【文献】
明治大学科学技術研究所紀要,2006年,Vol. 45, No. 1,pp. 1-5
【文献】
配向膜ポリイミドの偏光紫外線照射効果,日本液晶学会討論会講演予稿集,2008年,DOI: 10.11538/ekitou.2008.0.251.0
【文献】
JSR TECHNICAL REVIEW,2001年,No. 108,pp. 7-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
<細胞凝集体の形成方法>
本発明の細胞凝集体の形成方法は、
(a1)ポリイミド又はその前駆体(以下、ポリイミド又はその前駆体を「ポリイミド等」ともいう)が主成分の膜(α)に偏光紫外線を照射する工程(以下、「工程(a1)」ともいう)、
(a2)上記偏光紫外線が照射された膜(α)の表面に細胞を播種する工程(以下、「工程(a2)」ともいう)、及び
(a3)上記播種された細胞の培養により細胞凝集体を形成する工程(以下、「工程(a3)」ともいう)
を有する。
当該細胞凝集体の形成方法がポリイミド等が主成分の膜(α)に偏光紫外線を照射する工程を有するため、当該細胞凝集体の形成方法は、上記膜(α)表面への微細な凹凸形成の際、粉塵の発生を防止することができ、これにより形成される細胞凝集体の品質を高めることができる。なお、膜(α)表面の微細な凹凸形状は、ポリイミド等の重合体分子が偏光紫外線により局所的に切断又は異方的に異性化若しくは二量化されることで形成されるものと推察される。以下、各工程について、
図1〜
図5を参照しながら詳述する。
【0014】
[工程(a1)]
本工程では、ポリイミド又はその前駆体が主成分の膜(α)に偏光紫外線を照射する。
【0015】
上記ポリイミド又はその前駆体が主成分の膜(α)としては、ポリイミド成分からなる膜、前駆体成分からなる膜、ポリイミドが主成分でありかつ前駆体成分を含有する膜、前駆体が主成分でありかつポリイミド成分を含有する膜、上記成分と共に、ポリイミド及び前駆体以外の成分を含有する膜が挙げられる。
【0016】
図1に示すように、上記膜(α)(
図1において符号1で表される膜)は、通常、基板100上に形成されている。上記基板100としては、例えば、合成樹脂製、TCPS(Tissue culture polystyrene)製、ガラス製等の基板が挙げられる。上記膜(α)の形成方法としては、例えば、上記ポリイミド等の溶液を上記基板100上に塗布することで形成する方法等が挙げられる。上記塗布方法としては、例えば、スプレー法、オフセット印刷法、ロールコーター法、インクジェット印刷法、溶媒キャスト法、スピンコート法等が挙げられる。上記ポリイミド等の膜厚としては、特に限定されないが、膜(α)の形成容易性の観点から、10nm〜300nmが好ましい。
【0017】
上記偏光紫外線は、所定の波長の紫外線を偏光板を介することで得ることができ、得られた偏光紫外線を膜(α)表面に対して所定の方向から照射する。偏光紫外線の照射条件としては、光開裂反応が起こる限り特に限定されないが、上記波長としては、通常200nm以上300nm以下であり、220nm以上280nm以下が好ましく、254nmがより好ましい。照射量としては、通常2,000J/m
2以上であり、4,000J/m
2以上が好ましく、6,000J/m
2以上がより好ましく、8,000J/m
2以上がさらに好ましい。上記偏光紫外線を照射する方向としては、一定方向でもよく、複数の方向でもよく、膜(α)表面の領域毎に異なった方向であってもよい。
【0018】
上記偏光紫外線は、膜(α)表面の全体に亘って照射してもよく、フォトマスクを介して膜(α)表面の一部の領域にパターン状に照射してもよい。上記パターン状に照射する場合、所望の形状及びサイズを有する細胞凝集体を簡便かつ確実に形成することができる。これは、偏光紫外線の照射領域とそれ以外の領域とで膜(α)表面の形状が異なり、これにより播種された細胞と膜(α)との接着力に差異が生ずるためであると推察される。このパターン状の照射により、移植に際して生体に合致できる所望形状の細胞凝集体を精度良く得ることができる。
【0019】
上記偏光紫外線を照射した後の状態を
図2に示す。この
図2に示すように、偏光紫外線の照射により膜(α)の表面に微細な凹凸を形成することができる。
【0020】
上記ポリイミドは、後述のようにポリアミック酸の有するアミック酸構造を脱水閉環してイミド化することにより製造できる。上記ポリイミドは、その前駆体であるポリアミック酸が有しているアミック酸構造の全てを脱水閉環した完全イミド化物であってもよく、アミック酸構造の一部のみを脱水閉環し、アミック酸構造とイミド環構造とが併存している部分イミド化物であってもよい。
【0021】
膜(α)の主成分がポリイミドである場合、このポリイミドのイミド化率は、40%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましい。
【0022】
上記ポリイミドの前駆体としては、ポリアミック酸が挙げられる。
【0023】
上記ポリイミド及びポリアミック酸としては、偏光紫外線により光開裂反応を生ずるもの、光配向性基を有するものが好ましく、偏光紫外線により光開裂反応を生ずるものがより好ましい。上記ポリイミド及びポリアミック酸が上記性質又は基を有することで、膜(α)表面において微細な凹凸を容易かつ確実に形成することができる。
【0024】
上記偏光紫外線により光開裂反応を生ずるポリイミドとしては、下記式(1)で表される構造単位を有することが好ましい。上記ポリイミドが下記構造を有することで、光開裂反応によりポリマー主鎖又は側鎖が有する一部の構造が開裂し、膜(α)表面において分子レベルの微細な凹凸をより容易かつ確実に形成することができる。
【0026】
上記式(1)中、R
1は、下記式(i−1)〜(i−6)のいずれかで表される4価の有機基である。R
2は、炭素数1〜20の2価の有機基である。
【0028】
上記式(i−1)、式(i−3)及び式(i−4)中、R
A1、R
A3及びR
A4は、それぞれ独立して、炭素数1〜4の1価の有機基である。n1は、0〜4の整数である。n3は、0〜4の整数である。n4は、0〜8の整数である。R
A1、R
A3及びR
A4がそれぞれ複数の場合、複数のR
A1、R
A3及びR
A4は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
上記式(i−2)中、R
A21は、炭素数1〜4の1価の有機基である。n2は、0〜6の整数である。R
A22は、単結合、メチレン基又は炭素数2〜4のアルキレン基である。n2が2以上の場合、複数のR
A21は、同一でも異なっていてもよい。
上記式(i−5)中、R
A5は、フッ素原子又は炭素数1若しくは2の1価の有機基である。n5は、0〜9の整数である。n5が2以上の場合、複数のR
A5は、同一でも異なっていてもよい。
上記式(i−6)中、R
A61は、フッ素原子又は炭素数1若しくは2の1価の有機基である。n61は、0〜5の整数である。R
A62は、フッ素原子又は炭素数1〜4の1価の有機基である。n62は、0〜4の整数である。R
A61及びR
A62がそれぞれ複数の場合、複数のR
A61及びR
A62は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
式(i−1)〜(i−6)中、*は、炭素原子との結合部位を示す。
【0029】
上記R
A1、R
A21、R
A3、R
A4及びR
A62で表される炭素数1〜4の1価の有機基としては、例えば、炭素数1〜4の鎖状炭化水素基、炭素数3〜4の脂環式炭化水素基、これらの炭化水素基の炭素−炭素間に酸素原子、窒素原子等のヘテロ原子を有する基を含む基等が挙げられる。
【0030】
上記炭素数1〜4の鎖状炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
【0031】
上記炭素数3〜4の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基等が挙げられる。
【0032】
これらの炭化水素基の炭素−炭素間に酸素原子、窒素原子等のヘテロ原子を有する基を含む基としては、上記炭化水素基の炭素−炭素間に、−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−NO−、−NH
2−等の少なくともひとつのヘテロ原子を有する結合基を含む基等が挙げられる。
【0033】
上記R
A22で表される炭素数2〜4のアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられる。
【0034】
上記R
A5及びR
A61で表される炭素数1若しくは2の1価の有機基としては、例えば、上記R
A1等として例示した炭素数1〜4の1価の有機基のうち、炭素数1若しくは2のもの等が挙げられる。
【0035】
これらの中で、上記R
1としては、上記式(i−1)、(i−2)で表される有機基が好ましく、式(i−1)で表される有機基がより好ましい。上記(i−1)及び(i−2)において、上記n1及びn2は、それぞれ0がさらに好ましい。
【0036】
上記R
2で表される炭素数1〜20の2価の有機基としては、例えば、炭素数1〜20の脂肪族ジアミン化合物、炭素数1〜20の脂環式ジアミン化合物、炭素数1〜20の芳香族ジアミン化合物及び下記式(2)で表されるジアミノシロキサン化合物等のジアミン化合物に由来する2価の有機基等が挙げられる。
【0038】
上記式(2)中、mは、1〜10の整数である。
【0039】
上記炭素数1〜20の脂肪族ジアミン化合物としては、例えば、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。
【0040】
上記炭素数1〜20の脂環式ジアミン化合物としては、例えば、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン等が挙げられる。
【0041】
上記炭素数1〜20の芳香族ジアミン化合物としては、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,5−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエ−テル、2,2’−ジアミノジフェニルプロパン、ビス(3,5−ジエチル4−アミノフェニル)メタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノベンゾフェノン、ジアミノナフタレン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、9,10−ビス(4−アミノフェニル)アントラセン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。
【0042】
これらの中で、上記R
2で表される炭素数1〜20の2価の有機基としては、生体適合性の観点から、含フッ素ジアミン化合物由来の基が好ましく、含フッ素芳香族ジアミン化合物由来の基がより好ましく、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン由来の基がさらに好ましく、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン由来の基が特に好ましい。なお、上記ポリイミドは、上記ジアミン化合物由来の基を1種又は2種以上含んでいてもよい。
【0043】
上記偏光紫外線により光開裂反応を生ずるポリアミック酸としては、例えば、下記式(3)で表される構造単位を有するポリアミック酸等が挙げられる。
【0045】
上記式(3)中、R
1及びR
2は、それぞれ上記式(1)と同義である。
【0046】
(ポリアミック酸の合成方法)
上記ポリアミック酸は、例えば、上記式(i−1)〜(i−6)で表される4価の有機基が有する脂環式構造を含むテトラカルボン酸二無水物(以下、「特定テトラカルボン酸二無水物」ともいう)とジアミン化合物とを反応させることで合成することができる。
【0047】
上記特定テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、
上記式(i−1)で表される有機基を与えるものとして、例えば、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物等;
上記式(i−2)で表される有機基を与えるものとして、例えば、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物等;
上記式(i−3)で表される有機基を与えるものとして、例えば、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物等;
上記式(i−4)で表される有機基を与えるものとして、例えば、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等;
上記式(i−5)で表される有機基を与えるものとして、例えば、3,4−ジカルボキシ−1−シクロヘキシルコハク酸二無水物等;
上記式(i−6)で表される有機基を与えるものとして、例えば、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸等の脂環式テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。これらの中で、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物及び2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物が好ましく、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物がより好ましい。なお、この特定テトラカルボン酸二無水物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、上記特定テトラカルボン酸二無水物以外の他のテトラカルボン酸二無水物を併用してもよい。
【0049】
上記他のテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、
脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物等;
芳香族テトラカルボン酸二無水物として、ピロメリット酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸、1,2,5,6−アントラセンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4−ビフェニルテトラカルボン酸、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エ−テル、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジメチルシラン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジフェニルシラン、2,3,4,5,−ピリジンテトラカルボン酸、2,6−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ピリジン等の二無水物等が挙げられる。;
なお、他のテトラカルボン酸二無水物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
上記ポリアミック酸を合成するために用いられるジアミン化合物としては、例えば、脂肪族ジアミン化合物、脂環式ジアミン化合物、芳香族ジアミン化合物及びジアミノシロキサン化合物等が挙げられる。
【0051】
上記脂肪族ジアミン化合物、脂環式ジアミン化合物及び芳香族ジアミン化合物としては、例えば、R
2で表される2価の有機基を与えるジアミン化合物として例示したそれぞれの化合物と同様の化合物等が挙げられる。
【0052】
ポリアミック酸の合成に用いられるテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との使用割合は、ジアミン化合物に含まれるアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2当量〜2当量となる割合が好ましく、0.3当量〜1.2当量となる割合がより好ましい。
【0053】
ポリアミック酸の合成反応は、有機溶媒中において行われることが好ましい。反応温度としては、−20℃〜150℃が好ましく、0℃〜100℃がより好ましく、0℃〜50℃がさらに好ましい。反応時間としては、0.5時間〜24時間が好ましく、2時間〜15時間がより好ましく、5時間〜12時間がさらに好ましい。
【0054】
上記有機溶媒としては、合成されるポリアミック酸を溶解できるものであれば特に制限はなく、例えば、
非プロトン系極性溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド等;
フェノール系溶媒として、m−クレゾール、キシレノール、フェノール、ハロゲン化フェノール等が挙げられる。
【0055】
これらの中で、上記有機溶媒としては、非プロトン系極性溶媒が好ましく、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)がより好ましい。
【0056】
なお、上記有機溶媒は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、ポリアミック酸を溶解しない溶媒又は溶解しにくい溶媒であっても、ポリアミック酸の均一な溶解性が失われない範囲で、この溶媒を上記有機溶媒に加えてもよい。
【0057】
上記有機溶媒の使用量(a)としては、テトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の総量(b)が、反応溶液の全量(a+b)に対して0.1質量%〜50質量%となる量が好ましく、5質量%〜30質量%となる量がより好ましい。
【0058】
以上のようにして得られたポリアミック酸溶液は、そのまま膜(α)の形成に用いてもよく、上記溶液に含まれるポリアミック酸を単離して膜(α)の形成に用いてもよく、単離したポリアミック酸をさらに精製して膜(α)の形成に用いてもよい。
【0059】
ポリアミック酸の単離方法としては、例えば、上記反応溶液を大量の貧溶媒中に注いで析出物を得た後、この析出物を減圧下乾燥する方法、反応溶液中の有機溶媒をエバポレーターで減圧留去する方法等が挙げられる。また、ポリアミック酸の精製方法としては、例えば、単離したポリアミック酸を再び有機溶媒に溶解し、次いで貧溶媒で析出させる方法、エバポレーターで減圧留去する工程を1回又は複数回行う方法等が挙げられる。
【0060】
なお、得られたポリアミック酸は、これを脱水閉環して後述のポリイミドの合成に用いることができる。この場合、上記ポリアミック酸の反応溶液をそのまま脱水閉環反応に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸を上述のように単離して脱水閉環反応に供してもよく、単離したポリアミック酸を上述のように精製して脱水閉環反応に供してもよい。
【0061】
(ポリイミドの合成方法)
上記ポリイミドは、上述の如くして得られたポリアミック酸の有するアミック酸構造を脱水閉環して合成することができる。このとき、アミック酸構造の全部をイミド化して完全イミド化物としてもよく、アミック酸構造の一部をイミド化して部分イミド化物としてもよい。ポリアミック酸を脱水閉環する方法としては、例えば、(i)ポリアミック酸を加熱する方法、(ii)ポリアミック酸を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し必要に応じて加熱する方法等が挙げられる。
【0062】
上記(i)のポリアミック酸を加熱する方法において、反応温度は、150℃〜450℃が好ましく、170℃〜350℃がより好ましい。反応温度が150℃未満では脱水閉環反応が十分に進行せず、反応温度が450℃を超えると得られるポリイミドの分子量が低下する場合がある。反応時間は、30秒〜10時間が好ましく、5分〜5時間がより好ましい。
【0063】
上記(ii)のポリアミック酸の溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加する方法において、脱水剤としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸等の酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量としては、ポリアミック酸構造単位の1モルに対して0.01モル〜20モルが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えば、ピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン等の3級アミンを用いることができる。しかし、これらに限定されるものではない。脱水閉環触媒の使用量としては、使用する脱水剤1モルに対して0.01モル〜10モルが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、例えば、ポリアミック酸の合成に用いられる有機溶媒として例示したものと同様の有機溶媒等が挙げられる。脱水閉環反応の反応温度としては、0℃〜180℃が好ましく、10℃〜150℃がより好ましい。反応時間としては、0.5時間〜20時間が好ましく、1時間〜8時間がより好ましい。
【0064】
上記方法(i)において得られるポリイミドは、これをそのまま膜(α)の形成に用いてもよく、このポリイミドを精製して膜(α)の形成に用いてもよい。一方、上記方法(ii)においてはポリイミドを含有する反応溶液が得られる。この反応溶液は、これをそのまま膜(α)の形成に用いてもよく、反応溶液から脱水剤及び脱水閉環触媒を除いて膜(α)の形成に用いてもよく、ポリイミドを単離して膜(α)の形成に用いてもよく、単離したポリイミドを精製して膜(α)の形成に用いてもよい。反応溶液から脱水剤及び脱水閉環触媒を除く方法としては、例えば、溶媒置換等の方法を適用することができる。ポリイミドの単離及び精製方法としては、例えば、ポリアミック酸の単離及び精製方法として例示したそれぞれの方法と同様の方法等が挙げられる。
【0065】
上記光配向性基を有するポリイミド及びその前駆体としては、側鎖に光配向性基を有するポリイミド、側鎖に光配向性基を有するポリアミック酸が挙げられる。ここで、光配向性基とは、光照射により膜に異方性を付与することができる官能基である。この異方性は、光異性化反応又は光二量化反応により付与される。上記ポリイミド及びその前駆体が光配向性基を有することで、偏光紫外線が照射された膜(α)上において、播種された細胞の成長を促進することができる。これは、光配向性基を有する場合も、光開裂反応を生ずるポリイミド等と同様に、膜(α)表面に微細な凹凸が形成されるためであると推察される。
【0066】
光配向性基としては、光配向性を示す種々の化合物由来の基を採用することができ、例えば、アゾベンゼン又はその誘導体を基本骨格として含有するアゾベンゼン構造を含む基、桂皮酸又はその誘導体を基本骨格として含有する桂皮酸構造を含む基、カルコン又はその誘導体を基本骨格として含有するカルコン構造を含む基、ベンゾフェノン又はその誘導体を基本骨格として含有するベンゾフェノン構造を含む基、クマリン又はその誘導体を基本骨格として含有するクマリン構造を含む基、ポリイミド又はその誘導体を基本骨格として含有するポリイミド構造を含む基等が挙げられる。これらの中で、優れた光配向性と上記基の導入容易性の観点から、桂皮酸又はその誘導体を基本骨格として含有する桂皮酸構造を含む基であることが好ましい。
【0067】
上記光配向性基を有するポリイミドにおけるポリイミドとしては、主鎖を構成する構造単位中にイミド構造を有する限り特に限定されない。また、上記光配向性基を有するポリアミック酸におけるポリアミック酸としては、主鎖を構成する構造単位中にアミック酸構造を有する限り特に限定されない。但し、このポリアミック酸は、上記イミド構造を含むものを除くものである。
【0068】
上記光配向性基を有するポリアミック酸の合成方法としては、例えば、テトラカルボン酸二無水物とエポキシ基を有するジアミン化合物とを適当な溶媒中で重合させた後、得られた重合体に光配向性基を有するカルボン酸化合物を反応させる方法等が挙げられる。
【0069】
また、上記光配向性基を有するポリイミドの合成方法としては、例えば、上記光配向性基を有するポリアミック酸の合成方法において得られたポリアミック酸を、加熱等により脱水閉環する方法等が挙げられる。
【0070】
上記ポリイミド等は、フッ素原子を含むことが好ましい。ポリイミド及びその前駆体がフッ素原子を含むことで、膜(α)は、優れた生体適合性を有し、播種された細胞からの細胞凝集体の形成を促進することができる。
【0071】
[工程(a2)]
本工程では、
図3に示すように、上記偏光紫外線が照射された膜(α)(
図3において符号2で表される膜)の表面に細胞Cを播種する。播種可能な細胞としては、例えば、肝臓、腎臓など各種臓器の細胞、皮膚細胞等が挙げられるが、これらに限らず、細胞凝集体を形成可能な全ての細胞が挙げられる。播種する細胞Cとしては、治療の対象となる生物種と同一の生物種由来の細胞が好ましい。例えば、ヒトの治療に用いる場合はヒト由来の細胞が好ましく、同一のヒト由来の細胞がより好ましい。
【0072】
播種する細胞Cは、予め各種の培養方法で予備培養し、細胞数を十分に増やしておくことが好ましい。予備培養法としては、例えば、単層培養、コートディッシュ培養、ゲル培養、懸濁培養等の公知の培養法が挙げられる。予備培養した細胞を培地から採取し、偏光紫外線が照射された膜(α)の表面に播種する。
【0073】
膜(α)の表面における播種する細胞Cの濃度としては、予備培養の有無にかかわらず、1×10
4〜1×10
7cells/mlが好ましく、1×10
5〜1×10
6cells/mlがより好ましい。
【0074】
[工程(a3)]
本工程では、
図4に示すように、上記播種された細胞Cの培養により細胞凝集体CMを形成する。細胞Cの培養は、通常、培地中で行われる。この培地は、播種する細胞Cの種類に応じて従来公知の培地を適宜選択することができる。上記培地としては、例えば、MEM培地、BME培地、DME培地、αMEM培地、IMEM培地、ES培地、DM−160培地、Fisher培地、F12培地、WE培地、RPMI培地、これらの混合培地等が挙げられる。また、血管形成性細胞の培地としては、上記培地にウシ胎児血清等の血清成分を添加したものを用いることもできる。培地の種類は、継代ごとに変えてもよく、同一の培地を用いてもよい。
【0075】
培養温度としては、35℃〜38℃が好ましく、36℃〜37℃がより好ましい。培養時間としては、2日間〜7日間が好ましく、2日間〜4日間がより好ましい。形成される細胞凝集体の大きさとしては、細胞活動性の観点から、直径300μm以下が好ましく、直径100μm〜200μmがより好ましい。
【0076】
得られた細胞凝集体CMは、キレート(EDTA)処理又はピペッティング等により膜(α)から剥がすことができ(
図5参照)、これを遠心分離して回収することができる。
【0077】
<細胞凝集体形成用基材の製造方法>
本発明の細胞凝集体形成用基材の製造方法は、
(b1)ポリイミド又はその前駆体が主成分の膜を形成する工程(以下、「工程(b1)」ともいう)、及び
(b2)上記膜に偏光紫外線を照射する工程(以下、「工程(b2)」ともいう)
を有する。
当該細胞凝集体用基材の製造方法は、ポリイミド等が主成分の膜に偏光紫外線を照射する工程を有しているため、従来のようなラビングによらず膜(α)表面への微細な凹凸形状を形成することができ、その結果、粉塵の発生を防止することができる。
【0078】
[工程(b1)]
本工程では、ポリイミド又はその前駆体が主成分の膜(α)を形成する。この膜(α)は、通常、基板上に形成される。上記ポリイミド等及び基板としては、例えば、上述の<細胞凝集体の形成方法>におけるそれぞれの説明を適用することができる。
【0079】
上記膜(α)の形成方法としては、例えば、ポリイミド又はポリアミック酸が溶解した溶液を上記基板上に塗布することで形成する方法等が挙げられる。また、膜(α)の主成分がポリイミドである場合、基板上にポリアミック酸溶液を塗布した後、これを加熱することにより脱水閉環してポリイミドの膜(α)を形成する方法等も挙げられる。この場合の加熱条件としては、上述の(ポリイミドの合成方法)の項で説明したものと同様の条件を適用することができる。
【0080】
[工程(b2)]
本工程では、上記膜(α)に偏光紫外線を照射する。偏光紫外線及びその照射方法としては、細胞凝集体の形成方法における(a1)工程で説明したものと同様のものを適用することができる。
【0081】
<細胞凝集体形成用基材>
図2に示すように、本発明の細胞凝集体形成用基材Aは、基板100と、この基板100の表面に形成され、ポリイミド又はその前駆体を主成分とする膜(α)(
図2において符号2で表される膜)とを備え、上記膜(α)が偏光紫外線を照射されたものである。当該細胞凝集体形成用基材Aは、細胞凝集体の形成に用いられる。具体的には、当該細胞凝集体形成用基材Aの偏光紫外線が照射された膜(α)の表面に細胞を播種し、この細胞を培養することで細胞凝集体を形成することができる。
当該細胞凝集体形成用基材Aは、偏光紫外線が照射されたポリイミド等が主成分の膜(α)を備えているため、粉塵の付着が抑制された基材により、品質の高い細胞凝集体を形成することができる。
【0082】
上記基板100、ポリイミド等及び当該細胞凝集体形成用基材Aの製造方法としては、上述の<細胞凝集体の形成方法>及び<細胞凝集体形成用基材の製造方法>の項におけるそれぞれの説明を適用することができる。
【実施例】
【0083】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。各物性値の測定方法を以下に示す。
【0084】
<ポリイミドの合成>
[合成例1]
特定テトラカルボン酸二無水物としての1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物19.2g(0.98モル)及びジアミン化合物としての2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン41.0g(0.1モル)を、NMP343.5g中に投入し、室温で10時間反応させてポリイミドの前駆体(ポリアミック酸)溶液を得た。
【0085】
<ポリイミドの膜形成>
合成例1で合成したポリアミック酸の溶液をガラス基板上にスピンコートし、次いで、80℃のホットプレート上で1分間プレベークして溶媒を蒸発させた。その後、230℃のホットプレート上で10分間ポストベークして脱水閉環させ、膜厚100nmのポリイミドの膜(α)を形成した。
【0086】
<細胞凝集体形成用基材及び細胞凝集体の形成>
[実施例1]
上述のようにして作製したポリイミド膜の全面に、波長254nmの偏光紫外線を10,000J/m
2照射して細胞凝集体形成用基材を作製した後、この偏光紫外線を照射したポリイミド膜の表面に2.7×10
5cells/mlの濃度でラット皮膚由来繊維芽細胞(FR細胞)を播種し、培地を用いて上記細胞を37℃で4日間培養した。
【0087】
[比較例1]
偏光紫外線を照射しないこと以外は、実施例1と同様に操作し、FR細胞を培養した。
【0088】
上記培養の結果、実施例では播種したFR細胞が増殖して細胞凝集体を形成することができたのに対し、比較例では細胞の増殖が見られず細胞凝集体を形成することができなかった。なお、実施例において偏光紫外線照射後のポリイミド膜の表面に粉塵の付着は見られなかった。