としてD149を用い、金属含有材料としてLiIを用い、金属含有材料を0.1Mの濃度とした溶液にTiO
2/色素基板を浸漬させる上記工程を経て得られた複合体を実験例1とした。また、LiSCNを0.1Mの濃度とした溶液にTiO
2/色素基板を浸漬させた以外、実験例1と同様の工程を経て得られた複合体を実験例2とした。また、LiTFSIを0.1Mの濃度とした溶液にTiO
2/色素基板を浸漬させた以外、実験例1と同様の工程を経て得られた複合体を実験例3とした。また、LiTFSIを0.01Mの濃度とした溶液にTiO
2/色素基板を浸漬させた以外、実験例1と同様の工程を経て得られた複合体を実験例4とした。
【0055】
[実験例5,6(複合体)]
アルカリ系材料としてLiTFSIを0.01Mの濃度とし、移金属材料としてFeI
2を0.01Mの濃度とした溶液にTiO
2/色素基板を浸漬させた以外、実験例1と同様の工程を経て得られた複合体を実験例5とした。また、アルカリ系材料としてLiTFSIを0.01Mの濃度とし、遷移金属材料としてCoI
2を0.01Mの濃度とした溶液にTiO
2/色素基板を浸漬させた以外、実験例1と同様の工程を経て得られた複合体を実験例6とした。
【0056】
[実験例7,8(複合体)]
アルカリ系材料としてKIを0.01Mの濃度とした溶液にTiO
2/色素基板を浸漬させた以外、実験例1と同様の工程を経て得られた複合体を実験例7とした。また、アルカリ系材料としてNaIを0.01Mの濃度とした溶液にTiO
2/色素基板を浸漬させた以外、実験例1と同様の工程を経て得られた複合体を実験例8とした。
【0057】
[実験例9,10(複合体)]
アルカリ系材料としてMgI
2を0.01Mの濃度とした溶液にTiO
2/色素基板を浸漬させた以外、実験例1と同様の工程を経て得られた複合体を実験例9とした。また、アルカリ系材料としてCaI
2を0.01Mの濃度とした溶液にTiO
2/色素基板を浸漬させた以外、実験例1と同様の工程を経て得られた複合体を実験例10とした。
【0058】
[実験例11〜14(複合体)]
遷移金属材料としてFeI
2を0.01Mの濃度とした溶液にTiO
2/色素基板を浸漬させた以外、実験例1と同様の工程を経て得られた複合体を実験例11とした。また、遷移金属材料としてCoI
2を0.01Mの濃度とした溶液にTiO
2/色素基板を浸漬させた以外、実験例1と同様の工程を経て得られた複合体を実験例12とした。また、遷移金属材料としてNiI
2を0.01Mの濃度とした溶液にTiO
2/色素基板を浸漬させた以外、実験例1と同様の工程を経て得られた複合体を実験例13とした。また、遷移金属材料としてCuIを0.01Mの濃度とした溶液にTiO
2/色素基板を浸漬させた以外、実験例1と同様の工程を経て得られた複合体を実験例14とした。
【0059】
[実験例15,16(複合体)]
有機色素としてMK2を用い、LiTFSIを0.1Mの濃度とした溶液にTiO
2/色素基板を浸漬させる上記工程を経て得られた複合体を実験例15とした。また、LiTFSIを0.01Mの濃度とした溶液にTiO
2/色素基板を浸漬させた以外、実験例15と同様の工程を経て得られた複合体を実験例16とした。
【0060】
[実験例17,18(複合体)]
アルカリ系材料としてKIを0.01Mの濃度とした溶液にTiO
2/色素基板を浸漬させた以外、実験例15と同様の工程を経て得られた複合体を実験例17とした。また、アルカリ系材料としてNaIを0.01Mの濃度とした溶液にTiO
2/色素基板を浸漬させた以外、実験例15と同様の工程を経て得られた複合体を実験例18とした。
【0061】
[実験例19,20(複合体)]
アルカリ系材料としてMgI
2を0.01Mの濃度とした溶液にTiO
2/色素基板を浸漬させた以外、実験例15と同様の工程を経て得られた複合体を実験例19とした。また、アルカリ系材料としてCaI
2を0.01Mの濃度とした溶液にTiO
2/色素基板を浸漬させた以外、実験例15と同様の工程を経て得られた複合体を実験例20とした。
【0062】
[実験例21〜24(複合体)]
遷移金属材料としてFeI
2を0.01Mの濃度とした溶液にTiO
2/色素基板を浸漬させた以外、実験例15と同様の工程を経て得られた複合体を実験例21とした。また、遷移金属材料としてCoI
2を0.01Mの濃度とした溶液にTiO
2/色素基板を浸漬させた以外、実験例15と同様の工程を経て得られた複合体を実験例22とした。また、遷移金属材料としてNiI
2を0.01Mの濃度とした溶液にTiO
2/色素基板を浸漬させた以外、実験例15と同様の工程を経て得られた複合体を実験例23とした。また、遷移金属材料としてCuIを0.01Mの濃度とした溶液にTiO
2/色素基板を浸漬させた以外、実験例15と同様の工程を経て得られた複合体を実験例24とした。
【0063】
(複合体の実験結果)
実験例1〜14の複合体の吸収スペクトルの測定結果を、表1及び
図5〜8に示し、実験例15〜24の複合体の吸収スペクトルの測定結果を、表2及び
図9〜11に示す。なお、
図5では、TiO
2/色素基板の吸収、及び金属含有材料を有するTiO
2/色素基板の吸収から、TiO
2の吸収を差し引いた結果を示した。また、
図6以降では、TiO
2/色素基板の吸収、及び金属含有材料を有するTiO
2/色素基板の吸収の測定結果を示した。
図5,6に示すように、有機色素がD149であるTiO
2/色素基板に、アルカリ系材料であるLiTFSI、LiI及びLiSCNを作用させると、光吸収スペクトルが長波長化することが明らかになった。また、
図6に示すように、金属含有材料(LiTFSI)の濃度は、0.01Mでも効果があることがわかった。また、金属イオンとしてLi
+は効果があり、更にアニオンとして、TFSI
-、I
-及びSCN
-などが好ましいことがわかった。また、TiO
2/色素基板に、アルカリ系材料であるLiTFSIと遷移金属材料であるFeI
2とを作用させると、光吸収スペクトルが更に長波長化することが明らかになった。同様に、TiO
2/色素基板に、アルカリ系材料であるLiTFSIと遷移金属材料であるCoI
2とを作用させると、光吸収スペクトルが更に長波長化することが明らかになった。したがって、アルカリ系材料と遷移金属材料とは有機色素(D149)の別の部位に作用することが示唆された。また、
図7に示すように、有機色素がD149であるTiO
2/色素基板に、アルカリ系材料であるKI,NaI,MgI
2及びCaI
2を作用させると、光吸収スペクトルが長波長化することが明らかになった。また、
図8に示すように、有機色素がD149であるTiO
2/色素基板に、遷移金属材料であるFeI
2,CoI
2,NiI
2及びCuIを作用させると、光吸収スペクトルが長波長化することが明らかになった。特に、FeI
2,CoI
2,及びNiI
2が、CuIに比して吸収スペクトルがより長波長側にシフトすることがわかった。
【0064】
【表1】
【0065】
表2及び
図9に示すように、有機色素がMK2である場合でも、金属含有材料(LiTFSI)の濃度は、0.01Mや0.1Mでも光吸収スペクトルが長波長化する効果があることがわかった。また、
図10に示すように、有機色素がMK2であるTiO
2/色素基板に、アルカリ系材料であるKI,NaI,MgI
2及びCaI
2を作用させると、光吸収スペクトルが長波長化することが明らかになった。また、
図11に示すように、有機色素がMK2であるTiO
2/色素基板に、遷移金属材料であるFeI
2,CoI
2,NiI
2及びCuIを作用させると、光吸収スペクトルが長波長化することが明らかになった。特に、FeI
2,CoI
2,及びNiI
2が、CuIに比して光吸収スペクトルがより長波長側にシフトすることがわかった。
【0066】
【表2】
【0067】
図12は、有機色素に金属含有材料を作用させたときの光吸収特性の測定結果であり、
図12(a)が有機色素をD149とし、ピーク位置のシフト量を示す図であり、
図12(b)が有機色素をD149とし、ピーク立ち上がり位置のシフト量を示す図であり、
図12(c)が有機色素をMK2とし、ピーク位置のシフト量を示す図であり、
図12(d)が有機色素をMK2とし、ピーク立ち上がり位置のシフト量を示す図である。
図13に示すように、実験例1〜24では、いずれの有機色素でも光吸収スペクトルが長波長化することが明らかになった。また、金属イオンを1種類とし、濃度が0.01Mであるものを比較すると、LiTFSI、FeI
2、CoI
2、CaI
2、NiI
2及びMgI
2などが、CuIに比して長波長化する傾向にあることがわかった。
【0068】
[色素増感型太陽電池の内部量子効率(IPCE)特性及び太陽電池特性評価]
TCOガラス基板上に、n型半導体層として多孔質TiO
2膜をスクリーン印刷法で塗布し、150℃で乾燥したのち、電気炉内で450℃に加熱して、多孔質TiO
2膜基板を作製した。次に、有機色素1(D149)及び有機色素5(MK2)を各々含む色素溶液を調製した。色素溶液は、例えばD149では、アセトニトリルとtert−ブチルアルコールとを混合した混合溶液を溶媒として用い、MK2では、トルエンを溶媒として用いた。続いて、上記作製したいずれかの色素溶液に上記多孔質TiO
2膜基板をそれぞれ浸漬し、25℃の温度条件の下で15時間放置した。このようにして、有機色素1又は有機色素5を吸着させたTiO
2/色素基板をそれぞれ作製した。次に、アセトニトリルにCuIを飽和させ、1−メチル3−エチルイミダゾリウムチオシアネート(EMISCN)を添加してCuI溶液を調製した。40℃〜120℃のホットプレート上に、上記得られたTiO
2/色素基板をTiO
2膜が上になるように静置した。調製したCuI溶液をTiO
2/色素基板上に500μL滴下し、TiO
2膜内の有機色素にCuIを更に吸着させた複合体を形成させた。CuI溶液に含まれる溶媒を蒸発させることによりTiO
2膜内にCuIを充填させ、更に、TiO
2膜上にCuI層(正孔輸送層)を形成した。そして、このCuI層の上に、対極としてのPt薄膜を配置し、色素増感型太陽電池を作製した。作製した色素増感型太陽電池は、内部量子効率(Incident Photon to Current Efficiency:IPCE)値により評価した。
【0069】
[実験例25〜27(色素増感型太陽電池)]
有機色素としてD149を用い、金属含有材料としてLiTFSIを用い、金属含有材料を1.0Mの濃度とした溶液を用いて上記工程を経て得られた色素増感型太陽電池を実験例25とした。実験例25は、D149の有機色素と、アルカリ系材料としてLiTFSI及び遷移金属材料としてCuIを含む金属含有材料と、を有する複合体を備えたものである。また、金属含有材料としてLiIを用いた以外は実験例25と同様の工程を経て得られた色素増感型太陽電池を実験例26とした。実験例26は、D149の有機色素と、アルカリ系材料としてLiI及び遷移金属材料としてCuIを含む金属含有材料と、を有する複合体を備えたものである。また、金属含有材料としてLiSCNを用いた以外は実験例25と同様の工程を経て得られた色素増感型太陽電池を実験例27とした。実験例29は、D149の有機色素と、アルカリ系材料としてLiSCN及び遷移金属材料としてCuIを含む金属含有材料と、を有する複合体を備えたものである。
【0070】
[実験例28〜30(色素増感型太陽電池)]
有機色素としてD149を用い、金属含有材料としてLiTFSIの代わりにCoI
2を用いた以外は実験例25と同様の工程を経て得られた色素増感型太陽電池を実験例28とした。実験例28は、D149の有機色素と、遷移金属材料としてCoI
2及びCuIを含む金属含有材料と、を有する複合体を備えたものである。また、有機色素としてMK2を用いた以外は実験例25と同様の工程を経て得られた色素増感型太陽電池を実験例29とした。実験例29は、MK2の有機色素と、アルカリ系材料としてLiTFSI及び遷移金属材料としてCuIを含む金属含有材料と、を有する複合体を備えたものである。また、有機色素としてMK2を用い、金属含有材料としてLiTFSIの代わりにCoI
2を用いた以外は実験例25と同様の工程を経て得られた色素増感型太陽電池を実験例30とした。実験例30は、MK2の有機色素と、遷移金属材料としてCoI
2及びCuIを含む金属含有材料と、を有する複合体を備えたものである。
【0071】
[IPCE測定]
IPCE測定は、分光計器製、色素増感・有機薄膜太陽電池評価用分光感度測定装置CEP−2000を用い、モノクロメーターにより単色化した光を、作製した色素増感型太陽電池の光電極に照射し、入射光子数に対して得られた電子数を測定することにより行った。
【0072】
(色素増感型太陽電池の実験結果)
実験例25〜27のセルの波長に対するIPCE測定結果を
図13に示し、実験例28〜30のセルの波長に対するIPCE測定結果を
図14〜16に示す。
図14〜16では、IPCEの最大値を「1」に規格化した相対IPCEについても示した。
図13、15に示すように、実験例25〜27,29の複合体を用いたセルでは、アルカリ金属(Li)を加えないものに比して、アルカリ金属を加えたものは、LiTFSI,LiI及びLiSCNのいずれもIPCEが長波長側にシフトした。即ち、色素増感型太陽電池としては有利な方向にシフトした。これらの結果は、複合体での結果を支持するものである。また、
図14、16に示すように、遷移金属材料としてCoI
2及びCuIを含む、実験例28,30の複合体を用いたセルにおいても、IPCEが、色素増感型太陽電池としては有利な方向である長波長側にシフトした。
【0073】
以上の測定結果より、電子受容部位を有する有機色素分子と、第1族元素及び第2族元素のうち1以上を含むアルカリ系材料とを備えた複合体は、光吸収特性が向上し好ましいことがわかった。同様に、電子受容部位を有する有機色素分子と、1以上の遷移金属を含む遷移金属材料とを備えた複合体は、光吸収特性が向上し好ましいことがわかった。また、有機色素分子と、アルカリ系材料と、1以上の遷移金属材料とを備えた複合体は、更に光吸収特性が向上し好ましいことがわかった。特に、有機色素分子と、アルカリ系材料と、Cuを含むCu系材料と、Cu以外の遷移金属を含む遷移金属材料とを備えた複合体は、最も光吸収特性が向上し好ましいことがわかった。